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平成一四年七月四日宣告 
昭和五〇年合(わ)第一九一号、第二二三号、第二三九号、平成七年刑(わ)第六七七

判         決
被告人A子
 右の者に対する爆発物取締罰則違反、殺人未遂、偽造有印私文書行使被告事件に
ついて、当裁判所は、検察官新倉英樹、同岡田馨之朗、私選弁護人川村理(主
任)、同内田雅敏、同藤田正人各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主         文
      被告人を懲役二〇年に処する。
      未決勾留日数中二〇〇〇日を右刑に算入する。
理         由  
【背景事情】
一 被告人の経歴等
 被告人は、昭和二五年×月×日に山口県長門市で出生し、山口県立の高校を卒業
した後、昭和四四年四月、北里大学衛生学部衛生技術学科に進学した。
 このころ、被告人は、多くの大学生が学生運動に参加して大学解体を訴えなが
ら、学生としての特権を享受し続けているなどと感じて、学生運動の在り方に疑問
を抱いていたが、昭和四六年一一月、高校時代の友人が逮捕され、東京拘置所に差
し入れに行ったりしたことをきっかけに、救援活動に関わり、同年一二月ころから
は、株式会社a1解雇撤回闘争にも関わるようになって、B2やA1らと知り合
い、同人らから影響を受けるとともに、昭和四七年一〇月、同人らとともに大韓民
国(以下「韓国」という。)へ旅行した際、現地の人々との話合い等を通して、日
本の戦争責任を痛感し、日本は第二次世界大戦後も企業の進出等によって韓国を経
済的に侵略しているなどと考えるに至り、次第に、日本の植民地支配や戦争に関す
る責任の問題、戦後にお
ける日本のアジア諸国への経済進出によって生じる問題等に関心を深めていった。
二 東アジア反日武装戦線狼グループの結成の経緯等
 A2は、昭和四二年三月に北海道立の高校を卒業した後、大阪府内の大学を受験
したが失敗し、大阪府内で日雇労働等に従事するうち、在日朝鮮人問題や被差別部
落の問題に関心を持つようになり、翌年上京して三里塚闘争等のデモや集会に参加
するなどした後、昭和四四年四月、法政大学文学部史学科に入学した。
 A4は、昭和四二年に東京都内の私立高校を卒業した後、昭和四四年四月、法政
大学文学部史学科に入学した。
 B1は、宮城県立の高校を卒業した後、同月、法政大学文学部史学科に入学し
た。
 A2は、法政大学入学後、同級生であったA4、B1らと知り合い、同人らは、
グループを作って、マルクス・レーニン主義等に関する研究会を開きながら、全共
闘運動に参加していたが、そうした活動を通して、大学における大衆運動の限界を
感じるとともに、学生の特権意識を自己否定しなければならないなどと考えるに至
り、昭和四五年ころ、相次いで法政大学を退学した。
 その後もA2、A4、B1らは、研究会を開いて革命の必要性等を話し合ってい
たが、同年秋ころ、A2と同棲するようになったA3もこの研究会に参加するよう
になった。このころ、同人らは、次第に、ゲバ棒や投石によって権力に攻撃を加え
る闘争には限界があり、権力による侵略を阻止するためには、爆弾等による武装闘
争が必要であると考えるようになり、昭和四六年一月ころ、北海道釧路市内の海岸
において、小さな手製爆弾の爆発実験を行い、その後、意見の対立等によっていっ
たんグループを解散したものの、同年一〇月ころ、A2、A3、A4らが爆弾を使
った武装闘争を開始すべきであるという結論に達して集結し、同年一二月一二日、
静岡県熱海市伊豆山中のz1観音像及びz2の碑に手製爆弾を設置して爆発させ、
以後、メンバーの入
れ替わり等を経ながら、昭和四七年四月六日ころ、横浜市鶴見区内のz3寺納骨堂
付近に手製爆弾を設置して爆発させ、同年一〇月二三日、北海道旭川市内の「z4
の群像」という彫像及び札幌市内の北海道大学z5資料室にそれぞれ手製爆弾を設
置して爆発させた。
 昭和四八年夏ころ、A2、A3、A4らは、今後も武装闘争を継続していくため
には組織としての基礎を固めなければならないと考え、自分たちのグループを「東
アジア反日武装戦線狼」(以下「狼グループ」という。)と名付けるとともに、そ
の後、反日本帝国主義という狼グループの思想的背景を明らかにして武装闘争の実
践に向けた問題提起をし、同様の考え方をもって武装闘争を実行する同志が増える
ことなどを期待して、都市ゲリラ爆弾闘争の教本を作ることとし、都市ゲリラ兵士
として配慮すべき事柄や爆弾の製造方法等を具体的に記載した「腹腹時計 都市ゲ
リラ兵士の読本VOL.1」と題するパンフレット(以下「腹腹時計」という。)
を執筆し、昭和四九年三月ころ、約二〇〇部の「腹腹時計」を左翼関係の書籍を取
り扱う書店等へ郵送
するなどして出版した。
 一方、昭和四八年春ころ、A2は、以前に知り合ったA5と再会し、連絡を取り
合ってアイヌ問題や朝鮮問題等について話し合ううちに、お互いが革命のために武
装闘争を行う意思を有していることを確認し合い、昭和四九年春、A5が狼グルー
プに加入した。
 その後、狼グループは、同年八月、天皇を暗殺するため天皇が乗った特別列車の
通過する荒川鉄橋を爆破しようと準備をしたが、実行に至らず、同月三〇日、東京
都千代田区〈以下省略〉にあったz6重工業株式会社本社ビル玄関付近に手製爆弾
を仕掛けて爆発させ(以下「z6重工事件」という。)、八名の死者及び多数の重
軽傷者を出し、さらに、同年一一月二五日、東京都日野市にあったz7株式会社中
央研究所内に仕掛けた手製爆弾を爆発させた。
三 東アジア反日武装戦線大地の牙グループの結成の経緯等 
被告人は、北里大学を卒業した後、昭和四八年四月、b1診療所に臨床検査技師
として就職したが、昭和四九年四月、転職して北里大学医学部免疫微生物学教室に
技術員として勤務し始めた。
 このころまでに、被告人は、A1と交際するようになっていたが、同月ころ、A
1から「腹腹時計」を渡され、A1が現在の自分たち日本人の生活を否定する形で
武装闘争を開始しようとしていることなどを知り、A1を支援することを考えるよ
うになっていた。
 同年五月から六月にかけて、A1は、以前から知り合いであったA5から東アジ
ア反日武装戦線への参加を勧誘されていたが、同年五月下旬ころから、被告人に対
し、「腹腹時計」に沿って闘争に参加する準備を進めようと思っている旨話した
上、一緒に闘争に参加することを求めるようになった。被告人は、同年七月ころ、
A1の行う非合法闘争に協力することを約束し、それまでの友人との接触を断つた
めに、友人らには田舎に帰る旨話して引っ越しをし、以後、A1と頻繁に会って社
会主義革命運動等に関する学習会を重ねていた。
 被告人は、z6重工事件の翌日以降、z6重工事件の評価について頻繁にA1と
話し合った末、同年九月ころ、A1とともに東アジア反日武装戦線の武装闘争に参
加することを決意し、そのころ、A1は、自分たちのグループを「東アジア反日武
装戦線大地の牙」(以下「大地の牙グループ」という。)と名付けた。
四 東アジア反日武装戦線さそりグループの結成の経緯等
 A6は、山口県立の高校を卒業して、昭和四二年四月に東京都立大学人文学部哲
学科に進学した後、サルトル研究会に参加したところ、同研究会の一人が中核派に
所属していたことから、次第に三派系全学連の活動に興味を持つようになり、砂川
基地拡張阻止闘争、羽田闘争等のデモや集会に参加するなどしていた。
 A7は、明治学院大学の系列高校を卒業して、昭和四六年四月に同大学社会学部
社会学科に進学した後、狭山差別裁判糾弾行動委員会等に参加し、被差別部落問題
等の研究や学生寮廃寮反対運動等をしていた。
 A6は、昭和四七年夏ころから山谷や高田馬場等で日雇労働者として生活し、そ
の経験等を通して、建設資本こそ日本の日雇労働者、朝鮮人及び中国人を搾取して
きた日本帝国主義の先兵であると認識するようになり、昭和四八年ころ、山谷の越
冬闘争の際、A7と知り合い、同人らとサークルを結成し、日雇労働者問題等につ
いて話し合うなどしていたが、昭和四九年七月ころ、このサークル活動を通じて、
A8と知り合った。
 また、A6は、昭和四八年秋ころ、同様に日雇労働をしていたA5と知り合い、
建設資本の問題や韓国問題等について話し合っていたが、昭和四九年六月ころ、A
5から「腹腹時計」を手渡され、同年七月には、A2を紹介され、以後同人と接触
するうちに武装闘争が必要であると考えるようになり、このことをA7らに伝え
