弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求5
1被告らは,原告X1に対し,連帯して1億1210万8540円及びこれに
対する平成20年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2被告らは,原告X2に対し,連帯して2894万円及びこれに対する平成2
0年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。10
3被告国は,原告X1に対し,300万円及びこれに対する平成27年1月2
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
以下,本判決においては,主な固有名詞等について,別紙「略語一覧表」記
載のとおり表記する。15
1事案の要旨
(1)請求の趣旨1項及び2項にかかる請求について
請求の趣旨1項及び2項にかかる請求は,本件刑事事件において一旦有罪
判決を受けたものの,再審において無罪判決を受けた原告X1及びその妻で
ある原告X2が,本件刑事事件にかかる警察官の捜査,検察官による公訴提20
起,公判維持行為及び勾留の継続並びに裁判官による判決行為がいずれも違
法であって,共同不法行為を構成すると主張し,国家賠償法1条1項に基づ
き,これらの各行為によって原告X1が被った損害合計1億1210万85
40円及び原告X2が被った損害2894万円並びにこれらに対する不法行
為日である平成20年9月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合25
による遅延損害金の支払を各求めるものである。
(2)請求の趣旨3項にかかる請求について
請求の趣旨3項にかかる請求は,原告X1が,本件刑事事件の再審請求審
において,検察官が裁判所から証拠一覧表を交付するよう命じられたにもか
かわらずこれを拒否したのは,原告X1の証拠一覧表を利用する権利を侵害
し,違法であると主張して,国家賠償法1条1項に基づき,精神的損害とし5
て300万円及びこれに対する不法行為日である平成27年1月20日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの
である。
2前提事実
当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事10
実は,次のとおりである。
(1)原告らの家族関係
ア原告X2は,原告X1の妻である。
イA子及びB男は,原告X2の孫であり,かつ,原告らの養子である。ま
た,B男は,A子の実兄である。15
A子らは,平成7年頃から本件刑事事件の捜査が行われた平成20年頃
の間,原告らの住居において,原告ら及び原告X1の母と共に生活してい
た(甲37の2・4頁,40の2・1頁)。
ウEは,原告X2の実子であり,かつ,A子及びB男の実母である。Eは,
平成7年頃,A子らを原告らに預けて,A子らの実父から逃れ,平成9年20
頃,同人と離婚して,Fと再婚した(甲40の2・1頁,乙13別紙速記
録・2ないし3頁)。
平成21年7月頃,Fは,A子らと養子縁組をした(甲40の2・1頁)。
(2)本件刑事事件の捜査及び公判の経過
アA子は,平成20年8月26日,大阪府警察Q警察署の司法警察員に対25
して,原告X1から強制わいせつの被害を受けたとして,本件強制わいせ
つ事件につき告訴した。また,同月27日には,Eも,A子から被害状況
を聞き取ったとして,本件強制わいせつ事件につき告訴した(甲8の1)。
イ原告X1は,平成20年9月頃,本件強制わいせつ事件の被疑者として
逮捕,勾留され,同月30日に起訴された(甲6の1,52の1,54)。
ウA子は,平成20年9月29日,検察官に対し,原告X1から強姦の被5
害を受けたとして,本件強姦事件につき告訴した(甲8の1)。
エ原告X1は,平成20年10月頃,本件強姦事件の被疑者として逮捕,
勾留され,同年11月12日に起訴された(甲6の2,52の2,54)。
オ原告X1は,平成21年5月15日,懲役12年の実刑判決の言い渡し
を受け,これに対して,控訴,上告したが,平成22年7月21日に控訴10
棄却の判決,平成23年4月21日に上告棄却の決定がされ,本件第1審
の実刑判決が確定した(甲3ないし5)。
(3)本件再審請求審及び本件再審の経過等
ア原告X1は,平成26年9月12日,A子らの供述が虚偽であったこと
が明らかとなったとして,大阪地方裁判所に再審を請求した(甲28)。15
イ原告X1は,平成26年11月18日,刑の執行が停止され,釈放され
た(甲29,54)。
ウ原告X1は,平成27年2月27日,再審開始決定を受け,さらに同年
10月16日には本件再審において無罪判決を受けて,当該判決が確定し
た(甲1,2)。20
エ原告X1は,平成27年11月12日,大阪地方裁判所に対し,刑事補
償を請求し,平成28年2月18日,2826万2500円の刑事補償の
決定を受けた(甲54)。
オ原告らは,平成28年10月5日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
3争点25
(1)警察官による本件刑事事件にかかる捜査の違法性(争点1)
(2)本件各公訴提起の違法性(争点2)
(3)本件公判検事らによる公訴維持及び勾留継続の違法性(争点3)
(4)本件担当裁判所による判決行為の違法性(争点4)
(5)本件交付拒否行為の違法性(争点5)
(6)原告らに生じた損害の有無及びその額(争点6)5
4争点に対する当事者の主張
(1)争点1(警察官による本件刑事事件にかかる捜査の違法性)について
(原告らの主張)
本件刑事事件にかかる捜査は,以下のとおり,司法警察職員に認められる
合理的裁量を逸脱したものであり,国家賠償法上違法である。10
なお,警察官によるかかる違法行為は,後に主張するP1検事,本件公判
検事ら及び本件担当裁判所の各行為と共同不法行為となる。
ア一般的に年少者は,家族や捜査官に誘導されやすく,取調べを行う際に
は,専門家を関与させること,事情聴取を早い時期に行ったうえで繰り返
さず,聴取時には自由供述させること,ビデオによる記録を行ったうえで15
後に鑑定すること等の配慮が必要不可欠である。警察官が,そのような配
慮をしないまま,年少者の虚偽供述を証拠化した場合には,原則として重
大な過失により職務上の義務を怠ったと推定すべきである。
本件刑事事件にかかる捜査が行われた当時,A子らは年少者であったか
ら,K1巡査部長がA子らの取調べを行うに当たっては,同人らの供述を20
誘導することがないよう専門家を関与させる等の配慮をし,虚偽供述を証
拠化しないようにすべき職務上の義務があった。それにもかかわらず,K
1巡査部長は,専門家を取調べに関与させる等の配慮をしないまま,A子
らの虚偽供述を録取した供述調書を作成したのであるから,重大な過失に
より職務上の義務を怠ったというべきである。25
イ本件刑事事件にかかる捜査が行われていた平成20年8月29日には,
本件カルテがすでに作成されていたものであるところ,当該カルテには,
「処女膜は破れていない」との記載があり,A子が強姦被害にあっていな
かったことを示す重要な証拠であるといえる。したがって,警察は,当該
カルテを消極証拠として収集すべき職務上の義務があったところ,故意又
は過失によって本件カルテの収集を怠った。5
(被告大阪府の主張)
ア警察官が本件カルテを証拠として収集していないことは認め,その余は
否認ないし争う。
イ警察官が年少者を取り調べるに当たって,専門家を関与させることが義
務付けられているわけではない。また,本件刑事事件を担当したK1巡査10
部長が,本件強制わいせつ事件についてA子らを取り調べるにあたり,年
少者の取調べに必要な配慮を欠いたことはない。まして,関連証拠と整合
するようにA子らの供述を誘導したことはなく,A子らが虚偽の供述をす
るに至ったのは,K1巡査部長による取調べが原因ではない。
したがって,K1巡査部長による取調べが国家賠償法上違法となること15
はない。
ウまた,警察官は,A子やEから,H医院を受診したことや処女膜が破れ
ていないとの診断を受けたことを伝えられておらず,本件カルテの存在を
認知することができない状況にあった。そのため,警察官が本件カルテを
収集できなかったのはやむを得ないことであり,国家賠償法上違法とはい20
えない。
(2)争点2(本件各公訴提起の違法性)について
(原告らの主張)
ア強姦事案において,最も重要な証拠は性器の状態に関する客観的証拠で
ある。さらに,本件刑事事件においては客観的証拠が乏しく,被害者も年25
少者であって,供述が変遷したり,内容が不合理であったりと,その供述
の信用性は高くなかった。このような状況の下では,P1検事は,処女膜
の状況を適切に診断できる専門技能を有した医師にA子の診断をさせる
べきであった。このような捜査を行っていれば,A子の性器に性的被害の
痕跡が存在しないことが明らかになっていたはずである。
また,平成20年9月25日,P1検事の指示でA子が受診したIクリ5
ニックのG医師は,「処女膜裂傷」,「上記診断と考えます」という内容の本
件診断書を作成した。一方,A子の供述を前提とすれば,A子は強姦被害
に繰り返し遭っていたのであるから,この時点で処女膜裂傷があるという
