弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1第18号事件原告,第19号事件原告及び第20号事件原告らの請求
をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,第18号事件原告,第19号事件原告及び第20号事件
原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
第18号事件原告株式会社P1,第19号事件原告P2株式会社(以下「原
告P2」という)及び第20号事件原告ら(以下,第18号,第19号及び。
第20号事件の各原告15社を併せて単に「原告ら」という)に対する公正。
取引委員会平成14年(判)第○○号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関
する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第35号)附則第2条の規定
によりなお従前の例によることとされる同法による改正前の私的独占の禁止及
び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という)違反審判事件。
(以下「本件審判事件」という)について第18号・第19号・第20号事。
件各被告(以下,単に「被告」という)が平成18年11月27日付でした。
審決(以下「本件審決」という)を取り消す。。
第2事案の概要
1本件審決は,いずれも種子の元詰販売業者である原告らを含む事業者らが,
共同して,遅くとも平成10年3月19日以降,はくさい,キャベツ,だいこ
ん及びかぶ(以下「本件4種類」という)の交配種の種子について,販売価格。
を定める際の基準となる価格(以下「基準価格」という)を毎年決定し,当該。
基準価格の前年度からの変動に沿って,品種ごとに販売価格を定め,取引先販
売業者及び需要者に販売する旨合意することにより,公共の利益に反して,我
が国における本件4種類の交配種の種子の各販売分野における競争を実質的に
,,制限していたと認め独占禁止法2条6項の不当な取引制限に該当するとして
排除措置を命じるものであるところ,本件は,本件審決を受けた原告らが,本
件審決の認定は競争の実質的制限や相互拘束性等について実質的証拠を欠いて
おり,本件審決が認定する違反行為は存在しない等と主張して,その取消しを
求めた事案である。
2前提事実(当事者間に争いがない事実,本件審判事件の記録上明らかな事実
及び被告が本件審決で証拠により認定した事実で原告らが実質的証拠の欠缺を
主張していない事実)
()当事者1
原告らは,それぞれ肩書地に本店を置き,本件4種類の交配種の種子(た
だし,第20号事件原告有限会社P3(以下「原告P3」という)は,はく。
,,,)さいとキャベツのみ同P4株式会社はキャベツだいこん及びかぶのみ
を生産し,又は購入して包装し,包装容器に自社の名称を表示して,卸売業
者,小売業者等に販売してきている(査1,32,34)。
以下原告らと同じく本件審決の対象となった訴外株式会社P5以下P(,(「
5という同P6株式会社以下P6という同株式会社P7以」。),(「」。),(
下「P7」という)及び同P8株式会社(以下「P8」という)を併せた。。
19社を「被審人ら」ということがあり,被審人らに,いずれも種子の元詰
業者であり,本件審決に先立つ勧告審決の対象となった別紙表2記載の13
(「」。)「」。)。社以下13社というを加えた32社を32社ということがある
()交配種の種子の販売について2
ア野菜の交配種は,遺伝的性質の異なる品種同士を交配させて親品種の優
れた特性を受け継いだ均一な遺伝的性質を一代目に発現させるよう育種さ
れた品種であり,その優れた特性は次の代には失われるため,交配種の種
(),。子の需要者野菜栽培農家等は毎年新たに種子を購入する必要がある
イ原告らを含む32社は,それぞれ,自社が販売する本件4種類の交配種
の種子を以下の(ア)ないし(ウ)のうちいずれかの方法により,又はこれら
の方法を併用することにより生産し,又は購入している。
(ア)自社が保有する採種場で採種することにより生産する。
(イ)採種栽培農家,その組合又は(ア)により生産する者に対して採種を
委託することにより生産する。
(ウ)(ア)又は(イ)により生産する者又は商社から購入する。
(査54から63,65から67)
ウ原告らを含む32社は,それぞれ,自社が販売する本件4種類の交配種
の種子について,袋・缶等の容器に詰め(上記(ウ)の方法による者におい
て当該容器に詰められたものを購入する場合を含む,当該容器に自社の。)
名称を表示して販売しており(以下,上記の方法により交配種の種子を生
産し,又は購入した上,これを販売する者を「元詰業者」といい,元詰業
者が上記の方法により販売する交配種の種子を「元詰種子,本件4種類の」
交配種の種子を「4種類の元詰種子」という,国内において,需要者で。)
ある野菜栽培農家及び一般消費者に対して,直接に,又は卸売業者,小売
業者,農業協同組合(いわゆる単位農協をいう。以下「農協」という)若。
しくはその連合会を通じて販売野菜栽培農家において共同購入以下共((「
購」という)を行う場合の販売を含む)をしている。。。
なお,平成12年度(この項(())における年度は,4月1日から翌年2
3月末日までの期間である)の国内における元詰業者の4種類の元詰種子。
の総販売金額は,それぞれ,約12億2100万円(はくさい,約23億)
3100万円(キャベツ,約41億2900万円(だいこん,約4億1))
(),(「」500万円かぶであり32社のうち訴外P9株式会社以下P9
という)及び訴外P10合名会社(以下「P10」という)を除いた3。。
0社の販売金額の合計のこれに占める割合は,はくさいについては98.
7パーセント,キャベツについては91.5パーセント,だいこんについ
ては92.7パーセント,かぶについては94.9パーセントであり,3
(,。)2社平成10年度及び平成11年度についてはP9及びP10を除く
の販売金額の国内総販売金額に占める割合は,平成10年度,平成11年
,度及び平成13年度においても平成12年度と大差のないものと考えられ
32社の4種類の元詰種子のそれぞれの種類の販売金額の合計は,国内に
おいて販売されるそれぞれの種類の元詰種子の総販売金額のほとんどすべ
て又は大部分を占めていると認められる。
(査12,32,36,412,457)
()元詰種子の価格設定について3
ア元詰業者の価格表価格
32社は,それぞれ,自社が販売する4種類の元詰種子について,毎年
5月から7月までの間の特定の日(32社それぞれの特定の日(新価格の
適用開始時期)は,別紙表4のとおり)を始期とする1年間(以下,この
1年間を「年度」という)に適用される取引先販売業者及び需要者(以下。
「取引先」という)向けの価格を設定し,これを記載した価格表を取引先。
に配布していた。
32社は,それぞれの価格表において,別紙表5のとおり,取引形態に
応じた価格を設定しており,各社の取引形態の呼称は区々であるが,ほぼ
各社とも,概ね,平成9年度から平成13年度までの期間において,別紙
表5の①「小売(1袋」欄記載の「小売」等と称する需要者(共購を除く)
。)(「」。),野菜栽培農家及び一般消費者をいう向け価格以下小売価格という
②「農協(10袋」欄記載の「農協」等と称する農協向け価格(以下「農)
協価格」という,③「大卸(10袋」欄記載の「卸単価10袋」等と称。))
する小売業者向け価格以下大卸価格10袋という④大卸1(「()」。),「(
00袋」欄記載の「卸単価100袋」等と称する小売業者向け価格(以下)
「大卸価格(100袋」という)を設定していた。ただし,②を設定し)。
ていない元詰業者が5社あったほか,別紙表5の「共購(10袋」欄記載)
の「共購」等と称する共同購入による野菜栽培農家向け価格(以下「共購
価格」という)を設定している元詰業者も2社あった(以下,価格表上。。
「」,「」,「()」,「()」の小売価格農協価格大卸価格10袋大卸価格100袋
及び「共購価格」を総称して「価格表価格」という)。
なお,各社の価格表にいう1袋又は1缶の容量は,5ミリリットルに満
たない小袋,20ミリリットル,1デシリットル,2デシリットル,1リ
ットル,5,000粒,10,000粒と様々であるが,32社のすべて
が,はくさい及びキャベツについて20ミリリットルの容量の商品を,だ
いこんについて2デシリットルの容量の商品をそれぞれ有しており,かぶ
については2デシリットルの容量の商品が最も多い。
(査3,251から402)
イ実際の販売価格
32社は,それぞれ,自社の価格表価格に基づき販売価格を定めて販売
をしているが,小売業者又は農協に対し卸売業者等の中間販売業者を経由
して販売する場合には,価格表価格の小売向け価格又は農協向け価格を基
にし,卸売業者等のマージンを差し引くこととしていた。
また,32社は,販売に際し,取引先との取引年数,従来の取引金額,
取引数量の多寡等に応じて,価格表価格から値引き・割戻しを行ったり,
年に2回ないし4回の売上代金の集金の際に,総額から一定の値引き・割
戻しを行ったりしていた。
(査11,32,34から38,40,41,43から63,65から6
7,被審人P11代表取締役P12(以下「P11のP12」という)の。
,,,,,)代表者審訊における供述審C2の12の3の1及び23915
()基準価格の決定4
ア社団法人P13
社団法人P13(東京都文京区所在。以下「P13」という)は,園芸。
農作物等の種苗について育種,生産又は販売を行う者を会員とし,園芸農
作物等の種苗に関する民間の品種改良の促進,園芸農作物等の種苗の生産
の改善,優良な園芸農作物等の種苗の円滑な流通及び国際交流の発展を図
ることにより,我が国園芸農作物等の生産の振興に資し,もって国民生活
の改善に寄与することを目的として,昭和48年12月5日に設立された
社団法人である。
P13は,意思決定機関である総会及び理事会のほか,会員の専門分野
における調査,研究等の活動を促進することを目的として14の専門部会
を設けていたが,32社は,いずれもP13の会員であって,専門部会の
一つである元詰部会に所属していた。
(査4,54から56,58から63,65から67,452)
イ元詰部会討議研究会
遅くとも平成7年から平成9年までの間,毎年3月に台東区α内のP1
4において,32社のうちP9及びP10を除く30社の大部分の代表者
又は営業責任者級の者(以下「代表者等」という)が出席して,P13の。
「元詰部会討議研究会(以下「討議研究会」という)が開催され,4種」。
,,,類の元詰種子について作柄状況市況等の情報交換が行われるとともに
。等級・取引形態に応じて設けられた区分ごとに基準価格が決定されていた
(査13から31)
平成10年から平成13年までの間においても,毎年3月にP14にお
いて,32社の大部分の代表者等が出席して討議研究会が開催され,その
出欠状況は別紙表6のとおりであり,平成11年3月の討議研究会には第
20号事件原告P15株式会社(以下「原告P15」という,P8及び。)
訴外株式会社P16(以下「P16」という)が,平成12年3月の討議。
研究会にはP7,原告P15,P8及びP16が,平成13年3月の討議
,。(,研究会にはP16及び訴外P17株式会社がそれぞれ欠席した査91
138,181,204)
ウ平成10年3月以降平成13年3月までに開催された討議研究会につい
ては,開催に先立ち,毎年1月又は2月ころ,元詰部会長名で元詰部会員
宛に「元詰部会討議研究会の開催について」と題する案内状が発出され,
案内状には,開催日時,場所,議題のほか,討議研究会の会場において,
アンケート用紙を配布し,その場でとりまとめるので,例年の様式を前提
に,予めアンケートへの回答を検討しておくべきことが記載されていた。
討議研究会においては,野菜種子の作柄状況,市況等について情報交換
が行われた後,基準価格の検討に進み,はくさい,キャベツ及びだいこん
の元詰種子の「A「B」及び「C」の各等級区分並びにかぶについて,」,
基準価格を引き上げるか,引き下げるか,又は据え置くかに係る各元詰業
者の希望についてアンケート調査が行われ,その集計結果が発表された。
,,,その後基準価格について意見交換が行われこれを司会が取りまとめて
4種類の元詰種子について小売価格の基準価格が決定された。
引き続き,共購価格の基準価格については小売価格の基準価格の92パ
ーセントの10倍の,農協価格の基準価格については小売価格の基準価格
の84パーセントの10倍の,大卸価格(10袋)の基準価格については
小売価格の基準価格の62パーセントの10倍の,大卸価格(100袋)
の基準価格については小売価格の基準価格の60パーセントの100倍の
各金額が算出され,これらの金額の100円未満の端数を処理して,基準
価格が決定され,席上で発表されていた。
(査32から36,39,40,41,43から45,50,52,56
から62,66,67,70,71,78から112,114,116,
,,,,,,119121から123126から130132133135
137から140,142から156,158から167,169,17
1から175,177,178,180から185,188から191,
195,198,201から207,208,210から215,219
から222,225,226,229から231,234,239,24
0,243,245,249)
エ各年度における討議研究会における基準価格決定の状況
(ア)平成10年度の討議研究会は,同年3月19日午前11時から開催
され,32社のうち別紙表6中「平成10年3月19日」欄に○印を付
した30社の代表者等(別紙表7−1)が出席した。
上記30社の代表者等は,元詰部会長である原告P2代表取締役P1
,,8の挨拶に引き続きP6種苗部長P19の司会で野菜種子の作柄状況
市況等について情報交換を行い,訴外P20株式会社(以下「P20」
という)取締役P21の司会で基準価格の検討を行った。。
アンケート調査では,4種類の元詰種子について「横ばい」と回答し
た元詰業者が多かったものの,意見交換の中で,据え置いた場合にはそ
の後に検討される他の部会での価格にも影響を及ぼすとして値上げを推
し進める意見が出され,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞ
れについて引き上げることとされた。
具体的には,小売価格の基準価格について,平成9年度から,①はく
さいのA区分及びB区分は50円,C区分は100円,②キャベツのA
区分,B区分及びC区分は100円,③だいこんのA区分は100円,
B区分は200円,C区分は300円,④かぶは200円それぞれ引き
上げることとし,別紙表8−1の「小売価格(1袋」欄記載のとおり小)
売価格の基準価格が決定され,引き続き,上記ウ記載の方法により,同
表の共購価格10袋欄農協価格10袋欄大卸価格1「()」,「()」,「(
0袋」欄及び「大卸価格(100袋」欄記載のとおり,平成10年度))
の取引形態別の基準価格が決定された。
(,,,,,,,,,査3234394043から4550525659
60,70,71,78から112)
(イ)平成11年度の討議研究会は,同年3月16日午前11時から開催
され,32社のうち別紙表6中「平成11年3月16日」欄に「○」印
を付した27社の代表者等(別紙表7−2)が出席した。
上記27社の代表者等は,元詰部会長である原告P2代表取締役P1
,,8の挨拶に引き続きP6種苗部長P19の司会で野菜種子の作柄状況
市況等について情報交換を行い,P20取締役P21の司会で基準価格
の検討を行った。
アンケート調査では,4種類の元詰種子の各基準価格について「上げ
る」と回答した元詰業者が多く,意見交換の中でも,多くの出席者から
種子の高品質化が進んでいるため引上げが必要であるとの意見が出され
たことから,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞれについて
引き上げることとした。
具体的には,小売価格の基準価格について,平成10年度から,①は
くさいのA区分及びB区分は50円,C区分は100円,②キャベツの
A区分及びB区分は100円,C区分は150円,③だいこんのA区分
及びB区分は100円,C区分は200円,④かぶは200円それぞれ
引き上げることとし,別紙表8−2の「小売価格(1袋」欄記載のとお)
,,,り小売価格の基準価格が決定され引き続き上記ウ記載の方法により
同表の「共購価格(10袋」欄「農協価格(10袋」欄「大卸価格),),
(10袋」欄及び「大卸価格(100袋」欄記載のとおり,平成11))
年度の取引形態別の基準価格が決定された。
(,,,,,,,,,,査353639415257616266114
116,119,121から123,126から130,132,13
,,,,)3135137から140142から156158から167
(ウ)平成12年度の討議研究会は,同年3月15日午前11時から開催
され,32社のうち別紙表6中「平成12年3月15日」欄に「○」印
を付した26社の代表者等(別紙表7−3)が出席した。
上記26社の代表者等は,元詰部会長である原告P2代表取締役P1
,,8の挨拶に引き続きP6種苗部長P19の司会で野菜種子の作柄状況
市況等について情報交換を行い,P20取締役P21の司会で基準価格
の検討を行った。
アンケート調査では,4種類の元詰種子の各基準価格について「横ば
い」と回答した元詰業者が多く,意見交換の中でも,青果物市場におけ
る野菜の価格低迷で値上げができる環境にないとの意見が出されたこと
から,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それぞれについて前年度
のまま据え置くこととし,別紙表8−3の「小売価格(1袋」欄「共),
購価格(10袋」欄「農協価格(10袋」欄「大卸価格(10袋」),),)
欄及び「大卸価格(100袋」欄記載のとおり,平成12年度の取引形)
態別の基準価格を据え置くことが決定された。
(,,,,,,,査3239167169171から175177178
180から185,188から191,195,198,201から2
03)
(エ)平成13年度の討議研究会は,同年3月14日午前11時から開催
され,32社のうち別紙表6中「平成13年3月14日」欄に「○」印
を付した30社の代表者等(別紙表7−4)が出席した。
上記30社の代表者等は,元詰部会長である原告P2代表取締役P1
8の挨拶に引き続き,P8代表取締役P22の司会で野菜種子の作柄状
況,市況等について情報交換を行い,P20取締役P21の司会で基準
価格の検討を行った。
アンケート調査においては4種類の元詰種子の基準価格について横,「
ばい」と回答した元詰業者が多く,意見交換の中でも,農薬,肥料及び
資材の価格が上がっていない現状では引上げの理由は見いだせないとの
意見が出されたことから,当年度の基準価格を,4種類の元詰種子それ
ぞれについて前年度のまま据え置くこととし,別紙表8−4の「小売価
格1袋欄共購価格10袋欄農協価格10袋欄大()」,「()」,「()」,「
卸価格(10袋」欄及び「大卸価格(100袋」欄記載のとおり,平))
成13年度の取引形態別の基準価格を据え置くことが決定された。
(査33,39,58,67,204から208,210から215,
219から222,225,226,229から231,234,23
9,240,243,245,249)
3本件審決
()ア被告は,平成14年8月26日,32社に対し,4種類の元詰種子の価1
格設定に関し独占禁止法違反行為があるとして適当な措置をとるべきこと
を勧告し,別紙表2記載の13社はこれを応諾したため,13社に対して
勧告審決がされた。
イ被告は,平成14年10月16日,被審人らについて,13社と共に,
遅くとも平成10年3月19日以降(P9及びP10にあっては平成13
年3月14日以降,4種類の元詰種子について,販売価格の低落防止等を)
,,図るため種類ごとに各社が販売価格を定める際の基準価格を毎年決定し
各社は当該基準価格の前年の基準価格からの変動に沿って各社の4種類の
元詰種子の品種ごとの販売価格を定めて販売する旨の合意の下に,毎年3
月に各社の代表者等による会合を開催し,野菜の種類,品質等に応じて設
,(),,けたAB及びCの区分かぶは区分なしごとに需要者向け農協向け
小売業者向け等の形態及び取引単位に応じた基準価格を決定し,基準価格
