弁護士法人ITJ法律事務所

最高裁判例


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主文
被告人を懲役8年に処する。
未決勾留日数中390日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人並びに分離前の相被告人A,同B及び同Cの連帯負
担とする。
理由
(犯罪事実)
第1被告人は,分離前の相被告人D,同E,同A,同B,同C,F及び氏名不詳
者らと共謀の上,平成28年7月8日午前9時27分頃,福岡市a区bc丁目
d番e号Gビル(以下「本件ビル」という。)1階エレベーター前エントランス
(以下「本件エントランス」という。)において,H,I及びJ(この3名を「被
害者ら」という。)管理の金塊合計160個(重量約160キログラム。時価合
計約7億5840万円。以下「本件金塊」という。)在中のキャリーケース5個
(以下「本件キャリーケース」という。)並びにI所有又は管理の現金約130
万円及び財布1個等在中のショルダーバッグ1個(時価合計約24万円相当。
以下「本件ショルダーバッグ」という。)を持ち去り窃取した。
第2被告人は,平成29年5月29日午後零時53分頃,普通乗用自動車を運転
し,名古屋市f区gh丁目i番地先の信号機により交通整理の行われている交
差点をj町方面からk町方面に向かい直進するに当たり,追尾してきた警ら用
無線自動車の追跡から逃れるため,同交差点の対面信号機が既に赤色の灯火信
号を表示しているのに,同信号機の赤色の灯火信号を殊更に無視し,かつ,重
大な交通の危険を生じさせる速度である時速約50キロメートルに加速し,自
車を運転して同交差点に進入したことにより,折から青色信号に従って交差道
路を左方(l町方面)から進行してきたK運転の普通貨物自動車前部に自車左
側部を衝突させ,その衝撃により脱落して飛散したK運転車両の部品を同交差
点南東角の歩道上で自転車に乗って停止していたLの右上腕に衝突させ,よっ
て,Kに通院加療約29日間を要する見込みの頭部打撲,右肩関節挫傷の傷害
を,Lに加療約1週間を要する右上腕打撲症の傷害をそれぞれ負わせた。
(第1の事実に係る事実認定の補足説明)
1弁護人の主張等
関係証拠によれば,被告人から情報を得て,D,F,E,A,B及びC(以下,
この6名を「実行犯ら」という。)が,判示日時,場所において,被害者らが運
んでいた本件金塊在中の本件キャリーケース(以下,これらを併せて「本件キャ
リーケース等」という。)を持ち去った事実(以下「本件持ち去り行為」という。)
が認められ,この点に争いはない。
弁護人は,本件持ち去り行為につき被告人に窃盗罪は成立せず,被告人は無罪
である旨を主張し,その理由として,本件キャリーケース等については,①本件
キャリーケース等は被害者らの占有する財物ではない,②仮に,被害者らの占有
が認められるとしても,持ち去ることについて被害者らの同意があった合理的な
疑いがある,③仮に,被害者らの同意がなかったとしても,被告人は被害者らの
同意があると誤信していたから窃盗の故意がない旨を主張し,本件ショルダーバ
ッグについては,④被告人には窃盗の共謀がない旨を主張する。
2本件キャリーケース等の占有者について(前記①)
⑴関係証拠によれば,出資者から受けた出資金等を元手として購入した金塊を
売却し,売却額と購入額の差額を利益として得る事業を行っていたMらから依
頼を受けた被害者らが,本件持ち去り行為の前日(平成28年7月7日),山
口県下関市内のホテルの1室において,本件金塊の売主が同室内に持ち込んだ
本件金塊を,東京から運んできた現金により買い付ける取引を行った後,同ホ
テル内の被害者らの各居室で本件金塊を保管し,翌日(同月8日)朝までに本
件金塊を本件キャリーケースに入れ,本件ビル内の買取業者に売却するため,
Nとともに,Oの運転する自動車(車種はトヨタアルファード。以下「本件ア
ルファード」という。)に乗って,上記ホテルから本件ビルまで本件キャリー
ケース等を運び,同日午前9時25分頃,本件ビル前に停車した本件アルファ
ードから本件キャリーケース等を降ろして本件ビル内に入り,本件エントラン
