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裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人三宅正太郎、同内田弘文上告趣意第一点について。
 論旨を要約すれば、次の三点に帰する。(一)刑訴応急措置法第一二条「第一項
は、法令により作成された尋問調書でないものに付て刑訴第三四三条の規定を改正
したもの」である。(二)それ故前記第一二条第二項の「規定は全く無用のものと
いうことができる」。強いてこの規定を生かして解釈すれば、それは一つの注意規
定であつて、「刑訴第三四三条の規定は、前項の場合については、これを適用しな
い」と読むべきものである。(三)従つて、被告人の供述を録取した書類で法令に
より作成された尋問調書でないものについては、なお旧刑訴第三四三条の規定の適
用があるものと解すべきである。これが、所論の筋である。なるほど旧刑訴第三四
三条第一項の規定は、先覚者の努力によつて制定せられた人権尊重の思想が盛られ
た貴重なものであることは、まさに論旨の的確に指摘するとおりである。そして、
この規定は、新憲法の施行に際し大体において民主主義的な線に沿つて発展的解消
を遂げたのである。先ず、(イ)証人その他の者(被告人を除く。)の供述を録取
した書類であつて法令により作成した尋問調書でないものは、その供述者を公判期
日において尋問する機会を被告人に与えなければ、これを証拠とすることができな
くなつた。その上、法令により作成した尋問調書は、憲法施行前においては、無条
件に完全な証拠能力をもつていたが、憲法施行後においては、同様な制限を加えら
れ、その供述者を公判期日において尋問する機会を被告人に与えなければ、これを
証拠とすることができなくなつた。これは、前記措置法第一二条第一項の定めると
ころであつて、まさに旧刑訴第三四三条の趣旨の著しい展開であると言わなければ
ならぬ。次に、(ロ)被告人の自白を録取した書類で法令により作成した尋問調書
は、憲法施行前においては、無条件に完全な証拠能力をもつていたが、憲法施行後
においては、第三八条第三項によつて完全な証拠能力を有せず補強証拠を要するこ
ととなつた。さらに、被告人の供述を録取した書類で法令により作成した尋問調書
でないものは、憲法施行前においては、旧刑訴第三四三条の条件に従つて証拠能力
をもつていた。そして、憲法施行後においては、刑訴応急措置法第一二条第二項の
規定によつて旧刑訴第三四三条の規定は適用しないことになつたから、証拠能力を
有することにはなつたが、憲法第三八条第三項によつて完全な証拠能力を有せず補
強証拠を要することとなつた。そこで、前記措置法第一二条第二項には明らかに「
刑事訴訟法第三四三条の規定は、これを適用しない」と規定しているのであるから、
明文上からは、所論のごとく、前記第二項の規定をもつて全く無用のものというこ
ともできないし、又第二項は第一項の場合についてのみ旧刑訴第三四三条を適用し
ない趣旨に解すべきものということもできない。証人等の供述は、憲法の解釈上そ
れだけで完全な証拠となり得るものであるから、人権擁護のため前記措置法第一二
条第一項をもつて、公判期日において尋問する機会を被告人に与えた場合に限り、
証拠とすることができるとしたのである。これと対比して被告人の供述は、憲法第
三八条第三項により、それだけでは完全な証拠とはなり得ず他に補強証拠を要する
ものであるから、そして、被告人は当然公判期日において供述陳弁する機会を有す
るものであるから、措置法第一二条第二項をもつて、被告人の供述を録取した書類
で法令により作成した尋問調書でないものをも証拠とすることができるものとした
のである。この意義において両者取扱の均衡は、相当に保たれていると見ることが
できる。法の一大変革にあたり、殊に応急措置立法の一部分を捉えて論議すれば、
さらに再考を要すべき点は多々あるであろう。しかし、いま本問題について、明文
を曲げてまで、論旨のごとく解する考え方には、たやすく賛同することができない。
論旨は、それ故に理由なきものである。
 同第二点について。
 所論原判決の証拠説明は、所論前者の趣旨に解すべきであるが、必ずしも所論の
ごとく「公判調書の如何なる部分において聴取書の如何なる部分が引用され、そし
て引用された聴取書の内容が如何なるものであるかを明確にすべき」程の必要はな
い。原判決の証拠説明をもつて足るものということができる。されば、この点にお
ける証拠説明を違法であるとする論旨は、理由がない。
 同第三点について。
 所論は「頸動脈をやられたから死ぬ」というごときことは、専門家の鑑定をまつ
て始めて知り得べき医学的事実であり、かかる事実を知つていたとは経験則の是認
できないところであると言う。しかし、頸動脈がどこに存在し、それをやられたら
生命に危険があるという程度の知識は、むしろ、現今においては普通人なら誰でも
持合せていると見るのが相当である。なお、本件においては鑑定書の死因記載をも
証拠としている。されば、この点に関する経験則違反を前提とする本論旨は理由が