のは不可解である。そのため,P1検事は,G医師から診断結果の具体的
内容について直接聴取すべきであった。このような捜査を行っていれば,10
本件診断書の作成に当たり,A子の診察ができていなかったことが明らか
となり,再度専門技能を有する他の医師に診察を依頼することになったは
ずであり,その結果,上記と同様に,A子の性器に性的被害の痕跡が存在
しないことが明らかになっていたはずである。
さらに,P1検事は,Eから,A子を別の産婦人科にも連れて行ったこ15
とを聴取しているのであるから,当該産婦人科の所在や診断結果を捜査す
べきであった。このような捜査を行っていれば,本件カルテの存在が明ら
かとなり,これを入手できたはずである。
イ以上のとおり,A子に処女膜裂傷がない旨の診断書や本件カルテは,通
常要求される捜査によって獲得できる証拠であって,これらの証拠を総合20
勘案すれば,本件刑事事件について,原告X1に,合理的な判断過程によ
り有罪と認められる嫌疑は存在しなかった。それにもかかわらず,P1検
事は本件刑事事件について,原告X1を被告人として起訴しているのであ
るから,本件各公訴提起は国家賠償法上違法である。
(被告国の主張)25
アG医師が本件診断書を作成したこと,本件診断書に「処女膜裂傷」,「上
記診断と考えます」という記載があることは認め,その余は否認ないし争
う。
イP1検事は,警察官であれば性犯罪被害者の診察に慣れている産婦人科
医を把握していると考え,適切な産婦人科医を選定し,かつ,A子に当該
産婦人科医の診察を受けさせる捜査を警察官に指示している。その結果,5
十分能力を有したG医師によって作成された本件診断書を入手していた。
また,P1検事は,本件診断書の内容につき,処女膜裂傷には陳旧性のも
のを含むと理解していたうえ,A子も診察状況について具体的かつ詳細な
供述をしていたことから,本件診断書の内容を疑うべき特段の事情はなか
った。そのため,P1検事において,本件診断書及びA子の供述をふまえ10
ても,なお専門家による診察が必要と考えられる状況にはなかった。
さらに,P1検事が,Eから,A子が別の産婦人科を受診していた事実
を聴取したのは平成20年9月25日であるところ,P1検事は,その時
点で既にA子にIクリニックを受診させる手配を済ませており,近日中に
その診断結果を得られる見込みであった。また,一般人が強姦被害につい15
て申告する前に産婦人科で処女膜裂傷の有無を確認していることは少な
く,当該別の産婦人科において処女膜についての検査がされていることは
想定できなかったのであり,当時,P1検事が,Eから別の産婦人科の所
在やそこでの診断結果等を聴取しなかったのはやむを得ない。
ウ以上のとおり,本件刑事事件において,G医師の直接聴取等は通常要求20
される捜査に該当せず,本件カルテは通常要求される捜査を遂行すれば収
集し得た証拠に該当しない。
そして,本件刑事事件において,A子の供述は,被害について具体的に
述べているうえ,B男の供述とも合致しており,特段不自然な点はない。
これに対して,原告X1は,インポテンツについて医師に相談したことも25
ないのに相談したことがある等と虚偽の供述もしており,同人の供述は信
用性が認められなかった。
したがって,第1起訴,第2起訴当時における証拠資料を総合勘案すれ
ば,合理的な判断過程により原告X1が有罪と認められる嫌疑が存在し,
本件各公訴提起は国家賠償法上違法とはいえない。
(3)争点3(本件公判検事らによる公訴維持及び勾留継続の違法性)について5
(原告らの主張)
P2検事は,本件診断書を証拠調べ請求したうえ,後に撤回するという行
動に出ていることから,本件刑事事件において中核となるA子の性器の状態
に関する客観的証拠が欠如していることを認識することができたはずである。
また,P3検事は,控訴審弁護人が,EがA子を産婦人科に連れて行ったと10
いう事実を具体的に指摘し,さらに,これに関する証拠開示請求も行ってい
ることから,当該産婦人科の所在やその診断結果が捜査されていないことを
認識できたはずである。
本件公判検事らは,このような認識があったにもかかわらず,必要な補充
捜査を行わず,漫然と公訴を維持したのであるから,同人らによる公訴の維15
持及び勾留の継続はいずれも国家賠償法上違法である。
(被告国の主張)
公訴の提起が違法でないならば,本件公判検事らによる公訴維持行為及び
勾留継続行為についても,原則として違法との評価を受けないと解すべきと
ころ,争点2において述べたように,本件各公訴提起は適法であるから,本20
件公判検事らによる公訴維持行為及び勾留継続行為も適法である。
また,本件第1審においては,A子やB男は捜査時と同様の供述をしてお
り,公訴提起時から証拠関係が変化していない。したがって,P2検事が補
充捜査を行わなかったことは不当とまではいえない。本件控訴審においても
証拠関係は変化していないから,P3検事についても同様である。25
したがって,本件公判検事らによる公訴維持行為及び勾留継続行為は,い
ずれも国家賠償法上違法とはいえない。
(4)争点4(本件担当裁判所による判決行為の違法性)について
(原告らの主張)
本件第1審裁判所は,本件刑事事件の中核的な証拠であるA子の性器の状
態に関する客観的証拠が欠如しているにもかかわらず,これについて補充の5
立証を促すことをしなかった。また,判決においては,14歳の少女が虚偽
の証言をするはずがないという思い込みから,感情的に原告X1を糾弾して
いる。
さらに,本件控訴審裁判所は,本件第1審裁判所と同様に,中核的な客観
的証拠が欠如していることを認識しながら,弁護人によるA子の証人尋問請10
求等を却下し,平成22年7月21日に判決を言い渡した。ところが,同年
8月2日には,A子が本件刑事事件の被害は存在しなかった旨を述べるに至
っており,控訴審裁判所がA子の証人尋問を採用していれば,A子が本件第
1審における証言を虚偽と認めていた可能性が高い。そのため,A子の証人
尋問が必要な証拠調べであったことは明らかである。15
以上のとおり,本件担当裁判所は,予断,思い込み等から証拠の採否及び
証拠の評価を誤り,合理的裁量を著しく逸脱して判決行為をしたものである
から,本件担当裁判所による判決行為は,いずれも国家賠償法上違法である。
(被告国の主張)
争う。20
裁判官の行為が国家賠償法上違法となるには,当該裁判官が違法又は不当
な目的をもって裁判したなど,裁判官がその付与された権限の趣旨に明らか
に背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情が認められる必要
があると解すべきところ,証拠の採否等については裁判官に裁量があり(刑
事訴訟法297条),証拠の評価については裁判官の自由心証に委ねられて25
いるのであって,原告が主張するいずれの事情も,本件担当裁判所の裁量や
自由心証主義の範囲内にとどまるものであるから,上記特別の事情があると
は評価できない。
また,A子の本件第1審における証言が虚偽であることは,事後的に明ら
かになったものであって,本件控訴審裁判所による判決行為時の事情ではな
いから,同行為の違法性を基礎づける事情とはならない。5
したがって,本件担当裁判所による判決行為は,いずれも国家賠償法上違
法とはいえない。
(5)争点5(本件交付拒否行為の違法性)について
(原告X1の主張)
再審請求人の無実を証明する証拠が,しばしば捜査機関が保有する証拠の10
中に存在している実情をふまえると,再審請求人は,防御活動のために,捜
査機関が保有する証拠を,証拠開示を通じて利用する権利を有している。そ
して,再審請求人は,捜査機関が保有している証拠の内容を知らなければ実
効的な証拠開示請求をすることができないのであるから,証拠開示請求に伴
う手続上の権利として,証拠一覧表交付請求権を有していると解するべきで15
ある。仮に,かかる権利が抽象的なものに過ぎないとしても,本件では,裁
判所による本件交付命令により具体的な権利となっている。
また,再審請求審裁判所は,訴訟指揮権の行使の一環として検察官に対し
証拠の開示を命じることができ,これと同様に,証拠一覧表の交付を命じる
ことができると解される。20
そして,訴訟当事者は裁判所の決定に従う義務があるところ,P4検事ら
は,異議申立て,特別抗告等のとりうる法的不服手段も履践せず,最高検察
庁検察官及び大阪高等検察庁検察官の指揮命令に従って,本件交付拒否行為
に及び,原告X1の証拠一覧表交付請求権を侵害したのであるから,当該行
為は国家賠償法上違法である。25
(被告国の主張)
争う。
再審請求審における証拠一覧表交付請求権や,証拠一覧表の交付命令を規
定した法令はなく,裁判長の訴訟指揮権(刑事訴訟法294条)や同法43
5条6号は再審請求人の証拠一覧表交付請求権の根拠とはならないから,原
告X1が主張する証拠一覧表交付請求権は法律上保護された権利利益とは認5
められず,本件交付拒否行為によって原告X1の権利利益が侵害されたとは
いえない。
仮に,証拠一覧表交付請求権を観念できるとしても,再審請求審における
事実取調べの範囲は,再審請求人が請求理由として主張する事実の有無に限
定されるものと解されるべきであり,このことは証拠一覧表の交付において10
も妥当する。一方,本件第1審におけるA子の証言が虚偽であったことや,
