弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴及び附帯控訴に基づき原判決主文第二ないし第五項を左のとおり変更
する。
(一) 控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し
1 金九七〇万七、九九八円及び別紙認容未払賃金一覧表の各月欄記載の各金員に
つき同欄起算日の項記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員
2 昭和五六年一月以降毎月二五日限り一ケ月金一〇万六、三二二円の割合による
金員及びこれに対する毎月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員
3 金四〇九万〇、二〇〇円及び昭和四四年度までは別紙請求未払一時金一覧表、
昭和四五年度以降は別紙認容未払一時金一覧表の各季欄記載の各金員につき同欄起
算日の項記載の日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員
4 昭和五六年一月以降毎年三月三一日限り、金一〇万六、三二二円及びこれに対
する毎年四月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員、毎年七月三一
日限り金一七万五、四三一円及びこれに対する毎年八月一日から支払済みに至るま
で年五分の割合による金員、毎年一二月二四日限り金二八万〇、六八九円及びこれ
に対する毎年一二月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員
を各支払え。
(二) 被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。
二 控訴人(附帯被控訴人)の前項を除くその余の控訴を棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審(附帯控訴費用を含む)を通じ全部控訴人(附帯被控訴
人)の負担とする。
四 この判決は第一項(一)に限り仮に執行することができる。
       事   実
 控訴人(附帯被控訴人。以下控訴人という)訴訟代理人は、本件控訴につき「原
判決を取消す。被控訴人(附帯控訴人。以下被控訴人という)の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決、附帯控訴につき
「附帯控訴を棄却する。附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。」との判決を求め
た。
 被控訴代理人は、本件控訴につき「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負
担とする。」との判決を求め、附帯控訴として請求を拡張し、「一、原判決中被控
訴人敗訴部分を取消す。二、原判決の主文第二ないし第四項を次のとおり変更す
る。(一)控訴人は被控訴人に対し金二、〇五三万三、三六三円及び別紙(一)請
求未払賃金一覧表の各月欄記載の各金員につき、同欄起算日の項記載の日より支払
済みに至るまで年五分の割合による金員を各支払え。(二)控訴人は被控訴人に対
し七九三万五、九六二円及び別紙(二)請求未払一時金一覧表の各季欄記載の各金
員につき同欄起算日の項記載の日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員
を支払え。(三)控訴人は被控訴人に対し、昭和五六年一月以降毎月二五日限り一
ケ月金二八万二、四二三円の割合による金員及びこれに対する毎月二六日より支払
済みに至るまで年五分の割合による金員を各支払え。(四)控訴人は被控訴人に対
し昭和五六年以降毎年三月三一日限り、金二六万五、一〇三円及びこれに対する毎
年四月一日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員、毎年七月三一日限り
金三九万七、六五四円及びこれに対する毎年八月一日より支払済みに至るまで年五
分の割合による金員並びに毎年一二月二四日限り金六三万六、二四七円及びこれに
対する毎年一二月二五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を各支払
え。三、第二審における訴訟費用は控訴人の負担とする。」との判決並びに右第二
項につき仮執行の宣言を求めた。
 当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は左記のほか、原判決の事実摘示の
とおりであるから、ここにこれを引用する。(但し原判決七枚目表二行目)の「四
二年」を「四三年」と、同一〇枚目裏九行目の「同四項」を「同項(四)」と、同
一三枚目表五行目、同一四枚目裏一〇行目の各「文章」を「文書」と、同二七枚目
裏一〇行目の「編した」を「偏した」と各改める。)
(控訴代理人の主張)
第一 本件控訴について
 原判決は左記のとおり事実の認定、判断を誤まつている。
一 原判決理由二、(一)(本件解雇に至る経緯)について。
(一) 同理由(1)において原判決は、被控訴人が昭和三八年三月控訴人学園
(以下単に学園ともいう)理事長で学校長でもあるP1(以下学校長ともいう)と面
談した際、同人から給与等について説明をうけたが、学園の特色、ことに宗教行事
などについては格別説明を受けなかつたと事実認定し、被控訴人が学園に就職する
以前学園の建学の精神を知らなかつたかの如き伏線としているようであるが、これ
は事実に反する。学園では毎年就職時の面接の際学校長が学園の特色や建学の精神
を説明しており、被控訴人との面接の際に全く何の説明もしなかつたということは
ありえない。また被控訴人の紹介者P2は同P3を通じて学園の特色を詳しく説明
し、また喫茶店で直接被控訴人と会い同様の説明をしている。さらに右P3は被控訴
人の義兄で学園の近くに所在する中学校に勤務し、三年生の進学指導をしていたこ
ともあつて学園の特色を知つており、被控訴人にその説明をしたものと推測され
る。また学校長は教職員も参列する入学式、始業式、終業式、卒業式等のあらゆる
機会に建学の精神を説き、また職員会議等においても学園の教育方針を説明し、教
職員の協力を求めているのである。これらの事実を総合すれば被控訴人が就職の
際、少くとも就職直後には学園の建学の精神及び教育方針を充分承知していたもの
といわざるをえない。
(二) 同理由(2)の、被控訴人の組合活動は原判決も正しく認定しているとお
り「学園には秘密裡のうちにその活動を進めた」ので学園の知る由もないことであ
るが、職員会議や希望職員会議に関する事実認定には誤りが多い。
(1) 職員会議について
 すなわち原判決は、被控訴人が職員会議においてスクールバスの件、文化祭の
件、生徒会費の件について積極的に発言したかの如く認定するが、被控訴人は職員
会議において殆んど発言していないことは学園側証人の異口同音に証言するところ
であり、スクールバスの件や生徒会費の件はそもそも職員会議で取りあげられたこ
とはない。文化祭の件は前から問題となつていたことで、被控訴人の主張に端を発
して原判決認定の如く取扱いが変更されるに至つたものではなく、これを決議した
職員会議において被控訴人は何ら発言していない。なおスクールバスの件はP4事務
局長がP5運転手とバレー部員に対し、スクールバスは同局長ないし事務局の承認を
うけて運行するよう注意しただけで、P6教諭に対し、無断使用したとして憤激した
ようなことはない。生徒会費の件はその半額が職員の研修費という名目で学園が勝
手に使用しているのではないかというものがあり、その後その半額はクラブ活動の
指導費用に充当されていることが明らかになり解決している問題で、職員会議に持
ち出されたことはない。
(2) 希望職員会議について
 希望職員会議が原判決認定の如き構成員をもつて、その認定の如き問題につき話
合い、その結果を認定の如き方法で学校長に報告していたことは原判決認定のとお
りであるが、「被控訴人が勤務するようになつてからは一度もたれただけで、その
後は開かれていなかつた」(原判決)ことはなく、少くとも毎年一回は開かれてい
た。従つて「P7からP8らに働きかけて同年三月二五日希望職員会議を開催するこ
とに成功した」との認定も誤まつており、P8はいつもと同じように希望職員会議の
開催手続をとつたのみでP7から特別の働きかけがあつたわけでもない。同会議の席
上、「みんなの会がまとめたという要望書が案として提出され、同会議一同の要望
として採択されたことは原判決認定のとおりであるが、同会議に出席した大部分の
「みんなの会」に無関係な先生は右要望書案が同会でまとめられたものとは夢にも
思わなかつたことである。けだし大部分の先生は「みんなの会」の存在すら当時知
る由もなかつたからである。また原判決は「翌二六日被控訴人らはP8、P9ととも
に学校長に右要望書を手交しに赴いた」と、いかにも被控訴人が先頭に立つて学校
長に要望書を手交したかの如く誤解されやすい事実を認定するが、被控訴人は最後
列に立つていたのみで、学校長に目立つような行動はしていない。さらに原判決は
「その際学校長は『いろいろ要望をいうなら辞めたい』と発言したが、同日の運営
委員会でも右要望書について一応の回答がなされ」というがこれまた事実誤認であ
る。学校長は右要望書に対し、「検討しておく」、「相談しておく」と答えただけ
で右認定の如き発言はしていないし、同日運営委員会が開かれた事実もない。また
同月二八日の特別職員会議は毎年新学期に備えて開催される定例のもので、右要望
書に対し回答するような場所ではなかつた。そして新年度よりガリ版、ゴム印等の
備品が一部揃えられたのは、例年新学期に当り備品の一部を整備するための一環と
して行われたもので右要望書に特別答えたものではない。
(3) かくの如く被控訴人は職員会議でも希望職員会議でも発言は少く、特に目
をひく存在でなかつたのであるが、原判決は被控訴人が学園から嫌悪されてきたも
のであることを主張するための被控訴人の虚偽の供述を措信した結果右のような事
実誤認に陥入つたものと考えられるのである。被控訴人は「みんなの会」ないし
「C分会」では中心的役割を果してきたかもしれないが、被控訴人の自認する如く
非公然の分会であつたため、学園に対しては自己が中心人物であることを感付かれ
ないよう極力自制していたものであり、学園としては本件審理においてはじめて、
被控訴人がかげで活動していたことを知つたのである。
(三) 同理由(3)において原判決の認定するところは全部が誤りではないにし
ても、一種の予断と偏見をもつて、学園がいかにも暗い雰囲気にあつたかの如く誤
解させる認定が多く承服できない。
(1) 「懲罰も(中略)しばしば」行われたというが、いかなる事実をもつて
「しばしば」というのか理解しがたい。
(2) 持物検査は常に生徒側の代表が立会つて行われており、昭和四〇年一月三
〇日の件は事実無根である。
(3) 生徒会費の一部を職員の研修費にあてた事実はない。前述のように生徒会
費の半額をクラブ活動の指導費用にあてていたのみである。
(4) 「P・T・Aから(中略)寄付を受けたりすることがあつた」とは何らか
の意図を含んだ認定である。
(5) 「学園の中枢部をその一族で占め、教員の中にも学校長の家族や教え子な
どが多く含まれており」と認定したうえ「学校長と右のような関係にない教員は毎
年四、五名ほど公立学校へ転校したり、退職したりしていく実情であつた」といか
にも学校長と右のような関係にある教員は永く勤め、そうでない教員は短期間に追
い出されていくような悪意に満ちた認定をしている。学園には女子の先生が多く、
退職するそれらの女子の先生の大部分の退職理由は結婚のためであり、学校長との
関係の有無にかかわりないことである。
(6) 「教員の労働条件は相当劣悪なものであつた」というが、大方の私立学校
は学園と大差がなく、「教員免許のない科目を担当せざるをえない教員もあり」と
か「一般には事務職員が行うべき事務まで教員が校務分掌上担当させられることも
あり」とか判示する部分もこれ亦私立学校では普通のことで、免許の点については
そのために仮免許の手続があり、校務分掌上の担当も当然のことである。原判決が
このような普通の事柄を特別に認定すること自体不可解である。
(7) 「学校長が女子の教員に水をかけた」とか、「P4事務局長らが市会議員選
挙に立候補した」との事実は本件の判断に不必要なことであるが、「昭和三八年に
P4事務局長が立候補した際、職員朝礼で同人を応援しようという話が出た」ことは
ない。
(8) 原判決は、被控訴人らは「以上のような学園の教育方針、組織、教員の労
働条件などに種々の問題点があると考え、『みんなの会』などで、積極的に討議を
進めた」とするが、「みんなの会」などの被控訴人らの討議は学園の知らないとこ
ろで秘かに行われていたことであり、本件を判断するに当り資料となることがらで
はない。
(四) 同理由(4)について
(1) 昭和四〇年一一月被控訴人が学校長から転任勧告を受けた事実はない。被
控訴人は昭和三八年四月一日から学園に勤務し、同年度は取りあげていうほどの問
題はなかつたが、昭和三九年度になつてからは与えられた仕事を忠実に実行せず、
上長からの注意を素直に聞入れることなく、こと毎に反抗的態度に出て他の教職員
とも融和しないきらいがあつたので、昭和四〇年二月学校長が被控訴人に転任方勧
告したことはある。その際被控訴人は就任早々で学園のことがよくわからず、抵抗
を感じたこともあつて迷惑をかけたが今後は心を改めて他の教職員とも融和し、学
園の教育方針に従い一生懸命努力するからこのまま学園に勤務させて貰いたい旨願
つたので、学園は被控訴人の右言を信じ、被控訴人が引続き学園に勤務することを
承認したのである。
(2) 原判決は「被控訴人が学園に対し滝高校へ転校する意思がないことを明確
に表明した後にP4事務局長が被控訴人に転校をすすめた」、「昭和四二年一月学校
長自らが被控訴人に対し転任勧告をした」、「その頃P6に対しても学園から転任勧
告がなされた」、「同年二月一六日学校長が被控訴人とP6に面談した」、「被控訴
人は被控訴人とP6に対する転任勧告の不当性を訴えるビラを有志の名で学園の教員
に配付した」などの事実を認定するが、これらはいずれも事実無根である。原判決
が右のような認定をしたのは甲第五号証の被控訴人のメモ、甲第六号証のビラと被
控訴人の供述を全面的に措信したことによるものであろうが、甲第五号証は当時作
成されたものか疑わしく、甲第六号証のビラが学園の教員に配付された事実もな
く、これ亦後日作成された疑いがあり、被控訴人の供述も措信できないものであ
る。P6は原判決認定の体育の授業の件で抗議し、P4事務局長との間で口論になつ
た際来年度はやめさせて貰うと自から申出ていたもので、学園が転任勧告をした事
実はない。
(3) P8は被控訴人に対し滝高校への転任を助言したことはあるが、原判決判示
の如き「みんなの会」などの活動の中止を示唆したことはない。ただ被控訴人に対
し改善すべき点があれば学校内の組織を通してやるべきではないかと助言しただけ
である。
(4) 原判決は「被控訴人らは生徒に対しても学園内で被控訴人とP6に対する転
任勧告という問題が持上つている旨説明した」と正しく認定しているが、これを裏
付ける原審でのP10(旧姓○○)先生の証言によると同教諭や被告人ら少数の先生
のかかる言動が生徒の署名運動、助命嘆願運動、三月七日と一六日の生徒集会へと
つながつた経過は明白で、乙第一〇号証の一、二の署名運動の書面が生徒の自発的
行為とは到底考えられない。
(五) 同理由(5)の認定のうち、三月二〇日と二四日のP11会長の発言に関す
る部分はいずれも間違いである。三月二〇日はP・T・Aの緊急常任委員会を翌日
に開くに先立つて、被控訴人に生徒の署名運動に関与していないかなどその弁解を
聞くため、短時間面談したが被控訴人は何ら確たる返答をしなかつた。その際P
11会長は原判決認定の如き発言はしていない。また二四日の常任委員会の席上には
被控訴人とP6が出席した事実はなく、ただ別室においてP11会長外二名と面談した
のであるが、席上同会長が被控訴人らに原判決認定の如き組合脱退を説得したこと
はない。
(六) 同理由(6)の認定はすべて事実無根である。学園としては分会の公然化
は寝耳に水で単一労組がいかなる組合であるか、その団交申入れに対してもどのよ
うに対応してよいか全くかわらず、学園内は生徒も教職員も騒然とした状態に陥入
