弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役1年6月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aと共謀の上,平成30年2月24日午後6時57分頃から同月
25日午前8時48分頃までの間に,愛知県稲沢市内の土地において,前記A
があらかじめ切断するなどしていた被害者(当時28歳)の死体の頭部,上腕
部及び胸部等を同所に設置されたドラム缶に入れて焼却し,もって死体を損壊
した。
(証拠の標目)
記載省略
(事実認定の補足説明)
1争点
本件では,死体損壊の客観的事実には争いがなく,争点は,被告人に死体
損壊の故意が認められるか否かである。当裁判所は,被告人に少なくとも未
必的故意があったと認めたので,その理由について説明する。
2前提となる事実
次の事実は当事者間に争いがなく,証拠によって優に認めることができる。
A,被告人及び被害者との関係
Aは,人材派遣会社の実質的経営者であり,被告人は,大学在学中の平
成29年10月頃から同社で働いていた。被害者は,Aの知人で,被告人
も面識があった。
A及び被告人による死体損壊事実
Aは,平成30年2月17日から同月22日にかけて,刃物店で洋出刃
包丁等4本の刃物を購入し,同月23日,名古屋市内のマンションa30
3号室内に呼び寄せられた被害者に対し,Bらと共に暴行を加えた上,被
害者を車に乗せて立ち去った。
本件犯行後に同市c区所在のマンションb101号室から採取された血
痕のDNA型が,被害者のそれと一致した。マンションbは,被告人がA
の指示で賃貸借契約を結んだマンションである。
被告人は,同月24日から同月25日にかけて,Aの指示で,マンショ
ンbから判示ドラム缶(以下「本件ドラム缶」という。)及びその付近の
自宅まで3回にわたって自宅のトラック及びハイエース(以下,単に「ト
ラック等」という。)で荷物を運び,Aとともに,これらを本件ドラム缶
で焼却するなどした(本件犯行)。本件犯行後に本件ドラム缶周辺から採
取された残焼物や土砂には,人の頭部,上腕部及び胸部の骨片が混ざって
いた。
これらの事実によれば,判示のとおり,被告人とAが,同人においてあ
らかじめ切断するなどしていた被害者の死体の頭部,上腕部及び胸部等を
本件ドラム缶に入れて焼却したことが認められる。
本件犯行前後の被告人の行動等
ア同月13日,Aが,会社事務所において,Cの前で前記Bと電話して
いる際に,被告人はその場に立ち会っていた。このとき,Aは,怒った
様子で,被害者を探している,情報があれば回してほしいなどと言って
おり,被告人は,Aの指示で,前記Cと被害者との間のライン履歴を確
認した。
イ同月20日,被告人は,Aの指示で部屋を探し,マンションbの賃貸
借契約を締結した。
ウ同月21日,Aと被告人は,冷蔵庫1台を購入し,マンションbに運
んだ。
エ同月23日夕刻,被告人は,交際相手や会社の管理職に対し,Aの指
示で動くことになったこと,Aから3日間誰にも連絡を取るなと言われ
たことなどを伝え,ホテル等で待機した。
オ同月24日午後,被告人は,Aの指示で2t車くらいのレンタカーを
探したが見つからず,自宅のトラックで,Aの指示に従ってマンション
bに向かった。その途中,Aの指示で,冷凍庫1台を購入し,マンショ
ンbに運んだ。
カ同日夕方のマンションb到着後,同月25日朝までの間,被告人は,
Aの指示で,マンションbから出た「ごみ」などの荷物をトラック等に
積んで自宅付近の本件ドラム缶まで運ぶことを3回繰り返した。
本件ドラム缶は,被告人の自宅の約117m先にある家族の所有地に
設置され,家族が野焼きに使用していたものであり,その周辺は田畑で,
最も近い民家から約56m離れている。被告人は,マンションbから出
