弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1甲事件訴えのうち,A株式会社及びB株式会社に対する平成25年度から平
成27年度までの固定資産税,都市計画税及び事業所税の軽減措置の差止めを
求める部分を却下する。
2甲事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3乙事件訴えのうち,A株式会社及びB株式会社に対する平成25年度から平
成27年度までの各補助金の交付の差止めを求める部分を却下する。
4乙事件原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用は,甲事件原告らに生じた費用と甲事件被告に生じた費用を甲事件
原告らの負担とし,乙事件原告らに生じた費用と乙事件被告に生じた費用を乙
事件原告らの負担とする。
事実及び理由
以下,次のとおり略語を用いる。
甲事件原告ら及び乙事件原告ら→原告ら
甲事件被告→被告市長
乙事件被告→被告知事
被告市長及び被告知事→被告ら
A株式会社→A
B株式会社→B
C株式会社→C
D株式会社→D
株式会社E→E
F株式会社→F
株式会社G→G
D,B及びF→関連三社
H株式会社→H
I股份有限公司→I
Iが中心となる企業グループ→Jグループ
K株式会社→K
堺市企業立地促進条例の一部を改正する条例(平成22年堺市条例第11号)に
よる改正前の堺市企業立地促進条例(平成17年堺市条例第21号)
→本件堺市条例
堺市企業立地促進条例施行規則(平成17年堺市規則109号)
→本件堺市規則
地方税法6条2項の規定に基づく不均一課税に係る措置
→不均一課税措置
本件堺市条例に基づく固定資産税,都市計画税及び事業所税の軽減措置
→本件不均一課税措置
堺市市税条例(昭和41年堺市条例第3号)
→市税条例
大阪府企業立地促進条例(平成19年大阪府条例第8号)
→本件大阪府条例
大阪府補助金交付規則(昭和45年大阪府規則85号)
→交付規則
平成20年大阪府規則第73号による改正前の大阪府先端的な技術開発等が期待
される事業分野における企業立地促進補助金の上限額を定める規則(平成19年大
阪府規則第62号→上限規則
大阪府企業立地促進補助金交付要綱→要綱
大阪府企業立地促進補助金実施要領→要領
本件大阪府条例に基づく大阪府企業立地促進補助金(先端産業補助金)
→先端産業補助金
被告知事によるCに対する平成19年12月7日付け先端産業補助金交付決定
→本件A補助金決定
被告知事によるBに対する平成20年1月18日付け先端産業補助金交付決定
→本件B補助金決定
本件A補助金決定及び本件B補助金決定
→本件各補助金決定
近畿圏の既成都市区域における工場等の制限に関する法律
→工場等制限法
ライトレールトランジット→LRT
第1請求
1甲事件
(1)被告市長は,A及びBに対する本件不均一課税措置を行ってはならない。
(2)被告市長は,Cに対し,4億8546万2700円及びこれに対する平成
24年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請
求せよ。
(3)被告市長は,Aに対し,52億5087万5700円及びこれに対する平
成25年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう
請求せよ。
(4)被告市長は,Dに対し,5億1990万9900円及びこれに対する平成
24年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請
求せよ。
(5)被告市長は,Eに対し,7210万0350円及びこれに対する平成24
年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せ
よ。
(6)被告市長は,Fに対し,8億0672万7500円及びこれに対する平成
24年6月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請
求せよ。
(7)被告市長は,Bに対し,19億2226万0100円及びこれに対する平
成25年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう
請求せよ。
2乙事件
(1)被告知事は,Cに対し,8174万8000円及びこれに対する平成21
年5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せ
よ。
(2)被告知事は,Aに対し,13億6000万円及びこれに対する平成22年
5月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せ
よ。
(3)被告知事は,Aに対し,13億5600万円及びこれに対する平成23年
5月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せ
よ。
(4)被告知事は,Aに対し,13億5600万円及びこれに対する平成24年
5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せ
よ。
(5)被告知事は,Aに対し,7億1400万円及びこれに対する平成24年9
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(6)被告知事は,Dに対し,5億2505万7000円及びこれに対する平成
24年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請
求せよ。
(7)被告知事は,Fに対し,3億6802万2000円及びこれに対する平成
24年5月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請
求せよ。
(8)被告知事は,Bに対し,6億円及びこれに対する平成21年5月29日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(9)被告知事は,Bに対し,6億円及びこれに対する平成22年5月25日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(10)被告知事は,Bに対し,6億円及びこれに対する平成23年5月24日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(11)被告知事は,Bに対し,6億円及びこれに対する平成24年5月26日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(12)被告知事は,Bに対し,6億円及びこれに対する平成24年6月30日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(13)被告知事は,Aに対し,平成24年9月1日以降,本件A補助金決定に
基づく補助金の交付をしてはならない。
(14)被告知事は,Bに対し,平成24年6月30日以降,本件B補助金決定
に基づく補助金の交付をしてはならない。
第2事案の概要
1事案の要旨
(1)甲事件は,堺市の住民である甲事件原告らが,本件不均一課税措置をC,
A,関連三社及びEに適用することは地方税法6条2項に違反すると主張し
て,被告市長に対し,①A及びBに対する平成25年度分から平成32年
度分の本件不均一課税措置の差止めを求める(請求1(1))とともに,②不
当利得返還請求権に基づき,C,A,関連三社及びEに対し,平成21年度
分から平成24年度分までに適用された本件不均一課税措置による各税の減
免額の返還及びこれに対する遅延損害金の支払請求の義務付けを求める(請
求1(2)から(7)まで)住民訴訟である。
(2)乙事件は,大阪府の住民である乙事件原告らが,大阪府がC,関連三社及
びAに対して,先端産業補助金を交付することは公益上の必要性を欠くもの
であるから,地方自治法232条の2に違反すると主張して,被告知事に対
し,①既にされた本件各補助金決定に基づくA(平成25年度から平成3
3年度まで)及びB(平成25年度から平成27年度まで)に対する先端産
業補助金の交付の差止めを求める(請求2(13)及び(14))とともに,②不
当利得返還請求権に基づき,C,A及び関連三社に対する平成20年度分か
ら平成24年度分までに交付された先端産業補助金の返還及びこれに対する
遅延損害金の支払請求の義務付け(請求2(1)から(12)まで)を求める住民訴
訟である。
2関係法令等の定め
別紙2関係法令等に記載のとおり
3前提事実(争いのない事実,各項掲記の証拠(以下,枝番号のあるものは特
記なき限り枝番号を全て含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定すること
ができる事実並びに顕著な事実)
(1)当事者等
ア原告ら
甲事件原告らは,いずれも肩書記載の住所地に住所を有する堺市の住民
である。
乙事件原告らは,いずれも肩書記載の住所地に住所を有する大阪府の住
民である。
イ被告ら
被告市長は,普通地方公共団体である大阪府堺市の執行機関である。
被告知事は,普通地方公共団体である大阪府の執行機関である。
ウC,A,E及び関連三社
(ア)Cは,大阪市a区b町c番d号に本店を有し,通信機械器具の製造及
び販売等を目的とし,昭和10年5月1日に設立された株式会社である
(弁論の全趣旨)。
(イ)Aは,大阪府堺市e区f町g番地に本店を有し,液晶ディスプレイの
開発,製造,販売及び輸出入等を目的とし,平成21年4月1日に設立
された株式会社である。なお,Aの設立当初の商号は「L株式会社」で
あったが,平成24年7月17日に「A株式会社」に商号変更された。
(以上につき甲153,弁論の全趣旨)
(ウ)Eは,大阪府堺市e区f町g番地に本店を有し,電気機器用品の設計,
製造及び販売等を目的とし,平成20年8月1日に設立された株式会社
である(弁論の全趣旨)。
(エ)Dは,東京都新宿区h町i丁目j番k号に本店を有し,製版,印刷及
び製本並びにこれらの製品の販売等を目的とし,明治13年5月30日
に設立された株式会社である(弁論の全趣旨)。
(オ)Fは,東京都台東区lm丁目n番o号に本店を有し,製版,印刷,製
本及びこれらに関連する各種加工並びにその製品の販売等を目的とし,
明治41年6月4日に設立された株式会社である(弁論の全趣旨)。
(カ)Bは,東京都港区pq丁目r番s号に本店を有し,特殊精密成型ガラ
スの製造,輸出入及び販売等を目的とし,昭和46年3月3日設立され
た株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2)Cの三重県亀山市への進出
Cは,平成13年頃から三重県との間で企業立地について交渉を始め,平
成14年2月に同県亀山市に進出する旨の記者発表を行い,同県において平
成15年4月に創設された「産業集積促進補助金」(情報通信関連業種の工
場等の新設で投下固定資産額が600億円以上の大型工場のみを対象とし,
補助金額は,投下固定資産額の15%(限度額90億円,最大15年分割))
及び亀山市による一定の奨励金の交付を受けて同市内に新工場を建設した。
三重県の平成17年度における県税収入(法人事業税・法人県民税)は平成
15年度との比較において約27億円増となり,亀山市の平成17年度にお
ける市税収入は平成15年度との比較において約28億円増となり,亀山市
は平成17年度には地方交付税の不交付団体となったなどと公表された。な
お,Cは,平成21年3月期の決算において初の連結営業赤字が記録され,
同年8月31日,亀山市に所在する工場の一部を中国企業に売却する旨発表
した。(以上につき甲1,32,33,46,47)
(3)堺市及び大阪府による企業誘致の経緯等(主として平成19年中の動き)
アM地区における遊休地等
N港の一画であって,O河口付近の南岸に所在するM地区は,昭和37
年にHがP製鉄所の操業を開始した地域であり,Hは工場用地としてM地
区を埋め立てて,製鉄所用地を拡張してきた(乙59。なお,このO河口
付近南岸のS高速道路4号湾岸線より西側部分の「コ」の字の形状をした
地域を「Q」という。)。その後,Hは,製鉄事業の再編を進める中で,
平成2年にP製鉄所を休止し,これによりHが埋め立てて開発したQを含
む工場用地が遊休化することとなった(甲71,81,乙59)。
平成4年には大阪湾臨海地域開発整備法が施行され,平成5年には,大
阪府,堺市,H及びT株式会社らによりRエリア開発整備協議会が発足し,
Hの遊休地の利用開発をめぐってRエリア開発整備構想試案が発表される
などしたが,バブル経済後の民間需要の低迷等によりまちづくりの具体的
計画が進まなかった。平成12年には,Qの最西端部分(約16ヘクター
ル)に「U」が設置され,平成14年には都市再生特別措置法が施行され,
Qの一部(南側部分)が都市再生緊急整備地域として指定され(後のM中
小企業クラスター),平成16年にはQ内にO付近を通行して進入する道
路である「北ルート」の供用が開始された。平成18年2月頃,N港港湾
計画書が改訂され,Qは,その東側から南側は生産ゾーンと,南側は一般
貨物を扱う物流関連ゾーンと,西側は緑地レクリエーションゾーンと,北
泊地周辺は交流拠点ゾーンとして,それぞれの利用方針が決められ,同年
4月時点において,Qの「コ」の字の中心部付近に設けられた商業・アミ
ューズメント施設「V」が開業し,また今後の活用方針として,上記緑地
レクリエーションゾーンに大規模地震対策施設の設置,上記生産ゾーンに
成長分野の都市型産業の集積拠点である「M中小企業クラスター」の形成
が予定された(「M中小企業クラスター」は平成21年の開業を目指して
いた。)。(以上につき甲1,71,81,84,104,105,乙5
9,丙42の1)
イ堺市及び大阪府によるCの工場誘致に向けた動き等
被告知事は,平成18年8月22日,C本社を訪ね,「Mへの立地のご
案内」(大阪府・堺市・H作成)を提示した(甲27,丙27の1,60)。
以後,堺市職員又は大阪府職員は,平成18年9月中に3回,平成19
年1月中に1回,同年2月中に4回,同年3月中に3回,同年5月中に1
回,同年7月中に1回,C本社を訪れた(甲28から30まで,50,乙
26,27,丙24,27)。
ウCによるMの工場用地の取得等
Cは,平成19年7月31日,M(Q)への新工場建設を発表した(甲
1)。
Cは,同年9月4日,Hとの間で,Cの工場建設予定地としてQ内の堺
市t区u町の土地の売買契約を締結し,その頃,同土地の引渡しを受けた
(乙78,弁論の全趣旨)。
Cは,同年10月2日,堺市に対して,建築確認申請をし,同月30日,
堺市は,Cに対して建築確認済証を交付した。
Cは,同年12月1日,Qの新工場の建設に当たり起工式を執り行った。
(4)堺市による企業立地計画の認定等
ア本件堺市条例の制定
堺市は,平成17年3月31日,本件堺市条例を制定した。本件堺市条
例は,同年4月1日に施行された。(以上につき甲2)
イ堺市におけるM整備推進室の設置
堺市は,平成19年11月,堺市M整備推進室設置規則に基づいて,M
整備推進室を設置した(甲56,弁論の全趣旨)。
ウ企業立地計画の認定
被告市長は,平成20年3月31日,Mに企業立地を行った企業のうち,
企業立地計画の認定を申請していたC及び関連三社に対し,本件堺市条例
3条3項に基づいて企業立地計画の認定をした(乙4,43)。
(5)大阪府による先端産業補助金の交付決定等
ア本件大阪府条例の制定等
大阪府は,平成19年,本件大阪府条例及び上限規則を制定したほか,
同年7月に要綱を改正し,先端産業補助金の上限を1社につき30億円か
ら150億円に引き上げた。なお,その後,大阪府は,平成20年8月に
上限規制を改正し,先端産業補助金の上限を,1社につき150億円から
1地域につき150億円に変更した。(以上につき甲83,丙25,弁論
の全趣旨)
イ大阪府先端産業審査委員会による認定と先端産業補助金の交付決定等
(ア)要綱において,先端産業補助金の交付申請に当たっては,有識者で構
成する大阪府先端産業審査委員会において先端的な技術又は研究開発を
伴う事業であると認定されなければならないと定められているところ,
Cは平成19年9月19日に,関連三社は平成19年11月から平成2
0年2月までの間に,それぞれ上記認定を受けた(丙8)。
(イ)被告知事は,平成19年12月7日,Cに対し,要綱13条に基づき,
約2120億円の補助対象経費に対して基本補助率5%を乗じた約10
6億円に30億円(300億円の10%)を加えた約135億9000
万円の先端産業補助金を交付する旨の本件A補助金決定をした(丙9の
1の1,9の2の1,52の1の1)。
(ウ)また,被告知事は,平成20年1月18日,要綱13条に基づき,D
に対し約435億円の補助対象経費に対して補助率5%を乗じた約22
億円に15億円(300億円の5%)を加えた約36億7000万円の
先端産業補助金を交付する旨の決定を,Bに対し約700億円の補助対
象経費に対して補助率5%を乗じた約34億7000万円の先端産業補
助金を交付する旨の本件B補助金決定をし,さらに,同年2月29日,
同条に基づき,Fに対し,約420億円の補助対象経費に対し補助率5%
を乗じた約21億円に15億円(300億円の5%)を加えた約36億
円の先端産業補助金を交付する旨決定した(丙9,52)。
(6)液晶パネル製造事業の操業に向けた再編等
アCについて
(ア)Cは,平成21年4月1日にAを100%子会社として設立し,同年
7月1日に,P工場の事業をAに承継した(甲153,丙61)。
液晶パネル製造事業の実施方法は,①財産についてCが土地を所有
し,Aが建物及び機械設備等を所有し,②業務分野について製品であ
る液晶パネル及び液晶モジュールの製造及び販売をAが行い,製品の製
造に必要となる資材等の調達をCが行うこととされた(丙62)。
(イ)Cは,Aとの共同により事業を実施するため,被告市長に対し,平成
21年5月1日に本件堺市条例6条1項により企業立地計画変更認定申
請書(乙69)を,同年10月14日に本件堺市条例7条により堺市企
業立地計画認定事業開始届出書(乙70)を提出した。
同年7月1日,Cからの事業承継によりAが固定資産(建物及び機械
設備等)を所有することとなり,Aは,本件不均一課税措置の対象者と
なった(乙45の1,46の1)。
なお,C及びAの申請に基づいて,Cは,平成22年度以降,固定資
産税,都市計画税及び事業所税について本件不均一課税措置の適用を受
け,Aは,平成21年度の事業所税並びに平成22年度以降の固定資産
税,都市計画税及び事業所税について本件不均一課税措置の適用を受け
た(乙45の1,46の1,89,90,92,94,95,弁論の全
趣旨)。
(ウ)Cは,平成21年6月30日,被告知事に対し,要領5条1項及び同
条4項に基づき,子会社であるAとの共同により補助事業を実施する旨
の申請をし(丙64),被告知事は,同年8月6日付けで同申請を承認
した(丙65)。
共同による事業を開始した平成21年度以降,C及びA間においては,
補助事業に係る経費をAが負担していた。そのため,平成21年度以降
の先端産業補助金は,経費を全て負担したAに交付された。
イDについて
(ア)Dは,平成20年8月1日に100%子会社Eを設立し,平成21年
8月1日,P工場の事業をEに請け負わせた(丙66)。
当初の液晶パネル製造事業の実施方法は,①財産について,DがC
から土地を賃借し,当該土地上に建物及び機械設備等を所有し,②業
務分担について,Dが商品の企画,受注及び販売をし,Eは,製品であ
る液晶パネル用カラーフィルターの製造を行うというものであった(丙
67)。
(イ)Dは,Eとの共同で事業を実施するため,被告市長に対し,平成21
年8月28日に本件堺市条例6条1項により堺市企業立地計画変更認定
申請書(乙71)を,同年10月1日に本件堺市条例7条により堺市企
業立地計画認定事業開始届出書(乙72)を提出した。共同事業開始当
初は,Dが固定資産(建物及び機械設備等)を所有しているため,固定
資産税,都市計画税及び事業所税に係る本件不均一課税措置の対象者は,
Dであった(乙45の3,46の3)。その後,各申請に基づいて,D
