弁護士法人ITJ法律事務所

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平成13年(行ケ)第554号 審決取消請求事件
平成14年5月9日口頭弁論終結
          判      決
    原   告     テクサ株式会社
    訴訟代理人弁護士  保 持   清
    同    弁理士  井ノ口  壽
    被   告     奈良恵友堂有限会社
    訴訟代理人弁護士  吉 井   昭
    同         金 本 恒二郎
    同         檜 山 洋 子
    同    弁理士  大 西 孝 治
    同         大 西 正 夫
          主      文
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
 特許庁が取消2000-31502号事件について平成13年10月30日
にした審決を取り消す。
  訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
主文と同旨
第2 前提となる事案等
 1 特許庁における手続の経緯
被告は,登録第3045609号商標(平成4年9月17日登録出願,平成7年
5月31日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標
は,「天磁牌」の漢字を横書きしてなり,第21類「食器類(貴金属製のものを除
く。)」を指定商品とする。原告は,平成12年12月14日,本件商標の登録を
取り消すとの審決を求める審判請求をし,取消2000-31502号事件として
審理されたが,平成13年10月30日「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決があり,その謄本は同年11月12日原告に送達された。
 2 審決の理由
 本件審決の理由は,別紙審決書の写し(以下「審決書」という。)に記載のとお
りである。要するに,原告は,審判請求の日以前に継続して3年以上,商標権者で
ある被告が指定商品についての登録商標である本件商標の使用をしていないとし
て,本件商標の登録を取り消すことを求めたものであるが,審決では,本件商標
「天磁牌」を付した商品(以下「本件商品」という。)は,本件商標の指定商品で
ある「食器類(貴金属製のものを除く。)」であることを否定することはできず,
商標権者である被告は,本件審判の請求の登録の前3年以内に,本件商標と社会通
念上同一の商標と認められる商標をその指定商品である「食器類(貴金属製のもの
を除く。)」に属する飲み物を入れる容器について使用していたものであって,本
件商標の登録は,商標法50条の規定により取り消すべきものではないとされたも
のである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 1 審決は,原告の主張を誤認した。
 別紙審決書2ページ21~22行において,原告(請求人)の弁駁が「「磁石水」
を作るため,永久磁石を用いた発泡剤を注入させ」と記載されているが,原告は,
「磁石水を作るため,永久磁石を用い発泡剤を注入させ」と主張したのであり,現
に,永久磁石と発泡剤は全く別物であり,永久磁石を用いた発泡剤なるものは用い
られていない。審決は,主張を誤認し,本件商品の構造を現実の商品と異なるもの
とする認識に基づいてされたものである。
2 審決は,下記の点で認定,判断を誤り,本件商品が第21類のうちの「食器
類(貴金属製のものを除く。)」に当たるとする誤りを犯した。本件商品の機能,
用途,形状等から客観的,一般的に判断すれば,本件商品は,断熱保温特性を備え
た容器であって,第21類でも「食器類」とは別の保存用ガラス瓶,水筒,魔法瓶
などが属する商品群(以下「原告主張の商品群」ともいう。)に含まれるものであ
る。
 (1) 本件商品の機能
 本件商品は,磁化水を製造する機能を備え,磁化水を保温,保冷(断熱)保存す
る容器である。しかし,審決は,本件商品が飲用する液体の保温・保冷を目的とし