ない。
 同第四点について。
 旧刑訴第三六九条によれば、有罪の判決を告知する場合には、被告人に対し、上
訴期間及び上訴申立書を差出すべき裁判所を具体的に告知すべきは勿論であるが、
公判調書には必ずしもその具体的な告知内容を記載する必要はなく、単に「上訴期
間及び上訴申立書を差出すべき裁判所を告知した」旨を記載するをもつて足りる。
けだし、該告知をした旨が記載してあれば、特別の事情なき限り、適法な告知がな
されたものと推認されるからである。論旨は理由がない。
 裁判官栗山茂の弁護人三宅正太郎、同内田弘文上告趣意第一点に関する意見は次
のとおりである。
 被告人には凡ての証人を審問する機会が与えられなければならないから、いわゆ
る法令により作成された尋問調書であると否とを問はず、証人その他の者の供述を
録取した書類は、被告人に読聞けただけでは原則として証拠能力を有しないのは論
旨の当然の結果である。従て旧刑訴法第三四三条が供述録取書の証拠能力を法令に
より作成された尋問調書とさうでないものとに区別していたのであるが、それを前
記新憲法第三七条第二項の趣旨に適合するように刑訴応急措置法第一二条第一項で
改めたのである。それと同時に法廷の内外を問はず被告人が自由且任意にした供述
であれば、真実発見のためその録取書類に証拠能力を認むべきであるとするのが合
理的である。被告人が法廷外でした供述であつても苟も犯罪に関連性があつて、そ
の供述に任意性があり即ち証拠能力の要件を具備していれば、その録取書類が法令
によつて作成された尋問調書でなくとも証拠法上の理論としては証拠能力を否定す
べきものではない。しかも、かかる供述録取書類に証拠能力を認めても被告人は公
判期日に充分意見弁解の機会が与えられるから前記措置法第一二条第一項の書証の
証拠能力の問題と併せて公正の観念に反せぬものと言つてよいであろう。前記措置
法第一二条第二項が「刑事訴訟法第三四三条の規定はこれを適用しない」と規定し
たのは、この理論に適合せしめんがためである。然るに多数意見は右第二項の被告
人の法廷の供述が憲法第三八条第三項で補強されるから証拠とすることができると
いうのは、証拠能力と証拠価値とを混同するもので賛同することができない。(昭
和二三年(れ)第一六八号昭和二三年七月二九日大法廷判決栗山裁判官の少数意見
参照)
 刑訴応急措置法第一二条第二項の結果、被告人の供述を録取した書類は法令によ
り作成された尋問調書であると否とを問はず、証拠能力を認めうることにしたのは
憲法第三八条第三項と関係がないものである。被告人の供述が自白である場合に、
それが法廷外でなされたと、法廷内でなされたと、そしてその法廷が当審であると
否とを問はず、証拠能力があつても、それが唯一の証拠である場合は証拠法上の論
理の問題を離れて、公益に基く政策上それだけで断罪科刑しえない(憲法第三八条
第三項)としたのは証拠の証明力の問題であつて、証拠能力に関するものでないこ
とは言うまでもないことである。
 尤も被告人の法廷外の供述に証拠能力が認めらるる証拠法上の論理の問題と、我
国の国情に照し、いわゆる「サード・デグリー」防止の為め、犯罪捜索機関として
この司法警察官に被疑者に対してどの程度の権限を行使せしむべきかの制度上の問
題とは個別に考究せらるべきものであろうと思はれる。
 論旨は、要するに法令により作成された尋問調書でない書類で、被告人の供述を
録取しているものは証拠能力を認むべきでないというにあるけれども、かかる書類
も証拠能力の要件を具備している以上は証拠として差支ないこと前文するとおりで
あるから、採用することができない。
 裁判官斎藤悠輔、同沢田竹治郎の上告趣意第一点に対する意見は次のとおりであ
る。
 書類を証拠とすることができるか否か(すなわち証拠能力を有するが否か)は、
その書類の種類によつて一律に論ずることのできないのは言うまでもないところで
ある。そしていわゆる報告的書類就中人の供述を報告する書類(すなわち被告人そ
の他の者の供述を録取した書類)はその書類自体が報告の内容たる事実を直接に表
示するものではなく、単に、間接に、媒介伝達するに過ぎない。就中人の供述を報
告する書類は、いわゆる伝聞証拠に属する。従つてかかる書類の証拠能力を有する
には、その書類自体の成立が真正であることを要するばかりでなく、その書類が報
告の内容たる事実を真正確実に媒介伝達するであろうとの信用を置くに足る適格を
有することを必要とする。例えば、人の供述を報告する公文書においては、作成者
が法令上の権限を有する者であること、信用すべき情況その他法定の手続に従つた
こと供述者の署名捺印その他法定の形式を備えていること、殊に供述者の供述が任
意性と真実性とを有すること、単なる意見、想像のごとき事実認識の資料たる適性
を有しない内容のものでないこと等々を必要とする。そしてその信用を置くに足る
適格を有するか否かは法令上別段の定めのない限り各場合の事実問題として裁判官
の自由裁量に委ねられていたのである。
 然るに現行旧刑訴訟法(大正一一年法律第七五号)の制定に際し、人権擁護の建
