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裁判例


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平成18年ウ第29号強制退去処分等取消請求事件(行)
主文
1広島入国審査官が原告に対して平成18年8月17日付けでした出入国管理及
び難民認定法第24条第4号イ所定の退去強制事由に該当する旨の処分を取り
消す。
2広島入国管理局主任審査官が原告に対して平成18年9月7日付けでした退
去強制令書発付処分を取り消す。
3訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(主位的請求)
主文第1項同旨
(予備的請求)
広島入国管理局長が原告に対して平成18年9月7日付けで行った、異議の
申出に理由がない旨の裁決を取り消す。
2主文第2項同旨
第2事案の概要
中華人民共和国(以下「中国」という)国籍を有する原告が、①[A]主位的
に広島入国管理局(以下「広島入管」という)入国審査官から平成18年8月
17日付けで受けた出入国管理及び難民認定法(以下「法」という)24条4号
イに該当する旨の認定(以下「本件認定」という、[B]予備的に本件認定につ)
いての口頭審理における判定に対する異議申出に理由がない旨の広島入国管理
局長の裁決(以下「本件裁決」という)の各取消しを求めるとともに、②上記
各処分を前提として広島入管主任審査官が原告に対して平成18年9月7日付
けでした退去強制令書発付処分(以下「本件退令処分」という)が違法である
としてその取消しを求める事案である。
1前提事実(証拠等により認定した事実はその証拠を該当箇所に掲記する)
原告(1)
。原告は1976(昭和51)年7月6日生れの中国国籍を有する外国人である
事実経過(2)
ア原告は、平成13年4月5日広島空港に到着し、A日本語学校への入学
を理由として広島入管入国審査官から在留資格「就学、在留期間1年の」
上陸許可を受けて本邦に上陸した。同年10月11日、広島入管において許
可期限を平成14年4月5日とする法19条2項所定の資格外活動許可を受
け、同月9日、広島入管においてB大学への入学を理由として在留資格
「留学、在留期間2年の在留資格変更許可を受けた。同年5月15日、広」
島入管において許可期限を平成16年4月5日とする前同様の資格外活動
許可を受け、同年3月26日、広島入管において在留期間2年とする在留
期間更新許可を受けた。そして、平成18年4月10日、広島入管において
B大学大学院への入学を理由として、在留期間2年とする在留期間更新許
可を受けた(乙1∼4。)
イこの間の平成17年9月21日、原告は長女を出産した(乙10。)
ウ原告は、別紙不法就労状況一覧表記載のとおり、上記資格外活動許可の
内容に違反して(ラウンジC、又は法19条2項所定の許可を受けること)
なく(同店以外、それぞれホステスとして不法就労活動に従事した(乙)
5、6、10。)
、、(3)ア広島入管入国警備官は、平成18年7月14日「ラウンジF」を摘発し
その際、原告の不法就労事実を確認した(乙5の①。)
イ広島入管入国警備官は、平成18年7月31日及び同年8月16日、原告
に係る違反調査を実施し、原告から事情を聴取した。そして、広島入管主
任審査官は、同月15日、原告が法24条4号イ(資格外活動)に該当する
と疑うに足りる相当の理由があるとして収容令書を発付し、同月16日、
広島入管入国警備官が収容令書を執行して原告を広島入管収容場に収容し
た。広島入管入国警備官は、翌17日、原告を同法24条4号イ該当容疑者
として広島入管入国審査官に引き渡した。広島入管入国審査官は、同日、
広島入管において原告に係る違反審査をして本件認定をし、原告にこれを
通知した(乙2、6、8∼11)
ウ原告は、同日、特別審理官による口頭審理を請求した。原告は同月
18日西日本入国管理センターに移収され、同年9月4日、広島入管特別
審理官は同センターにおいて口頭審理を行った結果本件認定に誤りはない
旨判定して原告にその旨通知した(乙8、12、13)。