つたなかに分会は矢早に三月八日付分会ニユース一号、同月一〇日付同二号を学園
内に配付し、学内外で宣伝活動を開始したため、教員、生徒に対し一層の危機感を
あおることとなつた。こうした中で学園の秩序回復のため学校長が三月一一日職員
朝礼の場で私学単一労組ができたことに触れて職員の協力を求め、また副学園長で
あるP12が女子の教員に対し学園内の混乱が一刻も早くおさまり生徒が落着いて勉
学できるよう協力を求めたのも当然のことである。また学園は職員が一致協力して
建学の精神の高揚に努める旨の誓約書の提出を求めたが、その中でいう外部の団体
とは誓約書全体の趣旨からも建学の精神を否定するような団体をさすもので、労働
組合を念頭においたものでないことは一見明白である。原判決の認定はこれらを不
当労働行為評価の基礎としたものであり、到底承服しがたい。
(七) 同理由(7)について
(1) 原判決は、草むしりや運動場の整備を雑役と評価するが、学園においては
それらは教科の一つとなつており、学校長はじめ教員、生徒も折にふれて行つてき
たことである。
(2) 被控訴人が学園の措置を人権侵害であるとして名古屋法務局一宮支局へ申
告し、学園が調査を受けたことはあるが、そのことで説示を受けた事実はない。
(3) 被控訴人の三男の健康保険の件でP13が原判決認定の如き発言をしたこと
はなく、被控訴人において学園の係に対し、扶養家族の申請の手続をとればすむこ
とである。
二 原判決理由二、(二)(学園主張の本件解雇の理由ないし事情)について
(一) 私学共済組合事務について(同理由(1))
 原判決は昭和四〇年から事務職員において右事務を処理せざるをえなくなつた被
控訴人の事務怠慢には目をつぶり、被控訴人の弁解供述を一方的に採用して判示の
ように被控訴人を庇護するもので公正な判断とは考えられない。
(二) 温交会の件(同理由(2))
 原判決は帳簿を発見して引継いだと判示するが後任のP14は被控訴人から引継を
受けていないと証言している。それに城崎温泉の旅行にあたり学校長から預かつた
現金の収支が明らかになつていないことは原判示のとおりで、ことほどさように被
控訴人は事務怠慢である。
(三) 職員会議議事録の件(同理由(3))
 原判決は被控訴人が議事録を約半年間空白にしたことを認めながら、当時このこ
とについて学園から催促や注意を受けたことはないというが、事実誤認である。被
控訴人は再三にわたる催促や注意にも拘らず実行しなかつたのである。
(四) 生徒指導要録の件(同理由(4))
 原判決は「被控訴人のほかにも少数ではあるが提出が遅れる教員もあつた」と被
控訴人を弁護しているが、四月末頃になつて提出したのは被控訴人一人で、そのた
め原判決認定と異なり次期担任の生徒指導に支障を生じ、その記載も不正確整理不
充分であつたため学園から注意を受けているのである。
(五) 学内新聞「まこと」の件(同理由(5))
 同新聞は学校長とは全く関係なく、生徒会新聞部が当時の担当P15女教諭の指導
のもとに発行したのであり、学校長の指示で執筆者の氏名を入れて記事を掲載した
との原判決の認定は、被控訴人の弁解のみを一方的に採用して全く誤まつたもので
ある。学校長の許可などと無縁であるから学園から注意を受けたことがないのも当
然である。ベトナム問題が当時すぐれて政治問題であつたことは被控訴人自身も認
めるところ、公正中立であるべき教師が生徒が読むことが当然予定される新聞に一
方に偏した政治主張を掲載するのはP14教諭一人がいやみをいつて済む問題ではな
かつた。果して右新聞記事は発行直後に大問題となり、そのため外部配付が中止さ
れた経緯があるが、原判決がこの点を説示しないのは不公平である。
(六) 呼リン紛失の件(同理由(6))
 原判決は「まもなく呼リンは発見された」と判示するがこのような証拠はない。
学園において再購入したのである。何より紛失当時責任者である被控訴人がこれを
探そうともしなかつた無責任な態度に関係者一同は驚かされたのであり、この件で
学園から注意されたか否かが問題の焦点ではない。原判決は格別な注意がなかつた
とか末梢的問題であるなどというが、被控訴人のその後の態度などからするとこの
事件は決して情状の軽いものではない。
(七) 図書貸出の件(同理由(7))
 この点に関する原判決の認定も被控訴人の弁解を並べるだけの不充分なものであ
る。生徒の範たるべき教師が、正規の貸出し手続をとらず、公の物を約一年間私物
化していたことは強く非難すべきである。
(八) 自習時間について(同理由(8))
 原判決は「自習は教育の放棄に等しく(中略)非難されなければならない」とい
いながら最後は被控訴人の弁解を入れて「生徒に課題を与えるなど工夫していたこ
と、就職指導のためや他クラスの進度を調整するための場合もあつたことなどを考
慮すると重大な怠慢とまで評価できない」という。しかし右弁解のような事実はな
く、被控訴人自身昭和四一年度になつて自習が格別多くなつたことを反省しながら
その後も改まらなかつたのであり、かかる被控訴人の行為はまさに教育の放棄に等
しく教師として不適格であるといわざるをえない。就職指導のため自習の多いクラ
スが他のクラスより進度が早いことは到底考えられず、進度調整のための自習とい
うのも肯けない。被控訴人が登校しながら自習とした時間を何をしていたかいまだ
に明らかでない。
(九) 中学校訪問の件(同理由(9))
 被控訴人は昭和四一年度生徒募集の担当校として宮田中学など四校を割当てら
れ、同年五月中訪問するように学園から命じられたのに、再三の督促を無視して、
これを実行しなかつた。原判決は「原告に非があることは明らかである」と正当に
判示する一方、そのために特に支障は生じなかつたとか、特に学園から注意を受け
ることはなかつたというが、いずれも失当である。中学訪問後の出身中学校の先生
との生活指導のための連絡打合せ、出身中学の在学生への同先生の激励などの学園
にも生徒にも必須の行事が行えず支障をきたしたほか学園の信用も失われ迷惑し
た。勿論被控訴人には再三注意を与えたが前述のように被控訴人はこれを無視した
のである。原判決は被控訴人が行く必要がないというのは中学校の先生を接待する
必要がないという意味であると解釈し、そのことと私学協会からの自粛要請を結び
つけて読めるような判示のしかたをするが、私学協会からの自粛要請は私学全体に
対してのものであり、学園が特別に行き過ぎであるとして注意されたことは一度も
ない。学園の中学校教員に対する応待はごく常識的範囲内にとどまつていて何ら問
題の余地のないものである。
(一〇) 学校長叙勲の際の募金の件(同理由(10))
 この点について原判決は被控訴人が曖昧な態度であつたため幹事が迷惑したとの
認定をしなかつたのは不当である。
(一一) パンフレツト配付とその記載内容について(同理由(11))
 この点についての原判決の認定には誤りはないが、分会ニユース八号の「生徒達
は教師をあまり信頼しておらず、その原因は学園の教育方針にある」との記載及び
分会ニユース七号の「学園の運営の様々な不明朗な点」としてあげる一〇項目の真
偽が問題であり、右分会ニユースは一見学園の建設的な意見の如く見えるがその実
は虚偽の事実を前提として学園を中傷誹謗する以外の何ものでもない。これらの点
については後の建学の精神について詳述する。
(一二) P11名義の父兄宛P・T・A文書窃取の件(同理由(12))
 原判決は、被控訴人の弁解を容れ、「(内容の)重大さから事務職員が捨てた原
紙を秘かに拾得し」たと認定するが、使用済の原紙が判読可能なわけがないから、
それを拾得する前に文書の内容を知つているとすれば、文書を盗みだしたと判示す
るのが正当である。そうだとすれば教師としてあるべからざる行為であり、不適格
者と断ぜざるをえない。
(一三) 「新任の先生方へ」のパンフレツト配付の件(同理由(13))
 この点について新任の先生方は迷惑がつており、特に原判決も認定するように机
の中に秘かに入れたことを憤慨したため被控訴人は学園から戒告処分を受けたので
ある。
(一四) 運動場の草とり等整備の件(同理由(14))
 さきにも述べたとおり運動場の草とり、小石拾いは学園においては教科の一つと
して、学校長はじめ教員、生徒も折にふれて行つてきたことで、P4事務局長が被控
訴人にこれを命じて拒否され憤慨するのは当然である。雨の日に命じたようなこと
はない。
(一五) 学校長に対する抗議の件(同理由(15))
 これによつて学校長の事務が著しく妨害され、また職員室で勤務中の教員の事務
遂行上も著しい支障をきたしたのであるが、このことを正当に判示すべきである。
その情状は重く解雇事由として充分である。
(一六) 被控訴人の遅刻、早退、欠勤の件(同理由(16))
 被控訴人は昭和四二年度遅刻二五回、早退一二回、無断外出数回、欠席五回(但
し九月一日より一〇月七日までの長期欠勤を除く)と出勤常ならず、再三注意して
も反省の色がなかつたので昭和四三年二月一九日戒告処分にしたが、同月二三日ま
でに提出すべき始末書も提出せず、再度同年三月四日までに提出するよう勧告して
もこれに応じなかつたのである。原判決は被控訴人のみ午前八時出勤を指示された
ため遅刻が多いとか早退は骨髄炎の治療のためのときもあつたとして被控訴人を庇
護するが、遅刻時間の内容を見れば当らないし、かりに被控訴人ひとり午前八時出
勤を命ぜられたとしても遅刻してよいということにはならない。遅刻、早退、欠勤
は病気等の正当な理由のある場合を除くほかやはり教育活動の放棄というべく、前
記の戒告後の被控訴人の反省の色のないところをも考えるとその情状は重いものと
いうべきである。
(一七) 昭和四二年三月一六日の生徒集会の件(同理由(17))
 同年三月七日の卒業式の後にも同様の集会があつたことは原判決の認定するとこ
ろであるが、かかる集会は学園としてかつて経験したことのない事態であり、被控
訴人の解雇問題が表面化してからの一連の動きとして生徒の署名運動と深いつなが
りがあると思われる。
(一八) アンケートの実施について
 被控訴人は昭和四一年二月頃学校長に無断で二クラス位の生徒から学校、授業、
先生に関する不平不満等についてアンケートをとつたが、これは職員服務規定に違
反している。被控訴人は右はP16教諭が中心となつてしたことであるとして責任を
他に転嫁しようとするが、現に被控訴人が学園を去つたあと被控訴人の使用してい
た机の中から生徒自身の回答が記入されたアンケート用紙(乙第八七号証の一、
二)が大量に発見されたことから、これを認めざるをえなくなつたのである。しか
もそのアンケートの内容は生徒に対し、先生が信頼できるか、できないかの二者択
一を迫る形式のもので、学園、教師を信頼して登校してくる生徒に対し不信感を抱
かせるに充分なものというべきである。なお右アンケートが生徒会及び生徒会指導
の上席P14教諭、担当P15教諭のいずれも通さず、何の相談もなく、被控訴人独自
の判断で実施された点も重大なルール違反といわなければならない。
三 建学の精神について
(一) 建学の精神は私立学校の存立の基礎をなすもので、私学の存在価値を高
め、その独自性を担保する最も重要なものとしてあらゆる教育活動の根源に存在す
る。そしてこの建学の精神を根源とする日常の教育活動を通じて私学独自の校風、
伝統が生まれる。
(二) 学園は現理事長P1が昭和二年三月「宗教的情操豊かな真の女性の育成」を
建学の精神として創設したもので、ここから「正、明、和、信」の学園校訓が生ま
れた。具体的実践目標として「きまりよく、親切、丁寧に」、「はい、すみませ
ん、ありがとう、させていただきます」とすらすらいえる人という言葉を掲げ、こ
れを日常機会あるごとに実行するよう指導してきたほか、さらに建学の精神を具体
化して教育の場で実践するための真人教育指導要項を設け、生徒に対しこれに定め
られたおよそ一〇項目の経験活動をさせることにより、建学の精神を体得させるよ
う努力してきた。
 学園の教職員はその服務規定第二条に「教職員は協力一致各自の責任を重んじ、
誠意をもつて職務に精励し、本学の建学の精神の昂揚に努めなければならない」と
規定しているように右建学の精神を遵守し、その発展昂揚に努めるべき職務上の義
務を負つているのであり、被控訴人も学園の教師として勤務する以上右の義務を負
つていることは自明の理で、建学の精神を否定するような言動をとることの許され
ないのは当然である。
(三) ところで原判決は右の建学の精神につき原判決六一枚目表五行目から同裏
七行目までのように説いて、一読した限り建学の精神について正当に評価したかの
如く思われるが、し細に検討すると甚だ不充分で納得しがたい。
 まず原判決は建学の精神はそれ自体抽象的なものであり、それが学校の運営を通
じてはじめて具体化されること、この具体化された建学の精神を否定するような行
動をとることは学校運営を阻害するものとして許されないというのであるが、右論
調によると建学の精神は学校運営を通じて「具体化」されていない限り全く意味を
持たないように解されるところに問題がある。このように解すると「具体化」され
た建学の精神を否定するような行動をとらない以上、建学の精神に反する行動とい
えどもすべて許されるという結論にならざるをえないからである。しかし建学の精
神そのものが抽象的なものである以上、学校運営において到底そのすべてを「具体
化」できるものではなく、しかも建学の精神に反したり、あるいはそれを否定する
ような言動としてはあらゆる形態が予想されるので、それが学校運営を阻害するに
至ることもまた明らかである。教員や生徒のこのような言動を正当な言論活動の範
囲内のものとして容認するのは私学の独自性と存在意義を否定することにほかなら
ない。従つて建学の精神は「具体化」されていなくても、これに反し、またはこれ
を否定するような言動は学校運営を阻害するものとして許されないと考えるべきで
ある。
 次に原判決は、「建学の精神に対する考え方や建学の精神の実践方法につき批判
を加えることは、それが虚偽の事実を前提としたり、学校の運営について建設的な
視点を失わない限り正当な言論活動の範囲に属するものとして許される」という。
そこで「建学の精神に対する考え方を批判する」というのを学園の場合を例に、そ
の建学の精神である「宗教的情操豊かな女性の育成」にあてはめて考えると、その
「考え方」を批判するとは、例えば「近代女性を育成することこそが大切であつ
て、近代女性たるためには宗教的情操というようなものは不必要である」という議
論を展開するに至るのであつて、つまるところ建学の精神そのものの批判を意味す
ることにならざるをえない。そうだとすれば、そのような批判は、虚偽の事実を前
提としない限りとか、建設的な視点を失わない限りなどという条件をつける以前に
もはや既に建学の精神そのものを否定することになるのであつて、このような議論
はこれまた私学の独自性と存在意義を否定するものとして、学外のものはいざ知ら
ず、学内の教員や生徒には到底許されないものというべきである。結局原判決が建
学の精神に対する「考え方」につき批判を加えることを肯認しようとするのはひつ
きよう私学の独自性を否定するに至るものであつて明らかに誤まつた結論である。
 次にまた原判決は建学の精神の「実践方法」につき批判が許されるというが、こ
れまた学園を例に考えると、学園には建学の精神の実践方法の一つとして「合掌」
があるところ、これを批判するというのであるから、例えば「合掌は宗教的情操豊
かな女性の育成ということと無関係であり、無意味であるから廃止すべきである」
というような議論をすることになるものであり、つまるところ「具体化」された建
学の精神に対する批判を意味するものである。学園の教員がこのような議論を持出
したとすれば学園内は大混乱に陥入ることになるのは必至である。そして原判決の
論調によれば、このような「具体化」された建学の精神を否定するような「行動」
は許されないが、それに対する「批判」は虚偽の事実を前提としたり、学校の運営
について建設的な視点を失わない限り、正当な言論活動の範囲内に属し、許される
とするものである。しかし前述のように具体化されていると否とを問わず、建学の
精神に反し、あるいはこれを否定するような「言動」は私立学校の独自性と存在意
義を否定することとなるものであつて本来的に許されないものというべきである。
そして「具体化」された建学の精神に対して批判が許される場合には、それは建学
の精神に反し、あるいはこれを否定するようなものであつてはならないから、建学
の精神を肯定したうえにおいて、その具体化すなわち実践方法に対して批判すると
いう限度で許されるものというべきである(その限度内の批判であれば学校運営を
阻害することとなつてもやむをえないところである)。従つて原判決の論調は単に