た断熱効果のある「携帯用アイスボックス,米びつ,食品保存用ガラス瓶,水筒,
魔法瓶」などの飲食物を保存する容器の範ちゅうに属する商品であるとする事実を
認めることはできないとしたが,これは誤りである。
 (2) 本件商品の用途,形態など
ア 持ち手について
審決は,持ち手付きの容器であることを理由に食器であると誤認した。本件商品
の持ち手は,食品保存容器である本件商品を移動させるために,また保存されてい
る磁化水をコップなどに取り分けるために用いられるものである。本件商品の持ち
手はポットの持ち手と酷似している。
 イ 飲み口について
本件商品の飲み口は,雄ねじの設けられている外周と中間の段部と中央部からな
り,ごつごつしており,ジョッキやコップの飲み口とは違い,経口摂取に適する形
状ではない。むしろ,携帯用アイスボックス,米びつ,食品保存用ガラス瓶,水
筒,魔法瓶などが属する商品群のうち,食品保存用ガラス瓶,水筒,魔法瓶の口の
形状に酷似するものである。
ウ 容量について
本件商品は,内容を食器などに取り分けるに十分な300ミリリットルの容量を
持っている。
エ 蓋の形状について
本件商品の蓋は,ねじ結合されており,審決がビールジョッキの蓋や湯飲み茶碗
の蓋と同様な機能を持つものと認定したのは誤りである。むしろ,ねじで結合する
保存びんなどの形状に似ている。
オ 蓋の構造,目的(断熱機能,保温機能)について
本件商品の蓋には,ポリウレタン製の杯蓋保存層があるのであり,これが蓋に断
熱機能を与えている。なお,被告が本件商品として提出したものの蓋(検乙第1,
2号証)には,ポリウレタンが存在しないが,それでも空気が入っており,空気の
特性から断熱効果を有するものである。この蓋は,保温・保冷する断熱効果を上げ
る目的で用いられている。審決は,この断熱効果を看過し,「本件商品が蓋付きで
あることは,・・・ほこりや異物の混入,蒸発,こぼれを回避するためのものであ
り,液体を保温・保冷する(断熱効果を上げる)目的ではないものと認められ
る。」としたが,誤りである。
 カ 被告による商品の表示について
 審決は,被告が本件商品を「杯」「CUP」と表示して販売している事実を理由
に挙げて本件商品が食器類に当たると認定しているが,誤っている。商品区分は客
観的な基準であり,恣意により決まるものではない。
第4 被告の反論の要点
 1 原告は,審決が主張を誤認したなどというが,審決が主張を誤認していない
こと及び本件商品の構造を現実の商品どおり正しく認識していることは,審決の該
当部分の前後脈絡から明らかである。
 2 本件商品がどの商品群に属するかについては客観的,一般的に判断すべきも
のであり,本件商品が食器類(貴金属製のものを除く。)であることを否定するこ
とができないとした本件審決の認定は正当である。
 (1) 本件商品の機能
 本件商品は,機能,形態に照らしても,本件商標の指定商品である食器類(貴金
属製のものを除く。)に含まれる。本件商品は,断熱機能を有さない。また,原告
主張の商品群は,いずれも,内部の飲食物を保存・保冷保温するため,又は移動す
る際の密閉性を確保するために,蓋が不可欠とされているものばかりであって,保
存については,比較的長期間飲食物を貯えておくことが予定されている。これに対
し,本件商標の指定商品である食器類に属する商品群のうち,通常蓋を伴うものと
されるきゅうす,べんとう箱,水差しなどにあっては,いずれも比較的短時間に限
り内部に飲食物を貯えておくにすぎない。本件商品は,長ければ一晩(半日)くら
い貯えることもあるが,ごく短時間の後に飲んでしまうような場合には,蓋をしな
いで使用することもある。
 (2) 本件商品の用途,形態など
ア 持ち手について
本件商品の持ち手は,その部分を手指の通る向きに水平方向から観察すればよく
わかるように,容器に貯えられた飲み物を直接経口摂取するのに便宜なように取り
付けられたものである。
 イ 飲み口について
 飲み口の外周には,浅い雄ねじがちょうど1周限り設けてあるだけであり,中間
部分の形状は蓋の内側の形状に合致させるのではなく,経口摂取し易いように上方
