弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第1 請求
1 被告が,原告に対し,別紙物件目録1及び2記載の不動産の原告の持分2分の
1について,平成10年8月14日付けでした差押処分及び同年12月3日付けで
した参加差押処分をいずれも取り消す。
2 被告が,別紙選定者目録記載の選定者Aに対し,別紙物件目録3及び4記載の
不動産のAの持分2分の1について,平成10年10月2日付けでした差押処分を
取り消す。
3 被告が,別紙選定者目録記載の選定者Bに対し,別紙物件目録1及び2記載の
不動産のBの持分2分の1について,平成10年8月14日付けでした差押処分及
び同年12月3日付けでした参加差押処分をいずれも取り消す。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は,被告がCの相続人である原告,A及びBに対して相続税の滞納処分とし
て行った同人らの財産の差押処分等につき,選定当事者である原告が,同差押処分
等の取消しを求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)
(1) C(平成3年6月21日死亡)の相続人は,原告,A及びBを含む10名
である。
(2) 原告及びBは,別紙物件目録1記載の不動産をそれぞれ2分の1の割合で
共有している(甲1)。
 原告及びBは,Cの相続(以下「本件相続」という。)により,それぞれ同目録
2記載の不動産の持分2分の1を取得し,Aは,本件相続により同目録3及び4記
載の不動産の持分2分の1を取得した。
(3)原告,A及びBは,法定申告期限内の平成3年12月24日,本件相続開始
に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の納税申告書及び延納申請書を枚方
税務署長に提出した。この延納の申請は,平成4年8月24日に許可された。
(4)原告,A及びBは,平成6年10月4日,物納財産の計算に誤りがあったと
して,本件相続税の修正申告書を提出した。
(5)枚方税務署長は,平成7年5月30日,Bに対し,分納税額を分納期限まで
に納付しなかったことを理由として延納許可を取り消し,平成8年6月11日,原
告及びAに対し,同様の理由により延納許可を取り消した(乙1)。
(6) 被告は,原告に対し,平成10年8月14日に別紙税額表1記載の滞納国
税等(原告固有の相続税及び他の相続人の相続税に係る連帯納付
責任額)を徴収するために別紙物件目録1及び2記載の不動産の原告の持分の差押
処分を行い,同年12月3日に別紙税額表2記載の滞納国税等(他の相続人の相続
税に係る連帯納付責任額)を徴収するために同不動産の原告の持分の参加差押処分
を行った。
 被告は,Bに対し,平成10年8月14日に別紙税額表3記載の滞納国税等(同
人の固有の相続税及び他の相続人の相続税に係る連帯納付責任額)を徴収するため
に別紙物件目録1及び2記載の不動産のBの持分の差押処分を,同年12月3日に
別紙税額表4記載の滞納国税等(他の相続人の相続税に係る連帯納付責任額)を徴
収するために同不動産のBの持分の参加差押処分をそれぞれ行った。
 被告は,Aに対し,平成10年10月2日に別紙税額表5記載の滞納国税等(同
人の固有の相続税及び他の相続人の相続税に係る連帯納付責任額)を徴収するため
に別紙物件目録3及び4記載の不動産のAの持分の差押処分を行った(以下,原
告,B及びAに対する前記各処分を「本件各処分」という。)。
(7) 原告及びBは,平成10年10月12日に同人らに対する前記各差押処分
に不服があるとして被告に対して異議申立てをしたが,同年12月17日に異議を
棄却する旨の決定をされたため,平成11年1月4日に国税不服審判所長に対する
審査請求をした。また,原告及びBは,同年1月4日に同人らに対する前記各参加
差押処分について被告に対して異議申立てをしたが,同年3月1日に異議を棄却す
る旨の決定をされたため,同月26日に国税不服審判所長に対する審査請求をし
た。しかし,同年10月7日,前記各審査請求をいずれも棄却する旨の裁決がされ
た(乙1,3)。
 Aは,平成10年11月30日に同人に対する差押処分に不服があるとして被告
に対して異議を申し立て,同年12月17日に異議を棄却する旨の決定をされたた
め,平成11年1月4日に国税不服審判所長に対する審査請求をしたが,同年10
月7日に審査請求を棄却する旨の裁決がされた(乙2)。
2 争点
(1) 国税の徴収権の消滅時効の成否
(2) 評価通達の違法性の有無
(3) 相続人の固有財産に対する差押処分等の可否
3 争点に関する当事者の主張
(1) 国税の徴収権の消滅時効の成否
(原告の主張)
 国税の徴収権の消滅時効は相続税の申告書の提出と同時に進行を開始するとこ
ろ,原告,A及びBは,他の相続人5名(D,E,F,G,
G)と共に法定申告期限内の平成3年12月24日に相続税の申告書を提出してい
