弁護士法人ITJ法律事務所

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主       文
被告人A,同B及び同Cの本件各控訴を棄却する。
上記被告人3名に対し,当審における未決勾留日数中各300日をそれ
ぞれその原判決の刑に算入する。
原判決中,被告人Dに関する部分を破棄する。
被告人Dを懲役8年に処する。
被告人Dに対し,原審における未決勾留日数中150日をその刑に算入
する。
理       由
第1 本件各控訴の趣意は,被告人Aの弁護人門間久美子提出の控訴趣意書及
び控訴趣意書補充書,被告人Bの弁護人杉山茂雅提出の控訴趣意書及び
控訴趣意書(補充),被告人Cの弁護人小向俊和提出の控訴趣意書及び控
訴趣意補充書並びに被告人Dの弁護人増田隆男及び同小幡佳緒里が連
名で提出した控訴趣意書及び控訴趣意補充書に各記載のとおりであり,こ
れに対する答弁は,仙台高等検察庁検察官太田修提出の答弁書及び答弁
書(補充)に記載のとおりであるから,これらを引用する。
 被告人Aの弁護人の控訴趣意の第1は,事実誤認の主張であり,原判示
第1の殺人につき,被害者の死因は,クロロホルム吸引に基づく呼吸停止ま
たは心停止である可能性があるところ,被告人C及びEが被害者にクロロホ
ルムを嗅がせたのは被害者を気絶させるためであって,殺人の故意はなか
ったから,傷害致死罪が成立するにとどまり,実行行為者が傷害致死罪にと
どまる以上,実行行為を行っていない被告人Aに殺人罪が成立することはな
く,殺人罪の成立を認めた原判決の認定は誤っている,というのであり,控訴
趣意の第2は,量刑不当の主張であり,被告人Aを無期懲役に処した原判
決の量刑は重すぎる,というのである。
被告人Bの弁護人の控訴趣意の第1は,事実誤認の主張であり,原判示
第1の殺人につき,被害者はクロロホルム吸引により死亡した可能性が高い
ところ,被告人Bらの認識としてはあくまでも被害者を気絶させるだけで,殺
人の故意はなく,クロロホルムを嗅がせる行為は殺人の実行行為ということが
できないから,殺人罪には該当せず,一方で,海中に転落させた時には被
害者は死亡していたと思われるから,殺人の不能犯となり,仮に殺人の実行
行為が認められるとしても,殺人未遂罪が問題になりうるにすぎない,という
のであり,控訴趣意の第2は,量刑不当の主張であり,被告人Bを無期懲役
に処した原判決の量刑は重すぎる,というのである。
被告人Cの控訴趣意の第1は,事実誤認の主張であり,原判示第1の殺人
につき,被告人Cらは,クロロホルムを吸引させた時には殺人の故意はなく,
被害者はクロロホルム吸引により死亡した可能性が高いのであるから,傷害
致死罪が成立するにすぎず,海中に転落させた行為は,殺人の意思で死体
遺棄罪に該当する行為を行ったもので,故意が認められないから,不可罰
である,というのであり,控訴趣意の第2は,法令適用の誤りの主張であり,
原判示第1で認定された行為は,クロロホルムを吸引させた行為と海中に転
落させた行為の二つであるところ,それぞれの行為と死亡の結果との間の因
果関係を認めることはできないから,結局殺人未遂罪が成立するにすぎない
のに,これらを一体の行為とみて殺人既遂罪の成立を認めた原判決は,刑
法199条の適用を誤っている,というのであり,控訴趣意の第3は,量刑不当
の主張であり,被告人Cを懲役18年に処した原判決の量刑は重すぎる,と
いうのである。
被告人Dの控訴趣意の第1は,事実誤認の主張であり,原判示第2の詐欺
につき,被告人Dは詐欺の実行行為を行っておらず,保険金詐欺の共謀も
なかったから,詐欺の共同正犯を認定した原判決には事実誤認がある,とい
うのであり,控訴趣意の第2は,法令適用の誤りの主張であり,その1は,原
判示第1の認定事実を前提としても,クロロホルムを吸引させる時には被告
人Dらに殺人の故意を認めることができず,海中に転落させた時には被害者
は既に死亡していた可能性があるから,傷害罪が成立するにすぎず,刑法1
99条を適用した原判決には誤りがある,というのであり,その2は,原判決
は,確定裁判として2個の確定裁判を掲げて原判示第1,第2の1ないし3の
各罪は刑法45条後段の併合罪に当たるとしているが,原判示(2)の確定裁
判にかかる罪は,原判示(1)の確定裁判にかかる罪に対する判決確定後の
犯罪であるから,原判示(2)の罪との関係でも原判示第1,第2の各罪が刑法
45条後段の併合罪に当たるとした原判決は,刑法45条の解釈適用を誤っ
ている,というのであり,控訴趣意の第3は,量刑不当の主張であり,被告人
Dを懲役10年に処した原判決の量刑は重すぎる,というのである。
第2 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討す
る。
 1 被告人Aの弁護人及び被告人Bの弁護人の各事実誤認の論旨,被告人Cの
弁護人の事実誤認及び法令適用の誤りの論旨,被告人Dの弁護人の法令
適用の誤りの論旨の1について
(1)原審及び当審で取り調べた証拠によれば,本件殺人の実行役であった