エ原告は、同日、法務大臣に対し、異議の申出をした。法69条の2及び
同法施行規則61条の2により法務大臣から権限の委任を受けた広島入管
長は、同月7日、上記異議申出に対して本件裁決をし、同日広島入管主任
審査官に同裁決を通知した。なお、本件裁決の際、併せて同法50条によ
る在留特別許可をしない旨の決定(以下「本件決定」という)をした(乙
14∼17。)
オ同日、同通知を受けた広島入管主任審査官は原告に本件裁決を告知する
とともに本件退令処分をし、広島入管入国警備官は本件退令処分を執行し
た(乙18の①。)
カ原告は、上記各処分を不服として、同月27日、当裁判所に対し、上記
各処分の取消しを求める本案訴訟を提起した。
原告は、平成18年10月18日、当庁平成18年ク第14号の退去強制令書(4)(行)
執行停止決定により西日本入国管理センターを出所した。
2法の規定(ローマ数字は項、丸数字は号を表す)
2条の2(在留資格及び在留期間)Ⅰ本邦に在留する外国人は、出入国管理
及び難民認定法及び他の法律に特別の規定がある場合を除き、それぞれ、当
該外国人に対する上陸許可若しくは当該外国人の取得に係る在留資格又はそ
れらの変更に係る在留資格をもつて在留するものとする。
Ⅱ在留資格は、別表第1又は別表第2の上欄に掲げるとおりとし、別表第
1の上欄の在留資格をもつて在留する者は当該在留資格に応じそれぞれ本邦
において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ(中略)る。
別表第1の4(抜粋)
在留資格本邦において行うことができる活動
留学本邦の大学若しくはこれに準ずる機関、専修学校の専門課程、外
国において12年の学校教育を修了した者に対して本邦の大学に
入学するための教育を行う機関又は高等専門学校において教育を
受ける活動
19条(在留)Ⅰ別表第1の上欄の在留資格をもつて在留する者は、次項の
許可を受けて行う場合を除き、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に掲げ
る活動を行つてはならない。
②別表第1の(中略)4の表の上欄の在留資格をもつて在留する者収
入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動
Ⅱ法務大臣は、別表第1の上欄の在留資格をもつて在留する者から、法務省
令で定める手続により、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動の遂行
を阻害しない範囲内で当該活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又
は報酬を受ける活動を行うことを希望する旨の申請があつた場合において、
相当と認めるときは、これを許可することができる。
24条(退去強制)Ⅰ次の各号のいずれかに該当する外国人については、次
章に規定する手続により、本邦からの退去を強制することができる。
④本邦に在留する外国人(括弧内略)で次に掲げる者のいずれかに該当す
るもの
イ第19条第1項の規定に違反して(中略)報酬を受ける活動を専ら行
つていると明らかに認められる者(括弧内略)
70条1項次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは禁錮
若しくは300万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を
併科する。
④第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報
酬を受ける活動を専ら行つていると明らかに認められる者
73条第70条第1項第4号に該当する場合を除き、第19条第1項の規定に
違反して収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動を行つた者は、
1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは200万円以下の罰金に処し、又はその
懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する。
3争点
本件各処分の違法性(原告が法24条4号イに該当するか否か、仮に該当す
るとして本件裁決がその裁量を逸脱・濫用したものといえるか)
4争点に関する当事者の主張
被告の主張(1)
ア本件認定の適法性
以下のとおり、原告には法24条4号イ所定の退去強制事由がある。
法24条4号イの解釈(ア)
当該資格外活動が①本来の在留資格に基づく活動への阻害の有無・程
度、②資格外活動の継続性及び有償性とその程度、③資格外活動の許容
性を総合考慮して、在留目的たる活動が在留資格たる活動から変更され
たと評価できる程度まで在留資格外の活動を行っている場合は法24条
4号イに該当するというべきである。
a法は、我が国における外国人の入国及び在留管理の基本となる制度
として在留資格制度を採用し、人の社会生活上の活動を在留資格によ
り限定類型化することにより我が国社会にとって有益な外国人に限っ
てこれを受け入れようとしている。
「留学」の在留資格を有する者が本邦において行うことのできる活
動は、法別表第1の4の「留学」の項に記載された「教育を受ける活
動」に限定され、報酬を受ける就労活動を行ってはならないと定めら
れている(法19条1項2号。そして、法7条、法施行規則6条にお)
いて、留学目的で本邦に上陸しようとする外国人は「留学」の在留、
資格を申請する際に、本邦在留中の一切の経費の支弁能力を証する文
書を提出しなければならないとされている(法施行規則別表第3。)
このように「留学」の在留資格を取得するためには本邦に滞在する、
ための費用を支弁する十分な資力や支弁のための手段を有することを
必要とされていることからすれば、法は、本邦において報酬を受ける
活動をしながらその報酬によって勉学する活動を維持しようとする外
国人を受け入れる出入国管理政策を採用しておらず「留学」の在留、
資格を付与しない立場を採っている。
そのため、留学の在留資格をもって本邦に在留する外国人が資格外
の就労活動を行い、それによって本邦滞在中の必要経費を賄おうとす
るにまでに至っている場合には、学業の遂行自体が就労によって阻害
されていないとしても、在留目的たる活動が「留学」から変更された
と評価されるべきである。したがって、このような場合には無許可で
報酬を受ける活動を「専ら行つている」に該当する。
なお、以上によれば、法24条4号イの「専ら」に該当するか否か
を判断するに当たって原告が主張するような事情はいずれも考慮の対
象外である。
bまた、前記①∼③のいずれかの要素についてその基準を大幅に逸脱
しているときは、他の要素をことさらに斟酌するまでもなく法24条
4号イに該当すると解すべきである。
本件におけるあてはめ(イ)
a原告は「留学」の在留資格で在留していたものの、以下のとおり、
違法に在留資格外の報酬を受ける活動を行い、その程度が本邦滞在中
の必要経費を賄う以上といえるまでに至っていたというべきである。
①原告が資格外活動許可を受けないままホステスとして稼働してお
り、稼働状況は別紙不法就労状況一覧表記載のとおりであって、ラ
ウンジFでは主力として稼動しており、さらに同表記載のもの以外
にも同伴出勤等ホステスとしての稼動に付随する活動を行っていた
こと
②原告の両親に経費支弁能力がなかったこと
③原告は本国から送金を受けていないのにこれを受けたなどと虚偽
の供述をし、また、これからの経費支弁方法についても虚偽の供述
をしている疑いが濃厚であること
④原告は、ホステスとして稼働していたことを秘匿して奨学金を不
正に受給していたのであるから、法7条1項2号の基準を定める省
令の要件(申請人が本邦に在留する期間中の生活に要する費用を支
弁する十分な資産、奨学金その他の手段を有すること)を満たさな
いこと
⑤原告は、学費や生活費以外にもかなりの額を使える程の金銭(本
邦滞在中の必要経費以上の収入)をホステス活動により得ており、
本国の家族にも大金を送金していること
bまた、aで主張した事実に加えて以下の事実も考慮すれば、少なく
とも在留目的たる活動が在留資格たる活動から変更されたと評価でき
