弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中200日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1平成19年2月15日午後9時ころ,埼玉県a市内のA方において,同人所
有の現金約8000円在中の札入れ1個(時価100円相当)及び現金約20
00円在中の小銭入れ1個(時価100円相当)を窃取し,
第2顔見知りであるB夫(当時69歳)及びB妻(当時67歳)を殺害して金品
を強取しようと企て,同月21日午後1時30分ころから午後3時ころまでの
間,同市内のB方において,殺意をもって,B夫の頭部,顔面等を鈍体で数回
殴打するなどし,次いで,B妻に対し,その頭部等を鈍体で数回殴打するなど
し,よって,そのころ,同所において,B夫及びB妻をいずれも外傷性脳障害
によりそれぞれ死亡させて殺害し,B夫所有の現金約1万円を強取した。
(証拠の標目)
【省略】
(争点に対する判断)
第2の強盗殺人(以下,この項では「本件」という)については,検察官と弁護
人との間で,事実に争いがあるので,以下検討する。
1本件事案の概要と争点
(1)本件事案の概要
関係証拠によれば,以下の点は明らかであって,これらにつき特段の争いは
ない。
平成19年2月21日午後8時ころ,埼玉県a市内にあるB方居宅内1階の
8畳居間においてB夫が,8畳和室においてその妻であるB妻が,それぞれ死
体で発見された。B夫は,8畳居間のコタツ内に腹部及び両下肢を入れたまま
仰向けに横たわっており,同人の顔面,頭部等には多数回殴られた跡が認めら
れ,また,周囲には血液が飛散していた。一方,B妻は,頸部,手関節,下腿
部を針金で,膝をナップザックの紐でそれぞれ緊縛され,右横臥位で横たわっ
ていた。同女も顔面,頭部に多数回殴られた跡が認められ,周囲に多量の血液
が流れていた。第1発見者は,両名の長女であるC及びその長男で,両名の孫
に当たるDであり,Cから通報を受けて駆け付けた消防隊員らにより,B夫及
びB妻の死亡が確認され,死因はいずれも外傷性脳障害と診断された。また,
B夫の死体が発見された8畳居間と,B妻の死体が発見された8畳和室に続く
1階の6畳和室には物色された跡があった。
同年3月5日,山梨県内において,B宅の2軒隣に住んでいた被告人が,A
方での窃盗(第1の事実)について逮捕された。その後,被告人は,本件につ
いて再び逮捕された。
(2)本件の争点
本件では,被告人が何らかの凶器を用いてB夫及びB妻を殴打し殺害したこ
と,B宅から現金1万円を奪取したことについては当事者間に争いはないもの
の,犯意の内容及びその形成過程に争いがある。すなわち,検察官は,本件は
当初からの計画によるB夫及びB妻に対する強盗殺人であり,被告人は両名を
殺害するための凶器と緊縛するための針金を準備してB宅に赴き,これらを使
って犯行を遂行したと主張する。これに対し,弁護人は,その場で咄嗟に殺意
が生じたB夫に対する殺人と,その後金品を奪取する意思を生じたB妻に対す
る強盗殺人であると主張し,被告人もこれに沿う供述をしている。弁護人の主
張は,具体的には,被告人は,借金の申込みのためB宅を訪問したところ,B
夫から借金を断られ,さらに「お前が死んだら保険金が出る」などと言われた
ため激高し,咄嗟に殺意を生じて台所にあった麺棒様の物で同人を殴打して殺
害し,さらに,これをB妻に見られたため,咄嗟に手にしていた麺棒様の物で
殴打したが,逃走資金を強取しようとの意思が生じ,たまたま所持していた針
金で同女を緊縛し,金品のありかを聞き出そうとしたが,同女はこれに答えず,
犯行の発覚を防ぐため同女を殺害するほかないと決意し,更に殴打して同女を
殺害したというのである。
そうすると,検察官と弁護人の主張の分かれ目となるのは,被告人がB宅訪
問時に,強盗目的を有していたか否かということになるが,これを確定するた
めの前提として,次の点について具体的事実が争われている。すなわち,①B
夫及びB妻の殴打に用いられた凶器(以下「本件凶器」という)は被告人が携
行したものか否か,そして,B妻の緊縛に用いられた針金を被告人が携行して
いた目的は何か,②本件前における被告人の経済状態,③被告人が実際にB宅
で行った物色の状況及び奪取した金品の内容,④被告人のB夫妻との従前の関
係及び本件当日におけるB宅を訪問した際の状況である。
そこで,まずは以上の各具体的事実を順に見た上で,被告人がB宅訪問時に
強盗目的を有していたか否かを検討する。
2本件凶器について
(1)凶器の形状
E医師作成の各鑑定書(甲225,226)及び同人の当公判廷における証
言(以下,併せて「E鑑定」という)によれば,B夫及びB妻の主な創傷はそ
れぞれ次のようなものと認められる。
アB夫の主な創傷
(ア)前額髪際中央部に表皮剥脱を伴う長さ約4.3センチメートルの挫創,
同挫創左端の地点から左後方に向かい約1.7センチメートルの挫創があ
り,また,同地点から前方に向かって約1.3センチメートルの挫創が派
生している。
(イ)頭頂部中央よりやや左側に表皮剥脱を伴う長さ約6.6センチメート
ルのジグザグ状の挫創があり,その創底は骨に達している。
(ウ)左眉毛外側の左下に表皮剥脱を伴う長さ約3.3センチメートルの挫
創がある。
(エ)下口唇の下には,創底が軟部組織に達する長さ約3.5センチメート
ルの創縁凹凸不整の挫創が,その下には表皮剥脱を伴い一部が口腔内に達
する長さ約3.2センチメートルの挫創が,さらにその下に表皮剥脱を伴
い創底が粉砕した下顎骨まで達する長さ約5.7センチメートルの挫創が
ある。
(オ)左頬骨及び左上顎骨は,粉砕状に骨折している。左側頭骨外側部は約
くるみ大以下の骨片に粉砕状に骨折し,前頭骨,右側頭骨は多数の骨片に
骨折している。前頭蓋窩は約拇指頭面大以下の骨片に粉砕状に骨折し,中
頭蓋窩にも連続した骨折がある。また,側頭葉から後頭葉にかけた広範囲
にくも膜下出血があり,複数の脳挫傷がある。
イB妻の主な創傷
(ア)前額部髪際真ん中の地点から頭頂部方向に,表皮剥脱を伴う,少し左
に凸弯する長さ約7センチメートルの挫創があり,その創底は頭蓋骨に達
している。また,同挫創の前端部分から左上約2センチメートルの地点か
ら上方向に向かい表皮剥脱を伴う長さ約4.3センチメートルの創がある。
(イ)頭部左側には,創底が頭蓋骨に達する長さ約8センチメートルの挫創
がある。
(ウ)頭部右側には,上から順に,長さ約5センチメートルの挫創,長さ約
6センチメートルの挫創,長さ約7センチメートルの挫創があり,前二者
の創底は頭蓋骨に達している。
