弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件上告を棄却する。                    
       上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 第1 上告代理人川上英一,同山本晴太,同中久保満昭,同飯島康博の上告理由
のうち上告人A1の未払給与請求に係る部分を除く部分について
 1 原審が適法に確定した事実関係は,次のとおりである。
 (1) 上告人A2,同A3,同A1,亡D,亡E及び亡F(以下「上告人A2
ら6名の者」という。)は,いずれも我が国の統治下にあった朝鮮の出身者であり
,第2次世界大戦下の昭和17年ころ,日本軍の軍属として採用されて,タイ俘虜
収容所,マレー俘虜収容所等において俘虜の監視等に従事した。
 (2) 上告人A2ら6名の者は,第2次世界大戦終結後,俘虜の監視等に従事
中に俘虜に対する虐待等の行為があったとの嫌疑を受け,亡Dは,連合国による裁
判により死刑を宣告されてこれを執行され,上告人A2は,同じく5年の拘禁刑を
宣告されて服役し,上告人A3,同A1,亡E及び亡Fは,同嫌疑で拘禁されるな
どの損害を被った。
 (3) 上告人A4は亡Dを相続した同人の父の,上告人A5は亡Eの,上告人
A6は亡Fの各相続人である。上告人らはいずれも韓国に居住している。
 2 所論は,上告人A2ら6名の者が被った上記損害は日本国のための特別の犠
牲であるにもかかわらず,同人らが日本国籍を有しないことを理由に補償をしない
ことは,憲法13条,14条,25条,29条3項に違反するなどというものであ
る。しかしながら,上告人A2ら6名の者が被った上記損害は,第2次世界大戦及
びその敗戦によって生じた戦争犠牲ないし戦争損害に属するものであって,このよ
うな犠牲ないし損害に対する補償は,憲法の前記各条項の予想しないところという
べきであり,その補償の要否及びその在り方については,国家財政,社会経済,損
害の内容,程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたも
のと解するのが相当である。このことは,最高裁昭和40年(オ)第417号同4
3年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁の趣旨に徴して明らか
である(最高裁平成5年(オ)第1751号同9年3月13日第一小法廷判決・民
集51巻3号1233頁参照)。上告人A2ら6名の者が被った犠牲ないし損害が
深刻かつ甚大なものであったことを考慮しても,他の戦争損害と区別して,所論主
張の憲法の各条項等に基づき,その補償を認めることはできないものといわざるを
得ない。
 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の
違法はなく,論旨は採用することができない。
 第2 同上告理由のうち上告人A1の未払給与請求に係る部分について
 1 日本国との平和条約(昭和27年条約第5号)2条において,我が国は,朝
鮮の独立を承認して,朝鮮に対するすべての権利,権原及び請求権を放棄し,同4
条において,この地域に関し,日本国及びその国民に対する同地域の施政を行って
いる当局及び住民の請求権の処理等は,日本国と同当局との間の特別取極の主題と
するものとされた。そして,同特別取極の主題となるものを含めて解決するものと
して,我が国と韓国との間で,財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力
に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号,署名日は同年
6月22日。以下「協定」という。)が締結されたものであるところ,協定2条2
は,「この条の規定は,次のもの(この協定の署名の日までにそれぞれの締結国が
執った特別の措置の対象となったものを除く。)に影響を及ぼすものではない。(a
) 一方の締結国の国民で1947年8月15日からこの協定の署名の日までの間
に他方の締結国に居住したことがあるものの財産,権利及び利益 (b) 一方の締
結国及びその国民の財産,権利及び利益であって1945年8月15日以後におけ
る通常の接触の過程において取得され又は他方の締結国の管轄の下にはいったもの」
と,同条3は,「2の規定に従うことを条件として,一方の締結国及びその国民の
財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締結国の管轄の下にある
ものに対する措置並びに一方の締結国及びその国民の他方の締結国及びその国民に
対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,い
かなる主張もすることができないものとする。」と規定している。そして,日本国
政府と韓国政府との間の,財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関
する日本国と大韓民国との間の協定についての合意された議事録(昭和40年外務
省告示第256号)2(d)において,「通常の接触」には,第2次世界大戦の戦闘
状態の終結の結果として一方の国の国民で他方の国から引き揚げたものの引揚げの
時までの間の他方の国の国民との取引等,終戦後に生じた特殊な状態の下における
接触を含まないこととされた。協定を受けて制定された,財産及び請求権に関する
問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第2条の実施に
伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律(昭和40年法律第144号,
以下「措置法」という。)は,韓国又はその国民の日本国又はその国民に対する債
権であって,協定2条3の財産,権利及び利益に該当するものは,昭和40年6月
22日において原則として消滅したものとする旨規定している。
 2 上告人A1は,軍属として勤務した対価として,昭和20年8月から同21
年10月までの給与未払金及び南発券合計5万6910円の未払給与債権を有する
としているが,この債権は,協定の署名の日以前に生じた事由に基づくものであっ
て,同20年8月15日以後のものについても,終戦後に生じた特殊な状態の下に
おける接触により発生したものに含まれるというべきであるから,協定2条3の財
産,権利又は利益に該当し,措置法の適用により昭和40年6月22日をもって消
滅したものと解するのが相当である。
 3 所論は,上記未払給与債権を消滅させた措置法は,憲法14条,29条3項
,98条に違反するというものである。しかしながら,前記のとおり,我が国は,
第2次世界大戦の敗戦に伴う平和条約によって,朝鮮の独立を承認し,日本国及び
日本国民に対する朝鮮の施政を行っている当局及びその住民の請求権の処理等は,
日本国と同当局との間の特別取極の主題とするものとされたことを受けて韓国との
間で締結した協定に基づき,韓国の国民の一定の財産権等を消滅させるとする措置
法を制定したものであるところ,このような敗戦に伴う国家間の財産処理といった
事項は,本来憲法の予定していないところであり,そのための処理に関して損害が
生じたとしても,戦争損害と同様に,その損害に対する補償は憲法の前記各条項の
予想しないものといわざるを得ない。したがって,【要旨】措置法が憲法の上記各
条項に違反するということはできない。以上のこともまた,前記大法廷判決の趣旨
に徴して明らかである。
 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。原判決に所論の
違法はなく,論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 町田 顯 裁判官 深澤
武久)

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