スでエレベーターを待っていたところで,本件持ち去り行為があったことが認
められる。
以上の事実経過に照らせば,本件持ち去り行為時において,被害者らが本件
キャリーケース等を現実に握持し支配していたことは明らかであるから,被害
者らが本件キャリーケース等の占有者であると認められる。
⑵弁護人は,被害者らは,Mらに盲目的に従う運搬役にすぎなかったのである
から占有補助者にすぎず,窃盗罪により保護される独自の占有を有していなか
った旨を主張する。しかし,被害者らが本件金塊を入手して本件ビルまで運ん
できた経過は上記のとおりであり,被害者らやMらの支配が及ばない者により
持ち込まれた本件金塊及びそれを入れた本件キャリーケースにつき,その買付
場所から本件ビルまでの移動において,それらを一切,手にしたりせず,物理
的,現実的にその移動に何ら関与しなかったMらが,それらを占有していたと
みる余地はない。弁護人の上記主張は採用できない。
3被害者らの同意について(前記②)
⑴関係証拠によれば,本件持ち去り行為及びその前後の状況として,以下の事
実が認められる。
ア実行犯らは,レンタカー2台(車種はトヨタノアとスズキスイフト。以下,
それぞれ「本件ノア」,「本件スイフト」という。)を借り,「POLIC
E」と記載されたワッペンが付けられたベストなど,警察官のように見える
服装をして,Aの運転する本件ノアにF,E及びCが,Dの運転する本件ス
イフトにBが,それぞれ分乗して,本件持ち去り行為の1時間ほど前から,
本件ビル周辺の道路を周回するなどした後,遅くとも本件持ち去り行為の3
0分ほど前から,本件ノアを本件ビル付近の本件ビルの出入口が面する道路
上に停車させた。
イ同日午前9時25分頃,被害者らが本件ビル前に到着すると,同日午前9
時26分頃,本件ノアからF,E及びCが,本件スイフトからBが降りて,
本件ビル内に入り,E及びFが,被害者らに対し,「警察だ」,「なんで来
たか分かっているな」などと声を掛けるとともに,キャリーケースを開ける
よう求め,被害者らがIのキャリーケースを開けて金塊等の在中品を見せる
と,「これは密輸品じゃないのか」と言うなどした。また,他の3名に後れ
て本件ノアから降りたAは,本件アルファード内に残っていたO及びNに対
し,「警察だ」と名乗り,本件アルファードから降りて本件ビル内に入るよ
う求めた後,本件ビル内に入った。
ウF,A,B及びCは,被害者らから,本件キャリーケース等と本件ショル
ダーバッグを持ち去り,同日午前9時30分頃,本件ビルを出て,小走りで
本件ノアに戻り,これらを積み込んだ。他方,Eは,本件エントランスに残
り,被害者らに対し,「ちょっと待っていろ」などと言って,被害者らをそ
の場に留めた後,本件ビルから出て,同日午前9時31分頃,本件ビル付近
でDの運転する本件スイフトに乗車した。
エ実行犯らは,同日午前9時32分頃,本件スイフトにAの運転する本件ノ
アが追従し,対向車線を逆走するなどしながら本件ビル付近から離れ,同日
午前9時40分頃,福岡市内から高速道路に乗り入れて東方面に進行した。
その途中,山口県下関市内で高速道路を降り,同市内の河川敷において,本
件キャリーケース及びI名義のパスポート,健康保険被保険者証,キャッシ
ュカード等が入った本件ショルダーバッグのほか,実行犯らが警察官のよう
に見えるために着用していた衣類を投棄した。
オその後,Dは,知人に依頼するなどして,同月11日及び同月15日の2
回にわたり,本件金塊のうち合計90キログラムを買取業者に売却して4億
3000万円余りの現金を得た。この現金から,D,F及びEがいずれも1
億円を,Aが6500万円を,Bが2500万円を,Cが1500万円を,
それぞれ得た。
カまた,Dは,平成29年3月頃,Mとの間で,互いの代理人弁護士を介し,
本件持ち去り行為について,本件持ち去り行為の関与者が,Mの経営する会
社に対し,合計1億6000万円の示談金を支払うことなどを内容とする示
談を試みたが,合意には至らなかった。
⑵上記⑴の事実経過に照らせば,実行犯らの一連の行為については,被害者ら
が本件ビルに到着するのを待ち構え,被害者らに対し,被害者らが金塊の密輸
