弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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被告人を懲役19年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
第1(傷害事件)
被告人は,D1と共謀の上,平成20年8月23日午後3時40分頃,北九
州市a1区b1c1丁目d1番D2駐車場内において,被告人が,C(当時46歳)
に対し,その左大腿部,右側腹部等を鉄パイプ様の物で殴る暴行を加え,よっ
て,同人に加療約48日間を要する左大腿打撲,右第10肋骨骨折等の傷害を
負わせた。
第2(甲事件)
被告人は,D3,D4,D5,D6,D7,D8及びD9と共謀の上,法定
の除外事由がないのに,
1平成23年11月26日午後9時頃,不特定若しくは多数の者の用に供され
る場所である北九州市a1区e1f1番g1号のD10方前路上付近において,D
7が,D10方敷地内にいたD10(当時72歳)に対し,殺意をもって,所
携の回転弾倉式けん銃で,同人の身体を目掛けて弾丸2発を発射し,うち1発
を同人の頚部に命中させ,よって,同日午後10時3分頃,同市h1区i1j1丁
目k1番l1号のD11病院において,同人を右内頚静脈及び右鎖骨下動脈の離
開に基づく失血により死亡させて殺害し,
2同日午後9時頃,D10方前路上付近において,前記けん銃1丁を,これに
適合するけん銃実包2発と共に携帯して所持した。
第3(元警察官事件)
平成24年4月19日当時,被告人は指定暴力団五代目D12會(以下,そ
の前身となる暴力団組織を含め「D12會」という。)五代目D13組(以下,
前同様「D13組」という。)組員,D14はD12會総裁,D15はD12
會会長,D16はD12會理事長兼D13組組長,D4はD13組若頭,D7
はD13組若頭補佐,D5はD13組筆頭若頭補佐,D17はD13組組長付,
D18,D19,D20はいずれもD13組組員であったものであるが,被告
人は,D14,D15,D16,D4,D7,D5,D17,D18,D19
及びD20と共謀の上,組織により,元福岡県警察警察官D21(当時61歳)
を殺害することになってもやむを得ないと考え,D12會の活動として,D1
4の指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って,いずれも,
法定の除外事由がないのに,
1同日午前7時5分頃,不特定若しくは多数の者の用に供される場所である北
九州市h1区m1n1丁目o1番p1号付近路上において,D17が,D21に対し,
殺意をもって,所携の自動装てん式けん銃で,D21の身体を目掛けて弾丸2
発を発射し,同人の左腰部及び左大腿部に1発ずつ命中させ,もって団体の活
動として組織により人を殺害しようとしたが,同人に約1か月間の入院及び通
院加療を要する左股関節内異物残留,左大腿部銃創の傷害を負わせるにとどま
り,殺害するに至らず,さらに,引き続き,同所において,D17が,所携の
前記けん銃で,地面に向けて弾丸1発を発射し,
2前記第3の1記載の日時場所において,同記載のけん銃1丁を,これに適合
するけん銃実包3発と共に携帯して所持した。
第4(窃盗事件)
被告人は,D22と共謀の上,平成24年7月中旬頃から同年8月上旬頃ま
での間,北九州市a1区q1r1番D23団地s1棟北側駐輪場において,同所に
駐輪中の普通自動二輪車からD24管理に係るナンバープレート1枚を取り外
して窃取した。
第5(乙事件)
平成24年9月7日当時,被告人はD13組組員,D16はD13組組長,
D4はD13組若頭,D6はD13組組織委員長,D5はD13組風紀委員長,
D7はD13組筆頭若頭補佐,D25はD13組組織委員であったものである
が,被告人は,D13組の不正権益を維持・拡大する目的を有していたD16,
D4,D6,D5,D7のほか,D25及び氏名不詳者と共謀の上,組織によ
り,Aを殺害することになってもやむを得ないと考え,D13組の活動として,
D16の指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って,
1同日午前零時58分頃,北九州市a1区s1t1丁目u1番v1号D26w1棟東側
駐車場において,タクシーを降車したA(当時35歳)に対し,氏名不詳者が,
殺意をもって,持っていた刃物でその左顔面を1回切り付け,その臀部を1回
突き刺したが,同人に入院加療約114日間を要する左顔面切創,左顔面神経
損傷,右臀部刺創等の傷害を負わせたにとどまり,殺害するに至らず,
2前記第5の1記載の日時場所において,前記第5の1の犯行を制止しようと
した前記タクシーの運転手B(当時40歳)に対し,氏名不詳者が,殺意をも
って,前記刃物でその左側頭部等を切り付けたが,同人に入院加療約14日間
を要する左側頭部・左耳介・左頚部・手背部切創等の傷害を負わせたにとどま
り,殺害するに至らなかった。
第6(丙事件)
被告人は,D16,D4,D6,D7,D18,D27及びD28と共謀の
上,平成24年9月26日午前零時38分頃,北九州市a1区x1y1丁目z1番
a2号D29出入口前において,D28が,D30(当時54歳)に対し,持っ
ていた刃物でその左臀部及び右大腿部を3回突き刺すなどし,よって,同人に
入院加療15日間を要する臀部・大腿部刺創,頭部挫創の傷害を負わせた。
(事実認定の補足説明)
第1弁護人らの主張及び争点
