弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用はXらの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2Y市長が,A寺に対し,平成17年5月20日付けでしたB霊園の経営許可
処分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,Xらほかが,Yに対し,Y市長がA寺に対して平成17年5月20
日付けでしたB霊園(以下「本件霊園」という。)の経営許可処分(以下「本
件処分」という。)の取消しを求めた事案である。
原審が,Xらほかは原告適格を欠くとして訴えをいずれも却下したため,X
らが控訴した。
1前提事実(争いがない,甲17,乙2,3,9,10,弁論の全趣旨)
()当事者等1
アXらは,F県Y市周辺に居住する者であり,F県下で有数の神社であa
るE神社の宮司(X1)ないし氏子(その余のXら)である(甲22,4
2,証人C)。
イA寺は,主たる事務所をS県市町○番地に置く,昭和28年1月5bc
日に成立した宗教法人である。その登記簿上には,平成13年11月1日
に「F市区丁目○番D」が代表役員に就任した旨の記載がある。なde
お,同寺は,上記主たる事務所の所在地に寺院の建物と境内地を有するが,
無人の寺となってから既に久しく,建物は今では廃墟と化している。(甲
4,6,9,46,証人C)。
()A寺は,Y市長に対し,原判決別紙物件目録記載の各土地の一部分(以2
下「本件各土地」という。)において本件霊園を経営することの許可を申請
し(以下「本件申請」という。),Y市長は,A寺に対し,平成17年5月
20日付けで本件処分を行った。
()Xらほかは,平成18年1月6日,本件訴えを提起した。なお,これと3
は別に,X2,X3及びE神社が債権者となり,A寺を債務者として,平成
18年2月7日ころ,福岡地方裁判所に対し,霊園の工事禁止の仮処分が申
し立てられたが,同申立ては同年8月10日に却下された(甲23,33)。
()アY(その担当課は「G課」である。)は,本件許可に際し,A寺に対4
して,次の内容の口頭指導(以下「本件指導」という。)を行った。
(ア)S県に申請中のA寺の規則変更(地区における霊園経営)についa
て,規則変更申請書と変更許可書の各写しを提出すること
(イ)霊園開発については,今回の開発(9668平方メートル)をもっ
て終了し,今後これ以上拡大し開発しない旨の確約書を提出すること
(ウ)霊園開発工事の工事完了届を提出すること
(エ)霊園開発工事については,本件申請に係る墓地等経営許可申請書記
載の内容とし,これ以外の霊園開発工事が確認された場合,墓地経営許
可を取り消すこと
(オ)霊園開発について,近隣住民から説明を求められたときは,誠意を
もって説明すること
(カ)農業振興地域整備計画の変更(農用地を一部除外)を受けること
(キ)Y市開発事業指導要綱に基づく工事完了検査済通知書の写しを提出
すること
(ク)里道の付け替えに関する申請許可書の写しを提出すること
イまた,平成17年12月7日,Y市長とA寺は,Y市開発事業指導要綱
(平成17年1月24日Y市告示第106号)6条1項に基づき,次の内
容を含む協定(以下「本件協定」という。)を締結した。
(ア)A寺は,市道○号線のY市字○番地先に車両が離合するためのef
待機場所を整備しなければならない(3条1項)。
(イ)A寺は,市道○号線の終点から開発地までの区間の里道を,有効幅
員6.0メートル以上に整備しなければならない。ただし,Y市長がA
寺の責によらない理由で,法による完了検査までに整備が完了しないと
認める区間については,完了検査までに有効幅員4.0メートル以上に
整備し,Y市長が完了通知を行った日の翌日から起算して3年以内の間
に有効幅員6.0メートル以上に整備を完了させなければならない(3
条2項)。
(ウ)A寺は,開発行為に伴う排水の放流によって生じるおそれのある流
末の環境調査を十分考慮し,これらの関係者に対して事前の協議を行う
ものとする(6条)。
(エ)A寺は,開発行為に伴い近隣住民の生活環境に障害を及ぼすおそれ
があると予想されるときは,影響が予想される地域の状況を十分調査の
上,A寺の責任において必要な措置を講じるものとする(9条2項)。
(オ)A寺は,近隣住民に対し開発行為についての事前説明を行い,必要
な場合は工事協定等を締結し,不安を与えたり迷惑をかけたりすること
のないよう,最善の努力を払うものとする(9条3項)。
(カ)A寺は,事業中において,近隣住民及び利害関係者から開発行為に
ついて説明を求められた場合は,事業計画等について誠意を持って説明
しなければならない。また,苦情があった場合は,A寺の責任において
誠意を持って速やかに解決しなければならない(9条4項)。
()アF県知事は,墓地等の経営の許可につき,F県墓地等の経営の許可等5