に関与しているとの嫌疑を持った警察官による職務の執行を装い,被害者らを
してその旨を誤信させ,被害者らを本件エントランスに足止めして時間稼ぎを
しながら,本件キャリーケース等を持ち去って,自動車で犯行現場から逃走し,
その途中,犯行現場からかなり離れた場所で,犯行に用いた物や被害品のうち
の一部を投棄するといった証拠の隠滅行為に及んだ上,被害品の相当量を直接
処分して高額の利益を得,その後,これによる法律上の責任を免れるため,相
応に多額の負担を覚悟して示談の成立を目指したものと評価するのが自然かつ
合理的であり,本件持ち去り行為が被害者らの意思に反する財物の窃取行為で
あったことが強く推認される。
本件キャリーケースの中には,施錠されており,在中の金塊を取り出すため
に,実行犯らがその鍵部分を破壊する必要があったものが含まれていたことや,
上記のとおり,Iにとって,面識のない他人から持ち去られたり,遠隔地に投
棄されたりすることを容認することなど到底考えられない,重要な身分証明書
等が入った本件ショルダーバッグが,本件キャリーケース等とともに持ち去ら
れ,本件キャリーケースとともに投棄されたことは,この推認を強めるもので
ある。
また,関係証拠によれば,実行犯らが,本件持ち去り行為によりその占有を
取得した本件金塊の半分を超える量を,被害者ら及びその関係者に返還したり
せずに,直接換金した上で合計4億円余りもの非常に高額の利益を得たことが
認められる一方で(上記⑴オ),前記のとおり,出資者から受けた出資金等を
元手として購入した金塊を売却し,売却額と購入額の差額を利益として得る事
業を行っていたM,Mに依頼されて,本件ビルまで本件金塊を持ち運ぶことを
担った被害者ら並びにO及びN,更にはMの経営する会社及びその代表取締役
であり本件持ち去り行為につき提出された被害届の作成名義人(P)のいずれ
もが,本件持ち去り行為の当時,盗難被害に関する保険に加入するなどしてお
らず,被害者らはもとより,Mら本件金塊の買い付けや転売に関わる者が,本
件持ち去り行為によって何らの利益も得ていないことが認められることも,上
記の推認を更に強めるものである。
以上の事情を踏まえると,本件持ち去り行為を同意していない旨の被害者ら
の各公判供述には高い信用性が認められ,本件持ち去り行為は被害者らの同意
なく,その意思に反して行われた窃取行為と認められる。
⑶弁護人は,①福岡に全く土地勘のない実行犯らが,金塊の取引につき事前に
正確な情報を得て,情報どおりの現場で,概ね情報どおりの量の金塊を入手し
たことは,本件金塊の処分権限を有する者からの本件金塊に関する取引の情報
の漏えいがあったことの証左である,②実行犯らが着用していたベストに「U
SA」との記載があることやCが茶髪であったことからすれば,「実行犯らを
警察官と信じ込んでいたため,抵抗や追跡をしなかった」旨の被害者らの供述
は信用できない,③被害者らが,本件持ち去り行為の直後ではなく,1時間半
も経過してから警察署に行ったのは不自然である,④実行犯らが,本件持ち去
り行為による利益を得た後,投資を勧誘されたことは,「被害者」側の人物が
実行犯らから利益をかすめ取ろうとしていたことを窺わせる,などと主張して,
本件キャリーケース等の持ち去りに被害者らの同意があった合理的な疑いがあ
る旨を主張する。
しかし,①については,本件金塊に関する取引の情報が外部者に漏えいされ
ていたとしても,それが直ちに被害者らの同意があったことに結び付くもので
はない。かえって,関係証拠によれば,D,F,E及びAが,本件持ち去り行
為に先立ち,二度にわたり,名古屋から福岡を訪れ,被告人からもたらされた
情報に基づき,本件ビル周辺で金塊を運んでいる者を探したが,いずれも接触
することなく終わったこと,それにもかかわらず,本件持ち去り行為の際を含
め,Dら実行犯らが金塊を持ち去られる側の関係者に直接連絡をとることをし
なかったことが認められるが,これらの事実は,被告人を介して実行犯らにも
たらされたとされる情報が,本件金塊の処分権限を有する者の意思に反して漏
えいされたものであることを窺わせるものといえる。②については,本件持ち