弁護人らは,被告人の供述に依拠して,傷害事件については争わず,甲事件,丙
事件,乙事件については,各犯行への被告人の関与は認めつつも,被告人と共犯者
らとの間の共謀を争い,元警察官事件については,被告人と共犯者らとの間の共謀
及び実行犯の殺意を争い,いずれの事件についても無罪である旨主張しており,ま
た,窃盗事件については,被害者の占有及びそれに対する被告人の認識を争い,窃
盗罪は成立せず占有離脱物横領罪が成立するにとどまる旨主張している。
そこで,以下,証拠上容易に認められる前提事実を認定した後,発生日の順,す
なわち,甲事件,元警察官事件,窃盗事件,乙事件,丙事件の順に各事件を検討す
る。
第2前提事実
証拠によれば以下の事実が容易に認められる。
1D12會
D12會は,北九州市内に拠点を置き,同市を中心にその周辺地域を縄張りとし
て主張する暴力団組織である。D12會は,平成12年1月に四代目D12會とな
り,平成23年7月には,D14を総裁,D15を会長,D16を理事長とする五
代目D12會が発足した。その組織内の序列は,総裁,会長,理事長と続き,理事
長以下理事長補佐までを執行部と称している。
平成4年6月,D12會(当時の名称は,二代目D31連合D32一家)は,暴
力団員による不当な行為の防止等に関する法律に基づき,福岡県公安委員会から指
定暴力団として指定され,また,平成24年12月には特定危険指定暴力団にも指
定され,現在まで,いずれの指定も続いている。
D13組は,D12會傘下の二次団体の一つであり,平成23年6月には,D1
6を組長,D4を若頭として五代目D13組が発足した。D13組内の序列は,ト
ップの組長の下,若頭以下筆頭若頭補佐までを執行部,執行部の下の若頭補佐,組
長秘書,組長付などを役付と称していた。
2被告人とD12會との関係
被告人は,平成17年12月頃,当時の四代目D12會の二次団体の一つである
D33組に関わるようになり,平成19年頃に正式にD12會D33組の組員とな
った。平成20年6月にD33組組長が死亡し,D33組が消滅したため,被告人
は,当時の四代目D13組内D34組に所属し,平成23年3月にD34組組長の
D1が逮捕されて以後は,D13組内D35組の配下組員として活動していた。
被告人は,平成27年7月にD12會を脱退した。
3D12會の組員による犯罪についての被告人の認識
被告人は,前記のように平成19年頃以降,D12會の組員として活動していた
が,その活動の中で,当時のD33組の複数の組員がけん銃発砲事件を起こして服
役していることや,D12會の他の二次団体の組長を始めとする複数のD12會の
組員がけん銃使用の殺人事件で検挙され,有罪判決を受けるなどしていることを見
聞きしており,これらの犯罪が組員の個人的な動機によるものではなく,D12會
という組織のために実行されたものであることも認識していた。
第3甲事件について
1甲事件の概要
平成23年11月26日午後9時頃,D13組若頭補佐のD7(D12會内の地
位は事件当時のものを指す。以下同様)は,D36株式会社会長のD10方前路上
付近において,D10に対し,回転弾倉式けん銃で2発の弾丸を発射し,うち1発
をD10の頚部に命中させ,D10を殺害した。関係各証拠によれば,この甲事件
は,当時福岡市内のD37センターで開催されていた大相撲九州場所を観戦するた
め,北九州市a1区(以下,北九州市の地名は市の記載を省略する。)にある自宅と
D37センターを連日のように車で往復していたD10の行動状況を,複数のD1
2會組員が犯行当日まで数日間にわたり確認した上で実行したものであった。
2被告人と共犯者らとの間の殺人,けん銃発射,けん銃加重所持の共謀の有無
について
⑴認定事実
関係各証拠によれば,被告人の甲事件への関与等について以下の事実が認められ
る。
ア平成23年11月21日,被告人は,D13組若頭のD4の指示で,被
告人が代車として使用していた車を運転してD4と共に福岡市内に赴いた。
イ翌22日,被告人は,D4から指示を受け,D13組組員のD20から
借りていた車を運転してD4と共にD10方へ行き,同所に停まっていた白色の車
の車種(ホンダフリード)やナンバー等を覚えさせられた。その後,被告人は,D
4の指示により,D10方周辺にあるD38公園付近で待機していたところ,前記
フリードが通過したため,D4からこれを追尾するよう指示を受けた。そこで,被
告人は,車を運転し,h1区のD39インターチェンジ(以下「D39インター」と
いう。)から福岡市b2区内のD40インターチェンジ(以下「D40インター」と
いう。)まで前記フリードを追尾し,D40インター周辺(D37センター周辺)で
いったんD4を降ろし,間もなく戻ってきたD4と合流して,北九州市内へ戻った。
ウ翌23日,被告人は,D4から指示を受け,D13組組員のD18から
借りた車を運転してD4と共にD10の自宅周辺を回った後,D39インター,D
40インターを経由してD37センター付近へ行った。同センターでは大相撲九州
場所が開催されていた。D4は,同センター正面で車を降りて同センターの中に入
り,間もなくして戻ってきて,被告人の運転する車に乗り北九州市内へ戻った。
エ同月22日又は23日,被告人は,D10方付近の路上にD12會D4
1組組長のD3が使用している車(三菱ランサー)が停車しているのを目撃し,同
月24日には,D4の指示でD3に対し被告人が使用している前記代車を貸した。
オ同月25日夜,被告人は,D4の指示を受け,D13組組員と共にD3
