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最高裁判例


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平成30年(受)第69号損害賠償請求事件
平成31年2月14日第一小法廷判決
主文
原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人西澤博ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除
く。)について
1本件は,上告人(名張市)の市議会議員(以下,名張市議会を「市議会」と
いい,その議長及び議員をそれぞれ「市議会議長」及び「市議会議員」という。)
である被上告人が,上告人に対し,名張市議会運営委員会(以下「議会運営委員
会」という。)が被上告人に対する厳重注意処分の決定(以下「本件措置」とい
う。)をし,市議会議長がこれを公表したこと(以下,これらの行為を併せて「本
件措置等」という。)により,被上告人の名誉が毀損されたとして,国家賠償法1
条1項に基づき,慰謝料等の支払を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人は,市議会議員であり,常任委員会である教育民生委員会に所属
していた。
(2)ア教育民生委員会においては,平成26年11月11日,以下のとおりの
視察旅行(以下「本件視察旅行」という。)を行うとの提案がされ,その後の協議
を経て,教育民生委員長は,同年12月18日,市議会議長に対し,本件視察旅行
に係る委員派遣の承認を求めた。市議会議長は,同日,これを承認し,教育民生委
員会の委員全員に対して出張命令を発した。
日程平成27年1月28日から同月30日まで
研修内容①岡山県倉敷市介護支援いきいきポイント制度について
②岡山市ごみの減量化の取組について
③北九州市いのちをつなぐネットワークの取組について
参加委員教育民生委員会の委員全員(被上告人を含む。)
イ本件視察旅行は上記アの日程で実施されたが,被上告人は,市議会議長に対
し,上告人の財政状況等に照らしてこれを実施すべきでないと判断する旨を記載し
た欠席願を提出した上で,本件視察旅行を欠席した。
(3)議会運営委員会は,平成27年2月4日,被上告人に対し,本件視察旅行
を欠席したことを理由として,厳重注意処分を行うことを決定した(本件措置)。
そして,同委員会は,本件視察旅行が名張市議会会議規則(平成8年名張市議会規
則第1号。以下「本件規則」という。)に基づく公務であるにもかかわらず,被上
告人は正当な理由なく欠席したため,名張市議会議員政治倫理要綱(名張市議会告
示第1号。以下「本件要綱」という。)の規定に基づき厳重注意処分とする旨,及
び今後,公務に対する正確な認識の下,議員としての責務を全うするよう強く求め
る旨を記載した市議会議長名義の厳重注意処分通知書(以下「本件通知書」とい
う。)を作成した。
市議会議長は,上記同日,議会運営委員会の正副委員長等のほか,本件措置を知
って取材の申入れをした新聞記者5,6名のいる議長室において,本件通知書を朗
読し,これを被上告人に交付した。
(4)ア本件規則90条は,委員会の委員は,事故のため出席できないときは,
その理由を付け,当日の開議時刻までに委員長に届け出なければならないと規定す
る。また,本件規則105条は,委員会は,審査又は調査のため委員を派遣しよう
とするときは,その日時,場所,目的,経費等を記載した派遣承認要求書を議長に
提出し,あらかじめ承認を得なければならないと規定する。
イ本件要綱2条は,議員は,次に定める政治倫理基準を遵守しなければならな
いとし,その一つとして,地方自治の本旨及び本件規則にのっとり,議員としての
責務を全うすることと定めている(2号)。そして,本件要綱3条は,この要綱に
反した場合は,勧告その他必要な措置をとることができると定め,本件要綱4条
は,この要綱の運用については,議会運営委員会がこれに当たると定めている。
3原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断した上で,被上
告人の請求を一部認容した。
(1)被上告人の請求は,名誉権という私権の侵害を理由とする国家賠償請求で
あり,議会が自主的,自律的に決定した事項の是非を直接の問題とするものではな
い。また,被上告人は,公費の支出を伴う本件視察旅行の必要性に疑問を呈し,政
治的信条として参加を拒否したのであるから,上記請求は,紛争の実態に照らして
も,一般市民法秩序において保障される移動の自由や思想信条の自由という重大な
権利侵害を問題とするものであり,一般市民法秩序と直接の関係を有する。したが
って,本件訴えは,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たる。
(2)本件措置等は,議会運営委員会が,被上告人が市議会議員としての公務を
怠ったと断定し,厳重注意処分をしなければその責務を全うし得ない人物であると
評価し,判断したことを示すものであるから,被上告人の市議会議員としての社会
的評価の低下をもたらすと認められる。そして,被上告人の請求は司法審査の対象
となるから,本件措置等において摘示された事実が真実であるか,また,その事実
を真実と信ずるについて相当の理由があるか否かも裁判所が判断すべき事項である
ところ,これらはいずれも認められない。したがって,上告人は名誉毀損による国
家賠償責任を負う。
4しかしながら,原審の上記3(1)の判断は結論において是認することができ
るが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)本件は,被上告人が,議会運営委員会が本件措置をし,市議会議長がこれ
を公表したこと(本件措置等)によって,その名誉を毀損され,精神的損害を被っ
たとして,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めるものであ
る。これは,私法上の権利利益の侵害を理由とする国家賠償請求であり,その性質
上,法令の適用による終局的な解決に適しないものとはいえないから,本件訴え
は,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たり,適法というべきである。
(2)もっとも,被上告人の請求は,本件視察旅行を正当な理由なく欠席したこ
とを理由とする本件措置等が国家賠償法1条1項の適用上違法であることを前提と
するものである。
普通地方公共団体の議会は,地方自治の本旨に基づき自律的な法規範を有するも
のであり,議会の議員に対する懲罰その他の措置については,議会の内部規律の問
題にとどまる限り,その自律的な判断に委ねるのが適当である(最高裁昭和34年
(オ)第10号同35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁参
照)。そして,このことは,上記の措置が私法上の権利利益を侵害することを理由
とする国家賠償請求の当否を判断する場合であっても,異なることはないというべ
きである。
したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰その他の措置が当該議
員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断する
に当たっては,当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り,議会の自律的な
判断を尊重し,これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当で
ある。
(3)これを本件についてみると,本件措置は,被上告人が本件視察旅行を正当
な理由なく欠席したことが,地方自治の本旨及び本件規則にのっとり,議員として
の責務を全うすべきことを定めた本件要綱2条2号に違反するとして,議会運営委
員会により本件要綱3条所定のその他必要な措置として行われたものである。これ
は,被上告人の議員としての行為に対する市議会の措置であり,かつ,本件要綱に
基づくものであって特段の法的効力を有するものではない。また,市議会議長が,
相当数の新聞記者のいる議長室において,本件通知書を朗読し,これを被上告人に
交付したことについても,殊更に被上告人の社会的評価を低下させるなどの態様,
方法によって本件措置を公表したものとはいえない。
以上によれば,本件措置は議会の内部規律の問題にとどまるものであるから,そ
の適否については議会の自律的な判断を尊重すべきであり,本件措置等が違法な公
権力の行使に当たるものということはできない。
したがって,本件措置等が国家賠償法1条1項の適用上違法であるということは
できず,上告人は,被上告人に対し,国家賠償責任を負わないというべきである。
5上記と異なる見解の下に,上告人の国家賠償責任を肯定した原審の判断に
は,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は
理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上に説示した
ところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これと同旨の第1審判決は結論に
おいて是認することができるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官池上政幸裁判官小池裕裁判官木澤克之裁判官
山口厚裁判官深山卓也)

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