る程度まで在留資格外の活動を行っているといえるから、法24条
4号イの退去強制事由に該当する。
①原告は本邦において外国人芸能人を本邦の招聘会社に斡旋紹介し
て報酬を得る活動を職業的に行っていたと認められること
②原告は夫及び妹の不法就労先を斡旋するなど家族ぐるみでの不法
就労を維持・発展させるための中心的な役目を果たしており、自ら
の在留資格を利用して蓄財をしていたこと
③原告は、平成13年12月24日の出国当日に原告名義の口座から
92万円(乙61の②、67、68、平成14年2月21日の出国の2日前)
に同口座から30万円(乙61の②、67、68、平成15年12月20日)
の出国直前に原告名義の口座から合計627万円、夫名義の口座から
合計200万円(乙61の②、63の②、64の①、67∼69、平成)
16年8月7日の出国当日原告名義の口座から合計165万円(乙
61の②、67∼69、平成18年4月25日の出国5日前に原告名義の)
口座から20万円(乙61の②、67∼69、原告の義母が出国した平)
成19年1月25日当日に原告名義の口座から100万円、原告の夫名
義の口座から合計190万円が引き出されており(乙61の②、65の
②、67、55、中国との貨幣価値の違いを考慮すればこれらは莫大)
な金額であるところ、これらの金員は原告らが本邦において就労す
るなどしたことによる蓄財であり、原告らが出国する際に本邦から
中国に持ち出されたと推認されること
④原告は内容虚偽の申請を行うなどして奨学金の支給を受けたり家
賃が安価な市営住宅に入居したりしており、本邦にいる間にできる
だけ多くの金を稼いで蓄財しようという強い目的・意思が認められ
ること
⑤原告が勉学に費やした時間(平成18年6月では合計73∼74時
間)とホステスとして稼動した時間(同月では合計143時間)の比
較という観点からみても、原告は主としてホステス活動をしていた
と評価でき、実質的に学業活動の遂行を疎かにしていたことは否定
できないこと
その他の要件(ウ)
原告は、法24条4号イの定めるその他の要件も満たしている。
イ本件裁決及び本件退令処分の適法性
本件の事実関係を前提にすれば、法務大臣の原告に在留特別許可を付与
しない旨の判断が裁量権の濫用ないし逸脱であるとされる余地はなく、本
件裁決及び以上を前提とする本件退令処分も適法である。
原告の主張(2)
原告に法24条4号イ所定の退去強制事由があることは争う。
ア本件認定処分の違法性(主位的主張)
法24条4号イの解釈(ア)
法24条4号イの退去強制事由は、当該活動の継続性、有償性、生計
等の依存度、本来の在留資格に基づく活動の有無又は程度等を総合的に
勘案し、当該外国人の活動が、その有する在留資格に属する者の行うべ
き活動から、他の在留資格に属する者の行うべき活動に変更されてしま
ったと認められる状態にあることを指す。その典型例は、留学の在留資
格でありながら、ほとんど大学に出席せず、終日稼働し、収入の大半を
本国の家族等に送金しているような場合である。
本件におけるあてはめ(イ)
a本件では、以下の各事情を総合的に勘案すれば、法24条4号イの
退去強制事由に該当するとはいえない。
①原告は資格外活動をしていたものの、その活動時間帯は学業に支
障を及ぼすものではなく、また、資格外活動許可を受けた場合に認
められる稼働時間(週28時間)を超えなかったこと
②その報酬は主として学費その他の学生生活における必要経費、出
産費用、生活費の補完に充てられており、資格外活動による報酬を
本国に送金した事実もないこと
③原告の得た報酬の額は、本邦での滞在期間で平均すれば、月額
7万9000円程度に過ぎないこと
④資格外活動の内容は性風俗などの悪質性の高いものではないこと
⑤極めて真面目に学校に通い、学部ではA評価以上が53%、大学
院の前期では5科目全てA評価という優秀な成績を修めていたこと
⑥したがって、原告は法24条4号イの予定する典型的な場合に当
てはまらないこと
⑦刑事処分では不起訴になっていること
b被告がア(6頁)で主張する事実のうち原告の両親に経費支弁(1)(イ)
能力がなかったことは争う。送金について虚偽の申告をしたこと、奨
