弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告が,原告に対し,平成14年1月1日から同年12月1日までの平
成14年分の所得税について,平成16年2月19日付けでした更正処分
のうち,分離長期譲渡所得の金額5億6016万9055円及び納付すべ
き税額1億7788万1300円を超える部分並びに過少申告加算税賦課
決定処分を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,被告に対し,処分行政庁である久留米税務署長(以下「処分
行政庁」という。)が平成16年2月19日付けでした原告の平成14年分の所
得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下,併せて「本件処分」と
いう。)には,分離長期譲渡所得のうち3億1916万6095円について,所
得税法64条2項の適用を否定した違法があると主張して,その取消しを求める
事案である。
1前提事実
次の事実は,当事者間に争いがないか,各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣
旨により容易に認められる。
当事者(1)
アA信用組合(以下「A」という。)は,昭和28年に福岡県内に居住す
る在日の朝鮮半島出身者の経営する中小企業の経営安定と生活向上を図る
ために設立された金融機関であって,福岡県内に5支店を開設して,上記
企業に対する金融事業を行っていた。
(甲8)
イ原告の父であるBことC(以下「C」という。)は,在日の朝鮮半島出
身者であって,福岡県久留米市に本店を置き遊技場を営業する株式会社D
(以下「D」という。)の代表者であって,同社は,県内に広くEグルー
プを展開していた。Cは,Aの有力な組合員であって,上得意先であった。
(甲16,18,乙23)
ウFことG(以下「F」という。)は,暴力団H理事長の地位にある暴力
団幹部であったが,在日の朝鮮半島出身者であって,Aの組合員でもあっ
た。
(甲4,8,証人I)
平成元年7月20日の借入れ(2)
アA本店に対し,平成元年7月14日付けで,Cの署名押印のある借入申
込書(ただし,Cが自署したこと及び名下の印影がCの印章によることに
ついては争いがある。(乙4))により,手形割引で運転資金3億円を借
り受けたい旨の借入申込みがされた(以下,これを「本件第一借入れ」と
いう。)。
イAは,同月20日,振出人がJ株式会社(以下「J」という。)であり,
第一裏書人がCである額面1億円の約束手形3通(ただし,Cの自署であ
ることについては争いがある。いずれも振出日が同月14日で,支払期日
が平成2年1月20日,同月25日及び同月31日であった。以下「本件
各手形」という。)を割り引いて,AのC名義の別段預金口座に,割引料
1373万6300円を差し引いた残額2億8626万3700円を入金
し,本件第一借入れを実行した。そして,同日,上記2億8626万37
00円は,上記別段預金から出金されAのJの普通預金口座に入金され,
その後出金された。
(甲2,乙5の1ないし4,6の1ないし3)
ウ本件各手形は,上記各支払期日に支払われず,平成5年12月までの間,
支払期日のたびに手形の書換えがなされ,その都度,割引料が,F,K
(Fの実兄)及びJのAの預金口座等から支払われた。
(甲2,証人I)
平成5年12月7日の借入れ(3)
アCは,平成5年12月1日,Aに対し,自らを債務者とし,長男である
原告を連帯保証人とし,支払期日を平成7年12月1日として,手形貸付
による運転資金3億円の借入れを申し込んだ(以下,これを「本件第二借
入れ」という。)。
(甲16,乙7)
イ本件第二借入れは,同月7日,手形貸付けにより実行されて,AのC名
義の別段預金口座に3億円が入金され,同日,Aに対し,約定利息209
万5890円が支払われた。本件第二借入れの実行後,上記ウのとお(2)
り書き換えられていた手形(以下,これらを「旧手形」という。)が回収
された。
(甲2)
ウCは,同日付けでAとの間で,本件第二借入れに関し,自らを債務者と
し,Dの子会社であるL株式会社(代表者は原告であって,Cも取締役で
あった。以下「L」という。)及び原告を連帯保証人とする信用組合取引
約定を締結した。そして,L及び原告は,Aに対し,上記信用組合取引約
定に係るCの債務を連帯保証(包括根保証)する旨の同日付け保証約定書
を,Fは,Aに対し,本件第二借入れを被保証債務とする保証約定書を,
それぞれ差し入れた。
さらに,本件第二借入れの実行に当たっては,Aから不動産担保の提供
が求められたため,L所有の北九州市α所在の土地に設定されていた,債
権者をAとする極度額1億円の根抵当権について,実行日の前日である同
月6日付けで債務者をLからCに変更する旨の登記手続を行い,担保に供
した。
(甲16,乙8ないし15)
借入金の弁済(4)
ア平成11年5月4日,Aの金融破綻が公表され,平成12年12月16
日には,金融機能の再生のための緊急措置に関する法律による金融整理管
財人が選任された。
(甲8)
イCは,平成13年3月9日,Aの金融整理管財人との間で,借入金元金
3億円と遅延日より年1.625パーセントの割合による利息を支払うこ
と,これによりC,L及び原告との間で平成元年7月20日付け3億円の
金銭消費貸借契約に関して何ら債務がないことを確認することを主な内容
とする合意書(以下「本件合意書」という。)を作成した。
(甲16,乙16)
ウ他方,Cは,平成13年3月9日,Dから3億2000万円の支払を受
け(経理処理上は借入れとされている。以下,これを「本件第三借入れ」
という。),これによりAに対し借入金3億円に書換利息486万164
3円及び期後利息1430万4452円を加えた合計3億1916万60
95円を支払った(以下,これを「本件弁済」という。)。
(甲16,乙17ないし20)
Cの死亡と原告の土地譲渡(5)
アCは,平成▲年▲月▲日に死亡した。
イ原告を含むCの相続人は,平成14年3月24日,遺産分割協議により,
原告が,福岡市β×××の土地(以下「本件土地」という。)等を相続し,
併せて本件第三借入れを含むCのDからの借入金債務合計24億8891
万5000円を相続することを合意した。
ウ原告は,同年10月31日,Dとの間で,原告所有の本件土地を11億
1561万1000円で譲渡する旨の売買契約を締結した(以下,これを
「本件譲渡」という。)。本件譲渡に係る原告のDに対する代金債権は,
原告が相続した本件第三借入れに基づく3億2000万円及び原告の同社
に対するほかの債務7億9561万1000円の合計額11億1561万
1000円と相殺することにより清算した。
(甲13,15,16,乙24ないし26)
Fに対する求償金請求訴訟(6)
これより先,原告を含むCの相続人ら5名は,平成13年9月28日,福
岡地方裁判所に対し,Fを被告として求償金合計2億9999万9997円
及び遅延損害金の支払を求める訴訟(平成▲年ワ第▲号。以下「別件求償()
金請求訴訟」という。)を提起した。
同裁判所は,同年12月7日,上記事件について,Fに対し上記請求どお
りの支払を命じる判決を言い渡し,同判決は平成14年1月7日までに確定
したが,その後もFは上記求償金を支払わない。
(甲1の1・2,17,18,乙23)
所得税法における保証債務の特例に関する規定(7)
ア資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算について,所得税