「学校の運営について建設的な視点を失わない限り」というのではなく、「建学の
精神に基づく建設的な視点に立つ批判である限り」というように改められるべきで
ある。
 以上のとおり原判決の「建学の精神」に対する考え方は皮相的であり、甚だ不充
分であつて控訴人学園としては到底納得し難い。
(四) 建学の精神、教育方針を否定する言動及び行動
 被控訴人は学園に就職する際前述(一、(一))のとおり、学園の建学の精神を
熟知しており、かつこれを昂揚すべく努めるべき義務を負つているにも拘らず公然
とこれを否定し、これを学園内外に宣伝したものであり、学園の教師として不適任
である。本件解雇の最大の理由はこの点にある。被控訴人の右行為を端的に立証す
るものとして、被控訴人が学園の内外、執務時間の内外を問わず配布した一連のビ
ラがあるが、これには学園の建学の精神、教育方針を否定し、これを攻撃誹謗する
言辞が綿々と書き連ねてある。
(1) 分会ニユース七号(甲第九号証)について
 右分会ニユースにおいて被控訴人は一〇項目にわたつて虚構の事実を指摘し、学
園が不明朗な行為をしているが如く主張しているが、それらはいずれも事実無根の
ものである。以下個々に述べる。
1 学園の教職員の賃金
 学園の教職員の賃金は私立学校の尾張部の平均的なところにあり、決して低賃金
ではない。しかるに被控訴人は何らの根拠も示さず、ひどい低賃金といい、理事長
が私腹をこやし、学園の財産を驚くべきテンポで増大させているとの全くのデマを
書いている。
2 学園の教員の授業持時間
 専任の教員で昭和四二年度週平均一八ないし一九時間であることは充分な根拠と
正確な計算に基づいていえるのに、被控訴人はこれを二三ないし二四時間とあて推
量のでたらめをいうのである。
3 生徒積立金
 学園が生徒積立金の利息をピンハネしたことはなく、修学旅行に同行する先生の
旅費は当時旅行斡旋業者が負担していて、生徒積立金によつて賄われたことはな
い。
4 生徒会費
 生徒会費の予算、決算は職員会議で決定し、了承されており、ピンハネなどの不
明朗なことは一切ない。
5 短大増設の認可基準
 学園が短大を増設するに際し、その認可基準に合格するため不正をしたことも一
切ない。図書の不足、高校の教室の流用、奥田のグランドを使用中に見せかけたな
どという事実は全部被控訴人の悪意による虚構である。文部省の蔵書検査でも無差
別抽出の図書の全てに学園の蔵書印が押されていたことは勿論で、右図書が借り物
であるなどということは全くない。
6 学園の乗用車の使用
 被控訴人は学園の乗用車を私的に使用したというが、公的使用との区別もなく、
全く根拠がない。
7 スクールバスの料金
 学園のスクールバスは当時国府宮駅と学園間を往復し、維持費の大半は学園が負
担し、生徒には路線バスの定期券運賃の半額程度を負担させていたにすぎず、高す
ぎるということはない。スクールバスの運行については毎年赤字で、学園が利益を
得たことはない。
8 小使いのおばさんの労働条件
 学園が小使いのおばさんを酷使したことはない。当時の小使いのおばさんとはP
17のことであるが同人は被控訴人が指摘する如く一日一四時間の勤務をしたことは
なく、却つて八時間にも満たないのであり、学園に勤務したことに感謝こそすれ、
不満など全くなかつたのである。
9 学校長が故意に教員に水をかけたことなど一度もない。毎朝学校長が植木に散
水する水が偶々通りかかつたP10教諭にかかつたことはあるが、これは全くの事故
である。
10 学園が二人の先生をゴマかすようにしてやめさせたことなど一度もない。被
控訴人の本件解雇は正当であり、P6教諭の退職は自からの意思によるもので、その
意思を固めてから約一年を経過して退職したのであつて、学園が同人に不当な圧力
をかけたことなどない。
(2) 分会ニユース八号(甲第一〇号証)について
 被控訴人は右分会ニユースにおいて真向から学園の建学の精神、教育方針を否定
し、これを誹謗している。すなわち「学校の教育方針が教師に対する生徒達の不信
を作つている」と題したうえ、学園の教育方針を「宗教的情操教育の名のもとに封
建的女性の育成が行われている」とか、「はい、ありがとうございます、……させ
て頂きます、どうもすみません、とどんな場合にもすらすらいえる女性になること
が女性の幸福の道だと説き、従属的な批判力のない女性、自主的にものを考えるこ
との出来ない女性を作ろうとしています。その為厳しい規則を作り、躾教育という
ことでも理不尽な処罰を加えています」と述べ、さらには「学校方針に忠実である
教師ほど生徒の信頼はうすいように思えます。」などと述べているのであつて、こ
れらが学園の建学の精神、教育方針、実践目標を正解しないのはもとよりである
が、それ以上に学園の建学の精神を真向うから否定し、これを中傷誹謗する以外の
何ものでもないのであつて学園の教員として不適格であることはあまりにも明白で
ある。原判決はこれをしても「学園の運営に対する批判を通して学園における教育
の質の向上を願望する意図」のものというのであるが、到底承服しうるものではな
い。
(3) その他の言動について
 被控訴人は学園の建学の精神を具体化した教育実践活動として学園の定めたきま
りや慣習、様々の行事について、たとえば登下校時の校門出入の際の「礼」をしな
かつたり、生徒との昼食の時間に遅れて食事の際に唱和するべき言葉を唱えなかつ
たり、また朝礼前の読経を実践しないなど、具体的事実を挙げれば枚挙にいとまの
ないほど建学の精神にそわない言動があるが、学園が本件解雇の理由ないし事情と
した各事実もすべてその具体的なあらわれである。
四 P・T・Aの要望について
 本件解雇の理由にはP・T・Aの被控訴人に子弟の教育をさせて貰いたくないと
の要望があつたことも挙げられる。父兄は学園とその教師を信頼して子弟の教育を
委ねるのであるから、教師に対する信頼は最も重要であり、この信頼を得られぬ教
師は失格であるといわざるをえない。しかしてP・T・Aがこのような要望をなす
に至つたのは、昭和四二年三月一九日被控訴人らの解雇問題が新聞に報じられ、生
徒の署名運動が開始されていることを知つたP・T・Aが被控訴人と面談し、或い
は常任委員会を開いて事情を聴取したり、父兄からの手紙(乙第八号証)、生徒の
書いた文書(乙第一〇号証の一、二)などの資料をもとに真剣に討論した結果、被
控訴人が右文書の記載を教示し署名運動を扇動したものとの結論に達したことによ
るものである。原判決はP・T・Aの要望の「理由ないし動機となつているのは原
告の組合活動、思想傾向にあつたというほかはなく」といい、また後述のとおり被
控訴人が右署名運動を扇動したことは間違いないのに「原告が扇動したとのことは
単なる疑いの域を出ず」と判断し、いずれも甚だしい事実誤認を犯している。P・
T・Aの討論の主題は専ら被控訴人が生徒を扇動し署名運動をやらせたということ
で、右認定の如く、被控訴人の組合活動、思想傾向を理由ないし動機にしたもので
は断じてない。右P・T・Aの要望を本件解雇の理由とすることは何ら不当なもの
ではない。
五 パンフレツトの無断配布
 学園の教職員服務規定は一宮労働基準監督署に正式に受理され、職員に周知され
た昭和四二年三月から効力を生ずることは原判決も正当に判示するところである
が、被控訴人の分会ニユースなどの配布行為が同規定三条一〇号、三三条六号に違
反することは明らかである。被控訴人の右配布行為により学園内が騒然とし、配布
の態様としても勤務時間内に、学園内外に配布したこと、再三の注意を無視して敢
行されたことは情状が重く、生徒と学園の信頼関係を破壊し、学園の業務を阻害し
たものとして充分解雇理由たりうる。仮りに右配布行為が労働組合活動であつたと
しても、一般に事業場は当然に使用者の管理に属するし、就業時間内は労働者は労
務に服する義務を負うものであるから、労働者が事業場内で労働組合活動をするに
は使用者の承認を要するというべきところ、被控訴人の右配布行為は学園の教育の
場としての施設管理権を侵す違法なもので、到底原判決認定の如き正当な組合活動
とはいえない。
六 解雇反対署名運動の扇動
 昭和四二年三月七日の卒業式当日と同月一六日午後学園の生徒約一〇〇名が被控
訴人らの不当解雇撤回を要求するためと思われる集会を開いていた事実があるとこ
ろ、これらの生徒の動きが署名運動へと発展していつた。この経過について当時み
んなの会の会員で単一労組の稲沢女子分会員でもあつたP10は、生徒が署名運動を
しようという雰囲気があつたことを知つていること、授業中に生徒にそういうこと
(被控訴人の転任勧告のこと)を話したすぐあとに子供達は寄つていろいろ話をし
ていたこと、被控訴人も卒業式の日に解雇問題について話したことなど原審証人と
して興味ある証言をしているが、前記卒業式当日の生徒集会はこれと符合してい
る。また被控訴人提出のみんなの会の当時の打合せ記録という甲第七四号証の一、
二によつても、当時みんなの会の教師グループが署名運動を企図していたことが窺
われる。そして前出乙第一〇号証の二の生徒作成文書の裏面記載の言葉は明らかに
生徒自身のものではなく、さらに同号証の一、二は筆跡は異なるがその内容は同一
のものであることからして生徒達でない誰かが生徒達の意思を統一して運動を指揮
していたことが推認できるがその中心は被控訴人らである。その証拠に当時生徒達
の署名運動を進めていたリーダーのP18(旧姓○○)はP6教諭の下宿にいき、被控
訴人同席のうえで署名運動の話を聞いたと明確に述べている(乙第一〇一号証)
し、他にP19(旧姓○○)、P20(旧姓○)も同趣旨のことを明言している(乙第
五六号証の一ないし三、同第一〇四号証、第一〇五号証)。さらに被控訴人自身の
提出した書証のうちにも「生徒達の口から色々聞いておられることと思います」
(甲第五二号証「みなさんへのお願い」欄)、「生徒達に組合というものを部分的
に説明し」、「生徒と結びつくことは必要なことだと考えています」(甲第五五号
証二枚目)、「生徒たちもこれに(被控訴人らの活動)に呼応するかのように解雇
の真相調査活動、署名、生徒集会など」の運動を行つた(甲第四六号証)、「私達
が学校内でとつた行動にも問題があつたかもしれません」(甲第五三号証)など被
控訴人が生徒達に積極的に働きかけていつた経過が明らかに読みとれるのである。
 学園は教育の場であり、生徒はすべて理性的にも感情的にも不安定な時期にある
女子であるのに、これらの生徒に右の如き教唆、扇動行為をなしたことは、その心
情に刺激的な動揺を与え、教育に対する不信、不安を醸すことになり、これによつ
て学園の教育機能を著しく阻害したものといわざるをえない。右を理由とする本件
解雇は正当なものというべきである。
七 不当労働行為に該当する事由の不存在
(一) 学園が被控訴人の組合加入を知つたのは組合公然化の前日である昭和四二
年三月七日であり、原判決が「学園が稲沢女子分会公然化以前からの原告の組合活
動を察知していたことを前認定の事実から認めることは困難である」とするのは正
当であるが、「P8は昭和四一年三月に『みんなの会』に呼ばれたことがあり、被告
学園の転任勧告が続いていた頃学校外でのサークルをやめるよう原告に要請してい
たのであり、被告学園も同人から原告のサークル活動を聞かされていたと推認する
に難くない。」と認定するのは以下のとおり誤まつている。すなわち前にも述べた
要望書(甲第一一号証)の原案は「みんなの会」のメンバーの一部によつてまとめ
られたもののようであるが、昭和四一年三月二〇日すぎ頃の夜P6教諭の下宿で開か
れていた若手教員の集まりに呼ばれたP8は、その集まりが「みんなの会」の集まり
であることを全く知らされていなかつたし、またそれを知る由もなかつたのであ
る。「みんなの会」は学園に知られたくない雰囲気のもとに開かれていたしP8が教
務主任の地位にあつた以上、同人にその存在を知られないようにしたであろうこと
は容易に推認される。前述のようにP8は同夜若手教員の集まりに出席し、職員会議
等の学校の組織を活用して話合うべきことを教員の先輩としての立場から説いたの
であつて、サークル活動をやめるように被控訴人に要請した事実もない。
 かくして学園は被控訴人の組合加入の事実を昭和四二年三月七日まで全く知らな
かつたのであるから、それ以前の被控訴人の言動は仮にそれが組合活動としてなさ
れているものであつても、これについて不当労働行為の責任の生ずる余地はないも
のというべきである。
 なお原判決は被控訴人の分会公然化前の言動として(1)職員会議における発
言、(2)希望職員会議を開催し、要望書を提出したことに関し、被控訴人が積極
的に参加したこと、(3)学校新聞「まこと」に掲載されたベトナム問題に関する
記事、(4)中学校訪問に関する非協力的態度等をとりあげて、これが学園の感情
を害することになつたであろうと推認し、これらの事柄を通じて学園が、被控訴人
を好ましくないものと考えて、学園より排除しようとし、滝高校転任の話に乗じて
被控訴人を放逐するため執拗に転任勧告を続けたものと判示するが、前記各事由に
ついては既にそれぞれの箇所で詳述した(一、(二)、(2)、二、(五)、
(九)、)とおりであり、右判示は到底承服できない。学園としては詳細に本件解
雇事由ないし事情を主張、立証しているとおり被控訴人の言動が学園の建学の精神
を否定し、学校運営を阻害するものとして把えているのであつて、滝高校の転任勧
告の問題も単に口実を設けて行なつた排除行為として評価さるべきものではない。
(二) 分会公然化後の経緯につき、原判決は学園が単一労組の団交申入れに対し
てとつた態度に問題があるように判示するが、この点は既に、一、(六)において
詳述したとおりであつて学校長、P12、学園のとつた措置はいずれも学園の混乱を
収拾し、秩序を回復するための措置であつたにすぎず、組合嫌忌の態度と考えるの
は早計である。さらに原判決はP・T・A常任委員会におけるP4事務局長の説明が
被控訴人の組合活動について触れておるというが、同局長としてはP・T・A常任
委員会に対し署名運動の記事が掲載されるに至るまでの事実経過を説明するに当り
被控訴人の配布した分会ニユースを回覧に供したにすぎず、ことさら被控訴人の組
合活動等について発言した事実はない。またP・T・Aの要望とその経過について
は既に一、(五)、四において述べたとおりであつて、要するに原判決の如くP・
T・Aが被控訴人を教壇に立たせてほしくないとする理由は被控訴人の組合活動を
念頭に置いたというべきものではなく、生徒の署名運動に対処し、これを扇動した
のが被控訴人であるとの判断のもとに要望を採択して学園に申入れたのにすぎず、
被控訴人の組合活動とは無関係である。学園の考えとP・T・Aの要望とは結論的
に一致したため、特別職員会議(編成会議)の議を経て、被控訴人は昭和四二年度
から学級担任、教科担任、校務分掌を外されたのである。右会議には被控訴人も出
席していたのであり、学園がP・T・Aの要望に藉口し、被控訴人の組合加入、組
合活動を嫌悪してかかる措置に及んだ(原判示)ものではなく、独自の立場から、
被控訴人の言動が学園の建学の精神を否定し、学校運営を阻害するものと判断した
からである。
(三) このことに関連して見逃がせないのは当時の被控訴人あるいは分会の認識
を示す、被控訴人の作成した昭和四二年四月二一日付「新任の先生方へ」というビ
ラ(甲第三三号証)の記載である。同ビラは同年三月八日に分会が公然化され、学
園が被控訴人をやめさせようとしている真の理由を新任の先生方に訴えようとした
ものであるにもかかわらず、そこには「学校側が私をやめさせようとしたほんとう
の理由は私達が話し合いの為にみんなの会というサークルを作り、設備の悪い点、
時間数が多すぎる点、教職員に対して人権無視の取扱いをしている点などについて
検討したり、又教育のあり方について話し合いや学習をしたり、教職員の親睦を計
る為に忘年会などを行つて来たことが学校の気にさわり、しかも大変おそれていた
からです」との記載があるのみで、原判決が判示するような、組合加入組合活動を
したことがやめさせられる真の理由であるとの指摘はどこにも見当らない。被控訴
人又は分会としては被控訴人らの行つたサークル活動こそが解雇の真の理由である
との認識に立つていたことがあまりにも明白である。
(四) 原判決は学園が昭和四二年四月以降被控訴人に対してとつた措置を不利益
取扱いであると判示するが、これまた一方的な見方といわざるをえない。学園は新
学期を迎えてようやく落着きを取戻し、当時既に被控訴人には学園を辞めて貰いた
い希望を持つていたので、同年四月三日付内容証明郵便をもつて被控訴人に対し正