た「ごみ」を燃やしたいというAの要望を受けて,本件ドラム缶の提供
を申し出て,Aが立ち会う中,本件ドラム缶でこれらの「ごみ」を焼却
した。
キ同月25日午前9時頃,Aと被告人は,稲沢市内のホームセンターに
行き,「厨房ブリーチ5kg」2個及び「キッチンハイター業務用」等を
購入した。
その後,同日夕方までの間,被告人は,Aの指示で,マンションbか
ら自宅に運んだ冷蔵庫を洗うなどした。本件犯行後,冷蔵庫及び冷凍庫
が被告人の自宅の倉庫で発見され,冷蔵庫内から採取された血痕のDN
A型が被害者のそれと一致した。
ク同日夜,被告人は,交際相手と食事に行った際,Aの依頼で行ってい
た作業(本件犯行)について,中国人によるスロット台の改造で出た部
品等を片付けていたと説明し,その中に肉のようなものもあった旨話し
た。また,このとき,被告人は,交際相手に対し,Aから,何かついて
いるといけないので服や靴,携帯電話を捨てて車を掃除しておくよう言
われた旨話した。
ケ同月27日,被告人は,Aの指示で,名古屋市c区内のドラッグスト
アで「パイプユニッシュ」2個及び「キッチンハイター大1500ml」
等を購入し,排水管等も含めてマンションbを掃除し,壁紙をはがした。
同日,被告人は,Aの指示で,リフォーム業者を探し,同年3月1日,
リフォーム業者がマンションbに壁紙張り替えの見積もりに行ったとこ
ろ,玄関,キッチン,リビング,クローゼット内まで壁紙がすべてはが
されていた。このとき,被告人は,リフォーム業者に対し,床材も全部
はがして張り替え,古い床材は自分で処分するのでそのままにするよう
指示した。
同月14日,マンションbに警察が来たことを聞いた被告人は,リフ
ォーム業者に対して,警察には何も言わないよう口止めをした上,費用
を倍額支払うのでマンションbの床をめくるよう依頼したが,断られた。
3検討
検察官の主張について
検察官は,被告人が,本件犯行前に,Aが被害者に対する殺意を有し,
暴力的な手段を用いて連行しようとしていたことを知っていて,Aから
本件犯行の計画を聞いており,Aとの間で事前共謀が成立していた旨主
張する。
しかし,前記2アのとおり,Aが被害者に腹を立ててその行方を捜
していることを被告人が知ったにしても,そこから直ちにAの殺意や暴
力的手段による連行の企てを知っていたとはいえない。検察官は,これ
に先立つ平成29年12月29日頃,会社の従業員がAの指示で被害者
を拉致しようとしたことを,被告人が別の従業員から聞いて知っていた
旨主張するが,その依拠する証拠によっても,被告人は夜中に電話で1
分ほど話を聞いたにすぎず,聞いたのかもしれないが記憶がない旨の被
告人の弁解を無下に排斥することはできない(なお,被告人が会社の従
業員から拉致計画を聞いた直後にAに電話をし,Aが前記従業員に心配
するなと電話をしてきた事実はあるが,そこから直ちにAや被告人の意
図ないし認識が明らかになるものでもない。)。また,検察官は,本件
犯行当時,被告人はAの腹心といえる立場にあった旨主張するが,本件
犯行に関して,被告人は,Aの指示で使い走りをしていたが,本件犯行
に先立つ被害者の呼出しや暴行については一切関知しておらず,Aから
すべてを打ち明けられるような関係にあったとまで認めるに足りる証拠
はない。
検察官が主張する事前共謀は認められない。
本件犯行時の被告人の認識について
ア本件ドラム缶で被害者の死体を焼いた際には,独特の異臭がしたは
ずである。現に,近隣住民によれば,本件犯行当夜の平成30年2月
24日深夜から翌25日未明にかけて,屋外で不快な異臭がした。被
告人の携帯電話の解析結果によれば,被告人は,同月24日18時5
7分頃から19時26分頃まで,22時27分頃から翌25日零時2
1分頃まで(うち合計22分程度は自宅),5時4分頃から8時14
分頃まで,死体を焼いている本件ドラム缶付近にいたのであるから,
