弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成20年6月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第5765号著作権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成20年2月25日
判決
東京都渋谷区<以下略>
原告日本放送協会
同訴訟代理人弁護士梅田康宏
同津浦正樹
同高木志伸
東京都港区<以下略>
原告日本テレビ放送網株式会社
同訴訟代理人弁護士松田政行
同齋藤浩貴
同山元裕子
同吉羽真一郎
同上村哲史
東京都港区<以下略>
原告株式会社東京放送
同訴訟代理人弁護士岡崎洋
同大橋正春
同前田俊房
同渡邊賢作
同新間祐一郎
東京都港区<以下略>
原告株式会社フジテレビジョン
同訴訟代理人弁護士前田哲男
同中川達也
東京都港区<以下略>
原告株式会社テレビ朝日
同訴訟代理人弁護士伊藤真
同太田純
同清水琢麿
東京都港区<以下略>
原告株式会社テレビ東京
同訴訟代理人弁護士尾崎行正
同飯塚孝徳
同上杉雅央
同岩知道真吾
東京都千代田区<以下略>
被告株式会社永野商店
同訴訟代理人弁護士藤田康幸
同志村新
同水口洋介
同小倉秀夫
同速水幹由
同加藤剛毅
同椙山敬士
同上沼紫野
同市川穣
同曽根翼
主文
1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙サービス目録記載のサービスにおいて,別紙放送目録記載1な
いし7の放送を送信可能化してはならない。
2被告は,別紙サービス目録記載のサービスにおいて,別紙著作物目録記載1
ないし7の番組を公衆送信してはならない。
3被告は,原告日本放送協会に対し,金273万5208円及びこれに対する
平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告は,原告日本テレビ放送網株式会社に対し,金151万0488円及び
これに対する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
5被告は,原告株式会社東京放送に対し,金151万0488円及びこれに対
する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6被告は,原告株式会社フジテレビジョンに対し,金151万0488円及び
これに対する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
7被告は,原告株式会社テレビ朝日に対し,金151万0488円及びこれに
対する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
8被告は,原告株式会社テレビ東京に対し,金151万0488円及びこれに
対する平成19年3月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
第2事案の概要等
本件は,放送事業者であり,別紙放送目録記載1ないし7の各周波数で地上
波テレビジョン放送(以下,別紙放送目録記載1ないし7の放送を総称して
「本件放送」という。)を行っている原告らが,「まねきTV」という名称で,
被告と契約を締結した者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴する
ことができるようにするサービス(以下「本件サービス」という。)を提供し
ている被告に対し,被告の提供する本件サービスが,本件放送について原告ら
が放送事業者として有する送信可能化権(著作隣接権。著作権法99条の2)
を侵害し,また,別紙著作物目録記載1ないし7の各著作物(以下,別紙著作
物目録記載1ないし7の番組を総称して「本件番組」という。)について原告
らが著作権者として有する公衆送信権(著作権。著作権法23条1項)を侵害
している旨主張して,著作権法112条1項に基づき,本件放送の送信可能化
行為及び本件番組の公衆送信行為の差止めを求めるとともに,民法709条,
著作権法114条2項に基づき,著作権及び著作隣接権の侵害による損害賠償
の支払を求める事案である。
なお,附帯請求は,いずれも,不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)で
ある平成19年3月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払請求である。
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告日本放送協会(以下「原告NHK」という。),原告日本テレビ放
送網株式会社(以下「原告日本テレビ」という。),原告株式会社東京放
送(以下「原告TBS」という。),原告株式会社フジテレビジョン(以
下「原告フジテレビ」という。),原告株式会社テレビ朝日(以下「原告
テレビ朝日」という。)及び原告株式会社テレビ東京(以下「原告テレビ
東京」という。また,原告6社を総称して「原告ら」という。)は,いず
れも放送事業者である。
イ被告
被告は,コンピュータ及びコンピュータ付属機器の製造,販売,保守,
管理及び修繕,放送設備の開発,設計,運用及びコンサルティング,並び
に電気通信事業法に基づく電気通信事業等を業とする株式会社である。
(弁論の全趣旨)
(2)原告らの著作隣接権
原告NHKは別紙放送目録記載1及び2の放送につき,原告日本テレビは
同目録記載3の放送につき,原告TBSは同目録記載4の放送につき,原告
フジテレビは同目録記載5の放送につき,原告テレビ朝日は同目録記載6の
放送につき,原告テレビ東京は同目録記載7の放送につき,それぞれ放送事
業者の権利として送信可能化権(著作隣接権)を有する。
(3)原告らによる本件番組の制作等
原告NHKは別紙著作物目録記載1及び2の番組につき,原告日本テレビ
は同目録記載3の番組につき,原告TBSは同目録記載4の番組につき,原
告フジテレビは同目録記載5の番組につき,原告テレビ朝日は同目録記載6
の番組につき,原告テレビ東京は同目録記載7の番組につき,各回の放送分
を自ら企画し,同企画に基づき自社内(協会内)で制作し,それぞれ自らの
「制作著作」である旨を表示して,放送している。
(甲1ないし6)
(4)被告の行為
被告は,「まねきTV」という名称で,被告と契約を締結した者(以下
「利用者」という。)がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴する
ことができるようにするサービス(本件サービス)を有料で提供している。
本件サービスにおいては,ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)製
の商品名「ロケーションフリー」の構成機器であるベースステーションを用
い,インターネット回線に常時接続する専用モニター又はパソコン等を有す
る利用者が,インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができ
る。
(甲11の4,甲28の3)
(5)仮処分事件
原告らは,それぞれ,被告に対し,被告が行う本件サービスが,本件放送
に係る原告らの送信可能化権(著作隣接権)を侵害していると主張して,東
京地方裁判所に本件放送の送信可能化行為の差止めを求める各仮処分命令を
申し立てた(当庁平成18年(ヨ)第22022ないし第22027号事件。
以下,これらを総称して「本件仮処分事件」という。)。
本件仮処分事件について,東京地方裁判所は,平成18年8月4日,被保
全権利についての疎明がないことを理由に原告らの申立てを却下する決定を
した。
原告らは,上記却下決定について,知的財産高等裁判所に抗告を申し立て
た(同庁平成18年(ラ)第10009ないし第10014号事件。以下,こ
れらを総称して「本件抗告事件」という。)。なお,原告らは,本件抗告事
件において,本件番組について原告らが著作権を有しており,被告が行う本
件サービスが本件番組について原告らが著作権者として有する公衆送信権
(著作権)を侵害していると主張して,本件番組の公衆送信行為の差止めを
求める仮処分の申立てを追加する旨の申立ての趣旨の変更を申し立てた。
本件抗告事件について,知的財産高等裁判所は,平成18年12月22日,
著作隣接権に基づく申立てについては,被保全権利についての疎明がないこ
とを理由に抗告を棄却し,著作権に基づく追加の申立てについては,申立て
の趣旨の変更が不適法であることを理由に申立てを却下する決定をした。
原告らは,上記決定に対して許可抗告を申し立てた(知的財産高等裁判所
平成18(ラ許)第10006ないし第10011号事件。以下,これらを総
称して「本件許可抗告事件」という。)。
本件許可抗告事件について,知的財産高等裁判所は,平成19年1月31
日,抗告を許可しないとの決定をした。
(乙1ないし3,弁論の全趣旨)
2争点
(1)本件訴えは訴権の濫用によるものとして却下されるべきものか(本案前の
答弁)
(2)本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為を行っているか
(3)本件サービスにおいて,被告は本件著作物の公衆送信行為を行っているか
(4)原告らの損害の有無及び損害額
第3当事者の主張
1争点1(本件訴えは訴権の濫用によるものとして却下されるべきものか)に
ついて
〔被告の主張〕
(1)原告らは,本件仮処分事件において,被告が原告らの送信可能化権(著作
隣接権)を侵害しているとして,著作隣接権に基づく送信可能化行為の差止
請求権を被保全権利として主張したものの,いずれも,被保全権利について
の疎明がないとして,原告らの仮処分申立てを却下する決定がされた。
原告らは,上記決定に対して抗告を申し立てたものの,いずれも,被保全
権利についての疎明がないとして,抗告を棄却する決定がされた。
原告らは,上記決定に対して許可抗告を申し立てたものの,いずれも,不
許可決定がされた。
以上のとおり,本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為
を行っているか(原告らの送信可能化権(著作隣接権)を侵害しているか)
という点については,裁判所による司法判断が既に3度行われている。
(2)本件訴訟において訴訟物とされているもののうち,送信可能化権(著作隣
接権)に基づく差止請求は,本件仮処分事件において疎明することができな
かった被保全権利そのものである。また,送信可能化権(著作隣接権)侵害
に基づく損害賠償請求は,本件仮処分事件において疎明することができなか
った事実(被告による送信可能化権(著作隣接権)侵害)の存在を前提とす
るものである。さらに,公衆送信権(著作権)侵害に基づく差止請求も,本
件仮処分事件において疎明することができなかった事実,すなわち,原告ら
が著作隣接権を有する放送を被告が主体的に不特定人に対し公衆送信したと
の事実の存在を前提とするものである。
結局,原告らは,本件仮処分事件において疎明することができなかった事
実を本件訴訟において繰り返し持ち出しているにすぎない。
(3)このようなことが許されるとすれば,著作権者又は著作隣接権者は,まず
仮処分を申し立て,これが却下されるや,抗告,許可抗告を申し立てること
により3度の司法判断を得たにもかかわらず,さらに,本案訴訟を提起して,
第一審,控訴審,上告審と3度にわたって,同一の争点についての司法判断
を得ることができることになってしまう。
そして,差止対象となる行為が被告(債務者)の事業の中核を成している
場合や被告(債務者)側がその資力において,原告(債権者)側に劣る場合
などにおいては,敗訴の危険や訴訟費用の負担などの点で,被告(債務者)
に,その財務体制を揺るがしかねない大きな負担を強いることになる。
知的財産高等裁判所が設立され,同一の事実上及び法律上の争点について,
仮処分事件と本案事件とで異なる判断がされる可能性も低いことからすれば,
原告らによる本件訴訟の提起は,資力に乏しい被告が訴訟費用の負担に耐え
かねて自滅することを期待して行われたものであるとしか考えられない。
(4)このように,被告を困窮させる目的で,同一の争点について繰り返し訴訟
を提起することは,訴権の濫用として許されず,本件訴えは却下されるべき
である。
〔原告らの主張〕
被告の主張は否認ないし争う。
2争点2(本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為を行って
いるか)について
〔原告らの主張〕
(1)本件サービスの内容等
本件サービスは,別紙サービス目録記載の内容を有する。
アソニー製「ロケーションフリー」の機能等
ロケーションフリーは,テレビアンテナやDVDレコーダーなどをつな
いだベースステーションから,別の場所にあるTVボックスや専用モニタ
ー,消費者が保有するパソコンやプレイステーション・ポータブルなどの
受信側の機器に映像を送信する商品である。
製品を購入した消費者は,家の中では無線LANを使って,ワイヤレス
で,テレビ番組やDVDレコーダーに録画した番組,CS放送やCATV
の番組を視聴することができ,外出先でも,インターネットに接続すれば
自宅にいるようにテレビ番組やDVDなどを見ることができる。
ロケーションフリーに関するソニーのホームページでは,ロケーション
フリーの使い方が紹介されており,いずれも,ベースステーションを自宅
に設置することを前提とした記載となっている。
本件サービスにおいて用いることができるロケーションフリーには,大
別して次の2系統の製品がある。
(ア)商品型番LF−X1及びLF−X5
ベースステーションと対応する専用モニターがセットになっており,
消費者は,この専用モニターでのみ放送番組を視聴することができる
(以下,上記型番の商品を総称して「専用モニター型」という。)。
なお,専用モニター型は,現在,ソニーにおいて生産中止となってい
る。
(イ)商品型番LF−PK1及びLF−PK20
ベースステーションのみで販売されている商品であり(LF−PK1
には,専用ソフトウェアであるロケーションフリープレイヤーのお試し
版がセットになっている。),消費者は,ベースステーションからの映
像を受信するため,ロケーションフリーTVボックス(LF−BOX
1),別売りの専用モニター(LF−12MT1),あるいは市販の専
用ソフトウェアであるロケーションフリープレイヤーをインストールし
たプレイステーション・ポータブルやパソコン等の機器で放送番組を視
聴することができる(以下,上記型番の商品を総称して「パソコン型」
という。)。
イ本件サービスの目的
本件サービスは,海外その他の放送地域外に居住しており,本来であれ
ば当該放送番組を見ることのできない多数の利用者に対し,インターネッ
トを通じて,有料で放送番組を視聴させることを目的とするサービスであ
る。
ウ本件サービスの仕組み
本件サービスにおいては,次の機器類が別紙1「本件サービスのシステ
ム構成」のとおりに接続されて,システムが構築されている。
(ア)テレビアンテナ
放送番組を受信する設備である。本件サービスにおいては,各ベース
ステーションから送信されるすべての放送番組は,被告の管理するテレ
ビアンテナで受信され,ブースターや分配機を経由して各ベースステー
ションに供給される。
(イ)ベースステーション
ベースステーションは,インターネット回線に接続され,専用モニタ
ー又はパソコン等からの指令に応じて,テレビアンテナから供給された
放送番組をデジタルデータ化してインターネット回線を通じて専用モニ
ター又はパソコン等に自動的に送信する機能を有する装置である。利用
者は,専用モニター又はパソコン等の操作を通じてベースステーション
に指令を行い,かかる指令に応じてベースステーションから自動的に送
信された放送データを専用モニター又はパソコン等の画面で視聴する。
(ウ)ブースター
テレビアンテナを通じて受信された放送波の出力を高める機器である
(なお,分配機に内蔵されて一体となっている場合もある。)。
(エ)分配機
放送番組を各ベースステーションに供給するための分岐点の役目を果
たす機器である。分配機は,一方において,放送番組を受信するアンテ
ナ端子にケーブルを用いて接続されており,他方において,各ベースス
テーションにも接続されている。
(オ)ハブ
各ベースステーションとルーターとの間に介在して,1つ以上のLA
N回線を束ねる役割を果たす機器である。
(カ)ルーター
ハブとインターネット回線との間に介在して,相互の信号やデータの
割り振りを行う機器である。ルーターとインターネット回線とは,LA
Nケーブル等のケーブル類を用いて接続されている。
エ本件サービスの利用手順
(ア)本件サービスへの加入手順
加入希望者は,被告のホームページにアクセスして,本件サービスの
内容を確認した上,登録予約フォームに氏名等を記入して送信すること
により,本件サービスの利用申込みを行う。
被告から,申込みを受けた事実の確認及びサービス開始時期等を通知
する電子メールを受信した利用者は,後に被告に発送するロケーション
フリーの種類を指定する内容の電子メールを返信する。
被告から機器の受入準備が整った旨の電子メールを受信した利用者は,
ロケーションフリーを購入し,又は既に購入済みのロケーションフリー
を被告のデータセンターに送付する。
(イ)入会金及び月額利用料の支払等
利用者は,被告に対し,入会金として3万1500円(税込み)及び
初回分の月額利用料5040円(税込み)を支払う。
(ウ)ベースステーションの設置及び設定並びに専用モニターの発送
被告は,利用者から送付されたロケーションフリーのうち,ベースス
テーションを被告のデータセンター内に設置して,ポート番号を割り当
てる等の必要な設定を行い,ブースターや分配機を介してテレビアンテ
ナに接続し,ハブ,ルーターを介してインターネット回線等にそれぞれ
接続する。
被告は,ベースステーションに専用モニター又はパソコン等からの指
令さえあれば,被告の供給する放送番組を自動的に送信することができ
る状態となったことを確認するテストを実施した上,専用モニター型の
場合は,当該専用モニターを利用者に発送する(パソコン型の場合には,
専用モニターの発送は行われない。)。
(エ)利用手順
a専用モニター型の場合の利用手順
専用モニター型の場合には,利用者は事前に所要の手続及び設定を
経て高速インターネット接続を確立する必要がある。
利用者は,専用モニターを操作することにより,インターネット回
線を通じて,被告がデータセンター内に設置管理するベースステーシ
ョンに対して指令を送信する。
利用者は,指令を受けたベースステーションから送信される放送番
組を受信して専用モニターで視聴することができる。
bパソコン型の場合の利用手順
パソコン型の場合には,利用者は高速インターネット接続を確立す
る必要がある。
利用者は,上記作業が終了した後,パソコン等の受信側機器をベー
スステーションに登録し,当該パソコン等の画面の流れに沿って操作
することにより,インターネット回線を通じて,被告がデータセンタ
ー内に設置管理するベースステーションに指令を送信する。
利用者は,指令を受けたベースステーションから送信される放送番
組を受信してパソコン等で視聴することができる。
(2)被告による送信可能化権(著作隣接権)の侵害(送信可能化行為の主体)
ア送信可能化行為の意義
送信可能化行為とは,①公衆の用に供されている電気通信回線に接続し
ている自動公衆送信装置(公衆の用に供されている電気通信回線に接続す
ることにより,当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有す
る装置)に情報を入力すること(著作権法2条1項9号の5イ),又は②
当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について,
公衆の用に供されている電気通信回線への接続(配線,自動公衆送信装置
の始動,送受信用のプログラムの起動その他の一連の行為により行われる
場合には,当該一連の行為のうち最後のもの)を行うこと(同号の5ロ)
により,自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ被告による送信可能化権の侵害
(ア)本件サービスにおいて,被告は,①インターネット回線に接続された
自動公衆送信装置であるベースステーションに放送番組を入力し続ける
ことにより,又は②放送番組が入力されつつある自動公衆送信装置であ
るベースステーションをインターネット回線に接続することにより,イ
ンターネットを経由して当該放送番組を利用者が視聴し得る状態におい
ている。
かかる被告の行為は送信可能化行為に該当する(上記①は著作権法2
条1項9号の5イに,②は同号の5ロに該当する。)。
(イ)被告が著作権法2条1項9号の5イの送信可能化行為を行っているこ

aベースステーションに情報を「入力」していること
(a)「送信可能化」における「入力」とは,公衆からの求めがあれば
自動的に送信できるような状態にするべく,自動公衆送信装置に情
報を流入させることをいう。
(b)本件サービスにおいて,アンテナで本件放送を受信し,アンテナ
とベースステーションとをブースター,分配機を経由して接続する
ことにより,多数並列して設置されたベースステーションに同時に
本件放送を流入させ,利用者のチャンネル選択があれば,自動的に
専用モニター又はパソコン等に送信することができるような状態を
作出し,その状態を維持しているのは,被告である。
したがって,被告は,アンテナとベースステーションとを接続し,
アンテナで受信した本件放送を各ベースステーションに流入させる
ことによって,各ベースステーションに著作権法2条1項9号の5
イの情報の「入力」を行っている。
(c)本件サービスにおいて,被告はブースターを用いている。この事
実により,被告が本件放送を「入力」しているというべきことがよ
り一層明らかである。
すなわち,被告は,本件放送を本件サービスに適した状態までブ
ースターを用いて増幅しており,被告により増幅された本件放送が
