弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人らに対して平成10年4月10日付けでした各懲戒解雇はい
ずれも無効であることを確認する。
3 被控訴人は,平成10年5月11日以降毎月末日限り,控訴人Aに対し1か月
金60万5836円の割合による金員を,控訴人Bに対し1か月金56万0911
円の割合による金員をそれぞれ支払え。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
5 この判決は3項に限り仮に執行することができる。
       事実及び理由
第一 控訴の趣旨
 主文同旨
第二 事案の概要
 事案の概要は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第二
のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決19頁9行目の「八号及び一一号」を「8号,11号及び13号」と改
める。
2 原判決20頁4行目の「に交付した」の前に「及びC(控訴人Aの弟でD代議
士秘書)」を付加する。
3 原判決22頁7行目の「本件信用情報」の後に「(ウ)」を付加する。
4 原判決23頁11行目の「八号」を「11号」と改める。
5 原判決23頁11行目と24頁1行目との間に次のとおり付加する。
「 仮に,組合幹部あるいは第三者のもとから本件資料が外部に流出したとして
も,本件資料の重要性から,控訴人らは,例えば鍵のかかるロッカーに保管し,か
つ文書のリストを作成するなどして本件資料を厳格に保管すべき義務があったの
に,これを怠り上記の外部流出を生じさせた管理・保管義務違反があり,就業規則
75条2項13号の懲戒解雇事由がある。」
6 原判決26頁3行目と4行目の間に次のとおり付加する。
「 なお,Cへの本件資料の交付は,本件懲戒解雇時に被控訴人が認識していなか
った事実であり,これを本件懲戒解雇の事由とすることはできない。」
7 原判決27頁10行目と11行目の間に次のとおり付加する。
「(5) 控訴人らの行為の就業規則75条2項13号該当性
 被控訴人の主張を否認ないし争う。
 過失による秘密漏洩行為がそもそも懲戒解雇事由に該当するのか疑問である。」
8 原判決37頁6行目と7行目の間に次のとおり付加する。
「(四) 本件懲戒解雇は就業規則75条2項の4号,8号及び11号の全てに該
当する事由があることを理由にされたものであるから,各号のいずれかについて該
当する事由が存しない場合は本件懲戒解雇は無効である。」
9 原判決40頁2行目と3行目の間に次のとおり付加する。
「(六) 就業規則75条2項の4号,8号及び11号の全てについて該当する事
由が認められない場合でも,いずれかに該当する事由があれば本件懲戒解雇は有効
である。」
第三 争点に対する判断
一 本件懲戒解雇に至る経緯
 争いのない事実,証拠(甲9,10,19,20の1~4,47,48,乙2,
5の1~66,6の1~5,7,8,27~31,33,36の1・2,39,4
0,45,46の1~16,51,52,56,57の1~3,58の1・2,原
審証人E,同F,同G,同H,原審各控訴人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実を認定することができる。
1 控訴人Aは,平成6年から組合に執行委員として参加し,平成7年度(平成7
年8月から平成8年7月まで)には執行副委員長に選出され,三役交渉等の場を通
して,被控訴人における不正疑惑を積極的に追及した。
 控訴人Bは,平成4年にα支店に異動したが,そこでの業務を通じてIに関して
被控訴人に不正があるとの疑念を有するようになり,控訴人Aとの後記2の接触を
契機として,平成8年度から組合執行部に参加し,控訴人Aと共に被控訴人の不正
疑惑の追及を行った。
 控訴人らは,平成8年度の組合執行副委員長に選出され,さらに,不正疑惑の追