法64条1項は,「その年分の各種所得の金額(かっこ内省略)の計算の
基礎となる収入金額若しくは総収入金額(かっこ内省略)の全部若しくは
一部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由に
より当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこ
ととなつた場合には,政令で定めるところにより,当該各種所得の金額の
うち,その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこと
となつた金額に対応する部分の金額は,当該各種所得の金額の計算上,な
かつたものとみなす。」と特例を定めている。
イそして,同条2項は,「保証債務を履行するため資産(かっこ内省略)
の譲渡(かっこ内省略)があつた場合において,その履行に伴う求償権の
全部又は一部を行使することができないこととなつたときは,その行使す
ることができないこととなつた金額(かっこ内省略)を前項に規定する回
収することができないこととなつた金額とみなして,同項の規定を適用す
る。」と規定している(以下,同項に規定する保証債務の特例を「本件特
例」という。)。
本件課税及び不服申立ての経緯(8)
ア原告は,平成14年1月1日から同年12月1日までの平成14年分の
所得税について,法定申告期限までに,分離長期譲渡所得の金額及び申告
納税額につき本件特例を適用し,本件弁済分(3億1916万6095
円)については収入がなかったものとして,下記のとおり確定申告をした
(乙1,2)。

総所得金額7億8569万0900円
分離長期譲渡所得の金額7億3966万4355円
株式等の譲渡等の所得金額4477万8020円
申告納税額2億1378万0300円
イ原告は,平成15年6月17日,上記申告のうち分離長期譲渡所得の金
額及び申告納税額について,本件弁済分以外の理由により所得税額を減額
すべきであるとして,下記のとおり更正の請求をした。

総所得金額7億8569万0900円
分離長期譲渡所得の金額5億6016万9055円
株式等の譲渡等の所得金額4477万8020円
申告納税額1億7788万1300円
ウ処分行政庁は,上記請求を認め,平成15年7月1日付けで上記請求の
とおりの更正処分をした。
しかしながら,その後,処分行政庁は,平成16年2月19日付けで,
分離長期譲渡所得のうち本件弁済分(3億1916万6095円)につい
て本件特例の適用を否定し,下記のとおり更正処分及び過少申告加算税の
賦課決定処分(本件処分)をした(乙3)。

総所得金額7億8569万0900円
分離長期譲渡所得の金額8億7933万5150円
株式等の譲渡等の所得金額4477万8020円
申告納税額2億4171万4500円
過少申告加算税の額638万3000円
エ原告は,本件処分を不服として,平成16年3月22日,福岡国税局長
に対して異議申立てをしたが,福岡国税局長は,同年6月4日,上記異議
申立てを棄却するとの決定をした。
オ原告は,上記決定を不服として,同年7月7日,国税不服審判所長に対
して審査請求をしたが,国税不服審判所長は,平成17年6月22日付け
で上記審査請求を棄却するとの裁決をした(甲3)。
そこで,原告は,同年12月21日,本件訴えを提起した。
2争点
本件の争点は,分離長期譲渡所得のうち本件弁済分である3億1916万6
095円につき,本件特例の適用があるか否かである。
保証債務の有無について(1)
(原告の主張)
ア本件特例が規定されたのは,担税力に応じた課税をすべきであり,保証
による求償権が行使できないときは,これを資産譲渡の利益から控除する
のが合理的であるためである。したがって,本件特例の要件である「債権
者に対して債務者の債務を保証すること」には,契約書等で保証人と表示
されている場合のみならず,実質的に保証人である場合を含むというべき
である。
イ本件第一借入れ
本件第一借入れにおいては,形式的な借入申込書等の記載にかかわらず,
債権者であるAとC及びFとの間では,主債務者はFであり,CはFの連
帯保証人であると合意していた。Cは,Aの担当者に連帯保証をする意思
であることを表示しており,実質的にもCは上記借入金を管理したり利用
したりしたことはなく,何ら利益や利得を受けていなかった。また,Fも,
Cが連帯保証人であることを認めていた。さらに,Aもこれを了解して,
上記借入金を実質的にFに直接振り込んだり,Fやその関係者から割引料
や利息の支払を受けるなど,Fを債務者として事務処理を行っていた。し
たがって,Cは,本件第一借入れの連帯保証人の地位にあった。
これに対し,被告は,本件各手形や借入申込書にはCが債務者として記
載されていた上,仮にCが保証する意思であったとしても,内心の意思に
すぎないから,本件特例の適用はない旨主張する。しかし,本件特例の解
釈に当たっては,租税法の実質主義の観点からも,形式的な契約書等の記
載ではなく,実質的に判断すべきである。また,Cが実質的に連帯保証人
であることは,Aを含む当事者全員の間で合意されていたのであるから,
単なるCの内心の意思の問題ではない。したがって,被告の上記主張は理
由がない。
ウ本件第二借入れ
本件第二借入れは,本件第一借入れと連続した一体的なものであって,
従前の借入れを継続したものにすぎない。本件第二借入れに関して契約書
等が作成されたのは,Aが福岡県の検査の際に手形書換えを続けていたこ
とが発覚して,検査が通らないことを恐れ,Cに対し契約書等の作成を要
請したことから,検査用に契約書作成の形を取ったにすぎず,当事者の地
位や内容を変更させるものではなく,借入れの一体性を切断するものでも
ない。このことは,本件合意書において,AとCが,本件第一借入れの保
証債務の履行として本件弁済がされたことを合意していることからも明ら
かである。
エ本件第三借入れ
保証債務の履行を借入金で行い,その借入金を返済するために資産が譲
渡された場合も,当該資産の譲渡が実質的に保証債務を履行するためのも
のであるときは,本件特例の適用があると解すべきである。
しかして,Cは,Dから本件弁済資金を借り受け(本件第三借入れ),
その後,Cの上記借入金債務等を相続した原告が,実質的に保証債務を履
行するために本件不動産を同社に譲渡し,その代金と上記借入金債務とを
相殺して清算したのであるから,本件特例の適用がある。
(被告の主張)
ア一般に,例外規定である課税減免要件規定や非課税要件規定については,
厳格に解釈すべきであるところ,本件特例は,課税減免要件規定であるか
ら,その要件である「保証債務」の解釈適用に当たっても,法的に保証債
務又はこれに準ずる債務ないし責任の履行と評価できるか否かとの観点か
ら厳格に解釈適用すべきであり,単に納税義務者が経済的利益をあげず,
保証する内心の意思で当該行為を行っただけでは足りないというべきであ
る。
そして,本件特例は,保証債務を履行するために資産の譲渡があったこ
とが要件となるところ,本件譲渡は,直接には本件第三借入れの履行とし
て行われたものであり,本件第三借入れは,C自身が借り入れたC自身の
債務であるから,保証債務でないことは明らかである。
イまた,本件第三借入れをするに至った経緯として,本件第一借入れ及び
本件第二借入れがあったが,いずれの借入れも,借入申込書の債務者名は
Cであった上,借入金は,C名の別段預金口座に入金がなされ,同人名で
割引料や約定利息が支払われている。また,本件第二借入れについては,
Cを主債務者として保証や担保権の設定がなされており,手形割引料等の