ベースステーションに「流入」しているのであるから,本件放送の
「流入」は,被告の意思と行為に基づいて生じているということが
でき,「入力」の主体が被告であることは明らかである。
(d)ベースステーションとテレビアンテナとを接続するためには,ア
ンテナ端子とベースステーション背面のVHF/UHF端子とをア
ンテナ接続ケーブルで接続(ケーブルテレビを接続する場合には,
ベースステーションの背面のビデオ入力端子にケーブルテレビのホ
ームターミナルを接続)する必要がある。VHF/UHF端子もビ
デオ入力端子もいずれも「入力端子」であるから,入力端子に本件
放送を流入させることが情報の「入力」に当たることは明らかであ
る。
また,近時「入力型自動公衆送信」による放送の同時再送信に係
る権利制限に関する著作権法の改正がされており,仮に,アンテナ
で受信した放送をアンテナから自動公衆送信装置(の入力端子)に
流入させることが情報の「入力」ではなく,自動公衆送信装置にお
ける受信の一環であるとすれば,「入力型自動公衆送信」とはいか
なる方式による自動公衆送信を指すのか理解することができない。
(e)著作権法38条2項は,集合住宅の屋上部分に設置したアンテナ
で受信が生じることを当然の前提として,アンテナから各戸への送
信を同時再送信ととらえ,非営利かつ無料の場合に限ってこれを許
容している(集合住宅の屋上部分に設置したアンテナから各戸への
同時再送信を有料で行った場合には当然に違法である。)。著作権
法は,単なるアンテナと配線の提供にすぎないアンテナから各戸へ
の情報の伝達についても,アンテナ等の設備を設置管理している者
による送信ととらえている。
有線テレビジョン放送法上も,集合住宅やテナントビルのオーナ
ーは,テレビジョン放送を受信して各区画に伝達(有線放送)する
ことについて有線放送事業者として放送事業者から再送信の同意を
得る必要があるとされ,アンテナから各区画までの放送番組の伝達
は受信の一環ではなく,集合住宅やテナントビルのオーナーによる
有線放送と解されている。
(f)被告の主張について
ⅰ被告は,「入力」とは「自動公衆送信装置」に対して行われる
ことを意味しており,自動公衆送信装置以外の装置に入力しても,
「入力」には該当しない旨主張する。
しかしながら,「入力」を被告が主張するように限定して解釈
しなければならない理由はない。
ⅱ被告は,顧客の操作がなければ,ベースステーションに入力さ
れたアナログ放送波はインターネットで伝達可能な状態にならな
いので,そのような情報の入力は「入力」に当たらない旨主張す
る。
しかしながら,「入力」を被告が主張するように限定して解釈
しなければならない理由はない。
本件サービスにおいて,ベースステーションにアナログ放送波
が入力された時点で,自動的に送信可能な状態になっているので
あるから,被告の上記主張は誤りである。かかる顧客の操作は,
「公衆からの求め」にほかならず,あらゆる自動公衆送信に必要
な行為である(著作権法2条1項9号の4)。
b本件サービスの利用者は「公衆」に該当すること
「公衆」か否かは,行為者から見て,不特定又は特定多数の者かど
うかによって判断されなければならない。
本件サービスにおいて,アンテナで受信した本件放送を多数のベー
スステーションに「入力」しているのは被告であり(仮に,ベースス
テーションとインターネット回線との接続が「入力」よりも後で行わ
れている場合には,「接続」を行っているのは被告であることはいう
までもない。),これによって本件放送を専用モニター又はパソコン
等に自動的に送信し得るようにしている。
したがって,本件サービスにおいて,行為者である被告から見れば,
利用者は不特定の者であるから,「公衆」に該当する。
cベースステーションは「自動公衆送信装置」に該当すること
(a)「自動公衆送信装置」とは,電気通信回線であるインターネット
回線に接続することにより,「当該装置に入力される情報を自動公
衆送信する機能を有する装置」(著作権法2条1項9号の5イかっ
こ書)をいう。
(b)本件サービスにおいて利用者は「公衆」であるから,本件サービ
スに供されているベースステーションは,電気通信回線であるイン
ターネット回線に接続することにより,当該ベースステーションに
入力される本件放送を公衆である利用者からの求めに応じて自動的
に送信する機能を有する装置として,「自動公衆送信装置」に該当
する。
(c)被告の主張について
被告は,ベースステーションが自動で行い得るのは「1対1」の
情報の伝達のみであるから,「公衆」への送信を行う機能を有する
装置ではないとして,ベースステーションは「自動公衆送信装置」
に該当しない旨主張する。
しかしながら,ベースステーションが「1対1」の情報の伝達し
か行うことができないということは,ベースステーションの自動公
衆送信装置該当性を否定する根拠にはならない。
すなわち「公衆」とは,不特定又は特定多数の者をいい(著作権
法2条5項参照),「公衆」への送信かどうかは,サーバなどの機
器から見て不特定又は特定多数の者に送信されるかどうかではなく,
送信行為者から見て不特定又は特定多数の者に送信されるかどうか
で判断される。
本件サービスにおいて,放送番組を利用者に送信しているのは被
告であり,被告にとって利用者は不特定の者であるから,「公衆」
に当たる。
したがって,たとえベースステーションが自動的に行い得るのが
「1対1」の情報伝達のみであったとしても,本件サービスにおい
て,ベースステーションが公衆である利用者からの求めに応じて自
動的に送信する機能を有する装置(自動公衆送信装置)に該当する
ことは明らかである。
d本件放送がベースステーションに入力された時点で「自動公衆送信
し得る」状態になっていること
(a)本件サービスにおいては,ベースステーションに放送番組が入力
された後は,公衆である利用者のチャンネル選択に応じて,放送番
組は機械的・自動的にデジタルデータ化され,利用者の専用モニタ
ー又はパソコン等に送信されることになる。したがって,放送番組
がベースステーションに入力された時点で「自動公衆送信し得る」
ようになっていることは明らかである。
(b)たとえアナログ放送波のままであっても,ベースステーションに
流入しさえすれば,その後は,利用者のチャンネル選択に応じて,
機械的,自動的にデジタルデータ化を含めた一連の送信プロセスが
開始されるのであるから,デジタルデータ化されなくてもアナログ
放送がベースステーションに流入した時点で「自動公衆送信し得
る」ようになっている。
送信可能化の定義の中には,「自動公衆送信し得る」のはデジタ
ルデータ化されたデータのみである旨の限定はないから,条文の文
理解釈上も,「自動公衆送信し得る」という文言の中に「アナログ
がデジタルデータ化されたとき」という意味を読み込むことは不可
能である。
なお,アナログ放送がベースステーションに流入した時点で「自
動公衆送信し得る」ようになっているのであるから,デジタルデー
タ化を行うベースステーションを利用者が所有していたとしても,
このことは主体性の判断には関係がない。
(c)「自動公衆送信」は,公衆からの求めに応じて自動的にされるも
のである。
利用者のチャンネル選択を契機として,本件放送はベースステー
ション内部で自動的にデジタルデータ化されて送信されるのである
から,利用者のチャンネル選択は,単なる「公衆からの求め」にす
ぎない。
著作権法2条1項9号の4の自動公衆送信の定義中の「公衆から
の求め」とは,サーバ等の送信を行う機器に対する,遠隔操作によ
りデータ送信をさせるための指令を指す。このことは,データベー
スのオンラインサービス等を念頭に置いたその立法意図からして明
白である。被告が利用者によるチャンネル選択はベースステーショ
ンへの遠隔操作によりデータ送信させるための指令であると強調し
たところで,利用者によるチャンネル選択は「公衆からの求め」に
すぎないことを自ら裏付けているにすぎない。
平成18年改正に際し,IPマルチキャストは自動公衆送信であ
るとの前提が立法過程において確認されている。IPマルチキャス
トは,チャンネルを選択することにより利用者が求める番組を視聴
することができるサービスであって,利用者が選局したデータをI
P局内装置に送信したことに応じて,受信者の選択したチャンネル
の番組のみ最寄りのIP局内装置から送信するものであり,本件サ
ービスと同様のサービスである(IP局内装置がベースステーショ
ンに相当する。)。特に,利用者が自動的にテレビ番組を送信する
機器に対して遠隔操作によりデータ送信をさせるための指令(チャ
ンネル選択)を行っている点で全く同一である。かかるIPマルチ
キャストについては,利用者のチャンネル選択は「公衆からの求
め」にすぎないと当然に判断されている。よって,本件サービスに
おける利用者によるチャンネル選択も「公衆からの求め」にすぎな
いことが明らかである。
e以上によれば,被告の上記行為は著作権法2条1項9号の5イの送
信可能化行為に該当する。
(ウ)被告が著作権法2条1項9号の5ロの送信可能化行為を行っているこ

自動公衆送信装置であるベースステーションがインターネットに接続
され,自動公衆送信し得る状態となるためには,インターネット回線へ
の物理的な配線のほか,ベースステーションを起動し,さらにポート番
号の変更などの必要な設定を行わなければならない。
被告は,被告が調達し,必要な設定を行ったルーター,LANケーブ
ル及びハブを経由して,被告の調達した接続回線により多数のベースス
テーションをそれぞれインターネットに接続し,電源を供給し,起動し
て,ポート番号の変更などの必要な各種設定を行っている。
上記被告の行為のうち,最後に行われたものは,著作権法2条1項9
号の5ロの送信可能化行為に該当する。
ウ実質的にも送信可能化の主体は被告であること
上記のとおり,本件サービスにおいて,被告は,著作権法2条1項9号
の5の送信可能化に該当する行為を行っている。加えて,以下のとおり,
被告は,実質的にも送信可能化と評価し得る行為を行っていることから,
送信可能化の主体が被告であることは明らかである。
(ア)本件サービスの目的,本質
a被告のホームページに掲載されている「まねきTVサービスのご紹
介」の冒頭には,「面白いTV番組はジャンルを問わず誰もが見たい
ものです。しかし,今までテレビ番組は電波の届く範囲に限られたり,
他の放送局が番組を購入し放送していました。そこでインターネット
を利用してテレビ番組を自由に見られることが手軽に安心して利用出
来たら素晴らしいと思いませんか。例えば,海外や首都圏エリア以外
に住んでいる人が首都圏の番組を自由に見られたらとても楽しい事で
しょう。」との記載があり,そこで被告は本件サービスを開始したと
している。この記述からすると,本件サービスは,首都圏エリアのテ
レビ放送の電波が届く範囲外である海外や首都圏エリア以外に住んで
いて,首都圏の番組を自由に見ることができない人を,首都圏の番組
を自由に見ることができるようにすることを目的としたサービスだと
いうことになり,被告はそのように本件サービスを紹介している。
b本件サービスによって,本件放送が被告の事業所を起点として,放
送対象地域外の世界各地の多数の利用者に向けて送信される結果が生
じているという客観的事実に加え,本件サービスが,海外その他の放
送対象地域外に居住し,本来であれば,当該放送対象地域内の放送番
組を見ることができない多数の利用者にインターネットを通じて有料
で視聴させることを目的として営利事業として行われるサービスであ
ることに照らせば,本件サービスは,ケーブルテレビやIPマルチキ
ャストなどの放送番組の同時再送信サービスと本質的に異ならない。
c利用者がベースステーションを所有するのは,本件サービスに加入
して放送番組の送信を受けるためには,ベースステーションの購入が
必要であるとされているからにすぎない。
他方で,被告は,利用者にベースステーションを購入させて,それ
を被告の事業所に送付又は持参させることによって,ベースステーシ
ョンを現実に占有し,被告が所有する他の機器類と接続するなどして
全体を一体として管理し,他の機器類と同様にベースステーションを
本件サービスの用に供している。被告が利用者からベースステーショ
ンを受け取るのは,そのベースステーションを用いて,当該利用者に
放送番組を送信して視聴させるためにほかならず,それ自体は本件サ
ービスの目的でも本質でもない。
d被告は,本件放送をサービスに適した画質でストリーミング「送
信」するため,高速インターネット回線などの環境を自ら整えるとと
もに,ポート番号の変更のほか,「送信」に必要な機器類の接続・設
定もすべて行っており,これらも当然に本件サービスの内容に含まれ
ている。
ベースステーションから利用者に対する放送番組の「送信」を本件
サービスの内容から除外することは実態に即さない。
(イ)被告による管理,支配性
a被告は,①多数のベースステーションを被告の事業所内に設置した
上で,②これら多数のベースステーションに電源を供給,起動して,
ポート番号の変更などの必要な各種設定を行い,③テレビアンテナで
受信した本件放送をこれら多数のベースステーションに供給するため
に,被告が調達したブースターや分配機を介した有線電気通信回線に
よってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションとを接続し,
④被告が調達し,必要な設定を行ったルーター,LANケーブル及び
ハブを経由して,被告の調達した接続回線によりこれら多数のベース
ステーションをインターネットに接続し,かつ,⑤以上のような状態
を維持管理している。
これら①ないし⑤の行為は,いずれも本件放送の対象地域外に居住
している利用者に本件放送を同時再送信して視聴させるという目的を
実現するために行われており,いずれもそのために不可欠な行為であ
る。
しかも,被告は,営利事業として利用者を募集し,有料(入会金3
万1500円,月額5040円)で本件サービスを提供している。
b以上のとおり,本件サービスにおいて,被告は,本来であれば,本
件放送を見ることができない放送対象地域外の多数の利用者にインタ
ーネットを通じて本件放送を送信することができる状態にすることを
発意し,多数の放送波の中から本件放送を送信可能とすることを決定
し,送信することができる状態にするための機器を自己の管理下に設
置して,必要な設定をすべて行い,自ら受信した本件放送を自動公衆
送信装置であるベースステーションに入力して「自動公衆送信し得
る」ようにし,このような状態を維持管理するだけでなく,かかるサ
ービスを営利事業として利用者に提供することによって,利用者から
経済的利益を得ている。
c被告は,事業所(データセンター)の場所を変更することによって,
本件放送以外にも,BS放送,CS放送,放送大学,MXテレビ,そ
の他の放送対象地域で放送されている放送番組を利用者に視聴させる
ことが可能である。
一方,利用者は,被告の設定する範囲以外の放送を視聴することは
できない。
このように本件サービスにおいて送信可能な放送の範囲は,被告が
設定する範囲の放送に限定されている。
d以上によれば,本件サービスにおける被告の行為は,送信可能化と
評価すべき実質を十分に備えている。
(ウ)行為主体性
a本件において,本件放送は,テレビアンテナで受信されてから,種
々の機器類,行為等を経て,最終的に利用者側のベースステーション
まで送信されている。
したがって,送信可能化行為の主体を判断するに際しては,テレビ
アンテナによる本件放送の受信から,利用者の受像機(利用者側のベ
ースステーション)までの間の影像データの流れに関与した以下の各
行為を評価した上で,行為主体を決する必要がある。
(a)本件放送を取り込むべきテレビアンテナを確保した上でのテレビ
アンテナの接続
(b)テレビアンテナからアンテナ端子・ブースター・分配機・アンテ
ナケーブル・ルーター・ハブ・LANケーブル等のそれぞれを設置
した上での各接続行為
(c)被告の保管場所にあるベースステーションを設定した上での,こ
のベースステーションと上記(b)の機器類との接続
(d)インターネット環境を整備した上での,インターネットと被告の
保管場所にあるベースステーションとの接続
(e)継続して行われるための機器等の維持・管理行為
上記(a)ないし(d)の接続等の行為は,いずれも送信可能化行為
(その最後の行為が送信可能化行為)となり得る行為である。
なお,利用者によるベースステーションの操作は,送信可能化行為と
はなり得ず,オン・デマンド送信等におけるデマンド(送信要求行為)
に該当するにすぎない。
また,本件における放送の視聴は瞬間的・単発的な行為ではなく,継
続的な行為であるから,その行為主体を判断する場合には,(e)も上
記の設置,接続等の行為と共に行為主体の判断に不可欠の行為である。
本件においては,(a)ないし(d)の行為を発意したのは被告であ
り,それに基づき経済的利益を得ているのも被告であり,上記行為につ
いて表象・認識・意図を持つ者も被告であり,上記行為の身体的動静を
行っている者も被告であるから,その行為主体は被告である。また,被
告は,被告の事業所内において,調達したブースターや分配機を介した
有線電気通信回線によってテレビアンテナとこれら多数のベースステー
ションとを接続し,被告が調達し,必要な設定を行ったルーター,LA
Nケーブル及びハブを経由して,被告の調達した接続回線によりこれら
多数のベースステーションをインターネットに接続し,かつ,上記のよ
うな状態を維持管理しているのであり,(e)の行為主体も被告である。
b本件において問題となっているのは,入力型の自動公衆送信の主体で
あり,入力型の自動公衆送信にあっては,送信可能化行為は,自動公衆
送信装置への情報入力行為に限られない。自動公衆送信装置への情報入
力,自動公衆送信装置の公衆通信回線への接続,自動公衆送信装置の起
動及び設定,のいずれかの行為のうち「自動公衆送信(公衆からの求め
に応じ自動的に行う公衆送信)し得るようにする」最後のものを行うこ
とは,いずれも送信可能化行為である(著作権法2条1項9号の5,同
号の4)。
本件においては,「公衆からの求め」に該当する利用者のチャンネル
選択に応じて,ベースステーションから自動的に送信が行われる状態を
上記各行為によって作出することが送信可能化に当たるのである。そし
て,そのような行為及びこれに密接に関連する行為として考えられる行
為はすべて被告がその発意の下に行っているのであるから,送信可能化
行為の主体は被告である。
(3)本件サービスにおいて,被告事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送
信装置を構成しており,被告がこれを管理支配して送信可能化行為を行って
いること(選択的主張)
ア被告事業所内のシステム全体を一つの装置ととらえるべきであること
本件サービスにおいては,テレビアンテナが,アンテナ線,分配機及び
ブースターを介して,複数のベースステーションに接続され,放送が入力
され続けるようになっている。一方,複数のベースステーションは,LA
Nケーブル,ハブ及びルーターを介して高速インターネット回線に接続さ
れ,結果,放送番組が利用者に送信されるようになっている。
このようなシステムは,あらかじめ被告が構想した全体構成に従って構
築されたものであり,かつ,ベースステーション以外の機器はすべて被告
が所有し,ベースステーションを含めシステムを構成するすべての機器は
被告が占有しているものであり,ベースステーションを含むすべての機器
の設置,機器間の結線等もすべて被告が行っている。
また,被告は,本件放送をサービスに適した画質でストリーミング「送
信」するため,高速インターネット回線などの環境を自ら整えるとともに,
ポート番号の変更のほか,「送信」に必要な機器類の接続,設定もすべて
行っている(被告のシステムにおいては,インターネットへの送受信を一
つのルーターにより行うために,多数のベースステーションを統合したシ
ステム全体を1台のコンピュータとして認識することができるようにする
「ポートフォワーディング」が用いられている。すなわち,被告のシステ
ムは,多数のベースステーションをあたかも一つのコンピュータ内の複数
のアプリケーションであるかのように仮想する技術によって,インターネ
ット上において一つのコンピュータと認識されるようにすることにより,
そのための設定が行われた一つのルーターから一つのグローバルIPアド
レスを用いた送受信が可能であるように構築されている。)。
唯一被告の所有に属さないベースステーションについても,被告の勧誘
に応じて,全体構成に組み入れられることを前提として,利用者が送付す
るにすぎず,被告の直接占有下において,被告によってシステムに組み入
れられているのである。他方,利用者は,本件システムを説明した被告作
成のホームページに従って加入申込みを行い,指定のベースステーション
を被告のデータセンターあてに送付しているにすぎない。
以上によれば,ベースステーションを含めた被告のデータセンター内の
システム全体が,一つの特定の構想に基づいて機器が集められ,それらが
有機的に結合されて構築された一つの「装置」となっており,被告が電源
の供給も含め,送信可能化が継続できるようにこれを維持管理していると
いえる。
イ本件サービスの利用者は「公衆」に該当すること
申込みを行いベースステーションを送付してくる不特定の者に対して,
システムを提供して送信を行っている以上,そのような利用者への送信が,
公衆送信に該当することは明らかであるし,個々の送付されたベースステ
ーションとその所有者との関係では特定のアドレスあての送信であっても,
一体として構成された本件システムからの不特定又は多数の利用者への送
信である以上,「公衆性」が否定されるものではない。
ウ本件システムは,被告事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信装
置を構成しているものであり,被告がこれを一体として管理・支配してい
るものである。
被告が,本件システムを用いて行っている送信は,被告に申込みを行い,
ベースステーションを送付してくる不特定又は多数の者(利用者)に対し