及活動を強めた後,平成9年8月をもって組合執行副委員長の任期を終えたが,被
控訴人に対して回答を求めている懸案事項が多数あったために,引き続き,旧組合
執行部3役として,被控訴人理事らに対する追及活動を継続した。
2 控訴人Aは,平成7年の秋頃から,控訴人Bを含む被控訴人の職員から,顧客
のIと被控訴人α支店職員との不正な関係の疑惑について事情を聴取し,一方でオ
ンライン端末機を利用して被控訴人管理に係るホストコンピュータにアクセスし,
平成8年2月7日に本件信用情報(ア)②を印刷して当該印刷文書を取得するなど
して,事実関係の確認及び資料の収集を行った。控訴人Bは,平成8年2月23日
に同様の方法で同顧客及びその関係者に係る本件信用情報(ア)④ないし⑦が印刷
された文書を取得し,これを控訴人Aに交付した。
 さらに,控訴人Aは,Jに対する融資が,Iに対する迂回融資である疑いを持
ち,平成8年4月9日に前記同様の方法で同融資等に係る本件信用情報(イ)を取
得した上,同年7月26日の三役交渉の場で被控訴人に対し同疑惑を追及した。
3 控訴人Bは,平成8年3月5日ころ,本件批判文書①を作成し被控訴人総務部
長に対し差出人の名を記さず郵送し,続いて,同年4月22日ころ,本件批判文書
②を作成し被控訴人総務部長に差出人の名を記さず郵送した。同各文書には,被控
訴人の人事異動に対する批判が述べられており,人事の是正や被控訴人役員の背任
行為の調査を求め,これらの要求を受け容れられない場合には,組合に資料を開示
するとし,さらに,同文書の作成者の調査がなされた場合には,資料を公にする旨
記載されている。
4 また,控訴人らは,谷製菓に対する融資につき,被控訴人前理事長Kに関連す
る情実融資,あるいは迂回融資ではないかという疑いを持って調査を行い,平成8
年3月以降,控訴人Aにおいて被控訴人が管理する同社に係る本件管理文書④の原
本を複写して写しを取得し,控訴人Bにおいて被控訴人が管理する同社の信用情報
が記載された稟議箋(本件管理文書③の一部)の原本を複写してその写しを取得す
る等の資料収集を行ったうえで,3役交渉の場で,被控訴人に対し同疑惑を追及し
た。
5 控訴人Aは,平成8年5月から7月ころにかけて,本件資料及びその他の同控
訴人の収集した被控訴人の不正疑惑に関する資料を,D衆議院議員の公設秘書であ
るC(控訴人Aの弟)及び宮崎県警に提出した。
 なお,上記各提出行為は,組合の機関決定に基づかないで行われた。
6 被控訴人は,控訴人Bから送付を受けた本件批判文書①に基づき,内部調査を
実施した結果,元α支店支店長及び係長の顧客との癒着や元β支店副支店長及び支
店長代理の名義貸しによる融資の事実が判明したため,平成8年7月29日付けで
理事長,専務理事及び常務理事を監督責任に基づいて減棒処分とし,関係職員を懲
戒処分(減給1か月または譴責)に付した。
7 平成8年11月14日,Lが,被控訴人会長Gを訪れ,本件資料を示して,
「金庫のこのような内部資料が外部に出回っているが,金庫は知っております
か。」などと述べたため,G会長は,これを預かり,被控訴人理事長Kに手渡し
た。そして,同人は,被控訴人常務理事Hに同資料を複写させた上,G会長に返
し,同会長が,同月18日,Lに同資料を返却した。
 その後,Lは,G会長に対し,再三にわたって当座預金口座の開設を要求してき
たが,Lには平成元年から被控訴人に対する債務不履行があり,また,同人が代表
取締役を務める株式会社宮崎新聞社が平成4年に銀行取引停止処分を受けているこ
とにより,当座預金を開設できない状態にあったため,G会長は,同要求を拒否し
た。
8 被控訴人は,Lが持ち込んだ資料の写しを調査したところ,以下のとおり,控
訴人ら及びMによって各オンライン端末機から打ち出された本件信用情報の一部が
含まれていることが判明した。
 被控訴人のホストコンピュータ内の顧客信用情報にアクセスするには,本支店設
置のオンライン端末機に,各職員が持っているオペレータカードを挿入することが
