弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人秋山要提出の上告趣意書第一点は「原審ハ判示事実ヲ認定スルニ際リ医師
梶原勘一ノ作成ニ係ル鑑定書ヲ証拠トシテ採用シテ居ルガ日本憲法ノ施行ニ伴フ刑
事訴訟法ノ応急措置ニ関スル法律第十二条第一項ニヨレバ証人其ノ他ノ者(被告人
ヲ除ク)ノ供述ヲ録取シタ書類又ハコレニ代ルベキ書類ハ被告人ノ請求ガアルトキ
ハ其ノ供述者又ハ作成者ヲ公判期日ニ於テ訊問スル機会ヲ被告人ニ与ヘナケレバコ
レヲ証拠トスルコトガデキナイト規定シテ居ル而シテコノ訊問権ハ被告人ガ訴訟上
与ヘラレタ権利デアルカラ裁判所トシテハ其ノ旨ヲ被告人ニ告知スベキ義務アルモ
ノト云ハナケレバナラナイ然ルニ原審ニ於ケル公判調書ノ記載ニヨレバ裁判長ハ証
拠調ヲ為スニ際シコノ旨ヲ被告人ニ告知シタル形跡ヲ認ムルコトガ出来ナイノデア
ル従テ原審ハ鑑定書ノ作成者ヲ訊問スル機会ヲ被告人ニ与ヘナカツタコトニナルノ
デアルカラ右鑑定書ハコレヲ証拠ト為シ得ナイモノデアルニ拘ラズ原審ガコレヲ証
拠ノ一部ニ採用シテ居ルノハ明カニ被告人ノ有スル訴訟上ノ権利ヲ阻止シタモノト
云ハナケレバナラナイ従テ原審判決ハコノ点ニ於テ破毀ヲ免レナイモノト信ズル」
と謂うのである。
 日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律第十二条第一項に
依れば、「被告人の請求があるときは……訊問する機会を被告人に与えなければ、
これを証拠とすることはできない」と規定されてあつて、所論の如く裁判所が被告
人に対し、被告人に於て鑑定書の作成者に対する訊問権を有することを特に告知す
るの義務を有するものではない。而してこの解釈は当裁判所の夙に判例とする所で
ある(当裁判所昭和二十二年(れ)第一五六号同年十二月二十四日第二小法廷判決。
昭和二十二年(れ)第二七七号昭和二十三年四月八日第一小法廷判決参照)。
 記録を閲するに、原審公判調書証拠調の部の記載に依れば、裁判所から所論鑑定
人に対する訊問権あることを特に被告人に告知した形跡はないが、被告人及び弁護
人から該鑑定人の訊問を請求した形跡も亦ないのである。従つて原審が所論鑑定人
を訊問せずして鑑定書を証拠に採つても、毫も之を違法と称することは出来ないの
である。論旨は理由がない。
 同第二点は「原審判決ハ虚無ノ証拠ニヨリ審判シタ違法ガアル原審ハ「被告人D、
A両名ハ所持金ナク食費ニモ窮スルニ至リタル結果Aガ予テ面識アリ家内ノ事情ニ
モ通ジ多少現金ヲモ蓄ヘテ居ルト見込ンデ居タ愛媛県温泉郡a村bC方ニ強盗ノ目
的ヲ以テ被告人Aハかけやヲ、被告人Dハ手槌ヲ提ゲテ侵入シタルガ右Cガ目覚メ
タ模様ダツタノデ突差二被告人両名ハ先ヅ家人ヲ殺害シテ金員ヲ強取シヨウト意思
相通ジ被告人Dガ蚊帳ヲ捲ルヤ、被告人Aハ右Cノ頭部ヲ所携ノかけやデ強打シ隣
室ニ就寝シテ居タ同人妻Bガ物音ニ目覚メタ気配ヲ知ルト同時ニ直チニ襖ヲ開ケ同
ジクかけやデ其ノ頭部ヲ一撃シ続イテ被告人Dガ其ノ首ヲシメ付ケ尚モ交々かけや
ト手槌デ頭部顔面ヲ殴打シテ昏倒サセ屋内ヲ隅ナク捜索シテ漸ク現金八百三十七円
ヲ強奪シ云々」トノ事実ヲ認定シタノデアルガ右事実中「被告人両名ハ先ヅ家人ヲ