た。
 同年九月ころ、A6は、A2から、z6重工事件は同人らの犯行である旨聞いて
衝撃を受けるとともに、被害が大きかったことについて同人を批判したが、他方
で、東アジア反日武装戦線の闘争に参加していきたいと考えるようになり、同年一
一月になって東アジア反日武装戦線への参加を決意し、A7及びA8もA6の誘い
を受けて参加を決め、右三名は、自分たちのグループを「東アジア反日武装戦線さ
そり」(以下「さそりグループ」という。)と名付け、同年一二月二三日、z8建
設株式会社建築本部内装センターの工場に手製爆弾を仕掛けて爆発させた(以下
「z8建設事件」という。)。
【犯行に至る経緯及び罪となるべき事実】
(判示第一の犯行に至る経緯)
 被告人及びA1は、第二次世界大戦後、日本人が戦争責任を忘れ、アジア諸国を
経済的に侵略することで繁栄を得て、漫然と生活していることに対し、爆弾闘争に
よって企業の中枢を破壊するなどしてその経済的侵略を阻止し、かつ、日本人に戦
争責任を意識させ、反省させなければならないなどと考え、手始めに、旧q1財閥
系列の主要企業を攻撃することとし、調査の結果等から、q1物産株式会社(以下
「q1物産」という。)はその歴史的沿革が古く、q1グループの中で中枢的機能
を担っていると判断して、爆弾闘争の攻撃対象にすることとした。
(罪となるべき事実)
第一 被告人は、A1と共謀の上、治安を妨げ、人の身体・財産を害する目的で、
かつ、爆発地点付近に現在する多数の者が死亡するかもしれないことを認識しなが
ら、それでもかまわないという意思で、昭和四九年一〇月一四日午後〇時三五分こ
ろ、東京都港区〈以下省略〉所在のq1物産館三階第三広間において、約三・六リ
ットル入り金属製湯たんぽに塩素酸ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする
混合爆薬を詰め、これに改造した小型目覚まし時計、乾電池、ガス点火用ヒーター
等から成る起爆装置を接続させた時限式手製爆弾一個を同第三広間の西側壁際のコ
ンクリート床上に設置し、同日午後一時一五分ころ、これを爆発させ、もって、爆
発物を使用するとともに、右爆発により、同所付近に居合わせた別表(一)記載のV
1ら一二名に対し、
同表記載の傷害を負わせたが、同人らを殺害するに至らなかった。
(判示第二の犯行に至る経緯)
 判示第一の事件の後、A1は、企業に対する爆弾闘争を継続していくため、次の
攻撃対象を模索していたが、被告人との話合い等を通して、q2建設株式会社は、
その前身であるr1財閥が、第二次世界大戦前は日本帝国主義の一翼を担い、戦
後、q2建設株式会社(以下「q2建設」ともいう。)と社名を改めた後も海外を
経済的に侵略していることから、q2建設に対し、爆弾闘争によって自覚と反省を
促さなければならないなどと考え、爆弾闘争の攻撃対象にすることとした。被告人
は、昭和四九年一〇月二〇日ころから、大地の牙グループの連絡員として、狼グル
ープの連絡員であったA2としばしば会談を持ち、その過程でq2建設に対する爆
弾闘争についても謀議を重ねた。 
(罪となるべき事実)
第二 被告人は、A1、A2、A3、A4及びA5と共謀の上、治安を妨げ、人の
身体・財産を害する目的で、かつ、爆発地点付近に現在する多数の者が死亡するか
もしれないことを認識しながら、それでもかまわないという意思で、昭和四九年一
二月一〇日午前六時三〇分ころ、東京都中央区〈以下省略〉所在のq2建設株式会
社本社のあるq2建設ビル一階の南側角付近路上において、石油ストーブ用カート
リッジタンクに塩素酸ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする混合爆薬を詰
め、これに改造した小型目覚まし時計、乾電池、手製雷管等から成る起爆装置を接
続させた時限式手製爆弾一個をq2建設ビルのピロティと南東側道路端との段差部
分に敷かれた鉄製踏板下のコンクリート製L字型側溝上に設置し、同日午前一一時
〇二分ころ、これを
爆発させ、もって、爆発物を使用するとともに、右爆発により、同所付近に居合わ
せた別表(二)記載のV13ら八名に対し、同表記載の傷害を負わせたが、同人らを殺
害するに至らなかった。
(判示第三の犯行に至る経緯)
 A6は、さそりグループが行ったz8建設事件の後、爆弾闘争を継続していくた
め、次の攻撃対象を模索していたが、株式会社q3組(以下「q3組」ともい
う。)は、第二次世界大戦前及び戦中に、朝鮮人らを我が国に連行して工事現場で
衰弱死するまで酷使し、戦後も、東南アジア諸国を経済的に侵略しているなどと考
えて、q3組を爆弾闘争の攻撃対象にすることとした。狼グループ、大地の牙グル
ープ及びさそりグループは、三グループの連係を強めるために、昭和五〇年一月二
八日ころから、狼グループからA2、大地の牙グループからA1、さそりグループ
からA6が集まって三者会談を開くようになっていたところ、その席でA6が次の
攻撃対象としてq3組を選定したことを話したのを受け、三つのグループが共同し
てq3組を攻撃すること
が決まり、下見による調査や謀議を重ねた結果、狼グループがq3組本社九階、さ
そりグループがq3組本社六階、大地の牙グループがq3組機械部大宮工場にそれ
ぞれ爆弾を仕掛けて爆発させることに合意した。
(罪となるべき事実)
第三 被告人は、A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7及びA8と共謀の
上、治安を妨げ、人の身体・財産を害する目的をもって、
一 昭和五〇年二月二八日午後七時ころ、埼玉県与野市〈以下省略〉所在の株式会
社q3組機械部大宮工場構内第一工場の北側変電所付近において、約三・八リット
ル入り金属缶に塩素酸カリウム等を成分とする混合爆薬を詰め、これに改造した小
型目覚まし時計、乾電池、手製雷管等から成る起爆装置を接続させた時限式手製爆
弾一個を同変電所付近に設置し、同日午後八時〇四分ころ、これを爆発させ、
二 同日午後六時ころ、東京都港区〈以下省略〉所在の株式会社q3組本社ビル九
階電算部パンチテレックス室において、約二・五リットル入り粉ミルク缶に塩素酸
ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする混合爆薬を詰め、これに改造した小
型目覚まし時計、乾電池、手製雷管等から成る起爆装置を接続させた時限式手製爆
弾一個を同パンチテレックス室にあった金属製用紙棚内に設置し、同日午後八時こ
ろ、これを爆発させ、
三 同日午後六時ころ、前記二所在の株式会社q3組本社ビル六階営業本部事務室
において、金属缶に塩素酸ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする混合爆薬
を詰め、これに改造した小型目覚まし時計、乾電池、手製雷管等から成る起爆装置
を接続させ、これらをアタッシュケースに収納した時限式手製爆弾一個を同事務室
内金属製キャビネットに設置し、同日午後八時ころ、これを爆発させ、
もって、それぞれ爆発物を使用した。
(判示第四の犯行に至る経緯)
 A1は、判示第三の事件の後も、引き続き企業に対する爆弾闘争を継続しようと
考えて、次の攻撃対象を模索していたが、韓国の工業団地に日本企業が進出するた
めに視察団が派遣される予定であり、その団長が兵庫県尼崎市にあるq5製造株式
会社(以下「q5製造」ともいう。なお、q5製造の親会社であるq5株式会社を
「q5」ともいう。)の会長であることや、右視察団の斡旋等を行っているのがq
4研究所であることなどを知り、このような視察は日本企業による韓国の経済侵略
につながるものであるなどと考え、被告人と話し合って、q5製造及びq4研究所
を爆弾による攻撃対象に選定し、さらに、A2及びA6との会談の際にその旨を話
し、両名の了承を得るなどした。
(罪となるべき事実)
第四 被告人は、A1、A2、A3、A4、A5及びA6と共謀の上、治安を妨
げ、人の身体・財産を害する目的をもって、
一 昭和五〇年四月一八日午後八時ころ、東京都中央区〈以下省略〉所在のc1ビ
ル五階q4研究所入口ドア付近において、金属缶に塩素酸ナトリウム、塩素酸カリ
ウム等を成分とする混合爆薬を詰め、これに改造した小型目覚まし時計、乾電池、
手製雷管等から成る起爆装置を接続させ、これらを紙箱に収納した時限式手製爆弾
一個を同入口ドアに設置し、翌一九日午前一時ころ、これを爆発させ、
二 同月一八日夜、兵庫県尼崎市〈以下省略〉所在のc2ビル七階q5株式会社ゼ
