弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被告学校法人Aに対する訴えのうち,平成12年2月14日付け「法人本部B
事務局長より指示を受けて,C大学短期大学部2号館3階において,学園史の英訳
業務,海外留学生の募集活動及びこれらに附帯する事務をせよ。」との業務命令の
無効確認の訴え,及び同日付け「C大学の委員会への出席をしてはならない。」と
の業務命令の無効確認の訴えを却下する。
2 被告学校法人Aが原告に対してなした平成12年1月17日付け戒告処分,及
び平成12年2月14日付け「C大学の教授会への出席,その他の教育的諸活動を
してはならない。」との業務命令が無効であることを確認する。
3 被告D及び被告Eは,原告に対し,連帯して,金200万円及びこれに対する
平成12年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告の被告D及び被告Eに対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告らの負担
とする。
       事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1)被告学校法人Aが,原告に対してなした下記処分が無効であることを確認す
る。
ア 平成12年1月17日付け戒告処分
イ 平成12年2月14日付け「C大学の教授会,委員会への出席,その他の教育
的諸活動をしてはならない。」,「法人本部B事務局長より指示を受けて,C大学
短期大学部2号館3階において,学園史の英訳業務,海外留学生の募集活動及びこ
れらに附帯する事務をせよ。」との業務命令
(2)被告D及び被告Eは,各自,原告に対し,500万円及びこれに対する平成1
2年3月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)訴訟費用は被告らの負担とする。
(4)仮執行宣言
2 本案前の被告学校法人Aの答弁
(1)被告学校法人Aに対する請求の趣旨(1)イに係る訴えを却下する。
(2)訴訟費用は原告の負担とする。
3 請求の趣旨に対する被告らの答弁
(1)原告の請求をいずれも棄却する。
(2)上記2(2)に同じ。
第2 事案の概要
本件は,大学教授である原告が,被告学校法人A(以下「被告A」という。)に対
し,同被告が「原告が地元紙上で人権同和問題を軽視し,三重県人権センターを誹
謗するような発言をした。」などとして行った戒告処分及び教授会への出席を禁止
する等の業務命令の無効確認を求めるとともに,被告D(以下「被告D」とい
う。)及び被告E(以下「被告E」という。)に対し,これらの処分及び業務命令
の前提となった教授会決議で主導的な役割を果たしたなどとして,民法709条に
基づき,慰謝料500万円及びこれに対する最終の不法行為日である平成12年3
月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた
事案である。
1 争いのない事実等
(1)被告Aは,教育基本法及び学校教育法に従い,学校教育を行うことを目的とす
る学校法人であり,C大学を設置,運営している。
ア 被告Aの就業規則には,次の規定がある(乙イ1)。
「(遵守事項)
第35条 職員は,服務にあたって,次の各号に掲げる事項を守らなければならな
い。
(1)学園の名誉を重んじ,職員としての品位を保つこと
(中略)
(禁止事項)
第37条 職員は,次の各号に掲げる行為をしてはならない。
(中略)
(2)職務上の地位を利用して自己の利益を図ること
(中略)
(7)選択した教科書を使用しないで授業をし,生徒をみだりに自習をさせ,又は不
公正な成績評価をする等,教師としてふさわしくない行為をすること
(中略)
(懲戒)
第42条 職員が次に掲げる各号の一に該当する場合においては,これに対して懲
戒処分として戒告,減給,停職又は懲戒解雇の処分をすることができる。
(1)この規則その他学園及び学校の定める諸規定に違反した場合
(中略)
(5)規則第4章に定めた服務規律に違反した場合
(6)学園の職員としてふさわしくない行為のあった場合
(中略)
(懲戒方法)
第43条 懲戒の方法は次の各号に掲げるとおりとし,非行の軽重,当該職員の情
状及び他職員に対する訓戒等の諸点を考慮して,理事長がその処分を決定する。
(1)戒                           告   始末書
を提出させ,戒告書を交付して将来を戒める。
(2) 減給 1回の額が平均賃金の総額の1日分の半額を超え,総額が1か月間の賃
金の総額の10分の1を超えない範囲内で,給与を減額する。
(3) 停職 理事長の定める期間の間出勤を停止し,その職務に従事させない。停職
中の給与は支給しないものとする。
(4) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇し,退職金を支給しない。また,行
政官庁の認定を得た場合は,予告手当も支給しない。」
イ C大学組織規程には,次の規定がある(甲46)。
「(学長)
第2条 本学に,学長を置く。
(中略)
(職員)
第5条 本学に,次の専任職員を置く。
一 教育職員(教授,助教授,講師,助手)
二 事務職員
三 技術職員
四 その他の職員
(中略)
(職務)
第6条 学長及び職員の職務は,次のとおりとする。
一 学長は,学務をつかさどり,所属職員を統督する。
二 教授は,学生を教授し,その研究を指導し,及び研究に従事する。
(以下略)」
ウ C大学学則には,次の規定がある(乙ロ1)。
「(教授会)
第10条 本学に,学長の諮問機関として大学運営に関する重要事項を審議するた
め,教授会を置く。
2 教授会は,学長及び教授をもって組織し,助教授及び講師を加える。
(教授会の招集)
第11条 教授会は,学部長が招集する。
(会議)
第12条 教授会は,毎月1回開催する。ただし,学長が必要あると認めたとき,
又は教授会構成員の4分の1以上の要求があったときは,臨時に教授会を開催する
ことができる。
(教授会の審議事項)
第13条 教授会は,学長の諮問する次の事項を審議する。
一 教育課程並びに教育及び研究に関する事項
二 学則に関する事項
三 教員の選考に関する事項
四 学生の試験に関する事項
五 学生の入学及び卒業に関する事項
(中略)
九 その他本学の教育研究に関する事項
(中略)
3 教授会の運営に関し必要な事項は,別に定める。」
エ C大学教授会規程には,次の規定がある(乙ロ2)。
「(組織)
第2条 教授会は,学長及び教授をもって組織し,助教授及び講師を加える。
(教授会の招集)
第3条 教授会は,学部長が招集する。
2 学部長に事故があるときは,あらかじめ学部長の指名する教授が,その職務を
代行する。
(会議)
第4条 教授会は,毎月第2水曜日に開催する。ただし,学部長が必要あると認め
たとき,又は教授会構成員の4分の1以上の要求があったときは,臨時に教授会を
開催することができる。
(審議事項)
第5条 教授会は,学長の諮問する次の事項を審議する。
一 教育課程並びに教育及び研究に関する事項
二 学則に関する事項
三 教員の選考に関する事項
四 学生の試験に関する事項
五 学生の入学及び卒業に関する事項
(中略)
九 その他本学の教育研究に関する事項
(中略)
(専門委員会)
第8条 教授会の審議事項を専門的に調査審議するため,教授会に専門委員会を置
くことができる。」
(2) 原告は,昭和59年4月1日,被告Aが当時設置,運営していたF大学の講師
として採用され,その後,昭和62年4月1日に同大学の助教授,平成7年4月1
日にC大学の講師,平成8年4月1日には同大学の助教授に昇任し,平成11年1
0月1日,C大学の教授に任命された(甲1)。
(3) 被告Dは,平成8年4月1日,C大学助教授に就任し,平成9年4月1日,教
授に昇任した。平成10年10月1日から平成12年7月31日までは,同大学国
際学部長の地位にあった。
(4) 被告Eは,平成6年4月,C大学助教授に就任し,平成10年4月,教授に昇
任した。平成10年10月から平成12年7月までは,同大学学生部長の地位にあ
った。
(5)ア 原告は,平成11年11月5日付け「三重タイムズ」紙上で,「歴史認識の
見直し機運高まる」,「史観の押付けが問題」,「先人の功罪を正しく評価」,
「GC大学教授に聞く」との見出しのもと,三重タイムズのH(以下「H」とい
う。)編集長の質問に原告が答える形で次の発言を行った(以下「本件1記事」又は
「本件1発言」という。甲3,乙ロ6)。
「H編集長
日本世論の会三重県支部は十年ほど前に設立されたそうですが,会の活動として,
マスコミの偏向した報道や戦後の歴史認識などを正すことを目的にしていると聞い
ていますが。
G(原告)
戦争で日本が連合国に負けたのは事実だが,ほかの国ではすぐに自国の歴史を取り
戻しています。しかし日本では戦勝国の史観になっています。いわゆる日本は悪く
て,駄目だという自虐史観ですね。どこの国でもこれまで侵略したり,侵略された
りという歴史があります。なぜ日本だけが自分たちの先人はすべて悪いという考え
を持たなくてはならないのかと思います。戦争というのはどちらが一方的にいい悪
いということではないと思います。
H編集長
先人の功罪を正しく見つめるということですか。

まったくその通りですね。
H編集長
三重県での取り組みですが,三重県人権センターを調査されたようですがどのよう
な問題点がありましたか。

市民運動家のIさんらと行きましたが,想像以上にひどいものでした。人権センタ
ーといってもほとんどが部落問題で占められている。あとの二割ほどが反日,自虐
史ですね。どういう子どもや日本人を育てようとしているのかと疑問を感じるよう
な施設です。このセンターで真面目に勉強する子どもがいたら,将来が本当に心配
になります。このような施設を公費で建設したこと自体疑問ですね。
H編集長
東京都が計画している平和祈念館問題と何か共通するものを感じたということです
か。

ほとんどオーバーラップすると思います。東京都議会のJ議員は大学で1年後輩で
すが,彼の尽力で計画を凍結させました。人権センター問題はこれから監査請求と
か情報公開などで実態を明らかにしていきたいと思います。
H編集長
一方的な歴史観の押し付けをやめてほしいということですか。

日本でありながらまるでアメリカ史観,中国史観ですね。
H編集長
日本の場合は戦後あまりにも功罪の罪を強調しすぎたということでしょうか。

ある意味では日本人のよさかも知れませんね。素直というか,すぐにゴメンナサイ
ということですね。しかしこれは国際政治にはまったく通用しません。歴史観がし
っかりしないことには政治も語れないし,外交も語れないです。基本的なスタンス
の問題ですから。
H編集長
教育の問題にも関わってきますか。

少なくとも台湾レベルにはなってほしいですね。「認識台湾」という新しい歴史教
科書が発行されてますが,日本の植民地時代の功罪をはっきりと記述しています。
内容的にはむしろ日本の植民地政策を評価している点が多いように思います。日本
の歴史家や教科書編纂者はこういう事実を認めるべきです。西洋の植民地化は愚民
政策といって現地の人を無学文盲にして経済搾取する。これに対して日本は同化政
策です。植林や水道,道路,鉄道などのインフラ整備をし,学校を作ってますね。
大変な投資をしてます。いまだに台湾や韓国,中国の教育制度の基本になっていま
すね。
H編集長
Gさんらの活動について,右翼的な動きとして警戒する声もあります。

右とか左ではなく人一倍愛国心をもっているということです。日本人は二言目には
国際化というが,日本人としてのアイデンティティを持っているのかと疑問に思い
ます。いまや日本人は無国籍人ではないかとさえ思います。
H編集長
国際化といいながら実態は根なし草ということですか。

自分の国のことも語れないようでは,外国人に相手にされません。日本が一番きら
いな人たちは誰かというと日本人なんですね。こんな国は世界中探してもないでし
ょう。本当に悲劇だと思います。東南アジアの大部分の国では日本を高く評価して
います。マスコミはきちんと報道してほしいですね。
H編集長
事実は事実として冷静に検証し,報道すべきだということですね。

例えば南京の大虐殺でも,三十万人という数字はどこから出てきたのかということ
です。戦争ですからゲリラと民間人を間違えて殺したケースはあると思います。し
かし市民を意図的に虐殺したという事実はないわけです。こういう問題では政治的
背景を考えるのが妥当だと思います。
H編集長
