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平成16年(行ケ)第307号 特許取消決定取消請求事件
平成17年3月15日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 マイクロクラフト株式会社
 訴訟代理人弁護士 熊倉禎男,富岡英次,高石秀樹,佐竹勝一
 訴訟代理人弁理士 合田潔
 被 告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人 橳島愼二,藤井俊明,増岡亘,高木進,井出英一郎,岡田孝博
     主    文
 特許庁が異議2003-71834号事件について,平成16年5月25日にし
た決定を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文と同旨の判決。
第2 事案の概要
 本件は,特許を取り消した決定の取消しを求める事件である。
 1 手続の経緯
 (1) 原告は,発明の名称を「プリント基板検査装置」とする特許第336819
2号(平成9年11月10日出願,平成14年11月8日設定登録。以下「本件特
許」という。)の特許権者である。
 (2) 本件特許について,特許異議の申立てがされ(異議2003-71834号
事件として係属),特許庁は,平成16年5月25日,「特許第3368192号
の請求項1ないし11に係る特許を取り消す。」との決定をし,同年6月14日,
その謄本を原告に送達した。
 2 発明の要旨
 「【請求項1】 接触針をプリント基板へと接触させることによって該プリント
基板を検査するための装置であって,
 該接触針の該支持部分を,該装置へと固定された支持部分担持部へと該接触針の
運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される平行板ばね機構であっ
て,該運動方向に離れた,該支持部分の2点に,当該支持側板ばねの主表面が互い
に平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにその一端が取り付け
られた一対の支持側板ばねと,該運動方向に離れた,該支持部分担持部の2点に,
当該固定側板ばねの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直
になるようにかつ該支持側板ばねが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が
取り付けられた一対の固定側板ばねと,を有し,
 該一対の支持側板ばねのうち該接触針に近い方に位置する第一の支持側板ばねの
他端と,該一対の固定側板ばねのうち該接触針に近い方に位置する第一の固定側板
ばねの他端と,を固定し,そして該一対の支持側板ばねのうち該接触針から遠い方
に位置する第二の支持側板ばねの他端と,該一対の固定側板ばねのうち該接触針か
ら遠い方に位置する第二の固定側板ばねの他端と,を固定したものである平行板ば
ね機構を備える,
 プリント基板検査装置。
 【請求項2】 第一の支持側板ばね,第一の固定側板ばね,第二の支持側板ばね
及び第二の固定側板ばねの曲げばね定数が同じである,請求項1に記載のプリント
基板検査装置。
 【請求項3】 該平行板ばね機構が2対の該支持側板ばねと2対の該固定側板ば
ねとを有し,かつ該運動方向の延長線上から見たときに,互いに隣接する2対の該
支持側板ばねが2対の該固定側板ばねに挟まれて配置されているか又は互いに隣接
する2対の該固定側板ばねが2対の該支持側板ばねに挟まれて配置されているもの
である,請求項1又は2に記載のプリント基板検査装置。
 【請求項4】 該第一の支持側板ばねの他端と該第一の固定側板ばねの他端との
固定部分と,該第二の支持側板ばねの他端と該第二の固定側板ばねの他端との固定
部分と,を部材によって連結しているものである,請求項1乃至3のいずれかに記
載のプリント基板検査装置。
 【請求項5】 接触針をプリント基板へと接触させることによって該プリント基
板を検査するための装置であって,
 該接触針と該プリント基板との距離が,該接触針の支持部分を駆動するための支
持部分駆動部と,該支持部分と該支持部分駆動部とを含む第二部分を駆動するため
の第二部分駆動部と,によって調節され,
 該接触針の該支持部分を,該第二部分駆動部によって駆動される支持部分担持部
へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される平行板
ばね機構であって,該運動方向に離れた,該支持部分の2点に,当該支持側板ばね
の主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにその
一端が取り付けられた一対の支持側板ばねと,該運動方向に離れた,該支持部分担
持部の2点に,当該固定側板ばねの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方
向に対して垂直になるようにかつ該支持側板ばねが伸びる方向と同方向に伸びるよ
うにその一端が取り付けられた一対の固定側板ばねと,を有し,
 該一対の支持側板ばねのうち該接触針に近い方に位置する第一の支持側板ばねの
他端と,該一対の固定側板ばねのうち該接触針に近い方に位置する第一の固定側板
ばねの他端と,を固定し,そして該一対の支持側板ばねのうち該接触針から遠い方
に位置する第二の支持側板ばねの他端と,該一対の固定側板ばねのうち該接触針か
ら遠い方に位置する第二の固定側板ばねの他端と,を固定したものである平行板ば
ね機構を備える,
 プリント基板検査装置。
 【請求項6】 第一の支持側板ばね,第一の固定側板ばね,第二の支持側板ばね
及び第二の固定側板ばねの曲げばね定数が同じである,請求項5に記載のプリント
基板検査装置。
 【請求項7】 該支持部分駆動部と該第二部分駆動部とのうち,一方が小さな距
離を調節する微調節手段であり,他方が大きな距離を調節する粗調節手段である,
請求項5又は6に記載のプリント基板検査装置。
 【請求項8】 該支持部分駆動部が微調節手段であり,該第二部分駆動部が粗調
節手段である,請求項7に記載のプリント基板検査装置。
 【請求項9】 該粗調節手段がステッピングモーター又はサーボモーターによっ
て駆動され,該微調節手段がリニアモーター又はソレノイドによって駆動されるも
のである,請求項7又は8に記載のプリント基板検査装置。
 【請求項10】 該平行板ばね機構が2対の該支持側板ばねと2対の該固定側板
ばねとを有し,かつ該運動方向の延長線上から見たときに,互いに隣接する2対の
該支持側板ばねが2対の該固定側板ばねに挟まれて配置されているか又は互いに隣
接する2対の該固定側板ばねが2対の該支持側板ばねに挟まれて配置されているも
のである,請求項5乃至9のいずれかに記載のプリント基板検査装置。
 【請求項11】 該第一の支持側板ばねの他端と該第一の固定側板ばねの他端と
の固定部分と,該第二の支持側板ばねの他端と該第二の固定側板ばねの他端との固
定部分と,を部材によって連結しているものである,請求項5乃至10のいずれか
に記載のプリント基板検査装置。」
 3 決定の理由の要点
 決定の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件の請求項1ないし11に
係る発明(以下,各発明を請求項記載の番号に従い「本件発明1」のようにい
う。)は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,本件発明1ないし11についての特許は,特許法29
条2項の規定に違反してされたものであり,特許法113条2号に該当し,取り消
されるべきものである,というものである。
 (1) 引用例の発明
 平成16年3月9日付けで通知した取消の理由に引用した本件特許の出願前であ
る平成5年6月18日に日本国内において頒布された特開平5-150004号公
報(本訴甲3,以下「刊行物1」という。)には,「集積回路検査装置」に関し
て,第1図とともに次のような記載がある。
 A)「本発明に係る集積回路検査装置では,1対の微細接触針が載置台に載置さ
れた集積回路の検査を行う。したがって,安価なマイクロマニピュレータを用いて
正確かつ迅速に集積回路の検査を行える。」(2頁左欄25~28行)
 B)「図1は,本発明の一実施例としての集積回路検査装置の概略図である。こ
の集積回路検査装置としては,従来の一般的なマイクロマニピュレータが用いられ
ている。図において,集積回路検査装置は,ベース1上に載置された位置センサ2
と,位置センサ2の下方にこの位置センサ2と対向して設けられた載置台3と,位
置センサ2の両側方に相互に対向して配置された1対の駆動装置4,5と,載置台
3及び駆動装置4,5を制御するための制御装置6とを備えている。」(2頁左欄
30~38行)
 C)「駆動装置4,5は,ベース1上に載置されており,台11と,台11上に
取り付けられた粗動部12と,粗動部12の上部に取り付けられた微動部13とを
主として有している。粗動部12は,図示しないステッピングモータにより台11
に対して数十μm単位で垂直方向及び水平方向に移動可能である。また微動部13
は,電磁方式により,垂直方向及び水平方向に1μm単位で移動可能である。微動
部13の位置センサ2側端部には,1対の第1微細接触針14a及び第2微細接触
針14bがそれぞれ取り付けられている。微細接触針14a,14bはその先端部
が載置台3のXテーブル7側に延びている。微細接触針14a,14bは,それぞ
れ微動部13に絶縁体を介して固定されており,また後述する電気特性信号処理部
19に接続されている。」(2頁右欄4~17行)