が,平成22年度以降の固定資産税及び都市計画税について,平成24
年度以降の固定資産税,都市計画税及び事業所税について本件不均一課
税措置の適用を受け,Eが,平成22年度の事業所税について,平成2
3年度以降の固定資産税及び事業所税について本件不均一課税措置の適
用を受けた(乙45の3,46の3,90,92,94,弁論の全趣旨)。
(ウ)Dは,平成21年8月19日,被告知事に対し,要領5条1項及び同
条4項に基づき,Eとの共同により補助事業を実施する旨の申請をし(丙
68),被告知事は,同年11月4日付けで同申請を承認した(丙69)。
共同による事業を開始した平成21年度以降も,補助事業に係る経費の
全てをDが負担していたため,先端産業補助金はDに交付された。
ウFについて
(ア)Fは,平成21年4月1日に100%子会社Gを設立し,同年10月
1日に,P工場の事業をGに請け負わせた(丙70)。液晶パネル製造
事業の実施方法は,①財産について,FがCから土地を賃借し,当該
土地上に,建物及び機械設備等を所有する,②業務分担について,F
が商品の企画,受注及び販売をし,Gは,製品である液晶パネル用カラ
ーフィルターの製造を行うという内容であった(丙71)。
(イ)Fは,Gとの共同で事業を実施するため,被告市長に対し,平成21
年9日1日に本件堺市条例6条1項により企業立地計画変更認定申請書
(乙73)を,同年11月1日に本件堺市条例7条により堺市企業立地
計画認定事業開始届出書(乙74)を提出した。共同事業を開始してか
らも,Fが,固定資産(建物及び機械設備等)を所有しているため,本
件不均一税の対象者はFであり(本件堺市条例4条),Fは,その申請
に基づいて,平成22年度以降の固定資産税,都市計画税及び事業所税
について本件不均一課税措置の適用を受けた(乙45の2,46の2,
90,92,94,弁論の全趣旨)
(ウ)Fは,平成21年10月21日,被告知事に対し要領5条1項及び同
条4項に基づき,Gとの共同により補助事業を実施する旨の申請をし(丙
72),被告知事は,同年11月4日付けで同申請を承認した(丙73)。
平成21年度以降も,補助事業に係る経費の全てをFが負担していたた
め,先端産業補助金はFに交付された。
エBについて
Bは,その申請に基づいて,平成21年度の事業所税及び平成22年度
以降の固定資産税及び事業所税について,本件不均一課税措置の適用を受
けた(乙45の4,46の4,91,93,95,弁論の全趣旨)。
オ操業開始
C,A,D及びBは,平成21年10月1日,いずれも操業を開始し,
F及びGは,同年11月1日,操業を開始した(乙45,70,72から
74まで,丙91,94)。
(7)平成24年の液晶パネル製造事業の再編等
アCによる新たな業務提携
Cは,平成24年3月27日,Iが中心となるJグループとの戦略的グ
ローバル・パートナーシップ(業務提携)の構築に関して,「Iの購買力
を活用したP工場の操業安定化とコスト競争力強化」として,Iにおいて,
Aが生産する液晶パネル及びモジュールを最終的に50%まで引き取り,
両社が「ワンカンパニー」として共同で事業運営を行うことにより,P工
場の操業安定化を実現し,液晶パネルや液晶テレビ分野において,両社併
せた生産規模によるスケールメリットや部材調達力を活かし,国際コスト
競争力強化を実現することを発表するとともに,被告らにも同内容を報告
した(甲154,丙74,弁論の全趣旨)。
イC,F及びDの事業のAへの統合
C,F及びDは,平成24年4月10日,三社連名で,A(Cの子会社)
に対するF及びDのP工場における液晶カラーフィルター事業の統合に係
る基本合意を締結し,被告らにその内容を報告した(丙75,弁論の全趣
旨)。
C,F及びDは,同年5月24日,三社連名により,Aに対するF及び
DのP工場における液晶カラーフィルター事業の統合(吸収分割)に関し,
「液晶カラーフィルター事業のAへの統合」について,会社分割の方法は,
F,D及びEを分割会社とし,Aを承継会社とする吸収分割とすることを
発表するとともに,被告らにも同内容を報告した(丙76,弁論の全趣旨)。
ウCからAへの事業の譲渡
C及びAは,P工場の液晶パネル製造事業について,経営の効率化,コ
スト競争力の強化及び操業の安定化を目的にAに統合することとし,Cは,
平成24年6月14日,被告知事に対し,要領5条5項に基づき,共同に
よる補助事業者の地位をAに承継し,補助事業者をAの単独にする旨の申
請をした(丙74,79)。
被告知事は,より確実に操業義務が果たされると判断し,同月26日,
共同事業におけるCの補助事業者の地位をAに承継することを承認し,ま
た,同日付で補助金の交付決定について,CからAへの変更決定を行った。
その結果,先端産業補助金の補助事業者は,当初はCであったところ,C
及びAの共同事業を経て,上記のとおりAとなった(甲157,丙80,
81)。
Cは,同月27日,Aと共同で行っていたP工場の液晶パネル製造事業
をAに譲渡し,Aは,同年7月10日,被告市長に対し,Cから共同で行
っていたP工場の液晶パネル製造事業の譲渡を受けたとして,本件堺市条
例11条により,堺市認定企業等の地位承継の承認申請をし,同月27日,
被告市長によりその承認を受けた(乙75)。
エAの商号変更等
(ア)Cは,平成24年7月12日,CとIが,Aの株式を共有するととも
に,Aで生産する液晶パネルをそれぞれが50%ずつ引き取ることで,
Aを共同で事業運営することとなり,同月17日付けでAの商号につい
ても「A株式会社」に変更することを発表するとともに,被告らにも同
内容を報告した(甲154,155,丙77,弁論の全趣旨)。
(イ)C,D及びFは,平成24年8月11日,三社連名により,同日付け
でAに対しF及びDのP工場における液晶カラーフィルター事業が承継
され,Aが新株を発行し,同社の株式がF及びDに割り当てられ,その
結果,Aの持ち株比率は,C37.61%,Jグループ37.61%,
F9.54%,D9.54%,A(自己株式)5.70%となったこと
を発表するとともに,被告らに同内容を報告した(丙76,78,弁論
の全趣旨)。
(ウ)被告知事は,数回にわたる部分確定及び変更を経て,平成24年8月
16日,交付規則13条により,Aに対する先端産業補助金の交付決定
金額を次のとおり確定した(丙36の3の3,92の2)。
平成19年度0円
平成20年度8174万8000円
平成21年度13億6000万0000円
平成22年度から平成23年度まで
各13億5600万0000円
平成24年度から平成32年度まで
各7億1400万0000円
平成33年度7億0843万2000円
合計112億8818万0000円
オAへの再編
(ア)D及びEについて
a被告知事は,数回にわたる部分確定及び変更を経て,平成24年5
月16日,交付規則13条により,D及びEに対する先端産業補助金
の交付決定金額を次のとおり確定した(丙36の5の1,94)。
平成19年度0円
平成20年度3億0000万0000円
平成21年度から平成28年度まで
各6億0000万0000円
平成29年度7913万5000円
合計51億7913万5000円
bDは,P工場における液晶カラーフィルター事業をAに譲渡するこ
ととなったため,先端産業補助金に係る補助事業により取得した財産
(建物及び機械設備等)をAに譲渡することとなり,平成24年8月
6日,要綱31条2項(当時)に基づき,取得財産の処分承認申請書
を大阪府に提出した(丙82の1,83)。これに対し,被告知事は,
同条4項に基づき,Dから補助金に係る補助対象資産の未償却年数相
当補助金額(分割交付により今後交付する予定の金額を除く。)15
億7494万3000円の納付を受けた上で,同月10日,同社に対
し,取得財産の処分の承認を行った(甲159,160,丙84から
86まで)。
なお,平成24年8月10日時点におけるDに対する先端産業補助
金交付額等は,①財産処分承認前の補助金交付決定(確定)額が5
1億7913万5000円,②交付済みの補助金額が21億円,③
補助対象資産の未償却年数に相当する補助金の額が46億5407万
8000円,④今後交付する予定であった補助金の額が30億79
13万5000円,⑤納付を受けた金額(③-④)が15億749
4万3000円であり,大阪府がDに対して交付した先端産業補助金
の合計額から同社から納付を受けた金額を控除した残額(②-⑤)は,
別紙6記載のとおり,5億2505万7000円であった(丙83の
2)。
(イ)F及びGについて
a被告知事は,数回にわたる部分確定及び変更を経て,平成24年6
月12日,交付規則13条により,F及びGに対する先端産業補助金
の交付決定金額を次のとおり確定した(丙36の6の3,96の2)。
平成19年度0円
平成20年度2億5000万0000円
平成21年度から平成28年度まで
各6億0000万0000円
平成29年度5113万0000円
合計51億0113万0000円
bFは,P工場における液晶カラーフィルター事業をAに譲渡するこ
ととなったため,先端産業補助金にかかる補助事業により取得した財
産(建物及び機械設備等)をAに譲渡することとなり,平成24年8
月7日,要綱31条2項(当時)に基づき,取得財産の処分承認申請
書を大阪府に提出した(丙82の1,87)。これに対し,被告知事
は,同条4項に基づき,Fから補助金にかかる補助対象資産の未償却
年数相当補助金額(分割交付により今後交付する予定の金額を除く。)
16億8197万8000円の納付を受けた上で,同月10日,同社
に対して,取得財産の処分の承認を行った(丙88から90まで)。
なお,平成24年8月10日時点におけるFに対する先端産業補助
金交付額等は,①財産処分承認前の補助金交付決定(確定)額が5
1億0113万円,②交付済みの補助金額が20億5000万円,
③補助対象資産の未償却年数に相当する補助金の額が47億331
0万8000円,④今後交付する予定であった補助金の額が30億
5113万円,⑤納付を受けた金額(③-④)が16億8197万
8000円であり,大阪府がFに交付した先端産業補助金の合計額か
ら同社から納付を受けた金額を控除した残額(②-⑤)は,別紙6記
載のとおり,3億6802万2000円であった(丙87の2)。
(ウ)Aについて
Aは,平成24年8月24日,被告市長に対し,D及びEからカラー
フィルター事業を統合,承継したいとして,また,F及びGから同事業
を統合,承継したいとして,いずれも本件堺市条例11条により,堺市
認定企業等の地位承継の承認申請をし,同年9月7日,被告市長により
それぞれ承認を受けた(乙76,77)。
カBについて
被告知事は,数回にわたる部分確定及び変更を経て,平成24年5月1
6日,交付規則13条により,Bに対する先端産業補助金の交付決定金額
を次のとおり確定した(丙36の4の3,98)。
平成19年度0円
平成20年度から平成26年度まで
各6億0000万0000円
平成27年度4億5630万4000円
合計46億5630万4000円
(8)本件不均一課税措置の適用状況と先端産業補助金の交付額
ア堺市によるC,A,関連三社及びEに対する平成20年度から平成24
年度までの本件不均一課税措置の適用状況等(本件不均一課税措置前の課
税額,本件不均一課税措置による課税額及び差額等)は別紙5「不均一課
税措置前の課税額,不均一課税措置による課税額及び差額一覧」記載のと
おりである(乙96から111まで)。
イ大阪府から,C,A及び関連三社に対し,平成20年度から平成24年
度までに交付された先端産業補助金の額及び交付日等は,別紙6の各交付
経過表記載のとおりである(丙9,10,36)。
(9)LRT敷設計画とその中止
堺市は,かねてからA’’線P駅からB’’線P東駅間のLRT計画の構
想を検討してきたところ,平成20年12月に,「X(M~P東駅間)基本
計画(案)」を発表し,P駅からP東間,P駅からM間及びWからY間の3
つの路線にLRTを敷設する計画が設けられており,堺市市役所(庁)内に
担当部署を設置して住民への説明会を開催するなど敷設のための準備を開始
していた。しかし,平成21年10月8日に就任した被告市長は,同年11
月12日の所信表明において,「P駅・P東駅間のLRT敷設は,地元住民
の合意がとれていないこと,事業採算性が不透明であることから,中止しま
す。また,P駅・M間については,採算性などを改めて検討の上,事業実施
の可否を判断してきたいと考えています。」とし,LRT敷設計画を中止し
た。(以上につき甲17,乙20から22まで,弁論の全趣旨)
(10)各監査請求等
ア甲事件
甲事件原告らは,平成21年4月28日(ただし,甲事件原告らのうち
一部の者については同年5月20日),堺市監査委員に対し,住民監査請
求をしたが,同年6月25日,堺市監査委員は同住民監査請求を棄却し,
その頃,甲事件原告らに対して,住民監査請求に係る監査結果が通知され
た(甲13,14)。
イ乙事件
乙事件原告らは,平成21年4月28日,大阪府監査委員に対し,住民
監査請求をしたが,同年6月26日,大阪府監査委員は同住民監査請求を
棄却し,その頃,乙事件原告らに対して住民監査請求に係る監査結果が通
知された(甲15,16)。
(11)本件各訴訟の提起等
ア原告らは,平成21年7月24日,それぞれ甲事件及び乙事件の各訴訟
を提起した(顕著な事実)。
イ本件訴訟において,甲事件原告らは,当初,被告市長に対し,C及び関
連三社について本件不均一課税措置を行ってはならないとして差止めを求
めていた(顕著な事実)。
その後,甲事件原告らは,平成25年6月15日,請求1の各請求へと
訴えの変更をした(顕著な事実)。
ウ本件訴訟において,乙事件原告らは,当初,被告知事に対し,本件各補
助金決定,Dに対する平成20年1月18日付け補助金交付決定及びFに
対する同年2月29日付け補助金交付決定に基づいて,C及び関連三社に
対して,不当利得返還請求権に基づいて,既に支払われた平成20年度分
の先端産業補助金の返還請求の義務付けを求めるとともに,上記各決定に
基づいてされる翌年以降の先端産業補助金の交付の差止めを求めていた
(顕著な事実)。
その後,乙事件原告らは,平成25年4月17日,請求2の各請求へと
訴えの変更をした(顕著な事実)。
4争点
原告らは,本件不均一課税措置の適用及び先端産業補助金交付の違法(差止
請求)又は無効(不当利得返還請求)事由として,本件堺市条例並びに本件大
阪府条例及び要綱に定められた要件該当性については争わず,公益上の必要性
がない旨主張しており,本件の本案上の争点は,以下のとおりである。その他
被告らは,各訴訟要件の点について争っている。
(1)甲事件
ア本件不均一課税措置の公益上の必要性-地方税法6条2項該当性(争点
1)
イ堺市の損失とC,A,関連三社及びEの利得の有無(争点2)
(2)乙事件
ア先端産業補助金の公益上の必要性-地方自治法232条の2該当性(争
点3)
イ大阪府の損失とC,A及び関連三社の利得の有無(争点4)
5本案上の争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件不均一課税措置の公益上の必要性-地方税法6条2項該当
性)について
(甲事件原告らの主張)
被告市長による本件不均一課税措置の適用は,以下の事情に照らせば,公
益性があるとは認められないか,又は,仮に公益性があるとしても被告市長
に与えられた裁量権の逸脱又は濫用があることは明らかであるから,公益上
「必要がある」とはいえず,地方税法6条2項に反する。
ア本件不均一課税措置とC立地の間に因果関係がないこと
CのZ社長は,工場を堺市M地区に建設することとした理由として本社
や開発拠点との距離等を挙げるが,本件不均一課税措置の適用があること
を挙げていないから,本件不均一課税措置とMにおけるCやその関連企業
の立地の間に因果関係はない。被告市長はトップセールスの一環であると
いうが,それを裏付ける資料は情報公開請求において存在しないと回答さ
れた。したがって,本件不均一課税措置の適用とMにおけるC等の立地の
間に因果関係はない。
イ堺市の財政状況からは本件不均一課税措置を行う必要がないこと
本件不均一課税措置の適用は,10年間にわたる総額500億円以上に
及ぶ巨額援助に相当するものであり,このほか,各種インフラ整備のため
の公金支出もある。その一方で,堺市は政令指定都市の中で国民健康保険
料・介護保険料の1人当たりの年間保険料が最も高いなど市民に多額の負
担を強いる状況である。そうすると,本件不均一課税措置は堺市や堺市民
の負担を看過したもので,財政的に相当性を欠いたものといわざるを得な
い。
また,仮に本件不均一課税措置の適用により堺市の税収が増加するとし
ても,これにより地方交付税が減額されるから,堺市の一般財源は減少す
ることとなる。そして,堺市はこのような市民の不利益について説明をし
ていない。
したがって,堺市の財政状況を考慮すると,本件不均一課税措置を行う
必要性はない。
ウ本件不均一課税措置によって経済的波及効果,雇用創出効果,堺市の税
収増加等が生じることはなく,住民に利益がないこと
被告市長は,本件不均一課税措置により市民生活の向上への波及効果等
があるとするが,その内容・根拠は不明である。
C及びその関連企業は私企業であるから,本件不均一課税措置はC及び
その関連企業並びに土地を処分したHのための税の減免措置であって,私
企業の利益の補充という意味を持つにすぎない上に,これによる利益の使
途も不明である。
仮に本件不均一課税措置の適用により堺市の税収が増加するとしても,
上記イのとおり,これにより地方交付税が減額され,堺市の一般財源が減
少することとなるから,堺市民は税収の減額という不利益を受ける。そし
て,堺市はこのような市民の不利益について説明をしていない。仮に本件
不均一課税措置によって堺市に経済的波及効果が生じるとしても,その効
果が生ずるのは限られた範囲であって,市民全体が享有できるものではな
い。したがって,本件不均一課税措置の適用によっても経済的波及効果,
雇用創出効果,地元企業との取引増加等が生じないか,仮にこれらが生じ
るとしても限られた範囲であって,住民に利益が生じるものとはいえない。
エ本件不均一課税措置は,C,H等の大企業の利益を図る目的でされたも
のであって,公平性を欠くこと
上記ウのとおり,本件不均一課税措置はC及びその関連企業,加えてC
に土地を処分したHのための税の減免措置であって,私企業の利益の補充
である。仮に堺市の税収の増加等があったとしても,企業による営利活動
の結果にすぎないから,本件不均一課税措置が大企業の利益を図るもので
あることを左右するものではない。
また,堺市は,大阪府及び国とともに臨港道路・耐震強化岸壁等の整備
(N港湾計画),Cのためだけの上下水道の敷設等といったインフラ整備,
周回道路整備等を実施し,CやHの便宜を図っただけでなく,Cの立地が
決定するや3か月程度でM整備推進室を立ち上げ,いわゆる「ワンストッ
プサービス」を行って各種の行政手続上の便宜を図ったほか,本来Cが自
ら行うべき住民説明会をCに代わって行うなどした。さらに,堺市は,平
成19年1月にはCがMに進出する可能性が高いことを知っていた上,同
年6月にはこれがほぼ確定していたから,CのMにおける工場建設に先立
って行われた盛土,造成等は,本来「開発行為」に当たるから開発許可を
受ける必要があり,同許可がない工場は違法建築であったにもかかわらず,
これを「再開発型開発行為」であるとして開発許可を不要とするとともに
環境アセスメントを回避させ,行政手続の省略を許しているほか,Cの立
地に隣接する中小企業クラスターの造成外工事には,指名停止措置を受け
ていたKと随意契約を締結し,これに同工事をさせてまで,Cの操業スケ
ジュールに合わせているのであって,種々の違法行為を是認助長している。
上記からすると,本件不均一課税措置は,堺市がC等に対して行った種々
の恩恵的措置,違法行為とともに,大企業の利益を図るものとしてされた
ものであって,他の中小企業等との間の公平性を欠いたものであることは
明らかである。
(被告市長の主張)
地方税法6条2項は「公益上その他の事由による必要がある場合」におい
て,個々の地方団体が不均一課税措置を行うことができるとするところ,産