前からこの点に関し証拠法を設ける要望を生じ、刑訴第三四三条の規定を創設し、
一般報告的書類中特に人の供述を録取した書類については、その供述者が被告人た
ると否とを問わず書類の報告者が供述者に対し法令による訊問権を有し且つ法定の
手続、形式により作成したものであるときに限り、かかる信用を置くに足るものと
してその書類の証拠能力を認め、然らざるときは、原則としてその証拠能力を認め
ないものと法定し以て裁判官の自由裁量を制限したのである。
 しかし、かように人の供述を報告すべき書類の証拠能力の有無を主として報告者
が訊問権を有するか否かに依つて区別する法定証拠主義は、あまりに形式的劃一的
であつて、一方においては聴取書に代えて、始末書を提出せしめる弊風を生じ、他
方において訊問調書は、その内容の証拠力(証拠価値)までをも無条件に肯定し得
られるもののような誤解を起するに至つたから、むしろ、かかる劃一的区別を撤廃
して証拠能力の有無を各場合における裁判官の自由裁量に一任する方がよいという
考えが起るに至つた。それ故、戦時刑事特別法は、かつてその第二五条に「地方裁
判所ノ事件ト雖モ刑事訴訟法第三四三条第一項ニ規定スル制限ニ依ルコトヲ要セズ」
との規定を設けたのである。しかのみならず、新憲法の施行に伴い、何人も自己に
不利益な供述は強要されないこととなつた結果被疑者に対しては勿論、第三者たる
証人に対しても法定の場合の外訊問を為し得ない建前をとることとなり、殊に捜査
又は検察の職務を行う者には法令において、従前通り原則として人を訊問する権利
を与えない立場を維持することになり、また刑事手続において予審を廃止し従前法
令により作成しな訊問調書の大部分を占めていた予審調書は作成されないことにな
つたから、刑事手続の実際において刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現するため前
記刑訴第三四三条の証拠制限を撤廃すべき第一の必要を生じたのである。一方、憲
法第三七条第一、二項は刑事被告人に対し迅速な公開裁判を受ける権利並びにすべ
ての証人に対して審問する機会を充分に与え、又、公費で自己のため強制的手続に
より証人を求める権利を与えたから、公判における直接審理主義の要請上証人に代
るべき一切の書類には原則としてこれが証拠能力を認めない建前をとるべく少くと
も被告人の証人に対する反対訊問の権利を害しないようにする第二の必要を生じた
のである。
 かくて、第一第二の必要に応ずると共に直接審理主義と間接審理主義との利害得
失を調節するため、差し当り、一時の暫定措置として刑訴応急措置法第一二条の規
定を設けたのである。すなわち、同条第一項において被告人を除きたる人の供述を
録取した書類のみならずこれに代るべき書類についても(換言すれば証人に代るべ
き一切の報告書類について)被告人の請求あるときは、その供述者又は作成者を公
判期日において訊問する機会を被告人に与えなければ原則として証拠能力を認めな
いものとし、以て、主として第二の要請に答えると共に、他方同条第二項において
刑訴第三四三条の規定は適用しないと規定して、証人の供述を録取した書類のみな
らず被告人の供述を録取した書類についてもすべて前記法定の証拠制限を撤廃して
現行旧刑事訴訟法施行以前におけると同様各場合の事実問題として裁判官の自由裁
量に一任するを相当とし、以て第一の要請に答えたのである。
 そして、被告人は、公判期日において直接審理を受けるものあるから、その供述
を録取した書類については特に第二のごとき直接審理主義の要請に答える規定を設
ける必要がないので、右措置法第一二条第一項において「(被告人を除く。)」と
規定したのである。また憲法第三八条第一、二項は、被告人に対しその供述の任意
性を保障しその任意の供述でなければ証拠能力を否定する建前をとつたのであるか
ら、被告人の供述を録取してこれを書面に転換した書類について、前示のごとき劃
一的な法定の証拠制限規定を適用しないものと規定しても裁判官は、具体的の各場
合においてこれらの書類についての証拠能力の制限を考慮してその能力の有無を適
当に裁定し得るのである。それ故右規定撤廃のため被告人の権利の保護に欠くると
ころはない訳である。されば、被告人の供述を録取した書類についてのみ法令によ
り作成された訊問調書でなければその証拠能力がなといする所論は当らない。
 この判決は、裁判官栗山茂裁判官、斎藤悠輔裁判官、沢田竹治郎の少数意見を除
き、他の裁判官全員の一致した意見である。
 よつて、刑訴施行法第二条、旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二四年二月九日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官庄野理一は退官につき署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義

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