に関する規則(以下「規則」という。)を定めており,同規則には次のよ
うな規定がある。
「第一条この規則は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律
第四十八号。以下「法」という。)第十条の規定による経営の
許可等に係る墓地,納骨堂及び火葬場(以下「墓地等」とい
う。)の設置場所及び構造設備の基準その他必要な事項を定め
るものとする。
(中略)
第三条墓地の設置場所は,次に定めるところによらなければならな
い。
一住宅,学校,病院その他公衆の多数集合する場所(以下「住
宅等」という)から墓地までの距離は,百メートル以上である
こと。
二河川,海又は湖沼に近接していないこと。
三飲料水を汚染するおそれのない土地であること。
(中略)
第九条知事は,災害の発生又は公共事業の実施に伴い墓地等を移転
する場合その他特別な理由がある場合であって公衆衛生その他
公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,第三条から
前条までに規定する基準を緩和することができる。」
イ墓地等の経営許可等の事務は,地方自治法252条の17の2第1項及
びF県事務処理の特例に関する条例に基づき,平成12年4月1日から,
市町村が処理することとなった。なお,規則は,市町村による上記事務処
理にも適用される(地方自治法252条の17の3第1項)。
()厚生労働省は,都道府県知事等に対し,「墓地経営・管理の指針等につ6
いて」(以下「本件指針」という。)を通知した(平成12年12月6日生
衛発第1764号)。本件指針は,地方自治体における墓地経営許可に関し,
(ア)その基本的事項として,①墓地経営者には,利用者を尊重した高い倫
理性が求められること,②経営・管理を行う組織・責任体制が明確にされて
いること,③計画段階で許可権者との協議を開始すること,④許可を受けて
から募集を開始することなどを求めており,また,(イ)墓地経営の主体に
ついて,①墓地経営主体は,市町村等の地方公共団体が原則であり,これに
より難い事情があっても宗教法人又は公益法人等に限られること,②いわゆ
る「名義貸し」が行われていないことなどを求めている。
2争点
本件の争点は,()Xらの原告適格の有無(本案前の抗弁)及び()本件処分12
の適法性であり,これらに関する当事者の主張は次のとおりである。
()Xらの原告適格の有無について1
(Yの主張)
ア法10条1項は,墓地等を経営しようとする者は,都道府県知事の許可
を受けなければならない旨規定するのみで,上記許可の要件について特に
規定していない。これは,墓地等の経営が,高度の公益性を有するととも
に,国民の風俗習慣,宗教活動,各地方の地理的条件等に依存する面を有
し,一律的な基準による規制になじみ難いことにかんがみ,墓地等の経営
に関する許否の判断を都道府県知事の広範な裁量に委ねる趣旨に出たもの
であって,法は,墓地等の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し,
かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的
とする法の趣旨に従い,都道府県知事が,公益的見地から,墓地等の経営
の許可に関する許否の判断を行うことを予定しているものと解される。法
10条1項自体が当該墓地等の周辺に居住する者個々人の個別的利益をも
保護することを目的としているものとは解し難い。
イまた,規則3条1号及び9条は,前提事実()アのとおり規定している5
が,同規則は,その周辺に墓地等を設置することが制限されるべき施設を
住宅,学校,病院を含めて広く規定しており,その制限の解除は専ら公益
的見地から行われるものとされていることにかんがみれば,同規則がある
特定の施設に着目して当該施設の設置者の個別的利益を特に保護しようと
する趣旨を含むものとは解し難い。
ウ仮に,原告適格の有無を規則3条1号の基準(墓地までの距離が100
メートル以上であること)により判断するとしても,Xらの住所地は,最
も近い者でも,本件各土地から直線距離で210メートル以上の位置にあ
り,本件霊園の周辺ですらなく,この点でも原告適格は認め難い。
エ以上によれば,Xらはいずれも原告適格を有しないから,本件訴えは却
下されるべきである。
(Xら)
ア行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定し,同条2項
は,同条1項の「法律上の利益を有する者」の判断につき,解釈指針を示
すとともに,必要的考慮事項を規定している。これは,平成16年の行政
事件訴訟法の改正により新設された規定であり,行政処分の直接の相手方
ではない第三者の原告適格の実質的拡大を図ろうとするものである。
イしかるに,法は,昭和23年に成立した法律であり,立法担当者も原告