の引上げ又は維持を行っていた等として審判開始決定をし,審判手続を経
た後,平成18年11月27日,審判審決(本件審決)を行った。
()被告が独占禁止法の規定に基づき,平成13年8月29日,上記の審査を2
,,,開始したところ32社のうち別紙表10記載の26社は同年10月4日
静岡県熱海市所在のP23において開催したP13の理事会において,同年
,3月14日に行った4種類の元詰種子の基準価格の決定を破棄するとともに
以後元詰種子の販売価格に関する話合いを行わない旨の申合せを行った査,。(
38,403から405)
()本件審決の要旨3
本件審決は,32社が,共同して,4種類の元詰種子について,遅くとも
平成10年3月19日以降(P9及びP10にあっては平成13年3月14
日以降,)
ア毎年3月に開催されるP13の討議研究会において,各社がその年の5
月ないし7月に始まる年度(当年度)における販売価格を定める際の基準
となる価格(基準価格)を決定すること,
イ基準価格は,はくさい,キャベツ及びだいこんについては,普通品種,
中級品種及び高級品種として,それぞれ「A「B」及び「C」の区分を,」,
設け各等級区分ごとに決定し,かぶについては,等級区分を設けないで決
定すること,
ウ基準価格は,小売価格,共購価格,農協価格,大卸価格(10袋,大卸)
価格(100袋)の別に決定すること(1袋の容量は,はくさい及びキャ
ベツについては20ミリリットル,だいこん及びかぶについては2デシリ
ットル,)
エ各社は,基準価格の前年度からの変動に沿って,品種ごとに,当年度に
自社が適用する価格表価格(以下「当年度の価格表価格」という)及び個。
別の取引における販売価格を定めて販売すること,
オ各社の価格表価格の設定は,①基準価格が引き上げられた場合には,は
くさい,キャベツ及びだいこんについては価格表価格と基準価格が一致す
る品種は引き上げられた基準価格どおりに,その余の品種は前年度の価格
表価格と近似する基準価格又は前年度の価格表価格の上下にある基準価格
の引上げ額又は引上げ率と同程度の引上げとなるように,当年度の価格表
価格を引き上げ,かぶについては,価格表価格が基準価格と一致する品種
及びその余の一致しない品種のいずれも,基準価格の前年度からの引上げ
額又は引上げ率と同程度の引上げとなるように,当年度の価格表価格を引
き上げ,②基準価格が据え置かれた場合には,価格表価格を据え置くこと
を内容とする合意(以下「本件合意」という)をすることにより,公共の。
利益に反して,我が国における4種類の元詰種子の各販売分野における競
争を実質的に制限していたものであって,これが独占禁止法2条6項に規
定する不当な取引制限に該当し,同法3条の規定に違反するものと判断し
た。
被告は,上記()の動きにより,平成13年10月4日以降,本件合意は2
事実上消滅しているものと認められるが,被審人らは13社とともに長期
間にわたって協調的関係を維持していたこと,また,本件合意の消滅は被
告の審査開始(立入検査)という外部的要因に基づくものであり,被審人
らの自発的な意思に基づくものではなかったことから,今後同様の行為を
繰り返すおそれがあると認められるとして,本件審決をしたものである。
本件審決は,被審人らに対し,①本件合意を破棄していることを確認しな
ければならないこと,②これに基づいて採った措置及び今後本件合意と同
様の合意をせず,各社がその販売価格をそれぞれ自主的に決める旨を,予
め,被告の承認を受けて,それぞれの取引先販売業者及び需要者に周知徹
,,底させなければならないこと③今後4種類の元詰種子の販売価格に関し
他の事業者と相互にその事業活動を拘束する合意をしてはならないこと,
④①から③に基づいて採った措置を速やかに被告に報告しなければならな
いこと(以下「本件排除措置」という)を命ずることを内容とする。。
第3争点及びこれに対する当事者の主張
1本件の主たる争点は,次のとおりであり,原告らの主張及びこれに対する被
告の反論は,2から10に記載のとおりである。
()本件合意の存在について実質的証拠はあるか。特に,基準価格の決定が1
毎年P13の討議研究会の場で決められていたことから,これを原告らを含
む元詰業者の間の価格決定に関する本件合意に結びつけることについて実質
的証拠を欠くのではないか。また,本件で対象とされる4種類の元詰種子の
ほかに5種類の元詰種子についても併せて同様の価格についての協議が討議
研究会の場で行われてきていたにもかかわらずこれら5種類の元詰種子につ
いては審判の対象から外されていることが本件合意を一つの合意としてとら
。〔〕えるについて障害となるか2から5
()本件合意の相互拘束性について実質的証拠はあるか。特に,討議研究会2
における基準価格の決定は目安ともいうべきもので,抽象的であり,具体的
な販売価格を設定するに至る過程についてはあいまいなままで,これにより
他の事業者の事業活動を予測し得ないのに,実質的証拠なく相互拘束性を認
。〔〕定したのではないか6
()本件合意が実質的な競争制限をもたらすことについて実質的証拠はある3
か。特に,元詰種子を購入する際には,品種の特性が重視されるため,価格
競争が品種間においてはみられないか,少なくともわずかでしかないという
ことがいえるところ,このことが競争制限をもたらさないという結果につな
がるのではないか。また,合意の具体的な販売価格への影響等についての認
定を欠いたまま合意には実質的な競争制限の効果があるとの結論に導くこと
。〔〕は相当か7
()本件合意を認定するについて,一定の取引分野の画定が正しく行われて4
。〔〕いるか8
()本件審決は,5
ア過去,被告が同様の事件を不問に付したにもかかわらず,警告もなしに
審決に至った違法
イ審判合意と異なる合意を認定して,被審人らの防御の機会を奪った違法
ウ主文に示された合意の内容が不明確である違法
エ立証責任を負う審査官の主張に対する判断を示さないまま被審人らの主
張に対する判断だけで結論を出している違法
,。〔〕などの違法があるが故に取り消されるべきであるか9
()本件においては,排除措置を命ずるために課せられている「特に必要が6
あると認めるとき」という要件が充足されているか。被告は,命令を出すに
,。〔〕当たりこの点についての裁量の範囲を逸脱していないか10
2本件合意の存在につき実質的証拠がないことについて
(原告らの主張)
()本件合意の内容は多岐にわたる上,具体的かつ積極的行為を要するもので1
あるが,このような詳細な合意が32社という多数の事業者間で黙示でなさ
れることは常識的にあり得ず,経験則上極めて不合理であるから,本件審決
の認定は,違法な認定というべきである。また,毎年3月の討議研究会にお
いて,基準価格を決定してきたことから本件合意を認定し,あるいは合意成
立後の事実に依拠して本件合意を認定することには無理があり,本件合意の
成立時期に触れていないことからも,本件合意の存在については実質的証拠
を欠いているというべきである。
,,,()本件合意を32社が共同して行ったというためには意思の連絡を要し2
相互にその内容を認識し,認容することを要するところ,本件審決はこれに
ついて全く触れておらず,意思の連絡については実質的証拠がない。
討議研究会での基準価格の決定は,本件合意の存否に関わりなく行われる
ものである。また,討議研究会における基準価格の決定に関する元詰業者の
代表者等の発言は,討議研究会についての相互の認識を示すものとはいえる
ものの,本件合意によると,意思の連絡を要し,相互に認識し認容すべきで
あるのは毎年の基準価格に関する合意を討議研究会の決定に委ねることであ
って,毎年の基準価格決定そのものではないから,32社の代表者等の発言
内容とは乖離している。したがって,いずれの事実も本件合意のうち第2の
3()アの存在の間接事実とはならず,この点についての実質的証拠がない。3
また,本件合意のうち同イ及びウに係る等級区分は,平成8年以降に行わ
れるようになったものであるから,平成10年3月19日以降本件合意が存
在したというのであれば,32社は討議研究会以外に会合を持っていないた
め,平成8年か平成9年の討議研究会において本件合意が成立していなけれ
ばならないところ,等級区分以外の上記イ及びウの内容は相当以前から行わ
れていたもので,平成8年か平成9年に本件合意をする動機はない。本件審
決では,相当以前から続けられてきたとの認定をするのみで,同イの具体的
な合意について実質的証拠は摘示されていないし,同イ及びウの内容につい
,て32社が相互に認識し認容していたことについても触れられていないから
実質的証拠を欠いている。
本件合意のうち同オについては,討議研究会における基準価格決定の帰結
としての価格表価格の設定についてはこのように言い得るかもしれないが,
審判開始決定で認定されている合意(以下「審判合意」という)では,違反。
行為そのものではなく,本件合意の実施行為とされていたものであり,同エ
及びオのような合意をする動機も意図も不明であるから,これについても実
質的証拠を欠く。
なお,本件審決は,原告らが平成7年以降平成10年3月18日までの間
に本件合意を形成することは事実上も論理上も不可能であると主張したこと
に対し,あり得べき本件合意の形成過程がすべて否定されるわけではないと
判示するが,立証責任上原告らがあり得べき本件合意の形成過程のすべてを
否定しなければならないものではないから,このような判示は不当である。
(本件合意の存在についての主張に対する被告の反論)
()本件審決は,本件合意の存在を,毎年度の討議研究会における決定とは別1
個のものとして,元詰業者の代表者等の供述,これを裏付ける毎年度の基準
価格の決定及び価格表価格の設定の状況等から認定しており,実質的証拠に
基づいている。
()意思の連絡とは,当該競争制限行為をすることを互いに認識・認容し,こ2
れに歩調をそろえるという意思が形成されることをいうのであり,黙示的な
もので足りるところ(東京高裁平成7年9月25日判決・判例タイムズ90
6号136頁,毎年討議研究会において32社で基準価格を決定し,これに)
基づき,その前年度からの変動に添って各事業者の販売価格を決定して販売
するという合意につき,32社が相互に認識し,歩調をそろえる意思を有し
ていたことは本件審決が引用する証拠により認定することができる。不当な
取引制限に該当する合意においては,事業者らが共同して一定の具体的積極
的な行為をすることを黙示的に合意する場合が多く,本件合意が通常と異な
る特別なものと解する理由は見当たらない。
繰り返し行われる違反行為により侵害された競争秩序を回復するために
は,繰り返される違反行為の前提であり,繰り返されることにより維持強化
されてきた事業者間の基本合意そのものを排除しなければならないのであっ
て,本件では,毎年討議研究会の場で基準価格に係る情報及び意見交換を通
じて価格協定を成立させるという事業者間の合意に,相互拘束性があり,競
争を実質的に制限する効果があったとして,これを基本合意ととらえ,排除
の対象たる違反行為としたものである。
基本合意を認定するに当たり状況証拠による認定の手法を使ってはならな
い理由はなく,直接証拠がない場合にのみ共通認識等による状況証拠による
認定の手法を採用できるとの制約を課す理由もない。
()合意の立証に当たり,意思の連絡の形成過程を日時場所等により特定する3
必要はなく,間接事実を含む何らかの証拠により意思の連絡が存在している
ことが推認できれば足り,合意の参加者において合意内容に即した行為(実
施行為)がみられるときは,合意の存在を推認する重要な間接事実となるも
のというべきである(東京高裁平成18年12月15日判決。)
また,不当な取引制限における相互拘束性を認定するに当たり,意思の連
絡により相互に事業活動が拘束されていた事実が明らかにされればよく,相
互拘束の動機まで明らかにしなければならないものではないのと同様に,合
意の形成過程についての徴表も,不当な取引制限の主要事実ではないから,
これを立証しないからといって立証を放棄したことにはならない。基本合意
の形成過程についても,これを特定し立証しなければならないものではない
から,合意の成立時期が特定されることは必要ではない。
3仮に合意が存在するとしても,それは事業者団体の行為であって,本件合意
の主体とされる個々の事業者相互の行為であることについては,実質的証拠が
ないことについて
(原告らの主張)
()本件審決は,32社の代表者等の供述から32社が合意の主体であるこ1
とを認定しているが,各供述調書上の「われわれ元詰業者」との記載は,主
語として便宜的に使用されたもので,本件合意の主体に係る当時の確定的認
識内容を表すものではなく,これを事業者としての表現であると認定するの
は恣意的である。
()32社は,P13の現在の構成事業者として,P13が行う種子の価値2
交換,基準価格を示す行事に受動的に参加してきただけで,自発的な意思に
基づいてそこでの行為を行ったものではない。討議研究会における基準価格
の決定は,P13の提案,発意によりP13の行事として行われており,元
詰種子を国内向けに販売していない32社以外の業者や最終需要者である野
菜栽培農家の経済的事情やニーズ等を代弁するため小売部会長も出席して積
極的に意見を述べるなどしている外,議事も結果報告も,P13として行わ
れている。P24及びその後身であるP13(昭和48年4月専門部会の組
織と運営を引継)の部会では,昭和28年以降,基準価格を議論し,決定し
てきたものであり,32社が本件合意を実施するための手段として利用する
ために基準価格の決定をしてきたのではないことは明らかである。このよう
に事業者団体の組織・仕組みによってのみ元詰業者らの行動がなされている
場合には,32社の合意とは評価し得ないものというべきであるし,花き部
会等のP13の他の専門部会における同種の価格決定行為については,被告
がP13という事業者団体の行為として警告していることに照らしても,本
件合意は団体としてのP13によりなされたものとみるべきであり,これを
事業者の行為と同視することは,不可能であるし,方針の一貫性を欠く。
()元詰部会では,32社以外の事業者らも議論に参加しているところ,価3
格に関する合意をカルテルに参加しない事業者の面前で公然と行うことは通
常考えられない。本件審決には,元詰部会の一部の出席者を除外する一方,
欠席者を含めた32社を主体とする行為の存在を合理的に認定し得る証拠は
全く示されていない。被告は,合意内容に則した行動をとっていない事業者
は合意参加者とみることができないと主張するが,不当な取引制限は,市場
における競争の実質的制限をもたらす合意がされれば足り,合意内容を実施
することは違反行為の成立要件ではないから,被告の主張は失当である。
()被告の審査開始を受けて,今後元詰種子の販売価格に関する話合いをし4
,,ない旨の申合せをしたのはP13理事会であって個々の事業者ではないし
理事会には原告P3,P7,第20号事件原告P25株式会社は出席してい
ないから,理事会決議の主体と被審人らは同一ではない。なお,上記理事会
決議は,今後基準価格に関する決定をやめ,現在効力を有している基準価格
の決定を取り消したもので,本件合意を破棄したものではない。
()被告は,石油価格協定事件最高裁判決(最高裁昭和59年2月24日第5
二小法廷判決・刑集38巻4号1287頁)を引用して,違反行為の主体が
事業者団体であると評価できるとしても,同時に元詰業者らの行為であると
も評価できる場合には,元詰業者らに対し法的措置を取ることができると主
張するが,上記最高裁判決は,事業者団体が違反行為の主体である場合に,
これを構成する各事業者についての処罰規定を欠いているため,事業者団体
と共にこれを構成する各事業者の刑事責任を問うことができるかについて判
,,,断したものであるところ違反行為に対する行政処分については現行法上
違反行為の主体が事業者団体であっても,課徴金納付命令が課されるのは当
該事業者団体の構成事業者に対してであるし,排除措置命令も事業者団体の
外,その構成事業者に課すことも可能であるから,違反行為の主体が事業者
団体であるにもかかわらずこれを構成事業者による行為ととらえなければな
らない必要性はない。したがって,上記判断は,事業者団体による違反行為
につき構成事業者の刑事責任を問う場合に適用され,行政処分を課す場合に
まで適用されると解すべきではない。
本件審決において問題とされる毎年の基準価格の決定は,本件合意の実施
行為として本件合意の存在の間接事実となるに過ぎないから,事実としての
存否が問題となるのであり,そのこと自体が法的評価の対象としての独占禁
止法違反行為となるものではないから,上記最高裁判決とは判断の局面が異
なっている。
(合意が事業者団体の行為であるとの主張に対する被告の反論)
()基準価格決定が団体の規律の下に行われたこと,討議研究会の案内や連1
絡行為がP13によるものであり,関係場所がP13の場所であること,議
事がP13の組織と様式で行われ,P13として意思決定がされ,結果報告
がP13としてされていること,基準価格の討議決定に32社以外の元詰業
,,者や小売部会長が参加したこと32社の中に欠席した業者が複数あること
被告が花き部会等のP13の他の専門部会の同種の価格決定行為につき事業
者団体の行為としてこれを対象に警告を行ったことは認める。
()本件審決は,元詰業者の代表者等の「われわれ元詰業者は」という供述2
や「32社は討議研究会に出席すべき元詰業者である」ということのみから
32社を合意の主体と認定したものではなく,討議研究会における議論状況
等の分析,上記供述に沿った客観的証拠である開催に関する書証や討議研究
会の模様を記録した報告書等を含めて検討し,上記供述が32社を示すもの
と判断することが合理的であることから上記のように認定したものであっ
て,元詰部会の場における基準価格の決定がP13の活動であるとしても,
32社は本件合意を実行する手段として当該活動を利用したと評価できると
しているのである。討議研究会の議論の状況から明らかなとおり,元詰業者
らは,その代表者等が相互に直接的に意見を出し合って元詰種子の価格のあ
るべき方向を検討し,基準価格を決定し,これをもとに自社の価格表価格及
び販売価格を決定することについて相互に認識し,認容しており,実際にも
基準価格の変動に沿って自社の価格表価格及び販売価格を決定していたか
ら,これを32社の行為と評価することが十分可能である。基準価格の決定
において,P13の事務局が主体的に活動し,事務手続がP13の方式に則
りその活動の一環として行われていたとしても,元詰業者らが一堂に会して
相互に直接的に討議をして基準価格を決定している以上,元詰業者らの行為
であるという側面を排斥することにはならない。
()部会を異にすれば構成事業者も異なり,その相互の関係,基準価格に係3
る認識の状況も同一ではないし,野菜の種類が異なれば環境や需要者が異な
ることから,諸般の事情を考慮し,部会ごとにどのような行為が行われたか
を判断し,その結果,一方が警告に止まる場合でも他方は法的措置の対象と
なり,一方は事業者団体を対象とする場合でも他方は構成員を対象とする場
合があることは否定できないし,どのような対応をとるかは,被告の合理的
な裁量に委ねられている。
()石油価格協定事件最高裁判決の趣旨は,ある行為が事業者の行為とも事4
業者団体の行為とも評価できるとみられる場合に,どちらか一方の評価が優
先され,他方が排除されるという関係ではなく,被告の合理的な判断に委ね
られているというものであるところ,ある行為が,事業者団体の行為である
と同時に事業者団体を構成する各事業者の行為であると評価し得る場合があ
ることは事実認定レベルの問題であるから,上記の理は違反行為たる合意に
ついてであろうとその実施行為についてであろうと変わるところはなく,上
記最高裁判決の適用を排除する理由はない。また,刑罰の対象となる不当な
取引制限と行政措置の対象となる不当な取引制限とはその構成要件が同じで
あり,適用場面を異別に扱う理由がないし,倫理的道徳的非難がより強く,
運用の謙抑性が求められる刑事罰を課する場合には違反行為の主体を事業者
又は事業者団体のいずれにするかの裁量が被告に認められるのに,行政措置
の場合には認められないというのは均衡を失する。
,,()小売部会長は元詰業者の取引の相手方であり合意の参加者ではないが5
不当な取引制限に係る取引の相手方であっても当該不当な取引制限に係る行
為に関与することは,官製談合の場合のようにあり得るので,小売部会長が
出席して発言したとしても異とするほどのことではない。また,32社以外
の元詰業者が討議研究会に参加していたとしても,その元詰業者が本件合意
