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平成10年(行ケ)第267号審決取消請求事件
平成13年5月10日口頭弁論終結
判決
   原      告A
訴訟代理人弁護士鈴木修
同矢部耕三
同弁理士   伊藤茂 
   被      告エヌ・ディ・シー株式会社
訴訟代理人弁護士竹内裕詞
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成3年審判第753号事件について平成10年4月10日にした
審決のうち,「特許第1088393号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ない
し第6項に記載された発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,発明の名称を「複合シートによるフラッシュパネル用芯材とその
製造方法」とする特許第1088393号の特許(昭和52年12月29日出願,
昭和56年7月20日出願公告,昭和57年3月23日設定登録,以下「本件特
許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成3年1月14日,本件発明は特許法29条の2,同29条2
項,同36条5項に該当し特許を受けることができないとして,これを無効とする
ことについて審判の請求をし,特許庁は,同請求を平成3年審判第753号事件と
して審理した結果,平成4年11月25日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をした(以下「前審決」という。)。被告は,前審決の取消しを求
めて当庁に訴えを提起した。当庁では,これが平成5年(行ケ)第13号事件(以下
「前件訴訟」ということがある。)として審理され,平成7年7月11日,前審決
を取り消す旨の判決がなされた(以下「前判決」という。)。原告は,これを不服
として上告したものの,平成9年7月3日,上告棄却の判決を受け,前判決が確定
した。
(3) 特許庁は,平成3年審判第753号事件を更に審理したうえ,平成10年
4月10日,「特許第1088393号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ない
し第6項に記載された発明についての特許を無効とする。特許第1088393号
発明の明細書の特許請求の範囲第7項,第8項に記載された発明についての審判請
求は,成りたたない。」との審決をし(以下「本件審決」という。),同年7月2
9日,原告にその謄本を送達した。
2 特許請求の範囲(第1項)
「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ
相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シ
ートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残
りの概ね1/2の部分が自由坦持状態にあるように互い違いにずらして接着されて
いることを特徴とする複合シートによるフラッシュパネル用芯材。」(以下,特許請
求の範囲の第1項に係る特許発明を「本件第1発明」という。別紙図面(1)参照)
3 本件審決の理由
 別紙審決書の理由の写しのとおりである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本件審決の理由中,2頁2行ないし6頁17行(発明の要旨及び手続の経
緯)は認める。請求人(原告)の主張(1)(特許法29条1項に係る主張)に対する
認定判断のうち,9頁2行の「先願発明において」ないし8行,10頁10行ない
し17行,12頁15行ないし13頁12行,14頁18行ないし20頁4行,2
0頁5行ないし21頁1行を争い,その余を認める。
 本件審決は,本件第1発明の進歩性判断の前提として,昭和52年特許登録願第
82353号の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下,両者を併せて「先
願明細書等」という。昭和54年特許出願公開第17983号公報(甲第3号証)
参照)に記載された発明(以下「先願発明」という。)について検討するに当た
り,①先願明細書等には,ペーパーコア用シートとして「クラフト紙等の丈夫な方
形の紙」としか記載されていないにもかかわらず,特公昭29-2200号公報
(本訴の甲第4号証,審決の甲第9号証。以下「甲第4号証刊行物」という。)か
ら,本件出願当時,「段ボール」等をフラッシュパネル用芯材とすることが当業者
に周知であったと認定し,この認定と特公昭50―24534号公報(本訴の甲第
5号証,審決の甲第3号証。以下「甲第5号証刊行物」という。)とから,本件出
願当時,フラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を「複合シート」とする
ものは周知であったと認定し,その結果,先願発明は,芯材として「複合シート」
を用いることが技術的に自明であったと認定し(取消事由1),②そのうえ,先願
明細書等には,糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されている
ことを当然の前提として,本件第1発明にいう「概ね等角等辺の山形に屈曲させた
同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラ
ッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分
が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態に
あるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル
用芯材」との構成が記載されていると認定したが(取消事由2),上記各認定は,
すべて誤っているものである。そして,このように先願発明の認定を誤った結果,
本件第1発明と先願発明との相違点を看過し,進歩性の判断を誤るに至っているの
であり,本件審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決
は取消しを免れない。
1 取消事由1(先願発明に「複合シート」の記載があるとの誤認)
(1) 本件審決は,本件出願当時,フラッシュパネルにおいて,「段ボール」等
を芯材とするものが当業者に周知であったと認定するが(審決書10頁10行~1
7行参照),この認定は誤っている。
(イ) 当業者に周知な技術とは,当該技術分野において一般的に知られてい
る技術であって,より具体的には,相当多数の公知文献が既に存在するか,業界に
知れ渡るか,あるいは例示する必要がないほどよく知られているか,のいずれかの
技術をいうのである。ところが,「段ボール」をフラッシュパネル用芯材の素材と
して使用することについて記載された文献は,審決において引用した甲第4号証刊
行物(特公昭29-2200号公報)以外に全く示されていない。したがって,同
刊行物により,「段ボール」を素材として芯材とすることが先願発明より約23年
も前に公告されていたとしても,直ちに,このような素材を用いることが「当業者
に周知」であったとはいえない。また,23年前の文献しか示せないということ
は,逆に23年間いずれの文献にも記載されたことがないことを端的に示している
というべきであろう。これほどまでの長期間にわたって,段ボールはフラッシュパ
ネル用芯材としては省みられていなかったのである。このような素材が,当業者に
とってフラッシュパネルの芯材として「自明」なものであるはずがない。
 さらに,甲第4号証刊行物においては,芯材としての段ボールが示されていると
いうより,樹脂を含浸させるための素材としての段ボールが示されているにすぎな
いのであり,しかも,いったん,段ボールに樹脂を含浸してしまえば,芯材として
の強度は得られるものの,もはやこれを折り畳むことは不可能である。したがっ
て,同刊行物が,樹脂を含浸させることを予定しない「芯材」として,段ボールを
使用することを開示している,とすることはできない。
(ロ) 甲第5号証刊行物においては,「樹脂含浸のクラフト紙」又は「金
属,合成樹脂材」のほかに芯材の素材として記載されているのは,「ボール紙その
他の紙質の資材」のみであり,「段ボール」紙は,ここにいうような「ボール紙そ
の他の紙質の資材」には当たらない。また,同刊行物には,その他,「段ボール」
等といった一定の堅牢性を有する「複合シート」については全く記載されていな
い。また,同号証の技術においては,補強材が挿通されることを前提としていて,
シートそのものの強度は何ら問題とされておらず,かえって,「段ボール」などよ
りももっと薄い層を形成することが求められているといってもよいのである。
 本件審決は,甲第5号証刊行物の記載から,先願発明の出願当時,「布帛に紙を
添着したものも材料として可能であると考えられていたことが認められる」(審決
書12頁末行~13頁2行)とし,この認定から直ちに,金網に紙を添着したもの
や布帛に紙を添着したものが複合シートに該当するから,先願発明の出願当時にお
いて,フラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を複合シートとするものは
周知であったと結論づけるが,その論理には飛躍がありすぎ,失当である。
(2) 本件審決は,本件出願当時の当業者にとって,先願明細書等の記載内容
は,本件第1発明でいう「複合シート」が記載されているに等しいものであった旨
認定しているが(13頁13行~16頁8行),この点でも誤っている。
 審決の上記認定は,先願発明にいう「ペーパーコア用シート」が,「折目」を設
けるものであり,さらにこの折目に「ミシン目穴を多数形成する」ものであること
を看過してなされたものである。
 先願発明の特徴は,その構造にある。そのため,そこでは,材料には重点が置か
れておらず,材料については「クラフト紙等の丈夫な方形の紙を多数枚用意する」
との記載があるのみである。ところが,本件審決は,この「クラフト紙等の丈夫な
方形の紙」が,当業者からみると,クラフト紙を例示とする同分野で慣用されてい
るシート材のすべてを包含することになるとし,その結果,「複合シート」をシー
ト材とすることが技術的に自明であったとしているのであって,論理が飛躍してお
り,失当である。
 結局,先願明細書等に,シート材の素材としては,「クラフト紙等の丈夫な方形
の紙」という記載しかない以上,先願発明の出願当時,当業者は,同発明のシート
材の素材を,「クラフト紙」及びそれと同程度に「丈夫」な「紙」としか理解し得
なかったものというべきであり,先願明細書等に,先願発明の,シートとして複合
シートが記載されているに等しい,とした本件審決の認定は,先願発明出願当時の
技術常識を看過してなされた違法なものである,というしかないのである。
(3) 被告は,前判決において,原告主張の上記事項につき既に判断がなされ,
これが確定しており,本件審決の認定判断は,その拘束力を前提としてなされたも
のであるから,何ら違法とすべき事由はない旨主張するが,同主張は,行政事件訴
訟法33条1項を不当に拡大して解釈するものであって誤りである。
(イ) 行政処分の取消判決の効力は,取消判決本来の形成力の作用そのもの
ではない。それを補完して原告の権利救済を実行あらしめるために認められた特殊
な効力である。したがって,その目的としては,取消判決の主文を導くのに不可欠
な主要事実について裁判所がなした具体的な認定・判断の限りで生じるものであ
る。そのため,判決中の傍論や主要事実を認定する過程での間接事実についての認
定判断については,いかに明示的に説示されていても,これについて拘束力が生じ
