弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
       被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中130日をその刑に算入する。
理       由
(犯罪事実)
 被告人は,無差別に電話を掛けた相手から金員を喝取しようと企て,
第1 A1,A2,A3,A4,A5及びA6と共謀の上,
 1 平成15年11月17日午後零時48分ころから同日午後1時14分ころま
での間,東京都杉並区a1b1丁目c1番d1号C・e号室から山口県大津郡f1
町g1h1番地B1方に電話を掛け,同人(当時80歳)に対し,「息子が借金し
て払わないから取り立てる。」,「暴力団じゃ。」,「息子は,今,声も出ない状
態じゃから話せん。」,「今日中の午後3時までに返さんと息子の命はない。」,
「鼻も曲がっている。」,「頭も割れるかもしれん。」,「150万円を今日の午
後3時まで払い込んだら,息子を解放する。」などと語気鋭く申し向けて金員の交
付を要求し,その要求に応じなければ同人の親族の生命,身体等にいかなる危害を
加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ,よって,同日午後2時36分こ
ろ,同人をして,同
郡f1町i1j1番地のk1D1出張所において,同出張所から東京都渋谷区l1
m1丁目n1番o1号株式会社E1銀行E2支店に開設された被告人らが管理する
F1名義の普通預金口座に現金150万円を振り込み送金させてその交付を受け,
もってこれを喝取した
2 同日午後1時36分ころから同日午後1時49分ころまでの間,上記C・e号
室から山梨県大月市a2町b2c2番地d2B2方に電話を掛け,同人(当時60
歳)に対し,「お宅の子供が,ササキトシユキの連帯保証人になっているんだ
よ。」,「息子はここにいるぞ。3時までに120万振り込め。払わねえと息子が
どうなるかわからねえぞ。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,その
要求に応じなければ同人の親族の生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれな
い気勢を示して同人を畏怖させ,よって,同日午後2時16分ころ,同人をして,
同市a2e2丁目f2番g2号株式会社D2銀行a2支店において,同支店から被
告人らが管理する上記F1名義の普通預金口座に現金120万円を振り込み送金さ
せてその交付を受け,も
ってこれを喝取した
3 同月18日午前10時50分ころから同日午後零時15分ころまでの間,上記
C・e号室から山梨県東山梨郡a3b3c3番地B3方に電話を掛け,同人(当時
58歳)に対し,「息子がアユカワカズトの元金100万円の連帯保証人になって
いる。」,「お金を払ってもらわんと困る。」,「222万円になる。」,「もう
足の骨は折れている。」,「弁護士,警察に言うんじゃねえ。」,「今日の12時
までだ。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,その要求に応じなけれ
ば同人の親族の生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同
人を畏怖させ,よって,同日午後零時45分ころ,同人をして,同郡d3町d3e
3番地f3株式会社D2銀行d3支店において,同支店から被告人らが管理する上
記F1名義の普通預
金口座に現金222万円を振り込み送金手続を取らせたが,同口座について取引停
止措置が採られていたために同口座への入金を受けることができず,その目的を遂
げなかった
4 同月19日午前9時25分ころから同日午前9時58分ころまでの間,上記
C・e号室から山口県柳井市a4b4番地B4方に電話を掛け,同人(当時75
歳)に対し,「黒木という人のサラ金の連帯保証人になっている。」,「黒木が金
を払わんので,今ここに連れてきている。」,「連帯保証人に代わりに払ってもら
うために連れて来たんだ。」,「さっき1発くらわした。鼻がめげて電話に出れ
ん。」,「あんたが払わんとここから帰さんど。」,「150万円はろうたら帰
す。」,「今日の午後2時までが弁済期限だから,それを過ぎたらこの子がどうな
るか分からんでよ。」などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,その要求に
応じなければ同人の親族の生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢
を示して同人を畏怖させ,よ
って,同日午前10時29分ころ,同人をして,同市a4c4番地D3支所におい
て,同支所から東京都新宿区d4e4丁目f4番g4号株式会社E3銀行E4支店
に開設された被告人らが管理するF2名義の普通預金口座に現金150万円を振り
込み送金させてその交付を受け,もってこれを喝取した
5 同日午後1時11分ころから同日午後2時7分ころまでの間,上記C・e号室
から山梨県東山梨郡a3村b3c5番地B5方に電話を掛け,同人(当時65歳)
に対し,「お前の息子がここにいるんだけど,ナカムラマコトという男の連帯保証
人になっていて,そのナカムラマコトという男がいなくなったので息子が保証人に
なっているので借金を払え。」,「こっちが言う口座に金を振り込めばいいんだ
よ。」,「早くしないとどうなっても知らねえぞ。」などと語気鋭く申し向けて金