業政策目的に基づく不均一課税措置も,当該不均一課税措置が広く一般住民
の利益を増進するものであれば,公益上その他の事由により必要がある場合
に当たるものとして許容される。以下の事情からすると,被告市長がした本
件不均一課税措置の適用に違法はない。
ア本件不均一課税措置とC立地の間に因果関係があること
堺市によるC等のMへの誘致は,積極的な誘致活動・トップセールスの
一環であり,企業誘致には税金の多寡も重要な要素であるから,本件不均
一課税措置とC等のMへの進出に因果関係がある。
イ堺市の財政状況に照らし,本件不均一課税措置を行う必要がないとはい
えないこと
本件不均一課税措置は,堺市議会の政策議論や議決を経ている上,平成
20年度において,堺市の単年度収支は7年連続,実質収支は29年連続
の黒字であり,堺市の財政は健全であるから,本件不均一課税措置は堺市
の財政状況に照らして問題となるものではない。C及びその関連企業が工
場を立地したM地区は遊休地であって,活用されていなかったが,この場
所に工場を立地することにより固定資産税等の税収入が生じるのであっ
て,企業誘致のために本件不均一課税措置をする必要性がないとはいえな
い。
甲事件原告らは本件不均一課税措置により地方交付税が減額されると主
張する。しかし,地方公共団体としては,地方交付税に頼らない運営をす
べきことが期待されているところである。この点を措くとしても,この場
合に普通交付税の額が減少する仕組みは,企業誘致により立地企業が家屋
等の新たな固定資産を所有することに起因して企業誘致をした地方公共団
体の税収が増加することにあるから,本件不均一課税措置の有無と普通交
付税の額の減少とは関係がない。地方交付税は,基準財政需要額と基準財
政収入額との差額により決まるが,企業立地により人口が増加した場合等
は,基準財政需要額が増加し,地方交付税も需要増加に連動して増加する
から,単純に地方交付税が減ることにはならない。
ウ本件不均一課税措置によって経済的波及効果,雇用創出効果,堺市の税
収増加等の効果が生じ,住民に利益が生じること
本件不均一課税措置の適用を受けるためには,従業員の5分の1以上が
堺市内に居住する必要がある上,10年間の操業期間が担保されているか
ら,先端産業補助金による影響と併せ,経済的波及効果は3兆9000億
円に及び,建設工事,雇用効果等があると試算されており,実際に,試算
以上の経済的波及効果・税収増加等をもたらしている。
また,甲事件原告らは本件不均一課税措置による地方交付税の減額を指
摘するが,上記イのとおり,地方交付税は,企業立地により人口が増加し
た場合等には増加するから,単純に地方交付税が減ることにはならない。
エ本件不均一課税措置がC,H等の大企業の利益を図る目的でされたもの
とはいえないこと
本件不均一課税措置は,地域経済の活性化や産業拠点の形成等といった
産業政策目的で行ったものであるから,C及び関連企業といった私企業の
営業利益の補充のために行われるものではなく,住民の利益を図るために
行われるものである。
本件不均一課税措置は,地域経済の活性化や産業拠点の形成等を図るた
めに,誘致企業に対して行うものであり,建築基準法の建築規制や都市計
画法等とは目的を異にする以上,建築基準法が定める建築物の規制や違法
建築物の是正,都市計画法の目的といった内容により本件不均一課税措置
の適否を決することにはならない。この点を措くとしても,HによるM地
域の整地行為は,M地域がCの工場用地の候補地となる以前の平成18年
7月31日時点で既に計画されていたのであって,Cの工場用地での開発
行為はHが造成した工場用地の利用として,既成地を二次的に利用する再
開発型開発行為に該当し,また,Cによる工場の建設工事も開発行為に当
たらず,都市計画法上の開発許可を要しない上,環境影響評価が必要な場
合に該当しないから,私企業に行政上の優遇措置をしたというものではな
い。Cと被告市長とは,堺市開発行為等の手続に関する条例7条1項によ
る協議を行い,これに基づいて公共施設や排水設備等の設備をしているか
ら,開発許可を経た場合と同等の宅地水準が確保されている。なお,Hは
自ら埋立工事をした上で当該土地をCに売却しているから,Hが安価な土
地を高額で売却して莫大な利益を得たとの指摘は当たらないというべきで
ある。
そして,H及びC等の便宜や利益誘導のために道路を整備したといった
ような事情もない。
さらに,本件堺市条例に基づく本件不均一課税措置は,中小零細企業の
投資を誘導するために,中小企業に対して1億円以上の投資がある場合に
適用されるものであるから,実質的公平性が確保されている。
上記によれば,C等の立地が無秩序な市街化促進・建築物の促進に当た
るものではなく,中小企業等との実質的な公平性が確保されているから,
本件不均一課税措置が大企業の利益を確保するためにされたものでないこ
とは明らかである。
(2)争点2(堺市の損失とC,A,関連三社及びEの利得の有無)について
(甲事件原告らの主張)
堺市がC,A,関連三社及びEに対して本件不均一課税措置をしたことで,
C等は不均一課税措置を受けた市税等の額と当該不均一課税措置を受けなか
った場合におけるその額との差額について支払を免れて不当な利得を得てい
る一方で,堺市は同額の損失が生じている。そこで,被告市長は,C,A,
関連三社及びEに対し,それぞれ別紙5不均一課税前の課税額,不均一課税
による課税額及び差額一覧の「差額(軽減額)」の各税及び各年度総合計欄
記載の不当利得額及びこれに対する「納税通知書を送付した日」又は「不均
一課税適用通知書を送付した日」欄のうち最終日の翌日から支払済みまで年
5分の割合による遅延損害金の支払を請求すべきである。
(被告市長の主張)
各損失及び利得額につき争う。
(3)争点3(先端産業補助金の公益上の必要性-地方自治法232条の2該当
性)について
(乙事件原告らの主張)
大阪府による先端産業補助金の交付は,以下の事情に照らせば,公益性が
あるとは認められないか,又は,仮に公益性があるとしても被告知事に与え
られた裁量権の逸脱又は濫用があることは明らかであるから,公益上「必要
がある」とはいえず,違法である。
ア先端産業補助金の交付とC立地の間に因果関係がないこと
一般に,企業が工場等を建設する立地を検討するに当たっては,地方公
共団体からの補助金の多寡を重視する例は少なく,CのZ社長も工場をM
に建設することとした理由として補助金交付を挙げていない。したがって,
先端産業補助金の交付とC立地の間に因果関係はない。
イ大阪府の財政状況に照らし先端産業補助金の交付を行う必要がないこと
先端産業補助金は,C1社に150億円,関連企業に対して175億円
を10年にわたって交付するものであるところ,大阪府は現在5兆円もの
借金を抱え,府民の福祉,教育,生活等に関連する予算を1100億円も
減額しようとしている状況にある。大阪府の財政危機が深刻化しており,
非常事態に至っていることは被告知事も認めるところである。大阪府の財
政状況を考慮すると,上記の補助金額は高額に過ぎ,これを補助金として
交付する必要性はなく,公益性・相当性を見出すことはできない。
大阪府によるC等への先端産業補助金の交付は,最小の経費で最大の効
果を上げることを求める経済性の原則(地方自治法2条14項,地方財政
法4条)に適合しない。
ウ先端産業補助金の交付によって経済的波及効果,雇用創出効果,大阪府
の税収増加等が生じることはなく,住民に利益が生じないこと
大阪府が試算する経済的波及効果に客観性はない。先端産業補助金は一
般会計を財源とするものであるから,その交付は他の一般会計の費目を圧
迫する。先端産業は経済情勢や景気に左右され,その投機性の高さから,
波及効果も期待できない。
エ先端産業補助金の交付がC,H等の大企業の利益を図る目的でされたも
のであり,中小企業等との間の公平性に反すること
C及びその関連企業は私企業であるから,先端産業補助金の交付は私企
業の利益の補充にすぎない。大阪府の補助金は30億円が上限であったと
ころ,C及びその関連会社に対する先端産業補助金は,1企業当たり15
0億円を上限とするもので(C等への補助金交付決定後に1地域当たり1
50億円を上限とするものに改められている。),これは明らかにC及び
その関連企業のためのプライベートアクトである。
また,Hは,Qの先端緑地を堺市に譲渡し,これを広域防災拠点に位置
付けさせることでQ内に臨港道路を敷設する理由付けとした上,Cととも
に,大阪府の先端産業補助金の上限額をつり上げさせ,開発許可を不要と
するなど各種手続を省略させるなどして土地価格をつり上げ,投機的な利
益のために先端産業補助金を交付させた。Hの盛土はCの工場建築のため
に行われたものであり,開発許可が必要であるにもかかわらず「再開発型
開発行為」として開発許可を経ていないから,C工場にされた建築確認処
分は違法であり,このような違法建築に対して先端産業補助金を交付する
ことは,違法建築の助長として許されず,公序良俗にも反する。
大阪府は,堺市及び国とともに臨港道路・耐震強化岸壁等の整備(N港
湾計画),各種のインフラ整備,周回道路整備等を実施し,C及びH等の
便宜を図っていたのであって,先端産業補助金の交付もその一環である。
C等に対する先端産業補助金の交付は,CやH等の大企業を不当に優遇
するもので,中小企業等との関係で,平等原則違反であり,比例性の原則
に反する。
オAへの先端産業補助金の交付が本件大阪府条例に反し違法であること
被告知事は,先端産業補助金の交付対象をCと別法人となるAに変更し
ているが,企業立地の促進が先端産業補助金の目的とされている以上,交
付規則8条1項の補助金交付決定の変更には補助事業者の変更のような場
合を含まないと解すべきであって,交付対象をAに変更してもなお先端産
業補助金を交付することは法令に反する。また,Aは,Cの子会社であっ
たが,その後,Cの子会社でもなくなっており,そうなると企業誘致の促
進とは無関係に先端産業補助金を交付することになるから,Aへの先端産
業補助金の交付は違法である。
(被告知事の主張)
補助金の交付には被告知事に裁量権が付与されており,その行使に逸脱又
は濫用がある場合,即ち,補助金の交付を決定した被告知事等の判断に「特
に不合理な点がある場合」又は「特に不公正な点がある場合」に違法となる。
以下の事情に照らせば,被告知事がした先端産業補助金の交付決定は,「特
に不合理な点がある場合」にも,「特に不公正な点がある場合」にも当たら
ないから,違法とされることはない。
ア先端産業補助金の交付とC立地の間に因果関係があること
先端産業補助金の交付は積極的な誘致活動の一環であって補助金の多寡
も立地の重要な判断要素となるから,C等のM進出と先端産業補助金の交
付との間に因果関係はある。
イ大阪府の財政状況に照らして先端産業補助金を交付する必要がないとは
いえないこと
先端産業補助金の交付は大阪府議会の予算審議を経ている上,平成20
年度に係る補助金総額は決算額の0.04%,平成21年度に係る補助金
は予算総額の0.11%にすぎない上に,交付金を分割して交付し,財政
負担の平準化を図っていることに加え,10年間の操業を要求し,企業立
地により経済的波及効果を担保しているから,大阪府の財政規模・状況を
考慮している。
ウ先端産業補助金の交付によって経済的波及効果,雇用創出効果,大阪府
の税収増加等の効果があり,住民に利益が生じること
C及び関連会社の立地による経済的波及効果は約3兆9000億円で
あり,他に法人事業税,工事発注効果,雇用効果等が見込まれる。そして,
補助金の交付を受ける企業には10年間の操業期間を担保している。実際
の設備投資効果の調査結果では,当初の試算以上の経済的波及効果・税収
増加をもたらしている。
エ先端産業補助金の交付がC,H等の大企業の利益を図る目的でされたも
のではなく,公平性に反するといった事情もないこと
C及びその関連企業に対する先端産業補助金の交付は私企業の営業利益
の補充のためではなく,住民の利益を図るために行われる。大阪府先端産
業審査委員会により,本件大阪府条例に基づく要綱によって定められた先
端事業として認定を受けて先端産業補助金が交付されている。
H及びC等の便宜や利益誘導のために道路を整備したといったような事
情もない。M地域がCの工場用地の候補地となる以前の平成18年7月3
1日時点で既に計画されていたから,Hが行った整地行為は開発行為には
当たらないし,Cによる工場の建設工事も開発行為に当たるものではない。
これらは無秩序な市街化促進・建築物の促進に当たるものではない以上,
先端産業補助金を交付しても違法ではないし,公序良俗にも反しない。
先端産業補助金は,先端産業に対する補助金であって,要綱の基準(要
件)を満たす全ての企業を対象とするものであり,中小企業等との間で公
平性に反するなどといった事情もない。
オAへの先端産業補助金の交付が本件大阪府条例等に反するものではない
こと
Cは,当初,Aの100%株式を保有しており,その事業の態様として
も,Cが土地を所有し,Aが建物及び機械設備等を所有し,資材等の調達
をCが,液晶パネル及び液晶モジュールの製造及び販売をAが行うという
もので,共同事業に当たる。したがって,被告知事は,共同により補助事
業を実施する旨の申請を受け,これを承認したにすぎない。親子関係企業
間における共同事業や補助事業社の地位の承継制度は,より多くの企業立
地を促進するものであるし,企業が10年以上会社組織の再編を行うこと
なく操業を継続し続けることは困難であるから,中小企業の振興,地域経
済の振興,府民生活の向上という目的のためには必要である。
その後,補助対象事業が終了した時点以降に,CとAとの間に親子関係
がなくなっているが,そうであるとしても,事業等を変更するとなく工場
等が存置するから補助金の交付決定や交付された補助金には何ら影響を及
ぼさない。
(4)争点4(大阪府の損失とC,A及び関連三社の利得の有無)について
(乙事件原告らの主張)
大阪府が,C,A及び関連三社について,年度ごとに交付した補助金額が
C等の利得となる一方で,同額が大阪府の損失となる。そして,被告知事は,
C,A及びBに対して,別紙6の「交付金額」欄記載の各金額及びこれに対
する各交付金額に対応する同「支出日」欄記載の各支出日の翌日から支払済
みまで年5分の割合の遅延損害金の支払を,D及びFに対して,別紙6の各
「補助対象施設に係る償却済相当補助金額」欄記載の各金額及びこれに対す
る同「支出払日」欄記載の最終支出日の翌日から支払済みまで年5分の割合
による遅延損害金の支払を請求すべきである。
(被告知事の主張)
各損害(損失)額につき争う。
第3当裁判所の判断
1出訴期間と監査請求前置の有無について
(1)はじめに
原告らは,前記前提事実(11)イ,ウのとおり,甲事件及び乙事件において
それぞれ訴えの変更をしているところ,変更後の新請求に関する出訴期間(地
方自治法242条の2第2項1号)が遵守されているか否かは,変更後の新
請求と変更前の旧請求との間に訴訟物の同一性が認められる場合のほか,変
更後の新請求と変更前の旧請求の間に存する関係から,変更後の新請求に係
る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守に
おいて欠けるところがないと解すべき特段の事情があるときを除き,訴えの
変更時を基準としてこれを決すべきと解される。
また,地方自治法242条の2第1項柱書は,普通地方公共団体の住民は,
住民監査請求をした場合において,その監査結果に不服がある場合等には,
同監査請求に係る違法な行為又は怠る事実につき,住民訴訟を提起すること
ができると定めているから,適法に住民訴訟を提起するためには,住民監査
請求の対象とされた財務会計行為と,住民訴訟で対象とする財務会計行為と
の間に同一性のあることが必要であるところ,その同一性は,財務会計上の
行為又は怠る事実に係る社会的経済的行為又は事実が実質的にみて同一であ
れば足りるというべきであり,監査請求に係る行為から派生又は後続するこ
とが当然に予測される行為についてもこれに含まれるものと解される。
(2)甲事件について
ア監査請求前置について
甲事件原告らは,平成21年4月28日又は同年5月20日,堺市監査
委員に対し,住民監査請求をしたが,同年6月25日,堺市監査委員は同
住民監査請求を棄却し,その頃,甲事件原告らに対して,住民監査請求に
係る監査結果が通知された(甲13,14)。上記監査請求の内容は,「1
A’堺市長は,Cおよび関連企業に対する税の減免をしてはならない。2
A’堺市長は,「P駅-M間」のC門前までのLRT敷設計画を中止しな
ければならない。」というものであった。一方,甲事件における請求は請
求1のとおりであるところ,不当利得返還請求権の行使の義務付けを求め
る部分(請求1(2)から(7)まで)は,上記監査請求の内容には形式的には
含まれていない。しかし,甲事件原告らは,本件不均一課税措置が違法で
あるとしてその適用の差止めを求めていたが,これが適用されたため,当
該適用が違法であるとして軽減されて納付されなかった税額に相当する額
の返還を求める請求に変更したものであり,財務会計上の行為又は怠る事
実に係る社会的経済的行為又は事実が実質的にみて同一であるということ
ができる。
なお,甲事件原告らは,監査請求において「税の減免をしてはならない」
として監査請求をしているところ,不均一課税措置は税額に一定の割合(5
分の1等)を乗じた額を税額とするため,特段,被告市長による税の減免
に係る意思表示が存在するものではない。しかし,甲事件原告らは,本件
不均一課税措置の上記の算出過程における措置を問題としているというこ
とができ,甲事件訴訟においても,同様であって,監査請求の上記記載内
容をもって監査請求前置を欠いているということもできない。
イ出訴期間について
甲事件原告らは,平成21年7月24日,被告市長に対して,C及び関
連三社に対して,本件不均一課税措置の差止めを求める訴えを提起した後,
平成25年6月15日,請求1の各請求に訴えの変更をしている(前記前
提事実(11)ア,イ)。変更後の請求は,本件不均一課税措置が適用された
結果,C,A,関連三社及びEが堺市の損失の下に不法な利得を得たとし
て,不当利得返還請求の行使の義務付けを求めるものであるから,上記訴
え提起時における請求内容と同一であるとはいえない。しかしながら,甲
事件原告らは,訴え変更の前後を問わず,本件不均一課税措置の違法性を
問題としているのであって,その違法事由,争点は同一であるから,変更
後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,
出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべき特段の事情がある
ということができる。
また,甲事件原告らは,訴えの変更後において本件不均一課税措置の適
用により生じたA及びEに対する不当利得返還請求権の行使の義務付けを
求めるところ,当該訴えの変更は差止めを求めていた本件不均一課税措置
が適用されたこと並びにA及びEがそれぞれC及びDから固定資産(建物
及び機械設備等)を承継したことによるものであって,その違法事由,争
点は同一であるから,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に
提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと
解すべき特段の事情があるということができる。
(3)乙事件について
ア監査請求前置について
乙事件原告らは,監査請求において「1B’大阪府知事は,Cおよび
関連企業に対するすでにした補助金交付決定に基づく補助金の支出をして
はならない。2B’大阪府知事は,今後,Cおよび関連企業に対する補
助金交付決定をしてはならない。」として監査請求をしているところ,監
査請求の時点においては,先端産業補助金が支出されたことを前提とした
不当利得返還請求権の行使を問題とするものではない。しかし,先端産業
補助金交付の差止めとこれが交付された後の不当利得返還請求権の行使の
義務付けは,問題とすべき財務会計行為が実質的には同一ということがで
きるから,監査請求前置に欠けるところはない。
