弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
1被告津市は,原告に対し,金170万円及びこれに対する平成14年12
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告の被告津市に対するその余の請求及び被告A,被告B並びに被告Cに
対する請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,被告津市に生じた費用の20分の3と原告に生じた費用の8
0分の3を被告津市の負担とし,その余を全部原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求の趣旨
被告らは,原告に対し,連帯して金1100万円及びこれに対する平成14
年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,津市立の小学校に在籍していた原告が,被告津市(以下「被告市」
という被告A校長被告B担任被告C音楽担当に対し以。),(。),(。),(。)(
下,被告A,被告B及び被告Cを総称する時は「被告Aら」という,被告,。)
,,Cが音楽の授業中に大音量で音楽を流したことを抗議した原告を被告Aらが
物置部屋に閉じこめたり,クラスから孤立させようとしたこと及びその結果心
的外傷後ストレス障害(以下「PTSD」という)及びデスノス(DESN。
OS。DisorderofExtremeStressNotOtherwiseSpecified:その他に特定
しようのない極端なストレス性障害。以下「DESNOS」という)に罹患。
させたことにつき,被告市については国家賠償として,被告Aらについては共
同不法行為に基づく損害賠償として,慰謝料及び弁護士費用合計1100万円
の損害賠償及びこれに対する不法行為後の平成14年12月1日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求した事案である。
1争いのない事実
(1)原告は,平成3年▲月▲日生まれで,平成10年4月,三重県津市立甲小
学校(以下「本件小学校」という)に入学し,平成14年当時は,本件小。
学校5年1組(以下「本件クラス」という)に在籍していた。。
被告市は,本件小学校を設置,管理する地方公共団体であり,被告Aは,
平成14年9月当時,本件小学校の校長であり,被告Bは,当時,本件クラ
スの担任教諭であり,被告Cは,当時,本件小学校の音楽教諭であり,本件
クラスの音楽の授業を担当していた。
(,,(2)平成14年9月13日以下特に断らないかぎり年は平成14年であり
年号を省略する,被告Cは,本件クラスの音楽の授業において,教科書。)
に掲載されている曲のCDを大きな音量で3回繰り返しかけた(以下「本件
授業」という。その際,原告ら2名の女子児童が「頭が痛い」と訴えて,。)
保健室に行き,しばらく休養をとった。
同日昼休み,児童らが被告Bに対し,音楽の授業について,音がうるさか
ったと申し立てたので,被告Bは,その理由を聞くことを約束した。
(3)同月15日午後7時20分ころ,被告B,被告A及び被告Cは,原告宅を
訪問し,本件授業の状況を説明して,謝罪したが,授業の意図は説明しなか
った。
(4)同月17日朝,被告Cは,被告Bが同席するところで,児童に対し,本件
授業について話をした。
,,。同日夜本件小学校において本件授業に関する臨時保護者会が開かれた
(5)11月27日以降,原告は,1日を除き,卒業するまで本件小学校に登校
しなかった。
2争点
(1)被告Aらは,原告を監禁したり,本件クラスで孤立させようとしたりする
などの不法行為を行ったか。
,,。(2)原告は上記不法行為によりPTSD及びDESNOSに罹患したのか
(3)被告Aらは,個人として不法行為責任を負うのか。
3争点についての当事者の主張
(1)争点(1)被告Aらの行為について
【原告の主張】
ア9月24日の件
被告Bは,12時30分ころ「30分だけだから」といって,原告を,
ゆとり教室に連れていった。ゆとり教室には,被告Cがいた。原告は,被
告Cに対し,なぜ大きな音量でCDをかける本件授業をしたのか問いただ
したが,被告Cから明確な回答はなかった。
被告B及び被告Cは,原告を職員室の斜め向かいにある物置部屋に連れ
ていった。後に,被告Aも物置部屋に入ってきた。原告は,奥においてあ
ったソファーに座らされ,被告Aらに取り囲まれるような状態であった。
原告は,被告Cに何度も本件授業の理由について聞いたが,被告Cは「い
いかなあと思って「聞こえやすいかなあと思って」などと曖昧な答え。」。
に終始し,やがて,原告の質問に無言で答えなくなった。被告Bも,黙っ
て見ているだけであった。原告は,腹が立ち,泣きながら「謝って済む問
題ではない」などと被告Cに抗議をした。原告が何度かトイレに行きた。
いと申し出ても,被告Bは「もうすぐ終わるで,我慢しな」と言って,。
原告の肩を押さえて無理矢理座らせたり「泣くな」と言って顔を近づ,。
けてくるなどした。
原告は,薄暗く不気味でカビ臭い物置部屋に閉じこめられ,被告Aらに
取り囲まれて座らされたことに恐怖感を感じ,物置部屋から出ようと,泣
きながら「話すことはない」と言って逃げ出そうとした。しかし,被告。
Bが無理矢理原告の肩をつかんで座らせた。被告Aは,原告に対し「原告
は親に頼りすぎ。自分一人でできる」などと説教をし,本件授業につい。
て,これ以上親に言わないよう口止めをされた。結局,原告は,午後4時
30分過ぎまで,物置部屋に監禁状態にされた。
イ9月25日の件
,,,授業が午前中のみであったので原告が帰ろうとしていると被告Bは
「ちょっと話をしたいことがあるからおいで」と言って,原告の手首を。
掴み,物置部屋に連れていこうとした。原告が「離して」と言うと,被。
告Bは,物置部屋へ連れていく途中の階段の踊り場辺りで,急に原告の手
首を掴んでいた手を離し,原告のランドセルを後ろから押したため,原告
は,階段から落ちそうになった。被告Bは,物置部屋に行く途中に職員室
に立ち寄り,そこにいた被告C及び廊下にいた被告Aに対し,原告がその
旨述べていないにもかかわらず「原告が話があるというので来てくださ,
い」と声をかけ,物置部屋に呼んだ。物置部屋は,前日と同様に,カー。
テンが閉められて薄暗く,カビのにおいがしていた。
被告Aらは,前日と同様,恐い顔をして原告を囲みながら,原告に対し
「幼稚である」と説教をし「音楽の授業のことを親に言うな「言い。,。」
,。」,,たいことがあれば先生に言えと話をしたり逆に何を言うでもなく
長い間沈黙をしていたりするなどした。被告A及び被告Bは,原告の方を
ちらちら見ながらひそひそ話をしたりもした。被告Bは,原告が薄暗い不
気味な物置部屋に閉じこめられ,被告Aらに囲まれた恐怖で泣いていた様
子を見て,原告の横に座って肩を抱いたり,顔をすれすれに近づけながら
,「。」。「。」顔をのぞき込み泣くなと言ったりした原告が恐怖感から帰る
と言っても,被告Bらは,原告を解放しようとせず,原告がトイレに行き
たいと言っても,許さなかった。被告Aらは,原告を午後4時ころまで監
禁した。
ウ10月11日の件
本件授業以降,初めて,本件クラスの音楽の授業が行われた。音楽の授
,,,,業は4限目であったが被告Bは2限目の授業後の休み時間に原告を
物置部屋に連れていった。物置部屋には,被告Cもいた。被告B及び被告
Cは,原告に対し,その日に予定されていた音楽の授業に出るかどうかを
尋ねた。原告は,母のDから「音楽の授業には,出ても出なくてもよい,
と学校から連絡があった」と聞いていたこと及び音楽室には入ることに。
さえ嫌悪感を感じていたことから「出ない」と答えた。原告は,被告,。
B及び被告Cによって,薄暗い物置部屋に入れられて監禁され,帰りたい
と言っても帰らせてもらえなかったことなどから,その時も恐怖感で涙を
抑えるだけで精一杯の状態であった。被告B及び被告Cは,原告に対し,
「これからの音楽の授業はどうするの」と何度も尋ね,音楽の授業に出。
るよう求めてきた。
音楽の授業が始まるころ,被告Cは,物置部屋を出ていったが,被告B
は,なお,原告を解放せず,原告に近づき,顔を近づけては「どうすん,
の,これから」と言い,原告の肩を抱いたりした。原告は,二人きりで。
狭く暗い相談室に入れられていたことに恐怖感を感じていたとともに,被
告Bが執拗に原告に近づいてくることに不快感を感じながらも「授業に,
。」。,,はいかないと涙を流しながら答え続けた被告Bは4限目の授業後
原告を解放した。
エ10月25日の件
4限目の授業が音楽から道徳に変更された。被告Bは,原告を黒板の前
に立たせ,本件クラスの児童に向かって本件授業のことを許すようにと話
し始め「原告みたいに人に食ってかかることは良くない。そんなことを,
していると人から嫌がられる」と言って,原告に対し,本件クラス全員。
「。」。,,,の前で謝れと言った原告は被告Bから全員の前に立たされて
原告が悪いと話をされ,さらに「謝れ」と怒られることが理解できず,。
恥ずかしさとなぜ自分だけが悪者のように言われなければならないのかと
いう腹立たしさで一杯になった。
4限終了後,原告は,家に帰ろうと,ランドセルを持って階段を降りて
いったところ,途中で,原告は,被告Bに偶然に会った。原告が,そのま
ま行き過ぎようとしたところ,被告Bは,原告の肩を掴むなどして原告が
帰るのを止めようとした。原告は振り払って帰宅しようとしたところ,被
告Bは,原告の後を追ってきた。靴箱付近で,被告Bは,後ろから原告の
両手首を掴んで内側に縛り上げ,痛さと恐怖感で暴れる原告をさらに両方
の脇の下から手を突っ込んで腕を上に上げ,羽交い絞めにするなどした。
原告は,何とかして学校を飛び出し帰宅したが,原告の腕には,被告Bか
ら掴まれた跡が残っていた。
オ10月28日の件
同日より前の授業中に原告が無駄話をしている男子児童を小声で注意し
たところ,被告Bが「うるさいよ。静かにしなさい。何をしゃべっている
のですか」と有無を言わせず原告を叱責したため,原告は,その理不尽。
さに泣きながら帰宅した。
同日,授業中に男子児童がふざけていた際,被告Bが他の女子児童に対
し「なぜ,注意をしないのか」と叱責した。原告は,被告Bの一貫しな。
い対応に納得できず抗議した。
カ11月8日の図工の時間での件
1,2限に図工の授業があった。授業では画用紙に液体紙粘土でティッ