 D)「電気特性信号処理部19には,第1微細接触針14aと第2微細接触針1
4bとが接続されており,両者を集積回路9に接触させて回路間の導通状態の確認
あるいは抵抗値の測定を行った際に,特定の電気特性信号が制御部18に送出され
るようになっている。」(2頁右欄32~36行)
 上記A)~D)の記載と第1図とからみて,上記刊行物1の集積回路検査装置
は,微細接触針14a,14bを集積回路9に接触させることによって該集積回路
9を検査するための装置であって,台11上に取り付けられた粗動部12と粗動部
12の上部に取り付けられた微動部13とを有する駆動装置4,5と,微動部13
の位置センサ2側端部に取り付けられた微細接触針14a,14bとを有している
ものと認められ,特に上記C)の記載からみて,粗動部12は,ステッピングモー
タにより台11に対して数十μm単位で垂直方向及び水平方向に移動(スライド)
可能であり,微動部13は,電磁方式により,垂直方向及び水平方向に1μm単位
で移動(スライド)可能であるから,微動部13に取り付けられた微細接触針14
a,14bは,粗動部12の台11に対する粗動によって微動部13とともに粗動
し,微動部13の粗動部12に対する微動によってさらに微動して,微細接触針1
4a,14bと集積回路9との距離がこれらの移動によって調節されるものと認め
られる。そして,このような移動が可能であるからには,微動部13と粗動部12
の間には,微動部13を粗動部12に対して該微細接触針の運動方向に沿ってスラ
イドさせるための電磁方式の駆動部と,微動部13を粗動部12に対してスライド
可能に担持するための機構が形成されているものと認められ,更に,粗動部12と
台11の間には,微動部13及び微動部13を駆動するための電磁方式の駆動部と
を含む粗動部12全体を駆動するステッピングモータによる駆動部が形成されてい
るものと認められる。
 したがって,刊行物1には,
 「微細接触針14a,14bを集積回路9へと接触させることによって該集積回
路9を検査するための装置であって,
 該微細接触針14a,14bを取り付けた微動部13を,該装置へと固定された
粗動部12へと該微細接触針14a,14bの運動方向に沿ってスライド可能に担
持するために配置される機構を備える,集積回路検査装置。」の発明(以下「刊行
物1の第1の発明」という。)と,
 「微細接触針14a,14bを集積回路9へと接触させることによって該集積回
路9を検査するための装置であって,
 該微細接触針14a,14bと該集積回路9との距離が,該微細接触針14a,
14bを取り付けた微動部13を駆動するための電磁方式の駆動部と,該微動部1
3と該電磁方式の駆動部とを含む粗動部12全体を駆動するためのステッピングモ
ータによる駆動部と,によって調節され,
 該微細接触針14a,14bを取り付けた微動部13を,該ステッピングモータ
による駆動部によって駆動される粗動部12へと該微細接触針14a,14bの運
動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される機構を備える,集積回路
検査装置。」の発明(以下「刊行物1の第2の発明」という。)が記載されている
ものと認める。
 同じく,上記取消の理由に引用した本件特許の出願前である昭和62年7月5日
に日本国内において頒布された精密工学会誌(VOL.53 No.7)社団法人
精密工学会P92~96(本訴甲4,以下「刊行物2」という。)には,「板ばね
を利用した直動および回転機構」に関して,第2,3図とともに次のような記載が
ある。
 E)「本研究は高精度微少移動機構として板ばね機構に着目した。板ばねのたわ
みを利用した移動機構は従来より測定器や科学機器の要素として用いられてい
る。・・・板ばねを利用した機構は,移動距離の短い簡易型の測定機器の構成要素
として最適であると思われる。」(92頁左欄5~17行)
 F)「2.2 往復ばねを用いた直動機構
 従来型の直動機構では横たわみの増加による縦たわみ量を無視できない。そこで
この縦たわみをキャンセルできる往復ばねを用いた機構を調べてみる(図2)。こ
の機構は,同形,同質の2枚の板ばねA,Bおよび中間固定部よりなっている。移
動上板に横荷重Pが加わると板ばねA,Bは同量の横たわみiを生じ,縦たわみ
は,それぞれ,-Δl,Δlとなり,結果として上板のZ方向の移動量は0になる
はずである。
 そこで,この原理を用いた6枚ばねによる〔6L-1〕を試作した(図3)。」
(93頁左欄9~19行)
 G)「4.1 板ばね機構
 2,3章で示した板ばね機構のリストを表1に示す。これらの機構は,すべて共
通の板ばね(図11)を用い,多くの互換性を持たせた。この板ばねの材質は,弾
性域が広く,加工が容易なことから〔ばね用りん青銅PBSP〕を使用した。」
(94頁右欄12~17行)
 上記E)~G)の記載と第2,3図とからみて,刊行物2の直動機構は測定機器
の微少移動機構として用いるのに適した移動機構であって,第3図の各部材の名称
は,上記F)の記載と第2図との対応とからみて,異議申立人が異議甲5として提
出した参考図の通りとすることができる(該参考図の「固定支持具」に関しては,
刊行物2には特に部材名が記載されていないが,該部材は第2図において固定部分
を表す斜線部と対応しているから,これを「固定支持具」と呼ぶことに問題はな
い。)から,刊行物2における板ばね機構は,特に第3図からみて,移動上板を,
固定された固定支持具へと該移動上板の運動方向に沿ってスライド可能に担持する
ために配置される平行板ばね機構であって,該運動方向に離れた,該移動上板の2
点に,当該移動上板側板ばねBの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向
に対して垂直になるようにその一端が取り付けられた一対の移動上板側板ばねB
と,該運動方向に離れた,該固定支持具の2点に,当該固定支持具側板ばねAの主
表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにかつ該移
動上板側板ばねBが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が取り付けられた
一対の固定支持具側板ばねAとを有するとともに,該一対の移動上板側板ばねBの
うち第一の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定側板ばねAのうち第一の固
定支持具側板ばねAの他端とを固定し,そして該一対の移動上板側板ばねBのうち
第二の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定支持具側板ばねAのうち第二の
固定支持具側板ばねAの他端とを固定したものと認められ,これを測定機器の微少
移動機構として用いる場合には,微少移動させる部分を移動上板に配置して微少移
動させるものと認める。
 したがって,刊行物2には,
 「移動上板を,固定された固定支持具へと該移動上板の運動方向に沿ってスライ
ド可能に担持するために配置される平行板ばね機構であって,該運動方向に離れた
該移動上板の2点に,移動上板側板ばねBの主表面が互いに平行になるようにかつ
該運動方向に対して垂直になるようにその一端が取り付けられた一対の移動上板側
板ばねBと,該運動方向に離れた該固定支持具の2点に,固定支持具側板ばねAの
主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにかつ該
移動上板側板ばねBが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が取り付けられ
た一対の固定支持具側板ばねAとを設けるとともに,該一対の移動上板側板ばねB
のうち第一の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定側板ばねAのうち第一の
固定支持具側板ばねAの他端とを固定し,該一対の移動上板側板ばねBのうち第二
の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定支持具側板ばねAのうち第二の固定
支持具側板ばねAの他端とを固定した平行板ばね機構を,測定機器の微少移動機構
として,微少移動させる部分を移動上板に配置して用いる」発明(以下「刊行物2
の発明」という。)が記載されているものと認める。
 (2) 本件発明1と刊行物1の第1の発明との対比
 本件発明1と刊行物1の第1の発明とを対比すれば,本件発明1のプリント基板
は電子機器等の電気回路が形成されたプリント基板であるから,刊行物1の第1の
発明の「集積回路9」は本件発明1の「プリント基板」に相当しており,さらに,
刊行物1の第1の発明の「微細接触針14a,14b」,「微細接触針14a,1
4bを取り付けた微動部13」,「粗動部12」,「集積回路検査装置」は,それ
ぞれ本件発明1の「接触針」,「接触針の支持部分」,「支持部分担持部」,「プ
リント基板検査装置」に相当している。また,刊行物1の第1の発明で,微細接触
針14a,14bを取り付けた微動部13を,該装置へと固定された粗動部12へ
と該微細接触針14a,14bの運動方向に沿ってスライド可能に担持するために
配置される「機構」は,本件発明1の「平行板ばね機構」に対応する「移動機構」
である。
 したがって,本件発明1は刊行物1の第1の発明と,
 「接触針をプリント基板へと接触させることによって該プリント基板を検査する
ための装置であって,
 該接触針の該支持部分を,該装置へと固定された支持部分担持部へと該接触針の
運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される移動機構を備える,