殺害シテ金員ヲ強取シヨウト意思相通ジ」トノ点ニ関スル証拠トシテ一、被告人等
ノ当公廷ニ於ケル第一事実(強盗殺人ノ事実)中殺意及被害者両名ノ創傷及死因ノ
点ヲ除キ各自関係部分同旨ノ供述、一、原審第一回公判調書中被告人等ノ第一事実
中被害者両名ノ創傷及死因ノ点ヲ除キ判示関係部分同旨ノ供述記載ヲ挙ゲテ居ル、
ヨツテ第一審及原審ノ公判調書ノ記載ヲ見ルニ「気絶サセテ物ヲ窃ル心算デアツタ」
ト云フ供述記載ハアルモ「先ツ家人ヲ殺害シテ金員ヲ強取シヨウト意思相通ジ」ト
ノ事実ニ吻合スル供述記載ハ全然之レヲ発見シ得ナイノデアル、然ルニ原審判決ハ
被告人Dノ公判調書ニ右判示事実ト同旨ノ供述記載アリトシテ之レヲ証拠ニ引用シ
テ居ルノハ結局虚無ノ証拠ニヨリ裁判シタコトニナルノデアツテ原審判決ハコノ点
ニ於テ破毀ヲ免レナイ」と謂うのである。
 先ず原判決挙示の各証拠は綜合認定に依るものである。そこで記録を精査するに、
原審採証の第一審第一回公判調書に依れば、所論の如く被告人及び原審相被告人A
の供述として「気絶させて物を盗る心算であつた」等殺意を否認するが如き趣旨の
供述もあるが、「殴るときには気絶させる積りであつたが殺してやらうと云う意思
もあつた」旨の殺意を肯定した各供述もあるのである。その他原審の認定事実の如
く、原審相被告人Aは被告者と顔見知りであるのに、覆面もせずにカケヤを携え屋
内に侵入したる如き、被害者Bに対しAはカケヤで一撃を与え続いて被告人がその
首を絞め付け、尚両名で交々カケヤと手槌で被害者両名の頭部顔部を殴打して昏倒
させたものであること等、以上の各点は原審採証挙示の第一、二審公判調書に依り
之を認むるに充分であり、その上原判示の如く血痕の附着せるカケヤ及び藁打用手
槌の各存在並びに被害者等の各高齢(当時C八十年、B六十八年)なる点等、以上
を即ち綜合すれば、本件強盗殺人の犯行は原判決認定の如く被告人等の「殺意相通
じ」この所為であることは尤に之を認め得るのであつて、従つて所論の如く原審が
虚無の証拠に依つて此点を断じたものでないことは寔に明瞭と謂はねばならぬ。論
旨は理由がない。
 同第三点は「原審判決ニハ公平ナル裁判ヲ受クル被告人ノ憲法上ノ権利ヲ侵害ス
ル違法ガアル被告人Dハ原審相被告人Aト共謀強盗殺人ノ犯行アルモノトシテ第一
審ニ於テ無期懲役、Aハ死刑ノ各言渡ヲ受ケテ共ニ控訴シタノデアルガ原審ハ両名
ニ対シ等シク無期懲役ヲ言渡シタノデアル斯ク両名ノ科刑ニ差異ヲ設ケナカツタ原
審判決ハ左記理由ニヨリ公平ナル裁判トハ云ヒ得ナイモノト思料スル (一)本件
強盗殺人ノ被害者ハ原審相被告人Aニ於テ予テ面識ヲ有シ且家内ノ事情ニモ通ジテ
居ツタ為メ同人ガ被告人Dヲ誘ヒ其ノ結果本件犯行ニ至ツタモノデアルコト (二)
原審ハ被害者C及同人妻Bニ対スル犯行ノ中Cニ対スル犯行ヲ特ニ犯情重シト判示
シタノデアルガ右C及Bノ両名ニ対シ最初致命的一撃ヲ与ヘタノハ原審相被告人A
ニシテ被告人Dハ其ノ間横ニテ見テ居ツタニ過ギナカツタモノデアルコト (三)
右Aニハ本件強盗殺人ノ外尚窃盗ノ犯行ガアツテ本件強盗殺人ノ罪ノ連続犯ノ関係
アリトシテ判決セラレテ居ルコト (四)被告人Dニハ前科ナキモAニハ窃盗詐欺
ノ前科アルコト (五)被告人D及Aハ共二復員者デアリ犯行時ハ廿五歳ノ同年デ
アツテ其ノ環境ニ恵マレナカツタ点モ相似タモノデアルコト以上ノ事実ヲ綜合スル