員の交付を要求し,その要求に応じなければ同人の親族の生命,身体等にいかなる
危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖させ,よって,同日午後2時4
5分ころ,同人をして,同郡d3町d3d5番地e5株式会社D2銀行d3支店に
おいて,同支店から大
阪市f5区g5町h5丁目i5番j5号株式会社E5銀行E6支店に開設された被
告人らが管理するF3名義の普通預金口座に現金179万5000円を振り込み送
金させてその交付を受け,もってこれを喝取した
6 同年12月3日午前10時19分ころから同日午後零時26分ころまでの間,
上記C・e号室から岡山県総社市a6b6丁目c6番地d6D6方に電話を掛け,
同人(当時73歳)及びD7(当時75歳)に対し,「あんたんとこの息子さんが
ね,人の350万円の保証人になっている。」,「その人が逃げて,なかなか払っ
てくれないから,今息子を連れてきている。」,「息子も払えないというから,殴
ってやった。」,「鼻が折れてしまったようだ。」,「親が払うのが当然だ
ろ。」,「全部で350万だ。」,「いいか,12時までには,振り込まないと息
子がどうなるか分からないぞ。」,「100万じゃ足りない。」,「あと250万
すぐに振り込め。」,「息子がどうなっても知らないぞ。」などと語気鋭く申し向
けて金員の交付を要求し,
その要求に応じなければ上記D6らの親族の生命,身体等にいかなる危害を加える
かもしれない気勢を示して同人らを畏怖させ,よって,同日午前11時45分ころ
から同日午後零時29分ころまでの間,前後2回にわたり,同人らをして,同市a
6e6丁目f6番g6号D4信用金庫本店において,同店から東京都港区h6i6
丁目j6番k6号株式会社E5銀行h6支店に開設された被告人らが管理するF4
名義の普通預金口座に現金合計350万円を振り込み送金させてその交付を受け,
もってこれを喝取した
7 同日午後1時14分ころから同日午後1時30分ころまでの間,上記C・e号
室から岡山県邑久郡a7町b7c7番地d7e7作業場に電話を掛け,D8(当時
55歳)に対し,「ワダカズマサの保証人になっとる,お宅の息子を監禁しと
る。」,「今日中に150万円払い込め。」,「今日中に支払わなかったら息子を
帰さんぞ。」,「金額を下げてやるから110万円は支払ってもらわんと困る。」
などと語気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,その要求に応じなければ同人の親
族の生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人を畏怖さ
せ,よって,同日午後1時57分ころ,同人をして,同郡a7町a7f7番地のg
7D5信用金庫a7支店において,同支店から埼玉県さいたま市h7区i7町j7
丁目k7番l7号株式会
社E3銀行h7支店に開設された被告人らが管理するF5名義の普通預金口座に現
金110万円を振り込み送金させてその交付を受け,もってこれを喝取した
8 同月4日午後零時20分ころから同日午後零時32分ころまでの間,上記C・
e号室から岡山県都窪郡a8村b8c8番地のd8B9方に電話を掛け,同人(当
時72歳)及びB10(当時69歳)に対し,「お宅の息子が,ハヤシヨシオの連
帯保証人になっている。」,「お宅の息子に返してもらうよ。」,「今息子を預か
っている。」,「金を返してもらわんと息子は帰さんよ。」,「123万円じ
ゃ。」,「金を振り込まんと帰さんよ。」,「2時までに振り込めよ。」などと語
気鋭く申し向けて金員の交付を要求し,その要求に応じなければ上記B9らの親族
の生命,身体等にいかなる危害を加えるかもしれない気勢を示して同人らを畏怖さ
せ,よって,同日午後1時52分ころ,同人らをして,同郡a8村e8f8番地D
6組合a8支店において
,同支店から東京都中央区g8h8丁目i8番j8号株式会社E7銀行E8支店に
開設された被告人らが管理するF1名義の普通預金口座に現金123万円を振り込
み送金させてその交付を受け,もってこれを喝取した
第2 A1,A2,A3,A4,A5,A6及びA7と共謀の上,同月8日午後1
時5分ころから同日午後1時15分ころまでの間,上記C・e号室から岡山県玉野
市a9b9番地のc9D11方に電話を掛け,同人(当時68歳)に対し,同人の
息子を装って,「鼻の骨を折られたんじゃ。」などと申し向けるとともに,「息子
さんが佐々木という人の連帯保証人になっとりまして,佐々木さんがいなくなっと
るので,D11さんに金をはろうてもらわんと困る。」,「和田4-8-19にい
る。」,「時間がないから,2時までに振り込んでくれ。」などと申し向けて金員
の交付を要求し,その要求に応じなければ上記D11の親族の生命,身体等にいか
なる危害を加えるかも知れない気勢を示して同人を畏怖させ,よって,同日午後2
時14分ころ,同市
d9e9丁目f9番g9号D7支店において,同支店から神奈川県横須賀市h9町
i9丁目j9番k9号E9支店に開設された被告人らが管理するF6名義の普通預
金口座に現金178万円を振り込み送金させてその交付を受け,もってこれを喝取
した
ものである。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の1,2,4ないし8,第2の各所為はいずれも刑法60条,
249条1項に,判示第1の3の所為は同法60条,250条,249条1項にそ