被告人B,同C,E,被告人Dの4名は,すでに被害者を殺害する意図を
有した上,その殺害の方法として,事故死を装うため被害者を自動車に乗
せたまま水中に転落させて溺死させる計画を立て,その転落させる前段階
として,被害者を拉致して自動車に乗せ転落場所まで運ぶに当たって,
被害者が抵抗できないようにするために,被害者にクロロホルムを吸引さ
せて意識を失わせることを企てたこと,殺人実行の当日,被告人C,E,被
告人Dの3名は,外出した被害者を待ち伏せして被害者の車への追突事
故を起こし,示談交渉を装って被害者を自分達の車に招き入れて,車内
でクロロホルムを染み込ませたタオルを背後からいきなり被害者の口に押
し当て,引き続きしばらく押し付けてクロロホルムを吸引させ,被害者を失
神させたこと,上記3名は,被害者を自動車ごと転落させる場所を,当初の
山形県内のG川の河岸から近くの宮城県内のH港へ変更し,意識を失っ
た状態でいる被害者を自動車に乗せて,拉致した場所から約2キロメート
ルほど離れたH港まで運んだこと,H港の埠頭において,駆けつけた被告
人Bも加わって4名で,依然意識を失った状態にある被害者を自動車の運
転席に座らせて,自動車を押して岸壁から海中に転落させたこと,クロロホ
ルムの多量の吸引によって呼吸停止ないし心停止,窒息死,ショック死あ
るいは肺機能不全が引き起こされ,人が死亡する可能性があり,被害者の
死因は,海中での溺死ないしクロロホルムの吸引に基づく上記による死亡
のいずれかであるが,そのいずれであるかは特定できないこと,がそれぞ
れ認められる。
このように,クロロホルムを吸引させる行為によって被害者が死亡した可
能性もあるところ,殺害の意図を有した上記被告人ら4名は,クロロホルム
を吸引させる行為自体によって被害者を死亡させるという認識はなく,そ
れによって死亡する可能性があるとの認識もなかったものである。
 したがって,クロロホルムを吸引させる行為で被害者の死亡の結果をも
たらしたとしたら,当該クロロホルムを吸引させる行為について,上記被告
人ら4名に殺人の実行行為性の認識があったか否かが,殺人の故意の内
容として問題となる。各論旨は,クロロホルムを吸引させる行為について
は,被告人ら4名には,それでもって被害者を死亡させるとの認識がなか
ったので,殺人の実行行為性の認識に欠ける,というのである。
(2)そこでまず,被害者を拉致し転落させる場所まで運んだ被告人C,E,
被告人Dの3名(以下便宜「被告人ら3名」という。)のクロロホルム使用に
ついての認識を考察する。クロロホルムを吸引させる行為は,被害者を拉
致し自動車で転落させる場所まで運ぶのを,被害者の抵抗なしに容易に
するための手段であったことは,被告人ら3名が供述するところである。し
かし,被告人ら3名は死亡保険金を騙し取るため,被害者を事故死に見
せかけて溺死させようとするのであるから,被害者を運転席に座らせた上
で自動車を海中に転落させ,そのまま脱出できなくさせる必要があり,そ
れには,被害者をおとなしくさせ抵抗できないようにし,転落後は脱出でき
なくすることが,重要な課題となることは明らかであり,そのためには,被告
人ら3名の認識としては,被害者を失神させた状態を利用するのが最も良
い方法であると考えるのが,自然であると認められる。そうすると,被告人
ら3名としては,クロロホルムを吸引させる行為は,上記の被害者を拉致し
自動車で転落させる場所まで運ぶのを容易にする手段にとどまらず,事
故死と見せかけて溺死させるという予定した直接の殺害行為を容易にし,
かつ確実に行うための手段にもなるとの考えを有していたものと,容易に
推察できるといえる。現に,被告人ら3名は,拉致現場でクロロホルムを吸
引させて被害者を失神させると,その後は,被害者が意識を失ったままの
状態にあるのを承知しつつ,その状態を利用して予定した殺害行為の海
中に転落させる行為を行っているのであり,しかも,クロロホルムを吸引さ
せた場所と海中に転落させた場所は,自動車の走行距離で約2キロメート
ル余り,走行時間は数分程度しか離れておらず,比較的接近していること
からして,被告人ら3名が上記考えを有していたものと推測される。
 そうすると,クロロホルムを吸引させる行為は,単に,被害者を拉致し転
落場所に運ぶためのみならず,自動車ごと海中に転落させて溺死させる
という予定した直接の殺害行為に密着し,その成否を左右する重要な意
味を有するものであって,被告人ら3名の予定した殺人の実行行為の一
部をすでに成すとみなしうる行為であるということができる。なお,被害者
にクロロホルムを吸引させた後,岸壁から海中に転落させるまで約2時間
経過しているが,これは,被告人Bが駆けつけ加わってから転落行為を行
おうとしたため,同被告人の到着を待っていたためであって,被告人ら3
名は,クロロホルムを吸引させてから被害者を自動車で運んで間もなく転
落させる場所に着き,被告人Bの到着を待っているが,その間,被告人ら
3名の考えが変わることはなかったのであるから,上記認定が妨げられるこ
とはない。