て行われているものであるから,送信可能化行為に該当する。
(4)被告の主張について
アソニーの設定サービスとの相違
本件サービスとソニーの設定サービスとは,以下のとおり,本質的に異
なっており,ソニーの設定サービスが適法であるとしても,そのことは,
本件サービスの適法性を基礎付ける理由とはならない。
(ア)本件サービスにおいては,被告が自らの事業所内において,ベースス
テーションを含むすべての機器類を,直接占有して継続的に管理してい
る。また,被告は,アンテナ設備があり,かつ,本件放送を良好に受信
することができる地域にある居室を賃借して,ベースステーションの保
管場所とすることにより,本件放送の入力に必要な環境を自ら準備,確
保している。
他方,ソニーの設定サービスには,上記のような事情は一切存在しな
い。すなわち,ベースステーションの設置場所は顧客の自宅等であり,
ソニーは,ベースステーション及びその他の機器類の占有,管理には一
切関与しない。また,放送を受信することができる環境を確保して放送
を取得しているのも当該顧客であり,ソニーは送信の対象となる放送の
範囲の確定には関与していない。
以上のとおり,本件サービスとソニーの設定サービスとでは,機器類
が事業者の管理支配下で管理されているか否か,録画,送信等すること
ができる放送番組は,事業者が機器を設置する場所において受信可能な
ものに限られているか否かという点で異なる。
(イ)ソニーの設定サービスにおいては,ベースステーションに入力される
本件放送は,利用者自身が自宅等において受信して取得するものである
から,ソニーの設定サービスは,ソニーから利用者に対して本件放送を
送信して提供することを目的とはしていない。
これに対し,本件サービスにおいては,被告自身が取得した本件放送
をベースステーションに入力することによって,本来であれば本件放送
を取得することができないはずの利用者に対し,本件放送を送信して提
供することを唯一の目的とするサービスである。
(ウ)本件サービスにおいては,被告の事業所から,多数の利用者に対して
同時に,一斉に本件放送が送信されるのに対し,ソニーが設定サービス
を行う利用者宅からは,当該利用者1人に対してしか本件放送は送信さ
れない。
(エ)これらに加え,ソニーの設定サービスは,次の点において,本件サー
ビスと異なっている。
a送信の対象となる本件放送は利用者が受信するものであり,ソニー
はその選定に全く関与しないこと
b本件放送の入力及びネットワークとの接続並びに送信が生じる場所
も利用者の自宅等であり,ソニーとは関係がないこと
c入力に必要な分配機,ケーブル等の機器も,すべて利用者等の所有
であり,ソニーは所有も調達も管理もしていないこと
d出力に必要なハブ,ルーター,光ファイバー等もすべて利用者等の
所有であり,ソニーは所有も調達も管理もしていないこと
e送受信に必要なプロバイダとの契約締結等も行っていないこと
fベースステーションを含む送信に必要な機器類の全体を継続的に管
理するのも利用者であって,ソニーは関与しないこと
g設定作業自体も,利用者の面前で,利用者の監督下で行われるにす
ぎないこと
hソニーは当初の設定作業の作業代を受領するだけであって,その後
に生じる本件放送の送信について継続的に対価を受領することはない
こと
イハウジングサービスとの相違
(ア)被告は,本件サービスはベースステーションの寄託に当たる旨主張す
る。
しかしながら,本件サービスはベースステーションの保管を主たる目
的とするものではない。すなわち,被告は,ベースステーションをアン
テナ端子やインターネット回線に接続等することにより,利用者が放送
番組を視聴することができるようにするために,専らそのための手段と
してベースステーションの占有を取得しているにすぎないのである。本
件サービスにおける被告の行為を「寄託」と評価するのは誤りである。
(イ)本件サービスと一般的なハウジングサービスとは,事業者の手元に機
器が置かれるという外形がたまたま類似しているにすぎず,その目的や
本質は全く異なる。
すなわち,一般的なハウジングサービスは,利用者自身がサーバを保
管,管理する場合に比べて,耐震設備等の安全性,空調設備,セキュリ
ティシステム,専門家によるメンテナンス等のメリットがあるために利
用されるているといえる。ハウジングの対象となるような業務用サーバ
の多くは精密機械であって,慎重な取扱いを要するのが通常であり,ま
た,重要性,機密性の高い情報が蔵置されていることも多い。一般的な
ハウジングサービスにおいては,ハウジング業者から利用者に対して情
報を提供することを目的とはしておらず,実際にも提供していない。
他方,本件サービスは,ベースステーションに本件放送を入力して送
信することにより,利用者に放送番組を提供して視聴させることが唯一
の目的である。利用者が本件サービスに加入するのは,被告から放送番
組を送信してもらって視聴するためである。ベースステーションは,重
要性,機密性の高い情報が蔵置されているわけでもなく,特別に慎重な
取扱いを要するわけでもないから,これを預かってもらうこと自体のメ
リットは希薄である。
(ウ)利用者は,本件サービスにおいて,耐震設備等の安全性,空調設備,
セキュリティシステム,専門家によるメンテナンスといった,一般的な
ハウジングサービスにおけるメリットは享受していない。それにもかか
わらず,一般的なハウジングサービスと同程度の対価を支払っていると
すれば,それは,一般的なハウジングサービスにはないメリットを享受
することができるからであり,それは,本件放送の送信を受けることが
できることでしかあり得ない。
(エ)一般的なハウジングサービスの場合,利用者がハウジングされている
サーバと手元のコンピュータとの間で移動させるデータは,ハウジング
業者とは無関係に利用者が保有するデータであって,ハウジング業者が
データを提供することはない。
これに対し,本件サービスの場合,ベースステーションから送信され
るのは,被告がベースステーションに入力した本件放送であり,被告か
ら利用者にデータが送信されて提供されている。
〔被告の主張〕
(1)本件サービスの内容等
本件サービスの内容が,「東京都内の被告の事業所内において,各利用者
からの委託に基づき引渡しを受けたソニー株式会社製「ロケーションフリ
ー」のベースステーションを保管し,これを,ブースター及び分配機等を介
して同所のアンテナ端子と接続し,かつ,ハブ及びルーター等を介してイン
ターネット回線に接続することにより,同所で受信することができるアナロ
グ地上波VHFテレビジョン放送番組を,各利用者がその所有するベースス
テーションを利用して視聴するための接続環境を供給するサービスであって,
被告が「まねきTV」との名称により運営を行っているものである」ことを
認め,別紙サービス目録の記載のうち,これに反する部分は否認する。
被告が「まねきTV」との名称で行っているサービスは,ソニー製品であ
るロケーションフリーのベースステーションの寄託を受け,保管するサービ
スである。
アソニー製「ロケーションフリー」の機能について
ロケーションフリーは,製品を購入した消費者の自宅内ではLANを用
い,自宅外ではインターネット回線を用いることで,外出先や海外等にお
いてもテレビ放送の視聴を可能にする機能(このうち,外出先や海外等に
おいてテレビ放送の視聴を可能にする機能を「NetAV機能」とい
う。)を有する装置である。
ロケーションフリーを構成する装置であるベースステーションは,テレ
ビチューナーを内蔵し,テレビアンテナから入力されたアナログの放送波
をデジタルデータ化し,対応する専用モニター又はパソコン等からの指令
に応じて,インターネット回線を通じて当該モニター又はパソコン等へ上
記デジタルの放送データを自動的に送信する機能を有する。
イ利用のための準備作業
ロケーションフリーテレビを使用するためには,専用モニター型でも,
パソコン型でも,まず,ロケーションフリーの機器を購入し,必要な電源
及びテレビアンテナを確保するほか,インターネット回線と接続するため
のADSL回線等の利用契約及びインターネットのプロバイダーとの間の
契約を締結し,ルーター等を用意する等の高速インターネット接続が可能
になる環境を確保する必要がある。
ウ外出先からのテレビ放送視聴の手順
ユーザーは,専用モニター型を使用する場合には専用モニターのLAN
端子とインターネット回線に接続されている外出先のルーターのLAN端
子とをLANケーブルで接続するなどし,パソコン型を使用する場合には
パソコンのLAN端子と上記の外出先のルーターのLAN端子とをLAN
ケーブルで接続するなどして,専用モニター又はパソコン等がインターネ
ット回線と接続された状態にする。
その後,ユーザーは,専用モニター型の場合には,専用モニターの電源
を入れ,画面下部の「NetAV接続」ボタンを押す。パソコン型の場合
には,パソコン等の電源を入れ,専用ソフトウェアを起動し,最初に現れ
る「ベースステーションの選択」画面で「接続」ボタンを押す。
そうすると,外出先の専用モニター又はパソコン等と自宅のベースステ
ーションとの間でインターネット回線を通じて交信が行われ,ソフトウェ
アによる接続作業が完了すると,ベースステーションからデジタル化され
た放送データがインターネット回線を通じて専用モニター又はパソコン等
に送信され始めるようになり,テレビ放送を視聴することができる。この
際,専用モニター又はパソコン等の画面の一部に視聴可能なチャンネルを
示す子画面が表示されるので,同子画面中の任意のチャンネルを選択して,
好きな放送局に切り替えることができる。
なお,これらのようにして外出先からユーザーが随時テレビ放送を視聴
することができるようにするためには,外出前にあらかじめベースステー
ションの電源を入れておく必要がある。
エ本件サービスの目的
本件サービスの目的は,被告において,ベースステーションに所要の接
続をし,被告の事業所で保管及び管理することで,海外や,本来であれば
放送波が届かない地域に居住している利用者等でも,任意に希望するテレ
ビ放送を視聴することができるようにすることにある。
オ本件サービスの仕組み
(ア)本件サービスにおいて使用されている機器類の種類,接続方法につい
ては,①ベースステーションの機種は,LF−PK1だけでなく,LF
−X1及びLF−PK20も混在していること,②ベースステーション
の個数については,解約等により,随時若干の増減があり,当初はベー
スステーションが接続されていた箇所に何も接続されていないことがあ
ること,③被告はテレビアンテナを設置しておらず,賃借家屋内のテレ
ビ用接続端子を利用しているだけであること(その端子とアンテナとの
接続は確認できていないものの,いずれかの場所に設定されている難視
聴対策用のアンテナと接続されているものと思われる。)を除き,別紙
1「本件サービスのシステム構成」のとおりであることを認める。
なお,平成19年7月29日現在,本件サービスの利用者は74名で
あり,被告の事業所内に設置されているベースステーションの台数は7
4台である。ベースステーションの利用に供するために使用しているル
ーターは4台,ハブは4台,分配機は22台,ブースターは1台である。
(イ)本件サービスにおいて使用されるソフトウェアは,いずれもソニーが
開発したものであり,被告が独自に準備したソフトウェアは使用されて
いない。
以下の機器類のうち,ベースステーションは利用者が所有し,それ以
外の機器類は,すべて汎用品であり,本件サービスに特有のものではな
い。
aベースステーション
ベースステーションは,インターネット回線に接続されて,放送波
をデジタルデータ化してインターネット回線に送信することができる
機器であり,デジタルデータ化された放送データはインターネット回
線を通じて専用モニター又はパソコン等へ送信される。利用者は専用
モニター又はパソコン等の操作を通じてベースステーションに指令を
行い,ベースステーションから送信された放送データを受信して,専
用モニター又はパソコン等の画面で視聴する。
bブースター
電気信号を増幅する機能を有する機器である。
c分配機
分配機は,一方において,テレビの放送波(地上波)を受信するア
ンテナ端子にケーブルを用いて接続されており,他方において各ベー
スステーションにも接続されている。放送波を各ベースステーション
に供給するための分岐点の役目を果たす。
dハブ
各ベースステーションとルーターとの間に介在して,一つ以上のL
AN回線を束ねる役割を果たす機器である。
eルーター
ハブとインターネット回線との間に介在して,相互の信号やデータ
の割り振りを行う機器である。なお,ルーターとインターネット回線
とは,LANケーブル等のケーブル類を用いて接続されている。
カ本件サービスの利用手順
(ア)本件サービスへの加入手順
利用希望者は,本件サービスのホームページにアクセスして,本件サ
ービスの内容を確認した上,登録予約フォームに氏名等の必要事項を記
入して送信することにより本件サービスの利用申込みを行う。
被告から,申込みを受けた事実の確認及びサービス開始時期等を通知
する電子メールを受信した申込者は,後に被告に対して発送するロケー
ションフリーの種類を指定する内容の電子メールを返信する。
被告から機器の受入準備が整った旨の電子メールを受信した申込者は,
ロケーションフリーテレビを購入し又は既に購入済みのロケーションフ
リーテレビを被告のデータセンターに送付し又は自ら持参する。
(イ)入会金及び月額利用料の支払等
申込者は被告に対し,入会金3万1500円及び初回分の月額利用料
5040円を支払う。
上記入会金の内訳は,本件サービスへの加入の対価,ベースステーシ
ョンの設置及び設定に要する費用,設備料,インターネットの接続料金
並びに専用モニターの発送手数料であり,上記月額利用料の内訳は,ベ
ースステーションの保管場所代,電気代,通信回線代及び諸設備利用代
である。
(ウ)ベースステーションの設置及び設定並びに専用モニターの発送
被告は,申込者から送付されたロケーションフリーテレビのうち,ベ
ースステーションを被告の事業所内に設置し,ポート番号を割り当てる
等の必要な設定を行い,分配機を介してアンテナ端子に,ハブ等を介し
てインターネット回線に接続する。
被告は,ベースステーションに専用モニター又はパソコン等からの指
令さえあれば自動的に放送を送信することができる状態となったことを
確認するテストを実施した上,専用モニター型の場合は,ロケーション
フリーテレビのうち専用モニターを申込者に発送する。パソコン型の場
合には,専用モニターの発送は行われない。
(エ)利用手順
a専用モニター型
利用者は,専用モニターを操作し,インターネット回線を通じてベ
ースステーションに指令を行う。指令を受けたベースステーションは,
自動的に放送をインターネット回線を通じて利用者のモニター部分に
送信し,利用者は当該放送を受信して視聴する。
専用モニター型の場合には,事前に所要の手続及び設定を経て高速
インターネット接続を確立する必要があるものの,専用モニターの電
源を入れ,「NetAV接続」ボタンを押すと,インターネット回線
を通じてベースステーションに指令を送信し,この指令を受けたベー
スステーションから送信される放送を受信して専用モニターで視聴す
ることができる。
bパソコン型
パソコン型の場合も,上記の高速インターネット接続の確立作業の
ほかに,事前に専用ソフトウェアを購入し,これを自己のパソコンに
インストールし,専用ソフトウェアの環境設定を行う必要があるもの
の,これらの作業が終了した後は,パソコン等で専用ソフトウェアを
起動し,ベースステーションの選択画面で「接続」ボタンを押すこと
により,インターネット回線を通じてベースステーションに指令が送
信され,その指令を受けたベースステーションから放送が送信され,
利用者はパソコンで放送を受信して視聴することができる。
(オ)被告による本件サービスの提供に当たっての準備等
a被告は,東京都文京区内に「データセンター」と称する事業所を賃
借し,契約時に63万円を,その後は月額10万5000円の賃料を
支払っている。また,被告は,高速インターネット回線を準備し,月
額2万7000円の回線代を支払い,プロバイダーと契約して月額1
万2000円の料金を支払っている。
また,被告は,147万円をかけて本件サービスに関するホームペ
ージを作成した。
b被告は,ベースステーションを載置するラックや,ルーター,ハブ,
ケーブル及び分配機等を購入した。
(2)被告の行為は著作権法2条1項9号の5の「送信可能化」行為に該当しな
いこと
ア本件サービスは,特定1人対特定1人への伝送を行うというベースステ
ーションの機能をそのまま発揮させるものにすぎない。特定1人から特定
1人への伝送しか行うことができないベースステーションは著作権法上何
ら違法な機器ではなく,原告らもこれが違法であるとは主張していない。
本件サービスは,遠隔地において,テレビ番組の視聴を可能とするベー
スステーションを預かり,その本来的機能を発揮させるものにすぎず,ベ
ースステーションのハウジングサービスにほかならない。
ベースステーションが著作権法上違法な機器ではないのであれば,それ
を単に預かり,その本来的機能を発揮させるにすぎない本件サービスが,
著作権法上違法とされる余地はない。
イベースステーションは「自動公衆送信装置」に該当しないこと
(ア)被告の行為が「送信可能化」行為に該当するというためには,被告の
行為の結果,「自動公衆送信装置」が,公衆からの求めに応じ,自動的
に,公衆によって直接受信されることを目的として有線又は無線による
送信行為をし得るようにしていなければならない。
(イ)ある装置が「自動公衆送信装置」に該当するか否かは,当該装置自体
の機能,すなわち,当該装置が「公衆」送信を自動的に行う機能を有す
る装置であるか否かによって客観的に決まることである。
ロケーションフリーのベースステーションは,「1対1」での情報の
伝達行為しか行うことができないものである。1台のベースステーショ
ンから放送データを受信することができるのは,それに対応する同一の
利用者が所有する1台の専用モニター又はパソコン等にすぎず,1台の
ベースステーションから複数の専用モニター又はパソコン等に放送デー
タが送信されることはない。
したがって,ベースステーションが自動で行い得るのは,「1対1」
の伝達行為にほかならないのであって,「公衆」,つまり,不特定又は
多数の者に直接受信されることを目的とした「自動公衆送信」ではなく,
ベースステーションは,いかなる意味においても「自動公衆送信装置」
とは解されないものである。
ウ送信可能化行為の主体について
本件サービスにおいて,送信可能化行為の主体は,被告ではなく,被告
にベースステーションを寄託して遠隔操作する利用者自身にほかならない。
すなわち,本件サービスにおいて,送信者も受信者も利用者にほかなら
ず,送信が「公衆」に対するものではないことが明らかである。
したがって,この観点から見ても,ベースステーションが自動公衆送信
装置に該当しないことに変わりはない。
(ア)本件において,利用者は「公衆」に該当しないこと
a原告らは,「公衆」に対する送信であるか否かを判断するに当たっ
ては,送信行為者からみて「公衆」と言えるかどうかをみるべきであ
る旨主張する。
しかしながら,そもそも「公衆」性が問われるのは,ベースステー
ションという装置が「自動公衆送信装置」に該当するか否かを確定す
るためである。そうであれば,著作権法は,「自動公衆送信装置」と
いう装置を基準として行為を特定しているのであるから,装置を離れ
て,行為の「公衆」性を問うことは誤りである。
b仮に,送信行為者から見て「公衆」性を判断するとした場合であっ
ても,本件の送信行為者は被告ではなく各利用者(寄託者)であり,
送信先もその寄託者自身であるから,行為者である各利用者から自分
自身を見れば,「1対1」の関係になるのであって,不特定又は多数
を前提とする「公衆」概念に該当し得ない。
c利用者の「公衆」性は,個々の利用者に対してのみ伝達行為を行う
にすぎない各ベースステーションの「自動公衆送信装置」該当性の判
断に全く影響しない。
自動公衆送信は,「自動的に」行われる必要があり,電話や電子メ
ールによるアクセスに応じて手動で送信するようなものは該当しない
とされている。つまり,自動公衆送信装置においては,当該装置が自
動的に公衆に対して送信する機能を有する必要があるのである。した
がって,「自動公衆送信装置」における「公衆」については,その装
置から情報が伝達される相手が「公衆」か否かという点が判断される
べきであり,ベースステーションのハウジングサービス全体において
利用者が「公衆」であるか否かとは関係がない。
(イ)ベースステーションへの情報の「入力」について
aアンテナ端子とベースステーションとの接続行為は,「送信可能
化」における「入力」には該当しないこと
(a)ベースステーションは「1対1」の送信を行う機能のみを有する
ものであって,「自動公衆送信装置」に該当するものではないから,
被告がベースステーションにアンテナを接続したり,ベースステー
ションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が送信
可能化行為に該当するものではないことは明らかである。
したがって,「自動公衆送信装置」に該当しない機器への情報の
「入力」行為は,著作権法上の「送信可能化」において問題とされ
る余地はない。
(b)アンテナ端子をベースステーションに接続しただけの段階では,
ベースステーションに流入するアナログ放送波が,原告らをはじめ
とする放送事業者によって常時・無差別に一方的に送られてくる。
実際の伝達に際しては,ベースステーションの利用者がこれらの
無差別に送られてくる多数のアナログ放送波の中から視聴したい放
送を選択して,初めて,選択にかかる放送がデジタル化され,イン
ターネットを通じての視聴が可能となるのである。
本件サービスにおいて,雑多なアナログ放送波を伝達するだけの,
アンテナ端子とベースステーションとの接続行為は「入力」には当
たらない。
(c)被告は,室内に設置されたアンテナ端子とベースステーションの
端子とを接続しているにすぎず,アンテナ等受信設備を設置管理し