に行くほど厚みが薄くかつ径も小さくなっている。また,中央部は,上下唇に挟ん
で経口摂取がし易いよう3ミリメートル強の均一の厚みの滑らかな素材からなる筒
状部分でできていて,中間部分上端よりも8ミリメートル弱上方へ飛び出ている。
ウ 容量について
本件商品は,300ミリリットルの液体が入る飲み切りサイズの容量である。
エ 蓋の形状について
蓋と容器の密着性や取り外し易さだけで蓋付きジョッキ(コップ)と水筒・魔法
瓶とを区別することができるものではない。仮に,そのような区別に合理性が存す
るとしても,本件商品の蓋は,容器部分との密着性はさほど強くなく,わずかな労
力で容易に蓋を取り外すことができる。すなわち,開口部の形状をみると,中間部
分も中央部も蓋の内側の形状に合致させておらず,外周と蓋とには1周限りの浅い
ねじが設けられているだけである。このような形状のため,蓋を取り外すのは極め
て容易である上,横にしたまま時間が経ったり,強く振るとどうしても水が漏れて
しまう。いずれにしても,原告が主張するような移動や保存を目的として作られた
容器ではない。
オ 蓋の構造,目的(断熱機能,保温機能)について
本件商品の蓋は,ほこりや異物の混入,蒸発,こぼれを回避するためのものであ
る。本件商品では,蓋,容器部分とも,保温断熱材は一切使用されておらず,断熱
機能を有しない。本件商品は,もともと保温型ではなく,原告が断熱材が注入され
ているとする乙第16号証のものとは異なる商品,製品である。
 カ 被告による商品の表示について
 広告(乙第3号証)に「杯」「CUP」という文言を引用したのは,本件商品の
客観的性状,機能と,そこから導かれる一般的用途とをふまえた宣伝文句が,発売
当初から一貫して食器類を念頭においたものであって,水筒や魔法瓶を念頭におい
たものではないということを示したものであり,被告の主観的意図を考慮するよう
に主張したわけではない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1について
 原告は,別紙審決書2ページ21~22行における説示につき,審決が原告の主
張を誤認したものである旨を主張する。
 審判段階での原告の主張内容が指摘のとおりであったとすれば,審決の記載は,
「用い」とすべきところを「用いた」と,「た」の1文字を追加する誤記をしたこ
とにより,意味するところが変わってしまう結果となったことは否めないが,別紙
審決書を精査しても,この点が審決の結論に影響を及ぼしたものとは認められない
ので,この点をもって審決を取り消すべきものとはいえない。
 2 取消事由2について
(1) 原告の主張は,審決が本件商品(本件審判請求の予告登録前3年以内に販売
のあった商品として審決が認定したもの)を第21類のうちの「食器類(貴金属製
のものを除く。)」に当たるとした認定判断が誤りであるというもので,本件商品
の機能,用途,形状等から客観的,一般的に判断すれば,本件商品は,断熱保温特
性を備えた容器であって,第21類でも「食器類」とは別の保存用ガラス瓶,水
筒,魔法瓶などが属する商品群(原告主張の商品群)に含まれるものであるなどと
いうものである。
なお,この点に関する審決の要旨は,「本件商品は,特殊な容器(CUP)ではある
が,飲み物(水・お湯・コーヒー・ジュースなど)を入れる容器であり,その形状
が前記認定のとおりの形状(蓋と一対で一体をなす持ち手付きの円筒形の容器でジ
ョッキ状をなしているもの)である点において,「食器類」であることを否定する
ことができない。」というものと認められる。
そこで,以下に検討する。
 (2) 商標法施行令1条に基づく商標法施行規則6条に規定する別表において,
第21類の四及び五は,次のように定められている。
  四 食器類(貴金属製のものを除く。)
    (一) きゅうす コップ 杯 皿 サラダボール 重箱 茶わん ディッ
シュカバー デカンター 徳利 鉢 ビールジョッキ べんとう箱水差し 湯飲み
 わん
   (二) 菓子缶 たる 茶缶 つぼ パン入れ
   五 アイスペール 泡立て器 魚ぐし 携帯用アイスボックス こし器 こ