監査請求書には,C及び関連三社に対する先端産業補助金交付決定を問
題とする旨明記され,Aは記載されていないものの,Aは,C及びDから
補助の対象たる固定資産等を承継し補助の対象とされたものであるから,
財務会計上の行為又は怠る事実に係る社会的経済的行為又は事実が実質的
にみて同一であるということができる。
イ出訴期間について
乙事件原告らは,平成21年7月24日,被告知事に対し,C及び関連
三社に平成20年度分の各先端産業補助金の返還の義務付けを求めるとと
もに,上記各先端産業補助金の交付決定に基づく平成21年度以降の先端
産業補助金交付の差止めを求める訴えを提起した後,平成25年4月17
日,請求2の各請求に訴えの変更をした(前記前提事実(11)ア,ウ)。変
更後の請求は,本件各補助金決定に基づくA及びBに対する平成25年度
以降の先端産業補助金の交付の差止めを求める(請求2(13)及び(14))と
ともに,C,A及び関連三社に対する平成20年度分から平成24年度分
までに交付された先端産業補助金の返還及びこれに対する遅延損害金の支
払請求の義務付け(請求2(1)から(12)まで)を求めるものであり,不当利
得返還請求権の行使の義務付けは,上記訴え提起時における請求内容とは
同一であるとはいえない。しかしながら,乙事件原告らは,訴え変更の前
後を問わず,先端産業補助金交付の適否を問題としているのであって,そ
の違法事由,争点は同一であるから,変更後の新請求に係る訴えを当初の
訴え提起の時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠ける
ところがないと解すべき特段の事情があるということができる。
また,乙事件原告らは,訴え変更後にAに対する不当利得返還請求権の
行使の義務付けを求めるところ,訴え提起時にはAに対する請求はなかっ
た。しかし,当該訴えの変更は,上記のとおり,AがC及びDから固定資
産(建物及び機械設備等)を承継して先端産業補助金の交付を受けたこと
によるものであるから,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時
に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがない
と解すべき特段の事情があるということができる。
2差止めに係る訴えの利益について
(1)被告市長に対する本件不均一課税措置の差止めについて
甲事件原告らは,被告市長に対し,本件不均一課税措置の適用の差止めを
求めるところ(請求1(1)),本件不均一課税措置が適用される固定資産税,
都市計画税及び事業所税は,各年に課されるものであって,既に平成27年
分までの賦課決定はされたものと認められる(弁論の全趣旨)。そうすると,
地方自治法242条の2第1項1号に規定する執行機関等に対する行為の差
止めを求める訴えは,その性質上,差止めの対象となる行為が完了した場合
には,訴えの利益を欠き,不適法になると解されるから,本件甲事件に係る
訴えのうち,A及びBを対象とする平成25年度から平成27年度分までの
本件不均一課税措置の差止めを求める部分は不適法となる。
(2)被告知事に対する先端産業補助金交付の差止めについて
乙事件原告らは,被告知事に対し,A及びBに対する先端産業補助金交付
の差止めを求めるところ(請求2(13),(14)),要綱に基づいてA及びBに
対して交付される先端産業補助金は,毎年交付されるものであって,既に平
成27年度分までの交付がされているものと認められる(弁論の全趣旨)。
そうすると,地方自治法242条の2第1項1号に規定する執行機関等に対
する行為の差止めを求める訴えは,その性質上,差止めの対象となる行為が
完了した場合には,訴えの利益を欠き,不適法になると解されるから,本件
乙事件に係る訴えのうち,A及びBに対する平成25年度から平成27年度
までの先端産業補助金交付の差止めを求める部分は不適法となる。
3認定事実
本案上の争点を検討するに先立ち,前記前提事実に加え,各項掲記の証拠及
び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
(1)企業誘致の状況と大阪府及び堺市の状況
ア昭和39年に,工場等制限法が制定され,大都市圏への人口・産業の過
度の集中を防ぐため,大阪府にも工場等制限区域が設けられ,その区域で
の一定面積(原則として1000平方メートル)以上の工場,大学の新設・
増設などが制限された。昭和47年には,工場再配置促進法が制定され,
工業が著しく集積した地域である大阪(移転促進地域)から集積の程度の
低い地域(誘導地域)に工場を移転したり,誘導地域で工場を新設する場
合には,事業者に補助金や税優遇等の支援措置が行われた。これらによっ
て,東京及び大阪等では工場の転出がみられ,東京では本社等の一極集中
という形となったものの,大阪では工場が流出するのみとなった。そして,
昭和60年代以降は,円高の影響から工場等の海外移転が相次ぐようにな
った。(以上につき乙24,丙101,証人C’(以下「C’」という。))
イ平成11年頃になると,大規模工場の海外移転の動きが一段落し,国内
に大規模工場を新設しようという生産の国内回帰の流れが生じ始めた。大
阪府においても,民間企業が有する遊休地などを調査した結果,その一つ
としてM地区のHの用地も挙げられるようになった。(以上につき丙10
1)
平成14年2月,三重県の企業誘致政策により,三重県による90億円,
亀山市による45億円(合計135億円)の補助金とともに,D’が三重
県に新設された(丙101,証人C’)。
同年7月に工場等制限法が廃止され,その頃から当時の大阪府知事及び
大阪府副知事が企業を訪問し,企業等の大阪への慰留や企業の新規立地に
向けた取組みを行っていたものの,大阪府に工場の新設が相次ぐといった
状況が生じることはなく,平成15年には大阪市内に所在した製薬会社の
大阪工場が三重県の工場に集約されることとなって閉鎖され,また,平成
18年10月には,別の製薬会社がその新研究所を神奈川県藤沢市に設置
することとした(甲125,126,丙101)。
ウ平成18年11月頃,大阪府は企業誘致補助金の限度額を30億円とし
ていたが,東京都,群馬県,奈良県及び茨城県を除く道府県において補助
金制度が設けられており,補助金の額(上限額)についても,三重県が9
0億円,神奈川県が80億円,兵庫県が上限なしの企業誘致補助金(補助
率3%)を,岩手県が個別査定を経て上限なしの企業誘致補助金を,和歌
山県が最高補助限度額100億円(最高補助率は20%)とするなど高額
化が進む状況にあり,当時,この状況を評して,地方公共団体が企業誘致
による大型投資を得るために「補助金バトル」をしていると報じる日刊紙
も存在した(甲123,124)。このような状況の中,大阪府の職員等
の間では,大阪府は他の自治体と比較すると地価や人件費等が高く(15
ヘクタールの用地取得費は,兵庫県が56億円,和歌山県が71億円であ
るのに対し,大阪府は140億円であり(乙53,丙6),また,従業員
1000人の10年間の給与は,兵庫県が357億円,和歌山県が341
億円であるのに対し,大阪府は406億円である(丙6)。),企業誘致
における大阪府の競争力が乏しいものとして,危機感を募らせていた(甲
126)。そこで,大阪府では,①先端産業の誘致と併せ企業支援を積
極的に行う姿勢を明示し,補助制度の充実とともに,総合的な立地魅力を
アピールすることで,立地促進を図るとともに,産業集積を進め,我が国
産業全体の国際競争力の強化と産業技術の空洞化の防止に寄与するとし
て,②補助金の上限額を150億円に引き上げる条例等の整備を進める
こととし,③平成19年1月にパブリックコメントを実施し,同年2月
に府議会に条例案を上程し,同年3月16日に本件大阪府条例を公布し,
上限規則とともに同年4月から施行し,また,これに併せて要綱の改正も
行った。(以上につき甲23,83,123,124,126,乙53,
丙4,6,101,証人C’)
エ他方,堺市においても,平成の初め頃には事業所数が2700を,従業
者数が6万6000人を,製造品出荷額が2兆7000億円をいずれも超
えていたが,バブル経済の崩壊を受けて,平成16年には事業所数が16
00程度,従業員数が約4万2000人,製造品出荷額が2兆円(平成1
5年)を下回る程度にまで減少した(乙127)。
その頃,堺市の臨海部の工業地域においては,H,E’,Tなど民間企
業が所有する低・未利用地が100ヘクタールを超える規模で存在したこ
とから,堺市のみならず,大阪府,国を含めてその活用が検討されており,
堺市は,平成13年2月にQを臨海新都心として,環境と調和する良好な
都市環境を創出するとともに,国際的な交流機能や高次の都市機能の集積,
親水・レクリエーション機能,居住機能などの整備を図るとして「P21
世紀・未来デザイン」と称する堺市総合計画を策定するなどした。しかし,
当時,全国的に地方公共団体による企業誘致が盛んになり,そのような状
況下において,地価や人件費が高いという企業立地上のデメリットを抱え
る堺市においては,そのままでは民間の投資を期待することが困難になる
から,他の自治体に負けない思い切った優遇策を打ち出して大規模投資を
誘致する必要があるなどとして,不均一課税措置の導入が検討され,60
0億円以上の投資額であれば5分の4の不均一課税措置を10年間続ける
ことを筆頭に,投資額の下限を1億円として2分の1の不均一課税措置を
することを内容とする条例案を作成し,パブリックコメントを実施した上
で堺市議会における審議を経た後,平成17年3月31日に本件堺市条例
が制定され,同年4月1日より施行された。(以上につき乙68,127,
証人F’(以下「F’」という。),証人G’)
(2)C誘致の経過
ア大阪府は,平成18年11月に大阪府の商工労働部企業誘致担当理事に
就いたC’が中心となって企業の誘致活動を進めていたところ,当初,誘
致候補として考えていたH’株式会社が兵庫県尼崎市に工場を建設するこ
ととなったため,方針変更の検討をしていた折,同年12月末頃,Cが新
工場建設を検討している旨の情報を入手した。そして,時期を同じくして,
堺市も同情報を入手した。(以上につき乙127,丙101)
イ大阪府は,Cに対して訪問を申し入れるなどした結果,平成19年1月
16日,商工労働部長をトップとしてCを訪問し,専務らと面談をし,M
が交通アクセス,労働力確保等において立地上の優位性がある旨を説明し
たが,Cからは,当面はI’で対応し,新工場建設の検討をすぐに具体化
する状況にないが,検討する場合にはインフラ(電気工水の合格),アク
セス物流等を総合的に判断するなどの説明を受けた(甲28,丙27の5,
101)。
同年2月5日,C’は,インフラ関係について,大阪府営工業用水道の
既設の水道管が近くに存し,電気はJ’との契約となるなどの説明をし,
補助金については先端産業補助金制度の改正案を説明し,最大1社150
億円の補助金の交付があり得ることなどを説明したが,このとき,Cから
は,Mを含む3か所が候補地となっており,杭打ち費用を230億円と見
積もっているなどの話があった(甲28,丙27の6,101)。
同月8日,C’は,前回の訪問の際に質問された工業用水道の供給能力
や工事の際の進入路等について説明する一方,Cの担当者から,ガラス製
造とカラーフィルターは運送ができないためCとセットで進出することと
なるなどの説明を受けた(甲28,丙27の7,101)。
同月14日,C’は,Cを訪れ,Cの出席者(室長,参事)から,用地
の中央部を道路が通る計画となっていたことから,立地箇所の外側(堤防
沿い)に道路の計画はないのか,変更の可能性があるかなどといった質問
を受けるとともに,Mのほか,北九州及び姫路も候補地として検討してい
る旨の説明を受けた(甲29,丙27の8,101)。その後,C’は,
大阪府の港湾局に対して土地利用計画や道路の計画の変更の可否等につい
て尋ねたところ,港湾局から,港湾計画の変更は港湾法に基づいて審議会
の審議等を経て行われるから,現時点では何とも言えないが,引き続き情
報を提供してほしいなどと回答を受けた(丙101)。
同月19日,C’は,Cを訪れ,Hが早期に交渉を開始したいと希望し
ている旨を伝えた。また,C’が同年3月1日にCを訪れた際には,C側
には液晶パネル製造部門の担当者が同席し,立地に関して必要となる建築
確認を始めとする多くの許認可手続について,それぞれの窓口と手続に要
する期間の目安についての質問が出されたことから,Mがかなり有力な候
補地に挙がってきたとの印象を受けた。(以上につき丙24の1,24の
2,27の9,27の10,101)
上記のように大阪府及び堺市の各担当者がCを訪れて,MへのCの工場
誘致を持ちかけている最中である同月2日,Cの新工場が姫路に決定した
という報道がされた(乙2,丙7の1,101)。
同月12日,C’は,土地の価格交渉を進めるためにH担当者と共にC
を訪れ,臨港道路の整備は港湾計画により定められており,港湾計画の変
更は港湾法に基づき審議会の審議等を経て行われることなどを説明した
が,C側において土地の価格交渉担当者の出席がなく,事務的な打合せに
終始した(丙24の3,27の11,101)。
C’は,同月26日にCを訪れた際に,社内決定には至っていないもの
の,M以外の候補地に立地が決まることはないという説明を受け,同年5
月18日,堺市のF’と共にCを訪れた際,Cから新工場立地の決定を同
年7月末に行う予定であるとし,同決定後に現場工事に必要となる杭の確
保に時間を要することから,その決定前にCとKとで別途打合せを行うと
の説明を受けた(甲30,乙127,丙24の4,27の12,27の1
3,101)。
ウ平成19年7月5日,C’は,副知事と堺市副市長,F’らと共にCを
訪れ,K’副社長から,Cの新工場の進出先がMに内定した旨告げられる
とともに,工場整備等が円滑に進むよう行政の支援及び協力の要請を受け
た(乙127,丙24の5,27の14,101)。
(3)臨港道路等の計画の変更等
ア港湾道路R1号線及び2号線並びに周回道路
C’は,平成19年2月14日のC訪問以降,大阪府港湾局に対してC
との交渉経過等の情報を提供し,同年7月5日のCのM進出の内定を受け
て速やかな手続開始を要望していたところ,同年10月17日に開催され
た大阪府地方港湾審議会は,既に平成18年2月のN港港湾計画で計画さ
れていた港湾道路R1号線(Qの最西端部分に位置する基幹的広域防災拠
点(緑地)まで通じる道路)及び2号線(Q南東部に位置する基幹的広域
防災拠点(耐震強化岸壁)まで通じる道路)について,M地区において,
基幹的広域防災拠点の機能を確保しつつ,先端産業及び高付加価値型産業
等多様な産業集積を図る目的で,工業用地を最大限確保するべく,港湾道
路R1号線及び2号線の車線数及び法線を変更し,また,平成21年2月
10日に開催された大阪府地方港湾審議会は,憩い,にぎわいのある港づ
くりに向け,親水空間へのアクセスの利便性向上及び地区内の周回性の確
保を図る目的で港湾道路R3号線(周回道路)を敷設することとした。な
お,Qの臨港道路R1号線及び2号線は,国の直轄事業であり,これに堺
市の支出はなかったが,臨港道路R3号線(周回道路)に係る堺市の支出
は5億5236万0900円であった。(以上につき甲72,73,84
から88まで,104から106まで,乙50,51,81,丙42から
46まで,55,56)
他方,S高速道路株式会社が設置する高速道路O線・L’ランプが都市
計画道路M’に接続され,都市計画道路M’の交通量の増加が見込まれた
ことから,堺市は,都市計画道路M’を拡幅することとした(甲75,乙
50)。なお,高速道路O・L’ランプのジャンクション部分は,S高速
道路株式会社が設置したものであり,堺市が設置したものではない(甲7
5)。
イQの上水道敷設の経緯について
平成19年7月当時,Vの商業アミューズメント等については既に上水
道管(北ルート)が敷設されていたが,安定給水を図るべく,被告市長は,
堺市開発行為等の手続に関する条例7条1項に基づく協議が行われた際,
Cに対し,都市計画法32条の協議に準じて,公共施設や排水設備等必要
な施設の整備を指導する等宅地に一定の水準を保たせるべく指導し(乙1
27),同年10月2日,Cとの間で覚書を作成し(乙125),当該覚
書に従って公共施設や排水設備等の必要な施設を整備し,近畿地方整備局
大阪港湾・空港整備事務所等と協議を重ね,都市計画道路M’やN港Q臨
港道路の築造に併せて平成21年度に新ルート(南ルート)を敷設した。
そして,堺市は,M中小企業クラスターへの進出企業や,C及び関連企業,
基幹的広域防災拠点である緑地(M2区の最西端部分)等への上水供給の
ための整備を行うため,Cと協議等を行い,平成20年度にM2区区域内
に上水道を敷設した。(以上につき甲72,76,77,乙81,119,
丙47)
(4)M整備推進室の設置等
堺市においては,平成19年11月に建築都市局にM整備推進室が設置さ
れ,同月,F’が,M整備推進室次長兼同計画推進担当課長に就任した。M
整備推進室は,Mにおけるまちづくりを総合的に実施するため,関連事業を
一元的に推進する組織として発足した。この組織では,Cの立地に関連する
業務だけでなく,中小企業の高度化を支援し,地域経済の活性化を図るとい
う目的で整備したM中小企業クラスター,平成22年6月頃からN’(乙8
2,83)の工業団地や,P旧港周辺整備事業,商業アミューズメント施設
調整,サッカー・ナショナルトレーニングセンターの設置等の多岐にわたる
業務に総合的に取り組むものとされた。(以上につき乙68,87,127,
証人F’)
(5)Cが取得するMの土地等(操業開始まで)
アHは,平成18年2月のN港港湾計画による基幹的広域防災拠点(緑地,
耐震強化岸壁)に通じる港湾道路R1号線及び2号線の敷設に先立って,
同年7月31日頃,平成18年度から平成20年度までの間で,整地行為
及び土壌調査を実施する旨計画し,これに基づいて,順次南側アクセス道
路を設置するための用地部分の整地行為を先行して開始した(甲27,7
2,乙80,117,118,120から122まで)。
イその後,M地域がCの工場用地の候補地となったことから,Hは,南側
アクセス道路部分のみならず,その余の敷地部分の整地を行うこととし,
平成19年7月20日頃から,整地行為を開始した(乙80)。なお,H
が行った整地行為は,地下鉄工事の残土等の置場として使用され,その残
土が山状に積まれていた用地をO.P.(大阪湾最低潮位)+6.25メ
ートルから+7.60メートルまでの範囲に整地するというものであった
(乙80)。
ウCは,Hとの間でM(Q)の土地の売買について検討,交渉を重ねてい
たが,平成19年7月5日頃までにはHとの間で概要を合意するに至り,
同月31日,新工場のM立地を発表した(乙127,丙101,弁論の全
趣旨)。
エCは,平成19年9月3日,堺市に対して開発行為等に係る計画書(甲
59)を提出していたところ,同市開発指導課が同計画書に示されたO’
の建設工事について,都市計画法4条12項の「開発行為」に当たらない
ものと判断したことを受けて,同月4日,Hとの間で当該土地を譲り受け
る契約を締結し,当該土地の引渡しを受けた(甲59,63,弁論の全趣
旨)。
オ平成20年7月18日付けでCが提出した開発行為等に係る計画書で示
されたO’の建設工事が,土地の区画を一部変更するものであったものの,
既に開発が行われているHの工場用地に建設されるものであって,土地の
形式的な区画の分割又は統合によって工場を建築する場合に該当し,新た
な公共施設を整備する必要もなかったことから,被告市長は,改めて開発
許可制度による規制を及ぼす必要がないものとして,都市計画法29条1
項の「開発行為」に該当しないとの判断をした(甲64)。
(6)経済的波及効果等
ア主として平成21年度までの間の堺市周辺における経済的波及効果等
(ア)平成20年4月から平成21年3月までをみると,C等の液晶パネル
又はその関連製品の製造工場の最寄駅の乗降客数は,前年同期に比べ約
4%増加し,Cの液晶パネル製造工場の建設時のピークであった平成2
0年7月における堺市内のホテルの月ごとの稼働率は,前年同期を7.