の内容に則した行動を取っていない場合などには,その元詰業者を合意参加
,,者とみることはできずこれを本件合意の主体と認めないことは当然であり
そのことにより本件合意の存在までもが否定されることにはならない。
,,他方32社のうち討議研究会に出席していない元詰業者がいたとしても
本件合意の内容を認識し,相互に歩調をそろえる意思があれば合意の参加者
であると認められるから,討議研究会に出席していたか否かと本件合意の主
体となるか否かとは直接結びつかない。欠席した元詰業者らは,出席した元
詰業者から決定された基準価格に関する資料をもらい,あるいは他の元詰業
者が基準価格に基づいて作成した価格表をもらうなどして自社の価格表価格
を決定していることなどに照らすと,本件合意内容を認識し,これに歩調を
そろえる意思を有していたものと認められ,他の事業者も,欠席者が何らか
の方法で基準価格を知って同調するであろうとの認識を有していたと認めら
れるのであるから,32社の間に意思の連絡があるということができる。
4事業者団体の行為としてしか評価できない事案においては,被告の自由裁量
により,これを独占禁止法3条違反として事業者の行為とすることはできない
ことについて
(原告の主張)
本件においては,32社が,基準価格を協議し,決定する仕組みを作ったこ
とを示す証拠はなく,既存の討議研究会の基準価格に関する仕組みを積極的に
利用し,強化しようとした形跡も全くないのであるから,独占禁止法3条と同
法8条とのどちらを適用するかについて被告が裁量権を有しているという議論
は暴論であり,違反行為者として評価することができない被審人らに対し排除
措置を命ずることは,法の適用を誤ったものである。
(独占禁止法3条の適用に関する被告の反論)
基準価格の決定がP13の行為であり,違反行為の主体が事業者団体である
と評価することができるとしても,同時に元詰業者らの行為であると評価する
こともできる場合には,元詰業者らに法的措置をとることは許容される。
不当な取引制限に当たるという場合の事業者相互間の意思の連絡は,相互に
対価の引上げといった違反行為の内容を認識した上で認容しあうことで足るの
であり,しかも,この認識・認容には黙示的なものも含まれるのであって,特
定の事業者が,他の事業者との間で対価引上げ行為に関する情報交換をして,
同一又はこれに準ずる行動に出たような場合には,当該行動が他の事業者の行
動と無関係に,取引市場における対価の競争に耐え得るとの独自の判断によっ
て行われたことを示す特段の事情が認められない限り,これらの事業者間に協
調的行動を取ることを期待しあう関係があり,認容しあうという意思の連絡が
あるものと推認することができるから,共同行為そのものが事業者団体の場に
おいてなされたとしても,同時に事業者間の共同行為とみられる場合があるこ
とは否定できず,情報交換の場が当該事業者団体の活動の場に限られていたと
しても,事業者間に上記の意味での意思の連絡が認められる場合には,独占禁
止法3条違反となるのである。事業者が事業者団体を離れて独自に協議情報交
換をする仕組みを作っていたり,事業者が事業者団体の行動を積極的に利用す
る意思を示している場合にのみ事業者の行為としてとらえることができるとの
原告らの主張は,独自の見解である。
基準価格の決定は討議研究会で行われているが,それは単に形式的・外形的
なものに過ぎず,実質的には討議研究会の場を借りて事業者が相互に情報交換
を行っており,その結果として,基準価格を決定しているということができる
し,事業者が相互に他の事業者と対価引上げ行為に関する情報交換を行い,同
一又はこれに準ずる行動をとった場合には,これらの事業者の間に,意思の連
絡があるものと推認することができるのであって,情報交換等の実施行為が行
われた場が事業者団体の活動の場であったからといって,そのような推認をす
ることが否定されるものではない。事業者団体の場における行為が事業者の共
同行為と評価できる場合にどのように処分を行うかは当該事件の事実認定に沿
って被告の合理的な裁量に委ねられており,本件において事業者を処分の対象
としたことに違法はない。
5仮に合意が存在するとしても,9種類の元詰種子についての合意であること
について
(原告らの主張)
()本件審決は,4種類の元詰種子のそれぞれの販売分野ごとに一定の取引分1
,,野を画定しこれ以外の野菜の元詰種子とは一定の取引分野を異にするから
他の野菜の元詰種子に係る違反行為の有無は本件違反行為の成否に影響しな
いと判断している。
()しかし,合意の効力が及ぶ範囲が一定の取引分野であり,合意内容は,各2
事業者間にいかなる内容につき意思の合致がみられたかにより決まるもので
あるところ,元詰業者の代表者等はいずれも9種類の元詰種子について元詰
部会で行われた行為の目的及び効果を明らかにしており,5種類の春蒔元詰
(,,,,。「」種子トマトなすキュウリスイカメロン以下5種類の元詰種子
という)と4種類の元詰種子とについてみると,対象種子の品種が違うだけ。
で,元詰部会の開催目的も内容も同じであり,参加者も,元詰種子を扱う各
社の責任担当者であるから基本的に同じであって,共通の目的で,同一の行
為がされていたのであるから,4種類の元詰種子のみについて基準価格の決
定が行われていたことを合理的に認定し得る証拠は一切存在しない。
これを4種類の元詰種子を対象とする合意に縮小認定するためには,各事
業者間に,4種類の元詰種子について,これ以外の5種類の元詰種子とは別
に合意をする旨の認識がなければならないが,本件合意は,基準価格の決定
を含まないから,5種類の元詰種子について8月の元詰部会において基準価
格の決定がされていたことや取引当事者に相違があることをもって,各事業
者が4種類の元詰種子について5種類の元詰種子とは別個に合意するとの認
識を持っていたと推認することはできない。
()また,5種類の元詰種子と4種類の元詰種子とが取引分野を異にするとい3
うのであれば,需要者である野菜栽培農家にとって野菜の種類ごとに機能効
果が異なることは明らかであるから,一定の取引分野は野菜の種類ごとに成
,,立するものと解すべきであり野菜の種類ごとに異なる複数の競争が存在し
それぞれの競争に対してこれを実質的に制限する複数の違反行為としての合
意が認定されなければならないはずであるところ,本件審決では4種類の元
詰種子を対象とする単一の本件合意が認定されているに過ぎず,これまでの
独占禁止法の実務に反する。
5種類の元詰種子の場合は,ABCの等級区分の基準価格にある種子が極
めて少なく,販売価格と乖離し,連動していないことから,結果的に,基準
価格の協議決定が同一又はこれに準ずる行動に出たものと認定することがで
きなかったものであり,被告の論理の破綻を示している。
(9種類の元詰種子についての合意であるとの主張に対する被告の反論)
()一定の取引分野とは,競争が行われる場,すなわち一定の供給者群と需要1
,(),者群との間に成立するいわゆる市場のことであり対象商品役務商品範囲
取引の地域(地理的範囲,取引段階等の観点から,需要の代替性及び供給の)
代替性が機能する範囲において画定される。そして,商品範囲は,商品役務
の用途,価格,機能,数量の動き,需要者の認識・行動等の観点から,需要
者からみて取引対象商品・役務と機能及び効果において同じである商品・役
務ごとに画定されるものであるところ,需要者である野菜栽培農家にとって
野菜の種類ごとに機能・効果が異なることは明らかであるから,一定の取引
分野は,野菜の種類ごとに成立するものである。
()いずれも討議研究会で基準価格が決定されている点では共通であるもの2
の,5種類の元詰種子については,毎年8月の元詰部会で基準価格が決定さ
れており,会合ごとに参加者も必ずしも同じでなく,話合いの内容も異なる
,,,し取引分野が野菜の種類ごとに画定されそれぞれ販売事業者の規模や数
品種の数,取引形態,取引量や額等においては異なり,取引分野の状況はま
ちまちであることが認められるから,それぞれ別異の商品と考えることがで
き,状況が異なるとして4種類の元詰種子について合意を認定したとしても
問題はない。本件審決は,4種類の元詰種子のそれぞれの取引ごとに一定の
取引分野を画定し,競争の実質的制限が生じているとしているのであり,こ
れ以外の野菜の元詰種子とは一定の取引分野を異にするから,他の野菜の元
詰種子に係る違反行為の有無は,本件違反行為の成否に影響しない。
()証拠等を踏まえ,いかなる取引分野の行為を取り上げて処分の対象にする3
かは被告の合理的裁量に委ねられているところ,被告は,4種類の元詰種子
の販売分野につき,違反行為が認められ,競争が実質的に制限されており,
排除措置を命ずる必要があると判断したため処分の対象としたものである。
6本件合意は相互拘束性を欠いていることについて
(原告らの主張)
()本件合意には相互拘束性がない。1
ア本件審決は,独占禁止法2条6項の「相互にその事業活動を拘束し」と
は本来自由であるべき各事業者の事業活動を相互に制約することをいうの
であって,具体的な販売価格を定めない限り事業活動の拘束に当たらない
とは解されないとの立場を前提とした上,本件においては,毎年基準価格
を決定し,各社がそれに基づき販売価格を定める旨の合意をしていたと認
め,これは,本来各社が自由に行うべき価格設定について各社を相互に拘
束するものであるから,事業活動の拘束に該当すると判断している。しか
し,ここでは,抽象的内容の本件合意では相互拘束・共同遂行の要件を満
たすものとはいえないとの被審人らの主張に対する判断が欠けている。
イ不当な取引制限に当たるというために必要な「相互にその事業活動を拘
束」することの本質は,競争事業者間の相互の予測すなわち意思の連絡が
人為的に形成され,これにより当事者間の競争行動が回避される点にある
から,予測可能な程度に具体的な行動基準が設定されていることが不可欠
であるところ,本件合意については,基準価格が決定されない限り,具体
的な販売価格を設定することはできないから,相互拘束性の要件を欠くも
のである。それにもかかわらず,本件審決は,相互拘束性の当然の要請と
,()して事業者相互の競争制限的行動を相互に予測できること相互予測性
が必要であることを看過し,その結果,相互拘束性を実質的証拠なく認定
したものである。
ウさらに,討議研究会における基準価格決定の際の等級区分は極めて大局
的かつ抽象的なもので,その定義に関する各社の理解は必ずしも同一では
なく,他社の品種の等級区分は不明であって,自社の特定の品種と競合す
る他社の品種の価格設定の予測がつかないから,他の事業者の事業活動を
予測し得る共通基準や単一の事業体として価格設定したのと同様の事態を
生じさせ得るほどの行動指針たり得ず,本件審決が挙げる間接事実から相
互拘束性を認定することはできないのであり,その認定には,実質的証拠
が欠如している。
また,本件合意における合意内容には,本件合意に係る等級区分に自社
の元詰種子を組み入れることは含まれていないので,その拘束性は問題に
,,,ならないし等級区分は自社の各品種について参照すべき目安に過ぎず
拘束性を認める類のものでもないから,本件合意(第2の3())のうち3
イの部分には拘束性がなく,これを前提としたウも不当な取引制限の成立
要件を欠いているのであって,本件審決は,原告らを含む32社が本件合
意に沿って価格表価格を設定していることの認定をしていない。
エ仮に価格表価格の変更について相互予測が可能であったとしても,値引
きや割戻しの率及びその適用については合意がなく,また,その内容は販
売戦略に係る企業秘密として公にされていない。値引きや割戻しの有無が
価格表価格に連動し,値引内容も前年度と連続性を有するとしても,前年
度と連続性のない値引きや割戻しも多数存在するから,基準価格から実勢
価格の設定を予測することはできなかったのである。
したがって,各当事者が相互に将来の事業活動を予測してその行動計画
を遵守するという関係は成立し得ず,元詰業者は,独自の判断で価格設定
することを余儀なくされるものである。価格表価格の動きと実際の販売価
格の動きとの連動性を単純に推認することはできないから,本件審決の相
互拘束性の認定は,実質的証拠を欠くものである。
そして,毎年の基準価格の決定は本件合意の実施行為に過ぎないから,
本件合意自体が実勢価格に対し競争を実質的に制限する効果を有する点に
ついては何等立証がされておらず,基準価格と実勢価格との間に連動性が
あるとしても,それは基準価格の決定それ自体が競争制限的効果を持つ価
格カルテルであるというに止まる。
()32社の間には相互拘束性があるというために必要な相互認識がなく,2
不当な取引制限にいう相互拘束性の要件を欠いている。
不当な取引制限にいう「他の事業者と共同して」とは「事業者間の事前の
意思の連絡」を要するところ,相互に事業活動を拘束することの前提として
「個別認識(意思の連絡をしているのは誰か」と共に「相互認識」を要す)
るものというべきである。本件審決は,32社に「本件合意の主体であると
いう概括的認識」があったとしており,これをもって相互認識として足りる
とするもののようであるが,概括的認識では相互認識は有り得ないから,本
件審決の認定は違法である。
(相互拘束性に関する主張に対する被告の反論)
()相互拘束性を欠くとの主張について1
ア本件では「各社は基準価格の前年度からの変動に沿って当年度に自社,
が適用する価格表価格及び個別取引における販売価格を定めて販売するこ
と」が合意されており(第2の3()エ,毎年の討議研究会における基3)
準価格の設定を通じて,前年度の基準価格との比較により,その変動額又
は変動率に従って各社の各品種の価格表価格が概ね自動的に決まる仕組み
になっているから,本件合意が具体的な金額,上げ幅等を直接的に決めて
いないとしても,元詰業者にとって具体的行動についての予測可能性が欠
けているわけではない。
イ32社は等級区分に一定の共通の理解を有しており,価格表価格の設定
に当たり参照すべき等級区分が不明ということはなかったし,他社の品種
の等級区分への該当性を具体的に知らなかったとしても本件合意の拘束性
の認定に影響することはない。各元詰業者は,基準価格の等級区分に従っ
て価格を設定することを前提とし,当該種子が該当すると判断した等級区
分と異なる価格決定は許されないという認識を有していたことは明らかで
ある。
討議研究会の案内状及びアンケートの体裁や,等級区分の意味について
特に説明がされていないこと,P13専務理事であるP26の供述(査4
55)には,営業経験豊富な元詰業者らはAランクの動向を決めただけで
も全体の動向を認識把握することができるとの認識を元詰業者らが有して
いたことを示す部分があり,これらの点からは,32社は自社及び他社の
交配種がどの等級区分に属するかについて把握することができたものと認
められる。
したがって,他社の品種が具体的にどのランクに属するかにつき予測で
きないとか,中間に位置する品種について予測可能性がないということは
ない。
ウ一般に価格カルテルにより値上げ金額や値上げ幅が協定される場合であ
っても,各事業者は,各商品の競争力や需要側の動向等の影響を受けるの
で協定どおりの販売価格が実現できる保証はないが,これにより価格カル
テルの存在や相互拘束性が否定されることはない。したがって,価格表価
格から値引きや割戻しがされるとしても,これにより本件合意の存在や相
互拘束性が否定されることはない。
32社では,掛け率や値引率が設定されていても,通常は販売時点では
価格表価格による販売が行われ,最後に取引全体について値引きが行われ
ることが多く,取引先ごとに固定的な掛け率又は値引率が予め定められ,
販売量の変動がない限り前年度と同じ率が適用されるのであったり,最大
5パーセントの範囲内で値引きが行われていたり,取引先や野菜の種類ご
とにグループ分けして値引率が設定されていたりしていたから,価格表価
格に基づき実際の販売価格を設定し,値引き・割戻しも価格表価格をもと
に行っていたと認められ,実際の販売価格と価格表価格とが連動していた
とする本件審決の認定は相当である。
また,32社は,販売先との間で事後的に値引き・割戻しがあることを
当然の前提として毎年の販売価格を基準価格の前年度からの変動に沿って
設定するよう合意したのであり,32社の販売価格は,値引き・割戻しが
あっても,価格表価格等の決定を介して基準価格の前年度からの変動に沿
って設定される仕組みになっているから,本件合意には相互拘束性に欠け
るところはない。
エ業務用ストレッチフィルム事件判決(東京高裁平成5年5月21日判決
・判例タイムズ828号113頁)は,被告人の刑事責任を問うに当たり
処罰の対象を特定する必要があるから,2個の価格協定の成立を犯罪行為
としたものであるが,本件審決は競争秩序回復のため排除措置の対象を明
らかにするため基本合意を違反行為ととらえたものであり,両者は違反行
為の捉え方を異にしているし,業務用ストレッチフィルム事件では,業界
において過去に価格協定が実施に至らず失敗に終わった経過に加え,シェ
ア争いが激しく各社が互いに疑心暗鬼で不信感が強いという特殊性が存在
し,合意が各社を拘束する協定となるためには各種の細かな取決めとその
部門のトップによる相互の明確な確認が必要であったという個別事情の下
で価格協定がいつ成立するかが論じられているのである。P27事件判決
(東京高裁平成8年3月29日判決・判例時報1531号37頁)では,
談合に関する基本合意(受注予定者を協議して定める旨の合意)により違
反行為が成立することが認められており,本件合意についても当然違反行
為の成立が認められる。
()相互認識がないとの主張について2
意思の連絡における相互的認識・認容の相手方は,常に個々具体的に特定
されている必要はなく,多数の合意参加者のうち一部に離脱者や途中参加者
があったとしてもそれを逐一把握している必要はない。要は,各参加者に大
体どの範囲のものという程度の共通認識があれば意思の連絡としては十分で
あり,これをもって各社が共通の認識を持つことは可能であるから,概括的
認識で足りるとする本件審決に誤りはない。
また,本件においては,毎年3月に開催される討議研究会に出席する元詰
業者すなわち32社が相互に本件合意の主体であると認識されていたことは
明らかであるから,32社が本件合意の主体であることの相互認識に欠ける
ところはない。
7本件合意には実質的競争制限の効果がないことについて
(原告らの主張)
()元詰種子には品種間価格競争がないから,本件合意があっても実質的に1
競争制限がされない。
ア元詰種子については,適性で選択されるため品種間競争は存在しない。
本件審決は,①試作の対象とする品種は元詰業者からの情報提供や他産
地における使用例等により選ばれること,②試作の結果選択される推奨品
種は一つには限らないこと,③新しい品種が推奨品種となり,従来の品種
が外れることがあることから,需要者は土壌や作型への適性について多く
,,の品種を比較検討し相対的にふさわしい品種を選択しているのであって
元詰種子に関して品種間競争が存在しないとの主張は採用できないと判断
している。
しかし,試作が行われるのは,実際に試作して作物を収穫しない限り,
産地の気候や地質,作型等に適合しているのか,どのような野菜が収穫で
きるのかなどの品種特性を見分けることができないという元詰種子の商品
特性によるものであり,各社は各産地の栽培条件に適合した品種を開発す
るため競争をしているが,需要者は,自らの農地の条件に最も適合した適
性品種のみを選択するから,代替的に他の品種を選択する余地はなく,需
要の代替性がない。上記①から③の事情は,試作対象品種やその結果とし
ての推奨品種が複数あり,これが交代し得ることを示すものであるが,試
作の対象品種を巡る競争がそのまま販売市場における競争になるわけでは
ないし,試作の対象となる品種は全体の1割にも満たないから,国内の販
売市場に品種間競争があることの根拠とはならない。
イ元詰種子の選択に際し価格は考慮されていないから,元詰種子には品種
間価格競争はない。
(ア)本件審決は,農協が,推奨品種の決定に当たり,価格にほとんど関
心を払っていない状況が認められるが,にもかかわらず,①農協は,農
家が推奨品種がどのような価格であっても購入すると考えているわけで
はなく,比較対照した他の品種あるいは前年度の単価とそう大きく変わ
らないとの認識の下で品種選択を行っていること,②産地では同一品種
に関する小売店同士の価格競争は行われており,これによりある品種の
価格が低下することになれば,品種間の価格バランスから同様の特性を
有する他の品種の価格にも影響が及ぶことがあり得ること,③各社の代