本件カルテが存在することについて,P4検事らが争っていなかった本件再
審請求審においては,無罪を言い渡すべき明らかな証拠(刑事訴訟法435
条6号)が存在することが明らかであり,更に事実の取調べを行う必要はな
かったのであるから,「本件について捜査機関が保管する一切の証拠の一覧15
表」の交付を命じる本件交付命令は,本件再審請求審における事実取調べの
範囲を明らかに超えている。そのため,P4検事らが本件交付命令に従う義
務はない。
したがって,本件交付拒否行為は国家賠償法上違法とはいえない。
(6)争点6(原告らに生じた損害の有無及びその額)について20
(原告らの主張)
ア原告X1の損害(ウに記載のものを除く。)1億1210万8540円
(ア)原告X1の逸失利益6112万円
原告X1は,本件刑事事件を担当した警察官,P1検事,本件公判検
事ら及び本件担当裁判所の各行為によって,勤務先の退職を余儀なくさ25
れ,第1起訴の日である平成20年9月30日から,本訴訟提起の日で
ある平成28年10月5日までの約96か月間の収入を失った。
原告X1は,退職当時,月額55万円の給与及び年間104万円の賞
与を得ていたから,原告X1の逸失利益は,これらの96か月分(8年
分)の合計額である6112万円となる。
(イ)原告X1の身体拘束に伴う損害7125万1040円5
原告X1は,第1起訴の日である平成20年9月30日から釈放され
た平成26年11月18日まで2241日間の身体拘束を受けた。この
間,原告X1は,生活用品購入のために89万円を,原告X2との間の
信書にかかる通信費として120万円を,原告X2の面会のために交通
費と宿泊費の合計193万1040円をそれぞれ支出し,合計402万10
1040円の財産的損害を被った。
また,原告X1が2241日間にわたり拘束されたことによって受け
た精神的損害は1日当たり3万円を下らないから,合計6723万円と
なる。
したがって,原告X1は,長期にわたり身体拘束されたことに伴って15
合計7125万1040円の損害を被った。
(ウ)弁護士費用800万円
原告X1は,本訴訟のために弁護士に訴訟追行を委任しなければなら
ず,その費用は800万円が相当である。
(エ)損益相殺2826万2500円20
原告X1は,刑事補償として2826万2500円の交付を受けてい
るから,これを損害額から控除する。
イ原告X2の損害2894万円
(ア)原告X1の身体拘束に伴う損害2694万円
原告X2は,大阪拘置所において680回,大阪刑務所において8回,25
原告X1と面会した。また,大分刑務所においては,2日間の面会を8
回,3日間の面会を31回行った。面会のための日当は,大阪拘置所及
び大阪刑務所における面会については1回当たり5000円,大分刑務
所における面会については1日当たり1万円が相当であるから,原告X
2が被った財産的損害は453万円となる。
また,原告X1が2241日間にわたり拘束されたことによって受け5
た原告X2の精神的損害は1日当たり1万円を下らないから,合計22
41万円となる。
したがって,原告X2は,原告X1の身体拘束に伴って合計2694
万円の損害を被った。
(イ)弁護士費用200万円10
原告X2は,本訴訟のために弁護士に訴訟追行を委任しなければなら
ず,その費用は200万円が相当である。
ウ原告X1は,P4検事らの本件交付拒否行為により,再審請求人として
の証拠一覧表交付請求権を害され,精神的苦痛を受けた。その損害額は3
00万円を下らない。15
(被告らの主張)
ア原告X1が,約6年間にわたり身体拘束を受けたこと,刑事補償として
2826万2500円の交付を受けたことは認めるが,その余については,
全て不知,否認ないし争う。
イ原告らは,主張する損害について,何ら具体的証拠により立証していな20
い。また,原告X1に対する身体拘束と原告X2に生じた精神的損害との
間には相当因果関係が認められない。
ウさらに,上記(5)(争点5)においても主張したように,原告らが主張す
る再審請求人としての証拠一覧表交付請求権は,国家賠償法上保護される
べき権利ないし法的利益とは認められないから,P4検事らによる本件交25
付拒否行為によって,原告らが主張するような損害は発生しない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認めら
れる。
(1)本件刑事事件にかかる捜査の経過5
アA子は,平成20年8月26日,本件強制わいせつ事件について告訴し
た後,同月29日にH医院を受診した。その際,A子は暴れることなく医
師の診察を受けた(甲37の2・46頁)。
A子に付き添っていたEは,同医院の医師から,A子の処女膜は破れて
いない旨の説明を受けており(甲39の2・28ないし30頁),同日に作10
成された本件カルテには,「処女膜は破れていない」との記載がある(乙1)。
なお,本件カルテは,本件再審請求審に至るまで,捜査機関により証拠
として収集されることはなかった。
イA子は,平成20年9月8日及び同月24日の二度にわたり,E又は原
告X2の実姉であるNに連れられてL産婦人科を受診した。その際も,A15
子は暴れることなく医師の診察を受けた(甲37の2・46頁)。
Eは,同産婦人科の医師から,直接又は上記Nを通じて,A子の処女膜
が破れているという旨の説明を受けたことはなかった(甲39の2・31
頁)。
ウ原告X1は,平成20年9月10日,本件強制わいせつ事件の被疑者と20
して逮捕され,同月11日,勾留された(甲52の1,54)。
エ本件強制わいせつ事件の担当となったP1検事は,平成20年9月25
日,Eに対する取調べを行った。その際,Eは,A子が原告X1から胸を
揉まれたことを告白した同年8月4日以降,強姦被害を受けたことについ
て頑なに否定していたA子の態度が腑に落ちず,Fも何か引っかかるよう25
であったことから,FがA子を産婦人科へ連れて行ったことがあり,その
後,A子が強姦被害を告白した旨供述をした(乙7・8頁)。
オA子は,平成20年9月25日,P1検事の指示により,Eが依頼した
Oという女性の付き添いによりIクリニックを受診した(甲39・33頁)。
同クリニックのG医師が作成した本件診断書には,病名欄に「処女膜裂傷」
との,その下部に「上記診断と考えます」との各記載がある(乙2)。5
一方,A子は,平成20年9月頃までに性行為をしたことはなかった(甲
37の2・9頁)。また,A子は,Iクリニックを受診した際,泣いたり暴
れたりしたため,適切な診察を受けることができなかった(甲37の2・
45頁,甲39の2・32頁)。
カA子は,平成20年9月29日,検察官に対し,二度にわたり原告X110
から強姦の被害を受けたとして,本件強姦事件につき告訴した(甲8の1)。
キP1検事は,平成20年9月30日,本件強制わいせつ事件について,
原告X1を起訴した(甲6の1)。
ク大阪府警察Q警察署の司法警察員K2は,平成20年10月6日,Eか
ら本件診断書の写しの交付を受けた(乙2)。15
また,Eは,同日,司法警察員に対し,本件強姦事件についても告訴し
た(甲8の1)。
ケP1検事は,平成20年10月7日,A子に対する取調べを行い,Iク
リニックでの診断の様子について聴取した。その際,A子は,「産婦人科へ
行くと,先生の前で足を広げさせられ,何か器具のようなものを見せても20
らいました。先生がこれからその器具を入れるのかと思うと,とても痛そ
うで,怖くて嫌でした。しかし,付き添ってくれた知り合いのおばさんが,
私の手を握ってくれていたので,我慢して検査してもらいました。」と述べ
た(乙10)。
コ原告X1は,平成20年10月23日,本件強姦事件の被疑者として逮25
捕され,同月24日に勾留された(甲52の2,54)。
サP1検事は,平成20年11月12日,本件強姦事件について,原告X
1を起訴した(甲6の2)。
(2)本件刑事事件の捜査時におけるA子らの供述の概要
以下,A子らの供述において,「おじいちゃん」又は「祖父」とは原告X1
のことを,「おばあちゃん」又は「祖母」とは原告X2のことを指す。また,5
A子らの供述内容中,C,Dは乙8,9号証において匿名処理がなされてい
た人物に仮名を付したものであり,括弧内の文章は供述内容を明確にするた
めに挿入したものである。
ア本件強制わいせつ事件に関するA子供述(乙3)
A子は,平成20年9月26日,P1検事に対し,本件強制わいせつ事10
件の被害状況について,「私が,おじいちゃんから胸をもまれたのは,今年
の7月初めころのことです。」,「午後7時か8時ころだったと思いますが,
トイレに行きたくなり,部屋から出ました。」,「そのとき,まだ,おばあち
ゃんは,銭湯に行って,家にいませんでした。私は,おじいちゃんがこち
らに来るまでに,急いでトイレに入ろうと思い,トイレのドアを開けよう15
としたところ,いきなり,おじいちゃんが後ろから両腕で抱きついてきて,
両手で私の胸をもみました。」,「私は,何と言ったのかまでは覚えていませ
んが,大声を出しました。」,「たぶん,『やめて』などと言ったと思います。
おじいちゃんは,両手で,私の胸をぎゅっ,ぎゅっと握るように,数回,
もみました。」,「私は,必死に,上半身をよじるようにしてゆさぶりました20
が,おじいちゃんの手は,強く私の胸をつかんでおり,すぐにはずれませ