トキハ本件ノ主犯ハAデアリDハ寧ロ従タル関係デアツテ其ノ犯情ニ格段ノ差アル
モノト認ムルノガ相当デアル左レバコソ第一審ハAニ死刑ヲ言渡シタルニ拘ラズD
ニ対シテハ無期懲役ノ言渡ヲ為シタモノト思料スル従テ原審ガ若シAニ対シ無期懲
役ヲ科スルヲ相当ト認メタトスレバ被告人Dニ対シテハ当然有期懲役ヲ撰択スベキ
モノデアツタト信ズル然ルニ事コゝニ出デズ両名ニ対シ等シク無期懲役ヲ科シタ原
審判決ハ甚ダシク権衡ヲ失シ結局被告人が憲法上保証セラレタ公平ナル裁判ヲ受ク
ルノ権利ヲ侵害スルノ結果トナルモノデアツテ破毀ヲ免レナイモノト信ズル」と謂
うのである。
 日本国憲法第三十七条第一項に所謂「公平な裁判所の……裁判」と謂うのは、裁
判所の組織構成が法律上公平な裁判と言う趣旨と解すべきことは、既に当裁判所屡
次の判例とする所であつて(当裁判所昭和二十三年(れ)第五九号同年六月二日大
法廷判決、昭和二十二年(れ)第一三八号昭和二十三年六月十一日大法廷判決各参
照)、従つて所論の如き共犯者たる共同被告人に対する裁判所の言渡した刑の比較
問題の如きを包含する趣旨のものでないことは明らかである(右第五九号判決参照)。
次に本点に於ける以上の外の論旨に対しては、次の被告人提出の上告趣意に対する
説明に於て之を述べたから、夫れを引用する。要するに論旨は理由がない。
 被告人D提出の上告趣意書は「私此度の事件に関しましては年老いし人を死に致
らしめ、世間を騒がし当局に大変御迷惑をおかけ致しました。誠に申訳のない事を
致し心底より悔悟の念に耽つて居ります。此の上は第二審の判決後服罪すべきであ
りましたが……裁判長殿兇悪無道なる此のDにも良心があります。もう一度光と希
望を御与え下さいます様被告人衷心より御願い致します。本事件第一審判決ではA
は死刑、私は無期懲役を言渡されました。但し前途に一縷の光を求めて控訴しまし
た。幸Aは刑一等減ぜられて無期懲役となり、私は前審通りでした。Aは前科もあ
りましたし、すでに窃盗さえ行つてゐました故服罪しました。本来なれば私も共に
服罪すべきでした。但し生れて以来私は一度も悪い事をして警察の厄介になつた事
はありません。決してAが軽くなつたのを羨んでゐるのではないのです。むしろ祝
福をさへ感じてゐるのです。只々此の二審廷で不明な点は、どうゆう箇所がAに有
利で、私にはどこが悪いかつたでせうか。私は十七歳の時に母、十九歳の時父を亡
くしました。淋しい親無鳥です。もう少し生きてゐて呉れたらと残念でなりまぜん。
肉親の温い愛情がほしかつたのです。例へ一人でも生きてゐて呉れたら今回の様な
事は決して起らなかつたと思います。真実の愛情に飢えてゐました。捨て鉢になつ
てゐたのです。「法は冷たきもの、人情は厚きもの」と信じてゐます。どうか今一
度裁判長殿の温きお情の下に裁判され、せめて有期刑になりますれば、一日も早く
更生し、亡き被害者の霊を弔ふと共に社会に一片の奉仕を捧げる覚悟です。裁判長
殿何卒御寛大なる御裁きの上、被告人に再生の光と希望を与へられん事を伏して御
願い致します」と謂うにある。
 以上を要約すると(1)被告人は共犯者である原審相被告人Aに較べて本件犯情
及びその他の事由に於て軽いと思料するのに、原審裁判所でAと同じ無期懲役刑に