 したがって,被告人ら3名は,クロロホルムを吸引させる行為について,
それが予定した殺害行為に密着し,それにとって重要な意味を有する行
為であると認識しており,殺人の実行行為性の認識に欠けるところはない
というべきであり,被告人ら3名がクロロホルムを吸引させる行為を行うこと
によって,殺人の実行行為があったものと認定することができる。なお,そ
の後,被害者を海中に転落させる殺害行為に及んでいるが,すでにクロロ
ホルムを吸引させる行為により死亡していたとしても,それはすでに実行
行為が開始された後の結果発生に至る因果の流れに関する錯誤の問題
に過ぎない。
(3)被告人Bについては,その供述によれば,被告人ら3名が被害者にクロロ
ホルムを吸引させて拉致するまでに,被害者を転落させる場所をH港に変
更したことを知らされておらず,遠方の山形県内のG川の河岸まで運ん
で,そこで川に転落させるという認識でいたため,被害者にクロロホルムを
吸引させて意識を失わせても,転落させる場所に着くまでには意識を回復
する可能性があり,その場合には用意したロープで縛ることを考えていた,
というのである。しかしながら,被告人Bは,川に転落させるとしても,ともか
く被害者の意識を失わせる必要があると考えて,自ら自宅にあったクロロホ
ルムを使うことを提案したのであって,意識を回復した場合にはロープで
縛ることも考えていたとしても,そのロープを使うことが必然とまで考えてい
たわけではなく,むしろ,かなり多量のクロロホルムを被告人Cに渡してお
り,ロープを使うよりもクロロホルムを使用する方がたやすいことからしても,
拉致して自動車で運ぶ途中に被害者が意識を回復すれば,再度クロロホ
ルムを使用したり,さらには,自動車ごと転落させる際にも,被害者の抵抗
を封じるために,改めてクロロホルムを使用することを予想していたものと,
推察することができるといえる。そうすると,被告人Bもまた,クロロホルムを
吸引させる行為が,予定した自動車ごと転落させるという殺害行為を容易
かつ確実にさせる手段となるとの認識を有し,さらに,被害者が意識を回
復してロープで縛ることになったとしても,自動車ごと転落させる際には再
びクロロホルムを吸引させることを繰り返すつもりであったと認められる。
 したがって,被告人Bについても,被告人ら3名と同様,クロロホルムを吸
引させる行為は,自動車ごと転落させるという予定した殺害行為に密着
し,それにとって重要な意味を有するものと認識していたと認められ,クロ
ロホルムを吸引させる行為の殺人の実行行為性の認識に欠けるところは
ないというべきであり,クロロホルムを吸引させる行為を行っていないとして
も,共謀による殺人の共同正犯が認定できる。
(4)被告人Aについては,殺人の共謀共同正犯の責任を問われているもの
であり,殺人の共謀は十分に認められる上,その共謀の際,殺人の実行の
方法については被告人Bら実行役の共犯者らに委ねていたのであるか
ら,実行行為者らに殺人罪が成立する以上,被告人Aについても殺人の
共同正犯が成立する。
(5)以上のとおりで,本件では被害者の死亡の原因が,クロロホルム吸引によ
るものか,その後の海中転落による溺死であるか断定できないとしても,被
害者の死亡原因がそのいずれかであることは明白であり,しかも,クロロホ
ルムを吸引させる行為について殺人の実行行為性の認識があり,それを
もって殺人の実行行為があったといえるから,被告人A,同B,同C,同D
について,殺人罪の共同正犯の成立を認め,刑法60条,199条を適用し
た原判決の事実認定及び法令の適用に誤りはない。上記各弁護人の各
論旨はいずれも理由がない。
 2 被告人Dの弁護人の事実誤認の論旨について
(1)原判決は,その(事実認定の補足説明)において,被告人Dが,Eから殺
害に加わるよう誘われた際,被害者を殺せば保険が下りて金になることを
告げられ,Eがもらった分から報酬をもらう約束をしたこと,報酬欲しさなど
から殺害に加わることを承諾したこと,共犯者らが事故に見せかけると話し
ているのを聞いていたこと,殺害実行当日共犯者らと行動を共にし,車の
運転役をし,被害者を乗せた自動車を押して海中に沈めるのに手を貸し
ていること,殺害実行後,2回にわたりEから50万円ずつ,合計100万円を
殺害協力の報酬としてもらっていることなどの事実を認定した上,被告人D
は,被害者を殺害の上保険金を騙し取るという計画を持ちかけられたもの
であり,保険金詐欺を遂行する上で,被害者を事故に見せかけて殺害す
ることが当然かつ極めて重要な前提となり,報酬が保険金から支払われる
ことを十分に認識しつつ,殺害に積極的に加担したものであるから,Eから
の殺害依頼を承諾した時点において,原判示第2の1ないし3の保険金詐
欺についても正犯者としての意思を通じて共謀が成立したと認定できる,
と判示する。
 しかしながら,被告人Dに上記保険金詐欺について正犯としての共謀が
あったと認定するには,その殺人及び保険金詐欺への関わり方について
なお検討を要するところであり,以下に検討する。