シュをつけ,立体的な絵を作る作業をすることとなっていた。同日ころ,
,,,原告はストレスから両手のつめを無意識に噛むようになっていたため
原告のつめは全て深爪のようになり,指の皮も第1関節のあたりまでめく
れて赤く爛れ,血が出ている状態であり,手を洗うことも,箸を持つこと
もできない状態であった。母Dは,保健室の養護教諭を介し,被告Bに対
し,その旨伝え,給食の時に,特別にスプーンとフォークを使わせてもら
えるよう申し出ていた。
原告は指が痛くて図工の作業ができないことから被告Bに対し手,,,「
が痛いし指がぐじゅぐじゅやで今日はやれやん」と言って,見学をした。
い旨申し出た。被告Bは,原告の手が赤く爛れ,箸も持てない状態である
ことを認識しており,また,液体紙粘土は指に付くと傷が大変しみるもの
であり,短時間で固まり容易には取り除くことができないことも認識して
いた。しかし,被告Bは,嫌がる原告に対し「はよ,つくりなさい」,。
と怒りながら,無理矢理作業をさせた。原告は手指の酷い痛みに耐えなが
ら長時間,作業を行わざるを得なかった。
キ11月15日の件
,,,音楽の授業があったが原告はまだ音楽の授業に出たくなかったので
友人に連れられ一旦音楽室に入ったものの,チャイムが鳴るとすぐに音楽
教室を出た。原告が音楽教室を出てクラスの教室に戻ったところ,教室の
前に被告Bが立っており,原告に音楽教室に戻るように命じた。原告は,
被告Bを無視し,ランドセルに荷物を入れて帰ろうとすると,被告Bは,
原告を帰らせまいと,ランドセルの蓋の部分を掴んで引っ張り回した。原
告は,ランドセルを取られないように必死に掴んだので,両者の間で,約
30分間ランドセルを引っ張り合う状態が続いた。これにより,原告のラ
。,,,ンドセルの革がめくれてしまったしかし被告Bは謝罪することなく
めくれたランドセルの革を窓から捨てた。
原告は,帰宅前に友人に給食袋を渡そうと,一旦,音楽教室に戻った。
音楽教室から何人かの児童が出てくるのを見た原告は,音楽の授業が終わ
っているものと思い,入り口のドアから友人に声を掛けた。それを見た被
告Cは「まだ,挨拶をしていない」と言って怒り出し「いい加減にし,。,
なさい」と言いながら原告を叩いた。。
ク11月22日の件
被告Bは,本件授業以後,本件クラスの児童らに対し「原告ってどん,
な子?」など聞いてまわり「原告と遊んだらあかん」などと言って,,。
原告を本件クラスから孤立させようとしていた。
同日の道徳の時間,被告Bは,原告も受けている授業であるにもかかわ
らず本件クラスの児童全員に対し原告一人だけが悪いと言い原,,「。」,「
告について行ってはいけません「原告の言うことを聞いてはいけませ。」
ん」と話した。原告は,被告Bに,本件クラスの児童全員の前で,原告。
が悪いと責め立てられ「原告と遊んではいけない」などと言われた。,。
その間,原告は,じっと我慢して座っていた。
夕方,被告Bから母Dに電話があった。被告Bは「何でも原告の言う,
ことを聞いたり,ついていってはいけない,ということ言いました」と。
話した。母Dは,他の大勢の児童の前でそのような発言をする被告Bに不
信感を抱いた。
ケ11月25日の件
原告は,3限目の授業中,気分が悪くなり吐き気がしてきた。原告は,
被告Bに対し「気分が悪いから家に連絡してほしい」と何度も懇願し,。
た。しかし,被告Bは,原告を無視し続け,5限目が終了するまで,親に
連絡を取らず放置していた。原告は,母Dから「しんどくなったら帰して
ください,と先生に言ってある」と聞いていたことから「お母さんに。,
聞いとらんの」と尋ねたところ,被告Bは,ようやく母Dに連絡する旨。
答えた。結局,被告Bが母Dに連絡し,母Dが原告を迎えにきたのは,他
の児童が授業を終えて帰宅するわずか約10分前であった。原告は数時間
も吐き気に耐えながら自分の席に座っていた。原告が帰宅したときには,
約38度の熱が出ていた。
コ小括
原告は,以上の経緯により,10月ころから寝るとうなされたりおねし
ょをしたりするようになり,さらに手の爪や皮をただれるまで噛むように
。,,,なった11月26日を最後に原告は本件小学校に登校できなくなり
12月2日には,血尿を出した。それ以降,原告は,毎日のように「先,
生が出てくる!追いかけてくる!」などと怯えた様子で泣き叫んでは暴れ
だし,時折嘔吐するといった発作を起こし「死にたい」と叫んだり,,。
,。,,実際階段の踊り場から飛び降りたこともあった12月24日原告は
PTSDに罹患していると診断された。原告は,被告Bや被告Aに似た男
性を見たり,似た声を聞くと,突然発作を起こすようになった。
以上のように,被告Aらは,原告を不当に監禁したり,クラスの中で孤
立するようにしたりするなどして,原告を身体的にも精神的にも追いつめ
て,原告をPTSDやDESNOSに罹患させたもので,かかる行為は不
法行為に該当する。被告A,被告B及び被告Cは,互いに意思を通じて,
かかる不法行為に及んだものであるから,意思及び行為が共通しており,
共同不法行為となる。
【被告Aらの主張】
ア被告Cが本件授業において,CDを普段より大きな音量でかけたのは,
学習指導要領の記載事項や夏の音楽研修の経験から,音量を上げて音楽を
体全体で音楽を体感することが重要であると考えたことによる。本件授業
以前に他のクラスで同じような大音量で音楽をかける授業をしたが,児童
はもちろん保護者からも苦情は出なかった。
イ9月24日の件について
原告は,被告Bに対し,同月20日の話合いでは納得できず,もっと被
告Cと話し合いたいと申し出たことから,同月24日の昼から「ゆとり教
室2」にて,原告と被告Cとが話合いをすることになった。被告Bは,同
席したが,話合いに入らず両者のやりとりを見守っていた。このとき,被
告Aは同席しなかった。職員室の斜め向かいにあるのは相談室であるが,
相談室はこの日は使っていない。
原告は,持ってきた手紙を基に質問し,被告Cが答える形で話合いが始
まった。原告は,強い口調で質問をしているうちに感情が高ぶり,次第に
興奮してきて大声で泣きしゃべりの状態になり,怒り出して椅子に座った
まま机を足で前に押し出したり,立ち上がって動き回ったり,椅子を投げ
。,つけんばかりの気配を示したりという精神不安定な状態となった原告は
被告Cに対し「気が付かんだで,ごめんなさいで済むのか!「あんた,,」
そんなんで,よう教師やっとるなあ「もう,あかんわ,こんな先生い。」
や!」などと怒って立ち歩き回ったり「私は力強いんやぞ。おまえの腕,
の1本や2本折ったれるんやー」と人差し指を突き立てて詰問したりし。
た。被告Cは原告をなだめ,被告Bも何度も原告を落ち着かせるようとし
た。被告Cは,原告が落ち着くと,音量のことの説明と謝罪をした上で,
原告が一生懸命やる気持ちがあるのなら一緒に楽しい音楽になるようにが
んばっていこうなどという意味のことを言ったが,また,原告が怒鳴りだ
して中断するということが何度も続いた。他の児童もこのときの状況を目
撃しており,被告Bも被告Cも何とか原告の興奮状態を鎮めようと必死だ
。,,。った原告が話合いの間トイレに行かせてほしいと言ったことはない
午後4時ころ原告が落ち着いた状態になったので,被告Cが昇降口まで見
送った。
ウ9月25日の件について
原告が自分の気持ちを被告Aに伝えたいというので,被告Bは,20分
休みに被告Aと原告が話をできるようにして,午前10時25分ころから
約30分間,相談室で被告Aと被告Bが原告の話を聞いた。原告は「C,
先生がわざと大きな音を立てて,びっくりさせようとした」など今まで。
いっていることを繰り返し「嘘をついている者の味方をするのか!「校,」
長も嘘つきや!」と怒鳴り散らし,泣きわめいて座ったままで足でテーブ
ルを蹴ったり,押し出したりするなど感情的になった。被告Bは,原告の
左隣に行き肩にそっと手をあて「校長先生は聞いてくれるから落ち着い
て」となだめたり「ちょっと待って。深呼吸をして泣き止んだら話し。,
てごらん」と声をかけたりした。この間,原告にトイレに行くことを許。
さなかったなどということはなかった。
被告Aは,午前中に公務で出張する必要があり,話合いの途中で退席を
した。また,被告Aと被告Bは,午後2時05分から講師を迎えての校内
研修会に参加しており,原告を午後4時まで監禁したなどということはあ
り得ない。この日は,被告Cは体調が思わしくなく,午後から年次有給休
暇を取得しており,原告と話したことはない。
エ10月11日の件について
原告は,10月11日の音楽の授業に出席せず,その間,教室でドリル
学習をし,その様子を被告Bが見守っていた。被告Cは,あらかじめ,被
告Bから原告は音楽の授業に出たくないといっていると言われており,そ
の日の3限目は,3年生の音楽の授業をしていたのであるから,3限目の
時間帯に原告と話をする時間などなく,実際に話をしたことはない。被告
Bは,原告から母Dが「音楽の授業には出たくなかったら出なくてもよ
い」と言っていると聞いて,教育上問題であるから,昼休みに被告Aか。
ら原告に話をしてもらおうと考えた。その旨を原告に話し,校長室で被告
Bが同席して被告Aから原告に「音楽の授業には出なければいけない」。
と話をしてもらった。しかし,原告は「C先生と音楽のことで話し合った
がどうしても納得できない」と不満を言うので,被告Aは「繰り返し。,
自分の思いを言っていかなければいけない。がんばれ」と話した。原告。
も「子どもが努力しているのに先生が努力してくれて当たり前や。C先生
も『あなたが努力するなら私も努力する』と言っていた」などと言って。
教室に戻っていった。
オ10月25日の件について
原告は,4限目の音楽の授業が道徳に変更されたと主張するが,音楽の
授業はそのまま実施されており,道徳の時間は,6限目であった。道徳の
時間を設けたのは,同月24日午後7時に被告Bが原告の自宅に家庭訪問
をし,原告も同席するところで,午後9時まで原告の両親と話をし,道徳
の時間をクラスで設定することを約束したからである。被告Bは,一刻も
早く本件クラスを正常化する方がいいと考え,同月25日の6限目を道徳
の時間に充てた。被告Bは,児童らに自ら失敗した経験を語らせながら,
「人間は失敗することもある」ということや「話し合うことの大切さ」。
について話をしたのであり,原告個人を取り上げて話したことはないし,
原告に「謝れ」などと言ったことはない。当日は,6限目が最後の授業。
