弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成20年5月20日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成19年(ワ)第16411号無効確認等請求事件
口頭弁論終結日平成20年3月28日
判決
大阪府豊能郡
原告西淀空調機株式会社
大阪市
原告株式会社西淀鉄工所
大阪市
原告X
東京都
被告株式会社日本イトミック
訴訟代理人弁護士伊藤勝彦
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
(1)被告は,この判決確定の日の12か月後の日限り,原告西淀空調機株式
会社に対し,別紙特許権目録記載の特許権について特許権移転登録手続をせ
よ。
(2)被告は,この判決確定の日の12か月後の日限り,原告株式会社西淀鉄
工所に対し,別紙不動産目録記載の各不動産について所有権移転登記手続を
せよ。
(3)被告は,原告西淀空調機株式会社に対し,2000万円を支払え。
(4)被告は,原告Xに対し,2800万円を支払え。
(5)訴訟費用は被告の負担とする。
(6)仮執行宣言
2請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2当事者の主張
1原告らの請求原因
(1)原告西淀空調機株式会社(以下「原告西淀空調機」という)は,平成。
17年3月29日,被告との間で別紙財産目録記載の財産を代金4億490
0万円で被告に譲渡する旨の営業譲渡契約(以下「本件営業譲渡契約」とい
う)を締結した。。
(2)さらに,原告株式会社西淀鉄工所(以下「原告西淀鉄工所」という)。
は,平成17年4月21日,被告との間で別紙不動産目録記載の各不動産
(以下「本件不動産」という)を代金5億5100万円で被告に売る旨の。
不動産売買契約(以下「本件売買契約」といい,本件営業譲渡契約と本件売
買契約を併せて「本件各契約」ともいう。また,本件各契約に基づく営業譲
渡を,以下「本件営業譲渡」という)を締結した。。
(3)原告X(以下「原告X」という)は,本件各契約の締結に先立つ平成。
17年2月25日,被告との間で,被告が本件営業譲渡後も,瞬間式のSH
P及び3馬力以下(家庭用)の貯湯式のSHP(以下「本件対象製品」とい
う)を,原告X又は同原告が全部若しくは一部出資する法人において製造。
販売することを承諾し,本件対象製品に関連する特許権の実施許諾をするこ
と等を内容とする覚書(甲1。以下「本件覚書」という)を取り交わし,。
。。本件覚書に基づく上記内容の合意(以下「本件覚書合意」という)をした
(4)本件営業譲渡契約上,本件営業譲渡の対象となった他社との共有に係る
特許権のうち,T電力株式会社(以下「T電力」という)との共有特許権。
(以下「本件共有特許権」という)については,原告西淀空調機の共有持。
分を被告に譲渡するに当たり必要なT電力の同意は,被告においてこれを取
り付けることと合意された。しかるに,被告は,T電力からその同意を取り
付けることができなかった。
(5)T電力の同意が得られなかったため,被告は原告西淀空調機から本件共
有特許権の持分を取得することができず,その移転登録を受けることもでき
なくなった。そのため,原告西淀空調機は,被告から本件覚書合意に基づく
本件共有特許権の実施許諾を受けることができない。
(6)本件各契約は,本件覚書合意が履行されることがその成立のための条件
であったから,上記前提条件が履行されない以上,本件各契約は条件不成就
ないし錯誤により無効である。
また,本件営業譲渡契約は,強行法規である特許法33条,73条に違反
する法律行為であり,無効である。
さらに,被告が本件覚書合意を履行しないことは,本件各契約上の債務不
履行であるから,本訴状をもって本件各契約を解除する。
(7)被告は,本件覚書合意を履行せず,本件営業譲渡契約が成立していない
ことを知り,その結果,本件共有特許権の持分が原告西淀空調機にあり,被
告にはないことを知りながら,これを解決しないまま本件共有特許権に係る
特許発明を実施して,生産販売したから,悪意の占有者である。したがって,
被告は,原告西淀空調機に対し,平成17年4月1日から今日までに販売し
たCO2給湯器の売上金額の1%である2000万円を支払うべき義務があ
る。
(8)被告が本件覚書合意を履行しないため,原告Xは本件共有特許権の実施
許諾を受けることができず,その事業活動ができなかった。そのため,原告
Xが平成17年8月以降1か月100万円,合計2800万円の損害を被っ