(エ)後頭部には,複数の挫創が派生している長さ約7.7センチメートル
の挫創があり,その下に長さ約9.8センチメートルの挫創がある。
(オ)前額部中央付近に右下に向かい長さ約3.5センチメートルの挫創が
あり,約1.8センチメートルの挫創が派生している。また,この派生し
た挫創の少し左の地点から,左下に向かい長さ約6センチメートルの挫創
がある。
(カ)左頬骨及び左上顎骨は粉砕骨折している。前頭蓋窩は正中部を中心に
粉砕状に骨折し,左右の側頭骨から中頭蓋窩にかけて骨折している。前頭
葉から頭頂葉にかけてくも膜下出血があり,複数の脳挫傷もある。
ウB夫及びB妻の殴打に用いられた凶器の形状について
E鑑定は,B夫及びB妻の各創傷の状況から,本件凶器はいずれも稜のあ
る,創傷の長さ以上の作用面を有する鈍体(刃のない物体の総称)であり,
また,殴打する際相当強い作用を及ぼし得るものであるとの判断を示してい
る。Eは,法医学を専門とする医師で多数の司法解剖の経験を有しており,
その知識,経験に基づいてB夫及びB妻の創傷状況を詳細に検討して上記判
断を行ったものであり,その判断過程は,B夫及びB妻の各創傷の客観的な
形状とよく符合し,専門的な知見に基づく合理的なものと認められる。そう
すると,E鑑定は信用できるというべきである。
よって,B夫及びB妻の殴打に用いられた本件凶器は,稜があり,約10
センチメートルの創傷を形成し得る長さがあり,相当強い作用を及ぼし得る
だけの重量と硬さを有した鈍体であると認めることができる。
この点,弁護人は,Eが,当公判廷においては,B夫の頭部等の傷は「稜
のある鈍体」により生じたものであると証言している一方で,その作成に係
る鑑定書には,成傷器について「鈍体」とするだけで「稜のある鈍体」との
記載がなく,同人がこの相違について合理的な説明をしていないこと,B妻
についても,司法解剖当日に作成された中間報告書には,成傷器について
「細長い作用面を有する鈍体」と記載されている一方で,鑑定書には「角や
稜のある鈍体」と記載されており,この変遷について具体的な説明がなされ
ていないことなどを指摘し,鑑定の信用性には疑問が残る旨主張している。
しかし,Eは,当公判廷において,B夫については,ある程度の長さを持
ち,その幅が小さくかつ創底部が頭蓋骨に達している創傷が存し,そのよう
な創傷については,稜のある鈍体により生じたと考えられるものの,同人の
創傷すべてがそのような特徴を有するわけではないことから,鑑定書には広
く「鈍体」と記載したものであるとの弁明をしており,また,B妻について
は,中間報告書と鑑定書との間に判断の変更はなく,その前額部の創傷につ
いては,角のある鈍体で生じたと考えても矛盾はないことから,「角や稜の
ある鈍体」と記載したものであるとの弁明をしているのであり,いずれも一
応合理的な弁明であると受け取れる。その他,Eがその証言中で,各鑑定書
に添付された各創傷の写真に基づいて,本件凶器の形状について合理的で納
得の行く説明を加えていることにかんがみると,E鑑定の信用性に疑問を挟
むべき余地はないといえる。よって,この点に関する弁護人の指摘は当たら
ない。
(2)B妻殺害の現場に遺留されていた木片について
B妻の死体の側で発見された木片について,検察官は,凶器の一部であるこ
とが強く推認される旨主張するので,以下検討する。
アB妻殺害の現場であるB方居宅1階8畳和室において,死体に近接した位
置で,上辺約4.4センチメートル,下辺約6.4センチメートル,高さ約
1センチメートルの台形状で,厚さ約0.3センチメートルの木片が発見さ
れた。同木片の種属は,みかん科キハダ属のキハダであり,その表面にはい
わゆるアクリル塗装が施されていた。
同木片には血痕が付着しており,同血痕のDNA型はB妻のそれと合致す
る(甲61)。そして,警察官Fは,C立会いの下,B方居宅内の家具や調
度品,さらには壁や天井なども確認したが,同木片に対応する破損箇所は発
見できなかった旨証言している。その調査は,木片の捜査として注意深く行
われたことがうかがえるのであり,そうすると,同木片に対応する破損箇所
は同居宅内には存在しなかったと認められる。
イ検察官は,上記木片はB妻殺害現場に遺留されていたこと,同木片にB妻
の血痕が付着していたこと,同木片がB方居宅内の柱や家具等から剥離した
ものではないことから,論告中で,同木片は外部から持ち込まれたもので,
凶器の一部であることが強く推認されると主張する。
しかし,同木片が遺留されていた1階8畳和室は,まさにB妻殺害の現場
で,畳には血が流れ,引き戸や障壁等にも多数の飛沫血痕が付着していたこ
と,同木片が小さな軽い物であることからすると,同木片が本件とは無関係
にたまたま1階8畳和室内に持ち込まれて落ちており,B妻が殺害された際
にその血痕が付着した可能性も否定できないから,検察官主張のように,同
木片が凶器の一部であると推認することは無理といわなければならない。
(3)B方居宅内に,本件凶器となり得るものが存在したか否かについて
ア前記のとおり,B夫及びB妻の殴打に用いられた凶器は,稜があり,相当
な長さ,重量及び硬さを有する鈍体である。
Cは,平均して週二,三回はB方を訪れ,同居宅内の状況を把握していた
と認められるところ,同居宅内には木刀や金属バット,さらには,角のある
棒などはなく,凶器になり得る物としてはゴルフクラブ(パター)くらいし
かないが,それは保管場所から動かされていないこと,また,B夫の財布や
自動車の鍵等以外に本件後に同居宅内から無くなったものはなかった旨証言
している(Cは,B夫が普段使用している財布や自動車の鍵等が無くなって
いた旨証言しているだけで,その他の物について本件後に無くなった物があ
るか否かについて直接言及はしていないものの,居宅内の物品をすべて確認
した上でB夫が普段使用していた財布等が無くなっていたというのであるか
ら,それ以外に無くなった物は発見できなかったと供述する趣旨と解され
る)。
本件凶器がB方居宅内に存した物を被告人が犯行に供したのであるとする
と,それは納戸やその他収納庫に保管されていた物ではなく,居間付近の比
較的目に付きやすい場所にあったと考えられる。そして,稜があり,相当な
長さ,重量を有する鈍体が,居間付近の目に付きやすい場所にあったのであ
れば,Cがその存在を知らないということは考え難く,また,その鈍体が無
くなったことに当然気付いたはずである。
そうすると,B方居宅内には,本件凶器となったと考えられる物は本件犯
行前には存在せず,本件凶器は,元々同居宅内には無かった物,すなわち,
被告人が持ち込んだ物であると考えるのが自然である。