(2)被告人Dの本件殺人及び保険金詐欺についての謀議及び実行行為へ
の関与の状況を見ると,大要次のとおりである。
 ①被告人Aから生命保険金を目当てにその夫を殺害することを持ちかけ
られた被告人Bは,殺害の実行役としてE及び被告人Cを誘い込むことに
し,平成7年8月初めころまでに,保険外交員からその夫を殺害するよう頼
まれ,殺害すれば生命保険金が下りるので,そこから1人1000万円くらい
の報酬を貰えるなどと言って,殺害計画に加わるよう誘い,E及び被告人C
の2名は,報酬目当てからこれを承諾したこと,②被告人Bは,殺害の具体
的な方法として,被害者を自動車に乗せて車ごと川に転落させる方法を
考えたが,そのためにはもう1人手伝う者が必要ではないかと考え,Eに適
当な者を探すよう言っていたこと,③被告人Bは,被告人Aと打ち合わせ
て,いよいよ殺害を実行することとし,同年8月13日に被告人B宅に集まる
よう被告人C及びEに連絡を取ったが,被告人CとEは,被告人Bを通じて
それぞれの存在は知っていたものの,それまで直接会ったことはなかった
こと,④同日,Eは,被告人B宅に赴くに当たって,殺害を実行する手伝い
として,かねて仕事の面倒をみたりしていた年下の被告人Dを誘うことにし
て,急きょ同被告人に電話をして呼び出したこと,⑤Eは,途中で被告人D
を自己の自動車に乗せ,被告人B宅に向かう車中において,「実は悪い男
がいるんだ。借金ばかりしていて,家のことも全くやらない奴で,奥さんが
困り果てているんだ。そいつを殺せば保険が下りて金になるんだ。お前に
は俺がもらった分から何ぼでもやっから。」「計画とか全部考えてあるから
大丈夫だ。」「車の運転だけで構わないから。大方のことは俺らでやるか
ら。」などと言って,被告人Dに殺害に加担してくれないかと誘ったところ,
被告人Dは,ためらいを示したものの,それを承諾したこと,⑥同日,いっ
たん被告人B宅に集まった後,被告人C,E,被告人Dは,自動車で出発
し,途中,ロープや革手袋等を購入し,被害者宅近くで待機して,被害者
の乗った車が現れるのを待ったが,被告人Dは,被告人B宅での他の3名
の会話や待ち伏せ中の車内での被告人CとEの会話から,殺害について
は被害者を自動車に乗せたまま川に転落させ,事故死に見せかけようとし
ていることを聞き知ったこと,⑦同日は,被害者が予想とは違った道順を通
ったため,結局待ち伏せに失敗し,同月18日に再度殺害を行うことにな
り,同18日,いったん被告人B宅に集まり,被告人Bから提案のあった被
害者の意識を失わせるのに使用するクロロホルムを車に積むなどして,被
告人C,E,被告人Dの3名は出発し,被害者の車に追突させて,示談交
渉を装って自分達の車に誘い込み,クロロホルムを嗅がせて気絶させて,
自動車で転落させる場所まで運ぶことを話し合い,また,被害者を自動車
ごと転落させる場所を,下見して近くの宮城県内のH港にすることにするな
どして,同日夜,被害者が外出するのを待ち受けて,被害者の車に追突さ
せる事故を起こして,示談交渉を装って自分達の車内に誘い込み,その
車内でいきなりクロロホルムを嗅がせて被害者の意識を失わせ,そのまま
被害者を自動車でH港まで運び,その後被告人Bも合流し,意識を失った
ままの被害者を自動車の運転席に乗せて,自動車ごと海中に転落させた
こと,⑧Eは,被告人Dに,殺害に加わった報酬として計100万円を渡し,
被告人Dもそれが報酬であることを承知していたこと,がそれぞれ認められ
る。
(3)上記の事実関係を前提に,被告人Dの責任について検討する。
ア 被告人Dの殺人への関わり方を見ると,・被告人B,E及び被告人Cの3
名の間では,被告人Bから,保険外交員から夫の殺害を依頼され,殺害
すれば生命保険金が下りて,そこから1人約1000万円の報酬がもらえる
との,殺害及びそれによる生命保険金からの報酬の取得について,互い
に具体的な説明と話合いが行われ,さらに,殺害の具体的方法について
も,被告人Bを中心に時間をかけて互いに相当話し合われているのに対
し,被告人Dは,殺害を予定した当日に,急にEから殺害に加担してくれ
るよう依頼され,それを承諾したものの,Eからは自動車の運転といった
話があっただけで,それ以上に殺害について被告人Dが具体的にどのよ
うな役割,行動をするのか,説明がなされていないこと,・被告人Dが殺
害の計画に加わることを承諾した後,同年8月13日及び18日にEや被
告人Cと行動を共にした際にも,被告人Dに対し,殺害のための具体的
な行動について他の者から明確な指示がなされず,さらに,同18日の殺
害実行に当たっても,転落させる場所を決め,交通事故を装って自動車
内に誘い込み,更に被害者を海中に転落させる際リード役を果たすなど
した被告人C,あるいはクロロホルムをタオルに染み込ませて準備し,車
内でそれを被害者の口に当てて吸引させたEと比べて,被告人Dの行っ
たことは,被害者の乗っていた自動車を運転してH港まで赴いたことと,
被害者の乗った自動車を転落させるについてその自動車を押した程度
であったこと,がそれぞれ認められる。そうすると,被告人Dは,急きょEか