5ポイント上回り,同年1月以降,3四半期連続で,長期宿泊数の目安
となる平均宿泊日数(連泊数)が全国で1位となるほか,ホテルの新増
設が計画されるなどした(乙7,8)。
堺市においては,平成20年頃,C等の従業員の増加を見込んだ賃貸
マンションの家賃の高額化や,C等の工場建設作業に従事する作業員に
より,C等の液晶パネル又はその関連製品に係る製造工場の地元の飲食
店の売上げが2割程度上昇するなどの効果も現れている(乙8)。
(イ)大阪府が実施したヒアリング調査によると,雇用効果については,平
成20年10月時点で,建設作業員を中心に1年間で述べ約270万人
が雇用され,Pコンビナートの1年後のフル稼働時における雇用者数は
約5000名の見込みであるとされ,平成21年度の新規高卒採用の約
3分の2に当たる約200名が大阪府内の高等学校から採用された(丙
13,14)。
なお,平成21年度の大阪府の有効求人倍率は徐々に下降しており,
平成21年8月における数値は0.44であって,これは,その前月よ
りも0.01ポイント下回り,平成20年11月のリーマンショック前
である同年8月の数値0.91に比べて,0.47ポイント下回るもの
であるが,平成21年8月の全国平均の数値0.42(平成20年8月
の数値は0.85)をいずれも上回っている(丙15)。
(ウ)平成20年度末までの年度ごとの本件堺市条例による企業立地計画
の認定企業数,投下固定資産額,雇用計画者数は次のとおりである(乙
5,弁論の全趣旨)。
平成17年度4社,約70億円,522人
平成18年度8社,約147億円,193人
平成19年度15社,約5797億円,2700人
(うちC関連会社5社,約5500億円,約2400人)
平成20年度13社,約2620億円,544人
(うちC関連会社8社,約1500億円,約400人)
なお,平成21年10月1日時点において,11の中小企業が本件堺
市条例に基づく認定企業となっており,平成23年度末時点の認定企業
は,延べ65企業(C及び関連三社を含む。)であって,その投資見込
額合計は約9200億円,雇用見込数合計(認定ベース)は約4900
人(うち堺市内に約1560人),そのうちN’は11企業,投資見込
額合計約98億円,雇用約160人となった(乙5,19,84)。
(エ)Cの商談会等
a大阪府は,平成20年10月にCの立地を契機とした「府内中小企
業とC株式会社とのビジネスマッチング商談会」を実施し,大阪府内
の中小企業とCとの間で商談を進め,平成21年4月末時点で24件
の商談が成立した(乙12,丙31)。
他方,堺市においても,平成21年10月,「オープン・イノベー
ション・マッチング・イン・P」と題する催しを行い,堺市内の中小
企業がCを始めとする大手部品メーカー5社に対し,自社の高度な技
術を提案し,技術提携する機会を設けるとともに,QにおけるC及び
その関連企業の敷地の隣接地に,これらの企業と堺市内の中小企業と
のマッチング支援拠点を設置した。なお,平成23年3月時点におい
て,延べ62社からニーズを収集し,堺市内中小企業との技術マッチ
ング等を推進している。(以上につき乙31,32,弁論の全趣旨)
bCとP’大学との間において,平成21年3月30日に包括的連携
協定が締結され,地球環境問題の課題解決などについて共同研究を進
めていくことが合意された(乙13,丙17)。そして,同包括的連
携協定に基づき,QにおけるC及びその関連企業が立地する区域内に,
「エコロジー研究所」が設置され,太陽光発電,LED照明等を活用
する「植物栽培」,「廃棄物の再資源化」等の共同研究が行われてい
る(丙32)。
(オ)その他
平成22年3月,近畿経済産業局は,大阪府及び堺市の取組みが国の
地域産業振興施策とも連動するとして,関西広域経済圏における経済再
生行動計画として「関西メガ・リージョン活性化構想」を策定し,地域
産業振興施策の効果的な展開を行う中で,産業重点分野を①「未来型情
報家電」,②「エネルギー関連産業」,③「水ビジネス」の3分野とし,
調査を実施して報告書を公表した。同報告書には,C等の液晶パネル又
はその関連製品の製造事業については,①未来型情報家電関連中堅企業
等との主な取引先として掲載され,Cの太陽光発電事業については,②
エネルギー関連産業における新エネルギー事業として取り上げられた。
(以上につき丙33)
さらに,新聞媒体に掲載された堺市及びC関連記事を広告料に換算し
た場合,平成19年度及び平成20年度の約2年間で合計12億800
0万円余の広告効果となった(乙7)。
イ通常稼働時の経済的波及効果等
(ア)平成22年9月頃から平成24年頃までの状況
C(Aを含む。)及び関連三社の雇用規模は,平成22年9月末時点
で約2240名(新規雇用延べ人数約870名),平成23年9月末時
点で約2400名(同約1000名),平成24年9月末時点で257
0名(同約1070名)であった(なお,上記新規雇用者は,全員正社
員であり,雇用期間を定めない雇用である。)。また,平成24年9月
末時点で,新規雇用者の採用前の住所が堺市内であった者は約270名,
堺市内を除く大阪府内であった者は約400名である。(以上につき乙
63,79)
なお,大阪府において,先端産業補助金の交付事業者を対象として,
平成22年9月時点でアンケートを実施したところ,大規模投資企業(補
助金交付事業者うち投資額が100億円以上の事業者)5社の事業従事
者数(正社員,パート等の合計)が2372人であり,大規模投資企業
5社の取引先については,仕入先236社中136社,販売先13社中
4社,非生産部門の支払先417社中264社が府内企業であった(丙
29)。
(イ)平成25年頃以降の状況
A,D及びFの雇用人数は,平成26年4月1日時点で約1400人で
ある(証人G’)。
堺市の製造品出荷額は,平成15年当時,約1兆8700億円であった
ところ,平成25年度には約3兆5000億円に増大し,名古屋市や大阪
市を抜いて全国6位となった(乙128,129,132)。
M地区の開発が進み,同地区の固定資産税評価額の改定において約2割
の評価額の上昇がみられ,また,近隣の地価も上昇している。堺市におい
ては,平成15年度の固定資産税収入が約519億円であったところ,平
成25年度の固定資産税収入が約563億円に増加しているほか,都市計
画税,事業所税も年々増加している。(以上につき乙128,証人F’)
Aは,堺市に本社を置いているところ,Aの平成25年度の当期純利益
は約60億円,平成26年度の当期純利益は約72億円であった(乙13
0,131)。
(7)大阪府及び堺市の財政の規模及び状況等
ア大阪府の財政の規模及び状況等
大阪府の実質収支の推移をみると,平成10年には赤字となったものの,
平成20年には黒字に転じている(甲177)。
先端産業補助金の交付に係る予算については,大阪府の財政の規模及び
状況を踏まえて平成20年6月に策定された「大阪府財政再建プログラム
案」に則り,同年7月臨時府議会で審議され,議決されている(甲89,
丙25)。また,大阪府における平成21年度の予算ベースでの財政規模
は,総額3兆0397億4600万円(一般会計)であり(丙20),平
成21年度当初予算案において,平成21年度に支払う先端産業補助金と
して合計32億9300億円を計上し,平成21年2月府議会において予
算議決を得ている(丙19)。
イ堺市の財政の規模及び状況等
(ア)平成20年度までの堺市の単年度収支は7年連続,実質収支は29年
連続の黒字であったが,その後,少なくとも平成22年度まで連続して
黒字を計上している(乙15,16,40)。
そして,堺市における平成20年度の決算ベースでの歳入額(一般会
計)は総額2979億円であり,地方債,職員の退職手当,公社等に対
する損失補償等の地方公共団体が将来にわたって負っている債務の大き
さを標準的な財政規模との対比で示した指標である将来負担比率は8
1.1であり,国の基準である400を大きく下回っている(乙16,
67)。なお,堺市における平成21年度の予算ベースでの財政規模は,
総額3194億円であった。
堺市の平成20年度から平成22年度の税収の状況は,別紙7堺市税
収状況のとおりである。固定資産税及び事業所税による税収は,平成2
1年度と平成22年度を比較すると,8%から10%増加しており,償
却資産に係る固定資産税による税収は35%増加している。また,法人
市民税は,リーマンショック直後となる平成21年度は前年比40%の
減少がみられたものの,平成22年度は前年比で25%増加している。
なお,堺市の平成22年度の前年比税収伸び率(103.3%)は,各
政令市及び中核市の中で最大の伸び率である。(以上につき乙37から
40まで)
そして,堺市がC,A,関連三社及びEから徴収した固定資産税,都
市計画税及び事業所税は,別紙5「不均一課税前の課税額,不均一課税
による課税額及び差額一覧」記載のとおりであり,これにQ’等を加え
たC等が工場を立地したことにより生じた本件不均一課税適用後の税収
(平成22年度分)は,次のとおりである(乙42,弁論の全趣旨)。
家屋に係る固定資産税2億3260万2000円
家屋に係る都市計画税4984万3000円
償却資産に係る固定資産税6億0543万6000円
事業所税4714万0000円
(合計)9億3502万1000円
(イ)堺市は,平成20年4月時点において,本件堺市条例によるC,関連
三社及びQ’の5社に対する本件不均一課税措置による税の減収額(年
間)を総額24億5165万円(10年間合計で245億1654万円)
と推定し(乙14),また,平成23年7月時点において,平成20年
から平成32年までの同減収額の合計額を184億0537万7000
円と推定していた(乙42)。
(ウ)堺市は,平成20年度から平成24年度までの間,次の普通地方交付
税を受けた(乙47から49まで,64から66まで,113)。
平成20年235億9212万2000円
平成21年233億2786万7000円
平成22年233億1123万3000円
平成23年207億5413万3000円
平成24年213億3084万2000円
堺市の試算においては,本件不均一課税措置の対象である課税物件の
増加等により普通地方交付税の交付額が10年間で総額126億773
1万5000円程度,年間当たり12億6773万1500円程度の減
額が見込まれる(弁論の全趣旨)。
(エ)堺市の減収補てん措置を要求した経緯
堺市は,平成23年12月,平成24年度の予算に関し,本件不均一
課税措置は,日本全体の景気拡大や貿易額の増加に直結するものであり,
国全体に関する産業の振興に資することから,国に対して応分の負担を
求めるべく,本件不均一課税措置によって一般財源収入から減少した額
について,普通交付税の算定を通じた実質的な減収補てん措置を要望し
た。しかし,この堺市の要望に対して,国は,減収補てん措置を行うべ
き財政力要件を充たさないとして,減収補てん措置を行わなかった。な
お,平成23年度の堺市の基準財政力指数は,0.83であり,他方,
全国の市町村の平均値は0.51であった。(以上につき甲26,乙1
16の5,弁論の全趣旨)
(8)操業開始前における効果予測・試算等
ア大阪府の試算
(ア)大阪府においては,平成19年8月時点において,当時の最新データ
である「平成12年大阪府産業連関表」を用いてC等の立地に伴う経済
的波及効果及び税収規模の試算を行った(丙11)。
これは,①建設投資額につき,C及び関連会社の総投資額を約1兆
円,その内訳をC等の液晶パネル又はその関連製品の製造工場の先行事
例であるR’を参考として,工場建設設備が3割,機械設備投資が7割
とし,②工場の生産活動につき,同様に先行事例である三重県の経済
的波及効果の算出基礎と同様に,製造品の出荷額を建設投資額1兆円の
2倍に設定することを前提とした上で,工場建設及び機械設備の導入に
伴う建設投資の経済的波及効果を約1兆円とし,工場の生産活動に伴う
経済的波及効果を約2兆9000億円とし,合計約3兆9000億円の
経済的波及効果が生じるとするものであった(丙11)。なお,平成2
0年4月当時,最も新しい平成15年の大阪府産業連関表(丙12の3)
を用いて経済的波及効果の再試算を行った場合には,最終波及効果は3
兆8000億円となっている(乙6,丙12)。
(イ)また,大阪府は,上記(ア)の経済的波及効果を踏まえ法人事業税の規
模についても試算を行っているところ,「平成12年大阪府産業連関表」
に基づき算出される営業余剰(約5兆8000億円)と,同年度の大阪
府全体の法人事業税収(約3400億円)を比較し,この割合(約6%)
を,今回の経済的波及効果(約3兆9000億円)における営業余剰(建
設効果600億円,生産効果2000億円)に当てはめて,経済的波及
効果に見合う法人事業税の規模を算出し,1兆円の建設投資に見合う法
人事業税の規模として約36億円,2兆円の生産活動に見合う法人事業
税の規模として約120億円と試算しており,毎年2兆円の生産活動が
あるものと仮定して,10年間で約1200億円の法人事業税が生み出
されるものと試算している(丙11の1)。
イS’教授らの試算
C等の液晶パネル又はその関連製品の製造工場の経済的波及効果につい
て,平成19年8月時点において,T’会計大学院教授S’及びP’大学
経済学部准教授U’により作成,取りまとめられた「CP工場の経済的波
及効果」において,試算を行った結果,建設投資に伴う経済的波及効果が
8017億3000万円,平成23年のフル稼働時の生産活動に伴う経済
的波及効果が年間1兆0966億1000万円,10年間で11兆110
9億3000万円であるとされた(甲8,乙23)。
(9)操業開始後における経済的波及効果等についての総合的調査等
ア初期投資分の経済的波及効果について
大阪府は,平成20年度から平成23年度までにおけるC及び関連三社
によるMへの工場立地による経済的波及効果(初期投資分に限る。)につ
いて,Q’に委託して調査を行っており,その結果が同年3月にとりまと
められているところ,その内容は以下のとおりである(丙35)。
(ア)C及び関連三社の設備投資額
C及び関連三社は,平成20年度に合計316億8400万円(建設
217億9800万円,機械等98億8600万円),平成21年度に
合計1954億1200万円(建設867億5000万円,機械等10
86億6300万円),平成22年度に合計1562億1600万円(建
設588億9100万円,機械等973億2600万円。ただし,一部
予定額。),平成23年度に720億5600万円(機械等720億5
600万円。ただし,予定額。)の設備投資をした。
(イ)設備投資(建設)による経済的波及効果
C及び関連三社の設備投資(建設)による経済的波及効果は,平成2
0年度につき,生産誘発額345億円,粗付加価値誘発額175億円,
雇用者所得誘発額113億円,営業余剰誘発額15億円,平成21年度
につき,生産誘発額1374億円,粗付加価値誘発額696億円,雇用
者所得誘発額451億円,営業余剰誘発額60億円,平成22年度につ
き,生産誘発額933億円,粗付加価値誘発額473億円,雇用者所得
誘発額306億円,営業余剰誘発額41億円と算定された。
(ウ)設備投資(機械等)による経済的波及効
C及び関連三社の設備投資(機械等)による経済的波及効果は,平成
20年度につき,生産誘発額15億円,粗付加価値誘発額8億円,雇用
者所得誘発額5億円,営業余剰誘発額1億円,平成21年度につき,生
産誘発額544億円,粗付加価値誘発額295億円,雇用者所得誘発額
162億円,営業余剰誘発額50億円,平成22年度につき,生産誘発
額535億円,粗付加価値誘発額291億円,雇用者所得誘発額159
億円,営業余剰誘発額50億円,平成23年度につき,生産誘発額69
5億円,粗付加価値誘発額408億円,雇用者所得誘発額198億円,
営業余剰誘発額69億円と算定された。
(エ)設備投資による雇用効果
平成20年度から平成23年度までにおける設備投資による雇用誘発
効果の合計は,設備投資(建設)によるものが約1万8900人,設備
投資(機械等)によるものが約1万0900人である。
(オ)設備投資による税収効果(府税)
平成20年度から平成23年度までにおける設備投資税収効果(府
税・個人住民税,法人住民税,事業税)の合計は,設備投資(建設)に
よるものが約15億9000万円,設備投資(機械等)によるものが約
18億1000万円である。
(カ)設備投資による税収効果(市税)
平成20年度から平成23年度までにおける設備投資税収効果(市
税・個人住民税,法人住民税,事業税)の合計は,設備投資(建設)に
よるものが約21億2000万円,設備投資(機械等)によるものが約
16億4000万円である。
イ操業に係る経済的波及効果について
大阪府は,平成20年度から平成23年度までにおけるC及び関連三社
によるMへの工場立地による経済的波及効果(操業に係る府域への経済的
波及効果)について,Q’に委託して調査を行っており,その結果が平成
24年にとりまとめられているところ,平成22年度(企業の事業年度)
における4工場の年間出荷額の合計は約3460億円であり,平成17年
大阪府産業連関表府域への経済的波及効果を試算すると,生産誘発額が約
4373億円(うち粗付加価値誘発額が1986億円),雇用誘発効果が
約6700人,個人住民税,法人住民税,法人事業税に係る税収効果(府
税)が68億8000万円であった(丙57)。
ウW’による経済的波及効果の推計について
堺市は,平成23年8月,本件堺市条例に係る認定企業(対象59社)
の投資による堺市内への経済的波及効果について,平成17年堺市産業連
関表を用いて試算を発表しているところ,その内容は以下のとおりである
(乙41)。
(ア)建設投資額増加がもたらす波及効果
本件堺市条例の認定を受けた企業の建設投資2281億円(平成23
年1月1日時点)は,市内で投資されるためそのまま市内需要増加額(直
接効果)となり,最終的に市内生産額を3170億円増加させる(総合
効果)。そのうち,粗付加価値誘発額は1543億円,雇用者所得誘発
額は1073億円で雇用者誘発数は2万3000人となる。
また,18億2000万円(法人市民税2億6000万円,個人市民
税15億6000万円)の税収効果が見込まれる。
(イ)設備投資額増加がもたらす波及効果
市内における設備投資3649億円は,市内に1384億円の需要増
加をもたらし(直接効果),最終的に市内生産額を1895億円増加さ
せる(総合効果)。そのうち,粗付加価値誘発額は1089億円,雇用
者所得誘発額は604億円で雇用者誘発数は1万3000人となる。
また,14億9000万円(法人市民税6億1000万円,個人市民
税8億8000万円)の税収効果が見込まれる。
(ウ)市外への出荷額増加がもたらす波及効果
aQにおけるC及びその関連企業(グリーンフロント立地企業)にお
ける市外への出荷額は,最終的に市内生産額を1780億円増加させ
る(総合効果)。そのうち,粗付加価値誘発額は675億円,雇用者
所得誘発額は416億円で雇用者誘発額は9000人となる。
また,8億1000万円(法人市民税2億円,個人市民税6億10
00万円)の税収効果が見込まれる。
b上記aの企業以外の認定企業の出荷額は,最終的に市内生産額を5
845億円増加させる(総合効果)。そのうち,粗付加価値誘発額は
1816億円,雇用者所得誘発額は356億円で雇用者誘発数は70
00人となる。
また,8億2000万円(法人市民税3億1000万円,個人市民
税5億1000万円)の税収効果が見込まれる。
c上記a及びbによれば,本件堺市条例の認定企業における平成21
年の市外への出荷額6124億円は,最終的に7624億円の生産を
誘発する。そのうち,粗付加価値誘発額は2491億円,雇用者所得
誘発額は772億円で雇用者誘発数は1万6000人となる。
また,16億3000万円の税収効果(法人市民税5億1000万
円,個人市民税11億2000万円)の税収効果が見込まれる。
(エ)市外への出荷額増加がもたらす波及効果(フル稼働時)
aQにおけるC及びその関連企業(グリーンフロント立地企業)にお
ける市外への出荷額は,最終的に市内生産額を7227億円増加させ
る(総合効果)。そのうち,粗付加価値誘発額は2666億円,雇用
者所得誘発額は1654億円で雇用者誘発数は3万4000人とな
る。
また,31億8000万円(法人市民税7億8000万円,個人市
民税24億円)の税収効果が見込まれる。
b上記aの企業以外の認定企業の市外への出荷額は,最終的に市内生
産額を5987億円増加させる(総合効果)。そのうち,粗付加価値
誘発額は1890億円,雇用者所得誘発額は405億円で雇用者誘発
数は8000人となる。
また,9億2000万円(法人市民税3億3000万円,個人市民
税5億9000万円)の税収効果が見込まれる。
c上記a及びbによれば,認定企業において工場がフル稼働する平成
23年の市外への出荷額8828億円は,最終的に1兆3214億円
の生産を誘発する。そのうち,粗付加価値誘発額は4556億円,雇
用者所得誘発額は2060億円で雇用者誘発数は4万2000人とな
る。
また,41億円(法人市民税11億1000万円,個人市民税29
億9000万円)の税収効果が見込まれる。
4争点1(本件不均一課税措置の公益上の必要性-地方税法6条2項該当性)
について
(1)地方税法6条2項の公益上の必要性について
地方税法6条2項は,地方団体は,公益上その他の事由に因り必要がある
場合においては,不均一の課税をすることができる旨定める。「公益上その
他の事由」とは,同条及び同法の他の諸規定との関連解釈上,「公益上の事
由及び公益に準ずる事由」と解され,ここに公益上の事由とは,当該課税対
象に対し不均一の課税をすることが直接公益を増進し,又は不均一の課税を
しないことが直接公益を阻害する場合をいうものと解される。そして,直接
公益を増進し又は直接公益を阻害するか否かは,当該不均一課税措置の目的,
趣旨,効用及び経緯,不均一課税措置の対象となる事業の目的,性質及び状
況,当該地方公共団体の財政の規模及び状況,議会の対応,地方財政に係る
諸規範等の諸般の事情を総合的に考慮した上で検討することが必要であると
解される。
(2)検討
ア本件不均一課税措置の目的
本件不均一課税措置を定める本件堺市条例は,その1条において,堺市
内における工業に適した土地に企業投資を誘導することにより,堺市にお
ける雇用機会及び事業機会の拡大並びに産業の空洞化の防止を図り,もっ
て地域経済の活性化,産業の高度化及び市民生活の向上に寄与することを
目的とする旨定めているところ,本件堺市条例に基づいてされる本件不均