去り行為が5分も経たない短時間のうちに遂行されたことに加え,弁護人が指
摘するベストのワッペンには,「USA」との記載はなく,概ね水平に「PO
LICE」と記載され,その下に,その文字よりもかなり小さな文字で「UN
ITEDSTATESOFAMERICA」,「DEPARTMENT
OFDEFENSE」と円を描くように記載されており,それぞれの字の大
きさやその配置の違い,さらには,そのベストには,日本語で「機捜」と警察
官のものと見られる刺しゅうも施されていたことなどに照らせば,弁護人が指
摘する事情は,被害者らの上記供述に疑問を抱かせる事情とはならない。③に
ついては,本件持ち去り行為の直後に,被害者らの一人であるHが上位者であ
るMに連絡したことに加え,被害者らが,警察署に行くまでの間,本件ビルの
周辺に防犯カメラがないかを確認したり,実行犯らに奪われたIの携帯電話機
の位置情報で探索しようとしたりしたことに照らすと,弁護人が指摘する被害
者らの行動は,突然,大量の金塊等を奪われるという被害に遭った者の行動と
して不自然なものとはいえない。④については,A,B及びCの各公判供述に
よれば,弁護人が指摘する投資の話はこの3名にEが持ち掛けたものであり,
同人から被害者側に上記3名の出資した現金が交付されたことを窺わせる事情
はないから,弁護人の主張はその前提を欠く。以上のほか,弁護人が種々主張
する点を踏まえても,上記⑵の認定に疑問は生じない。
4被害者らの同意があったとの誤信について(前記③)
⑴まず,前記3⑴で認定した本件持ち去り行為及びその前後の一連の状況に照
らすと,当該行為の客観的な態様,すなわち,被害者らが金塊の密輸に関与し
ているとの嫌疑を持った警察官の職務の執行を装い,被害者らをしてその旨を
誤信させ,本件キャリーケース等を持ち去って,自動車で犯行現場から逃走し
たといった態様自体から,このような行為を実行した実行犯らにおいて,本件
持ち去り行為が被害者らの意思に反する財物の窃取行為と認識していたこと,
すなわち,本件キャリーケース等を持ち去ることにつき被害者らの同意がある
と誤信していなかったことが強く推認される。
そして,関係証拠によれば,被告人は,Dに,本件持ち去り行為に関する話
を最初に持ち掛けたものであるが,本件持ち去り行為に先立ち,実行犯らが警
察官のように装って本件金塊を持ち去るといった上記のとおりの犯行の態様に
ついて,Dから聞いていたこと,それにもかかわらず,その具体的な理由につ
いて,Dに問い質したりしていないこと,D,F,E及びAは,前記3⑶のと
おり,本件持ち去り行為に先立ち,二度にわたり,名古屋から福岡を訪れ,本
件ビル周辺で金塊を運んでいる者を探したものの,いずれも接触することなく
終わったが,被告人は,Dからその旨の連絡を受けてこれを認識していたこと
が認められ,これらの事情に照らせば,被告人は,実行犯らと同様,本件持ち
去り行為が被害者らの意思に反することを認識していたものと強く推認される。
⑵弁護人は,被告人の供述を踏まえ,被告人は,本件持ち去り行為につき,知
人のQから,「金塊の所有者からの依頼で,金塊を持ち去ってもらいたいとの
話がある」,「金塊を運ぶ者も同意している」,「警察沙汰にはならない」な
どと聞き,金塊の取引の当事者にしか分からない情報をQから伝えられたこと
などから,被告人が本件持ち去り行為について被害者らの同意があると誤信し
たことは合理的である旨を主張する。
しかし,被告人は,Qからの説明として,「密輸された金塊120キログラ
ムを持ち去り,それを所有者側に全て返却すれば,換金して得られた金額の半
分を報酬として得られる」と聞いていた旨を供述するが,そもそも,単に持
ち去りに同意している者から金塊を持ち去るといった単純な行為によって,
120キログラムの金塊の半分の価額に相当する極めて多額の報酬を得られる
などといった話自体,およそ考え難い荒唐無稽なものである。また,実行犯ら
は,二度にわたって,金塊を運んでいる者を探したが,いずれも接触すること
なく終わっており,被告人がQから入手したとする情報が不十分ないし不正確
なものであり,その旨の報告を受けた被告人がそれを認識していたことは明ら