日本世論の会は政治的な活動をするのかという疑問があります。

市民運動ですから政治的な組織を作るようなことはしません。会といっても個人の
単なる集合体です。例えば国歌,国旗についても本来なら慣習法でいいんですね。
なんでも法律化するのは自分の首を絞めることになると思っています。とにかく先
人に対する感謝がないことには,日本の明るい未来はないと私は考えています。」
イ また,平成11年12月3日付け「三重タイムズ」紙上で,「展示内容の改善
要望」,「日本世論の会三重県支部 県人権センターに」との見出しのもと,次の
記事が掲載された(以下同記事を「本件2記事」といい,同記事中の原告発言部分
を「本件2発言」という。甲4)。
「 三重県人権センターの展示内容や図書が自虐的だとして,改善を求めている日
本世論の会三重県支部のG支部長(原告)やIさんメンバー七人がこのほど,同セ
ンターを訪れ,K所長から対応策を聞いた。
K所長は「南京大虐殺で日本軍が殺した数が二十万から三十万人と説明している
が,これは教科書の記述をもとにしている。(戦争について)加害の本ばかり集め
ている。自虐的だとの指摘については,比率的には日本人が受けた被害よりも加害
の方が多いように思う」とし,「本やビデオの購入や展示などには何の差別もして
いない。(評価は)見る人の判断に任せたいと思う」と答えた。
これに対してG支部長らは「いろんな見解があるものについてはバランスをとって
ほしい。明らかに間違っている資料や写真,展示内容は撤去してほしい。必要以上
に自虐的なものはセンターとしても考えてほしい」と要望した。
同支部では「特定の内容の図書やビデオを県が購入したり,展示するのは問題があ
ると思う。今後も改善を求めていきたい」としている。」
(6)アL学長(当時),学部長被告D,学生部長被告E,M教授及びN教授の5名
で組織する「G教授の教員としての適格性審査委員会」(以下「審査委員会」とい
う。)は,平成11年12月17日午後3時30分,会合を開き,原告は「本学教
員として不適切な人物と判断せざるを得ず,辞職してもらうのが相当」との結論に
達した(甲2)。
イ 平成11年12月22日午後1時から,第93回(臨時)教授会が開催され,
欠席した被告Dに代わって被告Eが議事を進行し,上記審査委員会の原案どおり承
認した(甲2,32)。
(7)ア 被告Aは,平成12年1月17日,原告に対し,「平成11年11月5日付
けの「三重タイムズ」誌上でのC大学教授の肩書において行った発言,これまでの
講義方法等(東条英機に関する映画の鑑賞を強要するかのような指導等)及び公的
機関である三重県人権センターに対する誹謗ともとられかねない発言などは,当学
園の名誉と品位を害し,当学園の生徒・学生の募集に悪影響を及ぼし,その他関係
諸機関との信頼関係を著しく失墜させるものであって,当学園の職員としてふさわ
しくない言動であった。上記各行為は,A就業規則第35条(1),同第42
条(1)(5)(6)に該当するものである。」との理由で,A就業規則43条(1)に基づき
戒告処分を行った(以下「本件戒告処分」という。甲12)。
また,被告Aは,同日,原告に対し,「C大学教授の職を解き学園本部付事務職員
を命ずる。」との辞令を手渡した(甲13)。
イ 被告Aは,平成12年1月20日,学園本部付事務職員に配置換えになったと
して,同月25日に法人本部事務局に赴任するように命じた(甲14)。
(8)ア 原告は,代理人を通じて,平成12年1月23日,被告Aに対し,上記(7))
アにつき抗議する文書を送付した(甲15)。
イ 被告Aは,代理人を通じて,平成12年2月3日,原告に対し,本件戒告処分
の理由を説明するとともに,教授職を解く降格処分をした事実はないこと,兼務辞
令は後日送付することなどを記載した文書を送付した(甲5)。
ウ 被告Aは,平成12年2月14日付けで,原告に対して,「学園本部付事務職
員とC大学教授職の兼務を命ずる。」との辞令を発するとともに(甲16),担当
職務等について次のとおり連絡した(以下「本件業務命令」といい,下記1ないし
3に関する部分を「本件業務命令(1)」,下記4に関する部分を「本件業務命
令(2)」という。甲11)。
「1 勤務場所 C大学短期大学部2号館3階に一室を設けましたので,上記部屋
で執務してください。
2 担当職務
(1) 学園史の英訳業務
(2) 海外留学生の募集活動
(3) その他(1)(2)に附帯する事務
3 担当職務の具体的執務内容については,法人本部B事務局長より指示しますの
で,平成12年2月23日午前9時,C大学短期大学部事務室までお越し下さい。
4 平成12年2月3日付け回答書でご連絡申し上げましたように,C大学の教授
会,委員会への出席,その他の教育諸活動はお辞め下さい。」
(9) 原告は,平成12年2月16日,被告Aを相手取り,「原告に対し,C大学国
際学部教授として,C大学において,教授会の出席,研究,講義を行うことを妨害
してはならない。」等を求める仮処分を当庁に申し立てた(当庁平成12年(ヨ)
第12号地位保全等の仮処分申立事件,以下「本件仮処分事件」という。)。
(10) 第98回教授会が,平成12年3月8日に開催され,平成11年12月22
日付け決定事項が次の内容のとおりであることが確認された(甲10)。
「1)本学において,G氏には授業等の一切の教育活動をさせない。
2)G氏の教授会及び委員会等への出席はさせない。」
(11) 被告Aは,平成12年3月30日,原告に対し,上記(7)イの辞令は無効であ
ること,上記(8)ウの辞令につき本部事務職員との兼務を命ずる辞令は同月9日に撤
回されたこと,したがって,平成11年10月1日以降原告は教授職にあることを
記載した文書を送付した(甲17)。
(12) 当庁は,平成13年3月26日,本件仮処分事件について,申立てを却下す
る決定をした(乙イ2)。
2 争点
(1) 本件業務命令の無効確認の訴えの適法性
(2) 本件業務命令の効力
(3) 本件戒告処分の効力
(4) 被告D及び被告Eの責任
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件業務命令の無効確認の訴えの適法性)について
(原告の主張)
 原告が学生の教授と研究の指導,研究を行うことは,C大学教授という地位に伴
う当然の権能であり,原告は,C大学の教授会,委員会への出席,その他の教育諸
活動をする権能を有する。
本件業務命令によって,原告の人格権(名誉権)が侵害され続けており,現に行わ
れている侵害行為を排除するためには,本件業務命令が無効であることを宣言され
るべきである。
(被告Aの主張)
ア 本件業務命令(1)について
被告Aは,次のとおり,原告に対する本件業務命令(1)を既に撤回しているから,原
告がその無効確認を求める利益はない。
(ア) 被告Aは,平成12年3月30日付け通知により,本部事務職員との兼務を命
ずる辞令を撤回し,本件仮処分事件の平成12年4月20日,同年5月30日及び
同年6月23日の各審尋期日に繰り返し,本件業務命令(1)で命じた職務への就労を
拒否した。
(イ) 被告Aは,本件仮処分事件における,平成12年6月23日付け準備書面で,
原告に対して研究室を与えていること,大学図書館の出入りは自由であることを主
張し,本件業務命令(1)で命じた職務への就労を求めなかった。
(ウ) 被告Aは,本件仮処分事件の平成12年7月25日の審尋期日において和解案
を提示し,本件業務命令(1)で命じた職務への就労を命じなかった。
(エ) 被告Aは,本件仮処分事件の審尋終了まで本件業務命令で命じた職務への就労
を求めておらず,平成12年5月30日,同年6月23日,同年7月25日,同年
12月19日の各審尋期日において本件業務命令(1)を撤回した。
(オ) 被告Aは,平成13年11月15日の第3回口頭弁論期日において,同月14
日付け準備書面により,本件業務命令(1)を撤回した。
イ 本件業務命令(2)について
原告は,本件業務命令(2)を労働契約上の業務命令と解しているが,これは,労働契
約上の指揮命令権に基づき一定の作為不作為を命ずるものではなく,労働契約上の
受領拒否に当たるものと解すべきである。そうとすると,原告は受領拒否の無効確
認を求めることになり,不適法である。
また,本件業務命令(2)のうち,C大学の教授会,委員会への出席をしないよう求め
る部分は,教授会の意思表明を通知したものであり,被告Aの業務命令の範疇では
ない。
したがって,原告の本件業務命令(2)の無効確認の訴えは不適法である。
(2) 争点(2)(本件業務命令の効力)について
(原告の主張)
ア 審査委員会の結論の不当性
(ア) 審査委員会を設けた理由
審査委員会が,C大学の学則上のいかなる規程に基づいて設置され,いかなる権限
を有し,いかなる手続によって開催されるものであるかは不明である。
しかも,審査委員会の開催に先立って,原告に対しては,L学長や被告Eらが何回
も自発的な辞職を求めていたのである。つまり,審査委員会を設置するまでもな
く,その前に既に原告に辞職を求めるという結論は出ていたのである。
しかるに,その後に何らの事情の変更もないのに,どうしてわざわざ審査委員会な
るものを組織したのか,どうして審査委員会において「辞職を求めることが望まし
いとの結論に達した。」という外形的事実を必要としたのかという点については,
手続的公正さを外装しようとする以上の意味を何ら見いだすことはできないのであ
る。
(イ) 人権・同和問題に関する発言はしたことがないこと
被告D及び被告Eらが,審査委員会において,「G教授は本学の教員としては不適
格である。」から「辞職を求めることが望ましい。」との結論に達したのは,本件
1記事において,「G教授が人権同和問題の重要性を等閑視する発言をした。」か
らであるという。
しかし,原告は本件1記事において三重県人権センターの運営に関する発言はした
ものの,「人権・同和問題に関する発言」はしていないのである。
この点,被告Dは,本件1記事中「人権センターといってもほとんどが部落問題で
占められている。あとの二割ほどが反日,自虐史ですね。」の部分が人権同和問題
の重要性を等閑視する発言であると指摘し,審査委員会では,かかる発言をする原
告のような「人権問題の重要性を軽視する人物を本学教員として学生に対する教育
に従事させることは,大学に多大な悪影響を及ぼすのみならず,社会的に厳しい批
判をまねく恐れが大きいので不適切であると判断」したという。
しかし,原告の上記発言は,人権同和問題の重要性を等閑視するものなどではな
く,三重県の公の施設である三重県人権センターがいかなる歴史観によって運営さ
れているのかの判断の基となる事例を提示しているにすぎないものであったから,
審査委員会の判断の前提事実の認定には明らかな事実誤認があったことになるので
ある。
(ウ) L学長がかねてから明らかにしていたものと同一の視点に立った批判・要望で
あったこと
上記(イ)のように,原告が,展示物や図書に関して三重県人権センターの運営に対し
て抱いた問題意識は,L学長がC大学長の職名を冠して,平成8年10月1日付け
産経新聞の正論欄に執筆した論文に込められた問題意識,批判の視点,批判の対象
と何ら変わるところがなく,一方を是とし他方を非とする理由はない。
むしろ,原告の三重県人権センターに関する発言は,このL学長の論文の主旨を敷
衍したものにすぎないのである。
被告Aの建学精神である「正しく日本を愛し,国際的視野を広げる人になろう。」
に照らしても是認される発言でありこそすれ,否認されるべきものではなかった。
(エ) 人権問題の対象の多様性
また,そもそも三重県人権施策基本方針によると,いわゆる人権問題の対象は同和
問題と並んで,子ども,女性,障害者,高齢者,外国人,患者,アイヌの人びとで
あり,これらを対象として施策を推進することになっているのに,その基本方針を
実施する三重県人権センターの展示内容はパンフレット「三重県人権センター常設
展示室」に明らかなように同和問題が中心であって,他の人権問題の対象に関する
ものが皆無か極端に少ない。
原告の「人権センターといってもほとんどが部落問題で占められている。」との発
言は,このバランスを問題とする趣旨である。
(オ) 三重県人権センターの展示物等の偏向性
さらに,原告の「あとの二割ほどが反日,自虐史ですね。」との発言の真意は,原
告とともに三重県人権センターを視察した東京都議会議員Jが執筆した雑誌「正
論」の「人権啓発センターが推進する亡国の企て」に記載されているように,その
「書架には天皇制批判の書が並んでいる」ありさまで,図書館には書籍のほか,ビ