学金を不正に受給していたこと、必要経費を超える支出(贅沢品の購
入等)のためにホステスをしていたこと、大金を本国に送金したこと
はいずれも否認する。
イ本件裁決の違法性(予備的主張)
既に述べた事情に加えて、本件裁決当時原告が5年3か月にわたって適
法な在留資格に基づき本邦に滞在していたこと、夫、長女、妹と4人で共
同生活をしていることなども考慮すれば、原告に対して在留特別許可をし
なかった本件裁決には裁量を逸脱した違法があり、取消しを免れない。
ウ本件退令処分の違法性
ア、イで主張したところによれば、違法な本件認定処分及び本件裁決を
前提とする本件退令処分もまた違法であり、取消しを免れない。
第3争点に対する判断
1法24条4号イの要件のうち「専ら」の解釈について、
当裁判所の解釈(1)
ア法は、在留資格の制度を採用して在留資格ごとに本邦において行うこ(ア)
とができる活動の内容を規定し、これを外国人が本邦に在留することの
基礎としている。外国人の在留資格が「留学」の場合に本邦で行うこと
のできる活動は「教育を受ける活動」とし(法2条の2、別表第1の
4、留学の在留資格において本邦に在留する外国人が報酬を受ける活)
動等を行うことを原則として禁止しながら(19条1項2号。例外は法
務大臣等の許可を受けた場合。同条2項、単に同項2号に違反したと)
いうだけで退去強制事由に当たるものとはせず、退去強制の対象を無許
可の資格外活動を「専ら行つている」者に限定している(法24条4号
イ。)
』。(イ)「専ら」とは『広辞苑第5版(岩波書店)によれば「その事ばかり
それを主として。全く」を『大辞泉増補・新装版(小学館)によれ、』
ば「他はさしおいて、ある一つの事に集中するさま。また、ある一つの
事を主とするさま。ひたすら。ただただ」を『大辞林第2版(三省、』
堂)によれば「他の事にかかわらないで、そのことだけをするさま」を
意味するものとされている。
以上の法の規定及び「専ら」の語義からすれば、資格外活動を「専ら(ウ)
行つている」とは、外国人の主たる在留目的がその在留資格に基づき本
邦において行うことができる活動から資格外活動に変更されたと認めら
れる程度に資格外活動を行っている場合をいい、外国人留学生に限定し
て論ずるならば、当該外国人が「教育を受ける活動」を法が期待する程
度に行っている場合は、当該活動が専ら資格外活動を維持する目的で行
われているものでない限り、前記定義には該当しないものと解される。
その根拠は次のとおりである。
①法24条4号イは、侵害処分の要件を定めるものであるのみならず
同法70条1項4号の罰則規定における構成要件と全く同じ要件を定
めるものであり、その要件について同号と異なる緩やかな解釈をする
根拠はないから、同号同様に明確性が特に強く要求される。すなわち、
法24条4号イ該当性は厳格に解釈すべきであって、本来の語義の範
囲を超えた解釈(類推解釈)をすることは許されない。
②個人の社会生活における活動は複数存在しうる。
例えばこれが甲乙2つ存在する場合に当該個人が甲の活動を「専
ら」行っているというためには、相対的にみて乙の活動より甲の活動
に比重が置かれているというだけでは足りず、乙の活動がそれ自体と
して実質的に重要性を持たない場合や専ら甲の活動を維持・助長する
目的で従として行われている場合であるなど、乙の活動を考慮の対象
外とすることができるだけの事情が存在しなければならない。
③前記のとおり外国人の在留資格が「留学」の場合に本邦で行うこと
のできる活動が「教育を受ける活動」とされていることからすれば、
当該留学生が法の期待する程度に「教育を受ける活動」を行っている
場合、当該外国人にとって「教育を受ける活動」は社会生活における
実質的に重要な活動のひとつをなすものとみるべきである。
④以上をふまえると、当該外国人が「教育を受ける活動」を法の期待
する程度に行っているといえる場合は、法24条4号イ該当性の判断
に当たってこれを度外視することが原則として許されない結果、たと
え同人が社会生活上の他の重要な活動として資格外活動を行っており
その比重が相対的に高いとしてもなお、それだけでは資格外活動を
