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徳島地裁平成18・11・24
316条の26第1項棄却
主文
本件裁定の申立てをいずれも棄却する。
理由
第1申立ての概要
弁護人の請求の趣旨及び理由は平成18年11月21日付証拠開示命令請求書のとおりである
からこれを引用するが,その主張は要旨同月6日に検察官に対して主張関連証拠として開示
を求めたが同月20日に不開示とされたもののうち,本請求書記載の証拠については徳島県
迷惑行為防止条例違反被告事件について公訴事実の前後の被告人の所在及び動向等を明ら
かにするもので,予定主張記載書面記載のアリバイ主張と関連するから本件と関連し,同
請求書記載の証拠については,本件各公訴事実にかかる捜査経過を明らかにするもので,
予定主張記載書面記載の被告人の供述の信用性にかかる事実と関連するから本件と関連し,
いずれも被告人の防御の準備のために必要性が高いから開示すべきというものである。
第2本請求書記載の証拠について
弁護人の予定主張記載書面によれば,弁護人は徳島県迷惑行為防止条例違反の事実につ
いてはアリバイを主張するとするものの,その内容は公訴事実より約1時間前に犯行現場か
ら約4km弱離れたパチンコ店にいたことと,その後犯行現場から約1km離れたスーパーに立
ち寄って,犯行現場至近の自宅に帰宅したことと,犯行時間帯ころに被告人がその長女に
対して携帯電話で架電したことのみであり(なお,上記の距離はいずれも主張がなされて
おらず,裁判所が独自に道路地図などをもって調査した概算であり,かかる事態は本来望
ましくなく,本来はアリバイ主張に際して調査して主張すべきものであることは銘記され
たい。),いずれもその事実が全て認められたとしても本件犯行は可能であり,相対立す
る主張とは言い難く,つまるところは弁護人の主張は被告人が本件犯行を行っていないと
いうに尽き,これに重ねて何らかの立証命題を提示したものとは認めがたく,弁護人作成
の平成18年11月14日付回答書の内容を合わせ考えたとしてもアリバイの主張と評価するこ
とは困難であり,同主張はアリバイ主張としての主張明示義務を満たしたものとはいえず,
検察官には本主張による被告人証拠開示義務はないといわざるをえない。この点弁護人は,
主張関連証拠の開示を受けなければ証明予定事実の具体化は不可能を強いると主張し,現
にこれまでの主張予定事実はいずれも開示証拠から認められる事実の羅列に過ぎず,それ
以上の被告人の記憶に基づく具体的な事実の主張はなされていない。しかし,証拠により
証明しようとする事実は被告人の供述によって証明しようとする事実も含まれるのであり,
それ以外の証拠によって認められる事実には限られないから弁護人の主張は失当である。
被告人が逮捕されたのは本件後約20日後であるが,被告人は捜査段階から弁護人を選任し,
今日まで打合せを重ねてきているのであり,記憶喚起には十分な期間があったと言うべき
であり,さらに記憶があればこそ被告人がアリバイを主張するのであろうから,細かい時
間まではともかく,移動手段等について何らかの具体的事実の主張がなされてしかるべき
であり,なお検察官手持ち証拠の開示を受けなければ自らの行動を明らかにできないとい
う主張は理由がないばかりか,開示証拠と矛盾しない弁解を構成してから主張するとの意
図も疑われ,もはや記憶の喚起の範疇を越えるものであって到底容認できない。また,確
かに弁護人主張のように主張関連証拠開示の後に主張の追加,変更が可能とされているが
(法316条の22),これはあくまで前記主張明示義務を果たした上での追加,変更を予定し
ているに過ぎず,むしろ法改正にあたって全面証拠開示が認められなかった以上,抽象的
にアリバイ主張のみをして,主張関連証拠として概括的広範に証拠開示を求め,開示証拠
を元に主張を構成するがごときは全面的証拠開示を求めるのと何ら変わるところがないも
のであって法の容認するところではなく,当初の主張明示段階でできうる限り具体的な主
張をなすことは公判前整理手続での迅速な争点整理に必要不可欠であることは変わりない
から,同条が主張関連証拠の開示後に具体的な主張をすることを容認する趣旨でないこと
は明白で,上記判断を左右するものではない。
第3本請求書記載の証拠について
