弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人金岡昭,同小林紀歳,同江原勲,同鈴木朗の上告受理申立て理由一な
いし四について
1本件は,東京都千代田区a町b丁目c番dの土地(以下「本件土地1」とい
う)及び同番eの土地(以下「本件土地2」といい,これらを併せて「本件各。,
土地」という)の固定資産税の納税義務者である被上告人が,東京都知事によっ。
て決定され,東京都千代田都税事務所長によって土地課税台帳に登録された本件各
土地の平成6年度の価格について,上告人に対して審査の申出をしたところ,上告
,,人から平成7年6月2日付けで本件土地1の価格を10億9890万1690円
(「」。)本件土地2の価格を1103万3010円とする決定以下本件決定という
を受けたため,本件決定のうち本件土地1について1億3629万2820円を超
える部分,本件土地2について91万8500円を超える部分の取消しを求めた事
案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
()地方税法(平成11年法律第15号による改正前のもの。以下「法」とい1
う)349条1項は,土地に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準を,。
当該土地の基準年度に係る賦課期日における価格で土地課税台帳又は土地補充課税
台帳(以下「土地課税台帳等」という)に登録されたものとすると定め,同項に。
いう価格について,法341条5号は,適正な時価をいうと規定する。平成6年度
は上記の基準年度であり,これに係る賦課期日は,法359条の規定により平成6
年1月1日である。
()法388条1項は,自治大臣が,固定資産の評価の基準並びに評価の実施2
の方法及び手続を定め,これを告示しなければならないと規定し,同項に基づき定
められた固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。平成8年自治省告
示第192号による改正前のもの。以下「評価基準」という)は,主として市街。
地的形態を形成する地域における宅地については,市街地宅地評価法によって各筆
の宅地について評点数を付設し,これに評点1点当たりの価額を乗じて,各筆の宅
地の価額を求めるものとする。この市街地宅地評価法は,①状況が相当に相違す
る地域ごとに,その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定し,②
標準宅地について,売買実例価額から評定する適正な時価を求め,これに基づいて
,,上記主要な街路の路線価を付設しこれに比準してその他の街路の路線価を付設し
③路線価を基礎とし,画地計算法を適用して各筆の宅地の評点数を付設するもの
である。
()自治事務次官は,平成6年度の土地の価格の評価替えに当たり,各都道府3
県知事あてに「固定資産評価基準の取扱いについて」の依命通達の一部改正に,「
ついて(平成4年1月22日自治固第3号。以下「7割評価通達」という)を」。
発出し,宅地の評価に当たっては,地価公示法による地価公示価格,国土利用計画
法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による
鑑定評価から求められた価格(以下「鑑定評価価格」という)を活用することと。
し,これらの価格の一定割合(当分の間この割合を7割程度とする)を目途とす。
ることを通達した。
()自治省税務局資産評価室長は,各都道府県総務部長及び東京都主税局長あ4
てに「平成6年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて(平成4年11月2,」
6日自治評第28号。以下「時点修正通知」という)を発出し「平成6年度の。,
評価替えは,平成4年7月1日を価格調査基準日として標準宅地について鑑定評価
価格を求め,その価格の7割程度を目標に評価の均衡化・適正化を図ることとして
いるが,最近の地価の下落傾向に鑑み,平成5年1月1日時点における地価動向も
勘案し,地価変動に伴う修正を行うこととする」と通知した。。
()本件決定においては,評価基準にのっとり,本件土地1と本件土地2を15
画地として評点数が付設された。この画地が沿接する正面路線及び側方路線の路線
価を付設する上で比準した各主要な街路の路線価の基となった標準宅地(以下,正
面路線価の基準となった標準宅地を「標準宅地甲」といい,側方路線価の基準とな
った標準宅地を「標準宅地乙」という)の価格の評定に際し,7割評価通達及び。
時点修正通知が適用された。すなわち,本件決定は,標準宅地甲については,価格
調査基準日である平成4年7月1日における鑑定評価価格を基に同5年1月1日ま
での時点修正を行い,その7割程度である910万円をもって,標準宅地乙(地価
公示法2条1項の標準地でもある)については,同日の地価公示価格の7割であ。
る560万円をもって,それぞれの1㎡当たりの適正な時価とし,これを基礎に,
本件各土地の価格を前記1のとおり決定した。
()標準宅地甲については,平成5年1月1日から同6年1月1日までに326