ることはない。また,主要事実を認定する過程において,審理・認定されるべきに
もかかわらず全く看過され,あるいは遺漏のあった事実についてまで,このような
拘束力が及ぶべきではないことも,その効力の趣旨からして当然といわなければな
らない。
(ロ) そもそも,特許法上,特許権の有効性の判断は,特許庁の専権に属す
るものであり,審決取消訴訟における審理対象は,特許庁のなした判断の当否に限
定されるものであって,これを超えて裁判所が特許権の有効性を直接判断すること
が許されるわけではない。したがって,審決取消訴訟における主要事実は,特許庁
のした審決の当否であり,より具体的には,審決の判断が,審判において提出され
た証拠に基づくものとして妥当であるか否かという点である。無効審判請求事件に
つき,これを否定した審決についていえば,審決が無効請求を否定した理由が,提
出された証拠から是認し得るか否かという点である。したがって,審決取消訴訟に
おいて無効請求を否定した審決の判断が違法とされたということは,単に,審判に
おいて提出された証拠に基づく限り審決の認定では無効理由を否定しきれない,と
いうことを意味するだけであり,対象となる特許権について無効理由が存在するこ
とが確定されるものでないことは当然である。なぜならば,審決取消訴訟において
は,無効理由の有無自体が審理の対象となるのではなく,無効理由の不存在を認定
した審決の理由の当否こそが審理の対処となるからである。
2 取消事由2(先願発明に糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載され
ているとの誤認)
 本件審決は,先願明細書等には,糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に
記載されていることを当然の前提として,「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一
形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシ
ュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣
接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にある
ように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯
材」が記載されていると認定したが,この認定は誤っている。
(1) 先願明細書等の第4図は,「複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部
分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態
にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネ
ル用芯材」との技術が記載されていることの根拠とはなり得ない。
(イ) 甲第7号証(特開昭50-27876号公報)に記載されている技術
は,先願明細書等に記載されている芯材と同一形状のシートを使用していないにも
かかわらず,その第5図に示されるように,上記第4図のそれと酷似した平面形状
を呈している(別紙図面(2)の第4図及び別紙図面(3)の第5図参照)。したがっ
て,先願明細書等の第4図から,「同一形状のシートを並列かつ相互に接着してセ
ル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導くことはできない。
(ロ) また,先願明細書等の第4図(別紙図面(2)参照)においては,最上層
シート(第1枚目)の上向きの折目を基準にしてみた場合,第2枚目の上向きの折
目は「右」にずれているといえるものの,第3枚目の上向きの折目は,第2枚目の
上向きの折目に対し,「左」にずれている。したがって,その最上層シートを第1
枚目と考えると,審決のいうように第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へ
とおおむね2分の1だけずれて形成されているとはいえない。したがって,上記第
4図の形状は,先願明細書等の特許請求の範囲の欄の「以下上記の工程により第3
枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のぺーパーコア用シートの糊代部に接着
してなる」との記載と矛盾している。
(ハ) さらに,先願明細書等の第4図の最上層(第1枚目)のシートの上向
きの折目に対し,第2枚目の上向きの折目を右にずらして接着したと仮定して,第
2枚目の先を図の左へ辿っていくと,上向きの折目が全く重なり,第1枚目と第2
枚目が完全に重なって接着されていると考えざるを得ない辺がある。つまり,第4
図の第2枚目以下には,どうしても自由担持部分を持たず,全面で重なる辺が生じ
てしまう。また,第2枚目,第3枚目,第4枚目と重ねてみていくとすると,いか
なる観点からみても,第2枚目,第3枚目,第4枚目等のいずれにも属さない部分
すら生じる。この点でも,先願明細書等の特許請求の範囲の欄の記載と矛盾する。
(2) 先願明細書等の第2図に従ってペーパーコア用シートを積み重ねていく
と,到底,第4図のような構造を作り出すことはできず,全く伸張不能な芯材を得
ることしかできないことになる。
 先願明細書等の図面においては,その第1図ないし第3図によって,先願発明に
係るペーパーコア用シートの正面図,平面図等を示し,発明の詳細な説明の欄にお
いては,第2図に関して,「これらのペーパーコア用シート1の多数枚のうち第2
図に示すようにその第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗
布し,第2枚目のペーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折