んでした。しかし,私が必死で体を揺さぶるなどして暴れていたところ,
おじいちゃんから逃げることができました。」等と述べた。
イ本件強制わいせつ事件に関するB男供述(乙4)
B男は,平成20年9月25日,P1検事に対し,本件強制わいせつ事25
件の被害を目撃した状況について,「午後7時か8時ころだと思いますが,
僕が見ていたテレビ番組が終わったので,僕は,本を取りに行こうと思い
ました。」,「ぎゃーという妹の声が聞こえました。」,「祖父は,妹の後ろか
ら両手で妹の体に抱きつくように妹の体の前に手を回し,その手が妹の胸
あたりにありました。」,「妹は,やめてーなどと大声で言いながら,上半身
をよじって逃げようとしていました。」,「僕は,この状況を見て,自分が何5
かしたわけではないのですが,なんだか恥ずかしい気持ちになりました。
また,見てはいけないものを見てしまった,とこわい気持ちになりました。
もし自分が,その場にいることを祖父に気づかれたら,自分も祖父から何
かされるのではないかとこわくなりましたし,もしかしたら,住む場所が
なくなってしまうかもしれないと思いました。」等と述べた。10
ウ本件強姦事件に関するA子供述(乙8ないし10)
(ア)本件強姦事件のうち1件目の強姦被害に関する供述
A子は,平成20年10月7日,P1検事に対し,本件強姦事件のう
ち1回目の強姦の被害状況について,「この日,私は,夕飯が終わったあ
と,自分の部屋でお菓子を食べていました。そのお菓子は,Nおばさん15
が経営していた美容室の従業員であるCさんの娘さんである,Dさんの
結婚式の引き出物でもらったものでした。私は,このDさんの結婚式が,
11月20日だったことは覚えており,被害に遭ったのは,その翌日で
したので,私が被害に遭ったのは,平成17年11月21日のことに間
違いありません。」,「おじいちゃんは,入ってくると,すぐに無言のまま,20
座っていた私の後ろへ行き,私の服を脱がし始めました。」,「そして,お
じいちゃんは,私の前にきて,私の肩や腕をつかんで私を仰向けに倒し
ました。」,「そして,(おじいちゃんは)私の両足の間に,足を割って入
り,私の胸をもみました。」,「私は,膣に指を入れられ,ぐりぐりとされ
たので,痛くて,ぎゃー,やめて,めっちゃ痛いと泣き叫びました。」,25
「そして,おじいちゃんは,四つんばいになれと言って,私の腰や腕を
つかみ,私をよつんばいにさせました。」,「そして,膣の中に棒のような
ものが入ってきて,言葉では言い表せないほどの痛みを感じました。」,
「今,検事から,何かを膣に押し当てられただけではないかと言われま
したが,うまくいえませんが,膣が引き裂かれるような感じで何かが入
ってきました。」,「その日の夜だったと思いますが,トイレに行ったとき5
にパンツを見ると,血がついていました。私は,それを見て,生理が始
まったのだと思いました。私は,小学校6年生の10月ころ,ちょうど
運動会のころから,生理が始まっていました。それで,私は,ナプキン
に変えたのですが,普通,生理は1週間くらい続くのに,その血はすぐ
に止まりました。それで,私は,生理じゃなかったのかな,おかしいな10
と思っていました。また,確かおじいちゃんが部屋を出て行ってから気
付いたのですが,絨毯にも少し血が付いていました。」等と述べた。
その後,平成20年10月12日には,P1検事に対し,本件強姦事
件のうち1回目の強姦被害の時期について,「以前,私は,小学校6年生
のころとお話ししましたが,今回,警察の人が確認したところ,私が小15
学校5年生のときだったということがわかりました。私がはっきりと記
憶しているのは,以前もお話ししたとおり,Dさんの結婚式の次の日だ
ったということです。」,「今回,警察の人が,Dさんに確認したところ,
Dさんの結婚式は,平成16年の11月だったということを聞きました。
ですから,私が一番初めに被害にあったのは,平成16年のことになり20
ますので,この点,訂正してもらいたいと思います。」等と述べた。
(イ)本件強姦事件のうち2件目の強姦被害に関する供述
A子は,平成20年10月7日,P1検事に対し,本件強姦事件のう
ち2回目の強姦の被害状況について,「はっきりと日にちがわかるのは,
平成20年4月のことです。それは,『名探偵コナン』というアニメのシ25
リーズもので『赤と黒のクラッシュ』という話のうちの一話を自分の部
屋のテレビで見ていたときに,おじいちゃんが入ってきて被害に遭いま
した。」,「私が被害に遭ったときは,通常の30分間の番組を見ていたと
きでした。そして,私の記憶では,4月の終わり頃ではなく,4月の中
旬ころの記憶ですので,私が被害に遭ったのは,4月14日のことで間
違いないと思います。」,「私は,おじいちゃんが服を脱がせたことから,5
またやられると,また強姦されると思い,怖くなりました。それで,や
めて,いやだなどと叫んだのですが,おじいちゃんは,無言のまま,さ
らに今度は私がはいていたズボンを一気に抜き取りました。」,「小学校
6年生のころに犯されたときと同じように,おじいちゃんから肩や腕を
つかまれて,仰向けに押し倒されました。」,「そして,おじいちゃんは,10
それまでと同じように,指を私の膣の中に入れ,ぐりぐりと回すように
動かしました。」「おじいちゃんは,何も言わずに,仰向けになった私の
両足をつかみ,私の両膝を立たせて,私の上に覆い被さってきました。」,
「そして,おじいちゃんは,おちんちんを,私の膣の中に押し込んでき
ました。私は,一番初めのように,激痛というほどではありませんが,15
かゆみに近いような痛みがありました。」等と述べた。
また,G医師に診察された際の状況については,「産婦人科へ行くと,
先生の前で足を広げさせられ,何か器具のようなものを見せてもらいま
した。先生がこれからその器具を入れるのかと思うと,とても痛そうで,
怖くて嫌でした。しかし,付き添ってくれた知り合いのおばさんが,私20
の手を握ってくれていたので,我慢して検査してもらいました。その結
果,処女膜が破れているという結果だったということを聞きました。先
ほども話したように,私は,これまで,男の人と付き合ったことはなく,
私が同意した上でセックスをしたことはありません。」等と述べた。
エ本件強姦事件に関するB男供述(乙11,17)25
(ア)本件強姦事件のうち1件目の強姦被害に関する供述
B男は,平成20年9月29日,P1検事に対し,本件強姦事件のう
ち1回目の強姦被害を目撃した状況について,「僕が中学2年生のころ,
やはり,夕飯後,祖母が銭湯へ出かけてからのことでしたが,仏壇のあ
る部屋でテレビを見ていたとき,妹の叫び声がしたことから,すぐに部
屋を出て行き,妹の部屋をのぞいたところ,妹と祖父が全裸になってお5
り,祖父が妹に覆い被さっていやらしいことをしているのを見ました。
はっきり言うと,強姦していました。」,「僕は,ひいおばあちゃんはトイ
レが近く,このときも妹の部屋の正面にあるトイレに度々行っていたの
で,妹の声に気づいていたはずだと思いました。しかし,それでもひい
おばあちゃんは,何事もないかのように,じっとテレビを見ていたので,10
ひいおばあちゃんは,祖父のこういう行為を知っていたのに,隠してい
たのかもしれないと思いました。ただ,もしかすると,ひいおばあちゃ
んは高齢で耳が遠かったのかもしれません。」等と述べた。
また,B男は,平成20年10月7日,本件強姦事件を目撃した状況
について,「僕が,一番初めに,妹が祖父から強姦されているのを見たの15
は,平成17年11月21日のことです。なぜ,そのように言えるかと
言うと,僕は,Nおばさんが経営している美容院の従業員であるCさん
の娘さんであるDさんの結婚式の次の日に,今回の事件を見たという記
憶がありました。」,「その後,確かお母さんからだったと思いますが,D
さんの結婚式が11月20日だったということを聞きました。それで,20
その次の日の11月21日に,今回の事件を見たということが分かりま
した。」,「このとき,夕飯を食べ終わり,祖母は,銭湯に出かけていたと
思います。この当時,まだ,ひいおばあちゃんは生きており,一緒に暮
らしていたのですが,ひいおばあちゃんも一緒に,この①の部屋でテレ
ビを見ていました。僕は,トイレに行こうとしたところ,妹がギャーと25
いう声を聞きました。僕は,そのような声を聞き何があったのかと心配
になり,すぐに①の部屋を出て,妹の部屋の方へ向かいました。」,「そこ
で,僕は,その妹を心配する一方で,恐怖心から,(妹の部屋の)その戸
をゆっくりとおそるおそる開けてみました。」,「このとき,祖父は,全裸
になり,四つんばいになった妹に,後ろから覆い被さっていました。」,
「このとき,妹の上半身が左右に動いており,そのときに妹の頭がちら5
っと見えたので,それで妹が四つんばいの状態になっているのが分かり
ました。」,「また,その妹の周りの絨毯に血がついていました。」等と述
べた(なお,「①の部屋」とは,乙11号証に添付されている現場見取図
に①と記載された部屋のことを指す。)。
(イ)本件強姦事件のうち2件目の強姦被害に関する供述10
B男は,平成20年10月7日,P1検事に対し,本件強姦事件のう
ち2回目の強姦被害を目撃した状況について,「僕は,③の部屋で,『名
探偵コナン』というアニメを午後7時30分から見ていました。このテ