イ(ア)これに対し,被告人は,B夫及びB妻の殴打の際に用いた凶器につい
て,捜査段階ではB方台所にあった「麺棒」,公判段階では同台所にあっ
た「麺棒らしき物」と供述している。
なお,被告人は,捜査段階から本件凶器については,「麺棒」と断定し
ておらず「麺棒らしき物」であったと言っていたにもかかわらず,取調官
が調書作成の際,「麺棒」としか記載してくれなかった旨供述している。
しかし,被告人の捜査段階の供述調書(乙45)を見ると,「私は,以
前,Bさん方で麺棒を見たことがあるような気がしますし,そうでなかっ
たとしても,Bさんの奥さんから,手打ちのうどんをお裾分けしてもらっ
たことがあったので,Bさん方に,うどんを手打ちするのに必要な道具で
ある麺棒があることは知っていました」などと,相当具体的な記載がある
ことに照らすと,被告人の上記供述は採用できず,被告人は,捜査段階に
おいて,本件凶器は「麺棒」であったと供述していたと認められる。
(イ)しかし,本件凶器が「稜のある鈍体」であることは前記認定のとおり
であり,また,Eは,B夫及びB妻のいずれの創傷も,麺棒による殴打で
生じたものとは考えられない旨証言している。凶器が麺棒である旨の被告
人の供述は,これと全く符合しない。
また,Cの証言によれば,B方居宅内には麺棒は1本しかなかったとこ
ろ,その1本は台所横の納戸から発見されたのであり,麺棒が凶器である
旨の被告人の供述は,この事実にも反する。この点,弁護人は,B方居宅
内に存した麺棒が1本だけであったとは言い切れないと主張する。しかし,
Cは,納戸に置いてあった麺棒は7年ほど前からB方で使用されているも
のであるところ,以前にはこのほかにもう1本麺棒があったが,それは2
年ほど前にB方からC方に持っていったままになっており,その後もB方
で新しく麺棒を購入したことはないと具体的,詳細に供述しているのであ
って,弁護人の主張は採用できない。
(ウ)また,被告人は,当公判廷においては,凶器は「麺棒らしき物」であ
ると供述する。しかし,凶器を「麺棒」と断定していた捜査段階の供述を
「麺棒らしき物」とその核心部分をあいまいなものに変遷させた理由につ
いて合理的な説明をしていない。
また,被告人は,当公判廷において,その「麺棒らしき物」の形状つい
て手に持ったところが丸かったことは覚えているが,その他の箇所の形状
については分からない旨あいまいな供述に終始している。しかし,後で検
討するように,被告人が相当長時間本件凶器を手にし,しかもB妻を殴打
した後に同人の頸部や手関節等を緊縛したり,室内を物色したりした際,
凶器を一旦床などに置いて再び手に持ったりしているはずであることに照
らすと,被告人が,「麺棒らしき物」の形状が分からないというのは明ら
かに不自然である。
(エ)以上によれば,B夫及びB妻を殴打した凶器は台所にあった「麺棒」
ないし「麺棒らしき物」である旨の被告人の供述は,到底採用することが
できない。そして,それが被告人が直接経験し,記憶違いや取り違え等は
あり得ない事柄であることにかんがみれば,被告人は殊更虚偽の供述をし
ているものといわざるを得ない。被告人は,B方居宅内にあった物を凶器
としたこと自体は,一貫して供述しているが,仮にそうであるとすれば,
その凶器が何であるかをありのままに供述すればよいのであって,上記の
ような不合理な虚偽供述をすることは不可解としか言いようがない。しか
も,本件については,捜査段階から本件凶器が何であるか,それが被告人
が持ち込んだものであるかが,前記争点との関係で重点的に取り調べられ,
公判段階においても,非常に重要な争点となっていたのであり,被告人自
身もその重要性を認識した上で,取調べや公判審理に臨んでいたと考えら
れるところ,これにかんがみれば,被告人が不合理な虚偽供述に終始して
いることは,なおさら不可解というべきである。
そうすると,被告人が上記のような虚偽供述をしていることも,翻って
本件凶器が被告人が持ち込んだ物であることを推認させる1つの事情であ
るということができる。
ウ以上のように,本件凶器は,稜があり,相当な長さ,重量及び硬さを有す
る鈍体であり,その形状に合致するような物で本件後にB方居宅内から無く
なったものはないことに加え,被告人が捜査,公判を通じ,虚偽供述に終始
しているという事情も併せ見ると,本件凶器は,同居宅内に元々あった物で
はなく,被告人が外から持ち込んだ物であること,すなわち,被告人は本件
凶器をB宅に携行したことを推認することができる。
3B妻の緊縛に用いられた針金について
(1)関係証拠によれば,次の事実が認められる。
アB妻の頸部,手関節,下腿部を緊縛していた針金は,いずれも太さ0.1
5センチメートルの指で軽く押すと曲がる程度の硬さの針金2本を,捩り合
わせたものであって,その長さはそれぞれ順に,103センチメートル,1
15センチメートル,112センチメートルである。
イまた,被告人宅からは,直径10ないし15センチメートルに巻かれた,
上記針金と同種の針金の束と,鉄製のペンチが発見されているところ,上記
3組の針金の切断面は,いずれも同ペンチで切断した場合の切断面と一致し
ている。
(2)以上によれば,上記針金3組は,被告人があらかじめ自宅にあった針金の
束からペンチで切断し,2本を1本に捩り合わせて成形したものであり,被告
人は犯行当日B方を訪問する際にこれらを持っていたこと,被告人が同針金で
B妻の頸部,手関節部及び下腿部を緊縛したことを認めることができる。
このように,被告人が携行した針金は,いずれも長さ1メートル余で,2本
を捩り合わせてその強度を増強させたものであり,人を緊縛する道具として非
常に有効な形状に成形されていること,被告人はそのような針金を少なくとも
3組も携行していたこと,そして実際に被告人がこの針金をB妻の緊縛に使用
したこと等に照らすと,被告人が同針金を携行していた目的は,B夫あるいは
B妻を緊縛するためであったと考えるのが自然である。
(3)これに対し,被告人は,当時近所に住んでいたGに対する嫌がらせとして,
同人のトラックの車軸に針金を巻き付けてブレーキを故障させようと考えてお
り,針金はそのために準備し,持ち歩いていたものであると供述するので,こ
の点について検討する。
ア関係証拠によれば,被告人とGとの間には,次のようなトラブルがあった
ことが認められる。
(ア)被告人は,平成13年ないし14年,Gに給料を支払って,自己がい
わゆる持込み運転手として稼働していた有限会社Hの運送業務の一部を任
せていた。ところが,平成15年4月ころ,Gが仕事中に人身事故を起こ
し,運転していたトラックも大破した。Gは,同年7月ころ仕事を辞めた
