弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 原告を再審査申立人、参加人を再審査被申立人とする中労委昭和五一年(不
再)第六一号及び同昭和五二年(不再)第六号事件について、被告が昭和五二年一
二月二一日付でした別紙命令書記載の命令(以下、「本件命令」という。)を取り
消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告・参加人
 主文と同旨。
第二 当事者双方の主張
一 原告の請求原因
1 参加人は、いずれも原告を被申立人として、昭和五〇年九月一三日(青地労委
昭和五〇年(不)第二八号事件。以下、「二八号事件」という。)及び昭和五一年
三月一日(青地労委昭和五一年(不)第一一号事件。以下、「一一号事件」とい
う。)、それぞれ青森県地方労働委員会(以下、「青森地労委」という。)に不当
労働行為救済の申立てをし、同委員会は、二八号事件については昭和五一年七月二
四日付で左記(一)のような内容の、一一号事件については同年一二月一八日付で
左記(二)のような内容の各救済命令を発した。
(一) 「被申立人(原告)は、申立人(参加人)の組合員に対し支給した昭和五
〇年度夏季賞与につき、各組合員の人事考課率に四〇を加算した人事考課率によつ
て再計算した金額と既に支給した金額との差額及びこれに対する昭和五〇年八月二
日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を同人らにそれぞれ支払わなければ
ならない。」
(二) 「被申立人(原告)は、申立人(参加人)の組合員に対し支給した昭和五
〇年度冬季賞与につき、別表3記載の組合員の人事考課率に二二を加算して再計算
した金額と既に支給した金額との差額及び各支払金に対する昭五〇年一二月三〇日
以降完済に至るまで年五分の割合による金員を同人にそれぞれ支払わなければなら
ない。」
2 そこで、原告は、右各救済命令を不服として、被告に対し、それぞれ再審査の
申立てをしたところ、被告は、中労委昭和五一年(不再)第六一号及び同昭和五二
年(不再)第六号事件として併合審査した結果、昭和五二年一二月二一日付で、
「本件各再審申立てをいずれも棄却する。」との本件命令を発し、その命令書は、
昭和五三年二月四日、原告に送達された。
3 ところで、本件命令には、次に述べるように、事実を誤認し、かつ、法律上の
判断を誤つた違法、又は労働委員会の裁量権の範囲を逸脱した違法がある。
(一) 本件命令は、労働委員会の裁量権の範囲を逸脱して発せられたものであ
る。
 即ち、労働委員会における審査は、事件の迅速処理の要請から、十分に審査を尽
すことが不可能であり(従つて、本件においても、参加人組合員一人一人について
の個別的な立証ないし判断はなされていない。)、また、救済を申し立てた労働組
合に対する使用者の不当労働行為意思の有無という限定された視点からしか審査が
なされないものである。しかも、救済命令は行政罰によつてその実効性が保障され
ていることに鑑みると、労働委員会の裁量権には自ずから制約があるものといわざ
るをえない。ところで、原告の参加人組合員に対する昭和五〇年度夏季賞与及び同
年度冬季賞与の支給に際しては、原告・参加人間で、人事考課に関する適用方法は
原告の任意とする旨の各確認書が交されており、参加人組合員に対する各支給は右
各確認書に基づいてなされたものである。そこで、このような場合には、参加人が
支給額算定の要素である人事考課率を争うには司法手続によるべきであつて、労働
委員会による救済を求めることはできないものというべきである。しかるに、被告
は、このような場合にも労働委員会による救済を求めうるとの見地に立つて、前記
1記載の各救済命令を支持したのであつて、これは労働委員会としての裁量権の範
囲を逸脱したものというべきである。
(二) 昭和五〇年度夏季賞与及び同年度冬季賞与の支給額算定の要素である人事
考課率について、参加人組合員とゼンセン同盟紅屋商事労働組合(以下、「ゼンセ
ン紅屋労組」という。)組合員との間に格差が生じたのは、原告が昭和五〇年四月