ることから,原告,A,B及び他の相続人5名に対する国税の徴収権は,本件各処
分の通知書が到達するより前の平成8年12月24日の経過をもって時効により消
滅している。したがって,既に消滅した租税債務につきなされた本件各処分は違法
である。
(被告の主張)
 相続税法34条1項の連帯納付義務は,相続税が被相続人の一生の税負担の清算
という面を有していることから,民法上の連帯保証類似の責任として,共同相続人
中無資力の者がある場合に備えて他の相続人に課した特別の履行責任というべきで
ある。そして,連帯納付義務は,本来の納税義務者の租税債務について重畳的に納
付義務を負わせるものである点で租税保証債務(国税通則法(以下「通則法」とい
う。)50条6号)又は第二次納税義務(国税徴収法(以下「徴収法」という。)
32条以下)とは異なるが,本来の納税義務者でない者に納付責任を負わせる点で
はこれらに類似した性質のものである。そうすると,連帯納付義務は,保証債務と
同じく附従性を有すると解すべきであり,本来の納税義務者に対して生じた時効中
断は,連帯納付義務者に対しても当然に効力を生じていると解すべきである。本件
においては,別紙「申告,納付及び差押え等状況一覧表」記載のとおり,一部納付
や延納条件申請による承認(通則法72条3項,民法147条3号,国税通則法基
本通達73条関係3,4),督促(通則法73条1項4号),差押え(通則法72
条3項,民法147条2号)などの時効中断事由により,各相続人固有の納税義務
についての時効は中断しているから,連帯納付義務者である原告,A及びBに対し
ても時効の中断の効力が及ぶ。
 また,原告,A及びBの滞納国税も本件各処分の対象となっているところ,同人
ら固有の納税義務についても同一覧表記載のとおり時効が中断している。
 なお,担保提供された第三者に帰属する財産を滞納処分の例により差し押さえる
場合の時効の中断は,差押調書の謄本が滞納者に交付された旨等が滞納者に通知さ
れた時に生じる(国税通則法72条3項,民法155条,国税徴収法基本通達47
条関係53)が,本件においては,各差押え等に当たり,滞納者に差押調書謄本が
送達されており,これらにより時効は中断している。
(2) 評価通達の違法性の有無
(原告の主張)
 原告,A及びB
は,大阪国税局長通達である財産評価基準書の評価倍率(以下「評価倍率」とい
う。)により算出した評価額(以下「相続税評価額」という。)を基に相続税申告
書を作成し,提出したが,この相続税評価額は,違法な評価倍率により算出された
ものである。
 すなわち,相続税法22条にいう「時価」とは,課税時期において,それぞれの
財産の現況に応じ,不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に成立する
と認められる客観的交換価値をいい,いわゆる実勢価格ではないと解されるとこ
ろ,評価倍率による評価は,近隣の売買実例を基にして対象区画の地価を評価する
ものであるから,高額の売買実例により周辺地価の評価額が不当に引き上げられて
しまうなど,実勢価格の影響を受ける点で同条に反し,不当である。したがって,
相続税評価額を評価倍率により算出する旨定めた国税庁長官通達「相続税財産評価
に関する基本通達」(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17(平成
3年12月18日付け課評2-4ほかによる一部改正前のもの。),以下「評価通
達」という。)は違法である。
 また,内部通達にすぎない評価通達により税務執行がされることは租税法律主義
(憲法84条)に反し,違法である。
 さらに,本件は,担税力を無視した課税であり,財産権(憲法29条)を侵害
し,違法である。
(被告の主張)
 評価通達は,課税対象となる財産が不動産,動産,有価証券等多種多様であり,
これらの各種財産の客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではない
ことから,各種財産の評価方法を具体的に定め,これを各国税局長に通達し,その
内部的な取扱いを統一するとともに,これを公開し,納税者の申告・納税の便に供
するものである。
 評価通達に定められた評価方式が合理的なものである限り,これを形式的にすべ
ての納税者に適用することにより租税負担の実質的な公平を実現することができる
のであるから,評価通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことは原
則として許されないというべきである。もっとも,評価通達に定められた評価方式
を適用することによって,かえって実質的な租税負担の公平を害することが明らか
であるなどの特別な事情がある場合には,別の評価方式によることが許されるもの
と解すべきである。
 評価通達が定める倍率方式は,固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとに
その地域の実情に即
するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式であり,倍率方
式により評価する宅地の価額は,その宅地の固定資産税評価額に,地価事情の類似
する地域ごとに,その地域にある宅地の売買実例価額,精通者意見価格等を基とし
て国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価することとされてい
る。これを受けて,被告は,宅地の売買実例価額及び精通者意見価格等を基に具体
的に評価倍率を定めているのであるから,評価倍率による算定はその地域における
地価の実態をおおむね正確に反映した合理的なものである。
 本件において,原告,A及びBは,評価倍率により相続税評価額を算定し,相続
税法27条に基づき自主的に納税申告をした上,確定した相続税額について延納許
可を受けたものであるから,同人らは評価通達及び評価倍率による算定方法を十分
に認識していたものであり,これらが不当であったとする事情を認めることはでき
ない。また,本件において,評価通達に定める方式によらない特別の事情があると
認めることはできない。
 原告,A及びBの納税申告は,課税庁の課税処分によるものではなく,そこには
担税力を無視した課税というものは存在しないから,財産権の侵害もない。
(3) 相続人の固有財産に対する差押処分等の可否
(原告の主張)
 相続人は,相続により取得した財産を超えて他の相続人の相続税を納付する責任
を負わないというべきであるから,相続税法34条1項にいう「相続又は遺贈によ
り受けた利益に相当する金額を限度とする」とは,現に利益が存する限度をいう。
そうすると,連帯納付義務に基づく差押えの対象は相続財産に限定され,原告及び
Bの固有財産には及ばないというべきである。
 したがって,被告が,原告及びBに対し,別紙物件目録1記載の不動産について
した差押処分及び参加差押処分は,いずれも違法である。
(被告の主張)
 現行の相続税法は,相続財産について複数の相続人等がいる場合にも,遺産全体
の額を基に相続税額を算出するという方式(遺産税方式)を採用した上で,相続人
ごとに税額を算出するという遺産取得方式を採用しており,このような遺産取得方
式に伴う徴収面での公平を保つために設けられたのが相続税法34条1項である。
同条項は,共同相続人中に無資力者が生じた場合など当該相続人等のみでは相続税
債権の満足が得られなくなるおそれがあることから,これに備える
ために,各相続人ら固有の相続税の納税義務の確定という事実に照応して法律上当
然に連帯納付義務が生じるとするものであり,他の共同相続人に対する連帯納付義
務については,同条項の「相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度とす
る」と規定するのみであって,規定上も相続財産に限られるものでないことは明ら
かである。
 また,差押財産の選択に関しては,徴収法75条及び78条には差押禁止財産に
ついての規定があるが,同法上明文の規定がない事項について,滞納者のいかなる
財産を差し押さえるかという差押財産の選択は,執行者たる徴収職員の合理的な裁
量に委ねられていると解される。
 したがって,固有の相続税はもちろん,連帯納付義務に基づく差押えについて
も,差押えの対象となる財産は,相続財産に限定されることなく,相続により受け
た利益の価額に相当する金額を限度として原告ら所有のすべての財産に及ぶものと
いうべきである。
第3 当裁判所の判断
1 国税の徴収権の消滅時効の成否(争点(1))について
(1) 前提事実,証拠(乙1~6,9~12,18,19(書証は特記しない限
り枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告,A,B並びに他の相続人であるD,E,F,G及び秀夫は,法定申告期
限内の平成3年12月24日,本件相続税の納税申告書及び延納申請書(乙12の
1~7)を枚方税務署長に提出した。
イ 枚方税務署長は,平成7年4月14日,D,E,F及びGの第2回分納期限分
及び第3回分納期限分につき,督促処分を行った(乙18,19の各別紙1,
2)。
ウ 枚方税務署長は,平成7年6月15日,Bの相続税について,原告所有の不動
産に担保物処分のための滞納処分による差押処分を行い(乙6の1),そのころ,
差押調書の謄本をBに送付した(乙9)。
工 枚方税務署長は,平成8年6月19日,原告の相続税について,原告所有の不
動産に担保物処分のための滞納処分による差押処分及び参加差押処分を行った(乙
4の1,2)。
オ 枚方税務署長は,平成8年6月20日,Aの相続税について,原告所有の不動
産に担保物処分のための滞納処分による参加差押処分を行い(乙5),そのころ,
差押調書の謄本をAに送付した(乙9)。
カ 枚方税務署長は,平成8年6月24日,Bの相続税について,原告所有の不動
産に担保物処分のための滞納処分による参加差押処分を行
い(乙6の2),そのころ,差押調書の謄本をBに送付した(乙10)。