ている者には該当しない。
被告は,アンテナの調達・管理を行っていない。
bアンテナと受像器との間にブースターを設置することは「入力」に
該当しないこと
(a)ブースターは増幅器にすぎず,これによって著作権侵害の有無に
ついての判断が異なることはない。
ブースターがアンテナ部品としてアンテナの機能を補完するもの
として広く用いられていることは技術的な常識に属する事柄であり,
アンテナと受像器との間にブースターを設置することを「入力」行
為ととらえるのはそのような技術的な常識を覆そうとするものであ
る。
(b)送信可能化権を侵害する行為とは,放送事業者による放送を受信
してこれを自動公衆送信装置によって送信し得るようにする行為で
ある。本件においては,自動公衆送信装置に該当する装置は存在し
ない。
(c)放送事業者である原告らによる放送を受信する装置及び受信した
放送を送信し得るようにする装置は,いずれもベースステーション
を含むソニーの製造・販売にかかる「ロケーションフリー」である。
そして,被告は,その装置を所有者である利用者との間の契約に基
づき預かり保管しているにすぎない。
被告が本件サービスにブースターを用いているのも「ロケーショ
ンフリー」をその本来の機能を果たすことができる状態で預かり保
管するという利用者との間の契約上の義務に従って,預かり保管に
かかるベースステーションが放送波を通常の状態で受信し得るよう
にしているにすぎない。
c原告らの主張について
(a)原告らは,アンテナとベースステーションとを接続し,アンテナ
で受信した本件放送を各ベースステーションに流入させる行為を送
信可能化行為であると主張する。
ソニーは,ロケーションフリーテレビを購入したユーザーに対し,
機器の取付け及び設定を有償で行うサービスを提供し,自社のイン
ターネット・ホームページで同サービスの申込みを受け付けている。
上記のとおり,ベースステーション等の設置作業は,ソニーや大
手家電量販店等が有料で行っている行為であり,なぜソニーのよう
な資本金額の大きい企業が行うのは良くて,資本金額の小さい被告
が行うと送信可能化行為となるのか,原告らの判断基準は不当であ
る。
著作権法2条1項9号の5イにおいて,情報を入力する対象とし
て法定されているのは自動公衆送信「装置」であって,自動公衆送
信「機器」ではない。また,同号においては,自動公衆送信される
「情報」が自動公衆送信装置に入力されることを要件としている。
ベースステーションから専用モニター等に向けて伝送されるデジタ
ルデータが,外部にこれを伝送する機能を有する「装置」部分に到
達しないのに,ただ「ベースステーション」という「機器」に,専
用モニター等に伝送されないアナログ放送波が到達することをもっ
て「情報の入力」としている原告らの主張は誤りである。
(b)原告らは,入力型の自動公衆送信にあっては,送信可能化行為は,
自動公衆送信装置への情報入力行為に限られないとして,自動公衆
送信装置への情報入力,自動公衆送信装置の公衆通信回線への接続,
自動公衆送信装置の設定のいずれかの行為を行うことにより,自動
公衆送信し得るようにすることをいうと主張する。
しかしながら,著作権法においては,送信可能化に該当する行為
は,著作権法2条1項9号の5イ,ロに列挙されている。その中に
は,自動公衆送信装置の設定は含まれていない。また,自動公衆送
信装置の公衆通信回線への接続行為が送信可能化行為となるのは,
接続行為を行う時点で既に情報が入力されている自動公衆送信装置
を公衆通信回線へ接続する場合に限られている(著作権法2条1項
9号の5ロ)。すなわち,「サーバ等の送信用コンピュータが公衆
に向けたネットワークに未接続である場合で,接続しさえすれば,
その中の情報がそのネットワークに流れるといったときに,その接
続を行うというもの」をいう。したがって,利用者から送られてき
たベースステーションを被告がインターネット回線に接続させる行
為は,「当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送
信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続を
行うこと」には当たらない。
(ウ)放送番組は,ベースステーションに入力された時点では,「自動公衆
送信し得る」状態にはなっていないこと
アナログ放送波のままの状態では,インターネット回線を通じて「送
信」することができないから,仮に,アナログ放送波がベースステーシ
ョンに流入しているとしても,その放送波の流入によっては,「自動公
衆送信し得る」ようにしたものとはいえない。
また,放送データは,利用者の選択があった場合にのみ送信し得る状
態になり,デジタルデータ化するのは,利用者が所有するベースステー
ションであることからすれば,被告が利用者の選択によることなく,放
送データをベースステーションに入力しているということはできない。
したがって,アンテナ端子とベースステーションとを接続することに
よるアナログ放送波のベースステーションへの流入によっては,いまだ
「自動公衆送信し得る」状態になっているとはいえない。
(エ)以上のとおり,本件サービスにおいて,被告は送信可能化行為を行っ
ていない。
本件サービスにおいて,個々のベースステーションは,それぞれの所
有者本人に対して情報を送信するだけであって,あくまで「1対1」の
関係で伝送が行われているのであり,個々のベースステーションとその
所有者との関係で,自動公衆送信には該当しないことは明らかである。
エ本件サービスにおける被告事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送
信装置を構成しているとはいえないこと
(ア)利用者がアクセスするのは,自己の所有する1台のベースステーショ
ンであり,「送信」機能を有しているのは個々のベースステーションで
ある。このような1対1送信を行う機能を有するベースステーションが
並列的に配置され,各ベースステーションを通じてそれぞれ独立に利用
者への「送信」がされているのであり,全体として一つの送信装置であ
るなどと見ることはできない。
本件においては,被告のデータセンターに設置された複数台のベース
ステーションは,他のハウジング事業者のデータセンターに設置された
複数台のサーバコンピュータがそうであるように,単に並列してインタ
ーネット回線に接続されているだけであって,互いに有機的に一体なも
のとして一つのデータ処理を果たすものではなく,また,全体をコント
ロールするサーバが存在せず,全体として一つの実体をもった機器とは
到底いえない。利用者のモニターとベースステーションとは一体化して
いるといえるが,異なる利用者のベースステーション同士は何らの結び
つきもなく,それぞれが独立して稼働するものである。
(イ)原告らは,本件サービスにおけるシステムが全体として一つの自動公
衆送信装置に当たる旨主張し,その理由として,被告がベースステーシ
ョン,その他の機器の接続などを行ったことも挙げる。
しかし,「自動公衆送信装置」に該当するか否かは,客観的に定まる
ものであって,だれが機器の接続をしたかといった事情により影響を受
けるものではない。
ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求
めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があ
らかじめ指定したアドレス(通常は利用者自身)あてにされているもの
であり,送信の実質がこのようなものである以上,本件サービスに関係
する機器を一体としてみたとしても,自動公衆送信装置該当性の判断が
左右されることはない。
(ウ)原告らは,本件サービスにおいて,各ベースステーションに1個のグ
ローバルIPアドレスを割り当てるのではなく,「ポートフォワーディ
ング」が用いられていることを問題視する。
しかしながら,両者に実質的な違いはなく,「ポートフォワーディン
グ」の手法を用いたからといって複数のベースステーションが一つにな
るわけではない。IPアドレスは,ネットワーク網においてコンピュー
タを識別するための「番地」にすぎない。インターネット回線を通じて
ネットワークにアクセスする場合,個々のコンピュータごとにグローバ
ルIPアドレスを割り当てることもあれば,「ポートフォワーディン
グ」等の手法を用いてローカルネットワーク全体に一つのグローバルI
Pアドレスを割り当て,そのネットワーク内のコンピュータにサブアド
レスを割り当てることもある。両者の違いは,どのように「番地」を付
けるかというだけのことであり,このことが「装置」の「機能」に影響
を与えないことも明らかである。
オ実質的に見ても,被告は送信可能化行為の主体ではないこと
(ア)利用者は,いつ,どの販売店から,どの種類のロケーションフリー機
器を,いくらで購入するかにつき自由な意思決定をし得る立場にあり,
被告による購入先の指定,仲介ないしあっせんは行われていない。また,
利用者は,いったん被告にベースステーションの保管及び管理を依頼し
た後も,いつでも本件サービスの利用契約を解除して,ベースステーシ
ョンの返還を受けることができる。
したがって,利用者は名実ともにベースステーションを所有しており,
利用者はこれを被告に寄託して,被告の事業所にあるアンテナ端子及び
インターネット回線の利用の許諾を受けているという関係にある。
そして,利用者は,被告から利用許諾を受けているインターネット回
線を介して,自己の専用モニター又はパソコンから,自己の所有に係る
「1対1」の送受信機能を有するベースステーションに直接指令を送り,
アンテナ端子から入力されるアナログ信号の放送波をデジタル信号に変
換した上,これをベースステーションからインターネット回線を介して
自己の専用モニター又はパソコンに送信して,視聴しているのである。
以上のとおり,被告が提供しているベースステーションの受託並びに
アンテナ端子及びインターネット回線の利用の許諾というサービスは,
いわゆるハウジングサービスにほかならない。
(イ)高速インターネット回線などの環境やポート番号の変更,機器類の接
続・設定を行っていることについても,インターネット接続機器のハウ
ジング業者として当然のものであって,同時再送信サービスの根拠とさ
れるような行為ではない。
(ウ)本来であれば当該放送対象地域内の放送番組が見られない者に対し,
インターネットを通じてこれを視聴可能とするのは,ソニーのロケーシ
ョンフリーの機能そのものであり,被告が行っているのは,各利用者が
購入した「ロケーションフリー」のベースステーションを預かって,各
利用者が「ロケーションフリー」を利用することができるようにしてい
るだけである。
(エ)本件サービスは有料である。しかしながら,その金額(入会金3万1
500円,月額5040円)は,一般のハウジングサービスの料金と比
較して低廉な額であり,同金額には,放送番組の同時再送信サービスの
対価は含まれていない。
(オ)被告は,どの放送波を伝達可能とすることができるかという点につい
ても,何ら関与していない。どのような放送波が「ロケーションフリ
ー」により伝達可能かという点については,被告は自己の事業所のアン
テナ端子に接続しているだけであり,それによって伝達可能な放送波が
物理的・地理的に決まっているだけである。被告が何らかの意思に基づ
き放送波の選択行為をしたわけではない。
さらに,最終的にどの放送波をデジタルデータ化して伝達可能とする
かは,利用者自身が決定しているのであり,被告が決定しているわけで
はない。
3争点3(本件サービスにおいて,被告は本件著作物の公衆送信行為を行って
いるか)について
〔原告らの主張〕
(1)本件番組の著作権
ア原告NHKは別紙著作物目録記載1及び2の番組につき,原告日本テレ
ビは同目録記載3の番組につき,原告TBSは同目録記載4の番組につき,
原告フジテレビは同目録記載5の番組につき,原告テレビ朝日は同目録記
載6の番組につき,原告テレビ東京は同目録記載7の番組につき,それぞ
れ著作権を有する。
イ本件番組の著作物性について
本件番組は,一定の編集方針に基づいて継続して放送されてきたもので
あり,かつ,今後も同様に放送される蓋然性が高いものである。
被告は,本件サービスを平成15年10月1日以降現在に至るまで行い,
かつ,本件サービスを継続する意思を明確に有しているから,今後放送さ
れる本件番組についても,これまでと同様の著作権侵害行為が被告により
行われることは容易に予想することができる。
(2)被告による公衆送信権(著作権)の侵害(公衆送信行為の主体)
ア「公衆送信」の意義
「公衆送信」とは,「公衆によつて直接受信されることを目的として無
線通信又は有線電気通信の送信」を行うこという(著作権法2条1項7号
の2)。
送信の形態が「放送」,「有線放送」,「自動公衆送信」,「その他の
方法による送信」のいずれに該当するかを問わず,およそ公衆に対して著
作物を無線又は有線で送信する場合には,著作権者の公衆送信権が働くこ
とになる。
また,「公衆」とは,不特定の者又は特定多数の者をいう(著作権法2
条5項参照)。
イ被告による公衆送信行為
(ア)本件サービスにおいて,被告は,①多数のベースステーションを被告
の事業所に設置した上で,②これら多数のベースステーションに電源を
供給,起動して,ポート番号の変更などの必要な各種設定を行い,③テ
レビアンテナで受信した本件番組をこれら多数のベースステーションに
供給するために,被告が調達したブースターや分配機を介した有線電気
通信回線によってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションと
を接続し,④被告が調達し,被告において必要な設定を行ったルーター,
LANケーブル及びハブを経由して,被告の調達した接続回線によりこ
れら多数のベースステーションをインターネットに接続し,かつ,⑤以
上のような状態を維持管理する行為を行っている。
被告の上記行為により,放送対象地域外の多数の利用者の端末からの
求めに応じて本件番組が同時再送信される状態が継続的に生じ,海外そ
の他の放送対象地域外に居住し,本来であれば,本件放送を受信して本
件番組を見ることができないはずの多数の利用者が専用モニター又はパ
ソコン等において本件番組を受信し視聴することができるという結果が
生じている。
被告の上記各行為は,いずれも上記結果を実現するために向けられ,
当該結果を直接的に招来する,一連の必要不可欠な行為であり,かかる
行為がなければ,海外その他の放送対象地域外に居住している多数の利
用者が本件番組を視聴することはできない。
他方,本件サービスにおいて,利用者は上記結果を生じさせる行為を
一切行っていない。利用者が行うのは,手元の端末(専用モニター又は
専用ソフトウェアをインストールしたパソコン等)を操作して,インタ
ーネットを経由して,被告が維持管理しているベースステーションにア
クセスし,番組データの送信要求を行うだけである。上記送信要求は,
著作権法2条1項9号の4にいう「公衆からの求め」にすぎない。
以上によれば,被告による上記①ないし⑤の行為により実現される本
件番組のテレビアンテナから不特定多数の利用者までの送信全体は,公
衆によって直接受信されることを目的としてされる有線電気通信の送信
として,公衆送信行為に該当する。
(イ)テレビアンテナで受信した本件番組を多数のベースステーションに供
給するために,テレビアンテナに接続された被告の事業所のアンテナ端
子からの放送信号を,被告が調達したブースターに供給して増幅し,増
幅した放送信号を被告が調達した分配機を介した有線電気通信回線によ
って多数のベースステーションに供給している行為は,マンション等に
おける共同アンテナ設備と同様,公衆送信行為に該当する(これらの行
為は,難視聴解消のための放送の有線による同時再送信と異ならな
い。)。
すなわち,被告の上記行為により,テレビアンテナから不特定多数の
利用者が所有するベースステーションまでの本件番組の有線電気通信の
送信が行われているから,テレビアンテナからベースステーションまで
の間の送信は公衆送信に該当する。
したがって,上記行為のみをもってしても,被告が公衆送信行為を行
っているといえる。
なお,著作権法2条1項7号の2が,「(電気通信設備で,その一の
部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(・・・(中
略)・・・)にあるものによる送信(・・・(中略)・・・)を除
く。)」と規定しているのは,「演奏」等と「公衆送信」との概念整理
のためである。つまり,電気通信設備を用いた著作物の公衆への伝達が
行われた場合,当該行為には著作権の支分権が及ばなければならないと
いう前提の下に,その支分権は,公衆送信権であるのか,あるいは,演
奏権等であるのかを整理したものにすぎない。したがって,その趣旨を
超えて,上記かっこ書きの規定が適用されるような事態は避けるべきで
ある。
ウ実質的にも公衆送信の主体は被告であること
(ア)本件サービスにおける利用者の行為
a本件サービスにおいて,各利用者は,上記結果を生じさせる行為を
一切行っていない。各利用者が行うのは,手元の端末(専用モニター
又は専用ソフトウェアをインストールしたパソコン等)を操作して,
インターネットを経由して,被告が上記のとおり維持管理しているベ
ースステーションにアクセスし,番組データの送信要求を行うことの
みである。
かかる送信要求操作は,著作権法2条1項9号の4にいう「公衆か
らの求め」にすぎない。
b本件サービスにおいて利用者が行っている行為は,インターネット
を経由して遠隔接続された端末を操作して,特定のチャンネルを選択
することだけであり,各利用者の端末からインターネットを経由して
ベースステーションに送信される情報は,選択されたチャンネルを示
すデータにすぎない。
利用者によって選択されたチャンネルのデータがベースステーショ
ンに送信された後,当該放送にかかる映像,音声情報がデジタル化さ
れ,ベースステーション内のRAMに一時的に記憶されて,CPUを
介して指定する1台のモニターに向けて出力されるのは,ベースステ
ーションにおいて自動的に行われる処理であって,これを利用者の行
為であるとすることはできない。
c著作権法2条1項9号の4は,自動公衆送信を「公衆送信のうち,
公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当す
るものを除く。)をいう。」と定義しており,端末からの選択データ
の送信(利用者からの求め)に呼応して,ベースステーションによっ
て自動的に行われるコンテンツの送信行為は,利用者からの求めとは
全く別個の行為であり,その主体が何者であるかは,端末からの選択
データの送信とは別個の行為を標準として決定されなければならない。
d本件サービスにおいて,利用者の自宅にある端末(専用モニター又
は専用ソフトウェアをインストールしたパソコン等)を使用している
のは利用者である。しかし,利用者の自宅にある端末は,単なる受信
装置でしかない。受信装置たる端末をいくら使用したところで,利用
者は,端末に向けて行われている番組の送信主体にはならない。それ
は,単なる「視聴」行為にすぎない。
e各利用者がベースステーションを調達し,所有していることは,被
告による上記①ないし⑤の公衆送信行為の準備段階における行為の一
部(幇助的な行為)でしかない。
しかも,被告は,本件サービスに加入するためには,ベースステー
ションを利用者において調達することが必要である旨宣伝し,勧誘し
ているのであるから,利用者による上記行為は被告の指図に従って行
われるものにすぎない。
したがって,各利用者がベースステーションを調達し,所有してい
ることは,送信行為の主体性の判断に影響しない。
(イ)被告の行為主体性
a本件サービスにおいて,被告の事業所の送信設備を用いて,利用者
の端末に向けて行われる番組の送信の主体は,被告である。
端末からの送信の求めに応じて被告の事業所の送信設備によってテ
レビ番組が利用者の自宅に送信されるという結果を発生させる行為を
現実に行った者は,被告の事業所の送信設備(アンテナ端子,ブース
ター,分配機,ベースステーション,ルーター,ハブ,LANケーブ
ル,インターネット回線から成る)を設置し,設備を構成する機器の
設定及び接続を行い,これを維持,管理している被告なのである。
bクラブ・キャッツアイ事件最高裁判決からの考察
クラブ・キャッツアイ事件の事案においては,顧客は自らの身体を
もって上告人の営業するカラオケスナックに赴き,自らの身体をもっ
て歌唱しており,侵害に用いられるもの(本件では,侵害に用いられ
るものの一部であるベースステーションであり,同事件では,侵害に
用いられる顧客の身体)という点では,本件の事案以上に,顧客に帰
属するといえるものである上,直接的な歌唱行為(本件では,上記①
ないし⑤の行為に相当する行為)を行っているのは顧客であると解さ
ざるを得ない事案であった(本件では,送信に用いる機器の一部を利
用者が調達し,これを被告に送付しているのに対し,上記事案では,
歌唱に用いる自らの身体をもってカラオケスナックに赴き自ら歌唱し
ている。)。それにもかかわらず,上記事件の最高裁判決は,著作権
法上の規律の観点からこれをカラオケスナックの営業者の歌唱と同視
し得るとした。
そうであれば,本件においても,送信行為の主体は被告であると評
価されるべきである。
(3)本件サービスにおいて,被告事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送
信装置を構成しており,被告がこれを管理支配して自動公衆送信を行ってい
ること(選択的主張)
ア被告事業所内のシステム全体を一つの装置ととらえるべきであること
本件サービスにおいては,テレビアンテナが,アンテナ線,分配機及び
ブースターを介して,複数のベースステーションに接続され,放送が入力
され続けるようになっている。一方,複数のベースステーションは,LA
Nケーブル,ハブ及びルーターを介して高速インターネット回線に接続さ
れ,その結果,放送番組が利用者に送信されるようになっている。