ロックス室前(q5製造株式会社総務部事務室付近)において、体積約三・六リッ
トルの金属缶に塩素酸ナトリウム、硝酸カリウム等を成分とする混合爆薬を詰め、
これに改造した小型目覚まし時計、乾電池、手製雷管等から成る起爆装置を接続さ
せた時限式手製爆弾一個を同ゼロックス室前廊下に設置し、翌一九日午前一時こ
ろ、これを爆発させ、
もって、それぞれ爆発物を使用した。
(罪となるべき事実)
第五 被告人は、ユーゴスラビア連邦共和国セルビア地方からルーマニア国に列車
で入国するに際し、平成六年九月二五日午後一一時〇六分ころから同日午後一一時
五一分ころまでの間(現地時間)、同国ティミシュ県スタモラモラビィツァ国境検
問所において、同国国境事務所係官に対し、他人宛てに発給されたペルー共和国内
務省入国管理帰化局旅券部次長F1の署名のある同人作成名義のペルー共和国旅券
(旅券番号〇二四八九二四)の所持者氏名欄に「YAMAMURAGALVEZ」、「MARIA」、
生年月日欄に「27JULIO1953」等と冒書され、自己の顔写真が貼付された偽造に係
るペルー共和国発行の旅券をあたかも真正に成立したもののように装って提出して
行使し、もって、偽造有印私文書を行使した。
【争点に対する判断】
(公判手続更新の前後を問わず、公判廷及び公判期日外における証人の証言は「証
言」又は「供述」と表記し、被告人の供述は「供述」と表記する。また、「(第三
〇回)」「(乙三)」のように、適宜、括弧内に公判期日の回数や証拠等関係カー
ドの番号を記載することがある。)
第一章 公訴棄却の主張等について
 第一 法務大臣の命令による被告人の釈放及び審理の長期中断について
  一 弁護人及び被告人の主張
 弁護人及び被告人は、被告人が殺人未遂等の事実により勾留中の昭和五二年一〇
月二日、ダッカハイジャック事件に伴う閣議決定に基づく法務大臣の命令によって
釈放されたことを捉え、①日本国政府当局者が、被告人に対する出獄の意思確認や
釈放の際、一時的な釈放であるという説明や次回公判期日への出頭要請を一切して
おらず、釈放後、被告人がアルジェリア民主人民共和国に入国したことが確認され
た際にも、日本国政府は、同共和国政府に対し、被告人の身柄引渡要請を行わなか
ったことなどからすると、日本国政府は、日本赤軍の要求に応じ、一時的にではな
く永久に釈放する意思の下に被告人を釈放したことが明らかであり、②このような
永久的な釈放により、訴追側は、被告人に対する勾留の裁判の執行を放棄したので
あり、勾留が被告人
の公判廷への出頭、刑の執行の確保、適正な裁判の実現を図る強制処分である以
上、その執行の放棄によって勾留の目的である公訴権の行使をも放棄したものとい
うべきであるから、これらに反して公訴権を行使することは、適正手続の保障に反
して許されず、偽造有印私文書行使被告事件以外の公訴事実については、刑事訴訟
法三三八条一号又は四号に基づき公訴棄却の判決がなされるべきであるなどと主張
する。
 また、弁護人は、被告人の釈放は、日本国政府の一方的行為であって、この釈放
によって約一八年間にわたり被告人の審理が著しく遅延し、憲法が守ろうとする被
告人の諸利益が著しく害され、もはや公正な裁判を期待することができないから、
高田事件と同様、裁判手続を打ち切る非常救済手段を用いることが憲法上要請され
るなどと主張する。
  二 認定事実
 関係証拠から認められる事実は、以下のとおりである。
   1 被告人は、昭和五〇年に、本件各事件のうち、爆発物取締罰則違反、殺
人未遂被告事件(昭和五〇年号(わ)第一九一号、第二二三号、第二三九号)により
東京地方裁判所に起訴され、昭和五二年九月当時、勾留されたまま右各事件の審理
を受けており、同月九日に第二五回公判期日が開かれ、次回期日が同月三〇日と指
定されていた。
   2 ところが、同月二八日午前一〇時四五分ころ(日本時間。以下断りのな
い限り同じ。)、インドのボンベイ空港を離陸した日本航空四七二便の機内におい
て、拳銃や手投げ弾等で武装した日本赤軍と名乗る者五名(本章において以下「犯
人」という。)が同機に搭乗していた乗員及び乗客合計一五一人を人質に取って同
機を乗っ取り、同日午後二時三一分ころ、同機をバングラデシュ人民共和国ダッカ
空港に着陸させた上、同日午後九時一五分ころ、日本国政府に対し、六〇〇万米ド
ル(当時の為替レートで約一六億円)の提供並びに被告人及び当時の相被告人A3
を含む日本国内で拘禁中の九名の釈放を要求し、三時間以内に回答がないか、ある
いは要求が拒否された場合には、人質を順次「処刑」と称して殺害することや、同
機に接近する者がい
た場合には、機体を爆破することなどを通告した。
 その後、犯人は、右要求に対する回答の期限を翌二九日午前八時まで延期し、期
限までに要求が受け入れられない場合には、人質のうちまず米国人一名を射殺する
旨の通告をするに至った。
   3 日本国政府は、同日午前、バングラデシュ人民共和国政府を通じて、犯
人に対し、原則として要求を受け入れる方向で検討する旨回答するとともに、人質
の殺害を延期するように交渉を継続しつつ、対応策について協議を進め、犯人の要
求を受け入れない場合には人質が殺害される危険性が高いと考え、人質とされてい
る多数の者の生命を守るためには他に執るべき適切な方策もなかったため、犯人の
要求を受け入れざるを得ないと判断し、被告人らに意思確認をした上、被告人らを
ダッカに向けて出国させることなどを閣議決定した。
 閣議決定に基づき、法務大臣が法務省矯正局長に対し、被告人らの意思を確認し
た上ダッカに護送して釈放するように指示し、これを受けて矯正局長は、東京拘置
所長に対し同旨の指示を発した。
   4 昭和五二年九月三〇日早朝、東京拘置所長が検察官立会の上、被告人及
びA3に面接して意思確認を行ったところ、同人らはいずれも日本赤軍と名乗る者
らへの引渡しを希望する旨の意思を表明した。
 同年一〇月一日、被告人らは、羽田空港で再度意思を確認された上、空路ダッカ
空港へ護送され、翌二日、ダッカ空港で釈放された。
 その後、被告人は、犯人らとともに、乗っ取られた日本航空機で、クウェート、
シリアを経て、同月三日、アルジェリア民主人民共和国ダル・エル・ペイダ空港に
到着し、同国当局の管理下に入った。
   5 東京地方裁判所は、同年九月二九日、右事態を受けて、被告人ほか五名
について指定済みの同月三〇日の公判期日を職権により取り消した。
 さらに、同年一〇月六日、東京拘置所長は、東京地方検察庁検事正に対し、被告
人を含む未決勾留中の者三名を右経緯によりダッカにおいて釈放した旨の通知を
し、同検察庁検察官は、同日、同裁判所に対し、その旨の通報をするとともに、被
告人及びA3に対する各被告事件について、両名が「国外において釈放されたの
で、当分の間、公判期日に出頭することが不可能となったため」という理由で当時
の相被告人A2ほか三名に対する被告事件の弁論から分離することを請求した。
 検察官は、同月一四日に開かれた第二六回公判期日(被告人は右事情により不出
頭)において、被告人らの釈放の経過を説明するとともに、釈放措置の法的性格に
関する見解を表明し、「今回の釈放措置は、緊急の事態にかんがみ、人質の人命救
助のため、一時的に被告人らの身柄の拘束を解いたにすぎないものであって、勾留
の裁判は、これによって何ら影響を受けるものではなく、被告人らに対しては、勾
留状の執行により、原状回復として、再度身柄を収監できるものである。」などと
釈明し、裁判所は、被告人及びA3に対する被告事件の弁論を他の相被告人の弁論
から分離した上、両名について指定済みの公判期日を取り消し、裁判長は、両名の
公判期日は追って指定する旨述べた。
   6 その後、被告人は、日本赤軍の構成員となり、中東や欧州等で活動して
いたが、平成七年三月二四日に本章第一の二1の各被告事件により収監され、同
日、検察官から裁判所に対し、その旨の所在発見通知がなされ、同年四月一四日に
被告人が偽造有印私文書行使被告事件(平成七年刑(わ)第六七七号)により起訴さ
れた後、同年五月二九日から、公判再開に向けて、裁判所、検察官及び弁護人の間
で打合せが開始され、数回の打合せを経た上、同年一一月二八日に行われた第二七
回公判期日において審理が再開された。
  三 当裁判所の判断
   1 法務大臣の命令による被告人の釈放について
 本章第一の二の各事実を前提に検討すると、昭和五二年一〇月の日本国政府によ
る被告人の釈放は、日本赤軍と名乗る者らによって人質とされた多数の者の生命を