キ 枚方税務署長は,平成8年8月21日,D,E,F及びGの第4回分納期限分
及び第5回分納期限以降分にっき,督促処分を行った(乙18別紙3~5,乙19
別紙1)。
ク 枚方税務署長は,平成8年8月28日,被告に対し,原告,A,B,D,E,
F及びGの相続税について徴収を引き継いだ。
ケ 被告は,平成10年10月2日,Fの相続税について,秀夫の不動産に担保物
処分のための滞納処分による差押処分を行い(乙18別紙10の1),D,E及び
Gについて同不動産に担保物処分のための滞納処分による参加差押処分を行うとと
もに(乙18別紙8,9の各1,乙19別紙2の1),そのころ,D,E,F及び
Gに対し,差押調書及び参加差押調書の謄本を送付した(乙11,18,19)。
(2) 原告ら固有の国税の徴収権の消滅時効の成否について
 国税の徴収権は,その国税の法定納期限から5年間行使しないことによって,援
用を要せずに時効により消滅する(通則法72条1,2項)。他方,国税の徴収権
の消滅時効は,延納又は徴収の猶予に係る部分の国税(当該部分の国税にあわせて
納付すべき延滞税及び利子税を含む。)につき,その延納又は猶予がされている期
間内は進行せず(通則法73条4項),納税者の修正申告書の提出,国税局長又は
税務署長等の差押え及び交付要求などの事由により時効が中断する。そして,差押
えによる中断の効力は,差押えに係る滞納処分が終了し,又はその差押えが解除さ
れるまで継続し(通則法72条3項,民法147条2,3号,157条1項),交
付要求による中断の効力は,交付要求がされている期間継続する(通則法73条1
項5号)。なお,第三者の所有物に対する差押えの場合には,差押調書の謄本等に
より差押えの事実を滞納者に通知しなければ,中断の効力が発生しない(通則法7
2条3項,民法147条3号,155条)。
 本件各差押処分は,別紙税額表1ないし5記載のとおり,それぞれ原告,A及び
B固有の滞納国税等も対象としているので,まず原告ら固有の国税の徴収権の消滅
時効の成否について判断する。
 本件において,前記(1)の認定事実によれば,原告固有の国税については前記
(1)工記載の差押え及び参加差押えによって時効が中断し,その中断事由は継続
していること,A固有の国税については前記(1)オ記載の参
加差押えの通知によって時効が中断し,その中断事由は継続していること,B固有
の国税については前記(1)ウ及びカ記載の差押え及び参加差押えの通知によって
時効が中断し,その中断事由は継続していることが認められる(いずれの時効中断
事由も,法定納付期限である平成3年12月24日から5年を経過する前に発生し
ており,延納許可による時効の停止を考慮するまでもなく,時効中断の効力が発生
していることが明らかである。)。
 したがって,本件各処分を行った時点において,原告ら固有の国税の徴収権につ
いて消滅時効が完成していないことは明らかである。
(3) 連帯納付責任額についての国税徴収権の消滅時効の成否について
 証拠(乙1ないし3)によれば,他の相続人の滞納国税は別紙租税債権目録記載
のとおりであると認められ,本件各処分は,同滞納国税について相続税法34条1
項により負担した連帯納付責任額をも対象として行われているから,次に原告らの
連帯納付責任額の国税徴収権の消滅時効の成否について判断する。
ア 相続税法34条1項の連帯納付義務は,納税義務者を相続により財産を取得し
た者に限定すると,共同相続人中無資力の者があるなど相続税の徴収を確保するこ
とが難しい場合があることから,相続税の徴収の確保及び徴収面における相続人間
の公平を図るため,自らが負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに,他の相続
人等の固有の相続税の納税義務について,当該相続等により受けた利益の価額に相
当する金額を限度として,互いに連帯して負担するよう課した特別の履行責任であ
ると解される。この連帯納付義務は,補充的に責任を負わせるものでない点で租税
保証債務(通則法50条6号)や第二次納税義務(徴収法32条以下)とは性質が
異なるが,本来の納税義務者でない者に納付責任を負わせる点では主たる納税者の
納税義務との関係において附従性を有する租税保証債務及び第二次納税義務に類似
した性質を有するというべきである。
 そうすると,連帯納付義務は固有の相続税の納税義務との関係において附従性を
有すると解すべきであり,本来の納税義務者に対して生じた時効中断は,連帯納付
義務者に対しても効力を生じると解するのが相当である。
イ 前記(1)の認定事実によれば,本来の納税義務者のうちD,E,F及びG固
有の国税の徴収権の消滅時効については,前記(1)イ及びキ記載の督促処分によ
って,
法定納付期限である平成3年12月24日から5年を経過していない時点で中断し
たことが認められる。その後,督促状を発した日から起算して10日を経過した日
の翌日から5年を経過していない時点で前記(1)ケ記載の差押処分及び参加差押