支払もC名で行われているのであるから,形式的にも実質的にもCを主債
務者とする債務である。
ウ原告は,本件第一借入れ及び本件第二借入れの主債務者はFであって,
Cは連帯保証人である旨主張するが,これを理由づける証拠はない。確か
に本件第一借入れによる貸付金は,C名義の別段預金口座に入金された後,
Jの普通預金口座に振り込まれているが,これはCがJに貸し付けたとみ
るのが自然である。
エそうすると,Cは,本件各借入れの債務者であって,保証人ではなかっ
たから,本件特例の要件を欠くというべきである。
求償権の行使不能(2)
(原告の主張)
ア本件特例が適用されるためには,「保証債務の履行に伴う求償権の全部
又は一部を行使することができなくなったこと」が要件であるところ,C
及び原告の職業及び立場,Fの地位並びに不動産登記簿で示されるFの資
産状況等からすれば,Fに資力がなく求償権の行使が不可能であったこと
は明らかである。
原告らは,求償権の行使のため,最強の手段である求償権請求訴訟を提
起したのであるから,原告において求償権の行使をしたことは明らかであ
る。これに対し,Fは,バブル経済崩壊により大きな痛手を受け,借入金
返済能力を失っており,上記訴訟において「金がないため支払えない。」
と述べているほどであって,資力がないことを自認している。
また,Aの資料からも,当初はFが割引料や利息をC名義の別段預金口
座に入金して割引料等を支払っていたが,平成4年以降はAがFの関連会
社であるMや実兄Kらに対し,手形貸付けをして,それを振り替えること
でどうにか利息等の処理を続けており,さらに,平成9年3月を最後にそ
の後は利息すら支払わない状況が4年間もの長期間続いたことが認められ
る。これはAのシステムからしても異常だったものであるが,Aも同人の
無資力が明らかであったため,同人に対して請求すらしていないのである。
したがって,本件弁済当時,Fに資力があるはずはない。
イ被告は,求償権を行使しても回収の見込みがないことが立証されていな
い旨主張する。しかしながら,本件特例の適用に当たって,催告や法的権
利行使などは要求されておらず,「回収の見込みがないこと」は,債務者
側の事情のみならず,債権者側の事情のほか,経済的環境などの事情など
極めて広範な要素を勘案して,社会通念に従って総合的に判断すべきであ
るから,原告が明らかにした上記事情に照らせば,Fに対する求償権の行
使が不可能であって,回収の見込みがなかったことは明らかである。
(被告の主張)
ア本件特例の「求償権の全部又は一部を行使することができなくなったと
き」とは,求償権の相手方たる債務者について,破産宣告を受けるか,失
踪又は事業閉鎖等の事実が発生したり,このような事態にまでは至らない
としても,債務超過の状態が相当期間継続し,金融機関や大口債権者の協
力を得られないため事業再建の見通しもないこと,その他これらに準ずる
事情があるため,求償権を行使しても回収の見込みがないことが客観的に
確実となった場合をいい,これは,求償権の相手方たる債務者の資産や営
業の状況,他の債権者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観的に
判断すべきものである。そして,本件特例は,求償不能という異例の事態
について租税政策上の見地から特に課税上の救済を図った例外的規定であ
るから,同条項の適用を基礎付ける事実の主張立証責任は納税者にあると
いうべきである。
イ仮に,本件第一借入れを基準とし,Fを主債務者,Cを保証人と考えた
場合であっても,本件では,次のとおりFに対する求償権の行使自体がで
きない,又は,求償権を行使しても回収の見込みがないことが客観的に確
実となったとはいえない。
すなわち,原告は,Fが暴力団幹部であったことや資産状況等から求償
権の行使は不可能であった旨主張するが,Fが暴力団幹部であったことは
求償権行使の上で心理的な抵抗とはなり得ても,これをもって上記のよう
な「求償権を行使しても回収の見込みがないことが客観的に確実となった
場合」には当たらない。また,Fは,平成13年3月9日の本件弁済当時,
不動産を所有していたし,原告も同人が不動産業を営み,Mという関連会
社を有していたことを認識していたのであるから,これらに関する調査を
行わないまま,求償権を行使しても回収の見込みがないと判断することは
できない。原告は,Nが平成16年9月9日付けで作成した資産調査の報
告書を根拠にFに差押え可能な資産がなかった旨主張するが,上記資産調
査は極めて不十分といわざるを得ない。
さらに,平成13年3月9日の本件弁済の後になって,原告を含むCの
相続人らは,Fに対し別件求償権請求訴訟を提起したのであるから,原告
は,同時点においてFに対する求償権の行使が不可能とは考えていなかっ
たものと解される。また,原告は,上記訴訟において仮執行宣言付きの認
容判決を得ながら,同判決に基づき強制執行を行っていないから,原告に
おいて求償権の行使の意思があったかどうかも疑問である。
ウ以上のとおり,原告において,本件特例の適用を主張するのであれば,
Fが客観的に求償権の行使不能と認められる事実,保証債務の履行に伴う
経済的負担を回復するために法律上付与された権利のいずれもが実効性を
有しない事実を主張立証すべきであるが,上記主張立証がされていないか
ら,本件特例は適用できない。
第3当裁判所の判断
1争点のア,イ(Cが実質的に本件第一借入れの保証人か否か)について(1)
前記前提事実に,主に各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれ(1)
ば,本件第一借入れの経緯等について,次の事実が認められる。
ア暴力団幹部でH理事長であったFは,平成元年ころの不動産バブル期に,
舎弟のJ代表者O(同社は,Fのいわゆるフロント企業であった。)とと
もにいわゆる「地上げ」を行っていたが,Oから熊本県内の地上げのため
に3億円の資金が必要である旨要請された。そこで,Fは,組合員として
Aに対し融資を申し込んだが,Aにおける同人の融資枠を超過するため,
融資申入れを断られた。Fは,融資を得るため,Aの組合員で古くからの
知り合いであったCに対し,「保証人と考えてもらえれば良いので,名義
を貸してほしい。こちらで返済するので迷惑をかけない。」などと述べて
形式上債務者となってAから融資を受けることを依頼したところ,Cは,
Fの立場を考えて断りきれずに,これを引き受けた。
(甲1の1,10,17,18,乙6,23)
イそこで,前記第2,1ア,イ記載のとおり,平成元年7月4日付け(2)
借入申込書がAに提出されて3億円の借入申込みがなされ,融資実行の際
に,実行金額から割引料1373万6300円(貸出利率年9.50%)
を控除した残額2億8626万3700円がC名義の別段預金口座に入金
され,その後直ちにJの普通預金口座に上記2億8626万3700円が
振り替えられ,その後すべてJないしFの資金使途に充てられた。ところ
で,別段預金は,預金通帳は作成されず,預金利息も付かない預金口座で
あって,通常,金融機関の一時預かりのために使用されており,Aにおい
ても,融資実行の際に借主の普通預金口座ではなく別段預金口座に入金す
ることは珍しいことであった。
(甲10,17,乙4,5の1ないし4,証人I)
ウ本件各手形は,Jが振り出したものをFがCのもとに持参して裏書して
もらい,これを本件第一借入れの際に,Aに交付した。その後,本件各手
形は,満期日である平成2年1月下旬に決済されず,その後平成5年9月
まで長期間にわたって次のとおり16回にわたって割引料(利息)が支払
