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判決言渡平成19年4月26日
平成18年(行ケ)第10484号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年4月24日
判決
原告松下電工株式会社
訴訟代理人弁護士岩坪哲
同速見禎祥
被告株式会社司光
訴訟代理人弁理士森治
主文
1特許庁が無効2005−80250号事件について平成18年9月1
9日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨。
第2事案の概要
本件は,原告の有する後記特許について,被告が無効審判請求をしたとこ
ろ,特許庁がこれを無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求め
た事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁等における手続の経緯
原告は,名称を「吊戸のガイド装置」とする発明につき,平成5年12月
15日に特許出願(特願平5−314859号。以下「本願」という。)を
し,平成13年10月26日設定登録を受けた(特許第3245490号。
請求項の数3。甲7。以下「本件特許」という。)。
これに対し被告は,平成17年8月22日,本件特許の請求項1,2に係
る発明について特許無効審判請求をしたところ,特許庁はこれを無効200
5−80250号事件として審理した上,平成17年12月13日,上記請
求項に係る特許を無効とする審決をした。
そこで原告は,平成18年1月24日,上記審決に対し審決取消訴訟(当
庁平成18年(行ケ)第10032号)を提起するとともに,平成18年2
月13日付けで訂正審判(訂正2006−39022号)を請求したとこ
ろ,当庁は,平成18年3月13日,特許法181条2項に基づき,事件を
審判官に差し戻すため上記審決を取り消す決定をした。
その後の審判手続の中で原告は,平成18年4月7日付けで訂正請求(甲
8の1。以下「本件訂正」といい,同添付の明細書〔甲8の2〕を「訂正明
細書」という。請求項の数3)をしたが,特許庁は,平成18年9月19
日,「訂正を認める。特許第3245490号の請求項1ないし2に記載さ
れた発明についての特許を無効とする。」旨の審決をし,その謄本は平成1
8年9月29日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件訂正により訂正された後の請求項1,2に係る特許請求の範囲記載の
発明は,下記のとおりである(下線は訂正箇所。以下順に「本件発明
1」,「本件発明2」という。)。

【請求項1】吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保
持され,床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体
の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをお
こなう吊戸のガイド装置であって,ガイドピンの上端部外周面に係止溝が
形成され,走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止溝にス
ライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け,係
止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく,係止溝の上
下の大径部分よりも小にして成り,ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイ
ド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状
態で,吊戸本体がガイドされ走行されることを特徴とする吊戸のガイド装
置。
【請求項2】吊戸本体に吸引用磁石が設けられ,ガイドピンの上端部に磁
石が設けられ,吸引用磁石と係止ガイド片との間において,ガイドピンを
磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜めにな
された傾斜ガイドが設けられて成ることを特徴とする請求項1記載の吊戸
のガイド装置。
(3)審決の内容
ア審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,本件発明1,2は,下記引用発明1,2及び周知技術に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項に
より特許を受けることができない,というものであった。

①特開平4−297687号公報(以下「刊行物1」といい,同記載の発
明を「引用発明1」という。)
②実願昭51−166718号(実開昭53−83841号)のマイクロ
フィルム(以下「刊行物2」といい,同記載の発明を「引用発明2」と
いう。)
イなお審決は,引用発明1を次のように認定し,本件発明1との一致点及
び相違点1を下記のように摘示した。

<引用発明1>
「複数枚の吊戸本体が略平行に並置された各々の上レールにランナーを介
して走行自在に吊下げ保持され,床面に磁力にて突出引退自在に設けられ
たガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝にその突出状態で挿
入されて走行ガイドをおこなう吊戸のガイド装置であって,吊戸本体3の
走行溝5の前後部には吸引用磁石7を設けるとともにガイドピン4の先端
に磁石6を取付け,上記吸引用磁石7の両側には鉄板のような磁性体にて
形成された傾斜ガイド8が形成され,当該傾斜ガイド部8に上記磁石6が
磁着することによりガイドピン4が上昇され,吊戸本体3の走行溝5へと
案内されるように構成された吊戸のガイド装置。」
<一致点>
「吊戸本体が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され,床