 プリント基板検査装置。」
 で一致し,以下の相違点で相違しているものと認める。
<相違点>
 本件発明1で,接触針の支持部分を,装置へと固定された支持部分担持部へと該
接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される移動機構は,
運動方向に離れた支持部分の2点に,当該支持側板ばねの主表面が互いに平行にな
るようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにその一端が取り付けられた一対
の支持側板ばねと,該運動方向に離れた該支持部分担持部の2点に,当該固定側板
ばねの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるように
かつ該支持側板ばねが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が取り付けられ
た一対の固定側板ばねとを有し,該一対の支持側板ばねのうち該接触針に近い方に
位置する第一の支持側板ばねの他端と,該一対の固定側板ばねのうち該接触針に近
い方に位置する第一の固定側板ばねの他端とを固定し,そして該一対の支持側板ば
ねのうち該接触針から遠い方に位置する第二の支持側板ばねの他端と,該一対の固
定側板ばねのうち該接触針から遠い方に位置する第二の固定側板ばねの他端とを固
定した平行板ばね機構であるのに対し,刊行物1の第1の発明で,微細接触針の取
付部分(接触針の支持部分)を,装置へと固定された粗動部12への取付部(支持
部分担持部)へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置
される移動機構は,どのような機構であるのか明らかでない点。
 (3) 相違点の検討
 刊行物2には,移動上板を,固定された固定支持具へと該移動上板の運動方向に
沿ってスライド可能に担持するために配置される平行板ばね機構であって,該運動
方向に離れた該移動上板の2点に,移動上板側板ばねBの主表面が互いに平行にな
るようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにその一端が取り付けられた一対
の移動上板側板ばねBと,該運動方向に離れた該固定支持具の2点に,固定支持具
側板ばねAの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になる
ようにかつ該移動上板側板ばねBが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が
取り付けられた一対の固定支持具側板ばねAとを設け,該一対の移動上板側板ばね
Bのうち第一の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定側板ばねAのうち第一
の固定支持具側板ばねAの他端とを固定し,そして該一対の移動上板側板ばねBの
うち第二の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定支持具側板ばねAのうち第
二の固定支持具側板ばねAの他端とを固定して構成した平行板ばね機構を,測定機
器の微少移動機構として,微少移動させる部分を移動上板に配置して用いる発明が
記載されている。そしてこの発明は,刊行物1の発明の検査装置のような測定機器
の微少移動機構として適用されるものであるから,この発明を刊行物1の第1の発
明の微細接触針の移動機構として適用することには格別な困難性が認められない
(この場合,微細接触針を微少移動させるのであるから,刊行物2の発明における
移動上板を刊行物1の発明における微細接触針を取り付けた微動部13(接触針の
支持部分)に対応させ,同じく固定支持具を装置へと固定された粗動部12(支持
部分担持部)に対応させることは当然である。)。
 してみれば,刊行物1の第1の発明で,微細接触針14a,14bを取り付けた
微動部13(接触針の支持部分)を,装置へと固定された粗動部12(支持部分担
持部)へと該微細接触針(接触針)の運動方向に沿ってスライド可能に担持するた
めに配置される移動機構を,運動方向に離れた微動部13(支持部分)の2点に,
微動部13側板ばね(支持側板ばね)の主表面が互いに平行になるようにかつ該運
動方向に対して垂直になるようにその一端が取り付けられた一対の微動部13側板
ばね(支持側板ばね)と,該運動方向に離れた該粗動部12(支持部分担持部)の
2点に,粗動部12側板ばね(固定側板ばね)の主表面が互いに平行になるように
かつ該運動方向に対して垂直になるようにかつ該微動部13側板ばね(支持側板ば
ね)が伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が取り付けられた一対の粗動部
12側板ばね(固定側板ばね)とを設け,該一対の微動部13側板ばね(支持側板
ばね)のうち該微細接触針(接触針)に近い方に位置する第一の微動部13側板ば
ね(支持側板ばね)の他端と,該一対の粗動部12側板ばね(固定側板ばね)のう
ち該微細接触針(接触針)に近い方に位置する第一の粗動部12側板ばね(固定側
板ばね)の他端とを固定し,そして該一対の微動部13側板ばね(支持側板ばね)
のうち該微細接触針(接触針)から遠い方に位置する第二の微動部13側板ばね
(支持側板ばね)の他端と,該一対の粗動部12側板ばね(固定側板ばね)のうち
該微細接触針(接触針)から遠い方に位置する第二の粗動部12側板ばね(固定側
板ばね)の他端とを固定した平行板ばね機構として構成することは,刊行物1の第
1の発明に刊行物2の発明を適用することにより当業者が容易に行うことができた
ものである。
 なお,特許権者は,「『・・・このリニアガイドを使用すると,リニアガイドの
自重が大きいために接触針に付随して移動する部分の質量が大きくなり,接触針が
プリント基板に衝突する際の衝撃が大きくなる問題に加え,敏速な移動ができなく
なる問題』が生じることを解明した。・・・その結果,リニアガイドに代えて薄板
状の板ばねにより構成された平行板ばね機構が,接触針をZ方向にガイドするため
のガイドと,接触針に加わるZ方向への衝撃を緩和するバネと,の両機能を果たし
うることを見いだし,本発明を完成したものである。」と主張しているが,質量の
大きい移動部材が大きな慣性力を有し,そのため,衝突する際の衝撃が大きく移動
が敏速に行い難いことは当業者において自明であるから,移動する部分の質量が大
きいリニアガイドを使用すると,接触針がプリント基板に衝突する際の衝撃が大き
く敏速な移動ができにくくなることは当業者が熟知している事項であるとともに,
これを平行板ばね機構のような質量の小さい移動機構に代えればこのようなことが
なくなることは,当業者が容易に想到しうるところということができる。
 また,特許権者は,本件の平行板ばね機構が「接触針に加わるZ方向への衝撃を
緩和するバネ」の機能を果たしている旨を主張しているが,本件の実施例におい
て,接触針に加わるZ方向への衝撃を緩和するバネの機能を果たしているのは,ば
ね31であって平行板ばね機構ではない。
 (4) 本件発明2は,本件発明1において,第一の支持側板ばね,第一の固定側板
ばね,第二の支持側板ばね及び第二の固定側板ばねの曲げばね定数を同じにしたも
のであるが,平行板ばね機構を用いた移動機構において,各板ばねの曲げばね定数
を同じにすることは周知技術(例えば,実願昭53-96860号(実開昭55-
26104号)のマイクロフィルムの5頁3~9行を参照。)である。
(なお,前記F),G)の記載からみて,刊行物1における各板ばねの曲げばね定
数もそれぞれ同じと考えられる。)
 (5) 本件発明3に関して
 本件発明3は,本件発明1又は2において,平行板ばね機構が2対の該支持側板
ばねと2対の該固定側板ばねとを有し,かつ該運動方向の延長線上から見たとき
に,互いに隣接する2対の該支持側板ばねが2対の該固定側板ばねに挟まれて配置
されているか又は互いに隣接する2対の該固定側板ばねが2対の該支持側板ばねに
挟まれて配置されているようにしたものであるが,平行板ばね機構を用いた移動機
構において各板ばねをこのような構造のものとすることは,(4)で引用したマイクロ
フィルムにもみられるように,これまた周知技術である。
 (6) 本件発明4に関して
 本件発明4は,本件発明1~3において,第一の支持側板ばねの他端と第一の固
定側板ばねの他端との固定部分と,第二の支持側板ばねの他端と第二の固定側板ば
ねの他端との固定部分とを部材によって連結するようにしたものであるが,平行板
ばね機構を用いた移動機構において各板ばねをこのように連結することは,(4)で引
用したマイクロフィルム(特に4頁7~11行を参照。)にもみられるように,こ
れまた周知技術である。
 (7) 本件発明5と刊行物1の第2の発明との対比
 本件発明5と刊行物1の第2の発明とを対比すれば,本件発明5のプリント基板
は電子機器等の電気回路が形成されたプリント基板であるから,刊行物1の第2の
発明の「集積回路9」は本件発明5の「プリント基板」に相当しており,さらに,
刊行物1の第2の発明の「微細接触針14a,14b」,「微細接触針14a,1
4bを取り付けた微動部13」,「電磁方式の駆動部」,「粗動部12全体」,
「ステッピングモータによる駆動部」,「粗動部12」,「集積回路検査装置」
は,それぞれ本件発明5の「接触針」,「接触針の支持部分」,「支持部分駆動
部」,「第二部分」,「第二部分駆動部」,「支持部分担持部」,「プリント基板
検査装置」に相当している。また,刊行物1の第2の発明で,微細接触針14a,
14bの取付部分を,該装置へと固定された粗動部12への取付部へと該微細接触
