弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人B弁護人大塚守穂、同大塚重親、同木戸口久治上告趣意について。
 被告人Bは、本件アルコールがメタノールであると確実に知つていたという事実
を否認していることは、所論のとおりである。しかしながら、原判決の挙げている
各証拠を総合して考察すれば原審の事実認定を肯認することができる。被告人が本
件アルコールをAに売渡す当時には、これがメタノールであることは、知つていた
ものと認められ得るし、少くとも弁護人のいわゆる未必の認識は、存在したものと
認めるに十分であるということができる。被告人Bか本件アルコールを買入れた時
には、仮りにメタノールと知らなかつたとしても(しかも、売主蛯名がこのアルコ
ールは、元来軍の航空燃料として工業用に製造されたもので、飲料に適するかどう
かは、その試験が済んでいないので判らないと話したことは、被告人Bもこれを認
めている。)、同被告人がこれをAに売つたのは、共同買受人Dの死亡後であり、
同人の死因はメタノール中毒だと噂されていることは被告人Bも知つており、なお
又警察官から家捜しを受け本件アルコールを封印された事実あるに拘わらず、これ
をAに売渡したのである。されば本件で被告人Bが本件アルコールをAに売渡した
時には、少くともメタノールであることの未必の認識があつたと認められるのは当
然である。この点に関する論旨は、それ故に理由がない。又原判決は、不可分の供
述の一部だけを抜き採つて、事実を認定したものではないから、この点について採
証の違法と認むべきものはない。又証拠の取捨選択に対する非難の点は、法律審適
法の上告理由と認め難いのである。
 最後に、同被告人に対する科刑は、従来の法律眼から見れば、弁護人指摘のとお
り相当重いようである。しかし、現時の社会情勢の下においては、本件の犯罪性は、
一般に重要視すべき価値があり(昭和二三年(れ)第一〇三三号、同年一二月一五
日大法廷判決参照)、且つ具体的にいつて本件では種々悪い情状があつたことは、
否めない案件であつた。それは兎も角、かかる量刑不当に対する非難は、矢張り法
律審適法の上告理由とはならない。
 被告人B同A弁護人大橋弘利上告趣意第一点について。
 しかし原判決の事実摘示を、証拠説明と併せ読めば、被告人が販売した液体は、
証第二号の斗瓶入の一立方センチメートル中二九、五ミリグラム乃至三二ミリグラ
ムのメタノールを含有するアルコール液一斗であることは明白であるからこの点に
つき所論のごとき理由不備その他の違法はない。次に、有毒飲食物等取締令第一条
第一項は、「メタノールを含有する飲食物(一立方センチメートル中一ミリグラム
以下のメタノールを含有するものを除く)は、之を販売……することを得ず」と規
定し、同第二項は、「メタノールは飲食に供する目的を以て、之を販売……するこ
とを得ず」と規定している。メタノールを含む飲食物は、当然飲食に供せられる関
係上一定量以上を含む場合には、人間の生命、身体、健康に害があるから、有毒物
として取締をなしその販売等の行為を処罰するのである。そして、メタノールを工
業用に使用することを妨ぐべき理由は、毛頭ないのであるが、「飲食に供する目的
を以て」販売する場合には、やがて当然飲食に供せられる関係上、生命健康に害毒
を及ぼすに至る虞れがあるから、前同様これを処罰する必要があるのである。一定
量以上含まれてさえおれば、その保持されている形態は、敢て問うところでないこ
とは、立法の趣旨に照らし明らかである。また第二項は、百パーセント又はこれに
近いメタノールの販売等を対象とする処罰規定でないことも疑いの余地はない。本
件アルコールは、前述のごとく社会通念上飲食物というに足る外観形態を与えられ
たものではないから、前記第一項を適用すべき場合に該当しない。そして、「飲用
に供する目的を以て」販売した事実を認定し、右第二項を適用したのは正当であつ
て所論のごとき違法はない。
 されば、論旨は、何れもその理由がないと言わねばならない。
 同第二点について。
 原審において、過失を認定するための基本とした注意義務の内容は、当該具体的
事案の客観的状態において社会通念上通常一般的に要求されると考えられる程度の
注意であつた。そして被告人は、その注意義務を怠つたものとして、過失罪に問う
たものである。特別の判示がない限り、被告人は普通人(平均人)として取扱われ
従つて被告人は普通人としての注意義務を有することが判決上認められている。さ
れば本件過失罪の判示としては、これで十分であると考えられる。論旨は、なお右
の外に、被告人Aの諸事情「少くとも被告人Aがかかる注意義務を認識し得たかど
うか、認識し得たとしてもその義務を履行するために適当な手段をとることが可能
であるかどうか等が併せ判示せられねばならぬ」と主張する。しかしかかる事情は、
旧刑訴第三六〇条第二項にいわゆる犯罪(過失犯)の成立を阻却すべき原由の範疇
に該当するものと考えるを相当とする。従つて、原審において被告人又は弁護人か
ら、これについて主張があつた場合に限つて判断が示さるべきものである。しかる
に、原審においては、かかる主張がなされた形跡は、記録上見ることができない(
又論旨もかかる主張が原審でなされたとまでは言つているのではない)から、原判
決がこの点について特に判断を示さなかつたことは、何等理由不備の違法となるも
のではない。論旨は、それ故に理由なきものである。
 同第三点について。
 所論メタノールの鑑別が素人には困難であることは、原審裁判所に顕著な事実と
いうばかりでなく、むしろ公知の事実というべきものであるから、証拠によつて証
明する必要がないものである。論旨は、理由がない。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 安平政吉関与
  昭和二四年三月一七日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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