9インター付近まで車で行き,同所で待機していたが,同日午後8時頃これを解除
された。
カ被告人は,同月23日頃までには,D4がD13組組員のD18及びD
20と共に大相撲九州場所の観戦に行ったことを知った。
キ甲事件当日である同月26日午後,被告人は,D4に指示され,D13
組組員と共に車でD38公園に行き,付近を通過する車を見張った。
さらに,被告人は,D4から,連絡用の携帯電話を渡された上,これからD39
インターの出口付近まで行って,特定の車がD39インターから流出したら,その
携帯電話を使って,リダイヤルで電話してその旨伝えるよう指示され,その車の特
徴とナンバーを教えられた。被告人は,D4の指示に従って,同日午後7時前後頃
までにはD39インター出口付近に到着し,一般道に流出する車を見張っていたが,
その間,何度かD18から当該車の走行状況を教えられた。同日午後8時50分頃,
被告人は,伝えられていた特徴の車がD39インターから一般道に流出するのを確
認したため,D4から受け取っていた前記携帯電話のリダイヤル先に電話をかけて,
通話の相手にその旨を伝えた。
その後,被告人は,D4から指示され,前記携帯電話を川に投棄して処分した。
ク被告人は,甲事件発生の翌日頃,報道により事件の発生を知り,これに
自身が関与していたことを認識した。
⑵検討
以上の事実関係を前提に,被告人と共犯者らとの間の殺人,けん銃発射,けん銃
加重所持の共謀の有無について検討する。
被告人は,甲事件発生の5日前から事件当日までの間,連日のようにD4からの
指示を受けて行動し,D10の自宅周辺に複数回赴き,D10が使用する車の車種
やナンバーを教えられ,その車を福岡市内まで追尾し,あるいは,D37センター
付近でD4を車から降ろすことを繰り返すなどし,一方で,甲事件発生の3日くら
い前までにはD4がD13組組員2名と共に大相撲九州場所の会場であるD37セ
ンターに行ったことも知っていたのであるから,D10の名前を始めその素性等は
知らされていないとしても,北九州市内の自宅から車でD37センターに大相撲観
戦に行っている人物(D10)の行動を確認していることを認識するに至ったと認
められる。さらに,遅くとも事件当日,D4から携帯電話を受け取り,特定の車が
D39インターから降りたらその携帯電話を使って連絡するように指示を受けた時
点において,被告人は,行動確認をしている人物が自宅に向かっている状況を誰か
に連絡するという段取りを把握したのであるから,D12會の組員が行動確認をし
ている人物に対して何らかの危害を加えようとしていることを理解したものと考え
られる。
そして,前記のように,被告人らが行ったD10に対する行動確認が綿密なもの
であったことや,行動確認にはD13組若頭のD4やD41組組長のD3といった
組織の上位の組員が関わっているということを被告人が認識していたことに加え,
被告人は,これまでD12會組員として活動する中で,D12會の複数の組員がけ
ん銃を使用した殺人事件等を起こし,服役するなどしたことを見聞きしており,そ
れらの犯罪がD12會のために実行されたものであることも認識していたのである
から,D12會組員が,行動確認をしている当該人物(D10)に対し,けん銃を
含む凶器を使用するなどして襲撃し,最悪の場合殺害するような事態が起こり得る
ことも当然想定することができたといえる。
それにもかかわらず,被告人は,D4らに事件の詳細を尋ねることなく,D10
の乗る車の動きを携帯電話で何者かに伝えるなどしているのであり,結局のところ,
前記のような事態をも容認した上で,自らの役割を果たしたものというべきである
から,被告人には,けん銃を使用した殺人の少なくとも未必的な故意があったもの
と認められ,これにつき共犯者らとの共謀も認められる。
3結論
以上のとおり,被告人には,判示第2の殺人罪,けん銃発射罪,けん銃加重所持
罪の共同正犯が成立する。
第4元警察官事件について
1元警察官事件の概要
平成24年4月19日,D13組組長付のD17が,元福岡県警察警察官である
D21方付近の路上で,D21を銃撃した。この元警察官事件においては,行動確
認役,実行役,実行役の送迎役,犯行使用車両の入手役と投棄役等,細分化された
役割を多数のD13組組員が分担しており,想定される犯行動機や,D12會内の
指揮命令系統の実態など,関係各証拠から認められる事実を総合すれば,元警察官
事件は,D14,D15,D16らが共謀の上,組織により,D12會の活動とし
て,D12會総裁のD14の指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に
従って遂行されたものと認められる。
2実行犯であるD17の殺意の有無について
⑴認定事実
関係各証拠によれば,元警察官事件におけるD21に対する銃撃について以下の
事実が認められる。
平成24年4月19日午前7時頃,D21は,通勤のため自宅を出て,最寄り駅
に徒歩で向かい,犯行現場に差し掛かった。一方,犯行現場周辺の待機場所で原動
機付自転車(以下「本件原付」という。)に乗り待機していたD17は,D13組組
員のD18からの携帯電話による合図を受けて本件原付を発進させ,自分の方に向
かって歩いてくるD21の姿を認めると,減速しながらゆっくりと進み,D21の
左斜め前に至ったところでブレーキをかけ,本件原付を停めたが,付近の道路はD
17の進行方向に向かって約2パーセントの下り勾配になっていたので,D17は,
本件原付にまたがったまま両足を地面につけて踏ん張る体勢になった。