式に退職を勧告した(乙第一九号証)。右退職勧告の理由となつたのは本件解雇の
理由とほぼ同一であり右勧告当時既に解雇の主たる理由が存在していたのである。
被控訴人は四月以降学級担任等もなくなつたため第二職員室に移つていたが、退職
勧告にも応じないばかりか、第一職員室に出入りし、新任教員の机の中に秘かにパ
ンフレツトを配付したり、学校長の席に来て、なぜ授業を持たせない、早く団交を
やれなどと強硬に迫り、時には大声をあげ、抗議をくり返し、学校長の職務を妨害
した。そのため学園は対策上やむをえず、被控訴人の出勤簿を廊下に出すに至つた
ものである。また学園の服務規定によれば退勤時刻は午後四時三〇分と定められて
いるが、他の教員は通常退勤時刻を大巾にすぎて帰つているのに、被控訴人のみは
退勤時刻になるとさつさと帰るため、学園としても被控訴人の勤務態度がそのよう
であるならば出勤時刻も服務規定どおり午前八時とするよう命じたものである。さ
らに原判決は草むしり等の雑役は教育活動と無関係である旨判示するが、前述のと
おり学園においては草むしりをはじめとする運動場の整備等の勤労は建学の精神の
実践活動の一つとして教員も生徒も熱心にやつているものである。
八 結論
 以上述べたとおり本件解雇はその解雇事由が存在し且つ不当労働行為に該当する
事由もなく、いずれの点よりするも有効、適法であるのに、原判決は事実を誤認
し、判断を誤まつたものであるから、これを取消し、被控訴人の請求を棄却すべき
である。
第二 附帯控訴について
 被控訴人の附帯控訴による請求拡張の理由に対して次のとおり答弁する。
一 右理由一、月給の主張について。
 同1の事実は認める(但し昭和四一年度に支給した基本給は正確には金二万五、
〇〇〇円であり、その他に担任手当二、〇〇〇円、諸手当一、〇〇〇円及び通勤手
当一率一、六〇〇円で以上合計で二万九、六〇〇円となるのである)。
 同2の事実のうち被控訴人の原審準備書面に控訴人引用の記載があること、控訴
人が被控訴人に対し被控訴人主張のとおりの賃金額(被控訴人の別紙(一)請求未
払賃金一覧表の①、②記載の控除金額)を昭和四三年三月までに支払済みであるこ
とは認めるが、その余は否認する。
 被控訴人は昭和四二年四月分からの賃金の支払請求をするが、控訴人は本件解雇
時の昭和四三年三月二二日までは被控訴人に対しそれぞれ毎月所定時期までに賃金
を支払済みであり、被控訴人も異議なく受領してきたものであり、それ以上の請求
権は存しない。
 また被控訴人の根拠とする人事院統計は何ら具体的な賃金請求権を発生させるに
由なきものであり、控訴人が右統計に準拠して被控訴人に対し、昇給、一時金支給
の意思表示をした事実はなく、被控訴人の主張は独断以外の何ものでもない。
 同3の事実は全部否認する(但し引用のP4証人の証言は「新任の先生は公立の初
任給に準じて採用」していたこと、「新任以外につきましても、だいたい私立学校
の尾張部の平均的なところにあつた」旨述べている限度でのみ認める)。
 なお昭和四三年三月当時控訴人には賃金規定が存在している。
 控訴人が被控訴人に対し定時の昇給を約したことは全くないし、現実にも毎年
二、〇〇〇円の昇給をしていない。
二 右理由二、一時金の主張について。
 同1の事実は否認する。
 控訴人は一時金名目で金員を支給していないし、将来にわたり一時金を支払う旨
の意思表示をしたこともない。尤も給与以外に控訴人が被控訴人に賞与として毎年
七月下旬及び一二月下旬に支払つた金員はあるが、これは被控訴人主張の基本給に
対する掛け率で算定されるものではない。
 また昭和四一年度までに、年度末に被控訴人主張のごとき一時金を支払つたこと
はなく、それ以後の年度末賞与は控訴人の負担と計算によるものではなくP・T・
Aの負担と計算において支払われたものである。
 同2の事実は否認する。
 被控訴人主張の人事院統計から具体的な金額の賞与請求権が発生するに由ないこ
とは前記賃金の場合と同一である。
 同3の事実は否認する。
 賞与等の算出については単に年齢により決定されるべきものではなく、学歴、勤
続年数、役職勤務態度等の諸要素を考慮して具体的に決定されるものである。
三 右理由三、学園の賃金支払義務について。
 同項の事実は全部否認する。
 同1につき、控訴人は昭和四二年度において被控訴人に対し、何らの不利益取扱
をしたことはなく、昭和四三年三月二二日なした本件解雇も何ら不当労働行為に該
当するものでないから、同日以降被控訴人が未払賃金及び一時金請求権を取得する
いわれはない。
 同2につき、将来の請求は現に具体的賃金請求権を発生させるべき事実関係が成
立しており、且つ債務者が将来にわたり適時に履行しないことが推知される場合に
訴えの利益があるとされるところ、被控訴人は控訴人と雇傭関係があつた当時にお
いても欠勤が多く、到底将来にわたつて適時の労務提供を期待できない状態にある
から、労務提供と少くとも同時履行の関係にたつ賃金支払債務について将来の給付
を求めうる法律関係にはないというべきである。
四 よつて右理由四、結論の本件各賃金請求を争う。
五 控訴人の主張
(一) 賃金、一時金請求権の不存在
 控訴人が被控訴人に対し本件解雇時までの賃金及び昭和四一年一二月末迄の賞与
をいずれも支払済みであることは前述のとおりである。そして昭和四三年三月二二
日になされた本件解雇は何ら違法、無効のものでなく、右同日以降被控訴人は控訴
人の従業員たる地位を失つたものであるから、被控訴人が控訴人に対し右同日以降
賃金、一時金の請求権を取得することはありえない。よつて被控訴人の主張は失当
である。
(二) 仮定的主張
 仮りに被控訴人が控訴人の従業員たる地位を有するとしても、次に述べるとお
り、被控訴人はその主張にかかるような賃金及び一時金請求権を有することはな
い。
1 昇給額、賞与額の未確定
 賃金の昇給額或いは一時金の額は雇傭契約の内容をなすものであるから、これが
確定するためには当然に使用者と従業員との合意ないし、明示又は黙示の使用者の
意思表示が必要である。ところで控訴人は被控訴人に対し、同人主張のごとき昇給
額及び一時金各支給の意思表示をなしたことがないのであるから被控訴人主張の具
体的請求権が発生する由もないのである。
 被控訴人は昇給、一時金の根拠として人事院統計を引用するが、控訴人が被控訴
人に対し、右統計に基づき昇給、一時金支給を意思表示したことなど全くないか
ら、被控訴人の主張は失当である。
 被控訴人は基本給のほか通勤手当、担任手当をも請求しているが、通勤手当は現
実に労務提供のため学園に通勤した者に対してのみ支給されるものであるところ、
被控訴人は本件解雇以後学園に通勤していないから通勤手当を請求できる筋合いで
なく、また担任手当は現実に学級を担任した者に対してのみ支給されるべきもので
あるところ、被控訴人の請求の起算日である昭和四二年四月以降被控訴人は学級担
任を持つていないのであるから担任手当を請求できる筋合でもない。
 かくして被控訴人が控訴人に請求しうるとしてもその金額は被控訴人が昭和四三
年三月まで現実に受取つていた基本給金二万五、五〇〇円のみである(被控訴人は
担任手当を基本給に入れて算定しているが誤りである)。
2 消滅時効
 賃金、一時金はその履行期日から二年の経過によつて消滅時効にかかるから、附
帯控訴による請求拡張分のうち、被控訴人が本件附帯控訴を提起した日である昭和
五六年一月二八日の二年前である昭和五四年一月二七日以前の本件賃金、一時金の
請求権はすべて時効によつて消滅している。よつて控訴人は昭和五六年二月一七日
の当審第二八回口頭弁論期日において陳述した同日付準備書面をもつて右消滅時効
を援用する。
 被控訴人の附帯控訴による拡張請求が、仮りに債務不履行又は不法行為による損
害賠償を請求原因としていると解しても、債務不履行による損害賠償請求権の消滅
時効期間は本来の請求権と同一に定まると解されているので賃金請求権の時効消滅
の場合と同様であり、控訴人は前記準備書面によりこの消滅時効を援用する。また
不法行為を原因としているとすればその時効期間は三年で、本件附帯控訴は提起の
日である昭和五六年一月二八日の三年前である昭和五三年一月二七日以前の請求拡
張分たる本件賃金、一時金の請求権はすべて時効によつて消滅しているから、控訴
人は前記準備書面によつて右消滅時効を援用する。
 よつて被控訴人の昭和五四年一月二七日又は昭和五三年一月二七日以前の請求拡
張分たる本件給付請求権はすべて時効消滅し、控訴人に支払義務はない。
3 被控訴人の請求債権から控除される金額
 被控訴人は原判決の仮執行宣言に基づき、昭和五一年五月三一日名古屋地方裁判
所一宮支部において債権差押並びに転付命令を得(同裁判所昭和五一年(ル)第二
六号、同年(ヲ)第三九号)、控訴人名義の預金口座から金六三三万一、五八八円
也の弁済を受けたから右金額は被控訴人の請求から当然控除されるべきである。す
なわち原判決の主文第二項及び第三項については全額、第四項については昭和五一
年五月末日までの分は既に支払済みであるので、仮りに控訴人に支払義務があると
しても、賃金、賞与等について支払うべき日は同年六月一日以降となるのである。
(被控訴代理人の主張)
第一 本件控訴について
 控訴人学園の当審における主張はすべて争う。被控訴人(以下単にP21ともい
う)に対する本件解雇は労組法七条一号に該当する不当労働行為であり無効であ
る。これを認めた原判決の認定、判断は正当であり、控訴人主張の如き事実誤認や
判断の誤りは存しない。ただし、原判決理由二(二)(3)認定の職員会議議事録
を空白にしたのは、その直前、直後の筆跡がP16教諭のものであるから、同教諭の
責任であつて被控訴人の責任ではない。また、同理由(4)の生徒指導要録、生徒
健康診断票の提出期限は毎年三月三一日であり、これを毎年三月二五日とする認定
は誤りである。
一 学園がP21を本件解雇した経緯
(一) 学園がP21を解雇したのは、同人の組合加入、組合活動そのものを嫌悪し
た学園の反組合的意図よりなされたものであり、学園が本件解雇事由として主張す
る事実は、解雇後の口実にすぎず解雇事由に該当しないことは明らかである。
(1) 昭和四二年三月八日愛知私学単一労働組合(以下単一労組という)稲沢女
子分会としてP21及びP6が学園において、公然化するまでのP21の組合等の活動経
過は左の通りである。
 P21は学園に就職した当時より私学における教職員の待遇改善の必要を感じその
ために労働組合が必要であると考えていた。そこで右単一労組が準備の段階である
昭和三八年一〇月二日愛知県私立学校教職員組合協議会に積極的に個人加入し、昭
和三九年一一月一五日単一労組として結成後、昭和四一年、四二年と単一労組本部
執行委員に選出されるような積極的な組合運動の活動家であつた。
 P21は学園内においても、職員に右単一労組への加入を勧誘する活動をし、昭和
三八年にはP22、P23両名の加入をえて、学園に右単一労組C分会の発足に成功し
た。
 同人等は学園側の組合活動に対する反感を考え学園には秘密のうちに活動をなし
て来た。翌三九年三月P21を除く前記二名が退職したが、その後P24、P6、P25な
どの加入を得て昭和四〇年六月に再度分会を確立することが出来た。
(2) P21は右組織の継続的な確立を図るため、同人を中心に分会員以外にも参
加者を得て、学園に察知されないよう参加者の下宿で、学園内における生徒の教
育、生活指導の向上を目指して学習、研究、討議をなし、その成果を昭和四一年よ
り「みんなの会」の名称で機関紙として発行しその紙上に具体的に学校組織、学校
経営、学習内容、生徒に対するアンケート結果の分析等をして発表し(甲第二四号
証)、更に職場新聞「いね」(甲第四号証)も発行するなどの活動を積重ねた。
(3) P21は右のような教職員相互の活動を続ける一方、この活動の中で討議さ
れた職員の待遇改善の件、学校備品設備等に関し、昭和四一年三月二五日希望職員
会議一同による要望書(甲第一一号証)として学校側に提出するように働きかけ翌
二六日には学校側との交渉に参加して要望事項の実現のため活動した。
 右交渉の結果、備品を充実する点など一部の改善はなされたが、職員の待遇改善
はなされず、学校長は逆にかかる要望を求めるならば校長をやめたいなどと後向の
態度をとる有様であつた。
 P21は右の活動のかたわらこれらの内容をガリ版印刷にして職員に衆知せしめる
こともした(甲第一二号証)。
(4) かかるP21の学園内における教育面、職員待遇改善面における活動は、学
校側においても認識されていた。
 そして校長、事務局長等主要ポストを一族で占めているという同族経営形態をと
り、近代的労使関係、近代的学校運営に関して消極的な学校側にとつては、それを
改善していこうとするP21はなにかと好ましくない人物であつた。
(二) P21が前記のような活動をなすに至つた背景として、学園の職員待遇の悪
条件や生徒の教育指導面についての諸々の不満があり、それを学園側が改善する姿
勢に欠けている点に問題が存した。
(1) 昭和三九年当時学校長は生徒の質を問題にせず経営基盤の確立のため全部
を受け入れる方針をとつていたため(乙第三七号証八丁表裏P26、P8発言)必然的
に生徒の質の低下を来し、補導される生徒も出て昭和四〇年一月二九日の職員会議
でこれが問題となり(乙第三七号証六丁裏、八丁表、一〇丁裏、一一丁乃至一三
丁)退学、停学処分がしばしば出されるようになつた。
(2) 学園側は昭和四〇年一月三〇日生徒の人権を無視し抜打的に生徒の立会な
しに持物検査を実施した。それがため二年生生徒の一部がこれに反撥抗議し集団署
名、学校を集団欠席し同盟休校にまで発展して中日新聞にも報道された。ちなみに
これがため二月三日に臨時職員会議まで開かれ、右の行動をとつた一部生徒に対す
る停学処分すら行われた(乙第三七号証一一丁裏乃至一四丁表)。
(3) 又学園の教職員、事務職員が生徒数に比較して少なく「教員の労働条件が
劣悪であり、それが具体的に先生の授業持時間に表われ、公立では一週の各先生の
授業時間が一八時間であるのに、学園においてはP4事務局長は二二時間以上持つよ
う提案した。かかる学園側の無理な加重な勤務体制が、先生の補導時間の不足、そ
れによる前記のような補導問題の発生、実験助手の不足による実験不能、授業内容
の低下、生活指導やホームルーム、クラブ活動の不活発を招いた。学園は更に教科
に関し免許を持たないP21に仮免許をすら取得させることなく、法律上禁止されて
いる無資格のまま授業をさせて教職員の不足を補う手段すらとつていた。かかる状
態のため教職員の間で職員会議では教育問題に取組むうえで問題とされるべきは環
境職場の整備改善であるとの認識が深まりつつあり、従前陰で不平不満を言つてい
たのを右の職員会議で活発に堂々と意見を述べるべきであるという声が出て来た
(乙第三七号証七丁裏乃至九丁表)。
(三) 控訴人側はかかる事実を認定した原審判決を悪意に満ちた事実誤認である
旨非難するが、前記の通り控訴人提出の証拠によつてすら原審の通りの事実認定は
出来るのであり、控訴人の非難は全く理由がなく失当である。
 そして右諸事実を総合すればP21のみならず本件訴訟において学園側の証人とな
つたP8、P9等においても昭和四〇年当時、学園における教員の劣悪な労働条件に
ついて、学園側に改善を求めていたのであつてかかる事実よりみても学園内に如何
に労働、教育の各面における改善の必要性が山積していたか明らかである。
二 P21には学園の主張するような解雇事由は全く存しない。
(一) 昭和四〇年一一月学校長よりP21になされた転任勧告は実質は解雇予告で
ある。
(1) 右勧告当時P21は前記の如く学園内において積極的な活動をなし原判決が
認定した如く同僚のP6のスクールバス使用の件、文化祭期間中の女子教員、生徒の
宿直廃止、生徒会費の使途の明確化、学園側に対する希望職員会議開催の成功等の
行動をしていた。
(2) 学園側はP21のかかる行動を心よく思わず、なんとか学園より同人を排除
しようと考え同年一一月末頃「学校と考え方が合わない」との抽象的理由により退
職勧告をするに至つたのが真相である。学園側は右勧告の事実は認め、(但しその
時期を昭和四〇年二月というが、これは同年の一一月が正しい)その理由としてP
21が仕事に忠実でないこと、上司に対する反抗的な態度、他の職員と融和しないこ
と等を挙げるが、同人は前記学園内における活動並びに人望からみてかかる事実は
全くなかつた。のみならず、学園側の本訴訟になつてからの主張をみるならば仮に
かかる事実が存するならば解雇又は退職を求めているはずであるのにかかる話は一
度もなかつた。また後記滝高校への転任問題が持上つた際僧侶である学校長がその