ら殺人の手伝いを頼まれたもので,保険金を目的とした殺害計画を立て
るについては何ら関与しておらず,殺害実行への関わり方も,なるほど被
害者を自動車ごと転落させる際には,その自動車を押すのに手を貸して
いるものの,その他には特に積極的な行動をとっておらず,いわば補助
的な役割を務めたに過ぎないといえるのであって,殺害計画及びその実
行への関与の程度は,被告人B,同C,Eの3名とは大きな隔たりがあると
いわなければならない。
イ 保険金詐欺の関係について見ると,被告人Dは,殺人の手伝いを誘わ
れた際に,殺害したときに出る保険金からEが分け前を取得し,そのEの
分け前から手伝いの報酬をもらえるものと認識し,Eらは保険金の取得を
目的に殺人を行う計画でいると推測することは可能であったとは認められ
る。しかしながら,・そもそも殺害を頼んでいる者,保険を掛けて取得する
者,保険金の総額と殺人の実行役への支払などについて,全く被告人D
には知らされていないこと(なお,Eは捜査官に対し,被告人Dを誘った
際の状況について,奥さんから旦那を殺すように頼まれている,事故のよ
うに見せかけて殺す,1000万円をもらう,お前には俺からやるなどと,保
険金を詐取するために事故死に見せかけて殺害することを説明して誘っ
た旨述べているところもあるが,その供述は,はっきりしないが犯行に誘う
以上,その程度は説明したはずだという趣旨を前提にするものであって,
Eの具体的な記憶に基づくものとはいえないから,信用性が高いとはいえ
ず,それをもって認定に供することはできない。また,原判決は,最初に
車内でEから殺害の手伝いを依頼され,それを承諾した時点で,被告人
Dに,殺人のみならず保険金詐欺についての共謀も成立したと認定して
いるが,上記のように保険金関係についてはほとんど知らされていない
時点において,保険金詐欺の共謀を認めることは困難であり,原判決の
(事実認定の補足説明)での説明にも,平仄が合わないところがあり,原
判決の上記認定は是認できない。),・殺害を手伝った報酬は,保険金
からEが取得する分け前からもらえると言われたものの,その金額は明白
に決められず,後から支払うと約束されたに過ぎないこと,・被告人Dは,
自ら高い報酬を欲して,殺害したときに出る保険金がいくらくらいなのか
探ったり聞こうとしたりせず,また,他の共犯者らが殺害後も,早期に死体
が発見されて保険金を手中にできるよう種々の工作を行うことまでしてい
るのに,被告人Dは,殺害後の保険金取得には全く関与せず,関心も特
に示していないこと,・被告人B,同C,Eの間では,互いに保険金の分け
前について話をし,殺害後も保険金請求について連絡し合うなどしてい
るが,被告人Dに対しては,その報酬はEの取り分から支払われるものと
承知して,他の共犯者らには取得した保険金を被告人Dに分配するとい
う意識がなく,そのための行動もとっておらず,当初から保険金取得のた
めに一緒に行動するという意識がなかったこと,・被告人Dは,殺害手伝
いの報酬として保険金の分配を請求したりすることなく,報酬として100
万円をもらっているが,それは保険金からのEの分け前から更にもらった
ものであり,金額としても他の共犯者に比べて格段に低いこと,がそれぞ
れ認められる。そうすると,被告人Dについては,被害者殺害後の保険金
取得について特に積極的な関心を持っておらず,保険金取得のため自
ら一役買おうとの意識を持っていたとは認められないのである。
(4)以上によれば,被告人Dは,Eからの誘いに応じて殺害への加担を承諾し
た後,クロロホルムによって意識を失っている被害者を自動車ごと海中に転
落させる行為に自ら手を貸すまでには,被害者を事故死に見せかけて殺害
するということは認識していたものと認められ,被告人Bら他の共犯者らが保
険金を取得する目的で被害者を殺害しようとしていることを承知しつつ,そ
の殺害行為に加担したとは認められるが,それ以上に,自らも他の共犯者
らと一体となって保険金を詐取しようとの正犯意思をもって,詐欺の共謀を
していたとまでは認めることはできず,被告人Dについては,殺害行為に加
担することにより他の共犯者らが行う保険金詐欺を容易にしたという幇助犯
が成立するにとどまるものといわねばならない。
 したがって,被告人Dにつき原判示第2の1ないし3の詐欺につき共同正
犯の成立を認めた原判決には事実誤認があり,被告人Dの弁護人の上記
事実誤認の論旨は理由がある。
 3 被告人A,同B及び同Cの各弁護人の論旨中量刑不当の主張について
(1)本件は,被告人A,同B,同C,同D及びEが,共謀の上,多額の死亡保
険金を騙し取る目的で,被害者を殺害し(原判示第1の事実),その上,被
告人A,同B,同C及びEが,共謀の上,被害者を殺害したことを秘して保
険会社に死亡保険金の請求を行い,各保険会社の担当者を欺いて,死
亡保険金等名下に1億3000万円余りの金員を騙し取りあるいは財産上不
法の利益を得た(同第2の1ないし3の各事実),という殺人及び保険金詐
欺の事案,並びに,被告人Bが,自己の入院治療歴を告知せずに保険会