面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に
形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなう吊戸
のガイド装置」である点。
<相違点1>
ガイドピンの走行溝への挿入構造に関して,本件発明1が「ガイドピン
の上端部外周面に係止溝が形成され,走行溝の長さ方向の中間部分におけ
る吊戸本体側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイ
ド片を対向させて設け,係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分
よりも大きく,係止溝の上下の大径部分よりも小にして成り,ガイドピン
の係止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持
され下降することがない状態で,吊戸本体がガイドされ走行される」とい
う構成を採用しているのに対して,引用発明1がこのような構成を具備し
ていない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決は,以下に述べる理由により,違法として取り消され
るべきである。
ア取消事由1(刊行物2記載発明の認定の誤り・相違点1についての判断
の誤り)
(ア)審決は,刊行物2(甲2)に「引戸の下部が実質平坦な敷居上(「敷
居状」は誤記)を開閉移動するようにした無レール引戸構造において,
引戸の下部が複数のローラーにより実質平坦な敷居上を開閉移動する際
に該引戸の下部が側方変位しない様にする規制を,該引戸の開閉域内で
該敷居に植設した規制ピンを介して引戸下部に設けた案内溝が拘束され
ることにより行うようにした案内規制手段であって,引戸13のフレー
ム下部の内部内側にその底部に於て開閉方向に沿って下部に対向するフ
ランジ18を有したコの字型案内溝19を固設し,その適宜位置で下か
らみてフランジ18が無い切欠部20を形成するとともに,規制ピン
を,その径を前記フランジ18の間隙よりは大きく,上記切欠部20よ
りは小さい様に形成した遊転ローラー21を備えたビス22で構成した
案内規制手段」(審決8頁最終段落∼第1段落)の発明(審決のいう「
引用発明2」。)が記載されていると認定し,同認定を踏まえ,本件発
明1と引用発明1の相違点1のガイドピンの走行溝への挿入構造は引用
発明1に引用発明2に示された「規制ピンのコの字型案内溝への挿入構
造」を適用することにより当業者に容易想到と判断したものである。
しかし,上記判断は,本件発明1と刊行物2記載発明(審決の認定し
た「引用発明2」は,認定に誤りがあるので,刊行物2に記載された発
明を「刊行物2記載発明」という。)の基本的構造の違いを看過してお
り,誤りである。この基本的構造の相違のため,引用発明1と刊行物2
記載発明とが「案内規制手段である点で技術的に共通する」から相互の
技術手段を置換容易であるなどとはいえないし,また,刊行物2記載発
明の挿入構造を引用発明1に適用するには技術的阻害要因が存在する。
(イ)すなわち,本件発明1は,上ランナーに吊り下げ状態で走行自在な吊
戸のガイド装置におけるガイドピンを吊戸本体下部の走行溝に挿入させ
る構造に関し,従来は,磁力によってガイドピンの挿入状態を維持して
いたものを,機械的に保持すること,すなわち「ガイドピンの上端部外
周面に係止溝を形成し,走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体
側に係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対
向させて設け,係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも
大きく,係止溝の上下の大径部分よりも小にして成り,ガイドピンの係
止溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持さ
れ下降することがない状態とすること」によって,ガイドピンの保持力
を高め,ガイドピンの構成を簡素化することに特徴を有する。本件発明
1は,突出引退自在のガイドピンが自重により落下するのを防止し,機
械的に保持することによりガイドピンの走行溝5への挿入状態を維持す
るものなのである。そして,引用発明1は,訂正明細書(甲8の2)の
従来例と同様のものであり,相違点1は既に訂正明細書において言及さ
れている相違点そのものである。
一方,刊行物2(甲2)の「2.実用新案登録請求の範囲…引戸の
開閉域内に規制ピンを植設されてをり,…」(明細書1頁第2段
落),「…側方変位しない様にする規制は該引戸の開閉域内で該敷居に
植設した規制ピンを介して引戸下部に設けた案内溝が拘束されることに
より行なわれ,…」(同3頁第1段落),「上記構成に於て,各引戸1
3をその上部を桟9のガイド溝8に下から挿入係合させ,左右摺動さ
せ,引戸13の印20と敷居10の印を合致させてビス22上に案内溝
19が在る様に下ろすと,第6図に示す如く,該ビス22の遊転ローラ
ー21は切欠20内に入り,該案内溝19に納まることになり,…」(
同5頁第3段落),「そして,ガラス拭き等のために引戸13を外ずす
場合は前記の様に引戸13の印20と敷居10の印24を合致させて該
引戸13を一たん持ち上げれば遊転ローラー21は案内溝19のフラン
ジ18の切欠20から下方に相対的に離脱し,そのまゝ内外方に移動さ
せれば引戸13は容易に外ずれる」(同6頁最終段落∼7頁第1段落)
との記載により,刊行物2の規制ピン(ビス22を遊挿された遊転ロー
ラー21)の案内溝19への挿入は規制ピンを敷居に植設固定してなさ
れて維持されており,挿入または離脱は引戸13の建てこみ,又は取り
外しによって行われていることが明らかである。すなわち,甲2に開示
された「規制ピン」の案内溝19に対する挿入構造は,単純に規制ピン
を植設固定することによってなされており,フランジ18は規制ピンを
機械的に保持することで挿入状態を維持する機能を全く有しない。
(ウ)刊行物2(甲2)記載の遊転ローラーを,規制ピンごと案内溝に対し