このようなシステムは,あらかじめ被告が構想した全体構成に従って構
築されたものであり,かつ,ベースステーション以外の機器はすべて被告
が所有し,ベースステーションを含めシステムを構成するすべての機器は
被告が占有しているものであり,ベースステーションを含むすべての機器
の設置,機器間の結線等もすべて被告が行っている。
また,被告は,本件放送をサービスに適した画質でストリーミング「送
信」するため,高速インターネット回線などの環境を自ら整えるとともに,
ポート番号の変更のほか,「送信」に必要な機器類の接続,設定もすべて
行っている(被告のシステムにおいては,インターネットへの送受信を一
つのルーターにより行うために,多数のベースステーションを統合したシ
ステム全体を1台のコンピュータとして認識することができるようにする
「ポートフォワーディング」が用いられている。すなわち,被告のシステ
ムは,多数のベースステーションをあたかも一つのコンピュータ内の複数
のアプリケーションであるかのように仮想する技術によって,インターネ
ット上一つのコンピュータと認識されるようにすることにより,そのため
の設定が行われた一つのルーターから一つのグローバルIPアドレスを用
いた送受信が可能であるように構築されている。)。
唯一被告の所有に属さないベースステーションについても,被告の勧誘
に応じて,全体構成に組み入れられることを前提として,利用者が送付す
るにすぎず,被告の直接占有下において,被告によってシステムに組み入
れられているのである。他方,利用者は,本件システムを説明した被告作
成のホームページに従って加入申込みを行い,指定のベースステーション
を被告のデータセンターあてに送付しているにすぎない。
以上によれば,ベースステーションを含めた被告のデータセンター内の
システム全体が,一つの特定の構想に基づいて機器が集められ,それらが
有機的に結合されて構築された一つの「装置」となっているといえ,被告
が電源の供給も含め,送信可能化を継続することができるようにこれを維
持管理しているといえる。
イ本件サービスの利用者は「公衆」に該当すること
申込みを行いベースステーションを送付してくる不特定の者に対して,
システムを提供して送信を行っている以上,そのような利用者への送信が,
公衆送信に該当することは明らかであるし,個々の送付されたベースステ
ーションとその所有者との関係では特定のアドレスあての送信であっても,
一体として構成された本件システムからの不特定又は多数の利用者への送
信である以上,「公衆性」が否定されるものではない。
ウ本件システムは,被告事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信装
置を構成しているものであり,被告がこれを一体として管理・支配してい
るものである。
被告が,本件システムを用いて行っている送信は,被告に申込みを行い,
ベースステーションを送付してくる不特定又は多数の者(利用者)に対し
て行われているものであるから,公衆送信行為に該当する。
(4)本件サービスは,著作権法が公衆送信権により保護しようとしている著作
者等の正当な利益を害する実質的に違法なサービスであること
ア著作権法の規定からの考察
(ア)著作権法は,著作者等がその著作物等の放送を放送事業者に対して許
諾した場合に,他者が当該放送の放送対象地域外の公衆にこれを同時再
送信することは,その送信の方法のいかんを問わず,営利又は有料で行
われる場合はもちろん,非営利無料の場合であっても,著作者等の正当
な利益を害するものであるとの法意を示している(著作権法38条2項,
102条1項,同条3項ないし5項,99条の2等参照)。
放送対象地域外に放送を同時再送信するような行為について,営利非
営利,有料無料を問わず,厳に著作者の排他的権利を及ぼさなければな
らないということ,すなわち,放送対象地域外について放送が再送信さ
れないようにすることは,著作権法によって強固に保護されるべき著作
者の正当な利益であることが明らかである。
(イ)本件サービスにおける利用者は,本件放送の放送対象地域外に居住し,
放送対象地域内には全く生活の本拠を有しない者である。このように,
恒常的に本件放送対象地域外に居住し,何ら本件放送対象地域と密接な
関連を有せず,自力で本件放送を受信することができない者は,本件放
送を許諾した著作権者が当初目的とした視聴者とは異なる,新しい視聴
者にほかならない。
上記著作権法の法意に照らせば,かかる利用者に放送を同時再送信す
ることを本質とする本件サービスを無許諾で行うことは,著作権者の正
当な利益を害する公衆送信権侵害行為である。
イベルヌ条約からの考察
(ア)ベルヌ条約11条の2(1)項の規定
ベルヌ条約11条の2(1)項は,次のとおり規定する。
「文学的及び美術的著作物の著作者は,次のことを許諾する排他的権
利を享有する。
(ⅰ)著作物を放送すること又は記号,音若しくは影像を無線で送るその
他の手段により著作物を公に伝達すること。
(ⅱ)放送された著作物を原放送機関以外の機関が有線又は無線で公に伝
達すること。
(ⅲ)放送された著作物を拡声機又は記号,音若しくは影像を伝えるその
他の類似の器具を用いて公に伝達すること。」
(イ)上記条項は,「anycommunicationtothepublicbywire」という
包括的な文言を用いており,有線を用いた何らかの方法により,放送番
組が伝わっていない公衆にこれが伝わる状態になるようにするすべての
行為を含むものと解される。
単にアンテナと電線を提供するだけであっても,これにより受信可能
となる者が公衆であるならば,それは「anycommunicationtothepu
blicbywire(有線により公に伝達)」に該当する。
すなわち,ベルヌ条約11条の2(1)項(ⅱ)は,著作者に,放送
された著作物を原放送機関以外の機関が有線又は無線で公に伝達するこ
とについての排他的権利を与えているのである。
(ウ)本件サービスにおいて,被告は上記①ないし⑤の行為を行っており,
これらの行為によって,公衆による視聴を可能としている。
これらの行為は,単なるアンテナと電線の提供(③「テレビアンテナ
で受信した本件番組をこれら多数のベースステーションに供給するため
に,被告が調達したブースターや分配機を介した有線電気通信回線によ
ってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションとを接続」の行
為がこれに相当する。本来,この③の行為のみでも,著作権侵害と評価
することができる。)をはるかに超えるものである。
本件サービスにおいて,被告は,アンテナで受信した放送番組を分配
機を通じて有線により多数のベースステーションに供給し,インターネ
ット経由で多数の利用者(公衆)に放送番組を視聴させているから,放
送された著作物を有線で公に伝達していることになり,ベルヌ条約11
条の2(1)項(ⅱ)号により,著作権が及ぶ「anycommunicationt
othepublicbywire」に該当する。
(エ)また,本件サービスにベルヌ条約11条の2(1)項(ⅱ)が適用さ
れると解しなければ,ベルヌ条約が保護しようとする著作者の正当な利
益を害することになる。
すなわち,著作者が許諾した際,考慮の外にあった視聴者に著作物が
受信される結果を,家庭内で信号を受信する直接の視聴を超えて生じさ
せる行為が,営利の目的で行われるときは,これにはベルヌ条約11条
の2(1)項のいずれかの権利が及ばなければならない,というのが同
項の法意である。放送対象地域外に居住する公衆こそは,著作者が放送
を許諾する際最も考慮の外にある視聴者であるから,かかる視聴者に放
送番組を視聴させることを目的とする本件サービスが著作者の正当な利
益を害するものと考えられることは明らかである。
(オ)我が国著作権法2条1項7号の2の「公衆送信」の定義中の「送信」
には,単なるアンテナと電線の提供も含まれるものと解される。このこ
とは同法38条2項がマンション等における共同アンテナ設備(アンテ
ナと電線の提供にすぎない。)を念頭に置いて規定されていることから
明らかである。
(カ)以上によれば,本件サービスにおいて,被告による上記①ないし⑤の
行為(放送の対象地域外同時再送信のみを目的として行われており,い
ずれもそのために不可欠な一連の直接的な行為である。しかも,被告は
営利事業として利用者を募集し,有料で本件サービスを提供してい
る。)は,公衆送信行為(著作権法2条1項7号の2)に該当すると解
釈されるべきであり,このように我が国の著作権法を解釈することが,
ベルヌ条約上の要請である(なお,原告らは,本件において,ベルヌ条
約を直接適用すべきである旨を主張するものではない。)。
(キ)被告の主張について
a被告は,ベルヌ条約11条の2(1)項(ⅱ)中の「anorganiza
tionotherthantheoriginalone」との文言が,元の放送事業者と
同等の放送事業者を想定しているとか,零細個人事業者は含まれない
などと主張している。しかしながら,そのような限定を文言上一切読
み取ることはできない。
b被告は,ベルヌ条約は,同盟国の国内法をどのように解釈・適用す
るかについては何ら規定していないのであって,少なくとも当該国を
本国とする著作物の保護に関して,裁判所がいかようにその国内法を
解釈・適用しようとも,ベルヌ条約違反となることはないと主張する。
確かに,国内法が内国民にのみ適用となる場面では,裁判所がいか
ようにその国内法を解釈・適用しようとも,ベルヌ条約違反となるこ
とはない。
しかし,本件サービスが著作権を侵害するかということについての
判断は,外国民が保有する著作権の対象となっている番組にも等しく
妥当する。当然のことながら,外国民の著作物についてのみ本件と異
なる著作権侵害行為の主体に関する判断を採ることはおよそあり得な
い。言うまでもないことであるが,原告らが放送する番組について著
作権を有する者には,外国民が多数存する。したがって,本件におい
て我が国の著作権法をベルヌ条約に適合するように解釈することは条
約上,法律上の要請である。
〔被告の主張〕
(1)原告らの著作権について
ア原告らが本件番組についてそれぞれ著作権を有するとの点は知らない。
イ本件番組が将来にわたり創作され,かつ,著作物性を認めるに足る創作
性を有することについての主張,立証はされておらず,また,それぞれに
ついて,著作者である「全体的形成への創作的寄与者」との契約関係も主
張立証されていない。
ウ公衆送信の差止請求のうち,いまだ制作されていない将来の番組の著作
権に基づく部分は,将来給付の訴えとなる(著作権法51条1項参照)。
将来給付の訴えにおいては,権利発生の基礎となる事実上及び法律上の
関係が存在していることが必要である。しかしながら,創作性ある表現と
しての著作物はいまだ形成されていないのであるから,著作権に基づく請
求は失当である。
(2)被告は公衆送信行為を行っていないこと
ア本件サービスにおける伝送の主体
(ア)本件サービスにおいて,被告は,利用者自身が家電量販店等の小売店
で購入したソニー製のロケーションフリーのベースステーションの設置
場所を提供し,設置作業を代行するサービス(ハウジングサービス)を
提供しているにすぎない。
ベースステーションの設置場所の提供以外の被告の行為は,「ベース
ステーションの設置場所」を提供するというハウジング事業者としての
本来的な役務に付随するものにすぎない。
(イ)利用者からの委託を受けて被告事業所内に設置したベースステーショ
ンからは,あらかじめ当該利用者が指定したモニターに対してのみ,受
信した映像,音声情報が伝送される(同一のベースステーションから同
時に複数のモニターに映像・音声情報が伝送されることはない。)。
各利用者は,上記の映像,音声情報の伝送作業の中核であるベースス
テーションを選択して調達し,寄託する行為を行っている上,そのベー
スステーションを遠隔操作して,特定のチャンネルを選択し,その放送
にかかる映像,音声情報をベースステーション内のTVチューナーカー
ドによりデジタル化した上で,これをベースステーション内のランダム
・アクセス・メモリ(RAM)に一時的に記憶させ,CPUを介して,
その指定する1台のモニターに向けて出力させている(利用者は,自分
が所有するベースステーションを遠隔操作して,これだけのことをして
いるのであり,単に送信要求をしているだけではない。)。
(ウ)ロケーションフリーのベースステーションは,ソニーが開発し,一般
の消費者向けに広く販売している機器であり,原告らの放送を受信する
ことができる地域に所在し,かつ,インターネットと常時接続している
建物内に当該機器を設置すれば,本件サービスを利用しなくても,原告
らの放送を視聴することが可能である。
したがって,被告の行為は,本件サービスの利用者が原告らの放送を
視聴するという結果を招来するのに,必要不可欠の行為であるというわ
けではない。原告らの放送を受信することができる地域内に別途に居住
用空間を確保して,そこにベースステーションを設置しておくよりは,
本件サービスを利用してベースステーションを寄託する方がコストが軽
減されるというにすぎない。
(エ)以上のとおり,各ベースステーションから,それぞれ特定のモニター
への映像・音声データの電送作業の中核部分を担う機器を調達し所有し
ているのは各利用者であること,同データのインターネットを介した伝
送に不可欠なデータのデジタル化及びRAMへの入力等は各利用者によ
る遠隔操作に基づき行われていることからすれば,上記データの伝送の
主体は各利用者であると判断されるのであって,被告ではない。
したがって,本件サービスにおいて,被告は公衆送信行為を行ってい
ない。
イ公衆に直接受信させる目的で伝送が行われていないこと
本件サービスにおいては,各ベースステーションからは,その所有者が
前もって指定したモニターのみに向けて映像・音声データが伝送される仕
組みとなっており,「公衆に直接受信させる目的」で伝送がされているの
ではない。
被告事業所内に複数台のベースステーションが設置されていても,特定
の利用者が自分で直接受信する目的でチャンネルを合わせるのであるから,
「公衆に直接受信させる目的」が認められない。
この点においても,本件サービスにおいて,被告は公衆送信行為を行っ
ていない。
ウ被告が,アンテナ端子から放送信号を複数のベースステーションに供給
している行為は公衆送信行為ではないこと
(ア)アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,受
信機に接続して受信設備の一環をなすものであることは,技術常識であ
るから,被告がベースステーションにアンテナを接続しても,ベースス
テーションへの送信を行ったことにはならない。
また,分配機は,単独で他の機器に送信する機能を有するものではな
く,アンテナを複数の受信機で共用するために,アンテナからの1本の
給電線を分岐させて複数の給電線と接続させるとともに,それに伴う抵
抗の調整を行うにすぎないことは,技術常識であるから,被告が分配機
を介してアンテナとベースステーションとを接続しても「1対多」の送
信や「有線放送」をしたことにはならない。
さらに,ブースターについても,汎用品であり,電気信号を増幅する
にとどまるのであって,これ自体が単独で他の機器に送信する機能を有
するものではないから,被告がブースターを利用していたとしても,そ
れが著作権法上問題となることはない。
(イ)仮に,アンテナ端子からブースターや分配機を介して各ベースステー
ションに放送波を伝送する行為が有線放送であると解されるとしても,
これは同一構内における送信になり,公衆送信には該当しない。
すなわち,著作権法2条1項7号の2は,「電気通信設備で,その一
の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が
二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域
内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除
く」としており,本件においては,電気通信設備(アンテナ端子,ブー
スター,分配機,各ベースステーション)が設置されている場所は,す
べて被告の占有に属する区域内に存在しているからである(なお,アン
テナからアンテナ端子までは単に電気信号が伝達されるにすぎず,これ
を有線放送と解することが技術常識に反することは当然である。)。
(ウ)そもそも,被告は,室内のアンテナ端子に接続しているだけであり,
アンテナを設置しているわけではないから,本件において,マンション
等において共同アンテナ設備を設置する行為について論じても意味がな
い。
(3)本件サービスにおける被告事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信
装置を構成しているとはいえないこと
ア利用者がアクセスするのは,自己の所有する1台のベースステーション
であり,「送信」機能を有しているのは個々のベースステーションである。
このような1対1送信を行う機能を有するベースステーションが並列的に
配置され,各ベースステーションを通じてそれぞれ独立に利用者への「送
信」がされているのであり,全体として一つの送信装置であるなどと見る
ことはできない。
本件においては,被告のデータセンターに設置された複数台のベースス
テーションは,他のハウジング事業者のデータセンターに設置された複数
台のサーバコンピュータがそうであるように,単に並列してインターネッ
ト回線に接続されているだけであって,互いに有機的に一体なものとして
一つのデータ処理を果たすものではなく,また,全体をコントロールする
サーバが存在せず,全体として一つの実体をもった機器とは到底いえない。
利用者のモニターとベースステーションとは一体化しているといえるが,
異なる利用者のベースステーション同士は何らの結び付きもなく,それぞ
れが独立して稼働するものである。
イ原告らは,本件サービスにおけるシステムが全体として一つの自動公衆
送信装置に当たる旨主張し,その理由として,被告がベースステーション,
その他の機器の接続などを行ったことも挙げる。
しかし,「自動公衆送信装置」に該当するか否かは,客観的に定まるも
のであって,だれが機器の接続をしたかといった事情により影響を受ける
ものではない。
ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求め
に応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらか
じめ指定したアドレス(通常は利用者自身)あてにされているものであり,
送信の実質がこのようなものである以上,本件サービスに関係する機器を
一体としてみたとしても,自動公衆送信装置該当性の判断が左右されるこ
とはない。
ウ原告らは,本件サービスにおいて,各ベースステーションに1個のグロ
ーバルIPアドレスを割り当てるのではなく,「ポートフォワーディン
グ」が用いられていることを問題視する。
しかしながら,両者に実質的な違いはなく,「ポートフォワーディン
グ」の手法を用いたからといって複数のベースステーションが一つになる
わけではない。IPアドレスは,ネットワーク網においてコンピュータを
識別するための「番地」にすぎない。インターネット回線を通じてネット
ワークにアクセスする場合,個々のコンピュータごとにグローバルIPア
ドレスを割り当てることもあれば,「ポートフォワーディング」等の手法
を用いてローカルネットワーク全体に一つのグローバルIPアドレスを割
り当て,そのネットワーク内のコンピュータにサブアドレスを割り当てる
こともある。両者の違いは,どのように「番地」を付けるかというだけの
ことであり,このことが「装置」の「機能」に影響を与えないことも明ら
かである。
(4)本件サービスは違法なサービスではないこと
ア原告らの主張は,本件サービスにおける,映像,音声データの伝送の主
体が被告であり,かつ,客体たる利用者が「公衆」に当たることを前提と
するものである。
しかし,この前提自体が誤りである。
イ著作権法からの考察について
(ア)著作権法は,放送事業者に対して放送の許諾を行った著作物等につき,
第三者が当該放送の放送対象地域外の公衆に同時再送信することが著作
者等の正当な利益を害するか否かという経済的な側面までは示していな
い。
放送対象地域外について,放送が再送信されないようにすることが著
作権法によって強固に保護されるべき著作者の正当な利益であるとの点
は,著作権法上何ら規定されていないし,明らかにもされていない。
(イ)首都圏エリアのテレビ放送の電波が届く範囲外である海外や首都圏エ
リア外に住んでいて,首都圏の番組を自由に見ることができない人を,
首都圏の番組を自由に見ることができるようにするというのは,ソニー
が開発・製造・販売しているロケーションフリーの機能そのものである。
ロケーションフリーの所有者は,ベースステーションを首都圏エリア内
に設置することによって,海外や首都圏エリア外に住んでいても首都圏
の番組を自由に見ることができる。
したがって,本件サービスの本質は,海外や首都圏エリア外に住んで
いる人が,ベースステーションを設置するために首都圏エリア内にマン
ション等を購入又は賃借しなくとも,また,ベースステーションのオン,
オフ管理等のために首都圏エリア内に秘書や部下等を置いておかなくて
も,その所有するベースステーションを首都圏エリア内に設置してこれ
を機能させることを可能にするという意味で,ベースステーションの設
置,管理コストを軽減することにあるのであり,利用者の所有するロケ
ーションフリーのベースステーションのハウジングサービスにほかなら
ない。
ウベルヌ条約からの考察について
(ア)原告らは,ベルヌ条約を直接適用すべきだと主張しているのではなく,
我が国著作権法を原告らの主張するように解釈することがベルヌ条約上
の要請であることを主張しているとする。
しかしながら,ベルヌ条約は,同盟国の国内法をどのように解釈・適
用するかについては,何ら規定していないのであり,少なくとも当該国