社の担当者を欺いて保険契約を締結した上,正当な請求を装って入院給
付金等の請求をして保険会社の担当者を欺き,250万円余りを騙し取っ
た(同第3の事実),という詐欺の事案である。
 被告人A,同B,同C及びEは,それぞれ多額の金員欲しさから,被害者
に掛けられた死亡保険金を不正に取得するために事故を装って被害者
を殺害することを企て,自分達の犯罪が露見しないように痕跡を残さずに
殺人を行う方法についてあれこれ考えをめぐらし,互いに相談を重ねて綿
密な殺害計画を立て,周到な準備をして役割を分担し,冷静に殺人をや
り遂げたものであって,その動機,経緯は極めて利己的で悪質であり,自
らの金銭欲を満たすためには人命を奪うことも平気でやり遂げるという我
欲に駆られた冷酷非道な考えに基づく犯行といえる。犯行の状況は,被
害者に外出を促して,その自動車が通るのを待ち伏せし,わざと被害者
の自動車に追突させて,事故の話合いを装って被告人らの自動車に誘い
込み,いきなり背後からクロロホルムを多量に染み込ませたタオルを被害
者の鼻口部に押し当て,もがく被害者を押さえつけて意識を失わせ,意
識を失ったままの被害者を自動車に乗せて港まで運び,岸壁から自動車
ごと海中に転落させ,殺害したというものであり,誠に巧妙,狡猾で残虐と
いえる。
 被害者は,38歳と男盛りの年齢であり,家庭では4人の子供の面倒を
見,その成長を楽しみにするよき父親であり,職場ではまじめで周囲の人
望も厚かったのであり,それが,本人の全く知らない間に策謀をめぐらさ
れ,信頼して疑うことすらしなかった妻及びその共犯者らによって突然非
業の死を遂げさせられたものであって,その悲痛の叫びが聞こえるようで
あり,無念の程は察するに余りある。また,母親の手によって父親を奪わ
れ,家庭を破壊された子供達は,過酷な運命にさらされることになり,その
境遇は残酷というほかない。このように,本件がもたらした結果は,言葉で
言い表し得ないほど悲惨で重大である。被害者の遺族らが,被告人らに
対して極刑を望むと述べるなど,極めて厳しい処罰感情を抱いているのも
当然といえる。
 被告人A,同B,同C及びEは,被害者を殺害した後,犯行に使用した
自動車を投棄するなど罪証隠滅行為を行い,さらに,被害者の遺体が発
見されないと保険金の請求ができないことから,潜水業者を使って海中を
捜索させたり,匿名の手紙を警察に送ったりして,被害者の遺体を発見さ
せ,早期に保険金を取得するための種々の工作を行っており,保険金獲
得への執着は非常に強く,ひたすら金銭欲にとらわれた醜悪な行動をと
り,その執念を実らせて,被害者に掛けられた死亡保険金から総額1億3
000万円余りを騙し取り,互いに分配しているのである。この詐欺の犯行
は,上記のとおりその被害金額が極めて多額に上るばかりでなく,死亡保
険金を取得するために保険を掛けた身内の者を殺害するという人倫にも
とる手段を取り,悪質性において際立っており,かつ,多額の保険金のた
め人命を抹殺するという生命保険制度を揺るがしかねない犯罪であって,
その社会に及ぼした衝撃と影響の大きさも見過ごすことはできない。
  (2)被告人Aについて
 被告人Aは,本件一連の犯行において,まず巨額の死亡保険金を目当
てに被害者の殺害を考え,多額の報酬で誘って被告人Bに殺害の実行を
頼み,その上,なかなか実行しようとしない被告人Bに対し,具体的な殺
害方法を提案して実行を強く迫り,さらには,被害者の遺体が発見されな
いまま月日が経つと,潜水業者に依頼して海中を捜索させ,遺体が発見
されると早速保険金請求手続をとるなどしており,一連の犯行の首謀者で
あることは明らかである。しかも,被告人Aは,実際に1億3000万円余りの
死亡保険金を受け取りながら,嘘を言って誤魔化し,共犯者らにその一部
しか渡さず,大半の約1億0500万円を手中にし,得た利益は格段に大き
く,その金銭に対する執着は激しく,そのために殺人も辞さない誠に歪ん
だ考えを持つものといえる。また,被告人Aは,被害者が夫であり子供ら
の父親であることなど全く眼中になく,ひたすら殺害することを考え,自ら
殺害の実行方法について意見を述べたり,いざ実行する際も,言葉巧み
に被害者を家から送り出して共犯者に連絡するなど,重要な役割を果た
しており,その執念には寒気立つものがある。そして,被告人Aは,取得し
た多額の金員を不貞の相手方に貢ぐなどして使い果たし,その上,更に
多額の死亡保険金を取得しようと民事訴訟を提起するまでしており,そこ
には良心の呵責や被害者に対する憐れみの情はみじんも感じられず,な
りふり構わず我欲に走る醜い行動をとっており,犯行後の情状も非常に悪
い。
 所論は,本件一連の犯行は,被告人Aのみでは行えず,共犯者間の相
互依存,相互補強関係があったから実現されたものであり,殺人の実行の
詳細も被告人Bに任せていたというのである。しかしながら,被告人Aの果
たした役割等は上記のとおりであり,その上,被告人Aは,被告人Bと具体
的な相談をする前から,他の者に殺人を持ちかけ,保険金を増額するな
どの準備を始め,内緒で莫大な保険金を掛けて,これを独り占めしている
