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平成20年6月24日判決言渡
平成19年(行ケ)第10313号審決取消請求事件
平成20年5月29日口頭弁論終結
判決
原告スター・サリンジ・リミテッ

同訴訟代理人弁護士鈴木修
同横井康真
同訴訟復代理人弁護士木村剛大
同訴訟代理人弁理士神田藤博
被告特許庁長官肥塚雅博
同指定代理人豊永茂弘
同北川清伸
同森川元嗣
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−974号事件について平成19年4月24日にした
審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「注射器」とする発明につき,平成9年7月11日(
優先権主張1996年7月15日,グレート・ブリテン及び北アイルランド連
合王国)を国際出願日とする特許を出願したが,平成16年10月13日付け
で拒絶査定を受けたので,平成17年1月14日にこれに対する審判請求(不
服2005−974号事件)をし,同年8月15日付けの手続補正書(甲2)
を提出した。特許庁は,平成19年4月24日,「本件審判の請求は,成り立
たない。」との審決をし,その謄本は同年5月8日,原告に送達された(付加
期間90日)。
2特許請求の範囲
平成17年8月15日付け手続補正書(甲2)による補正後の本願発明の請
求項1は,下記のとおりである。
【請求項1】胴部(1)及び該胴部内に摺動自在且つ密封係合するプランジ
ャ(7)を有する注射器であって,前記胴部(1)は,胴部の内壁の円筒状表
面を中断する少なくとも1つの中断手段(10,11;29)を有し,前記プ
ランジャは,封止キャップ(15)に係合される頭部(14)及び係止手段(
17,20)を有し,前記プランジャ(7)が後退すると,前記係止手段(1
7,20)が前記中断手段(10,11;29)と係合してそれ以上の後退移
動を防止するように構成され,前記係止手段(17,20)は,封止キャッ
プ(15)から分離され且つ前記頭部(14)に隣接し,前記胴部(1)は,
一体型に形成され,前記係止手段(17,20)を備えるプランジャ(7)も
また一体型に形成されることを特徴とする注射器(以下この発明を「本願発
明」という。請求項の数は9である。)。
3審決の内容
別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実開平3ー58
433号公報(甲3。以下「刊行物1」という。)記載の発明(以下「引用発
明1」という。)において,胴部を一体型に形成しているように,係止手段を
備えるプランジャもまた一体型に形成すること自体,当業者であれば普通に行
なう設計事項であり,当業者が容易に発明をすることができたものであるか
ら,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするもの
である。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明1の内容並びに本願発明と引用
発明1との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明1の内容
シリンダー及び該シリンダー内に摺動自在且つ密封係合する「押板,十字
形支柱,リング,挿持具などからなるもの」を有する注射器であって,前記
シリンダーは,シリンダーの内周壁後端部と先端部に多数の掛止突起を有
し,前記「押板,十字形支柱,リング,挿持具などからなるもの」は,ピス
トンパッキングに挿入される挿持具及びリングを有し,前記「押板,十字形
支柱,リング,挿持具などからなるもの」が後退すると,前記リングが前記
掛止突起に掛かりそれ以上の後退移動を防止するように構成され,前記リン
グは,ピストンパッキングから離れ且つ前記挿持具に隣接し,前記掛止突起
は,シリンダーに一体化されている注射器。
(2)一致点
胴部及び該胴部内に摺動自在且つ密封係合するプランジャを有する注射器
であって,前記胴部は,胴部の内壁の円筒状表面を中断する少なくとも1つ
の中断手段を有し,前記プランジャは,封止キャップに係合される頭部及び
係止手段を有し,前記プランジャが後退すると,前記係止手段が前記中断手
段と係合してそれ以上の後退移動を防止するように構成され,前記係止手段
は,封止キャップから分離され且つ前記頭部に隣接し,胴部は,一体型に形
成されている注射器である点。
(3)相違点
本願発明では,係止手段を備えるプランジャもまた一体型に形成されてい