たから,被告は原告Xに対し同額の支払義務がある。
(9)よって,被告に対し,原告西淀空調機は,本件営業譲渡契約の無効によ
り回復した別紙財産目録記載の財産中の別紙特許権目録記載の特許権(以下
「対象特許権」という)に基づき,又は同契約を債務不履行により解除し。
たことによる原状回復請求権に基づき,その移転登録手続を求めるとともに,
上記(7)の2000万円の支払を求め,原告西淀鉄工所は,本件売買契約の
無効により回復した本件不動産の有権又は同契約を債務不履行解除した所
ことによる原状回復請求権に基づき,本件不動産の移転登記手続を求め,被
告Xは,上記(8)の2800万円の損害賠償を求める。
2請求原因に対する被告の認否及び主張
(1)請求原因(1)(本件営業譲渡契約の締結)は認める。
(2)請求原因(2)(本件売買契約の締結)は認める。
(3)請求原因(3)(本件覚書合意の成立)は認める。
ただし,本件覚書合意の趣旨は,次のとおりである。すなわち,本件共有
特許権は,本件覚書締結当時,原告西淀空調機とT電力の共有に属していた
ものであり,被告は権利者ではなかったから,被告が原告Xに対し「特許権
の実施許諾をする」といっても,直ちになし得るものではなく,被告が原告
Xに対して本件特許権の実施許諾をすることができるのは,本件営業譲渡に
伴い本件共有特許権の持分の譲渡を受け,それについてT電力の同意を得た
後である。しかし,T電力から同意が得られるか否かは本件覚書締結時点で
は不明であった。そこで,T電力が権利移転に同意し,それにより被告が共
有者となった場合には,原告Xに対し本件共有特許権の実施許諾をするとい
うのが本件覚書合意の趣旨であった。
(4)請求原因(4)(T電力に対する同意の取り付け)は認める。ただし,本件
覚書合意は,被告が原告Xに対しT電力からの権利移転の同意を取り付ける
ことまでを約したものではない。本件覚書には,T電力により権利移転の同
意がなされることを被告が保証した規定はない。T電力は,その判断により
権利移転についての諾否を自由に決定し得るのであり,被告において上記の
ような保証をなし得るものではない。本件営業譲渡契約には,被告がT電力
の同意を取り付ける旨の規定があるが,同規定は,本来,営業譲渡財産に係
る制限物権等の解除は譲渡人において行うべきところ(本件営業譲渡契約1
2条参照,したがって,共有特許権等の持分の移転についての共有者から)
の同意の取り付けについても譲渡人である原告西淀空調機が当然行うべきと
ころ,本件共有特許権についてのみ,その履行を免除したものであり,被告
が原告西淀空調機や原告X個人に対して同意の取り付け義務を負担したとい
うものではない。
また,仮に,原告Xとの関係で同意の取り付け義務を被告が負担している
としても,T電力が権利移転の同意をしないのは,原告西淀空調機がT電力
との間で締結した共同研究契約(乙3。以下「本件共同研究契約」とい
う)において定められている事前承認手続を怠ったことに原因があるので。
あり,被告にその責任はない。
(5)請求原因(5)は認める。
(6)請求原因(6)の主張は争う。
本件営業譲渡の前提条件は,本件覚書の締結であり,本件覚書の履行では
ない。すなわち,被告は,原告Xに対し本件対象製品の製造販売を承諾し,
関連する特許権の実施許諾をすること,その対価として原告Xは被告に対し
一定のロイヤリティを支払うこと,原告Xは本件対象製品以外のCO2給湯
機を一切製造販売しないこと等,本件覚書に定められた一定の内容の合意を
し,被告と原告Xが当該合意に基づく一定の権利義務を負担することが本件
営業譲渡の「条件」であった(本件覚書冒頭部分「甲に譲渡するための条件
として・・・合意する。そして,現に,被告は原告Xと本件覚書を締結」)
し,これにより本件営業譲渡の「条件」は成就している。だからこそ,原告
Xは,後に原告西淀空調機及び原告西淀鉄工所の代表者として,本件各契約
に係る契約書に調印しているのである。この点,もし,本件覚書の履行が前
提条件(ないし停止条件)であれば,上記各契約書にその旨の記載がされる
はずであるが,そのような記載はない。また,時系列的に考えても,被告が
原告Xに対して特許権の実施許諾をなし得るのは,本件営業譲渡が実行され,
原告西淀空調機から特許権の移転を受けた後であるから,本件覚書の履行が
本件営業譲渡の条件になるはずがない。
(7)請求原因(7)は否認ないし争う。
(8)請求原因(8)は否認ないし争う。
3被告の主張に対する原告らの反論
(1)被告は,本件覚書合意の趣旨はT電力が権利移転に同意しそれにより被