のであるから,他の共犯者らと相互依存,相互補強の関係にあったことは
否定できないとしても,被告人Aの責任が格段に重いことは明らかであ
る。
 そうすると,被告人Aの刑事責任は極めて重大であり,原審及び当審で
反省と悔悟の言葉を述べていること,罰金刑以外の前科がないことなどの
酌むべき事情を考慮しても,被告人Aを無期懲役に処した原判決の量刑
が重すぎることはない。
(3)被告人Bについて
 被告人Bは,殺人実行の中心者であり,被告人Aから殺害を依頼されて
これを一手に引き受け,その後は,具体的な殺害計画の立案,共犯者の
人選と勧誘,実行場所の下見,共犯者に対する実行の指示,首謀者であ
る被告人Aとの連絡,さらには,被告人Aから受け取った報酬の分配など
を行い,殺人の実行に関しては,すべて被告人Bが計画し準備し,取り仕
切ったものである。また,被告人Bが現実に手にした利得は,少なくとも14
50万円程度はあり,被告人Aに次いで多額である。被告人Aの企ても,
被告人Bが存在しなければ実現しなかったのであり,金銭目当てに全く無
関係の被害者の殺害を計画し,冷酷に自ら主導して実行していったもの
で,その果たした役割は,被告人Aと並ぶものである。
 所論は,被告人Bは,被告人Cとの関係が生じてから,同被告人との話
合いの中で犯行が具体化したのであり,具体的な段取りは被告人Cらが
行ったものであるなどという。しかしながら,被告人Bが殺害実行の計画と
その実現の全体を主導していたことは明らかであり,陰で操って自らは手
を汚さずに殺害の直接の実行を被告人Cら共犯者にやらせる狡猾な役割
を演じているのであって,被告人Bの責任は重く,クロロホルムを吸引させ
拉致する行為に手を貸していないからといって,何ら斟酌すべき事情には
ならない。
 被告人Bの原判示第3の詐欺は,当初から保険制度を悪用する目的
で,既往症や入院歴等を秘匿して保険契約をし,253万円もの多額の保
険金を詐取したものであるが,保険制度に関する知識を悪用し,その間
隙をついた計画的で巧妙な犯行である。しかも,他にも同様の手口による
相当多額の入院給付金の不正取得がうかがわれ,本件はその一部として
行われたもので,常習的犯行と認められる。
 そうすると,被告人Bの責任は,被告人Aに次いで著しく重いというべき
であり,本件の罪質,態様の悪質性,結果の重大性,同被告人の果たし
た役割の重大性,取得した利得の大きさ等にかんがみると,同被告人が
原審で反省の態度を示し,原判決後も,遺族に謝罪の手紙を出し,写経
に励むなどして被害者の慰霊に努めるなど反省を深めていること,元の妻
が被告人Bの帰りを待っていること,老齢で障害のある両親を抱えている
ことなどの酌むべき事情を考慮しても,被告人Bを無期懲役に処した原判
決の量刑が重すぎるとはいえない。
(4)被告人Cについて
 被告人Cは,被告人Bから保険金目的の殺人への加担を誘われるや,
報酬目当てにいとも簡単に加わることにし,自ら殺害の方法を提案するな
どして,殺害実行の計画を立てるのに深く関わり,殺害の実行に当たって
は,自動車の偽装用のナンバープレートを用意したり,被害者を自動車ご
と転落させるについて準備を整えたりし,被害者を待ち伏せて拉致するに
ついては,自動車を運転してわざと追突事故を起こし,事故の話合いを
装って言葉巧みに被害者を自分たちの自動車に誘い込み,共犯者のE
がクロロホルムを染み込ませたタオルを被害者に押し当てると,一緒にな
って押さえつけるなどして,重要な役割を引き受け,さらに,被害者を転落
させる場所について近くのH港へ変更する提案をし,海中に転落させる
際にも,自動車を操縦して他の共犯者らを叱咤するなどし,殺害の直接の
実行において,積極的に先導的な行動をとっているといえる。さらに,被
告人Cは,殺害実行の報酬として,Eとほぼ等しい額の約450万円を取得
していながら,少ないとして被告人Aに対し執ように報酬の上乗せを請求
する行動をとっている。
 これらの事情からすると,被告人Cの責任は,共犯者中被告人Bに次い
で重いというべきであり,被告人Cが原審及び当審で反省の態度を示して
いること,原判決後,妻が,受給している生活保護費の中から,平成14年
8月以降毎月5000円程度,合計5万円を償いとして被害者の子どもたち
に送金し,今後も送金を続けたいと述べていること,妻と4人の子供がいる
こと,罰金刑以外の前科はないことなどの酌むべき情状に加えて,共犯者
Eに対する刑との均衡を考慮しても,被告人Cを懲役18年に処した原判
決の量刑が重すぎるとはいえない。上記各弁護人の量刑不当の論旨は
理由がない。
第3よって,次のとおり判決する。
1 被告人A,同B,同Cについて
刑訴法396条により同被告人3名の本件各控訴を棄却し,同被告人3名に
ついて,当審における未決勾留の算入につき刑法21条を,当審における訴
訟費用を負担させないことにつき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適
用して,主文のとおり判決する。
2 被告人Dについて