るのに対し,引用発明1では,上記事項について明らかでない点。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,相違点についての容易想到性の判断を誤ったものであり,この判断の
誤りは結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1本願発明の「一体型」について
本願発明における「一体型」とは,係止手段とプランジャとの一体成形によ
る一体化を意味するものであって,引用発明1のように,リングが十字形支柱
とピストンパッキングとの間に挿着されている状態を含まない。一体成形と
は,硬化したパーツ同士の二次接着を行なうことなく,構造全体を一体のもの
として成形する方法をいうところ,本願発明の「一体型」とは,二次接着を行
なうことなく構造全体を一体のものとして成形する方法による一体化を意味す
る(甲5)。また,①本願発明に係る明細書(甲1,2。以下「本願明細書」
という。)には,プランジャが射出成形により製造されること,②射出成形に
よる成形は一体成形であること,③本願発明の「前記胴部(1)は,一体型に
形成され」の「一体型」は,一体成形により形成されるものであることを規定
した趣旨であり,本願発明の「一体型」は,一体成形による一体化を意味する
と解すべきである。
2引用発明1の「リング」について
引用発明の「リング」は,プランジャと独立していることによって,係止手
段としての機能を果たしているのであるから,リングを採用する以上は,一体
成形による製造は不可能である。したがって,引用発明において,係止手段の
形状を工夫することによって,本願発明に至ることは困難である。したがっ
て,プランジャにおいて係止手段であるリングを一体型に形成することが設計
事項ということはできない。
3本願発明の顕著な作用効果
本願発明は,①係止手段をプラスチックにより一体成形できる係止手段を用
いることによって製造コストの減少を達成できる,②胴部とプランジャとの分
離を不可能にした上,強い力を加えて分離を試みた場合には,接続ロッドで破
損するという自己破壊の効果をも備えることで,再使用が不能となるという引
用発明1にはない顕著な作用効果を奏する。
4引用発明2における「一体型に形成」する技術の開示等
審決は,特開平2−4386号公報(甲4。以下「刊行物2」といい,刊行
物2記載の発明を「引用発明2」という。)にも係止手段を備えるプランジャ
を一体型に形成することが記載されていることから,「一体型に形成」するこ
と自体は設計事項であると判断する。
しかし,本願発明の審査段階で引用されておらず,審判段階で初めて引用さ
れたものであり,また,引用発明2のブロック部材39は,本願発明の係止手
段に対応するところ,一体成形によりプランジャアッセンブリと一体化されて
いるかが不明であり,係止手段を備えるプランジャを一体型に形成したことを
示しているとはいえず,審決の上記判断は誤りである。
第4被告の反論
以下のとおり,引用発明1の係止手段を,その機能を損なわない範囲で係止手
段の形状を工夫することは,当業者が普通に行なう設計事項にすぎず,また係止
手段を一体成形のみならず,溶着,係合,接着等の固着手段を用いて,プランジ
ャと一体型とするか否かについても,当業者であれば部品の管理や製作コストな
どを考慮して適宜選択し得る程度のことにすぎない。
したがって,審決の判断に誤りはない。
1本願発明の「一体型」について
本願発明の「一体型」とは,係止手段とプランジャとが一体的になるもので
あれば,一体成形に限らず,溶着,係合,接着等の固着手段によって成形され
る場合も含まれると理解すべきである。また,本願発明は「一体型」とするた
めの具体的な形状・構造を特定しているわけではないから,一体型とするため
の形状・構造には種々の形状・構造を含む。
本願明細書には,プランジャが「一体型に形成される」という文言すら記載
されていないから,「一体型」が係止手段とプランジャとの一体成形による一
体化を示すとはいえないし,また,「一体型」が「射出成形」のみを意味する
ことを定義しているような記載もない。かえって,本願明細書には係止手段が
プランジャの頭部に取り付けられ,頭部に保持されることが記載されているか
ら,「一体型」にはプランジャとは別体の係止手段を取り付ける態様が含まれ
ていることは明らかである。
2引用発明1の「リング」について
原告の主張は,「一体型」の意義を,一体成形により形成されるものとして
いる点で失当である。
3本願発明の顕著な作用効果について