デオと16ミリの啓発映画が備えられており,その中には「中国侵略」のタイトル
のビデオがあるが,例えば南京大虐殺のように,未だにまぼろし派,中間派,大虐
殺派といわれる学者がいるように歴史学上では決着が付いていない事柄についても
大虐殺派といわれる学者らの見解を基にした展示内容となっていることから,一方
的に日本の過去を断罪する視点で図書や展示物等が選択されていることを問題視し
たものであるにすぎないのである。
この点については,「1階の常設展示パネルは一方的な内容で,2階図書館の書籍
について反権力・反体制の色合いが強く,行政の展示としてはふさわしくない点が
多い。」として,これら展示物を選択した意図等を尋ねる質問状に対して,三重県
人権センターのK所長は,「思想的に偏った内容の書籍が多いことは確か。」と認
めていたところである。
(カ) 審査委員会の結論の誤り
したがって,原告の本件1発言が,「人権同和問題の重要性を等閑視する発言」な
どでなかったことは明らかである。
しかるに,審査委員会は,原告の本件1発言の趣旨をあえて正当に理解せず,むし
ろ意図的にねじ曲げて,人権・同和問題に関する発言をしたとして,しかも人権問
題の重要性を軽視するものと評価して,「G教授は本学の教員として不適格であ
る。」から「辞職を求めることが望ましい。」との結論を下したのであって,その
結論が不当なことはいうまでもない。
そして,審査委員会は,殊更に原告に弁明の機会を与えていないのである。原告
は,平成11年12月3日及び同月13日にL学長と面談した際,「何も言ってい
ませんけどね,部落問題については。」,「バランスを欠いている,ということを
言っているだけです。まだまだ人権問題,いっぱいある。」,「私が言っているの
は,自虐図書,展示,そういう問題なんです。」などと弁明したが,L学長も被告
Eも,原告の発言内容の当否を吟味するという姿勢は一切なく,問答無用とばかり
に,発言した事実そのものが許されないから,責任を取れ,辞職せよと原告に迫っ
たのであって,弁明の機会が与えられたといえるものではなかった。
被告Eは本件1発言における批判の仕方や言葉遣いの問題を指摘しているが,L学
長の著作に比して問題とすべきものではない。しかも,三重県人権センターは公の
施設である以上,その運営についてあらゆる批判の対象になることはむしろ当然の
ことで,いかなる批判も免れるべき聖域ではあり得ないのであって,表現の厳しい
批判であっても誹謗中傷の類の言説でない。
イ 平成11年12月22日の第93回(臨時)教授会の決議の不当性
(ア) 原告に弁明の機会が与えられなかったこと
第93回(臨時)教授会について,原告には知らされず,しかも,原告の出席も弁
明も求めずに開催された。
(イ) L学長の報告の内容
L学長は,第93回(臨時)教授会で,次のとおり報告した。
「本学は,廃校の危機に直面しているといっても過言ではない状況にあるが,その
原因となったのはG教授の発言にある。・・・G教授の三重県立人権センター及び
人権・同和問題に関する発言は,慎重さを欠き配慮の足らないものであり,そのこ
とに伴う結果責任は本人自身が果たさねばならない。・・・11月29日にG教授
と1時間程度話し合い・・・発言がもたらす結果責任を自覚し,社会的責任を負っ
てもらわねばならない旨伝えた。しかし,本人は,それが学長の思い過ごし,杞憂
であり何ら問題は起こらないと断言して意に介さなかった。・・・
その後,三重県人権センター及び同和問題関連の反応も出て来たため,12月8日
に再度G教授とこの問題について話し合った。その際,本人に対して,「自発的に
辞めて欲しい。本学としては,70余名の教職員を路頭に迷わすことはできな
い。」旨を伝え,諄々と説得した。・・・しかし,結局もの別れに終わっ
た。・・・12月17日,理事長の了解を得て審査委員会を発足させ2時間審査し
た結果,原告は「本学の教員として不適切な人物と判断せざるを得ず,辞職しても
らうのが適当との結論に達した。・・・
今回のような人権センター及び同和問題に関する発言について,ある特定の団体
が,過去においてどういう行動をとるにいたったかについての調査も行い,このこ
とで生徒募集に支障を来すこともあり得ると判断せざるを得なかった。・・・他方
12月3日・13日の両日,学部長・事務局長・入試広報室長・学務部長及び学生
部長の5名により,非公式に本人と話し合いをもった。人権センターに関する発言
については,責任をとってもらいたいと説得したが,本人は・・・問題の重大性の
自覚がなく責任をとる姿勢が全くみられなかった。5名の判断も「辞職していただ
くのが唯一の道である」との意見に一致した。」
このL学長の報告を基に,被告Eが教授会の議長となって審議したというのであ
る。
(ウ) 誘導の意図
このように,L学長が,本学は,廃校の危機に直面しているといっても過言ではな
い状況にあって,原告が辞職しない限り70余名の教職員を路頭に迷わすことにな
ると説明して,「本学の教員として不適切な人物と判断せざるを得ず,辞職しても
らうのが適当との結論に達した。」という審査委員会の結論の承認を求めれば,教
授会の結論は審査委員会の結論を承認することになるのは当然であった。
(エ) L学長が教授会に報告した内容が客観的な資料に基づき合理的に判断されたと
いうようなものではなかったこと
そこで,以下,L学長が教授会に報告した内容が客観的な資料に基づき合理的に判
断されたものであったかどうかをみる。なぜなら,報告内容が,根拠のない思い込
みや過剰な恐れの産物であれば,それを前提とする教授会の決議は正当な判断に必
要な前提条件を欠いてなされたもので,結果として不当なものとなるからである。
a 原告の「人権・同和問題に関する発言」について
前述のとおり,本件1発言の趣旨をねじ曲げて報告しているにすぎない。
b 「廃学の危機」について
被告Eは,L学長が「廃学の危機に直面している。」と言った趣旨について,「本
件1発言によって直ちに廃学の危機に直面しているわけではないが,世間一般の誤
解を招きかねないから,もし,そのことによって大学のプレスティージに影響を与
えるようなことがあれば,間接的に学生募集にも影響が出るのではないか,そうな
ればいずれ将来には廃学となって70余名の教職員を路頭に迷わすことになるので
はないかということを言ったものではないか。」と人ごとのように推測するもの
の,廃学の危機に直面している状況でないと判断していたというのである。
c 「その後三重県人権センター及び同和問題の反応もでてきた。」との点につい

被告Eは,見識を疑うとの内容の匿名の電話があったことを間接的に聞いているだ
けで,何件あったかは聞いてない。
被告Dは,広報担当者から県下の高校の進学担当の先生に反応が出ていることもあ
るのではないかとの推測を聞いたことがあること,他には正確な記憶はないが,学
長から同和関連の方が話に来たというようなことを聞いたという程度の認識しかな
かった。
C大学の人事に関する統括責任者であるOは,「私が知る限りでは,学外から強い
批判があったとも聞いていませんけど。」と答え,これを否定している。
しかるに,Oは,本件1発言が問題になるのではないかと過剰反応し,原告に何ら
かの処置をするからご了解下さいと先回りして,三重県教職員組合委員長らにわざ
わざ言いに行ったのである。
d 結果責任について
L学長のいう結果責任について,被告Eは,本件1発言によって「あぁ,おたくの
大学にはああいう先生がいて,おたくの大学はそういうスクールカラーがあるのか
なというように誤解されるかもしれないとC大学教授らに危惧させることになった
責任」と理解している。
しかし,他の大学教授の場合にもいえることであるが,当該大学の教授の肩書きで
発言しても,その大学のスクールカラーなどと思う者などいないことは常識に属す
ることである。
万一,本件1発言によって,C大学が人権を無視した教育を行っているかのように
とられ,学外から多くの非難を受けたとすれば,被告Aはもちろん,教授会として
なすべきことは,いやしくも大学の自治や学問の府を標榜する限りは,学外から寄
せられた非難が理由のないものであることを反論することでありこそすれ,寄って
たかって原告を辞職させることではなかったはずである。
以上のように,第93回(臨時)教授会の決議は,本件1記事の正確な理解も,そ
の発言のもたらした結果も正確に提示されないままに,とにかく審査委員会の結論
を承認しなければ,いかにも70余名の教職員を路頭に迷わす廃学の危機が目前に
迫っているかのように錯覚させてなしたものであって,決議に至る手続も不当であ
るし,決議の内容も不当であることは論を待たない。
ウ C大学教授の本来的権能
原告の現在のC大学教授たる地位は,平成11年10月1日付けの辞令に由来する
ものであるが,任命時の原告の職務は,学生の教授と研究の指導,研究であり,か
つ,原告は教授会の本来的メンバーとして教授会に出席して審議に参加できる資格
を有するものであったから,そうである以上,特段の事由のない限り,現在も同様
であるべきものである。
そもそも大学の目的は,学問研究と人間の教育にあり,その中のいずれかをも除外
できないことは特筆を要しないところであり,もし,大学の目的が単なる研究にと
どまるとするなら,そこには学生は存在するわけはなく,大学は一種のアカデミー
その他の研究機関と異なるところはない。また,大学において学問の研究が行われ
ないで,単に学生を教育するだけとするならば,大学はこれを専門学校や高等学
校,その他の学校と区別することはできなくなる(田中耕太郎著,教育基本法の理
論724頁)。
研究と教育の両機能を営む最高の施設としての大学の存在の意味は,それが国民的
な(ただし,国際性を否定する意味ではない)学問,文化の保存発達に貢献するこ
とである。大学の存在によって,国民の学問的価値と伝統は保存され,次の世代に
うけつがれていく。そのためには継続的な制度を必要とする。そうしてこの価値の
保存と発達のための制度に精神を吹きこむのが人格である。大学の人格的方面は,
教授団と学生によって成立する大学協同体である。大学協同体の精神的及び現実的
の中核をなすものは,学問すなわち超個人的な文化価値の涵養である。大学の理念
は,フンボルトによれば,学問を自己目的として追求すること,究明と真理への精
神の永遠の努力である。学問の自己目的としての追求は決して容易なことではな
い。それは個人的の努力だけで以てなし得るところではなく,協同体の中において
なされることが必要である(田中前掲書736ないし737頁)。
つまり,大学の理念は,教授団と学生によって成立する大学協同体の中で,学問研
究と教育がなされるという姿の中で実現されるのである。
そうである以上,原告が学生の教授と研究の指導,研究を行うことは,C大学教授
という地位に伴う当然の権能である。
エ 本件業務命令の違法性-不利益的取扱い,名誉毀損行為
しかるに,被告Aは,原告に対し,平成12年2月14日付け連絡書において本件
業務命令を発した。つまり,原告に対して,教授であるのにその本質的職務である
教育的諸活動をしてはならない,教授会の構成メンバーであるのに教授会に出席し
てはならない,法人事務局長の指揮の下で機械的作業に従事せよ,というのであっ
た。
もっとも,被告Aは本件業務命令(1)は撤回されたと主張するので,以下,本件業務
命令(2)の当否だけを論じることにする。
いうまでもなく,C大学においては,教授会に出席できない教授,大学の施設を利
用して研究できない教授,学生に対して講義や研究の指導ができない教授,教育的
諸活動ができない教授というものが現に存在しないのであるから,本件業務命令(2)
は,第1に原告に対する不利益取扱いであり,第2に他の教授と比して明らかな差
別的取扱いであった。
そうとすると,かかる不利益取扱い,差別的取扱いを内容とする本件業務命令(2)
は,正当な理由のない限り,憲法14条の趣旨に照らして到底許されるものではな
く,原告の名誉権(人格権)を侵害する違法なものといわなければならない。
なぜなら,本件業務命令(2)の結果,原告には,教授会に出席を許されない教授,大
学の施設を利用して研究することを許されない教授,学生に講義や指導をすること
を許されない教授,教育的諸活動をすることが許されない教授という烙印が押され
ることになり,原告の名誉感情が害されるばかりではなく,原告の社会的地位が低
下することは明らかだからである。
被告Aが平成12年2月3日付け回答書において,第93回(臨時)教授会も「G
氏は,C大学の教授としてふさわしくないので,直ちに辞職を求める決議をしてい
ます。」ので「大学の教授会での前記決裁がなされている事情に鑑み,教授会,委