であり,原告は,6限目の終わりと同時に帰宅しており,原告が家に帰る
ことを阻止する理由も必要もなかった。
カ10月28日の件について
原告は,4限目の社会科の授業中,原告のすぐ後ろの座席の男子児童が
隣の児童と私語をしていたので,後ろを振り向いて「うるさいなあ。ええ
かげんにせえ!」と男子児童の机をたたいて怒鳴った。あまり声が大きか
ったので,被告Bは「▲▲さんもうわかった。もういい,やめときな」,。
と注意した。原告がキッと睨みかえしたので驚き,被告Bはうっかり後ろ
の男子児童に注意しないまま授業を進めた。
授業が終わり,被告Bが給食の用意をしていると,女子児童らが原告が
帰ろうとしていることを知らせてきた。被告Bはびっくりして昇降口に向
かって,原告を引き留めようとした。しかし,原告は飛び出していこうと
するので,被告Bは,原告の後ろにいた男子児童らを呼び,原告に謝らせ
たが,原告は納得せず,強引に帰ろうとした。被告Bと女子児童らは,は
じめ原告の腕を持っていたが,あまりにも力が強いので,被告Bがお腹の
ところを抱きとめるようにした。しかし,原告は被告Bを蹴り出し,養護
教諭が駆けつけて被告Bに代わろうとしたが,原告は被告Bと女子児童ら
の制止を振り切って自宅へ帰った。被告Bは,残った児童に落ち着いてい
るように言ってから,原告が無事に家に着いているかを確認するためにす
ぐに原告の自宅に行った。原告は帰宅しており,被告Bは,原告の両親に
。,。経過を説明しお詫びをした原告はランドセルを学校まで取りに戻った
原告は,ランドセルを持ったらすぐに家に向かうので,被告Bが同行しよ
うとした。原告は,被告Bの同行をいやがり,学校の校門から30メート
ルほどで地面に座り込んでしまった。被告Bは,母Dに原告を迎えに行っ
てくださいと頼み,母Dが原告を迎えに行った。
キ図工の時間について
原告は,図工の時間を11月8日と主張するが,11月22日のことで
。,,ある被告Bは原告が右手指先に包帯を巻いていることは知っていたが
原告の手指が深爪になっていたり,指先の皮がめくれた状態になっていた
りしたことは知らなかった。図工の授業は,画用紙にティッシュを一面に
接着してから,そこへ絵を描くという活動であった。原告は,前回の授業
を休んでいたので,初めから作業を始めることになった。原告は,右手指
先に包帯を巻いていて,作業ができないというので,被告Bは「それな,
ら,▲▲ちゃんは,ティッシュを使わずに絵を描いてもいいよ」と言っ。
たが,原告は「左手ならできるでするわ」と言った。原告は,雲のよ,。
うなティッシュの固まりを4か所ほど作った。被告Bが「もう少し作った
ら?」と言うと「これで,もうええの」と言って,ブラッシングの作業。
のところへ来た。こうした状況は,他の児童も見ていた。
原告は,何か気に入らないことがあれば,授業中であっても即座に「帰
る」と言って教室を出ていくのが常であって,その都度,被告Bらは,。
その対応に追われており,断じて原告を手指の酷い痛みに耐えながら長時
間作業を行わざるを得なかったという状況にしたことはない。
ク11月15日の件について
原告は,始業のチャイムが鳴って友人に連れられて音楽室に入室してき
た「はよ座りな」と被告Cが言うも,2人は笑いながら教室を歩き回。。
る始末であった。被告Cは,原告を音楽室にとどまらせようと手を引っ張
っていた児童に向かって「手を)離しなさい」と言うと,原告は音楽(。
室から出ていった。被告Cが原告を追って廊下に出たら,原告の様子を見
に来ていた被告Bがいて,被告Bが原告と話し合うからというので,被告
Cは音楽室に戻り授業を再開した。
被告Bは,廊下で帰宅すると言って暴れている原告に対し「音楽室に入
れ」と言っても「嫌だ」と言うので「そしたら教室で自習するか」。。,。
と聞いても返事がなく「一体どうしたいのか」などと問いかけていた。,。
そのような原告と被告Bのやりとりの声が廊下からは聞こえてきて,被告
Cが様子を見るため廊下に出て,被告Cが原告に声をかけた。原告は,被
告Cに対し「うるさい!」などと言って暴れるので,被告Cは「いい加,
減にしなさい!」と大声で叱って,音楽室に戻った。被告Cは,児童を叩
いたことは今まで一度もなく,原告は,極めて興奮しやすい子だとの強い
印象があり,気持ちを人に伝えるのは得意ではないとも感じていたので,
そんな原告を叩くのはありえず,原告の体に触れてもいない。被告Bの説
得に対して,原告は喚き立てるばかりあったので,被告Bは「それなら帰
るか」と言うと,原告はおとなしくなった。。
音楽の授業が終わりかけのころ,手洗い場付近に被告Bと原告がおり,
廊下を覗く児童も出てきた。被告Cは,別の女子児童もトイレへ行こうと
したので「まだ授業中ですよ!」と叱責した。授業が終わってから,原,
告は他の児童に連れられて教室に戻った。
ケ11月22日の件について
この日は,特別な出来事はなかった。原告の主張する道徳の時間とは,
11月21日の学級会のことである。同月20日の放課後,臨時の学級会
が開かれたが,原告は,同月13日の学級会の時に司会をした児童が原告
の話を一方的に終わらせたことや被告Aに対する不満を言うことに終始
,,,し学級会が長引くことを嫌がった男子児童に対し激しく怒りをぶつけ
「もう帰る」と言い出した。その剣幕に驚き,児童らは何とか原告を引。
き留めようとする中,長引くのは嫌だと意見を漏らした児童が泣きながら
原告に謝り,再び続行することとなった。しかし,途中で話が切れたとこ
ろで,別の男子児童が「もう終わろ」とぼそっとつぶやいたところ,原。
告は「このクラスは許せない」と泣き喚き「もう帰る」を連発するの,。。
で,他の児童も困り果てて,司会をした学級委員が「▲▲さんに対して気
づかなかった」と釈明してその場はおさまった。原告は,終始一方的に。
非難して興奮するのを,他の児童がなだめる状況で,話合いにならなかっ
た。被告Bは,原告の家に電話して,その日の状況を伝え,同時に,原告
が「お母さんがつらいときは帰っていいと言ったんや」といつも言うこ。
とを伝え,その点での配慮を求めた。
改めて,同月21日の5限目に学級会が開かれた。原告は「11月1,
3日の学級会の司会をしていた学級委員が悪い。私は言いたいことが言え
なかった。校長は,○○さんのことは褒めたのに私のことを1人だけ子ど
も扱いした。私は他の子と同じように言ったのに,私だけを悪い子だと思
っている「B先生は,私が友達と校長室へ(被告Aへの不満を)言い。」
に行こうとしたら,他の子を行かさないようにした。私だけをひとりぼっ
ちにしようとした」などと被告Aや被告Bに対する批判に終始した。5。
限目の終わるチャイムが鳴ったので,ある児童が「もう終わろ」とつぶ。
やいたところ,それを聞きとがめた原告は「このクラスは悪い。昨日は,
。」。,ごめんしたったのにみんな何にも変わってないと興奮した被告Bは
「昨日は▲▲さんが,興奮してものすごい言葉遣いで校長先生の批判をし
ていた。もし,▲▲さんが興奮したままで校長室へ行って,思っている以
,。,上のことを言ってしまったらひっこみがつかなくなってしまうそして
周りのみんなが一緒になって騒いで,▲▲さんを煽りたてるようなことに
なったらどうなるか。そうなったら結局,▲▲さんがもっとつらいことに
なってしまう。だから,昨日は『この状態では一緒になってついていっ,
てはいけない。よく考えなさい』ということを言ったのだ」と説明し。。
たが,原告は納得せず,騒ぎ立てる一方であった。被告Bは「原告1人,
だけが悪い「原告と遊んではいけない」などという発言をしたことは。」。
ない。原告が,落ち着いたところで,被告Bは,原告に話しかけようとし
たが受け付けず,様子を見守るしかなかった。クラブが終わって教室に戻
ってきた友達の女子児童に,被告Bの方から,原告と被告Aのところへ行
くよう言ったが,女子児童は,都合がつかないとして,原告と一緒に帰っ
た。
被告Bは,夕方,母Dに電話してその日の様子を伝えるとともに「こ,
れからも細かく話し合っていった方がよいかどうか・・・却って心配をか
けてはいけないので・・・」という意味のことを相談した。その夜,被告
Bの自宅に母Dから電話があり「父親が激怒している。もう甲小には行,
かせることはできない。学校をやめさせる「先生は▲▲を孤立させよ。」
うとしている「これからも細かく話した方がよいか』と尋ねたこと。」『。
も許せない」とのことであった。その電話の後,被告Bは被告Aに電話。
し,原告の母親とのやりとりを報告し,原告の自宅への家庭訪問を提案し
たが,被告Aは少し落ち着いてから対応した方がよいと判断し,しばらく
様子を見ることにした。
被告Bは,原告に関し「前からこんなに怒ることがあったのか」と同。
じクラスの児童に何人か尋ねたことはあったが,原告をクラスの他の児童
から孤立させようなどということは一切なかった。
コ11月25日の件について
原告は,11月25日は登校していない。同月26日の1限目の授業の
後,原告が保健室へやってきた。体温を測ると36.6℃であったから,
養護教諭は「もう少し様子を見よう」と2限目の授業に行かせた。2,。
限目の授業の終了後,原告は,保健室にやってきて「もう帰る,帰る」,。
,。と繰り返すので養護教諭は3限目の体育の授業は見学にすることにした
3限目の体育の授業が始まったので被告Bは授業に戻り養護教諭がこ,,「
の時間だけ保健室にいて3限目が終わったら帰ろう」と原告に声をかけ。
様子を見ていた。このとき,原告の仲のいい女子児童が足の怪我のため見
学していたのを見て,原告は外に出て女子児童と2人で話をしながら体育
の授業を見学したり,保健室を出たり入ったりしていた。
被告Bは,原告が早退するというので,養護教諭と相談し,原告の家に
連絡したところ,母Dが迎えに来るということになっていた。被告Bは,
原告には帰る用意をするように伝え,4限目の教科担任に原告が帰宅する
ことを連絡してから,母Dが迎えに来ると言った場所に行ってみると,既
に原告は帰った後であった。
原告が同月27日から連絡なく休んでいたので,同月29日の夕方に被
告Bが心配して電話を入れたところ,母Dが「今はとても学校へ出せる状
態ではない「帰りたいと訴えていたのに担任はどうして無視するのか。。」
帰った後,高い熱が出た。もう信用できない」と被告Bを難詰した。被。
告Bは,同月26日の原告の様子を言ったが,聞く耳を持たないという感
じであった。
サ以後の事情
12月12日,被告Aと被告Bが原告の自宅に家庭訪問をしたときに,