必要であり(なお,信用情報は端末機の画面に表示されることはなく,帳票用紙に
印刷して初めて判読可能な状態になる。),一方,同アクセスを記録するために,
端末機には,フロッピーディスクが収められていて,このフロッピーディスクに
は,使用されたオペレータカードの番号,アクセスした日時,顧客番号等が記録さ
れる。
 被控訴人は,各店舗からアクセス記録用のフロッピーディスクを回収し,本件信
用情報の帳票用紙右上の照会日欄に印字された日時に対応するフロッピーディスク
を検索し,帳票の右上に印字された年月日時刻をもとに検索した結果,本件信用情
報(ア)②及び同(イ)にアクセスする際に用いられたオペレータカードが控訴人
Aに交付されたものであり,本件信用情報(ア)④ないし⑦にアクセスする際に用
いられたオペレータカードが控訴人BないしMに交付されたもめであることが判明
した(ただし,Mは,当該オペレータカードを控訴人Bに頼まれて貸与していたこ
とが後に判明した。)。
 他方,本件信用情報(ア)①及び③並びに(ウ)①及び②の信用情報について
は,これらの情報へのアクセスに対応するアクセス記録用のフロッピーディスクの
情報が既に消去済みであったため,当該信用情報にアクセスした者を特定すること
ができなかった。
 また,調査の結果,控訴人Aは,同信用情報の外にも,多数の融資取引現況表,
顧客結合照会表等の情報(乙36の2)にアクセスし印刷していたことが判明し
た。
9 上記の調査の結果,被控訴人は,少なくとも本件信用情報の一部について,控
訴人らがアクセスして印刷した事実を突き止め,控訴人らがLに対して本件資料を
提供したのではないかという疑いを抱いた。
 しかし,被控訴人は,Lが持ち込んだ文書の写しが広く出回り,外部から様々な
働きかけがあることを懸念し,被控訴人内部の問題として処理することでは済まず
刑事事件として対処すべき案件であると判断して,控訴人らに対する懲戒処分はし
ないまま,平成8年12月5日の役員会において,顧客信用情報にアクセスして印
刷した文書を外部に持ち出した行為について刑事告訴することを決定し,平成9年
2月6日,γ警察署に,同行為について,被告訴人氏名不詳の窃盗罪事件として告
訴した。
 しかし,その後の警察からの要請により,被控訴人は,平成9年12月4日,同
告訴を取り下げた。
 なお,同取下げ直前の平成9年11月には,被控訴人の役職員が,Iに対する不
正融資の嫌疑で事情聴取を受けた。
10 被控訴人は,上記告訴取下げを踏まえて,本件情報の流出問題について責任
者の処分を検討することとし,平成10年3月26日,被控訴人役職者5名(N検
査部長,O総務副部長,E総務課長,Pα支店長,Qδ支店長)で構成する流出文
書調査委員会を発足させ,本件資料のLへの流出について調査を行い,本件資料の
調査のほか,同年4月1日から同月8日までの間に関係職員18名から事情聴取し
た。
 同委員会は,控訴人Aに対しては,同月7日午後1時30分から約1時間にわた
って,本件資料の流出について事情聴取をした。その際,N検査部長らは,控訴人
Aに対し,Lが被控訴人に持ち込んだ文書を示して見覚えがあるか質問したとこ
ろ,控訴人Aは自分が収集したものもあれば見覚えのないものもある,車のドアが
壊され資料がなくなったと思ったことがあったなどと回答した。控訴人Aは,同委
員会から翌8日に出頭するよう呼出しを受けていたR(元組合委員長)及び控訴人
Bと会い,その日の事情聴取の内容を詳細に報告した。同月8日,事情聴取を受け
たRは,同委員会からの質問に対し,組合が被控訴人に対してしている要求に対す
る回答を先に求める旨発言し,同委員会から質問に回答する意思がないと判断され
て質問が終了した。
 控訴人Bは,同日,Rからこの経過を聞いたうえで同委員会の質問に臨み,Rに
会って話を聞いたが,同控訴人も考え方はRと一緒である旨,何のことかわからな
いので録音させてもらう旨発言して,録音機を卓上に置き,委員会から2年前の怪
文書事件について何か知っているかとの質問を受けて,そのような話があったが,