員会等への出席その他の教育諸活動等はお辞め下さい。」と原告に要請したことか
らすれば,本件業務命令(2)の正当性の根拠を第93回(臨時)教授会の決議に求め
るのかもしれないが,上記のとおり,教授会の決議が違法である以上,本件業務命
令(2)の適法性を裏付ける根拠となり得ないことはいうまでもない。
また,被告Aが本件業務命令(2)を発した約1か月後の平成12年3月8日の第98
回教授会において,「本学において,G氏には授業等一切の教育活動をさせな
い。」「G氏の教授会及び委員会等への出席はさせない。」という2点を,「平成
11年12月22日開催教授会の決定事項に基づく確認であることを全員一致で了
承した。」とのことであるが,教授会といえども,正当な理由なく構成員を排除す
るのはいわゆる村八分と同様な行為であって,それ自体,違法なものといわなけれ
ばならない。上記のとおり,平成11年12月22日開催の教授会の決議が不当で
ある以上,かかる決議に基づいて原告を教授会から排除することは許されないもの
である。
この時期に第98回教授会で上記決議がされたのは,本件仮処分事件の審尋期日に
おいて,原告から,第93回(臨時)教授会の決議は本件業務命令(2)の根拠となり
得ないことの指摘を受けたためであった。
したがって,第98回教授会の確認事項なるものの存在をもってしても,原告に対
する不利益取扱い,差別的取扱いを正当化することはできないのである。
オ 街宣活動及び糾弾状について
街宣活動を率いたP元国士舘大学教授とL学長は京都大学の同学(大石良雄門下)
で旧知の関係であるが,当該街宣活動はP教授らの自発的行動であり,糾弾状は平
成12年3月22日のP教授らに対する被告A側の対応を非難するものであるが,
いずれも,原告が事前に何らの関与をしたものではなく,原告が制止できる立場に
はなかったのであるし,いずれも本件業務命令の後に行われたものであって,かか
る行為が被告Aに対してなされたからといって,違法な本件業務命令が遡って適法
になるものでないことはいうまでもない。
(被告Aの主張)
ア 被告Aは,原告の就労の一切を拒否している。原告においては,労働契約上の
義務として就労請求権の存在の確認又は妨害禁止等の訴えにより,その救済を図る
べきである。
しかし,原告に,C大学の教授会,委員会への出席,その他教育諸活動をする権利
は存しない。
イ 就労請求権について
原告が教授たり得るのは,原告が被告Aに雇用された上,被告Aにより教授に任命
されたからである。そして,教授としての地位が原告と被告Aの労働契約に基づく
ものである以上,労働契約の観点から,原告が教授会に出席し,教育活動をする権
利があるか否かを検討しなければならない。労働契約においては,労働者は使用者
の指揮監督に従い,使用者は一定の賃金を支払う義務を負担するのが基本的な法律
関係であり,一般的には,労働者は就労請求権を有しないと解すべきである。原告
の主張する権利は反射的利益にすぎず,無効確認の対象とはならない。
ウ 大学の自治の観点
(ア) 原告を教授会に出席させないと決定したのは,教授会である。被告Aがこ
 の決定に反し,原告を教授会に出席させることは大学の自治,学問の自由を侵害
するものである。
(イ) 本件仮処分事件でも,次のように判示されている。すなわち,原告がC大学の
教授会,委員会への出席,その他の教育的諸活動することができないことをもっ
て,人格権が侵害されていると主張することについては,当該妨害行為を排除する
ことを認めなければ,著しく正義に反するばかりか,被害者たる原告が回復困難な
損害を被る蓋然性が認められる場合に限るとした上で,①就労を拒否したのは,原
告と教授会との間に激しい対立関係が生じたため,学内の秩序を保持される目的で
なされた,②被告Aが教授会に対する指示命令をできない,③原告が名誉等回復し
難い損害を被る蓋然性もないと判断し,申立てを却下している。
すなわち,大学の自治について,上記決定はまずこれを尊重した上で,利益衡量を
なしているのである。
本件の場合についても,原告において就労を認めなければ回復し難い損害が原告に
存するとの具体的主張も証拠もない。また,被告Aにおいて教授会に対し,指示命
令できる関係にないことは明らかである。
エ 大学の自治-教授会の判断
(ア) 憲法23条は学問の自由を保障し,大学の自治を制度的に保障している。
 この大学の自治の原則は学園の秩序,大学の施設及び管理に対する大学の自律を
始め,研究や大学の施設及び管理に対する大学の自律を含み,研究や教育活動に関
する限り,学内の秩序の維持はその自律的処置に委ねられる。そして,その自律の
中核が大学においては教授会である。したがって,団体自治の原則により,その判
断について司法が積極的に関与することは公権力による介入にしかならず,その介
入は抑制的であるべきである。
裁判例は,労働組合における統制権行使の事例において,組合の内部規律は本来,
法外的事実行為として裁判になじまないこと,内部問題については内部特有の事情
から司法審査の及ぶ能力的限界があること,あるいは一定以上に内部紛争に介入す
ることは組合活動に対する国家権力の干渉となるとして,抑制的な判断をすべきで
あるとしている。
本件の場合はまさしく,教授としての適格性という教授会において判断すべき事由
であり,教授としての適格性について司法が判断することは,学問の価値について
司法が判断することにほかならず,司法による学問の自由への介入であり,かつ教
授としての適格性という学問の水準及び高等教育という点については,法的判断を
行う司法としてはその能力に自ずと限界があるというべきである。
したがって,教授会の「G教授は本学教員として不適格であり辞職を求める。」と
の決定については,司法審査は及ばないと解すべきである。
(イ) さらに,教授会の決定について事実誤認や手続上の違法はなく,「教員として
不適格」という教授会の評価の相当性適否について司法審査が及ぶべきではない。
オ 原告の不利益との比較衡量
(ア) 原告が自らの意思で教授に就任したこと,原告が殊更に紛争を拡大したこと,
原告において学者として学問を究める方法が他に存すること,原告は著作活動をな
し,研究活動を継続していることなどからすると,原告の名誉等の人格権を侵害
し,原告に回復し難い損害を与えているとはいい難い。
(イ) しかも,原告において,学究の徒であることを自認しているところであって,
自己の学問的業績について,他の大学,他の研究機関等において自己実現の可能性
は無限に存するのであるから,原告において何らかの権利が侵害されているという
ものではない。
(ウ) さらに,被告Aにおいては,平成12年3月22日ころ,街宣車による街宣活
動がなされた。その内容は本件に関することであり,被告A関係者は面会を強要さ
れた。この街頭宣伝活動の中心メンバーに対して,原告は,感謝の念を述べている
こと,旧知の関係であったこと,原告は当日の街宣車の活動を詳細に即日知り得た
と述べていることなどからすると,原告がこれに直接又は間接に関与している可能
性が高い。
これは,学問の自由を尊ぶ大学教授会においては,学問の自由に対する最大の脅威
であり,教授会の決議が変更されない最も大きな理由であると推測される。
被告Aとしても,街宣活動に原告の関与が強く疑われる以上,学問の自由及び大学
の自治を侵害する可能性のある原告をC大学に就労させることはできない。
したがって,原告に対する教授会の決定は,学問の自由確保のために未だに合理性
を有するものであり,被告Aにおいて,これを尊重し就労を拒否することは合理性
を有する。
カ 以上からすると,原告に対する本件業務命令は有効というべきである。
(3) 争点(3)(本件戒告処分の効力)について
(原告の主張)
ア 被告Aが,平成12年1月17日になした本件戒告処分は,次のとおり,いず
れも懲戒事由となるものではなかった。
(ア) まず,「平成11年11月5日付けの「三重タイムズ」紙上でのC大学教授の
肩書において行った発言」については,上記(2)(原告の主張)のとおり,何ら被告
Aの建学の精神に反するものでもなく,その内容は「反日自虐史観」を批判すると
いうL学長と全く同一の歴史観による発言であって,被告Aの名誉と品位を害する
ものではなかったのである。
(イ) 次に,「これまでの講義方法等(東条英機に関する映画の鑑賞を強要するかの
ような指導等)」については,何ら懲戒事由に当たるものでなかったことは,次の
ことから明らかである。
これは,原告が,平成10年夏(教授昇格の前年)に,学生に対し,東条英機を取
り上げた映画「プライド」を見に行ったら成績評価の上で加点すると言ったことを
指すものである。
それは,一種の課外授業という位置付けのものであって,映画「プライド」がいわ
ゆる「東京裁判史観」とは別の観点からの見方もあり得るということを考える教材
となるものと判断したためである。
つまり,東京裁判は,昭和21年1月22日,マッカーサーが制定,布告した極東
国際軍事裁判所条例によって「平和に対する罪」という犯罪を規定し,これに照ら
して,昭和14年1月1日から昭和21年9月2日までの日本の「侵略行為」とそ
の指導者を裁いたものであり,「平和に対する罪」なるものは明らかに事後法の遡
及適用であって,11か国の戦勝国による一方的かつ報復的な裁判であったが,そ
の判決に示されたところ,つまり,連合国に対する侵略意図をもって東条英機大将
を首班とする東条内閣が大東亜戦争を開始したとする見方(東京裁判史観)が中学
校や高等学校の歴史教科書においては一般的である。しかし,果たして,東京裁判
のいうように,東条内閣が英米に対する侵略意図をもって大東亜戦争を開始したの
か,なぜ大東亜戦争に踏み切らざるを得なかったのかを事実に基づいて検証するこ
とが,正しい歴史観を持つことになると考え,映画「プライド」を鑑賞すること
が,その検証の一端になるものと判断したのである。
この点で,L学長がC大学長の職名を冠して,平成8年10月1日付け産経新聞の
「正論」欄に執筆した論文で,「中学社会科(歴史分野)の教科書数種のコピーを
読んで私はこうつぶやいた。そこには,わが国近現代史に関して東京裁判における
キーナン主席検事による秋霜烈日な追及を想起させるような日本悪玉論,犯罪国家
観が,これでもかといった調子で書かれている。・・・民族が自分の国の過去に暗
いイメージをもちすぎ,歴史と伝統的文化に誇りを失い,自虐的になるなら,民族
は「劣性への転落」へいたるだろう。古今東西の歴史は,このことを教えてい
る。・・・不幸なことに日本の教科書は,逆の方向へ進もうとしているかのよう
だ。こんな教科書を読まされる生徒たちは,果たして二十一世紀の祖国をしっかり
支え,誇りと自負をもって全人類のために貢献しようとする気力を発揮できるだろ
うか。」と示していた危機感を原告が共有していたものである。
しかし,鑑賞するかどうかは学生の全くの任意であって,決して強要はしていな
い。現に,約1割の学生が鑑賞しただけである。しかも,加点の程度は,主に出席
日数が少ない学生を救済する際に若干配慮するといった程度のものにすぎなかった
のである。
かかる教育方法は,原告のC大学助教授としての裁量の範囲に属することであり,
自主判断が可能な大学生を対象としていたものであることを考えれば,学園の職員
としてふさわしくない行為があったといえないことは明らかである。
(ウ) さらに,「公的機関である三重県人権センターに対する誹謗ともとられかねな
い発言」については,原告が本件1記事で批判を展開したのは,まさに三重県人権
センターが公的機関であるからである。被告Aは,なぜか公的機関を批判すること
はおよそ許されないという観念にとりつかれているとすら思われるほど,原告の三
重県人権センターの運営方法に対する批判を嫌忌するようであるが,地方公共団体
である三重県が設置し運営している公的機関である以上,いかなる批判も甘受すべ
きであって,現に三重県人権センターのK所長もその展示内容についての偏向性を
認めていたのである。
したがって,かかる原告の批判行為が被告Aの名誉と品位を害するものでなかった
ことは明白で,C大学教授であり,三重県民でもある原告がかかる意見を述べたこ
とが「学園の職員としてふさわしくない行為があった」場合に該当しないことは明
らかである。
イ 追加された処分理由について
被告Aは,本件訴訟係属後に戒告書に記載されていなかった事実を懲戒事由として
追加した。
しかし,本件戒告処分は懲戒事由をも併せて処分が特定されるから,別の懲戒事由
を主張することは別の懲戒処分を主張するに等しく,新たに懲戒事由を追加するこ
とは許されない。