て下降方向に変位させ,ローラーを案内溝のフランジに当接させた状態
で植設固定したとすると,遊転するローラーは,軸の左右のいずれか一
方においては引戸を前進させる方向,他方においては引戸を後退させる
方向という,全く逆方向に同時に回転しようとする。
遊転ローラーが同時に前進あるいは後退方向に回転することはあり得
ないから,刊行物2において,フランジとビスに遊挿された遊転ローラ
ーがローラーとしての機能を発揮するには,ローラーがフランジと当接
する構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であってはな
らず,フランジと規制ピンは,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方
向において,一定の間隔を保たなければならず,フランジは規制ピンと
接触してはならない(遊転ローラーはフランジに機械的に保持されては
ならない)構造なのである。
また,刊行物2において,遊転ローラーを備えたビス(規制ピン)
は,敷居に植設固定されたものであり,規制ピンの上下方向動が何らか
の方法によって規制されることはあり得ない。つまり,規制ピンの案内
溝への挿入は,規制ピンの植設固定のみによって実現され,フランジは
規制ピンの挿入あるいは保持には全く寄与していない。一方,本件発明
1の挿入構造は,ガイドピン4の上端部外周面にある係止溝4aに一対
の係止ガイド片13を吊戸の開閉方向から係入することで,係止ガイド
片とガイドピンの大径部付近とが当接することにより係止ガイド片によ
りガイドピンを機械的に保持するのであり,刊行物2記載発明の挿入構
造と全く異なるのである。
結局,刊行物2には本件発明1と引用発明1の相違点1のガイドピン
の挿入構造(一対の係止ガイド片によるガイドピンの機械的保持)につ
いて何らの開示もなく,刊行物2記載発明を引用発明1に適用したから
といって,本件発明1の挿入構造,すなわち,相違点1の構造には至り
得ないのである。
(エ)加えて,刊行物2(甲2)のフランジ18が,本件発明1の挿入構造
における係止ガイド片の機能を有しないことに注意しなければならな
い。本件発明1の係止ガイド片は,ガイドピンの係止溝に係入されガイ
ドピンを機械的に保持することで吊戸本体の走行ガイドを行うという機
能を担っている。いわば,本件発明1は,ガイドピンと係止ガイド片と
が機械的に接触し一体となって吊戸本体の走行ガイドを行っているので
ある。これに対して,刊行物2のフランジ18は,上記のとおり遊転ロ
ーラーやビスに当接(機械的保持)する構成要素ではないから,本件発
明における係止ガイド片と同じ機能を有するはずがない。刊行物2(甲
2)の「ガラス拭き等のために引戸13を外ずす場合は…該引戸を一た
ん持ち上げれば遊転ローラー21は案内溝19のフランジ18の切欠2
0から下方に相対的に離脱し,そのまゝ内外方に移動させれば引戸13
は容易に外ずれる」(明細書6頁最終段落∼7頁第1段落)の記載,及
び引戸の基本的構造(甲2の第4図,第5図参照)からすると,フラン
ジは,せいぜい利用者が不用意に引戸を持ち上げたり,引戸のローラー
16のガタツキのために引戸が上に飛び跳ねた場合における敷居からの
離脱防止のための安全部材にすぎないとしか解釈しようがない。すなわ
ち,本件発明1の係止ガイド片がガイドピンとあいまって吊戸のガイド
装置に不可欠な構成であるのに対し,刊行物2のフランジは引戸の案内
規制に何らの役割を果たしているとも解し得ない。
イ取消事由2(引用発明1に刊行物2記載発明を組み合わせることの困難
性についての判断の誤り)
(ア)審決は,「引用発明1の吊戸のガイド装置と引用発明2の無レール引
戸構造のための案内規制手段とは,いずれも,戸が直線上に開閉移動す
る際に該戸の下部が側方変位しない様にする規制を,該戸の開閉域内で
床面側に植設した規制ピンを介して戸の下部に設けた案内溝が拘束され
ることにより行うようにした案内規制手段である点で技術的に共通する
ものということができるし,また,前者への後者の案内規制手段におけ
る挿入構造の適用を阻害する事由も何ら見い出し得ない」(審決10頁
第4段落)と判断した。審決の上記判断は,そもそも上記アで明らかに
した事実誤認等に基づくものであるが,更に次の誤りを含むものであ
る。
(イ)案内規制手段の差異の看過
上記アで述べたとおり,刊行物2(甲2)においては,引戸の案内規
制の役割を担っているのは遊転ローラーであり,引戸の案内規制手段と
して,「遊転ローラー」の「案内溝19の内壁面での転がり」を用いて
案内規制を行う技術を開示しているものである。これに対し,引用発明
1は,本件発明1と同様,突出引退自在に設けられたガイドピンを吊戸
本体の下端に形成された走行溝に挿入して吊戸の案内規制を行うもので
ある。
したがって,刊行物2の引戸は,ガイドピンを走行溝に挿入すること
で案内規制を行う引用発明1とは前提技術が異なり,両者の間に審決が
認定するような相互の技術を置換できる関係はなく,引用発明1に刊行
物2記載発明の開示事項を適用することを当業者が想到し得たというこ
とはできない。
(ウ)ガイドピン(規制ピン)の態様の相違に関する判断の誤り
引用発明1のガイドピンは床面に磁力にて突出引退自在に設けられて
いるのに対し,刊行物2(甲2)の規制ピンは敷居に植設固定されて常
時床面上に突出し,床下に引退するものとはその態様を異にする。ま
た,引用発明1のガイドピンが戸の開閉域内の特に開口部に設置される
のに対し,刊行物2の規制ピンの植設位置は「実用新案登録請求の範
囲」には「戸の開閉域内」と記載されているのと裏腹に,戸の開口部に
余計な障害物が突き出ていては足を引っ掛ける危険があることを考慮す
れば,床下に引退することのあり得ない規制ピンを植設することができ
るのは「左右の引戸が完閉された中央位置」(甲2明細書4頁最終段
落)に限られる。そして,引用発明1のガイドピンは戸の開閉の度に走
行溝への挿入,走行溝からの離脱が要求されているのに対し,刊行物2
においては,規制ピンの挿入又は離脱は引戸を建てこみ,取り外す際に
問題となるにすぎない。
以上のように,引用発明1のガイドピンと刊行物2の規制ピンは態