原告の父親から平成14年12月12日付「乙内科」の医師E作成の診断
書を示された。被告Aらや津市教育委員会としては,原告の回復のために
主治医との連携・協力を再三にわたり申し入れてきたが,原告の父親には
拒否され続けた。
以上の事実経過からすれば,被告Aらが,原告を監禁したことや原告を
クラスの中で孤立させるようにしたこと,帰ろうとする原告を無理に引き
留めて暴行を振るったというような違法行為をしたことがないのは,明ら
かである。
(2)争点(2)PTSDに罹患したかについて
【原告の主張】
ア原告がPTSDに罹患しているかは,アメリカ精神医学会が研究成果を
まとめて定義づけたDSM−Ⅳ(精神科診断統計マニュアル第4版)の基
準に該当するかで判断すべきである。医学的にPTSDと診断されるため
には,同基準を全て満たしていなければならない。
イDESNOSとは,虐待や長期にわたる家庭内暴力(DV)の被害体験
といった慢性的・反復的なトラウマ性体験に起因するトラウマ性症状を1
つの疾患単位として概念化したもので,Besselvander
Kolk(以下「Kolk」という)を中心とした,精神医学の領域で。
トラウマの問題に取り組んできた臨床家や研究者によって提唱されている
疾患概念である。
PTSDとDESNOSの違いは,障害を生じる可能性があるとされる
体験の質の違いであり,単回性・時間限局性の体験はPTSD症状を,長
期にわたる監禁,拷問,家庭における虐待,家庭内暴力(いわゆるDV)
,。,等慢性的・反復的な体験はDESNOS症状を表す可能性があるまた
低年齢の子供が長期に及んでトラウマ性の体験をした場合,PTSD症状
にあわせてDESNOS症状も多くみられる。
DESNOSは,現在はまだ公式に採用された疾患ではなく,公式な診
断基準も存在しないが,Kolkの診断基準の試案がある。
ウ原告の症状は,DSM−Ⅳの基準を満たしており,PTSDに罹患した
事が明らかであるほか,DESNOSの症状も併せ持っている。
(ア)PTSDについて
原告は,被告Aらの一連の不法行為により,生命や身体への損傷を自
ら経験し又はその脅威にさらされ,これにより強い恐怖を感じたことか
ら,診断基準Aを満たす。
原告は「教師の事が頭から離れず思い出すと急に泣き叫び「夢に,」,
出てくる先生が怖い沙也佳を先生が真っ暗なところに連れて行くと怯え
る「急に泣き出したり怖がったり「あることを思い出すと泣き出」,」,
す。うなされて「学校の事,校長の事を思い出す。10月に1人で」,
小部屋に閉じ込められて担任,校長から詰問された「夢。こわい夢」,
をよく見る。人がたくさん出てくる。黒いカゲのような人ばかり」とい
った症状を表しており,これらの症状は,侵入性症状,なかでも最も深
刻なフラッシュバック症状である可能性がある。また,悪夢は,睡眠時
の侵入性症状と考えられる。よって,診断基準Bを満たす。
原告は「学校の問題を避けようとしている「全てをリセットした,」,
い「早く三重を離れたい」といった,本件事件が起こった場所や関」,
連した話題等事件の想起につながるような刺激に対する回避性症状を表
している。原告が,本件後登校困難や不登校になったのも,このような
回避性症状の表れである。よって,診断基準Cも満たす。
原告は「眠れない。目がさめてしまう「イライラしている」とい,」,
,,,った入眠困難及び途中覚醒等の睡眠障害慢性的いらいら感や易怒性
些細な刺激への過敏な反応等の症状を示している。よって,診断基準D
を満たす。
本件の発生から1か月以上が経過しており,診断基準Eを満たす。
,,,,,被告Aらの不法行為により原告は不登校や転校転居等社会的
学業的な機能の障害を起こしており,診断基準Fを満たす。
以上により,原告は,被告Aらの不法行為により,PTSDに罹患し
たことは明らかである。
(イ)DESNOSについて
原告は「時に暴れ出す『死なせて「暴れる「時に興奮等出現,。』」,」,
とのこと」の各症状を表しているが,これは,本人が怒りや攻撃性を制
御できなくなっていることをしめしており,また,自己破壊活動に当た
る可能性が否定できず,クラスタAに該当する。記憶の欠落という解離
性健忘様の症状を伴った可能性もあり,クラスタBにも該当する。
原告は「幻覚出る。あとで記憶なし「黒ずくめの男がいろんな所,」,
に立っている「目まいする。立っていて,暗くなって,フワーとな」,
った。意識は完全には消失していない」の各症状を表しているが,こ。
れは,解離性の幻視様症状として解離性障害の症状や意識喪失発作又は
,。,それに近い状態であるとして解離性症状であると考えられるよって
これらの症状は,クラスタBに該当する。
原告は「不定愁訴が多い」との症状を表しており,クラスタCに該,
当する。また,原告は,診療録全体を通して,その他の身体症状も認め
られる。
以上のとおり,原告は,被告Aらの不法行為により,DESNOSの
症状をも示している。
【被告Aらの主張】
原告は,被告Aらが話合いと称して監禁したり,クラスメートから孤立さ
せようとしたり,抱きかかえたり,手首をねじ上げるなどの暴力的行為など
が原因で,PTSDに罹患したと主張するが,そもそも,原告が主張するよ
うな事実は存在しないのであるから,初めからDSM−Ⅳの診断基準Aの要
素を欠いている。
よって,原告は,トラウマとなりうる体験をしたことがないことになるか
ら,その余の基準を検討するまでもなく,PTSDには罹患していない。
(3)争点(3)被告Aらの個人の責任について
【原告の主張】
国家賠償法上,公務員個人の責任が問われないのは,公務が私的業務とは
別途特殊性を有し,公務員個人の公務を萎縮させることを回避するためであ
るから,そもそも公務として保護を必要としない明白な違法行為であり,か
つ,行為時に行為者自身がその違法性を認識している場合又は重大な過失に
よって認識しなかった場合は,かかる公務員個人に対する保護の理由は見あ
たらず,個人に対する賠償責任も認められるべきである。判例(最三判昭和
30年4月19日民集9巻5号534頁)も,一切,公務員個人に対する請
求を否定するものではない。
被告Aらの行為は,被告Cの行った不適切な音楽の授業の事実をうやむや
にして責任の所在を不明瞭にするために,原告の行動を封じ込めることを意
図して行われたもので,明白な違法行為であり,かつ故意行為であるから,
被告Aらは,個人としても損害賠償責任を負う。
【被告Aらの主張】
国家賠償法第1条の請求とは別に,直接公務員個人に損害賠償を請求する
ことはできない。
第3争点に対する判断
1認定事実
上記前提事実に加えて,証拠(括弧内に記載したもののほか,甲17,18
の2,25ないし39,乙16,22,26,原告法定代理人親権者母D,被
,,,),告A本人被告B本人被告C本人証人G及び弁論の全趣旨を総合すれば
以下の事実が認められる。本件においては,原告の病状から原告本人尋問をす
ることについて原告代理人が反対であったことから,原告本人尋問は実施しな
かったし,原告本人の陳述書は提出されていない。甲18号証の2や甲25な
,,いし28と30ないし38号証はこれらに代わるものということはできるが
いずれも伝聞であるうえに,原告の発言をそのまま書き取ったものともいえな
い。また,甲25ないし28と30ないし38号証は,その都度記載された部
分もあるが,後日書き加えられた部分,原告の説明を聞いて母Dがその理解の
もとに訂正を加えた部分もあることが認められる(甲17,原告法定代理人親
権者母D。したがって,これらの記載内容は,正確さを欠き,証明力が高い)
とはいえないが,証拠価値がないとはいえない。
(1)原告は,平成10年4月に本件小学校に入学し,通学していたが,風邪を
引きやすく,熱を出しやすい体質でもあったことから,遅刻や欠席が多かっ
た。
原告は,間違いはちゃんと指摘し,嫌なことは嫌といい,納得がいかない
ことはせず,物事を納得できるまで追及するという思いが強い性格であり,
興奮しやすく,興奮の度合いが大きくなると,大声を出したり,暴れたりす
ることもあった(甲6,甲12。ただ,本件授業が行われる前までは,原)
告は,学級会を開くよう要求するとか,勝手に早退しようとすることはなか
った。
原告が小学3年生であった平成12年ころ,原告の自宅で落雷による火災
が起き,ペットの犬や猫が焼死するという事件があったが,母Dは,原告に
ペットが死んだということを伝えなかった。原告にとっては,この火災は悲
しい出来事であり,中学生になっても変わらなかった(甲6。)
小学4年生のころ,原告は,お楽しみ会で嫌な出し物しか残っていなかっ
た際,当時のクラス担任の言動をめぐってトラブルになったことがあった。
しかし,このトラブルは,当時のクラス担任が配慮が足らなかったと謝罪し
たので,無事に解決し,原告も特に影響なく,通学を続けた。
,,,原告は平成14年4月小学5年生に進級してクラスは5年1組となり
担任は被告B,音楽担当の教師は被告Cであった。被告Bは,本件クラスを
,,担当するに当たり原告の4年生の時の上記トラブルの話を聞いてはいたが
。,,,特に気にかけていなかった母Dも本件授業の前までは被告Bに対して
原告の心身の健康について,特別な配慮を求めたことはなかった。
原告は,同年6月11日,乙内科のE医師からIgA腎症と診断され,治
療を受けたことはあったが(乙36,これが原因で長期間本件小学校に登)
校できなくなったことはなかった。
,,,(2)同年9月13日被告Cは夏休みに受けたリコーダーの研修を応用して
「」音量を上げて体全体で音楽を体感しようという試みから雲のきょうりゅう
という曲のCDを大音量で続けて3回,聴かせるという本件授業を行った。
本件クラスは,音楽の授業中は常に騒がしく,被告Cが注意しても聞かない
。,,,ことが多かった被告Cは本件授業の意図について十分な説明をせずに
騒がしい状態のままで音楽をかけた原告はあまりの大音量に途中で頭。,,「
が痛い」と言って,音楽室を出て,ほかの1名の女子児童とともに保健室に
行った。本件クラスの他の児童らも,本件授業に違和感を感じ,被告Cに止
めてほしいと訴えたり,耳をふさいだりしたが,被告Cは,中断したり音量
を変えたりせず,3回くり返して大音量で流した。原告は,授業の終わる1
0分くらい前に教室に戻り,午後0時20分に授業は終了した。本件授業終
了直後,別の女子児童も気分が悪くなって,保健室に行った。大半の児童ら
は,音楽の授業中に自分たちが騒がしくしていたことに対し,被告Cが立腹
