弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人藤井英男、同玉浦庄太郎、同古賀猛敏、同関根和夫の上告趣意は、昭和二
九年法律第六一号になる改正前の関税法(以下、旧関税法という。)八三条三項お
よび関税法一一八条二項により犯罪に係る貨物の没収に代わる追徴を科すべき「犯
人」とは、その物の所有者である犯人を意味し、所有者でない共犯者を含まないと
解すべきであるところ、所有者でない共犯者も含まれるとの見解のもとに、被告人
に対し、本件犯罪に係る自動車の没収に代えてその価額の追徴を科した第一審判決
およびこれを是認した原判決は、その点において右法令の解釈を誤り、憲法二九条、
三一条に違反するというのである。
 しかし、旧関税法八三条三項および関税法一一八条二項にいう「犯人」とは、没
収することのできないその貨物の所有者である犯人に限らず、所有者でない共犯者
をも含むものと解すべきであり、また、このように解しても憲法二九条、三一条に
違反するものではないことは、当裁判所大法廷の判例とするところであつて(昭和
三六年(あ)第八四七号同三九年七月一日決定・刑集一八巻六号二六九頁、昭和三
七年(あ)第一二四三号同三九年七月一日判決・刑集一八巻六号二九〇頁)、現在
本件においてこれを変更すべきものとは認められない。
 しからば、これと同じ見解のもとに被告人に対し追徴を科した第一審判決を是認
した原判決は、正当であり、所論は、理由がない。
 よつて、刑訴法四〇八条により、裁判官大隅健一郎の反対意見があるほか、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官大隅健一郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、旧関税法八三条三項および関税法一一八条二項により犯罪に係る貨物の没
収に代わる追徴を科すべき「犯人」とは、もともと旧関税法八三条一項または二項、
関税法一一八条一項により没収を言い渡されるべきであつた貨物の所有者(または
占有者)である犯人をいい、所有者(または占有者)でない単なる共犯者を含まな
いと解すべきものと考える。その理由は、多数意見の引用する二つの大法廷判例に
おける田中二郎裁判官の意見と同趣旨であるから、ここに引用する。
 そして、本件において、被告人が差戻後の第一審判決が価額の追徴を科した各自
動車の所有者でなかつたことは、同判決の判示するところであり、また、その占有
者であつたとの認定もないのであるから、右の理由により、被告人に対し価額の追
徴を科することは許されず、原判決およびその維持する第一審判決は、違法であり、
破棄を免れないと考える。
  昭和四五年七月一六日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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