レビを見ていた日についてですが,僕は,4月中旬ころという記憶があ
りました。今,検事さんから,4月に名探偵コナンが放送されたのは,15
14日と21日と28日の3日間で,そのうち21日は,通常の放送で
はなく,名探偵コナンの映画が放送されていたと聞きました。映画を見
ていたときではなく,通常の放送の番組を見ていた記憶なので,21日
でないことは確かです。そして,4月の末ころではなかったので,やは
り4月14日に,この事件を目撃したことに間違いないと思います。」,20
「僕は,また妹のギャーという声を聞きました。」,「そこで,僕は,再び
②の場所まで行き,閉まっていた妹の部屋の戸を,今度は以前よりも少
しだけ開けました。」,「僕がのぞいたところ,やはり祖父が全裸になり,
妹に覆い被さっていました。」,「刑事さんには,妹が四つんばいになって
いたと説明しました。しかし,検事さんから,本当に四つんばいに間違25
いなくなっていたのかどうか確認され,実際のところ,僕は,このとき
は数秒見ただけでしたし,妹の頭なども見ていないので,間違いなく四
つんばいにさせられていたかどうかまでは分かりません。」等と述べた
(なお,「②の場所」及び「③の部屋」とは,乙11号証に添付されてい
る現場見取図に,それぞれ②,③と記載された場所のことを指す。)。
(3)本件第1審及び本件控訴審における審理経過5
アP2検事は,平成21年1月13日,本件第1審において,被害者が処
女膜裂傷の症状を負っていることを立証趣旨として,本件診断書が添付さ
れた捜査報告書を証拠請求した(甲12)。しかし,P2検事は,同年2月
16日,本件第1審の第4回公判前整理手続において,「被害者の処女膜裂
傷の立証について,関連性を再検討する。」と述べ,同年3月9日の第5回10
公判前整理手続において,当該捜査報告書の証拠請求を撤回した(甲7の
4,7の5,12)。
イ本件第1審において,Eは,A子を2回病院に連れて行ったところ,一
度目に受診した産婦人科では,医師から,A子が痛がったり,患部がはれ
上がっていたりしたため,適切に検査ができないといわれ,二度目に警察15
から依頼を受けて産婦人科を受診した際には,処女膜裂傷との診断を受け
た旨証言した(乙13・39頁)。
ウ本件第1審裁判所は,本件第1審におけるA子の被害証言及びB男の目
撃証言のいずれも信用できると判断して,平成21年5月15日,原告X
1に対し,懲役12年の実刑判決を言い渡した(甲3)。20
エ原告X1は,本件第1審の判決を不服として控訴した。本件控訴審にお
いて,弁護人は,平成21年12月7日,P3検事に対し,上記Eの証言
にかかるA子が一度目に受診したという産婦人科の診断書,診療記録等の
開示を請求した(甲21)。これに対し,P3検事は,同月10日,当該証
拠はいずれも存在しない旨回答した(甲24)。また,弁護人は,同月8日,25
本件強姦事件及び本件強制わいせつ事件の具体的状況及び被害の説明が
変遷した理由や上記産婦人科を受診したときの状況が明らかになってい
ないなどとして,A子の証人尋問を請求した(甲25の2)。さらに,弁護
人は,上記P3検事の回答を受けて,同月14日,上記産婦人科に公務所
照会等を行う必要があるが,その名称,所在等が不明であるとして,Eの
証人尋問を請求した(甲25の3)。本件控訴審裁判所は,平成22年4月5
28日に行われた第3回公判期日において,上記弁護人の事実取調べ請求
をいずれも却下したうえで,同年7月21日,原告X1の控訴を棄却した
(甲4,16の1,18の3,20)。
オ原告X1は,さらに本件控訴審の判決を不服として上告したが,最高裁
判所は,平成23年4月21日,上告を棄却し,本件第1審の実刑判決が10
確定した(甲5,27の1)。
(4)原告X1が再審を請求するに至った経緯及び本件再審請求審の経過
アA子は,平成21年5月15日以降,遅くとも上記本件控訴審の判決宣
告があった平成22年7月21日までの間に,E及びFに対し,捜査時や
本件第1審時の供述内容が虚偽であり,実際には,原告X1から強制わい15
せつや強姦の被害を受けたことはない旨告白した(甲37の2・19ない
し22頁,甲39の2・39ないし41頁)。
また,B男も,平成22年の初め頃以降,遅くとも同年7月頃までの間
に,E及びFに対して,捜査時や本件第1審時の供述内容が虚偽であり,
実際には,A子が原告X1から強制わいせつや強姦の被害を受けた場面を20
目撃したことはない旨告白した(甲38の2・14ないし18頁)。
イE及びFは,上記A子らの告白を受けても,その旨を捜査機関に対して
申告せず(甲39の2・40頁),かえって,Fは,EにA子を精神科に連
れていくよう指示し,Eは,平成22年8月2日,A子にM大学医学部附
属病院の精神科を受診させた。その診察の際にも,A子は,医師に対し,25
裁判で虚偽証言をした旨申告した(甲2)。
ウ原告X1は,平成26年9月12日,A子らの捜査時及び第1審時の供
述内容が虚偽であるとするA子らの新供述が新たに発見されたことを主
たる理由として,大阪地方裁判所に再審を請求した(甲28)。
エこれに対し,P4検事は,平成26年11月18日,上記A子らの新供
述のほか,これを裏付ける「処女膜は破れていない」との記載のある本件5
カルテが無罪を言い渡すべき明らかな証拠(刑事訴訟法435条6号)に
当たる蓋然性が高いとして,再審の開始については,本件再審請求審裁判
所においてしかるべく決定されたい旨述べ,本件カルテの写しを添付した
意見書を提出した(甲2)。
オ本件再審請求審裁判所は,平成26年12月11日,A子らの証人尋問10
を行った。
その際,B男は,本件第1審における証言が虚偽であり,実際にはA子
の強制わいせつ及び強姦被害を目撃したことはないこと,A子が供述した
内容はEから聞いたりする等しており,それに合わせて警察官や検察官に
対し供述していた旨を証言した(甲38の2・1,9ないし11,25頁)。15
また,A子は,要旨以下のような証言をした。
(ア)当初,Eに対して,胸を揉まれたことはなく,強姦被害も受けていな
いと言い張ったが,全く信じてもらえず,睡眠時間も削られて繰り返し
問い詰められたため,その場から解放されるために,強制わいせつや強
姦の被害を受けたと順次虚偽の告白をした。20
強姦被害の様子については,H医院を受診した後,Eからアダルトビ
デオのようなものを見せられ,その映像に写っているような行為をした
のではないかとシミュレーションをした(甲37の2・32,33,4
3,44頁)。
(イ)警察に被害届を提出したのは,FやEから,強姦されたのであるから25
処罰感情を記載して提出しろといわれたからである。Eに怒られるのが
嫌で,警察官に対しても処罰してほしい旨を伝えた(同41ないし42
頁)。
(ウ)裁判で虚偽の強制わいせつ被害や強姦被害を証言するに当たり罪悪
感はあったが,EやFに洗脳されているような状態であり,虚偽の証言
をしてしまった(同55ないし58頁)。5
(エ)本件第1審の判決後,自殺しようと考えるようになり,インフルエン
ザの薬を大量に服用したこともあった(同58,59頁)。
カまた,本件再審請求審裁判所は,平成26年12月12日,E及びFの
尋問を行った。その際,Fは,A子から強姦被害を受けたという話を聴取
するに当たり,深夜や明け方になるまで聴取を行っていた旨証言をした10
(甲40の2・7,20頁)。
キ原告X1の弁護人は,平成26年12月22日,本件再審請求審裁判所
に対し,検察官に対して捜査により収集された証拠全てを弁護人に対し開
示する旨の命令を発するよう申し立てた(甲33)。
ク本件再審請求審裁判所は,平成27年1月14日,検察官は,弁護人に15
対して,本件刑事事件に関し,捜査機関が保管する一切の証拠の一覧表を
交付するよう命ずる決定(本件交付命令)をした(甲35)。
これに対し,P4検事は,同月20日,本件交付命令は訴訟指揮に関す
る裁量権を逸脱したものであるなどとする意見書を提出して,証拠一覧表
の交付を拒否した(本件交付拒否行為,甲36)。20
ケ本件再審請求審裁判所は,平成27年2月27日,A子らが捜査時及び
本件第1審時にした供述はいずれも虚偽であったとするA子らの供述が新
たに発見されており,本件カルテに「処女膜は破れていない」との記載が
あることは当該A子の新供述の信用性を強く裏付けるものであるなどとし
て,再審開始の決定をした(甲2)。25
2争点1(警察官による本件刑事事件にかかる捜査の違法性)について
(1)K1巡査部長によるA子らの取調べの違法性
年少者の特性として,取調べを行う捜査官の言動に迎合しやすいことは一
般に知られているから,警察官が,年少者を刑事事件の被害者又は目撃者と
して取り調べる場合には,自身の言動により年少者の供述を誘導し,不当に
歪曲させることのないよう配慮することが求められるというべきである。一5
方で,現行法上,警察官による年少者の取調べにおいて,専門家を関与させ
たり,取調べ状況をビデオ撮影したりすることがより望ましいとしても,こ
れを義務付ける規定はなく,警察官がこれらの配慮をしなかったことから,
当然に職務上尽くすべき注意義務に反するということはできない。
本件強制わいせつ事件に関するA子の取調べに際し,担当したK1巡査部10
長から一定の誘導的な質問があったことはうかがわれるものの(甲37の2・
15頁),A子は,基本的にはEとの間の話をもとにして自発的に被害を申告