して,黙らせるためにわざと音を大きくしたのではないかと思った。児童ら
は,本件授業終了後,給食の時間に被告Bに対して,本件授業の音量がうる
さかったと申し立てた。被告Bは,本件クラスの児童らに対し,被告Cに音
を大きくした理由を聞くと約束した。被告Cは,被告Bに対して,本件授業
を夏休みに受けた研修からヒントを得た授業であると説明した。被告Cは,
別の学年の授業においても,同様にCDを大音量で聴かせるという授業を行
,,,。,ったがその際は保健室に行く児童はおらず苦情も出なかった原告は
当日,帰宅してすぐに,気分が悪くなって寝込んだ。
被告Aは,同月14日,本件授業についての報告を受けた。児童から本件
授業のことを聞いた保護者から本件授業に対する苦情が寄せられたことか
ら,同月15日,被告Aらは,原告を含めて本件授業により保健室に行った
児童に電話をかけ,自宅を訪問して謝罪をした。このとき,被告Aは,被告
Cに対し,保健室に行くなどして体調を崩した児童がいるという事実が起き
てしまったのであるから,本件授業の意図について言い訳したりせず,とに
かく謝罪するよう伝えた。被告Aらは,原告宅も訪れ,本件授業の状況等に
,,,,ついて説明し被告Cは謝罪をしたがそのときには被告Aの指示どおり
本件授業の意図は説明しなかった。
,,。同月17日の1限目被告Cは本件クラスで本件授業について謝罪した
本件クラスの児童の大半は,被告Cの謝罪に納得して,その後本件授業を問
題視することはなかったが,一部の児童からの納得できないという声も残っ
た。同日夕刻,本件小学校において,本件授業についての臨時保護者会が開
かれた。その席でも,被告Cは,本件授業の謝罪に終始して,本件授業の意
図について楽しくしようと思ったと述べるのみで,具体的な説明をしなかっ
。,「。」「。」た保護者からは子供たちは納得したのか深刻に受け止めてほしい
「子供たちの様子を見ていたのか「スピーカーの位置でも音は変わる」。」。
「教師が謝ったことで,今後萎縮しないでほしい「あまりしゃべらない。」
先生だと聞く,コミュニケーションを大切に」等の意見が出されたが,母。
Dは特段発言しなかった。
(3)原告は,自分が納得できるまで,物事を追及し続けるという性格であった
ため,本件授業についての被告Cの説明には,納得できなかった。同年9月
20日,原告は,友人のFとともに,被告Bに対して,被告Cと本件授業の
ことについて,話をしたいと申し出た。そこで,2限目と3限目の間の午前
10時25分からの20分の休み時間(乙1)を利用して,原告とFは,相
,。,,談室において被告Cと話し合うことにした相談室は指導室とも呼ばれ
1階の職員室の横にある教材等を保管している部屋の奥にあり(乙1,32
の1ないし3,児童の相談や指導のために使われていたことから,プライ)
バシーを考慮し,ドアから中が見えないよう衝立が立てられ,外からは見え
ないよう窓にはカーテンが引かれていた。そのため,相談室の内部は,通常
の教室に比べて薄暗かった。相談室の奥には,3人がけのソファーが1つと
テーブルさらに2脚の1人用ソファーが向かい合うように置かれていた乙,(
32の2。)
相談室では,Fが主に被告Cに対して話をし,原告は,余り発言をしなか
った。被告Cが本件授業の意図について説明したところ,Fは,騒がしくし
ていて,被告Cの説明が聞こえていなかったので,自分たちも悪かったと言
って納得したが,原告は,納得できなかった。しかし,原告は,同日の4限
目の音楽の授業には出席し,鑑賞ノートを提出した。
,,(),(4)同年9月24日原告はあらかじめ作成した手紙乙20を用意して
同月20日の話合いでは,なぜ被告Cが大音量に対していやがっている児童
に気づかなかったのか納得できなかったとして,被告Cと話がしたいと申し
出た。また,原告は,この手紙を被告Aにも渡した。被告Cは,午後の授業
を別の教師に任せて,午後1時ころから,被告Bの立会いの下,4年2組と
5年1組の教室の間にある(乙1)ゆとり教室2において,原告と話合いを
した。被告Bも,午後の5,6限の運動会の合同練習を他の教師に任せて,
話合いの立会いをした。ゆとり教室は,空き教室であり,室内の明るさや机
や椅子などが並べられている状態は,通常の教室と同じであった。原告は,
手紙(乙20)に基づいて被告Cに質問をし,被告Cは,それに答える形で
話合いが進んだ。被告Cは,気づかなかった点についても謝罪したが,原告
は気づかなかったということ自体に納得できず,被告Cは嘘をついていると
思った。原告の発言の意味もわかりにくく,被告Cは,何とか理解して返答
しても,原告は納得しないので,次第に無言になった。他方,原告は,本件
授業について,いくら自分の疑問をぶつけても被告Cが納得のいく回答をし
ないため,被告Cが無言になってきたことから,よけいに興奮し,声が大き
くなったり,泣きしゃべりの状態になったり,立ち上がって教室内を歩き回
ったりするようになった。被告Bは,話合いの初めのころは,原告の発言に
ついてメモを取りながら(乙23,被告Cと原告の話合いに口を挟まず様)
子を見ていたが,原告が興奮しだしたので,原告を落ち着かせようと,顔を
近づけて声をかけたり,肩をたたいて深呼吸をするよう促したりした。しか
し,原告は,一度は落ち着いても,被告Cの回答に納得がいかないとすぐに
興奮するということを繰り返した。
被告Bは,本件クラスの他の児童に先に帰りの会をさせて帰宅させ,原告
を相談室に移動させて,被告Aも加わり,話合いを続けた。被告Aらの回答
や注意に対し,原告は,興奮して,相談室から出ようとして,被告Bが肩を
押さえるなどして,制止させるということがあった。原告は,興奮し相談室
から退出できない心理状態となり,トイレに行くこともできなかった。結果
的に,話合いは,午後4時30分ころまで続けられた。原告は,興奮した状
態で帰宅した。被告Bは,母Dに電話をし,原告が帰宅することを伝えた。
同月25日,被告Aは,午前9時30分から津市立●●小学校で行われた
市校長会の人事財務部会に出張して出席する予定であったが(乙2,3,)
原告の興奮状態から,事態を重く見て,本件授業に関する原告のこだわりを
解くことが先であると考え,出張の予定を遅らせることにした。そして,同
日の1,2限目は,運動会の全体練習であったことから,これが終わった後
の20分休みを利用して,被告Aは,原告と話をすることにし,被告Bに原
告を呼ぶよう伝えた。原告は,被告Bに求められて,1限目及び2限目の運
動会の練習が終わった20分休みの時間に被告B及び被告Aと相談室で話合
いをした。相談室では,原告が奥のソファーに座り,正面に被告Bと被告A
が座る形であったが,途中から被告Bが原告のすぐ隣に座った。この時も,
原告は,被告Aや被告Bに対し,本件授業について被告Cから納得できる話
,,。がないこと被告Aらが被告Cの嘘をかばっているとして激しく非難した
原告は,本件授業や被告Cの話になると興奮して話をし始め,ソファーの前
の机を蹴ったりするので,被告Bは,原告の隣に座って,声をかけてなだめ
たり,肩をたたいて落ち着かせようとした。被告Aは,原告に対し,本件授
業のことをこれ以上親に言ったり,本件クラスで話題にしたりしないよう説
得しようとした。原告は,この日も自分の意見を聞き入れてもらえず,興奮
,,。し被告Bや被告Aに囲まれて相談室から退出できない心理状態となった
被告Aは,いくら原告に話しても埒があかず,予定されていた人事財務部会
に出席するために,後を被告Bに任せて,途中で退席した。被告Bは,なお
も泣きじゃくる原告をしばらく相談室の中でなだめるなどしたのち,原告と
室外に出た。被告Cは,前日の話合いの影響で体調を崩し,午後から年休を
とっていた(乙6。原告は,当日も,泣きながら帰宅した。)
原告は,同月28日に行われた運動会には参加した。
(5)同年10月11日,原告は,母Dから音楽の授業に出たくなければ出なく
てよいといわれていたので,4限目の音楽の授業には出席せず,教室で自習
していた。被告Cは,同日は2限目から4限目まで授業をしていたため,原
告と話はせず,被告Bから音楽の授業には出席しないということだけを聞い
ていた。被告Bは,原告が音楽の授業に出席しないことは教育上問題がある
と判断し,原告に音楽の授業に出席するよう指導したが,原告は応じなかっ
た。被告Bは,被告Aから説得してもらった方がよいと思い,原告を昼休み
に被告Aのいる校長室に連れていった。被告Aは,音楽の授業に出るよう原
告を説得した。原告は,被告Bや被告Aから,音楽の授業に出るよう強く要
求されたため,不満を感じた。
同月24日,被告Bは,原告宅を家庭訪問し,本件授業のことについて,
道徳の時間を設けて話し合うことを伝えた。被告Bは,翌25日の6限目に
道徳の時間を設けることにした。
同月25日,道徳の時間が設けられ,本件授業について,本件クラス全体
で話し合った。被告Bは,本件クラスの児童らに失敗談などを話させて,人
間は失敗することもあるなどといって,本件授業や被告Cのことを許すよう
諭し,原告のようにいつまでも本件授業のことにこだわっていてはいけない
という趣旨の話をした。原告は,本件授業や被告Cのことについて,他の児
童も原告と同様に不満を持っているのに,自分だけが非難されているように
聞こえ,被告Bに対し,不信感を抱いた。
同月28日,原告は,4限目の授業中,自席の後ろの男子児童が私語をし
ていたので注意したが,注意した声の方が大きかったため,被告Bは,大声
を出した原告のみを咎め,私語をしていた男子児童は注意しなかった。原告
は,被告Bが私語を注意するよう指導しているのに,原告だけを注意した被
告Bの対応に不満を抱き,早退して帰宅しようとした。被告Bは,これを止
めさせようとして,男子児童を謝らせたり,原告の腕を掴んだり,原告の胴
を羽交い締めにするようにして押さえ込んだ。しかし,原告は,被告Bの制
止を振り切り,帰宅した。帰宅後,原告は,ランドセルを取りに一旦本件小
学校に戻ったが,授業には出ないで帰宅した。
同月31日,被告Aは,原告及びFほか2人の原告の友人と,被告Cの音
楽の授業の内容について話をした。原告らは,被告Cを変えてほしいとか音
楽の授業を楽しくしてほしいといった要望を出したが,原告は,余り発言を
せず,友人の発言に相づちを打っていただけであった。被告Aは,原告の友
人の話を聞き,被告Cに伝えておくと述べた。そして,被告Aは,Fのこと
を話が筋道立っていてわかりやすいとほめた上で,原告に対しては「周り,