から実施している人事考課基準に則つて行なつた公正な評価の結果にすぎない。し
かるに、被告は、このことを看過して、原告が参加人組合員の人事考課率を低く査
定したのは不当労働行為であるとしたものである。従つて、被告は、事実認定及び
法律判断を誤つている。
(三) 仮に、原告の参加人組合員に対する低い評価が不当労働行為に当たるとし
ても、それを是正するには、参加人組合員を含む原告の全従業員の能力、成績等を
個別に明らかにしたうえで、参加人組合員一人一人の人事考課率を導き出すべきで
ある。しかるに、被告は、これらの作業を一切行なうことなく、参加人組合員とゼ
ンセン紅屋労組組合員の各平均人事考課率を算出して、その差を参加人組合員の人
事考課率に一律に加算することを命じたものであるが、かかる恣意的な命令は、ひ
つきよう、ゼンセン紅屋労組組合員や非組合員を実質的に差別することになり、ま
た、原告の財産権を侵害することにもなるから、失当といわなければならない。
4 よつて、原告は、本件命令の取消しを求める。
二 請求原因に対する被告及び参加人の認否
 請求原因1及び2の各事実はいずれも認めるが、同3の事実及び主張はすべて争
う。
三 被告及び参加人の主張
 被告の認定した事実は、別紙命令書の理由「第一 当委員会の認定した事実」欄
に記載のとおりであり、また、被告のなした法律上の判断は、同命令書の理由「第
二 当委員会の判断」欄に記載のとおりである。そして、被告のなしたこれらの事
実認定及び法律上の判断には何らの違法もない。
四 右主張に対する原告の認否
1 別紙命令書の理由「第一 当委員会の認定した事実」について
(一) 1の(1)の事実は認める。
(二) 1の(2)の事実のうち、原告会社には、参加人組合のほかに、昭和五〇
年一月中旬青森店の従業員を主体として結成されたゼンセン紅屋労組が存在するこ
とは認めるが、その余の事実は知らない。
(三) 2の事実は認める。
(四) 3の(1)の事実のうち、参加人組合員に対する夏季賞与については、昭
和五〇年七月二六日に行なわれた原告と参加人との間の団体交渉で妥結し、翌二七
日に右両者間で確認書が交され、同年八月一日に別紙命令書添付の別表1に記載の
とおり支給されたこと、ゼンセン紅屋労組組合員に対するそれについては、同年七
月二三日に行なわれた原告と同組合との間の団体交渉で妥結し、同月二八日に別紙
命令書添付の別表2に記載のとおり支給されたことはいずれも認めるが、その余の
事実は知らない。
(五) 3の(2)の事実は認める。
(六) 4の(1)の事実のうち、参加人組合員に対する冬季賞与については、昭
和五〇年一二月二八日に原告・参加人間で確認書が交され、翌二九日に別表3(一
一号事件命令書の別表1)に記載のとおり支給されたこと、ゼンセン紅屋労組組合
員に対するそれについては、同月九日に行なわれた原告と同組合との間の団体交渉
で妥結し、同月一一日に同組合組合員及び非組合員に別表4(一一号事件命令書の
別表2)に記載のとおり支給されたことはいずれも認めるが、その余の事実は知ら
ない。
(七) 4の(2)の事実は認める。
(八) 5の各事実はいずれも知らない。
2 別紙命令書の理由「第二 当委員会の判断」について右の法律上の判断はすべ
て争う。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求原因1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、本件命令の基礎になつた事実関係について検討する。
1 別紙命令書の理由の「第一 当委員会の認定した事実」欄に記載の事実のう
ち、次の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
(一) 1の(1)の事実。
(二) 1の(2)の事実のうち、原告会社に、参加人組合のほかに、昭和五〇年
一月中旬青森店の従業員を主体として結成されたゼンセン紅屋労組が存在する事
実。
(三) 2の事実。
(四) 3の(1)の事実のうち、参加人組合員に対する夏季賞与については、昭
和五〇年七月二六日に行なわれた原告と参加人との間の団体交渉で妥結し、翌二七