守るため、緊急事態の下で、実定法規に基づかずにやむなく執られた措置であっ
て、政府の側に責められるべき事由はなく、その際の政府や検察官の対応にも、被
告人を永久に釈放するという意思を窺わせる事情は見いだせず、ましてや、被告人
の釈放によって訴追側が公訴権を放棄したなどと解すべき事情は存しない。
   2 審理の長期中断について
 確かに、本件の審理は、本章第一の二のとおりの経緯により約一八年もの長期間
中断して遅延したが、これは、日本赤軍と名乗る者が日本国政府に被告人の釈放を
要求したことが契機となり、これを受けて被告人自身の意思で出国したことが直接
の原因となったものである。また、審理中断中の被告人の行動の詳細は不明である
が、被告人の供述等によれば、被告人は、自己の意思で日本赤軍の構成員となって
中東等で活動していたことが認められ、その間、被告人が他者に拘束されていて帰
国を望んでも実現のすべがなかったとか、日本国政府が被告人の帰国を妨害したな
どという事情が窺われないことからすると、被告人は自らの意思で国外に居続けた
ものと評価することができる。
 結局、審理遅延の主な原因は被告人の側にあったというべきであり、このような
場合、迅速な裁判を受ける被告人の権利が侵害されたということはできない。
 第二 爆発物取締罰則の有効性について
  一 弁護人及び被告人の主張
 弁護人及び被告人は、①爆発物取締罰則は、太政官布告として制定された刑罰法
規であるが、当時、日本には議会すらなく、爆発物取締罰則は、一行政官僚である
太政官が布告した命令にすぎず、現行憲法施行の際に効力を有する大日本帝国憲法
(以下「旧憲法」という。)下の命令の規定の効力等を規定した昭和二二年法律第
七二号が一条で「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定で、法律を以っ
て規定すべき事項を規定するものは、昭和二二年一二月三一日まで、法律と同一の
効力を有するものとする。」と規定しているから、爆発物取締罰則は、同年一二月
三一日限り効力を失ったものと解すべきであり、仮にそうでないとしても、命令の
形式によるものであるから、憲法三一条、七三条六号ただし書に違反すること、②
爆発物取締罰則一条
ないし四条は、主観的構成要件として「治安ヲ妨ケ」る目的を定めているが、右目
的はこれらの条項の適用の限界を画するものとして非常に重要な意義を有している
にもかかわらず、その内容は極めて不明確であって罪刑法定主義に反するし、か
つ、爆発物取締罰則の規定する刑罰は、爆発物使用既遂罪について、死刑又は無期
若しくは七年以上の懲役又は禁錮、爆発物使用未遂罪について、無期若しくは五年
以上の懲役又は禁錮を定めるなど、他の刑法上の刑罰と比べて極めて重い刑を定め
ており、罪刑の均衡を失しているから、憲法三一条、三六条に違反することなどを
理由として、爆発物取締罰則は無効であると主張する。
  二 当裁判所の判断
   1 まず、①については、確かに、爆発物取締罰則は、旧憲法制定以前の明
治一七年に太政官が布告第三二号として制定したものであって、この限りで弁護人
の主張は正しいけれども、明治二二年に制定された旧憲法七六条一項は、憲法に矛
盾しない現行の法令はすべて遵由の効力を有するものと規定していて、爆発物取締
罰則はこれに該当する上、刑法(明治四〇年法律第四五号)が施行されるに当たり
同法施行法(明治四一年法律第二九号)二二条二項において爆発物取締罰則一〇条
を廃止することが規定されたのみで爆発物取締罰則の他の条項については廃止ある
いはその効力を否定するための何らの立法措置も講ぜられず、かえって明治四一年
法律第二九号及び大正七年法律第三四号という旧憲法上の法律の形式をもって改正
手続が行われたので
あるから、爆発物取締罰則が旧憲法上の法律と同一の効力を有していたことは明ら
かである。したがって、爆発物取締罰則は、昭和二二年法律第七二号の適用がな
く、憲法九八条一項により、現行憲法の条規に反しない限り法律としての効力を保
有していると解されるし、憲法三一条、七三条六号ただし書にも違反しない。
   2 ②については、爆発物取締罰則にいう「治安ヲ妨ケ」るとは、公共の安
全と秩序を害することをいうものと解するのが相当であって、その意味内容が不明
確であるとはいえないし、爆発物取締罰則は、治安を妨げる目的をもって爆弾を使
用するなどした行為を罰するとしており、爆発物の有する強大な破壊力並びにそれ
による公共の安全秩序、人の生命、身体及び財産に対する侵害の危険性が大きいこ
とを考えれば、合理的根拠なしに重い刑を定めているとはいえず、罪刑の均衡を失
してはいないから、爆発物取締罰則は、憲法三一条、三六条に違反するものではな
い。
 第三 判示第五の罪に係る逮捕手続の違法性について
  一 弁護人及び被告人の主張
 弁護人及び被告人は、①平成七年三月二〇日午前七時ころ(現地時間)、ルーマ
ニア国内で身分不詳の者らがした被告人の身柄拘束は、法的根拠が不明で違法なも
のであること、②同国における国外退去手続終了から航空機が日本国の領空に入っ
て偽造有印私文書行使被疑事件の逮捕状を執行されるまでの間の日本の警察官によ
る被告人の身柄拘束が実質上逮捕と同視し得る違法なものであることから、同事件
による逮捕は、それに先立つ手続に重大な違法が存するので違法であり、同事件に
よる公訴は棄却されるべきである旨主張する。
二 認定事実
 関係証拠から認められる事実は、以下のとおりである(日時は、1及び2におい
ては現地時間を、3においては日本時間を表す。)。
   1 被告人は、本章第一の二のとおりの経緯により釈放され、アルジェリア
民主人民共和国やレバノン共和国等における生活を経て、遅くとも平成六年九月下
旬ころからルーマニア国内に居住していたが、平成七年三月二〇日午前七時ころ、
ブカレスト市内のアパートの居室において、同国のテロ対策を担当する治安機関の
者らにより身柄を拘束され、さらに、同日午後七時ころ、偽造旅券を行使した容疑
で同国警察本部組織犯罪対策隊隊員によって身柄を拘束された。
 その後、同国政府は、同国内の外国人管理に関する法律に基づき、被告人の滞在
権を取り消し、被告人を同月二二日に国外退去させることとした。
   2(一) 同日、被告人は、ルーマニア国の捜査機関関係者によってオトペニ
空港に連行され、タイ王国バンコック所在のドンムアン空港(以下「ドンムアン空
港」という。)に向かうルーマニア航空機に搭乗させられた。
    (二) 機内には、被告人及び乗組員のほか、ルーマニア国に出張中の警視
庁公安部所属の警察官で外務事務官を併任された者二名、在ルーマニア国等の日本
大使館員ら計七、八名の日本人が搭乗していたが、被告人は、ルーマニア国の捜査
機関関係者から手錠をはずされた後、その指示に従って、日本大使館員の間の座席
に着席した。
 その際、被告人は、ルーマニア国駐在の日本大使館員から日本へ帰国するための
渡航書が発給されている旨を告げられた。
    (三) 被告人らが搭乗した航空機は、同日午後九時ころ、バンコックに向
けて出発し、途中、アラブ首長国連邦のアブダビ空港で給油した後、翌二三日午後
二時半ころ、ドンムアン空港に到着した。
    (四) 機内では、被告人の両脇及び後部座席に日本人が座り、被告人がト
イレを使用する際も日本人が同行した。
 また、アブダビ空港で給油した際及びドンムアン空港に到着した際、被告人は、
数名の日本人とともに航空機を降りて、制服着用の者を含む各国当局者の案内によ
り一般乗客の待合室とは別の部屋で待機した。この間、各国警察関係者と見られる
者らが出入口付近を監視し、被告人がトイレを使用する際には、日本人が同行し
た。
 なお、ドンムアン空港における待機の際に、偽造有印私文書行使を被疑事実とす
る逮捕状を持参した警視庁公安部所属の警察官三名が被告人らと合流し、他方、ル
ーマニア国から同行した日本人のうち、外務事務官併任の警視庁警察官二名以外の
者は、以後別行動をとった。
   3(一) その後、被告人らは、タイ王国当局者に先導され、ドンムアン空港
発新東京国際空港行きの日本航空機(JAL七一八便)(以下「日本航空機」とい
うことがある。)に搭乗し、警視庁公安部の警察官らが被告人の両脇及び前後部の
座席に着席した。日本航空機は、平成七年三月二四日午前〇時四五分ころ、日本に
向けて出発した。
 なお、右警察官の上司であったK1は、被告人に対する逮捕状の執行に関し、被