様,使用方法が明らかに異なるものであり技術共通点がなく,刊行物2
の規制ピンを引用発明1に適用して本件発明1に想到する動機づけは存
在しない。
ウ取消事由3(無関係な技術の参酌と阻害要因の看過)
(ア)本件発明1は,「係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する(ガイド
ピンの)首部分よりも大きく,係止溝の上下の大径部分よりも小にして
成る」ことを発明特定事項とするが,審決は,この構成について,「対
向する係止ガイド片を有し下方が開口したコの字型案内溝(カーテンレ
ール)と,この案内溝に沿って摺動するガイドピン(ランナー)におい
て,「係止ガイド片間の間隔を,ガイドピンの係止溝を形成する首部分
よりも大きく,ガイドピンの係止溝の上下の大径部分よりも小にして
成」る形態のもの,いいかえれば,このようなガイドピンにおける係止
溝部分(首部分)よりも上下の部分を共により大径の形態を有したもの
とすることは,甲第4号証ないし甲第6号証(判決注:本訴甲4∼甲
6。以下「甲4刊行物」∼「甲6刊行物」という。)等に記載されてい
るように,従来より周知ないし慣用の技術であった」(審決10頁第5
段落)としたが,明らかに誤りである。
(イ)そもそも,刊行物2(甲2)の「規制ピン」の「下部分」を「大径部
分」に改変し得ないことは自明である。なぜなら,規制ピンは,「遊転
ローラー21を遊挿した1本の規制ピンとしてのビス22が」床面に「
ねじ込まれて植設されている」ものだからである。規制ピンを構成して
いるのは「ビス」(木ネジ)であり,その上部に遊転ローラーを遊挿す
ることによって「規制ピン」が形成されている。しかるに,1本のビ
ス(規制ピン)の「遊転ローラー」より下の部分(本件発明1の「下の
大径部分」に対応する位置)を隆起させ,本件発明1と同様に「大径部
分」を形成することは,刊行物2の規制ピンの機能,構成上,全く無意
味かつ不自然な改変であって,当業者が刊行物2の規制ピンにかかる改
変を加えることには明白な阻害要因がある。
したがって,刊行物2から「ガイドピンの係止溝の上下の大径部分」
を想到することが容易であるなどと結論される余地はない。
一方,甲4刊行物ないし甲6刊行物に記されているのは,いずれも,
カーテンレールに係入させる凹部を有したカーテンレールランナーであ
り,「カーテンレールのランナー」における,カーテンレールに係入さ
せる凹部を有した構造である。しかし,「カーテンレールのランナー」
と,吊戸の下部案内用ガイドピンとは,全く無縁のものである。カーテ
ンレールのランナーが「床面に突出引退可能」で,吊戸や引戸の揺動
を「案内規制」するものでない。「カーテンレールのランナー」はカー
テンをレールに吊り下げる掛け止め部材というものでしかない。
よって,審決が甲4刊行物ないし甲6刊行物から,ランナーを「案内
溝にそって摺動するガイドピン」に相当する部材であると認定したこと
は,全くの誤りである。カーテンレールのランナーと,吊戸のガイドピ
ンとは技術分野が全く異なるものであって,カーテンレールのランナー
に関する公知文献は本件発明1の進歩性判断における参酌文献とはなり
えない。審決は,分野の異なる技術,用途・機能の異なる技術を形状の
近似のみをもって無理やり本件発明1の進歩性判断に援用したものとい
わざるを得ない。
エ取消事由4(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)
本件発明2も,本件発明1と同様の相違点を有しており,刊行物1(甲
1)及び刊行物2(甲2)により当業者が容易に想到できたものとはいえ
ない。そして,本件発明2の発明特定事項である,傾斜ガイドを「吸引用
磁石と係止ガイド片との間において」設けるとの構成は,刊行物1,2に
開示されていない事項であり,これを設計的事項とした審決の認定判断(
13頁第3段落)は根拠のないものである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,審決に原告主張の違法はない。
(1)取消事由1に対し
ア原告の取消事由1の主張は,刊行物2(甲2)に開示された「規制ピ
ン」の案内溝19に対する挿入構造は,単純に規制ピンを植設固定するこ
とによってなされており,フランジ18は規制ピンを機械的に保持するこ
とで挿入状態を維持する機能を全く有しないという,刊行物2の記載を極
めて近視眼的なとらえ方,すなわち,規制ピンが植設固定されていること
に拘泥したことに起因し,刊行物2を引用発明1に適用した場合の態様を
全く無視したものである。
イこの点を詳述すると,刊行物2(甲2)には,引戸のフレーム下部の内
部内側にその底部に於て開閉方向に沿って下部に対向するフランジを有し
たコの字型案内溝を固設するとともに,その規制ピンを,その径が前記フ
ランジの間隙よりは大きく形成された部分を備えている。いいかえれば,
その径が前記フランジの間隙よりは小さく形成された部分(本件発明1
の「係止溝を形成する首部分」に相当する)を備えるもので構成した案内
規制手段を用いることによって,引戸のコの字型案内溝と規制ピンとの離
脱(案内溝から規制ピンが抜け出ること)を規制する技術的手段が開示さ
れている。そして,この案内規制手段における挿入構造を,引用発明1に
おけるガイドピンの走行溝への挿入構造に適用することは,刊行物1の吊
戸のガイド装置と刊行物2の無レール引戸構造のための案内規制手段と
が,いずれも,戸が直線状に開閉移動する際に該戸の下部が側方変位しな
い様にする規制を,該戸の開閉域内で床面側に植設した規制ピンを介して
戸の下部に設けた案内溝が拘束されることにより行うようにした案内規制
手段である点で,技術的に共通するものであり,また,引用発明1に刊行
物2の案内規制手段における挿入構造の適用を阻害する事由は何ら存在し
ないことから,引用発明1に刊行物2の案内規制手段における挿入構造(
引戸のコの字型案内溝と規制ピンとの離脱(案内溝から規制ピンが抜け出
ること)を規制する技術的手段)の適用によって,本件発明1の構成が容
易想到であることは明らかである。
引用発明1に刊行物2の案内規制手段における挿入構造を適用したもの
は,引戸のコの字型案内溝と規制ピンとの離脱(案内溝から規制ピンが抜
