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裁判例


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平成20年(む)第18号
主文
本件証拠開示命令請求を棄却する。
理由
第1本件請求の趣旨及び理由
1本件請求の趣旨及び理由は弁護人作成に係る平成20年3月21日付け証拠開示の裁
定請求書のとおりである。論旨は,弁護人が検察官に対し,被告人に関する「取調
べメモ(手控え・取調べ個票・備忘録等取調官(検察官)が被告人に質問した事)
項・これに対する被告人の回答を記載した紙若しくはパソコン等媒体による記録
(以下これらを総称して「取調メモ等」という」について,①それらが刑事訴。)
訟法(以下「法」という)316条の15第1項1号所定の「証拠物」にあたること,。
あるいは,②法316条の20第1項所定の316条の17第1項の主張に関連するものと認め
られる証拠(以下「主張関連証拠」ということがある)にあたることを根拠とし。
て開示を求めたところ,検察官が開示を拒否したので,法316条の26第1項に基づい
て,検察官に証拠の開示を命じることを請求するというものである。
2これに対し,検察官の意見は,平成20年4月4日付け意見書のとおりである。論旨
は,被告人に関する取調メモ等(以下「本件取調メモ等」という)は,法316条。
の15第1項1号の「証拠物」には該当しない上,本件取調メモ等は,供述録取書等の
証拠書類を取りまとめる過程で作成される暫定的なものであって,それ自体証拠開
示の対象とすべき独立の証拠としての価値を有するものとは認められず,法316条
の26第1項の証拠開示命令の対象となる「証拠」には該当しないから本件請求には
理由がないというものである。
第2当裁判所の判断
1本件取調メモ等が法316条の15第1項1号の「証拠物」に該当するか
「証拠物」とは,その存在又は状態が事実認定の資料となる証拠方法をいうもの
と解すべきところ,弁護人は,本件取調メモ等について「検察官の質問と被告人,
の応答の実際をその場で記録した証拠であり,被告人の供述調書中,弁護人が不同
意とした部分の証拠の証明力を判断するための客観的な証拠である」などと主張。
しているのであるから,本件取調メモ等をその存在ないしは状態を事実認定の資料
とするためではなく,その記載ないし記録内容を事実認定の資料として用いるため
に,本件開示請求に及んでいることは明らかである。よって,本件取調メモ等は,
「証拠物」にはあたらず,この点についての弁護人の主張は採用できない。
2本件取調メモ等が主張関連証拠にあたるか
(1)一般に,取調メモ等は,供述者の供述内容や供述態度のほか,当該供述内容等
に関する取調官の感想,当該供述等との関係において検討すべき別途収集された
証拠の内容等の概要,供述者の供述内容等を踏まえた上で今後必要と思われる捜
査の内容等が記載ないし記録されているものと推認することができるところ,こ
のような取調メモ等が,供述者を取り調べた際の状況を推知させるための重要な
資料となることは明らかである。そして,刑事訴訟規則198条の4第1項が「検察
官は,被告人又は被告人以外の者の供述に関し,その取調べの状況を立証しよう
とするときは,できる限り,取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に
関する資料を用いるなどして,迅速かつ的確な立証に努めなければならない」。
と規定していることに鑑みれば,取調状況を推知させる資料となり得る取調メモ
等は,単なる個人的メモの領域を超えた捜査関係の公文書とみる余地があり,本
件取調メモ等が証拠開示命令の対象となる「証拠」に該当しないとの検察官の主
張はこれをたやすく採用することはできない。
(2)そこで,本件取調メモ等が主張関連証拠にあたるかについてさらに検討する。
弁護人は,平成20年2月13日,検察官の証拠請求に係る被告人の検察官面前調書
(乙8,9)中の一部を不同意とした上で,その理由として,刑事訴訟法198条3項
の供述録取権を濫用したものであって違法証拠であり,あるいは信用性がない旨
主張し,さらに,同月29日付け「意見書」において,上記主張を補充するものと
して,各供述調書に関し,概要以下のとおり述べる。
①乙8号証の不同意部分のうち,1回目の実行行為のうち「Aの左脇腹あたり,
を目がけて上から下に下ろすようにして包丁を刺しました」との部分「私。,
はその包丁がそれ以上刺さらなくなる所まで刺しましたとの部分及び私,。」「