%の価格の下落があり,同日におけるその1㎡当たりの客観的な交換価値は,89
0万6028円である。標準宅地乙については,平成5年1月1日から同6年1月
1日までに33.75%の価格の下落があり,同日におけるその1㎡当たりの客観
的な交換価値は,同日の地価公示価格の530万円である。
()上記()の標準宅地の客観的な交換価値に基づき,評価基準に定める市街地76
宅地評価法にのっとって,本件土地1及び本件土地2の価格を算定すると,それぞ
れ10億7447万9380円及び1078万7810円となる。
3原審は,①評価基準は,賦課期日における標準宅地の適正な時価(客観的
な交換価値)に基づいて,所定の方式に従って評価をすべきものとしていると解す
べきであり,その方式には合理性があるものの,本件決定で評定された前記2()5
の各標準宅地の価格は,平成6年1月1日のその客観的な交換価値を上回る,②
同日における各標準宅地の客観的な交換価値と認められる前記2()の価格に基づ6
き,評価基準に定める市街地宅地評価法にのっとって,本件各土地の価格を算定す
ると,前記2()の価格となるから,本件決定のうちこれを上回る部分は違法であ7
り,同部分を取り消すべきであると判断した。
論旨は,原審のこの判断には,法341条5号,349条1項,388条1項の
解釈適用の誤りがある旨をいう。
4法410条は,市町村長(法734条1項により特別区にあっては東京都知
事。以下同じ)が,固定資産の価格等を毎年2月末日までに決定しなければなら。
ないと規定するところ,大量に存する固定資産の評価事務に要する期間を考慮して
賦課期日からさかのぼった時点を価格調査基準日とし,同日の標準宅地の価格を賦
課期日における価格の算定資料とすること自体は,法の禁止するところということ
はできない。しかし,法349条1項の文言からすれば,同項所定の固定資産税の
課税標準である固定資産の価格である適正な時価が,基準年度に係る賦課期日にお
けるものを意味することは明らかであり,他の時点の価格をもって土地課税台帳等
に登録すべきものと解する根拠はない。そして,土地に対する固定資産税は,土地
の資産価値に着目し,その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税で
あって,個々の土地の収益性の有無にかかわらず,その所有者に対して課するもの
であるから,上記の適正な時価とは,正常な条件の下に成立する当該土地の取引価
格,すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。したがって【要旨1】土地,
課税台帳等に登録された価格が賦課期日における当該土地の客観的な交換価値を上
回れば,当該価格の決定は違法となる。
他方,法は,固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を自治大臣
の告示である評価基準にゆだね(法388条1項,市町村長は,評価基準によっ)
て,固定資産の価格を決定しなければならないと定めている(法403条1項。)
これは,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村全体の評価の
均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消するために,
固定資産の価格は評価基準によって決定されることを要するものとする趣旨である
が,適正な時価の意義については上記のとおり解すべきであり,法もこれを算定す
るための技術的かつ細目的な基準の定めを自治大臣の告示に委任したものであっ
て,賦課期日における客観的な交換価値を上回る価格を算定することまでもゆだね
たものではない。
そして,評価基準に定める市街地宅地評価法は,標準宅地の適正な時価に基づい
て所定の方式に従って各筆の宅地の評価をすべき旨を規定するところ,これにのっ
とって算定される当該宅地の価格が,賦課期日における客観的な交換価値を超える
ものではないと推認することができるためには,標準宅地の適正な時価として評定
された価格が,標準宅地の賦課期日における客観的な交換価値を上回っていないこ
とが必要である。
5【要旨2】前記事実関係によれば,本件決定において7割評価通達及び時点
修正通知を適用して評定された標準宅地甲及び標準宅地乙の価格は,各標準宅地の
平成6年1月1日における客観的な交換価値を上回るところ,同日における各標準
宅地の客観的な交換価値と認められる前記2()の価格に基づき,評価基準にのっ6
とって,本件各土地の価格を算定すると,前記2()の各価格となるというのであ7
る。そうすると,本件決定のうち前記各価格を上回る部分には,賦課期日における
適正な時価を超える違法があり,同部分を取り消すべきものであるとした原審の判
断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。論旨は採用す
ることができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官深澤武久裁判官横尾和子裁判官
泉徳治裁判官島田仁郎)

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