針14a,14bの運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される
「機構」は,本件発明5の「平行板ばね機構」に対応する「移動機構」である。
 したがって,本件発明5は刊行物1の第2の発明と,
 「接触針をプリント基板へと接触させることによって該プリント基板を検査する
ための装置であって,
 該接触針と該プリント基板をとの距離が,該接触針の支持部分を駆動するための
支持部分駆動部と,該支持部分と該支持部分駆動部とを含む第二部分を駆動するた
めの第二部分駆動部と,によって調節され,
 該接触針の該支持部分を,該第二部分駆動部によって駆動される支持部分担持部
へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される移動機
構を備える,プリント基板検査装置。」
 で一致し,以下の相違点で相違しているものと認める。
<相違点>
 本件発明5で,接触針の支持部分を,第二部分駆動部によって駆動される支持部
分担持部へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置され
る移動機構は,運動方向に離れた支持部分の2点に,当該支持側板ばねの主表面が
互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにその一端が取り
付けられた一対の支持側板ばねと,該運動方向に離れた該支持部分担持部の2点
に,当該固定側板ばねの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して
垂直になるようにかつ該支持側板ばねが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一
端が取り付けられた一対の固定側板ばねとを有し,該一対の支持側板ばねのうち該
接触針に近い方に位置する第一の支持側板ばねの他端と,該一対の固定側板ばねの
うち該接触針に近い方に位置する第一の固定側板ばねの他端とを固定し,そして該
一対の支持側板ばねのうち該接触針から遠い方に位置する第二の支持側板ばねの他
端と,該一対の固定側板ばねのうち該接触針から遠い方に位置する第二の固定側板
ばねの他端とを固定した平行板ばね機構であるのに対し,刊行物1の第2の発明
で,微細接触針の取付部分(接触針の支持部分)を,ステッピングモータによる駆
動部によって駆動される粗動部12への取付部(第二部分駆動部によって駆動され
る支持部分担持部)へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するため
に配置される移動機構は,どのような機構であるのか明らかでない点。
 (8) 相違点の検討
 刊行物2には,移動上板を,固定された固定支持具へと該移動上板の運動方向に
沿ってスライド可能に担持するために配置される平行板ばね機構であって,該運動
方向に離れた該移動上板の2点に,移動上板側板ばねBの主表面が互いに平行にな
るようにかつ該運動方向に対して垂直になるようにその一端が取り付けられた一対
の移動上板側板ばねBと,該運動方向に離れた該固定支持具の2点に,固定支持具
側板ばねAの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になる
ようにかつ該移動上板側板ばねBが伸びる方向と同方向に伸びるようにその一端が
取り付けられた一対の固定支持具側板ばねAとを設け,該一対の移動上板側板ばね
Bのうち第一の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定側板ばねAのうち第一
の固定支持具側板ばねAの他端とを固定し,そして該一対の移動上板側板ばねBの
うち第二の移動上板側板ばねBの他端と,該一対の固定支持具側板ばねAのうち第
二の固定支持具側板ばねAの他端とを固定して構成した平行板ばね機構を,測定機
器の微少移動機構として,微少移動させる部分を移動上板に配置して用いる発明が
記載されている。そしてこの発明は,刊行物1の発明の検査装置のような測定機器
の微少移動機構として適用されるものであるから,この発明を刊行物1の第2の発
明の微細接触針の移動機構として適用することには格別な困難性が認められない
(この場合,微細接触針を微少移動させるのであるから,刊行物2の発明における
移動上板を刊行物1の発明における微細接触針を取り付けた微動部13(接触針の
支持部分)に対応させ,同じく固定支持具をステッピングモータによる駆動部によ
って駆動される粗動部12(第二部分駆動部によって駆動される支持部分担持部)
に対応させることは当然である。)。
 してみれば,刊行物1の第2の発明で,微細接触針を取り付けた微動部13(接
触針の支持部分)を,ステッピングモータによる駆動部によって駆動される粗動部
12(第二部分駆動部によって駆動される支持部分担持部)へと該微細接触針(接
触針)の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される移動機構を,
運動方向に離れた微動部13(支持部分)の2点に,微動部13側板ばね(支持側
板ばね)の主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になるよ
うにその一端が取り付けられた一対の微動部13側板ばね(支持側板ばね)と,該
運動方向に離れた該粗動部12(支持部分担持部)の2点に,粗動部12側板ばね
(固定側板ばね)の主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直
になるようにかつ該微動部13側板ばね(支持側板ばね)が伸びる方向と同方向に
伸びるようにその一端が取り付けられた一対の粗動部12側板ばね(固定側板ば
ね)とを設け,該一対の微動部13側板ばね(支持側板ばね)のうち該微細接触針
(接触針)に近い方に位置する第一の微動部13側板ばね(支持側板ばね)の他端
と,該一対の粗動部12側板ばね(固定側板ばね)のうち該微細接触針(接触針)
に近い方に位置する第一の粗動部12側板ばね(固定側板ばね)の他端とを固定
し,そして該一対の微動部13側板ばね(支持側板ばね)のうち該微細接触針(接
触針)から遠い方に位置する第二の微動部13側板ばね(支持側板ばね)の他端
と,該一対の粗動部12側板ばね(固定側板ばね)のうち該微細接触針(接触針)
から遠い方に位置する第二の粗動部12側板ばね(固定側板ばね)の他端とを固定
した平行板ばね機構として構成することは,刊行物1の第2の発明に上記刊行物2
の発明を適用することにより当業者が容易に行うことができたものである。
 (9) 本件発明6に関して
 本件発明6は,本件発明5において,第一の支持側板ばね,第一の固定側板ば
ね,第二の支持側板ばね及び第二の固定側板ばねの曲げばね定数を同じにしたもの
であるが,平行板ばね機構を用いた移動機構において,各板ばねの曲げばね定数を
同じにすることは,(4)で前述したように周知技術である。
 (10) 本件発明7,8の発明に関して
 本件発明7は,本件発明5又は6において,支持部分駆動部と第二部分駆動部の
うち,一方が小さな距離を調節する微調節手段であり,他方が大きな距離を調節す
る粗調節手段であるようにしたものであり,本件発明8は,本件発明7において,
支持部分駆動部が微調節手段であり,第二部分駆動部が粗調節手段であるようにし
たものであるが,刊行物1において支持部分駆動部に相当する電磁方式の駆動部は
小さな距離を調節する微調節手段であり,第二部分駆動部に相当するステッピング
モータによる駆動部は大きな距離を調節する粗調節手段である。
 (11) 本件発明9に関して
 本件発明9は,本件発明7又は8において,粗調節手段がステッピングモーター
又はサーボモーターによって駆動され,微調節手段がリニアモーター又はソレノイ
ドによって駆動されるようにしたものであるが,刊行物1における粗調節手段であ
るステッピングモータによる駆動部はステッピングモーターによって駆動され,微
調節手段である電磁方式の駆動部は,電磁方式即ちリニアモーターによって駆動さ
れている。
 (12) 本件発明10に関して
  本件発明10は,本件発明5~9において,平行板ばね機構が2対の該支持側
板ばねと2対の該固定側板ばねとを有し,かつ該運動方向の延長線上から見たとき
に,互いに隣接する2対の該支持側板ばねが2対の該固定側板ばねに挟まれて配置
されているか又は互いに隣接する2対の該固定側板ばねが2対の該支持側板ばねに
挟まれて配置されているようにしたものであるが,平行板ばね機構を用いた移動機
構において,各板ばねをこのような構造のものとすることは(5)で前述したように周
知技術である。
 (13) 本件発明11に関して
 本件発明11は,本件発明5~10において,第一の支持側板ばねの他端と第一
の固定側板ばねの他端との固定部分と,第二の支持側板ばねの他端と第二の固定側
板ばねの他端との固定部分とを部材によって連結するようにしたものであるが,平
行板ばね機構を用いた移動機構において,各板ばねをこのように連結することは(6)
で前述したように周知技術である。
 そして,本件発明1~11が奏する作用効果は,刊行物1,2に記載された発明
と上記周知技術から予測される程度以上のものではない。
 したがって,本件発明1~11は,刊行物1,2に記載された発明と上記周知技
術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
 (14) 決定のむすび
 以上のとおり,本件発明1~11は,刊行物1,2に記載された発明に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明1~11につい