そして,D21がちょうどD17の左側に位置する地点まで来たときに,D17
は,左側に90度ぐらい体をひねり,上着の右ポケットから25口径の自動装てん
式けん銃(タンホグリオGT27型というイタリア製の真正けん銃)を取り出し,
左手を添えて右手に持ち,すぐさま至近距離にいるD21の左大腿部付近を狙って
続けざまに2回引き金を引いた。その結果,弾丸2発が連続して発射され,発射さ
れた銃弾は,D21の左腰部と左大腿部に1発ずつ命中した。D17は,本件原付
を二,三メートルほど進ませて,D21の後方の地面に向けて更に1回引き金を引
き,弾丸1発を発射すると,スピードを上げてその場から走り去った。
D17がD21を狙って撃った2発の弾丸のうち,1発は左大腿部からやや下向
きに射入して大腿骨大転子部に当たって跳ね返り体外に排出されたが,もう1発は
左腰部からやや下向きに射入して左大腿骨骨頭の背中側部分の大腿動脈から約7セ
ンチメートルの位置で体内に残留した。
D21は,前記銃撃を受け,約1か月間の入院及び通院加療を要する左股関節内
異物残留,左大腿部銃創の傷害を負った。
⑵検討
以上の事実関係を前提に,D17の殺意の有無について検討する。
D17は,25口径と比較的小型ではあるが人を殺傷する能力を十分に備えてい
ると認められる真正けん銃を用いて,D21の左腰部及び左大腿部という身体の枢
要部に近い部分に2発の弾丸を撃ち込んでいる。弾丸はD17のほぼ狙いどおりに
命中しているが,そのうちの1発が大腿動脈から約7センチメートルの位置に遺留
されていたことからも明らかなように,銃口の向きがほんのわずかそれていたり,
D21が今少し体を動かしていたら,弾丸が大腿動脈を損傷して短時間のうちに大
量出血したり,あるいは,心臓,肝臓等の重要な臓器を損傷したりする可能性は十
分にあったのであり,D17による銃撃は,D21が死亡する危険性が高い行為で
あったことに疑いの余地はない。本件原付にまたがり,両足で本件原付が動かない
よう足を踏ん張るという不安定な体勢で動く標的を狙うという非常に難易度の高い
狙撃方法であったことも併せ考えれば,その危険性は一層高いものであったといえ,
D17自身もそうした危険性を基礎づける諸事情について十分認識していた。
以上によれば,D17にはD21に対する少なくとも未必的な殺意があったと認
められる。
この点,弁護人らは,D17が,D13組若頭のD4の指示どおりにD21の足
を銃撃しており,D17自身,左太もも以外の箇所に当たる可能性は考えていなか
ったなどとして,D17にはD21に対する殺意はなかったと主張するが,前記の
とおり,D17は,D21死亡の危険性を基礎付ける諸事情を十分認識しており,
D4の指示もそうした事情を前提としたものであることなどに照らし,採用できず,
その他の弁護人らの主張を検討しても,未必的殺意が認められるとの前記判断は揺
らがない。
3被告人と共犯者らとの間の組織的殺人,組織的けん銃発射,組織的けん銃加
重所持の共謀の有無について
⑴認定事実
関係各証拠によれば,被告人の元警察官事件への関与等について以下の事実が認
められる。
ア平成24年4月18日の夕方頃,被告人は,D13組若頭のD4から,
D13組組員のD19やD18らと共に,h1区内のホテル付近道路,用水路,歯科
医院の駐車場に案内され,前記ホテル付近道路にバイクがやってくるのでその運転
を代わり,前記用水路にそのバイクを捨てること,前記歯科医院の駐車場にバイク
を停めておくことなどを指示された。
イ翌19日午前零時頃,被告人は,D18及びD19と合流し,路地に停
められていた本件原付からハンドルカバーやかごを外した。本件原付は,D4の指
示により,D19とD18が盗んだものであるが,鍵がなく,いわゆる直結された
状態となっており,被告人も本件原付を盗品であると認識していた。被告人は,本
件原付を前記歯科医院の駐車場まで運転して運んだ後,h1区内のD13組内D42
組の事務所(以下「D42組事務所」という。)に行き,泊まった。
同日早朝,被告人とD19は,D42組事務所の敷地に停まっていた車(スズキ
ワゴンR)の前後2枚のナンバープレートを別のナンバープレートと付け替えた後,
D19が運転する別の車でD17を迎えに行き,D17を車に乗せて,前記歯科医
院の駐車場へ送り届けた。
そして,被告人とD19は,前記ホテル付近道路へ移動し,待機していたところ,
D21に対する銃撃を終えたD17が本件原付に乗ってやって来たので,被告人は,
D17から本件原付とヘルメットを受け取り,本件原付を運転して前記用水路へ行
き,本件原付からナンバープレートを取り外して,前記用水路に本件原付を投棄し
た。被告人は,ヘルメットとナンバープレートを持って,D18の運転する前記ワ
ゴンRに乗り,a1区内のD13組内D35組の事務所へ行き,同所で前記ワゴンR
のナンバープレートを元に戻した。
その後,被告人は,a1区内の海岸へ行き,前記ワゴンRと本件原付から取り外し
たナンバープレートを海中に投棄した。被告人は,D17から受け取ったヘルメッ
トを前記D35組事務所に忘れてきたことに気が付き,D18と相談の上でD13
組筆頭若頭補佐のD5にその処分を依頼した。
ウ被告人は,元警察官事件発生の当日,報道により事件の発生を知り,こ
れに自身が関与していたことを認識した。
⑵検討
以上の事実関係を前提に,被告人と共犯者らとの間の組織的殺人,組織的けん銃
発射,組織的けん銃加重所持の共謀の有無について検討する。
被告人は,本件犯行の前日から当日にかけて,D19やD18らと共に,D4か