け出ること)を規制されることによって,必然的に,「ガイドピンの係止
溝が一対の係止ガイド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下
降することがない状態」に構成されるものと認められる。したがって,「
引用発明1におけるガイドピンの走行溝への挿入構造に代えて,引用発明
2に示されたところの規制ピンのコの字型案内溝への挿入構造を用いるよ
うに変更…することは,当業者が容易に想到し得た」(審決10頁下第2
段落)とした審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2に対し
原告の取消事由2の主張は,引用発明1のガイドピンは床面に磁力にて突
出引退自在に設けられているのに対し,刊行物2(甲2)の規制ピンは敷居
に植設固定されて常時床面上に突出し,床下に引退するものとはその態様を
異にするという,刊行物2の極めて近視眼的なとらえ方,すなわち,規制ピ
ンが植設固定されていることに拘泥したことに起因するものである。下部に
対向するフランジを有したコの字型案内溝と,この案内溝に沿って相対的に
移動するピンの接触形態に,いずれも周知慣用の技術である,遊転ローラー
等のころがり接触構造を用いるか,あるいはすべり接触構造を用いるかは,
当業者が選択し得る単なる設計事項にすぎない。
したがって,「引用発明1の吊戸のガイド装置と引用発明2の無レール引
戸構造のための案内規制手段とは,いずれも,戸が直線状に開閉移動する際
に該戸の下部が側方変位しない様にする規制を,該戸の開閉域内で床面側に
植設した規制ピンを介して戸の下部に設けた案内溝が拘束されることにより
行うようにした案内規制手段である点で技術的に共通するものということが
できるし,また,前者への後者の案内規制手段における挿入構造の適用を阻
害する事由も何ら見出し得ない」(審決10頁第4段落)とした審決の認定
判断に誤りはない。
(3)取消事由3に対し
原告が主張するように,分野の異なる技術や用途・機能の異なる技術を適
用することに困難性がある場合があることは否定しない。しかし,対向する
フランジを有したコの字型案内溝を固設するとともに,その規制ピンを,そ
の径が前記フランジの間隙よりは大きく形成された部分を備えるもの,いい
かえれば,その径が前記フランジの間隙よりは小さく形成された部分(本件
発明1の「係止溝を形成する首部分」に相当する)を備えるもの,で構成し
た案内規制手段を用いることによって,引戸のコの字型案内溝と規制ピンと
の離脱(案内溝から規制ピンが抜け出ること)を規制する機構自体は,2つ
の部材の離脱を規制する手段として,周知慣用の技術的手段にすぎないもの
であり,このように,技術的手段が,技術分野の特異性があるとはいえない
周知慣用手段(汎用手段)にすぎない場合には,その適用に困難はない。
したがって,「対向する係止ガイド片を有し下方が開口したコの字型案内
溝(カーテンレール)と,この案内溝に沿って摺動するガイドピン(ランナ
ー)において,「係止ガイド片間の間隔を,ガイドピンの係止溝を形成する
首部分よりも大きく,ガイドピンの係止溝の上下の大径部分よりも小にして
成」る形態のもの,いいかえれば,このようなガイドピンにおける係止溝部
分(首部分)よりも上下の部分を共により大径の形態を有したものとするこ
とは,甲第4号証ないし甲第6号証等に記載されているように,従来より周
知ないし慣用の技術であったといえる」(審決10頁第5段落)とした審決
の認定判断に誤りはない。
(4)取消事由4に対し
刊行物1(甲1)には,「ガイドピンを磁着保持するとともに吸引用磁石
から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイドが設けられて成る
吊戸のガイド装置」(審決12頁第4段落)の発明が記載されている。そ
して,ガイドピンを吊戸本体3の走行溝5へと案内するためには,その傾斜
ガイドの配置態様を,「吸引用磁石と係止ガイド片との間において,ガイド
ピンを磁着保持するとともに吸引用磁石から離れる程上方になるように斜め
になされた」ものとすることは,当業者に自明な事項である。
したがって,「相違点2に係る本件発明2の構成は,引用発明1に,上記
相違点1で説示したところの設計上の変更をするに際して,当業者が当然配
慮して採用する設計的事項である」(審決13頁第3段落)とした審決の判
断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(
審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(刊行物2記載発明の認定の誤り・相違点1についての判断の誤
り)について
(1)審決は,本件発明1と引用発明1との相違点1,すなわち「ガイドピンの
走行溝への挿入構造に関して,本件発明1が「ガイドピンの上端部外周面に
係止溝が形成され,走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に係止
溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設
け,係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく,係止溝
の上下の大径部分よりも小にして成り,ガイドピンの係止溝が一対の係止ガ
イド片間に係入されてガイドピンが機械的に保持され下降することがない状
態で,吊戸本体がガイドされ走行される」という構成を採用しているのに対
して,引用発明1がこのような構成を具備していない点」についての判断に
当たり,「引用発明1におけるガイドピンの走行溝への挿入構造に代えて,
引用発明2に示されたところの規制ピンのコの字型案内溝への挿入構造を用
いるように変更し,そのピンの形態として上記周知のものを選択すること
は,当業者が容易に想到し得た」(審決10頁下第2段落)としたものであ
るところ,原告は,審決の上記判断は,本件発明1と刊行物2記載発明との
基本的構造の違いを看過しており,誤りであると主張する。
(2)アそこで,まず,本件発明1の相違点1に係る構成の技術的意義について