 被告人Dについては,弁護人のその余の法令適用の誤り及び量刑不当の
各論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判
決中被告人Dに関する部分を破棄し,同法400条ただし書により被告事件
について更に次のとおり判決する。
  (犯行に至る経緯及び罪となるべき事実)
 原判決の(第1及び第2の犯行に至る経緯)及び(罪となるべき事実)の第1
と同一である(ただし,(第1及び第2の犯行に至る経緯)中,7頁16行目の
「被告人Dに電話をかけて呼び出し,」から24行目末尾までを,「被告人Dに
電話をかけて呼び出し,殺人を手伝ってくれれば報酬を支払うなどと持ち掛
けた。それに対して,被告人Dは,ためらいを示したが,報酬欲しさやEらに
怖くなって逃げたと思われたくなかったことなどから,F殺害に加わることと
し,その旨Eに伝え,ここに,被告人Dは,Eを介して,同人,被告人A,同B
及び同Cとの間に,Fを殺害する旨の共謀を遂げた。」と訂正する。)。
(原判示第2の1ないし3の各事実に代えて,当裁判所が新たに認定する事
実)
 被告人Dは,被告人A,同B,同C及びEが原判示第2の1ないし3の行為
をするにつき,これを幇助する意思をもって,被告人A,同B,同C及びEと
共謀の上,原判示第1の行為を行い,もって上記4名の原判示第2の1ない
し3の各犯行を容易にならしめてこれを幇助した。
  (上記認定についての証拠の標目)
 原判決の挙示する原判示第1及び第2の1ないし3の各事実に対する証拠
と同一である。
  (法令の適用)
 被告人Dの行為のうち,原判決が認定した原判示第1の殺人の点は刑法6
0条,199条に,当裁判所が認定した上記行為のうち,原判示第2の1,2の
各詐欺を幇助した点はいずれも包括して同法62条1項,60条,246条に,
原判示第2の3の詐欺を幇助した点は同法62条1項,60条,246条1項にそ
れぞれ該当するところ,上記各罪と原判決がその(確定裁判)の1の(1)で認
定した確定裁判があった罪とは同法45条後段により併合罪の関係にあるか
ら,同法50条によりまだ確定裁判を経ていない上記殺人及び各詐欺幇助の
各罪について更に処断することとし,原判示第1の殺人と当裁判所が認定し
た各詐欺幇助は,1個の行為が4個の罪名に触れる場合であるから,同法5
4条1項前段,10条により一罪として最も重い殺人罪の刑で処断し,所定刑
中有期懲役刑を選択し,処断刑期の範囲内で被告人Dを懲役8年に処し,
原審における未決勾留の算入につき同法21条を適用する。
  (量刑の理由)
 本件は,殺人及び詐欺幇助の事案であるが,殺人及び正犯行為である詐
欺の犯行の事案の重大性,罪質の悪質性については,他の被告人につい
て先に述べたとおりである。
 被告人Dは,共犯者から,報酬を支払うから被害者の殺害に手を貸してく
れるよう頼まれると,全く無関係の人を殺害する話で事情もよく分からないの
に,安易にその場で承諾し,その後共犯者らと行動を共にし,被害者を拉致
して,事故に見せかけて自動車ごと海中に転落させて殺害し,保険金を騙し
取るという重大かつ悪質な犯罪計画であることを知りながら,特にためらうこと
もなく殺害の実行に加担したものである。そこには,被告人Dの人命軽視の
考え方や規範意識の欠如が認められる。また,被告人Dは,実際の殺害の
実行に当たっても,終始共犯者らと行動を共にし,被害者にクロロホルムを
吸引させる際にはその場に立ち会い,その現場から海中へ転落させる現場
まで被害者の自動車を運転し,被害者を乗せた自動車を押して海中に転落
させるのに加わるなどし,また,保険金詐欺を行うための殺人であることを知
りながら,殺人を手伝っているのであり,その報酬として合計100万円を受け
取っているのであって,関与の内容,程度及び手にした利得に照らして,被
告人Dの責任は決して軽くない。加えて,被告人Dは,本件犯行後二度にわ
たり覚せい剤取締法違反の罪を犯し,懲役刑に処せられ服役しているので
あり,規範意識の欠如が認められる。
 これらの事実からすると,被告人Dの刑事責任は相当に重いというべきで
ある。
 他方,被告人Dは,急に殺人への加担を誘われ,自動車の運転役というこ
とで加わることになったものであり,実際にも,事前計画には全く関与せず,
殺害の実際の実行に際しても,補助的な役割を果たしていたにすぎなく,終
始従属的な立場にあったと認められること,被告人Dが取得した報酬は他の
共犯者に比べて格段に低額であること,保険金詐欺については幇助にとど
まること,原審及び当審で反省の態度を示していることなど,被告人Dにとっ
て酌むべき事情も認められる。
 以上の事情その他諸般の情状を総合考慮して,被告人Dを主文掲記の刑
に処することとした。
仙台高等裁判所第1刑事部
裁判長裁判官   松   浦       繁
裁判官   根   本       渉
裁判官   ・   木   順   子

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