ら,本件犯行当日の行動に関する具体的な指示を受けており,これにより,本件犯
行当日に,盗品である本件原付を使って誰かが何らかの用事を済ませて戻ってくる
こと,被告人は,戻ってきたその人物から本件原付を受け取り,これを別の場所に
投棄すること,この件には少なくともD4,D19及びD18が関与していること
などを認識するに至ったものであり,この段階で,被告人は,本件原付を使用して
D12會(若しくはD13組)のために何らかの犯罪行為が遂行されることを理解
したはずである。
そして,被告人は,本件の約5か月前には,D4の指示によりけん銃を用いた殺
人事件である甲事件に関与させられていたのであり,被告人自身,当公判廷におい
て,甲事件と同じような事件が起きるのではないかと不安に思った旨供述している
ことからすれば,D12會(若しくはD13組)が,組織として,けん銃を含む凶
器を使用して人を襲撃し,殺害するような事態が起こり得ることも当然想定するこ
とができたといえる。
それにもかかわらず,被告人は,D4を始め,立場の近いD19やD18らに事
件の詳細を尋ねることなく,本件原付の投棄等を行っているのであり,前記のよう
な事態をも容認した上で,自らの役割を果たしたものというべきであるから,被告
人には,D12會によるけん銃を使用した組織的殺人の少なくとも未必的な故意が
あったものと認められ,これにつき共犯者らとの共謀も認められる。
4結論
以上のとおり,被告人には,判示第3の組織的殺人未遂罪,組織的けん銃発射罪,
組織的けん銃加重所持罪の共同正犯が成立する。
第5窃盗事件について
関係各証拠によれば,窃盗事件の被害者D24(以下この項においては「被害者」
という。)は,所有していた普通自動二輪車(スズキSW1。以下「本件バイク」と
いう。)に被害品のナンバープレートを付けていたこと,本件バイクは平成9年頃に
エンジンキーやガソリン給油口の鍵穴が壊されて以降動かなくなったので,被害者
は,本件バイクをその前輪にU字ロックをかけた状態で,自身が居住していた団地
の駐輪場に置いて保管しており,被告人も本件バイクが同所に長期間置かれている
のを認識していたこと,平成24年7月中旬頃から8月上旬頃までの間,被告人は,
D4からバイクのナンバープレートを用意するよう指示され,共犯者と共に前記駐
輪場に赴き,共犯者に見張りをさせた上,被告人自身が本件バイクからナンバープ
レートを取り外して持ち去ったこと,被害者は,平成27年度分まで本件バイクの
軽自動車税を支払い続けていたことが認められる。
そうすると,窃盗事件の犯行が行われた平成24年7月中旬頃から8月上旬頃ま
での間の時点において,被害者は,本件バイクを管理支配し,その意思も有してい
たといえるから,本件バイクのナンバープレートを占有していたと認められる。
そして,被告人は,本件バイクが路上等ではなく団地の駐輪場に長期間置かれて
いることを認識しており,犯行の発覚を防ぐために共犯者に見張りまでさせている
のであるから,被告人が犯行時点でU字ロックの存在に気が付かなかったと供述し
ていることを踏まえても,被告人は,本件バイクが団地に居住する者の支配管理下
にあることについて,少なくとも未必的に認識していたと認められる。
したがって,被告人には判示第4の窃盗罪が成立する。占有離脱物横領罪が成立
するにとどまる旨の弁護人らの主張は採用できない。
第6乙事件について
1乙事件の概要
平成24年9月7日午前零時58分頃,a1区内の繁華街でラウンジ「D43」を
経営するAが,自宅マンション駐車場において何者かに刃物で襲われ,さらに,こ
れを制止しようとしたタクシー運転手Bも同様に刃物で襲われるという事件が発生
した。この乙事件に関しては,事件発生時刻頃,前記マンション付近で不審な動き
をする車(スズキワゴンR)が目撃されていること,複数のD13組組員がAの行
動確認や前記犯行使用車両等の入手及び投棄等に関与していたことなどが判明して
おり,想定される犯行動機やD12會D13組の指揮命令系統の実態など,関係各
証拠から認められる事実を総合すれば,乙事件は,D13組がその縄張りとする繁
華街の飲食店等からのみかじめ料収入を確保するなどのために威力を誇示し,D1
3組の不正権益を維持・拡大する目的で,組織により,D13組の活動として,D
13組組長のD16の指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って
遂行されたものと認められる。
2被告人と共犯者らとの間の組織的殺人,不正権益・維持拡大目的殺人の共謀
の有無について
⑴認定事実
関係各証拠によれば,被告人の乙事件への関与等について以下の事実が認められ
る。
ア平成24年8月中旬頃,被告人は,D13組若頭のD4から,軽自動車のナン
バープレートを用意するよう指示され,同月23日頃,D12會親交者と共に,a1
区内の路上に放置されていた軽自動車からナンバープレートを取り外して別の場
所に保管した。
イ同年9月6日,被告人は,D4から,D42組事務所の裏の倉庫に停め
てある車に,用意した前記ナンバープレートを取り付けた上で,その車をa1区内の
団地の駐車場に運ぶよう指示されたほか,プリペイド式の携帯電話を渡されて,到
着したらその電話で指定された番号に連絡をすることや,車から取り外したナンバ
ープレートとその携帯電話は処分しておくことを指示された。
被告人は,D42組事務所に行き,同倉庫に停まっていた車(スズキワゴンR)
の前後2枚のナンバープレートをあらかじめ用意しておいた前記ナンバープレート