主張のような事由が存するような人物を他校に転任させることは、全くそれを受け
入れる学校に迷惑をかけることになるのにそれを承知でするということになり、正
に無責任極りない話である。常識的にみてもそんなことをすることはあり得ない。
(3) 右の転校勧告がP21の立場を考えてなされたものではなく、又学園側の主
張するような事由によるものでもなく、P21の待遇教育改善等を求める行動が学園
側にとつて都合が悪いからに他ならないことは学校長の二男P13先生の「経営上即
ち学校管理上困るので、転校してもらいたい」旨の発言(甲第六号証経過第三項)
がその事実を如実に物語つている。
(4) しかして右退職勧告は同年一二月の希望職員会議や翌年一月から開始され
た「みんなの会」の活動を通じて教職員間に問題となり、学園は昭和四一年二月一
日右退職勧告を撤回せざるをえなかつた。
(二) 学園のP21に対する昭和四二年三月末日を期限とする解雇予告は、同人の
学園内における教職員の待遇及び生徒の教育面の改善のための積極的発言やそのた
めの活動、単一労組稲沢分会結成の公然化を嫌悪し同人を排除する意図をもつてな
されたものである。
(1) 学園側は前記の通り分会公然化前既に同人を排除しようとして一旦なした
退職勧告を撤回せざるをえなかつたのであるが、たまたま昭和四一年四月二〇日私
立高等学校校長会の席上滝学園の校長よりP21を譲つてもらいたい旨の申出を受け
たのを幸いにこれを口実として、同年一一月頃より再びP21に対し、同人が転校す
る意思もなく従つてそのような意思を一度も表明したことがないのにこれを無視
し、執ように転校をせまり昭和四二年に入るとP21の同年度の後任は決めてあり、
この考えは変更するつもりはない旨意思表明するまでに至つた。
 学園はまたP21と同時に単一労組稲沢分会員を名乗るP6に対しても同人が公立高
校に移りたい希望があることを口実に執ように転校をせまつていた。
 学園の右P21、P6に対する転校要求以外に他の学園教員に対しそのような要求を
したことはいまだかつて一度もない。
 かかる学園の態度をみてもその意図は組合活動をするP21、P6の排除にあつたこ
とは明白である。
(2) 更に学園側の労働組合活動排除の意図は左の各事実によつても裏付けられ
る。
 まず単一労組稲沢分会が公然化した直後の三月一〇日学校長は、職員朝礼の場で
組合活動反対の協力を職員に求め、同校長の妻P12は女子職員を集め同様の説得を
した上全職員に右協力の証として「私は協力一致、自己の責任を重じ、誠意をもつ
て職務に精励し、学園の建学の精神の高揚に努め、理事長、学校長の教育方針を遵
守し、外部の団体に無断で加入しないことを誓います」という労働組合に入らない
ための誓約書の提出を求めた(甲第一四号証)。
 右の一事をとつてみても学園の態度は憲法上の労働者の団結権を侵害する重大な
行為であることは明らかである。
 更に学園のP・T・A常任委員会は、四月一九日中日新聞にP21、P6の解雇、生
徒の署名運動が報道されるや、学園側の事情のみを聴取しP21、P6に事実を確認す
ることなく右生徒の解任反対署名がP21等の扇動によるものであると誤認し、P・
T・A会長P11をして学園の意図を体し、組合をやめれば学園との解雇の問題を巧
く解決してやる旨の組合脱退の説得さえなした。
(3) P21が右の組合脱退の要求に応じないとみるや学園は、P21にそれ迄免許
を持たない教科の授業迄させて来たのにかかわらず、又同人の授業内容、方法、生
徒指導等に欠陥がなく、特段、クラス担任、教科担任、校務分掌等の職務をはずす
必要事由もないのに教員本来の生徒に教えるという職務を全く排除する行為に出た
上に、従前の職員室から常勤の教員のいない部屋に同人を隔離し、草むしりや運動
場の整備という雑役を主たる職務として命じ、P21の出勤簿のみを廊下に出した
り、学園運動会参加拒否、P21の三男の扶養家族手続申請拒否等の差別待遇を公然
と他の職員に対するみせしめのためになした。
 学園は右雑役が学校長はじめ教員生徒も時々行つている旨主張しているが、P
21に対するような教員本来の職務をはずし雑役が主な労務であるような命じ方はそ
れ迄一度もなされたことはなく、誰の目にも差別であることは明らかである。
 又学園は当審になつても依然として右差別と関連し名古屋法務局一宮支局より人
権侵害であるとして説示を受けたことを否認しているが、右の事実は右法務局より
の回答で明確になつている。
 かように学園側は客観的に明確になつていて否認が不可能な事実についても自己
に都合の悪い事に関しては徹底的に否認をするという態度よりみてもその主張に信
憑性がない。
 又三男の扶養家族手続についても現実に申請をなしたのに現在まで全く手続をな
されていないという事実が学園側の意識的拒否という差別の事実を明確に物語つて
いる。
(三) 学園側の列挙する解雇事由は全く存在しない。
(1) 学園側が本件訴訟になつて主張する解雇事由は、かかる事実が存したとい
う昭和四二年三月以前に解雇事由として指摘されたことは全くない。
 まず学園側は昭和四二年三月、P21を含め単一労組より解雇事由の説明を求めら
れたのに本訴において主張のような事由を言つたことはなく、単に「学園よりの退
職を願つた方がよろしいとおすすめ致して参つたのであります」(甲第一号証)と
述べているにすぎない。当時の組合の受け取り方も学園は組合活動家の排除を意図
したものとしか考えられなかつたのであり、その前提として本訴において主張する
ような解雇事由を指摘されたことは全くなかつた(甲第七、八、九、一〇号証)。
(2) 学園側ですら主観的にも本訴のような解雇事由があるとは全く考えていな
かつた。当時P21にやめて貰いたい理由は校風に合わない。建学の精神に反する点
である旨のP4事務局長の中日新聞談話(甲第一五号証)の中でやめるにあたつて本
人に困らないよう考慮するつもりであると迄言つている事実がある。右の談話の中
には全く解雇事由の存在すら感じられず仮に解雇であればかかる発言は考えられず
このことが学園側の昭和四二年三月当時の気持を訴訟という意識なしに正確に表わ
している。このことは右の昭和四二年三月当時生徒が学校長にP21をやめさせる事
情を尋ねたところ、一方的にやめさせることはなく、納得の上でやめて貰う旨の発
言をなしている事実(乙第一〇号証の一、二)又は原審学園側証人P27の証言(昭
和四六年一〇月一一日一三丁、同一一月二二日一六丁)にビラ、署名が困るので他
に解雇事由はなかつたこと、同P11証言(昭和四六年二月一七日)に建学の精神に
合わないということだけで他の事由はない旨明言し、学園側の事実上の代表者P4事
務局長が解雇に相当する事由はなかつた(昭和四八年一〇月一日二一丁)、そして
P21が学園の許可を受けずに組合に加入したこと、このことが職務規定に違反する
(昭和四九年二月一八日一五丁、二五丁)旨の証言等より明確に裏付けられてい
る。
(3) 学園は昭和四二年三月単一労組稲沢分会公然化後P21の排除の意図のもと
に、解雇事由としてこじつけるために事ある毎に内容証明郵便を送りつけている
が、右時期以前にはP21は口頭、書面の注意戒告は一度も受けた事実はない。
 かかる事実よりみて、学園側の解雇事由と称するものが全く存在しなかつたこと
そしてそれが本訴になつてからのこじつけであることが判る。
 又学園が昭和四二年三月以降の解雇事由として列挙するような事実は存しない。
(4) P21は学園が当審主張二、(一)ないし(一八)で主張するような解雇事
由は否認するが、仮に一部にそのような事実が存するとしてもそれは解雇事由には
該当しない。これらの点については原判決が正当に判断しているとおりである。
三 建学の精神について学園は、建学の精神のあり方に対する原判決の説示につ
き、次のように論難する。
(一) 「原判決の論調によれば、建学の精神は学校運営を通じて「具体化」され
ていない限り、全く意味を持たないもののように解されるところに問題がある。こ
のように解すると「具的化」された建学の精神を否定するような行動をとらない以
上、建学の「精神」に反する言動といえどもすべて許されるという結論とならざる
を得ない。」、と。
(1) しかし、原判決の論調に、学園所論のように解されるよすがはみられな
い。
 原判決は、本件においてもそうであるように、建学の精神は極めて抽象的なもの
であり、学校の運営を通じて具体化されるものであるが、その具体化の基盤となる
「建学の精神」は、私学の存在価値を高め、その独自性を担保するものとして一定
の役割を果している旨を述べているものと理解される。
 被控訴人も、「建学の精神に基づく私立学校の独自性が一定の範囲において尊重
されるべきことは認められる。しかし、その具体的なあらわれ方のなかで、私学経
営者の立場からみて、建学の精神に反する「考え」を持つ者は解雇できるというよ
うな解雇の基準にされたり、また、労働組合運動を抑圧する原理として作用するこ
とは許されない。」と主張し、原判決とその基本的認識において異るところはな
い。
 ところが、学園は、「原告の組合加入、組合活動そのものを嫌悪し、原告の組合
加入、組合活動自体が「建学の精神」と相容れないものととらえ、「建学の精神」
を楯にとり原告から級担任、教科担任、校務分掌分担の一切を奪い、その教育活動
を不能ならしめたのであつて、被告学園の右措置は原告の正当な組合活動の故をも
つてなされたもので労組法七条一号に該当する不当労働行為というべきである。」
(原判決)
(2) かくして、原判決の趣旨に「具体化」されていない限り「建学の精神」と
しての意義を認めない、というような意味合いが含まれているものでもないことは
明らかである。
(二) 次いで、学園は、原判決の「建学の精神に対する考え方や建学の精神の実
践方法につき批判を加えることは、それが虚偽の事実を前提としたり、学校の運営
について建設的な視点を失わない限り、正当な言論活動の範囲に属するものとして
許される」との判示に対し、「原判決が建学の精神に対する考え方につき批判を加
えることを肯認しようとした点は、ひつきよう私学の独自性を否定するに至るもの
であつて明らかに誤つた結論である。」と論難する。しかし、この論難もまた当を
えていない。すなわち学園は、右論難を導き出すのに、その例として、学園の建学
の精神である「宗教的情操豊かな女性の育成」に対する批判は、「例えば、近代女
性を育成することこそが大切であつて近代女性たるためには宗教的情操というよう
なものは不必要である。という議論を展開するのであつて、つまるところ建学の精
神そのものを批判することにならざるをえないはずである。」、だから、「既に建
学の精神そのものを否定するが如き議論を展開することになるものである。」と述
べるのであるが、本件において、被控訴人は、「近代女性たるために宗教的情操と
いうようなものは不必要である。」との趣旨の言動を示したことなど全くないこと
は言うまでもない。また、建学の精神、すなわち「宗教的情操豊かな女性の育成」
というものを批判するとしても、学園の右にあげる例のように、このような建学の
精神の存在することを認めない、これを否定し去るべきだとの意味を唯一とするも
のであろうはずがない。本来、「宗教的情操豊かな」という内容ないし趣旨自体一
義的に特定し、或いは明示しうるものではなく、ましてや、それの具体的実践方法
についてはなおさらである。それについては、いくつかの考え方(解釈教義)、方
法がありうるので、そのような考え方、方法をめぐつての肯否、あるいは優劣が検
討されよう。こういう有様も、一つの批判ではなかろうか。原判決も、このような
理解に立つての立論であると思われる。
(三) 次いで、学園は、原判決には「このような具体化された建学の精神を否定
するような「行動」は許されないが、それに対する批判は、虚偽の事実を前提とし
たり、学校の運営について建設的な視点を失わない限り正当な言論活動の範囲内に
属し許されるとする」ところの「論調」があるが、この「論調」は、およそ具体化
された建学の精神に対する「批判」が許される場合は、建学の精神を肯定したうえ
においてその具体化すなわち実践方法に対し批判するという限度で許されるもので
あるから、「建学の精神にもとづく建設的な視点に立つ批判である限り」というよ
うに改められるべきである、旨を述べる。
 つまり、学園が、こゝで述べたいことは、「建学の精神」それ自体に対しては、
それが抽象的であると具体化されたものであるとを問わず、一言一指だにふれては
ならぬ、ただ、それの具体的実践方法に対してのみ批判が許される、その旨を強調
したいのだと理解されよう。
 そして、その理由として、学園は、そうでなければ「学園内は大混乱に陥入るこ
とは必至である」からと考えているようである。
 しかしながら、こゝでの学園の主張も、当をえたものとなつていない。
(1) 本件においては、およそ被控訴人は、学園の言いたい「建学の精神」につ
き、抽象的なものとしても、具体化されたものとしても、建学の精神それ自体を否
定する「言動」を示したことはない。
 P21らは、「学園側こそ建学の精神を守れ」との視点にたつて、学園は、建学の
精神である「正明和信」の理念を軽んじている旨を指摘していたのであるに過ぎな
い。ちなみに、P21らは、「学校の教育方針に従つて教育活動を行えば、生徒との
信頼関係が築かれ、教育効果もあげられるような学校に一日も早くしたいと願つて
います。」(甲一〇号証)と述べていたのである(なお、甲九号証参照)。
 とすれば、P21らの行動は、「建学の精神にもとづく建設的な視点に立つ批判」
の限度内のものであると理解するのは容易であろう。
(2) 学園は、具体化された建学の精神に対する批判の例として、「合掌は、宗
教的情操豊かな女性の育成ということと無関係であり無意味であるから廃止すべき
である」との「議論」をあげるようである。
 しかし、P21らは、「合掌」それ自体の廃止を唱えたことは全くない。
 そもそも、「合掌」が宗教的情操豊かな女性の育成という建学の精神自体の具体
化であるのか、よつて、「合掌」に対するある見解の表明が、「具体化された建学
の精神に対する批判を意味するもので」あり、許されないというのか、それとも、
右趣旨の建学の精神の「具体化すなわち実践方法に対して批判する」ものであり、
その「限度で許されるものというべき」であつて、「その限度内の批判であれば学
校運営を阻害することとなつても、やむをえないところである」と承知されるもの
であるのか、その何れであるのか一義的に明らかであろうか。
 以上の次第で、学園の建学の精神に関する原判決の説示に対する非難こそ、「皮
相的であり、甚だ不十分であつて」、納得し難いものである。
(四)(1) 学園の、「被控訴人の言動」についての指摘中、分会ニユースの内
容(甲九、一〇号証)に言及する点は、これを形式的且つヒステリツクにとらえて
のことと思われるが、いずれも根拠のある事実ばかりであり、むしろかかる学園の
不明朗な運営や教育のあり方こそ建学の精神にそわないものであることを指摘して
批判したものである。
 しかしてこれは、原判決の認定したようにその「語調」を全体的にみれば、「被
告学園の運営に対する批判を通して被告学園における教育の質の向上を願望する意
図のもとに記されたと認められるのであつて、もとより正当な批判の域を出るもの
ではなく、これをとらえ建学の精神に反するものとして解雇理由とすることは許さ
れない」。
(2) 他に被控訴人が「建学の精神」に反する言動があつたとして、学園の指摘
するような事実はいずれも否認する被控訴人は、従来学園の建学の精神に反するよ
うな言動をしたことはない。
四 控訴人の主張するその他の諸点すなわち「P・T・Aの要望」、「パンフレツ
トの配布」、「署名運動」、「不当労働行為」については、原判決の証拠に基づい
て認定した事実及びそれに基づく正当な判断が、当審の審理によつて一層明らかと
なつたので、敢えて多言を要しないところ、要するに控訴人の右諸点についての主
張は虚偽の事実を前提として、一方的独善的な見解を述べるにすぎないもので、そ
の失当であることは明らかである。
五 結論
 よつて本件解雇は不当労働行為として無効であり、これを認めた原判決は正当
で、本件控訴は理由がないから失当として棄却すべきである。
第二 附帯控訴について
 被控訴人は次のとおり、控訴人より毎月きまつて支給される賃金(以下本項にお
いて月給という)及び毎年三回一定時期にきまつて支給される賃金(以下一時金と
いう)につき従前の請求を拡張し、前記のとおりの判決を求めるのであるが、その
理由は次のとおりである。
一 月給
1 被控訴人は昭和四一年度(昭和四一年四月から昭和四二年三月まで。以下同