一課税措置も同様の目的を有するものということができる。そして,この
ような本件不均一課税措置の目的自体,地域経済の活性化や産業拠点の形
成等を図るものであるから,公益に沿い,又は公益を増進するものといえ
る。
イ不均一課税措置の採用の経緯等
堺市においては,バブル経済の崩壊以降,事業所数や製品出荷額が減少
傾向にあり,地価や人件費が嵩み,臨海部の工業地域において民間企業が
広大な低・未利用地を抱えつつも,これを十分に活用できない状況がある
中,Cの亀山市への進出を一つのモデルケースとして,他の多くの地方公
共団体が優遇策を打ち出して企業誘致を行っていたことから(前記前提事
実(2),上記認定事実(1)ウ),企業誘致施策として投資額等に応じた不均
一課税措置を設けたものであって,その経緯に格別不合理な点はない。そ
して,堺市議会における審議を経て本件堺市条例が制定され(上記認定事
実(1)エ),被告市長において,本件堺市条例が定める要件を充たすものと
して本件不均一課税措置がされていることからすると,不均一課税措置は
地域経済の活性化,産業の高度化及び市民生活の向上に寄与するという上
記アの目的を実現するため堺市が採用した政策の具体化の一つであって,
その目的達成の手段としても合理的なものということができる。
ウ本件不均一課税措置の対象等
(ア)本件不均一課税措置は,企業立地計画(認定計画)に従って新設又は
増設した家屋等に対して課する固定資産税等を対象としている(本件堺
市条例4条1項)ところ,企業立地計画(認定計画)は,企業等の提出
する企業立地計画が堺市の地域経済の発展に資するか,環境保全等に配
慮したものか,企業等の資力,信用及び経営能力の面から適切であるか
(本件堺市条例3条3項1号から3号まで)を被告市長が審査して認定
したものである。
(イ)また,本件不均一課税措置の対象事業としての液晶パネル又はその関
連製品の製造は,当時,これからの成長が見込まれる「いわゆる成長産
業」であり(前記前提事実(2)),かつ,堺市内に集積する先導的な企業
及び研究機関並びに独創的な中小企業を活用することが意図され,Cが
新規に工場家屋を建設し産業活動を行うことが,堺市の地域経済の活性
化に資するものと見込まれた。
そして,本件堺市条例に定める不均一課税措置は,本件堺市条例別表
第1に記載された地域において,投下固定資産額や従業者数を備えるこ
とを要件とするところ,これらの要件は,堺市において,数年来,M地
区の低・未利用の遊休地を整備・活用を検討していた経緯(上記認定事
実(1)ウ)や,当時の経済情勢,周辺の地理的環境・産業的環境等を踏ま
えて,堺市の産業施策上,上記アの目的を最もよく促進するものとして,
制定されたものということができる。
(ウ)上記(ア),(イ)によれば,本件不均一課税措置の対象となったCの認定
計画は,本件堺市条例に沿うものとして堺市における地域経済の活性化
に資するものと見込まれていたということができる。
エ本件不均一課税措置の効果等
(ア)本件不均一課税措置は,企業立地計画の認定を受けた企業の投下固定
資産額1億円以上(中小企業のみ。その他は,10億円以上。)に応じ,
市税の額を5年又は10年にわたり2分の1から5分の1とするもので
あるから,その形式的かつ直接的な効果は当該企業に帰属することとな
る。
(イ)しかし,本件不均一課税措置は,地域経済の発展に資するなど適当と
認められた企業立地計画(認定計画)に従って新設又は増設した家屋等
に対して課する固定資産税等を減額するものであるから(本件堺市条例
4条1項),必然的に堺市内,しかも工場等を誘致するのに適当とされ
る地域において,10億円(中小企業の場合でも1億円)以上の新規の
設備投資を伴い,雇用者数の要件と相まって,企業立地を行った企業等
による堺市の経済への貢献や雇用への経済的波及効果を生ずると期待で
きるものである。とりわけ,本件不均一課税措置の対象事業である液晶
パネル又はその関連製品の製造は,上記ウ(イ)のとおり,当時,これから
の成長が見込まれる「いわゆる成長産業」として中小企業の活用に繋が
るといった波及効果が見込まれるものであった。そして,上記認定事実
(8)ア及びイのとおり,C及び関連三社の工場立地に先立って検討された
ところによれば,C及び関連三社の工場立地による雇用創出効果及び経
済的波及効果が見込まれていた上,上記認定事実(6)のとおり,現実にも
その工場立地により,工場建設当初から雇用を創出し,経済的効果を生
じさせ,工場の操業開始以降は千人規模の雇用の受皿として機能し,大
阪府下の中小企業等との商談等を形成し,堺市の製造品出荷額を増加さ
せ,M地区及びその近隣の土地について固定資産税評価額の上昇等の波
及効果を生じさせている。
(ウ)そして,上記認定事実(7)イのとおり,堺市は毎年概ね3000億円
程度の歳入の下,その財政は健全な状態(いわゆる黒字状態)で推移し
てきた上,企業立地及び新規の設備投資により新たな固定資産税,都市
計画税及び事業所税収入が生じること(上記認定事実(7)イ(ア))からす
ると,上記の波及効果は税収増加という形で現れるものと見込まれる。
もっとも,C等に対して行われる本件不均一課税措置による10年間
の減収見込額245億1654億円(1年当たり25億円弱。なお,本
件不均一課税措置による軽減額は,平成23年度につき合計33億71
40万1000円,平成24年度につき29億3207万5000円で
ある。)がある上に,不均一課税措置の採用に伴う普通地方交付税の交
付額の減少額が10年間で総額126億7731万5000円程度(1
年当たり12億6773万1500円程度)生ずるものと見込まれるが,
上記の税収増加額を上回るものではない。甲事件原告らは普通地方交付
税の減額分が年間45億円とするが,少なくとも堺市全体の税収ではな
く本件不均一課税措置との対比において,堺市全体の税収増加を考慮し
て算定された地方交付税交付金の金額を用いて単純に比較することは適
切ではない。仮に,本件不均一課税措置を含む企業誘致策が明確な形で
税収増加に結びついていないと評価されたとしても,上記のとおり,本
件不均一課税措置が本件堺市条例に基づくものであって,企業誘致に伴
う波及効果が広範に及んでいることを考慮すると,このような事情をも
って直ちに公益性がないと断ずることはできないというべきである。
オ小括
以上の諸事情に照らせば,本件不均一課税措置は,形式的にはC等の誘
致企業に利益を生じさせるものではあるものの,堺市において数年来にわ
たり十分な活用がされていなかった地域を対象地区とし,堺市内における
工業に適した土地に企業投資を誘導し,堺市における雇用機会及び事業機
会の拡大並びに産業の空洞化の防止を図り,地域経済の活性化,産業の高
度化及び市民生活の向上に寄与することを目的とするものであって,堺市
議会における審議を経て市税にかかわる一制度として本件堺市条例により
定められたものであり,工場誘致に伴う工場建設やその後の生産活動によ
る短期的,中長期的な税収増加,雇用増大,経済的波及効果等の効果が類
型的に見込まれる事業を対象とするものであって,これにより,実際に長
期にわたって十分な活用がされていなかった遊休地にC等の企業立地を図
ることができ,実際に税収増加,雇用増大,経済的波及効果等を相当程度
実現させている。そうであるとすると,本件不均一課税措置は公益の推進
に適ったということができ,他方において,地方公共団体が経済的支援を
して企業を誘致するという手法は多くの地方公共団体において採用されて
いたものであって,不均一課税措置を採用することに伴って生ずる堺市の
財政負担も,その規模に照らし許容できないものとはいえないことに照ら
せば,本件堺市条例が定める不均一課税措置の適用要件を充たしていると
してされた本件不均一課税措置が被告市長に与えられた権限を逸脱し,又
は濫用したものとはいえないことは明らかというべきであって,地方税法
6条2項に反すると認めるに足りる事情はない。
(3)甲事件原告らの主張について
アこれに対し,甲事件原告らは,①本件不均一課税措置とC等の立地の
間に因果関係がない,②堺市の財政状況に照らせば本件不均一課税措置
の必要はない,③本件不均一課税措置によって経済的波及効果,雇用創
出効果,地元企業との取引増加及び堺市の税収増加等の効果が生ずること
はなく,住民に利益が生じることもない,④本件不均一課税措置は,周
辺のインフラ整備も含め,C等の大企業の利益を図る目的でされたもので,
中小企業との公平性を欠いたものである,などと主張する。
イ上記①の主張について
甲事件原告らは,製造企業の国内立地選択に係る調査研究において,国
内立地選択に当たり補助金や不均一課税措置といったものは重視されてお
らず,CのZ社長自身も,記者会見において,堺市に企業進出した理由と
して補助金等の存在を挙げていないと主張し,これに沿う証拠(甲5,7)
も存在する。
しかし,甲事件原告らがその根拠とする調査研究においては「上位3つ
までの複数回答」が取り上げられているにすぎず(甲5),企業進出に当
たって考慮されるべき全ての事情が現れているとは解されないし,企業の
進出,運営においては種々の事情が考慮されることからすると,記者会見
という場において堺市に企業進出した理由の全てが語られるとはおよそ考
えられない。甲事件原告らが根拠とする上記証拠(甲7)も,大阪府及び
堺市の様々な誘致策が奏功した旨記載している。
X’「埼玉県企業立地の経済効果」(丙34)においては,「誘致され
る企業にとっては,早々に操業を開始し,収益を上げるため,「地価」「必
要な用地面積の確保の容易性」「交通の便」「市場への近接性」「原材料
等の入手利便性」「労働力・人材の確保」「関連企業への近接性」「自治
体の助成・協力」等が立地選定事項となっており,複数の候補地の中から
税の低減などの地方自治体の支援内容も含めて選んでいる状況も見受けら
れる。」と指摘され,また,大阪府が本件大阪府条例に基づいて先端産業
補助金を交付した企業を対象に行ったアンケート(丙29)においても,
事業所を設置する際に重視した要因として,大阪府からの補助金を最重視
又は重視した企業が84.6%に及んでいる。さらに,平成19年当時,
上記認定事実(1)ウのとおり,地方公共団体において高額な補助金を交付し
て企業を誘致することが盛んに行われていたことからすると,企業誘致に
おいて地方公共団体による補助制度等が一定の効果を有するというべきで
ある。
したがって,甲事件原告らの上記①の主張に理由があるとはいえない。
ウ上記②の主張について
本件不均一課税措置は地方交付税交付金を減額す
るから,堺市の税収増加にはつながらず,このことは堺市が国に対して減
収補てん措置を要望したことから明らかである堺市の財政の健全性
は,市民が全国でも有数の高額な国民健康保険料,介護保険料及び上下水
道料を負担していることによるものである(甲9)とし,市民にこのよう
な負担を負わせつつ大企業に本件不均一課税措置のような大規模な優遇措
置を実施することは許されないと主張する。
(2)エ(ウ)において説示したとおり,
本件不均一課税措置による企業誘致は堺市に税収効果をもたらすものであ
るし,堺市が国に対して減収補てん措置を要望したのは,本件不均一課税
措置が,日本全体の景気拡大や公益額の増加に繋がることから,国に対し
ても応分の負担を求めたにすぎず,当時(平成23年度)においても,堺
市の基準財力指数(0.83)は全国の市町村平均(0.51)を大きく
上回っていること(上記認定事実(7)イ(エ))に照らせば,甲事件原告らの
当該主張を採用することはできない。
れば,税収が一層悪化し,ひいては福祉予算を確保することが困難となる
可能性もあるのであって(丙34),どのような形で地域産業や地域の福
祉を誘導するか,あるいは住民に対して国民健康保険料等の負担を求める
かといった事項は,正に住民から選出された地方公共団体の議会における
審議や,地方公共団体の長の裁量判断にかかわる事項ということができる。
そうすると,上記(2)イのとおり審議し成立した本件堺市条例に基づき,同
条例に定める要件があるものとした被告市長の判断が,その裁量権の範囲
を逸脱し又は濫用したということはできない。
そうすると,甲事件原告らの上記②の主張に理由があるとはいえない。
エ上記③の主張について
甲事件原告らは,本件不均一課税措置により経済的波及効果や堺市の税
収が増加することはない,C等は本件不均一課税によって得た利益の使途
が限定されておらず住民の利益に繋がらない旨主張する。
しかし,経済的要因を通じて地域住民の厚生の保全・向上を図ることを
目的とする地域経済の活性化は,住民生活には不可欠な取組みであり,地
域においては,多様な主体の集積や,競争と連携の関係の構築が重要で,
産業の「内発的創造」のみならず「企業誘致」も併せて重視すべきもので
あり,企業誘致は従来から代表的な地域経済活性化策の一つとして行われ
てきたことに加え(丙30),企業誘致には,誘致した企業自体の生産や
雇用による直接的効果,関連産業における経済的波及効果・雇用誘発効果
を通じて,事業税・住民税等の地方税収の増加をもたらし,税収の増加に
より,自主財源比率が高まり,交付税への依存度が低下し,税収の増加は,
自治体の地方公共サービスの供給を高め,産業基盤の整備やインフラの充
実に寄与するといったメリットがあると説かれること(甲119)からす
ると,本件不均一課税措置を通じた企業誘致が住民の利益となることはな
いとする甲事件原告らの主張は理由がない。
そして,本件不均一課税措置が経済的波及効果や堺市の税収増加といっ
た効果をもたらすことは,上記(2)エ(イ),(ウ)において説示したとおりであ
る。
また,不均一課税措置は,市税を減額する性質上,これが適用されたこ
とによって対象企業に生じた利益を当該対象企業がどのような使途に充て
るかを制限するものではないが,本件不均一課税措置は,「工業に適した
土地に企業投資を誘導することにより,…雇用機会及び事業機会の拡大並
びに産業の空洞化の防止を図り,もって地域経済の活性化,産業の高度化
及び市民生活の向上に寄与することを目的とする」ものであり,使途が制
限されていないとしても,上記(2)エ(イ),(ウ)のとおり,本件不均一課税措
置による種々の波及効果が生じるものと解される以上,住民らの利益に繋
がらないとする甲事件原告らの主張に理由はない。
したがって,甲事件原告らの上記③の主張に理由があるとはいえない。
オ上記④の主張について
(ア)甲事件原告らは,堺市は,指名停止中のKと随意契約を締結し,M整
備推進室を設け,工場建設に当たり開発許可及び環境影響評価を不要と
するなどしてCの早期の操業開始に向けた便宜を図り,道路や水道を公
費で敷設するなどしており,本件不均一課税措置も,これらの便宜供与
とともにC等の私企業(大企業)の利益を図る目的でされたものであり,
中小企業との間で公平性を欠いたものであると主張する。
(イ)aしかし,本件不均一課税措置は,前記(2)アのとおり,堺市における
雇用機会及び事業機会の拡大並びに産業の空洞化の防止を図り,もっ
て地域経済の活性化,産業の高度化及び市民生活の向上に寄与するこ
とを目的とするものであり,上記(2)イのとおり,堺市議会において審
議された本件堺市条例に基づいたものである。そして,甲事件原告ら
がC等の大企業の利益を図ったと主張する諸事情も,上記(2)エにおい
てみた種々の効果を享受するためのものであって,堺市における雇用
機会及び事業機会の拡大を速やかに図るとともに,堺市及びその付近
の地域経済の活性化,産業の高度化を促し,市民生活の向上を速やか
に導くための施策の一環ということができるもので,少なくとも堺市
民の利益を無視して大企業の利益確保を図ったものと認めるに足りる
事情はない。また,甲事件原告らにおいて,堺市が大企業の利益を図
ったとして主張する諸事情について,仮に特定の企業等の利益を意図
したことがうかがわれる事情があったとしても,それは個別に検討さ
れるべきものであって,上記事情を理由に本件堺市条例に定められた
要件を充たすものとしてされた本件不均一課税措置が違法になると解
すべき事情はない。
b甲事件原告らが主張する個々の事情について一応検討すると,M整
備推進室は,C及び関連会社に係る工場建設に関連する業務以外に,
M中小企業クラスターの設置,大規模地震対策施設の設置,ナショナ
ルトレーニングセンターの設置等に関する業務を担当しており(上記
認定事実(4)),少なくとも,C又はその関連会社のために設置された
部署ではないことは明らかである。また,道路や水道については,Q
ではCの立地が公表される以前の平成18年2月時点に改定されたN
港港湾計画書において,基幹的広域防災拠点に接続する臨港道路R1
号線及び2号線の敷設が計画されていたこと(前記前提事実(3)ア,上
記認定事実(3)ア)に加え,基幹的広域防災拠点への水道供給も必要な
ものと解されることに照らせば,より効率的な企業立地,工業用地の
確保等のために細部の変更等がされたとしても,いずれもC等のため
に殊更に敷設されたものということはできない。加えて,開発許可や
環境影響評価を不要としたとされる点についても,既成市街地や土地
区画整理事業等の計画的な開発行為が行われた区域における二次的な
開発行為(再開発型開発行為)については,開発行為と建築行為が時
間的にも計画的にも極めて密接な関連を有して行われること,開発行
為が行われる区域の周辺において一定の水準の公共施設が整備されて
いる場合も多いこと等,都市近郊において新市街地の形成を図る開発
行為とは異なった要素を有していることから,都市計画の目的の実現
という観点からは改めて開発許可制度による規制を及ぼす必要がない
場合があり,このような場合については開発許可が不要とされている
ところ(甲60,61),Cが堺市に適用法令等要否判定依頼をした
平成19年9月3日(甲59)時点において,既に整地行為が計画,
開始されていたのであるから(上記認定事実(5)ア,イ),当該土地に
工場を建設する行為は既成地を二次的に利用する行為ということがで
き,また,本件工場用地にCが工場を建設することは,大阪府及び堺
市の土地利用計画に即したものであって,「農地及び山林が蚕食的に
宅地化されて無秩序に市街地が拡散し,道路も排水路もない不良市街
地が形成される」ことを防止するという開発許可制度による規制が必
要とされるものでなかった。甲事件原告らは,Hによる整地とCによ
る工場建設が一体と評価すべきであると主張し,証人G’がその旨証
言するが,上記に照らして採用できない。
加えて,O’の建物の高さが60メートル以下であることから(甲
59,64,乙61),建築基準法21条に規定する建築物の新築の
事業としての環境影響評価は不要である。そして,上記のとおり,C
の本件工場用地での開発行為は,再開発型開発行為に該当し,都市計
画法の開発許可を要しない場合に該当するから,都市計画法29条1
項又は2項の許可を受けて行う開発行為その他の土地の形状の変更の
事業としての環境影響評価も不要である。
(ウ)甲事件原告らは,本件不均一課税措置が大企業と中小企業の間の公平
性を欠くものであり,違法行為を助長するものであると主張するが,本
件堺市条例に定める不均一課税措置は,中小企業の投資を誘発するため
に,1億円以上の投資がされた場合にも優遇措置(5年間にわたって市
税条例の規定により課すべき税額に2分の1の割合を乗ずる。)を設け
ているのであって,殊更中小企業を排除するものではないし,本件不均
一課税措置が違法行為を助長するものとみることができないことは上記
(イ)のとおりである。
なお,甲事件原告らは,C等に対しては,本件不均一課税措置に加え
て大阪府による先端産業補助金の交付がされているから,二重の支援が
されており,この点において不当に大企業を利するものであると主張し,
Y’はその旨供述するが(甲94,証人Y’),堺市及び大阪府のそれ
ぞれにおいて定めた制度,要件に基づいて本件不均一課税措置や先端産
業補助金の交付がされ,各制度において中小企業等との関係において公
平性を欠いているとはいえず,また,堺市と大阪府が財政主体を異にし
上記各制度により各財政主体の経済的負担を超える規模の政策効果を実
現することができることに照らせば,甲事件原告らの上記主張は,公平
性という点においても,各地方公共団体の財政負担という点においても,
理由がないというべきである。
(エ)したがって,甲事件原告らの④の主張に理由があるとはいえない。
5争点3(先端産業補助金の公益上の必要性-地方自治法232条の2該当性)
について
(1)地方自治法232条の2の公益上の必要性について
地方自治法232条の2は,「普通地方公共団体は,その公益上必要があ
る場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と規定していると
ころ,地方公共団体の長は,地方自治の本旨の理念に沿って,住民の福祉の
増進を図るために地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担
う地方公共団体の執行機関として,住民の多様な意見及び利益を勘案し,補
助の要否についての決定を行うものであり,その決定は,事柄の性質上,諸
般の事情を総合的に考慮した上での政策的判断を要するものとして地方公共
団体の長に一定の裁量権があるものと解される。他方で,同法232条の2
が公益上必要があることを要件とした趣旨は,恣意的な補助金等の交付によ
って当該地方公共団体の財政秩序を乱すことを防止することにあると解され
る以上,裁量権の範囲には一定の限Pがあり,当該地方公共団体の長による
公益上の必要性に関する判断に裁量権の逸脱又は濫用があったと認められる
場合には,当該補助金の交付は違法と評価されると解するのが相当である。
そして,地方公共団体の長が特定の事業について補助金を交付する際に行っ
た公益上の必要性に関する判断に裁量権の逸脱又は濫用があったか否かは,
当該補助金交付の目的,趣旨,効用及び経緯,補助の対象となる事業の目的,
性質及び状況,当該地方公共団体の財政の規模及び状況,議会の対応,地方
財政に係る諸規範等の諸般の事情を総合的に考慮した上で検討することが必
要であると解される。
(2)検討
ア先端産業補助金の交付の目的
先端産業補助金の交付は要綱に基づくものであるところ,要綱は,本件
大阪府条例5条1項に基づくものである。そして,本件大阪府条例は,「大
阪における大都市圏の総合的な魅力に基づく企業立地の促進を図り,もっ
て中小企業の振興をはじめとする地域経済の振興と府民生活の向上に資す
ることを目的とする」ものであって(1条),このような目的はそれ自体,