原告は,本願発明には,①製造コストの削減,②再使用を不可能とするなど
顕著な作用効果を奏すると主張する。しかし,①製造コストの削減は,どのよ
うな製品においても当然検討されるべき課題であるから,引用発明を製造する
際にも製造コストを削減すべく工夫をすることは当業者であれば適宜なし得る
ことであるし,②本願発明にはプランジャが自己破壊するような接続ロッドを
有することなど,再使用ができないことを規定する事項は記載されていないか
ら,失当である。
4引用発明2における「一体型に形成」する技術の開示の有無について
刊行物2によれば,係止手段を備えるプランジャを一体型に形成したものが
既に知られている。この点の原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由はないものと判断する。その
理由は,以下のとおりである。
1本願明細書(甲1,2)の記載
(1)特許請求の範囲には,以下のとおりの記載がある。
【請求項1】胴部(1)及び該胴部内に摺動自在且つ密封係合するプランジ
ャ(7)を有する注射器であって,前記胴部(1)は,胴部の内壁の円筒状
表面を中断する少なくとも1つの中断手段(10,11;29)を有し,前
記プランジャは,封止キャップ(15)に係合される頭部(14)及び係止
手段(17,20)を有し,前記プランジャ(7)が後退すると,前記係止
手段(17,20)が前記中断手段(10,11;29)と係合してそれ以
上の後退移動を防止するように構成され,前記係止手段(17,20)は,
封止キャップ(15)から分離され且つ前記頭部(14)に隣接し,前記胴
部(1)は,一体型に形成され,前記係止手段(17,20)を備えるプラ
ンジャ(7)もまた一体型に形成されることを特徴とする注射器。
(2)本願発明の「発明の詳細な説明」には,以下のとおりの記載がある。
ア「本発明の第1の態様によれば,注射器は,摺動自在で密封係合するプ
ランジャを中に備えた胴部を有しており,該胴部は,少なくとも1つのそ
の内壁の円筒状面を中断する手段を有し,前記プランジャが係止手段を有
し,該プランジャが後退すると,前記係止手段が作動して中断手段と係合
して更なる後退移動を防止するように構成されている。前記構成により注
射器は,通常の方法で使用できるが,1度注射すると前記係止手段の作用
により更なる使用には不適にされる。好適には,中断手段は胴部の末端部
に隣接して配置されている。末端部とは注射針が取り付けられる端部であ
る。1度注射がなされると,前記プランジャを前記末端の中断手段より更
に後退させることが不可能となる。前記中断手段は,完全に注射がなされ
た後での流し出しを可能にするが,前記胴部の再充填を防止するように位
置決めすることが可能である。別の中断手段を胴部の基端部に配置するよ
うにすることが可能である。これにより,使用前にプランジャを取り外す
のが防止されて,完全な焼き戻し防止特徴として機能する。」(6頁16
行∼28行)
イ「溝と突起は,胴部の軸線に対して一定の角度を持たせた方が直角にす
るよりも射出成形による製造が遙かに容易となる。」(7頁10行∼12
行)。
ウ「係止手段は,2つの後方に向いたかかりを備えており,該かかりは可
撓性の接続によりプランジャの頭部に取り付けられると共に,各方向に移
動可能にされているが,胴部の末端部から離れる後退移動と同時に中断手
段と係合する。例えば,一定の角度を付けられた溝と係合すると,プラン
ジャの頭部は,胴部内で溝に垂直に撓んで,双方のかかりが溝内で係止さ
れて,前記接続の可撓性と,エラストマーキャップの弾性とが許容され
る。或いは,係止手段が頭部に取り付けら(判決注「取り付けられ」の
誤記と推認される。)且ついずれかの方法に摺動するが,後退移動時には
中断手段と係合する可撓性を有した円周部を有するディスクを備える。該
ディスクは,係止位置で頭部に保持されるのが好適である。ディスクを十
字形にすることも可能である。」(7頁26行∼8頁6行)
エ「本発明は,また,注射器が射出成形により製造される2つのプラスチ
ック部品,即ち,頭部とプランジャから構成できると言った利点がある。
プランジャはペグを備えて形成され,ペグには弾性キャップが被せられて
係合し且つ頭部の内壁とで封止を形成する。プランジャは,上記の修正の
いずれかを含むように製造することができる従来の金型で成形される。或
いは,新しい又は既存の金型にこのかかり/接続又はディスクと合致する
インサートを装着することができる。これは投資コストを比較的低くする
ために,既存の製品を本発明の修正を含むように変更できることを意味す