処分によって,時効は中断し,その中断事由は継続していることが認められる。
ウ 以上によれば,本来の納税義務者である他の相続人について生じた時効の中断
が連帯納付義務者である原告,A及びBに対しても効力を生じたことにより同人ら
の連帯納付義務について消滅時効は完成していないと認められる。
2 評価通達の違法性の有無(争点(2))について
(1) 原告は,評価倍率は実勢価格の影響を受ける点で不当であり,相続税評価
額を評価倍率により算出する旨定めた評価通達が違法であると主張する。
 相続税法22条は,相続財産の価額は特別に定める場合を除き,当該財産の取得
の時における時価によるべき旨を規定しているところ,この時価とは,相続開始時
における当該財産の客観的な交換価値をいうと解される。しかし,客観的な交換価
値を個別に評価する方法をとると,評価方式により異なる評価価額が生じることと
なり,納税者間の公平,納税者の便宜の観点から不合理な場合があり得るため,課
税実務上は,評価通達により相続財産評価の一般的基準が定められ,そこに定めら
れた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとしているものである。そ
うすると,この評価方式が合理的なものである限り,形式的にすべての納税者にこ
れを適用することにより,租税負担の実質的な公平を実現することができるという
べきであるから,他の方法により評価を行うことは原則として許されないと解すべ
きである。他方,この評価方式を画一的に適用することにより,かえって実質的な
租税負担の公平を著しく害することが明らかな特別の事情がある場合には,別の評
価方式によることが許されるものと解するのが相当である。
 評価通達が定める倍率方式は,固定資産税評価額に国税局長が一定の地域ごとに
その地域の実情に即するように定める倍率(評価倍率)を乗じて計算した金額によ
って評価する方式であり,この評価倍率は,地価事情の類似する地域ごとに,その
地域にある宅地の売買実例価額,公示価格,精通者意見価格等を基として国税局長
が定めるものとされている。このような倍率方式による評価方法は,土地の時価
の評価方法として合理性を有すると解される。そして,本件全証拠によっても,同
倍率方式を適用することにより実質的な租税負担の公平を著しく害することが明ら
かな特別の事情は認めることができない。
 したがって,倍率方式を採用することとした評価通達が違法であるとの原告の主
張は採用することができない。
(2) また,原告は,内部通達にすぎない評価通達により税務執行がされること
は租税法律主義に反して違法である,本件は担税力を無視した課税であり,財産権
の侵害に該当すると主張する。
 しかし,評価通達の定める倍率方法は,相続税法22条にいう「時価」の評価方
法として合理性を有すると認められ,同方式に従って土地の時価を評価すること
は,相続税法22条の正しい解釈というべきであるから,租税法律主義に反すると
はいえない。
 また,原告,A及びBは,自らの申告により相続税額を確定させたものであり,
賦課決定により税額が確定したものではないから,担税力を無視した課税がなされ
たとの主張は失当である。
 したがって,原告の前記主張はいずれも採用することができない。
3 相続人の固有財産に対する差押処分等の可否(争点(3))について
 相続税法34条1項が自己の固有の相続税の納付義務のほかに他の相続人等の相
続税の納付義務について互いに連帯納付義務を負わせることとした趣旨,目的は,
前記のとおり,相続税の徴収の確保及び徴収面における相続人間の公平を図る点に
ある。そして,相続により取得した財産の価額は取得時すなわち相続開始時の時価
により評価され,これを前提として各相続人の相続税の納税義務も確定されること
に照らすと,連帯納付義務の限度である「相続に因り受けた利益の価額」も相続開
始時を基準として算定されるべきものと解するのが相当であって,その後に相続財
産の価額が減少したとしても,連帯納付義務が現に利益が存する限度に限定される
ものではないというべきである。
 また,いかなる財産を差し押さえるかという差押財産の選択については,差押禁
止財産(徴収法75条,78条)を除いては徴収職員の合理的な裁量に委ねられて
いると解すべきであるから,差押えの対象となる財産は相続財産に限足されること
なく,相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として原告ら所有のすべ
ての財産に及ぶものというべきである。
 したがって,原告の前記主張は採用することができな
い。
4 結論
 以上によれば,本件各処分はいずれも適法であり,原告の請求は理由がない。
 よって,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官 山下郁夫
裁判官 青木亮
裁判官 畑佳秀

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