告が共有者となった場合には原告Xに対し本件共有特許権の実施許諾をする
というものである旨主張する。しかし,そのような趣旨であれば,本件覚書
にそのように明記するはずである。
(2)被告は,本件覚書合意は被告が原告Xに対しT電力からの権利移転の同
意を取り付けることまで約したものではなく,本件覚書にはT電力により権
利移転の同意がなされることを被告が保証した規定はない旨主張する。しか
し,上記同意がなされることを被告が保証した規定はないものの「同意は,
被告が取り付ける」と明記され「本件営業譲渡する条件である」と明記さ,
れ,その条件が履行されていないのであるから,本件営業譲渡契約は無効で
ある。また,被告は,原告Xとの関係で同意の取り付け義務を被告が負担し
ているとしても,T電力が権利移転の同意をしないのは,原告西淀空調機が
本件共同研究契約において定められている事前承認手続を怠ったことに原因
があるのであり,被告にその責任はない旨主張する。しかし,事前であろう
が事後であろうが,T電力の同意は被告で取り付ける旨が明記されており,
その義務が被告にあることは明らかであって,T電力の同意が得られるのが
難しい見通しであるなら,本件各契約の締結時に契約を延期するなり,少な
くとも問題を解決していく責任・義務は被告にあった。
なお,原告西淀空調機が本件共同研究契約において定められている事前承
認手続をとっていないことは認める。
(3)被告は,本件営業譲渡の前提条件は本件覚書の締結であり,本件覚書の
履行ではない旨主張するが,この主張は原告Xを騙して契約させた証拠であ
る。
第3当裁判所の判断
1請求原因(1)ないし(3)の事実,すなわち,本件営業譲渡契約,本件売買契約
及び本件覚書合意が成立したことは,いずれも当事者間に争いがない。なお,
本件各契約は,いずれも原告西淀空調機の民事再生手続開始に伴い,同原告の
営業の全部を譲渡することを目的として締結されたものであるところ,同原告
が使用する工場及び工場敷地が原告西淀鉄工所の所有であったことから,契約
書は,事業譲渡に係る営業譲渡契約書(甲2)と不動産譲渡に係る不動産売買
契約書(甲3)とに分けて作成されたものの,本件各契約に基づく営業譲渡が
一体のもの(本件営業譲渡)であることは明らかである(上記営業譲渡契約書
(甲2)第14条2参照。)
2請求原因(4),(5)の事実は,当事者間に争いがない。もっとも,被告は,次
のとおり主張する。すなわち,本件覚書合意は,T電力が権利移転に同意して
それにより被告が本件共有特許権の共有者となった場合に,原告Xに対し本件
共有特許権の実施許諾をするというものであった。そして,本件営業譲渡契約
上の共有特許権等の持分の移転についての共有者からの同意の取り付けは,本
来,譲渡人である原告西淀空調機が当然行うべきところ,本件共有特許権につ
いてのみ,その履行を免除したものであり,被告が原告西淀空調機や原告X個
人に対して同意の取り付け義務を負担したというものではない,と。
(1)証拠(甲1)によれば,本件覚書には,その前文で原告西淀空調機の
「営業全部を甲(被告)に譲渡するための条件として,下記のとおり合意す
る」とした上,被告が原告Xに対し,本件対象製品を原告X又は同原告が。
全部若しくは一部出資する法人において製造販売することを承諾し,本件対
象製品に関連する特許権の実施許諾をする旨,原告Xは被告に対しその実施
許諾の対価として売上高の0.5%に相当するロイヤリティにT電力に対し
て支払うロイヤリティを上乗せした金額を3か月ごとに支払う旨等の約定記
載があることが認められる。
(2)そして,証拠(甲2)によれば,本件営業譲渡契約に係る契約書には,
次の各条項があることが認められる。
第7条2譲渡財産のうち,別紙財産目録3記載の特許権,実用新案権,
意匠権及び商標権(以下「工業所有権」と総称する)並びに,。
特許,実用新案登録,意匠登録及び商標登録を受ける権利(以下,
「登録権」と総称する)については,乙(原告西淀空調機)が。
甲(被告)に対し,工業所有権の移転及び登録権の承継に必要な
下記の書類を引き渡すことをもって,引き渡しを完了したものと
みなす。なお,工業所有権及び登録権の移転,承継に必要な手続
費用は甲(被告)の負担とする(以下省略)。
3共有にかかる工業所有権及び登録権の移転,承継についての乙
(原告西淀空調機)以外の共有者の同意の取り付けについては,
次のとおりとし,共有者の同意を得るために要した費用は各自の
負担とする。
①共有者がT電力の場合甲(被告)にて同意を取り付ける
②共有者がT電力以外の場合乙(原告西淀空調機)にて同