表者等は,各社が同じような価格で取引先に販売することにより流通段
階での値崩れを防ぐ旨の供述をしており,これは潜在的に価格競争が存
在するとの元詰業者の認識を示しているものと認められることから,需
要者とりわけ産地における品種選択において品種間価格競争が顕在化し
ていないとしても,品種間価格競争が存在しないということはできない
と判断している。
(イ)しかし,①は,産地の農家と元詰業者との間に法外な値段での商売
はしないであろうとの信頼関係が存在することを示唆するもので,品種
相互間に代替性がなく,農協及び農家が適性品種を選択して購入するこ
とから,元詰業者は,本来自由に価格を設定し得るが,農家との信頼関
係を維持するために,法外な価格設定により自らの利益のみを追求しな
かったに過ぎないし,本件審決が①の摘示の前提としている供述は,極
端な価格設定がされれば購入しないというに過ぎず,現実に,指定産地
の主要品種の価格には相当のばらつきがあるとの証拠(審A11)があ
るから,上記摘示は,実質的証拠を欠いている。
また,②の同一品種に関する小売店同士の競争は,農家が購入する品
種が決定した後の問題である上,他の品種の価格に影響が及ぶことがあ
り得るとの点については,実質的証拠を伴わない審判官独自の見解に過
ぎない。現に,本件違反行為が終了した後にも元詰種子の価格は変わっ
ていないだけではなく,かえって値上りしているのであり,これは品種
間に代替性が存在しないという商品特性に由来している。本件審決が③
の根拠としている供述調書における供述は,産地における元詰種子の選
択問題に配慮しない一般的抽象的な内容であり,産地における品種間価
格競争の存否という問題については一切証明力を有しない。
(ウ)本件審決は,元詰業者が競合品種の価格を意識して販売価格を定め
ていることにつき,品種間価格競争がなければあり得ないと摘示してい
るが,品種間価格競争がないとしても,対価を設定する必要があり,そ
の際には品種特性が近い他の品種を目安とするしかないのであって,競
合品種の価格を意識することと品種間価格競争がないこととは矛盾しな
い。
(エ)野菜栽培農家による元詰種子の品種選択において考慮されるのは,
自己の圃場で商品価値の高い野菜を効率的に栽培することのできる特性
を有する品種はどれかというものであり,価格が考慮要素となることは
ほとんどない。
被告は,野菜栽培農家が種子を購入する際,価格が競争手段として機
能していることを,P28の参考人審訊における供述を引用して主張し
ているが,野菜栽培農家が野菜栽培に要するコストを考慮することは経
営上当然のことであるものの,種子代の比率は,キャベツで2.8パー
セント,はくさいで0.9から1.0パーセント,だいこんで5.3か
ら5.7パーセント,かぶははくさいと同程度というように他の農業生
産資材と比べて非常に低いため,種子の購入に当たって価格はほとんど
考慮要素とはなっていない。このように,元詰種子の販売価格は栽培品
種の選択を誤ったことにより野菜栽培農家が被る損失の額と比べて無視
できるほど低いから,野菜栽培農家が種子の価格より種子の品種特性を
考慮するのは当然のことである。
野菜栽培農家が栽培する品種は農協等が試作を行って選定することが
多いが,選定時には当該品種の品名すらつけられておらず,販売価格も
全く決まっていないことが多いし,野菜栽培農家が農協等に注文する段
階でも注文書に価格が記載されていないことが多い。商慣習として種子
代金の回収がされるのは年2回であることが多く,元詰種子の小売価格
は出荷後に決まるのが通常であり,このことは,野菜栽培農家が元詰種
子の購入品種を決定する際に価格が考慮要素とされていないことを示し
ている。また,販売業者が元詰業者から仕入れる場合にも,野菜栽培農
家の品種選択を無視して仕入れることはできないから,同様に野菜栽培
農家にとって商品価値の高い野菜を効率的に生産することのできる品種
であるかが考慮要素であり,価格ではない。
(オ)潜在的に品種間価格競争が存在するとの本件審決の認定は,産地に
おける購入品種は価格によって選択されるものではないとの多くの参考
人供述を無視するものであり,一般に潜在的競争といっても,競争が顕
在化するある程度具体的な可能性を必要とするものであるところ,これ
についても実質的証拠を伴っていない。
()仮に価格競争があるとしてもわずかであるから,本件合意の存在により2
実質的に競争が制限されるとはいえない。
元詰種子の品種間価格競争を認識するものは元詰業者の一部に過ぎず,多
数の元詰業者並びに取引先である販売業者及び農協は価格は考慮要素となら
ないと認識しており,品種間価格競争が存在するとしても競争全体の一部に
過ぎないのであって,品種特性に関する競争が制限されていない以上,競争
を実質的に制限したことにはならない。
競争が実質的に制限されるとは「競争自体が減少して,特定の事業者又は
事業者団体がその意思である程度自由に価格,品質,数量,その他各般の条
件を左右することによって市場を支配することができる状態をもたらすこと
をいう」ものと解すべき(東京高裁昭和28年12月7日判決・判例時報1
9号11頁)であるところ,一般に価格を特定事業者らの意思によってある
程度自由に左右することができれば,通常はこれにより市場を支配すること
ができる状態がもたらされるといえるが,必然ではなく,競争が主として価
格以外の要素を巡って行われているような場合には,主たる競争要素が阻害
されていない限り市場を支配することができる状態がもたらされない場合も
あり得る。元詰種子の品種間価格競争が全く存在しないわけではないが,元
詰業者による元詰種子の販売分野における競争は,専ら品種間の特性に関す
る競争であって品種間価格競争は乏しく,仮に品種間価格競争が制限された
としても品種間の特性に関する競争は一切制限されていないから,元詰業者
による元詰種子の販売分野における競争制限の程度は,実質的なものではな
い。
本件審決は,本件合意による一定の取引分野における競争制限が実質的な
程度にまで及んでいることについての認定をしていない。
()本件合意が存在しても価格競争が可能であるから,本件合意は,実質的3
に競争を制限するものではない。
価格表価格からの値引き及び割戻しの率及びその適用の有無については,
32社間で合意がないのであるから,各元詰業者の間では自由に競争的に値
引き・割戻しができるのであり,元詰種子の市場は競争状態におかれている
といえる。
本件審決が,価格表価格を個別の取引に適用するに際しては,需要動向等
に応じ取引先と価格交渉が行われるのであるから,必ずしも価格表価格の変
動を反映した販売価格が実現するとは限らないのは当然であるとしながら,
実際の販売価格の動きは価格表価格の動きと連動するということができると
認定するのは一貫性を欠いており,その認定には実質的証拠がない。
()本件審決は,相互拘束・共同遂行される行為が競争の実質的制限という4
効果に結びつく場合に限り独占禁止法2条6項に該当するとする独占禁止法
の立場に沿っていない。
本件審決は,不当な取引制限は,価格や値上げ幅を具体的に決定しない限
り成立し得ないということはなく,各事業者が行う経済活動は本来自由に競
争できることが前提であるところ,事業者の自由な活動が制限され,それに
よって,価格等の取引条件がある程度左右され,市場支配されるときは,競
争が実質的に制限されているということになるとして,相互拘束から直ちに
。,競争の実質的制限を結びつける合理的根拠のない見解を述べているしかし
不当な取引制限による競争の実質的制限は,①会合や情報交換を通じて協定
・合意が形成,遵守され内部的な競争の回避が生じ,かつ,それにより当事
者が集団として単一の行動を取ること,②市場において競争を通じて決定さ
れるべき事項が結合した事業者の意思により決定されていることという2つ
の面から発生するのであり,具体的な価格,出荷量,販売地域等に影響を与
え得るものでなければならない。本件合意は将来基準価格を決定することに
ついての約束であり,基準価格の金額,値上げ幅等の具体的な内容,基準に
ついては何らの合意もされていないし,値引き・割戻しの適用について意思
の連絡が存在せず,基準価格から実際の販売価格を設定するための具体的な
方法についての合意もなく,各事業者による実際の販売価格の設定について
目安となり影響を与え得るような内容は一切含まれていないから,実際の販
売価格は,各元詰業者がそれぞれ独自に設定し得る。また,事業者が相互に
将来の価格設定を予測してその行動基準を遵守するという関係の成立を認め
ることができない。したがって,事業活動の相互拘束が認められることはな
いし,そもそも,市場における競争機能に有効な影響を与え得ないものであ
るから,本件では不当な取引制限は成立しない。
受注調整カルテルにおける基本合意も,特定の受注予定者が直ちに定まる
ものでないが,取引の相手方を制限することを主たる内容としており,個別
案件ごとに,入札参加者間,受注希望者間で話し合うことを抽象的包括的に
事前に申し合わせること自体,個々の入札が予定する競争を包括的に回避す
る合意であり,合意の効果が及ぶ単一の一定の取引分野全体の競争制限行為
と評価できるものである。これに対し,本件では価格カルテルが問題になっ
ているのであるから,基準価格から実際の販売価格を設定するための具体的
な方法が決められていることを要するものと解すべきであり,被告は,この
点において独占禁止法の解釈を誤ったものである。
被告は,32社の市場シェアが高いことから,本件合意自体が事業活動を
相互に拘束し,一定の取引分野の競争を実質的に制限していると主張してい
る。確かに,当事者の市場シェアが不当な取引制限における競争の実質的制
限を認定する際の一要素であることは否定できないが,不当な取引制限との
関係では,どの程度の市場シェアの事業者が集まれば違反になるのかではな
く,市場全体をどのように変化させたか,市場にどのような影響を与えるも
のかという質的な問題であるという点で本件審決にはとらえ方の誤りがあ
る。
(実質的競争制限についての主張に対する被告の反論)
()品種間競争は存在しないとの主張について1
原告らの主張の()ア記載の①から③の事情から,需要者は,同一品目の1
野菜の元詰種子の品種相互間で一定の代替性が認められることを前提に,土
壌や作型への適性について多くの品種を比較検討し,相対的にふさわしい品
種を選択しているものといえるのであって,元詰種子に関して品種間競争が
存在しないとの主張は失当である。
()品種間価格競争が存在しないとの主張について2
,,,ア一見すると農家及び農協は品種の特性によって種子を選択しており
価格競争はないようにみえるが,価格が比較対照をした他の品種あるいは
前年度の単価とそれ程大きく変わらないとの前提に立っており,言いかえ
れば,価格が所与のものとされているのであって,実際にもこれと異なる
状況がみられないことから,種子を選択するに当たり価格を意識すること
なく品種を決定することができるというに過ぎない。元詰業者間において
元詰種子の価格が決められており,このような状況が長年にわたって続い
ていることから,農家及び農協は,価格を選択の要素とする必要がなく,
このために品種間価格競争が顕在化しないというだけで,価格競争は存在
している。
イ価格競争の存在は,①元詰業者らは一方的に価格を引き上げることがで
きないという現実,②価格を引き上げるに当たって他社との価格バランス
を考慮せざるを得ないこと,③流通段階での値崩れを防ぐことが必要であ
ると考えていることから認定することができる。
上記①及び②について,仮に品種が異なる種子の間に需要代替性がない
のであれば,一方的に価格を引き上げれば足りるにもかかわらず,元詰業
者らは現実にはそのようなことはできず,一方的に価格を引き上げれば他
の種子に取って代わられ,あるいは当該業者が事業継続に困難をきたして
排除され,淘汰されると考えている。品種特性が,種子の選択の重要な要
,,素であるとはいえるが栽培農家は生産費用については極めて敏感であり
ある種子が農家にとって代替性が低いとしても,その種子の元詰業者が一
方的に価格を設定することが困難であることは,討議研究会において,値
上げしたいのが本音であるが農家の実情を踏まえると困難であるとの発言
が多数出ていること(査123,147,224,232,244)から
窺われる。
このような事情に鑑みれば,元詰業者は価格を設定するに当たり,ひと
り高価格を設定することはできず,同等品種,類似品種とのバランスを考
慮せざるを得ず,他社と競合する既存の品種の売り上げを維持するため,
他社の類似品種の価格動向を考慮しているのである。
原告らは,農家等との信頼関係を重視して値上げを自粛していたと主張
するが,信頼関係の維持には営業上のメリットがあるのであり,ある業者
が値上げしたが他の業者が値上げしなければ,値上げした業者は信頼関係
を失い,また,ある業者の値下げは,信頼関係の維持のため他の業者が値
下げせざるを得ない要因となるから,ある種子の価格の上下が他の種子の
価格に影響を与えるといえる。他社との価格バランスを考慮せざるを得な
,,いというのはその意味にほかならず信頼関係の増大を狙って値下げをし
あるいは据え置くことは,まさに価格競争の一環であるということができ
る。
,,また同一品種内では流通段階において価格競争が行われているところ
これにより当該種子の価格が低落すれば,これに類似ないしは同等の性質
を有する種子の価格もバランスに配慮して低価格に押さえざるを得ないこ
とになり,品種内の価格競争が同等類似品種の価格に影響を及ぼすことに
なるのであって,32社の代表者等の供述からは,同じような価格で販売
先に販売することで流通段階での極端な値崩れを防ぎ,値上げできるとき
は値上げをするという共通の認識があったことが認められる。
ウ元詰業者は,販売業者に対する値引率を大きくすることにより自社の種
子を多く取り扱ってもらおうとしたり,他社の競合品種が入る,あるいは
入りそうな卸売業者に対しては値引率を大きくして対抗しようとしている
が,このような行為が品種間価格競争が存在することを前提とすることは
明らかである。多数の元詰業者が価格により需要者が種子を選択すること
を認識して価格を設定していることから,産地における品種間で競争の可
能性があることが認められるのである。
また,元詰業者らは,新品種と同様の特性を有する競合品種の価格を意
識して販売価格を定めているのであり,これは,品種間に価格競争がある
ことを前提にしなければあり得ない。原告らは,他社の価格を参考にする
しかなく,競合品種の価格を意識することは品種間価格競争がないことと
矛盾しないと主張するが,他社の価格を参考にすることなく決定をするこ
とは可能であり,他社の価格を参考にするのは,自社だけ高値をつけると
需要者である野菜栽培農家において受け入れられず,他の品種に取って代
わられる可能性があるという認識を持っていることによることが推認さ
れ,これは競争を回避しようとしていることにほかならず,単に価格を参
考にしているというのとは異なる。
エまた,産地にも価格競争があることは,耐性品種CRは根こぶ病を抑え
る農薬代等が節約できることから導入されたものであるとのP28の参考
人審訊における供述から認められ,農家は栽培費用を常に計算に入れてお
り,種子の価格も例外ではないから,農家における種子の選択において価
格が考慮要素となっていないことはない。種子の価格が2倍になっても,
農薬代等の生産コストが下がらなければ農家がこれを受け入れることはな
いのであって,種の価格を考慮しない旨の供述は,これまでの品種間の価
格差がわずかである状況において価格を考慮する必要がなく現にしてこな
かったことを述べたに過ぎない。
産地においても品種の厳格な管理を行っている農協,栽培農家は限定さ
れており,平成13年における全国出荷量のうち,共同出荷によらないも
のは,キャベツ239パーセント,はくさい262パーセント,だいこ..
ん499パーセント,かぶ543パーセントで,共同出荷が行われてい..
ない野菜が相当あるし,本件4種類につき,春野菜及び秋冬野菜について
作付面積及び収穫量からみた指定産地の割合は,平成13年度(平成13
年4月1日から翌14年3月末日まで)において189パーセントから.
613パーセントと限られたものとなっている。指定産地であっても,.
収穫された野菜の全量が共同出荷されるわけではなく,共同出荷を実施し
ている農協でも,農協に加入している野菜栽培農家の中には共同出荷を利
用しないものもいるから,産地における全出荷量に占める共同出荷の割合
が必ずしも高いわけではないし,共同出荷が行われている場合でも,収穫
野菜の形状が均一でなくても共同出荷の基準に適合する品質を有するもの
として同一時期に同一ブランドで共同出荷する例もあり,共同出荷を利用
しない場合や共同出荷しても品質管理が厳格ではない場合には,推奨品種
以外の種子を使用して栽培する可能性があり,その場合の種子の選択は各
栽培農家の判断に委ねられている。
したがって,産地においても必ずしも指定品種,推奨品種だけではなく
様々な品種の種子が使用されており,品種のみで種子を選定するわけでは
ないから,産地における品種選択において,品種間価格競争が顕在化して
いないとしても,品種間価格競争が存在しないとはいえない。
オ原告らは,本件違反行為終了時期以降も4種類の元詰種子の価格は変わ
っておらず,むしろ一部の品種では値上りしていると主張しているが,価
格は市場の状況により決まるから,現在まで変わっていないとしても不思
議はないし,価格カルテルは,価格設定に向けた事業者の自由な事業活動
が人為的に制限されていたこと自体が競争を実質的に制限する点を問題に
するものであって,その拘束が消滅した後価格がどのように変化したかは
問題ではない。
原告らは,基準価格の必要性について,安定供給や価格の変動を避ける
ためと主張しており,結局元詰種子にも価格競争があり,基準価格の決定
が実際の販売価格形成に大きく影響を与えることを自ら認めるものである
し,需要者のための安定価格,安定供給という名目による基準価格や標準
価格の決定が独占禁止法,その保護法益である自由競争経済秩序において
正当なものと予定されていないことは明らかである。
()品種間価格競争がわずかであるとの主張について3
価格競争が存在する以上,これを制限する影響がわずかなものに止まると
はいえないし,それだからこそ,原告らも本件合意のもと,基準価格や価格
表価格を決めてきたのであるから,原告らの主張は失当である。
()本件合意が存在しても価格競争が可能であるとの主張について4
「」不当な取引制限にいう一定の取引分野における競争を実質的に制限する
とは,競争自体が減少して特定の事業者又は事業者団体がその意思である程
度自由に価格,品質,数量その他各般の条件を左右することによって市場を
支配することができる状態をいうのであって(東京高裁昭和28年12月7
日判決・判例時報19号11頁,特定の事業者又は事業者団体が完全に価)
格,品質,数量その他各般の条件を左右し得る必要はないのであるから,元
詰種子の販売市場において大部分のシェアを誇る元詰業者間で本件合意に基
づく価格調整が行われている以上,個別の取引において需要動向等に応じて
取引先との間で価格交渉が行われることがあっても,交渉の出発点となる価
格が本件合意の影響下にあると考えられ,競争の実質的制限が否定されるこ
とにはならない。
()実質的競争制限についての独占禁止法の解釈に誤りがあるとの主張につ5
いて
本件合意は価格や値上げ幅等を直接具体的に決めるものではないが,競争
の実質的制限が認められるためには,価格や値上げ幅が具体的に決定されな
ければならないものではなく,本来自由に競争し得る各事業者の経済活動が
制限され,それによって価格等の取引条件がある程度左右され,市場支配さ
れるときは,競争が実質的に制限されているものといえる。
本件では「各社は基準価格の前年度からの変動に沿って,当年度に自社,
が適用する価格表価格及び個別取引における販売価格を定めて販売するこ
」,,とが合意されており毎年の討議研究会における基準価格の設定を通じて
前年度の基準価格との比較により,その変動額又は変動率に従って各社の各
品種の価格表価格が概ね自動的に決まる仕組みになっているから,各元詰業
者が販売する種子の価格が本件合意により相当程度左右されることは明らか
である。
また,32社の市場シェアは,平成12年度(平成12年4月1日から翌
13年3月末日まで)において,はくさい987パーセント,キャベツ9.
15パーセント,だいこん927パーセント,かぶ949パーセントであ...