していたものと認められ,K1巡査部長がA子の供述が明らかに不自然,不
明確であるのにその重要部分について積極的に誘導したとまでは認められな
い。また,本件において,警察官が必要な限度を超えて繰り返しA子らの取15
調べを行ったとか,A子が取調べを頑なに拒絶するような態度をとったなど
の事情を認めるに足りる証拠はない。そうすると,A子の取調べについて専
門家を関与させたり,後の検証のためにビデオ撮影をしたりする必要性が高
かったとまでいうことはできない。さらに,本件強制わいせつ事件に関する
B男の取調べについても,B男が目撃者として取調べを受けることを拒絶し20
ていたなどの事情は認められず,A子と同様に専門家の関与等の措置をとる
必要性が高かったとまでは認められない。
したがって,K1巡査部長が年少者の取調べに当たって必要な配慮を欠い
ていたと評価することは困難であり,同人によるA子らの取調べについて,
職務上尽くすべき注意義務を怠ったとは認められない。25
(2)本件カルテを収集しなかったことの違法性
警察官は,積極証拠か消極証拠かを問わず,捜査を行い,証拠を収集しな
ければならない。
もっとも,Eは,本件第1審においてもA子にH医院を受診させた際の結
果等について供述を避ける態度を示しており(乙13・39頁),本件刑事事
件の担当警察官に対して,当該受診の事実や結果等を自発的に告げてはいな5
かった可能性が高い。また,P1検事も,平成20年9月25日のEに対す
る取調べの時点で,H医院の受診に関する事情を詳しく聴取しておらず,そ
の結果がP1検事を通じて本件刑事事件の担当警察官に伝えられていたとも
認められない。したがって,本件刑事事件の担当警察官において,A子が本
件強姦事件の捜査開始前にH医院を受診しており,同院において,A子の性10
器の状態に関する診断書やカルテが作成されている可能性に思い至るべきで
あったとはいえない。
したがって,本件刑事事件を担当した警察官が本件カルテを証拠として収
集しなかったことはやむを得ないというべきであって,職務上尽くすべき注
意義務を怠ったとは認められない。15
3争点2(P1検事による公訴提起の違法性)について
(1)検察官による公訴提起の違法性の判断基準
公訴提起時の検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証
と異なり,公訴提起時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断
過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるところ,公訴提起時におい20
て,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収
集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる
嫌疑があれば,公訴提起は違法性を欠くものと解するのが相当である(最高
裁判所第一小法廷平成元年6月29日判決・民集43巻6号664頁参照)。
(2)本件刑事事件において通常要求される捜査により収集し得た証拠資料25
ア原告らは,IクリニックのG医師から,本件診断書の作成に至る診断結
果の具体的内容について直接聴取すべきであった旨主張する。
本件診断書は,「処女膜裂傷」との診断名が記載されているのみで,具体
的な裂傷の形状等については言及されていない。したがって,これだけを
見れば,受診時から比較的近い時期に生じた新鮮な処女膜裂傷が認められ
たとの意味に理解するのがひとまず自然であるといえるが,P1検事は,5
この点に関し,陳旧性の裂傷を含むものと理解し,したがってA子の供述
を前提とすると当然の診断内容であると考えた旨陳述ないし供述してい
る(乙19・17頁,証人P1・6頁)。
この点につき検討するに,A子の捜査時の供述によれば,最後に強姦被
害にあったのは平成20年4月14日頃であるところ,膣や外性器,子宮10
頸部の損傷は長くても10日程度で回復するとされているから(乙15),
同日頃に処女膜裂傷が生じたとしても,本件診断書が作成された同年9月
25日時点において新鮮な処女膜裂傷が認められる可能性は大きくない。
そうすると,本件診断書の「処女膜裂傷」との記載を上記のとおり新鮮な
裂傷の趣旨に理解した場合,上記強姦被害とは別に,A子が上記診察時の15
直近に性交渉をもったか,激しい運動等その他の要因によって新たに処女
膜裂傷を生じた可能性がまず想定されるが,A子は,同年10月7日のP
1検事による取調べにおいて,これらの可能性をいずれも否定する供述を
している(乙10・8頁)。一方で,適切に診察できていないにもかかわら
ず,医師が診断書を作成するなどということは通常は想定し難いことであ20
るといえる。これらの事情に照らすと,P1検事が,本件診断書の「処女
膜裂傷」との記載について陳旧性のものを含む趣旨に理解したとしても,
そのことが直ちに不合理であるということはできない。
そもそも,性的接触の後遺所見の後方視的解釈は困難であることが非常
に多く,性虐待や性暴力の被害を受けたことの証明となる決定的な身体所25
見はほとんどないとされ,とりわけ,医師が,治癒後の後遺所見から特定
の所見が性被害によって直接的に生じたものか否かを判断することは困
難であるとされている(乙14・297ないし299頁)。そうすると,A
子が申告していた平成20年4月14日頃の強姦被害の事実が,同年9月
25日頃に行われた医師の診察によって積極的に裏付けられる可能性は
もともと乏しかったのである。したがって,本件強姦事件の立証上,この5
時期に医師の診察を受けることに意味があるとすれば,それは,主として
処女膜が強姦被害によって男性器の挿入を受けたことと矛盾するような
形状で残存しており,A子の供述の信用性に重大な疑問を生じさせること
がないかを確認することにあったと考えられる。この時点で医師の診察を
受けることの意味がそのようなものであり,かつ,本件診断書の「処女膜10
裂傷」との記載は,少なくともA子の性器に同人の供述と矛盾するような
客観的所見はないと理解されるものである以上,これに加えて,同記載の
正確な意味を確定するべく,G医師から直接聴取し,診察状況等を確認す
る必要性は大きくなかったというべきである。
たしかに,本件においては,仮にこのような捜査が行われていれば,①15
本件診断書の「処女膜裂傷」との記載が実際の診察結果に基づくものでな
いことが判明した可能性,あるいは②再度の診察の結果,A子の性器に同
人の供述と矛盾するような客観的所見があることが判明した可能性,さら
には,③A子が,実際にはIクリニックを受診した際に暴れて診察できな
い状態であり,しかも,その後のP1検事の取調べに対しては同クリニッ20
クで診察をしてもらった旨の虚偽の供述をしていたことが判明した可能
性がある。そして,仮に上記①ないし③のような事実が判明していたとす
れば,その結果,本件刑事事件の証拠構造の中核をなすA子の供述の信用
性がかなりの程度に揺らいでいたであろうことは容易に想定することが
できる。しかしながら,P1検事が,当時の捜査状況,とりわけ本件診断25
書の記載内容がそれ自体としては強姦被害の存否を決定づけるような意
味を持たないという状況のもとで,上記①ないし③のような異常な事態が
生じているかもしれないことを慮り,そのことを視野に入れた捜査をしな
ければならないとすることは困難であると考える。
以上の検討によれば,本件診断書の提出を受けて,G医師から診察状況
等を直接聴取することは,通常要求される捜査ということはできない。5
イP1検事は,Eから,平成20年9月25日の取調べの際に,同年8月
頃にA子を別の産婦人科に連れて行ったことを聴取しているところ,原告
は,このような情報に接した以上,P1検事は,当該産婦人科の所在や診
断結果を捜査すべきであったと主張する。
しかしながら,同時点で,P1検事は,既に,警察官を通じ,A子をし10
てIクリニックを受診させる手配を済ませており,近くその診察結果を入
手できる見込みがあったものである。また,A子が当該別の産婦人科を受
診したという時期は同年8月頃であり,いずれにせよA子が最後に強姦被
害に遭ったと供述している時期からは長期間が経過しているから,近く入
手が期待できるIクリニックの診察結果と比べて,当該別の産婦人科の診15
察結果の証拠価値が大きく上回るとは想定されない。加えて,その後,結
果としては誤っていたものの,少なくともA子の性器に同人の供述と矛盾
するような客観的所見はないと理解される本件診断書が取得されるに至
ったものであり,このような捜査状況のもとでは,重ねて,当該別の産婦
人科の名称,所在や診断結果等を捜査する必要性が大であったとはいえな20
い。
たしかに,本件においては,仮にこのような捜査が行われていれば,「処
女膜は破れていない」との記載がある本件カルテが入手できた可能性,ひ
いてはA子の供述の信用性が揺らいでいた可能性を否定することはでき
ない。しかしながら,P1検事が,前段に示した当時の捜査状況のもとで,25
これらの可能性を想定すべきであったとまではいえないと考える。
したがって,本件カルテが,本件刑事事件において通常要求される捜査
により収集し得た証拠であるとは認められない。