「専ら」行っているとはいえないことになる。この場合は原則として
法24条4号イ該当性が阻却されるものと解すべきである。
但し、この場合であっても「教育を受ける活動」が専ら資格外活、
動を維持・助長する目的で行われているに過ぎないなど「教育を受け
る活動」を捨象して判断すべき特段の事情が存在すると認められると
きは、例外的に法24条4号イに当たる余地があると解される。
被告の主張に対する補足説明(2)
ア以上に対し、被告は、法及び同法施行規則が留学の在留資格については
経費支弁能力を前提としており、同資格で在留する外国人が資格外活動を
行って本邦滞在中の必要経費を賄おうとしている場合は法24条4号イの
事由があるなどと主張する。しかし、既に述べたところから明らかなとお
り被告の主張する解釈は「専ら」の本来の語義の範囲を超えた類推解釈に
ほかならないから、採用できない。
イ被告は、また、前記のように解すると、①教育機関の授業等を受け(ア)(1)
ずに資格外活動として許可されうるアルバイトを長時間行った外国人は
退去強制や罰則の対象になるのに、②授業等を受けながらより悪質な不
法就労活動である風俗店における接客業等を行った外国人は退去強制や
罰則の対象にならないことを指摘して、法の趣旨の沿わない結果となる
ばかりか、外国人の無許可の資格外活動を助長促進する結果となると指
摘する。
ホステスとしての不法就労活動は許可を受ける余地がないなどという(イ)
被告指摘の点は、法24条4号イの定める要件のうち「第19条第1項の
規定に違反して」の部分に関するものであって「専ら」の要件に関す、
るものではないから、の指摘は当たらない。(ア)
また、被告の指摘する①の場合は教育を受ける活動がされていない(ウ)(ア)
うえ無許可の資格外活動時間も長いのに対し、②の場合は教育を受け(ア)
る活動がされているうえ無許可の資格外活動時間も短いのであるから、
一概に①より②のほうがより退去強制や処罰の必要性が大きいとい(ア)(ア)
うことはできないのであって、で述べた解釈を採ることによって不合(1)
理な結論になるわけではない。
さらに、で述べた解釈を採用しても、法19条1項2号に違反した(エ)(1)
場合は同法73条による処罰の対象となるのであるから、外国人による
無許可の資格外活動が助長促進されるものではない。
2本件における具体的検討
認定事実(1)
前記前提事実、証拠(甲6∼20、27、乙2、6、7、10、23、33の①②、
47、原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認め
られる。
ア原告は平成14年4月にB大学経済科学部に入学して平成18年3月に卒
業し、同年4月から同大学大学院経済科学研究科に在籍して金融論を専攻
している。同月11日、同年度前期後期ともそれぞれ講義各4コマ及び集
中講義1コマの履修登録をした。
イ学部の講義には病気の場合を除いて必ず出席しており無断欠席をするこ
とはなく、大学院進学後も所用で帰国していた平成18年4月25日から同
年5月16日までの間(講義があったのはそのうち7日間)と当局による
身柄拘束中以外は全て出席しており、大学側からは出席状況は非常に良好
であると評価されている。
また、原告は、講義の準備のために毎週10∼17時間を要し、それ以外
にも指導教授から課題として与えられた300∼400頁ほどの日本語の専門
書を読む必要があったことなどから、講義が終わった後も大学図書館に残
って資料の調査・レポート作成・金融政策の勉強などを行い、帰宅は通常
午後4時∼5時頃であった。
成績は、学部においては全取得単位数73科目140単位のうちAA(90∼
100点)が7科目13単位、A(80∼89点)が32科目68単位等であるな
ど良好であった。また、大学院に進学した平成18年前期に履修した5つ
の授業科目の成績も全てA(80∼100点。大学院の成績としては普通)で
あり、学部、大学院とも授業料等免除の特別待遇を受けていた。平成
17年度には「学業、人物ともに優れ」ていることなどを支給要件とする
奨学金「学習奨励費」の支給を受けていた。