る。同様に,本発明で説明した胴部を,該胴部用の金型コアを修正して製
造することができ,斯かる金型ツールであれば,全体の投資のほんの一部
でしかない。」(8頁11行∼21行)
オ「更に,本発明の態様は,係止手段を含んだ注射器の製造装置に関す
る。本発明の第2の態様によれば,注射器胴部内を摺動するようにされ且
つ該胴部の内壁の中断手段と係合するようにされた係止手段を有する注射
器を製造する装置は,2つの部品から成る金型ツールを備えており,各部
品がプランジャの一部の窪みに当接して,該2つの部品が協働してプラン
ジャ全体を形成し,各部品が窪みに当接してそれぞれのプランジャ部品の
係止装置となる取り外し可能なインサートを有している。本発明の第3の
態様によれば,インサートは,注射器胴部内を摺動するようにされ且つ該
胴部の内壁の中断手段と係合するようにされた係止手段を有する注射器を
製造する装置に使用されるようにされており,この装置は,2つの部品か
ら成る金型ツールを備えており,各部品がプランジャの一部の窪みに当接
して,2つの部品が協働してプランジャ全体を形成し,インサートが窪み
に当接してそれぞれのプランジャ部品の係止装置となり且つ対応するツー
ル部分に取り外し可能に取り付けられるようにされている。本発明の上記
第2及び第3の態様は,既存のプランジャ用の金型ツールを,係止手段を
備えたインサートを含むように修正するのを可能にする。既存のプランジ
ャは,従って,完全に新しいツールを必要としないことから,上記の係止
手段を含むように容易に低い等値コストで変更できる。」(8頁22行∼
9頁11行)
カ「図3乃至図6に図示す(判決注「図示する」の誤記と推認され
る。)如く,プランジャ7は,従来のロッド8とフィンガプレート9を有
しており,このプレートは,プランジャを押し込み引き出すのに使用され
る。プランジャの末端部にはペグ13を備えた頭部が設けられており,ペ
グの上にはエラストマーキャップ15が固定されており,エラストマーキ
ャップが胴部1内で液体及び気体を完全に封止する。ペグ13は,ベース
16を有し,ベースは,キャップ15を支持する。ベース16の反対側に
は,プランジャロッド8への管状接続部18があり,強力であるが若干可
撓性のある接合を形成する。また,ベース16には2つのかかり(flu
kes)17が添付されており,かかりが係止手段を形成する。かかり
は,組付けられた時にその半径方向外側基端縁19が内部胴部壁に接触す
るように配置される。軸線方向縁を,図4図示の如く,真っすぐな縁で構
成することも,また,図16に図示の如き弧状の縁を有するように構成す
ることもできる。縁10は,また,胴部の溝に最も良く合致する様々な構
成を有することが可能である。かかり17は,図4の矢印V−Vにより図
示された断面図である図5を見るとベース16外側へ突出している。ベー
スは胴部の内壁に接触はしないが,同図ではかかりがどのように突出して
胴部壁とどのように接触しているかを図示している。接続部18の位置を
図6に明白に図示している。」(11頁7行∼23行)
キ「かかりがいずれかの溝(10又は11)と係合すると,図14にはっ
きりと図示した如く係合する。かかり17が溝と一旦係合すると,かかり
に成形された張力により幅方向に拡張して利用できる空間が満たされる。
これによりそれ以上の後方への移動が防止される。プランジャの頭部は,
図示の如く溝の角度と整合して,更に,通常の整合が歪んで後方への移動
が防止される。更に,接続ロッド18が基端側のかかりの後部に接触して
かかりをより外側へ変形させて,より確実に溝に係合する。説明したかか
りの動作は,自己締付けロックとして作用する。即ち,使用者が注射器を
再使用しようとして強く引っ張れば引っ張るほどかかりもそれだけ強く係
止される。十分な力が加えられればプランジャ7は,接続ロッド18で破
損する。図15は,修正例を図示しており,中断手段が溝でなく寧ろ突起
29を備えている。該突起29は,環として形成され,胴部1の軸線に対
して一定の角度で傾斜する。突起29は,三角形の断面を有している。突
起は,第1の基端縁29’を有しており,該基端縁は20°乃至30°の
角度で内壁に対して若干傾斜されてプランジャの前進移動を可能にしてい
る。突起29は,また,第2の末端縁29”を有しており,該末端縁は約
60°乃至70°の角度で内壁に対して鋭角に傾斜されており,後退時に
は係止手段と係合するようにされている。使用されると,突起は,前記溝
10,11と同様に作用する。プランジャ7が前進移動するとかかり17