目2を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部
3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパ
ーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接
着する」(2頁左上欄14行~右上欄8行)と記載され,具体的なずらし方として
は,「第1枚目のペーパーコア用シート1aに対して第2枚目のペーパーコア用シ
ート1bを裏返して引き揃えた上接着しさえすればよい」(2頁右下欄5行~7
行)と記載するのみである。第2図及び上記記載に従ってペーパーコア用シートを
順次積み重ねていくと,積み重ねられたペーパーコア用シートの糊代部は,全く一
直線に重なってしまい,フラッシュパネル用芯材として伸張できないばかりか,第
4図における糊代部の位置とは全く齟齬するものが形成されることになる。したが
って,先願明細書等の第4図は,同図以外の図面(第1図ないし第3図)と整合性
を有していない矛盾に満ちたものである。
 本件審決は,このように矛盾に満ちた先願明細書等の第4図にのみに依拠し,他
の図や明細書の詳細な説明の項の記載を無視し,先願発明の内容を把握しているの
であって,このようなことは,許されるものではない。先願明細書等から,「互い
違いにずらして接着されている複合シート」との技術を読み取ることができ,本件
第1発明と先願発明とは同一であるとした本件審決の認定判断は,明白な誤りを犯
したものといわざるを得ない。
(3) 被告は,前判決は,特許法29条の2該当性を審理対象としており,先願
発明と本件第1発明の構成は同一であると認定しているのであるから,前判決の確
定により,関係当事者は,先願発明と本件第1発明との同一性について争うことが
できない旨主張するが,失当である。仮に,確定した前判決の拘束力が原告の取消
事由1に係る事項に及ぶと認められたとしても,それが,先願発明と本件第1発明
との同一性一般に及ぶなどということはあり得ない。
 本件において,前審決は,被告の29条の2違反の主張に対し,先願明細書等の
フラッシュパネルの芯材として記載されている「クラフト紙等の丈夫な紙」は複合
シートを含むものでなく,また,複合シートをコア材料として用いることが当業者
にとって自明でないとの判断をして,本件第1発明の構成要件のうち,芯材の材料
に関するものについて検討し,先願発明にはそれが欠けているとして,それだけを
根拠に,被告の主張を退けたものであって,本件第1発明のその他の構成要件につ
いては全く判断をしていない。つまり,前審決は本件第1発明の構成要件のうち,
最も重要なシートの貼合せに関する構成については,これが先願明細書等に記載さ
れているともいないとも判断していない。したがって,前件訴訟においても,審理
の対象は,特許庁のなしたフラッシュパネルの芯材の材料についての審決の認定の
当否であり,当事者の主張もその点に集中されていたのであって,当然のことなが
ら,前判決の判断内容も,特許庁がなした,フラッシュパネルの芯材の材料の相違
についての判断を,特許庁が参酌した証拠に基づいて,違法としたことに尽きるも
のである。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(先願発明に「複合シート」の記載があるとの誤認)について
 審決を取り消す判決には,行政事件訴訟法33条1項の規定の適用がある。
したがって,その判決は,その事件について,当事者たる行政庁である特許庁を拘
束するから,更に審理を行う審判官は,再度の審決をするに当たって,判決の理由
中の判断において否定された前審決と同一の理由により前審決と同一の判断をする
ことは許されない。すなわち,取消判決の理由中の判断に拘束される。確定した前
判決は,特許法29条の2該当性を審理対象としており,①先願発明と本件第1発
明の構成は同一である,②先願発明の出願時において,フラッシュパネル用芯材と
して「複合シート」(「段ボール」を含む。)を利用することは当業者にとって周
知であった,③先願発明に「複合シート」が記載されているに等しい,などと認定
しているのであるから,これを受けてなされた本件審決は,上記判決の②及び③の
認定に反する判断をすることは許されない。本件審決は,前判決の認定に従ってな
されたものであり,正当である。
2 取消事由2(先願発明に糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載され
ているとの誤認)について
(1) 原告は,本件審決が,先願明細書等には糊代部の位置が当業者に読み取れ
る程度に記載されていることを当然の前提として,先願発明を認定したことを,誤
りであると主張する。
 しかし,前述したとおり,前判決は,特許法29条の2該当性を審理対象として
おり,先願発明と本件第1発明の構成は同一であると認定しているのであるから,
前判決の確定により,関係当事者は,先願発明と本件第1発明とに同一性が認めら
れることについて争うことができなくなったのであり,この拘束力に従ってなされ
た本件審決につき,更に先願発明と本件第1発明の同一性について争うことはでき
ないというべきである。このように解さないと,同一の引用例に関して,無効審判
及び審決取消訴訟を際限無く続けられることとなってしまい不都合である。
(2) 仮に上記主張が認められないとしても,先願明細書等には,糊代部の位置
が当業者に読み取れる程度に記載されており,そこから,「概ね等角等辺の山形に
屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形
成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1
/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由
担持状態にあるように互い違いにずらして接着されていることを特徴とする複合シ