弁護人の予定主張記載書面によれば,弁護人は,被告人が捜査段階から一貫して容疑を
否認していることを主張する予定であるとする。しかし,被告人が捜査段階から容疑を否
認していることは特に争いがなく,検察官による被告人の自白調書の証拠請求がないこと
からしても容易に立証がなされることが想定できるのであり,さらに重ねて同証拠の開示
によって立証すべき具体的事実の主張はなされておらず,同証拠を開示する必要性は認め
られない。なお,具体的な証明予定事実や必要性についての主張なしに証拠開示を認め得
ないことは先に述べたとおりである。
第4結論
よって本件裁定の申立てには理由がないからこれを棄却することとし,刑事訴訟法316条
の26第1項により主文のとおり決定する。
なお付言するに,本件が公判前整理手続に付され,公訴提起より4か月を経過してなお第
1回公判期日の開催に至らない点については,本件が多数の証拠開示やこれに付随する裁定
の申立てなどを経ている点から一概には不相当とは言い難く,その経過についても,当裁
判所は検察官において殊更に手続を遅延させているとは考えていない。もちろん,開示証
拠の謄写や決裁などで構造的に日数を要する点は当裁判所も遺憾であり(本申立てが検察
官の不開示決定に対するものであるにも関わらず,本申立てに対する意見書も申立てから3
日経過した本日をもってなお提出されていない。),以後改善を検討されるべき事項であ
ると考えるが(近日開催予定の第1審強化方策徳島地方協議会にも協議題として提出済みで
ある。),過渡期である現時点では制度上やむを得ない期間的コストであると考える。そ
して他方で公判前整理手続に付したことで通常の公判手続による以上の証拠開示を受けら
れるなどの攻撃防御上の利点が被告人,弁護側には存するのであり(そうであればこそ弁
護人においても法定刑も全て考慮の上で本件を公判前整理手続に付することを強く希望し
たのであろう。),そのために必要な期間は当然法も予定していること,さらには公判前
整理手続が裁判員制度導入を前提に,公判の充実集中のために導入されたものであること
などからすれば,通常の公判に付するよりも期間がかかっている点のみをもって不相当と
断じることはできない。さらに検察官の不開示決定や裁定申立てにかかる意見書について
は特段殊更に手続を遅延させる目的のものとは認めがたく,むしろ開示の適否の判断の基
礎となる弁護人の開示請求や主張予定記載書面の内容が広範かつ抽象的であることからす
れば,相手方当事者の対応としてはやむを得ないものと考えている。現実に類型証拠開示
では,裁判所が公判前整理手続において釈明を重ね,弁護人主張を善解し,開示証拠の範
囲を絞り込むことで検察官に検討を促し,結果検察官は任意の開示に応じているのであり,
弁護人請求を裁判所が容認して任意の開示に至ったのではないことは銘記されたい点であ
る。したがって,検察官の訴訟活動が万全なるものではないことは当裁判所も認めるとこ
ろではあるが,さりとて本手続の現状の責任が全て検察官にあるがごとく一方的に非難す
る弁護人の主張は看過できない。弁護人に対しては上記類型証拠開示の際に主張が抽象的
で,具体的な証拠関係との関連が不明確であるなどとして具体性に欠けることは指摘済み
であり,さらに主張予定記載書面についてもより具体化が可能である点も指摘の上で主張
の補充を検討されたい旨求めたにもかかわらず,全くこれに応じないまま本裁定申立てに
至ったものであり,これに対して検察官が主張関連証拠開示請求について不開示とした点
はやむを得ないものというほかない。少なくとも当裁判所としては,両当事者のこれまで
の努力には敬意を表するものであるが,他方で省みるべき点も両当事者,そして裁判所に
もそれぞれ認められると思えるところである。しかるにそれを置いて他方当事者を一方的
に論難するがごときは,たとえ対立当事者間であっても手続進行にかかる基本的信頼関係
をも損なう行為であって,一般的にも害多くして何ら益はなく,まして裁判所が証拠関係
を全く見ることが無く,進行において当事者のイニシアティブが大きくなる公判前整理手
続においてはその弊害はさらに大きいのであって,本件においては以後差し控えられたい
と考えていることを付言する次第である。
(裁判官・杉村鎮右)

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