と付け替えた後,前記ワゴンRを運転して,D4に指示された前記団地の駐車場に
向かったが,その途中で,D4から渡されていた携帯電話に電話がかかり,相手の
人物(D13組組織委員のD25)から到着を催促された。
被告人は,前記ワゴンRを前記団地の駐車場に停めた後,前記ワゴンRにもとも
と付いていたナンバープレートと前記携帯電話をc2区内の海中に投棄した。
ウ被告人は,乙事件発生の当日,報道により事件の発生を知り,これに自
身が関与したことを認識した。
エ同月7日から8日にかけての夜,被告人は,D4から指示を受け,D1
3組組員のD18と共に,前記ワゴンRをc2区内の海の岸壁に運搬し,車内に消火
剤をまいた上で海中に投棄した。
⑵検討
以上の事実関係を前提に,被告人と共犯者らとの間の組織的殺人,不正権益維持・
拡大目的殺人の共謀の有無について検討する。
被告人は,本件犯行の前にD4から指示を受けて,軽自動車のナンバープレート
を用意していたところ,さらに,犯行前日には,D4から,D42組事務所の倉庫
に保管されている車に前記ナンバープレートを付け替えた上で,その車を指定され
た場所まで運び,その車から取り外したナンバープレート等を処分するように指示
されているのである。被告人は,これまで認定したように,乙事件の約10か月前
には甲事件に,約5か月前には元警察官事件にそれぞれ関与させられている上,被
告人自身,当公判廷において,何らかの犯罪行為をしようとしていると思った旨供
述していることにも照らすと,被告人は,甲事件や元警察官事件などと同様に,D
12會若しくはD13組組員が複数人関与して組織のために人を襲撃し,殺害する
ような事態があり得ることを当然に想定することができたといえる。
それにもかかわらず,被告人は,D4らに事件の詳細を尋ねることなく,犯行使
用車両の運搬等を行っているのであり,前記のような事態をも容認した上で,自ら
の役割を果たしたものというべきであるから,被告人には,D13組による組織的
殺人の少なくとも未必的な故意があったものと認められ,これにつき共犯者らとの
共謀も認められる。
一方で,前記認定のように,乙事件は,D13組がその縄張りとする繁華街の飲
食店等からのみかじめ料収入を確保するなどのために威力を誇示し,D13組の不
正権益を維持・拡大する目的で,組織により,D13組の活動として,D16の指
揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務分担に従って遂行されたものと認めら
れるところ,本件証拠上認定できる事件への関与の在り方,D12會若しくはD1
3組内における地位,D13組内の指揮命令系統の実態等からすれば,D16,D
4,D7に加え,少なくともD6,D5も前記目的を有していたと認められる。し
かしながら,被告人についてみると,被告人のD13組内における序列は高くなく,
本件犯行の目的や襲う相手なども具体的に知らされていない上,被告人は,D13
組のみかじめ料収入の実態等についても詳しく知っていたとは認め難く,また,こ
れまで関与した甲事件,元警察官事件等についてもD12會若しくはD13組の不
正権益維持・拡大が目的であることが明らかとまではいえないのであり,そうする
と,被告人が,本件犯行に関与した際,これがD12會若しくはD13組の不正権
益の維持・拡大のためになされるものであったと認識していたとはいえず,被告人
がD13組の不正権益を維持・拡大する目的を有していたとは認められない(なお,
不正権益維持・拡大目的殺人の罪における不正権益維持・拡大目的は刑法65条に
いう「身分」に当たると解されるから,被告人については,不正権益維持・拡大目
的殺人未遂罪の共同正犯が成立するが,刑法65条2項により殺人未遂罪の刑を科
すことになる。)。
ところで,本件においてはAのみならずAをタクシーで送迎していたBも襲撃さ
れているところ,Bは,Aが実行犯により襲撃された際に,それを制止しようとし
たために襲われたものであって,団体の活動として,かつ,団体の不正権益維持・
拡大目的の犯行の一環として被害を受けたというべきであり,被告人にとってもB
が攻撃されたことがおよそ想定の範囲外の事態とまではいえないから,被告人には
Bに対する組織的殺人未遂,不正権益維持・拡大目的殺人未遂罪も成立する(Aに
対する犯罪と同様,不正権益維持・拡大目的殺人未遂罪については刑法65条2項
により殺人未遂罪の刑を科すことになる。)。
3結論
以上のとおり,被告人には,判示第5の組織的殺人未遂罪,不正権益維持・拡大
目的殺人未遂罪の共同正犯が成立する。
第7丙事件について
1丙事件の概要
平成24年9月26日午前零時38分頃,D13組組長付のD28が,a1区の繁
華街で営業する「クラブD44」の営業部長を務めるD30を,その自宅マンショ
ン1階出入口前において,刃物で襲う事件が発生した。関係各証拠によれば,丙事
件に関しては,D13組組員やその知人がD30の自宅マンション周辺の状況を調
べるなどしたこと,D13組組織委員長のD6,D13組組織委員のD27及びD
28は,D13組若頭のD4が用意し,盗難ナンバープレートが取り付けられた車
(スズキエブリイ。以下「エブリイ」という。)でD30の自宅マンション周辺に赴
き,D28とD27が前記マンションに隣接するマンションの駐車場でD30の帰
宅を待ち伏せた上で,D28が犯行に及んだことが認められる。
2被告人と共犯者らとの傷害の共謀の有無について
⑴認定事実
関係各証拠によれば,被告人の丙事件への関与等について以下の事実が認められ