意を取り付ける
第12条譲渡財産に第三者の権利が附されている場合等,譲渡財産に本
営業の適正かつ円滑な遂行を妨げる重要な法律上又は事実上の障
害が存在するときは,乙(原告西淀空調機)は第4条の残代金決
済時までにその全てについて障害の除去を完了するものとする。
(3)上記(1)の本件覚書の約定記載によれば,被告は,本件営業譲渡契約によ
り取得した本件対象製品の関連特許権の持分を取得した後,原告X又は同原
告が全部若しくは一部出資する法人にその実施を許諾し,本件対象製品を原
告X等が製造販売することを承諾し,その対価としてロイヤリティの支払を
受けることとされているのであり,本件営業譲渡が履行されて被告が本件対
象製品の関連特許権の共有持分を取得することがその前提とされていたこと
が明らかである。
(4)そして,売買契約の対象となる財産中に他人の権利の対象とされる財産
が存在するなど,売買による権利移転を妨げる障害事由があるときは,特段
の合意がない限り,売主において他人から権利を譲り受けるなどして,買主
への権利移転を妨げる障害事由を除去すべき義務を負うものというべきであ
る(民法560条参照。この理は,当然,営業譲渡契約にも当てはまると)
ころ,本件営業譲渡契約第12条が上記(2)のとおり定めているのは,上記
民法560条の趣旨を,本件営業譲渡契約の上で確認的に明らかにしたもの
にほかならない。
しかして,営業譲渡の対象財産中に第三者との共有に係る特許権が存する
場合,その共有持分を譲渡するためには,他の共有者の同意を得なければな
らない(特許法73条1項)から,第三者の同意を欠く特許権の共有持分の
譲渡は,営業譲渡による権利移転を妨げるべき障害事由を有することになる。
これを本件営業譲渡契約についてみると,T電力との共有に係る本件共有特
許権については,その同意取得に関し特段の合意がなければ,本来,譲渡人
である原告西淀空調機が上記障害事由を除去すべき義務,すなわち,本件共
有特許権の自己の共有持分を被告に対する営業譲渡の対象とするのに共有者
であるT電力の同意を取得すべき義務を負うことになる。
ところが,本件営業譲渡契約第7条第3項は,本件共有特許権を除く共有
特許権に関しては原告西淀空調機が他の共有者の同意を取得することとされ
ているのに,本件共有特許権に関する限り,被告において共有者であるT電
力の同意を取り付ける旨定めている。したがって,原告西淀空調機は,上記
条項により,本件共有特許権に関する限り共有者であるT電力の同意を取得
すべき義務を免除されたものであることが明らかである。
問題は,上記条項が,さらに進んで,被告に対し,T電力の同意を得るべ
き義務を原告西淀空調機に対して負わせたものであるか否かであるので,以
下検討する。
(5)本件営業譲渡契約に係る契約書の文言は上記(2)のとおりであり「共有,
者がT電力の場合甲(被告)にて同意を取り付ける」と定められているに
とどまり「共有者がT電力の場合」すなわち本件共有特許権に関してその,
譲渡にあたり被告にその同意を取り付けるべき義務を負わせたものか,単に
事実上被告に同意を取り付ける手続をとらせるというにとどまるのかは,文
言上は必ずしも明らかとはいえない。しかし,上記のとおり,本来,売買契
約の対象となる財産中に他人の権利の対象とされる財産が存在するなど,売
買による権利移転を妨げる障害事由があるときは,特段の合意がない限り,
売主において他人から権利を譲り受けるなどして,買主への権利移転を妨げ
る障害を除去すべき義務を負うものであり,そのことを注意的に確認する本
件営業譲渡契約第12条が設けられていることからすると,同契約第7条第
3項がいかなる経緯で設けられたものであるかはともかく,同条項をもって,
営業譲渡人(売主)たる原告西淀空調機に対しT電力の同意を取り付ける義
務を免除したものであることを超えて,逆に営業譲受人(買主)たる被告に
その義務を負わせたものと解することは困難である。
(6)加えて,原告西淀空調機は,T電力との間で締結した本件共同研究契約
において定められている事前承認手続を履践しておらず(このことは当事者
間に争いがない,乙第7号証及び弁論の全趣旨によれば,このことが本。)
件共有特許権の持分を被告に移転することについてT電力の同意が得られな
い理由であると認められるから,T電力の同意を取り付けることができない
という事態を招いたのは,原告西淀空調機自身であるということができる。
このような場合,本件営業譲渡契約上,被告がT電力の同意を取り付けるこ
ととされているからといって,その同意が取り付けられなかったことを被告