適格を意識していたわけではないから,その文言のみから個別的利益の保
護を導き出そうとしても困難であるが,法の趣旨・目的を考慮するならば,
法が許可要件を明記せずに都道府県知事に広範な裁量を認めた趣旨は,各
地域ごとの特性・事情を総合考慮させて,住民の健康や生活利益を守ろう
としたものであり,当該事案や地域の特性,環境や生活の利益に関する配
慮を求めたものと解釈すべきである。
また,地方自治法2条3項6号が,墓地経営・管理を地方公共団体の事
務の一つとしているのは,墓地経営が国民の公衆衛生の増進,宗教的人格
権の実現の具体的手段であるためであり,さらに,本件指針において具体
的な指針が示されていることなども見逃してはならず,規則3条1号にも
住宅等と墓地との距離に関して明確な規定が置かれているのである。
これらの法令等にかんがみれば,法10条1項ないし規則3条1号は,
個別的利益をも保護する趣旨に出たものと解すべきである。
ウそして,Xらは,原判決5頁5行目から6頁9行目までのような利益侵
害((ア)健康被害の危険性,(イ)良好な環境を享受する権利の侵害,
(ウ)宗教感情及び宗教的人格権の侵害)を被るおそれがある。
エ以上のとおり,法及び規則の趣旨,目的にかんがみれば,法10条1項
ないし規則3条1号は,個別的利益を保護する趣旨の規定であると解すべ
きであり,Xらが上記のような利益侵害を被るおそれがある以上,Xらは,
本件処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有するというべきであ
る。
()本件処分の適法性について2
(Y)
ア本件申請に規則違反はないし,本件指針に反するような名義貸しは認め
られず,その他に本件指針に反するような特段の問題点もなかった。なお,
そもそも,本件指針は,墓地に関する指導監督事務のガイドラインであり,
かつ経営者が適正な経営を行う上で参考となるものであるが,これに反す
る取扱いがされたからといって,直ちに当該墓地等経営許可が違法となる
ようなものではない。
イA寺からは,本件指導に従って必要書類が提出されるなどしており,不
備な点は見られない。また,Y市長とA寺は本件協定を締結しているが,
A寺がこれに違反している状況も認められない。
ウなお,Xらは,Y市長が,本件処分を行うに当たって本件各土地周辺の
地質検査及び水質検査をしなかったなどと非難するが,墓地等の経営許可
を行うに当たって上記の検査をすることは要件とされていない。
エ以上のとおり,本件処分は適法である。
(Xら)
ア本件申請が名義貸しによりなされたこと
本件各土地の買収に着手したのは,I1(なお,同社はI2に商号変更
している。)であり,その代表取締役Jは,産業廃棄物処理業を業とする
Kの代表取締役でもあった。また,本件各土地の中には,I1からLに所
有権が移転しているものがあるが,同会社の代表取締役Mは,Kの取締役
であった。さらに,A寺の代表役員として登記されているDも,Kの取締
役であった。このように,本件申請やその準備行為は,Jをはじめとする
産業廃棄物処理業の関係者によって遂行されてきたものである。
他方,A寺は,昭和40年ころにはN住職の下で信者や加持祈祷に参る
者も多かったようであるが,同住職が昭和49年に他界し,その後を継い
だ婦人も昭和63年に他界してからは無人の寺となり,建物も廃墟と化す
など宗教活動を行った形跡はない。
このように,A寺はもはや活動実態がなく,その代表役員となっている
DもKの取締役であったことからすると,本件申請は名義貸しによって行
われたことが明らかである。
イ本件申請が脱法的申請であること
本件申請を実質的に行った前記産業廃棄物処理業者らは,産業廃棄物処
理場として購入した本件各土地から,さらなる利益を上げるため,本件各
土地において大規模開発を計画している。しかし,かかる大規模開発の申
請は,各法律の許可基準を満たさなかった上,上記業者らには,その資力
や経済的基盤がなかったため,上記大規模開発への足がかりとして,許可
要件の緩やかな小規模開発を行うこととし,本件申請に及んだのである。
このような手法による本件申請は,本来満たすべき許可要件を潜脱するも
のであり,明らかな脱法的申請である。
ウ本件指導及び本件協定の不遵守
Y市長は,本件申請後,A寺に対し,濫開発に対する周辺住民への配慮
という観点から,本件霊園の経営許可の条件として,本件指導を行ったが,
A寺は漫然とこれを看過した。また,Y市長とA寺は,本件協定を締結し
ているが,A寺は同協定上の義務を一切果たしていない。
エ地質及び水質検査の不履行
本件霊園の経営により,周辺住民の健康,良好な環境を享受する権利が
侵害される可能性が高いにもかかわらず,Y市長は,本件処分を行うに当
たって,本件各土地周辺の地質及び水質検査を行わなかった。
オ以上のとおり,本件申請は,実質的には産業廃棄物処理業者によって行
われたものであり,利用者を尊重した高い倫理性を認めることは到底でき