同控訴人は何も知らない旨返答した。同委員会は,同控訴人の同発言及び態度か
ら,同控訴人には質問に応じる意思がないと判断して,同控訴人に対する事情聴取
は約2分間で終了した。
11 被控訴人は,同調査委員会の調査結果に基づき,平成10年4月9日,常勤
理事会において,本件資料のLに対する漏えいの件につき,控訴人らの関与が明ら
かであるとして控訴人らを懲戒解雇に処することを決議し,翌10日,控訴人らに
対し,本件懲戒解雇を行った。
二 争点1(就業規則75条2項4号の懲戒解雇事由該当行為の存否)について
1 一で認定したとおり,本件信用情報のうち,控訴人Aは少なくとも本件信用情
報(ア)②及び同(イ)に,控訴人Bは少なくとも本件信用情報(ア)④ないし⑦
に,それぞれアクセスし,これらの情報を印刷して作成した文書を取得したことが
認められる。また,本件管理文書のうち,控訴人Aは本件管理文書④について,控
訴人Bは本件管理文書③の一部について,それぞれ文書の原本を複写し,その写し
を取得したことが認められる。そして,各印刷した文書及び写しは,いずれも被控
訴人の所有物であるから,これを業務外の目的に使用するために,被控訴人の許可
なく業務外で取得する行為は,形式的には,窃盗に当たるといえなくはない。
 しかし,証拠(乙2)によれば,就業規則75条1項は出勤停止,減給又は譴責
の事由として「許可を得ないで金庫の施設,什器備品,車両等を業務以外の目的で
使用したとき(8号)」,「正当な理由なく金庫の金品を持ち出し,または私用に
供したとき(9号)」を定めており,形式的に窃盗に当たる行為であっても出勤停
止又はこれより軽い処分をもって臨む場合のあることが予定されていることが認め
られる。他方,同条2項4号の表現は「職場内外において・・・刑事犯または,こ
れに類する行為」となっており,同号が懲戒解雇事由として予定しているのは,刑
罰に処される程度に悪質な行為であると解される。
 そうすると,控訴人らが取得した文書等は,その財産的価値はさしたるものでは
なく,その記載内容を外部に漏らさない限りは被控訴人に実害を与えるものではな
いから,これら文書を取得する行為そのものは直ちに窃盗罪として処罰される程度
に悪質なものとは解されず,控訴人らの上記各行為は,就業規則75条2項4号に
は該当しないというべきである。付言すると,上記各文書等に記載された情報が被
控訴人にとって重要なものであり,これを業務と関係なく取得することが許されな
いことは後記のとおりであるから,被控訴人らの行為は同条1項に所定の「服務規
律または金庫の定める他の諸規則に違反したとき(14号)」に当たりうるもので
はあり,また上述の同項8号,9号の懲戒事由に当たりうるものでもあるが,いず
れにしても,出勤停止よりも重い処分を科すことはできないものである。
2 なお,控訴人らは,被控訴人職員が担当業務以外の情報にアクセスすることは
許容されていた旨主張する。
 しかしながら,本件信用情報には,会員の出資額,顧客ランク,融資額,融資条
件,返済方法,延滞状況,担保明細が記載され,本件管理文書③及び④には,手形
の支払義務者の不渡り等の信用情報が記載されている。これらの融資の内容や融資
の相手方の信用状況に関する情報は,当該顧客にとって,高度のプライバシーに属
する事項であり,また,金融機関の融資の相手方に対する評価は,当該金融機関に
とって,最高機密に属する事項である。
 したがって,金融機関として顧客に対して高度の秘密保持義務を負い,機密情報
を厳格に管理すべき立場にある被控訴人が,職員に対し,担当業務の遂行に関係の
ない目的でこのような機密情報にアクセスしたり,機密情報の記載された文書を複
写したりすることを許容することはあり得ないことであり,このことは,上記認定
のとおり,顧客信用情報へのアクセスにはオペレータカードを要し,しかもそのア
クセスの経過が記録されることとされていることからも明らかである。
 したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。