われて手形書換えが繰り返されたが,Aにおいても金額が3億円と多額で
あり,期間も長期間にわたっており,異例の措置であった。
(甲2,18,乙6の1ないし3,証人I)
①平成2年1月19日,不足金(割引料相当額)761万9178円が
現金で割引手形勘定に入金されて,本件各手形(旧手形)が回収された
が,戻し利息はJの普通預金に入金処理された。
②同年5月1日,不足金(割引料相当額)710万7945円が現金で
割引手形勘定に入金された後,旧手形が回収された。
③同年7月31日,不足金(割引料相当額)718万5204円がF名
義の普通預金に現金で入金された後,振り替えられて旧手形が回収され
た。
④同年11月1日,不足金(割引料相当額)793万9726円が現金
で割引手形勘定に入金された後,旧手形が回収された。なお,これ以後,
書換手形は一通(額面3億円)となった。
⑤平成3年2月1日,不足金(割引料相当額)768万0821円がF
名義の普通預金から現金で出金され,旧手形が回収された。
⑥同年4月30日,C名義の普通預金に277万円が入金された後,不
足金(割引料相当額)276万1643円が実行額と合算され,旧手形
が回収された。
⑦同年5月31日,C名義の別段預金に600万円が入金された後に,
不足金(割引料相当額)535万0684円が実行額と合算されて旧手
形が回収され,過剰金はJの普通預金に入金処理された。
⑧同年7月31日,C名義の別段預金に300万5000円が入金され
た後に,不足金(割引料相当額)300万4109円が実行額と合算さ
れて旧手形が回収され,過剰金はC名義の別段預金に振替処理された。
⑨同年9月2日,J名義の別段預金に283万円が入金された後に,不
足金(割引料相当額)265万0684円が実行額と合算されて旧手形
が回収され,過剰金はJ名義の普通預金に振替処理された。
⑩同年10月1日,不足金(割引料相当額)271万2328円がC名
義の別段預金に現金で入金された後に,旧手形が回収された。
⑪同年11月1日,不足金(割引料相当額)298万3561円がC名
義の別段預金に現金で入金された後に,旧手形が回収された。
⑫同年12月4日,不足金(割引料相当額)207万9452円がC名
義の別段預金に現金で入金された後に,旧手形が回収された。なお,同
日,Jの普通預金口座より多額の現金出金がある。
⑬平成4年3月31日,M名義で手形貸付け7400万円を実行し,利
息金を除いて別段預金に入金し,その中から不足金(割引料相当額25
3万1506円及び期日経過利息876万9863円)をC名義の別段
預金に現金で入金した後,旧手形を回収した(なお,旧手形の満期日は
平成3年12月25日であった。)。そして,上記M名義の別段預金の
残余分もF関連の借入利息及び弁済に振り分けられた。
⑭平成4年9月3日,Fの実兄であるK名義で手形貸付け8500万円
を実行し,利息金を除いて同人名義の普通預金に入金し,その中から不
足金(割引料相当額202万6026円及び期日経過利息1166万3
013円)をC名義で別段預金に現金で入金した後,旧手形を回収した
(なお,旧手形の満期日は同年4月27日であった。)。そして,上記
K名義の普通預金の残余分約7000万円は,F関連の借入利息及び弁
済に充てるために管理されていた。
⑮平成5年3月29日,K名義で手形貸付け6800万円を実行し,利
息金等を除いて同人名義の普通預金に入金し,その中から不足金(割引
料相当額27万9450円及び期日経過利息1250万5479円)を
C名義で別段預金に現金で入金した後,旧手形を回収した(なお,旧手
形の満期日は平成4年10月1日であった。)。そして,上記K名義の
普通預金の残余分約5280万円は,F関連の借入利息及び弁済に充て
るために管理されていた。
⑯平成5年9月29日,K名義で手形貸付け1億7600万円を実行し,
利息金を除いて同人名義の普通預金に入金し,その中から不足金(割引
料相当額691万6437円及び期日経過利息1264万5204円)
をC名義で別段預金に現金で入金した後,旧手形を回収した(なお,旧
手形の満期日は同年4月1日であった。)。そして,上記K名義の普通
預金の残余分約1億5635万円は,F関連の借入利息及び弁済に充て
るために管理されていた。
エ上記のとおり手形書換え手続は,平成2年1月から平成5年9月まで繰
り返され,その際のAのC名義の別段預金等における入金,出金及び振替
え等の手続はC名義でなされたが,すべてA担当者が処理しており,Cは
全く関与していなかった。また,その間,AがCに対し,上記割引手形の
支払を求めたことは一度もなかった。
(甲2,16,乙36)
オFは,別件求償金請求訴訟において,同人がAからの本件第一借入れの
真実の借受人であることを認め,上記借入金をすべて同人ないしJにおい
て使用したことやこれをAも承知していたことを認めている。なお,前記
第2,1記載のとおり,約3億円の求償金の支払を命じる判決が確定(6)
しているが,Fはこれを支払っていない。
(甲1の1・2,17,18,乙23)
上記認定事実によれば,Cは,Fから融資枠の関係で主債務者としてA(2)
から3億円の融資を得ることができないので,債務者として名義を貸してほ
しいと依頼されたことから,これを承諾して実質的に連帯保証人となる趣旨
で形式的に債務者となったものであるところ,当時Cは,Aの有力組合員で
上得意先であったから,仮にCが債務者であれば,同人が約束手形を振り出
せば足りるはずであるのに,振出人がJで,第一裏書人がCである本件各手
形が用いられていること,Aは,貸付金を異例にも一時預かりのために使わ
れる別段預金口座に入金し,その後直ちにJの普通預金口座に出金し,Cは
何ら利得を得ていないこと,本件各手形は,金額が3億円と巨額であるにも
かかわらず,手形の書換えが16回も繰り返されて返済を長期間猶予するな
ど,Aとしても異例の処理がなされ,しかも,仮にCが債務者であれば,同
人から容易に取立てが可能であるにもかかわらず,Cに対し返済を求めたこ
とがないこと,本件第一借入れの手形書換えのための割引料相当額は,C名
義の別段預金に入金された資金等が充てられたが,その原資は,いずれもF
側が支払ったこと(当初はFが支払った現金や同人名義の普通預金口座から
の振替金であり,平成4年3月以降は,AがFの関連会社や実兄Kに対して
実行した多額の手形貸付金からの入金であった。),上記書換手続(別段預
金の処理等)は,Aの担当者が行っており,Cはこれに何ら関与していない
こと及びFも本件第一借入れの真実の主債務者は自分であり,Cは保証人で
あり,Aもこれを承知していたと認めていることなどの事実に照らせば,A
も,本件第一借入れの真実の主債務者はFであり,Cは連帯保証人であるこ
とを十分認識し,これを了解した上で本件第一借入れを実行したというべき
である。
そうすると,CとFのみならず債権者であるAも,形式上の記載とは異な
り,本件第一借入れの真実の主債務者はFであり,CはFの連帯保証人と合
意していたというべきである。
この点,Nは,Aの当時の担当者から「本件第一借入れの前に,Cの事務
所において,Aの当時の代表者であったP理事長,C及びFの代理人とが面
談した際に,F側から形式上Cが借受人となるが,実際にはFが債務者であ
り,Cは連帯保証人となるとの提案がされた。P理事長は,いったんこれを
拒絶したが,結局一回限りということで上記迂回融資を承諾して本件第一借
入れが実行された。本件第一借入れは,通常のCに対する貸付けと区別する
ため,Aγ支店で取り扱わずに本店で取り扱われた。」旨聴取した旨陳述し