日に右両者間で確認書が交され、同年八月一日に別紙命令書添付の別表1に記載の
とおり支給された事実及びゼンセン紅屋労組組合員に対するそれについては、同年
七月二三日に行なわれた原告と同組合との間の団体交渉で妥結し、同月二八日に別
紙命令書添付の別表2に記載のとおり支給された事実。
(五) 3の(2)の事実。
(六) 4の(1)の事実のうち、参加人組合員に対する冬季賞与については、昭
和五〇年一二月二八日に原告・参加人間で確認書が交され、翌二九日に別表3(一
一号事件命令書の別表1)に記載のとおり支給された事実及びゼンセン紅屋労組組
合員に対するそれについては、同月九日に行なわれた原告と同組合との間の団体交
渉で妥結し、同月一一日に同組合組合員及び非組合員に別表4(一一号事件命令書
の別表2)に記載のとおり支給された事実。
(七) 4の(2)の事実。
2 そして、当事者間に争いのない以上の各事実に、いずれも成立に争いのない乙
第一〇ないし第一二号証、同第四六号証、同第六九号証、同第七六号証、同第七
八、第七九号証、同第八一号証と弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認めら
れ,右各証拠中のこの認定に反する部分はいずれも採用することができないし、そ
の他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 参加人組合は、昭和四九年一二月二一日に弘前店の従業員を主体に約一〇
〇名をもつて結成された労働組合であるが、その結成を原告に通知して公然化した
昭和五〇年一月一二日の直後から、原告は、その代表者が朝礼の際に、「組合にも
良い組合と悪い組合がある。赤が強い組合は会社を潰してしまうから小売業を営む
会社には必要がない。」という趣旨の発言をするなどして、参加人組合を嫌忌し、
同組合員とゼンセン紅屋労組組合員とを差別する行動を繰り返した。他方、このこ
ろから、参加人も、原告を被申立人とする不当労働行為救済の申立てを労働委員会
に対し数次にわたつて行なつている(なお、そのうち、参加人組合の書記長である
Aに対する原告の三次にわたる懲戒解雇処分が、いずれも青森地労委及び被告委員
会において不当労働行為であると判断されたこと、並びにその後、被告の発した命
令の取消しを求める行政訴訟が当庁昭和五二年(行ウ)第二九一号事件として当裁
判所に係属し、当裁判所もまた右各解雇処分が不当労働行為に当たると判断したこ
とは、当裁判所に顕著な事実である。)。
(二) 参加人組合結成前における、昭和四九年度夏季及び冬季の賞与の支給状況
は別表5及び6に記載のとおりであり、参加人組合員(但し、昭和五〇年度夏季賞
与支給当時の組合員に限る。)の昭和四九年度夏季賞与支給の際の平均人事考課率
は一〇一、ゼンセン紅屋労組組合員(同右)のそれは一〇二、参加人組合員(同
右)の同年度冬季賞与支給の際のそれは九一、ゼンセン紅屋労組組合員(同右)の
それは九二であつた。
 また、昭和五〇年度夏季賞与の考課期間(昭和四九年一一月二一日から同五〇年
五月二〇日まで)ののちに参加人組合を脱退して非組合員又はゼンセン紅屋労組組
合員となつた別表7に記載の二一名について見ると、同年度夏季賞与支給の際の平
均人事考課率は五九であつて(しかも、うち九名は最低の五〇であつた。)、右二
一名を含むその当時の参加人組合員全員の平均五八と殆ど差がなかつたのに、同年
度冬季賞与支給の際のそれは九六となり(しかも、最低の七五と査定された者は一
人もおらず、六名が八五と査定されたほか、その余の全員が一〇〇と査定されてい
る。)、その当時の参加人組合員の平均七九と比べ一七もの差が生じている反面、
別表7に記載された者と、従前からゼンセン紅屋労組組合員又は非組合員であつた
者(それらの平均は一〇一)との差は僅かに五となつている(なお、その間に、参
加人組合員が、参加人の指令に基づいて、勤務時間中に故意に作業の能率を下げた
り、接客態度を悪くしたりしたという事実は存しない。)。
(三) 原告会社における人事考課の方法は、夏季賞与については、前年一一月二
一日から当年五月二〇日まで、冬季賞与については、当年五月二一日から一一月二