ートによるフラッシュパネル用芯材」との構成を読み取ることができる。
(イ) 原告は,甲第7号証(特開昭50-27876号公報)の第5図を挙
げ,同図には,先願明細書等の第4図と酷似した平面形状を呈しているものが掲載
されているから,上記第4図から,「同一形状のシートを並列かつ相互に接着して
セル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導くことはできない旨主張す
る。
 しかし,上記第4図を中心に,先願明細書等のこれに関連する記載部分や同図以
外の図面をも併せて検討すれば,第4図は,各層の左端から右端までが一つのシー
トであり,これらのシートが同一形状をしているものであることを容易に理解する
ことができるのであり,したがって,先願発明の芯材の構成についても,容易に読
みとることができるのである。
(ロ) また,原告は,先願明細書等の第4図においては,最上層シート(第
1枚目)の上向きの折目を基準にしてみた場合,第2枚目の上向きの折目は右にず
れているといえるものの,第3枚目の上向きの折目は,第2枚目の上向きの折目に
対し,「左に」にずれている,したがって,その最上層シートを第1枚目と考える
と,審決のいうように第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね1
/2だけずれて形成されているとはいえないとし,第4図の形状は先願明細書等の
特許請求の範囲の欄の「以下上記の工程により第3枚目以上の各ペーパーコア用シ
ートを下方のぺーパーコア用シートの糊代部に接着してなる」との記載と矛盾して
いる旨主張する。
 確かに,最上層シートを第1枚目と考えると,本件審決が,第2枚目以下の上向
きの折目が右側へ,右側へとおおむね1/2だけずれて形成されている,としたの
は,誤っている。しかし,これは単なる誤記という程度のものであり,審決の認定
の正しさを左右するものではない。
 本件審決が,先願発明で第3枚目のシートが第2枚目のシートに対して,どちら
側にどれだけずれているかを検討しているのは,「シートが互い違いにずらして接
着されている」という本件第1発明の構成と対比をするためにすぎない。本件審決
は,本件第1発明と先願発明の構成が同一であるかどうかを検討するに当たって,
「互い違いにずらして接着されている」と記載すべきところ,誤って,すべて「右
側に」(審決書17頁)と記載してしまったのである。これが単なる誤記にすぎな
いことは,本件審決が,結論部分で,「互い違いにずらして接着されていることは
明らかである」(審決書18頁末行)と認定していることからも明らかである。
(3) 原告は,本件審決は,矛盾に満ちた先願明細書等の第4図のみに依拠し,
他の図や明細書の詳細な説明の項の記載を無視し,先願発明の内容を把握している
旨主張するが,失当である。
 先願明細書等の明細書の文言及び他の図を併せ見れば,第4図は,各層の左端か
ら右端までが一つのシートでなり,これらシートが同一形状をしていることは容易
に知ることができるというべきであり,したがって,先願発明の芯材の構成も容易
に読みとることができるというべきである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(先願発明に「複合シート」の記載があるとの誤認)について
(1) 原告の取消事由1に係る主張は,確定した前判決による拘束力の及ぶ事項
について,本訴において再度これを蒸し返えそうとするものであって,そもそも,
本訴における本件審決の取消事由とはなり得ないものである。すなわち次のとおり
である。
(2) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が
確定したときは,審判官は,特許法181条2項の規定に従い当該審判事件につい
て更に審理を行い,審決をすることになり,その際,審決取消訴訟は行政事件訴訟
法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定によ
り,上記取消判決の拘束力が及ぶこととなる。そして,この拘束力は,判決主文の
みならず,判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対し
ても及ぶものと解すべきであるから,審判官は,上記事実認定及び法律判断に抵触
する認定判断をすることは許されないことになる(最高裁判所昭63(行ツ)10
号平成4年4月28日第3小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。
(3) 証拠(乙第1号証,第2号証)及び弁論の全趣旨によれば,前判決が確定
するまでの経緯は,次のとおりである。
(イ) 被告は,平成3年1月14日,本件第1発明が特許法29条の2,同
29条2項,同36条5項に該当して特許を受けることができないものであるとし
て,これを無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,同請求を平成3年
審判第753号事件として審理し,平成4年11月25日,①本件第1発明におい
ては,複合シートを利用することがその構成要件の一つとされているのに,先願明
細書等には複合シートについて何ら記載はなく,複合シートを利用することが先願
発明において自明ともいえないから,本件第1発明と先願発明とは同一ではない,
②本件第1発明と昭和50年特許出願公開第27876号公報に記載された技術と
は,その構成を異にするから,複合シートの材質が同じであっても,これをもっ
て,当業者が後者から前者を容易に発明することができたとはいえない,③「芯材
に使用するシートに対し,その材質によって必要となる加工をすること」は,技術
常識に従って行うのが当然のことと考えられるから,特許請求の範囲にその記載が