様)において学園から毎月二五日限り前月二一日から当月二〇日までの月給分とし
て金二万九、六〇〇円(基本給金二万八、〇〇〇円と通勤手当一、六〇〇円の合
計)の支払いを受けていた。
2 昭和四二年度以降において、被控訴人が控訴人学園より支給されるべき月給
は、控訴人の主張(昭和四四年一二月八日付控訴人準備書面(二)一九項)によれ
ば「教職員の給与は世間並で決して低賃金ではない」とのことであるから、学園と
同じ私立高等学校において被控訴人と同じ高校教諭が支給されるべき月給を下まわ
ることはない。
 そこで同年度以降の被控訴人に支払われるべき月給を各年度につき人事院によつ
て行われた私立高等学校教諭の給与実態調査結果(以下人事院統計という)から計
上し、かつ支払済みの月給を控除して算出すれば別紙(1)請求未払賃金一覧表記
載のとおりとなる。
3 他の賃金資料との比較検討
 学園には本件解雇当時までは定期昇給額(ないし率)を定める賃金規定が存在し
なかつたが控訴人側証人P4の証言によると、学園の賃金体系は公立学校教員のそれ
に準じ、且つ愛知県下の他の私学並とのことであるところ、昭和四二年度以降の愛
知県立高等学校教諭の賃金並びに同年度以降の愛知県私立学校教職員組合連合によ
つて行われた愛知県下の私立高等学校教諭の賃金実態調査の結果より計上された平
均賃金はいずれも右人事院統計により計上された賃金を上まわり、これらによつて
も同年度以降被控訴人に支給されるべき月給は右人事院統計結果を下まわらないこ
とが明らかである。
 なお学園は昭和三八年度より被控訴人を採用するにあたり初任基本給二万円、昇
給は毎年金二、〇〇〇円以上を保障する旨約しており、事実昭和三八年度より昭和
四一年度に至る三年間に計八、〇〇〇円昇給させている。
二 一時金
1 被控訴人は昭和四一年度まで毎年度学園より三回にわけて次のとおり一時金の
支払いを受けていた。
 名称 支払時期 支払額
(1) 夏季一時金 遅くとも毎年七月末日限り 基本給の一・五ケ月分
(2) 年末一時金 毎年度一二月二二日ないし二三日 基本給の二・四ケ月分
(3) 年度末一時金 遅くとも毎年度三月末日限り 基本給の一ケ月分
2 昭和四二年度以降において被控訴人が学園より支給されるべき右各一時金の額
は各年度における前項2記載の人事院統計により計上された月給から右各一時金算
出の基礎に入れない通勤費を控除した金額に前記各一時金の割合を乗じた金員を下
まわることはなく、それによれば別紙(二)請求未払一時金一覧表記載のとおりと
なる。
3 他の賃金資料との比較検討
 前項において算出した昭和四二年度以降被控訴人に支払われるべき各一時金の各
年度毎の合計金額を、学園がそれに準じた支払いをなしているという公立学校教員
ないし愛知県下の私立高等学校教諭の対応各年度一時金合計金額と比較した場合、
いずれも前項において算出した被控訴人に支払われるべき各一時金額を上まわり、
これによっても被控訴人に支払われるべき各一時金は前項記載の算出方法による各
一時金の額を下まわらないことが明らかである。
三 学園の各賃金支払義務
1 学園が被控訴人に対して行なつた昭和四二年度の月給カツト、不昇給取扱、一
時金不支給及び本件解雇は被控訴人が労働組合員であることないし同人の労働組合
活動を理由としてなした不利益取扱いであることは明らかで労組法七条一号の不当
労働行為として無効であるから、学園は前各項記載の未払賃金、未払一時金の支払
義務がある。
2 しかして学園の被控訴人に対する従前の対応からして将来の賃金(一時金を含
む)についてもその不払は確実であるから、被控訴人には将来の賃金について予じ
め請求をなす必要が存すること明らかである。
四 結論
 よつて被控訴人は控訴人に対し、
1 昭和四二年四月分から昭和五五年一二月分までの毎月の賃金として合計二、〇
五三万三、三六三円の支払い及び別紙(一)請求未払賃金一覧表の各月欄記載の各
金員につき、いずれも支払日の翌日である同欄起算日の項記載の日より支払済みに
至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを
2 昭和四二年七月以降昭和五五年一二月支給分までの一時金として合計七九三万
五、九六二円の支払い及び別紙(二)請求未払一時金一覧表の各欄記載の各金員に
つき、いずれも支払日の翌日である同欄起算日の項記載の日より支払済みに至るま
で前同様の割合による遅延損害金の支払いを
3 昭和五六年一月分以降の毎月の賃金として毎月二五日限り金二八万二、四二三
円及びこれに対する支払日の翌日である毎月二六日から支払済みまで前同様の割合
による遅延損害金の支払いを
4 昭和五六年以降、年度末一時金として毎年三月三一日限り金二六万五、一〇三
円及びこれに対する支払日の翌日である毎年四月一日から支払済みまで前同様の割
合による遅延損害金、夏期一時金として毎年七月三一日限り金三九万七、六五四円
及びこれに対する支払日の翌日である毎年八月一日から支払済みまで前同様の割合
による遅延損害金並びに年末一時金として毎年一二月二四日限り金六三万六、二四
七円及びこれに対する支払日の翌日である毎年一二月二五日から支払済みまで前同
様の割合による遅延損害金の各支払いを
各求めるものである。
五 控訴人の主張に対する反論
1 昭和四一年度の被控訴人の基本給が二万八、〇〇〇円であつたことは控訴人の
自認するところである(原判決事実摘示第三項請求の原因に対する認否四(一)
〔原判決九枚目裏二行目から四行目まで〕。なお同摘示のとおり、控訴人は原審に
おいて、「基本給の内訳は」俸給二五、〇〇〇円、学級担任手当二、〇〇〇円、諸
手当一、〇〇〇円と主張していたのである。)。基本給部分を従来の主張に反して
過少に主張せんとするのは、昭和四二年度における賃金カツトの辻褄合せのための
ゴマカシであることは明らかである。被控訴人は昭和四一年度までに基本給が控訴
人主張の如き内訳をもつて支給されているとの説明を受けたことはなく、事実学園
の教員の給料は基本給プラス一律支給の通勤手当で構成されていたものであり、そ
のことは甲第二号証の昭和四二年三月分(昭和四一年度)俸給明細票の不動文字で
印刷された「基本給」欄に二万八、〇〇〇円と記載されていてその内訳の記載など
一切存しないことからも明白である。
2 控訴人は学園の一時金(夏季、年末、年度末)は基本給に対する一定の掛け率
で算定されるものではないというが、これまた虚偽である。既に控訴人は原審にお
いて被控訴人の、右各一時金の支給が基本給に対する一定の掛率で計算されてお
り、右掛率がそれぞれ夏季につき一・五ケ月、年末につき二・四ケ月、年度末につ
き一ケ月であるとの主張を認めていたのである(原判決事実摘示請求の原因に対す
る認否四(三)〔原判決九枚目裏末行から一〇枚目表一行目まで〕の「原告主張の
とおりの各一時金を支給していること」を認めるの記載)。年度末一時金はP・
T・Aの負担と計算で支払われるとの控訴人の主張も虚偽であり、そもそも意味不
明である。
3 将来の賃金請求に関する控訴人の主張は、その前提として、被控訴人と雇用関
係があつた当時においても被控訴人が欠勤が多かつたとするものであるが、右の事
実が存在しないことは従前の審理で明らかであり、被控訴人を不当解雇してその就
労を拒否した控訴人のかかる主張はためにする空論である。本件のような場合に将
来の賃金請求が認められることは同種事案の判例に照らしても明らかである。
4(1) 控訴人の主張五(一)については、原判決の正しく認定するように本件
解雇及びそれに至る賃金カツトが被控訴人に対する不当労働行為であつて無効であ
る以上、何らとるにたりないものである。
(2) 控訴人の仮定的主張1について。
 本件の如き使用者の責に帰すべき事由(不当解雇)によつて就労を拒否された労
働者が解雇期間中の昇給額、一時金を含む賃金請求権を有することは民法五三六条
二項によつて明らかでそのために使用者が昇給額、一時金支給の意思表示をするこ
とを要するものではない(そもそも解雇者に対してそのような意思表示をする筈も
ない)。しかしてその昇給、一時金の額は解雇がなく被控訴人が継続して就労して
いた場合に学園から給付されるべき賃金額を、解雇前の昇給、一時金の支払実績、
解雇前における昇給、一時金の支払の約定、さらに本件解雇後の学園の教職員に対
する昇給、一時金の支払状況などから合理的、客観的に判定し、確定すべきもので
ある。かくして被控訴人は附帯控訴により拡張した請求の趣旨記載のとおりの具体
的賃金請求権を有するのである。
 仮りに右の民法五三六条二項の賃金請求権が認められないとしても、学園は被控
訴人に対し本件不利益取扱(賃金カツト及び本件解雇)をなすに当り、右不利益取
扱が不当労働行為に該当し無効であることの明白な認識をもつてなしたものであ
り、右不利益取扱は民法七〇九条の不法行為を構成する。よつて学園は右不法行為
によつて被控訴人に被らしめた損害を賠償する責任があるというべきであり、右損
害(逸失利益)額は前述したのと同様に合理的、客観的に確定される右賃金額を下
まわることはない。
(3) 控訴人の仮定的主張2(消滅時効)について
 この点に関する控訴人の主張事実は認めるが消滅時効の効果は争う。被控訴人は
賃金、一時金について本件訴状提出以後昭和四九年四月二五日迄に履行期が到来す
る未払分の請求を同年四月二二日付同日陳述の準備書面でなし、その後に履行期が
到来する分についても同様請求し、もつて各月及び各季の請求権を行使しているか
ら、これにより右請求権全部の消滅時効が中断している。加えて、賃金及び一時金
の請求権は基本たる労働契約上の地位から派生する具体的賃金請求権の一つである
から、基本たる労働契約上の地位の確認の訴が提起され、その訴訟が係属している
限り、右賃金、一時金請求権の消滅時効は中断するのであり、本件労働契約上の地
位の確認の訴の提起によつて控訴人主張の時効が中断したことは明らかである。
(4) 控訴人の仮定的主張3(仮執行に基づく控除)について。
 この点に関する控訴人主張の事実は認めるが、被控訴人の請求から控除されるべ
きであるとの点は争う。すなわち控訴審では第一審判決の仮執行に基づく弁済は考
慮に入れないで請求の当否を判断すべきことは当然だからである。
(証拠関係)(省略)
       理   由
第一 地位確認の請求(本件控訴中当該部分)について。
一 引用にかかる原判決事実摘示記載の請求原因第一項、第二項の事実は当事者間
に争いがない。
二 原判決がその理由二、三の各冒頭において挙示する証拠並びに当審における被
控訴本人尋問の結果によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第三三ない
し第三六号証、第三八号証の一、二、第三九ないし第四一号証、第四二号証の一な
いし五、第四三、第四四号証、第四六ないし第五九号証、第六〇号証の一ないし
四、第六一号証、成立に争いのない甲第三七号証、第四五号証、当審(第一、二
回)証人P4の証言と弁論の全趣旨によりいずれも真正に成立したものと認められる
乙第四五号証、第四六号証の一、二、第四七号証、第四八号証の一ないし三、第四
九号証、第五七ないし第五九号証、第六〇号証の一、二、第六一号証の一、二、成
立に争いのない乙第五四号証、第六四号証、第六五号証、第六九号証の一ないし
三、第七〇号証、第七二号証、第一一〇号証、当審(第一回)証人P4の証言(一
部)、当審における被控訴本人尋問の結果(一部)を総合すると、左記のとおり補
正するほか、原判決が、その理由二、三において認定したのと同一の事実を優に認
定することができ、これに反する当審(第二回)証人P4の証言と弁論の全趣旨によ
りいずれも真正に成立したものと認められる乙第五〇号証、第五一号証、第五二号
証の一、二、第五三号証、第六二号証、第六三号証の一、二、第六六号証、第六
七、第六八号証の各一、二、第七一号証、第七三号証、第七四号証の一ないし三、
第七五ないし第八〇号証、第八一号証の一ないし一〇、第八二号証、第八四ないし
第八六号証、第八七、第八八号証の各一、二、第八九ないし第九八号証、第一〇〇
ないし第一〇九号証、第一一一ないし第一一八号証、第一一九号証の一、二、第一
二〇ないし第一三七号証、第一三九ないし第一四四号証、第一四七ないし第一四九
号証、第一五〇号証の一ないし五、第一五一号証の一、二、第一五二ないし第一五
七号証、第一五八号証の一ないし五、第一五九号証の一ないし三、第一六〇号証、
成立に争いのない乙第八三号証、第一四五号証、三枚目不動文字での印刷部分の成
立は争いがなく、その余は当審(第二回)証人P4の証言と弁論の全趣旨により真正
に成立したものと認められる乙第一三八号証の各記載部分、原審(第一、二回)及
び当審(第一回)証人P4、原審証人P11、同P8、同P9、同P14、同P27、同P
12の各証言部分、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果の一部は、いずれも
措信しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。よつて原判決の理由二、
三(原判決三四枚目裏二行目から同六一枚目表一行目まで)をここに引用する。
(一) 原判決四三枚目表一〇行目の「強行」を「強硬」と、同四九枚目裏二行目
の「同年」を「昭和四二年」と、同六一枚目裏九行目の「発句経」を「法句経」と
各改める。
(二) 原判決三八枚目裏三行目の「被告学園運営委員会の構成員でも」を削除
し、同四〇枚目表四行目の「その後」から同五行目終りまでを削除し、同五三枚目
表七行目から八行目にかけての「学校長から氏名を入れるよう指示を受けて」及び
同八行目の「その旨」を削除し、同五三枚目裏五行目から六行目にかけての「まも
なく呼リンは発見された。」を削除し、同五四枚目表八行目の「一三、四回」を
「一七回」と、同九行目の「二、三回」を「五回」と各改め、同五五枚目表四行目
の「古知野中学校など六校」を「宮田中学校など四校」と改め、同五八枚目表八行
目の「雨が」から同一〇行目の「こともあつた。」までを削除する。
三 しかして右認定の事実をもとに本件解雇の効力について考えると当裁判所も、
右解雇は不当労働行為に該当して無効であると判断するものであるが、その理由は
原判決がその理由四(原判決六一枚目表二行目から同六九枚目裏一〇行目まで)に
おいて説示するところと同一であるから、ここにこれを引用する。
四 しかしながら、控訴人は当裁判所も同一に帰した原判決の右認定、判断を争
い、前記当審における主張記載のとおり極力主張し、当審(第一回)証人P4の証言
は、これにそうものである。一方被控訴人は当審においてもその本人尋問におい
て、被控訴人の従来の主張にそい、原判決認定の事実とほぼ符合する供述をして、
これと対立している。当裁判所は結局原判決の認定、判断を是認すべきものと考え
るのは前記のとおりであるが、当事者間の争いは深刻で、争点は多岐にわたるの
で、当審において新たに取調べた証拠をも参酌して、以下右判断の内容を若干補足
することとする。なお争いは主として原判決理由二の認定にかかる事実の当否にか
かるものであるから、その順序により、かつ、前顕証拠のうち便宜のため、関連す
る書証(前記措信しないとして排斥したものを含む)のみを各争点毎に一括掲示し
た。
1 被控訴人の学園就職時の説明について(原判決理由二(一)(1))
(甲第三九号証、乙第六六号証、第七三号証、第七四号証の一ないし三、第七五号
証、第九九号証、第一四九号証)
 被控訴人は学園に就職するについて紹介者P3、P2と昭和三八年三月下旬一宮駅
構内の喫茶店で短時間面談したが、P2はかねてP3を通じて被控訴人に対し、学園
の特色、校風など伝えられていることと思つていたため、宗教をもとに女子教育を
行なつている地味な学校である旨の簡単な説明をしたにとどまつた。またP3から事
前に学園の特色、宗教行事など詳しい説明が行われたとは認めがたい。次いでその
後間もなく、被控訴人は学校長P1と学園において面談したが、その席上においても
給与などの勤務条件のほか、格別右の点についての説明があつたものとは認め難
い。被控訴人は学園に就職後徐々に自からの体験を通して学園の特色、校風、ひい
て建学の精神を感得するに至つたものと認めるのが自然である。
 しかし、以上の点の当否は被控訴人の就職直後の言動が問題とならない以上本件
解雇の効力の判断に影響するものではない。
2 被控訴人の組合活動と職員会議、希望職員会議について(原判決理由二(一)
(2))
(甲第一一、一二号証、第二〇号証、第二三号証、第四〇号証、乙第四五号証、第
五〇、五一号証、第八八号証の一、二、第九〇ないし九七号証、第一四八号証、第