ている(甲10)。上記陳述は,Nが聴取したとされる「Aの当時の担当
者」の氏名も明らかにされていないから,その信用性は,十分吟味しなけれ
ばならないが,上記認定説示のAの本件第一借入れの実行方法が不自然であ
ること,借入金がFのためのみに使用され,Cはこれにより何ら利益を得て
いないこと,割引料相当額(利息)の支払をF側のみが行っていたこと及び
Aが,利息支払のために1億円を超える巨額の手形貸付けを実行して手形書
換えを繰り返すという異例の措置を講じて支払を猶予しながら,Cには請求
していなかったことなどに照らせば,Nの上記聴取内容は,信用性が高いと
いうべきであり,これも上記認定を裏付けるものということができる。
これに対し,被告は,Cが本件第一借入れを申し込むとともに,本件各(3)
手形に第一裏書人として裏書し,同人名義の別段預金口座に融資金が入金さ
れたのであるから,債務者はCである旨主張する。
しかしながら,本件第一借入れの申込書(乙4)のCの署名は,同人の自
筆とは認め難い上(甲16によれば,Cは,在日の朝鮮半島出身者で漢字を
解せずに自分で署名することができず,普段は,秘書役でDの専務取締役で
あったNが代わって署名していたことが認められる。),名下に押印された
印影も,実印ではなく,同人が通常使用している印章によって顕出されたも
のとは認め難く,他人(Aの担当者等)によって作成されたものと推認され
るから,借入申込書の存在を重視することはできない。また,別段預金は,
Aの一時預かり用の口座であって,A内部の振替手続によって入金・出金が
可能な口座であるから,これに融資実行金が入金されたことをもって,Cが
債務者であることを裏付けるに足りる事実ということもできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
2争点のウ(Cが実質的に本件第二借入れの保証人か否か)について(1)
前記認定事実に,主に各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,(1)
本件第二借入れの経緯等について,次の事実が認められる。
アFらは,バブル経済の崩壊によって本件融資の返済ができないまま,前
記のとおり手形の不足金(割引料相当額)を支払うことによって手形書換
えを繰り返していたが,平成5年11月ころ,Aは,監督官庁である福岡
県の検査の際に,金銭消費貸借に関する契約書類もないままに,手形書換
えを繰り返して3億円もの巨額の融資を続けていることなどが発覚すれば
検査に通らないと恐れ,Cに対し契約書類を作成してもらいたいと要請し
た。
(甲2,16)
イDの取締役であった原告(Cの長男)及びNは,それまでCが形式上の
債務者となって実質的に連帯保証人となっている本件第一借入れが存在す
ることを知らされていなかったが,Aから上記申入れを受けたことから本
件第一借入れの存在を知った。
Cは,Aとの関係から,契約書類を作成してもこれまでと異ならないと
考えて,上記申入れを承諾することとし,原告やNに対して「保証してい
るだけであり,FやA幹部が迷惑はかけないと言っているから安心し
ろ。」等と述べて,Nに指示して,同年12月1日付けで返済期限を平成
7年12月1日として手形貸付けにより3億円の借入申込書を作成して提
出した。
(甲16,乙7)
ウそして,前記第2,1ウ記載のとおり平成5年12月7日付けで主(3)
債務者をCとし,連帯保証人をL及び原告とする信用組合取引約定書が差
し入れられたほか,L及び原告の保証約定書(包括根保証)及びFの上記
手形貸付(3億円)について特定債務保証する旨の保証約定書が作成され,
L所有不動産が担保に供された。
(乙10ないし15)
エAは,手形貸付け3億円を実行し,利息等209万5890円を控除し
た実行金額が,C名義の別段預金口座に入金され,上記不足金がC名義で
別段預金に入金された後に,前記1ウ⑯記載のとおり平成5年9月2(1)
9日に書き換えられた第一借入れの旧手形が回収された。
(甲2,乙8,9)
オその後,上記貸付金については,次のとおり利息が支払われた。
(甲2)
①平成6年3月31日,AによりK名義で手形貸付け3000万円が実
行され,利息金を除いて同人名義の普通預金に入金された。そして,関
連の貸付金利息を合算して現金で出金され,貸付利息517万8082
円に充てられた。
②同年7月27日,AによりK名義で手形貸付け1億6000万円が実
行され,利息金等を除いて同人名義の普通預金に入金された。そして,
関連の貸付金利息を合算して現金で出金され,貸付利息752万054
7円に充てられた。
③平成7年2月6日,AによりK名義で手形貸付け8600万円が実行
され,利息金等を除いて同人名義の普通預金に入金された。そして,関
連の貸付金利息を合算して現金で出金され,貸付利息752万0547
円に充てられた。
④同年4月28日,AによりK名義で手形貸付け8000万円が実行さ
れ,利息金を除いて同人名義の普通預金に入金された。そして,関連の
貸付金利息を合算して現金で出金され,貸付利息747万9452円に
充てられた。
⑤同年11月7日,AによりK名義で手形貸付け7000万円が実行さ
れ,利息金を除いて同人名義の普通預金に入金された。そして,関連の
貸付金利息を合算して現金で出金され,貸付利息586万6027円に
充てられた。
⑥平成8年9月2日,F名義の普通預金口座から関連の貸付金利息を合
算して現金で出金され,貸付利息583万3972円に充てられた。
⑦平成9年3月27日,AによりQ名義で手形貸付け6300万円が実
行され,利息金等を除いてK名義の普通預金に入金された。そして,関
連の貸付金利息を合算して現金で出金され,貸付利息583万3972
円に充てられた。
そして,その後は,上記貸付けに関して元金はもちろん利息の支払もな
されないまま推移していたが,その間,Cは,Aから書面等により返済を
求められたことはなかった。
(証人I)
カところで,Aは,バブル経済期に,資金提供等の業容拡大を図っていた
が,バブル経済の崩壊以降景気の長期低迷等によって,主要な取引業態で
ある遊技場及び不動産業を中心に経営が悪化する取引先が続出し,貸出先
の不良債権化が進んだ。また,内部牽制機能が形骸化していたため,同一
人に対する信用限度額を大幅に超える貸出しが行われた結果,特に大口の
貸出しが不良債権化したこと,融資審査内容に不明,不十分な点が見られ
たこと,貸出金の回収,管理が十分ではなかったこと,優良取引先の確保
の努力が見られなかったこと及び資産運用面で効果的な経営施策が実現で
きなかったことなどが主な原因となって,平成11年3月決算期に約92
億円という大幅な債務超過に陥った。そこで,Aは,自主再建を断念し,
R信用組合への事業譲渡の方針を決定し,同年5月14日に金融破綻を公
表するに至った。
その後,平成12年12月16日,金融再生委員会から金融整理管財人
により業務及び財産の管理を命じる処分を受け,金融整理管財人2名が,
管理を受ける状況に至った経緯等につき調査をするとともに,貸付金の回
収や不良債権の区分作業を進め,不良債権については株式会社S(以下
「S」という。)に譲渡し,正常債権については救済金融機関であるR信
用組合へ事業譲渡することにより破綻処理がされることとされた。なお,
その後,平成13年6月の金融整理管財人の報告時点における正常債権は
約286億円(全体の22.3パーセント)にすぎず,破産更生債権等が
約673億円(全体の52,4パーセント),危険債権が約227億円
(全体の17.5パーセント),要管理債権が約100億円(全体の7.