の人に頼り過ぎず,自分の考えで行動できるように」等と注意をした。。
(6)原告は,同年11月ころから,寝ているとうなされたり,おねしょをした
り,両手の爪を噛むようになった。原告の爪は,深爪のようになり,手の指
の皮はむけて,赤く爛れて血が出たことから,指を包帯で巻いていた。その
ため,原告は,給食では,箸が使えず,特別にスプーンとフォークを使って
いた。11月に入って以降の図工の授業では,原告は,指を包帯で巻いてい
た上に,紙粘土が指先に固まって痛いことから,紙粘土を使った作業が,痛
くてうまくできないことがあった。しかし,被告Bは,原告に授業を見学さ
せるとか作業をしなくてよいとはいわず,原告は痛みに耐えて作業をした。
同月1日,原告は,被告Bとともに,校長室に訪れ,被告Aと被告Cとの
学級会のやり方について話をした。そこでは,被告Bを同席させずに,被告
Cと本件クラスの児童とだけで話し合うということを確認した。被告Aは,
原告に対し,原告はすぐに興奮するので,冷静にみんなで話をするよう注意
した。
同月6日,原告の要望により,被告Cと本件クラスとの児童との間で,本
件授業に関しての学級会が開かれる予定であった。しかし,当日,原告が遅
刻をしたため(乙8,学級会の開催を申し出た原告がいないのでは意味が)
ないとして,学級会は延期となった。原告は,被告Cに不満を持っているの
は自分だけではないのに,原告が遅刻したという理由のみで学級会を延期し
たことに激怒した。同月8日,被告Bは,被告Cとの学級会の準備として,
被告Cに対する願いや意見などを紙に書くよう指導をした。原告は,被告B
が意見を書かせた紙を預かることに不信感を抱き,被告Bを批判して,帰宅
しようとした。そして,これを止めようとした他の児童との間で,原告はト
ラブルとなり,本件クラス内は一時騒然となった。
同月11日,被告Aは,原告の両親を呼び出し,被告Bとともに,原告が
本件授業について,被告Bの対応に納得していないという話をして,本件授
,。,業や被告Cとの問題を解決するために原告の両親の協力を求めたそして
同月15日に被告Cと原告及びその両親との間で,話合いを行うことになっ
た。その席で被告Aは,母Dに対し,あまり原告に関わりすぎないようにと
いう趣旨の発言をした。
同月13日の音楽の授業時間に,被告Bを立ち会わせず,被告Cに意見を
述べる学級会が開かれた。6名ほどの児童が,被告Cに対し,音楽の授業の
やり方についての意見を述べた。原告は,被告Cへの意見を述べていたが,
,,。時間が来たため学級委員に発言を途中で遮られたことから不満を持った
同日の20分休みの時間に,原告は,友人たちをつれて,校長室を訪れ,被
告Aに対し,発言を途中で遮られたことに対して不満を述べ,やはり被告B
がいた方がよかったと不満を述べた。被告Aは,同月1日の話と違うことを
言う原告に対し,勝手なことを言うなと注意した。
同月15日,音楽の授業があったが,原告は,友人に連れられ,音楽室に
一度は入ったが,席に着こうとしなかった。チャイムが鳴ったので,被告C
が原告を席に着かせるために手を引いていた友人に対して「手を)離し,(
なさい」と注意すると,原告は,帰ろうとして音楽室を出た。被告Bが様。
,,。子を見に来ており原告と帰る帰らないで言い争いのような状態となった
被告Bは,原告を帰らせまいと両手で原告の両肩を押し止めた。被告Cは,
音楽室の外が騒がしいので,様子を見に来て,原告を叱責した。音楽の授業
が終わるころ,原告は,友人に会おうと音楽室に戻ったが,たまたま友人が
音楽室を出ようしたところであって,被告Cにまだ授業中であると叱責され
た。同日の夕刻,原告は,両親と友人らを連れて,被告Cと話し合った。原
,。告らと友人らは本件授業や音楽の授業全般についての苦情や意見を述べた
これに対して,被告Cはその日の音楽の授業の様子を話した以外はあまり話
をしなかった。そして,原告の両親は,本件授業のことは,これで終わりに
すると宣言し,その日の話し合いは終わった。原告は,同月22日の音楽の
授業には出席した。
同月20日,原告は,ドッジボール大会の審判の判断に納得いかず,被告
Aに抗議をしようとしたが止められたため,その後の授業中に大声で被告A
。,,,に対する不満を述べていた被告Bは原告の要望を受けて同日の放課後
学級会を開くことにした。原告は,学級委員や被告Aに対する不満を述べ,
被告Aに文句を言いにいこうと他の児童に呼びかけた。被告Bは,原告が友
人を引き連れて被告Aに苦情を言えば,ますます事態が悪化すると考えて,
原告について行ってはいけないと言って,児童を止めた。原告は,この被告
Bの言動により,自分が孤立させられたと思い,さらに立腹し,被告Bは,
これをなだめた。
同月21日,前日の学級会が話にならなかったので,再度の学級会が開か
れたが,この日も原告が興奮して,大声で学級委員や被告Bを批判するとい
う事態になった。被告Bは,発言の真意を伝えた上で,原告を落ち着かせよ
うとしたが,他の男子児童が早く終わってほしい旨つぶやいたことから,原
告がさらに興奮する結果になった。被告Bは,同日夕方ころ,母Dに電話を
し,学級会の内容について報告をした。母Dは,被告Aらの対応に不信感を
抱き,原告をこれ以上本件小学校に通わせるわけにはいかないと被告Bに電
話をした。
(7)同月26日,原告は,体調不良を訴え,3限目を終了した後に母Dが迎え
に来て早退した(乙8。同日以降,原告は,後記の平成15年12月16)
日を除いて,本件小学校に卒業するまで登校しなかった。被告Bは,原告が
登校してこないので,心配になって,母Dに電話をして,原告の容態につい
てきいてみたが,母Dからは「登校できる状態ではない」と言われ,具体。
的な容態については聞き出せなかった。
被告A及び被告Bは,同年12月12日,原告を登校させようと原告宅に
家庭訪問をしたが,原告の両親から原告が不安神経症であるとの診断書(甲
1)を見せられ,原告に会うことも拒絶された。原告の両親は,本件小学校
に責任を問う意向を示した。同月25日,原告の両親,被告A,被告B及び
被告Cは,被告市の教育委員会の担当者を交えて,原告の問題について協議
が行われたが,物別れに終わった。原告は,同月30日,津警察署に対し,
被告Aらの行為によりPTSDに罹患させられたとして告訴し,平成15年
1月6日に告訴状を再提出をした(甲22。)
被告Bは,平成15年1月7日,被告Aとともに,原告の父に対して,謝
罪をした。被告Bは,同月15日,抑うつ神経症と診断され(乙24,同)
月16日,本件小学校を休職し(乙25,同年4月から津市立○○小学校)
に転勤した。被告Cは,同年4月から,産休を取った。被告Aは,翌平成1
6年3月31日をもって,本件小学校を定年退職した。
,,,,原告は平成15年2月10日同年3月4日同月5日及び同月11日
,,本件授業や被告Aらの行為について津警察署の警察官から事情聴取を受け
調書が作成された(甲18の1・2。)
原告は,同年4月1日,6年生に進級した。原告は,同年12月16日,
,,6年生として初めて本件小学校に登校し30分ほど教室で過ごした以外は
修学旅行にも参加せず,本件小学校に登校しなかった。
,,。被告Aと原告の両親は原告が卒業式に参加できるよう話合いを重ねた
原告の両親からは被告Aが卒業式に出ると原告がパニックを起こすので,出
ないようにとの要請があったが,被告Aは,卒業式に校長が出席することは
責務であると回答した。原告は,平成16年3月19日の本件小学校の卒業
式にも出席しなかった。
(8)原告は,平成14年11月26日以降,体調はさらに悪化し,発熱,食欲
不振,嘔吐,血尿が出るなどの症状があり,体重も減った。また,夜寝てい
る時にうなされるようになり「先生が出てくる「追いかけてくる」と悲,」
鳴のような声を上げるようになった。
母Dは,同年12月2日,原告を乙内科に連れていき診察を受けさせた結
果,同月12日,傷病名は不安神経症で「心的外傷による心因反応」と診断
された(甲1。同月24日,丙医院に連れていき,小児科一般や循環器系)
の専門医であるG医師の診察を受けさせた。G医師は,原告の母親に問診し
た上で,原告がPTSDに罹患していると診断し,G医師の父親であるH医
()。,,師が診断書を作成した甲2G医師は原告のPTSDの診断に当たり
IES−R検査やTSCCといったPTSDの診断のためのテストは行わな
かった。
,,,,原告は平成15年1月7日パニック状態となって丙医院で暴れ出し
鎮静剤を打たれた。原告は,同月9日から14日まで,丁病院に入院した。
入院中,原告は,尿が出ない状態が続いたほか,血便や血尿があり,立つこ
ともできず車いすに乗せられていた。原告は,退院後の同年2月13日,乙
内科において,パニック状態となった。原告の症状は,同年2月から3月こ
ろにかけて,落ち着きを見せていたが,しばしば嘔吐,発熱,血尿,腹痛,
,,。,,下痢腎炎腸炎またはIgA腎症などにより体調を崩したまた原告は
本件授業のことを思い出してパニック状態になったり,被告Aや被告Bに似
た男性をみると,極端におびえ,暗い場所を恐れるといった症状も見せるよ
うになった。
,,(),原告は同年4月25日登校拒否症心身症や慢性腎炎の疑いにより
G医師の紹介で戊大学附属病院において,I医師や同年5月30日から小児
の心身症を専門としているJ医師の診察も受けることになった。原告は,平
成16年1月17日,慢性腎炎により戊大学附属病院に入院し,IgA腎症
と診断され,同年3月31日,症状が軽快したので退院した。平成18年3
月ころにも,慢性腎炎の急性憎悪のため入院した。原告は,その後,地元の
中学校に入学して,登校を開始し,中学2年時に大阪の中学校に転校した。
その後,原告は,時折,精神的に不安定になることもあるものの,現在,高
校に進学し,症状は落ち着きを見せている(甲11,12,15,39。)
2平成14年9月24日,同月25日の事実の認定に関する補足説明
被告Aらは,同月24日の話合いにおいて,相談室を使った事実はないと主
張する。しかし,ゆとり教室2は,5年1組と4年2組の教室の間に存在する
のであり,原告が興奮して大きな声を出したりすれば,運動会の合同練習をし
ている5年生の教室は人がいないとしても,4年2組の方からは何事だろうか
と確認に来ると行ったことがあるのが自然であるのに,そのような事実はうか
がえない。被告B及び被告Cの各供述及び陳述書(乙16,22)のその部分