を本国とする著作物の保護に関して,裁判所がいかようにその国内法を
解釈,適用しようとも,ベルヌ条約違反となることはない。
国内法は,主に自国を本国とする著作物の保護の範囲を定める目的で
制定されるものであって,そのような国内法の一般的な解釈として,ベ
ルヌ条約に適合させるために歪められた解釈を採用する理由はない。
(イ)著作権法という競争制限法制が許容されるのは,著作物等を創作等す
るために資本を投下した者に,当該著作物等について競業者の市場への
参入を制限する権限を与え,これにより「超過利潤」を得て,上記投下
資本を回収する機会を与えることで,著作物等の創作等に資本を投下す
るインセンティブを維持することにある。したがって,このような著作
権制度における「著作者の正当な利益を害する」とは,当該著作物等に
ついて競争制限を行うことにより,当該著作物等に関し,著作者が超過
利潤を得て投下資本を回収する可能性を損なうことをいうものと解すべ
きである。
ロケーションフリーを用いることにより,原告らの放送対象地域外に
居住する者が原告らの放送を視聴したとしても,そのことによって,原
告らの放送対象地域内における放送の視聴率が低下するということはな
く,視聴率を重要なファクターとして算定される原告らの広告料収入が
低下して,番組の制作又は放送に係る投下資本の回収可能性を損なうと
いうことはない。
したがって,新規立法又は新規立法と同視すべき法解釈を行うことに
より,「ロケーションフリー」のハウジングサービスを禁止しなくとも,
原告らの著作者としての正当な利益が害されることはなく,ベルヌ条約
に抵触することもない。
(ウ)仮に,我が国の著作権法上の公衆への伝達行為に関する支分権に関す
る諸規定がベルヌ条約11条の2(1)項の規定の要求を満たさず,そ
の結果,一定の限度において上記規定が国内において自動執行されるこ
とがあるとしても,本件とは無関係である。
すなわち,ベルヌ条約5条(1)項によれば,ベルヌ条約に基づき著
作者が享有しうる権利は,「著作者は,この条約によって保護される著
作物に関し,その著作物の本国以外の同盟国において,その国の法令が
自国民に現在与えており又は将来与えることがある権利及びこの条約が
特に与える権利」であって,「著作物の本国における保護は,その国の
法令の定めるところによる」(同条(3)項)とされている。原告らが
別紙著作物目録に掲げる各テレビ番組は,仮に,著作物性が認められる
とした場合に,日本国内に「主たる事務所又は常居所を有する者」であ
る原告らが「製作者である映画の著作物」ということになるから,その
本国は日本国であり(同条(4)項(c)(ⅱ)),ベルヌ条約の直接
適用の当否にかかわらず,その保護の範囲は,日本国の法令の定めると
ころによることになる。
また,ベルヌ条約11条2(1)項の(ⅱ)は,そのような「commu
nication」が「anorganizationotherthantheoriginalone」によ
って行われた場合に関する規定であり,元の放送事業者と同等の放送事
業者を想定した規定であるといえ,本件には当たらない。
4争点4(原告らの損害の有無及び損害額)について
〔原告らの主張〕
原告らは,被告による著作権及び著作隣接権侵害により,次の損害を被った。
(1)被告の利益
著作権法114条2項により,被告が本件サービスにより受けた利益額は,
原告らが受けた損害の額と推定される。
ア被告は,本件サービスの利用者から,入会金として3万1500円,利
用料として月額5040円を受け取っている。
イ被告は,遅くとも平成15年10月1日には既に本件サービスの提供を
開始していたから(甲11の1ないし5),同日を起算日としても,平成
19年2月末日までの41か月間,本件サービスを提供した。
ウ本件サービスの利用者が現在70人程度であることからすれば,上記イ
の41か月間を通じて,その利用者数は少なくとも平均40人を下回るこ
とはない。
エ本件サービスにおいては,被告は利用者を獲得すれば,その後さしたる
経費等もかからないことから,その利益率は90%を下らないと考えられ
る。
オ以上を基礎として,被告の得た利益額を算出すると,次の計算式のとお
り,857万3040円となる。
(計算式)
{31,500円+(5,040円×41か月)}×40人×0.9(利益率)=8,573,040円
カ原告ら一放送波・番組当たりの損害額については,上記金額を7で除し
た金額となるため,122万4720円となる。
したがって,原告NHKの損害は244万9440円となり,その余の
原告らの損害は,各122万4720円となる。
(2)弁護士費用
被告の著作権及び著作隣接権侵害行為により,原告らは,本訴の提起に至
るまで,事前の通告,仮処分命令の申立て等の弁護士による対応を余儀なく
された。これらの経緯に照らせば,被告の著作権及び著作隣接権侵害行為と
相当因果関係のある弁護士費用は,次の計算式のとおり,各原告につき,2
8万5768円を下回ることはない。
(計算式)
8,573,040円(損害合計額)×0.2(2割)÷6(原告の数)=285,768円
(3)まとめ
以上によれば,被告に対し,原告NHKは273万5208円の,その余
の原告らは各151万0488円の,損害賠償請求権を有する。
〔被告の主張〕
(1)否認ないし争う。
(2)被告が本件サービスを提供したことにより,原告らは,現実には何らの損
害も被っていない。
第4当裁判所の判断
1争点1(本件訴えは訴権の濫用として却下されるべきものか)について
(1)被告は,本件訴訟に先行する仮処分事件において既に3度の司法判断がさ
れていること(本件仮処分事件における申立却下の決定,本件抗告事件にお
ける抗告棄却の決定,本件許可抗告事件における抗告不許可の決定)に照ら
せば,本件訴訟は,被告を困窮させる目的で同一の争点について繰り返し提
起されたものであるとしか考えられず,原告らによる本件訴訟の提起は訴権
の濫用に当たるから,本件訴えは却下されるべきであると主張する。
(2)本件訴訟の提起に先立ち,原告らは,被告に対し,被告が行う本件サービ
スが,本件放送に係る原告らの送信可能化権(著作隣接権)を侵害している
と主張して,本件放送の送信可能化行為の差止めを求める本件仮処分事件を
申し立てたものの,平成18年8月4日,被保全権利についての疎明がない
ことを理由に上記申立てを却下する決定がされたこと,原告らは,上記却下
決定について抗告をし(本件抗告事件),本件抗告事件において,上記送信
可能化行為の差止めに加えて,被告が行う本件サービスが本件番組について
原告らが著作権者として有する公衆送信権(著作権)を侵害していると主張
して,本件番組の公衆送信行為の差止めを求める申立てを追加したものの,
同年12月22日,著作隣接権に基づく申立てについては,被保全権利につ
いての疎明がないことを理由に抗告が棄却され,著作権に基づく申立てにつ
いては,申立ての趣旨の変更が不適法であることを理由に申立てを却下する
決定がされたこと,原告らは,本件抗告事件における決定に対し,許可抗告
を申し立た(本件許可抗告事件)ものの,本件許可抗告事件については,平
成19年1月31日,抗告を許可しないとの決定がされたこと,は,前記争
いのない事実等記載のとおりである。
(3)しかしながら,本件仮処分事件は,民事訴訟の本案の権利関係につき仮の
地位を定めるための仮処分を申し立てるものであり,債権者に生ずる著しい
損害又は急迫の危険を避けるために,本案判決の確定に至るまでの間,暫定
的な法律状態を形成し,これを維持することを目的とした申立てである(民
事保全法23条2項)。仮の地位を定める仮処分は,本来,仮処分手続とは
別に民事訴訟の本案手続が存在し得ることを前提とした手続であり,このこ
とは,上記仮処分手続において,債権者の申立てが却下された場合であって
も変わらない。
したがって,本件のように仮処分手続の後に本案訴訟手続が行われること
は,我が国の制度上,当然に予定されていることであるから,先行する仮処
分事件において,債権者の申立てが却下され,その判断が抗告審等で維持さ
れたからといって,それのみで,当該債権者が原告として本案訴訟を提起す
ることが訴権の濫用に当たるとはいえないことは,明らかである。
そして,本件全証拠によっても,他に,原告らによる本件訴訟の提起が,
自己の権利主張を離れ,被告を困窮させることを目的として提起されたもの
であることを窺わせる事情があると認めることはできない。
被告の上記主張を採用することはできない。
2事実認定
前記争いのない事実等,証拠(甲7の1ないし8,甲8,9,甲11の1な
いし8,甲22,27,甲28の1ないし8,乙1,2)及び弁論の全趣旨に
よれば,以下の事実が認められる。
(1)ソニー製「ロケーションフリー」の機能,利用手順等
アロケーションフリーの機能及び種類について
ロケーションフリーは,テレビアンテナなどをつないだベースステーシ
ョンから,別の場所にある「TVボックス」や手元の専用モニター,手持
ちのパソコン,あるいは「プレイステーション・ポータブル」などの受信
側の機器に映像を送信する商品である。
ロケーションフリーは,製品を購入したユーザーにおいて,①自宅内で
は有線又は無線LANを用いることによって,自宅内の好きな場所でテレ
ビ放送を視聴することを可能にする機能を有し,②自宅外ではインターネ
ット回線を用いることで,外出先や海外等においてもテレビ放送の視聴を
可能にする機能(以下「NetAV機能」という。)を有する(本件サー
ビスは,NetAV機能を用いるものであるから,以下においては,Ne
tAV機能を用いる場合について論じることとする。)。
ロケーションフリーを構成する機器であるベースステーションは,テレ
ビチューナーを内蔵しており,対応する専用モニター又はパソコン等から
の指令に応じて,テレビアンテナから入力されたアナログ放送波をデジタ
ルデータ化して出力し,インターネット回線を通じて,当該専用モニター
又はパソコン等にデジタルの放送データを自動的に送信する機能を有する。
ロケーションフリーには,次のとおり2系統の商品がある。
(ア)商品型番LF−X1及びLF−X5(専用モニター型)
べースステーションと対応する専用のモニターがセットになっており,
利用者はこの専用モニターでのみテレビ放送を視聴することができる商
品である。
なお,上記型番の商品は,いずれも現在は生産されていない。
(イ)商品型番LF−PK1及びLF−PK20(パソコン型)
LF−PK1は,対応する専用モニターがなく,ベースステーション
のみで販売されており(対応するパソコン用の専用ソフトウェアである
ロケーションフリープレイヤーの30日間お試し版がセットになってい
る),利用者は,別売りの専用ソフトウェアであるロケーションフリー
プレイヤー(LFA−PC2)をインストールしたパソコン,又は「プ
レイステーション・ポータブル」で,テレビ放送を視聴することができ
る商品である。
LF−PK20は,対応する専用モニターがなく,ベースステーショ
ンのみで販売されており,利用者は,別売りの専用ソフトウェアである
ロケーションフリープレイヤー(LFA−PC20)をインストールし
たパソコン,又は「プレイステーション・ポータブル」,又はロケーシ
ョンフリーTVボックス(LF−BOX1),又はロケーションフリー
液晶モニター(LF−12MT1)で,テレビ放送を視聴することがで
きる商品である(以下,受信機側の機器を特に区別せず「パソコン等」
という。また,上記各専用ソフトウェアを特に区別せず「専用ソフトウ
ェア」という。)。
(甲7の1ないし8,甲8,9,弁論の全趣旨)
イNetAV機能を利用するための準備作業等
(ア)NetAV機能を利用するためには,専用モニター型,パソコン型の
いずれにおいても,電源,テレビアンテナを確保するほか,ベースステ
ーションをインターネット回線と接続するため,ADSL回線,光ファ
イバー回線,ケーブルテレビインターネットなどの回線を準備し(回線
事業者と契約を締結し),インターネットのプロバイダーと契約を締結
し,ルーターやLANケーブル等を用意する必要がある(高速インター
ネット接続環境の確保)。
(イ)専用モニター型の利用に必要な設定作業等
専用モニター型を用いて外出先でユーザーがテレビ放送を視聴するた
めには,上記高速インターネット接続環境を確保するほか,次の設定作
業等を行う必要がある。
a付属のACパワーアダプター等を介して,ベースステーションを電
源コンセントにつないで電源が供給されるようにし,また,ベースス
テーションの背面のアンテナ接続端子とテレビアンテナ端子とをアン
テナ接続ケーブルで接続する。
専用モニターについても,付属のACパワーアダプター等を介して
電源コンセントにつなぐ。
bベースステーション及び専用モニターの電源を入れ,専用モニター
からテレビチャンネルの設定を行う。
cベースステーションの背面のLAN端子と,ルーター(ルーター内
蔵モデム及びADSLモデム等を含む。以下同じ。)のLAN端子と
をLANケーブルで接続する。その後,専用モニターから,ベースス
テーションの回線設定(環境設定。DHCPによる自動設定ないし手
動設定等でIPアドレス等を設定する。)を行う。
dユーザーが契約しているプロバイダーにダイナミックDNSサービ
スの利用を申し込み,ベースステーションの所在を示すドメイン名を
取得し,インターネット上から当該ベースステーションをドメイン名
で参照することができるようにする。
e専用モニターからNetAV機能の使用環境設定を行う。具体的に
は,使用環境設定の「NetAV有効/無効設定」画面で,「有効に
する」のチェックボックスを選択し,「NetAV時につなぐベース
のドメイン名」に上記dで取得した自己のベースステションのドメイ
ン名を入力し,「OK」ボタンを押す。この設定の際,必要に応じ,
上記画面上でベースステーションのポート番号を変更することができ
る。
(ウ)パソコン型の利用に必要な設定作業等
パソコン型を用いて外出先でユーザーがテレビ放送を視聴するために
は,上記(ア)の高速インターネット接続環境の確保のほか,次の設定
作業等を行う必要がある。
a専用ソフトウェアを上記パソコンにインストールする。
b付属のACパワーアダプターを介して,ベースステーションを電源
コンセントにつないで電源が供給されるようにし,また,ベースステ
ーションの背面のアンテナ接続端子とテレビアンテナ端子とをアンテ
ナ接続ケーブルで接続する。
cベースステーションの背面のLAN端子とルーターのLAN端子と
を,LANケーブルで接続し(なお,LF−PK20では,ワイヤレ
スでベースステーションとルーターとを接続することができる。その
場合には,ベースステーションをLANケーブルでルーターに接続し,
必要な設定作業を行った後に,LANケーブルをはずすことにな
る。),ベースステーションの電源を入れる。
その後,パソコンとベースステーションとの間を,無線ないし有線
のLAN回線で接続する。
dパソコンとベースステーションとが無線LAN回線で接続されてい
る場合には,パソコンの所定のソフトウェア(パソコンの基本ソフト
ウェアがWindowsXPの場合には「ワイヤレスネットワーク接
続」)を起動し,ワイヤレスネットワークの一覧表示の中からベース
ステーションの側面に記載されているSSIDと同じSSIDを選択
し,さらに,ベースステーション側面に記載されているWEPキーを
入力する。
パソコンとベースステーションとが有線LAN回線で接続されてい
る場合で,ルーターのDHCP機能によってパソコンがIPアドレス
を自動的に取得するように設定されている場合には,既にされている
パソコンとルーターとの間のLANケーブルによる接続作業で足り,
別段の設定作業を要しない。必要に応じてパソコン上で専用ソフトウ
ェアを起動し,「ベースステーション設定」画面でIPアドレス等を
手動で入力して設定することもできる。
これらの作業により,パソコンとベースステーションとが交信する
ことのできる状態になる。
eベースステーションの背面のセットアップモードボタンを押し,ベ
ースステーションをセットアップモードにする。他方,パソコンの専
用ソフトウェアを起動し,「ベースステーションの選択」画面で「接
続」ボタンを押して,当該パソコンをベースステーションに登録させ
る。
fパソコン上で専用ソフトウェアを起動した後,再度「ベースステー
ションの選択」画面で「ベースステーション設定」を選択し,その後
数次進んだ画面で「かんたん設定」を選択し,画面に示される手順に
従って所定のボタンを押して,パソコンからベースステーションのN
etAV機能の設定を自動で行う。
なお,上記「かんたん設定」ボタンによる設定を行う代わりに,パ
ソコンの専用ソフトウェアの該当する画面上において,手動でIPア
ドレス等を入力し,NetAV機能の設定等を行うこともできる(詳
細設定)。この場合には,ベースステーションのポート番号を入力し
て既定値の5021(LF−PK20では,5024)から変更する
ことができる(自宅に複数台のベースステーションがある場合には,
重複を避けるために,NetAVサーバのポート番号を変更する。)。
g既に登録されているモニター機器とは別の,専用ソフトウェアがイ
ンストールされたパソコン等のモニター機器をベースステーションに
機器登録したり,機器の登録を削除したりすることができる(LF−
PK1では4台まで,LF−PK20では8台まで)。
上記により複数のモニター機器を登録しても,テレビなどの映像を,
登録した複数の機器で同時に見ることはできない。映像を見ることが
できるのは,常に1台の機器だけである。
(エ)外出先からのテレビ放送視聴の手順
ユーザーは,外出前に,あらかじめベースステーションの電源を入れ
ておく。
外出先において,ユーザーは,専用モニター型を使用する場合には専
用モニターのLAN端子とインターネット回線に接続されている外出先
のルーターのLAN端子とをLANケーブルで接続するなどし,パソコ
ン型の場合にはパソコンのLAN端子と上記の外出先のルーターのLA
N端子とをLANケーブルで接続するなどして,専用モニター又はパソ
コンがインターネット回線と接続された状態にする。
ユーザーが,専用モニター型の場合には,専用モニターの電源を入れ,
画面下部の「NetAV接続」ボタンを押す。パソコン型の場合には,
パソコンの電源を入れ,専用ソフトウェアを起動し,「ベースステーシ
ョンの選択」画面で「接続」ボタンを押す。
これにより,外出先の専用モニター又はパソコンと自宅のベースステ
ーションとの間でインターネット回線を通じて交信が行われ,ソフトウ
ェアによる接続作業が完了すると,ベースステーションからデジタル化
された放送データがインターネット回線を通じて専用モニター又はパソ
コンに送信され始め,テレビ放送を視聴することができるようになる。
この際,専用モニター又はパソコンの画面の一部に視聴可能なチャンネ
ルを示す子画面が表示されるので,同子画面中の任意のチャンネルを選
択するなどして,好きな放送局に切り替えることができる。
(甲7の1ないし8,甲8,9,弁論の全趣旨)
(2)本件サービスの目的
本件サービスは,被告において,ベースステーションを利用するのに必要
な接続をし,ベースステーションを被告の事業所内で保管及び管理すること
によって,本件放送の放送波が届かない海外や国内地域に居住している利用
者等においても,任意に希望する本件放送を視聴することができるようにす
ることを目的としている。
(甲11の1ないし8,甲28の1ないし8)
(3)本件サービスの仕組み
本件サービスにおいては,次の機器類が,おおむね別紙2のとおり接続さ
れている。
なお,実際には,ベースステーションの機種は1種類に限られず,専用モ
ニター型とパソコン型とが混在している。また,ベースステーションの個数
については,解約等により,随時若干の増減があり,当初はベースステーシ
ョンが接続されていた箇所に何も接続されていないことがある。平成19年
7月29日当時,本件サービスの利用者は74名であり,被告の事業所内に
は74台のベースステーションが設置され,4台のルーター,4台のハブ,
22台の分配機及び,1台のブースターが設置されていた。
本件サービスにおいて使用されるソフトウェアは,いずれもソニーが開発
したものであり,被告が独自に準備したソフトウェアは使用されていない。
アベースステーション
ベースステーションは,インターネット回線と接続され,入力されたア
ナログ放送波をデジタルデータ化してインターネット回線に送信すること
ができる機器であり,デジタルデータ化された放送データは,対応する専
用モニター又はパソコン等からの指令に応じて,インターネット回線を通
じて当該専用モニター又はパソコン等へ送信される。
利用者は専用モニター又はパソコン等の操作を通じてベースステーショ
ンに対して指令を発し,ベースステーションから送信された放送データを
受信して,専用モニター又はパソコン等の画面で視聴する。
イブースター
電気信号を増幅する機能を有する機器である。
ブースターは,一方において,テレビの放送波(地上波)を受信するア
ンテナ端子にケーブルを用いて接続されており,他方において分配機に接
続されている。
ウ分配機
分配機は,放送波を各ベースステーションに供給するための分岐点の役
目を果たす機器である。
分配機は,一方において,ブースターにケーブルを用いて接続されてお
り,他方において各ベースステーションに接続されている。
エハブ
各ベースステーションとルーターとの間に介在して,1つ以上のLAN
回線を束ねる役割を果たす機器である。
オルーター
ハブとインターネット回線との間に介在して,相互の信号やデータの割
振りを行う機器である。なお,ルーターとインターネット回線とは,LA
Nケーブル等のケーブル類を用いて接続されている。
(弁論の全趣旨)
(4)本件サービスの利用手順
ア本件サービスへの加入申込み
利用希望者は,本件サービスのホームページ(http://●(省略)●/)
にアクセスして,本件サービスの内容を確認した上,サービス登録予約フ
ォームに氏名等の必要事項を記入して,被告に送信することにより本件サ
ービスの利用申込みを行う。
被告から,利用希望者からの利用者申込みを受けた事実の確認及びサー
ビス開始時期等の通知を内容とする電子メールを受信した申込者は,後に