ウ原告らは,本件において通常要求される捜査として,年少者の性的被害
について高度の専門性を有した者にA子の診察を行わせるべきであり,そ
のような捜査を行っていれば,A子が強姦被害を受けていないことを示す5
証拠を入手し得たはずであると主張する。
たしかに,長期間にわたり繰り返し強姦被害を受けている年少者は,同
年齢の年少者に比して処女膜の面積が減少していたり,処女膜の辺縁に細
かい凹凸が生じたりすることがあり得るところ(乙16),A子は本件刑事
事件当時,性交渉自体に及んだことがなかったのであるから,年少者の強10
姦被害について高度な専門性を有する医師がA子を診察すれば,これらの
特徴が観察できないという診断結果は得られたであろうと推測される。
しかしながら,処女膜の面積や形状には個人差があるうえ,複数回にわ
たり強姦被害を受けていても,その回数いかんによっては(すなわち,そ
の回数が比較的少ないものであったとすれば),上記のような特徴が観察15
できないことも十分にあり得る。強姦被害があったとされる時期の直後に
される医師の診察についてはさておき,相当期間が経過した後にされる医
師の診察については,上記のとおり医師が治癒後の状況から特定の所見が
性被害によって直接的に生じたものか否かを判断することは困難である
とされていることからすると,強姦被害の存否を積極的に裏付けるような20
診断結果は期待し難いのであって,これを特に高度な専門性を有する者に
行わせるべきであったということはできない。
したがって,P1検事が本件において指示した医師の診察とは異なって,
より高度な専門性を有する医師の診察を受けさせることが通常要求され
る捜査であるとは認められない。25
(3)合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑の有無
ア本件各公訴提起時におけるA子らの供述の信用性
(ア)A子らは,平成7年頃から平成20年頃までの間,養父である原告X
1と同居し,自身の生活を支えてもらっていたのであるから,本件各公
訴提起当時の証拠資料から,A子らに無実の原告X1を罪に陥れる虚偽
供述をする動機を見出すことは困難であったと考えられる。また,捜査5
当時におけるA子の被害供述とB男の目撃供述は,B男がEからA子の
供述内容を聞くなどしており,概ね供述内容が合致していたと認められ
る。
これらの事情に加え,本件強制わいせつ事件については,第3の1(2)
で認定したとおり,A子もB男も被害状況について具体的に供述してお10
り,第1起訴時において,A子らの供述は信用することができるもので
あったと認められる。
(イ)本件強姦事件についても,上記のように,A子らに虚偽供述の動機は
認められない。また,A子らの供述内容は,被害時期や被害を受けた際
のA子の抵抗の様子,絨毯に血がついていたという被害後の状況等につ15
いて概ね合致している。さらに,第3の1(2)で認定したとおり,A子は,
被害時期の特定について,結婚式や放送されていたアニメ等の具体的根
拠に基づき供述しているうえ,二度目の強姦被害の際の痛みについて「か
ゆみに近いような痛み」という具体的な表現を用いて述べる等,本件強
姦事件の被害状況について相当程度具体的に供述していることが認めら20
れる。さらに,B男も目撃したA子の被害状況や自分の恐怖心等を具体
的に述べており,第2起訴時においても,A子らの供述は信用すること
ができるものであったと認められる。
以上によれば,本件各公訴提起時において,その供述内容等に照らし,
A子らの供述を信用できるというP1検事の判断が不合理であるとは25
いえない。
(ウ)この点について,原告らは,A子が,当初初潮を迎えたのちに初めて
強姦被害にあった旨供述していたにもかかわらず,その後,初潮よりも
前の段階で強姦被害にあったと供述を変遷させ,さらに,B男も同様に
強姦被害の目撃時期を変遷させたのは,通常生じるはずのない不合理な
変遷であるから,P1検事は,A子らの供述の信用性を慎重に吟味すべ5
きであったと主張する。しかしながら,A子は,初めて強姦被害にあっ
た日を特定する根拠として,結婚式の翌日であったことを述べているの
であって,初潮の時期を基礎として被害にあった日を特定しているわけ
ではない。また,B男は,当初から時期を明確に述べていたわけではな
いうえ,A子と同様に,結婚式の翌日であったことを目撃日時の特定の10
根拠として述べている。このようなA子らの供述内容に加え,本件強姦
事件のうち1件目の被害があったとされる日から,本件刑事事件の捜査
まで4年程度経過していることに鑑みれば,1年ほど被害時期が変遷し
たとしても,著しく不合理な変遷であるとまでは評価できない。したが
って,A子らの被害時期にかかる供述の変遷が,A子らの供述の信用性15
を直ちに揺るがすものとはいえず,この点に関する原告らの主張は採用
できない。
また,原告らは,B男がA子の叫び声を聞いていたにもかかわらず,
同居していた原告X1の母親がその声を聞いていないというのは不自然
である旨指摘する。しかしながら,当時,原告X1の母は高齢であって,20
耳が遠く,A子の叫び声が聞こえていなかったとしても不自然とまでは
いえず,原告らの主張する事情は,本件各公訴提起時におけるA子らの
供述の信用性を大きく揺るがすものとまではいえない。したがって,原
告らのかかる主張も採用できない。
イ原告X1の供述の信用性25
原告X1は,本件刑事事件の捜査時には,いずれの事件についても否認
したうえで,本件強姦事件の犯人ではない理由として,自身は糖尿病に由
来するインポテンツであり,そのことを医師にも相談していた旨述べてい
る(乙6,12)。しかし,本件第1審においては,原告X1が診察を受け
ていた結城由恵医師の証人尋問が実施された結果,原告X1がインポテン
ツについて同医師に相談しておらず,治療も受けていない事実が判決にお5
いて認定されており,P1検事は,捜査段階において同医師から同旨の証
言を録取していたものと推認される(甲3,12)。そうすると,P1検事
において,原告X1が有罪判決を免れるために虚偽の供述をしているとの
心証に至ったとしても,必ずしもこれを不合理ということはできない。
(4)以上によれば,P1検事が,本件診断書の「処女膜裂傷」との記載に陳旧10
性のものが含まれると理解し,それ以上特段の捜査を行わなかった点は,や
や性急な感を免れないが,通常要求される捜査を怠ったとまでいうことは困
難である。したがって,P1検事が,本件各公訴提起にあたり,A子らの供
述に基づいて原告X1に有罪と認められる嫌疑があると判断したことは,本
件刑事事件において収集された証拠及び通常要求される捜査により収集し得15
た証拠に照らして不合理であったと評価することはできないと考える。よっ
て,本件各公訴提起は,国家賠償法上違法とは認められない。
4争点3(本件公判検事らによる公訴維持及び勾留継続の違法性)について
(1)公訴進行時の検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証
と異なり,公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断20
過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であ
るところ,公訴の提起が違法でないならば,公訴提起時に,すでに証拠資料
から合理的な判断過程により有罪と認められる程度の嫌疑があるのであるか
ら,当該嫌疑を覆すような特段の事情がない限り,公訴の維持も原則として
違法でないと解すべきである(前掲最判参照)。25
(2)第3の3において述べたように,本件各公訴提起は適法なものである。
また,本件第1審におけるA子らの証言は,捜査段階と同旨のものであり,
本件第1審において,本件刑事事件において中核的な証拠であったA子供述
やB男供述の信用性を否定するような新証拠は提出されなかった。
原告らの主張するように,本件第1審において,本件診断書が添付された
捜査報告書が撤回されたという経緯はあるが,本件診断書は,A子が最後に5
強姦被害にあったとされていた日から数か月後に作成されたものであって,
もともと当該強姦被害があったことを立証することのできる証拠ではなかっ
たのであるから,上記捜査報告書を撤回したからといって,原告X1に対す
る嫌疑が揺らぎ,何らかの補充捜査が必要となるという関係にはない。
したがって,本件各公訴提起時と同様に,本件第1審を担当したP2検事10
らが,原告X1に有罪と認められる嫌疑があると考えたことは合理的である
と認められる。
(3)本件控訴審においては,弁護人から,本件第1審におけるEの供述内容を
踏まえて,A子を受診させたという別の産婦人科の診断書や医療記録を取得
する必要性が指摘されていたものである。しかしながら,これに対して,E15
は,本件第1審において,A子が痛がったり,患部がはれ上がっていたりし
たため,適切に検査ができないと言われた旨供述しており,当時,Eに原告
X1を虚偽の罪に陥れるような強い動機の存在はうかがえず,同供述の信用
性を強く疑うべき事情があったということはできない。加えて,前記のとお
り,当該別の産婦人科の受診時においても,A子が最後に強姦被害を受けた20
とする日から長期間が経過しており,その診断書や医療記録はそれほど証拠