る。
ア平成24年9月中旬頃,被告人は,D4から指示を受け,D13組組員
のD18と共にc2区内に放置されていた軽自動車からナンバープレートを取り外
し,別の場所に保管した。
イ同年9月25日夕方頃,被告人は,D4及びD18と共にa1区内のスー
パーマーケットの駐車場に行き,あらかじめD4が親交者に用意させていたエブリ
イを受け取った。引き続き,被告人及びD18は,D4から,a1区内の砂利の駐車
場とD45港の岸壁を案内され,その日の夜にエブリイを前記砂利の駐車場に運び,
同所に来る人にエブリイを渡すこと,その引渡し前にエブリイのナンバープレート
を用意したナンバープレートに付け替え,車体に貼られているステッカーを剥がす
こと,その後エブリイが戻ってきたら,車内の荷物を前記D45港の岸壁から海に
捨て,エブリイのナンバープレートを元のナンバープレートに戻した上で,前記ス
ーパーマーケットの駐車場に返しておくことなどを指示された。
その後,被告人は,D18と共にエブリイに貼ってあるステッカーを剥がした上,
エブリイを前記砂利の駐車場に移動させ,あらかじめ用意しておいた前記ナンバー
プレートをエブリイに付け替えた。
被告人及びD18は,前記砂利の駐車場で待機していると,D6と目出し帽をか
ぶったD27及びD28が黒色軽自動車に乗ってやって来たため,D6らにエブリ
イを渡し,前記黒色軽自動車に乗って待機した。
しばらくすると,D6らがエブリイに乗って戻ってきたため,被告人とD18は,
D6らから,服や包丁等が入ったバッグが積まれたエブリイを受け取り,そのナン
バープレートを元のナンバープレートに戻した上で,エブリイに乗って前記D45
港の岸壁へ行った。被告人は,エブリイに積まれていたバッグ及びバッグ内の包丁,
エブリイに付けてあったナンバープレートを海中に投棄した。
⑵検討
被告人は,丙事件の前日から当日にかけて,D4から,エブリイを運んでナンバ
ープレートを付け替えるといった指示を受けた時点で,被告人自身,当公判廷にお
いて,また何をするのか不安だったと述べているように,過去の複数の襲撃事件に
関与した経験等から,D12會若しくはD13組の組員が人を襲撃し,負傷させる
ような事態が起こり得ることも当然想定することができたといえる。それにもかか
わらず,被告人は,D4やD18に事件の詳細を尋ねることなく,犯行使用車両を
実行役に引き渡すなどしているのであり,前記のような事態をも容認した上で,自
らの役割を果たしたものというべきであるから,被告人には傷害の少なくとも未必
的な故意が認められ,これにつき共犯者らとの間で共謀も認められる。
3結論
以上のとおり,被告人には,判示第6の傷害罪の共同正犯が成立する。
第8弁護人らの主張に対する判断
弁護人らは,甲事件,元警察官事件,乙事件及び丙事件について,被告人は,D
4から具体的な犯行に関する指示等を受けておらず,各犯行を予見することはでき
なかったとか,D12會の中でも末端の構成員にすぎない自分の行動と過去にD1
2會が起こした組織的犯罪とを関連付けて想像することはできなかったなどとして,
共犯者らとの共謀は認められないと主張している。
しかしながら,D4から具体的な犯行に関する指示等がなかったとしても,被告
人が,D12會組員が行動確認をしていた人物に危害を加える事件を起こすことに
つながる種々の事情を認識していたことは,それぞれの事件の判断の中で認定,説
示したとおりであり,そうした認識は,D4の指示で実際に数々の襲撃事件に関与
させられるたびに強くなっていったことが優に推察される。また,前記のとおり,
被告人は,D12會の複数の組員がD12會という組織のためにけん銃を使用した
事件を起こしていることを見聞きしていた上,被告人の認識によっても,組織のた
めに事件を起こして服役していた者は,必ずしも組長や若頭といった組織の上位の
者に限られなかったというのであるから,被告人が,自らの行動とD12會組員に
よる組織的犯罪とを結び付けることができなかったとはいえない。
したがって,弁護人らの主張は採用できない。
第9結語
以上の次第で,判示第2ないし第6の各犯罪事実を認定した。
(量刑の理由)
第1本件の概要
本件は,D12會の組員である被告人が,D12會の複数の組員らと共謀して4
件の襲撃事件(甲事件・判示第2,元警察官事件・判示第3,乙事件・判示第5,
丙事件・判示第6)を敢行したほか,D12會の組員と共謀して女性を鉄パイプ様
の物で殴り怪我をさせ(判示第1),D12會親交者と共謀して普通自動二輪車のナ
ンバープレート1枚を盗んだ(判示第4)という事案である。
第2個別の犯行の犯情について
1量刑上重視すべき甲事件,元警察官事件,乙事件,丙事件についてみると,
いずれの犯行もD12會の幹部組員やD13組の複数の組員らが,組織の指揮命令
系統に従い,細分化された役割に沿って,あらかじめ被害者らの行動を綿密に確認
するなどして襲撃計画を練り上げた上,犯行に使用する車両等を盗むなどして調達
したり,凶器や犯行時に着用する着替え用の衣類等を用意したりするなどの周到な
準備を重ねて実行に及んだという,組織性・計画性が際立った犯行である。
2甲事件の犯行態様は,38口径の真正けん銃により,近距離から被害者を目
掛けて弾丸2発を発射するという凶悪なものである。
この犯行により,1発の弾丸が被害者の頚部に命中し,被害者を絶命させており,
結果は余りに悲惨かつ重大なものというほかない。このような形で命を奪われた被
害者の無念さは察するに余りあり,突然被害者を失った家族や知人らの悲しみや憤