ウ指導担当のG・経済科学部教授の平成18年8月10日付けの「Hさんの
出席状況並びに勉学状況について」と題する書面(甲8)では、原告は与
えられた課題はこなしていたが最近ははっきりした進歩がみられず停滞気
味であると評されている。
エ原告が不法就労活動としてホステスを選んだのは、仕事内容の他、給与
が高額であること、稼働の時間帯が夜間であるため学業と両立することが
主たる理由であった。
なお、ホステスとして就労したことが大学・大学院における学業に実質
的な悪影響を与えたという因果関係を認めるに足りる証拠はない。
オ原告が大学院に通う目的は、学歴を高めること、卒業後は我が国と中国
との友好関係に役立つビジネスや我が国に在留する中国人研修生の力にな
ることにある。
判断(2)
アア、イ及びエの各事実によれば、原告は成績、出席率、単位取得状況、(1)
大学院進学後の勉学状況などいずれの面でも平均的な学生と同等かそれ以
上に大学・大学院における学問を行っていたものといえる。同ウのG経済
科学部教授の評価を考慮しても、与えられた課題はこなしていたと評価さ
れている以上、大学院における勉学が平均以下であったとまではいいがた
い。そうすると、原告は本件認定処分当時少なくとも法が期待する程度に
「教育を受ける活動」を行っていたものといえる。
また原告の「教育を受ける活動」が専らホステスとしての活動を維持・
助長するために行われたことなど、法24条4号イ該当性を判断するに際
して「教育を受ける活動」を考慮の対象外に置くことが許されるだけの事
情が存在することを認めるに足りる証拠はない。かえって、既に述べたと
ころに加えてオの事実も考慮すれば、原告にとって「教育を受ける活(1)
動」は本邦在留の目標を実現するための手段であって、ホステスとしての
活動とは独立した重要な価値を有するものであったというべきである。
〕、イ被告の指摘する事実(第2・4ア〔6頁以下)は、以下のとおり(1)(イ)
いずれも法24条4号イ該当性を基礎付けるものではない。
経費支弁能力のないことをいう点が同号に該当することの理由となら(ア)
ないことは既に判示したところから明らかである。
蓄財の事実・意欲や外国人芸能人の斡旋紹介をいう点は、法24条(イ)
4号イの要件のうち「第19条第1項の規定に違反して収入を伴う事業
を運営する活動又は報酬を受ける活動を(中略)行つている」ことを基
礎付ける事実とはいえても、これだけで「専ら」の要件をも満たすもの
とは解されない。
虚偽申請、奨学金の不正受給、家族に対する不法就労先の斡旋等の事(ウ)
実は、それ自体としてはいわば原告の情状が悪いことを示すものに過ぎ
ず、同号イの法律要件に当たることを直接基礎付けるものではない。こ
れらの事実が蓄財の事実及び意欲を裏付けるものであるという側面につ
いてどのように判断すべきかはで述べたとおりである。(イ)
勉学の時間(平成18年6月では73∼74時間)がホステスとしての(エ)
活動時間(同月では143時間)の半分程度にとどまるという被告の指摘
は、相対的な比重の問題に過ぎないから、法24条4号イ該当性を基礎
付けるものではない(もっとも、原告が学業に当てた時間が月70時間
程度にとどまるものであることを認めるに足りる証拠はない。)
その他被告が縷々主張するところはいずれも法24条4号イの誤った(オ)
解釈を前提とするものであり、採用の限りでない。
以上で個別的に検討した被告の指摘するところについて、これを総合(カ)
的に考慮しても、当裁判所の前記アの判断を左右するものではない。
ウ以上のとおり、被告の主張する事実は法24条4号イの退去強制事由に
該当するということはできず、他に原告に同事由があるものと認めるに足
りる証拠はない。
本件認定処分及び本件退令処分はいずれも違法であり取消しを免れない。
3よって原告の主位的請求は理由がある。
広島地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官橋本良成
裁判官佐々木亘
裁判官相澤聡
(別紙は省略)

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