は,はっきりとは覚えていませんが,刺さった状態でAが体を動かし,私も包
丁の刃をへその方に動かしたので,その時,Aのお腹が横方向にも切れたと思
います」との部分は,被告人が検察官の質問に答えてもいないか,あるいは。
質問に対する答えを十分確定しないままに,検察官が裁判所に殺意の存在を認
めさせるために有利な供述として記載したものである。
②乙9号証の不同意部分には,
問腹を刺したらAはどうなると思ったのか。
答刺したときは,Aがどうなるなどと考える余裕もありませんでした。
問Aを殺さないようにしようと思う余裕はあったのか。
答そんなことを考える余裕はありませんでした。
問余裕がなかったのはなぜか。
答カッとなってすぐに刺したので,考える余裕もなかったのでした。
との記載がある。この質疑の中心は「Aを殺さないようにしようと思う余裕,
。」,,。はあったのかでありこの質問を中心中核として質疑が構成されている
ここの一連の記載(録取)は検察官において被告人の殺意がないとの弁解を否
定するために考え出したものと考える。被告人はその前の「腹を刺したらAは
どうなると思ったのか」という質問に「刺したときは,Aがどうなるなど。,
と考える余裕もありませんでした」と答えているから,それで質疑は完結さ。
。「。」れているそれ以上にAを殺さないようにしようと思う余裕はあったのか
と質問する必要はなく不当な誘導尋問である。実際の取調べの際,上記記載の
ごとく「問」と「答」とがあったとは考えにくく,供述調書の作成にあたっ,
て検察官が勝手に質問と答えという形で供述を構成したと考えられる。
(3)弁護人の上記主張は,要するに弁護人が不同意とした部分には,被告人が明確
には述べていないこと(乙8,あるいは,被告人と検察官との間で実際にはな)
かったやりとり(乙9)が記載されていると主張するものであり,本件取調メモ
等は,かかる主張と関連する証拠であるというものと解することができる。
しかしながら,そもそも,基本事件における最大の争点は,被告人が殺意を有
していたのかという点にあるところ,一般に,殺意の有無が問題となるような事
態の下では,行為者も相当高度の興奮状態にあるのが通常なのであるから,その
当時の心理状態を正確に認識し,かつこれを記憶することが困難な場合が多いの
であって,殺意の有無に関する行為者の供述には,往々にして記憶に基づくもの
ではなく,行為当時の情況を追想ないし聞知した結果から判断した意見にすぎな
いものがあるとみるべきである。従って,殺意の有無を認定するにあたっては,
行為当時の認識についての行為者の供述よりも,創傷の部位及び程度,凶器の種
類及び用法,動機の有無,犯行後の行動等といった情況証拠を重視し,それらを
総合して認定することが相当である。そうすると,基本事件の争点に対する判断
にあたっては,弁護人が不同意との意見を述べる被告人の供述調書よりも,掲記
の情況証拠を重視するべきであり,前記供述調書中の不同意部分が供述録取権の
濫用にあたるとか,信用性がないとかということは,被告人側が防禦をするにあ
たって,さほどの重要性を持つものではないというべきである。
また,取調メモ等が取調状況を推知させる資料となり得ることは前記のとおり
であるものの,それらは,捜査官において,供述調書等の捜査書類を作成する際
の備忘録として使用されている面を有しているのであるから,取調べの際の供述
者の態度や取調官と供述者との問答を逐一記載したものではないものと推認する
ことができる。そうすると,仮に本件取調メモ等に記載ないし記録されていない
ことが供述調書中に記載されていたとしても,そのことをもって,直ちに取調べ
の際に被告人が述べていないこと(乙8)や実際にはなかったやりとり(乙9)が
調書に記載されたとの事実を推認することはできないのであり,結局,本件取調
メモ等が,弁護人主張に係る事実の認定に資する度合いは極めて乏しいというほ
かない。
してみると,検察官は,本件取調メモ等を開示することによって生じるおそれ
がある弊害の内容及び程度について特段の主張はしていないものの,弁護人の前
記主張と本件取調メモ等とは,関連性が乏しく,開示の必要性が認められないか
ら,開示をすることが相当であるとは認められない。
(4)従って,本件取調メモ等は,法316条の26第1項所定の「開示をすべき証拠」に
は該当しない。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・鬼頭清貴,裁判官・安達拓,裁判官・齊藤学)

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