が,事故から辞めるまでの間の給料については未払分があり,退職後何度
か被告人に未払給与を支払うよう請求していた。
(イ)平成18年12月16日,被告人は,同月21日までに未払給与を支
払う旨の念書をGに交付した。しかし,被告人はその後も未払給与を支払
わず,Gは,被告人宅駐車場に赤色のスプレーで「サッサと給料払え」な
どと落書きをしたり,玄関に看板を立て掛けたりするなどの嫌がらせをし
た。
イ上記経緯にかんがみれば,被告人がGに対し何らかの仕返しをしたいと考
えること自体はあり得ないことではないといえる。
しかし,Gのトラックのブレーキを故障させるために針金を持ち歩いてい
たという被告人の供述は,以下の理由から信用することができない。
(ア)自動車販売会社に勤務し,自動車整備士でもある証人Iの証言によれ
ば,トラックの車軸に針金が巻き付くことによってブレーキが故障するこ
とはほとんどあり得ず,実際にもそのような事例は報告されていないと認
められる。そうすると,そもそも針金を車軸に巻き付けてブレーキを故障
させるということは,実際にほとんど不可能である。そして,一般的に考
えても特異な方法であり,そのようなことを考え付いたという被告人の供
述は,それ自体にわかに納得し難いところがある。
(イ)もっとも,不可能で特異な方法であっても,被告人が何かのきっかけ
で針金を車軸に巻いてブレーキを故障させられると信じ込むことはあり得
る。しかし,この点についての被告人の供述は,以下のとおり不自然,不
合理である。
被告人は,捜査段階において,針金でブレーキを故障させることを思い
付いたのは,以前,自分の車のブレーキが効かなくなって修理業者に見て
もらったところ,車軸に針金が巻き付いていたためブレーキが損傷したと
言われた経験があったからであると供述し,その損傷に至ったメカニズム
も一応説明している。しかし,被告人は,当公判廷では,修理業者に自ら
トラックを持って行ったのではなく,Hに持って行ったところ,Hの誰か
から,ブレーキが針金で壊れたみたいだと言われたのであるが,前記Iの
証言を聞いて騙されたと思った旨供述し,その供述を変遷させている。G
に対する嫌がらせを思い付いたきっかけとなるエピソードについて,特に
針金でブレーキが故障したという話を誰から聞いたのかという核心部分に
ついて供述が変遷し,しかも全体的にその供述はあいまいになっている。
また,被告人は,針金の使い途についても,捜査段階ではブレーキを故
障させることに特定して供述していたのに対し,当公判廷では「例えばブ
レーキを駄目にしようとか,フロントガラスを傷付けてやろうとか,いろ
んなことを思いましたけど」と拡散させて供述している。
(ウ)被告人は,本件の三,四日前(捜査段階供述)あるいは平成19年1
2月末(公判供述)に,針金を準備して,普段着用していた作業着のポケ
ットの中に入れていたものの,Gのトラックの車軸に巻き付ける機会がな
いままポケットに入れ放しにしており,本件当日もそのままポケットに持
っていたものであると供述している。被告人が捜査段階で供述する「作業
着のポケット」が上着のポケットなのか,それとも当公判廷で供述するよ
うにズボンのポケットなのかは明らかではないが,上着にしろズボンにし
ろ,少なくとも数日間針金をポケットの中に入れ放しにしていたという被
告人の供述は,前記のような針金の形状に照らし,著しく不自然である。
また,針金を準備した時期に関しても,上記のように明らかな供述の変遷
が見られる。
(4)以上により,関係証拠から認められる事実関係に,被告人が明らかに不自
然,不合理な供述をしていることも併せ見ると,被告人は本件針金をB夫及び
B妻を緊縛する道具としてB宅に持って行ったと推認することができる。そう
すると,被告人はB宅訪問時に,同人らの反抗を抑圧する意図を有していたも
のといわざるを得ない。
4小括
以上検討したとおり,本件凶器は被告人が携行したものであること,また,B
妻の緊縛に用いた針金については,まさにその目的のために携行していたもので
あることがそれぞれ認められる。なお,後者の針金携行の目的がB妻らを緊縛す
るためであったことは,前者の本件犯行に使用された凶器も被告人が携行したも
のであるとの推認をより強める事情であると評価することができる。
そして,このように,被告人がB夫及びB妻を緊縛する道具として針金を携行
していたことや凶器となった鈍体を携行していたことに照らすと,被告人は,B
宅訪問の時点で,強盗目的を有していたものと強く推認することができる。
5被告人の経済状態について
(1)関係証拠によれば,被告人の本件犯行前の生活状況等について,次のよう
な事実を認めることができる。
ア被告人は,平成8年5月にJと再婚し,子供1人をもうけた。再婚後間も
なく,Hにいわゆる持込み運転手として就職し,平成11年2月には,a市
内に自宅を購入した。平成18年3月にHが倒産し,その後別の会社で稼働
したこともあったが,平成19年1月以降は無職になった。なお,被告人は,
平成18年7月ころからJと別居していた。
イ被告人は,遅くとも平成10年ころから消費者金融から借金をするように
なった。
また,被告人は,自宅を購入した際1500万円のローンを組んだが(月
々の返済は約8万円),平成18年12月以降は返済をせず,平成19年1
2月16日代位弁済をした保証会社から,同月23日までに連絡がない場合
には被告人宅を競売にかける旨の連絡を受けていた。なお,同日時点での残
元本は約1000万円であった。
被告人は,平成18年以降,生命保険,国民年金,固定資産税,携帯電話
料金等を滞納し,平成19年1月1日携帯電話を解約され,同年2月21日
までに携帯電話料金を支払わなければ法的措置をとる旨を通知されていた。
ウ同年2月に入ると,被告人は,近所の家に飲みかけのブランデーや焼酎を
持って赴き,代わりにカップラーメン等の食料品をもらったり,Jが留守の
ところを同女宅に上がり込み,子供の夕食を食べたり,カップラーメン等の
食料品を持ち去るなどするようになった。また,同月15日には,近所に住
むA方を訪れ,「良い仕事がある」などと言って同人宅に上がり込み,昼食
や夕食を御馳走になった上,同人のいない隙に現金約1万円等を窃取した
(第1の窃盗の事実)。その後,被告人は自宅に帰らず,車に寝泊まりする
ようになった。さらに,Jの父親に自己の所有する釣り竿2本を1万円で買
ってもらったり,借金の申込みをして断られたりした。そして,本件前日で
ある同月20日には,パチンコ店で知人からパチンコ玉をもらうなどしてタ
バコやカップラーメン等と交換した。
(2)以上によれば,本件当時,被告人は経済的に相当困窮し,食べるに困るほ