大阪府の施策として公益に合致することは明らかである。
イ先端産業補助金交付の経緯等
上記4(3)エのとおり,企業誘致には,直接的効果,経済的波及効果や雇
用誘発効果,税収増加等の種々のメリットを地方公共団体にもたらすとさ
れ,平成17年当時,全国的に地方公共団体において企業の誘致に補助金
を拠出して支援する制度が設けられていたところ(上記認定事実(1)ウ),
大阪府の地価や人件費等は他の地方公共団体に比べて高コストであって
(上記認定事実(1)イ,ウ),企業が新たに大阪府内に工場等を建設し,進
出する際には不利な地域的要因となるから,大阪府は,これらの不利な要
因を払しょくする優遇策として,大阪府内に工場等を立地した企業に対す
る補助金制度を拡充すべく,本件大阪府条例を制定し,上限規則や要綱等
を改正するなどしたのであって(上記認定事実(1)ウ),このような経緯に
照らせば,要綱等に従って先端産業補助金等を交付して企業を誘致し,企
業誘致を介した地域経済の振興と府民生活の向上を図ることは大阪府民に
選出された大阪府議会においても承認されたものということができ,その
一環として要綱等に定められた要件を充たすものとしてされた先端産業補
助金の交付は公益に沿うものといえる。
ウ先端産業補助金交付の対象
先端産業補助金交付の対象は,先端的な技術開発等が期待される事業分
野における企業立地及び良好なまちづくりに資する府内の企業の設備投資
の促進に配慮するものとされ(本件大阪府条例5条2項),具体的には,
大阪府先端産業審査委員会により,要綱に定められた先端事業に当たると
の認定を受けた事業であって,補助対象区画により地域を,補助対象経費
及び雇用要件により規模を画し,工場立地をこれが適する地域に誘導して
いる。そして,先端産業の新規誘致は,新たな設備投資につながり易いと
いうことができる上,これを物的,人的の各側面において相当規模で実施
するときには,相応の経済的波及効果を期待することができるから,企業
誘致を介した地域経済の振興と府民生活の向上に資するものということが
できる。
エ補助金の使途
補助金の使途についてみると,先端産業補助金の交付については,要綱
12条において,先端産業補助金の補助対象経費が定められているのであ
って,先端産業補助金はその受領者において使途を限定することなく自由
に費消できるものではない。
オ先端産業補助金の交付額と大阪府の財政規模
(ア)地方公共団体が企業等に対して補助金を交付するとき,その交付額そ
れ自体は地方公共団体の支出として財政上の負担を生ずるものである。
そして,先端産業補助金の交付額は,当初Cに対する136億円,関連
企業に対する108億円に及ぶもので(前記前提事実(5)イ),その額自
体,高額であることは否定できない。
(イ)しかし,上記認定事実(1)ウのとおり,平成19年当時は,地方公共
団体において企業誘致のために企業に対して高額な補助金の交付を行う
例も少なくなく(兵庫県のように補助金の上限額を投資額の割合に求め,
具体的金額を定めていない例もある。),地方公共団体が半ば企業誘致
を競い合うかの状況が存していた上,大阪府の地価や人件費は比較的高
額であって新規立地に要するコストが比較的高額とならざるを得ない側
面があり,このような大阪府に企業(工場)を誘致するには補助金の額
が高額に及ぶこともやむを得ない事情があるということができる。加え
て,先端産業補助金の最高補助率は20%(原則は5%)とされ,交付
される補助金の額が高額となる場合には大阪府下に相応の投資がされる
こととなる。
他方,先端産業補助金の交付により大阪府が抱える負担は,補助金を
分割して交付することにより,大阪府の財政負担の平準化が図られてい
るのであって,負担が単年度に過度に集中することがないものとされて
いる上,上記認定事実(7)アのとおり,大阪府の財政は平成20年には黒
字に転じるなど近時順調に推移し,平成21年度は約3兆0300億円
の財政規模を有しており,同年度の補助金総額32億9300万円(C
等に対するもの)はその0.11%程度であって,大阪府の財政規模そ
れ自体に著変があるとはうかがわれず,またC及び関連三社に対する補
助金額が大幅に変ずるものでもないことに照らせば,その後も同程度の
負担となるものと見込まれる。そして,企業誘致が地域に及ぼす経済的
波及効果(これに伴う法人事業税の増加も期待される。)や雇用効果等
に加え,10年間の操業義務を課していることを考慮すると,先端産業
補助金の交付額をもって大阪府の財政上許容できない負担を生じている
ものと評することはできない。
そうすると,先端産業補助金の交付額についても,大阪府の財政規模
に照らし,およそ是認できない程に高額であるといった事情も見いだせ
ず,公益の観点から許容できないものとまではいえない。
カ先端産業補助金交付の効果等について
上記認定事実(8)ア,イのとおり,先端産業補助金の交付により誘致され
るC及び関連会社の経済的波及効果について,その操業前においては3兆
8000億円から3兆9000億円程度(10年間の法人事業税収入は約
1200億円)と試算され,平成20年度から平成23年度までの設備投
資に係る府税収入が約34億円,操業に係る府税収入が69億8000万
円と試算されている上,雇用効果等が別途生じている。なお,Aは,堺市
に本社を置いているところ,Aの平成25年度の当期純利益は約60億円,
平成26年度の当期純利益は約72億円であり,大阪府の法人府民税や堺
市の法人市民税の増加をもたらすものと認められる。
そして,上記のような効果を生じていること自体,先端産業補助金の交
付が公益性を有するものであることをうかがわせるというべきである。
キ小括
以上の諸事情に照らすと,先端産業補助金の交付は,形式的には交付を
受けたC等の利益となるものの,その交付の目的は中小企業の振興を始め
とする地域経済の振興と府民生活の向上に資することにあり,C等の工場
誘致に伴う工場建設やその後の生産活動による短期的,中長期的な税収増
加,雇用増大,経済的波及効果等の効果が見込まれたことから,先端産業
補助金の交付に至ったものであって,これにより,実際に長期にわたって
十分な活用がされていなかった遊休地にC等の企業立地を図ることがで
き,見込まれた種々の効果を相当程度実現させていることからすると,先
端産業補助金の交付は公益の推進に適ったものということができ,他方に
おいて,補助金を交付して企業を誘致するという手法は多くの地方公共団
体において採用されていたものであって,これによる大阪府の財政負担も,
その規模に照らし許容できないものとはいえないことからすると,先端産
業補助金の交付に公益上の必要があるとした大阪府知事の判断は,その裁
量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるとはいえない。また,
補助事業者の地位の承継があった場合,これにより当該工場における事業
内容や被用者の雇用等が直ちに大きく変更されることにはならない以上,
Aに対する先端産業補助金の交付についても,同様に,公益上の必要があ
るとした大阪府知事の判断は,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫
用したものであるとはいえない。
なお,上記公益上の必要に照らせば,先端産業補助金の交付が地方自治
法2条14項,地方財政法4条1項に反すると解すべき事情もない。
(3)乙事件原告らの主張について
アこれに対し,乙事件原告らは,①先端産業補助金の交付とC立地の間
に因果関係がない,②財政状況に照らせば先端産業補助金の交付を行う
必要はない,③先端産業補助金の交付によって経済的波及効果,雇用創
出効果や地元企業との取引増加等が生じることはないから,大阪府の税収
も増加しないのであって,住民に利益が生じることもない,④先端産業
補助金の交付は,周辺のインフラ整備も含め,C等の大企業の利益を図る
目的でされたものであり,公平性を欠いている,⑤Cと別法人であるA
への先端産業補助金の交付は違法であると主張する。
イ上記①の主張について
上記4(3)イにおいて説示したところと同様の理由により,先端産業補助
金の交付とC立地の間に因果関係がないということはできないというべき
である。したがって,乙事件原告らの上記①の主張には理由があるとはい
えない。
ウ上記②の主張について
先端産業補助金の交付によっても,大阪府の財政上許容できない負担を
生じているものと評することはできないことは,上記(2)オ(イ)のとおりで
ある。
また,乙事件原告らは,大阪府が住民に高額な国民健康保険保険料の負
担を求め,文化スポーツへの支出を削減しているとし,大企業への支援と
なる先端産業補助金の交付こそ減額,中止すべきであると主張するが,上
記4(3)ウにおいて説示したところと同様に,地方公共団体において,どの
ような形で地域産業や地域の福祉を誘導するか,あるいは住民に対して国
民健康保険料等の負担を求めるかといった事項は,当該地方公共団体の議
会又は長の裁量判断にかかわるものであるから,上記(2)イの経過に照ら
し,先端産業補助金の交付についての被告知事の判断が,その裁量権の範
囲を逸脱し,又は濫用したものと認めるに足りる事情はない。そうすると,
乙事件原告らの上記②の主張には理由があるとはいえない。
エ上記③の主張について
乙事件原告らは,先端産業補助金の交付により経済的波及効果や大阪府
の税収が増加することはない旨主張するが,上記4(3)エに説示したところ
と同様に,企業誘致には,経済的波及効果・雇用誘発効果や税収増加等の
効果があるというべきである。したがって,乙事件原告らの上記③の主張
には理由がない。
オ上記④の主張について
(ア)乙事件原告らは,大阪府は平成18年夏頃からCと交渉し,補助
金の上限額を150億円とする際にも議会議決に先立ってCに説明して
いるから,先端産業補助金の交付はC等の大企業の利益を図る目的でさ
れたものであるし,C及び関連三社に対する補助金交付のみが1社15
0億円を上限とする補助金の適用を受けていることからこれをプライベ
ートアクトであると評し,先端産業補助金のうちCに交付されたも
のの一部はHに還流され,その利益を図ることが意図されていた,大
阪府が堺市とともにC等に種々の利益を図った,先端産業補助金の
交付は大企業と中小企業の間の公平性を欠くなどと主張する。
(イ)しかし,上記についてみるに,平成18年9月頃に大阪府とCが交
渉していたのはソーラーパネル事業に関するものであって(証人G’),
液晶パネル製造事業とは関係がないというべきであるし,補助金の上限
額を定める規則の改正について,地方公共団体の議会が審議,議決する
以前にその検討状況等が利害関係者に説明されたとしても,補助金の交
付等は別途検討されるものであるから,これをもって直ちに違法不当と
いうことはできないというべきである。そして,C及び関連三社は,大
阪府先端産業審査委員会により,本件大阪府条例に基づく要綱によって
定められた先端事業として認定を受けて補助金交付を受けたものである
し,上記(2)アのとおり,C及び関連三社に対する補助金交付は,「地域
経済の振興と府民生活の向上」(本件大阪府条例1条)を意図して,住
民の利益を図るために行われたものであるから,C等の大企業の利益を
図る目的であったとする乙事件原告らの上記主張には理由があるとはい
えない。
また,地方公共団体においては,いかなる産業をどのような規模で誘
導するかといった産業政策は,地方議会や地方公共団体の長の裁量判断
による部分が存するところ,大阪府において上限規則が改正されたこと
は,産業政策の転換の一場面にすぎないというべきであって,その転換
の前後において殊更特定の企業等の利益を図ったことをうかがうべき事
情もない。
(ウ)次に,上記についてみるに,上記(2)オのとおり,先端産業補助金
の交付において,その使途は補助対象経費として定められている上,H
においては,その費用において整地をした土地をCに工場用地として譲
渡しているから,乙事件原告らが主張するような補助金の還流を具体的
に裏付ける証拠はない。そして,先端産業補助金の交付は,先端産業及
び高付加価値型産業等多様な産業集積を図るためにC等に対してされ,
上記のとおり経済的波及効果,税収効果等を挙げていることに照らせば,
乙事件原告らの当該主張には理由がない。
(エ)また,上記についてみるに,M地区の遊休地の利用開発等の有効活
用は,大阪府においても課題とされていたものであり(前記前提事実(3)
ア),上記4(3)ウに説示したところに加え,企業誘致の促進に当たって
は,経済的インセンティブのほか,道路,港湾などの産業基盤や大学等
の教育・研究機関の集積,まちの安全安心といった生活基盤の確保,さ
らには地域のイメージアップに向けた情報発信など総合的な取組みが必
要とされること(丙3)に照らせば,先端産業補助金が交付されれば他
に何らの施策を要することなく企業立地の促進が図られるものと短絡的
に解することが相当とは解されない。なお,乙事件原告らが主張するそ
の余の事情についても,C等の大企業の利益を殊更図ったものとはいえ
ないことは,上記4(3)ウに説示したところと同様というべきである。
(オ)さらに,上記についてみるに,要綱は中小企業を補助事業者として
念頭に置いた「府内中小企業等投資促進補助金」を設けている上(甲4),
補助を受けて誘致された企業(工場)の規模の大小や事業内容いかんに
よって,波及効果の程度や内容も異なるものと解されるから,どのよう
な対象にどの程度の補助金交付を実施するかは政策的判断ということが
でき,先端産業補助金の交付の対象を一定の規模を有する企業等に限定
することもやむを得ないものというべきである。そして,補助のあり方
も対象事業者に金銭を交付するものであって,格別他の中小企業の活動
を制限するものではない。そうすると,結果として先端産業補助金の交
付の対象となる企業等が相当の規模を有する企業に限定されたとして
も,これをもって平等原則に違反するとまではいえない。
また,上記4(3)オと同様に,先端産業補助金の交付が違法行為を助長
するものとは解されない。
(カ)したがって,乙事件原告らの上記④の主張に理由があるとはいえな
い。
カ上記⑤の主張について
この点に関し,乙事件原告らは,Aは,当初はCの子会社であったが,
その後,子会社でもなくなっており,このような企業に先端産業補助金の
交付をすることは,立地しようとする企業に補助金を交付することによっ
て企業誘致の促進を図るという本件大阪府条例,要領5条5項の趣旨に反
すると主張する。
しかし,本件大阪府条例は,企業が継続的に大阪府内に工場等を設置す
ることを重視し,経済的波及効果や雇用機会の確保等を図ろうとしている
のであるから,これを維持,達成するに当たり,補助事業者が操業義務期
間の終了するまで事業を行うか,それとも,補助事業者がその関連会社(親
子関係にある会社を含む。)に事業を譲渡し,同会社が操業義務期間の終
了するまで事業を行うかは,上記を維持,達成するための手段にすぎない
と解すべきである。むしろ,補助事業者に対して操業義務期間である10
年間にわたって親子関係を継続することを求めるとすれば,経営の機動性,
柔軟性の確保が失われることとなり,企業誘致自体が困難なものとなりか
ねない。なお,補助事業者が交代することにより大阪府にとって予期しな
い不利益が生ずることも想定されるところではあるものの,要領において,
承継先の企業が操業義務を負うのみならず,承継元の企業も承継先と連帯
して操業義務を負い(要領5条8項,9項),承継先に操業義務違反等の
義務違反があれば,被告知事は,補助金の交付決定を取り消した上で,承
継先及び承継元に連帯して補助金の返還を求めることとなる(要領5条9
項)から,このような場合にも一定の手当てがされているということがで
きる。
そうすると,乙事件原告らの上記⑤の主張に理由があるとはいえない。
6まとめ
(1)甲事件について
以上によれば,甲事件訴えのうち,A及びBに対して平成25年度から平
成27年度まで本件不均一課税措置の差止めを求める部分は,訴えの利益が
ないから不適法な訴えといわざるを得ない。
また,甲事件原告らのA及びBに対するその余の不均一課税措置の差止請
求並びにC,A,関連三社及びEに対する不当利得返還請求及び遅延損害金
支払請求の義務付け請求はいずれも理由がない。
(2)乙事件について
以上によれば,乙事件訴えのうち,A及びBに対する平成25年度から平
成27年度までの先端産業補助金交付の差止めを求める部分は,訴えの利益
がないから,不適法な訴えといわざるを得ない。
また,乙事件原告らのA及びBに対するその余の先端産業補助金交付の差
止め請求並びにC,A及び関連三社に対する不当利得返還請求及び遅延損害
金支払請求の義務付け請求はいずれも理由がない。
7結論
よって,甲事件訴えのうち,A及びBに対して平成25年度から平成27年
度まで本件不均一課税措置の差止めを求める部分を却下し,甲事件原告らのそ
の余の請求をいずれも棄却し,乙事件訴えのうち,A及びBに対する平成25
年度から平成27年度までの先端産業補助金交付の差止めを求める部分を却下
し,乙事件原告らのその余の請求をいずれも棄却し,訴訟費用の負担について
行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項を適用して,主文のとお
り判決する。
大阪地方裁判所第7民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官新宮智之
裁判官坂本達也
別紙2
関係法令等
第1本件不均一課税関係
1地方税法
地方税法6条2項は,地方団体(道府県又は市町村)は,公益上その他の事由
に因り必要がある場合においては,不均一の課税をすることができる旨定める。
2本件堺市条例(甲2)
(1)本件堺市条例1条は,本件堺市条例は,堺市の区域内(以下「市内」という。)
における工業に適した土地に企業投資を誘導することにより,本市における雇
用機会及び事業機会の拡大並びに産業の空洞化の防止を図り,もって地域経済
の活性化,産業の高度化及び市民生活の向上に寄与することを目的とする旨定
める。
(2)本件堺市条例2条は,本件堺市条例において,次の各号に掲げる用語の意義
は,当該各号に定めるところによる旨定める。
1号企業立地法人(地方税法294条8項の規定により法人とみなされる
ものを含む。以下同じ。)又は個人(以下,これらを「企業等」という。)
が別表第1に定める区域(以下「対象区域」という。)内において,固定資
産(同法341条1号に規定する固定資産をいう。以下同じ。)である家屋
(住家及び店舗を除く。以下同じ。)を取得し,新築し,増築し,若しくは
賃借し,又は同法341条4号に規定する償却資産を取得して,特定事業所
等の新設,拡張又は移転を行うことをいう。
2号特定事業所等企業等がその企業立地の主たる目的である事業の用に供
するために対象区域内に設置する家屋であって,地方税法701条の31第
1項5号の事業所等に該当するもの(建築基準法48条12項の工業専用地
域に建設することができない建物以外の建物のうち,別表第2に定める事業
の用に供する工場,倉庫,事務所及び試験研究施設に限るものとし,これら
の附帯施設を含むものとする。)をいう。
3号投下固定資産額企業等が特定事業所等の取得及び特定事業所等におけ
る事業の用に供する償却資産の取得に要した費用の合計額をいう。
4号従業者地方税法312条1項の表に規定する従業者をいう。
5号中小企業者中小企業基本法2条1項に規定する中小企業者をいう。
(3)ア本件堺市条例3条1項は,企業立地を行おうとする企業等は,地方税法6
条2項の規定に基づく不均一課税に係る措置(不均一課税措置)その他本件
堺市規則で定める企業立地に係る支援を受けようとするときは,あらかじめ
本件堺市規則で定めるところにより企業立地に係る計画(以下「企業立地計
画」という。)を堺市長に提出し,その認定を受けなければならない旨定め
る。
イ本件堺市条例3条3項は,堺市長は,同条第1項の規定により企業立地計
画の提出があった場合は,次に掲げる事項について審査し,適当と認めると
きは,企業立地計画を認定するものとする旨定める。
1号企業立地計画が堺市の地域経済の発展に資するものであること。
2号企業立地計画が環境保全等に配慮したものであること。
3号企業立地計画が企業等の資力,信用及び経営能力の面から適切である
こと。
ウ本件堺市条例3条4項は,同条3項の規定により企業立地計画の認定を受
けた企業等(以下「認定企業等」という。)は,本件堺市規則で定める期間
内に,当該認定を受けた企業立地計画(以下「認定計画」という。)に従い,
速やかにその事業(以下「認定事業」という。)を開始しなければならない
旨定める。
(4)ア本件堺市条例4条1項は,認定企業等が,認定計画に従い,平成17年4
月1日から平成22年3月31日までの間に新設し,又は増設した別表第2
に掲げる事業の用に供する家屋及び償却資産で本件堺市規則で定めるもの
(増設した家屋については,当該増設部分に限る。以下「対象固定資産」と
いう。)に対して課する固定資産税又は都市計画税の額は,次表の左欄に掲
げる認定企業等の区分に応じ,同表の中欄に定める対象年度に限り,同表の
右欄に定める割合を市税条例の規定により課すべき固定資産税又は都市計画
税の額に乗じて得た額とする旨定める。
認定企業等の区分対象年度割合
投下固定資産額が60,000,000,0
00円以上の認定企業等で,毎年1月1日
現在において,特定事業所等の従業者の合
計数の5分の1以上が市内に住所を有する
者であるもの
対象固定資産に対して
新たに固定資産税が課
されることとなった年
度から起算して10年

5分
の1
投下固定資産額が30,000,000,0
00円以上の認定企業等で,毎年1月1日
現在において,特定事業所等の従業者の合
計数の5分の1以上が市内に住所を有する
者であるもの
対象固定資産に対して
新たに固定資産税が課
されることとなった年
度から起算して10年

3分
の1
投下固定資産額が1,000,000,00
0円(中小企業者については,100,00
0,000円)以上の認定企業等
対象固定資産に対して
新たに固定資産税が課
されることとなった年
度から起算して5年度
2分
の1
イ本件堺市条例4条2項は,認定企業等が,認定計画に従い設置する特定事
業所等であって,平成17年4月1日から平成22年3月31日までの間に
新設したものにおいて行う認定事業に対して課する事業所税のうち,資産割
(市税条例88条1項に規定する資産割をいう。以下同じ。)の額は,次表
の左欄に掲げる認定企業等の区分に応じ,同表の中欄に定める対象年度等に