〇日までをそれぞれの考課期間として従業員の成績等の査定をするものであるとこ
ろ、昭和五〇年三月以前においては、一定の考課表を基準として評価がなされてい
たものの、その考課表の評価要素そのものが概括的であつて細分化されていなかつ
たうえ、管理職(者)とそれ以外の者、あるいは事務に従事する者と販売に従事す
る者との間に評価要素の項目及び配点上の差異が設けられていなかつたため、原告
は、同年四月に新しい人事考課方式を採用した。そして、その方式とは、事務、技
術職員、一般職員、一般販売員、上級販売員、仕入担当者、管理職(者)毎に評価
要素の項目及び配点の異なる人事考課表(項目も配点もかなり細かく分けられてい
る。)を設け、これに則つて、各店毎にフロア長、店長及び人事課長が各従業員の
成績等を個別に評価したのち、人事部長が更に評価したうえ、最終的には役員会で
決定するというものであつた。なお、原告は、この方式を採用するに際し、全従業
員にその趣旨を周知させるとともに、フロア長及び店長に対しては講習会まで開い
て、考課に当たり遵守すべき事項の説明を行なつた。
(四) そして、昭和五〇年度夏季賞与の算定に際しては、人事考課率は五〇から
一三〇の範囲内で定められた。
三 そこで、次に、以上に認定の事実関係に基づき、原告の参加人組合員に対する
昭和五〇年度夏季及び冬季の人事考課率の査定が不当労働行為に当たるか否かにつ
いて判断する。
1 まず、前記認定の事実関係によれば、昭和五〇年度夏季賞与支給の際の人事考
課率については、参加人組合員は、最低の五〇が三一名で最も多く、その他は、六
〇が一七名、七〇が七名、七五が一名、八〇が四名という分布になつており、その
平均は五八(小数点以下四捨五入。以下同じ。)であるのに対し、ゼンセン紅屋労
組組合員は、最低の者(四名)でも参加人組合員の最高の者より高い九〇であり、
その他は、九五が八名、一〇〇が一五名、一一〇が八名、一二〇が二名という分布
で、その平均は一〇一であること、また、同年度冬季賞与支給の際の人事考課率に
ついては、参加人組合員は、最低の七五が二六名で最も多く、その他は、八五が一
一名、一〇〇が二名という分布で、その平均は七九であるのに対し、ゼンセン紅屋
労組組合員ないし非組合員は、最低の者(八名)が八五で、その他は九〇が二名、
一〇〇が三六名、一〇五が二名、一一〇が一四名、一二〇が一名、一二五が二名と
いう分布で、その大半が、参加人組合員の最高である一〇〇以上の評価を得てお
り、その平均は一〇一であることが、明らかである。
2 如上の事実関係からすれば、昭和四九年度夏季及び冬季の各賞与の支給に際し
ては、のちに参加人組合員となつた者とゼンセン紅屋労組組合員となつた者との間
には人事考課率の平均値の差が殆どなかつたのに、昭和五〇年度夏季賞与支給の際
には突然四三もの差が生じ、また、同年度冬季賞与支給の際には、参加人組合員と
ゼンセン紅屋労組組合員ないし非組合員との間に二二もの差がついており、しか
も、同年度夏季賞与の考課期間後参加人組合を脱退した者については、同年度冬季
賞与支給の際の人事考課率が目立つて高くなつていること(なお、同年度の冬季
は、夏季に比べて差が小さくなつているが、これは夏季には五〇から一三〇の範囲
内で査定したのに対し、冬季には七五から一二五の範囲内で査定したことによるも
のと考えられる。)が明らかである。そこで、昭和五〇年度夏季賞与の考課期間の
始期である昭和四九年一一月二一日以降、ゼンセン紅屋労組組合員ないし非組合員
に比して、参加人組合員の成績、勤務態度等が右人事考課率のとおり著しく劣悪に
なつたか否かが問題になる。
 ところで、原告は、右のような事実が存したがゆえに、参加人組合員を低く評価
したと主張し、いずれも成立に争いのない乙第二三号証、同第二五号証、同第二七
ないし第三一号証、同第三七ないし第三九号証、同第四一、第四二号証、同第四四
号証、同第七〇、第七一号証、同第七六号証、同第七九号証によれば、参加人組合
員全員につき、昭和四九年一一月二一日以降その勤務態度、原告に対する貢献度等
が劣悪となり、人事考課上低く査定されてもやむをえない事情があつたというべき
であるかのように見えるが、右各書証は、いずれも成立に争いのない乙第七三、第