さらに,新たに追加された懲戒事由は,すべて原告の助教授時代のことか助教授時
代から継続して行ってきたことであって,助教授から教授に昇格する際に問題にさ
れておらず,教授昇格後の平成12年1月17日時点で戒告という懲戒処分をする
理由とは到底なり得ないものである。
以下,念のため,被告Aの主張イ(イ)につき反論する。
(ア) 海外研修について
a 原告が助教授であったときに海外ゼミ研修を実施していたこと,原則的に全員
参加としていたこと,講義要領に「海外研修の為に20万円が必要」と告知してい
たことは事実である。
しかし,原告は,別に海外留学をした学生については海外ゼミ研修を課していなか
ったし,海外ゼミ研修に参加しなくても減点はしていなかった。
このように海外ゼミ研修を実施したのは,学生が,日本の良さを再確認し,日本人
の過去の足跡を知る機会を提供することが目的であった。しかも,旅行手続につい
ては,他の教授らのゼミの海外研修同様になされ,原告の出張申請についても,ま
た学生名簿,旅程表,金額を添附したゼミ研修申請についても,何ら問題なく学部
長の承認を受けていたもので,原告は,海外ゼミ研修終了後,出張旅費の支払を受
けていた。平成10年3月に実施した台湾への海外研修時には,旅費以外にも支払
を受けた記憶がある。
そして,大学祭では,平成10年秋に台湾研修旅行展が,平成11年秋にパラオ研
修旅行展が許可され,実施している。
原告が,2期生(平成11年3月卒業),3期生(平成12年3月卒業),4期生
には「海外研修の為に20万円が必要」と講義要領で告知したのは,学生には準備
の都合があってむしろ親切であると思ったからである。このように,原告が助教授
として実施した海外研修について問題にされたことは一切なかったのである。
b 原告が教授に昇格後,実施しようとしていた台湾への海外ゼミ研修について
は,本件戒告処分や本件業務命令等の一連の過程の中で,被告Eから参加妨害をさ
れ,不本意ながら中止せざるを得なくなった。
(イ) 卒業アルバムについて
1期生(平成10年3月卒業),2期生(平成11年3月卒業),3期生(平成1
2年3月卒業)の卒業アルバム中,2期生の卒業アルバム(原告の助教授時代)に
学生のふんどし姿(実際にはタオルを巻いただけである。)の写真が掲載されてい
ることが認める。
しかし,これは学生たちの自主的企画,準備によるものであって,確かに品がよい
とはいえないとしても,卒業アルバムを彼らなりに温かく,おもしろく,また思い
出深いものにしようとしたのだと思い,原告は異論を唱えなかったのである。
(ウ) 戦艦大和の大砲の音について
原告は,「居眠りする学生がいても絶対目が覚めるぞ。」と言って,学生に戦艦大
和の大砲の音をきかせた。
原告がこのようなことをしたのは,原告が助教授であった平成9年11月4日,元
高千穂商科大学教授名越二荒之助を招いて講義をしてもらったときに,名越元教授
が持参した戦艦大和の大砲の音を聞かせる時間がなかったので,珍しいテープであ
ること,学生の要望もあったことから聞かせたものである。
原告は,授業やゼミでは,他大学の著名な教授等を招いて,その分野の特に専門的
な話を聞くことにしていたもので,名越元教授のときは,L学長に学長室に招か
れ,原告も共に会食をした。
(エ) 授業のやり方について
原告が,自らの著作を教科書として購入することを指示したことは認めるが,これ
とほとんど関係なく授業を進めていたことはない。
原告は,視聴覚教育を重視していたし,講義の内容はアップ・トゥ・デートな話題
が多く,プリントや資料配付については大学の中でも最も多用した教員の1人であ
ると自負している。配付した資料には,アメリカ政治,イギリス政治,日本の政治
の特質(教科書の要点)をまとめたプリントもあった。
前期最後の総合レポート(アメリカ大統領とイギリス首相に関するもの)には,教
科書使用を課していた。
もっとも,原告が行っていたのは大学生を対象とする授業であるから,中学校や高
等学校とは異なり,授業中に教科書を読ませたり,逐一,教科書の記述に沿って授
業するというようなことはなかったが,学生が教科書を読んできていることを前提
として授業をしていたのである。
(オ) 学長の人を介した注意について
いつ,いかなる注意を誰を介してなしたものであるかが不明である。
(被告Aの主張)
ア 本件戒告処分の戒告書に記載された理由は例示にすぎない。戒告処分は懲戒処
分の中で最も軽い処分であること,本件戒告処分の理由となった事実については告
知聴聞の機会が与えられていることからすると,具体的に記載された事実以外に懲
戒理由が存在しても,何ら問題がない。
イ 本件戒告処分の理由は,次のとおりである。
(ア) 人権センター訪問について
① 原告は,人権センターを訪問した際,「ほとんどが部落問題で占められてい
る。あとの二割が反日,自虐史ですね。」,「このセンターで真面目に勉強する子
どもがいたら,将来が本当に心配になります。」,「このような施設を公費で建設
したことが自体疑問ですね。」と発言し,これが平成11年11月5日の新聞に掲
載された。
② 原告は,上記記事において,C大学教授との肩書きを使用した。
③ 原告の人権センター訪問が計画的であった。
④ 原告は,新聞記者等の同行を予定し,意見の発表の機会を殊更に利用した。
以上の事実は,原告においてC大学教授という肩書きを利用して,訪問し意見を述
べ,かつそれをマスコミを通じて自己の宣伝,いわば自己顕示売名行為に利用した
ものであり,就業規則37条2号に該当する。しかも,その内容や発言態様につい
ても,上記①のとおり大学教授としての品位と配慮を欠くものであり,就業規則3
5条1号,42条1号,5号,6号に該当する。
(イ) 授業方法及び成績評価について
① 原告は演習卒業論文を担当しているが,C大学の承認を得ずに,希望者だけで
はなく学生全員に単位取得の条件として海外研修を義務付けていた。しかも研修費
用は20万円と高額であり,授業料以外の負担を学生に強いていたものである。一
方,その研修内容たるや観光旅行の領域を超えず,研修旅行とは名ばかりであっ
た。
② 卒業写真にふんどし姿の学生を掲載せしめ,神聖であるべき大学の研究室の品
位を害し,もって大学の品位を害した。
③ 授業において「おまえら目を覚ませ。」と言って,戦艦大和の砲声を聞かせた
り,靖国神社のビデオを見せ,涙を流すほど感情的な授業が多く,理性と知性にほ
ど遠い,大学の授業とは異質の授業をした。
④ 特定の映画を鑑賞した者に加点した。
⑤ 教科書の購入を学生に要求しながら,教科書を使用しなかった。
⑥ 授業について学生からの苦情が多かった。原告の授業方法は,受講生に自分の
信条と歴史観を一方的に注入しようとするものであり,そのため,学生が講義方法
に反発して教務課や他の教員に対して苦情を申し出ることもあり,深刻な問題とな
っていた。
⑦ 上記①ないし⑥に関し,L学長が人を介して原告に注意したが,原告は全く意
に介さなかった。
上記①,④,⑤については,就業規則37条7号に該当し,上記②については,就
業規則42条4号,6号に該当し,又はそれに準ずる行為である。
(ウ) このように,原告については懲戒事由に該当すべき行為が多々存するほか,教
授会で不適格との結論がなされたのであるから,戒告に該当すると解すべきであ
る。
ウ 懲戒手続
被告Aは,平成11年11月から同年12月にかけて,4回にわたり告知聴聞の機
会を原告に与えている。そして,被告Aは,平成12年1月11日,原告を本部に
呼んで,L学長の上申書を踏まえて弁明を聞き,同月17日,本件戒告処分を行っ
たのである。
エ よって,本件戒告処分は,原告の教授としての身分を奪うものではなく,品位
を欠く行為として合理性と相当性があり,懲戒権の濫用に当たるものではない。な
お,原告は,未だに始末書を提出しておらず,反省の意識がないことは明らかであ
る。
(4)争点(4)(被告D及び被告Eの責任)について
(原告の主張)
ア 被告D及び被告Eは,平成11年12月17日に開催された審査委員会のメン
バーとして,原告につき「本学教員として不適格であり,辞職を求める事が望まし
い。」との結論を出した。
イ 平成11年12月22日に開催された第93回(臨時)教授会で,被告Eは議
長となり,審査委員会の結論を承認する決議をした。
被告Dは第93回(臨時)教授会に出席していないが,被告Dは審査委員会のメン
バーとして上記結論を出して,教授会が開催され,そこで審査委員会の結論が承認
されることを賛成していたから,責任は免れない。
ウ 平成12年3月8日に開催された第98回教授会で,被告Dは議長となり,
「本学において,G氏には授業等一切の教育活動をさせない」,「G氏の教授会及
び委員会等への出席はさせない」という2点を,「平成11年12月22日開催教
授会の決定事項に基づく確認である」ことを全員一致で了承させた。
被告Eは,かかる目的の教授会の開催に賛同し,出席して,決議に賛成している。
エ 上記アないしウの結果,被告Aは,原告に対して,本件戒告処分及び本件業務
命令を行った。
オ そして,教授会の決定は被告Aを拘束し,そのまま被告Aによって執行される
という関係にあったところ,被告D及び被告Eは,上記アないしウの当時,そのこ
とを十分に認識していた。
カ 原告は,被告D及び被告Eの上記アないしウの行為により,名誉権や名誉感情
が侵害され,精神的苦痛を被った。これは,500万円の慰謝料の支払により償わ
れるべきである。
(被告Dらの主張)
審査委員会や教授会の決議に違法がないことは,上記(3)(被告Aの主張)のとおり
である。
被告Dらには,原告を誹謗中傷した事実はなく,かつ教授会について虚偽の報告を
なし,教授会の議決に虚偽記載をし,もって被告Aに本件業務命令(2)をなさしめた
事実もないから,不法行為は成立しない。
第3 当裁判所の判断
1 本件戒告処分の無効確認の訴えの適法性について
本件戒告処分は,原告に始末書の提出義務を課すとともに,就業規則に明文の規定
は置かれていないものの人事考課上の不利益や今後懲戒事由が発生したときにより
重い懲戒処分が選択される可能性を残すものであるから,その無効確認の訴えは確
認の利益がある。
2 争点(1)(本件業務命令の無効確認の訴えの適法性)について
(1) 本件業務命令(1)の無効確認請求について
被告Aが,平成12年2月14日,原告に対して本件業務命令(1)をなしたことは当
事者間に争いがない。
しかし,被告Aが,平成13年11月15日の第3回口頭弁論期日において,本件
業務命令(1)を撤回するとの意思表示をしたことは当裁判所に顕著であり,また,弁
論の全趣旨によれば,被告Aは本件業務命令(1)をなした後には,原告に対して,C
大学短期大学部2号館3階で学園史の英訳作業及び海外留学生の募集活動等をする
ことを一切求めていないことが認められ,今後も本件業務命令(1)に基づいた命令等
を行うおそれはないと認められる。
そうとすると,本件業務命令(1)の無効確認の訴えは確認の利益を欠き,不適法であ
るというべきである。
(2) 本件業務命令(2)の無効確認請求について
ア 被告Aは,「本件業務命令(2)は労働契約上の受領拒否にすぎず,その無効は確
認の訴えの対象にはならない。」と主張する。
しかし,労働者が使用者に対し就労を請求する権利(いわゆる就労請求権)につい
ては,一般的には,労働契約において使用者は労働者に対し一定の賃金を支払う義
務を負うに尽きるというべきであるが,労働契約等で特別の合意をした場合には,
労働者に就労請求権があるというべきである。
しかるに,原告は私立大学である被告Aの教授であるところ,学問の自由は私立大
学においても原則として保障されなければならないものであって,私立大学の教授
は当該大学の設置者・外的管理者に対する関係において研究教育の自由を保障され
るべきものであること,C大学組織規程第6条2項で「教授は,学生を教授し,そ
の研究を指導し,及び研究に従事する。」と,C大学学則第10条で「本学に,学
長の諮問機関として大学運営に関する重要事項を審議するため,教授会を置く。2
 教授会は,学長及び教授をもって組織し,助教授及び講師を加える。」と規定さ
れていることから,被告Aにおいては,就業規則上は明文の規定はないものの,学
問研究を行うことは労働契約上の義務であるというにとどまらず,大学の研究室や
図書館等の施設を利用しながら研究できるという権利でもあるといいうる。そし
て,教授会への出席や構成員となっている委員会への出席は,上記研究の基盤とな
る大学の運営等に直接携わるものであり,教育を行うことは,自身の研究の成果を
学生に還元するとともに,学生との対話を通じて研究を発展させていくという意味