三 争点2(就業規則75条2項8号,11号及び13号の懲戒解雇事由該当行為
の存否)について
1 Lが平成8年11月14日に持参してG会長に示した資料の中に控訴人らが取
得した本件信用情報が含まれていたことは上記一で認定したとおりであり,本件資
料のうちその余の資料についても,控訴人らが作成,収集して被控訴人の不正疑惑
の追及に使用していた資料であると各資料の内容から認められるから,これらの事
実から,Lが何らかの方法により控訴人らの取得した本件資料を入手した事実を推
認することができる。
 もっとも,Lが被控訴人に持ち込んだ資料中に,控訴人らが端末機を使用して帳
票用紙に印刷した文書そのものが含まれていたとまでは認定することができない。
すなわち,G会長は,原審での証人尋問において,帳票用紙に印刷されたものがあ
ったかどうか明確な記憶がない旨証言し,また,Lが持ち込んだ資料を複写したH
常務は,原審での証人尋問において,帳票用紙に印刷されたものがあった証言する
ものの(同人の陳述書(乙56)も同旨),他方でコピーであったものもあったか
もしれない旨証言しており,いずれの証言も明確性に欠けている。そして,そもそ
も,帳票用紙に印刷された文書が存在したとすれば,その文書は正に被控訴人の外
部に流出させてはならないものであり,Lがいかなる経路で入手したものにせよ,
G会長やH常務としてはその返還を拒んで当然のものであるところ,Lに資料を全
部返還したというのであるから,帳票用紙に印刷された文書は存しなかったことが
強くうかがわれるところである。したがって,上記のH常務の証言及び陳述書はに
わかに採用できず,他に帳票用紙に印刷された文書がLの持ち込んだ資料中に存し
たことを認定するに足りる証拠はない。
 また,Lが本件資料を被控訴人に持ち込んだ当時,Lと被控訴人らとの間に何ら
かの人的関わりがあったことをうかがわせる証拠も存しない。
 そうすると,Lの取得した本件資料が元々は控訴人らの作成,収集した資料に由
来するものであることは確かであるものの,同資料と同内容の複写を所持しうる者
が他にもあった以上,本件資料が控訴人らの意思に基づいてLに渡ったものとまで
は推認することはできないというべきである。
 そうすると,本件資料をLが所持していたことに関しては,控訴人らに就業規則
75条2項8号,11号又は13号に該当する事実は,これを認めることができな
いというべきである。なお付言すると,Lに本件資料が流出したことについて,控
訴人らに本件資料の保管・管理義務違反の過失があったと評価することは不可能で
はないが,就業規則では,過失により被控訴人に損害を与える行為は出勤停止又は
これより軽い懲戒処分に処することとされており(就業規則75条1項12号,1
3号),就業規則75条2項8号,11号及び13号はもっぱら故意による行為を
懲戒解雇事由としているものと解されるから,過失により本件資料を流出させたと
しても,同各号所定の懲戒解雇事由には当たらないというべきである。
2 控訴人Aが弟である国会議員秘書Cに本件資料を交付した事実は同控訴人も自
認するところであり,この事実が少なくとも形の上では就業規則75条2項8号に
該当することは否定できない。しかし,本件資料が国会議院の秘書に交付されるこ
とで,直ちに被控訴人の名誉,信用の失墜や取引関係への悪影響に繋がるものとは
解されず,実際,Cに交付されたことがそのような事態に繋がったことを推認でき
る証拠もないから,同項11号に該当する行為があったとはいえない。また,控訴
人AのCに対する本件資料の交付が控訴人Bと共同してのものであったことを認め
るに足りる証拠はない。
 なお,控訴人らは,Cへの本件資料の交付は本件懲戒解雇時に被控訴人の認識し
ていなかった事実であるからこれを同解雇の事由とすることはできない旨主張する
が,被控訴人は,誰に対する漏洩であるかを特に限定しないでおよそ本件資料を外
部へ流出させたことを懲戒解雇事由としていたものと解されるから,控訴人らの上