どの状態であったと認めることができる。なお,証拠により被告人の収支をた
どると,被告人はB宅訪問時,多くて8500円の所持金を有していた可能性
が存する。しかし,これは裏付けのある支出のみを集計して算出した結果であ
り,裏付けのない支出も存在することが通常であるから,当時8500円を持
っていた可能性が高いなどとは到底いえない。上記認定の被告人の行動に照ら
せば,被告人が食べるに困るほど切迫した経済状態であったと推認し得るとこ
ろ,上記のようにB宅訪問時に8500円を所持していた可能性が残ることに
よって,この推認が左右されるものではない。
このように,被告人は,本件当時,食べるに困るほどの窮迫状態にあったの
であり,このことも,被告人がB宅を訪問した時点で強盗目的を有していたこ
とを推認させる1つの事情であるということができる。
6物色状況及び奪取した金品について
(1)物色状況
ア関係証拠によれば,本件直後のB方居宅内の状況について,次の事実を認
めることができる。
(ア)B方居宅内の概況
B方居宅は木造2階建ての建物であり,玄関は1階南側にある。玄関を
入ると玄関ホールがあり,その東側は8畳居間,西側は8畳和室となって
おり,また,玄関ホールの北側突き当たりには2階へ通じる階段がある。
8畳居間の北側には台所がある。8畳和室の西側には6畳和室があり,北
側には1階北西に位置する4畳半洋室に通じる廊下がある。8畳和室及び
6畳和室の南側は縁側になっている。B夫の死体は1階8畳居間,B妻の
死体は1階8畳和室でそれぞれ発見された。
(イ)1階8畳居間の状況
同室東側北寄りには上下段に分かれた戸棚が備え付けられており,下段
の引き戸は開いていた。そして,同引き戸表面には,飛沫血痕が多数付着
しているのが認められる一方で,同戸棚内部の物やその床面には血痕の付
着は認められなかった。
同室東側南寄りには地袋が備え付けられており,その引き違い戸は,北
側,中央付近,南側の3か所が開いていた。そして,引き戸の表面にはい
ずれも飛沫血痕の付着が認められる一方で,地袋内部の物及びその床面に
は血痕の付着は認められなかった。
同地袋内部の北側には小引き出し箪笥が2つ置かれており,うち1つに
ついては,3つの小引き出しがすべて引き抜かれ,引き抜かれた小引き出
しのうち1つは地袋上に,2つは畳上等に置かれていた。地袋上に置かれ
ていた小引き出しの下には飛沫血痕の付着が認められる一方で,同引き出
しには血痕の付着は認められなかった。畳上に置かれていた小引き出しの
周辺には,薬袋が入ったレジ袋等が散乱しており,同小引き出しの下の畳
には血痕の付着が認められた。
同室内北側東寄りの戸棚の手前には電気ポットが乗った卓上ワゴンが置
かれており,同ワゴン上段の引き戸は開いており,また,下段の小引き出
しも引き出されていたが,その内部に血痕の付着は認められなかった。
(ウ)1階8畳和室の状況
同室北東にはサイドボードが置かれており,その下段の引き戸は開いて
いた。
同サイドボード表面には,飛沫血痕が多数付着しており,その下段引き
戸の内部には飛沫血痕の付着が認められた。
同室南側の座椅子付近には,郵便貯金総合通帳及びその袋(破れたも
の)が放置されており,いずれも血痕が付着していた。
(エ)1階6畳和室の状況
同室南東隅には整理ダンスが置かれており,最上段右側の引き出しが引
き出されていた。同引き出し内部には血液様の接触痕が2か所認められた。
一方,閉まっていた最上段左側の引き出しに対しルミノール化学発光検査
法及びロイコマラカイトグリーン法による血痕予備検査を行ったところ,
陽性反応が認められた。内部にはパンフレット,封書類,郵便貯金通帳の
袋等が収納され,ここにも血液様の接触痕が認められた。
イ以上をもとに,被告人の物色状況について検討する。
上記室内の状況に照らすと,1階8畳居間の戸棚,地袋及び卓上ワゴン並
びに1階6畳和室南東隅の整理ダンスは,被告人が,B夫又はB妻の殺害後
に物色したものと認めることができる。
1階8畳和室南側の座椅子付近に放置されていた郵便貯金総合通帳及びそ
の袋は,被告人が物色したいずれかの場所から取り出し,放置したものと認
められる。
なお,同室北東にあるサイドボードについては,内部にも飛沫血痕が付着
していることに照らすと,被告人が物色のために開けたと特定することはで
きない。
(2)被告人が奪取した金品について
ア前記5で検討したとおり,本件当時被告人は経済的に相当困窮していたと
いえるところ,関係証拠によれば,被告人がB方居宅を訪れた時に,所持金
は,多くとも8500円程度であったことが認められる。そして,被告人は,
本件後,領収書が残っているなどしているものだけでも,本件直後にガソリ
ン代5349円,高速代金1500円,健康ランドの利用料金3660円,
平成19年3月1日にガソリン代1241円の合計1万1750円を費消し
ていることが認められる。本件犯行日から被告人が逮捕された同月5日まで
約2週間あり,その間当然に前記出費のほか食費等もかかっていること,被
告人が本件当日は1日だけで1万円余り費消していることなどの事情に照ら
すと,被告人は1万1750円を優に越えて費消しているものと推認できる。
そうすると,被告人はB方居宅内で少なくとも1万円を奪ったものと考える
べきである。
イところで,Cは,B夫は黒色2つ折りの財布(以下「本件財布」という)
を使用しており,普段決まって,本件財布を自動車の鍵と共に1階8畳居間
の前記地袋上に置いていたが,本件の後,警察官から同財布がないと言われ,
自分でも家中を確認したが,結局見付からなかった旨を証言する。これによ
れば,本件後にB方居宅内から本件財布及び自動車の鍵が無くなっていた事
実を認めることができる。
また,Dは,本件当日の朝,B夫に最寄り駅まで車で送ってもらった際,
同人から「お小遣い必要か」などと言われ,その際同人が本件財布を手に持
っていたことを証言している。Dの供述は具体的であり,その信用性に特段
疑問を挟み込むような事情は認められない。よって,本件当日の朝の時点で
は,B夫は本件財布及び自動車の鍵を持っていたことが認められる。
そうすると,本件当日の朝にはB夫が所持していた本件財布及び自動車の
鍵が,本件後には無くなっていたということになるが,前記認定のとおり,
B夫が普段本件財布及び自動車の鍵を置いていた地袋周辺を被告人が物色し
ているのであるから,被告人がこれらを奪い取ったものと見るのが自然であ
る。そして,B夫は普段本件財布の中に三,四万円入れていたこと,本件当
日もDに小遣いを上げようとしていたことに照らすと,同財布の中には,千