も有している。したがって,教授会,構成員となっている委員会の出席,教育を行
うことはいずれも学問研究を行う権利と密接な関係を有し,労働契約上の法的保護
に値するものであって,無効確認の訴えの対象となるべきものである。
したがって,被告Aの同主張は採用できない。
イ また,被告Aは,「本件業務命令(2)のうちC大学の教授会,委員会への出席を
しないよう求める部分は,教授会の意思表明を通知したにすぎず,被告Aの業務命
令の範疇ではない。」と主張する。
確かに,原告の教授会及び委員会への出席を認めるかどうかは,教授会については
教授会が,委員会については当該委員会又はその上位機関である教授会が決すべき
ことである。
しかし,他方で,被告Aは,雇用者として原告に対する業務命令権限を有している
のであって,教授会の決定に沿うものである限り,被告Aが教授会及び委員会の出
席に関する業務命令を発することができるというべきである。
しかるに,上記争いのない事実等(8),(10)項及び証拠(甲10,11)によれば,
被告Aは,平成12年2月14日,原告に対して,「通知書」と題する文書に,
「勤務場所,担当職務は下記のとおりとします。」とし,上記争いのない事実等(8)
ウのとおり,本件業務命令(1)と本件業務命令(2)を並列して記載していること,教
授会は,平成12年3月8日に教授会の平成11年12月22日付け決定事項が①
本学において,G氏には授業等の一切の教育活動をさせない,②G氏の教授会及び
委員会等への出席はさせないと確認したことが認められる。
そうとすると,被告Aは,業務命令として,原告に対し教授会及び委員会への出席
禁止を命じているものと認められるから,被告Aの同主張は採用できない。
なお,本件業務命令(2)は,「C大学の教授会への出席,その他の教育的諸活動はお
辞め下さい。」とその表現からはあたかも原告が自発的にC大学の教授会への出
席,その他の教育的諸活動を自粛するように求める趣旨であるかにも見えないでも
ないが,教授会の平成12年3月8日付けの決定は,本件業務命令(2)が原告のC大
学の教授会への出席,その他の教育的諸活動を禁止する趣旨であるとして,これを
追認したものであると認められるから,被告Aは,本件業務命令(2)は「C大学の教
授会,委員会への出席,その他の教育的諸活動をしてはならない。」との業務命令
であるといわざるを得ないものである。
ウ そして,本件業務命令(2)のうち「教授会への出席をしてはならない。」との部
分の無効確認の訴えは,原告が教授会の構成員(C大学学則第10条2項)で教授
会に出席する法的利益があることから,原告の法的地位に影響を及ぼすものであっ
て,確認の利益があると解される。
エ 本件業務命令(2)のうち「委員会への出席をしてはならない。」との部分の無効
確認の訴えは,次の理由で,確認の利益がないと解される。
委員会には,学務をつかさどる学長が任意に設置してその構成員に大学教授を充て
る場合と,学長の諮問機関として大学運営に関する重要事項を審議する教授会が特
定の審議事項について調査審議するために設置する場合(C大学教授会規程8条)
があるが,いずれにしても,原告はその本来的な構成員ではないし,平成16年5
月20日(口頭弁論終結日)時点において,原告が何らかの委員会の委員に任命さ
れているとも認められない以上,原告が委員会に出席する地位を当然に有している
と認めることはできない。
したがって,本件業務命令(2)のうち「委員会への出席をしてはならない。」との部
分の無効確認が認められたとしても,原告の法的地位に影響を及ぼすものではな
い。
オ 本件業務命令(2)のうち「その他の教育諸活動をしてはならない。」との部分の
無効確認の訴えは,次の理由で,確認の利益があると解される。
大学においていかなる講義やゼミを開講し,それを誰に担当させるかは,教授会
が,大学や学部における運営理念,方針を始めとして,教授,助教授,講師等教育
職員の人数,学生の人数,教室の数,他の講義やゼミの内容や難易度等の事情を総
合考慮の上,決定されるものであって(C大学学則13条1項1号,4号,5号,
C大学教授会規程5条1項1号,4号,5号),平成16年5月20日(口頭弁論
終結日)時点において,原告に講義やゼミを担当させる手続がなされているとは認
められないから,原告が講義やゼミを担当する具体的な地位を当然に有していると
はいえない。
しかし,教授は,「学生を教授し,その研究を指導・・・する。」ものであり(C
大学組織規程6条2号),原告は大学教授として,少なくとも大学の施設を使用す
ることなく,大学の学生に教授する法的地位を有するものといい得るから,本件業
務命令(2)のうち「その他の教育諸活動をしてはならない。」との部分の無効確認の
訴えは,原告の法的地位に影響を及ぼすものである。
カ 以上によると,本件業務命令(2)のうち「教授会への出席,その他の教育諸活動
をしてはならない。」との部分の無効確認の訴えは,確認の利益があるが,本件業
務命令(2)のうち「委員会への出席をしてはならない。」との部分の無効確認の訴え
は,確認の利益がなく,不適法であるというべきである。
3 争点(2)のうち本件業務命令(2)の効力及び争点(3)(本件戒告処分の効力)につ
いて
(1) 上記争いのない事実等,証拠(甲1ないし5,8,10ないし20,32,3
5,37,38,41,42,44ないし46,乙イ1,3ないし5,9ないし1
6,17の1ないし3,乙ロ1ないし9,原告本人,被告A代表者O,被告D本
人,被告E本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は,平成8年4月1日にC大学の助教授となり,平成11年10月1日,
同大学教授に任命された(甲1)。
イ 原告は,平成11年11月5日付け三重タイムズの紙上で,本件1発言を行っ
た(甲3,乙ロ6)。
ウ 原告は,平成11年11月6日に開催された教授会の始まる前に,本件1記事
を読んでもらうために,L学長や知り合いの教授ら数名に配付した。また,その後
も直接手渡したり,C大学短期大学部の忘年会において,配ったりした。
エ 原告は,平成11年11月29日午後2時,被告Eより,「大変重大な用件の
ため学長室に来られるか。」と言われ,午後4時,学長室に行った。すると,L学
長は,「このあいだの君の新聞,ざっと読んだだけだが,大変なことをしてくれた
ね。問題になっているのだよ。君,部落問題は本当に怖いのだよ。彼らが大学に押
しかけてきたらどうするのかね。その時は君に責任をとってもらうしかない。君が
彼らに頭を床にすりつけてまず謝りに行き,その後,E君と戸室君(C大学教務部
長)が,彼らに謝り行かなければならない。私は表に出ることができない。もし君
が助けを求めるなら共産党に助けを求めなければならないが,そんなことは君も嫌
だろう。」「大学に迷惑がかからないよう,君が責任をとらなければいけない
よ。」「くれぐれも大学に責任が及ばないように。」と述べ,原告に対し,暗に辞
職するように述べた。
O鈴鹿事務局長(当時)は,同日夜,直接の知り合いだった原告の妻(C大学短期
大学部教授)に電話をかけ,本件1発言が問題となっていると伝えた。
オ 原告は,平成11年11月30日昼に被告A鈴鹿事務局から呼出しを受け,Q
常務理事(当時)とO鈴鹿事務局長と面談した。その際,Oは,原告に対して,
「三重県のR同和教育課長からG先生の件で問い合わせがあり,あわてて,シラバ
スや調査書などの書類を持って行った。人権センターの記事は同和問題ですよ。」と
言い,Q常務理事は「現在大学は学生募集で大変な時なので,責任はとってくれま
すね。」と暗に辞職を求めた。
カ 原告は,平成11年12月3日付け三重タイムズの紙上で,本件2発言を行っ
た(甲4)。
原告は,平成11年12月3日午後5時ころ,被告E及びSC大学事務局長から呼
出しを受け,同日午後5時30分ころから,被告D,被告E,S,O鈴鹿事務局長
及びT教務部長と面談した。
Oが「この日曜日(11月28日)にたまたま三教組の役員と会った。G先生のこ
とを聞かれた。G先生の例の新聞記事は全国で最も強い三教組に戦いを挑んでいる
ことになる。G先生の場合,とくに三重県人権センターの「8割が部落問題の展示
である。」という内容の記事に問題があるが,学長もそれを激しく怒っている。理
事長も同意見なので,G先生には辞表を出してもらいたい。」「あの記事の人権セ
ンターを問題にしたということは,部落解放の否定と見ても仕方がない。大学の学
生募集の厳しい時期にあって学生広報募集上の理由です。」と言い,被告Eが「大
学を救うために,G先生に辞めてもらいたい。これは理事長,学長,みんな同意見
です。」「とにかく,理事長が記事を見て,その上で学長のところに行き,決断さ
れました。辞めてください。学長に晩節を全うさせてあげてください。」などと言
って辞職を求めたが,原告はこれを拒絶した。
キ 原告は,平成11年12月8日,被告Eから学長室への呼出しを受け,L学長
と面談した。
その際,L学長は,原告に対し,「学問の自由も思想の自由も言論の自由も何も関
係ない。タブー中のタブーで,もうすでに三重県担当が動き始めた。その対応如何
では占領されて,これだけ体力の衰えたこの大学に追い打ちがかかる。自発的に辞
表を出してくれ。それが,原告自身と大学を救う所以なんだ。」「それが,いい
か,君自身と大学を救う所以だ。こういうふうな状況に陥るというのは,まず時間
の問題だ,今や。そういうふうになってからだったら,傷つくんだ。」「うちの大
学にかなり三教組及びそれと協賛している,ゴッツンしているあちらのほうの勢力
が居つくんだ。これは24時間なんだ。彼らは交替している。だけど24時間やら
れてごらん。俺は大変だ。そうなったら君は懲戒免職まで行くんだ。」「学問の自
由とは別なことをやったんだよ。部落の問題。人権センターの展示の8割が部落の
問題との発言で,むこうのほうがかーっとなっとるんだ。」などと辞職を求めた。
これに対し,原告は,「部落問題については何も言っていない。」「言論の自由も
学問の自由も大学の生命線です。」「懲戒免職の解雇の理由をきちっと詳しく書い
て,それで出していただきたい。」などと答え,辞職要求を拒絶した(甲18)。
ク 原告は,平成11年12月13日午後1時10分,被告Eから呼出しを受け,
被告E,O鈴鹿事務局長,S大学事務局長及びTと面談した。
その際,Oは,原告に対して,「同和教育の問題は大きな問題なんですよ。で,先
生は主旨が違うって言ったかもしれませんけども,われわれの本当の意図はやっぱ
り,同和制度の問題なんです。今の三重県の教育委員会はですね,特に同和課は2
7件問題を抱えている。それは先生が発言した問題よりもっと・・小さな問題なん
です。」「先生個人が日本中の山の中で言うんだったら何も問題にしませんよ。新
聞に出たから問題にしているんです。ただね,何の問題も起こりえないという判断
をするんだったら,だまっています。ところが,はっきり,該当の子供や親にとっ
て見れば大きな問題だということで,判断するから。」「(G)先生の言うように
本当にですね,問題になっていかなければ誠に幸いだと思いますがね。」と述べ,
被告Eは,「いいですか,あなたの歴史観がどうのこうのといっているんじゃない
んですよ。あなたの人権問題提起について困っているんですよ,私たちは。」「信
条の問題じゃなくて,この発言なんだ。どういう歴史信条をもたれているかについ
て我々は関心がない。」「一人で責任を取ると言ってますけどね。今までこの種の
問題で個人で解決できたことはないんですよね。必ずトップが巻きこまれるんで
す。」「70人の教職員と家族の生活がかかっている。」と言って,責任を追及し
た。
これに対して,原告は,「三重県人権センターの展示内容がバランスを欠いている
ことを言っただけで,まだまだ人権問題いっぱいある。」「私は悪いことを言った
ことは一言もない。差別的な発言だとかそんなことは言ったつもりは全くない。」
などと反論した(甲19)。
ケ L学長は,平成11年12月17日,原告の本件1発言に関する責任を審査す
るため,自身を委員長とし,被告D,被告E,M教授及びN教授を委員とする「G
教授の教員としての適格性審査委員会」を組織した。これは,教授会で設置が決め
られたものでないからC大学教授会規程8条に基づく専門委員会ではなく,学長が
任意に設置した諮問機関である。
審査委員会は,同日午後3時30分,会合を開き,原告は「本学教員として不適切
な人物と判断せざるを得ず,辞職してもらうのが相当」との結論に達した。
そこで,被告Dは,同日,原告の本件1発言に関する責任について審議するため,
