弁護士法人ITJ法律事務所

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平成14年7月11日宣告 
平成14年特(わ)第312号
所得税法違反
主文
被告人を懲役1年2月及び罰金5500万円に処する。
その罰金を完納することができないときは,金20万円を1日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,東京都世田谷区A町B丁目C番D号に居住し,東京都港区E町F丁目
G番H号IビルJ階において,K税理士事務所の名称で税理士業を営んでいたもの
であるが,自己の所得税を免れようと企て,売上を除外するなどの方法により所得
を秘匿した上,
第1 平成9年分の実際総所得金額が1億9620万6023円であった(別紙1
の所得金額総括表等参照)にもかかわらず,平成10年3月9日,同区L町M丁目
N番0号所轄P税務署において,同税務署長に対し,所得金額が3268万796
3円でこれに対する所得税額が136万300円である旨の虚偽の所得税確定申告
書(平成14年押第725号の1)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,も
って,不正の行為により同年分の正規の所得税額6788万700円と前記申告税
額との差額6652万400円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ
第2 平成10年分の実際総所得金額が2億4136万1514円であった(別紙
2の所得金額総括表等参照)にもかかわらず,平成11年3月12日,前記P税務
署において,同税務署長に対し,所得金額が3143万5116円でこれに対する
所得税額が125万6100円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成14年押
第725号の2)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為
により同年分の正規の所得税額8510万1200円と前記申告税額との差額83
84万5100円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ
第3 平成11年分の実際総所得金額が2億4246万5870円であった(別紙
3の所得金額総括表等参照)にもかかわらず,平成12年3月9日,前記P税務署
において,同税務署長に対し,所得金額が3498万970円でこれに対する所得
税額が12万700円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成14年押第725
号の3)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為により同
年分の正規の所得税額5719万2900円と前記申告税額との差額5707万2
200円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ
第4 平成12年分の実際総所得金額が1億9638万7490円であった(別紙
4の所得金額総括表等参照)にもかかわらず,平成13年3月9日,前記P税務署
において,同税務署長に対し,所得金額が3540万9278円でこれに対する所
得税額が10万3000円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成14年押第7
25号の4)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって,不正の行為によ
り同年分の正規の所得税額4554万7900円と前記申告税額との差額4544
万4900円(別紙5のほ脱税額計算書参照)を免れ
たものである。(別紙添付省略)
(量刑の理由)
本件は,元Q国税局長で退職後税理士を開業した被告人が,4年分にわたり,収
入の一部を除外するなどの方法により,自己の所得を秘匿して所得税を免れた期限
内過少申告ほ脱の事案である。
被告人は,平成9年分から平成12年分まで,各年とも2億円弱ないし2億40
00万円余りの所得がありながら,約3100万円ないし3500万円の所得しか
申告せず,所得合計約7億4000万円を秘匿したものであり,これによるほ脱税
額は,合計2億5200万円余りの多額に上る。通算ほ脱率は約70パーセントで
あるが,これは源泉徴収税額等の控除税額を考慮に入れた数値であって,それを除
いた現実に納めるべき所得税額に対するほ脱税額の割合は,通算すると約98.9