しょう入れ,砂糖入れ及び塩振り出し容器(貴金属製のものを除く。) 卵立て
(貴金属製のものを除く。) ナプキンホルダー及びナプキンリング(貴金属製の
ものを除く。) 盆(貴金属製のものを除く。) ようじ入れ(貴金属製のものを除
く。) 米びつ サラダボール(貴金属製のものを除く。) ざる シェーカー し
ゃもじ 手動式のコーヒー豆ひき器及びこしょうひき じょうご 食品保存用ガラ
ス瓶 水筒 すりこぎ すりばち ぜん 栓抜 大根卸し タルト取り分け用へら
 なべ敷き はし はし箱 ひしゃく ふるい まな板 魔法瓶 麺棒 焼き網 
ようじ レモン絞り器 ワッフル焼き型(電気式のものを除く。)
 上記のように,四「食器類(貴金属製のものを除く。)」として,(一),(二)の
ように商品の例示がされており,五においても種々の商品が例示されている。もっ
とも,時代の流れ,商品市場の国際化などもあって,同じ商品区分に属する商品で
あっても,これらの商品名をすべて網羅し得るものではなく,また,商品によって
は複数の区分に属するものも想定されないではない。例えば,前記当事者の主張で
は,本件商品から直接に口で飲むものか否かなど様々な観点から争われているが,
上記区分の例示をみると,例えば,四「食器類」に属する商品の中でも,コップや
ビールジョッキのように直接に口で飲むことが予定されているものがある一方で,
水差しのように一定時間水を貯えて,他の容器に移し替えたり,取り分けることが
予定されているものもあるなど,上記の機能,用途からどの区分に属するかが直ち
に画一的に定まるものでもない。
 (3) そこで,本件商品についてみるに,証拠(乙第1号証の1ないし7,第2号
証の1ないし7,第3号証,検乙第1,2号証)及び弁論の全趣旨によれば,次の
事実が認められる。
 ア 本件商品には,磁石が使用されており,被告は,本件商品の広告(乙第3号
証)において,衆磁効果で強力な磁力線が生じ,この磁力によって中に入れた水な
どがイオン活性水に変化する効果があること,イオン活性水の水質が軟化し,水に
含まれる酸素量が上昇し,人体内の組織細胞と共振して生理代謝を促進させ,同時
に酸素代謝の活性を増強して,身体機能の免疫力をより高めることなどを特徴とす
る商品である旨をうたっている。そして,被告は,上記広告において,本件商品の
7ないし8分目くらいに一般に飲用する液体物(水・お湯・お茶・コーヒー・ジュ
ースなど)を入れ,数分後に飲用するよう説明し,さらに,時間が長くなればなる
ほど良好で,口当たりもよく吸収し易いので,多量に飲むことができるとしてい
る。また,眠る前に本件商品に水を入れておいて,早朝の空腹時に飲むと更に良好
であるとも説明している。なお,被告は,上記広告の中で,本件商品を「強力磁化
杯」「STRONG-MAGNETIC-CUP」と称している。
イ 本件商品(検乙第1,2号証,乙第1号証の1,2,乙第2号証の1,2)
の形態は,次のとおりである(もっとも,検乙第1号証と同第2号証では細部にお
いてサイズが若干異なる部分もある。)。
本件商品の概略の構成は,外側にほぼ円筒形の容器(ポリプロピレン製とみられ
る。以下「外側容器」という。)があり,その内側にさらに容器(陶器製とみられ
る。以下「内側容器」という。)を収めた構成となっている。その外側容器の下部
は底部がねじ結合された上,金属製のねじで固定されており,外側容器の上部には
蓋があって,ねじることで着脱できるようになっている。さらに外側容器の側面に
は,指が4本入る程度の大きさの持ち手が付いている。外側容器と内側容器との間
には,分解しないと外部からは見えないが,磁石などが収められている。
内側容器は,直円錐台が倒置されたような形状で,上方の開口部が下底面よりも
やや広くなっている。内側容器の開口部の直径は約6.5センチメートル,深さは
約12.5センチメートルであり,その7~8分目まで液体を入れると,その容量
は約300ミリリットルとなる。
上方の開口部付近の形状を仔細にみると,外側容器の上端は,蓋と結合するため
の雄ねじ状とされており(原告主張の「外周」部分),その雄ねじは外周をほぼ1