り,このような高いシェアのもとに本件合意が存在すること自体,本来市場
において自由な競争により形成されるという価格決定の過程に制限を加える
ものであり,各社の具体的な価格,値上げ幅等を決定するものでなくても,
これにより事業者の事業活動を相互に拘束し,それ自体が一定の取引分野に
おいて競争を実質的に制限するものであるし,本件合意に基づいて,現に毎
年3月討議研究会で基準価格が決定され,各社の価格がその変動率に依拠す
べきものと相互に強く認識されていることは平成10年から平成13年まで
の討議研究会における意見交換の状況等から明らかであり,各事業者の価格
表価格も基準価格の変動率に準拠していることから,本件合意は,元詰業者
らの事業活動を拘束し,競争を実質的に制限するものである。
8一定の取引分野のとらえ方が相当でないことについて
(原告らの主張)
()元詰種子については,各年度ごと,各野菜ごとに取引分野が画定される1
から,年度を超えた競争制限効果はない。
本件審決は,平成10年度から平成13年度までを通じた一定の取引分野
を画定し,年度ごとに基準価格を設定するのは時々の需給関係を価格に反映
させる必要があるからに過ぎず,年度を超えた長期にわたり継続する取引市
場の存在が否定されることにはならないし,毎年新たな競争関係が一から形
成されることにはならないとしており,これについて,被告は,①元詰業者
とその取引先との取引は年度を超えて継続されており,毎年新たな競争関係
が形成されるわけではないし,②本件違反行為は,平成10年度から平成1
3年度にわたり,本件合意が存在することにより,一定の取引分野の競争が
実質的に制限されたとするものであり,違反行為である合意の内容からして
も,各年度ごとに一定の取引分野を画定して判断するようなものではなく,
元詰業者らは基準価格の決定及びこれに基づく価格表価格の決定が1年だけ
のものではなく毎年継続されることにつき認識・認容しており,③具体的金
,,,額値上げ幅ではなく前年度からの価格動向によって価格を統制するのは
価格の動きを1年限りではなく継続的に統制しようとする共通の意思の現れ
であると主張している。
しかし,一定の取引分野とは,当該合意の競争制限効果が及ぶ範囲,競争
関係の成立を規定するための観念的前提概念で,当該行為の影響が及ぶ範囲
との関係でとらえられるべきものであるところ,時々の需給関係を反映させ
る必要があるとすれば,各事業者間の競争関係も年度ごとに異なるはずであ
り,本件合意の効果は当該年度にしか及ばないはずである。また,元詰種子
は次世代にはその特性を失うため,当該年度の種子と次年度の種子とは需要
者からみて代替関係にはなく,毎年生産し,販売し,これを購入する必要が
ある商品であり,種子の作柄が天候等に左右されて毎年異なることから,そ
の需給関係,これに対応した価格設定もそれぞれの年ごとに変動するのであ
って,種苗業者による交配種の生産販売活動における競争関係は,各年度ご
とにそれぞれ独立して別個に成立しているはずであり,当該競争制限行為の
効果が及ぶ範囲は当該年度を超えることはない。
本件合意に期間の限定のないことを唯一の根拠として一定の取引分野を年
度を超えたものであるとした本件審決の認定は実質的証拠を欠くし,一定の
取引分野が野菜の種類ごとに成立すると主張する一方,4種類の元詰種子を
含めた単一の合意における複数市場の競争の実質的制限を認定するなど本件
審決の認定は相互に矛盾しており,一貫性がない。
()産地には本件合意の競争制限効果は及んでいないから,一定の取引分野2
に含まれない。
本件審決が認定する一定の取引分野は,我が国における4種類の元詰種子
の各販売分野であるが,当該合意による競争制限効果の及ぶ範囲をもって一
定の取引分野と解すべきであり,産地では品種間価格競争が存在していない
ことが証拠上明らかであるから,産地には本件合意の競争制限効果が及んで
おらず,これを除外すべきである。
したがって,本件審決のうち,産地を含む一定の取引分野を認定する部分
は実質的証拠を伴わない事実誤認である。
()一定の取引分野は,農協及び大卸とされるべきである。3
本件審決は「一定の取引分野は,競争制限効果の及ぶ場であって,単一,
の取引段階について画定されるべきものではない。本件においては,元詰業
者の販売先がいくつかの取引段階に分類され得るとしても,元詰業者は,最
終的には需要者に販売されることを前提として取引形態ごとの価格設定をし
,,ている実態があるのであるから直接の取引先の取引段階が異なるとしても
元詰業者が最終的には需要者向けとして販売する分野として一つの一定の取
引分野を画定することができる」と判示した。。
しかし,一定の取引分野は,売り手側と買い手側の競争の及ぶ範囲により
画定され,不当な取引制限は基本的に競争関係にある売り手側の競争の及ぶ
場であるから,原則的に単一の取引段階であり,これを超えて一定の取引分
野を画定するにはそれなりの特段の状況が必要である。元詰業者は,卸業者
か卸兼小売業者,農協を介して需要者に販売するのであり,小売業者に販売
するとしても部分的であって,討議研究会が小売価格を決めていたのは,こ
れを100として,一定比率を乗じて,農協,共購,大卸向けの価格を決め
るためであるから,元詰業者,卸売業者,小売業者及び農協を含めて一体と
して一定の取引分野を画定するのは誤りである。小売価格は小売業者に販売
する金額でも,小売業者が販売する金額でもない。
基準価格は主に農協向けと大卸向けに決定されているから,取引分野は農
協及び大卸によりそれぞれ画定されるべきものであり,課徴金の納付が命ぜ
られる制裁的性格を有するものであることからも,一定の取引分野をいたず
らに拡大する本件審決の判示は相当でない。
(一定の取引分野についての主張に対する被告の反論)
()年度を超えた競争制限効果がないとの主張について1
実際に販売される元詰種子が翌年に持ち越されるものではないとしても,
元詰種子の取引は毎年続いており,毎年新たな競争関係が形成されるわけで
はない。本件違反行為は,平成10年度から平成13年度にわたり,本件合
意が存在することにより,一定の取引分野の競争が実質的に制限されたとい
うものであり,毎年の基準価格の決定等は違反行為の実施行為に過ぎず,本
件合意の内容からしても,毎年一定の取引分野を画定して判断するようなも
のではない。
()産地は一定の取引分野に含まれないとの主張について2
産地においても品種間価格競争があることは7において既に主張したとお
りである。
()一定の取引分野は農協及び大卸とすべきであるとの主張について3
一定の取引分野を判断するにあたっては,取引段階等既定の概念によって
固定的にこれを理解するのは適当でなく,取引の対象・地域・態様等に応じ
て,違反者のした共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受け
る範囲を検討し,その競争が実質的に制限される範囲を画定して一定の取引
分野を決定するのが相当である(東京高裁平成5年12月14日判決・判例
タイムズ840号81頁。)
不当な取引制限の場合,違反行為の効果が複数の取引段階に及ぶこともあ
り,単一段階の取引にしか競争制限効果が生じないとはいえない。元詰業者
にとっては,農協,小売業者,卸売業者のいずれも直接の取引先であること
,,,には変わりがなく現実にそれぞれの基準価格及び価格表価格を決定して
取引段階が異なる取引先に対する価格を本件合意の対象としているし,最終
的には需要者に販売する価格を前提として業者のマージンを除いた価格を定
めているのであるから,本件合意の影響は,一体として各取引段階に及んで
いるといえる。
本件合意は,元詰業者が直接の取引先への販売について最終的な需要者へ
の販売を前提に価格を決定するというものであり,本件合意によりこれらの
価格は一体として影響を受けるものであるから,特段の事情を付加すること
なく,その全体を一定の取引分野における競争を実質的に制限するものとと
らえることに問題はない。
なお,32社が,それぞれ元詰種子を,国内において,野菜栽培農家,一
般消費者に対し,直接に,又は卸売業者,小売業者,農協若しくはその連合
会を通じて販売していることは,実質的証拠により立証されている(第2の
2()ウ)し,小売価格,共購価格が価格表に設定されており,基準価格の2
決定が行われているのであるから,ほとんど実績がないとして無視し得るよ
うなものではなく,これらを含めて一定の取引分野を画定するのが適当であ
る。
9本件審決には,法令違反があることについて
()過去に同様の事件があったときはこれを不問としたこととの関係につい1

(原告らの主張)
被告は,昭和32年,P13の前身であるP24の卸売部会が,作柄及び
市況の見通し等について情報交換の上,蔬菜種子の卸売最低標準価格を決定
し,会員にこれを実行させるよう指導していたことについて,独占禁止法違
反の嫌疑で審査を開始したが,特に問題にすべきほどの影響はないとして不
問に付した。これを受けて,P24及びその後身であるP13は種子の価格
検討行為を継続してきたものであり,被告の上記行為は一つの法的基準を形
成したもので,行政法上の確定力を有するものであるから,被告に対する信
頼の観点からも,再度訴追するためには,その前に警告をするなど基準を変
更することを関係者に知らしめる必要があり,予告もなく基準を変更するこ
とは違法である。
本件審決は,昭和32年の不問とされた事件は本件とは異なる違反被疑行
為について事件処理をしたものであって,禁反言の原則の適用を論じるまで
もないと判断したが,本件で問題とされている行為は,昭和32年に被告が
不問に付した行為と同一であり,これと異なるとした本件審決の判断は,実
質的証拠に基づかないものである。
(過去の不問事件に係る主張に対する被告の反論)
昭和32年時点に行われていたのはP24の行為であり,本件行為とは異
なるし,被告は,当該事案について判断をしたに過ぎず,種子の基準価格の
設定一般について判断をしたものではない。対象とする行為が別個のもので
ある以上,事前に警告をするなど予告をしなくても禁反言の原則に反しない
し,不可変更力の問題も生じない。
仮に,対象とする行為が同じであったとしても,その後,当該取引分野の
販売事業者の規模,数,シェア,需要者側の動向等の状況が変化することは
あり得るのであり,社会経済情勢は著しく変化しているから,一旦不問に付
したとしても,その後の状況の変化により同様の行為について処分の必要が
あると判断される場合もある。
被告の独占禁止法運用の集積が事実上の基準を形成することはあり得ると
しても,それが直ちに法的基準を形成するものではないし,事件を立件する
か否かは被告の裁量に委ねられているから,不問としたことだけで当該分野
における事実上の基準が形成されるものではない。被告は,昭和54年8月
には「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(現在のものは平成」
18年4月改訂)を作成し,広く周知活動等を行っており,これには,事業
者団体が法律上の根拠もなく,標準価格,基準価格,目標価格等の価格設定
の基準となるものを作成決定することは原則違反になると明確に記載されて
いるから,昭和32年に不問に付されたからといって,個別に事前の警告等
がない限り摘発を免れ得るなどと発想すること自体が失当である。
そもそも,元詰業者らは,P29協会が被告の審査の対象となったことな
どから,遅くとも平成6年2月頃までには基準価格の決定が独占禁止法に抵
触する可能性があることを認識していたにもかかわらず,これを継続し,価
格協定であることを疑われないようメモ等の書類を残さないようにするなど
の対策を検討して本件合意を維持し,基準価格を決定する策を講じ続けたも
のであるから,違反行為となることについての認識もあったものというべき
である。
()審判合意と本件合意とは異なっており,このことにより被審人らの防御2
の機会が閉ざされたことについて
(原告らの主張)
ア本件合意の認定は,本件審判の対象とされたところから著しく逸脱して
おり,違法である。
審判合意は「32社は,遅くとも平成10年3月19日以降(P10,
及びP9にあっては平成13年3月14日以降,4種類の元詰種子につ)
いて,販売価格の低落の防止等を図るため,種類ごとに,各社が販売価格
を定める際の基準となる価格を毎年決定し,各社は当該基準価格の前年の
基準価格からの変動に沿って各社の4種類の元詰種子の品種ごとの販売価
格を定めて販売する旨の合意」をしていたというもので,その実施行為が
毎年開かれる討議研究会の決定であるとしており,本件合意とは,討議研
究会の決定と合意との関係が異なっているなど,その内容が著しく乖離し
ている。本件合意は,毎年の基準価格の決定を討議研究会の決定に委ねる
というものであるが,審判合意ではこれに触れていないし,審判の過程で
そのような主張がされたこともなかったから,原告らは防御の具体的な必
要性を考える契機も与えられていなかった。
また,本件合意(第2の3())のうちイ及びウは,審判開始決定では3
実施行為とされ,不当な取引制限の成立要素となるものとされていなかっ
たのに,本件審決では具体的内容を織り込む必要に迫られたため本件合意
の内容とされ,拘束性を有するものとされているし,同エ及びオは,審判
開始決定に記載されておらず,審判手続において審査官も,合意の実施方
法として,各社がどのように価格表価格等に決まったことを反映させるか
の具体的方法についてまで32社が合意していたと主張するものではない
としていたのに,本件審決ではこの方法まで合意の内容に含まれている。
本件審決の認定は,審判開始決定書の記載事実と同一性を害し,審判の
対象となるところを著しく逸脱するもので,審理全体の経過からみて被審
人らに防御の機会を閉ざしたものであり,違法である。審判開始決定と異
なる事実を認定するためには,審判開始決定の事実の変更を要し,手続が
糾問的手続であるとしても釈明権の行使は必要であるから,釈明権の不行
使として手続違反を免れない。
さらに,本件審決の法令の適用に記載されている本件違反行為は抽象的
で,審判合意と同一であって,本件合意とは異なっているから,法令の適
用の対象を確定できないし,法令の適用が,審判合意に対するものか本件
合意に対するものか不明であり,違法である。
イ本件合意のうちアの内容について32社相互に認識があったことについ
ては本件審決で触れられておらず,違法である。
本件合意のうちアにより,討議研究会が事業者団体の行為であるとして
もその価格決定が32社の価格決定であると評価することができるという
とすれば,上記のような合意の存在を審査官は全く主張していなかったか
ら,本件合意の存在を認定することは審判の対象を逸脱した認定であり,
被審人らの防御の機会を無視したものであるから,違法である。
(審判合意と本件合意が異なっているとの主張に対する被告の反論)
ア独占禁止法では,被告は,違反行為があり,公共の利益に適合すると認
められるときに審判手続を開始するが,その段階では何ら法的処分はされ
(。),ておらず勧告は相手が応諾して勧告審決がされない限り処分ではない
その後の審判手続を経て排除措置が命じられるものであり,審判はこれに
向けた行政聴聞手続であって,民事又は刑事の訴訟手続とは性格を異にす
るものである(最高裁昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻
6号888頁)し,対審構造型の争訟的聴聞手続をとっているが,審判官
においても職権で取調べをするなどの権限が与えられており,基本構造は
糾問訴訟的形態となっている。
審理の結果,当初の審判開始決定記載の事実と事実認定が変化すること
はあり得るところであり,そのような変化を最終的な処分である排除措置
に反映させる必要があることも論を待たない。
,,被審人らの防御の利益を確保するため処分において対象となる事実は
,,審判開始決定記載の事実と社会的に同一の事実関係の範囲内でありまた
被審人らの防御権を侵害しないものでなければならないが,審査官は上記
制限内においては主張を変更することが可能であるし,十分な防御の機会
を与えた上での審理の結果に基づくものであるときには,審査官の主張変
更がなくても審決において対象となる事実を認定することができるものと
いうべきである(最高裁昭和29年5月25日第三小法廷判決・民集8巻
5号950頁,最高裁昭和50年7月10日第一小法廷判決・民集29巻
6号888頁。)
イ審査官は,実施方法の部分についてまで合意の中に含めずに主張してい
たが,審理の結果,審決において違反行為がより具体的に認定されること
は審判の構造上当然あり得ることであるし,本件審決は,実施方法を合意
の内容とすることで合意内容をより具体的にしたものであるに過ぎず,事
実の同一性を害しないことは明らかである。審判合意に実施方法が含まれ
ていないとしても,個別の実施行為である毎年の基準価格の決定の具体的
方法が審判開始決定に記載されており,個別の実施行為がこれに従って行
われていたことについて十分な主張立証が尽くされていれば,個別の実施
行為の具体的方法が基本合意に含まれており,これが実行に移されていた
という推認がなされ得ることは容易に予測し得るところであるから,個別
の実施行為の具体的方法を基本合意に含めて認定しても被審人らの防御の
機会を閉ざすものではない。また,実施方法を含め本件合意の内容とされ
る事実は既に審判開始決定に記載されていたものであり,審査官は,違反
行為である合意について,32社による共通の認識の存在及び毎年の実施
行為から立証するとしていたから,実施方法に係る事実も審理の対象とな
っており,被審人らも攻撃防御を尽くしてきたのであるから,実施方法に
ついて,審査官の主張によって明らかにされ,防御の機会が与えられてい
たものといえる。
したがって,本件審決が,毎年基本合意の内容に沿った実施行為が行わ
れていることにより,定型的な実施方法が存在することを推認し,実施方
法を基本合意の内容に含めて認定をしても,告知を受けない事実を認定し
たものといえず,不意打ちとなることはないし,釈明権等を行使しなかっ
たとしても手続違反となることはない。
()本件審決における本件合意の内容は,文言上不明確で主文の記載として3
法令違反であることについて
(原告らの主張)
独占禁止法90条3号は,排除措置命令に従わない者に対し刑事罰を課し
ているから,何人においても疑いなく排除措置の対象が特定し,明確である
ことを要するところ,本件審決が違法とする合意は,基準価格を決定し,販
売価格を定め販売する旨の各年のその都度の合意を指すのか,これとは別の
包括的合意を指すのかが判然としないし,本件審決理由中の32社の合意内
。,,,容と排除を命ずる主文の合意とは同じではないこれは合意の主体時期
内容を特定する努力を怠った結果,これが未整理のまま混同されたことによ
,,,るものであり基準価格と販売価格の関係その定め方等が明らかではなく
合意内容が特定していないから,法律的には本来の合意の意味を有していな
い。
()本件審決が手続的公正に欠けることについて4
(原告らの主張)
本件審決は,審査官の主張に触れることなく,被審人らの主張に対し否定
的判断をするもので,審判官の判断構造は手続的公正に欠け,バイアスがあ
るものというべきである。立証責任を負う審査官の主張を容れることができ
るかどうかについて判断を示した上で被審人らの主張に対する判断をすべき
である。
(本件審決が手続的公正に欠けるとの主張に対する被告の反論)
本件審決は,不当な取引制限の主要事実等に係る審査官の主張について,
審決案の「理由」第1(事実及び証拠)で判断認定しており,各争点に対す
る審査官及び被審人らの主張を同第3(双方の主張)にまとめ,その上で同
第4(審判官の判断)で被審人らから提起された具体的な問題点を取り上げ
ているものであって,原告ら主張の違法はない。
()本件審決が競争の実質的制限に関する被告の認定事実を審決書に示して5
いないことについて
(原告らの主張)
本件審決は,32社のシェア,本件合意の存在,基準価格の決定,32社
の販売価格設定の状況等を認定するに止まり,元詰種子のシェアが,競争の
実質的制限に関する事実認定として摘示されたものとは了知できないし,上
記の点が競争の実質的制限に関する事実認定として摘示されたことを示す記
載は一切見当たらないから,これだけでは,競争の実質的制限に係る認定事
実としては不十分であり,独占禁止法57条1項に違反し,同法82条2号
により取り消されるべきである。
(審決書の記載についての主張に対する被告の反論)
独占禁止法57条1項の要求する記載がされているかどうかは審決書の記
載全体から判断すべきである(最高裁平成19年4月19日第一小法廷判決
・判例タイムズ1242号114頁)ところ,本件審決は,32社の合意に
ついて認定し(第1,5,基準価格の決定及び32社の販売価格の設定状)
況(同6,競争の存否を含む一定の取引分野の画定,本件合意の存否,本)
件合意の相互拘束性,供述調書の信用性を判断しており,これらを総合する
と本件合意が競争を実質的に制限するものであることは明らかであり,項目
を立てていないだけで,本件審決には独占禁止法57条1項違反はない。
本件において排除措置を命ずることが違法であることについて10
(原告らの主張)
()本件においては,既に違反行為がなくなっているのであるから,特に必1
要があると認めるときに限って排除措置を命ずることができるのであるが,
本件はこのようなときに当たらないので,排除措置を命ずることは違法であ
る。
上記の「特に必要があると認めるとき」については,当該違反行為が将来
繰り返されるおそれがあるときや,当該違反行為の結果が残存しており,競
争秩序の回復が不十分であるときがこれに当たるものと解される(東京高裁
平成16年4月23日判決・判例タイムズ1169号306頁。この点に)
つき本件審決は,①長期間にわたり協調関係が確立,維持されていたこと,
②違反行為が終了した経緯は,被告が立入検査をしたという外部的要因に基
づくものであったことから,被審人らが本件違反行為と同一ないしは社会通
念上同一性があると考え得る行為を将来繰り返すおそれがあるものと認定し
た上で,要件への該当を肯定している。しかし,