告人には日本国の領空内に入るまで手も口も出すななどと指示していた。
    (二) 日本航空機は、同日午前三時五一分ころ、日本国の領空内に入り、
乗組員からその旨の連絡を受けた警察官らが、同日午前三時五六分ころ、被告人に
右2(四)の逮捕状を示して通常逮捕手続を行い、旅券等を押収した。
   4 被告人は、ルーマニア国のオトペニ空港でドンムアン空港行きのルーマ
ニア航空機に搭乗させられた際、同国駐在の日本大使館員からの告知によって、被
告人自身が日本へ向かうことを認識していたが、同機に搭乗してから日本国の領空
内を飛行中の日本航空機内で逮捕されるまでの間、周囲にいた日本人に対し、日本
に行くことを拒絶したり、航空機から降りたい旨の意思表示をしたり、機外に出よ
うとする行動を執ったりすることはなく、アブダビ空港及びドンムアン空港におけ
る待機や航空機への搭乗の際に、周囲の者に対し自由に動き回りたい旨の意思表示
をすることもなく、待機場所から離脱しようとする行動や搭乗を拒む行動を執るこ
ともなかった。
  三 証拠の信用性
 本章第三の二で認定した事実の主要部分を支える証拠として、ルーマニア国から
バンコックまで被告人に付き添ったW1(第三九回)、ルーマニア国からバンコッ
クを経て我が国に至るまで被告人に付き添ったW2の証言(第三〇回、第三一回)
及びバンコックから日本まで被告人に付き添って逮捕手続に従事したW3の証言
(第二九回)が存在するところ、三名とも、被告人に付き添うこととなった経緯、
その状況、その際の被告人の様子等について、自然で、具体的な証言をしている
上、記憶にあることとないことを明確に区別して証言するなど、真摯な証言態度が
窺われ、また、その内容もおおむね符合していて、特段矛盾する点は見当たらない
のであるから、右三名の各証言は、いずれも信用することができる。
  四 検討
   1 本章第三の二で認定した一連の経過のうち、被告人がルーマニア国で身
柄を拘束され、その後オトペニ空港に連行されて、ドンムアン空港行きのルーマニ
ア航空機に搭乗させられた出来事は、同国の政府機関に拘束された被告人に対し、
同国の主権に基づく国外退去強制手続として行われたものであり、その身柄拘束を
もって我が国の捜査機関による逮捕と同視することはできないし、その身柄拘束手
続の適否がその後の我が国の捜査機関による通常逮捕手続等の刑事手続に影響を及
ぼすということはできない。
   2 さらに、被告人は、オトペニ空港で航空機に搭乗させられてから日本国
の領空内を飛行中の日本航空機内で逮捕手続を執られるまでの間、外務事務官の併
任辞令を受けていたとはいえ警視庁警察官を含む数名の日本人の監視下にあった
上、機内ではそれらの日本人が被告人を取り囲む形で着席し、被告人がトイレを使
用する際には同行するなど、被告人が自由に動き回ることが事実上制約された状態
にあったものの、その間、手錠や腰縄等で拘束されたり、押さえ付けられるなどし
て実力で身体を拘束されていたわけではなく、被告人自身も、航空機から降りたい
旨の意思表示等をしなかったし、アブダビ空港及びドンムアン空港で待機した際
も、自由に動き回りたい旨の意思表示をすることもなく、待機場所から離脱しよう
とする行動や航空機への
搭乗を拒む行動を執ることもなかったのである。これら一連の経過を総合的に考察
すると、被告人は、自由に動き回ることを除いては特段行動の自由の制約を受けて
いなかったと認められ、また、オトペニ空港でルーマニア国当局者によって航空機
に搭乗させられた後は、同国政府の処分を甘受せざるを得ないものと判断し、途中
で降機した際にも、空港がある国の当局者の監視を免れて自由に行動することはで
きないものと判断して、その場を離脱するなどの行動に出ることなく、自己の意思
で航空機に搭乗して日本国の領空内に入ったものと推認することができ、その間に
実質的に逮捕と同視できる身柄拘束の状態にあったということはできない。
   3 以上に加え、日本航空機が日本国の領空内に入るのを待って逮捕手続が
執られた理由は、専ら国際法上の制約によるものであって、ことさら逮捕後の身柄
拘束に関する時間的制約を免れようとしたものではなかったと認められることをも
併せ考えると、逮捕手続が違法であったということはできず、その違法を理由とす
る公訴棄却の主張は採用することができない。
第二章 被告人の捜査段階における供述調書の証拠能力について
 第一 問題の所在
 被告人は、捜査段階において、判示第一ないし第四の各事実を認める供述をして
いたが、公判段階においては、一部右供述と相反する供述をしている。
 そして、弁護人は、被告人の自白調書(乙三ないし二一)の任意性を争い、被告
人も公判段階において、これに沿う供述をするので、以下検討する。
 第二 被告人が供述をした経緯等
 関係証拠によれば、被告人が捜査段階において供述した経緯等に関し、以下の事
実が認められる。
  一 供述調書の作成経過等
   1 被告人は、昭和五〇年五月一九日、判示第四の一のq4研究所における
爆発物使用事件で逮捕され、同事件で勾留後、同年六月九日、判示第二のq2建設
前における爆発物使用事件で逮捕され、同事件で勾留後、さらに、同月二七日、判
示第三のq3組関係の三か所及び判示第四の二のq5における各爆発物使用事件で
逮捕され、同事件で勾留後、同年七月九日に公訴提起されるまでの間、引き続き被
疑者として身柄を拘束され、この間の毎日、警察官や検察官から取調べを受けた。
 被告人の取調べのための出房時刻は、午前八時台の日もあったが、多くは午前九
時台又は午前一〇時台であり、夜の入房時刻は、第一回目の勾留中は午後一〇時を
過ぎることが多かったが、午後一一時を過ぎることはなく、それ以降は、午後九時
を過ぎた日が一部にあったものの、おおむね午後四時台から午後八時台に入房して
いた。
   2 被告人は、当初、各事件の事実関係について完全に黙秘していたが、昭
和五〇年六月二日、全面的に自供する意思のあることを供述するに至り、以後、同
月二四日までの間に、各事件への関与等を認め、かつ、被告人自身の作成した図面
等が添付された供述調書合計一八通(乙三ないし二〇)に署名指印し、同月二六日
ころ再度黙秘し始めたが、同年七月七日、これまでの供述内容の補正等につき記載
した供述調書(乙二一)の作成に応じて署名指印した。
   3 この間、被告人の取調べを担当し右供述調書を作成した東京地方検察庁
特別捜査部検察官(当時)P1は、被告人に対し、取調べの場は真実を話す場であ
るから、しゃべる以上は真実を話して欲しいこと、嘘まで交えてしゃべるならば完
全黙秘を貫いて欲しいことなどを話し、供述調書を作成するに当たっては、ほとん
どの供述調書を閲読させ、それ以外のものについては読み聞かせをし、その際、被
告人に鉛筆と紙を渡して訂正箇所を書かせ、この記載に基づいて供述調書の内容を
訂正しており、特に、昭和五〇年六月二一日付け供述調書(乙一七)には、四丁に
わたって訂正事項が録取されている。
  二 弁護人との接見状況
 被告人は、昭和五〇年五月二七日にD1弁護士と接見してから最後の供述調書が
作成された同年七月七日までの間に、一回一五分間ないし四〇分間、警察における
だけでも、合計一〇回にわたって弁護士と接見した。
  三 被告人の捜査段階における供述調書の内容
 被告人の捜査段階における供述調書の内容を見ると、検察官に対する最初の自白
調書である昭和五〇年六月二日付け供述調書(乙三)には、爆弾闘争で被害者を出
したことについて、「今回の一連の爆弾事件についてはその目的が何であったにし
ろ一般の方々に危害を与えたことは正しくなかった考えておりことに遺族の方々に
は申し訳ない気持で反省しております」と録取されており、完全黙秘から一転して
自白しようと決意した心境について、「私が知っていることを話すことはA1君に
もひいてはA1君の仲間だったという一緒に捕まった人達に迷惑をかけると思った
からです そして現在でもA1君のことについては気持のうえでこだわるものがあ
りますがいずれ心を整理して全てをお話したいと考えております」という記載があ
るなど、被告人の心
境や反省の弁が録取されている上、各事件の経緯を供述した調書には、被告人がA
1らとともに、自分たちなりの正義感から、かつての日本の植民地支配に関係した
企業や事件当時に被告人らが経済侵略と呼ぶ海外活動をしていた企業に対し爆弾闘
争を仕掛けることにした動機や心情が迫真性をもって具体的に録取されている。
 第三 P1の証言の信用性等
 被告人の捜査段階における供述調書の作成経過等の認定を支える証拠として、当