限り,同表の右欄に定める割合を市税条例の規定により課すべき当該資産割
の額に乗じて得た額とする旨定める。
認定企業等の区分対象年度等割合
投下固定資産額が60,
000,000,000
円以上の認定企業等で,
特定事業所等の従業者
の合計数の5分の1以
上が市内に住所を有す
る者であるもの
認定事業が,法人の事業である場合にあっ
ては当該特定事業所等が新設された日後最
初に終了する事業年度から,当該新設され
た日から10年を経過する日以後最初に終
了する事業年度まで,個人の事業である場
合にあっては当該特定事業所等が新設され
た日の属する年から,当該新設された日か
ら10年を経過する日の属する年まで
5分
の1
投下固定資産額が30,
000,000,000
円以上の認定企業等で,
特定事業所等の従業者
の合計数の5分の1以
上が市内に住所を有す
る者であるもの
認定事業が,法人の事業である場合にあっ
ては当該特定事業所等が新設された日後最
初に終了する事業年度から,当該新設され
た日から10年を経過する日以後最初に終
了する事業年度まで,個人の事業である場
合にあっては当該特定事業所等が新設され
た日の属する年から,当該新設された日か
ら10年を経過する日の属する年まで
3分
の1
認定計画に基づく投下
固定資産額が1,00
0,000,000円(中
小企業者については,1
00,000,000円)
以上の認定企業等
認定事業が,法人の事業である場合にあっ
ては当該特定事業所等が新設された日後最
初に終了する事業年度から,当該新設され
た日から5年を経過する日以後最初に終了
する事業年度まで,個人の事業である場合
にあっては当該特定事業所等が新設された
日の属する年から,当該新設された日から
2分
の1
5年を経過する日の属する年まで
ウ本件堺市条例4条3項は,同条2項の規定の適用を受ける事業であるか否
かの判定は,市税条例88条1項の課税標準の算定期間の末日の現況により
行うものとする旨定める。
エ本件堺市条例4条4項は,投下固定資産額が60,000,000,000円
以上の認定企業等に係る次に掲げる市税については,認定計画に基づく投下
固定資産額を現に投下した投下固定資産額とみなして,同条1項及び2項の
規定を適用する旨定める。
1号対象固定資産に対して新たに固定資産税が課されることとなった年度
から起算して5年度分の固定資産税又は都市計画税
2号認定事業が,法人の事業である場合にあっては認定計画に係る特定事
業所等が新設された日後最初に終了する事業年度から,当該新設された日
から5年を経過する日以後最初に終了する事業年度まで,個人の事業であ
る場合にあっては認定計画に係る特定事業所等が新設された日の属する年
から,当該新設された日から5年を経過する日の属する年までの当該特定
事業所等に係る事業所税のうち資産割
オ本件堺市条例4条5項は,同条1項の規定は,認定企業等が同項の規定の
適用を受けた年度から起算して10年度分(投下固定資産額が30,000,
000,000円未満の認定企業等については,5年度分)の固定資産税又
は都市計画税に限り適用する旨定める。
カ本件堺市条例4条6項は,同条2項の規定は,認定企業等が同項の規定の
適用を受けることとなった年度から起算して10年度(投下固定資産額が3
0,000,000,000円未満の認定企業等については,5年度)を経
過した年度までの事業年度分(個人については,同項の規定の適用を受ける
こととなった年から起算して10年(投下固定資産額が30,000,00
0,000円未満の認定企業等については,5年)を経過した年までの年分)
の事業所税に限り適用する旨定める。
(5)本件堺市条例5条は,認定企業等は,本件堺市条例4条1項又は2項の規定
により不均一課税措置を受けようとするときは,本件堺市規則で定めるところ
により,申請書に堺市長が必要と認める書類を添付して,堺市長に申請しなけ
ればならない。当該申請書等の記載事項に変更が生じ,又はこれらの規定の適
用を受ける理由がなくなった場合も,同様とする旨定める。
(6)ア本件堺市条例6条1項は,認定企業等は,認定計画を変更しようとすると
きは,本件堺市規則で定めるところにより,あらかじめ堺市長の承認を受け
なければならない旨定める。
イ本件堺市条例6条2項は,本件堺市条例3条3項及び4項の規定は,同条
1項の承認について準用する旨定める。
(7)本件堺市条例8条は,認定企業等は,次の事項を遵守しなければならない旨
定める。
1号本件堺市条例の趣旨を尊重するとともに,認定事業を堺市において10
年以上継続するよう努めること。
2号認定計画に係る特定事業所等の従業者を雇用しようとするときは,市内
に住所を有する者を雇用するよう努めるとともに,認定事業の実施に当たっ
ては,地域の企業及び研究機関との連携に努めること。
3号関係法令を遵守するほか,固定資産税その他の公租公課を滞納しないこ
と。
(8)ア本件堺市条例9条1項は,堺市長は,認定企業等が次の各号のいずれかに
該当すると認めるときは,本件堺市規則で定めるところにより,認定計画に
係る認定の全部又は一部を取り消すことができる旨定める。
1号偽りその他不正な手段により不均一課税措置を受けたとき。
2号前号に掲げるもののほか,関係法令の違反,納税義務の懈怠その他著
しく社会的信用を失墜させる行為をしたとき。
3号認定事業の長期にわたる休止若しくは廃止又は認定計画に従った企業
立地の実施がなされていないとき。
4号1号から3号までに掲げるもののほか,堺市長において認定を取り消
すことが適当であると認めるとき。
イ本件堺市条例9条2項は,堺市長は,同条1項の規定により認定計画を取
り消した企業等に対し,不均一課税措置を受けた市税等の額と当該不均一課
税措置を受けなかった場合におけるその額との差額に相当する額を堺市に納
入させることができる旨定める。
(9)本件堺市条例11条は,合併,営業譲渡,持ち株会社化,相続その他の理由
により,認定企業等の事業を承継した者は,堺市長の承認を得て,被承継者の
認定に係る権利義務を承継することができる旨定める。
(10)本件堺市条例別表第1本文は,対象区域として,t区u町…の区域のうち,
都市計画法9条11項に規定する工業地域又は同条12項に規定する工業専用
地域に該当する区域を定める。
(11)本件堺市条例別表第2は,同条例4条1項の事業として,日本標準産業分
類(平成14年総務省告示第139号)において分類された製造業,電気・ガ
ス・熱供給・水道業(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法2条に規
定する新エネルギー利用等に係るものに限るものとし,水道業を除く。),情
報通信業(信書送達業を除く。),運輸業又はサービス業(他に分類されない
もの)(学術・開発研究機関に係るものに限る。)を定める。
3本件堺市規則(乙44)
(1)本件堺市規則3条1項は,本件堺市条例3条1項に規定する企業立地計画の
認定の申請は,当該企業立地計画に基づく特定事業所等の新設,拡張又は移転
に伴う工事に係る建築基準法6条1項に規定する建築確認済証の交付の日又は
事業所の取得若しくは賃借に係る契約の締結の日までに,堺市企業立地計画認
定申請書を堺市長に提出することによりしなければならない旨定める。
(2)本件堺市規則4条1項は,堺市長は,本件堺市規則3条1項の申請書の提出
があった場合は,その内容を審査し,適当と認めるときは,企業立地計画の認
定を行い,その旨を堺市企業立地計画認定通知書により申請者に通知するもの
とする旨定める。
(3)本件堺市規則7条1項は,本件堺市条例5条の規定による申請は,次の各号
に掲げる区分に応じ,当該各号に定める期限までに堺市企業立地認定計画不均
一課税申請書を堺市長に提出することによりしなければならない。
1号本件堺市条例4条1項の規定の適用を受けようとする者当該年度の初
日の属する年の1月31日
2号本件堺市条例4条2項の規定の適用を受けようとする者市税条例94
条の2第1項に規定する期限
(4)本件堺市規則10条1項は,堺市長は本件堺市条例9条1項の規定により認
定の全部又は一部を取り消す場合には,堺市企業立地計画認定取消通知書によ
り認定企業等に通知するものとする旨定める。
(5)本件堺市規則12条1項は,本件堺市条例11条の規定により認定企業等の
地位を承継しようとする者は,事業を承継した日から起算して14日以内に,
堺市認定企業等地位承継承認申請書に当該承継を証明する文書を添えて,堺市
長に申請しなければならない旨定める。
第2先端産業補助金関係
1地方自治法
(1)地方自治法2条14項は,地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,
住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるように
しなければならない旨定める。
(2)地方自治法232条の2は,普通地方公共団体は,その公益上必要がある場
合においては,寄附又は補助をすることができる旨定める。
2地方財政法
地方財政法4条1項は,地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必
要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない旨定める。
3本件大阪府条例(甲3)
(1)本件大阪府条例1条は,本件大阪府条例は,わが国の産業の国際競争力の強
化と空洞化の防止を図る上で大都市圏における産業集積の果たす役割の重要性
にかんがみ,大阪府が企業立地の促進に関する施策を進める上での基本理念及
び基本方針を定めることにより,大阪における大都市圏の総合的な魅力に基づ
く企業立地の促進を図り,もって中小企業の振興をはじめとする地域経済の振
興と府民生活の向上に資することを目的とする旨定める。
(2)本件大阪府条例2条は,本件大阪府条例において,企業立地とは,営利を目
的とする私企業(以下,同条例において「企業」という。)が,工場,研究所
その他知事が別に定める事業所(以下,同条例において「工場等」という。)
を大阪府内に設置することをいい(1号),立地企業とは,企業立地をしよう
とし,又は,企業立地をした企業をいう(2号)旨定める。
(3)ア本件大阪府条例3条1項は,企業立地の促進に関する施策は,大阪府内の
地域特性に応じた産業集積が図られるように企業立地を効果的に促進し,地
域経済の振興に寄与することに配慮して行われなければならない旨定める。
イ本件大阪府条例3条2項は,企業立地の促進に関する施策は,活力に満ち
た地域経済の創造を通じて豊かな府民生活とにぎわいのあるまちづくりが実
現されるよう,立地企業の特性に応じた新たな雇用の促進と地域社会への貢
献が図られることに配慮して行われなければならない旨定める。
ウ本件大阪府条例3条3項は,企業立地の促進に関する施策は,大阪の経済
社会の持続的な発展にとって企業が継続的に府内に工場等を設置することが
重要であることを認識し,大阪府内の企業の一層の発展を促すことに配慮し
て行われなければならない旨定める。
エ本件大阪府条例3条4項は,企業立地の促進に関する施策は,大阪の多様
な産業の集積,高い水準の教育及び学術研究並びに創造力豊かな人材の蓄積,
企業立地に資する情報の取得の容易性,快適で魅力ある生活環境,海上,航
空及び陸上の交通の利便性等の総合的な企業立地の魅力が,立地企業に十分
考慮されることに配慮して行われなければならない旨定める。
(4)ア本件大阪府条例4条1項は,大阪府は,基本理念にのっとり,立地企業へ
の情報提供,人材の育成及び確保等の環境整備,立地企業に対する優遇措置
その他の企業立地の促進に関する施策について,立地企業に対する一元的な
対応を行い,これを実施するものとする旨定める。
イ本件大阪府条例4条2項は,大阪府は,企業立地に関する相談及び情報提
供を総合的に実施する体制を整備するとともに,市町村,国等との連携に努
めるものとする旨定める。
(5)ア本件大阪府条例5条1項は,大阪府知事は,基本理念にのっとり,別に定
めるところにより,立地企業に対し,補助金を交付することができる旨定め
る。
イ本件大阪府条例5条2項は,大阪府知事は,同条1項に規定する補助金の
交付に当たっては,先端的な技術開発等が期待される事業分野における企業
立地及び良好なまちづくりに資する大阪府内の企業の設備投資の促進に配慮
するものとする旨定める。
4交付規則(丙5)
(1)交付規則5条1項は,大阪府知事は,補助金の交付の申請があったときは,
当該申請に係る書類等により当該申請の内容を審査し,補助金を交付すべきも
のと認めたときは,補助金の交付の決定をするものとする旨定める。
(2)交付規則8条1項は,大阪府知事は,補助金の交付の決定をした場合におい
て,その後の事情の変更により特別の必要が生じたときは,補助金の交付の決
定の全部若しくは一部を取り消し,又はその決定の内容若しくはこれに付した
条件を変更するものとする旨,ただし,補助事業(補助金の交付の対象となる
事務又は事業をいう。以下同じ。)のうちすでに経過した期間に係る部分につ
いてはこの限りでない旨定める。
(3)交付規則12条は,補助事業者(補助事業を行う者をいう。以下同じ。)は,
大阪府知事の定めるところにより,補助事業が完了したとき(補助事業の廃止
の承認を受けた時を含む。)は,補助事業の成果を記載した補助事業実績報告
書に大阪府知事の定める書類を添えて大阪府知事に報告しなければならない
旨,補助金の交付決定に係る大阪府の会計年度が終了した場合もまた同様とす
る旨定める。
(4)交付規則13条は,大阪府知事は,12条の規定による報告を受けた場合に
おいては,当該報告書等の書類の審査等により,その報告に係る補助事業の成
果が補助金の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合するものであるか
どうかを調査し,適合すると認めたときは,交付すべき補助金の額を確定し,
当該補助事業者に通知するものとする旨定める。
5上限規則(丙1,37,39)
(1)上限規則1条は,上限規則は,本件大阪府条例5条1項の規定に基づき,先
端的な技術開発等が期待される事業分野における企業立地(中略)を促進する
ために交付する補助金の上限額を定めるものとする旨定める。
(2)上限規則2条は,1条の補助金の額は,一事業所につき150億円を超えな
いものとする旨定める。
6要綱(甲4の1,丙38,82の2)
(1)要綱10条1項は,先端産業補助金の補助事業者は,次の各号の要件をすべ
て満たす企業とする旨定める。
1号別表第2の補助対象区画(「M南地区」においては,Qのうち堺市t区
u町を含む補助対象地区のうち,土地の取得又は借受けに係る契約ごとに定
める区画をいう。)の土地若しくは家屋を取得し,又は借り受けて工場又は
研究開発施設を設置すること。ただし,補助対象経費が100億円以上ある
場合に限るものとする。
2号1号の工場又は研究開発施設において,バイオ・ライフサイエンス,ロ
ボット,情報家電,新エネルギー等の分野のうち,先端的な技術又は研究開
発を伴う事業と認められる事業を行うこと。
(2)要綱11条は,先端産業補助金の補助事業の実施期間は,次の各号のとおり
とする旨定める。
1号家屋又は償却資産の取得経費に対し補助を行う場合は,交付申請日の翌
日から補助事業を行う土地若しくは家屋の取得又は借受けの原因となる契約
が行われる日又は交付申請日のうち最も早い日後5年の日まで間
2号(略)
(3)要綱12条1項は,先端産業補助金の補助対象経費は,工場又は研究開発施
設の家屋及び償却資産の取得経費並びに家屋賃料から別表第4の補助対象外経
費を差し引いた経費のうち,次の各号の条件を満たす経費とする旨定める。
1号家屋の取得経費については,要綱11条の補助事業の実施期間内に契約
若しくは発注及び支払いが行われたもの
2号償却資産の取得経費については,要綱11条の補助事業の実施期間内に
契約若しくは発注及び納品並びに支払いが行われたもの
3号(略)
(4)ア要綱13条は,先端産業補助金の額は,予算の範囲内において,別表第7
の左欄の区分に応じ,同表の右欄の補助額とする。ただし,別表第2の補助
対象区画に立地するときは,次の各号のすべての要件を満たす場合に限る旨
定める。
1号補助事業の実施期間内において,別表第8の左欄の補助対象経費に応
じ,同表の右欄の人数の府内常用雇用者を雇用すること。
2号別表第2の補助対象区画に立地し,当該地域の市町村による企業立地
を促進するための助成金又は税の軽減等の優遇制度の利用が見込まれるこ
と。
イ要綱別表7は,先端産業補助金の補助額について,区分を「家屋又は償却
資産の取得経費」とする「補助額」について,(補助対象経費×5%)+(3
00億円以内の補助対象経費×下記の(ア)から(オ)のそれぞれの率を合算した
率)で算出した額(千円未満切捨て)とする旨定める。
(ア)補助事業を行う土地を取得した場合5%
(イ)別表第1の産業拠点に工場又は研究開発施設を設置する場合5%
(ウ)補助事業の実施期間内において,補助事業者が大阪府内に本社,工場又
は研究開発施設を設置している場合5%
(エ)補助事業の実施期間内において,大阪府内100事業者以上への支払い
又は補助金と同額以上の大阪府内の事業者への支払いを行った場合5%
(オ)補助対象経費が100億円以上ある場合に,補助事業者が補助事業の実
施期間内において,別表第8の左欄の補助対象経費に応じ,同表の右欄の
人数の5倍の府内常用雇用者の人数を雇用した場合5%
ウ要綱別表8は,先端産業補助金の雇用要件(府内常用雇用者数)について
次のとおり定める。
「補助対象経費」「人数」
100億円以上200億円未満10人以上
200億円以上300億円未満20人以上
300億円以上400億円未満30人以上
400億円以上500億円未満40人以上
500億円以上600億円未満50人以上
600億円以上700億円未満60人以上
700億円以上800億円未満70人以上
800億円以上900億円未満80人以上
900億円以上1000億円未満90人以上
1000億円以上100人以上
(5)要綱35条1項は,交付規則13条の規定による補助金の額の確定後,当該
補助金を交付する旨定める。
(6)要綱35条2項は,次の各号に掲げる補助金については,一企業一会計年度
あたり当該各号に定める額を限度として分割して行うものとする旨,ただし,
既に補助金を交付した年度には遡及して適用しない旨定める。
1号(略)
2号先端産業補助金補助金交付額(別表第1の産業拠点又は別表第2の地
区ごとに一企業について補助金交付額に増が生じたときは,増額後の補助金
交付額から既補助金交付額を除く額,減が生じたときは,減額後の補助金交
付額)が60億円以下の場合は6億円,60億円を超える場合は当該補助金
の額に10分の1を乗じた額について,百万円未満の額を切り上げた額
7要領(丙63)
(1)要領2条は,要領において,次の各号に掲げる用語の意義は,要綱に定める
もののほか,次の各号に定めるところによる旨定める。
1号親子会社会社法2条に規定する親会社及び子会社又は親会社を同じく
する複数の子会社をいう。
2号共同事業操業や研究開発等を分担して行う場合や,一の企業が財産を
管理し,他の企業がその財産を活用して操業や研究開発等を行うことをいう。
3号共同事業者共同事業を行う企業をいう。
4号共同事業体共同事業者で構成される事業体をいう。
(2)ア要領5条1項は,親子会社は,共同事業により補助事業を実施することが
できるものとし,共同事業により補助事業を実施しようとするときは,要綱
30条の補助金交付申請書を連名で提出することとする旨定める。
イ要領5条2項は,共同事業により補助事業を実施するときの補助の要件及
び補助率の加算等の要件は,共同事業体に課すものとする旨,共同事業体が
中小企業とその他の者で構成される場合は,共同事業者のうちの企業が支払
う補助対象経費の過半を中小企業が支払うときにその共同事業体を中小企業
とみなす旨定める。
ウ要領5条3項は,共同事業により補助事業を実施するときは,要綱35条
1項及び2項に規定する補助金の交付は,企業が負担する補助対象経費の額
で各企業にあん分(千円未満切捨て)して行うものとする旨定める。
エ要領5条4項は,要綱30条の補助金交付申請書の提出後に共同事業によ
り補助事業を実施しようとするときは,共同事業実施承認申請書を提出し,
大阪府知事の承認を得なければならない旨定める。
オ要領5条5項は,親子会社は,親子会社間で補助事業者の地位の承継を行
うことができるものとし,補助事業者の地位の承継を行おうとするときは,
地位承継承認申請書を提出し,大阪府知事の承認を得なければならない旨定
める。
カ要領5条6項は,補助事業者の地位の承継を行ったときは,補助の要件又
は補助率の加算等の要件は,承継元企業が中小企業であるために満たしてい
た要件を除き,承継元企業又は承継先企業が引き続きその要件を満たす場合
に限りその適用を行うものとする旨,また,承継することのみをもって承継
先企業が満たすこととなる補助率の加算等の要件の適用は,これを認めない
旨定める。
キ要領5条7項は,承継先企業は,承継元企業から補助金受領等の補助金に
関するすべての権利の移転を受けるものとする旨定める。
ク要領5条8項は,共同事業により補助事業を実施したときは共同事業者相
互で,補助事業者の地位の承継を行ったときは承継元企業と承継先企業が,
補助事業の実施に関し責任を負い,補助事業が円滑に行われるよう必要な措
置を講じなければならない旨定める。
ケ要領5条9項は,補助金に関する一切の義務について,共同企業により補
助事業を実施したときはすべての共同事業者が,補助事業者の地位の承継を
行ったときは承継元企業及び承継先企業が連帯して責任を負うものとする旨
定める。
(別紙3)原告目録(堺市)
【129号訴状別紙「原告目録(堺市)」に(別紙3)を加筆】
(別紙4)原告目録(大阪府)
【130号訴状別紙「原告目録(大阪府)」に(別紙4)を加筆】
(別紙5)不均一課税前の課税額,不均一課税による課税額及び差額一覧
【被告ら平成25年4月25日付け準備書面(12)別紙1から別紙6まで,「別紙1」
を「別紙5」に訂正,「別紙2」~「別紙6」を削除】
(別紙6)
【被告ら平成25年2月26日付け準備書面(10)別紙1から4まで,「別紙1」を
「別紙6」に訂正,「別紙2」~「別紙4」を削除】
(別紙7)堺市税収状況
【被告ら準備書面(6)p2の上部「記」と表より下を削除,「別紙7」「堺市税収
状況」を加筆】

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