当然,異臭に気付いたはずである。被告人は,異臭はしなかった旨供
述するが,不合理で信用できない。
また,前記2のとおり,被告人は,同月25日夜,交際相手に
対して,肉のようなものがあった旨話している。
これらの事実からすれば,少なくとも,被告人が,本件犯行時に,
燃やしているものが死体かもしれないという程度には十分認識するこ
とができたものと認められる。
なお,被告人は,マンションbと本件ドラム缶を3回往復したうち
の3回目にはマンションb室内に入ったというのであり,後日,Aの
指示で壁紙を全部はがしたり,床の張り替えを依頼したりしているこ
とからすれば,同室内に血痕が残っていた可能性は高く,被告人がこ
れを目にしていれば,マンションbから運んで燃やしているものに死
体が含まれていることを容易に認識できたはずである。もっとも,当
時の室内の血痕の状況は不明であり,本件犯行が事前共謀に基づくも
のでない以上,目につくような血痕はAがぬぐい取っていた可能性も
否定できない。したがって,被告人が本件犯行の際にマンションbに
立ち入ったことをもって,被告人の認識を裏付ける事情とすることは
できない。
イ加えて,前記2のように,被告人は,Aから,3日間誰にも連絡
を取らずホテルで待機するという特異な指示を受けた上,Aの指示で,
冷蔵庫及び冷凍庫を順次購入し,Aが直前に被告人名義で借りたマン
ションbに,これらを一旦運んだ後,同室から出た「ごみ」を燃やし
たいとのAの特異な要望により,今度はこの「ごみ」とともに冷蔵庫
及び冷凍庫をマンションbから自宅に運び,Aと一緒に本件ドラム缶
で一晩かけてこの「ごみ」を焼き,服や靴,携帯電話機を捨てて車を
掃除し冷蔵庫を洗うようAから指示を受け,「ごみ」の焼却直後にA
と一緒にホームセンターで多量の洗剤等を購入している。このような
本件犯行前からの一連の事情と前記アの事情を併せ見れば,被告人に
おいて,マンションbから運んで燃やしたものが普通の「ごみ」であ
るとは考え難く,死体ではないかという疑いを持つのが当然だといえ
る。
そして,その後も,被告人はAから,賃貸借契約を結んだばかりの
マンションbについて,壁紙を全部はがしたり,ホームセンターで購
入した洗剤等に加えてドラッグストアで洗剤を買い足し排水管まで掃
除をしたり,リフォーム業者に床をめくって張り替えるよう依頼して
古い床材はこちらで処分するなどという特異な指示を受けながら,理
由を聞くこともなくこれに従い,マンションbに警察が来たことを聞
くや,Aの指示でリフォーム業者に口止めをし,費用を倍額払うので
床をめくるよう依頼している。このことは,被告人が,本件犯行時に,
マンションbから運んで本件ドラム缶で焼いた「ごみ」が死体である
ことを認識,認容した上で,Aの指示に従って,マンションb内の血
痕等の隠ぺい工作を行ったこととよく整合する。
ウ以上の事実によれば,被告人は,少なくとも本件犯行時に,死体か
もしれないと認識しながら,あえてこれを焼却した,すなわち死体損
壊の未必的故意を有していたものと認められる。
弁護人の主張について
これに対し,被告人は,マンションbから運んで燃やした「ごみ」の
中身について,中国人が関与するスロット台の部品だとAから聞いてお
り,逮捕されるまで死体とは知らなかった,知っていれば本件ドラム缶
やトラック等を提供しなかった旨弁解し,弁護人も,被告人には死体の
認識がなかったので死体損壊の故意がなく無罪である旨主張する。
確かに,マンションbから運んで燃やすものが死体であると事前にわ
かっていれば,よほどの事情がない限り,被告人が,あえて本件ドラム
缶やトラック等を提供することはなかっただろうといえる。しかし,被
告人が,事情を知らされないままに本件ドラム缶やトラック等を提供し
た後,本件犯行時に,異臭と肉のようなものを見たことで,死体かもし
