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平成15年7月8日宣告   平成15年刑(わ)第579号,同737号,同1056号,同148
7号  おれおれ詐欺事件
              主文
被告人を懲役3年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は,金員を詐取しようと企て,
第1 平成15年2月3日午前9時57分ころ,川崎市内から東京都港区ab丁目c番d号A
方に電話をかけ,同人の妻B(当時76歳)に対し,同女の子供を装って,「俺,俺。今,川
崎にいるんだ。ヤクザに麻薬のことで捕まってしまった。大変なことになった。800万円持
ってすぐに川崎に来てくれ。500万円でもいいからすぐにf駅に持って来てくれ。親父や警
察には言わないでくれ。f駅に着いたら000-0000-0000に電話してくれ。」などと虚
言を申し向け,更に同日,川崎市内において,上記電話番号に電話をかけてきた同女に
対し,「南武線のe駅に行ってくれ。」「俺は行けない。山田さんという人が金を受け取りに
行くから。」などと虚言を申し向け,同女をしてその旨誤信させて金員の交付を受けようと
したが,警察官に逮捕されたためその目的を遂げず
第2 同年1月24日午前10時ころ,川崎市内から東京都港区fg丁目h番i号C(当時78
歳)方に電話をかけ,同女に対し,同女の子供を装って,「俺,俺なんだけど,今ヤクザに
捕まっているんだ。すぐに800万円持ってf駅に来てくれ。500万円でもいいから急いで持
って来てくれ。f駅に来たら000-0000-0000に電話してくれ。」などと虚言を申し向
け,更に川崎市内から上記番号に電話をかけてきた同女に対し,「南武線のj駅に来てく
れ。」などと申し向け,同女をしてその旨誤信させ,よって,同日午後1時30分ころ,川崎
市k区l番地付近路上において,同女から現金500万円の交付を受け,もって,人を欺い
て財物を交付させ
第3 同年2月3日午前10時11分ころ,川崎市内から東京都港区mn丁目o番p号D(当
時72歳)方に電話をかけ,同女に対し,同女の甥を装って,「俺,俺だけど,薬を売ったこ
とでヤクザに捕まっている。ヤクザがいるので大きな声でしゃべれないけど,500万円持
って来てくれ。500万円ないとヤクザに殺されちゃう。早く金を用意してJRf駅に持って来
てくれ。f駅に着いたら000-0000-0000に電話してくれ。」などと虚言を申し向け,同
女をしてその旨誤信させ,よって,同日午後0時10分ころ,川崎市f区qr番地s歩道橋上
において,同女から現金500万円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を交付させ
第4 同日午後2時1分ころ,川崎市内から東京都港区tu丁目v番w号E(当時76歳)方
に電話をかけ,同女に対し,同女の子供を装って,「俺,俺だけど,サラ金に借金して暴力
団に捕まって監禁されている。800万円あれば助かるから,すぐに川崎駅に800万円持
って来てくれ。」などと虚言を申し向け,同女をしてその旨誤信させて金員の交付を受けよ
うとしたが,同女が警察官に届け出たため,その目的を遂げず
第5 平成14年11月14日午後0時37分ころ,川崎市ab区x番yF方から東京都台東区
z丁目aa番bb号G(当時54歳)方に電話をかけ,同女に対し,同女の子供を装って,「俺,
俺。やばいことになっちゃって,今,ヤクザに捕まっちゃった。脅されて殺されちゃうから。
俺の携帯も取られちゃったから電話しないで。隣にヤクザいるから。川崎に来て。800万
円を用意して持って来て。fの駅のAAとBBの裏のところに来て。」などと虚言を申し向け,
同女をしてその旨誤信させ,よって,同日午後2時40分ころ,東京都大田区cc丁目dd番
ee号先路上において,同女から現金800万円の交付を受け,もって,人を欺いて財物を
交付させ
たものである。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が5回にわたり,高齢者の自宅にその子供等を装って電話をかけ,
「俺,俺。今ヤクザに捕まっていて殺されそうなので,800万円(又は500万円)を用意し
て早く持って来てくれ。」等と嘘を言って高齢者をその旨誤信させ,うち3回は800万円又
は500万円の現金を実際に騙し取り,うち2回は警察に届けられたため未遂に終わったと
いう事案である。被告人の犯行は,判断能力の乏しい高齢の女性を狙い,その子供や親
族を思う心情につけ込んで老後の貴重な蓄えとなる財産を騙し取り,又は騙し取ろうとし
たものであり,その態様は,まことに卑劣であって悪質である。被害額の合計は1800万
円に上っていて財産的損害が大きいことはもちろんであるが,未遂に終わった者も含め
て,各被害者はいずれも自己の子供等がヤクザがらみのトラブルに巻き込まれたと聞い
て,大きな精神的苦痛を受けたものであり,その処罰感情は現在でも揺らいでおらず,本
件の結果は重いというべきである。また,被告人は,自己が経営する会社の資金繰りに窮
していたところ,テレビ番組にヒントを得て本件犯行を思いつき,電話ボックスから盗んだ
電話帳を使って高齢者らしき名前の女性の自宅に次々と電話をかけ,「俺,俺」などと前
記の言葉を言って,脈があった女性に現金を準備させて自己の携帯電話に通話させ,待
ち合わせ場所まで変装して行って現金を受け取るという手口で次々と犯行を重ねたもの
であり,起訴されていない同種余罪の存在を多数自供していることをも併せ考えると,そ
の計画性や常習性は顕著というべきである。以上によれば,被告人の刑事責任は重い。
 そうすると,既遂になった3名の被害者に対しては,被告人が弁償したり騙取した現金を
提出したりしたことにより被害回復が図られ,余罪の被害者1名に対しても被害の一部を
弁償していること,被告人が事実を素直に認めて反省の態度を示し,余罪の他の被害者
に対しても出来る限りの被害弁償を行うと述べていること,被告人の婚約者と将来の雇い
主が被告人のために真摯な証言をしたこと,被告人にこれまで前科・前歴が全くないこと
等被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,前記の本件事案の悪質性からすれ
ば,被告人を主文の実刑に処するのが相当と判断した。
平成15年7月8日
東京地方裁判所刑事第2部
裁判官   杉  山  愼  治

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