申込者が被告へ発送するロケーションフリーの種類を指定する内容の電子
メールを返信する。
イロケーションフリーの被告への送付
被告から機器の受入準備が整った旨の電子メールを受信した申込者は,
ロケーションフリーを購入し又は既に購入済みのロケーションフリーを被
告のデータセンターに送付し又は自ら持参する。
ウ入会金及び月額利用料の支払
(ア)申込者は被告に対し,入会金3万1500円(税込み)及び初回分の
月額利用料5040円(税込み)を支払う。
(イ)上記支払後は,月額利用料5040円(税込み)を毎月1回翌月分と
して支払う。
(ウ)入会金の内訳につき,平成19年10月18日当時の被告のホームペ
ージ(甲28の4)では,「入会金,お預かりロケーションフリーの設
置,設定,設備料,ネット接続料金」と記載されており,同年2月23
日当時の被告のホームページ(甲11の5)では,「入会金,お預かり
ベースステーションの設置,設定,設備料,ネット接続料金,モニター
部発送手数料」と記載されていた。
また,月額利用料の内訳につき,被告のホームページ(甲11の5,
甲28の4)では,「保管場所代,電気代,通信回線代,諸設備利用
代」と記載されていた。
エベースステーションの設置,設定並びに専用モニターの発送
(ア)被告は,申込者から送付されたロケーションフリーのベースステーシ
ョンを被告の事業所(データセンター)内に設置し,ブースター及び分
配機を介してアンテナ端子に,ハブ及びルーターを介してインターネッ
ト回線に接続する。
この際,被告は,ベースステーションにポート番号を割り当てる等の
必要な設定作業も行う。
(イ)被告は,ベースステーションに専用モニター又はパソコン等からの指
令さえあれば自動的に放送データを送信し得る状態となったことを確認
するテストを実施した上で,専用モニター型の場合には専用モニターを
申込者に発送する。
(ウ)被告は,設置,設定の完了等を申込者に通知する。
申込者において,ベースステーションへの機器登録を行う。
機器登録が終了すると,申込者(利用者)はロケーションフリーによ
るテレビ放送の視聴をすることができる。
オ利用手順
(ア)専用モニター型
利用者は,専用モニターを操作し,インターネット回線を通じてベー
スステーションに指令を発する。
指令を受けたベースステーションは,自動的に放送をインターネット
回線を通じて利用者のモニター部分に送信し,利用者は,当該放送を受
信して視聴する。
専用モニター型の場合,利用者は,事前に所要の手続及び設定を経て
高速インターネット接続環境を確保する必要があるものの,専用モニタ
ーの電源を入れ,「NetAV接続」ボタンを押して,インターネット
回線を通じてベースステーションに指令を送信し,この指令を受けたベ
ースステーションから送信される放送を,専用モニターで受信すること
により,視聴することができる。
(イ)パソコン型
パソコン型の場合,利用者は,高速インターネット接続環境の確保を
するほか,事前に専用ソフトウェアを購入し,これを自己のパソコンに
インストールし,専用ソフトウェアの環境設定等を行う必要があるもの
の,これらの作業が終了した後は,パソコン上で専用ソフトウェアを起
動し,選択画面で「接続」ボタンを押すことにより,インターネット回
線を通じてベースステーションに向けて指令を送信し,この指令を受け
たベースステーションから送信される放送をパソコンで受信することに
より視聴することができる。
(甲8,9,甲11の1ないし8,甲28の1ないし8,弁論の全趣旨)
カ被告と利用者との本件サービスに関する契約内容
(ア)被告が本件サービスの利用者との間で締結する契約の約款である「ま
ねきTV有料サービス約款」(平成15年9月15日付け。甲28の
4)には,次の規定がある。
a「第4条(契約の単位)
1.サービス契約加入申し込みごとに,当社では本約款に基づき
サービスを提供します。このサービスはサービス契約加入申し
込みをした御本人(以下「加入者」といいます)が単独あるい
は同一世帯内で個人的に住居生計を共にする方々と御一緒に有
料サービスを受ける為のものであり,業務目的乃至その他目的
如何を問わず不特定多数の視聴の用に供する事は出来ません。
有料サービスの業務目的使用もしくは同時再送信ないし再分配
をすることは禁止します。
2.次条に基づく契約成立後,前項の規定に違反して不正に使用
していたことが判明した場合は,当社は,サービス契約を直ち
に解除することが出来る。」
b「第5条(契約の成立)
サービス契約は,加入申込者が本約款第3条に基づき申し込
みを行い,当社が承諾した時に成立します。但し,当社は,サ
ービス契約の申し込みがあった場合でも,以下の場合には承諾
しないことがあります。
1.(略)
2.加入申込者が放送番組の著作権および著作隣接権を侵害する
恐れがあると当社が判断する場合。
3.(略)」
c「第8条(料金の支払い義務)
1.加入者は別表に定めるイニシャルコストおよび利用料を当社
の指定する方法により当社にお支払いいただきます。利用料は
サービス契約成立の日の属する月の翌月分からとします。
2.イニシャルコストはサービス契約の成立後は返還されませ
ん。」
d「第12条(中途解約)
1.加入者は契約期間中であっても当社所定の書式により当社ま
たは代理店に解約希望月の27日迄に通知したうえでサービス
契約を解約することができます。解約は,当社が27日迄に文
書を受領した月の末日に成立します。
2.前項に基づいてサービス契約を中途解約した場合,解約の成
立した月の翌月以降の利用料をお支払いいただいている場合は,
当社は別表に定めるところにより,利用料を払い戻します。」
e「第13条(契約の解除等)
1.当社は加入者が利用料などの支払い義務を怠った場合,その
他本約款またはサービス契約に違反した場合には,ご登録メー
ルアドレスへの電子メールによる通知のうえサービスを停止し
てサービス契約を解除できます。この場合加入者は当社が契約
の解除を通知した日の属する月までの未払いの利用料,その他
未払いの料金を支払う義務を負います。請求した解約手数料が
支払われない場合は支払いがあるまで保管料として利用料と同
額の料金が発生します。解約通知後3か月を経過してご連絡を
いただけない場合はお預かり機器を当サービスにて廃棄します。
(2項以下略)」
f「第19条(著作権及び著作隣接権侵害の禁止)
加入者は個人的にまたは家庭内またはこれに準ずる限られた
範囲内において利用することを目的とする場合を除き,著作権
および著作隣接権を侵害する行為をすることはできません。」
g「第20条(NHK視聴契約)
NHK視聴契約については,加入者各自で契約する事とする。
当サービスでは契約,集金業務は行いません。」
(イ)本件サービスにおいては,被告が利用者との間の契約を解除した後の
ベースステーションの処理につき,次の2通りの方法が定められている。
aパターン1(利用者に返却)
被告が利用者の指定する場所にベースステーションを送付して返却
する。被告は,利用者から取外し手数料及び梱包料として5000円
と送料実費を徴収する。
bパターン2(被告において廃棄)
利用者がベースステーションの所有権を放棄し,被告においてベー
スステーションを廃棄処分する。被告は,利用者から取外し手数料及
び廃棄手数料として合計5000円並びにリサイクル法に基づく実費
を徴収する。
(甲28の1ないし8,弁論の全趣旨)
キ本件サービスの提供にあたっての被告の準備等
(ア)被告は,東京都内にデータセンターと称する事業所を賃借している。
また,被告は,同所に高速インターネット回線を準備し(回線事業者
と契約を締結し),インターネットのプロバイダーと契約を締結してい
る。
(イ)被告の開設する本件サービスのホームページには,「お問合わせは,
サポートデスクまで」との記載に続けて,サポートデスクのホームペー
ジへのリンクが張られている。利用者は,不明な点があれば,上記「サ
ポートデスク」を通じて,被告に問い合わせることができる(甲28の
6)。
また,同ホームページには,本件サービスを利用するのに必要なブロ
ードバンド環境(DL速度300kbps以上の通信速度)が整ってい
るかを計測することが可能であるとして,他のウェブサイトを紹介して
いる(甲28の8)。
さらに,被告のホームページには,利用希望者がロケーションフリー
を購入し得る店舗の名称として,ビックカメラ等が列挙され,同店舗の
ホームページへのリンクが張られている(甲28の4)。
(ウ)さらに,被告は,ベースステーションを載置するラックや,ルーター,
ハブ,ケーブル及び分配機,ブースター等を調達した。
これらの機器類は,すべて汎用品であり,本件サービスに特有のもの
ではない。
(甲28の1ないし8,弁論の全趣旨)
3争点2(本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為を行って
いるか)について
(1)自動公衆送信装置
「送信可能化」とは,著作権法2条1項9号の5に規定されるとおり,同
号のイ又はロに該当する行為により自動公衆送信し得るようにすることをい
う。
上記イ及びロは共に「自動公衆送信装置」の存在を前提とする行為であり,
「自動公衆送信装置」とは,「公衆の用に供する電気通信回線に接続するこ
とにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号
において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され,又は当該装置に入
力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」をいう(著作権法2条
1項9号の5イ)。
上記のとおり,自動公衆送信装置は,自動公衆送信する機能を有する装置
であり,「自動公衆送信」とは,「公衆送信(公衆によつて直接受信される
ことを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その
一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二
以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)に
あるものによる送信(・・・中略・・・)を除く。)を行うこと」(同項7
号の2)のうち,「公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線
放送に該当するものを除く。)をいう」(同項9号の4)。
そして,同法2条5項が「公衆」には,「特定かつ多数の者を含むものと
する。」と定めていることから,送信を行う者にとって,当該送信行為の相
手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,「公衆」に対する
送信に該当するものと解される。
(2)本件サービスにおける送受信行為の主体
ア本件サービスの内容及び仕組み
上記2(2),(3)認定のとおり,本件サービスは,被告において,
①ベースステーションを利用するのに必要な接続をし(アンテナ端子やイ
ンターネット回線との接続等),②ベースステーションを被告の事業所内
で保管及び管理すること,を内容とするものである。
本件サービスにおいては,ベースステーション,ブースター,分配機,
ハブ,ルーターが,おおむね別紙2のとおり接続されている。
イ本件サービスにおけるベースステーションの位置付け
(ア)上記2(1)ア,(3)ア認定のとおり,ベースステーションは,テ
レビチューナーを内蔵し,対応する専用モニター又はパソコンからの指
令に応じて,アンテナ端子から入力されたアナログ放送波をデジタルデ
ータ化して出力し,インターネット回線を通じて専用モニター又はパソ
コンへ自動的に送信する機能を有するから,本件サービスにおいて放送
データの送信を行う機器は,ベースステーションであるといえる。
ブースター及び分配機は,アンテナ端子からのアナログ放送波をベー
スステーションまで供給する機器であるにすぎず,ハブ及びルーターは,
ベースステーションから出力されたデジタルデータをインターネット回
線まで供給する機器であるにすぎない。
(イ)ベースステーションは,ソニーが製造,販売する商品である「ロケー
ションフリー」の構成機器であり,ロケーションフリー自体は,本件サ
ービスとは無関係に,外出先や海外等においてもテレビ放送の視聴を可
能にする機能(NetAV機能)を有する装置である。
一般消費者は,被告とは無関係に,ソニーの製造,販売する「ロケー
ションフリー」を購入し,利用することができる。
「ロケーションフリー」の利用行為一般が著作隣接権や著作権の侵害
に当たるとの主張,立証はない。
(ウ)ベースステーションの所有者について
上記2(4)認定のとおり,本件サービスにおいて,利用者は,いつ,
どこで,いかなる種類のロケーションフリー(ベースステーション)を,
いくらで購入するかにつき自由に意思決定をすることができ,自らこれ
を購入する。被告は,ロケーションフリー(ベースステーション)の購
入先を指定しておらず,また,購入の仲介ないしあっせんも行っていな
い(なお,被告のホームページには,利用希望者がロケーションフリー
を購入し得る店舗の名称が列挙され,同店舗のホームページへのリンク
が張られているものの,これは利用希望者の便宜を図る趣旨のものにす
ぎず,上記事実から,被告が購入の仲介やあっせんを行っているという
ことはできない。)。
また,利用者は,本件サービスに加入すると,購入したベースステー
ションを被告に送付し,以後,本件サービスの利用契約が継続している
間はベースステーションの保管及び管理を被告が行うことになるものの,
本件サービスの利用契約を解除した場合には,被告からベースステーシ
ョンの返還を受けることもできる。
以上によれば,本件において,ベースステーションの所有者は,利用
者であると認められる(なお,原告らにおいても,この点を特に争って
はいない。)。
本件全証拠によっても,利用者によるベースステーションの所有が仮
装であること(実質的所有者が被告であること)を窺わせる事情は見当
たらない。
ウベースステーションの機能等
(ア)上記2(1),(3),(4)認定のとおり,本件サービスにおいて
用いられるベースステーションは,あらかじめ設定された単一のアドレ
スあてに送信する機能しかなく,1台のベースステーションについてみ
れば,「1対1」の送受信を行うものであって,「1対多」の送受信を
行う機能を有しない。
そして,本件サービスにおいては,利用者各自につきその所有に係る
1台のベースステーションが存在し,各ベースステーションからの送信
の宛先は,これを所有する利用者が別途設置している専用モニター又は
パソコンに設定されており,被告がこの設定を任意に変更することはな
い。
また,各ベースステーションからの送信は,これを所有する利用者の
発する指令により開始され,当該利用者の選択する放送について行われ
るものに限られており,被告がこれに関与することはない。
(イ)上記のとおり,ベースステーションは各利用者の所有に係る機器であ
り,本件サービスで用いられるその余の機器類は,すべて汎用品であっ
て,本件サービスに特有のものではない。
また,本件サービスにおいては,ソニーが作成したソフトウェアが用
いられており,ベースステーションから利用者の専用モニター又はパソ
コンへの送信につき,被告が独自に作成したソフトウェア等は一切用い
られていない。
さらに,本件サービスにおいて,被告は,ベースステーションとは別
個にサーバを設置しておらず,利用者によるベースステーションへのア
クセスに本件サービス独自の認証手順を要求するなどして,利用者によ
る視聴を管理することもしていない。すなわち,利用者はインターネッ
ト回線を通じて自己の所有するベースステーションに直接アクセスし,
必要な指令を送って,ベースステーションから選択した放送データの送
信のみを受けている。
エ本件サービスにおける被告の役割
(ア)本件サービスにおいて,被告が行っていることは,①ベースステーシ
ョンとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステー
ションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと,②ベースステーション
を被告の事業所に設置保管して,放送を受信することができるようにす
ることである。
(イ)①の点について
本件サービスを利用しなくても,利用者が,実際にテレビ視聴を行う
場所(外出先や海外等)以外の場所(自宅等)に必要なアンテナ端子及
びインターネット回線を準備してベースステーションを設置すれば,ベ
ースステーションのNetAV機能を利用して,外出先や海外等におい
てテレビの視聴をすることが可能である。
ベースステーションの取付け及び設定作業については,利用者自らが
行うこともできるし,メーカーであるソニーの提供する設定サービス等
を利用することもできる。アンテナ端子及びインターネット回線を準備
し,ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接
続してベースステーションを稼働可能な状態にすること自体は,本件サ
ービスを利用しなくても,技術的に格別の困難を伴うことなく行うこと
ができる。
(ウ)②の点について
前記のとおり,本件サービスにおいて,利用者は,自らが購入し,被
告の事業所に設置保管されているベースステーションを所有しているも
のといえ,被告は,所有者である利用者からベースステーションの寄託
を受けて,これを被告の事業所内に設置保管しているにすぎないといえ
る。
そして,本件サービスにおいて,利用者は,被告に対し,ベースステ
ーションを稼働可能な状態で被告事業所内に設置保管することを求め,
被告は,ベースステーションが稼働可能な状態において,これを被告の
事業所内に設置保管する必要があるものの,このような義務を伴うから
といって,被告によるベースステーションの設置保管が寄託の性質を失
うものではない。寄託の性質を有すると解される,いわゆるハウジング
サービスにおいても,ハウジングサービス業者は,利用者からサーバを
預かり,利用者のパソコン等とインターネット回線との接続によりデー
タの送受信をすることができるようにすることがあるのであるから(弁
論の全趣旨),被告がベースステーションの設置,保管に伴い,ベース
ステーションとアンテナ端子やインターネット回線との接続を提供して
いるからといって,本件サービスが,いわゆるハウジングサービスとは,
その性質を異にするものであるとはいえない(いわゆるハウジングサー
ビス一般が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。
利用者は,本件サービスを利用しなくても,ベースステーションを東
京都内のテレビ放送波の受信状態が良好である場所に設置すれば,外出
先や海外等において本件放送を視聴することができるのであり,このよ
うにすること自体は,技術的に何ら困難を伴うものではない。
(エ)本件サービスは,メーカーの提供する設定サービス等と比べ,ベース
ステーションを被告の事業所に設置保管して,ブースター及び分配機を
経由してアンテナ端子からベースステーションに放送波が流入するよう
にし,かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーション
からインターネット回線への接続が行われるようにする点において相違
するものの,それ以外は,利用者が上記設定サービス等を利用してロケ
ーションフリーのNetAV機能を使用するのと異ならず,本件サービ
スを利用しなければ,本件放送を視聴することができないというもので
はない(メーカーの提供する設定サービス等が著作権法に違反するとの
主張,立証はない。)。
オ上記アないしエで述べたベースステーションの機能,その所有者が各利
用者であること,本件サービスを構成するその余の機器類は汎用品であり,
特別なソフトウェアは一切使用されていないことなどの各事情を総合考慮
するならば,本件サービスにおいては,各利用者が,自身の所有するベー
スステーションにおいて本件放送を受信し,これを自身の所有するベース
ステーション内でデジタルデータ化した上で,自身の専用モニター又はパ
ソコンに向けて送信し,自身の専用モニター又はパソコンでデジタルデー
タを受信して,本件放送を視聴しているものというのが相当である。
要するに,本件サービスにおいて,本件放送をベースステーションにお
いて受信し,ベースステーションから各利用者の専用モニター又はパソコ
ンに向けて送信している主体は,各利用者であるというべきであって,被
告であるとは認められない。
(3)自動公衆送信装置該当性
ア前記のとおり,自動公衆送信装置に該当するためには,それが(自動)
公衆送信する機能,すなわち,送信者にとって当該送信行為の相手方(直
接受信者)が不特定又は特定多数の者に対する送信をする機能を有する装
置であることが必要である。
前記のとおり,本件サービスにおいて,ベースステーションによる送信
行為は各利用者によってされるものであり,ベースステーションから送信
されたデジタルデータの受信行為も各利用者によってされるものである。
したがって,ベースステーションは,各利用者から当該利用者自身に対
し送信をする機能,すなわち,「1対1」の送信をする機能を有するにす
ぎず,不特定又は特定多数の者に対し送信をする機能を有するものではな
いから,本件サービスにおいて,各ベースステーションは「自動公衆送信
装置」には該当しない。
イ原告らは,被告が本件サービスに供している多数のベースステーション,
分配機,ケーブル,ハブ,ルーター等の各機器は,有機的に結合されて一
つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり,一
つのアンテナ端子からの放送波を,このようなシステムに入力して多数の
利用者に対して送信し得る状態にしているから,上記システムを全体とし
てみれば,一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものである旨主