周する程度のものである(甲第4号証の写真では,ねじが3周程度あるように見え
るが,本件商品であると認められる検乙第1,2号証はこれとは異なる。)。内側
容器の上部は,外側容器の上端よりも上方に約1.5センチメートル突出する形状
となっており,その両容器の間に中間の部材が設けられている(原告主張の「中間
の段部」。以下「中間部材」という。)。中間部材は,外側容器と内側容器の間隙
を埋める形で設置され,上方に行くほど薄く,径が小さくなり,少々すぼまるよう
になっている。この部材は,内側容器に達した後は,内側容器の外壁に沿って内側
容器を包む形で立ち上がっており,それは,前記のとおり内側容器が外側容器の上
端よりも約1.5センチメートル突出しているが,その中間点あたりにまで達して
いる。すなわち,内側容器は,中間部材の上端よりも更に0.7~0.8センチメ
ートル上方に突出しており,この部分だけは内側容器が外部に露出する形となって
いる(原告主張の「中央部」)。この突出部分の内側容器の厚みは約0.3センチ
メートルでほぼ均一である。以上をまとめて,開口部付近を横から見ると,まず外
側容器の外面があり,その上端に雄ねじが1周分あり,その上に中間部材が乗って
おり,外側容器の外面より径が小さくなって段差となっている。さらに中間部材の
上方には内側容器が突出しており,径が更に小さくなってもう一段の段差となって
いる。なお,本件商品から直接に口で飲もうとすると,上記の内側容器の突出部分
と中間部材あたりが口に触れるものと推認される。
蓋についてみると,内側にねじが刻まれ,外側容器上端のねじと結合するように
なっている。蓋側のねじは,検乙第1号証では2周,検乙第2号証ではほぼ1周半
である。蓋の内側には,中央部分が円柱状に突き出した形状の部材が設けられてお
り,その円柱状の部分は,蓋の本体もこれに呼応するように,ほぼ円柱状に内側へ
突出した形,すなわち蓋の外部からみると円柱状に陥没した形となっている。その
陥没部分は,蓋上部中央の円形の小蓋で閉じられている。この蓋の陥没部分には,
断熱効果のあるポリウレタンなどの物質は存在せず,中空となっている。
 (4) 以上の事実によれば,次のように評価することができる。
ア 本件商品は,数分間ないし数時間,水などを貯えておき,その間にイオン活
性水に変えようとするものである。つまり,水などを一定時間貯えておくことが予
定されている。もっとも,貯えるのは,水などを磁力によってイオン活性水に変え
ようとすることが主な目的であって,本件商品に入れたときのままの状態を保つと
いう意味である保存とは必ずしも一致しない。
イ 次に,被告が消費者に向けて説明しているところ(前記(3)ア)によると,本
件商品から直接に口で飲むことが想定されているように理解され,少なくとも必ず
本件商品からコップ,湯飲みなどに移し替えて飲む必要があるとの説明がされてい
るとは解されないので,形態もそのような使用態様のものを予定していると認めら
れる。
そこで,前認定の開口部付近の形状をみるに,口触りの快適さがどの程度かはと
もかく,少なくとも直接に口を付けて飲むのに支障があるものとは認められず,一
般消費者が本件商品から直接に口で飲むことを避けるのが通常であるといえるよう
な構造であるとも認められない。
また,本件商品の容量は,約300ミリリットルであるが,比較的容量の小さい
湯飲みなどに取り分けて使用することもあり得るとは思われるものの,むしろ,容
器から直接に飲むことが予定されている(マグ)カップにおいて,300ミリリッ
トルないしはそれ以上の容量を有するものも決して珍しくないことは公知であり
(例えば,乙第12号証の1ないし3などもその程度の容量があることが認められ
る。),少なくとも本件商品から直接に飲むことが不自然な容量ではない。
なお,持ち手の構造は,手で握った場合のグリップ感などに加え,本件商品自体
が通常のコップよりもやや重めであるものと認められることなどからすると,水な
どを入れた本件商品を口元に運んで保持することが極めて自然にできるかといえば