りは計り知れない。
甲事件の犯行動機は必ずしも明らかではない面があるものの,D12會やその組
員の意に沿わない人物を排除するという卑劣で反社会的な目的からの犯行と推察さ
れ,およそ酌量の余地はない。
被告人は,犯行前に複数回にわたり被害者方やその周辺に赴いて,被害者の使用車
両を追跡するなどし,犯行当日には被害者が乗る車が被害者方近くのインターを通
過するや,その旨共犯者に連絡して知らせるなど,犯行遂行のために重要な役割を
果たしている。
3元警察官事件の犯行態様は,25口径の真正けん銃により,至近距離から被
害者の左腰部及び左大腿部に弾丸2発を撃ち込むという凶悪なものである。
この犯行により,被害者は,約1か月間の入院及び通院加療を要する傷害を負い,
現在でも足の可動域に制限が生じるなど,日常生活に支障をきたしている。多大な
精神的苦痛を与えている点も含め,被害結果は重大といえる。
元警察官事件は,長年D12會に関係する事件の捜査に従事してきた被害者に対
して報復し,D12會の威力を見せつけるために敢行されたものと推察され,警察
権力への挑戦という意味合いを含む極めて反社会性の強い犯行である。
被告人は,犯行使用車両である原動機付自転車の運搬や処分を担っており,相応
に重要な役割を果たしている。
4乙事件の犯行態様は,刃体の長さ10センチメートル以上ある鋭利な刃物で,
Aの顔面を切り付け,臀部を突き刺した上,これを止めに入ったBに対してもその
左側頭部等を切り付けたというものであり,いずれの犯行も,受傷部位がずれてい
れば総頚動脈等の動脈を損傷させるおそれが高い危険なものであった。
この犯行により,被害者Aは,入院加療約114日間を要する重傷を負い,退院
後も長期間にわたり通院を余儀なくされた。現在でも顔面には傷跡が残った上,後
遺症が残存し,日々の生活にも不安を抱き続けており,著しい精神的苦痛を受けて
いる。被害者Bは,入院加療約14日間を要する傷害を負い,約2か月間仕事を休
まざるを得なくなっており,多大な精神的苦痛を受けている。
乙事件は,暴力団立入禁止の標章の掲示などの暴力団を排除する活動に対抗して,
飲食店等からのみかじめ料収入を引き続き確保すべく,D13組の威力を誇示する
などの目的から,飲食店の女性経営者を標的として敢行されたものと推察されると
ころ,女性であっても容赦なく襲撃し,目的遂行のためにはその場にいたタクシー
運転手をも襲撃していることからも,反社会的で非情な犯行というほかない。
被告人は,ナンバープレートを用意した上,犯行当夜には,ナンバープレートを
付け替えた犯行使用車両を運搬しており,相応に重要な役割を果たしている。
5丙事件の犯行態様は,被害者の臀部や大腿部を鋭利な刃物で立て続けに3回
力を込めて突き刺すという手荒なものであり,凶器の刃物には深く刺さらないよう
にガムテープ様のものが巻かれていたことを考慮しても,身体に対する危険性は相
当に高かったといえる。
この犯行により,被害者は,入院加療15日間を要する傷害を負い,退院後もし
ばらくは患部に痛みを感じる生活を余儀なくされ,多大な精神的苦痛も被っている。
丙事件は,D13組が標章制度等の暴力団追放運動に対する反発から,その威力
を誇示する意図で敢行したものと推察され,卑劣で反社会的な発想に基づく犯行と
いわざるを得ない。
被告人は,ナンバープレートを用意し,これを犯行使用車両に取り付けるなどし
て実行役に引き渡すなどして,相応に重要な役割を果たしている。
6さらに,傷害事件については,被告人は,組織の上位者である共犯者から指
示され,襲撃現場を下見するなどした上,車から降りてきた被害者に対して,その
左大腿部や右側腹部等をあらかじめ用意した鉄パイプ様の棒で複数回殴打しており,
計画的で危険な犯行といえ,傷害結果も重い。
第3量刑判断
以上を踏まえて被告人の量刑を検討する。
被告人は,甲事件,元警察官事件,乙事件,丙事件で重要な役割を果たし,また,
傷害事件では実行役を担っており,これらの犯情を併せ考えると,その刑事責任に
は非常に重いものがあるというべきである。
一方,被告人は,犯行の全貌や目的の詳細を教えられることもなく,組織の上位
者から断片的な指示のみを与えられて各事件に関与したものであり,いわば,D1
2會やD13組という暴力団組織の歯車の一つとして利用されたという面があり,
被告人の刑事責任は,各犯行の立案者,指示役等の上位者や実行役に比較すれば,
数段軽いものということができる。
また,被告人は,一部の犯行においては自身の認識等を争っているものの,本件
各犯行の実行あるいは関与を概ね認め,共犯者らの行動等も含めて知っている事実
を詳細に供述しており,特に,甲事件,乙事件については逮捕前から自身の関与を
供述するなどして事案の解明に貢献し,傷害事件については自首が成立している。
加えて,被告人がD12會を脱退した上で,各犯行に対する強い後悔と反省の弁を
述べるとともに,被害者らへの謝罪の気持ちを表し,窃盗事件については被害弁償
を申し出ていること,本件と刑法45条後段の併合罪の関係にある前記確定裁判の
審理が本件の審理と同時に行われた場合との刑の均衡等も考慮した結果,被告人を
懲役19年に処するのが相当であると判断した。
(求刑懲役20年)
平成30年10月18日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官足立勉
裁判官松村一成
裁判官池上恒太

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