時検察官として被告人の取調べに当たった証人P1の証言(第八九回)が存在する
ので、その信用性を検討する。
  一 P1の証言の要旨
 P1は、公判段階において、被告人の取調べに当たっては、それまでの職務経験
等から、後々、供述の任意性について争いが生じないように細心の注意を払い、ま
た、警察官に対し、被告人の内縁の夫であったA1については、被告人との間で感
情的なしこりを残さないため言葉遣いに気を付けるように指示し、供述調書を作成
する際には、調書を閲読させ、被告人に紙と鉛筆を渡して訂正箇所を書かせ、それ
に基づいて調書を訂正したことなどを証言している。
  二 P1の証言の信用性
 P1の証言は、P1がA2らの公判において証言したところとほぼ一致してお
り、一貫している。
 その内容は、具体的、詳細であり、記憶にあることとないことを区別して証言す
るなど証言態度が真摯である上、弁護人から、警察官に対して本章第三の一のとお
りの指示をした理由を問われ、「これは、私のそれまでの経験から、こういった世
間の耳目を引くような大事件は必ず捜査段階のいろいろなことが公判でもめるんで
すよね。そのことによってまた裁判が長引くということは私は好まぬ性格だったで
すから、そういうことのないように、とにかく正攻法で、汚いことをやらずに堂々
とやっていこうというふうなことを指示したわけですよ。」「常道が守られない場
合があるわけですよね、得てしてね。だからいろいろ問題が起きるわけでしょう。
そういうことがあっちゃいかんと、それが私の主義なんですよ、捜査に関する、正
攻法というのが。」
(第八九回)と証言し、被告人の取調べに当たって、既に作成されていた共犯者の
供述調書を読んでいなかったかどうか問われたのに対し、「これはね、私たちの捜
査は、私も昔からそうなんですけど、縦割りなんですよ。横の話を聞きますと、い
ろんな人の話を聞きますと、これは、どうしても、それを押しつけたくなるし、合
わせたくなるというふうな、どうしても、そういう幣を持っていますから、調べ官
というのはですね。そういうことをしたくない、できるだけ見ないと、自分の調べ
た被疑者の心証を取っていくと、これは昔からの私の流儀なんです。だから、見て
ないと思いますね、ほかの人の調書は。」(第八九回)と証言するなど、検察官と
しての職務経験や自己の捜査哲学に基づいて説得的で納得のできる証言をしている
のであり、これらに
照らすと、P1の証言の信用性は高い。
 第四 まとめ
以上のとおりの被告人の捜査段階における供述の経過、検察官の取調べ方法、弁
護人との接見状況等に加え、作成された供述調書に、犯行当時の被告人なりの正義
感に基づく各犯行の動機、心情や、供述当時の被告人の心境や反省の弁が具体的に
録取されていることに鑑みると、被告人は、捜査段階において、反省の気持ちを交
えつつも、自分たちの行動の意義や正当性を訴えるために、自らの自由な意思で供
述しているということができ、任意性は優に認められる。
 第五 弁護人の主張
  一 弁護人及び被告人の主張の要旨
 これに対し、弁護人は、被告人の公判段階における供述に基づき、①被告人は、
逮捕直後、警視庁菊屋橋分室において、強制的に水風呂に入れられて頭から水をか
ぶせられ、男性警官が見守る中、全裸で鏡をまたぎ、腰を上下する動作を強要され
るという性的虐待を受けたこと、②逮捕後、連日連夜長時間にわたる取調べが実施
され、男性警官による性的嫌がらせを受けたこと、③取調官は、被告人に対し、被
告人と同棲し逮捕後に死亡したA1の戒名を記した紙を取調室に持参し、それを拝
むように強要した上、「夫殺し。」「同志殺し。」「A1君の遺骨の引き取り手が
ない。」などと繰り返し言って、被告人を心理的に揺さぶったこと、④取調官は、
被告人に対し、接見に来た弁護士について、「党派のためにやっている。」「救援
連絡センターの弁護
士を雇って実家が破産した者がいる。」「裁判ではセンターの弁護士というだけで
刑が重くなるから不利だ。」などと言い、弁護人の解任を迫ったこと、⑤取調官
は、被告人の遠戚に当たるC1を被告人に面会させ、取調官と同席させた上、被告
人に対し、自白と弁護人の解任を迫ったことを理由として、被告人に対する取調べ
方法は違法であるから、被告人の自白調書は任意性を欠き、あるいは違法収集証拠
として、証拠から排除されるべきである旨主張する。
  二 検討 
 そこで検討すると、①については、被告人の供述する内容には信用し難い不自然
な点も含まれており、逮捕後に実際どのような手続が行われたのか必ずしも明確で
はないが、多くの共犯者らの身体から青酸カリが押収され、被告人と同棲していた
A1が逮捕後に死亡したという当時の状況を前提とすると、逮捕後に徹底した身体
検査を実施すること自体は、やむを得ないことであるし、仮に、その際に一部不相
当な行為があったとしても、被告人が逮捕後二週間にわたり事件について完全な黙
秘を貫いていたことからすると、逮捕当初の留置業務と被告人の自白との間に因果
関係のないことが明らかである。
 ②については、東京地方検察庁照会事項についての調査結果報告(弁三八)、東
京地方検察庁検察官からの照会事項についての調査結果報告(弁三九)及びP1の
証言によれば、被告人の取調べのための出房時刻や夜の入房時刻は本章第二の一1
のとおりであったと認められ、かつ、その間、食事等の際には一時間程度の休憩が
取られたことも認められるのであり、これらの事実に照らすと、取調時間は確かに
長時間ではあったが、本章第二の各事実を総合すれば、長時間の取調べであったが
ために供述の任意性に疑いを生じさせるということはできない。
 ③については、本章第三の一のとおり、被告人の取調べに当たっていたP1が警
察官に対しA1に関する言動については注意するように指示していた事実が認めら
れることからすると、警察官が被告人に対し、「夫殺し。」「A1の遺骨の引き取
り手がない。」などと言ったというのは、不自然で、信用し難いことである。確か
に、取調官らは、被告人に対し、「A1の闘いの意味や死の意味を話せるのはおま
えしかいない。」「A1のためにも本当のことを言ってやれ。」と言って、A1の
死を一つの材料として、各事件に関する供述をするように被告人を説得したことが
認められ、そのことが被告人が事件について供述する契機となったと窺われるが、
そのような説得は、違法ではないし、任意性を失わせるものということもできな
い。
 ④及び⑤については、確かに、昭和五〇年五月三一日に、被告人の親戚と称する
C1という女性が取調官らの配慮の下で被告人と面会し、黙秘をやめて供述するよ
うに促したり、当時の弁護人を解任して自分が推薦する弁護士を選任するように勧
めるなどしたこと、被告人が、同年六月一日にD2弁護士と接見し、同弁護士を弁
護人に選任することはしなかったが、同日、再度C1と面会した後に、それ以前に
選任していたD1、D3及びD4各弁護士の弁護人解任届を作成して提出した事実
が認められ、被告人は、公判段階において、右解任届はC1や刑事たちに迫られ、
自分の意思に反して書かされてしまったものであり、そのことが事件に関する供述
を開始する理由になった旨供述する。
 しかし、被告人は、その後、同月九日にはD5弁護士を弁護人に選任し、同月一
二日には、D3及びD4両弁護士とD6弁護士を弁護人に選任し、同月二〇日には
被告人の父親がD1弁護士を弁護人に選任しており、しかも、被告人は、警察にお
けるだけでも、同月九日、一〇日及び一三日にD5弁護士と、同月一七日にD6弁
護士と、同月二一日にD1弁護士とそれぞれ接見をしながら、同月二四日まで事件
に関する供述を続けていたのであり、その経過からすると、同月一日の弁護人解任
の一件があったがために不任意に事件に関する供述をした旨の被告人の公判段階に
おける供述は信用することができず、右解任による弁護人の一時的な不在は、被告
人の捜査段階における供述の任意性を疑わせる事情ということはできない。
 以上によれば、弁護人の右主張は採用することができない。
第三章 判示第一の事実について
 第一 弁護人の主張
 弁護人は、判示第一のq1物産館内において手製爆弾を爆発させるなどした事件
(以下「q1物産事件」という。)に関し、被告人には殺意がなく、爆発物取締罰
則にいう「人ノ身体ヲ害セントスルノ目的」もなかったなどと主張し、被告人も、
公判段階において、これに沿う供述をするので、以下検討する。
 第二 殺意の有無及び人の身体を害する目的の有無
  一 認定事実