ないからといって,特許請求の範囲に記載不備があるとはいえない,との理由で,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(前審決)。
(ロ) 被告は,前審決の取消しを求めて当庁に訴えを提起し,当庁は,これ
を平成5年(行ケ)第13号事件(前件訴訟)として審理した結果,平成7年7月1
1日,次のとおり認定判断し,前審決を取り消した(前判決)。
① 被告(前件訴訟の原告)は,複合シートをコア材料として用いること
が先願発明において自明のことであると認めることもできない,とした前審決の判
断は誤りである旨主張する。
② 段ボールが本件第1発明にいう「複合シート」に含まれることは,当
事者間に争いがない。
③ 先願発明は,べーパーコアによる芯材に関するものであるから,本件
第1発明のフラッシュパネルと対象物品を共通にするものであり,また,先願発明
においてはぺーパーコア用シートとして「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」を用い
ることは明らかであるものの,先願明細書等を精査しても,クラフト紙以外に具体
的にどのようなものを用いるかについては記載がないので,複合シートを含むか否
かはその記載自体からは明らかでない。
④ 昭和29年特許出願公告第2200号公報(甲第4号証)において
は,本件第1発明や先願発明と同じ種類の物品であるフラッシュパネルにおいて,
芯材を段ボールとしたものが示されているということができる。そして,同刊行物
が先願発明の出願時より約23年も前に刊行されたものであることを考えれば,こ
の記載事項は先願発明の出願時に,当業者に周知のことであったと認められる。
⑤ 昭和50年特許出願公告第24534号公報(甲第5号証)によれ
ば,甲第4号証に記載された技術における段ボール,甲第5号証に記載された技術
における金網に紙を添着したものや,布帛に紙を装着したものは,本件第1発明に
おける「複数の板材が層をなして接着されかつ一定の厚みを有する」という「複合
シート」に相当するものということができ,そうすると,先願発明の出願時におい
て,本件第1発明と同じフラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を複合シ
ートとするものは周知であったと認められる。
⑥ 上記④及び⑤によれば,当業者が先願発明をみた場合,その材料とし
て,「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」を1例とするような,従来のこの分野,す
なわち,ぺーパーコアの芯材の分野で材料として慣用されているシート材を,おの
ずから想起するというべきである。しかも,先願発明は,芯材が抗圧性を有するこ
とも目的の一つとしているから,フラッシュパネル用芯材として周知であって,抗
圧性の点でも有利であることが自明である「複合シート」について,当業者は,先
願発明の材料として当然これを用いることができると理解するというべきである。
⑦ そうすると,先願発明においては,芯材として,複合シートを用いる
ことが技術的に自明であるというべきである。したがって,複合シートをコア材料
として用いることが,先願発明において自明のことであると認めることもできない
とした審決の判断は誤りであり,この誤りは,本件第1発明と先願発明は同一では
ないとした審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,審決は,違法とし
て取消しを免れない。
(ハ) 原告は,これを不服として上告したものの,平成9年7月3日,上告
棄却の判決を受け,判決が確定した。
(4) 上記認定の事実によれば,本件第1発明は,複合シートを利用することが
要件とされているのに,先願明細書等には複合シートについて何ら記載はなく,先
願発明において複合シートを利用することが自明ともいえないから,本件第1発明
と先願発明は同一とは認められない,との前審決の認定判断に対して,前判決は,
先願発明においては,芯材として,複合シートを用いることが技術的に自明である
と認定し,同認定を前提として,複合シートをコア材料として用いることが,先願
発明において自明のことであると認めることもできないとした審決の認定判断は誤
りであると判断したことが明らかである。そして,上記の,先願発明においては,
芯材として,複合シートを用いることが技術的に自明である,との認定をするに当
たって,先願発明の出願時において,本件第1発明と同じフラッシュパネル用芯材
の技術分野で,その芯材を複合シート(段ボール)とするものが周知であったこ
と,先願発明において,当業者がこれをみた場合,その材料として,当然に「複合
シート」を用いることができると理解すること,を認定しているのであるから,上
記事実は,取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定であったことが
明らかである。そうすると,確定した前判決の拘束力は,上記事実認定に及ぶこと
が明らかである。
(5) 本件審決が,上記拘束力に従って,本件出願当時,「段ボール」等を芯材
とするものが「当業者に周知」であったと認定し,また,本件出願当時,当業者
が,先願発明には,本件第1発明でいう「複合シート」が記載されているに等しい
と認定したものであることは,審決の記載自体から明らかであり,原告は,この認
定について,違法であるとして非難することはできないのである。
 取消事由1に係る原告の主張は,失当である。
2 取消事由2(先願発明に糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載され
ているとの誤認)について
(1) 被告は,原告主張の取消事由2もまた,前判決の確定によって争うことが
できない旨主張するが,失当である。
 前述したとおり,前判決は,先願発明においては,芯材として,複合シートを用
いることが技術的に自明であると認定し,同認定を前提として,複合シートをコア