検討する。訂正明細書(甲8の2)には,次の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】従来,図8に示す実開平4−56883号公報のよう
に,吊戸本体3が上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持さ
れ,床面に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピン4が吊戸本体
3の下端面に形成された走行溝5にその突出状態で挿入されて走行ガイ
ドをおこなう吊戸のガイド装置においては,床面から突出されたガイド
ピン4が吊戸本体3側に沿設された鉄板のような磁着体Xに磁着され,
吊戸本体3の走行中にはガイドピン4が板状の磁着体Xにスライド自在
に磁着保持されて,ガイドピン4の突出状態が保持されるのである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところがこのような構成のものにおい
ては,ガイドピン4は板状の磁着体Xにスライド自在に保持されている
から,走行中や停止中において,吊戸本体3の揺れや振動などにてガイ
ドピン4が磁着体Xから外れ,ガイドピン4がその自重で容易に床面下
に下降するのであり,このため,従来では,ガイドピン4の内部におい
てその突出状態を保持するための磁着手段Yを設けるものであり,この
ように,ガイドピン4の内部に磁着手段Yを構成するのに,構成が複雑
になり,それでいて,ガイドピン4を突出状態で保持する作用力が弱い
という問題があった。ところで,磁着手段Yは,ガイドピン4側に設け
た永久磁石と固定側となる外筒12に設けた永久磁石とから構成され
る。
【0004】本発明はこのような問題を解消しようとするものであり,
その目的とするところは,ガイドピンを機械的に保持して,ガイドピン
を突出状態で確実にかつ強力に保持できながら,ガイドピンの構成を簡
素化することができる吊戸のガイド装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の吊戸のガイド装置は,吊戸本体
3が上レール1にランナー2を介して走行自在に吊下げ保持され,床面
に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピン4が吊戸本体3の下端
面に形成された走行溝5にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこ
なう吊戸のガイド装置であって,ガイドピン4の上端部外周面に係止溝
4aが形成され,走行溝5の長さ方向の中間部分における吊戸本体3側
に係止溝4aにスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片1
3,13を対向させて設け,係止ガイド13,13片間の間隔を係止溝
4aを形成する首部分よりも大きく,係止溝4aの上下の大径部分より
も小にして成り,前記係止溝4aが一対の係止ガイド片13,13間に
係入されてガイドピン4が機械的に保持され下降することがない状態
で,吊戸本体3がガイドされ走行されることを特徴とするものである。
【0006】また,吊戸本体3に吸引用磁石7が設けられ,ガイドピン
4の上端部に磁石6が設けられ,吸引用磁石7と係止ガイド片13,1
3との間において,ガイドピン4を磁着保持するとともに吸引用磁石7
から離れる程上方になるように斜めになされた傾斜ガイド8が設けられ
て成ることを特徴とするものである。また,吊戸本体3に吸引用磁石7
が設けられ,ガイドピン4の上端部に磁石6が設けられ,吸引用磁石7
の底面が吊戸本体3の側端から離れる程上方になるように斜めになされ
る傾斜ガイド8が形成されて成ることを特徴とするものである。
【0007】
【作用】床面から突出したガイドピン4は,その係止溝4aにおいて吊
戸本体3側に設けた一対の係止ガイド片13,13間に導入されて保持
される。突出されたガイドピン4が機械的に保持されるのであり,その
保持を確実にかつ強力におこない,不測に下降するようなことがない。
しかも,ガイドピン4側において永久磁石を一対設けるようなガイドピ
ン4の突出保持のための磁着手段を不要にして,ガイドピン4の構成を
簡素化する。」
イ上記記載によれば,本件発明1は,ガイドピンが床面に磁力にて突出引
退自在に設けられた構成を有するものであって,ランナーに吊り下げ状態
で走行自在な吊戸のガイド装置におけるガイドピンを,吊戸本体下部の走
行溝に挿入させる構造に関し,従来は,磁力によってガイドピンの挿入状
態を維持していたものを,ガイドピンの上端部外周面に係止溝を形成し,
走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に,係止溝にスライド自
在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け,係止ガイド
片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく係止溝の上下の大径部
分よりも小にして,ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入す
ることにより,ガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより
機械的に保持され,走行溝から下降しないようにした点に,相違点1に係
る構成の主たる技術的意義があるものと認められる。
(3)ア他方,刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】複数枚の吊戸本体が略平行に並置された各々の上レールに
ランナーを介して走行自在に吊下げ保持され,床面に磁力にて突出引退
自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に形成された走行溝に
その突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなって複数枚の吊戸本体を