 関係証拠から認められる事実は、以下のとおりである。
   1 被告人及びA1のq1物産事件に関する謀議状況等
    (一) z6重工事件の受け止め方
 被告人及びA1は、z6重工事件の直後から、同事件について話し合い、被告人
は、当初、同事件の犯人に対し批判的であったが、A1との話合いを通じて、昭和
四九年九月中旬ころには、同事件の犯人を孤立させないために支援できるような闘
争をしなければならないなどと考えるに至った。
    (二) 謀議状況及び闘争目的
 被告人及びA1は、日本が第二次世界大戦において、中国、インドネシア等のア
ジア諸国を侵略し、搾取したことについて、日本人全体が責任を負わなければなら
ないのに、戦後の日本人はその責任を忘れ、旧財閥系を中心とした大企業がアジア
諸国に進出して現地労働者を低賃金で働かせるなど、経済的に侵略し、搾取するこ
とにより繁栄を得て、漫然と生活を送っており、こうした日本人に対し、何らかの
形で戦争責任を意識させ、反省させなければならないなどと考えるに至り、その方
法として、企業侵略を受けているアジア諸国の労働者の立場に立ち、爆弾闘争によ
って企業の中枢を破壊し、経済的侵略を阻止しようなどと考えた。
    (三) q1物産事件の目的
 被告人及びA1は、旧q1財閥の後身であるq1系企業グループがz6系企業グ
ループと並ぶ大企業グループであり、アジア諸国を中心に海外進出をしていると認
識していた。被告人及びA1は、昭和四九年九月ころ、新宿q1ビルやq1銀行本
店をはじめとして、都内のq1系企業を調査し、その結果、q1物産は、q1系企
業グループ各社の中でもその歴史的沿革が最も古く、同グループの中で中枢的機能
を担っていると判断して、爆弾闘争の攻撃対象にすることとし、中でもq1物産館
の三階にある電気通信室には、海外事業に必要な機能が集中しているため、爆弾を
爆発させて同室内にある機械等を破壊することを企図した。
    (四) 他のグループとの連絡状況等
 A1は、同月下旬からq1物産事件までの間に、度々A5と会談して、狼グルー
プと大地の牙グループとの間で連絡を取り合い、その過程で、q1物産を攻撃対象
にしたこと、爆発時刻、爆弾の設置場所等を伝え、予告電話をいつどこにかけるか
について助言を受けた。
   2 q1物産館付近の状況
 q1物産館の付近は、商社、銀行等一流といわれる大会社がその本社等を置くビ
ル街であって、平日の昼間は多数の通行人が行き来し、交通量も多い場所であっ
た。
 q1物産館は、地上八階、地下一階の鉄筋ビルであるが、爆発のあった三階に
は、通信部、業務部、検査役室、審査部及び鉄鋼会計部の各事務室等があり、多数
の者が勤務していた。また、被告人及びA1が攻撃対象としていた電気通信室に
も、通信部長以下数名の者が勤務していた。
   3 被告人及びA1の下見状況
 A1は、q1物産館を数回下見して館内を詳しく調べ、被告人も、q1物産館に
数回赴き、うち一回は館内に入って、一階出入口、三階電気通信室付近等の下見を
するなどして、q1物産館及びその周囲の状況や爆弾の運搬経路等について調査を
重ねた。
 被告人及びA1は、これらの調査を通して、q1物産の昼休みが午前一一時半こ
ろから午後一時ころまでであると判断し、午後一時一五分ころには、q1物産の社
員が席に戻って仕事を再開するであろうと考えた。
   4 爆弾の構造
 q1物産事件で用いられた爆弾の構造は、内容積約三・六リットルの金属製湯た
んぽの中に塩素酸ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする塩素酸塩系爆薬を
充填し、さらに、湯たんぽを縦約三五センチメートル以内、横約二八センチメート
ル以内の金属缶に入れ、電源としてナショナルハイトップ006P―D九V乾電池
一個、時限スイッチとして改造した小型目覚まし時計(リズム時計工業株式会社製
シチズンぜんまい式アラーム時計)一個及び点火具としてソケットに取り付けたガ
ス点火用ヒーター二組を結線した時限式点火装置を取り付けて製造した電気的発火
方式による時限爆弾であった。
5 爆弾の製造状況等
 被告人は、A1から、小型目覚まし時計、ナショナルハイトップ乾電池、配線類
等を渡され、東京都世田谷区〈以下省略〉にあったb2荘の被告人の自室におい
て、時限装置を製作した。その際、被告人は、A2らが執筆して出版した「腹腹時
計」を参照した。
 爆弾の缶体については、被告人とA1が相談し合って、なるべく口の小さい方が
密封度が高くてよいと考え、当初はオイル缶を検討したが、最終的にはより強度の
高い金属製湯たんぽを用いることとし、A1が金属製湯たんぽを購入して、その中
に塩素酸ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする塩素酸塩系爆薬を詰めるな
どしたが、湯たんぽをそのまま持ち運ぶのは目立つことから、被告人から提供を受
けた菓子(東鳩サブレー)の金属缶に湯たんぽを入れ、一隅を残して隙間をコンク
リート様のもので詰め、残りの一隅に時限装置を装着した。
   6 「腹腹時計」の記載
 被告人及びA1がq1物産事件で用いた爆弾を製造する際に参照した「腹腹時
計」には、次のような記載がある。
    (一) 爆薬について、「塩素酸カリウムを主剤にした火薬、爆薬を混合し
併用するならば、より良い結果を引き出し得る。」
    (二) 爆弾の設置場所と容器との関係について、「それ自体で容器とみな
せるような場所に仕掛ける場合―コンクリートの穴、土中等の場合は、容器を特に
強力にする必要はない。それ以外の場所ならば必ず強い容器につめる。」
    (三) 容器の材質について、「容器の材質は鋼鉄が最上。その他、鋳鉄、
青銅、黄銅、銅、アルミ、鉛、厚手の陶器、ガラス、コンクリート等。」
    (四) 偽装の仕方について、「カモフラージュする場合は、同時に容器も
補強される方法をとる方がよい。」
    (五) 容器の補強の例として、「大小容器を重ねて使う」、「コンクリー
トづめ。」
   7 爆弾の運搬設置状況等
 被告人及びA1は、事前に相談を重ね、爆弾を昭和四九年一〇月一四日午後一時
一五分に爆発させることとした。
 A1は、同日、爆弾がこの時刻に爆発するように時限装置をセットした上、金属
缶の上蓋をして缶の周囲をパテで塗り、茶色の包装紙で包んでひもを掛け、書類の
包みに見せかけるなどして、自宅から地下鉄三田駅まで運搬し、同日午後〇時一六
分ころ三田駅においてA1から爆弾を受け取った被告人は、地下鉄内幸町駅で下車
してq1物産館に行き、正面入口から館内に入って階段で三階まで上り、通信部電
気通信室三二一号出入口扉に面した第三広間に至り、同日午後〇時三四分ころ、第
三広間の西側の湯沸室前の壁際コンクリート床上に爆弾を置いた。
   8 予告電話
    (一) 被告人は、爆弾の設置を終えた後、再度、内幸町駅で地下鉄に乗車
して御成門駅まで行き、爆弾の設置を終えたことをA1に連絡するため、同日午後
〇時五〇分ころ、御成門駅改札口付近の公衆電話から、A1が待機していた地下鉄
五反田駅前のパン屋にあった公衆電話に電話をかけ、あらかじめA1と決めていた
とおり、電話の呼出し音を三回鳴らすことによってA1に爆弾の設置が成功したこ
とを伝えた。
    (二) 被告人から連絡を受けたA1は、あらかじめ被告人と決めていたと
おり、同時刻ころ、
     (1) q1物産業務部極東室(電話番号五〇五―××××)に電話をか
け、応答した同社従業員C2に対し、「q1物産に爆弾を仕掛けた。直ちに全員退
避せよ。繰り返す。q1物産に爆弾を仕掛けた。直ちに全員退避せよ。これは決し
て冗談ではない。」と言って電話を切り、
     (2) 同社総務部総務課(電話番号五〇五―××××)に電話をかけ、応
答した同社従業員C3に対し、q1物産館に爆弾を仕掛けた旨言って電話を切り、
     (3)同社重機械部開発課(電話番号五〇五―××××)に電話をかけ、
応答した同社従業員C4に対し、東アジア反日武装戦線大地の牙である旨を名乗っ
た上、「爆発物を仕掛けたのですぐ退去せよ。」と二回繰り返して言って電話を切
った。
なお、A1は、爆弾を仕掛けた具体的な場所や爆発予定時刻については、何も言
わなかった。
 (三) q1物産では、予告電話を受けた後、その旨を警察に通報するとと
もに、総務部長の指示により総務部の役職者が手分けして館内各階の点検に当た
り、加えて、昭和四九年一〇月一四日午後一時ころ、爆弾を仕掛けたという電話が