は,不自然で採用できず,証拠(甲18の2,29)によれば,同日は,途中
で相談室に移動した事実を認めることができる。
被告Aらは,同日の話合いでは,被告Aが同席していないと主張しており,
被告Aら3名の各供述及び陳述書(乙16,22,26)はこれに沿うもので
ある。しかし,原告が2人の先生と校長に相談室で囲まれたとの事実は,原告
が一貫して述べているものと認められ(甲25,29,39,当日,原告が)
(),「()手紙乙20を被告Aにまで渡していたこと母Dが被告Bから原告が
。。」校長先生やC先生と話をして興奮されまして今から帰ってもらいますから
との電話を受けていること(甲17)からすると,同日は,被告Aも相談室に
同席したと認めることができ,これに反する各被告の供述や陳述書の部分は採
用できない。
原告は,同月25日の話合いは午後に行われたと主張する。しかし,当日の
午後は被告Aらが出席すべき人事財務部会や校内研修が行われており(乙2な
いし5,被告Aや被告Bは,これらに出席したと認められるから,話合いが)
午後に行われたと認めることは困難である。母Dには,原告が2日続けて泣い
て帰宅したとの記憶がある(甲17)ことは認められるが,それだけでは原告
主張の事実は認められない。同日の事実については,後日,原告から徐々に聞
き出したことをもとに主張しているもの(甲17)であり,その内容は同月2
4日の事実と混同している可能性がある。
3争点(1)被告Aらの不法行為について
(1)被告Cは,本件訴訟では,陳述書(乙16)や供述においては,本件授業
の意図,すなわち,CDを大音量でかけた児童に聞かせることの目的や根拠
について,音楽を体全体で感じ取り体の動きを伴って表現することの重要性
を考えてしたことである旨を述べ,またその根拠として,学習指導要領にも
その点の重要性は指摘されているし,平成14年の夏休みの音楽研修(夏期
リコーダー指導法セミナー)において,音量を上げて体全体で音楽を体感す
る場面があった等と説明している。したがって,音量の程度はともかく,本
件授業でCDを大音量でかけたこと自体は,ただちに不相当とはいえない。
しかし,前記認定事実のとおり,被告Cの音楽の本件クラスでの授業は以
前から騒がしく,楽しい授業はできていなかったのであるから,当日も騒が
しく,教師の十分な説明が聞こえない状態のままで,CDを大音量でかける
ことが適切であったとは認められない。また,被告Cは,本件授業で保健室
に行く児童が出た結果については,口頭で謝罪はしたものの,本件授業の最
中に,音量の大きさの余りに,被告Cに対して,やめてほしいといったり,
,,,耳をふさいだ児童がいたにもかかわらずこれを無視して3回も繰り返し
児童のいやがっている様子には気がつかなかったとの説明してきたことが認
められる。さらに,被告Cは「楽しくしようとした」との説明すらしてい。
る。
被告Cの目の前にいる本件授業中の児童の多くが,音量の大きさに驚き,
耳をふさぎ,保健室に行く者まで出たのに,いやがっているとは気づかなか
った旨の弁明や,これが楽しくしようするための行為であるとの弁明は,相
手が小学5年生の児童であるとしても,これをにわかに信じることができな
いのは無理からぬことと言わざるを得ない。また,原告のような言動を取ら
なくても,本件授業については,疑問を持っている児童もほかにいたことは
明らかである。
しかるに,被告Aらの対応は,その点については,曖昧なまま,被告Cが
謝ることで,一旦は保護者会を開くことまでになった事態を納めようとした
ものと言わざるとを得ない。
(2)上記認定事実から,原告の当初の態度は,自分の疑問を素直に表している
ものであったのに,被告Aらのその事態を納めようとした方針にそぐわない
ものであったことから,被告Aらは,原告がこれ以上騒ぎ立てることのない
ようにしようとし,原告の言動を,あたかも,誤ったものあるいは不穏なも
のであるというように注意・説得することとなったと認めることができる。
被告Aらは,結果的には,原告がいつまでも納得しないことから,本件授
業をめぐる原告との話合いにおいて,狭い相談室の中で長時間に渡り原告を
留め置き,原告が興奮し泣きわめいたりしているにもかかわらず,話合いを
中断せず相談室の外に出さず,原告を始終興奮させることになり,原告を音
楽の授業への出席させようとして言い争いのようになったこと,原告が早退
しようとするところを止めようとして,原告の体を押さえるなどしたことど
が認められる。さらに,平成14年11月に度々開かれた学級会において,
本件クラスの児童に対して,原告について行ってはいけないと言ったり,原
告の発言を遮るような行動を是認するなど,本件クラスの大多数の意見を代
弁しているつもりであった原告を孤立させる結果となったことが認められ
る。
確かに,原告の言動は,自分が納得できる回答が得られるまでは際限なく
追及をやめないという未熟なものであり,気にいらなければ,泣いたり暴れ
たり,授業に出なかったり,無断で早退しようとするものであって,集団の
学校生活の中では,対応の容易でない面もあったことは窺える。しかし,友
人の女子児童と被告Cや被告Aに会いに行った時は,原告からは,余り発言
をしていなかったことも認められ,原告の,原告一人だけが音楽の授業に疑
問を持っているわけではないとの思いは誤っていたとはいえず,原告の言動
だけを問題し,ついには,原告をクラスの児童らから孤立させるような発言
をしたことは,不適切であったいえる。
,,被告Aらが原告に本件授業のことを両親に告げないよう説得したことも
原告の不信感を増大させるものであった。
原告は,4年生のときにも,担任とトラブルになったという事実があった
のであるから,被告Aらとしても,原告との対応は,十分に配慮すべきであ
った。
(3)以上の事情を総合すると,被告Aらの行為は一連のものであって,お互い
に意を通じているものであり,教師の児童に対する指導という域を超えて,
不適切な行為であり,被告Aらには,小学校の教師としての職務執行上の過
失が認められるから,被告市は,原告に生じた損害について,国家賠償法上
の損害賠償責任を負う。
(4)前記認定事実によれば,原告は,教師に対する不信感等が強いストレス,
精神的苦痛となって,精神的に不安定になり,身体的な症状にも悪影響を与
えたことが認められる。他に原告においてこのような症状が生じる原因を認
めることはできない。原告は,平成14年11月26日を最後に,本件小学
校に登校できなくなり,6年生になってもわずか1日,それも数時間しかい
られなかったことが認められる。そして,原告は,小学校の修学旅行や卒業
式など小学校生活の中でも最も大きな行事にも参加できず,小学校時代の楽
しい思い出を作ることができなくなった。一方,原告は,本件授業の問題に
端を発して,自ら被告Aらを追及し,自ら,自分自身を追いつめていった面
も否定できないし,もともと腎臓が弱く,腎炎に罹患していたから,本件授
業後の一連の身体症状には,腎炎が影響している可能性があることは,その
損害を考える上で考慮すべき事情であるとはいえる。
本件授業までは,外に現れた大きな心身の不安定はなかったから,本件授
業をめぐる問題について,多大なストレスを抱えたことが腎炎も悪化させた
一因となっていると考えるべきであり,偶然この時期に従来からのIgA腎
症が悪化し,精神的に不安定な状態になったとはいえない。
また,原告は,中学入学後も心身とも不調があったことが認められるが,
一応登校することができており,本件の被告Aらの一連の行為と相当因果関
係があるとまではいえない。
4争点(2)PTSDに罹患したかについて
(1)原告は,被告Aらの行為によりPTSD及びDESNOSに罹患したと主
張し,G医師もこれに沿う証言をする。
原告がPTSDに罹患したかの診断基準は,アメリカの精神医学会におけ
るDSM−Ⅳに定められた基準によるのが一般的であり,その診断基準は,
以下のとおりであると認められる(甲15。)
ア以下の2つが共に認められる外傷的な出来事に暴露されたことがあるこ
と(診断基準A。)
(ア)実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を,1度また
は数度,または自分または他人の身体の保全に迫る危険を,その人が体験
し,目撃し,または直面したこと。
,。(イ)その人の反応は強い恐怖無力感または戦慄に関するものであること
イ以下の5つの「侵入性症状群(外傷的な出来事が再体験され続けるこ」
と)のうち少なくとも1つの症状に該当すること(診断基準B。。)
(ア)出来事の反復的で侵入的で苦痛な想起で,それは心像,思考,または
知覚を含む。
(イ)出来事についての反復的で苦痛な夢。
(ウ)外傷的な出来事が再び起こっているかのように行動したり,感じたり
する(その体験を再体験する感覚,錯覚,幻覚,および解離性フラッシ
ュバックのエピソードを含む,また,覚醒時または中毒時に起こるもの
を含む。。)
(エ)外傷的出来事の1つの側面を象徴し,または類似している内的または
外的きっかけに暴露された場合に生じる,強い心理的苦痛。
(オ)外傷的出来事の1つの側面を象徴し,または類似している内的または
外的きっかけに暴露された場合の生理学的反応。
ウ7つの「回避・麻痺性症状群(外傷以前には存在しなかった外傷と関」
連した刺激の持続的回避と全般的反応性の麻痺のこと)のうち少なくと。
も3つの症状に該当すること(診断基準C。)
(ア)外傷と関連した思考,感情,または会話を回避しようとする努力。
(イ)外傷を想起させる活動,場所または人物を避けようとする努力。
(ウ)外傷の重要な側面の想起不能。
(エ)重要な活動への関心または参加の著しい減退。
(オ)他の人から孤立している,または疎遠になっているという感覚。
(カ)感情の範囲の縮小。
(キ)未来が短縮した感覚。
エ5つの「過覚醒症状群(外傷以前には存在していなかった持続的な覚」
醒亢進症状のこと)のうち少なくとも2つの症状に該当すること(診断。
基準D)
(ア)入眠,または睡眠維持の困難。
(イ)易刺激性または怒りの爆発。
(ウ)集中困難。
(エ)過度の警戒心。
(オ)過剰な驚愕反応。
オ障害基準BC及びDの症状の持続期間が1か月以上であること診(,)(
断基準E。)
カ障害は,臨床上著しい苦痛または社会的,職業的または他の重篤な領域
における機能の障害を引き起こしていること(診断基準F。)
原告がPTSDに罹患しているか判断するためには,まず,そのきっかけ