その厚さ方向において一部を重ねるようにして開口部を閉塞する吊戸の
ガイド装置であって,開口部における戸当たりに当接する先頭の吊戸本
体以外の吊戸本体に対してその各々の閉塞走行位置においてランナーに
当接して走行を停止させるストッパーを各々の上レールの内部に設けて
成る吊戸のガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,複数枚の吊戸本体が略平行に並置され
た各々の上レールにランナーを介して走行自在に吊下げ保持され,床面
に磁力にて突出引退自在に設けられたガイドピンが吊戸本体の下端面に
形成された走行溝にその突出状態で挿入されて走行ガイドをおこなって
複数枚の吊戸本体をその厚さ方向において一部を重ねるようにして開口
部を閉塞する吊戸のガイド装置に関し,詳しくは磁力を利用して床面上
に突出させるガイドピンの数を軽減させようとする技術に係るものであ
る。
【0007】
【実施例】吊戸本体3の上端の前後部にはランナー2,2が取付けら
れ,これらランナー2が走行受片10,10を備えた断面コ字型の上レ
ール1に走行自在に挿入され,吊戸本体3を上レール1に走行自在に保
持してある。床面11には適宜間隔を隔ててガイドピン4が磁力にて突
出引退自在に設けられている。そして吊戸本体3の下端には走行溝5が
全長に形成されている。走行溝5は例えば鉄板のような磁性体にて形成
されていてもよい。吊戸本体3の走行溝5の前後部には吸引用磁石7を
設けてある。しかして吊戸本体3の閉塞方向への走行に際して,床面下
に沈んでいるガイドピン4を吸引用磁石7にて磁着して引き上げ,ガイ
ドピン4が吊戸本体3の下端面の走行溝5に突入し,かかる突入状態が
維持されて走行ガイドをおこなうことができるようにしてある。
【0008】ガイドピン4は床面下に埋入された外筒12に対して昇降
自在に挿入され,ガイドピン4の先端に磁石6を取付けてある。ガイド
ピン4の先端に設けられた磁石6とはその磁極を異ならせた吸引用磁石
7の他極をガイドピン4側の磁石6とは同極になしてガイドピン4を床
面下に引退させる反発用の磁石部分9になしてある。この吸引用磁石7
の両側には鉄板のような磁性体にて形成された傾斜ガイド8が形成され
ている。
【0009】しかして吊戸本体3の閉塞方向への走行にて,傾斜ガイド
部8にて床面から不測に突出しているガイドピン4を床面下に押さえ込
み,さらに床面から突出しているガイドピン4を反発用磁石7にてガイ
ドピン4をその上端の磁石6を介して磁着して引き上げ,磁性体にて形
成された傾斜ガイド部8に磁石6が磁着してさらにガイドピン4は上昇
され,吊戸本体3の走行溝5へと案内され,かかるガイドピン4にて吊
戸本体3がガイドされて走行されるのである。そしてガイドピン4が走
行溝5の終端に達すると,傾斜ガイド部8にてガイドピン4は押し下げ
られ,そして最終的には反発用磁石9にてガイドピン4を完全に外筒1
2の内部に押し下げておくものである。
【0010】かかる場合,ガイドピン4と外筒12間にごみが侵入して
ガイドピン4の動きが阻害されるような虞れが生じる状態のときには,
ガイドピン4を容易に抜いて侵入したごみを容易に除去してその保守を
おこなえるようにしてある。…
【0012】ガイドピン4の下端には磁石26が取付けられ,そして中
間スペーサー16の周部側壁にも保持用磁石27が埋設され,しかし
て,ガイドピン4が吊戸本体3側に磁着されて最も引き上げられた状態
で,ガイドピン4の下端の磁石が保持用磁石27に磁着されて,ガイド
ピン4の引き上げられた状態を保持することができるようにしてある。
かかる引き上げられた状態を保持することで,ガイドピン4は吊戸本体
3の走行溝3に深く挿通され,ガイド機能を安定させるものである。」
イ上記記載によれば,引用発明1は,本件発明1と同様に,ガイドピンが
床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,審
決認定の引用発明1には明示されていないが,ガイドピン4の下端の磁石
が,中間スペーサー16の周部側壁に埋設された保持用磁石27に磁着さ
れてガイドピン4の引き上げられた状態を保持する構成(段落【0012
】)が,本件発明1の上記アの技術的意義を有する構成に対応するもので
ある。
(4)アそこで次に,刊行物2(甲2)における,規制ピンとしてのビス22の
コの字型案内溝への挿入構造について見ると,刊行物2には,次の記載が
ある。
(ア)実用新案登録請求の範囲
「引戸の上部が桟ガイド溝に摺動可能に係合し,下部がローラーを有
して敷居に移動可能にセットされる引戸構造において,該敷居が略平
面上でレールを有してをらず,引戸の開閉域内に規制ピンを植設され
てをり,一方,前記引戸の下部には少なくとも2個のローラーが枢支
されると共に開平方向に沿って前記規制ピンに対する案内溝が設けら
れていることを特徴とする無レール引戸構造」(甲2明細書1頁第2
段落)
(イ)考案の詳細な説明
①「この考案の目的は上記従来技術に基づく引戸構造の問題点に鑑み,
敷居にレールを設けず,しかも,引戸が正確に開閉されることが出
来,実質フラットな敷居により上記欠点を除去し,…上記目的に沿う
この考案の構成は開閉される引戸の上部は桟のガイド溝に係合して外
れることの無い様に摺動し,一方,該引戸の下部は複数のローラーに
より実質平坦な敷居上を開閉移動し,側方変位しない様にする規制は
該引戸の開閉域内で該敷居に植設した規制ピンを介して引戸下部に設
けた案内溝が拘束されることにより行なわれ,開放状態では敷居は実
質的に無レールフラットである様にしたことを要旨とするものであ
る。」(同2頁第3段落∼3頁第1段落)
②「又,引戸13のフレーム下部の内部内側にはその底部に於て開閉方
向に沿って下部に対向するフランジ18を有したコの字型案内溝19
が固設されてをり,適宜位置では下からみて第6図に示す様に該フラ
ンジ18が無い切欠部20が形成されてをり,その部分はフレームの
内側に印20が付されている。」(同4頁第4段落)
③「尚,遊転ローラー21の径は前記フランジ18の間隙よりは大き
く,その切欠20よりは小さい様に形成されている。…上記構成に於
て,各引戸13をその上部を桟9のガイド溝8に下から挿入係合さ