が突起29の上を通過するが,後退時には突起と係合する。この係合によ
りプランジャの頭部が捩れて,プランジャはそれ以上後退できなくなる。
別の修正例(図示なし)では,中断手段は,溝10と,該溝の基端側で該
溝に直後する突起29とを備える。これにより,係止手段17が十分満足
のいく作用をする。」(13頁28行∼14頁22行)
ク「図18乃至21は,係止手段の修正例を図示する。対応する部品には
対応する符号を付している。かかり17に代わって,係止手段は,可撓性
のある十字形のディスク20を備える。このディスク20は,短い中央コ
ネクタ21によりベース16に接続されており,接続18もまた短くされ
ており,ディスク20をプランジャロッド8へ接続している。ディスク2
0は,先の細くなった周辺部22を有しており,該周辺部は,隣接したベ
ース16より小さくされている。この構成により係止手段が必要とする空
間が削減される。図18は静止したプランジャ7を図示しおり(判決注
「図示しており」の誤記と推認される。),一方図20は,前方へ移動
中のプランジャを図示する。ディスク20の周辺部は,ベース16から離
間する方向へ撓んで,ベース16から遠い方の側がプランジャロッド8に
係合する。ディスク20は従って支持され,先の細くなった周辺部22
は,胴部表面(図示なし)と略平行になり,プランジャ7が容易に摺動し
て溝10の上を通過する。後方又は後退移動時には,ディスク20の周辺
部が反対に撓んでベース16と係合する。この位置では該周辺部はまだ摺
動できるが,溝10,11に到達すると,先の細くなった周辺部22の外
側縁が溝に入って肩部を形成して,溝から抜け出ようとする後退移動が防
止される。ディスク20がベース16上で支持されることから,ディスク
20は更に撓むことができなく,溝10を通過することができない。係止
状態で十分な力が加えられると,接続部18が破損する。通常の使用にお
いてもプランジャ7が捩られると接続がうかつにも破損することがある。
別の修正例(図示なし)では,接続部18が太くされて,コネクタ21が
細くされる。接続部18は,この場合プランジャ7が通常の使用で捩られ
て破損するのに抵抗を示す。係止状態では,十分な力がプランジャ7に加
わると,撓んだディスク20がベース16上で梃子として作用して,コネ
クタ21が破損して,プランジャ7の頭部が「飛び」落ちる。この修正し
た係止手段が胴部軸線に直角にされた溝10に係止しているのが図示され
ており,一定の角度で傾斜された溝又は図15の傾斜された突起29と同
様の作用をする。胴部1及びプランジャ7は,射出成形によりプラスチッ
ク材料から形成される。各々一回の成形で成形されるのがわかるであろう
し,これにより製造コストが低く押さえられている。実際,既存のプラン
ジャ(係止装置のないもの)を製造する成形用ツールを係止手段を含む用
に修正すること(判決注「ことが」の誤記と推認される。)可能であ
る。図22は,係止手段を含むように修正された,従来のプランジャ成形
用の2個構成成形用ツールの一方30を図示する。ツール部品30は,3
つのプランジャの一方の半分の窪みを含む。即ち,プランジャの他方の半
分の窪みを含んだ補完ツール部品は図示していない。みればわかる如く,
ツール部品は,3つの部分31,32,33により,それぞれ,頭部と把
持フランジに隣接した分割線34,35で分割されている。ツール部品3
0を係止手段を含むように修正するためには,係止手段の半分の窪みを含
んだインサート36が分割線34においてツール部品30へ挿入される。
図23にインサート36を図示しており,3つのインサート36がツール
部品30へ挿入されているのが図24に図示される。インサート36は,
充填物37により保持される。インサート36は,分離自在にされてお
り,摩耗すれば容易に交換することができる。係止手段を含んだインサー
トの摩耗は,係止手段がただ引く作用することが本発明の本質であるか
ら,ツール部品の他の部分の摩耗より重要である。このインサートは,従
って,交換することができるが,ツール残りの部分は,依然として満足の
いく状態であり,従って,全体としてツールの寿命を延ばすことができ
る。図23に図示したインサートは,2つの板38,39を有する。別の
修正例(図示なし)ではインサートは,1つの部分,又は,2つ以上の部
分から成ることが可能である。更に別の修正例(図示なし)では,各イン
サート板36を充填ではなく,ツール部品30及び板36の開口部に挿入
したピンで装着するようにすることが可能である。更に,ツール部品30