疑問の余地もないではないが,それが通常の態様でないとか,一般の消費者ならそ
のような使い方を避けるというようなものであるとも認められない。
以上から本件商品の通常の使用の仕方を推認すると,他の容器に移し替えたり,
取り分けて飲むことも予想されるものの,本件商品から直接に口で飲むことも十分
に予測し得るところであり,本件商品自体,それに耐え得る構造,形態となってい
るものと認められる。
ウ 本件商品は蓋を有するが,保存容器に蓋があるのはもとよりであるが,食器
類に属するコップ,ジョッキでも蓋を有するものがあることが認められる(乙第1
2号証の1ないし7など)。また,本件商品の蓋は,ねじ結合するようになってい
るが,外側容器に刻された雄ねじは外周をほぼ1周する程度であることのほか,前
認定の形態に照らせば,強固に密封するような結合ではないと認められること,本
件商品に水などを貯える目的が前記アのとおりであること,後記エでも述べるとお
り,蓋に断熱機能があるとはいい難いことなどからすると,本件商品の蓋の主な機
能は,審決が認定するとおり,イオン活性水ができあがるまでの一定時間水などを
入れておく間,ほこりや異物の混入,蒸発,こぼれを回避することにあるものと認
められる。
エ 蓋の断熱機能についてみるに,本件商品の蓋には前認定のとおり,ポリウレ
タンなどの断熱効果を有する物質は存在しない。もっとも,原告は,蓋の中空に空
気があるだけでも断熱効果を有するとも主張する。確かに蓋がない場合と比べれば
一定の保温,保冷の効果はあるであろうが,ポリウレタンなどの断熱効果を有する
物質を断熱材として使う場合とは異なるものであることは否定できず,中空のまま
で断熱材を用いない場合にまで断熱機能のある商品であると認めることは困難であ
る。
(5) 以上に認定したような本件商品の機能,形態等に照らせば,「食器類」であ
るコップやジョッキのように,本件商品から直接に口で飲むことが,不可能ではな
いばかりか何ら不自然ではなく,通常の使用方法として十分に成り立ち得るもので
あるものと認められるほか,その余の点をみても,本件商品を「食器類」に含まれ
るものとすることを妨げる事由はないものと認められる。したがって,本件商品
は,水などの飲料水を一定時間貯えた上で飲むという使用形態となる点で,コップ
やジョッキに比べてやや特殊な面も有するものの,本件商標の指定商品である「食
器類(貴金属製のものを除く。)」に該当するものといって差し支えない。
原告は,本件商品が保温,保冷(断熱)保存する容器であり,保存用ガラス瓶,
水筒,魔法瓶などの属する商品群(原告主張の商品群)に含まれるものであって,
「食器類(貴金属製のものを除く。)」には含まれないなどと主張するが,上に判
示したことに加え,本件商品は,断熱機能を有するものとは認めるに足りないこ
と,本件商品は,水などを一定時間貯えておくことを当然の前提とするが,水など
を磁力によってイオン活性水に変えようとすることに主な目的があり,そのままの
状態を保つという意味である保存とは必ずしも一致しないことなどからすれば,こ
の主張は採用することができない。結局,原告の取消事由2の主張は理由がない。
そうすると,被告が本件審判請求の登録前3年以内に本件商標と社会通念上同一
の商標と認められる商標をその指定商品「食器類(貴金属製のものを除く。)」に
属する飲み物を入れる容器について使用していたものとして,本件商標の登録は,
商標法50条の規定により取り消すべきでないとした本件審決は,正当として是認
し得るものであり,これを取り消すべき事由は見当たらない。
 3 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決には
これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官   塩   月   秀   平
            裁判官   古   城   春   実
            裁判官   田   中   昌   利

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