せ,左右摺動させ,引戸13の印20と敷居10の印を合致させてビ
ス22上に案内溝19が在る様に下ろすと,第6図に示す如く,該ビ
ス22の遊転ローラー21は切欠20内に入り,該案内溝19に納ま
ることになり,ローラー16は敷居10上,隆条11がある場合はそ
の上に当接する。その状態で引戸13を開閉すると該引戸13はその
上部は桟9のガイド溝8により離脱を規制され,又,下部はビス22
の遊転ローラー21により案内溝19を介して離脱を規制され,レー
ルが無いにもかゝわらず正しくスムースに開閉動が行われ,しかも,
ビス22及び遊転ローラー21は絶対に引戸13からは現われないの
みならず,案内溝19の切欠20からは上方重量に規制されて外れる
ことはない。」(同5頁第1段落∼第6頁第1段落)
④「そして,ガラス拭き等のために引戸13を外ずす場合は前記の様に
引戸13の印20と敷居10の印24を合致させて該引戸13を一た
ん持ち上げれば遊転ローラー21は案内溝19のフランジ18の切欠
20から下方に相対的に離脱し,そのまゝ内外方に移動させれば引戸
13は容易に外ずれる。」(同6頁最終段落∼7頁第1段落)

(同図面)
イ上記記載によれば,刊行物2(甲2)においては,規制ピンは敷居に植
設固定されており,ビス22を遊挿された遊転ローラー21の案内溝19
への挿入,離脱は,引戸13の建てこみ,取り外しによって行われている
こと,また,規制ピンの突出状態を保持する機能は,敷居に植設される構
成によって実現されていることが認められる。
そうすると,引用発明2において,引戸が持ち上げられる際,コの字型
の案内溝のフランジ18に遊転ローラー21が当たることにより案内溝か
ら規制ピンが抜け出ることが規制されることがあるとしても,突出引退自
在なガイドピンの保持構造を開示するものということはできない。
また,刊行物2(甲2)の規制ピンは,高さ方向(上下方向)において
も動くことのない植設固定状態にある。そして,刊行物2においては,遊
転ローラは案内溝の側面に接して回転するものと認められるところ,遊転
ローラーを案内溝のフランジに当接させると,遊転するローラーは,軸の
左右のいずれか一方においては引戸を前進させる方向,他方においては引
戸を後退させる方向という,全く逆方向に同時に回転しようとすることと
なり,円滑な回転ができないこととなる(下図参照)。したがって,遊転
ローラーがローラーとしての機能を発揮するには,ローラーがフランジと
当接する構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であっては
ならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向におい
て,一定の間隔を設けることを前提とする技術であると認められる。
(5)以上検討したところによれば,本件発明1は,ガイドピンが床面に磁力に
て突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,ガイドピンの大径
部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持され,走行溝から下降
しないようにした点に主たる技術的意義があるものであるのに対し,刊行物
2(甲2)においては,規制ピンは敷居に植設固定されており,突出引退自
在に設けられたものではないから,「走行中や停止中において,吊戸本体3
の揺れや振動などにてガイドピン4が磁着体Xから外れ,ガイドピン4がそ
の自重で容易に床面下に下降する」(訂正明細書〔甲8の2〕段落【000
3】)という本件発明1の従来技術にいう課題を解決する手段として突出引
退自在に設けられたガイドピンを係止ガイド片によって機械的に保持する技
術を開示するものではない。しかも,刊行物2(甲2)の遊転ローラは,フ
ランジと当接する構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であ
ってはならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向に
おいて,一定の間隔を設けることを前提とする技術であるから,本件発明1
のガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持す
る構造とは,その技術的意義が異なるものである。
したがって,引用発明1における,ガイドピンが突出引退自在である構成
を前提としたまま,刊行物2の「フランジ18を有したコの字型案内溝19
にビス22の遊転ローラー21を案内させる構成」を適用することはできな
いというべきである。そうであれば,引用発明1におけるガイドピンの走行
溝への挿入構造に代えて,引用発明2に示されたところの規制ピンのコの字
型案内溝への挿入構造を用いるように変更することについて,当業者(その
発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易想到と解す
ることはできないから,首部分よりも上下の部分が大径である形態を有した
ピンが周知であるとしても,相違点1に係る本件発明1の構成を容易想到と
いうことはできず,原告の取消事由1は理由がある。
(6)小括
よって,取消事由2,3について判断するまでもなく,本件発明1と引用
発明1との相違点1を容易想到とした審決の判断は誤りというほかない。
3取消事由4(本件発明2の容易想到性の判断の誤り)について
本件発明2は,本件発明1と同様,相違点1の構成を有するものであるか
ら,これを容易想到ということはできない。
したがって,本件発明2について,引用発明1,2及び周知技術に基づいて
当業者に容易想到とした審決の判断も誤りであり,原告の取消事由4は理由が
ある。
4結論
以上のとおり,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし
て,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官今井弘晃

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