に使用できる分割線が存在しない場合には,部品30を分割してインサー
ト36を収容するようにすることが可能であるし,又は,インサートを収
容するようにキャビティを機械加工してもうけることも可能である。」(
14頁22行∼16頁23行)
2刊行物1の記載
他方,刊行物1(甲3)には,以下の記載がある。
(1)「図面に表示したように把手片(2)と排出口(3)を形成したシリン
ダー(1)に後端押板(7)と先端接触板(8)に十字形連結具(10)に
て連結した挿持具(9)をピストンパッキング(12)の挿持溝(11)に
挿入した十字形支柱(6)を挿入又は取りはずすようにした通常の注射器に
於て,シリンダー(1)内周壁後端部と先端部に多数の掛止突起(4),(
5)を先端側に傾斜するように突出形成し,十字形支柱(6)とピストンパ
ッキング(12)の間に切断部(14)を形成したリング(13)を挿着し
て構成した再使用防止一回用注射器」(実用新案登録請求の範囲)。
(2)「注射器は一回使用した事になるが,若し再使用する為に押板(7)を
把り十字形支柱(6)を後退させる為に引っぱると,リング(13)がシリ
ンダー内多数の先端掛止突起(5)の直角の突起に掛かり後退が不可能にな
る。」(5頁3行から7行)
(3)「リング(13)自体は切断部(14)を形成している為,シリンダ
ー(1)内を先端部掛止突起と後端部掛止突起(5,4)間を通過する場合
は,第4図のB図に図示したようにリング(13)の切断部(14)が間
隔(K’)を維持する状態にて通過するが,第3図のD図のように先端部掛
止突起(5)を完全に超えた場合に於ても間隔(K’)を維持する事にな
る。然し,第3図のC図のように先端部掛止突起(5)の傾斜部を通過する
場合は第4図のA図と先端部掛止突起(5)の頂点部に位置した図示のよう
にリング(13)の切断部(14)の間隔(K)はせまくなって通過するよ
うになる。即ち,リング(13)は自体弾性に依り切断部(14)の間隔(
K’)を維持しているが,先端部掛止突起(5)の傾斜部より頂点部に押え
られながらリング(13)の切断部(14)の間隔(K)がちじめられてせ
まくなってから頂点部をはずれて第3図のD図に図示したようになり,リン
グ(13)の切断部(14)の間隔(K’)に戻る。」(同5頁12行∼6
頁12行)
3相違点についての容易想到性の判断
以上の各記載を前提に,相違点についての容易想到性について判断する。
(1)本願発明の「一体型」について
原告は,本願発明における「一体型」とは,係止手段とプランジャとを「
一体成形」によって一体化することを意味するものであって,リングが十字
形支柱とピストンパッキングとの間に挿着されている状態を含まないと主張
する。
しかし,原告の主張は,その前提において採用できない。
すなわち,①本願発明に係る特許請求の範囲には,係止手段とプランジャ
とを一体成形することにより製造すると特定されていないこと,②本願発明
に係る発明の詳細な説明によれば,係止手段を含んだ注射器は,ツール部
品,インサート及び充填物が使用され,係止手段を含めて射出成形すること
ができることは記載されているものの,本願発明に係る注射器が,ツール部
品,インサート及び充填物のみによって製造される旨が記載されていないこ
と,③「係止手段」を構成する「かかり」や「ディスク」は,中断手段に係
合するために可撓性を有するようにプランジャやベースに「取り付けら
れ」,「支持され」,「添付され」ているとの記載があること,④「一体
型」の「一体」とは,一般に「①同一体,②一つになって分けられない関係
にあること」(岩波書店刊「広辞苑第6版」177頁参照)を指す語である
から,本願発明の係止手段とプランジャとは,一つになって分けられない状
態であることを意味するものの,一体的に製造されることまでは意味しない
といえる。
以上のとおり,本願発明の「一体型」とは,係止手段とプランジャとが一
体的に製造される場合に限定されるものではなく,後に溶着,係合,接着等
されることによって,一体化する場合を含むといえる。
この点,原告は,製造の複雑さを克服し,製造コストを削減しつつ再使用
不能の自己破壊式注射器を提供するとの本願発明の目的からすれば,本願発
明の「一体型」とは,「一体成形」によって一体化することを意味すると解
すべきであると主張する。しかし,本願明細書の記載によると,本願発明
は,注射針の焼き戻しや再使用の防止を改善することを主要な目的としてい
ること,製造コストの削減は胴部及びプランジャを射出成形によりプラスチ
ック材料から形成した場合に実現できることに照らすならば,原告の主張
は,採用できない。