一五一号証の一)
 被控訴人が職員会議における発言を中心として、学園における教育、労働条件の
改善について活動していたこと、スクールバスの件についてはバレー部主将P
28(生徒)とP5運転手のみならず、同部顧問で体育担当であつたP6教諭に対して
もP4事務局長がこれを叱責し、被控訴人が、その正当性を指摘してこれを擁護する
場面のあつたことは事実と認められる。また文化祭における宿直の慣行や生徒会費
の一部の使途についての疑問は単に被控訴人からのみ提起されたものではなかつた
としても、これが一つの契機となつて右慣行の改善、使途の釈明などその後の措置
につながつたことは否定しがたい。しかして生徒会費の半額がクラブ活動指導費と
して指導にあたつた教諭に支払われているとの学園の主張にそう事実は原審証人P
24、同P10の各証言からしても到底これを認めがたいが、仮りにそうであるとして
も、生徒会費の本来の使用目的からして疑惑をもたれるのは当然である。そして学
園提出の証拠によつてもなお右生徒会費の会計処理が明朗で疑問の余地のないもの
であつたと断ずるのは困難である。
 希望職員会議が昭和四一年三月二五日に開催された頃まで毎年一回は少くとも開
かれていたことを認めるに足る証拠はなく、同日の右会議が被控訴人らの「みんな
の会」の活動の一環としてP7教諭からの働きかけにより開かれたことも原審証人P
9の証言からして明らかである。また同日の会議で採択された要望書(甲第一一号
証)の原案(甲第七三号証)が「みんなの会」で被控訴人やP7教諭を中心としてま
とめられたものであること、教務主任であるP8は右原案作成のための「みんなの
会」の会合に呼ばれて、職場に関する種々の問題点について過去の経験を話して意
見交換したものであること、被控訴人やP7が右希望職員会議で要望書の採択のため
に努力したこと、翌二六日右要望書を学校長に手交するについては古参のP8、P
9両教諭が主としてこれに当つたのであるがP7教諭と被控訴人もこれに同行してい
たものであることなどの事実も否定しがたい。右要望書に対しての学校長の発言内
容、同日これを運営委員会において検討し、学園の一応の回答がなされたこと及び
その内容、同月二八日の特別職員会議でも、抽象的ながら職場の労働環境の改善が
約束されたことなどの事情も甲第一二号証、第二〇号証によつて肯認される。控訴
人はP7教諭は当時学園の運営委員でなかつたと主張し、乙第四五号証によるとなる
ほど同教諭は昭和四〇年度の運営委員となつていないことが明らかであるが、甲第
二三号証によると同教諭は昭和四一年度の運営委員会の構成員となつており、要望
書の検討された前記運営委員会に出席していたことは甲第四〇号証によつても否定
しがたいところと思われる。昭和四一年四月に事務用品の若干の整備が行なわれた
のは、被控訴人らの前記一連の活動の成果ではあるが、学園の応えたところは軽少
である。
3 学園の教育、労働条件について(原判決理由二(一)(3))
(甲第二四号証、第三七号証の一ないし五、第三八号証の一、二、第四一号証、第
五八号証、第六〇号証の一ないし四、第六一号証、乙第三七号証、第五〇号証、第
五一号証、第五二号証の一、二、第五三ないし第五五号証、第六三号証の一、二、
第七九号証、第八三号証、第八四号証、第八六号証、第八七号証の一、二、第八八
号証の一、二、第九八号証、第一〇八号証、第一一五号、第一一六号証、第一三二
号証、第一三五号証、第一四四号証)
 学園は昭和三九年当時生徒の質を問題とせず全部を受入れる方針をとつていたた
め、質の低下を招き補導される生徒も出て、昭和四〇年一月二九日の職員会議でこ
れが問題となり、そのような生徒に対しては退学、停学、謹慎などの厳しい懲罰が
行なわれた。前項スクールバス使用の件については昭和四〇年六月バレー部生徒P
28に対しても謹慎処分が行なわれている。
 昭和四〇年一月三〇日の生徒の持物検査は、これを報じた新聞記事(乙第五四号
証)によると、学園の、生徒の代表である室長、副室長を立会わせたとの主張に符
合するようでもあるが、右立会のなかつたことを明言する原審証人P24の証言と対
比するといずれを真とも断定しがたい。しかし右持物検査はその実施方法が適切を
欠き、生徒の手紙や手帳までも無断で調べるなどの行き過ぎがあつたことは覆い難
く、このため一部生徒の反発を招き、集団欠席などの抗議行動にまで発展したもの
であつて、法務局人権擁護委員会の調査を受けるなど、学園の躾教育のあり方に反
省を迫るものといえる。しかして右の行動をとつた一部生徒に対する停学処分も行
なわれたのであり、被控訴人らが学園におけるかかる教育、労働条件や生徒の教育
指導面でのあり方を問題意識をもつてみるべき素地は優に存したといえる。
 学校長またはその一族と特定の関係のない教職員が、そのゆえに毎年四、五名他
校に転職したり退職していくのか、或いはこのことと教職員の転退職は全く無関係
であるのかは、これをいずれとも断定しがたい面のあることは否定できないが、学
校長及びその一族が学園の中枢を占めてこれを支配している実情と学園の教員の給
与、授業持時間数など後記のような労働条件の下に短期間で転退職していく教員が
目立つ状況にあつたことは原審証人P24、同P10の各証言によつても窺知されると
ころである。
 学園の教職員、事務職員は生徒数に比して少なく、教員は公立学校では週一八時
間程度の授業時間であるのに学園のそれは二二ないし二四時間に及ぶものが多かつ
たこと、前記要望書でもホームルームを含めて週二〇時間以内にすることを求めら
れていたが、学園はその実態を認識しながら、現実にはこれに応えられず、右要望
書に対しても現状では週二二ないし二四時間になりそうだと述べたり、職員会議で
もP4事務局長が週二二時間以上持つよう提案する実情にあつたことは否定できな
い。学園は乙第五二、第六三号証の各一、二、第八三号証、第八四号証などを援用
し、昭和四〇ないし四二年度における学園教員の週平均授業時間数は一八時間前後
のところである旨主張するが、右はごく短時間しか担当しない教員をも算入したう
えで平均値を出したもので個々の教員の実態を反映しているとはいえない。前記実
情を示す甲第一一号証、第一二号証、乙第三七号証、原審証人P8、同P10の各証言
と対比しても採用しがたい。
 学校長が女子職員に水をかけた事件は散水の際の水があやまつてかかつたにすぎ
ないとの学園の主張は直接の当事者である原審証人P10(旧姓○○)の証言に照ら
して明らかな虚構というべく、P4事務局長が立候補した際の職員朝礼で同人を応援
する話しの出た事実も否定できない。
 被控訴人らを中心とする「みんなの会」で生徒に対しアンケート調査が行われた
ことについては生徒会指導の担任であつたP16教諭も関与していたのであり、これ
が学園と全く関係なく、秘密のうちになされたものということはできない。
4 被控訴人に対する転任(退職)勧告について(原判決理由二(一)(4))
(甲第五号証、第六号証、第一九号証、第二〇号証、第四六号証、第五二号証、第
七三号証、乙第二八号証、第一四二号証)
 被控訴人に対する最初の転任(退職)勧告が昭和四〇年一一月頃なされたことは
甲第一九号証、第二〇号証、第四六号証の記載から明らかである。学園は右勧告は
同年二月になされたものであるというが、その事由として主張する被控訴人の昭和
三九年度における生徒指導要録の提出遅滞などの点は主として昭和四〇年四月以降
に問題となるべき事項であることを考えるとにわかに首肯しがたい。しかして右退
職勧告はその直後に一旦撤回されたことは当事者間に争いがないのであり、かかる
事実からしても被控訴人に当時退職を受認しなければならぬほどの落度があつたと
は考えられず、被控訴人の叙上の如き学園の労働、教育条件の改善を求めての活動
が右勧告の動機をなしていたことは容易に推認しうるところというべきである。学
園は被控訴人らの組合ないし「みんなの会」の活動は当時非公然のもので学園の知
る由もないものであるといい、なるほど組合が公然化されたのは昭和四二年三月に
至つてのことであるが、その間被控訴人の職員会議での発言、前記要望書の提出な
ど学園との接触を伴う動きは当然了知されていたものである。昭和四一年四月二〇
日校長会で被控訴人の滝高校転任の話が持上つてから後の学園の、被控訴人に対す
る転任(退職)勧告が、同年一一月頃から始まり、被控訴人が明確に拒絶した後に
も執拗に継続された経過は原判決認定のとおりであり、学園の意図を露骨に示すも
のというほかない。この頃P6教諭に対しても転任勧告がなされた事実は否定しがた
く、P6教諭が自発的に退職の意思を表明したものとはいえない。
5 分会(組合)公然化から本件解雇までの経過について(原判決理由二(一)
(5)ないし(8))
(甲第一号証、第一三ないし第一五号証、第三一号証、第三四号証、第四三号証、
第四四号証、第五九号証、乙第五号証、第七号証、第八号証、第一〇号証の一、
二、第一三号証、第一四号証、第一九号証、第三二号証、第三八号証、第五六号証
の一ないし四、第六九号証の一ないし三、第七四号証の一、二、第一〇〇ないし第
一〇八号証、第一一一ないし第一一三号証)
 昭和四二年三月七日、一六日における生徒集会、三月一九日新聞に報道された生
徒の署名運動を被控訴人が示唆もしくは扇動したとの点は、これにそう乙第五六号
証の一ないし四、第一〇一号証、第一〇四号証、第一〇五号証、第一一一号証等の
記載はにわかに措信しがたく、乙第一〇号証の一、二、原審証人P10の証言をもつ
てもこれを証するに足るものとはいえない。却つて右証言と甲第四三号証、第四四
号証によるとこれらの生徒の行動は、学園の本件解雇問題に対するあり方に疑問を
感じた生徒達が真剣に考えた結果自からの意思に基づいてなしたものとみるのが真
相に近いと思われ、学園の疑いは単なる想像の域を出るものではない。しかして
P・T・Aの要望は主として学園側の説明のみに依存して、被控訴人らの弁明を充
分聞くことなく、右の生徒の署名運動などの行動が被控訴人の扇動によるものであ
るとの誤まつた判断に基づいてなされたものと認められ、これを解雇理由とするこ
とはできない。そして学園の右退職勧告もP・T・Aの要望も被控訴人に対してそ
の具体的理由は示されていないのである。
 組合公然化直後に学校長やその妻P12のとつた言動は反組合的意思を如実に窺わ
せるものであり、学園が教職員に対し、外部の団体に無断で加入しない旨の誓約書
を提出させようとした事実は学園の意図を端的に示すものであつて、ここにいう外
部の団体が公然化された被控訴人らの属する組合(分会)を意味することは疑いの
余地のないものというべきである。
 学園が昭和四二年四月以降被控訴人に対してとつた原判決認定の如き一連の措置
は明らかに前記学園の意図と軌を一にし、被控訴人をことさら教師本来の仕事から
離隔し、これを差別冷遇するもので、名古屋法務局一宮支局から、学園の措置を不
当として口頭の説示があつたのも当然であるが、学園はかかる措置を本件解雇に至
るまで継続したのである。
6 被控訴人主張の本件解雇の理由ないし事情について(原判決理由二(二))
(1) 私学共済組合事務について
(乙第四四号証の一ないし一八、第六七号証の一、二、第七一号証、第七九号証、
第一二〇号証、第一三八号証)
 被控訴人が充分右事務を遂行できなかつた事情の一つには、組合員の資格取得、
被扶養者の変更等について本人からの申告を要すべきところ、その連絡が遅れた
り、また標準給与の記載のしかたなどについても事務局の説明が不充分であつたな
どの点も斟酌されなければならない。P14教諭、P29教諭の資格取得の手続が遅れ
たとして学園から被控訴人が注意をうけたり、そのために両教諭が迷惑したとの苦
情が述べられたりしたことはなかつたものと認められる。
(2) 温交会幹事の件
(甲第二号証、第三号証、第三四号証、乙第一二一号証、第一二三号証)
 帳簿紛失の点の真相はいずれとも断定しがたいが、被控訴人が旅行後文書で会計
報告したことは原審証人P14、同P8の証言からも肯認され、その後昭和四二年五月
頃一旦右温交会が解散され、被控訴人に対して一応の残金の清算がなされた事実の
あるところよりすると事務の引継に格別支障があつたものとも考えられない。使途
不明の不足現金が未処理であるとすれば、被控訴人の弁明するとおり給料からの差
引清算を行なうことも考えられるのに当時そのことで学園が被控訴人に強く弁償を
求めた形跡もない。
(3) 職員会議議事録の件
(乙第三七号証、第九八号証)
 被控訴人主張のとおり議事録を空白にする直前の記録が昭和三九年度議長団の一
人P16教諭の筆跡であることは認められるものの、空白直後の筆跡もまたP16教諭
のものと断定するのは困難であり、その間の空白がP16教諭の責任であるとするこ
とはできない。
(4) 生徒指導要録の件
(乙第三七号証、第四六号証の一、二、第一二四号証)
 被控訴人は職員会議議事録(乙第三七号証)の記載をとらえて三月三一日を提出
期限であるというが、原審証人P8の証言に照らして措信しがたい。
(5) 学内新聞「まこと」の件
(乙第一一号証、第八九号証、第九〇号証)
 被控訴人の寄稿した記事に学校長から署名を入れるよう指示があつたとの点は否
定すべきものと考えるが、さりとて外部配付が取止めになつたのは右記事が学園内
に物議をかもしたためであるとの点もにわかに措信しがたい。右新聞は生徒を中心
とした内部配付を主目的としたものであり、右記事は発行当時一、二の個人的な批
評はあつたものの、格別学園内で問題とされたことはなかつたものと認められる。
(6) 呼リン紛失の件
(乙第一三六号証)
 紛失した呼リンがその後発見されたか否かはいずれとも断定しがたい。被控訴人
が探そうとしなかつた点は責むべきであるが、学園から特に注意を受けたわけでは
ない。
(7) 図書貸出の件
(8) 自習時間について
(甲第六三号証、乙第四七号証、第四八号証の一ないし三、第一二五ないし第一三
〇号証、第一四一号証、第一四七号証)
 原判決の認定するとおり、被控訴人自身が自習時間の多かつたことを反省してい
るのであるが、このために文書実務の進展が遅れたものとはいえない。
(9) 中学校訪問の件
(乙第一七号証、第四九号証、第一二九号証、第一三七号証、第一五四号証)
 私立学校において生徒の確保は重要であり、被控訴人が学園と見解を異にすると
はいえ、学園から命じられた中学校訪問を実行しなかつたのはよくないことである
が、そのために格別支障を生じたものとは認められず、当時学園がこれを咎めたこ
ともなかつたのであるから、これを解雇事由とするのは相当でない。
(10) 学校長叙勲の際の募金の件
 募金に応じるか否かは各人の自由意思によるのであり、本件解雇の効力とは無関
係である。
(11) パンフレツト配布とその記載内容について
(甲第七ないし第一〇号証、第一六号証、第一七号証、第一九号証、第三三号証、
第三四号証、第三七号証の五、第五八号証、第六〇号証の一ないし四、第六一号
証、乙第一五号証、第一六号証、第一九号証、第二二号証、第二五号証、第二六号
証、第二八号証、第三三号証、第五一号証、第五三号証、第一〇九号証、第一一五
号証、第一三五号証、第一四六号証)
 分会ニユース第七号(甲第九号証)において被控訴人が学園の運営の不明朗な点
として指摘した事項がいずれも事実無根のものであるということはできない。すな
わち
① 学園の教職員の賃金
 昭和四二年四月一日施行の学園の教員の俸給表(甲第三四号証の五月二日欄、乙
第一四六号証)によると学園の大学卒初任給は二万二、〇〇〇円であるが、甲第五
八号証の他の各私立高校の昭和四一年のそれは最低二万六、六〇〇円から最高三万
二、七〇〇円に及んでいて学園のそれより遥かに高い。公立高校の昭和四二年三月
当時の大学卒初任給二万七、四〇〇円(甲第三七号証の五)と比較しても学園のそ
れは低水準にあることは明らかである。被控訴人は昭和四一年度給料二万八、〇〇
〇円で当時二八歳であつたがこれを右の私立高校のそれと比較すると二五歳の最低
二万九、八〇〇円にも及ばないものである。
② 授業持時間
 これについては3において前述した如く公立高校の週一八時間程度に比較すると
二二ないし二四時間の過重負担となつていたものである。
③ 生徒積立金の利息、使用方法
 学園では生徒積立金を他の学園受入金と区別しないで一括預金にしているため利
息計算が不可能で結局他の資金と共に流用される恐れがあった。他の私立高校の例
では別途積立金として利息金額を明示し報告をしている(甲第六〇号証の一ないし
四)ので、これとの比較において学園のかかる処理方法は不明朗なものと指摘され
るのもやむをえないものである。また修学旅行の附添の教員の費用が当時旅行斡旋