れぞれ該当するところ,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本
文,10条により犯情の最も重い判示第1の6の罪の刑に法定の加重をした刑期の
範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中130日
をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人がA1,A2,A3,A4,A5,A6,A7と共謀の上,高
齢者を狙って電話帳に掲載されている一般加入電話に無差別に電話をかけ,電話に
出た相手方に対し,息子が保証人になっているなどと虚偽の事実を申し向け,もし
時間内に支払えなければ息子に危害を加える旨脅迫して支払いを迫り,被告人らが
管理していた銀行口座に現金を振り込ませて喝取するという恐喝及び同未遂の事案
である。
2 被告人は,勤務していたいわゆるヤミ金業者が警察に摘発されたのを契機に,
本件グループとは別のいわゆるおれおれ詐欺の実行グループに加わっていたとこ
ろ,知り合いのA1(以下「A1」という。)に対して約束していた債務者の一覧
表を渡せなくなったことから,代わりに,自己が加わっている上記のグループが行
ったおれおれ詐欺やそれを模倣,発展させた恐喝の方法を教示して犯行を持ちか
け,その見返りとして,A1らの犯行によって得た利益の中から2割ないし3割を
受け取ることを合意し,A1ら共犯者と共謀の上,本件各犯行を敢行したものであ
って,楽して金を儲けようという利欲的動機は短絡的かつ身勝手というほかなく,
酌量の余地はない。
また,被告人は,A1らに犯行の手口を詳細に教示したばかりか,犯行発覚を
防ぐためいわゆる飛ばしの携帯電話や他人名義の銀行口座を不正に入手することや
全国各地の電話帳を用意することなどについて助言をしており,これによりA1
らは本件犯行に先立ち周到な準備を行った上,山梨県をはじめ,山口県,岡山県と
広範囲にわたり,手分けをして,連日のように無差別に電話をかけるなど,組織的
かつ計画的に犯行を行ったものである。しかも,A1らは,被告人の教示どおり
に,犯行が成功しやすいように,高齢者を狙い,我が子の身を案じる被害者の心情
につけ込み,息子役である泣き役と脅し役とに適宜役割を分担したり,交互に電話
口に出るなどして執拗に脅迫したもので,本件は,おれおれ詐欺を模倣した,より
巧妙で卑劣かつ悪質な犯
行であり,厳しい非難を免れない。
さらに,被害金額は合計1360万円余りにのぼり,財産的損害が莫大である
ことは言うに及ばず,被害者が電話を受けた際の恐怖感や心痛は計り知れず,親の
子を想う心情を踏みにじられた悔しさをも考慮すると,被害者らが被った精神的苦
痛も甚大である。被害者らの処罰感情が厳しいのも至極当然である。
  昨今おれおれ詐欺が全国で多発し,その被害額も多額に及び社会問題化してい
ることに鑑みると,本件の社会的影響は非常に大きく,市民の誰もが標的とされ得
る模倣性の高い犯行であって,一般予防の見地からも,厳罰をもって臨むべきもの
である。
3 被告人は,本件グループにおいてリーダー的存在であったA1に対し,前示の
とおり,自己が所属する別の犯行グループが蓄積している犯行の手口や周到な準備
の方法を教示して犯行を持ちかけ,本件各犯行が実行されている最中にも,狙
えそうな地域を教示する等本件各犯行に不可欠な助言を行っていたものであり,こ
れにより本件グループは短期間のうちに多くの恐喝を成功させていることから,被
告人は犯行に欠くことのできない役割を果たしていたというべきであり,また,A
1らが脅し取った金員の中から少なくとも2割くらいの「上がり」を得ることが予
定されていたのであって,本件グループの中で,A1に準ずる地位にあったものと
いうべきである。また,被告人は,前記のとおり別グループのおれおれ詐欺な
いし恐喝にも関与して
いたほか,ヤミ金融に手を染めたり,同種の前歴がある上,平成11年
11月16日には,青少年保護育成条例違反の罪により,懲役1年,3年間執行猶
予,付保護観察に処せられていることからしても,その規範意識は著しく鈍麻して
おり,再犯のおそれも否定できない。
  以上の事情に照らすと,被告人の刑責は相当に重いものといわなければならな
い。
4 他方,被告人は本件グループにおける恐喝の実行行為そのものは行っていない
こと,本件各犯行により生じた利益は一切受け取っていないこと,押収金の還付の
ほか被告人らやその家族の出捐により合計1088万8505円の被害弁償がされ
ており,本件の財産的損害の大半は被害回復が済んでいること,被告人は当公判廷
において,本件各犯行を素直に認めて反省の態度と被害者らに対する謝罪の気持ち
を示していること,被告人の母親が情状証人として出廷し被告人の今後の監督を約
束していること,被告人の年齢など,被告人にとって酌むべき事情も認められる。
5 そこで,当裁判所は,これらの被告人にとって有利,不利な一切の事情を総合
考慮し,被告人の本件各犯行への関与の程度をふまえた上で,主文のとおりの
刑を量定した次第である。
(検察官千石奈央,私選弁護人深澤勲各出席)
(求刑 懲役5年)
  平成16年8月4日
     甲府地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官   川  島  利  夫
            裁判官   柴  田     誠
            裁判官   肥  田     薫

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