張する。
しかしながら,上記(2)のとおり,各ベースステーションによって行
われている送信は,個別の利用者の求めに応じて,当該利用者の所有する
ベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレスあてにされ
ているものであり,個々のベースステーションからの送信はそれぞれ独立
して行われるものであるから,本件サービスに関係する機器を一体として
みたとしても,不特定又は特定多数の者に対する送信を行っているという
ことはできないというべきである。
したがって,上記システム全体を「自動公衆送信装置」に該当するとい
うことはできない。
なお,原告らは,被告が,ルーターにおいて「ポートフォワーディン
グ」を用いる設定を行っていることから,多数のベースステーションを統
合したシステム全体を一台のコンピュータとして認識することができるよ
うにしているとも主張する。
証拠(甲22ないし24)によれば,「ポートフォワーディング」(I
Pマスカレード)は,プライベートアドレスをグローバルアドレスに変換
する技術の一つであり,一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末
がインターネットにアクセスすることができるようにする技術であると認
めることができるものの,各端末が「1対1」の送信を行う機能しか有し
ないときは,この技術を用いたとしても,「1対1」の送信しかできない
のであって,「1対多」の送信が可能になるものではない。したがって,
「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っていても,そのことから
直ちにベースステーションを含む一連の機器が全体として,1台の「自動
公衆送信装置」に該当することにはならない。
ウ以上のとおりであるから,本件において,ベースステーションないしこ
れを含む一連の機器全体が「自動公衆送信装置」に該当するということは
できず,ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当する
ものということはできない。
エしたがって,被告がインターネット回線に接続されたベースステーショ
ンとアンテナ端子を接続したり,アンテナ端子と接続されたベースステー
ションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が著作権法2
条1項9号の5イ又はロに規定された送信可能化行為に該当しないことは
明らかであり,本件サービスにおける被告の行為は,原告らの有する送信
可能化権(著作権法99条の2)を侵害するものではない。
(4)原告らの主張について
ア原告らは,被告が送信可能化の主体であると解すべき根拠として,本件
サービスの目的,本質が,海外その他の放送地域外に居住しており,本来
であれば当該放送番組を見ることのできない多数の利用者に対し,インタ
ーネットを通じて,有料で放送番組を視聴させることにあり,ケーブルテ
レビやIPマルチキャストなどの放送番組の同時再送信サービスと本質的
に異ならないと主張する。
しかしながら,海外,その他の本件放送の放送地域外において,本件放
送を視聴することができるということ自体は,ロケーションフリーのNe
tAV機能そのものであって,被告の提供する本件サービスを利用しなく
とも,行い得ることであるから,このような結果を生じさせることから,
直ちに本件サービスを放送番組の同時再送信サービスと同視することがで
きないことは明らかである。
本件サービスの性質がいかなるものであるかは,被告と利用者との間の
契約内容,本件サービスにおける被告の具体的行為の内容,本件サービス
において用いられる機器の内容,構成,利用者が行うべき行為の内容等を
考慮して決すべきものであり,上記の観点から見たとき,本件サービスの
性質が,所有者(利用者)からベースステーションの寄託を受け,これを
設置保管することであると解すべきであることは,前述のとおりであるか
ら,これをケーブルテレビやIPマルチキャストなどの放送番組の同時再
送信サービスと同視することはできないというべきである。
イ原告らは,被告が送信可能化の主体であると解すべき根拠として,被告
が,①多数のベースステーションを被告の事業所内に設置した上で,②こ
れら多数のベースステーションに電源を供給,起動して,ポート番号の変
更などの必要な各種設定を行い,③テレビアンテナで受信した本件放送を
これら多数のベースステーションに供給するために,被告が調達したブー
スターや分配機を介した有線電気通信回線によってテレビアンテナとこれ
ら多数のベースステーションを接続し,④被告が調達し,必要な設定を行
ったルーター,LANケーブル及びハブを経由して,被告の調達した接続
回線によりこれら多数のベースステーションをインターネットに接続し,
かつ,⑤以上のような状態を維持管理していることを挙げる。
(ア)①,②及び④の点について
被告は,各利用者の所有するベースステーションの送付を受け,被告
の事業所内に設置保管し,ベースステーションに電源を供給し,ポート
番号の変更などの必要な設定を行い,ベースステーションをルーター,
LANケーブル及びハブを経由して,インターネット回線に接続してい
るものの,このような行為は,一般のハウジングサービスにおいても行
われ得る行為であるから,これらの点が,被告が送信可能化の主体であ
ることを基礎付ける事情であるとは,直ちにいうことができない。
なお,ポート番号の設定は,同一のLAN回線上に複数のベースステ
ーションが接続されているために,ポート番号が競合して機器の動作上
不都合が生じるという事態を避けるためのものにすぎず,ベースステー
ションの設定作業の一つにすぎない。
(イ)③の点について
被告は,ベースステーションに,ブースター及び分配機を介して,ア
ンテナ端子を接続している。
しかしながら,ベースステーションが自動公衆送信装置に該当しない
ことは前述のとおりであるから,ベースステーションに,ブースター及
び分配機を介して,アンテナ端子を接続しても,送信可能化行為には該
当しない。
また,そもそも,アンテナは単独で他の機器に送信する機能を有する
ものではなく,受信機に接続して受信設備の一環をなすものであること,
ブースターは,電気信号を増幅する機能を有するものの,アンテナ端子
からの放送波を単に供給する役割を果たすにとどまり,これ自体が単独
で他の機器に送信する機能を有するものではないこと,分配機は,単独
で他の機器に送信する機能を有するものではなく,アンテナを複数の受
信機で共用するために,アンテナからの1本の給電線を分岐させて複数
の給電線と接続させるとともに,それに伴う抵抗の調整を行うにすぎな
いことは,技術常識に照らし明らかであるから,本件において,被告が,
ベースステーションに,ブースター及び分配機を介して,アンテナ端子
を接続しても,ベースステーションによる本件放送の受信を行うための
物理的設備の提供にすぎず,ベースステーションへの送信を行ったこと
にはならないというべきである。
よって,上記の点も,被告が送信可能化の主体であることを基礎付け
る事情であるとは,直ちにいえない。
(ウ)さらに,上記①ないし⑤の点を一体としてみても,本件においては,
上記(2)で述べた各事情が認められるのであり,これらの事情に照ら
すと,上記①ないし⑤の点をもって,被告が送信可能化の主体であると
認めることはできない。
ウ原告らは,被告が送信可能化の主体であると解すべき根拠として,被告
が営利事業として本件サービスを提供していることを挙げる。
被告が,各利用者に対し,本件サービスを有料(入会金は3万1500
円(税込み)であり,月額利用料は5040円(税込み)である。)で提
供していることは,前記2(4)ウ(ア)認定のとおりである。
しかしながら,上記金額は,被告が,各利用者からベースステーション
の寄託を受けて,電源,アンテナ及びインターネット回線への接続環境を
提供する対価として高額にすぎるとはいえないから,上記の点が,被告が
送信可能化の主体であることを基礎付けるに足る事情であるとはいえない。
エ原告らは,被告が送信可能化の主体であると解すべき根拠として,被告
が事業所(データセンター)の場所を決めることにより,送信可能な放送
の範囲を限定していることを挙げる。
しかしながら,送信される放送波の範囲が限定されるのは,ベースステ
ーションの設置場所が被告の事業所(データセンター)内である結果にす
ぎず,これを超えて,被告が何らかの手段により,各利用者において受信
可能な放送の範囲を限定する行為を行っているわけではない。
したがって,上記の点が,被告が送信可能化の主体であることを基礎付
けるに足る事情であるとはいえない。
4争点3(本件サービスにおいて,被告は本件著作物の公衆送信行為を行って
いるか)について
(1)公衆送信
「公衆送信」とは,「公衆によつて直接受信されることを目的として無線
通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所
が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属し
ている場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信
(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」を
いう(同項7号の2)。
(2)原告らは,本件サービスにおいて,被告は,①多数のベースステーション
を被告の事業所に設置した上で,②これら多数のベースステーションに電源
を供給,起動して,ポート番号の変更などの必要な各種設定を行い,③テレ
ビアンテナで受信した本件番組をこれら多数のベースステーションに供給す
るために,被告が調達したブースターや分配機を介した有線電気通信回線に
よってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションを接続し,④被告
が調達し,被告において必要な設定を行ったルーター,LANケーブル及び
ハブを経由して,被告の調達した接続回線によりこれら多数のベースステー
ションをインターネットに接続し,⑤以上のような状態を維持管理する行為
を行っており,被告による上記①ないし⑤の行為により実現される本件番組
のテレビアンテナから不特定多数の利用者までの送信全体は,公衆によって
直接受信されることを目的としてなされる有線電気通信の送信として,公衆
送信行為(ここで,公衆送信とは自動公衆送信を意味するものと解され
る。)に該当すると主張する。
しかしながら,本件において,ベースステーションないしこれを含む一連
の機器が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず,ベースステ
ーションから行われる送信は「公衆送信」に該当するものではないことは,
前記3で述べたとおりである。
また,自動公衆送信し得るのはデジタルデータ化された放送データのみで
あり,アナログ放送波のままでは,インターネット回線を通じて「送信」す
ることができない。
したがって,アンテナ端子とベースステーションとを接続することにより,
アナログ放送波がベースステーションに流入しているとしても,その放送波
の流入によっては,自動公衆送信し得るようにしたものとはいえない。
そして,本件サービスにおいて,アナログ放送波は,各利用者が選択した
場合のみ,デジタルデータ化され,送信し得る状態になることからすれば,
被告が自動公衆送信される放送データをベースステーションに入力している
ということもできない。
(3)また,原告らは,本件サービスにおいて,被告事業所内のシステム全体が
一つの自動公衆送信装置を構成しており,被告は,これを管理支配して自動
公衆送信を行っていると主張する。
しかしながら,ベースステーションによって行われている送信は,個別の
利用者の求めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用
者があらかじめ指定したアドレスあてにされているものであり,このような
送信の実質に照らすならば,本件サービスに関係する機器を一体としてみた
としても,「自動公衆送信装置」に該当するということができないことは,
前記3で述べたとおりである。
(4)さらに,原告らは,本件サービスにおいて,被告が,テレビアンテナで受
信した本件番組を多数のベースステーションに供給するために,テレビアン
テナに接続された被告事業所のアンテナ端子からの放送信号を被告が調達し
たブースターに供給して増幅し,増幅した放送信号を被告が調達した分配機
を介した有線電気通信回線によって多数のベースステーションに供給してい
ることが,公衆送信行為(ここで,公衆送信とは有線放送を意味するものと
解される。)に該当すると主張する。
ア本件サービスにおいて,放送データを端末(専用モニター又はパソコ
ン)で受信し,視聴するのは,本件サービスの各利用者であり,受信者で
ある各利用者の端末(専用モニター又はパソコン)への放送データの送信
を行う機器は各ベースステーションである(各ベースステーションを含む
一連の機器を,全体として1台の「自動公衆送信装置」に該当すると見る
ことができないことは前述のとおりである。)。
そして,本件サービスにおいて,ベースステーションで,アナログ放送
波を受信し,これをデジタルデータ化した上で,利用者(受信者)の端末
への送信を行う主体は,前述のとおり,被告ではなく,利用者自身である
と解される。
イそして,アンテナ(端子)が単独で他の機器に送信する機能を有するも
のではなく,受信機に接続して受信設備の一環をなすものであること,ブ
ースターは,電気信号を増幅する機能を有するものの,アンテナ端子から
の放送波を単に供給する役割を果たすにとどまり,これ自体が単独で他の
機器に送信する機能を有するものではないこと,分配機は,単独で他の機
器に送信する機能を有するものではなく,アンテナを複数の受信機で共用
するために,アンテナからの1本の給電線を分岐させて複数の給電線と接
続させるとともに,それに伴う抵抗の調整を行うにすぎないものであり,
これ自体が単独で他の機器に送信する機能を有するものではないことは,
技術常識に照らし明らかである。
ウ以上によれば,被告がアンテナ端子とベースステーションとをブースタ
ー及び分配機を介して接続する行為は,ベースステーションにおいて放送
波の受信を行うための物理的設備の単なる提供にすぎないとみるのが相当
であり,送信行為には当たらないというべきである。
すなわち,被告の行為は,単に各利用者からその所有にかかるベースス
テーションの寄託を受けて,電源とアンテナの接続環境を供給するもので
あるにすぎず,著作権法2条1項7号の2所定の公衆送信行為に該当する
ものではない。
エなお,前述のとおり,本件サービスにおいて,受信機(利用者の専用モ
ニター又はパソコン)に向けて,本件放送のデータを直接に送信する役割
を果たす機器はベースステーションである。
被告が,アンテナ端子とベースステーションとを接続し,本件放送のア
ナログ放送波をベースステーションに流入させているとしても,被告の上
記行為によっては,本件放送が受信機(利用者の専用モニター又はパソコ
ン)まで送信されることはない(利用者の専用モニター又はパソコンから
の指令がなければ,ベースステーションにおいて,アナログ放送波がイン
ターネット回線を通じて送信可能なデジタルデータ化されることはな
い。)。
そして,このベースステーションから受信機に向けての送信の主体が各
利用者であると解されることは,既に述べたとおりであるから,被告は,
原告らと受信機(利用者の専用モニター又はパソコン)に向けて送信する
主体である各利用者との間をつないで,本件放送の放送波(電気信号)を
いわば運搬しているにすぎないのであって,被告による上記行為は,「公
衆によって直接受信されることを目的と」するものではないというべきで
ある。
そもそも,公衆送信が「公衆によつて直接受信されることを目的として
無線通信又は有線電気通信の送信を行うことをいう」と定義され(著作権
法2条1項7号の2),受信の直接性が要求されているのは,公衆送信行
為というためには,公衆の利用する端末まで送信すること(本件では,そ
の端末によって視聴し得る状態におくこと)が必要であることを意味する
ものと解される。このように解することが,自動公衆送信(同項9号の
4)のほかに,送信可能化を観念し(同項9号の5),著作権者等に送信
可能化権を付与する(同法23条1項等)著作権法の規定とも整合するも
のといえる。すなわち,送信可能化は,インターネット等の発達により,
著作物がいつ,どこから,どのような経路をたどって,どの端末に送信さ
れたかということを確認することが困難な状況が生じたことから,このよ
うな状況においても,著作権者等の権利の保護を実効性のあるものとする
ため,公衆送信が実際に行われていなくても,自動公衆送信装置に情報を
入力すること等が行われれば,著作者等がその著作物に関して権利行使を
することができるようにした規定である。仮に,自動公衆送信装置に情報
を入力することで公衆送信を行ったことになるのであれば,そもそも,公
衆送信とは別に送信可能化という行為を観念する必要はないのであり,そ
れにもかかわらず,送信可能化権が規定されていることに照らせば,著作
権法は,自動的に情報を送信する機能を有する装置に情報を入力しただけ
では,「公衆送信」を行ったことにはならないことを示しているものとい
える。
よって,この意味においても,本件において,被告がアンテナ端子とベ
ースステーションとを接続することは,公衆送信行為に該当しないといえ
る。
(5)以上によれば,本件サービスにおける被告の行為は,著作権法2条1項7
号の2に規定された公衆送信行為には該当しないから,原告らの有する公衆
送信権(著作権法23条1項)を侵害するものではない。
(6)その余の原告らの主張について
ア原告らは,放送対象地域外について放送が再送信されないようにするこ
とは,著作権法によって保護されるべき著作者の正当な利益であり,放送
対象地域外に所在する者(利用者)に放送を同時再送信することを本質と
する本件サービスは,著作権法が公衆送信権により保護しようとしている
著作者等の正当な利益を害する実質的に違法なサービスであると主張する。
しかしながら,本件サービスにおいて,本件サービスが放送の同時再送
信に当たるものではないこと,被告を利用者に対して送信行為を行う主体
であるとみることもできないことは,既に述べたとおりである。
イ原告らは,ベルヌ条約11条の2(1)項(ⅱ)は,著作者に対して,
放送された著作物を原放送機関以外の期間が有線又は無線で公に伝達する
ことについての排他的権利を与えており,本件サービスを公衆送信行為に
該当するものと解することがベルヌ条約上の要請である旨主張する。
しかしながら,既に述べたとおり,本件サービスにおける被告の行為は,
単に各利用者からその所有にかかるベースステーションの寄託を受けて,
電源とアンテナの接続環境を供給するにすぎず(すなわち,利用者がベー
スステーションにおいて放送波の受信を行うための物理的な設備の単なる
提供にすぎない。),「公に伝達する」行為(送信行為)とはいえないも
のであるから,被告による本件サービスの提供を公衆送信行為に該当しな
いと判断することは,何らベルヌ条約上の要請に反するものではないとい
うべきである。
5よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本訴請求は,い
ずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
阿部正幸裁判長裁判官
平田直人裁判官
柵木澄子裁判官
(別紙)
サービス目録
東京都内の被告の事業所内において,顧客から受け取ったソニー株式会社製「ロ
ケーションフリー」のベースステーションを設置し,これを,ブースター及び分配
機等を介して,テレビアンテナと接続されている同所のアンテナ端子と接続し,か
つ,ハブ及びルーター等を介してインターネット回線に接続することにより,同所
で受信できるアナログ地上波VHFテレビジョン放送番組を,顧客が視聴できるよ
うにするサービスであって,被告が「まねきTV」との名称により運営を行ってい
るもの
(別紙)放送目録
1原告日本放送協会が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
周波数:映像91.25MHz音声95.75MHz
2原告日本放送協会が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
周波数:映像103.25MHz音声107.75MHz
3原告日本テレビ放送網株式会社が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョ
ン放送
周波数:映像171.25MHz音声175.75MHz
4原告株式会社東京放送が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
周波数:映像183.25MHz音声187.75MHz
5原告株式会社フジテレビジョンが次の放送波を送信して行う地上波テレビジョ
ン放送
周波数:映像193.25MHz音声197.75MHz
6原告株式会社テレビ朝日が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
周波数:映像205.25MHz音声209.75MHz
7原告株式会社テレビ東京が次の放送波を送信して行う地上波テレビジョン放送
周波数:映像217.25MHz音声221.75MHz
(別紙)著作物目録
1番組名「バラエティー生活笑百科」
2番組名「福祉ネットワーク」
3番組名「踊る!さんま御殿!!」
4番組名「関口宏の東京フレンドパークⅡ」
5番組名「MUSICFAIR21」
6番組名「いきなり!黄金伝説。」
7番組名「ハロー!モーニング。」

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