8パーセント)であった。
(甲8,9)
キAが破綻して金融整理管財人の管理の下に置かれたころ,A本部管理部
のI副部長(以下「I副部長」という。)は,従前の経緯が分からないま
ま,手形貸付けの債務者とされていたCに対し,本件第二借入れ3億円の
支払を請求したところ,Cは,実際に借り入れておらず,連帯保証人であ
って,真実の借受人(主債務者)はFであるから,同人から先に取り立て
てほしいと述べて支払を拒絶した。そこで,I副部長は,本件第一借入れ
と本件第二借入れについて貸付けや割引(利息支払)に関する会計帳簿を
調査して「割引手形および手形貸付移動状況表」(甲2)を作成した(な
お,上記一覧表は,上記各借入れを通じて一連の記載がされている。)。
その結果,上記貸付金は,Fのために使用されて,同人らから割引料や利
息が支払われていること,Cは何ら利得を得ておらず,割引料等の支払に
も関与していないことが判明した。
しかしながら,I副部長は,不良債権処理を迫られていたため,Cに対
し,仮に上記借入金3億円を支払わなければ,債務者とされているC及び
連帯保証人である原告とLはもとより,Lの親会社であるDも不良債権先
に区分されて,管理がSに移管される旨告げて早急に支払うように求めた。
Cは,これに応じなければ,不良債権先とされてSへ債権譲渡され,そう
なれば,D等の事業経営が困難となると懸念して,連帯保証人として返済
することを明らかにした上で,これを弁済することとした。
そこで,Cは,Aに対し,連帯保証人としての支払であることを確認す
る書面の作成を要請したところ,Aは,上記調査結果に基づき,同人が連
帯保証人であったことを認めて,連帯保証債務の履行として支払を受ける
こととし,双方で協議して本件合意書を作成した。その内容は,大要,前
文に,「A(乙)を貸主,C(甲)を借主とした平成元年7月20日付け
3億円の金銭消費貸借契約について,甲から上記金銭消費貸借契約はFの
申出による形式上甲名義を借主とするいわゆる名義借融資を甲乙ともに承
諾したものであるとの主張がなされ,調査の上甲乙協議した結果,次のと
おり合意が成立した。」と記載した上で,甲が入金元金3億円と遅延日よ
り年1.625パーセントの割合による利息の支払義務を認めるとともに,
乙がその余の支払義務(残利息)を免除し,連帯保証人を含めて債権債務
のないことを確認するものであった。そして,Cは,前記第2,1ウ(4)
記載のとおり,Aに対し,平成13年3月9日に借入金元金3億円及び年
1.625パーセントの割合による延滞利息合計3億1916万6095
円を支払った(本件弁済)。
(甲2,16,乙16ないし20,証人I)
上記認定事実,とりわけ,本件第二借入れは,Aが福岡県の検査を受け(2)
る際に,契約書等もないまま3億円という巨額の融資を行い,約束手形の書
換えにより長期間支払を猶予しているという異常な状態が発覚しないように
するため,Cに対し契約書等の作成を要請したことからなされたものである
こと,本件第二借入れも,本件第一借入れと同額の融資額であって,書換手
形(旧手形)の回収に充てられたものであり,実質的には手形の書換えと同
じであること,本件第二借入れについての利息も,主にFの実兄Kに対して
実行された手形貸付金によって支払われ,Cは,利息の支払に関与しなかっ
たこと,Aは,金融破綻後の平成13年に至って,平成元年7月の本件第一
借入れについて,Cが連帯保証人であるとの認識の下に,本件合意書を作成
して上記債務につき本件弁済を受けたことに照らせば,本件第二借入れは,
本件第一借入れと連続して一体をなすものと解するのが相当である(したが
って,Aも合意の下に,形式上の記載とは異なり,真実にはCは連帯保証人
であったものである。)。
被告は,本件第二借入れの際にCを債務者とする契約書等が新たに作成(3)
されたことからすれば,本件第二借入れは,第一借入れとは異なるものであ
り,Cは債務者である旨主張する。
しかしながら,前記説示のとおり本件第二借入れは,実質的に第一借入れ
の書換え手形の切替えと同じく,融資金で旧手形を回収したものであって,
その後の利息の支払もFらによってなされている上,本件合意書においても,
本件第一借入れにかかる金銭消費貸借契約の弁済として本件弁済がなされる
ことを合意しているのであるから,本件第二借入れによって,本件第一借入
れとは異なり,Cが新たに主債務者となったとは解し難いというべきである。
また,被告は,本件合意書において,「Cから上記金銭消費貸借契約がい
わゆる名義借融資であるとの主張がなされたこと」が記載されてあるに過ぎ
ず,Aが上記主張を認めたか否かは明らかではない旨主張するが,証人Iの
証言によれば,Aも,本件第一借入れが上記内容であったことを認めていた
こと,しかしながら,それを明確に記載すれば,Aの不当な融資の実体(迂
回融資の存在)が明らかとなるため,協議の結果,上記文言となったことが
認められるから,被告の上記主張は採用することができない。
3争点のエ(本件第三借入れの返済のための資産の譲渡につき本件特例が(1)
適用されるか否か)について
被告は,本件特例は,保証債務を履行するために資産の譲渡があったこ(1)
とが要件となるところ,本件譲渡は,直接にはC自身が借り入れた債務であ
る本件第三借入れの履行のために行われたのであるから,保証債務の履行の
ためでないことは明らかである旨主張する。
確かに,本件第三借入れは,Cを債務者とする借入れであるが,前記認(2)
定のとおり本件第三借入れは,連帯保証債務の履行としての本件弁済の資金
を捻出するためになされたものである。
ところで,「保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合」とは,一
般に,保証債務を履行するため資産を譲渡し,社会通念上相当な期間内のそ
の譲渡代金その保証債務を履行した場合又は保証債務を代物弁済した場合に
おける資産の譲渡をいうものと解され,保証債務の履行をほかからの借入金
で行い,その後,その借入金を返済するために資産を譲渡したような場合に
は,上記資産の譲渡は原則としてこれに該当しないと解される。しかしなが
ら,資産の譲渡に長期間を要するような場合において,やむを得ず借入金で
その保証債務を履行した後に,社会通念上相当な期間内に資産を譲渡して借
入金を返済する場合等,実質的にみて保証債務の履行のための資産の譲渡と
認められるような場合については,例外的に本件特例が適用されると解する
のが相当である。
そこで,この見地から本件についてみるに,本件証拠(甲11ないし1(3)
6,乙25,26)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
アCは,前記2キ認定のとおりAのI副部長から本件第二借入れの支(1)
払を強く求められたため,連帯保証人としてこれを支払うこととし,その
弁済資金には,Aに対して根抵当権が設定されていた本件土地を売却した
売却代金を充てることとした。しかし,本件土地は,昭和57年11月D
に賃貸され,同社がパチンコ店を建築して営業を行っていたため,借地権
の存在する土地であり,借地権付きの評価額を決定するのには時間を要し
た。また,本件土地は,A以外にも多数の金融機関の担保権が設定されて
いたため,担保権者に対し所有権移転に関して了解を得る必要があり,実
際に売却するまでには相当期間を要することが予想された。ところが,不
良債権か否かを区分して不良債権をSに債権譲渡する期日が平成13年3
月中とされていたことから,Aは,上記債務の弁済をそれまでに行うよう
に求めた。
イそこで,Cは,同年3月8日,Dとの間で,本件土地を同社に売却する
こと,売買代金は路線価を規準に評価決定することとするが,そのうち3
億2000万円(本件債務元利金相当額)については買主の都合から至急
支払うことなどを合意し,これに基づき翌9日にDからCに対し3億20
00万円が支払われた。なお,経理処理上は,Cが個人で経営していたパ
チンコ店「T」の短期借入金勘定に上記金額が記載されているが,CとD