七四号証、同第八一号証及び弁論の全趣旨に照らして検討するとき、これをそのま
ま採用するには大いに疑問があるといわざるをえない。のみならず、右各書証に記
載された各事実が前記の人事考課表上どのように把握され、またどのように配点さ
れたかについては、本件証拠上全く説明がなされていないし、もとより人事考課表
そのものも提出されていない。このことは、前記のように昭和五〇年四月に新しい
人事考課方式を採用し、しかもその徹底を図つたという原告の態度としては奇妙な
ことといわざるをえない。そして、このような事情に、昭和五〇年度夏季賞与の算
定に関するものではあるが、参加人組合員の平均出勤率は九三・四パーセントであ
つて、ゼンセン紅屋労組組合員の平均出勤率八九・一パーセントよりも高い事実
(出勤率の算定には原告の主観の入る余地はないし、また、出勤率が高いというこ
とはその従業員の勤務に対する積極性も大であると一応推認するのが相当であろ
う。)を併せ考えると、原告の前記主張はにわかには採りえないものといわざるを
えない。
 そうだとすれば、原告が人事考課率の査定に当たつて参加人組合員をその他の者
に比し著しく低く評価したことには合理的な理由がないというべきである。そし
て、この事実と、前記認定の、原告の参加人に対する敵対感情の存在及びこれに基
づく言動並びに本件各賞与支給の前後における相当数の不当労働行為救済申立事件
の発生という各事実とを併せ考えると、原告は、右各査定においても、参加人組合
員を参加人組合所属のゆえに又はその組合活動をしたがゆえに不当に差別し、か
つ、その差別によつて参加人組合員を動揺、混乱させて参加人組合を弱体化しよう
と企図したものと推認せざるをえない。従つて、原告のこのような行為は労働組合
法第七条第一号及び第三号所定の不当労働行為に当たるというべきである。
 なお、原告は、参加人が人事考課に関する適用方法については原告の任意とする
旨の確認をしていると主張するが、しかし、この確認は、単に参加人が考課査定は
使用者側の裁量行為であるという当然の事理を確認したものにすぎず、参加人が原
告からの不当労働行為の行なわれることまでも受忍するという趣旨でないことはい
うまでもない。
四 最後に、本件救済命令の適否について考えるに、労働委員会の救済命令は、使
用者の不当労働行為によつて生じた状態をそれがなかつたのと同じ状態に回復させ
るために必要な事実上の措置をとることを命ずるものであつて、私法上の法律関係
の存否の判断に基づき法律上の措置をとることを命ずるものではない。そして、こ
の原状回復のための事実上の措置として救済命令の内容をどのようにするかについ
ては、法令上に特段の定めがないから、右に述べた救済命令の目的の範囲内におい
て、労働委員会の自由裁量に委ねられているものと解すべきである。
 そこで、本件についてみるに、参加人組合員は、参加人組合結成前には、原告か
らその他の従業員と殆ど差のない人事考課点を得ていたのに、同組合を結成するや
突如その考課上不当に低く査定されたものであつて、このことが不当労働行為にな
るのである。そして、このような不当労働行為が認められる以上、労働委員会とし
ては、原告に対し、参加人組合員の昭和五〇年度夏季賞与についてはゼンセン紅屋
労組組合員の平均値まで、また、参加人組合員の同年度冬季賞与についてはゼンセ
ン紅屋労組組合員及び非組合員の平均値まで人事考課点を引き上げたうえ、これに
よつて再計算した金額と支払済金額との差額を参加人組合員に支払うよう命ずるの
でなければ、右不当労働行為救済の目的を達しえないものというべきである。
 なお、成立に争いのない乙第一六号証によれば、昭和五〇年度夏季賞与について
の同年七月二七日付確認書には、「支給日は七月二八日を目標とするも事務手続き
の都合で多少遅れてもやむを得ない。」との条項の存することが認められるとこ
ろ、現実には同年八月一日に支給されたことは前記認定のとおりであるから、右八
月一日が右賞与の支払日であると解すべきである。また、成立に争いのない乙第五
〇号証によれば、同年度冬季賞与についての昭和五〇年一二月二八日付確認書に