ない上,経営・管理を行う組織・責任体制も何ら明確にされているとはい
えず,墓地等の経営許可を受ける場合に求められる基本的事項を満たして
いない。これを容認した本件処分は,墓地等の管理及び埋葬等が,国民の
宗教的感情に適合し,かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障な
く行われるべきであるという法の趣旨を没却するものであり,重大な違法
がある。
また,Y市長は,本件指導を行っておきながら,それが遵守されていな
いにもかかわらず本件処分を行っており,行政手続上の禁反言の原則にも
違反する。
第3判断
1争点()について1
()行政事件訴訟法9条1項所定の当該処分の取消しを求めるにつき「法律1
上の利益を有する者」とは,当該処分により自己の権利若しくは法律上保護
された利益を侵害され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい,当
該処分を定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の
中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益として
もこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような
利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分によりこれを侵
害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消訴訟にお
ける原告適格を有するというべきである。そして,処分の相手方以外の者に
ついて法律上保護された利益の有無を判断するに当たっては,当該処分の根
拠となる法令の規定の文言のみによることなく,当該法令の趣旨及び目的並
びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮しなければ
ならず,当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的
を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌し,当該利益
の内容及び性質を考慮するに当たっては,当該処分がその根拠となる法令に
違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが
害される態様及び程度をも勘案すべきである(最高裁判所大法廷平成17年
12月7日判決・民集59巻10号2645頁参照)。
()アところで,法は,「墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国2
民の宗教的感情に適合し、且つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支
障なく行われることを目的」(1条)としており,このような立場に立っ
て,「墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の
許可を受けなければならない。」(10条1項)と規定している。
すなわち,法は,自ら許可要件を定めずに,都道府県知事に許可権限を
付与して,その広範な裁量に委ねているところ,これは,墓地等の経営が,
高度の公益性を有するとともに,国民の風俗習慣,宗教活動,各地方の地
理的条件等に依存する面を有し,一律的な基準による規制になじみ難いた
めであると解される。
さらに,規則は,その3条1号において,「住宅,学校,病院その他公
衆の多数集合する場所から墓地までの距離は百メートル以上であること」
とする一方,9条では,「災害の発生又は公共事業の実施に伴い墓地等を
移転する場合その他特別な理由がある場合であって公衆衛生その他公共の
福祉の見地から支障がないと認めるとき」には,都道府県知事が同3条な
いし8条に規定する基準を緩和することができると規定し,公共の福祉と
いう公益的な観点から当該基準の緩和を許容している。これらの規定は,
個別的利益というよりも,第一次的には,国民の宗教的感情や公衆衛生と
いった社会公共の利益を保護する趣旨に出たものと解するのが相当である。
イしかしながら,墓地や火葬場といった施設は,一般には付近に設置され
ることが歓迎されない施設(いわゆる嫌忌施設)であることは明らかであ
り,これが自らの居住する住宅の周辺に設置されるということになれば,
相応の精神的苦痛を受け,さらには,その設置によって,周辺の地価が下
落するというような事態もまま見受けられるところである。そして,その
ような精神的苦痛等は,当該嫌忌施設に近接すればするほど強くなる関係
にあるものということができる。
そうであれば,法や規則は,第一次的には,上記のような社会公共の利