ア被審人らは,既に元詰種子の販売価格に関する話合いを行わない旨の申
合せを行っており,P13も元詰部会を廃止し,事業者間で作柄及び価格
について情報交換を行い基準価格を決定する機会は存在しないから,今後
本件合意と同一ないし社会通念上同一性があると考え得る行為を繰り返す
おそれはない。
イ本件審決が理由として挙げる①の長期間の協調関係は,不当な取引制限
にいう相互拘束に該当するものでない限り非難されるべきものではない
し,中小企業を含む32社が存続する市場構造の下で再度価格協定にいた
,。,,ることは常識的に想定できないまた②の外部的要因を指摘する点は
ほとんどすべての事案がこれに該当するから,これに依拠するのでは特に
必要があると認めるときとする要件が限定の意味をなさないことになる。
ウ市場状況が変化しないことにより必要性が判断されるのであれば,独占
禁止法が排除措置を特に必要が認められる場合に限定した趣旨が没却され
るから,違反行為自体からこれが繰り返される蓋然性を判断すべきである
し,その可能性が一切封じられたわけではないということのみから蓋然性
を判断するのは,誤りである。競争回避の意識や親和的関係はそれ自体が
曖昧なものであり,違反行為と関係のない抽象的な協調的関係を判断基準
とするのは要件を逸脱するものであって,これを排除措置の根拠とはなし
得ない。
()事業活動を拘束する合意の禁止をいう本件審決主文第3項は,対市場効2
果要件を満たさないため,不当な取引制限に該当しない合法的な合意や相互
拘束までも禁止するもので,過大な禁止命令として違法である。
()本件審決の既往の違反行為に対する排除措置は,裁量の範囲を逸脱し,3
違法である。
排除措置の本来の趣旨は,市場における競争制限の残照の除去であり,既
往の違反行為がなくなった日から当該行為につき勧告又は審判手続が開始さ
れることなく1年を経過したときはこれに対する排除措置を命ずることがで
きないとされているのは,1年を経過すると市場における競争制限の影響が
消滅することを前提とするものであるから,再発防止の排除措置を命ずる場
合にも,その期間の限定の趣旨を無視すべきではない。
基本合意があると構成するか,その都度違反が繰り返されていると構成す
るかにより,排除措置の対象や違反行為期間が異なり,課徴金が賦課される
期間も異なるのであり,その都度違反が繰り返されていると構成するのであ
れば,被告が審査に着手したのは平成13年8月29日であるから,平成1
2年3月15日の基準価格の決定の効果は消滅しているため着手時点で既に
審査権限がなく,平成11年3月16日以前に決定された基準価格について
,。はその決定から1年を経過しているから排除措置を命ずることができない
構成のしかたにより原告らに対する排除措置の内容が異なるだけでなく,
経済的利害も異なるのであり,本件の事件構成は行政比例の原則に反する構
成である。
()本件で問題とされている行為は,P13がその組織の意思決定に基づい4
た行為として行っているものであり,32社を含む元詰部会は受け身である
に過ぎないから,排除措置を命ずる必要があるのであればP13に対して命
じられるべきであり,独占禁止法3条を適用したのは誤りである。
()本件排除措置において破棄したことを確認すべき合意として記載されて5
いるのは,審判合意で,本件合意の内容とは著しく乖離しており,本件審決
は,審判開始決定書に記載され,審査官が主張していたような抽象的な合意
を認定していないのであるから,本件排除措置は無効である。
(排除措置についての主張に対する被告の反論)
()排除措置の要件に係る主張について1
「特に必要があると認めるとき」の要件に該当するか否かの判断は,わが
国における独占禁止法の運用機関として競争政策について専門的知見を有す
る被告にその専門的裁量が認められており,原告らが援用する東京高裁判決
は,その後,最高裁において取り消された(最高裁平成19年4月19日第
一小法廷判決・判例タイムズ1242号114頁)から,これを前提とする
主張は失当である。
本件合意は,元詰種子の評価が生産物の価格に比べて低く位置付けられて
いることから,種子の価値に見合った価格に近づけるため値上げをすること
ができるときには値上げをすることを目的とするものであるところ,元詰種
子の評価が低いという市場の状況は変わっていないから,価格協定による価
格引上げの誘因が存在するといえるし,原告らは,P29協会が被告の審査
の対象となった平成6年2月頃には討議研究会における基準価格の決定が独
占禁止法に抵触する可能性があることを認識していたにもかかわらず,基準
価格の決定を中止せずこれを継続してきたこと,その際,価格協定であるこ
とを被告に疑われないため,名目の変更,資料等の表示方法の変更,メモ等
の書類を残さないことなどを検討したこと,基準価格の決定は,アンケート
調査,作況報告,意見交換というありふれたプロセスで行われており,元詰
部会が存在しなければできないというものではなく,元詰部会の廃止により
同様の行為を行うおそれがないとは認められないことなどから,元詰業者ら
が同様の違反行為を繰り返す蓋然性は極めて高く,排除措置を命じた本件審
決の判断に誤りはない。
理論的にも,昭和52年の独占禁止法の改正で既往の違反行為に対する措
置が新設された趣旨が被告の調査開始後に違反行為を中止した事業者に対し
ても期間を限定して排除措置命令を行うことにあったこと,実際にも,カル
テル等の違反行為について,事業者が被告の立入検査を受けた後,これを契
機にやめる措置が取られることが多く,その場合には,被告にとっては,処
分時には既往の違反行為に対するものとして独占禁止法を適用せざるを得な
いことに鑑みれば,原告らが主張するような限定解釈を取るべきではない。
()排除措置が過大であるとの主張について2
種子の販売価格について相互に事業活動を拘束する合意をすること自体,
原則として競争制限効果を生じるものであり,この場合に対市場効果要件を
充足しないという主張は失当である。
()排除措置が裁量の範囲を逸脱しているとの主張について3
本件では法定の期間内に勧告がなされているのであるから違法はなく,審
判手続が開始された場合,違反行為終了後1年を経れば排除措置を命じられ
ないとする法律上の根拠はないのであるから,原告らの主張は検討に値しな
い。
()排除措置を原告らに命ずるべきではないとの主張について4
本件審決は,平成13年10月4日のP13理事会において,32社のう
ち26社が既に決定された当該年度の基準価格の決定を破棄し,次年度以降
についても元詰種子の販売価格に係る話合いをしないことを申し合わせたこ
とから,合意に基づく実施行為が事実上行われなくなったものと認められ,
意思の連絡が消滅していることを踏まえて,実質的に合意が破棄されている
状態が既に存在しているとして,主文において合意の破棄を確認するよう求
めたものであり,この点に違法性はない。
()排除措置における合意が本件合意と乖離しているとの主張について5
本件審決の主文において,違反行為の取りやめ等を命じる場合に,違反行
為の内容が長文にわたるときには,主文の構成上,違反行為の内容を要約整
理等して記載することは当然あり得ることで,審決主文記載の合意が審決が
認定した合意を意味することは,事実認定及び法令の適用の内容から自明で
ある。本件審決の主文が特定性を欠くことはない。
第4当裁判所の判断
1本件合意の存在について
()本件審決は,32社が本件合意をしていたことは本件合意に関する各社1
(,,,,代表者等の供述証拠査1133から3840から6365から67
448)及び毎年度の基準価格の決定及び価格表価格の設定の状況等から認
定することができるとしている。
()前提事実(第2の2)によると,原告らを含む32社は,少なくとも平2
成10年から平成13年までの間,毎年3月に開催される討議研究会におい
てその構成員になるなかで,4種類の元詰種子につき,作柄状況,市況等の
情報交換を行うと共に,等級・取引形態に応じて設けられた区分ごとに基準
価格を決定しており,はくさい,キャベツ及びだいこんはそれぞれA,B,
Cの各等級区分について,かぶについては等級区分を設けずに,前年度の基
準価格から,これを引き上げるか,引き下げるか又は据え置くかについて,
,,アンケート調査を行うほか意見交換を行った上それぞれ小売価格を決定し
これをもとに算定した共購価格,農協価格,大卸価格(10袋)及び大卸価
格(100袋)の基準価格を決定していたものである。
また,本件審決は,以下の事実を認定しているところ,この認定は,摘示
された証拠に基づいており,そこに経験則違背等があることは認められず,
これを合理的な事実認定と認めることができる。
ア(各社の価格表価格の設定の状況)32社は,平成10年度及び平成11
年度において,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,概ね
基準価格の引上げ幅又は引上げ率に沿って当年度の価格表価格を前年度の
価格表価格から引き上げていた。また,32社は,平成12年度及び平成
13年度において,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,
当年度の価格表価格を前年度の価格表価格から概ね据え置いていた。
これを価格表価格中の小売価格(1袋)についてみると,次のようにい
うことができる。
①基準価格に定められる容量と同じ容量の品種の価格表価格の動きの向
き(引上げ,据置き又は引下げ)は,基準価格と同じ動きをしている場
合が大部分を占める(別紙表9−1。)
②基準価格に定められる容量と同じ容量では,価格表に掲載されていな
い品種の価格表価格の動きの向きも,同様に,大部分の品種について基
準価格と同じ動きとなっている(別紙表9−2。)
③なかでも①の品種のうち前年度の価格表価格が基準価格と一致する品
種にあっては,ほとんどすべての品種について,当年度の価格表価格も
基準価格と一致している(別紙表9−3。)
(以上,査407から410,417から420)
イ(討議研究会の欠席者)討議研究会に欠席した者(第2の2()イ)は,4
他社の価格表に掲載された価格が討議研究会で決定した基準価格の変動を
反映したものであることを認識した上で,他社の価格表を確認することに
より,アのとおり自社の価格表価格を設定していた(査42,47,5。
0,59,60)
ウ(各社の実際の販売価格の状況)32社の実際の販売価格の設定方法は第
2の2()イのとおりであり,これにより,32社は,概ね,平成10年3
度及び平成11年度においては,それぞれ自社の販売する4種類の元詰種
子について各販売価格を各基準価格の引上げに沿って引き上げ,また,平
成12年度及び平成13年度においては,それぞれ自社の販売する4種類
の元詰種子について販売価格を前年度の販売価格から据え置いていた査。(
11,32,34から38,40,41,43から63,65から67,
P11のP12の代表者審訊における供述,審C2の1,2の3の1及び
2,3,9,15)
()上記()の事実によると,32社は,討議研究会の欠席者も含め,少なく32
とも平成10年から平成13年までの間,討議研究会で決定した基準価格に
,,,よりその前年度からの変動に従って自社の元詰種子の価格表価格を定め
その後の販売に当たっても概ね基準価格に連動した価格で販売を行い,基準
価格に定められる容量と同じ容量の品種については,基準価格と一致する価
格を定めることも多かったものであるから,このような状態が少なくとも4
年間継続していたことを考慮すると,自社の価格表価格に討議研究会で決定
した基準価格の変動を反映させていた32社は,討議研究会で決定する基準
価格に基づいて自社の価格表価格を設定し,販売を行うものであること,す
なわち,基準価格の決定が自社の価格表価格及び販売価格の設定を拘束する
ものであることを認識していたものと推認される。また,上記各事実による
と,毎年遅くとも他社の価格表価格が発表された時点においては,他の事業
者が同様に基準価格の決定に基づいた価格表価格を設定していることを認識
し得たものといえ,このような状態が継続していたことに照らせば,元詰部
会の構成員である少なくとも32社は各社が基準価格の決定に基づいてそれ
ぞれ販売価格を設定するものと相互に認識していたものと推認される。
そして,討議研究会における基準価格の具体的決定方法が,遅くとも平成
10年以降は,はくさい,キャベツ及びだいこんについては,普通品種,中
級品種及び高級品種として,それぞれ「A「B」及び「C」の区分を設,」,
け各等級区分ごとに決定し,かぶについては,等級区分を設けないで決定し
(本件合意第2の3()イ,小売価格,共購価格,農協価格,大卸価格(13)
0袋,大卸価格(100袋)の別に決定する(1袋の容量は,はくさい及)
びキャベツは20ミリリットル,だいこん及びかぶは2デシリットル。本件
合意同ウ)というものであったことは上記前提事実に記載のとおりであるか
ら,32社は,遅くとも平成10年以降(P9及びP10は平成13年3月
14日以降,討議研究会における上記のような基準価格の決め方を容認し)
てその決定を行い,これに基づいて自社の価格表価格を決めることとしてい
たものというべきである。
以上のとおり,()の事実から,32社は,遅くとも平成10年3月192
日以降(P9及びP10は平成13年3月14日以降,本件合意をしてい)
たことを推認することが相当であるから,本件審決が本件合意の存在を認定
した手法には,不合理な点はなく,その認定の過程において経験則違背等の
あったことも認められない。
したがって,本件合意の存在及び本件合意の各部分について実質的証拠を
欠くとする原告らの主張(第3の2)は理由がない。
()原告らは,本件合意が32社により行われたというためには,意思の連4
絡を要し,相互にその内容を認識し,認容することを要するが,本件審決は
これについてふれておらず,実質的証拠を欠いていると主張している(第3
の2()。2)
しかし,上記のとおり,遅くとも平成10年3月19日までには,32社
(P9及びP10は平成13年3月14日以降)の間に本件合意が存在して
いたことが認められ,本件審決はその旨認定しているものであるところ,不
当な取引制限として本件合意が存在していることを認定しているのであるか
ら,32社が相互に本件合意の内容を認識し,認容していたことも当然その
内容となっているものというべきであり,また,これを()の事実から推認2
し得ることも上記のとおりであって,原告らの主張は失当である。
次に,原告らは,本件合意の形成過程や成立時期等について実質的証拠の
欠缺を主張する(第3の2())が,不当な取引制限において必要とされる2
意思の連絡とは,複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実
施することを認識し,ないしは予測し,これと歩調をそろえる意思があるこ
とをもって足りるものというべきである(東京高裁平成7年9月25日判決
・判例タイムズ906号136頁)から,このような意思が形成されるに至
った経過や動機について具体的に特定されることまでを要するものではな
く,本件合意の徴表や,その成立時期,本件合意をする動機や意図について
も認定することが必要であることを前提とする原告らの上記主張は,その余
の点について判断するまでもなく理由がない。
()ア原告らは,合意の主体は事業者団体であるP13であると主張してい5
る(第3の3)ので,これについて検討する。
P13元詰部会の討議研究会において基準価格が決定されており,討議
研究会が,P13においてその案内や連絡行為を行い,その組織と様式を
もって議事を進行し,結果報告をしていることは被告も認めるところであ
るが,このような基準価格の決定自体が,独占禁止法に定める不当な取引
制限に該当するものと評価されることはあり得るとしても,本件審決は,
これをもって不当な取引制限と認定しているのではなく,32社がその構
成員である元詰部会の討議研究会で基準価格を決定していることの外,3
2社が少なくとも平成10年から平成13年までの間,討議研究会におい
て基準価格の引上げが決定された平成10年度及び平成11年度は,それ
ぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,概ね基準価格の引上げ幅
又は引上げ率に沿って当年度の価格表価格を前年度の価格表価格から引き
,,上げており据え置くことが決定された平成12年度及び平成13年度は
それぞれ自社の販売する4種類の元詰種子について,当年度の価格表価格
を前年度の価格表価格から概ね据え置いていたこと等から,討議研究会に
おいて基準価格を決定し,これに基づいて自社の価格表価格及び販売価格
を定めることとすることにより,互いに自社の価格表価格及び販売価格を
拘束することを合意したものと認定していることは上記のとおりであり,
このような認定に経験則違背等の不合理な点が認められないことも既にみ
たとおりである。
すなわち,上記認定においては,基準価格の決定の外,これに基づいた
価格表価格及び販売価格を設定していることから,基準価格に基づいて価
格表価格及び販売価格を設定することを相互に認識し,認容するものであ
ると評価しているのであるところ,価格表価格及び販売価格の設定は,一
般にはそれぞれの事業者が個別に行うべきことであって,事業者団体の行
為ではなく,討議研究会における決定行為も,討議研究会の行為であると
共に,これを構成する事業者らの行為であるともいえるのであるから,こ
れらの行為から本件合意の内容を認識し,認容していることが推認される
場合の主体は,各事業者であって事業者団体ではあり得ない。
上記()の事実のみでは,32社以外の事業者を含む事業者団体である2
P13元詰部会が,討議研究会で決定した基準価格に基づいて構成事業者
の価格表価格及び販売価格の設定がなされるよう構成事業者を拘束して,
一定の取引分野の競争を実質的に制限していた(独占禁止法8条1項1
号,あるいは,価格表価格及び販売価格等を設定することに関する活動)
等を不当に制限していた(同条1項4号)ものとまで認めることには疑問
,,,,が残るし仮にこのように認定することができるとしても少なくとも
32社が本件合意をしていたことを推認することが妨げられないことは上
記のとおりであるから,独占禁止法3条所定の行為が存在する以上,事業
者らに対し行政処分を課すことができることは当然であって,事業者団体
に独占禁止法8条1項所定の行為があり,事業者らにも同法3条所定の行
為があるものと認定し得る場合に事業者団体にしか行政処分を課すること
ができないと解すべき同法上の根拠は見当たらず,これを相当とすべき事
情が存在することも認められない。
原告らは,討議研究会に32社以外の元詰業者や小売部会長が出席して
,(),いたこと32社の中に欠席者がいることを指摘する第3の3()が3
本件審決は,討議研究会自体において価格カルテルの合議がされてその旨
の合意がされたと認定するものではないから,討議研究会の上記出席者の
存在及び32社の中の欠席者の存在が本件合意の存在を否定するものとは
ならず,32社が本件合意の主体であることは上記()記載のとおり証拠3
に基づいて認定された事実から合理的に推認されるところであるから,実
質的証拠の欠缺をいう原告らの主張も理由がない。
イ原告らは,被告がP13の花き部会等が行っていた基準価格の決定につ
いて事業者団体の行為として警告したこととの対比上本件審決が一貫性を
欠くものであると主張する(第3の3())が,本件審決が,基準価格の2
決定自体をとらえて32社に不当な取引制限があったとするものでないこ
とは上記のとおりであるから,原告らの主張は前提を欠く。
また,原告らは,被告の審査開始を受けて今後話合いをしない旨の申合
せをしたのはP13の理事会であり,32社の中には理事会に出席してい
ない事業者もいるし,理事会が破棄したのは当該年度の基準価格の決定で
あって,本件合意ではないことから,本件合意の主体がP13であること
を主張する(第3の3())が,本件合意が討議研究会における基準価格4
の決定を前提とする以上,これが行われなくなれば,事実上本件合意の実
行は不可能となったものといえ,被告が上記理事会の決定をもって本件合
意が破棄されたものと認定したのは相当であるし,そのことと,本件合意
の主体を32社であると認定することとは何等矛盾するものではない。
ウ原告らは,本件合意が事業者団体の行為と評価し得るのみであることを
前提として,これに独占禁止法3条を適用することについて被告には裁量
権がないはずであると主張する(第3の4。)
しかし,本件合意が事業者の行為であるものと認定し得ることは上記の
とおりであるから,上記主張は前提を欠いているし,本件合意を認定する
について,32社が基準価格決定の仕組みを作り,あるいは,これを強化
したことまでを要するものではないから,いずれにしても,上記原告らの
主張は理由がない。
()原告らは,仮に合意が存在するとしても,討議研究会で9種類の元詰種6
子について基準価格を決定していたから,各事業者間に意思の合致が認めら
れるのは9種類の元詰種子に係る合意であって,4種類の元詰種子を対象と
する合意とするためには縮小された合意の認定が必要であると主張する(第
3の5。)
しかし,そもそも,不当な取引制限において必要とされる意思の連絡につ
いては上記()記載のとおりであって,明示の意思表示が事業者間において4
一致していることまでを要するものではなく,本件審決も,32社の間に本
件合意が存在すること,すなわち,4種類の元詰種子について,討議研究会
で決定した基準価格に基づいて各事業者が当該年度の価格表価格及び販売価
格を設定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる意思を有し
ていたことを認定しているのであって,32社がそれぞれ9種類の元詰種子
の価格について不当な取引制限にかかる明示かつ単一の意思表示をして,こ
れが合致していることを認定するものではないから,4種類の元詰種子に係
る本件合意の存在を認定しても,意思表示の一部のみを取り出して認定した
ものとなるわけではない。また,このような合意のとらえ方をする以上,3