は、「支給日は昭和五〇年一二月二九日とする。」との条項の存することが認めら
れるから、右同日が右賞与の支払日である。
 そうだとすれば、青森地労委の発した前記各救済命令は、原告に対し右各賞与の
支払日の翌日以降の遅延損害金の支払いを命じた部分をも含めて、いずれも相当な
ものであつて、労働委員会としての裁量権の範囲を逸脱したものではないというべ
きであり、従つて、右各救済命令を支持した本件命令にも、原告の主張するような
違法はないというべきである。
 なお、その他に、本件命令を違法とすべき理由は見出しえない。
五 以上の次第であつて、原告の本訴請求は、その理由がないからこれを棄却する
こととし、訴訟費用(参加によつて生じた費用を含む。)の負担につき民事訴訟法
第八九条、第九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 奥村長生 星野雅紀 石井宏治)
(別紙)
 命令書
中労委昭和五一 五二年(不再)第六一 六号
昭和五二年一二月二一日命令
再審査申立人 紅屋商事株式会社
再審査被申立人 紅屋労働組合
       主   文
本件各再審査申立てをいずれも棄却する。
       理   由
第一 当委員会の認定した事実
1 当事者等
(1) 再審査申立人紅屋商事株式会社(以下「会社」という。)は、肩書地に本
店(青森店)を置き、弘前市に弘前店をもつ大型小売店舗で、総合衣料、食品、日
用品等の小売を業とする会社であり、従業員は現在、約二五〇名である。
(2) 再審査被申立人紅屋労働組合(以下「組合」という。)は、昭和四九年一
二月二一日に弘前店の従業員を主体に一〇七名をもつて結成された労働組合であ
り、現在、組合員は約三〇名である。
 なお、会社には、組合のほか昭和五〇年一月中旬、青森店の従業員を主体に結成
されたゼンセン同盟紅屋商事労働組合(以下「ゼンセン紅屋労組」という。)があ
る。
2 組合結成後の労使事情
 当該労使間で争われている事件としては、当委員会においては本件以外に昭和五
一年度夏季賞与(中労委昭和五二年(不再)第七二号)が、青森県地方労働委員会
においては組合脱退勧奨等の支配介入(青森地労委昭和五〇年(不)第三号)、組
合員の配転(青森地労委昭和五一年(不)第一四号)、副委員長出勤停止(青森地
労委昭和五一年(不)第一六号)、執行委員長解雇(青森地労委昭和五一年(不)
第一八号)の各事件があり、また、当委員会が救済命令を交付した書記長の第一次
ないし第三次解雇事件は東京地方裁判所に行政訴訟事件(東京地裁昭和五二年(行
ウ)第二九一号)として係属中である。
3 昭和五〇年度夏季賞与
(1) 組合員に対する夏季賞与については、昭和五〇年七月二六日、組合と会社
間の団体交渉で妥結し、翌二七日に確認書を取り交わし、八月一日に別表1のとお
り支給され、一方、ゼンセン紅屋労組員については、七月二三日の会社との団体交
渉で妥結し、同月二八日に別表2のとおり支給された。その結果、組合員の平均総
支給率は「〇・九八」、平均人事考課率は「五八」であり、ゼンセン紅屋労組員の
それは「一・六〇」、「一〇一」である。
 なお、組合別人事考課分布状況は、本件初審青森地労委昭和五〇年(不)第二八
号命令書(以下「二八号事件命令書」という。)の別表4のとおりであるので引用
する。
(2) 賞与の支給方法は、確認書では就業規則によることとされ、その算式は、
 賞与=基本給×成果比例配分率×人事考課率×出勤率
となつており、このなかの成果比例配分率は一・八カ月とされた。なお、出勤率の
算式は就業規則によれば、
出勤率=当該算定基礎期間における所定労働日数-(休業日数+中途入社、休職の
場合の不就労日数)÷当該算定基礎期間における所定労働日数
となつており、遅刻または早退は三回をもつて休業一日とみなし、所定の届出をし
た欠勤一日をもつて休業二日、無断欠勤一日をもつて休業三日とするとなつてい
る。
4 昭和五〇年度冬季賞与
(1) 組合員に対する冬季賞与については、昭和五〇年一二月二八日、会社、組
合間で確認書を取り交わし、一二月二九日、支給されたが、その内容は本件初審青
森地労委昭和五一年(不)第一一号事件命令書(以下「一一号事件命令書」とい