記主張は採用できない。
四 争点4(本件懲戒解雇の相当性)について
 上述のとおり,被控訴人が本件懲戒解雇の事由として主張する事実のうち,就業
規則所定の懲戒解雇事由に当たると認めうるのは控訴人AがCに本件資料を交付し
たとの点のみである。したがって,控訴人Bについては本件懲戒解雇は当然に無効
であるといわざるをえず,控訴人Aについても,懲戒解雇事由に該当する事実が実
質的にそれほど重大なものとは解されず,懲戒解雇は相当性を欠くものとしてやは
り無効であるといわざるをえない。
 しかし,上述のとおり,形式的には控訴人らに就業規則75条2項4号に該当し
うる行為があったものであり,また就業規則を拡大解釈すれば,控訴人らの過失に
より本件資料がLに渡った点がなお就業規則75条2項8号,11号に当たるとの
見解,あるいは控訴人AがCに本件資料を交付した点が同項11号にも当たるとの
見解が成り立ちえないではないので,仮に,控訴人らの行為がこれら各条項にも該
当するものとした場合について,検討しておくこととする。
 証拠(甲15の1~3,16の1~3,19,20の1~4,21の1~4,2
2,23の1・2,29,30,31の1~3,34の14,40,乙46の1
5・16,73)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人における複数の不正疑惑案
件について,平成8年以降,控訴人らが中心となって,組合の三役交渉等を通じて
被控訴人の理事らに事案の解明と善処を強く求めていたこと,控訴人らが本件資料
を作成,収集したのもその活動の一環としてであったこと,控訴人Aが本件資料を
警察やCに交付したのも,行政(大蔵省)や司直の手により被控訴人内部の不正が
改められるのを期待してのことであったこと,控訴人らの追及が発端となって,被
控訴人において,不正を把握してこれに関わった職員を懲戒し,理事の監督責任を
認めて減俸等を行う事態が繰り返され,また,その一部は刑事事件に発展して関与
した元理事や元職員が逮捕された案件もあったこと,そして,Lが本件資料を持参
した後も,控訴人らが主張(原判決「事実及び理由」第二・二3控訴人らの主張
(一))するとおりの不正疑惑の追及活動が継続されていたことが認められる。
 そうすると,控訴人らはもっぱら被控訴人内部の不正疑惑を解明する目的で行動
していたもので,実際に疑惑解明につながったケースもあり,内部の不正を糺すと
いう観点からはむしろ被控訴人の利益に合致するところもあったというべきとこ
ろ,上記の懲戒解雇事由への該当が問題となる控訴人らの各行為もその一環として
されたものと認められるから,このことによって直ちに控訴人らの行為が懲戒解雇
事由に該当しなくなるとまでいえるかどうかはともかく,各行為の違法性が大きく
減殺されることは明らかである。
 また,就業規則74条は,出勤停止より重い処分として懲戒解雇の他に停職,降
職降格,諭旨免職を予定しており(乙2),懲戒解雇が相当となるのは特に違法性
の大きい場合であると解されるところ,上記のとおり,控訴人らの各行為には出勤
停止又はこれより軽い処分を科すべきと解されるものが多く,かつ上記のとおり違
法性が減殺される事由も存することを勘案すると,控訴人らの各行為に懲戒解雇に
当たるほどの違法性があったとはにわかに解されない。
 したがって,上記のように控訴人らの行為が被控訴人主張の各懲戒解雇事由に当
たると仮定してみても,控訴人らを懲戒解雇することは相当性を欠くもので権利の
濫用に当たるといわざるをえず,やはり本件懲戒解雇はいずれも無効である。
第四 結論
 よって控訴人らの請求はいずれも理由があるところ,これを棄却した原判決は失
当であるから取り消し,同請求を認容する。
(口頭弁論終結の日 平成14年4月16日)
福岡高等裁判所宮崎支部
裁判長裁判官 馬渕勉
裁判官 黒津英明
裁判官 岡田健

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