ての特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
 したがって,本件発明1~11についての特許は,特許法113条2号に該当
し,取り消されるべきものである。
第3 当事者の主張の要点
 1 原告主張の決定取消事由
 決定は,本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点を看過して,一致点の認
定を誤り(取消事由1),本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の判断を
誤り(取消事由2),また,本件発明2ないし11について,上記と同様に認定判
断を誤り(取消事由3),その結果,本件発明1ないし11に係る特許を取り消し
たものであって,これらの誤りが決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるか
ら,違法なものとして取り消されるべきである。
 (1) 取消事由1(本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の看過,一致点
の認定の誤り)
 決定は,「刊行物1の第1の発明の「集積回路9」は本件発明の「プリント基
板」に相当しており,さらに,刊行物1の第1の発明の「微細接触針14a,14
b」,「微細接触針14a,14bを取り付けた微動部13」,「粗動部12」,
「集積回路検査装置」は,それぞれ本件発明1の「接触針」,「接触針の支持部
分」,「支持部分担持部」,「プリント基板検査装置」に相当している。また,刊
行物1の第1の発明で,微細接触針14a,14bを取り付けた微動部13を,該
装置へと固定された粗動部12へと該微細接触針14a,14bの運動方向に沿っ
てスライド可能に担持するために配置される「機構」は,本件発明1の「平行板ば
ね機構」に対応する「移動機構」である。」と認定した上,本件発明1と刊行物1
の第1の発明との一致点を上記第2の3(2)のとおり認定した。
 ア 刊行物1の第1の発明の「集積回路9」及び「集積回路検査装置」と本件発
明1の「プリント基板」及び「プリント基板検査装置」
 「集積回路」は,通常,シリコン等の半導体基板上にトランジスタ等の電子回路
素子を多数組み込んだものであり,電子部品としての特定の機能(例えば,メモリ
としての記憶機能,プロセッサや増幅器などの信号処理機能)を有するものである
のに対し,「プリント基板(プリント配線板)」は,通常,合成樹脂又はセラミッ
ク等からなる絶縁性基板上に銅又はアルミニウムの細い多数の導体路(配線)をメ
ッキ又はエッチング等の方法でプリント形成し,同基板上に集積回路,コンデン
サ,ダイオード等の複数の電子部品を搭載したものであり,集積回路等の電子部品
同士を,導体路(配線)により相互に電気的に接続したものである。
 また,「集積回路検査装置」は,半導体チップがパッケージに封入される以前
に,半導体チップ内に形成された集積回路が正常に作動するか否かという極めて精
密かつ複雑な検査をすることを目的とするものであって,精密かつ複雑な動作を行
う構成が要求されるのに対し,「プリント基板検査装置」は,プリント基板上の導
体路の断線,短絡の有無という比較的単純な検査をすることを目的とするものであ
って,精密かつ複雑な動作よりも,接触針(プローブ)が速やかに移動する構成が
要求される。そして,完全性テストを行う場合,「集積回路(検査装置)」におい
ては,検査針の移動距離が小さく,移動速度も極めて遅いので,検査針(及び検査
針と固定されている部分)が基板に衝突する際の「衝撃力」(力積=質量×速度)
による基板の損傷が問題視されることはなく,むしろ,検査針の位置決め精度の向
上が重要視されるのに対し,「プリント基板(検査装置)」においては,接触針
(プローブ)が速やかに移動するため,「衝撃力」による基板の損傷が問題視され
る。
 したがって,刊行物1の第1の発明の「集積回路(検査装置)」と本件発明1の
「プリント基板(検査装置)」とは,全く異なる技術分野に属していて,目的,構
成,作用において本質的に異なり,要求される技術的事項,問題とされる要素も全
く異なるものであって,刊行物1の第1の発明の「集積回路9」は本件発明1の
「プリント基板」に相当せず,また,同様に 刊行物1の第1の発明の「集積回路
検査装置」は本件発明1の「プリント基板検査装置」に相当しない。
 イ 刊行物1の第1の発明の「微動部13」と本件発明1の「接触針の支持部
分」
 刊行物1(甲3)には,「微動部13は,電磁方式により,垂直方向及び水平方
向に1μm単位で移動可能である」(段落【0008】)と記載されているとこ
ろ,微動部13と別に駆動装置が存在することは記載されていないし,粗動部12
について,「図示しないステッピングモータにより…移動可能である。」(段落
【0008】)と記載されていることからすると,刊行物1の第1の発明の「微動
部13」は,それ自体,駆動装置を備えているものであると考えられる。これに対
し,本件発明1の特許請求の範囲には,「該接触針の該支持部分を,該装置へと固
定された支持部分担持部へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持する
ために配置される平行板ばね機構」と記載されているから,本件発明1の「接触針
の支持部分」は,単なる接触針の支持部材にすぎず,独自の駆動機構を備えている
ものではない。このことは,発明の詳細な説明における「支持部分3は支持部分担
持部11に平行板ばね機構13を介して担持されており,リニアモーター7によっ
て(ばね31を介して)支持部分担持部11に対して容易にスライド移動すること
ができる」(段落【0031】)との記載や図3からも明らかである。
 したがって,刊行物1の第1の発明の「微動部13」と本件発明1の「接触針の
支持部分」とは,構成・機能において異なるものであって,刊行物1の第1の発明
の「微動部13」は,本件発明1の「接触針の支持部分」に相当しない。
 ウ 刊行物1の第1の発明の「粗動部12」と本件発明1の「支持部分担持部」
 刊行物1(甲3)には,「ステッピングモータにより台11に対して数十μm単
位で垂直方向及び水平方向に移動」(段落【0008】)と記載されているから,
刊行物1の第1の発明の「粗動部12」は,台11に対して,検査部全体を三次元
方向に移動(粗動)する機構であり,どこにも固定されていないものである。これ
に対し,本件発明1の特許請求の範囲には,「該接触針の該支持部分を,該装置へ
と固定された支持部分担持部へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持
するために配置される平行板ばね機構」と記載されているから,本件発明1の「支
持部分担持部」は,「該装置」へと固定されていながら,これとは区別することの
できる,独立した構成,機能を有する部材である。
 したがって,刊行物1の第1の発明の「粗動部12」と本件発明1の「支持部分
担持部」とは,構成,機能において異なるものであって,刊行物1の第1の発明の
「粗動部12」は,本件発明1の「支持部分担持部」に相当しない。
 エ 刊行物1の第1の発明の「微細接触針14a,14bを取り付けた微動部1
3を,該装置へと固定された粗動部12へと該微細接触針14a,14bの運動方
向に沿ってスライド可能に担持するために配置される「機構」」
 そもそも,本件発明1において,平行板ばね機構のような移動機構が必要とされ
るのは,支持部分3(及びこれに固定されている接触針1)がリニアモータ7に固
定されていないため,リニアモータ7が垂直方向(Z方向)に移動する際に,支持
部分3の移動方向を垂直方向に規制することにより,検査針1を,的確に検査ポイ
ントに当接させる必要があるからである(本件明細書(甲2)の段落【0012】
参照)。しかし,刊行物1の第1の発明は,「微細接触針14a,14b」と「微
動部13」とが「絶縁体」を介して固定されており,「微動部13」が,必然的に
「微細接触針14a,14b」の運動方向に沿って移動するから,「微動部13」
を「担持するために配置される機構」を特に設けて,その移動方向を規制する必要
がない。
 したがって,刊行物1の第1の発明において,微細接触針14a,14bを取り
付けた微動部13を,該装置へと固定された粗動部12へと該微細接触針14a,
14bの運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される「機構」に関
する開示はなく,また,このような機構があると解すべき合理的理由もない。
 オ 決定は,以上のとおり,本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の看
過し,一致点の認定を誤ったものである。
 (2) 取消事由2(本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の判断の誤り)
 決定は,「この発明(刊行物2の発明)は,刊行物1の発明の検査装置のような
測定機器の微少移動機構として適用されるものであるから,この発明を刊行物1の
第1の発明の微細接触針の移動機構として適用することには格別の困難性が認めら
れない(・・・)。」とした上,「刊行物1の第1の発明で,微細接触針14a,
14bを取り付けた微動部13(接触針の支持部分)を,装置へと固定された粗動
部12(支持部分担持部)へと該微細接触針(接触針)の運動方向に沿ってスライ
ド可能に担持するために配置される移動機構を,・・・平行板ばね機構として構成
することは,刊行物1の第1の発明に刊行物2の発明を適用することにより当業者