の債務不履行であるということはできない。
3請求原因(6)について検討する。
(1)原告らは,本件各契約は本件覚書合意が履行されることがその成立のた
めの条件であった旨主張する。原告らの上記主張は,本件覚書合意が履行さ
れることが本件各契約の成立ないし効力発生の停止条件である,すなわち,
本件覚書合意が履行されるまで本件各契約の成立ないし効力は停止されるの
であり,本件各契約は停止条件不成就により不成立に帰し,又は失効したと
の趣旨をいうものと解される。しかし,上記2のとおり,本件覚書合意を履
行するためには,本件営業譲渡契約に定める本件共有特許権を含む共有特許
権の原告持分を各共有者の同意を得て被告が取得することが前提となってい
るのであって,逆に,本件覚書合意の履行が本件各契約の成立ないし効力発
生の前提条件ないし停止条件となっているというのは,それ自体論理矛盾で
あって,原告ら及び被告の合理的意思に合致しないといわざるを得ない。
(2)また,本件覚書(甲1)には「甲(被告)と乙(原告X)は,西淀空,
調機株式会社の営業全部を甲(被告)に譲渡するための条件として,下記の
とおり合意する」として,被告が原告Xに対し,本件営業譲渡後も本件対。
象製品を原告X又は同原告が全部若しくは一部出資する法人(原告西淀空調
機)において製造販売することを承諾し,本件対象製品に関連する特許権の
実施許諾をする旨定めているところ,上記規定にいう「譲渡するための条件
として,下記のとおり合意する」という文言を素直に読めば,本件営業譲。
渡の条件となるのは本件覚書合意を行い,本件覚書を取り交わすことにある
ことが明らかであって,明文の規定がないのに,それを超えて本件覚書の内
容が履行されるか否かということ自体が本件営業譲渡の成立ないし効力発生
の条件であると認めることは困難である。
(3)以上のとおり,本件各契約が,停止条件不成就により不成立ないし失効
するとか,錯誤により無効となるものということは到底できない。
(4)また,被告が本件覚書合意の履行を怠ったときは,本件覚書合意自体の
債務不履行責任としてこれによって原告Xの被った損害を賠償すべき責任を
負うのは当然であるが,被告が本件覚書に記載の「瞬間式のSHP及び3馬
力以下(家庭用)の貯湯式のSHP(本件対象製品)に関連する特許権の実
施許諾」を不履行としたのは,前記2で説示したとおり,原告西淀空調機が
T電力との間で締結した本件共同研究契約において定められている事前承認
手続を履践しなかったことによるものであり,いわば同原告が自ら招いた事
態であるから,本件において,同原告が,本件覚書合意の不履行を理由に被
告に対して本件各契約の無効を主張し,又は債務不履行解除を主張するのは,
信義則に反し許されないものというべきである。
(5)原告らは,本件営業譲渡契約は強行法規である特許法33条,73条に
違反する法律行為であり,無効である旨主張する。特許を受ける権利(同法
33条)又は特許権(同法73条)が共有に係るときは,各共有者は,他の
共有者の同意を得なければ,その持分を譲渡することができないと定めてい
る(同法33条3項,73条1項)ところ,本件営業譲渡契約は,共有に係
る特許権等については他の共有者の同意を得ることを前提としているから,
何ら特許法の上記各条項に違反するものではない。本件のように,本件共有
特許権の原告西淀空調機持分の取得について,結局T電力の同意が得られな
かったとしても,そのことによって営業譲受人である被告が同持分を取得で
きないということになるにすぎず,本件営業譲渡契約全体の効力に影響を及
ぼすものではない。したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(6)その他,原告らは縷々主張するが,いずれも当裁判所の上記判断を左右
するものではない。
4以上のとおり,本件各契約は,停止条件不成就により不成立ないし無効に帰
し,又は錯誤により無効に帰するものではなく,また,債務不履行により解除
されたということもできない。したがって,これらのことを前提する原告らの
本件各請求は,その余の請求原因事実について判断するまでもなくいずれも理
由がなく,これを棄却すべきである。よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官田中俊次
裁判官西理香
裁判官松宏之は,転任のため署名押印することができない。髙
裁判長裁判官田中俊次

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