となる診断基準Aに該当する体験をしていなければならない。しかし,上記
認定事実によれば,原告は,被告Aらによって相談室から長時間退出できな
いような状態に置かれたことは認められるが,身体に直接的な危害を加えら
れたというようなことは認められない。原告は,本件授業に対する自分の正
当と思う意見が被告Aらに受け容れられず,逆に本件授業のことを話題にし
ないよう強く注意されたことで,強い反発を感じたことは否定できないが,
その基礎となる事実において,少なくとも直接的な身体への加害行為はない
以上「生命や身体への損傷を自ら経験し若しくはその脅威にさらされた」,
ということはできない。したがって,DSM−Ⅳの診断基準Aを満たさない
ことから,原告がPTSDに罹患したとは認められない。K助教授作成の意
見書(甲6)の中において,被告Aらの行為が診断基準Aに該当するかは,
議論の余地があるとし(甲6,本件授業に関わる出来事と原告が小学3年)
生時に体験した自宅の火災との関連性も無視できないとされていることから
(甲6,原告がPTSDにかかったという原因が本件に全て起因すると断)
定しているものではないといえる。よって,原告がPTSDに罹患していな
いと判断することも,K助教授の意見書と矛盾するものではない。
確かに,原告は,平成14年11月26日以降,本件授業や被告Aらのこ
とを思い出してパニックになったり(診断基準B,被告Aらに似た人物と)
会うことを避けたり,暗い場所を恐れるようになったり,本件授業のことを
思い出さないようにしたり(診断基準C,寝付きが悪くなったり,急に興)
奮するようになったりするなど(診断基準D,PTSDに罹患したかのよ)
うな症状を見せていることが認められるが,これらの症状の原因を即座にP
TSDと関連づけることは,適切ではない。原告は,精神分裂病(乙9,)
てんかん(乙10,心身症としての不登校ないし登校拒否症(乙11の1)
),(),・5・16不安神経症乙14といった診断も受けたことが認められ
原告の精神的な症状について確定的な病名がつけられているとはいえない。
G医師は,小児科,中でも循環器系の専門医であって,精神科の専門医で
,,,はない上に原告に直接問診せずPTSDの診断に必要なテストを行わず
母Dに対する問診のみでPTSDであると診断を下したところから,その診
断結果を全面的に信用することはできない。G医師自身,過去にPTSDと
判断した事例は2例あると供述するが,その事例は自動車事故によるものと
家庭内での虐待によるものであり,事例が異なるし,その事実が上記判断を
左右するものではない。
J医師も,G医師の診断結果を受けて,原告がPTSDに罹患していると
いう前提で意見書(甲15)を作成したものといえることから,その診断結
果を全面的に採用することはできない。
原告は,様々な体験がPTSDを引き起こす可能性があるとされ,特に年
少者の場合,患者の主観的体験が重視されると主張する。
しかし,患者の主観的体験を客観的に評価して,PTSDに罹患している
か否かを判断するのが,DSM−Ⅳの基準なのであるから,年少者であるか
らという理由のみで,基準を緩和し,主観的体験のみを重視するのは不合理
である。確かに,年少者の方が感受性が強く,大人が大したことはないと思
うような事象でも,大げさにとらえる可能性があることは否定できないが,
本件の客観的事実においては,原告は,生命身体の危機にはさらされておら
ず,被告Aらの詰問により恐怖感や無力感を抱いたという程度に留まること
から,やはり,PTSDのきっかけにとなる体験があったとまでは認められ
ない。
よって,原告のPTSDに罹患したとの主張を認めるに足りる十分な証拠
があるとはいえない。
(2)DESNOSとは,Kolkによって提唱されている疾患概念で,PTS
Dにトラウマ性の質の問題を考慮に入れて,慢性的・反復的なトラウマ性体
験に起因するトラウマ性症状を一つの疾患単位として概念化したものである
甲16しかしDESNOSという症状は公式の診断名ではなく甲()。,,(
16,確立した判定基準を有しているわけではないから,一般的に認知さ)
れた症状であるとはいえない。
仮に,DESNOSを症状として認めたとしても,DESNOSは,公式
に採用された症例ではないため,確立した判断基準はなく,暫定的な基準が
定められているのみと認められる。そして,DESNOSの研究の第一人者
であるKolkが提唱する診断基準は以下のとおりであると認められる甲,(
8。したがって,DESNOSに罹患しているかどうかは,患者の症状が)
以下の診断基準に該当するかによって,判断することになる。
ア「感情覚醒の制御における変化(クラスタA)のうち5項目に該当す」
ること「感情覚醒の制御における変化」とは,慢性的な感情の調整障害。
や怒りの調節困難,自己破壊行動や自殺行動からなり,いわゆる感情や衝
動性,行動の制御困難等,自己調節機能の障害である。
(ア)慢性的な感情の制御障害
(イ)怒りの調整困難
(ウ)自己破壊行動及び自殺行動
(エ)性的な関係の制御困難
(オ)衝動的で危険を求める行為
イ「注意や意識における変化(クラスタB)のうち2項目に該当するこ」
と「注意や意識における変化」とは,心因性健忘と解離性障害である。。
(ア)健忘
(イ)解離
ウ身体症状(クラスタC)のうち1項目に該当すること。
慢性的なトラウマ性体験の被害を受けた者には,器質的な原因によらな
い身体症状,例えば消化器系,循環系,免疫系等多彩な身体疾患がみられ
ることがある。
エ「慢性的な人格変化(クラスタD)のうち3項目及び3下位項目に該」
当すること「慢性的な人格変化」とは,罪悪感や恥辱感を伴う自己像の。
ゆがみ,加害者の価値観の取り込みや加害者の理想化に伴う他者像のゆが
み,自己・他者関係のゆがみ(信頼感の喪失,再被害化傾向,他者に加害
行為を行う傾向)が表れることである。
(ア)自己認識における変化:慢性的な罪悪感と恥辱感,自責感,自分は役
に立たない人間だという感覚,とりかえしのつかないダメージを受けて
いるという感覚
(イ)加害者に対する認識の変化:加害者から取り込んだ歪んだ信念,加害
者の理想化
(ウ)他者との関係の変化
①他者を信頼して人間関係を維持することができないこと
②再び被害者となる傾向
③他者に被害を及ぼす傾向
オ「意味体系における変化(クラスタE)のうち2項目の症状及び状態」
に該当すること「意味体系における変化」とは,慢性的な絶望感やその。
体験以前にその人を支えていた価値観や希望,信念の喪失が表れることで
ある。
(ア)絶望感と希望の喪失
(イ)以前の自分を支えていた信念の喪失
しかし,上記のDESNOSの診断基準に照らしても,原告がDESNO
。,,Sに罹患したとは認められないすなわちDESNOSと診断されるには
上記の判断基準のクラスタAないしEに該当する症状がなければならないと
ころ,原告には,クラスタD及びEに該当するとみられる症状を認めるに足
りる証拠がないから,DESNOSに罹患したと断定することはできない。
K助教授の意見書(甲16)も,原告のカルテや診断書等の記載の中から,
クラスタD及びEに該当すると見られる症状が見あたらないことを認めてい
る。
よって,原告のDESNOSに罹患したとの主張を認めるに足りる十分な
証拠があるとはいえない。
5原告の損害額について
,,,上記13の事情を考慮した上で原告の精神的苦痛を金銭的に評価すれば
150万円を相当とすべきである。
なお,原告は,被告Aらの責任を追及するために,弁護士の協力を得る必要
,。,があったことから弁護士費用も相当因果関係のある損害となるその金額は
本件に顕れた諸事情に鑑み,20万円が相当である。
以上より,原告の損害は,170万円となる。
6争点(3)被告Aらの個人責任について
原告は,公務員である被告Aらの個人の不法行為責任も認められるべきであ
ると主張する。
しかし,公権力の行使に当たる公務員の職務執行について,故意又は過失に
より違法に他人に損害を与えた場合,当該公務員が属する国又は公共団体が賠
償責任を負うとするのが国家賠償法の趣旨であって,当該公務員個人はその責
任を負わないと解するべきである(最三小判昭和30年4月19日民集9巻5
号534頁参照。)
原告は,公務員個人が行った行為が明白な違法性がある故意行為の場合は,
,。公務員個人の責任を認めても公務を萎縮させることにはならないと主張する
しかし,国家賠償法1条2項は,公務員に故意ないし重過失がある場合,国又
は自治体が当該公務員に対して求償することができる旨を規定し,国による求
償の範囲を限定している。この規定の趣旨からすれば,国家賠償法は,代位責
任のみを規定し,公務員及び国ないし自治体が不真正連帯債務を負うものでは
ないと解するべきである。したがって,国家賠償法上,公務員個人に対する損
害賠償請求はなしえないことから,原告の主張に理由はない。
よって,原告の被告Aらに対する請求に理由はない。
7結論
以上より,本訴請求のうち被告市に対して170万円及びこれに対する平成
14年12月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を請求する
限度で理由があるからこれを認容するが,その余の被告市に対する請求及び被
告Aらに対する請求については理由がないのでこれを棄却することとし,訴訟
費用の負担につき,民訴法64条本文,61条を,仮執行宣言につき,同法2
59条1項を適用して,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第25民事部
裁判長裁判官稻葉重子
裁判官鳥飼晃嗣
裁判官島崎卓二

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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒105-0003 東京都港区西新橋2-7-4 CJビル6F
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒105-0003 東京都港区西新橋2-7-4 CJビル6F
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒105-0003 東京都港区西新橋2-7-4 CJビル6階
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