が容易に行うことができたものである。」と判断した。
 ア 刊行物1の第1の発明の「微動部13」は,垂直方向及び水平方向の三次元
に移動するものであるのに対し,刊行物2の発明は,等しい長さの4枚(以上)の
板ばねを備えた「平行板ばね機構」を利用して,上方に設置された固定プローブに
より被検査対象物の形状等を測定する「三次元測定器」であり,その移動方向は,
構造自体から,一次元の往復運動のみに限定される。したがって,刊行物1の第1
の発明の「微動部13」に,刊行物2の発明の「平行板ばね機構」を適用すると,
「微動部13」が水平方向に移動することが不可能となってしまい,集積回路の検
査自体をすることができなくなるから,刊行物1の第1の発明に上記のような「平
行板ばね機構」を組み合わせることは物理的に不可能である。
 イ 刊行物1の第1の発明の「集積回路(検査装置)」と本件発明1の「プリン
ト基板(検査装置)」とは,(1)アで主張したように,全く異なる技術分野に属して
いて,目的,構成,作用において本質的に異なり,要求される技術的事項,問題と
される要素も全く異なるものである。そして,刊行物2(甲4)の「移動上
板(UpperTable)」は,板ばねのたわみを利用した移動機構を,三次元測定機にお
いて,測定対象物を搭載するための移動台として使用するのみであり,これに検査
針を固定して,プリント基板検査装置の「接触針の支持部分」として使用し,これ
を移動(スライド)する機構として平行板ばね機構を利用する構成については,開
示も示唆もない。したがって,刊行物2の発明を刊行物1の第1の発明に組み合わ
せることは,当業者にとって困難である。
 ウ したがって,本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点についての決定
の上記判断は,誤りである。
 (3) 取消事由3(本件発明2ないし11についての認定判断の誤り)
 決定は,本件発明2ないし11は,刊行物1,2に記載された発明と周知技術と
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したが,誤りである。
 ア 本件発明2ないし4は,本件発明1の従属項であるから,本件発明1の進歩
性判断に誤りがある以上,本件発明2ないし4についての判断は,誤りである。
 イ 本件発明5は,独立項の形式を採っているが,実質的には,本件発明1に構
成要件を付加したものであるから,本件発明1の進歩性判断に誤りがある以上,本
件発明5についての判断は,誤りである。そして,本件発明6ないし11は,本件
発明5の従属項であるから,本件発明5の進歩性判断に誤りがある以上,本件発明
6ないし11についての判断は,誤りである。
 2 被告の反論
 決定の認定判断は正当であり,原告主張の決定取消事由は,いずれも理由がな
い。
 (1) 取消事由1(本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の看過,一致点
の認定の誤り)に対して
 ア 刊行物1の第1の発明の「集積回路9」及び「集積回路検査装置」と本件発
明1の「プリント基板」及び「プリント基板検査装置」
 集積回路検査装置(IC検査装置)は,半導体チップがパッケージに封入される
以前に半導体チップ内に形成された集積回路が正常に動作するか否かを検査するだ
けでなく,パッケージ封入後に行われる検査,プリント基板上で行われる検査を含
めた,集積回路(IC)を検査する装置一般をいうのである。例えば,特開平2-
107979号公報(乙1)のIC検査装置は,実装のために紙テープ上に貼付さ
れたICの電気的特性を検査する装置(1頁左下欄17ないし20行)であり,特
開平2-147870号公報(乙2)のIC検査装置は,基板(プリント基板)上
に実装されたICを基板上で検査するもの(1頁左下欄18行ないし右下欄1行)
であり,特開平3-101146号公報(乙3)のIC検査装置は,IC搭載の被
測定回路のボンディング等を触針によりチェックするもの(1頁左下欄20行ない
し右下欄16行)であり,特開平2-6764号公報(乙4)の集積回路試験装置
は,プリント回路基板上に搭載された集積回路パッケージをプリント回路基板上で
試験するもの(8頁左下欄3ないし8行)であって,これらは,いずれもパッケー
ジ封入後に行う検査のための装置である。また,プリント基板等の回路基板の検査
装置も,プリント基板上の導体路の断線,短絡の有無を単純に検査するだけでな
く,基板に搭載したIC(集積回路)やその基板への実装状態を検査する装置を含
むものである。例えば,特開昭62-242868号公報(乙5)の回路基板検査
装置は,基板上に装着されたICパッケージのハンダ付けの良否とICの機能を検
査するもの(1頁左下欄5ないし7行)であって,特開平8-262114号公報
(乙6)の回路基板検査装置は,回路パターンの断線や短絡のほか,IC等の性能
や実装状態の良否等を検査する(【0002】)ものであり,これらは,いずれも
基板に搭載したIC(集積回路)やその基板への実装状態の検査のための装置であ
る。
 そして,プローブを用いた集積回路検査装置は,一般に,集積回路の電極部にプ
ローブを接触させて集積回路の電気的特性を測定するものであって(特開昭63-
187169号公報(乙7)1頁右下欄1ないし5行,特開平4-312940号
公報(乙8)1欄12ないし27行参照),その構成や動作は,プリント基板上に
露呈した端子間に接触針で電気的に接続して電気的特性を測定するプリント基板検
査装置と格別異なるものではないから,集積回路検査装置とプリント基板検査装置
は,目的,構成,作用において本質的に異なるものではない。
 したがって,「集積回路検査装置」と「プリント基板検査装置」とは,プリント
基板上に実装された集積回路(IC)やその実装状態を検査する装置をそれぞれが
包含していて,目的,構成,作用において本質的に異なるものでなく,しかも,本
件発明1の「プリント基板検査装置」が,プリント基板に搭載したIC(集積回
路)を検査する装置を特に除外しているわけではないから,刊行物1の第1の発明
の「集積回路検査装置」が本件発明1の「プリント基板検査装置」に相当すると判
断した決定に誤りはない。また,このようなプリント基板検査装置を使用して集積
回路(IC)を検査する場合において,検査される集積回路(IC)はプリント基
板上に組み込まれて一体化しているのであるから,刊行物1の発明の「集積回路」
が本件発明の「プリント基板」に相当すると判断した決定にも誤りはない。
 イ 刊行物1の第1の発明の「微動部13」と本件発明1の「接触針の支持部
分」
 本件発明1の特許請求の範囲には,「接触針の支持部分」について,「該接触針
の該支持部分を,該装置へと固定された支持部分担持部へと該接触針の運動方向に
沿ってスライド可能に担持するために配置される平行板ばね機構」と記載されてい
るにすぎず,「接触針の支持部分」が,接触針を直接支持するとも,独自駆動機構
を備えていないとも記載されていないし,接触針の運動方向を一次元方向に限定す
るとも記載されていない。そして,刊行物1の第1の発明の微動部13は,端部に
微細接触針14を取り付けてあって,台11へと固定された粗動部12に対して,
微細接触針14の運動方向に沿って微細接触針14とともにスライド可能に担持さ
れているのであって,この微動部13の構成は,本件発明1の「接触針の支持部
分」の構成と異なるところはない。
 したがって,刊行物1の第1の発明の「微動部13」が本件発明1の「接触針の
支持部分」に相当すると判断した決定に誤りはない。
 ウ 刊行物1の第1の発明の「粗動部12」は,本件発明1の「支持部分担持
部」
 本件発明1には,本件発明の「支持部分担持部」についても,それが単にプリン
ト基板検査装置へと固定されていること,すなわち,「支持部分担持部」が,プリ
ント基板検査装置へと固定された支持部分の担持部であることしか記載されていな
い。そして,刊行物1の第1の発明の微動部13は,端部に微細接触針14を取り
付けてあって,台11へと固定された粗動部12に対して,微細接触針14の運動
方向に沿って微細接触針14とともにスライド可能に担持されているのであって,
この粗動部12の構成は,本件発明1の「支持部分担持部」の構成と異なるところ
はない。
 したがって,刊行物1の第1の発明の「粗動部12」が本件発明1の「支持部分
担持部」に相当すると判断した決定に誤りはない。
 エ 刊行物1の第1の発明の「微細接触針14a,14bを取り付けた微動部1
3を,該装置へと固定された粗動部12へと該微細接触針14a,14bの運動方
向に沿ってスライド可能に担持するために配置される「機構」」
 刊行物1の第1の発明において,微動部13が粗動部12に対して(垂直方向及
び水平方向に)スライド可能である以上,微動部13を粗動部12に対して(垂直
方向及び水平方向に)スライド可能に担持するための機構が存在することは当然で
ある(もし,微動部13が粗動部12に担持されていなければ微動部13は落下し
てしまうし,また,その担持がスライド可能な担持でなければ微動部13は粗動部
12に対して動くことができない。)。
 したがって,「刊行物1の第1の発明で,微細接触針14a,14bを取り付け
た微動部13を,該装置へと固定された粗動部12へと該微細接触針14a,14
bの運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される「機構」は,本件
発明の「平行板ばね機構」に対応する「移動機構」である。」と判断した決定に誤
りはない。
 (2) 取消事由2(本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の判断の誤り)
に対して