2社が4種類の元詰種子とその余の5種類の元詰種子について別個に合意す
るとの認識を有していた旨の認定を要するものでもない。
次に,32社の代表者等の供述調書(査11,12,32から63,65
から68)における供述(以下「代表者等の供述」という)によると,討。
議研究会で9種類の元詰種子の基準価格を決定しており,その決定の目的及
び効果が共通していることが認められるが,本件審決が,基準価格の決定に
ついての認識をもって直ちに本件合意内容について意思の連絡があるものと
の認定をしていないことは,本件合意の認定に関する上記記載のとおりであ
り,討議研究会で基準価格を決定していることのほか,これに基づいた価格
表価格及び販売価格を設定していること等の事情を総合して,少なくとも4
種類の元詰種子について,基準価格に基づいた価格表価格等の設定をするこ
とにつき各事業者間に相互に意思の連絡がある,すなわち本件合意が存在す
るものと認定しているものであるから,32社の間に,基準価格決定の目的
及び効果が9種類の元詰種子について共通である旨の認識があったとして
も,そのことのみで,32社が9種類の元詰種子について相互にその価格表
価格及び販売価格の設定が拘束されるものであるとの認識を有していたもの
とまで推認し得るものとすることは本件審決は避けており,ましてや,討議
研究会で基準価格を決定していたことから,9種類の元詰種子について32
社が不当な取引制限に係る意思表示をし,これが合致したことにより単一の
合意が成立したと本件審決が認定しているのでないことは明らかである。
そして,基準価格を決定していた種子のうち,少なくとも4種類の元詰種
子については,各事業者が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設
定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる意思を有していた
ものと認定し得るのであるから,4種類の元詰種子については違反行為が成
立しているものと認められるのであって,このような場合に,当該違反行為
がさらにその他の5種類の元詰種子に及んでいたか否かによって,その違反
行為の存否が左右されるものではない。
したがって,4種類の元詰種子に関する本件合意の認定において,基準価
格の決定の目的及び効果に関する認識がその他の5種類の元詰種子とは異な
るものであることの認定を要する旨の原告らの主張は,いずれにしても理由
がない。
さらに,原告らは,野菜の種類ごとに一定の取引分野が異なるものと解す
べきであるのに,本件審決が,4種類の元詰種子について単一の合意である
本件合意を認定したのは独占禁止法の実務に反すると主張する(第3の5
()。3)
野菜の元詰種子については,需要者である野菜栽培農家にとって野菜の種
類ごとに機能・効果が異なることは明らかであり,他方,供給者である元詰
業者も野菜の種類ごとに異なることは原告ら主張のとおりであるから,それ
ぞれ市場を異にするものというべきであるものの,本件審決が,32社がそ
れぞれ4種類の元詰種子に係る一個の意思表示をし,これが合致したことか
ら単一の協定が成立したと認定するものではなく,上記認定の事実から推認
される本件合意が少なくとも4種類の元詰種子に関するものであるというに
止まるのであるから,上記主張も失当である。
2相互拘束性について
()原告らは,本件合意のみでは,具体的な販売価格を設定することができ1
ないから,相互拘束性を欠くと主張する(第3の6()イ。1)
アしかし,本来,商品・役務の価格は,市場において,公正かつ自由な競
争の結果決定されるべきものであるから,具体的な販売価格の設定が可能
となるような合意をしていなくても,4種類の元詰種子について,いずれ
も9割以上のシェアを有する32社の元詰業者らが,本来,公正かつ自由
な競争により決定されるべき価格表価格及び販売価格を,継続的に,同業
者団体であるP13元詰部会の討議研究会において決定した基準価格に基
づいて定めると合意すること自体が競争を制限する行為にほかならないも
のというべきである。すなわち,価格の設定に当たっては,本来,各社が
自ら市場動向に関する情報を収集し,競合他社の販売状況や需要者の動向
を判断して,判断の結果としてのリスクを負担すべきであるところ,本件
合意の存在により,自社の価格表価格を基準価格に基づいて定めるものと
し,他の事業者も同様の方法で価格表価格を定めることを認識し得るので
あるから,基準価格に基づいて自社の価格表価格及び販売価格を定めても
競争上不利となることがないものとして価格設定に係るリスクを回避し,
減少させることができるものといえ,これをもって価格表価格及び販売価
格の設定に係る事業者間の競争が弱められているといえるのである。
本件においては,32社は,自社が基準価格に基づいて価格表価格及び
販売価格を定めると共に,他社も基準価格に基づいて価格表価格及び販売
価格を定めるものとの認識を有していたものというべきであることは上記
1のとおりであり,上記の限度で事業者相互の競争制限行動を予測するこ
とが可能であったものといえるのであって,不当な取引制限にいう相互拘
束性の前提となる相互予測としては,上記の程度で足りるものと解するの
が相当である。原告らのこの点に関する主張は失当である。
イまた,原告らは,基準価格決定の際の等級区分が不明確であるから,他
の事業者の当該等級区分への当てはめが不明であり,本件合意は,他の事
業者の事業活動を予測し得る共通基準や単一の事業体として価格設定した
のと同様の事態を生じさせ得るほどの行動指針たり得ず,本件審決の相互
拘束性についての認定は実質的証拠を欠くものであると主張する(第3の
6()ウ。1)
しかし,基準価格の等級区分について,少なくとも,32社が等級区分
に応じて決定された基準価格を前提とし,これに基づいた価格表価格及び
販売価格を定めているものと認定し得ることは上記のとおりであって,討
議研究会において等級区分に分けて基準価格を決定することが少なくとも
平成10年から平成13年までは行われており,代表者等の供述によって
も,このような決定方法では,基準価格の自社製品への当てはめができな
いとする意見が出されたことは窺われないばかりか,代表者等の供述調書
(査第36,40から42,48,59,60,67)によると,欠席し
た事業者は他社の価格表価格を参照することで討議研究会における基準価
格の決定内容を了知することが認められるから,価格表価格を設定するに
際し,基準価格における等級区分が不明確であるとはいえず,原告らの上
記主張は失当である。
また,32社は,自社が基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を
定めると共に,他社も基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定め
るものとの認識を有しており,不当な取引制限にいう相互拘束性の前提と
なる相互予測としてはこれをもって足りるものというべきであり,32社
が販売するすべての品種の具体的な価格設定が可能になり,他社の個々の
品種の具体的な価格設定を予測し得ることまでを要するものではないこと
は上記のとおりであるのであって,他社の具体的な個々の品種の等級区分
への当てはめが不明であり,具体的な価格の予測ができないとしても,相
互拘束性の要件を欠くものとはいえない。
ウなお,本件合意は,基準価格の具体的な決定方法を含むものとして認定
されているが,これは,基準価格の決定に係る32社の認識内容の具体的
な形を示したに止まり,基準価格の決定そのものを不当な取引制限として
いるものではないことは上記のとおりであるから,本件合意のうち基準価
格の具体的な決定方法のみを取りだして相互拘束性の欠如をいう原告らの
主張(第3の6()ウ)は理由がない。1
また,本件審決は,各事業者において基準価格に基づいて価格表価格及
び販売価格を設定することについて互いに認識し,これと歩調をそろえる
意思を有して,かぶを除くはくさい,キャベツ及びだいこんについては等
級区分に応じて決定された基準価格に応じて価格表価格及び販売価格を定
めて販売することについて意思の連絡があることをもって不当な取引制限
行為に当たるものと認定しているものであり,本件合意に基づいて,現実
に価格表価格の設定がされることまでを含めて不当な取引制限であるとす
るものではないから,その旨の認定がないことをいう原告らの主張(第3
の6()ア)も的を射たものではない。1
()原告らは,本件合意が,値引きや割戻しの率及びその適用についての合2
意を含んでおらず,基準価格から実勢価格の設定を予測することはできなか
ったのであるから,相互拘束性の認定は実質的証拠を欠くものであると主張
する(第3の6()エ。1)
しかし,32社は,価格表価格を討議研究会の基準価格に基づいて定める
ことを相互に認識しており,その後の値引きや割戻しが価格表価格を前提と
して行われていることは上記前提事実に記載のとおりであるから,個々の取
引先に対する現実の販売価格が値引きや割戻しの結果,値引率や割戻しの方
法を知らない他社が予測し得ない価格となっているとしても,その前提とな
る価格表価格の設定について競争行動が回避されていることには変わりはな
く,本件合意の存在により,32社は,相互に基準価格に基づいて価格表価
格及び販売価格を定めるものとの認識を有しており,その限度で事業者相互
の競争制限行動を予測し得ることをもって不当な取引制限にいう相互拘束性
の前提となる相互予測としては足りるものと解されることは上記のとおりで
あるから,相互拘束性の要件に欠けるところはないものというべきである。
また,少なくとも,値引きや割戻し等の前提となる価格表価格が基準価格
に基づいて定められており,証拠(審C2の1,3,9,15,P11のP
12の代表者審訊における供述)によると,値引きや割戻しが各社において
各年度を通じ各取引先との間で慣習的に行われていることが認められ,前年
度との連続性があることが窺われるから,値引きや割戻しを行った後の価格
も基準価格に基づいて連動しているものといえ,そこに本件合意による相互
拘束性が及んでいるものというべきであり,その相互拘束性の認定について
証拠がないとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は,いずれの点においても理由がない。
()原告らは,32社には相互認識がなく,意思の連絡があるというために3
は,相互認識を要するものというべきであるから,本件審決の認定は違法で
あると主張している(第3の6()。2)
しかし,意思の連絡があるというためには,複数事業者間において,相互
に,討議研究会で決定した基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設
定することを認識ないし予測し,これと歩調をそろえる意思があれば足りる
のであり,代表者等の供述によると,32社は,元詰部会の構成員である事
業者が,取引先が国外の事業者であるなど特殊な事業者である場合を除き,
概ね討議研究会において決定した基準価格に連動した価格表価格を設定する
ものと相互に認識していたこと及び現に4種類の元詰種子について9割を超
えるシェアを有する32社が基準価格に基づいた価格表価格の設定を行って
いたことが認められるところ,多数の事業者が存在する市場においては,上
記の程度の概括的認識をもって意思の連絡があるものと解すべきであり,こ
のような意思を有する事業者の範囲を具体的かつ明確に認識することまでは
要しないものと解するのが相当である。
したがって,原告らの上記主張も理由がない。
3実質的競争制限について
()原告らは,元詰種子の需要者である野菜栽培農家あるいは農協が種子の1
品種を選択する際,適性により選択しているから,品種間に競争は存在しな
いと主張する(第3の7()ア)ので,検討する。1
この点について,本件審決は,産地においては,農協が主体となり,必要
な特性を備えているか否かという観点から繰り返し試作をしているが,①試
作の対象とする品種は元詰業者からの情報提供や他産地における使用例等に
より選ばれること(P28及びP30の各参考人審訊における供述,②試)
作の結果選択される推奨品種は一つに限られないこと(P31及びP28の
各参考人審訊における供述,③新しい品種が採用され,従来の品種が推奨)
品種から外れることがあること(P32の参考人審訊における供述)が認め
られ,これらの点から,需要者が土壌や作型への適性について多くの品種を
比較検討し,相対的にふさわしい品種を選択しているといえるから,元詰種
子の品種間に競争が存在するものと判断している。
本件審決が摘示する上記証拠によると,上記①から③の事実が認められ,
これによると,需要者が最終的には最も適合した品種を選択し,選択した後
においては他の品種との間で代替性がないといえるとしても,それは結果で
あって,その選択に至るまでには数種の元詰種子を比較検討するのが通例で
あることが認められるから,本件審決の上記判断は相当である。また,証拠
(審A14の1から8,19,審B25)によると,試作において検討すべ
き事項は一つではないことが認められるから,様々な検討事項のうちそれぞ
れの種子に優劣があれば,どの事項を優先するかは判断する農協ごとあるい
は野菜栽培農家ごとに異なることは当然あり得べきことであるし,証拠(審
,,,,),,A19審B534審C11参考人P28によると各元詰業者は
いずれも産地において採用されることを目的として品種改良を行っており,
元詰業者も農協等が行う試作において採用される努力をしているのであっ
て,品種間において競争があることを認識していることが認められる。
,,,さらに産地において試作が継続されていることからすれば少なくとも
それぞれの産地において,いずれかの元詰業者が供給する元詰種子が独占的
に販売されているのではないものと認められるから,種子の選択において品
種間競争が存在しないとは到底いえないのである。なお,産地においては上
記のとおり試作が行われるからその競争が明らかであるが,これ以外の販売
市場においても,それぞれの需要者がその需要に応じた適性を有する種子を
,,選択することは自明であり同様に品種間競争があるものと推認されるから
元詰種子の品種間には競争があるものといえる。したがって,上記原告らの
主張は理由がない。
()原告らは,需要者が元詰種子の品種を選択する際には,適性により選択2
しており,その価格にはほとんど関心を払っていないから,品種間に価格競
争は存在しないと主張する(第3の7()イ)ので,検討する。1
アこの点について,本件審決は,産地において推奨品種の指定を行ってい
る農協が,推奨品種の決定に当たり,品種の特性に着目しており,その価
(),格にはほとんど関心を払っていない状況が認められる参考人P32が
①農協は,産地の農家が当該推奨品種がどのような価格であっても購入す
ると考えているわけではなく(参考人P30,比較対照をした他の品種)
あるいは前年度の単価と価格はそう大きく変わらないとの認識の下で品種
,,選択を行っている(参考人P31及び同P32)こと②産地においても
同一品種に関する小売店同士の価格競争は行われており(被審人P6常務
取締役P19の参考人審訊における供述,この競争によりある品種の価)
格が低下することとなれば上記の品種間の価格バランスから同様の特性を
有する他の品種の価格にも影響が及ぶことがあり得ること,③被審人らの
代表者等は,本件行為の動機として,各社が同じような価格で取引先に販
売することによって流通段階での値崩れを防ぐ旨の供述をしており(査3
3,34,37,38,43から46,49,51から53,これは潜)
在的に価格競争が存在するとの元詰業者の認識を示しているものと認めら
れることから,需要者とりわけ産地における品種選択において品種間価格
競争が顕在化していないとしても,元詰種子の品種間価格競争が存在しな
いということはできないとしている。
,,(,,,,,,また本件審決は証拠審C4613の11517審D1
被審人P7総務経理部長P33(以下「P7のP33」という)の参考。
人審訊における供述,被審人P5代表取締役P34の代表者審訊における
供述)によると,元詰業者は,一般に,既存品種と非常に品質が似た品種
を安い価格で販売されることが他社にシェアを奪われる要因となり得ると
の認識を有しており,他社と競合する既存の品種の売上げを維持するため
に他社の類似品種の価格動向を考慮しているほか,自社の新品種を野菜栽
培農家や農協に採用してもらうに当たり,自社の生産する元詰種子を取り
扱う販売業者に他の元詰業者の提示価格より安い価格を提示することなど
によって試験栽培の対象に選ばれるよう野菜栽培農家や農協に売り込むこ
とに注力させるようにし,販売業者に対する値引率を大きくすることによ
り自社の種子を多く取り扱ってもらおうとしており,価格競争の存在を認
識していたことが認められるとしている。
イもともと,品種間に品質に係る競争だけがあり,価格競争が存在しない
のであれば,元詰部会において毎年基準価格を決定する意味がないのであ
り,各事業者において,他社の元詰種子の価格に関係なく,それぞれの生
産コストや販売実績等に応じて自由に価格を設定すればよいし,それによ
り各事業者間の売行きには何らの影響も生じないはずである。しかし,代
表者等の供述の中(査12,42,43)には,販売価格を高くすると売
れ行きが落ち,経営が成り立たなくなる可能性や1社のみで値上げすると
高くて買えないといわれること,他社の同ランクのものより高いと値引き
交渉されることを指摘するものがあり,また,討議研究会における基準価
格の決定の必要性につき,これを決めないと価格競争が始まり,利益の確
保ができなくなることを懸念するもの等(査112,445,447,4
54,456)もあることに照らせば,元詰業者らは,元詰種子において
も,品種間に価格競争が潜在的に存在しており,討議研究会で決定した基
準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を定めることにより価格競争が
顕在化するのを防いでいるとの認識を有しているものと推認される。
ウ需要者である農協あるいは小売業者の側においても,証拠(参考人P3
0,同P32,同P35及び同P36の各参考人審訊における供述)によ
ると,元詰種子の価格には肥料や薬剤のように大幅な年次変動がなく,仕
入価格が判らなくても,前年度価格を前提にして大まかな値段がわかるも
のと認識していることが認められ,前年度価格から想定を上回る変更がな
い状況が前提となって,品種選定時に価格に対する関心が薄いものと推認
される。
なお,原告らは,指定産地の主要品種の価格には相当のばらつきがある
と主張する(第3の7()イ(イ))が,証拠(審A11)によっても,そ1
の具体的なばらつきの程度は不明であるし,そもそも,上記報告書(審A
11)はそれぞれの等級区分における基準価格からの乖離の程度が2パー
セントを上回るかどうかの点から調査したものであり,その乖離の程度は
いずれにしてもわずかであるというべきであるから,上記報告書の存在は
上記認定を左右するものではない。
また,原告らは,種子の代金が野菜の生産コストに占める割合が極めて
,()小さいことから価格競争が存在しないと主張する第3の7()イ(エ)1
が,参考人らは,いずれも想定の範囲内の価格であることを前提として,
価格に配慮せずに品種を選択すると述べているに止まるのであって,結果
的に想定の範囲内に収まれば生産コストに占める割合が小さいとはいえる
ものの,一般にどのような価格になっても生産コストに占める割合が変わ
らないとはいえないのであるから,原告らの主張は失当である。
エ代表者等の供述調書(査45,48,50,58,60,61,63,
65)や証拠(審A5,参考人P7のP33)によると,新品種の価格,
について,品種特性が類似した他社の品種の価格を参考にして定めること
が認められる。
これについて,原告らは,対価の設定に際しては,競合品種の価格を目
安とするしかないと主張する(第3の7()イ(ウ))が,価格の設定にお1
,,,いて競合品種の価格が検討すべき要件の一つとなるとしても一般には
生産コストや市場の情勢等の今後の販売の見通しなど様々な要因を総合考
慮して定められるべきものであり,同業他社の動向が不明であることによ
るリスクを負担しながら,その価格の設定をすることになるはずのもので
あるから,原告らの主張は失当であるし,そもそも,競合品種を想定する
ことができ,それと類似の価格を設定せざるを得ないことからは,元詰種
子がその品質のみにより選択されるのでないことが窺われるものというべ
きである。
オ品種内価格競争が存在することは原告らも認めるところであるが,その
一方で,類似した適性の品種の価格を参考に新たな品種の価格を設定して
いること及び等級区分が同じ品種については本件合意により価格表価格が
概ね同じ価格となっていることは上記のとおりであるから,一つの品種の
価格の下落は,類似の適性を有する他の品種の価格に影響を与えることが
推認される。
カしたがって,元詰種子においても,品種間に価格競争が潜在的に存在し
ており,討議研究会において基準価格を決定し,これに基づいて各事業者
が価格表価格を設定することにより,実際の販売価格における各事業者間
の差異が減少しているため,これが顕在化していないに止まるものという
べきであり,上記アの本件審決が認定する事実は,いずれも本件審決摘示
の証拠により認められ,これらの点から元詰種子について品種間価格競争
が存在するものとした本件審決の認定は相当であって,これについて実質
的証拠を欠くことをいう原告らの主張は理由がない。
()原告らは,元詰種子における価格競争が存在するとしても,①軽微であ3
るから,本件合意により実質的競争制限には至っていない(第3の7(),2)
②個別の取引においては,値引きや割戻しが行われており,価格競争が可能
であるから,本件合意により実質的に競争が制限されていない(第3の7
(),③本件合意が将来基準価格を設定することについての約束であり,3)
基準価格の金額,値上げ幅等の具体的な内容,基準については何らの合意も