処せられたのは納得出来ない。即ち重いAが無期刑ならば軽い被告人は夫れより軽
い刑に処せられるのが当然である。(2)次は被告人の家庭や生い立ちや将又一日
も早く甦生して亡き被害者等の霊を弔いたいし社会に一片の奉仕も捧げたい覚悟で
あるから、原審よりも軽い寛大なる刑に処せられたいと謂うにあるのである。
 仍つて按ずるに(1)強盗殺人罪の法定刑は死刑か無期懲役かの二つである。従
つて酌量減軽(刑法第六十六条)か又は法定減軽(刑法第三十六条・第三十七条乃
至第四十条・第四十二条・第四十三条・第六十三条等)かの事由がない限りは、裁
判所は右死刑か無期懲役刑かの一つを選択量刑するの外はないのである。そこで共
犯者たるAは仮りに被告人よりも犯情その他の事由で重く見られるものであつたと
しても、裁判所が之に死刑を選択量刑するのは相当でないと認めるときは、之を無
期懲役刑に処する以外に道はないのであり、次に被告人はAよりも仮りに犯情その
他の事由で軽いと認められても、被告人に前示酌量か法定かの減軽事由がない限り
は、之又無期懲役刑以外に之より軽い量刑の余地はないのである。以上の結果は一
見不公平のように見えるけれども、元来強盗殺人罪の如き犯罪は、その罪質上その
法定刑の種類及び刑の幅が少なく狭く定められてある関係からくる結果であつて、
罪質上止むなき所なのである。而して原審裁判所の認定した事実の範囲では、被告
人には法定減軽の事由はないものであり、又酌量減軽は共犯者間の犯情の比較等に
依つて与えらるゝものではなくて、当該被告人の犯罪の情状(例へば、被告人の犯
罪を犯すに至つた動機・原因・事情或は環境・素行・人と為り若くは被害の賠償等
の如き)に憫諒すべきものがありや否やに因つて、之を与うべきや否やを決せらる
ゝ問題なのである。然るに原審裁判所は被告人に酌量減軽を与うるに値いする事由
の存在を認めなかつたのであるから、被告人を強盗殺人罪の法定刑中最も軽い無期
懲役刑よりも更に軽い刑に処することは、絶体に出来ないことなのである。以上説
明の如くであるから、被告人を無期懲役に処断した原審裁判にも毫も偏頗不公平の
措置等なく何等の違法は存しないのである。従つて此点の上告趣意は理由がない。
次に(2)の主張であるが、かゝる主張は日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応
急的措置に関する法律第十三条第二項の法条に依り、之を上告理由とは為し得ない
のである。
 以上の如く本件各上告趣意は何れも理由がないから、刑事訴訟法第四百四十六条
に従い、尚秋山弁護人上告趣意第三点には憲法違反との論旨があるが、這は最高裁
判所裁判事務処理規則(昭和二十二年十一月一日最高裁判所規則第六号)第九条第
三項(昭和二十三年四月一日最高裁判所規則第三号に依る改正第三項)の規定に則
り、当小法廷で判決する。 
 此判決は裁判官全員一致の意見に依るものである。
 検察官福尾彌太郎関与
  昭和二十三年七月十日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    小   谷   勝   重

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