円単位の金額ではなく,少なくとも1万円は入っていたと考えるべきである。
(3)以上のように,被告人は,B夫及びB妻を殺害した後,実際に戸棚やタン
スの引き出し等,金目のものが保管されていそうな場所を物色し,本件財布等
を奪っているのであり,この事実は,被告人がB宅訪問時に強盗目的を有して
いたことに沿うものということができる。
7被告人とB夫妻との従前の関係及び本件当日訪問した際の状況について
(1)関係証拠によると,次の事実を認めることができる。
アB宅は被告人宅の2件隣に位置する。被告人とB夫妻は,互いに食べ物を
お裾分けするなどのごく普通の近所付き合いをしていた。
イ平成18年5月ころ,被告人はB夫に対し,「運転手が新潟で事故を起こ
して怪我をしてしまったので,行ってやらなければならない」などと嘘を言
って,同人から10万円を借りた。これについて被告人は,一部は返済した
と供述するが,全額返し切れてはいない。
ウ被告人は,本件当日,昼ころにB宅を訪問し,B夫及びB妻と共にラーメ
ンを食べた。その後,B妻が畑仕事等のため外に出たところで,被告人はB
夫殺害に及んだ。
(2)以上のように,B夫妻とは従前から近所付き合いをして顔見知りだったこ
と,好意で10万円を貸してもらったこともあったこと,本件当日も昼に訪問
し3人でラーメンを食べるなど,当初は平和的な態様で訪問していることとい
った事情は,一見,被告人がB宅訪問当初から強盗目的があったことにそぐわ
ない事情とも考えられ,むしろ借金を申し込むために訪問したという被告人の
供述に沿う事情ということもできる。
しかし,上記のような平和的ともいえる訪問状況も,犯行を行う意図があっ
たことと直ちに矛盾するものとはいえない。平和的に訪問し,食事を御馳走に
なるなどして空腹を満たしてから犯行に及ぶ,あるいは,借金を申し込んで駄
目だったら強盗をしようと考えるということは,あり得るのである。前記認定
のとおり,被告人は本件前相当に困窮しており,既にA方で窃盗を行い,家に
帰らず車中で寝泊まりしていたのであり,前記B夫及びB妻との関係を勘案し
ても,強盗をしてでも財物を奪取したいとの考えを抱くことは十分あり得たと
認められる。そうすると,被告人とB夫妻との従前の関係や本件当日の訪問状
況が,被告人に訪問時強盗目的があったということを否定する事情であるとは
いえない。
8強盗の犯意についてのまとめ
以上検討したとおり,本件は,食べるに困るほど窮迫していた被告人が,稜が
あり,相当な長さ,重量及び硬さを備えた鈍体を持ち,針金を人を緊縛する道具
として使うつもりで携えてB宅を訪れ,その鈍体を用いてB夫を殺害し,その針
金でB妻を緊縛した上,同鈍体で同女を殺害し,その後居宅内を物色し,実際に
財布等を奪取した事案である。これら諸事情を勘案すると,被告人は,B宅訪問
時において,強盗目的を有していたものと優に推認することができる。
もっとも,被告人の困窮度合いは,食事をするのにも困る程度のものであり,
被告人宅のローンの支払にまで考えが及ぶ状況であったとは考え難いこと,強盗
の対象として選んだのが個人宅であり,検察官の主張するような「ある程度まと
まった金」が居宅内に存在する蓋然性が高いとはいえないこと,B方居宅内の物
色状況を見ても,8畳居間の一部分と6畳和室の整理ダンスに止まるものであっ
て,徹底的に物色を行ってはいないこと(なお,被告人が物色していない1階4
畳半洋室には相当な現金が残されていた)などの事情に照らすと,その強盗目的
の具体的内容については,検察官が主張するような「ある程度まとまった金」を
奪う確固たる目的があったとまでは認められず,せめて食費やガソリン代等の当
面の生活費を得ようとの目的であったと認めるのが相当である。
また,被告人がB宅を日中訪問し,ラーメンを食べるなどしていること,以前
もB夫及びB妻から借金をしたことがあったこと等にかんがみると,確定的な強
盗目的のみを有して被告人がB宅を訪問したとまで認定するのには疑問があり,
借金を申し込もうと考えていたとの被告人の供述は一概にこれを排斥することが
できない。そうすると,被告人は訪問当初,当座の生活費を得るため,まずは借
金を申し込み,断られたら鈍体や針金でB夫らの反抗を抑圧するなどして金を強
取しようとの,多分に未必的な犯意を有していたものと認めるのが相当である。
9殺意の発生時期及びその内容について
(1)関係証拠によると,被告人は,B夫及びB妻のいずれに対しても,ある程
度の作用面を有する稜のある鈍体で,その頭部や顔面を複数回,相当の力をも
って殴打したことが認められるのであり,このような犯行態様に照らすと,被
告人が,両名を確定的で強固な殺意を持って殺害したことは明らかである。
(2)次に,被告人に殺意が生じたのはいつの時点であるか検討する必要がある
ところ,これについて検察官は,B宅訪問時において,被告人は,B夫及びB
妻を殺害して金品を強取することを計画していた旨主張している。
確かに,前記認定のとおり,被告人が本件凶器となった殺傷能力のある鈍体
を携行していること,また,被告人がB夫妻と顔見知りであり,同人らに対し
て犯行を行えば,犯行発覚のためには口封じをする必要があるとも考えられる
ことは,一応検察官の主張に沿う事情といえる。
しかし,被告人が本件凶器として用いたのは鈍体であって,刃物に比べると
殺害の確実性は劣るといわざるを得ず,殺害まで計画していたとするならば,
準備する凶器としては余り適当でないといえる。また,被告人は本件前に,A
方で明らかに被告人が犯人であることが後に知られてしまう状況下でも窃盗行
為に及んでいることに照らすと,B夫及びB妻が顔見知りだからといって口封
じのため殺害を計画するのが当然とまではいい切れない。そうすると,これら
の事情は,B夫及びB妻を未必的にでも殺害することを計画していたと推認さ
せるには足りないものといわざるを得ない。
むしろ本件では,たまたま途中B妻が外に出て,被告人は順次両名の殺害を
遂げたのであるが,本来は白昼夫婦2人がいる家を訪問して,強盗殺人を完遂
するには相当な困難が伴う状況であったといえる。もし被告人が,当初から未
必的にであれ強盗殺人を行う決意をもってB宅を訪問したのであれば,犯行全
体について詳細な計画を立てて臨むことが当然と思われるところ,本件で被告
人は針金と鈍体を携行しただけで,その余の備えをした形跡は認められない。
実際にも被告人は,素手で両名を殺害し,B妻の緊縛にはその場にあったナッ
プザックの紐も用いるなどし,素手のまま物色を行い,その物色も十分行わな
いまま,足跡痕や指紋などの痕跡を多々残しつつ逃走したのであって,逐一詳
細に計画して犯行に臨んだとは到底思われない。むしろ,前記のとおり多分に