価値が高くないと考えられたことからすると,本件控訴審を担当したP3検
事が補充捜査を実施して本件カルテを取得しなかったとしても,通常要求さ
れる捜査を怠ったものとは認められない。
(4)以上によれば,本件公判検事らによる公訴維持行為及びこれに伴う勾留継25
続行為は,いずれも国家賠償法上違法とは認められない。
5争点4(本件担当裁判所による判決行為の違法性)について
裁判官による判決行為が国家賠償法上違法と評価されるのは,担当裁判官が
違法又は不当な目的をもって裁判したなど,裁判官がその付与された権限の趣
旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情が存在す
る場合に限られる(最高裁判所第二小法廷判決・昭和57年3月12日民集35
6巻3号329頁)。
しかしながら,これらの点を指摘する原告らの主張は,要するに,本件第1
審及び本件控訴審の事実認定や経験則,証拠評価等を批判するものであって,
担当裁判官による裁判につき,違法又は不当な目的があった等の上記特別の事
情が存在したことを基礎づけるものではない。また,確かにA子は,本件第110
審終了後,本件控訴審判決がされるまでの間に,自身の証言が虚偽であること
を告白しているが,本件控訴審裁判所において,そのような告白がされたこと
をうかがい知ることができる主張書面や証拠は提出されていない。したがって,
その結果本件控訴審裁判所がA子に対する再度の尋問等は行わない旨の判断に
至ったことを不合理ということはできないから,本件控訴審裁判所裁判所がA15
子の証人尋問を行わなかったことをもって上記特別の事情が存するとは認めら
れない。
以上によれば,原告らの主張は採用できず,本件担当裁判所による判決行為
を国家賠償法上違法ということはできない。
6争点5(本件交付拒否行為の違法性)について20
(1)国家賠償法上の違法性が認められるには,公務員が個別の国民に対して負
担する職務上の注意義務に違反したと認められなければならず(最高裁判所
第一小法廷昭和60年11月21日判決・民集39巻7号1512頁参照),
違法性が認められる前提として,国家賠償請求をする者が主張する権利利益
が,法律上保護された権利利益でなければならない。25
そこで,再審請求者の証拠一覧表交付請求権が,法律上保護された権利利
益と認められるかどうかを検討する。
(2)刑事裁判の通常審は,当事者主義が採用されており,公判前整理手続に付
された事件については,刑事訴訟法316条の14以下に規定された証拠開
示手続に基づいて,検察官から弁護人に対し,証拠一覧表の交付及び証拠開
示が行われることが予定されている。5
これに対し,再審請求審の手続は,通常の刑事裁判手続を尽くして確定し
た有罪判決を覆す非常救済手続であって,再審請求権者から新規かつ明白な
証拠が提出されるなど(刑事訴訟法435条6号),所定の再審事由の存在が
前提とされているうえ,刑事訴訟法316条の14以下に規定された証拠開
示手続は準用されていない。また,証拠一覧表の交付手続は,平成28年110
2月1日に施行された改正刑事訴訟法316条の14第2項において初めて
認められたものであり,本件交付命令がされた平成27年1月14日当時,
通常審の手続においても認められていなかったものである。
このような手続内容の差異や改正の経緯をふまえると,本件交付命令当時,
刑事訴訟法上,証拠一覧表交付請求権すなわち再審請求人が検察官から証拠15
一覧表の交付を受ける権利は,法律上保護された権利利益として認められて
いるものではなかったと解するのが相当である。
(3)この点について,原告X1は,本件交付命令がされたことで,同人の証拠
一覧表交付請求権が具体化したと主張する。
検察官側と被告人側との証拠収集能力には決定的な格差が存在し,そのこ20
とは再審請求審においても変わりがなく,検察官側が保管する証拠中に再審
請求者側に有利な重要証拠が存在することも全くないわけではないから,再
審請求者が提出した証拠の明白性を判断するための審理の一環として,公正
な裁判と訴訟の円滑な遂行等の目的のもとに,再審請求審裁判所が,訴訟指
揮権に基づき,証拠一覧表の交付を命ずることができると解する余地は十分25
にあるというべきである。しかしながら,再審請求審裁判所が訴訟指揮の一
環として検察官に対して証拠一覧表の交付を命ずる旨の決定をした場合にお
いて,検察官がこれに応じ又は応じなかったことにより,訴訟状態が再審請
求者に有利又は不利に変動することがあったとしても,そのことは再審請求
者の実体的な権利が実現し又は毀損されたことを意味しない。換言すれば,
再審請求者が証拠一覧表の交付を受ける利益は,そのような訴訟指揮に検察5
官が従った結果,反射的に享受することがあるにすぎないものというべきで
ある。
以上によれば,本件交付命令により,原告X1の証拠一覧表交付請求権が
法律上保護される具体的な権利利益となったということはできず,同人によ
る上記主張は採用しない。10
なお,本件再審請求審において,担当検察官は,その初期からA子らの新
供述が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たる蓋然性が高いことを認め,
当該A子の新供述の信用性を裏付ける本件カルテの存在及び記載内容を進ん
で開示していたのであり,原告X1が,証拠一覧表の交付を受けられないこ
とによって,再審事由の存在が認められないおそれがあるなど,その防御権15
が実質的に制約されるような事態は想定し難いものであったというべきであ
る。
(4)以上によれば,P4検事らが不服申立の手続をとらずに裁判所の訴訟指揮
に従わなかったことの当否はおくとしても,再審請求人の証拠一覧表交付請
求権は法律上保護された権利利益とはいえず,本件交付拒否行為によって原20
告X1の具体的な権利利益が侵害されたわけでもないから,本件交付拒否行
為は国家賠償法上違法とは認められない。
第4結論
よって,その余の点を判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由が
ないから棄却することとし,主文のとおり判決する。25
大阪地方裁判所第18民事部
裁判長裁判官大島雅弘
裁判官石上興一5
裁判官岩本圭矢
(別紙)
略語一覧表
1A子本件刑事事件の被害者とされていた者のこと。
なお,本判決においては仮名を用いる。
2B男本件刑事事件の目撃者とされ,かつ,A子の実
兄であるB男のこと。なお,本判決においては仮
名を用いる。
3A子らA子及びB男のこと。
4E原告X2の実子であり,かつ,A子及びB男の
実母である者のこと。
5FEの夫である者のこと。
6P1検事本件刑事事件の捜査担当であったP1検事の
こと。
7本件強制わいせつ事件原告X1を加害者,A子を被害者とする,平成
20年7月上旬頃に発生したとされた強制わい
せつ事件のこと。
8本件強姦事件原告X1を加害者,A子を被害者とする,平成
16年11月21日頃及び平成20年4月14
日頃に発生したとされた各強姦事件のこと。
9本件刑事事件本件強制わいせつ事件及び本件強姦事件のこ
と。
10第1起訴P1検事が,平成20年9月30日,本件強制
わいせつ事件について,原告X1を被告人として
起訴したこと。
11第2起訴P1検事が,平成20年11月12日,本件強
姦事件について,原告X1を被告人として起訴し
たこと。
12本件各公訴提起第1起訴及び第2起訴のこと。
13本件第1審本件刑事事件の確定審第1審のこと。
14本件控訴審本件刑事事件の確定審控訴審のこと。
15本件再審請求審本件刑事事件の再審請求審のこと。
16本件再審本件刑事事件の再審のこと。
17K1巡査部長本件強制わいせつ事件について,A子らの取調
べを担当した大阪府警察Q警察署の司法警察員
巡査部長Kのこと。
18P2検事本件第1審の公判担当であったP2検事のこ
と。
19P3検事本件控訴審の公判担当であったP3検事のこ
と。
20本件公判検事らP2検事及びP3検事のこと。
21P4検事ら本件再審請求審を担当したP4検事及びP5
検事のこと。
22本件第1審裁判所本件第1審公判を担当した裁判官3名による
合議体のこと。
23本件控訴審裁判所本件控訴審公判を担当した裁判官3名による
合議体のこと。
24本件担当裁判所本件1審裁判所及び本件控訴審裁判所のこと。
25本件交付命令本件再審請求審裁判所が,P4検事らに対して
証拠一覧表の交付を命じた決定のこと。
26本件交付拒否行為P4検事らが,本件交付命令に対し,証拠一覧
表の交付を拒否した行為のこと。
27本件カルテH医院の医師が,平成20年8月29日に作成
したA子のカルテ(乙1)のこと。
28本件診断書IクリニックのG医師が,平成20年9月25
日に作成した診断書(乙2)のこと。
29G医師本件診断書を作成したG医師のこと。
30証拠一覧表交付請求権原告X1が主張する,再審請求人が検察官から
証拠一覧表の交付を受ける権利のこと。
以上

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今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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