仮に,「一体型」が一体成形を意味すると解しても,引用発明1の構成か
ら本願発明の一体型に形成された係止手段を備えるプランジャを容易に想到
することができるものと解されるので,審決の結論に影響を及ぼすものでは
ない。
(2)引用発明1の「リング」について
引用発明の「リング」は,プランジャと独立していることによって,係止
手段としての機能を果たしているのであるから,リングを採用する以上は,
一体成形による製造は不可能であると主張する(なお,「一体型」を一体成
形と解することを前提とした原告の主張は,(1)のとおりその前提において
失当である。)。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
刊行物1の記載によると,引用発明のリング(13)は,十字形支柱(
6)とピストンパッキング(12)の間に切断部(14)に挿着されてお
り,本願発明のプランジャに相当する「押板,十字形支柱,リング,挿持具
などからなるもの」がシリンダー(1)内に挿入された状態では,リング(
13)は,その弾性力によりシリンダー(1)内壁面側に突出している。そ
して,シリンダー(1)の吐出口(3)側に押し込むとリング(13)は掛
止突起4,5に接触し内方に変形して掛止突起4,5を乗り越え,再度シリ
ンダー(1)の内壁面側に突出する。また,「押板,十字形支柱,リング,
挿持具などからなるもの」をシリンダー(1)から抜き出そうとすると,リ
ング(13)は,掛止突起4,5に掛かり後退が不可能になるものである。
他方,本願明細書の記載によると,本願発明においては,胴部の内壁に中
断装置として溝(10,11)又は突起(29)が形成され,係止手段(か
かり又はディスク)は,プランジャに一体型に形成されているものであり,
プランジャが胴部内に挿入された状態では,係止手段は,胴部内壁に位置
し,係止手段であるかかり17の半径方向外側基端縁19は胴部の内壁に接
触している。そして,プランジャを前進させると,係止手段のかかり17
は,突起29がある場合は,胴部の内方に変形し,突起29乃至溝10,1
1を乗り越え,再度胴部の内壁に接触する。次に,プランジャを胴部から抜
き出そうとすると,係止手段のかかり17又はディスクは,突起29ないし
溝10,11に係合して後退移動が防止されるものである。
本願発明の係止手段と引用発明1のリングとを比較すると,その方法及び
機能において相違はない。すなわち,本願発明の一体型の固定手段も引用発
明1の挿着による固定手段も共に,係止手段及びリングを前進及び後退移動
させる点において共通しており,また,これら一体化手段及び装着手段の固
定手段は,当業者が普通に採用している技術であるから,どちらを採用する
かは,当業者が適宜決定する設計的事項であるといえる。
したがって,審決の判断に誤りはない。
(3)本願発明の顕著な作用効果について
原告は,本願発明には,①製造コストの削減,②自己破壊の効果を備える
ことによる再使用を不能とする点において,引用発明にはない顕著な作用効
果を奏すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,①製造コ
ストの削減は,胴部及びプランジャを射出成形によりプラスチック材料から
形成した場合に実現できるというにすぎないし,本願発明の注射器をプラス
チックにより構成することは,特許請求の範囲に記載されていないこと,②
本願発明にはプランジャが自己破壊するような接続ロッドを有することに限
定されていないことから,原告の上記主張はいずれも特許請求の範囲に基づ
くものではなく,失当である。
(4)刊行物2における「一体型に形成」する技術の開示等について
原告は,刊行物2は,本願発明の審査段階で引用されておらず,審判段階
で初めて引用されたものであるし,また,引用発明2は係止手段を備えるプ
ランジャを一体型に形成した技術は開示されていないと主張する。
しかし,前記(1)ないし(3)記載のとおり,相違点は設計的事項であるとの
審決の判断に誤りはなく,その例示として審決は刊行物2を示したものであ
るから,原告主張の事項は審決の結論に影響を及ぼすものではない。原告の
主張は理由がない。
4結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,審決を取
り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸

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