 ア 移動体に三次元方向の移動を行わせるときに,一次元方向の移動機構を3つ
組み合わせて三次元方向の移動機構とすることは慣用技術であり,例えば,特開昭
62-173185号公報(乙10)の第1ないし3図に記載されたマイクロマニ
ピュレータは,x軸方向に移動する第1の可動部21と,y軸方向に移動する第2
の可動部22と,z軸方向に移動する第3の可動部23とによって,微少針10に
三次元方向の移動を行わせており(4頁右下欄9ないし16行),特開平5-24
0895号公報(乙11)の第1のモジュール8は,xyzの3軸がそれぞれ微動
可能なマイクロマニュビレータ14によって,任意の測定ポイントへ三次元方向の
移動を行わせている(3頁4欄22ないし27行)。
 そして,刊行物1の第1の発明の移動機構も,微動部13を垂直方向及び水平方
向に別々にスライドさせるのであるから,刊行物2の発明の「平行板ばね機構」
を,刊行物1の第1の発明の移動機構にⅩ軸方向,Y軸方向,Z軸方向のそれぞれ
の移動機構として適用し,これにより微動部13に三次元方向の移動を行わせるこ
とは,当業者が何の困難もなくなし得たものである。このことは,特に特開昭62
-173185号公報(乙10)のマイクロマニピュレータが,「平行板ばね機
構」を三次元方向の移動機構として採用している(3頁左下欄8行ないし右下欄最
下行)ことからみても明らかである。
 したがって,刊行物2の発明の「平行板ばね機構」を,刊行物1の第1の発明の
微動部13を粗動部12へと接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するた
めに配置される機構として適用することに何らの困難もない。
 イ 刊行物2(甲4)には,それが特に三次元測定器に限定して使用されるとす
る記載はないのであって,刊行物2の発明は,原告が主張するように,三次元測定
器だけに限定して使用されるものではない。そして,社団法人日本機械学会発行の
「機械工学事典」(甲5)の三次元測定器の項に掲載された図(480頁右欄)に
よれば,三次元測定器において,三次元方向に移動するのはプローブ,すなわち接
触針であって,被検査対象の物体ではない。さらに,この図におけるプローブの移
動機構は,プローブをⅩ軸方向,Y軸方向,Z軸方向に別々にスライドさせるもの
であって,微細接触針を取り付けた微動部13を垂直方向及び水平方向に別々にス
ライドさせる刊行物1の第1の発明の移動機構とは何ら異なるところがないから,
このような「三次元測定器」に使用される刊行物2の発明の移動機構を,これと同
じような構成の刊行物1の第1の発明の移動機構に適用することは,当業者が容易
に行い得たものである。
 なお,刊行物2(甲4)には,「板ばねのたわみを利用した移動機構は従来より
測定器や科学機器の要素として用いられている。・・・板ばねを利用した機構は,
移動距離の短い簡易型の測定機器の構成要素として最適であると思われる。」(9
2頁左欄6ないし17行)と記載されており,「板ばねのたわみを利用した移動機
構」が,測定器や科学機器等の各種分野で,簡易型の測定機器の構成要素として用
い得ることを示唆しているから,このことからみても,刊行物2の発明が,検査の
ための接触針の移動機構を構成要素として有する刊行物1の第1の発明と目的・構
造等において全く異なるとすることはできない。
 ウ そうであれば,本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点に係る決定び
判断に誤りはない。
 (3) 取消事由3(本件発明2ないし11についての認定判断の誤り)に対して
 ア 本件発明2ないし4は,本件発明1の従属項であり,本件発明1の進歩性判
断に誤りがないから,本件発明2ないし4についての判断にも誤りはない。
 イ 本件発明5は,実質的には,本件発明1に構成要件を付加したものであり,
本件発明1の進歩性判断に誤りがないから,本件発明5についての判断に誤りはな
い。そして,本件発明6ないし11は,本件発明5の従属項であり,本件発明5の
進歩性判断に誤りがないから,本件発明6ないし11についての判断にも誤りはな
い。
第4 当裁判所の判断
 1 取消事由2(本件発明1と刊行物1の第1の発明との相違点の判断の誤り)
について
 まず,取消事由2について判断する。
 (1) 決定は,本件発明1と刊行物1の第1の発明とは,「接触針の支持部分を,
装置へと固定された支持部分担持部へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能
に担持するために配置される移動機構」を備える点で一致すると認定した上,「本
件発明で,・・・移動機構は,・・・平行板ばね機構であるのに対し,刊行物1の
第1の発明で,・・・移動機構は,どのような機構であるのか明らかでない点。」
で相違していると認定し,これについて,「刊行物1の第1の発明で,微細接触針
14a,14bを取り付けた微動部13(接触針の支持部分)を,装置へと固定さ
れた粗動部12(支持部分担持部)へと該微細接触針(接触針)の運動方向に沿っ
てスライド可能に担持するために配置される移動機構を,・・・平行板ばね機構と
して構成することは,刊行物1の第1の発明に刊行物2の発明を適用することによ
り当業者が容易に行うことができたものである。」と判断した。
 以上の決定の説示に照らすと,決定は,移動機構の相違に関して,刊行物1の第
1の発明においては,移動機構の構造(微動部13を粗動部12に対してスライド
させるための運動機構及びその取付構造)が明らかでないことを認定し,その移動
機構の構造として,刊行物2の発明の板ばね機構を適用することが当業者に容易に
想到することができたと判断したものであると認められる。
 (2) そこで,刊行物1の第1の発明の移動機構の構造として,刊行物2の発明の
板ばね機構を適用することの容易性について,検討する。
 ア 刊行物1の第1の発明の移動機構の構造について
 刊行物1の第1の発明の粗動部12に対する微動部13の移動機構の構造につい
てみると,刊行物1(甲3)の集積回路検査装置は,決定が認定したとおり,「微
細接触針14a,14bを集積回路9に接触させることによって該集積回路9を検
査するための装置であって,台11上に取り付けられた粗動部12と粗動部12の
上部に取り付けられた微動部13とを有する駆動装置4,5と,微動部13の位置
センサ2側端部に取り付けられた微細接触針14a,14bとを有し・・・,粗動
部12は,ステッピングモータにより台11に対して数十μm単位で垂直方向及び
水平方向に移動(スライド)可能であり,微動部13は,電磁方式により,垂直方
向及び水平方向に1μm単位で移動(スライド)可能であるから,微動部13に取
り付けられた微細接触針14a,14bは,粗動部12の台11に対する粗動によ
って微動部13とともに粗動し,微動部13の粗動部12に対する微動によってさ
らに微動して,微細接触針14a,14bと集積回路9との距離がこれらの移動に
よって調節される」というものと認められる(この認定は,原告も争わない。)。
 上記事実によると,微動部13は,粗動部12に対して,電磁方式により,垂直
方向及び水平方向(すなわち三次元の方向)に移動(スライド)可能であるとされ
ているから,微動部13を,粗動部12に対してスライド可能とする移動機構の構
造(微動部13を粗動部12に対してスライドさせるための運動機構及びその取付
構造)は,三次元方向の移動を可能とするものであることが明らかである。なお,
微細接触針14a,14bは,それぞれ微動部13に絶縁体を介して取り付けられ
ている(固定されている)と認められるから,微動部13内に,微細接触針14
a,14bの三次元方向への移動を可能とする駆動機構が設けられているとは解さ
れず,粗動部12に,微動部13の三次元方向への移動を可能とする駆動機構が設
けられていると解するのが妥当である。
 イ 刊行物2の発明の板ばね機構について
 刊行物2(甲4)には,決定が認定したとおり,「移動上板を,固定された固定
支持具へと該移動上板の運動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置され
る平行板ばね機構であって,該運動方向に離れた,該移動上板の2点に,移動上板
側板ばねBの主表面が互いに平行になるようにかつ該運動方向に対して垂直になる
ようにその一端が取り付けられた一対の移動上板側板ばねBと,該運動方向に離れ
た,該固定支持具の2点に,固定支持具側板ばねAの主表面が互いに平行になるよ
うにかつ該運動方向に対して垂直になるようにかつ該移動上板側板ばねBが伸びる
方向と同方向に伸びるようにその一端が取り付けられた一対の固定支持具側板ばね
Aとを設けるとともに,該一対の移動上板側板ばねBのうち第一の移動上板側板ば
ねBの他端と,該一対の固定側板ばねAのうち第一の固定支持具側板ばねAの他端
とを固定し,そして該一対の移動上板側板ばねBのうち第二の移動上板側板ばねB
の他端と,該一対の固定支持具側板ばねAのうち第二の固定支持具側板ばねAの他
端とを固定した」板ばね機構が記載されていることが認められる。
 そして,刊行物2(甲4)には,「板ばねを利用した機構は,移動距離の短い簡
易型の測定機器の構成要素として最適であると思われる。」(92頁左欄15ない
し17行),「従来型の直動機構では横たわみの増加による縦たわみ量を無視でき
ない。そこでこの縦たわみをキャンセルできる往復ばねを用いた機構を調べてみる
(図2)。この機構は,同形,同質の2枚の板ばねA,Bおよび中間固定部よりな
っている。・・・そこで,この原理を用いた6枚ばねによる〔6L-1〕を試作し
た(図3)。」(93頁左欄10ないし19行)と記載されており,この記載によ