材料として用いることが先願発明において自明のことであると認めることもできな
い,とした審決の認定判断は誤りであるとの判断はしたものの,先願発明と本件第
1発明の構成が同一であるか否かについて,それ以上には何らの認定判断もしてい
ない。
 そうである以上,この点について,本件審決が前判決の拘束力を受けることはあ
り得ない。前審決が,本件第1発明においては,複合シートを利用することがその
構成要件の一つとされているのに,先願明細書等に複合シートについて何ら記載は
なく,先願発明において複合シートを利用することが自明ともいえないから,本件
第1発明と先願発明は同一ではない,と認定判断したのに対して,上記認定判断の
うち理由となる部分(甲)を否定してそれに基づいてその結論の部分(乙)を否定
したとしても,そこで示された前判決の内容は,甲を理由に乙の結論を導くことは
できない,ということに尽き,甲以外の理由で乙の結論が導かれるか否かについて
は何も述べるわけではないことは,当然であるからである。
(2) 甲第3号証によれば,先願明細書等には,特許請求の範囲の欄に,「(1)
一定の間隔により平行な折り目を多数本設け,多数本の折目のうち一本置きの一側
に折目に沿って糊代部を形成してなるぺーパーコア用シートを多数枚設け,第1枚
目のぺーパーコア用シートの糊代部に接着剤を塗布し,第2枚目のぺーパーコア用
シートの多数本の折目のうち一本置きの折目を第1枚目のぺーパーコア用シートの
糊代部側の折目に対して糊代部の幅の分だけ一側にかつ平行に位置をずらして第2
枚目のぺーパーコア用シートの裏面を第1枚目のぺーパーコア用シートの糊代部に
接着し,以下上記の工程により第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のぺ
ーパーコア用シートの糊代部に接着してなるぺーパーコアによる芯材の製造方
法。(2)特許請求の範囲第1項において,多数枚のぺーパーコア用シートを接着させ
た後,一定の幅によりぺーパーコア用シートの折目と直角方向に切断してなるぺー
パーコアによる芯材の製造方法。(3)特許請求の範囲第2項において,ぺーパーコア
用シートの折目にミシン穴を多数形成してなるぺーパーコアによる芯材の製造方
法。」(1頁左下欄12行~右下欄8行)との記載が,発明の詳細な説明の欄に
は,「次にこれらのぺーパーコア用シート1の多数枚のうち第2図に示すようにそ
の第1枚目のぺーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗布し,第2枚目の
ぺーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第1枚目の
ぺーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一
側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のぺーパーコア用シート1
bの裏面を第1枚目のぺーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する。以下上記
の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シート1を順次積重さね接着させ
る。その要領は第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた第2枚目のペー
パーコア用シート1bの表面における糊代部3に接着剤を塗布し,ついで第4枚目
のペーパーコア用シート1dを上記の第2枚目のペーパーコア用シート1bを第1
枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた場合と同様に多数本の折目3のうち
1本置きの折目2を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3側の折目2に
対して糊代部3の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第4枚目のペーパーコ
ア用シート1dの裏面を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3に接着す
る。」(2頁左上欄14行~左下欄6行),「第4図は本発明による芯材を伸張さ
せた状態を示す平面図である。」(3頁右上欄3行,4行)との記載があること,
先願明細書等の第4図には,上記記載に従って接着したぺーパーコア用シートを伸
張させた状態図が示されていることが認められる。
 上記認定の各記載を前提に,先願明細書等の第4図をみると,第2枚目のペーパ
ーコア用シートは,第1枚目のペーパーコア用シートの折目2(上向きの折目)と
その折目に一番近い折目2(下向きの折目)との間隔の約2分の1だけ右側にずれ
ており,第3枚目のペーパーコア用シートは第2枚目のペーパーコア用シートの折
目2(上向きの折目)とその折目に一番近い折目2(下向きの折目)との間隔の約
2分の1だけ左側にずれており,第4枚目以降も,同様にその前のペーパーコア用
シートの隣接する折目の間隔の約2分の1だけ右,左の順で交互に一方の側にずれ
ていることが認められる。
 以上によれば,先願明細書等には,本件審決が認定したとおり,「概ね等角等辺
の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル
構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞ
れ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部
分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによ
るフラッシュパネル用芯材」との構成が記載されていることを優に認めることがで
きる。