未必的な強盗目的のもと,粗雑な計画のみでB宅を訪問したと考えるのが自然
である。
よって,被告人がB方居宅訪問時において,B夫及びB妻を殺害することま
で計画していたという検察官の主張は採用できない。
そうすると,まず,B夫に対しては,前記のように,被告人が,鈍体や針金
を携行し,その反抗を抑圧してでも金品を奪取しようとの強盗目的を有してB
宅を訪問していたことは明らかであるから,被告人は,この当初の目的のもと
にB夫を殺害したものと認められる。なお,被告人は,B夫から借金を断られ,
さらに「お前が死んだら保険金が出る」などと言われたため激高し,咄嗟に殺
意を生じたのであって,強盗目的は伴っていない旨弁解するが,強盗目的に関
するこれまでの検討に照らし,また,被告人の本件犯行の状況に関する供述が
全般的に信用性に乏しいことも併せると,上記弁解は採用の限りではない。
一方,B妻については,強盗目的を有していた被告人がB夫を殺害した後,
自宅に戻ってきたB妻にB夫殺害を知られ,当初の強盗目的を達成するととも
に,口封じのために殺害を決意したと考えるのが自然である。
10総括
以上のとおり,被告人に対しては,B夫及びB妻に対する強盗殺人罪が成立す
る。なお,被告人がB方居宅から強取した金額については,被告人の物色状況や
本件後の被告人の行動等に照らすと,約1万円であったと認定するのが相当であ
る。
(法令の適用)
罰条
第1の行為刑法235条
第2の各行為各被害者ごとにいずれも刑法240条後段
刑種の選択
第1の罪懲役刑
第2の罪いずれも無期懲役刑
併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文,10条(犯情の
重いB妻に対する強盗殺人罪について無期懲役刑に
処するので,他の刑は科さない)
未決勾留日数の算入刑法21条
訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,知人方において約1万円等を窃取した窃盗(第1の事実),
知人夫婦から金員を強取しようと企ててその家を訪れ,同人らを殺害し,現金約
1万円を強取した2名に対する強盗殺人(第2の事実)の事案である。
2まず,第2の強盗殺人について検討する。
(1)被告人は,平成18年3月に勤務先会社が倒産したが,同年6月には新た
な稼働先に就職し,ある程度の収入を得ていたにもかかわらず,同年12月に
はさしたる理由もなく退職し,平成19年1月からは収入が途絶えてしまった。
住宅ローンの返済はもちろん,国民年金保険料や水道料金の支払もできなくな
り,挙げ句には,食費等の生活費にも事欠くほどの窮迫状態に陥り,当面の生
活資金を得るべく,本件強盗殺人の犯行に及んだ。
このように,犯行の動機は,食事にも困るほど経済的に逼迫するなか,食費
等の当面の生活資金を得るためであったと認められるが,そもそも被告人がそ
のような窮迫状態に陥ったのは,投げやりで無計画な生活の結果というべきで
あり,それを何ら落ち度のないB夫妻に対する凶行によって解消しようとした
のは,何とも短絡的で身勝手というほかなく,その動機に酌量の余地はない。
(2)被告人は,鈍体と針金を携えてB宅に赴いており,特に針金は,1メート
ルほどの針金2本を捩り合わせたものであって,強盗については計画的な犯行
といえる。
殺害の態様を見ると,B夫については,こたつに入って座っていた同人の頭
部等をいきなり所携の鈍体で殴打し,同人が仰向けに倒れ込んだ後も,その顔
面を目掛けて何度も鈍体を振り下ろして殴打し続け,同人を絶命させた。B妻
については,同じく鈍体でその頭部を殴打し,同女が倒れた後もその頭部等を
殴打し続け,血だらけで倒れている同女を引きずって移動させた後,準備して
いた針金等でその手足及び頸部を緊縛し,金員のありかを聞き出そうとしたも
のの,同女が答えなかったことから,さらにその顔面等を殴打し続け,同女を
絶命させた。このように,各殺害の手段方法は,執拗かつ残虐である。両名の
遺体は,いずれも血だらけで,顔面は無惨にも腫れ上がって生前の面影を残さ
ないほどに変形し,また,頭部及び顔面には多数の創傷と強度の骨折が認めら
れる。各遺体の周辺には,大量の血が流れ,さらに周囲の障壁や天井にまで血
が飛散しており,まさに目を覆わんばかりの凄惨さである。
そして,被告人は,B夫及びB妻の殺害後,6畳和室の整理ダンスを物色し
たほか,8畳居間の戸棚や地袋を物色しているが,同地袋の前には血だらけの
B夫の遺体が横たわっていたのであって,その状況を思い浮かべると戦慄を覚
えざるを得ない。
(3)被告人の凶行により,2名の尊い命が奪われたのであって,この結果自体
が極めて重大であることは論をまたない。
B夫の遺体を見ると,腕の骨折など,被告人の攻撃を受け,血を流しながら
も懸命に我が身を守ろうとした跡がある。B妻については,手足を緊縛され我
が身を守ることすらできない状態で,殴打され続けたのである。絶命に至るま
での,両名が受けた苦痛,恐怖,絶望感は,甚大であったと推測される。
B夫及びB妻は,本件現場となった自宅において,娘や孫らとの交流を楽し
みにしながら日々の生活を穏やかに過ごしていた。そのような中,以前から近
所付き合いがあり,金銭を貸すなどもしていた被告人から,突如上記のような
仕打ちを受けたのである。可愛がっていた孫らの成長を見届けることもなく,
理不尽にも生命を奪われた両名の無念さは,察するに余りある。
(4)B夫及びB妻の遺族,殊に,第1発見者となって凄惨な現場を目の当たり
にしたC及びDが受けた精神的衝撃は,計り知れない。Cは,2人の子供を1
人で育てながら,週二,三回の割合で実家を訪れ,両親から心優しい援助を受
け,愛情を注がれていた。同女は,事件後,突然現場の場面が頭に浮かんでき
てしまうことがあるというのであり,その受けた衝撃の大きさが思いやられる。
また,Dも,事件後,人に対する怖さから,暫く学校に行くことができなかっ
たというのである。C及びDは,当日B妻の誕生日を祝うのを楽しみにしてい
たのであり,偶然とはいえ余りにむごい結果といわなければならない。
Cは,当公判廷において,「あの日から私達家族は,いて当たり前だった両
親がいなくなり,心に大きな穴があいてしまい,両親がいないということが今
も受け入れられません」などと,突然両親を失った深い悲しみ,喪失感を述べ
た上で,被告人に対して「あなたには死刑を望みます」「あなたには,つらい
苦しい思いをしてほしい。両親が感じたつらい思いを,あなたにもしてほし
い」などと極刑を望む旨を訴え,峻烈な処罰感情を表明している。「今一つだ