益を保護するものと解されるが,併せて,嫌忌施設であるがゆえに生ずる
精神的苦痛等から免れるべき利益を個別的利益として保護するものと解す
るのが相当である。このことは,規則3条1号において,具体的に住宅等
が列挙されていることにも根拠を見出すことができる(住宅等の個々の居
住者や利用者を離れては,そのような施設を列挙した意義は理解し難
い。)。
ウなお,原判決は,同種事案における判例(最高裁判所第2小法廷平成1
2年3月17日判決・判例時報1708号62頁)を踏まえて,上記規定
等が個別的利益を保護するものではない旨の説示を行っているものと理解
されるのであるが,同判例が生まれた後,行政事件訴訟法の改正という大
きな事情変更があったものであり,複数の文献で判例変更の可能性が示唆
されていることや,前記()の最高裁大法廷判決(これは上記行政事件訴1
訟法の改正後に出されたものである。)の判示するところをも参酌するな
らば,法ないし規則が前記のような個別的利益を保護する趣旨を含むもの
と解するのが相当である。
()そこで,Xらの主張する被侵害利益について検討する。3
アまず,Xらは,本件各土地に土壌の汚染原因物質である産業廃棄物が埋
設されたままになっており,これを除去せずに本件霊園が設置されれば,
これを除去することは事実上極めて困難となって,土壌や地下水等が汚染
され,ひいては周辺住民であるXらの健康に悪影響を与えることが懸念さ
れると主張する。
しかし,Xらの主張する健康等への被害は,本件霊園が設置されること
による個別的利益に対する利益侵害とは解されず,むしろ,それに先行す
る産業廃棄物の埋設に起因するものである(このことはXらの主張自体か
らも明らかである。)。しかも,Xらを含む本件霊園の周辺住民に現に何
らかの健康被害が及んでいるということではなく,また,近い将来にその
ような危険が現実に発生する蓋然性が高いということが明らかにされてい
るわけでもない。X2,X3らが債権者となり,A寺を債務者として申し
立てた霊園の工事禁止の仮処分申立が却下された(前提事実())のも同3
様の理由である(甲33)。そもそも,本件霊園の地下に埋設された産業
廃棄物によって健康等への被害が生じ,或いは生ずるおそれが強いという
のであれば,その法益侵害の重大性に照らして,本件霊園の設置後であっ
ても,相応の法的手段に訴えてその除去等を実現することができるし,そ
うすべきものである。
イ次に,Xらは,本件各土地周辺がE神社を中心とする神域として崇め奉
られてきた場所であり,豊かな自然が残っているが,本件霊園が設置され
れば,周辺の自然環境が破壊されることが予想され,Xらの良好な環境を
享受する権利が侵害される旨主張するが,これも上記と同様に,本件霊園
が嫌忌施設であるがゆえに生ずる個別的利益に対する侵害であるとは認め
られないし,本件霊園が設置されることによって自然環境までもが破壊さ
れると認めることもできない(そもそも,それほど自然環境に恵まれた重
要な場所であれば,産業廃棄物の埋立自体を許すべきではなかったという
ことになろう。)。
ウさらに,Xらは,E神社との関係を窺わせるような名称を用いて本件霊
園を経営することになれば,に宗教的愛着を有するXら周辺住民の宗教g
感情及び宗教的人格権を侵害することは明らかである上,本件各土地の周
辺は,E神社とその氏子を中心とする宗教的色彩の強い地域であり,その
ような場所で,他の宗教団体が霊園を経営すること自体,Xらに宗教的嫌
悪感を覚えさせ,その宗教感情及び宗教的人格権を侵害する旨主張する。
確かに,Xらが神域として崇める場所に本件霊園が建設されることにな
れば,Xらが相応の不快感ないし嫌悪感を抱くことは理解できないわけで
はないし,法も国民の宗教感情に配慮すべきものとしていることは上記
()アのとおりである。しかし,このような利益は,都道府県知事(ない2
しはその委任を受けた市町村)の裁量権の範囲内において実現されるべき
社会公共の利益というべきものであり,これを個別的利益に含めて理解す
ることは困難である(仮に,これを個別的利益と認めるとすれば,その結
果,様々な宗教的利害の調整という困難に直面しなければならなくなって,
かえって収拾のつかないことにもなりかねない。)。
エ以上によれば,Xらの主張する被侵害利益はいずれも認めることができ
ない。
()そうすると,Xらは,いずれも本件処分の取消しを求めるにつき「法律4
上の利益を有する者」とはいえないことに帰する。
2以上の次第であるから,本件訴えは,いずれも原告適格を欠き不適法として
却下すべきものである。これと結論を同じくする原判決は正当であり,本件控
訴はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官西理
裁判官鈴木博
裁判官堂薗幹一郎

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