かであることに照らしても,弁護人が種々主張する点を踏まえてみても,被告
人が,本件持ち去り行為につき被害者らの同意があると誤信していたとみる余
地はない。
5本件ショルダーバッグの持ち去りについて(前記④)
関係証拠によれば,実行犯らのうちの1人が,本件エントランスにおいて,I
に対し,所携の携帯電話機を出すよう求め,Iがこれに従うと,本件ショルダー
バッグとともに持ち去ったことが認められる。
このことに,本件持ち去り行為時の状況(前記3⑴アないしウ)や,本件ショ
ルダーバッグがその在中品ごと投棄されたこと(前記3⑴エ)を併せ考えると,
Iからの本件ショルダーバッグ等の持ち去りは,具体的な行動によって警察官で
あると装い,また,通報等のための連絡手段を奪って,本件キャリーケース等の
持ち去りという本件犯行の中核的な行為を迅速かつ容易に遂行する目的でされた
ことが強く推認される。
そうすると,本件キャリーケース等の窃取について共謀を遂げていた被告人に
おいては,上記の目的で遂行される被害者らの私物の窃取行為についても事前に
包括的な共謀があったと推認でき,このことは,仮に,被告人が本件ショルダー
バッグの持ち去りを逮捕後に認識したとしても,左右されるものでない。
(量刑の理由)
第1の窃盗についてみると,被告人が氏名不詳者らから入手した金塊の取引に関
する情報に基づき,D,F及びEが中心となって,警察官のように見える衣類を事
前に調達するなど,金塊の窃取の実行に向けた準備を行い,本件当日,実行犯らが
2台の自動車に分乗して被害者らの到着を待ち構えた上で,警察官による職務の執
行を装うなどして被害者らの不意を突き,ごく短時間で被害者らから本件金塊等を
奪い取るという巧妙な手口により,計画的かつ組織的に敢行された犯行である。そ
の被害額は,時価合計7億円以上と類例を見ないほど極めて高額であるが,被告人
らは,本件金塊の転売により莫大な利益を得ていながら,被害弁償を一切していな
い。本件は窃盗事案の中でも相当に悪質性が強く,相当長期の実刑をもって臨むべ
き事案である(なお,本件金塊が正規に日本国内に持ち込まれたものではない疑い
があるとしても,被告人らが利欲的な動機によりこれを奪い取ることを正当化する
理由にはなり得ず,責任非難の程度が低いとする弁護人の主張は採用できない。)。
被告人は,本件金塊の持ち去りには直接携わっていないが,実行犯らに金塊の持
ち去りに関する話を持ち掛け,金塊の取引の日時や場所等の本件金塊等の窃取を遂
行する上で不可欠の情報を,その提供元から実行犯らにもたらしたのであるから,
その果たした役割は相応に大きい。現場に赴いた実行犯らと比べれば低額ではある
が,500万円という相応に高額の報酬を得たこと,同種の服役前科4犯を有しな
がら,直近の服役から社会復帰して2年余りで犯行に及んだことを併せ考えても,
厳しい非難を免れない。
第2の危険運転致傷についてみても,被告人は,交通量の多い時間帯及び場所に
おいて,赤色の灯火信号を意に介さず,高速度で交差点内に進入し,その結果,被
害者らにそれぞれ判示の傷害を負わせたものである。被害者のうち1名の負傷は相
応に重い上,より重大な人身被害を生じさせていた可能性も十分にあった危険な犯
行である。被告人は,第1の窃盗により手配されていたため,警察官からの追跡を
免れようとして犯行に及んだものであり,身勝手な動機や経緯に,酌むべき点は全
くない。
以上の事情に加え,被告人が,第1の犯行については,虚偽の弁解に終始し反省
の態度がみられない一方で,第2の犯行については,公判廷でこれを認め,被害者
らに対して謝罪文を送付し,また,同人らに対し,一部保険による支払いがなされ
ており,今後も相応の賠償が見込まれることなどの一般情状事実も考慮に容れ,被
告人を主文のとおりの刑に処するのが相当と判断した。
(求刑-懲役10年)
平成31年1月31日
福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官平塚浩司
裁判官蜷川省吾
裁判官平岩彩夏

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