け願いを叶えてくれるなら,両親に会いたいです。会わせてください」との同
女の悲痛な叫びは哀切極まりなく,事件から1年余りを経た現在においても,
その深い悲しみが癒えることはない。また,D及びその妹並びにB夫妻の長男
も,C同様,いずれも被告人に対して極刑を望む旨を述べている。
(5)被告人は,犯行後,殺害に用いた凶器等を投棄するなどの証拠隠滅行為に
及んだほか,2週間近く逃亡を続けていたのであり,事後の行動も芳しくない。
また,被告人は,逮捕後,B夫及びB妻を殺害したこと自体は一貫して認め
ているものの,現金を奪ったことについては当初は否認し,レシート等の客観
的な証拠を見せられてようやくこれを認めるに至った。しかしなお,B夫の殺
害より前に強盗目的を有していたことは否認したままであり,両名の殺害に用
いた凶器についても,針金を所持していた理由についても,不合理な虚偽供述
を繰り返しているほか,犯行の具体的状況について,殊更あいまいな供述に終
始しており,自己の罪責をありのままに見つめ直し,真摯に反省しようとする
態度は窺われない。
(6)本件強盗殺人は,夫婦2名が自宅で惨殺された事件として広く報道され,
殊に近隣の住人に対しては,多大な不安感と恐怖感を与えたのであって,その
社会的影響は重大というべきである。
3第1の窃盗についても,当面の生活資金を得るための犯行であると認められ,
その経緯,動機に特段斟酌すべき事情はなく,また,被害額も約1万円と少なく
ない。被告人を信用して自宅に招き入れた被害者の憤りは大きく,被告人に対す
る厳重処罰を望んでいる。
4以上検討した事情,特に,強盗殺人における殺害の手段方法の執拗性・残虐性,
結果の重大性,遺族の被害感情等にかんがみれば,被告人の刑事責任は極めて重
いというべきであり,極刑をもって臨むほかないとする検察官の意見には相応の
理由があると思われる。
しかしながら,死刑が真にやむを得ない場合において選択すべき究極の刑罰で
あることにかんがみると,被告人に対し死刑をもって臨むか否かについては,さ
らに慎重に検討を加える必要がある。
5そこで,更に検討すると,被告人のために斟酌し得る次のような事情がある。
(1)まず,動機に酌量の余地がないことは前記のとおりであるが,本件各犯行
は生活苦によるものであり,遊興や放蕩によるものとはその悪質さにおいて差
異があるといえる。検察官は,被告人がパチンコ好きである旨を指摘するが,
これが経済的破綻の主な原因であったとはうかがわれない。そして,被告人は,
釣り竿を売ったり,パチンコ玉をもらって食料品と交換するなど,耐乏生活を
一定期間続けており,困窮するや躊躇することなく直ちに強盗殺人の犯行に及
んだとまで断ずることはできない。
(2)前記「争点に対する判断」で示したとおり,被告人はあらかじめ鈍体や針
金を準備した上でB宅を訪れており,強盗の限りでは計画性が認められるもの
の,被告人が当初から両名を殺害することまで計画していたとは認められず,
強盗殺人が計画的であるとの検察官の主張は採用できないのである。
さらに,強盗の計画性について見ると,被告人は,緊縛のために準備した針
金をB夫には使用することなく同人を殺害し,B妻も殺害した後,金品の物色
もそこそこにして,指紋や足跡痕を残したまま逃走しているのであって,緻密
さや周到さに欠けるところがあったことは否定できない。そして,それは,前
記のとおり,当初は借金を申し込むつもりもあり,強盗目的自体が確定的でな
かったことのあらわれと見ることができるのである。
B夫及びB妻の殺害についても,被告人が自己の痕跡を残したまま現場を離
れていることに照らすと,口封じの必要を冷然と計算して敢行したものと断ず
ることはできないし,殺害の態様が執拗かつ残虐になったのは,一旦殴打行為
を開始した後,無我夢中で歯止めが効かなくなった側面が存することも否定し
難い。そうすると,B宅での犯行が重大な結果に至ったのは,現場における成
り行きや暴走によるところも手伝っていると見られるのであり,それは被告人
の粗暴で投げやりな人格に負う面が大きいと考えられ,それ自体責められるべ
きは当然であるけれども,本件強盗殺人が,金品を強取するために被害者を殺
害することを事前に計画した上で,その計画に基づき冷然と犯行を完遂した事
案とは,様相を異にすることは看過できないのである。
さらに,犯行後の証拠隠滅行為も,殺害に用いた凶器等を捨てたにとどまっ
ており,これをもって,他の事案と比較して殊更悪質であると評価することは
できない。
(3)被告人の捜査段階及び当公判廷での供述態度については,自己の罪責に正
面から向かい合わず,半ば投げやりな態度に終始しており,真摯な反省の情が
窺われないのは前に指摘したとおりであるが,被告人は,不十分ながら後悔や
謝罪の気持ちを表し,「極刑をもって償いたい」と述べ,また,写経をしてB
夫及びB妻の冥福を祈っているというのであり,これらが,検察官の主張する
ように,単に口先だけのもので,被告人には反省悔悟の情が皆無であると断じ
切ることはできない。被害者夫婦及びその遺族の心情を考えれば,被告人の反
省の態度は余りにも表面的であり,これを過大に評価すべきでないことは当然
であるが,被告人に死刑を選択するか否かを検討するに当たっては,なお考慮
すべき事情であるといえる。
(4)被告人は,各犯行時は61歳であったところ,成人してからは業務上過失
傷害罪による罰金1犯以外に前科はない。何度か職を転々とはしたものの,真
面目に稼働し,Hでは営業所所長という責任ある地位を得ていた。結婚して子
供をもうけるなど,通常の社会生活を送り,第1の窃盗に及ぶまで,犯罪とは
無縁な生活を送ってきたものである。そうすると,被告人は,反社会的性格が
強く,犯罪的傾向が顕著であるとまで断ずることはできない。
6以上を踏まえて,今一度被告人の量刑について検討すると,確かに被告人の罪
責は極めて重大であり,死刑を選択することが考えられないではないが,上記の
ような被告人のために斟酌し得る事情にかんがみれば,被告人に対し極刑をもっ
て臨むほかないと結論付けることには躊躇を覚えざるを得ない。むしろ,被告人
には,自己の罪責を厳粛に受け止めさせた上,その終生をかけて被害者夫婦の冥
福を祈らせ,反省と悔悟の日々を送らせるべく,無期懲役に処するのが相当であ
ると判断した。
(求刑死刑)
平成20年3月31日
さいたま地方裁判所第1刑事部
(裁判長裁判官飯田喜信裁判官岡部純子裁判官長橋政司)

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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