されておらず,各事業者による実際の販売価格の設定について目安となり影
響を与え得るような内容は一切含まれていないから,実際の販売価格はそれ
ぞれ独自に設定することとなり,事業活動の相互拘束は認められず,市場に
おける競争機能に有効な影響を与え得ないものであるから,不当な取引制限
は成立しない(第3の7())と主張している。4
アしかし,そもそも,4種類の元詰種子について,いずれも9割以上のシ
ェアを占める32社が,本来,公正かつ自由な競争により決定されるべき
商品価格を,継続的なやり方であることを認識した上で,同業者団体であ
るP13元詰部会の討議研究会において協議の上決定する基準価格に基づ
いて定めるとの合意をすること自体が競争を制限する行為にほかならず,
市場における競争機能に十分な影響を与えるものと推認することが相当で
ある。
一般に,価格は生産コストや市場の情勢等の今後の販売の見通しなど様
々な要因を総合考慮して定められるべきものであり,その価格の設定に当
たっては同業他社の動向が不明であるため,どのように設定するかにより
各事業者はかなりのリスクを負うのが通常であるところ,本件合意の存在
により,基準価格が決定され,シェアのほとんど大半を占める同業他社が
基準価格に基づいて価格表価格を設定することを認識し,基準価格に基づ
いて価格表価格を設定しても自らが競争上不利になることはなくなってい
るという事態は,とりもなおさず公正かつ自由な競争が阻害されている状
況であるといえる。上記のとおり,元詰種子について,潜在的な価格競争
が存在しており,これが顕在化していないのは,元詰業者らが基準価格に
基づいて価格表価格や販売価格を定めることが続いていた結果,農協等の
需要者が,価格に高い関心を払う必要がないまでに価格の差異がなくなっ
ていることによるものというべきであるから,現時点の状況のみをもって
価格競争が軽微であるとはいえないし,討議研究会において基準価格を決
定し,これに基づいて各事業者が価格表価格を設定することで品種間の実
際の販売価格に大幅な差異がなくなり,価格を考慮せず適性のみで品種を
選択する状況となっており,想定を上回るような生産コストとなることが
ないものと需要者が認識するに至るまで価格競争が潜在化しているとすれ
ば,本件合意による競争制限効果は,むしろ極めて深刻であるというべき
である。
なお,原告らは,討議研究会において基準価格を決定していたことにつ
いて,標準品の価値の目安(値ごろ感)について多くの(利害関係の反す
るものを含めた)関係者の意見を聴取した上でこれを公表することにより
標準品について不測の騰落を防止するための意義を有していたと主張して
いるが,一方ではこのような意義があると認識していること自体,元詰種
子に価格競争が存在することの証左というべきであるし,また,原告らが
基準価格の決定に上記のような意義があるものと認識していたとしても,
そのような合意が現行法の下で許容されるものとなるものでないことは明
らかであるから,原告らのこの主張によって上記判断が左右されるところ
はいささかもない。
イ原告らの主張するとおり,本件合意は,価格表価格を設定した後,販売
に際して行われる値引きや割戻しについては何ら拘束するものではなく,
これに係る価格交渉が可能であるとはいい得るものの,本件合意がその前
提となる価格表価格を制限するものである以上,その後の販売価格の設定
において値引きや割戻し等の価格交渉が行われているからといって,これ
らが価格表価格を全く無視して行われる状況に至っているなど特段の事情
の主張立証があれば格別,そうでない本件においては,実際の販売価格の
設定において公正かつ自由な競争が確保されているといえるものではな
い。したがって,個別の取引において値引きや割り戻しに係る価格交渉が
行われていることをもって実質的に競争が制限されていないとはいえない
し,実際の販売価格までを設定し得る合意を含んでいないことから不当な
取引制限に当たらないと解すべき理由も見当たらない。
なお,32社が行う値引きや割戻しは,むしろ,年度を超えて継続的に
行われているものであり,取引先との関係も継続していることから,本件
合意による不当な取引制限が実際の販売価格にも及んでいるものと解され
ることは既に認定したとおりであり,販売価格が討議研究会において決定
している基準価格とは全く関わりなく独自に設定されているものとはいえ
ない。
以上のとおり,原告らの①から③までの議論を含めた実質的競争制限に
関する主張は,いずれも理由がない。
4一定の取引分野について
()原告らは,一定の取引分野とは,当該合意の競争制限効果が及ぶ範囲で1
あり,各事業者の競争関係は年度ごとに異なり,元詰種子は毎年生産し,販
売し,購入する必要がある商品であって,その需給関係,価格設定も毎年異
なり,元詰種子の生産販売活動における競争関係は各年度ごとに独立して別
個に成立しているから,競争制限効果が年度を超えて及ぶことはないと主張
する(第3の8()。1)
一定の取引分野の決定においては,違反者のした共同行為が対象としてい
る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討し,その競争が実質的に制限
される範囲を画定して決定するのが相当である(東京高裁昭和61年6月1
3日判決・判例時報1199号41頁,東京高裁平成5年12月14日判決
・判例タイムズ840号81頁)ところ,元詰種子が,その性質上毎年生産
し,販売し,これを購入する必要がある商品であるとしても,本件合意は,
その価格表価格及び販売価格に毎年討議研究会で決定する基準価格による拘
束力を及ぼすことを内容とするものであり,その内容自体から年度を超えて
各事業者の価格表価格及び販売価格を拘束するものであることが明らかであ
る。また,平成10年から平成13年までの間,討議研究会において決定し
た基準価格に基づいた価格表価格の設定が行われており,そのことから本件
合意の存在が推認されることは上記のとおりであるのであって,本件合意が
年度を超えた各事業者の価格表価格及び販売価格を拘束する仕組みであるこ
とは十分推認することができる。
そして,元詰種子の需給関係や価格設定等の生産販売活動における競争関
係が,各年度ごとに全く同一ではないとしても,基準価格につき前年度の基
準価格との対比でその値上げの是非を検討して決定し得る程度の同一性を有
しており,年度を超えた連続性を有しているものといえるし,上記前提事実
記載の討議研究会における基準価格決定の経過に照らしても,元詰種子の生
産や販売に毎年度想定を超える変動が存在することは窺われない。
本件合意が年度を超えた競争制限効果を有しており,その存在を証拠によ
り認定された事実から合理的に推認することができることは既にみたとおり
であるから,実質的証拠の欠缺をいう原告らの主張は理由がない。
また,野菜の種類ごとに市場が異なると解されることは上記のとおりであ
るが,このことと,複数の野菜を含む包括的な合意が存在し,これによりそ
れぞれの取引分野における競争が制限されることとは何ら矛盾するものでは
なく,現に本件合意はそのような合意として存在しているのであるから,本
件審決が一貫性を欠くとする主張も理由がない。
()原告らは,産地において品種間価格競争が存在していないことを前提と2
して,産地が一定の取引分野に含まれないと主張する(第3の8())が,2
産地においても品種間価格競争が潜在的に存在していると認められることは
上記3に記載のとおりであるから,原告らの主張は前提を欠く。
()原告らは,一定の取引分野は,売り手側と買い手側の競争の及ぶ範囲に3
より画定され,基本的には売り手側の競争の及ぶ場であって,基準価格が主
に農協向けと大卸向けに決定されていることから,一定の取引分野は農協と
大卸により画定されるべきであると主張する(第3の8()。3)
しかし,上記のとおり,一定の取引分野は,不当な取引制限が対象とする
取引及びこれにより影響を受ける範囲を検討した上で,その競争が実質的に
制限される範囲を画定することをもって決定されるべきであり,本件合意で
は,討議研究会で決定した基準価格に基づいて,各事業者が価格表価格を設
定することとされているところ,討議研究会では,農協,小売業者,卸売業
者のそれぞれに対応した基準価格が決定され,各事業者の側でそれぞれ取引
先の取引段階に応じた価格表価格を設定し,そのいずれとも直接取引が行わ
れていることは上記前提事実及び上記1に認定のとおりであるから,本件合
意による競争制限効果は,元詰業者が直接取引を行う各取引に及ぶものであ
り,その全体をもって本件合意による競争制限効果が及ぶ一定の取引分野と
いうべきであって,その分野をその取引先の取引段階のうち主たるもののみ
に限定すべき理由は見当たらない。
5法令違反
()原告らは,昭和32年に,被告が,P13の前身であるP24の卸売部1
会が行っていた卸売最低標準価格の決定等について,独占禁止法違反により
審査を開始したが,これを不問に付したことから,同様の行為について再度
訴追する場合には,警告をするなど基準の変更を告知すべきであり,これを
しないままされた本件審決は違法であると主張する(第3の9()。1)
しかし,本件において違反行為とされているのは,32社が討議研究会に
おいて決定した基準価格に基づいて価格表価格及び販売価格を設定する旨の
合意をしていたことであり,昭和32年に審査が開始されたのはP24卸売
部会が卸売最低標準価格を決定していたこと等についてであるから,対象と
する行為のとらえ方が異なっている上,証拠(審A2)によると,被告は,
昭和32年にP24の卸売部会が行っている行為が独占禁止法違反とならな
いとの判断を示したものではなく,特に問題とすべきほどの影響はないと判
断して不問に付したに過ぎないことが認められるから,その影響の範囲によ
っては,行為自体は同様のものであっても,これに対し違反行為としての行
政処分を課する可能性があったのであり,種子の基準価格の設定一般につい
ての判断を示したものでもないから,不問に付したことをもって独占禁止法
の適用基準が示されたということはできない。
,(),,また証拠査421から456によるとP13元詰部会においては
平成6年にP29協会が被告の審査の対象となったことから,討議研究会に
おける基準価格の決定が独占禁止法違反となる可能性があるものとして善後
策を検討し,討議研究会において使用する討議用紙の体裁を変更したり,メ
,,モを残さないことを申し合わせるなどしたことが認められるところその際
P13及びその構成事業者において,昭和32年に同じ行為が不問に付され
たことを指摘し,被告により訴追を受けることはないとの認識を示していた
ことを窺わせる供述あるいは資料は見当たらず,そもそも,原告らが,昭和
32年に被告がP24に対し行政処分を課さなかったことにより独占禁止法
上の判断基準が示されたものと認識していたことも窺われない。
したがって,いずれの点においても,原告らの主張は理由がない。
()原告らは,本件審決による本件合意の認定は,審判合意と異なる対象を2
とらえており,被審人らの防御の機会を閉ざしたものであるから,違法であ
ると主張する(第3の9()。2)
審判合意は「32社は,遅くとも平成10年3月19日以降(P10及,
),,びP9にあっては平成13年3月14日以降4種類の元詰種子について
販売価格の低落の防止等を図るため,種類ごとに,各社が販売価格を定める
際の基準となる価格を毎年決定し,各社は当該基準価格の前年の基準価格か
らの変動に沿って各社の4種類の元詰種子の品種ごとの販売価格を定めて販
売する旨の合意」をしていたというものであり,基準価格の具体的な決定方
法及び各社が販売価格を定める場合の具体的内容についての記載がなかった
ことは,原告ら指摘のとおりである。
しかし,被告における審判の範囲は,審判開始決定記載事実の同一性を害
せず,かつ,被審人らに防御の機会を閉ざさない限り,上記記載事実と多少
異なった事実にわたったとしても適法と解すべきである(最高裁昭和29年
5月25日第三小法廷判決・民集8巻5号950頁参照)ところ,本件合。
意(第2の3())のうちイ及びウは,基準価格の具体的な決定方法を討議3
研究会で平成10年以降具体的に行っていた内容に従って記載したものであ
り,同エ及びオは,審判開始決定において「当該基準価格の前年の基準価,
格からの変動に沿って各社の4種類の元詰種子の品種ごとの販売価格を定め
て販売する」との部分を,基準価格の決定内容に基づいた販売価格の決め方
に書き分けたに過ぎないものであるから,審判合意の内容を,遅くとも平成
10年以降実際に行われていた内容に基づいて具体的に記載したものという
べきであり,事実の同一性を害しない範囲内であるものと認められる。
また,上記各内容は,審判手続において,審査官が実施状況として具体的
に主張していたものであり,審査官が毎年の実施行為が合意の存在を裏付け
る間接事実であると主張していたことも審判記録により明らかであるから,
この点については,審理の対象となっており,被審人らにも防御の機会が与
えられていたものというべきである。
したがって,これらの点について本件審決において本件合意の内容として
認定したことが違法であるとはいえないし,本件合意を認定するにあたり,
審判官が何らかの釈明を要する状況にあったともいい難いから,釈明権を行
使しなかったとしても,手続違反に当たらない。
()原告らは,本件審決のうち,排除措置命令についての主文が不明確であ3
り,違法であると主張する(第3の9()。3)
本件審決の主文は「遅くとも平成10年3月19日以降(P9株式会社,
及びP10株式会社にあっては平成13年3月14日以降)していた,各社
が販売価格を定める際の基準となる価格を毎年決定し,各社は当該価格の前
年度からの変動に沿って品種ごとに販売価格を定め,取引先販売業者及び需
要者に販売する旨の合意」の破棄を確認することを命じているところ,上記
主文における合意が,毎年その都度される合意を指すものではなく,毎年基
準価格を決定し,これに基づいて,販売価格を設定することの包括的合意を
指すものであることは,一般的にはさほどの困難なく読みとることができる
ものであり,不明確であって特定していないものとはいえない。
,,「」また本件審決の理由において記載されている本件合意は事案の概要
(第2の3())記載のとおりであるところ,平成10年以降に具体的に行3
っていた基準価格の決定方法及び基準価格の決定内容に基づいて販売価格を
決める際の具体的な決め方について記載を加えた以外,本件合意の骨子は本
件審決主文における記載と同一であって,合意内容が特定していないものと
もいえない。
()なお,本件審決では,不当な取引制限に係る立証責任を被審人らが負担4
しているかのような判断がされているとの指摘が原告らからされている(第
3の9())が,本件審決では,第1(事実及び証拠)の部分で,不当な取4
引制限としての本件合意の存在を認定した上,これ以降の部分で被審人らの
主張に対する判断を示しているものであって,被審人らに不当な取引制限に
係る立証責任を負わせているものではなく,他に審判官が手続的公正に欠け
ることを窺わせる事情は見当たらない。
()原告らは,本件審決の審決書には,競争の実質的制限に係る認定事実が5
記載されていないから,独占禁止法57条1項に反すると主張している(第
3の9()。5)
,,,本件合意は本来公正かつ自由な競争により決定されるべき商品価格を
討議研究会が決定した基準価格に基づいて定めることを内容とするものであ
るから,特段の事情がない限り,価格に関する競争を制限するものであるこ
とは合意の内容自体から明らかである。そして,本件審決においては,本件
合意の存在が認定された後(第1,本件合意が存在していても実質的に競)
争が制限されていないとする被審人らの主張に対し判断が加えられた上第,(
4の1及び3,本件合意が競争を実質的に制限するものであるとの認定が)
されている(第4の5)から,これをもって競争の実質的制限についての認
定に不足はなく,そのことが審決書にも記載されているものといえるから,
原告らの主張は理由がない。
6排除措置について
()原告らは,被審人らが,元詰種子の販売価格に関する話合いを行わない1
旨の申合せを行っており,P13も元詰部会を廃止し,事業者間で作柄及び
価格について情報交換を行い基準価格を決定する機会は存在しないから,今
後本件合意と同一ないし社会通念上同一性があると考え得る行為を繰り返す
おそれは認められず,排除措置の必要性はないとして,これを命じた本件審
決は違法であると主張する(第3の10()。1)
本件審決は,全体としてみれば,①被審人19社は13社とともに遅くと
も平成10年3月から平成13年10月までの3年余りにわたって違反行為
を継続しており,違反行為と認定されていないが,これ以前にも元詰業者間
における協調的関係が存在していたこと,②違反行為終了の経緯が自主的な
ものでなく,被告の立入検査を契機とするものであること,③違反行為の誘
因が依然存在しており,価格設定において共同歩調をとる必要を否定するに
足りる市場状況の変化は認められないことから,被審人19社において今後
同様の行為を繰り返すおそれがあると認められるとして,本件排除措置を命
ずる必要性を肯定した。
独占禁止法54条2項(同法7条2項)に定める「特に必要があると認め
るとき」の要件に該当するか否かの判断については,我が国における独占禁
止法の運用機関として競争政策について専門的な知見を有する上告人の専門
的な裁量が認められるものというべきであるところ(最高裁平成19年4月
19日第一小法廷判決・判例タイムズ1242号114頁,上記の「特に)
必要があると認めるとき」の要件に該当する旨の被告の判断が合理性を欠く
ものであるということはできず,裁量権の範囲を超え又はその濫用があった
ことは認められないから,本件審決が排除措置を命じたのは相当であり,独
占禁止法54条2項に反するものではない。
()これに対し,原告らは,違反行為の終了原因が外部的要因に基づくこと2
(()②)については,ほとんどすべての事案がこれに該当するものである1
と指摘し,また,今後同様の行為が繰り返されるおそれについては,違反行
為自体から判断すべきであるとの主張をする(第3の10())が,上記要1
件の判断については被告に専門的裁量が認められることは上記のとおりであ
り「特に必要があると認めるとき」の要件該当性を判断するに当たり違反,
行為の終了原因や違反行為以外の事情を考慮したことのみをもって,裁量権
を逸脱するものであるとか,これを濫用するものであるとはいえない。その
判断の前提となる事実や判断基準を限定すべきであるとの原告らの主張は独
自の見解であって,当裁判所の採用するところではない。
また,原告らは,本件違反行為について,基本合意があると構成するか,
その都度の違反が繰り返されていると構成するかにより,排除措置の対象や
違反行為期間が異なり,課徴金が賦課される期間も異なることから,基本合
意があると構成するのは行政比例の原則に反し,これに基づいて排除措置を
命じたのは裁量権を逸脱するものであると主張する(第3の10()。3)
,,,しかし本件においては単年度の違反が繰り返されているのみではなく
これを包括する基本合意である本件合意の存在が認められることは上記のと
,,おりであるからこれを前提として排除措置を命じるのは当然のことであり
他に,本件排除措置において裁量権を逸脱したことを窺わせる事情は見当た
らない。
()また,原告らは,本件審決主文第3項が合法的な行為まで禁止する過大3
な禁止命令であり,違法であると主張する(第3の10()。2)
しかし,4種類の元詰種子の販売価格について,他の事業者と相互にその
事業活動を拘束する合意をすることにより,少なくとも,販売価格が公正か
つ自由な競争により決定されることを阻害しているのであって,このような
合意は競争を実質的に制限するものであるから,本件審決主文第3項が禁止
する行為を独占禁止法が禁止する不当な取引制限に当たるものとするに何ら
の妨げはない。
()原告らは,排除措置を命ずる必要があるのはP13の行為であると主張4
する(第3の10())が,本件合意が32社の行為であると認められるこ4
とは既にみたとおりであり,原告らの主張は前提を欠く。
なお,原告らは,被告の審査開始を受けて元詰種子の販売価格に関する話
合いをしない旨の申合せをしたのはP13理事会であり,原告らではないか
ら,原告らが本件合意を破棄したことはないのに,その破棄したことの確認
を求める本件排除措置が違法であると主張するものとも解されるが,P13
理事会の上記決定により本件合意の実行が事実上不可能となったものとい
え,結果的に本件合意が破棄されたものと認定し得るものであるから被告が
本件合意が破棄されたものと認定したことが相当であることは既にみたとお
り(第4の1()イ)であり,本件審決がその確認を求めて本件排除措置を5
命じたことに違法はなく,上記原告らの主張は理由がない。
()原告らは,本件排除措置において破棄したことを確認すべき合意が,審5
判合意であって,本件合意とは異なると主張する(第3の10()。5)
しかし,本件合意と審判合意とは,事実の同一性の範囲内において,基準
価格の決定方法や,基準価格に応じて販売価格を設定するやり方等について
具体的に記載しているか否かを異にするに過ぎないものであることは既にみ
たとおりであり,破棄したことを確認すべき合意と本件合意との間には事実
の同一性が認められるから,原告らの上記主張も失当である。
第5結論
以上のとおり,本件審決には,原告らが主張するような違法はなく,原告ら
の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり
判決する。
東京高等裁判所第3特別部
裁判長裁判官寺田逸郎
裁判官浅香紀久雄
裁判官石栗正子
裁判官小林宏司
裁判官森一岳は,填補のため,署名押印できない。
裁判長裁判官寺田逸郎

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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
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