れば,刊行物2の発明の板ばね機構は,移動距離の短い測定機器の構成要素(直動
機構)として使用可能なものであることが理解される。
 ウ 適用の容易性について
 刊行物1の第1の発明の移動機構は,微動部13を粗動部12に対して三次元方
向に移動可能とするものであるのに対し,刊行物2の発明の板バネ機構は,直動機
構であって,一次元の方向にしか移動することができないものである。そして,刊
行物1の第1の発明が,三次元方向に移動可能な微動部13を備えることで,必要
な測定を可能としているものである以上,刊行物1の第1の発明の移動機構の構造
を,一次元の方向にしか移動できない,刊行物2の発明の板バネ機構に置き換える
と,刊行物1の第1の発明の所期の目的が達成されないことは明白である。
 ところで,決定が,「微細接触針を微少移動させるのであるから,刊行物2の発
明における移動上板を刊行物1の発明における微細接触針を取り付けた微動部13
(接触針の支持部分)に対応させ,同じく固定支持具を装置へと固定された粗動部
12(支持部分担持部)に対応させることは当然である」と説示しているように,
本件発明1の構成に至るためには,刊行物2の発明の板ばね機構における移動上板
に,刊行物1の第1の発明の微細接触針14a,14bを固定して取り付ける必要
がある。しかし,刊行物1の第1の発明においては,三次元に移動する微動部13
に微細接触針14a,14bが固定されていて,三次元方向のうちのいずれかの方
向の運動機構に固定されているのではないし,また,刊行物2(甲4)には,「本
研究は高精度微少移動機構として板ばね機構に着目した。板ばねのたわみを利用し
た移動機構は従来より測定器や科学機器の要素として用いられている。・・・板ば
ねを利用した機構は,移動距離の短い簡易型の測定機器の構成要素として最適であ
ると思われる。」(92頁左欄5~17行)と記載されているだけで,板ばね機構
が,具体的にどのような構造のものとされて,測定機器の構成要素に用いられるの
かについては何ら示されていない。そうであれば,刊行物2の発明の移動上板と微
細接触針とを組み合わせて,刊行物1の第1の発明の移動機構の構造に組み込むこ
とは,刊行物1の第1の発明にも,刊行物2の発明にも,示唆されていないのであ
って,当業者が容易に想到することはできないといわなければならない。
 (3) 被告は,移動体に三次元方向の移動を行わせるときに,一次元方向の移動機
構を3つ組み合わせて三次元方向の移動機構とすることは慣用技術であり,刊行物
1の第1の発明の移動機構も,微動部13を垂直方向及び水平方向に別々にスライ
ドさせるのであるから,刊行物2の発明の「平行板ばね機構」を,刊行物1の第1
の発明の移動機構にⅩ軸方向,Y軸方向,Z軸方向のそれぞれの移動機構として適
用し,これにより微動部13に三次元方向の移動を行わせることは,当業者が何の
困難もなくなし得たものであり,このことは,特に特開昭62-173185号公
報(乙10)のマイクロマニピュレータが「平行板ばね機構」を三次元方向の移動
機構として採用していることからみても明らかであると主張する。
 被告の上記主張は,本件発明1の移動機構が,三次元方向に運動するものを排斥
するものではないことを前提に,刊行物1の第1の発明の移動機構において,三次
元方向のいずれの方向の移動も,刊行物2の発明の板ばね機構を用いて行うことは
当業者が容易に想到することができるとの趣旨であると解される。確かに,移動機
構の具体的構造を問わないのであれば,一次元方向の移動機構を3つ組み合わせて
三次元方向の移動機構とすることは,一般的に慣用されている技術であるというこ
とができる。しかし,このような慣用技術があることから,刊行物2の発明の板ば
ね機構を3つ組み合わせることが課題として設定できるものであるとしても,これ
により,三次元方向の移動機構の具体的な構造を実現できるとは限らないし,刊行
物2の発明の板ばね機構を用いた三次元方向の移動機構が慣用ないしは公知である
と認めるに足る証拠もない。そうであれば,刊行物2の発明の「平行板ばね機構」
を,刊行物1の第1の発明の移動機構に適用し,これにより微動部13に三次元方
向の移動を行わせることは,当業者が何の困難もなくなし得たとは認め難い。ま
た,特開昭62-173185号公報(乙10)に示された板ばね機構は,一対の
板ばねの,それぞれの一端を支持部材側に,他端を移動部材側に固定したものであ
って,一対の板ばねのそれぞれの一端を支持部材側に固定し,一対の板ばねに並設
されたもう一対の板ばねのそれぞれの一端を移動部材側に固定し,並設されている
二対の板ばねのうち,対向する二本の板ばねのそれぞれの他端同士を固定した「平
行板ばね機構」ではないのであるから,特開昭62-173185号公報(乙1
0)に,板ばね機構が三次元方向の移動機構として用いることが記載されていると
しても,刊行物2の発明の板ばね機構を用いた三次元方向の移動機構が容易に想到
することができたと認めることはできない。
 被告の上記主張は,採用することができない。
 (4) また,被告は,刊行物2の発明が三次元測定器だけに限定して使用されるも
のではないし,三次元測定器において,三次元方向に移動するのはプローブ,すな
わち接触針であり,その移動機構は,プローブをⅩ軸方向,Y軸方向,Z軸方向に
別々にスライドさせるものであって,微細接触針を取り付けた微動部13を垂直方
向及び水平方向に別々にスライドさせる刊行物1の第1の発明の移動機構とは何ら
異なるところがないから,このような「三次元測定器」に使用される刊行物2の発
明の移動機構を,これと同じような構成の刊行物1の第1の発明の移動機構に適用
することは,当業者が容易に行い得たと主張する。
 しかし,刊行物1の第1の発明の微動部13は,粗動部12に対して垂直方向及
び水平方向(すなわち三次元の方向)に移動することができるものであるが,刊行
物1(甲3)の記載からは,刊行物1の第1の発明の移動機構の具体的な構造が明
らかでなく,また,刊行物2の発明の板ばね機構は,上記(2)イに判示したように,
「移動上板を,固定された固定支持具へと該移動上板の運動方向に沿ってスライド
可能に担持するために配置される」ものであるところ,刊行物2(甲4)に図示さ
れたところからすると,移動上板は,一対の固定支持具の間を往復移動することが
理解できるだけである。そうであれば,仮に刊行物1の第1の発明の移動機構の構
造において,三次元の方向のうち何れかの方向の運動機構として刊行物2の発明の
板ばね機構を採用することを検討しようとしても,刊行物1の第1の発明の移動機
構の構造において,どの方向の運動機構として板ばね機構を用い,また,他の方向
の運動機構に対して,どのように板ばね機構を組み合わせるのかについては,当業
者にとって想起することができないといわなければならない。なお,刊行物2(甲
4)には,「(1) 板バネを用いた直動機構を提案し,10㎜の移動距離に対してサ
ブミクロンの精度を持った実機を製作した。(2) 板バネを用いた回転機構を提案
し,R92の回転半径で6.2°の回転角(円弧長さ6㎜)に対して数μmの回転
半径変動を持った実機を製作した。今後,これらの機構を用いて,回転+直動+直
動,つまり,円筒座標型三次元測定器の移動機構として応用できると思われる。」
(96頁右欄)と記載されていて,平行板ばね機構が,直動,回転機構のみなら
ず,三次元の移動機構として応用できる可能性が示されている。しかし,刊行物2
(甲4)には,具体的な三次元移動機構の構造について,何らの具体的な示唆がな
いのであるから,このような板ばね機構を用いた三次元移動機構を,刊行物1の第
1の発明の微動部の移動機構の構造に置換することができるということはできな
い。
 被告の上記主張も,また,採用することができない。
 (5) したがって,決定の相違点の判断には誤りがあり,本件発明1の進歩性を否
定した決定の判断にも誤りがある。
 2 取消事由3(本件発明2ないし11についての認定,判断の誤り)について
 (1) 本件発明2ないし4は,いずれも本件発明1を引用して記載されているとこ
ろ,上記1に判示したとおり,本件発明1の進歩性を否定した決定の判断は誤りで
あるから,本件発明2ないし4についての判断も誤りである。
 (2) 本件発明5は,「接触針の該支持部分を,該第二部分駆動部によって駆動さ
れる支持部分担持部へと該接触針の運動方向に沿ってスライド可能に担持するため
に配置される平行板ばね機構」を有しており,この平行板ばね機構は,本件発明1
の平行板ばね機構と,「接触針の該支持部分を,支持部分担持部へと該接触針の運
動方向に沿ってスライド可能に担持するために配置される平行板ばね機構」である
点で共通するから,上記1に判示した理由は,本件発明5と刊行物の第2の発明と
の相違点の判断に対しても,あてはまるものである。したがって,本件発明5につ
いての判断は誤りである。
 (3) 本件発明6ないし11は,いずれも本件発明5を引用して記載されていると
ころ,上記(2)に判示したとおり,本件発明5の判断は誤りであるから,本件発明6
ないし11についての判断も誤りである。
第5 結論
 以上のとおりであって,原告主張の決定取消事由2,3は理由があり,かつ,こ
の誤りは決定の結論に影響を及ぼすと認められるから,その余の決定取消事由につ
いて判断するまでもなく,決定は取り消されるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
         裁判長裁判官    塚  原  朋  一
            裁判官     塩  月  秀  平
            裁判官    髙  野  輝  久

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