業者の負担であつたとしても、それらが結局生徒の頭割りに生徒積立金の負担に加
算される危険のあることも否定しえない。
④ 生徒会費の使途
 これについては2において前述したとおり生徒会費の半額が本来の生徒会のため
に使用されていない疑いがあつて、被控訴人らはこれを指摘したものである。
⑤ 短大保育科増設の件
 文部省の認可基準監査のために学園のとつた措置に被控訴人らの疑惑を招く部分
のあつたことは事実と認められる。
⑥ スクールバスの件
 料金、利用方法についての苦情があり、これを検討すべきことが指摘されたもの
である。
⑦ 小使いさんの件
 小使いさんの一四時間勤務は当時被控訴人が苦情を訴えられたことによるものと
思われ、労働基準監督署にそのため相談に赴いたほどのものである。
⑧ 教員に対する水かけについて
 3において前述したとおり事実と認められる。
⑨ 二人の先生をゴマカすようにやめさせるとの件
 本件係争の被控訴人の主張を記載したものと認められる。
 以上のとおり職場の労働、教育条件の改善をはかるとの意識で批判的にみる場合
学園に種々の問題があつたことは否定できず、これらの指摘が虚偽の事実を前提と
して学園を中傷誹謗するのみのものというべきでないのは当然である。
 次に控訴人は分会ニユース八号(甲第八号証)の記述は被控訴人が学園の建学の
精神を真向うから否定し、これを誹謗するものであると非難する。たしかに引用の
記述部分のみを形式的、表面的にみればそのように評価できないでもないが、その
後の「学校の教育方針に従つて教育活動を行えば、生徒との信頼関係が築かれ教育
効果もあげられるような学校に一日も早くしたいと願っています。」などの記述と
共にこれを全体としてみれば、被控訴人が学園における教育の質の向上を願望する
意図のもとにかかる記述をなしたものとの原判決の認定は首肯できるところであつ
て、控訴人の右主張は失当といわざるをえない。
 パンフレツトの配布が勤務時間中になされるなど学園の業務に支障を与えたもの
と認めるに足る証拠は存しない。
(12) P11会長の父兄宛文書窃取の件
(甲第一九号証、第三四号証、第五二号証、乙第二〇号証)
 被控訴人が事務職員の捨てた原紙を拾得したのか或いはこれを窃取したと評すべ
きかは、学園と被控訴人の観点の相違によるが、文書の内容を予め知らなければ拾
得不能となるものでもないから控訴人主張の如く窃取したとまでいうのはあたらな
い。
(13) 「新任の先生方へ」のパンフレツト配布の件
(甲第三三号証、第三五号証、第三六号証、乙第二二号証、第二五号証、第二六号
証、第六八号証の一、二)
 右パンフレツトの配布を受けた新任の先生数名から被控訴人に対し出された抗議
の文書(乙第二五号証)があるが、これが自発的意思に基づいているかについては
疑問の余地がある。
(14) 運動場の草とり等整備の件
(甲第六二号証、乙第二一号証、第二四号証、第六九号証の一ないし三、第一一二
号証)
 被控訴人が雨の日に草とり、小石拾いなど運動場の整備を命じられたことがある
かどうかはいずれとも断定しがたいが、昭和四二年四月二〇日と二四日に関する学
校日誌及び気象台の資料でみる限りは、右の両日午前八時以降の就業時間内に降雨
があつたと断ずるのは困難である。
(15) 学校長に対する抗議の件
(乙第二三号証、第二七号証、第一三一号証)
 被控訴人が自己に加えられた差別的不利益取扱いに対し一定の範囲で抗議するの
は非難できず、この抗議のため学園の他の業務に支障をきたしたものとも認められ
ない。
(16) 被控訴人の遅刻、早退、欠勤の件
(乙第九号証、第三〇号証、第三一号証)
 被控訴人一人のみ午前八時出勤を命じられたための遅刻は非難できず、早退、欠
勤についても正当な事由があり、届出のあつたものもある。
(17) 昭和四二年三月一六日の生徒集会の件
 5において前述のとおり、被控訴人がこれを示唆、扇動した事実は認めがたい。
五 建学の精神について
(一) 原判決の説示について
 控訴人は、原判決の説示するところによれば、建学の精神は学校運営を通じて具
体化されていない限り、全く意味をもたないもののように解される点において不当
であり、また建学の精神に対する考え方につき批判が許されるとするのは窮極のと
ころ建学の精神ひいては私学の独自性と存在意義を否定することになるから、これ
また不当である、さらに建学の精神に対する実践方法について批判を許すことは具
体化された建学の精神を批判することであるが、それは建学の精神を肯定したうえ
でなされるべきもので無条件に許されるべきことではないからこの点の原判決の考
え方も肯認できないと主張するのであるが、右控訴人の所論は原判決を正解せず、
独自の解釈を前提としてこれを非難するにすぎないものであつて採用できない。当
裁判所も原判決の説示するところは正当として是認すべく、これと同様に解するも
のである。
(二) 学園における建学の精神及び被控訴人の言動について
 学園において控訴人主張のごとき建学の精神に基づき独自の教育方針、校風が樹
立形成され、またこれを具体化した実践方法がとられていることは控訴人援用の証
拠等によつて明らかであるが、前認定の事実によれば、これとの対比において、被
控訴人の言動が許された批判の域をこえて、右の建学の精神に抵触していたものと
いうことはできない。甲第九、第一〇号証の分会ニユース記事についての原判決の
認定、判断(原判決五六枚目裏二行目から五七枚目表四行目まで、同六一枚目裏末
行から六二枚目表八行目まで)は四6(11)においても触れたとおり当裁判所も
これを支持すべきものと考える。
 控訴人は他にも被控訴人が学園の建学の精神を否定し、またはこれと抵触する数
々の言動をしている旨主張するが、前顕措信しない証拠を除いてこれを認めるに足
る証拠はなく、控訴人の右主張は採用できない。
六 結論
 以上の次第で、当裁判所も被控訴人の地位確認の請求は正当として認容すべきも
のと判断する。
第二 賃金及び一時金(以下特にことわらない限りあわせて賃金という)の請求
(本件控訴中当該部分及び附帯控訴)について
一 前項第一において説示したとおり、本件解雇は無効であるところ、本件解雇以
降学園が被控訴人の地位を否定し、その就労を拒否し、賃金の支払をなしていない
ことは当事者間に争いがないから、控訴人は民法五三六条二項により本件解雇以降
も学園に対する賃金請求権を有する。
 しかして学園の右態度からすれば将来の賃金についてもその不払いは確実である
と考えられ、被控訴人には将来の賃金についても予じめ請求をなす必要が存すると
いうべきである。控訴人は被控訴人との間に現に具体的賃金請求権を発生させるべ
き事実関係が成立しておらず、被控訴人から将来にわたつて適時の労務提供を期待
できる状況にないから、被控訴人の右将来の賃金請求はその要件を欠く旨主張する
が、右主張は上来説示するところに照らして失当であること明らかであるから採用
できない。
二 被控訴人は昭和四二年度以降学園より支給されるべき賃金は人事院によつて行
なわれた私立高等学校教諭の給与実態調査結果(人事院統計)を下回ることはない
として、これに基づき従前の請求を拡張し、本件賃金及び一時金の請求に及んでい
る。しかし無効とされた解雇期間中の特定の従業員の賃金をいくばくとするかにつ
いては、できるかぎり、これを解雇がなかつた場合の当該従業員の地位にひき戻し
て具体的に決すべきであると考えられるところ、被控訴人については、次に述べる
ように、かかる方法によつて解雇期間中の賃金を具体的に確定することが可能なの
であるから、これによるべきものであり、常に多数の事例の平均値を示すにすぎな
い前記人事院統計の結果によつて右賃金額を決定するのは相当でない。よつて当裁
判所は被控訴人の主張する右の賃金算定の方法を採らない。なお学園には昭和四二
年四月一日から施行された給与規定(乙第一四六号証)が存することが窺われる
が、被控訴人の解雇前の賃金、一時金が、これに準拠していたとの主張、立証はな
く、また同規定の内容にてらしても、これによつて被控訴人の解雇期間中の賃金、
一時金を算定することは不能であるから同規定に基づく算定方法は採用しない。
三 被控訴人の昭和四一年度の賃金月額が二万九、六〇〇円であつたこと、学園の
高校の教員の基本給部分が、昭和四二年以降毎年少くとも一割を下らない程度の増
加があること、被控訴人に対する賃金は昭和四二年四月から一一月までは二万七、
九八〇円、同年一二月から昭和四三年三月までは二万六、五〇〇円しか支払われな
かつたこと、昭和四二年度の一時金は全く支払われなかつたこと、学園では被控訴
人主張のとおりの各一時金がその主張のとおりの率で支払われること、学園におけ
る賃金支払方法、各一時金の支給時期は被控訴人主張のとおりであることは当事者
間に争いがない。(控訴人は当審において被控訴人に対し右定時の昇給、一時金の
支給を約束し又はその支払の意思表示をしたことはなく、一時金ないし賞与の掛け
率も一律に決しえないから、被控訴人について昇給額、一時金の額は具体的に確定
しておらず従つて本件賃金、一時金の具体的請求権は発生しない旨主張し、その趣
旨は前記自白を撤回するもののようにも考えられるが、その要件についての何らの
主張も立証もない以上到底採用しがたい)。
 控訴人は昭和四二年度の被控訴人の賃金につき学級担任手当二、〇〇〇円が支給
されなくなつたと主張するが、これは前記の控訴人の措置が不当労働行為である以
上理由がなく、同年度の各一時金を支給しないことにつき被控訴人が講師なみの扱
いとなつたためと主張する点についても同様に理由がない。同年度から通勤手当が
実費支給となり一、四八〇円となつたことは、原審における被控訴本人尋問の際に
被控訴人自身明らかに否定しないところであるから、そのように推認され、右認定
に反する証拠はないが、同年一二月以降は被控訴人が通勤しなくなつたので右通勤
手当を支給しなかつたとする控訴人の主張は前掲乙第九号証の記載に明らかに反し
理由がない。しかし当審における被控訴本人尋問の結果によると被控訴人は本件解
雇後は学園に通勤しなくなつたことが認められ、右認定に反する証拠はないから、
被控訴人に対する右実費の通勤費は昭和四三年三月までに限つて支給されるべきも
のである。また年度末一時金はP・T・Aから支給されるものであるという控訴人
の主張はこれを認めるに足りる証拠がない。
四 そうすると被控訴人の教育活動を奪つた控訴人の前記措置は不当労働行為であ
つて許されず、被控訴人についても他の教員と同様、昭和四二年以降も賃金の基本
給部分(通勤手当を除く)について毎年少くとも一割の増加が認められ、昭和四二
年度の賃金減額、一時金不支給は不当労働行為であるから、これらについても被控
訴人は賃金請求権を有する。昭和四一年度の被控訴人の基本給部分が二万八、〇〇
〇円であつたことは当事者間に争いがない(控訴人は学級担任手当二、〇〇〇円を
基本給に算入するのは誤りであるというが、右が基本給に算入されることは控訴人
の自白するところであり、また被控訴人の学級担任を奪つた行為が前記のとおり不
当労働行為として許されないものである以上右手当を支給しないとする控訴人の主
張は理由がない)から、これを基礎に被控訴人に対する未払賃金及び未払一時金を
算定すれば、昭和四二年四月以降昭和五五年一二月までの各未払賃金は別紙認容未
払賃金一覧表記載のとおりで、その合計が九七〇万七、九九八円となることは計数
上明らかであり、また被控訴人は昭和五六年一月以降毎月一〇万六、三二二円の賃
金請求権を有することとなるが、これらを超える賃金請求部分は理由がない。次に
昭和四二年度夏季一時金以降昭和五五年度まで(但し同年度末一時金を除く)の各
未払一時金は別紙認容未払一時金一覧表記載のとおりであるが、昭和四四年度年度
末一時金までは被控訴人の請求額の範囲で計算するとその合計が四〇九万〇、二〇
〇円となることが明らかであり、また被控訴人は昭和五六年以降年度末一時金とし
て毎年三月三一日限り一〇万六、三二二円、夏季一時金として毎年七月三一日限り
一七万五、四三一円、年末一時金として毎年一二月二四日限り二八万〇、六八九円
の各一時金請求権を有することとなるが、これらを超える一時金請求部分は理由が
ない。
五 控訴人は本件賃金、一時金請求権のうち被控訴人の附帯控訴による請求拡張部
分につき消滅時効を援用するところ、本件記録によれば、被控訴人は昭和四四年六
月二三日本訴を提起した当初から控訴人に対し、昭和四二年四月から昭和四四年四
月までの未払賃金及び一時金の支払を求めるとともに、被控訴人が控訴人に対し労
働契約上の権利を有する地位にあることの確認を訴求していたことが明らかであ
る。被控訴人は、賃金及び一時金の請求権は基本たる労働契約上の地位から派生す
る具体的請求権の一であるから、基本たる労働契約上の地位確認の訴が提起されれ
ば、賃金、一時金の消滅時効は中断する、と主張するが、基本たる労働契約上の地
位の確認請求は、もとより個々の具体的な賃金、一時金請求権について裁判所の審
理、判断を求めるものではないから、これに右各請求権についての訴の提起に準ず
る時効中断の効力を認めることはできない。しかし、個々の賃金、一時金請求権は
労働者の労働契約上の地位から生ずる最も重要な具体的請求権であるから、右地位
の確認請求には当然に個々の賃金、一時金請求権についての権利主張が表示されて
いるものと解すべく、右確認請求訴訟の係属中は右権利主張も継続してなされてい
るものということができる。そうすると、右地位確認の訴の提起は裁判上の催告の
効力を有し、その効力は訴訟係属中維持されその間時効は進行しないと解するのが
相当である(訴訟終結後は六月内に訴提起等強力な中断事由に訴えなければ中断の
効力は生じない。)。したがつて、被控訴人の本件附帯控訴による賃金、一時金に
ついての請求拡張部分のうち本訴提起後にかかるものは、時効によつて消滅するこ
とがないから、控訴人の時効消滅の主張は採用できない。そして、本訴提起前にか
かる賃金請求権については、前認定のとおり被控訴人の右請求拡張部分の存在が認
められないので、これについての時効消滅の有無の判断を省略する。控訴人はまた
原判決の仮執行宣言に基づく強制執行によつて被控訴人の受領した金員を本件賃金
請求から控除すべきであると主張するが、仮執行宣言に基づく強制執行としてなさ
れた給付は上訴審においてこれを顧慮すべきものではないから、右主張も失当とし
て採用できない。
第三 結論
 よつて被控訴人の本訴請求は(一)被控訴人が控訴人に対し、労働契約上の権利
を有する地位にあることの確認を求め、(二)昭和四二年四月から昭和五五年一二
月までの賃金合計金九七〇万七、九九八円及び別紙認容未払賃金一覧表の各月欄記
載の各賃金につき同欄起算日の項記載の日から支払済みに至るまで民事法定利率年
五分の割合による遅延損害金、(三)昭和五六年一月以降毎月二五日限り一ケ月金
一〇万六、三二二円の割合による賃金及びこれに対する毎月二六日から支払済みに
至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、(四)昭和四二年七月から
昭和五五年一二月までの一時金合計金四〇九万〇、二〇〇円及び昭和四四年度まで
は別紙請求未払一時金一覧表、昭和四五年度以降は別紙認容未払一時金一覧表の各
季欄記載の各一時金につき同欄起算日の項記載の日から支払済みに至るまで民事法
定利率年五分の割合による遅延損害金、(五)昭和五六年一月以降毎年三月三一日
限り年度末一時金一〇万六、三二二円及びこれに対する毎年四月一日から支払済み
に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、毎年七月三一日限り夏季
一時金一七万五、四三一円及びこれに対する毎年八月一日から支払済みに至るまで
民事法定利率年五分の割合による遅延損害金、毎年一二月二四日限り年末一時金二
八万〇、六八九円及びこれに対する毎年一二月二五日から支払済みに至るまで民事
法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこ
れを認容し、その余は失当として棄却すべきものである。
 よつてこれと異なる原判決主文第二ないし第五項を本件控訴及び附帯控訴に基づ
き主文第一項のとおり変更し、控訴人のその余の控訴を棄却し、訴訟費用の負担に
つき民訴法九六条、八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用
して主文のとおり判決する。
(裁判官 瀧川叡一 加藤義則 上本公康)

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