う。)の別表1のとおりであるので引用する。一方、ゼンセン紅屋労組は一二月九
日の団体交渉で妥結し、一二月一一日にゼンセン紅屋労組員及び両組合に加入しな
い従業員も含め(以下「ゼンセン紅屋労組員ら」という。)支給されたが、その内
容は一一号事件命令書の別表2のとおりであるので引用する。その結果、組合員の
平均総支給率は「一・三三」、平均人事考課率は「七九・一〇」であり、ゼンセン
紅屋労組員らのそれは「一・八八」、「一〇〇・九八」である
 なお、組合別人事考課分布状況は、一一号事件命令書の別表3のとおりであるの
で引用する。
(2) 賞与の支給方法は、確認書では就事規則の算定方式によることとされ、そ
の算式は前記3の(2)と同一であり、成果比例配分率は二・一カ月で、人事考課
率は上限「一二五」から下限「七五」の範囲内とされた。
5 組合結成前の賞与支給と組合脱退者の人事考課率の推移
(1) 組合結成前の賞与支給について、組合員とゼンセン紅屋労組員とに仕分け
してみると、二八号事件命令書の別表3の①及び②のとおりであるので引用する。
この場合における平均総支給率及び平均人事考課率は左表のとおりである。
<19744-001>
(2)組合脱退者の人事考課率の推移は一一号事件命令書の別表4のとおりである
ので引用する。
 以上の事実が認められる。
第二 当委員会の判断
 会社は、組合の組合員に対する昭和五〇年度夏季及び冬季の各賞与についての初
審命令を不服として再審査を申し立てているので、以下判断する。
1 初審命令の本件取扱いについて
(1) 会社は、本件各賞与の支給については、いずれも会社・組合間で締結され
た確認書に基づくもので、しかも確認書には支給額の算定方式中の人事考課に関す
る適用については会社の任意とすることに合意がなされており、この確認書に基づ
いて支給がなされている以上、その不服救済手続は司法手続によりなされるべきで
あり、初審命令が会社に対し命令書主文のごとく命令することは裁量権の逸脱であ
ると主張する。
(2) しかしながら、不当労働行為の審査は、事実上、人事考課に当つて、組合
員なるが故に不当に評価したか否かの面から取扱うものであるから、会社の主張は
筋違いであり、採用できない。
2 昭和五〇年度夏季及び冬季の各賞与について
(1) 会社は、本件各賞与について組合の組合員とゼンセン紅屋労組員との支給
率に格差が生じたのは人事考課率に格差が生じたからであり、その理由は昭和五〇
年四月から実施した現行人事考課基準により各人の能力、成績等を客観的、公正に
評価した結果であると主張する。
(2) 本件各賞与の考課率については、
(イ) 夏季賞与の場合、最低五〇、最高一二〇とされているところ、組合員らは
五〇ないし八〇の間にランクされ、しかも組合員の過半数にあたる三一名が最低の
五〇にランクされているのに対し、ゼンセン紅屋労組員らは九〇ないし一二〇の間
にランクされていること、組合員の平均考課率が五八であるのに対し、ゼンセン紅
屋労組員のそれが一〇一であり、その差が四三であり、それは組合員とゼンセン紅
屋労組員との評価水準の差を表わしていること、
(ロ) 冬季賞与の場合、最低七五、最高一二五とされているところ、組合員らは
七五ないし一〇〇の間にランクされ、当時の組合員三九名中三七名(九五%)が八
五以下であり、しかも、そのうち二六名が最低の七五にランクされているのに対
し、ゼンセン紅屋労組員らは八五ないし一二五の間にランクされ、六六名中五七名
(八五%)が九〇以上にランクされていること、組合員の平均考課率が七九・一〇
であるのに対し、ゼンセン紅屋労組員のそれが一〇〇・九八であり、その差が二
一・八八であり、それは組合員とゼンセン紅屋労組員との評価水準の差を表わして
いること、
以上のことは、前記第一の3の(1)及び4の(1)認定の各別表から明らかであ
る。
(3)会社は、本件審査にあたり本件夏季及び冬季賞与の考課対象期間中の組合員
個々人の勤務態度等に関する報告書(乙第一〇三号証の一ないし七〇)を提出し、
組合員らは、①仕事に熱意がなく無責任である、②職場離脱が多い、③遅刻と欠勤
が多い、④商品知識がない、⑤接客態度が悪い、⑥指示指令に従わない等により勤