れないと認識したが,もはや後戻りできず,そのまま焼却を続け,Aの
指示に従って冷蔵庫の洗浄,マンションbの清掃及びリフォーム等の隠
ぺい工作を行ったということは,十分あり得ることで,前記2の本件
犯行前後の経緯にも整合的である。逮捕されるまで死体とは知らなかっ
不自然で信用できない。
また,マンションbから運んで燃やした「ごみ」の中身は,中国人が
関与するスロット台の部品だとAから聞いていたという点については,
Aが,被告人に対してそのように虚偽の説明をしたことはあったかもし
ある上,機械の部品を燃やすのと死体を燃やすのとでは,臭いや残焼物
の状況が明らかに異なるはずであるから,本件犯行時には,Aの前記説
明が虚偽であることが,被告人にも容易に理解できたはずである。した
がって,被告人の上記弁解供述は,故意の認定を妨げるものとはいえな
い。
弁護人は,被告人が,本件犯行時や犯行直後に,交際相手や家族と普
通にやり取りをしていることや,Aに服や靴等の処分を指示されながら
処分しなかったことは,被告人に死体の認識がなかった証左である旨主
張する。しかし,犯罪を犯した者は,周囲に気取られないよう平静を装
うのが通常であろうし,犯行前後で犯人の言動に明らかな変化が生じた
り,周囲の者が変化を感じたりするとは必ずしもいえない上,死体かも
しれないという程度の未必的認識である場合には,被告人の態度が普段
と変わらず,被告人において服や靴等を処分する必要性を感じなかった
としても不思議ではない。
その他,弁護人指摘の諸事情を検討してみても,前記認定判断を左右
するような事情は見当たらない。弁護人の主張は理由がない。
4結論
以上のとおり,被告人は,少なくとも本件犯行時において,死体損壊の
未必的故意を有していたものと認められる。
そして,Aが,本件犯行時,一晩かかった本件ドラム缶での死体焼却に
被告人とともに立ち会った上,明らかな各種隠ぺい工作を被告人に指示し,
被告人が理由も聞かずに応じていることからすると,遅くとも本件犯行時
に,Aと被告人との間で死体損壊の黙示の共謀が成立していたことが優に
認められる。
(法令の適用)
罰条刑法60条,190条
未決勾留日数の算入刑法21条
刑の全部執行猶予刑法25条1項
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
共犯者が切断するなどした死体を骨片に至るまで焼却しており,本件犯行に
おける死体損壊の程度は顕著である。被告人は,犯行手段を提供し,共犯者と
ともに実行行為を行ったもので,本件犯行に不可欠な重要な役割を果たしてお
り,その責任は軽くない。しかしながら,被告人は,死体損壊の故意を否認し
ており,自らの行為に向き合うことができておらず,反省の態度は乏しい。死
者の遺体に別れを告げることもできなかった遺族が,被告人ら関係者に対する
厳重処罰を求めるのも無理はない。
他方で,被告人は,当時の勤務先の実質的経営者である共犯者の指示に従っ
ているうちに本件犯行に関与することとなり,本件犯行時に,燃やしているの
は死体かもしれないという未必的認識を有するに至ったものの,もはや後戻り
できず犯行を遂行し,共犯者の更なる指示に従って隠ぺい工作を行うなど,共
犯者に利用された側面が強く,その立場は明らかに従属的で,犯行への関与は
受動的といえる。また,被告人に前科は見当たらない。そうすると,被告人に
対しては,主文の刑に処した上,刑の執行を猶予して社会内における更生の機
会を与えるのが相当である。
(求刑懲役2年6月)
平成30年12月11日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判官齋藤千恵

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