同月22日に臨時教授会を招集した(乙イ15)。
コ(ア) 第93回(臨時)教授会は,平成11年12月22日午後1時から会合を開
き,海外旅行のために欠席した被告Dに代わり被告Eが議事を進行した。
L学長は,会の冒頭で次のとおり発言し,本件1発言から当日までの経過を説明し
た。
「 本学は,現在,廃校の危機に直面していると言っても過言ではない状況にある
が,その原因となったのは原告の本件1発言にある。
学問の自由,思想・言論の自由は当然であり,academicfreedomは大学の生命であ
る。したがって,これをあげつらうつもりはないが,どのような自由であれ自由と
責任は表裏一体である。原告の三重県人権センター及び人権・同和問題に関する発
言は,慎重さを欠き配慮の足らないものであり,そのことに伴う結果責任は原告自
身が果たさねばならない。
本件1発言について,平成11年11月29日に原告と1時間程度話し合い,慎重
にその言い分を聴取すると同時に,発言がもたらす結果責任を自覚し,その社会的
責任を負ってもらわねばならない旨伝えた。
しかし,原告は,それは学長の思い過ごし,杞憂であり,何らの問題も起こらない
と断言して意に介さなかった。
その後,三重県人権センター及び同和問題関連の反応も出てきたため,同年12月
8日に再度原告とこの問題について話し合った。その際,原告に対して,「自発的
に辞めてほしい。本学としては,70余名の教職員を路頭に迷わすことはできな
い。」旨を伝え,諄々と説得した。
しかしながら,依然として原告は,「本学にとって不利な事態は起こらない。私は
学長に失望した。」との発言を繰り返した。「私の歴史観を裁こうとしているの
か。」との原告の発言に対し,「政治思想を俎上に乗せて裁こうとするのでは断じ
てない。あくまでも貴君の発言が惹起した社会的効果を問題にし,大学経営に及ぼ
す深刻な悪影響を問うている。」旨説得した。しかし,結局,物別れに終わった。
同月17日,理事長の了解を得た上で審査委員会を,学長,学部長,学生部長,M
教授及びN教授の5名により発足させ,2時間にわたって本件に関して慎重に審査
した。
その結果,原告は本学の教員として不適切な人物と判断せざるを得ず,辞職しても
らうのが適当との結論に達した。
また,これと並行して,本学服務関係規程に照らして調査を行った。就業規則第4
条(任命権者),第15条(降任・解雇),第42条(懲戒)について逐条詳細に
検討した。
今回のような人権センター及び同和問題に関する発言について,ある特定の団体
が,過去においてどういう行動を取るに至ったかについての調査も行い,このこと
で学生募集に支障を来すこともあり得ると判断せざるを得なかった。
他方,同月3日,13日の両日,学部長,学務局長,入試広報室長,学務部長及び
学生部長の5名により,非公式に原告との話合いを持った。
三重県人権センターに関する発言については,責任を取ってもらいたいと説得した
が,原告は「杞憂にすぎない。」との返答で,問題の重大性の自覚がなく,責任を
取る姿勢は全く見られなかった。
この結果,5名の判断も「辞職していただくのが唯一の道である。」との意見に一
致した。」
次いで,審査委員会の委員であるN教授が「私大は現在,微妙な立場に置かれてお
り,大学が生き残るための努力をすることは構成員ひとりひとりの責任である。従
って,発言には配慮が要り個人の独善的な考え方は許されない。今回の行動は,大
学に対して迷惑を掛ける軽率なものである。」と同じくM教授が「三重県立人権セ
ンターについてのG教授の発言内容は,事実と異なる荒っぽい判断に基づくものと
判定せざるを得ない。人権センターの内容は部落問題一辺倒ではない。歴史観など
について,授業で自説を述べるのは構わないが,それを学生に押し付けるべきでは
なく,立場によりいろいろな考え方や多様な価値判断が生じることを教えることが
重要である。」と発言し,その後,出席者において意見が交わされた。
結局,教授会では,審査委員会の「原告は本学教員として不適格であり,辞職を求
める。」との結論を承認することが議決された(甲2,32)。
(イ) 被告E,M教授及びN教授は,平成11年12月22日午後3時ころから,原
告に対して,審査委員会及び臨時教授会の経過を説明し,教授会の上記決議を口頭
で伝えた。その際,被告Eは,原告に対して,「教授会の決議は,原告に辞職を求
めるというものであって,免職や懲戒免職へ向けた手続の第1段階ではない。」と
説明した(甲20)。
(ウ) L学長は,同日付けで,U被告A理事長(当時)に対し,本件1発言から当日
までの経過を報告し,原告の処分につき協議及び指示を求めた(乙ロ7)。
サ 原告は,平成12年1月11日,被告A本部に呼び出され,Q常務理事,O鈴
鹿事務局長らから弁明の機会が与えられた。
その際,Qは,原告に対して,本件1発言を行った経緯やそれがC大学に及ぼす影
響のほか,①原告が講義の中で本件1発言と同趣旨の発言をしたことがあるか,②
それによって留学生が講義をボイコットしたということがあるか,③東条英機に関
する映画「プライド」を観た学生に加点したことがあるか,④原告の著書を購入し
ないと単位を与えないということがあるか,⑤卒業アルバムで原告とゼミ生が異様
に写っているのはどういう趣旨かなどを尋ねた。
これに対して,原告は,①,③については認め,②,④については否定し,⑤につ
いては学生がおもしろい卒業アルバムにしようとして工夫したことによるものであ
ると答えた。
最後に,Qは,原告に対して,補足して弁明したい点があれば,その点を記載した
文書を,同月13日午後5時ころまでに,U理事長へファックスで提出するように
伝えた(甲44,乙イ16)。
シ 原告は,平成12年1月13日,本件1発言によって生じた問題が解決するこ
とを期待して,「現在,本学園が遭遇している環境を考えますと,配慮が足りなか
ったように思います。深く反省しております。今後,皆様のご指摘,ご指導を謙虚
に拝聴し,慎重に身を処したいと存じます。」などと反省の意思を記した文書を,
U理事長に提出した(甲42)。
ス(ア) 原告は,平成12年1月17日午後1時から,理事長室においてU理事長,
Q常務理事と面談した。
その際,U理事長は,原告に対して,「本件1発言はC大学,短期大学部,V高校
の志望者の減少や定員割れを招くもので,被告Aの経営にとって問題である。」と
言い,Q常務理事は,「本日理事会が開かれ,そこで処分が決まる。そうすると原
告には傷が付くから,これを避けるために,会って話をしている。」と言って,暗
に辞任を求めた。
これに対して,原告は,「本件1発言は,同和問題に関するものではない。三重県
人権センターの展示内容について,同和問題以外の人権問題に関する展示が少な
く,歴史観も中立的でないので,いろいろな視点からバランスよく展示してほしい
と言っただけである。処分については,2,3日待ってほしい。」と答えた(甲3
5)。
(イ) 原告は,同日午後2時40分から,理事長室においてU理事長,Q常務理事と
面談し,その後,理事会において,本件戒告処分(甲12)及び「C大学教授の職
を解き学園本部付事務職員を命ずる」との辞令(甲13)を受けた。
しかし,原告は,本件戒告処分に基づく始末書の提出を拒否した(甲41)。
セ 被告Aは,平成12年1月20日,学園本部付事務職員に配置換えになったと
して,同月25日に法人本部事務局に赴任するように命じた(甲14)。
ソ(ア) 原告は,代理人を通じて,平成12年1月23日,被告Aに対し,上記ス
(イ)につき抗議する文書を送付した(甲15)。
(イ) 被告Aは,代理人を通じて,平成12年2月3日,原告に対し,本件戒告処分
の理由を説明するとともに,教授職を解く降格処分をした事実はないこと,兼務辞
令は後日送付することなどを記載した文書を送付した(甲5)。
タ 被告Aは,平成12年2月14日付けで,原告に対して,「教授職と本部事務
職員の兼務を命ずる」との辞令を発するとともに(甲16),担当職務等について
本件業務命令を行った(甲11)。
チ 第98回教授会は,平成12年3月8日に開催され,平成11年12月22日
付け決定事項が次のとおりであることが確認された(甲10)。
「1)本学において,G氏には授業等の一切の教育活動をさせない。
2)G氏の教授会及び委員会等への出席はさせない。」
ツ(ア) 平成12年3月22日,C大学に,Pの率いる街宣車が数台来て,街宣活動
を行い,L学長及び事務局長の辞任や原告に対する本件戒告処分及び本件業務命令
の撤回を求めた(乙イ17の1ないし3)。
その後,この街宣活動は,三重県庁にある三重県教育委員会に対しても行われた。
(イ) 平成12年3月23日には,前日のPに対する被告Aの対応が失礼なものであ
るとして,その謝罪と責任者の処罰を求める糾弾状がC大学に届けられた(乙イ1
3)。
テ 被告Aは,平成12年3月30日,原告に対し,上記スの辞令は無効であるこ
と,上記タの辞令につき本部事務職員との兼務を命ずる辞令は同月9日に撤回され
たこと,したがって,平成11年10月1日以降原告は教授職にあることを記載し
た文書を送付した(甲17)。
(2) 以上の認定事実を基に,本件業務命令(2)及び本件戒告処分の効力について検
討する。
ア そもそもC大学では,教授に対する業務命令権限や懲戒権限は,最終的にはこ
れを設置する被告A理事長に留保されている(A就業規則4条,15条,16条,
42条,43条)。しかし,大学の運営に関しては,憲法23条で保障された学問
の自由,大学の自治の観点から,学長の諮問機関として置かれた教授会が重要事項
を審議することとされており(C大学学則10条,13条,C大学教授会規程2
条,5条),その審議結果を踏まえた学長の意見を理事長に伝え,理事長はこれを
十分に尊重して業務命令や懲戒を行うことが当然のこととして了解されている(争
いのない事実等(1),乙イ1,5,9,被告A代表者O)。
そして,①教授会は,平成11年12月22日,審査委員会の「原告は本学教員と
して不適格であり,辞職を求める。」との結論を承認することを議決し,②L学長
は,同日付けで,U理事長に対し,原告に対する処分を求め,③U理事長は,平成
12年1月17日に本件戒告処分を,同年2月14日に本件業務命令(2)を行い,④
教授会は,同年3月8日,平成11年12月22日付け議決は本件業務命令(2)の趣
旨であることを確認した(もっとも,上記①の教授会決議は原告に辞職を求めると
いうものであって,本件業務命令(2)の趣旨であるとは解されないが,事後的に上記
④の教授会で本件業務命令(2)を追認したものであると理解できる。)。
イ 本件戒告処分について
(ア) 上記(1)の認定事実によれば,審査委員会,平成11年12月22日付け教授
会及び同日付けL学長のU理事長にあてた文書で,原告が本学教員として不適格と
された根拠は,本件1発言が同和問題に関するもので,C大学等の定員割れを招く
ほど影響の大きいものであるというものであったと認められる。
しかし,被告A本部で平成12年1月11日に行われた弁明の機会では,本件1発
言に関する事柄のほか,①原告が講義の中で本件1発言と同趣旨の発言をしたこと
があるか,②それによって留学生が講義をボイコットしたことがあるか,③東条英
機に関する映画「プライド」を観た学生に加点したことがあるか,④原告の著書を
購入しないと単位を与えないことがあるか,⑤卒業アルバムで原告とゼミ生が異様
に写っているのはどういう趣旨かなどについても質疑がなされた。
そして,戒告書(甲12)には,①本件1発言,②これまでの講義方法等(東条英
機に関する映画の鑑賞を強要するかのような指導等),③公的機関である三重県人
権センターに対する誹謗ともとられかねない発言が懲戒事由として記載されている
(なお,③は①を重複して記載したものと解される。)。そして,被告A代理人の
作成した平成12年2月3日付け回答書にも①ないし③の記載があり,②の具体的
内容として「アジア人留学生に対する言動等」が補充されている。
以上からすると,U理事長は,主たる理由は本件1発言であるが,東条英機に関す
る映画「プライド」を観た学生に加点したこと及びアジア人留学生に対する配慮の
足りない言動も加味し,本件戒告処分を行ったと認められる。
この点,被告Aは,上記以外にも,①原告が担当する演習卒業論文に関して,C大
学の承認を得ずに,学生全員に単位取得の条件として海外研修を義務付けていたこ
と,②卒業写真にふんどし姿の学生を掲載せしめ,神聖であるべき大学の研究室の
品位を害し,もって大学の品位を害したこと,③授業において「おまえら目を覚ま
せ。」と言って,戦艦大和の砲声を聞かせたり,靖国神社のビデオを見せ,涙を流