との間には金銭消費貸借契約書,借用書及び領収書等は作成されなかった。
ウところが,同年▲月▲日にCが死亡したため,原告ら相続人の間で遺産
相続に関する協議に時間を要し,平成14年3月24日に至って,原告が
本件土地等を相続するとともに,本件第三借入れを含む借入金債務を承継
することが合意された。
エそこで,原告は,前記第2,1ウ記載のとおり同年10月31日に(5)
本件土地をDに代金11億1561万1000円で譲渡し,その譲渡代金
で本件第三借入れ3億2000万円を含む原告の同社に対する借入金債務
合計11億1561万1000円とを相殺することにより清算した。
上記認定事実によれば,Cは,本件保証債務を履行するために,本件土(4)
地をDに譲渡することを予め合意した上で,本件弁済資金相当額を売買代金
の一部前払として支払を受けて,翌日これを本件弁済に充てたが,経理処理
上は,同社からの借入金(本件第三借入れ)で保証債務を履行し,その後,
約1年半後に本件土地を譲渡して,譲渡代金と上記借入金とを相殺により清
算したものであるところ,Aから平成13年3月中に返済するように強く求
められていたという状況下において,本件土地の売却を前提に保証債務を履
行したものである上,本件土地の評価額の算定や他の担保権者との交渉に時
間を要したのであるから,Cがいったん借入金により保証債務を履行したの
はやむを得ない措置というべきである。そして,その後,本件土地の売却
(資産の譲渡の実施)と清算まで約1年半を要したのは,上記借地権付き土
地評価額の決定や担保権者との交渉という事情に加えて,Cの死亡に伴う遺
産相続の処理に時間を要したためと解されるから,本件譲渡は,「保証債務
を履行するため資産の譲渡があつた場合」というべきである。
したがって,Cを債務者とする本件第三借入れの返済のために本件譲渡(5)
がなされたことをもって,本件における本件特例の適用を否定することはで
きず,被告の上記主張は採用することができない。
4争点(求償権の行使不能)について(2)
本件特例は,「求償権の全部又は一部を行使することができないことと(1)
なつたとき」に当たることが要件とされているところ,「求償権の全部又は
一部を行使することができないこととなつたとき」とは,求償権の相手方た
る債務者について,破産宣告を受けるか,又は,失踪,事業閉鎖等の事実が
発生したり,債務超過の状態が相当期間継続して金融機関や大口債権者の協
力を得られないため事業運営が衰微し,再建の見通しもないこと,その他こ
れらに準ずる事情があるため,求償権を行使してもその目的が達せられない
ことが確実になった場合をいい,これは,求償権の相手方たる債務者の資産
や営業の状況,ほかの債権者に対する弁済の状況等を総合的に考慮して客観
的に判断すべきものである。
また,本件特例は,求償不能という異例の事態について租税政策上の見地
から特に課税上の救済を図った例外的規定であると解されるから,同条項の
適用を基礎付ける事実の主張立証責任は納税者にあると解される。
そこで,この見地から,Fに対し,求償権を行使してもその目的が達せ(2)
られないことが確実になったか否かについて検討する。
前記前提事実に,主に各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次
の事実が認められる。
アFは,前記第2,1ウ記載のとおり暴力団幹部であり,平成元年こ(1)
ろのバブル経済当時は,いわゆるフロント企業であるJとともに「地上
げ」を行っていたが,その詳細は明らかではなく,Fの不動産業以外の事
業の有無や平成13年ころの経済状況,資産状態は,公的資料により窺わ
れるほかは明らかではない。
(甲4,16)
イNは,遅くとも平成16年9月ころに,Fの資産調査を行い,求償金債
権の回収可能性について調査したところ,Fの居住していた福岡市δ××
×番23の土地及び同土地上の建物(以下,併せて「F居宅」という。)
は,Fの所有名義ではないこと(上記土地は昭和41年2月よりU所有名
義であり,上記建物は,昭和45年12月の新築時より株式会社V所有名
義である。)が判明し,他方,Fが他に不動産,銀行預金及び有価証券な
どの財産を有していることを把握できず,F名義でこれらの財産を持って
いるとは考え難いと判断した。
原告らは,前記第2,1記載のとおり別件求償金請求訴訟の確定判(6)
決を得ていたので,Fに対して強制執行することは可能であったが,家財
道具の強制執行はFらによって阻まれるおそれがある上,換金の可能性が
低いこと等から,強制執行を実行しなかった。
(甲1の1・2,7)
ウAが金融破綻した後の平成12年12月ころ,AのI副部長は,本件第
二借入れに関し,資産のあるCから取り立てる方が実効性があると考え,
暴力団幹部であるFからの回収可能性を検討したことはなく,同人に対し
請求したこともなかった。
(証人I)
エところで,Fは,本件弁済のあった平成13年3月9日当時,福岡市内
において同人所有名義の不動産を少なくとも6筆所有していた(ただし,
うち土地1筆は共有)。
しかしながら,上記不動産のうち,福岡市δ×××番22の土地及び同
番111の土地(地目はいずれも山林。以下「δの物件」という。)につ
いては,Aが平成元年12月4日に債務者をFとし,極度額を3500万
円とする根抵当権を設定し,同日付けで根抵当権設定登記を経由していた。
上記根抵当権は,平成13年11月26日に元本が確定し,同日付けでA
からSに移転され(平成14年1月24日に移転登記経由),その後,同
土地は,平成15年5月19日にWに売却されて,同日付けで所有権移転
登記が経由された。
また,福岡市ε×××番の土地,同×××番の土地,同×××番の土地
(ただし共有名義。地目はいずれも宅地)及び同地上の建物(事務所。鉄
筋コンクリート造陸屋根4階建。以下,上記不動産を併せて「εの物件」
という。)については,Kが平成6年2月21日にFを債務者とし,極度
額を2億円とする根抵当権を設定し,同年3月2日付けで根抵当権設定登
記を経由していた。そして,上記不動産は,平成15年5月22日他に売
却され,同月27日付けで所有権移転登記が経由された。
なお,共有名義の土地を除く上記各不動産については,平成4年11月
から平成8年11月までの間に福岡県及び福岡市東区,福岡市博多区から
差押登記や参加差押登記が次々になされたが,そのほとんどは平成6年か
ら平成12年までの間に解除されて上記各差押登記等は抹消されていた。
(乙32)
オ原告やNは,Fから求償金債権を回収する可能性はないと判断していた
が,仮に上記債権を放棄する旨通知すれば,Fが暴力団幹部であることか
ら,多額の金銭を暴力団員に流出させたとの憶測を呼ぶ可能性があると考
えて,上記措置を講じなかった。
(甲7)
上記認定事実に基づき,客観的にみて原告のFに対する求償権の行使の(3)
可能性(債権回収の可能性)がなかったといえるかについて判断する。
ア前記第3,1ウ認定のとおり,Fは平成元年7月の本件第一借入れ(1)
を返済せずに16回にわたり割引料相当額(利息)を支払って手形を書き
換えて支払猶予を得ていたところ,当初はFが現金やF名義の普通預金か
らの振替金で割引料を支払っていたが,平成3年5月以降はC名義の別段
預金に入金された現金が充てられ(その原資は明らかではないが,Jの普
通預金口座からの出金が充てられた可能性がある。)。そして,平成4年
3月ころからは,AがMやFの実兄Kに対し巨額の手形貸付けを行い,そ
の融資金を割引料相当額に充てることを繰り返すようになり(この点は,
前記第3,2オ認定のとおり平成5年12月の本件第二借入れについ(1)
ても,同様である。)。そして,FはもちろんKらも,平成9年3月27
日に貸付金利息を支払ったのを最後にその後利息の支払を約4年間もの長
期間怠っていたものである。しかして,Fが上記経緯の下で長期間にわた
って利息を支払っていないことが,同人の経済的能力の欠如を示す事実で
あることは明らかである。しかも,前記第3,1ア認定のとおりFは(1)
不動産業(地上げ)に関与していたところ,いわゆるバブル経済の崩壊に