パーセントの高率に及んでいる。このような金額や数値をみるだけでも,本件の結
果は重大である。
被告人は,退職時にR国税局から多数の顧問先企業の斡旋,紹介を受け,これら
企業から支払われる顧問料を中心に税理士として月平均2000万円前後の収入を
得るようになって,その金額の多さに目がくらみ,税金を少なくしたいという欲求
に駆られて本件犯行に及んだものである。被告人は,顧問先企業との契約関係が2
年程度で切れて収入が激減することへの不安があったと弁解するが,脱税の動機と
して特段斟酌すべき事情であるとはいえない。被告人も認めるように,たとえそう
なっても,年金収入等により普通の生活を送ることは可能だったはずである。しか
も,実際には契約関係が途切れた企業の数はそれほど多くなく,新たな顧問先企業
を獲得したこともあり,開業から3,4年後も収入の規模は維持されていたのに,
なおも脱税を続けた
のであって,結局,本件は金銭欲に基づく犯行といわざるを得ず,動機において酌
量の余地はない。また,被告人は,高額納税者として公示されるのを避けたいとい
う気持ちもあったと供述しており,各年分の確定申告による所得金額が3000万
円台に押さえられたのは,そのような配慮が働いたためであると認められる。しか
し,自己の収入の高さが正当なものであるならば,躊躇うことなく有りの儘を申告
すればよいのであって,目立ちたくないという被告人の考え方は,脱税を正当化す
るものでなく,むしろ利己的な動機として厳しく非難されるべきである。
犯行の態様についてみると,被告人は,顧問料等の一部分を選んで収入額を定め
るとともに,税理士業務に係る経費の情報を基に適宜「経費率」を決めて経費額を
算出し,これを控除するなどの方法により,虚偽過少の所得金額を申告していたも
のである。いわゆる「つまみ申告」という単純な手口であるが,所轄税務署に源泉
徴収税額が把握されやすい状況にあり,容易に脱税が発覚する可能性があったとこ
ろ,これについて,被告人は,元国税幹部の自分に対する税務調査はないであろ
う,仮にあっても修正申告をすることで済ませてもらえるであろうという「甘えと
奢り」があったため,犯行を思い止まることはなかった旨供述している。この供述
にかんがみると,本件は,犯行態様の点においても,大胆かつ悪質と評価すべきで
あり,加えて,税理士
開業の翌年分から4年分連続して犯行を繰り返したことの悪質性も,看過すること
ができない。
被告人は,高等学校を卒業してR国税局に採用され,数箇所の税務署で租税の徴
収係を担当した後,主に法人税調査を行う調査部門で順次昇進し,さらに,国税庁
首席監察官を経て,Q国税局長まで上り詰め,その後退職して直ぐに税理士を開業
し本件犯行に至ったものである。このように,被告人は,長い間租税の徴収や調査
の現場で働いた後,国税職員の不正や非行をただす最高責任者の地位に就くなど,
税務行政の枢要ポストを歴任しながら,退職後間もなく,それまでの職務において
要求されていた厳しい倫理観と完全に背馳する脱税という犯罪行為に及んだのであ
って,本件が,税務行政への信頼を根底から失墜させ,国民の納税意欲に深甚な悪
影響を及ぼしたことは,明らかである。また,本件は,税理士による脱税の事犯で
あって,税務に関す
る専門家として納税義務の適正な実現を図るべき税理士の使命と責任を踏みにじ
り,税理士制度に対する信頼を揺るがした点も,軽視することができない。前述し
たほ脱税額の多さ等にこれらの事情を併せ考えると,本件の結果は誠に重大である
といわなければならない。
以上を総合すると,本件の犯情は甚だ芳しくなく,被告人の刑責は相当に重いと
いうべきである。
他方,本件については,次のような斟酌すべき事情が認められる。まず,被告人
は,本件事実を全て認めて反省の態度を示し,本件に係る本税及び附帯税を早期に
全額納付した。また,事件発覚の直後に,税理士登録の抹消手続をとり,税理士事
務所を閉鎖して廃業した。前科・前歴はなく,64歳と比較的高齢である。さら
に,自業自得とはいえ,数次にわたる報道により多大な打撃をこうむるなど,相当
程度の社会的制裁を受けている。
しかしながら,これらの有利な事情を十分考慮しても,上記のような本件の犯情
の悪さと被告人の刑責の重さに照らすと,本件が懲役刑の執行猶予を相当とする事
案であるとは認められず,被告人に対し,主文の懲役刑及び罰金刑を科するのが相
当であると判断した。
(求刑ー懲役2年6月及び罰金8000万円)
平成14年7月11日
東京地方裁判所刑事第8部
裁判長裁判官 飯 田 喜 信
裁判官 佐 藤   基
裁判官 富 張 邦 夫

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