(3) 原告は,甲第7号証(特開昭50-27876号公報)に記載されている
技術は,先願明細書等に記載されている芯材と同一形状のシートを使用していない
にもかかわらず,その第5図に示されるように,先願明細書等の第4図のそれと酷
似した平面形状を呈しているから,先願明細書等の第4図から,「同一形状のシー
トを並列かつ相互に接着してセル構造を形成した芯材が示されている」との結論を
導くことはできない旨主張する。
 しかしながら,本件審決が,先願明細書等の第4図のみならず,先願明細書等の
特許請求の範囲の欄,発明の詳細な説明の欄等をも参酌して,第4図に係る糊代部
の位置を認定していることは,本件審決の記載自体から明らかである。したがっ
て,本件審決が,先願明細書等の第4図のみから,「同一形状のシートを並列かつ
相互に接着してセル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導いたとする
原告の主張は,誤った前提に立つものであり,失当である。
 また,原告は,先願明細書等の第4図をみると,最上層シート(第1枚目)の上
向きの折目に注目すると,第2枚目の上向きの折目は右にずれているといえるもの
の,第3枚目の上向きの折目は,第2枚目の上向きの折目に対し,「左に」にずれ
ているから,その最上層シートを第1枚目と考えると,審決のいうように第2枚目
以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね2分の1だけずれて形成されてい
るとはいえない旨主張する。
 最上層シートを第1枚目と考えると,本件審決が,第2枚目以下の上向きの折目
が右側へ,右側へとおおむね2分の1だけずれて形成されている,としたことが誤
っていることは,被告も認めるところである。
 しかしながら,前述したとおり,本件で論議されるべきは,先願明細書等に,本
件第1発明と同様の「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シー
トを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であっ
て,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接
着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずら
して接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯材」が記載されている
かどうかということであるから,取り上げるべきであったのは,先願明細書等に
「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シート」が「互い違いに
ずらして接着されている」という構成を有するものが記載されているか否かであっ
て,それを判断するに必要な限度を超えて右側にずれているか左側にずれているか
までも検討することは,本来,無用の事柄であったのである。そして,本件審決自
体も,結論において,「互い違いにずらして接着されていることは明らかである」
(審決書18頁末行~19頁1行)としているのであるから,本件審決のずれの方
向についての上記認定の誤りは,結論に影響するところのない軽微な瑕疵にすぎな
いということができる。
(4) 原告は,先願発明は,先願明細書等の第2図に従ってペーパーコア用シー
トを積み重ねていくと,到底,第4図のような構造を作り出すことはできず,全く
伸張不能な芯材を得ることしかできないことになるとし,本件審決は,このように
矛盾に満ちた先願明細書等の第4図にのみに依拠し,他の図や明細書の詳細な説明
の項の記載を無視し,先願発明の内容を把握しているのであって,このようなこと
は,許されるものではない旨主張する。
 確かに,先願明細書等の第2図には,各シートの糊代部3を一直線に重ねた図が
示されていることが認められ,このような接着でペーパーコア用シートを重ねる
と,第4図のような状態に伸張することができないことは明らかであり,第2図と
第4図とは両立し得ないものと認められる。
 しかしながら,先願発明に係る芯材は,特許請求の範囲の記載からも明らかなと
おり,極めて規則的で単純な構造のものであり,接着の工程を終えた後にこれを伸
張した状態を示す第4図をみれば,容易にそのことを理解することができるもので
ある。このような場合に,第2図の記載が誤っているとしても,先願明細書等の全
体をみれば,当業者であれば,直ちにその誤りに気付いて,同図においても,特許
請求の範囲の欄や発明の詳細な説明の欄に記載されているとおり,各シートを接着
するに際し「糊代部の幅の分だけ一側にかつ平行に位置をずらす」べきことを理解
し,この点に留意して先願明細書等をみることになり,第4図に示される芯材の製
造方法を明確に理解することができることが明らかである。
 したがって,先願明細書等の第4図を合理的に理解することのできないものとい
うことはできず,同図によって先願発明の内容を把握した本件審決の手法には,何
らの誤りも見いだすことはできない。
 原告の上記主張も,採用できない。
(5) その余の原告の主張も,上述したところに照らし,採用できない。
3 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,
その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本訴請求を棄却
することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適
用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官山  下  和  明
     裁判官宍  戸     充
     裁判官阿  部  正  幸
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