務成績が悪くなつたと主張するのであるが、これは組合員とゼンセン紅屋労組員と
の格差を示すものでも、組合員相互間の評価差を数的に説明する資料でもない。加
えて、会社は、右記報告書の内容は代表的な例であるというのであるが、この中で
遅刻、欠勤が多いとされている者の夏季賞与での出勤率(算定方法は前記第一の3
の(2)認定のとおりである。)をみると、B九三%、C九四・四%、D一〇〇
%、E九八・六%であり、ゼンセン紅屋労組員の平均出勤率八九・一%と比較し
て、これらの者が遅刻、欠勤が多いとはいえない。しかもEについここの点を指摘
されるや、後に人違いであり訂正削除すると申し出てきていること、さらに、勤務
態度が悪いとされているF、Gについて組合を脱退してゼンセン紅屋労組員となつ
た後の冬季賞与における考課率がいずれも一〇〇となつている点を指摘されたとこ
ろ、これも後に夏季賞与の考課期間のみの間違いであると申し出てきていること等
を考慮すると、報告書の内容は措信し難い。
 また、会社は、人事考課表のひな型と記入要領(乙第一〇一号証の二ないし七)
を提出し、人事考課には公正な基準が設定されており、査定方法も適正になされて
いるというのであるが、右記の組合員らの勤務態度及び査定方法の説明をもつて組
合員らの低位査定の合理的根拠たりうるとする会社の主張は採用し難い。
(4) ところで組合結成前の昭和四九年度の各賞与について組合員とゼンセン紅
屋労組員とに仕分けしてみると、前記第一の5の(1)認定の各別表のとおりであ
り、考課率については、夏季の場合は最低九五、最高一〇五、冬季の場合は最低七
五、最高一〇〇とされ、両組合員ともいずれもこの範囲内に分布しており、平均考
課率もほとんど差は認められない。
 しかるところ、組合結成後の本件夏季賞与において組合とゼンセン紅屋労組とに
明らかに二分され、組合員全員が低位にランクされ、冬季賞与においても二名を除
きゼンセン紅屋労組員の最低考課率である八五以下にランクされているのである。
しかも前記第一の5の(2)認定のとおり、組合脱退者はゼンセン紅屋労組加入後
の冬季賞与において二一名中一五名が一〇〇にランクされ、組合員を大幅に上回つ
ていることが認められる。
(5) 以上によれば、組合結成後の本件各賞与において組合員らの考課率がゼン
セン紅屋労組員に比し、著しく低くなつたのは、同人らの勤務態度よりも、前記第
一の2の労使事情のもとに組合の組合員であることを理由としてなされたものと判
断せざるをえず、これを不当労働行為として初審判断は相当である。
3 本件不当労働行為の救済について
 会社は、初審命令は本件各賞与につき各組合員の人事考課率に四〇(夏季)、二
二(冬季)を加算した人事考課率で再計算し、その差額の支払いを命じているが、
仮に、本件が不当労働行為であつたとしても、全従業員の能力、成績等を審査する
ことなく、組合員とゼンセン紅屋労組員の平均人事考課率の差を一律に加算する合
理的根拠が明確にされておらず、あまりに恣意的であり、かかる救済は失当である
と主張する。
 しかしながら、組合結成前及び組合結成後の各賞与における考課率の分布状況の
変化並びに組合員とゼンセン紅屋労組員に対する評価の水準の差は、前記2判断の
とおり合理性はなく、不当労働行為である以上、本件救済としては、組合の救済請
求内容に照らしても、初審命令の是正方法を相当と認める。したがつて、会社の主
張は採用できない。
以上のとおり、会社の本件各再審査申立てには理由がない。
よつて、労働組合法第二五条、同第二七条、及び労働委員会規則第五五条を適用し
て主文のとおり命令する。
<19744-002>
<19744-003>
<19744-004>
<19744-005>
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<19744-007>
<19744-008>
<19744-009>
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<19744-014>

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