よってもっとも影響を受けた業界は不動産業であり,このことはAの金融
整理管財人も指摘しているところである(Aの不良債権の割合が極めて高
いことは前記第3,2カ認定のとおりである。)。さらに,前記のと(1)
おりAが貸付金の利息の支払に充てるために新たな手形貸付け(手形貸付
額は,数千万単位であり,最大では1億7600万円という巨額なもので
ある。)を合計10回にわたって行うという異常な事態に立ち至り,しか
も,AがF個人に対して手形貸付けをすることなく,実兄であるKらに対
して手形貸付けを実行して,上記利息返済を行わせていることは,Fの支
払能力が欠如していることを示すものというほかない。
イそして,前記エ認定事実によれば,Aは,F所有のδの物件につい(2)
て根抵当権を設定しており,同人に対し多額の融資残高があったにもかか
わらず,平成11年の金融破綻に至るまで,不動産競売手続等の法的回収
手段を講じなかったのであるから,この点からも,AがFから債権回収を
図ることが困難であったことが推認される。また,上記根抵当権は,平成
13年11月26日付けでSに移転されたのであるから,AがFに対して
有していた債権が全体として不良債権(破綻債権,延滞債権等)に区分さ
れたことは明らかであり,Aの金融整理管財人としてもFに対する債権が
不良債権であって,回収困難と認めていたことは明らかである。
ウまた,前記エ認定事実によれば,平成13年3月ころ(本件弁済当(2)
時),Fは同人所有名義の不動産を有していたが,δの物件には極度額3
500万円の根抵当権が,εの物件には極度額2億円の根抵当権がそれぞ
れ設定されていたのであるから,各不動産の評価額が明らかではないもの
の,仮に原告が別件求償金請求訴訟の確定判決に基づき強制執行をしても,
先順位の担保権者や公租公課への配当後に余剰があって,他の一般債権者
の配当加入を考慮しても,求償権の行使として意味がある債権回収ができ
る可能性は極めて乏しかったといわねばならない。
この点につき,被告は,路線価図等による相続税評価額で評価すれば,
δの物件が約3485万円であるから,取引相場は80パーセントで割り
戻して約4350万円であると主張するが,同土地は,面積は広いものの
地目が山林である上,他人所有のF居宅との位置関係が不明であり,しか
もいわゆる不動産競売における市場性減価に加えて暴力団幹部が居住して
いることによる評価上の減価が避けられないことを考慮すれば,被告主張
の取引価格が正当とはにわかに認め難い。また,仮に上記価格が正当とし
ても,計算上の余剰は約850万円にすぎず,競売手続費用を要すること,
公租公課の滞納があることが予想されること,多額の一般債権者の配当加
入が予想されること及び求償金債権額が約3億2000万円と巨額である
ことを考慮すれば,実際に配当があるとは認め難いというべきである。ま
た,被告は,εの物件の相続税評価額は約5798万円であるから,取引
相場は約7248万円であると主張するが,前記のとおり上記物件には極
度額2億円の根抵当権が設定されていたのであるから,余剰がないことは
明らかである。したがって,平成13年3月当時のF所有の不動産を換価
して求償権を満足することは不可能であったといわねばならない。
エさらに,原告らは,Fに対し,別件求償金請求訴訟を提起して支払を請
求して勝訴判決を得たが,同人は支払をしていない。
オ上記説示の客観的事情を総合考慮すれば,現在までにFが破産宣告を受
けたり,失踪,事業閉鎖等の事実が発生したことを窺わせる資料はないが,
Fが本件債務の求償権の行使に応じて約3億2000万円という多額の求
償金を支払うことは不可能であったと認めるのが相当である。
したがって,求償権を行使してもその目的が達せられないことが確実に
なった場合に当たる。
これに対し,被告は,原告がFに差押え可能な資産がなかったことの根(4)
拠とするNの資産調査報告(甲7)は極めて不十分である上,Fが暴力団幹
部であることは,求償権行使の上で心理的な抵抗にはなり得ても,回収の見
込みがないことの根拠とはならない旨主張する。
アしかしながら,N作成の資産調査の結果は,平成13年当時Fが不動産
(δの物件とεの物件)を所有していたことを把握していなかった点で不
十分ということができるが,同人の居住していた不動産(F居宅)が他人
所有であることを明らかにしたのであるから,ある程度有用であったとい
うことができる。そして,Fが当時所有していた不動産には多額の担保権
(3)が設定されていたため,換価可能な財産的価値がなかったことは前記
ウ説示のとおりであるから,これを把握していなかったとしても,当時F
に差押え可能な財産がなかったとの判断に影響を及ぼすものではない。
イまた,Fが暴力団幹部であることは,単に求償権の行使における心理的
抵抗というばかりではなく,同人の経済的能力の実体(当時のFの収入の
有無及び程度や資力,財産状況)が通常人の場合よりも更に不明であって,
強制手段を有しない原告にとってこれを明らかにすることは極めて困難で
あるという面(このため,前記説示のFの他の債権者であるAへの支払状
況や入手可能な不動産登記簿等の財産状況を示す公的資料による立証が重
要となるのである。)及び同人所有の財産を換価する場合には評価額低下
の要素となるという面において重要な意味を持つということができる。し
たがって,Fの返済能力や資力の有無を判断するに当たっては,Fが暴力
団幹部であることは考慮すべき要素ということができるから,被告の上記
主張も採用できない。
ウさらに,被告は,原告らがFに対し別件求償金請求訴訟を提起したので
あるから,同時点においてFに対する求償権の行使が不可能と考えていな
かったと解されるとも主張するが,原告らは,暴力団幹部であるFに対し,
単なる口頭や書面による催告ではなく,あえて強力な法的請求手段である
訴訟の提起によって求償金を請求したことが重要であるというべきであり
(なお,これにもかかわらず,Fは資力がないことを自認して返済してい
ない。),訴訟の提起が回収可能性の有無を示すものではないから,被告
の上記主張は採用できない。
また,被告は,原告が別件求償金請求訴訟において仮執行宣言付きの認
容判決を得ながら,同判決に基づき強制執行を行っていないから,原告に
おいて求償権の行使の意思があったかも疑問である旨主張する。しかしな
がら,前記認定説示のとおりFには資力がなく,債権回収の可能性がない
のであるから,原告が上記確定判決に基づき強制執行を申し立てないこと
は,合理性を有するというべきである。したがって,原告が強制執行を申
し立てないことから,原告が求償権を行使する意思がないということはで
きず,被告の上記主張も採用できない。
5まとめ
以上によれば,Cは,Aに対し,本件第一借入れ(本件第二借入れを含
む。)の主債務者Fの債務につき連帯保証していたところ,Aからの履行請求
に応じて,上記連帯保証債務を履行するため,いったんDから資金を借り受け
た上で3億1916万6095円を弁済し,その後上記借入金を返済するため
本件不動産を譲渡したところ,主債務者Fに対する求償権を全部行使すること
ができないのであるから,本件譲渡については,保証債務についての本件特例
の適用があるというべきである。
第4結論
したがって,本件処分は,分離長期譲渡所得中3億1916万6095円につ
き本件特例の適用がないとした点において違法であるから,分離長期譲渡所得の
金額5億6016万9055円,納付すべき税額1億7788万1300円を超
える部分及び過少申告加算税賦課決定処分は,取消しを免れない。
よって,原告の本件請求はすべて理由があるからこれを認容し,訴訟費用の負
担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決
する。
福岡地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官永松健幹
裁判官本田能久
裁判官坂本隆一

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