すほど感情的な授業が多く,理性と知性にほど遠い,大学の授業とは異質の授業を
したこと,④教科書の購入を学生に要求しながら,教科書を使用しなかったこと等
の懲戒事由を挙げている。
しかし,これらの懲戒事由は,本件戒告処分から約1年8か月後である平成13年
9月20日の第2回口頭弁論期日に追加されたものであって,本件戒告処分当時こ
れらは懲戒事由とされていなかったのであるから,これらをもって,本件戒告処分
の懲戒事由となし得ないというべきである。
(イ)a そこで,上記(ア)の懲戒事由の有無について検討するに,原告が東条英機に
関する映画「プライド」を観た学生に加点したことについては,原告自身認めてい
るところであるが,東京裁判史観とは異なる別の観点からの見方もあり得るという
ことを考えさせるというもので,一定の批判能力を備えた大学生に対する課外授業
の一環として,実施することが許されないものではないし,強制したものではな
く,実際にも1割程度の学生しか観に行っておらず,加点も出席率の低い学生を救
済する程度にすぎなかった(甲37,原告本人)というのであるから,懲戒事由と
はなり得ない。
b 「アジア人留学生に対する配慮の足りない言動」については,いつのいかなる
言動であるかが明らかにされていない上,これを裏付ける的確な証拠は存在しない
から,懲戒事由とはなり得ない。
c 本件1発言の趣旨については,原告が三重県の「公の施設」(地方自治法24
4条)である「三重県人権センター」を調査し,自らの歴史についての知見から,
三重県人権センターの人権の展示内容がバランスを欠くなどとして,その運営姿勢
に対する疑問を呈したものと理解できる。
ところで,学問の自由は,私立大学においても原則として保障されなければならな
いものであって,私立大学の教授は,当該大学の設置者・外的管理者に対する関係
において,研究教育の自由を保障されるべきものである。そして,その研究成果の
発表の自由も,大学の設置目的に反するとか,他人の名誉やプライバシーなどを侵
害するなどの特段の事情のない限り十分に尊重されなければならない。C大学組織
規程第6条2項の「教授は,学生を教授し,その研究を指導し,及び研究に従事す
る。」との規定は,かかる趣旨を当然に含むものと解される。
しかるに,本件1発言は,学者や専門家に向けたものではなく,一般市民の読む地
域紙に掲載されたものではあるが,上記の発言の趣旨からして,研究成果の発表と
みる余地があるものであるから,大学の設置目的に反するとか,他人の名誉やプラ
イバシーなどを侵害するなどの特段の事情のない本件においては,被告A理事長と
しては,教授である原告の本件1発言につき十分に尊重すべきものであって,本件
1発言自体を懲戒事由とすることはできないというべきである。
この点,被告Aは,本件1発言中「人権センターといってもほとんどが部落問題で
占められている。あとの二割ほどが反日,自虐史ですね。どういう子どもや日本人
を育てようとしているのかと疑問を感じるような施設です。」「このセンターで真
面目に勉強する子どもがいたら,将来が本当に心配になります。このような施設を
公費で建設したこと自体疑問ですね。」との部分は,同和問題をないがしろにする
もので,人権を軽視するものである旨を主張するが,同部分は,その前後の文脈か
らして,①三重県人権センターが部落問題に関する展示がほとんどであるので,他
の人権問題に関する展示も増やすべきである,②日本の第2次世界大戦当時の中国
や韓国,台湾などに対する植民地政策について様々な視点からバランス良く展示す
べきであるとの趣旨に理解できる。そして,三重タイムズの読者など一般人におい
て本件1発言が同和問題を軽視する意図でなされたものでないことを理解すること
は十分に可能であったと認められる。
また,そもそも,上記(1)の認定事実からすれば,U理事長は,本件1発言中の「人
権センターといってもほとんどが部落問題で占められている。あとの二割ほどが反
日,自虐史ですね。どういう子どもや日本人を育てようとしているのかと疑問を感
じるような施設です。このセンターで真面目に勉強する子どもがいたら,将来が本
当に心配になります。このような施設を公費で建設したこと自体疑問ですね。」の
部分や三重県人権センターの運営を批判する部分を問題として,同和問題の関係者
が大学に押しかけてきて,その結果としてC大学等の定員割れを招くなどの事態が
生ずることを恐れ,本件戒告処分を行ったものであって,本件1発言の内容自体が
同和問題を軽視する意図でなされたものであるか否かにつき関心がなかったものと
認められる。
そうとすると,被告Aの同主張は採用できない。
また,被告Aは,原告が本件1発言を「C大学教授」の肩書きで行ったことを問題
とするが,ある大学教授の発言が当該大学全体の見解を意味するものでないことは
社会通念上明らかであり,被告Aの指摘は採用できない。
(ウ) したがって,本件戒告処分は,懲戒事由がなく,無効というべきである。
ウ 本件業務命令(2)のうち「教授会への出席をしてはならない。」との部分につい

教授会出席禁止の業務命令は,教授会において後に追認されたものであるが,審査
委員会及び教授会において本件発言以外の原告の行動が問題とされていない(上
記(1)エないしコ,チ)から,原告の本件1発言が専らの理由であったと認められ
る。
ところで,上記2(2)アで説示のとおり,教授会の出席は学問研究を行う権利と密接
な関係を有し,労働契約上の法的保護に値するものというべきものであるから,教
授を教授会に出席させないとの決定は,当該教授に重大な懲戒事由があるとか,当
該教授が教授会に出席することにより教授会の運営に支障を生ずるなどの正当な理
由のない限りは,教授会は,かかる決定をなし得ず,かかる正当な理由がないのに
なされた決定は無効というべきである。そして,その教授会の決定に沿う業務命令
も当然に無効であると解される。
しかるに,上記イの認定・判断からすると,教授である原告に重大な懲戒事由があ
るとか,原告が教授会に出席することにより教授会の運営に支障を生ずるなどの正
当な理由はないと認められるから,本件業務命令(2)のうち「教授会への出席をして
はならない。」との部分は無効というべきである。
この点,被告Aは,「原告を教授会に出席させないと決定したのは,教授会であ
る。被告Aがこの決定に反し,原告を教授会に出席させることは大学の自治,学問
の自由を侵害するものである。」と主張する。
しかし,原告の学問研究を行う権利及びこれと密接な関係のある教授会の出席にか
かる利益は正当に保護されるべきであるから,被告Aの同主張は採用できない。
エ 本件業務命令(2)のうち「その他の教育諸活動をしてはならない。」との部分に
ついて
教授は,「学生を教授し,その研究を指導・・・する。」ものであり(C大学組織
規程6条2号),原告は大学教授として,その法的利益を有するものであるから,
教授会や被告A理事長が,原告に対し,正当な理由なく,教育諸活動を禁止するこ
とはできないものと解される。
しかるに,上記イの認定・判断からすると,原告が本件1発言をしたこともって,
正当な理由であるとは認められないから,「その他の教育諸活動をしてはならな
い。」との教授会の決定及びその教授会の決定に沿う業務命令は無効というべきで
ある。
4 争点(4)(被告D及び被告Eの責任)について
(1) 上記3(1)の認定事実によれば,①被告D及び被告Eは,原告の本件1,2発
言の趣旨はともかくとして,本件1発言中の「人権センターといってもほとんどが
部落問題で占められている。あとの二割ほどが反日,自虐史ですね。どういう子ど
もや日本人を育てようとしているのかと疑問に感じるような施設です。このセンタ
ーで真面目に勉強する子どもがいたら,将来が本当に心配になります。このような
施設を公費で建設したこと自体疑問ですね。」の部分や本件1,2発言中の三重県
人権センターの運営を批判する部分を問題として,同和問題の関係者が大学に押し
かけてきて,その結果としてC大学等の定員割れを招くなどの事態が生ずることを
恐れ,平成11年12月17日に開催された審査委員会のメンバーとして,原告に
つき「本学教員として不適格であり,辞職を求める事が望ましい。」との結論を出
したこと,②被告Eは,平成11年12月22日に開催された第93回(臨時)教
授会で,議長として議事を進行したこと,③同教授会で原告の本件1発言などが審
議され,審査委員会の結論を承認する決議がされたこと,④被告Dは,平成12年
3月8日に開催された第98回教授会で,議長として議事を進行し,被告Eはこれ
に出席したこと,⑤同教授会で「本学において,G氏には授業等一切の教育活動を
させない。」,「G氏の教授会及び委員会等への出席はさせない。」という2点
を,「平成11年12月22日開催教授会の決定事項に基づく確認である」ことを
全員一致で確認したことが認められる。
ところで,上記3(2)イ(イ)cで説示のとおり,本件1発言は,学者や専門家に向け
たものではなく,一般市民の読む地域紙に掲載されたものではあるが,その発言の
趣旨からして,研究成果の発表とみる余地があるものであるから,その発言が大学
の設置目的に反するとか,他人の名誉やプライバシーなどを侵害するなどの特段の
事情のない本件においては,教授会構成員としても,教授である原告の本件1発言
につき,その学問的な評価は別論として,十分に尊重すべきものであって,教授会
構成員が教授会としてその発言をもって「本学教員として不適格であって辞職を求
める。」とか,「本学において,G氏には授業等一切の教育活動をさせない。G氏
の教授会及び委員会等への出席はさせない。」との決議をすることは違法というほ
かない。
特に,被告D及び被告Eは,同和問題の関係者が本件1,2発言により被告Aに押
しかけてくることを恐れて,審査委員会のメンバーとして審査委員会の結論を出し
たほか,被告Dにおいては平成12年3月8日に開催された第98回教授会での決
議に賛同し,被告Eにおいては平成11年12月22日に開催された第93回(臨
時)教授会決議及び平成12年3月8日に開催された第98回教授会決議に賛同し
たものと認められ,被告D及び被告Eのこれらの言動は原告に対する不法行為に該
当するというべきである。
(2) 証拠(甲45,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,教授会で上記の各決議
がされたことにより,原告はその名誉を毀損されたほか,上記の各決議,L学長の
意見を踏まえた被告A理事長の本件業務命令(2)により,原告は,従来からの研究室
の使用を禁止され,教授会への出席もできなくなり,平成12年4月からは原告が
担当してきた講座も削除されて講義を担当することを妨げられたことが認められ
る。
これらにより,原告が被った精神的苦痛を慰謝するには200万円をもってするの
が相当である。
なお,原告は,委員会への出席もできなくなったことも慰謝料の事由である旨主張
するが,原告が上記各教授会決議前にどのような委員会に所属していたかも明らか
ではなく,この点については,慰謝料の事由であるとは認められない。
5 結論
以上によれば,原告の被告Aに対する訴えのうち,平成12年2月14日付け「法
人本部B事務局長より指示を受けて,C大学短期大学部2号館3階において,学園
史の英訳業務,海外留学生の募集活動及びこれらに附帯する事務をせよ。」との業
務命令の無効確認の訴え,及び平成12年2月14日付け「C大学の委員会への出
席をしてはならない。」との業務命令の無効確認の訴えは不適法であるからこれを
却下し,原告の被告Aに対する請求のうち,被告Aが,原告に対してなした平成1
2年1月17日付け戒告処分,及び平成12年2月14日付け「C大学の教授会へ
の出席,その他の教育的諸活動をしてはならない。」との業務命令の無効確認請求
は理由があるからこれを認容すべきである。
原告の被告D及び被告Eに対する請求は,原告に対し,連帯して,200万円及び
これに対する平成12年3月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金
の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は相当でないから,これを付さ
ない。
津地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官    内田計一
裁判官    上野泰史
裁判官    後藤 誠

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