あったので不審物の有無を点検するようにという内容の緊急館内放送を流し、従業
員の多くが日比谷公園等に避難する一方で、相当数の従業員が館内で不審物の捜索
に当たった。
   9 爆弾の威力
    (一) q1物産館及びその付近の物的被害の状況
 q1物産事件で用いられた爆弾の爆発により、q1物産館三階等において、次の
とおりの物的被害が生じた。
     (1) 爆心地であった三階第三広間では、爆弾の設置地点付近の壁面裾部
分に貼られた御影石が破砕されて飛散し、天井のコンクリートに多数の凹損が生
じ、爆心地方向に面した窓ガラスのほぼ全てが破壊され、その破片が一帯に散乱し
た上、第三広間に設置されていた自動販売機は、表側鉄板がはずれるなどして大き
く破壊された。
     (2) 第三広間の西側にあった湯沸室では、板壁及び天井の大部分が破壊
されて落下し、それらの破片が床上等に散乱するなどして壊滅的な状態になった。
     (3) 三階廊下に面した金網入り窓ガラスは、そのほとんどが破壊され、
破片が廊下及び各事務室内に散乱した。また、外に面した多数の窓ガラスも破壊さ
れ、破片等が各事務室内に散乱した。窓ガラスは、遠いところで、爆心地から約七
〇メートル以上離れた地点にあったものまでが破壊された。
     (4) 鉄鋼会計部をはじめとする三階各事務室や機械室内は、右(3)のと
おり、破壊されたガラス片等が至る所に散乱した上、爆心地に近い場所では、大型
の書棚やキャビネットが倒れたり、板壁が破壊されるなどの被害が生じた。各事務
室内に散乱したガラス片は、大きいもので長径約三〇センチメートル、短径約一五
センチメートルであった。
     (5) q1物産館の外周の歩道及び公道上には、破壊されたガラスの破片
が大量に散乱し、q1物産館の南側公道上に駐車してあった普通乗用自動車は、リ
アウインドウが破損した。
     (6) 結局、爆発により窓ガラスが破壊されるなどして生じたq1物産館
の被害額合計は、約一四〇〇万円に達した。
    (二) 人的被害の状況等
 爆発の際、爆心地であった第三広間付近に居合わせて重軽傷を負った各被害者の
被害状況等は、以下のとおりである。
     (1) 当時警視庁愛宕警察署刑事調査官であったV1、同署警備係長であ
ったV2、同署強行犯捜査係長であったV3及び同署刑事課長であったV4は、q
1物産から通報を受けて、ほか数名の同署警察官とともに、q1物産館に臨場して
いた。
     (2) V1警察官(別表(一)番号1)は、第三広間内で爆弾の包みに近寄
って時計音の有無を確認するなどした後、その付近にいたところ、爆発に遭遇し、
左側頭骨内、左下腿等に異物が突き刺さるなどして、六四日間の入院加療等を要す
る左側頭骨内異物等の傷害を負った。
     (3) V2警察官(同番号2)は、爆弾の包みの近くに寄って見た後、第
三広間付近の廊下で警察車両との無線連絡に当たっていたところ、デンという響き
と同時に炎が吹いてくるのを目撃して倒れ、左下腿、右膝等が切れて出血し、左第
五指に爆弾の破片が突き刺さるなどして、約二週間の入院加療等を要する鼓膜損傷
等の傷害を負った。
     (4) V3警察官(同番号3)は、第三広間内において、当時頻発してい
たいたずらか本物の時限爆弾かを判断するため、爆弾の包みに耳を寄せて時計音の
有無を確認するなどした後、付近の廊下にいた者に事情聴取をしようとして歩いて
いたところ、ガーンという爆発音を聞くとともに、体が飛ばされて気絶し、頭部等
から出血した上、左足等に多数のガラス破片が突き刺さるなどして、約七〇日間の
入院加療等を要する両側鼓膜損傷等の傷害を負った。
     (5) V4警察官(同番号4)は、第三広間内で爆弾の包みの寸法を計測
し、当時頻発していたいたずらか本物の爆弾の可能性があるかを判断するために軽
く触るなどした後、V2警察官の近くへ行って、金属探知器を持ってくるように連
絡してほしいと指示した直後に、ドカーンとハンマー等で殴られるような衝撃を感
じ、体が宙に舞って気絶し、頭、鼻、耳等から出血し、ズボンはもとよりズボン下
までが裂け、左大腿部、右顎、頭部、外耳道等に異物が突き刺さるなどして、転地
療養も含め約五〇日間の入院加療等を要する全身爆傷等の傷害を負った。
     (6) q1物産従業員V5(同番号5)は、館内放送を聞いて捜索中に爆
弾の包みを発見し、不審物と認めて、心当たりの者がいないか尋ねるために第三広
間付近の廊下(爆弾からの距離は数メートル)にいたところ、ガーンという衝撃を
感じ、床に叩き付けられ、約四か月間の加療を要する下顎骨開放性骨折、後頭部亀
裂骨折等の傷害を負った。
     (7) 同社従業員V6(同番号6)は、不審物発見場所へ警察官を案内し
た後、第三広間付近の廊下で警察官らの活動を見ていたところ、ボーンという音と
ともに白い煙が立ちこめた際に、腹部に衝撃を感じて失神し、右腕の肩から指先ま
でべっとりと血が付くほど出血し、顔面、頭部等に多数の細かいガラス片が突き刺
さるなどして、約一か月間の加療を要する右上前膊切創、右撓尺骨関節脱臼、右上
腹部挫滅創等の傷害を負った。
     (8) 同社派遣従業員V7(同番号7)は、緊急館内放送を聞いて、第三
広間の北側にある鉄鋼会計部事務室内の執務場所近辺を点検した後、第三広間に通
じる廊下に出ようとしてドアを開けた直後、ドカンという音とともに、赤い火花が
散るのを目撃し、首付近に激しい衝撃を感じ、約一か月間の加療を要する左音響外
傷性難聴の傷害を負った。
     (9) 同社従業員V8(同番号8)は、緊急館内放送を聞いて、執務する
通信部電気通信室に面した第三広間内を点検中に爆弾の包みを発見し、手に取って
重量や感触を確認し、不審物と判断して事務室内の自席から総務部に連絡するなど
した後、第三広間に出るドアを開け、警察官らの活動の様子を確認して、ドアを閉
めようとした際、激しい爆発音を聞き、爆風でよろけるなどし、約三日間の加療を
要する右音響外傷性中耳・内耳障害の傷害を負った。
     (10) 同社従業員V9(同番号9)は、緊急館内放送を聞いて、V8ら
とともに第三広間内を点検中に爆弾の包みを発見し、持ち上げて重量を確認し、い
ったん通信部内に戻った後、V8とともに右ドアを開け、警察官らの活動の様子を
確認して、ドアを閉めようとした際、ドカンという音と同時に、顔面に爆風を受け
て倒れ、約三週間の加療を要する右音響外傷性中耳・内耳障害の傷害を負った。
     (11) 同社従業員V10(同番号10)は、鉄鋼会計部事務室内の自席で書
類を作成中に大きな爆発音を聞き、衝撃で腰かけていた椅子から落ち、約一〇日間
の加療を要する右下腿部異物創の傷害を負った。
     (12) q1物産館内のタイプ事務器の保守管理に当たっていたV11(同
番号11)は、第三広間付近の廊下を通りかかり、警察官らの活動の様子を見た直後
に、ボーンという破裂音を聞くとともに風圧で吹き飛ばされるように倒れ、加療約
一〇日間を要する左鎖骨部挫傷等の傷害を負った。
     (13) V12(同番号12)は、V11とともに第三広間付近の廊下を通りか
かり、警察官らの活動の様子を見て通り過ぎようとした際、ボーアンという大きな
音とともに、身体に衝撃を感じ、細かいガラスの破片が後ろから身体に降りかか
り、約一週間の加療を要する全身爆創の傷害を負った。
   10 犯行声明
 被告人及びA1は、事前にq1物産事件に関する犯行声明文を用意することと
し、A1が「日帝ブルジョア報道機関に告ぐ。東アジア反日武装戦線に志願しその
一翼を担うわが部隊は、本日、植民地主義侵略企業q1物産に対し本社爆破攻撃を
決行した。」「東アジア反日武装戦線〝大地の牙〝」と記載した原稿を用意し、被
告人が新聞、雑誌等の文字を切り貼りし、これを複写して犯行声明文を完成させた
上、A1に渡し、犯行後、A1が朝日新聞東京本社に送付した。
   11 q1物産事件の総括等
    (一)その後、被告人及びA1は、q1物産事件について、現場に足がつ
くような証拠を残すことなく、完全犯罪に近い状態で任務を遂行することができ、
怪我人も比較的少なくて済み、大きな失敗はなかったなどと総括した。
    (二) 昭和四九年一〇月二五日から同年一一月初旬にかけて、被告人は、
大地の牙グループの連絡員としてA2と数回会い、同人からz6重工事件で用いた
爆弾の構造等を聞き、他方で、q1物産事件では、弾体としてブリキ製の湯たんぽ
を用いたこと、爆薬は塩素酸ナトリウムを使った黒色火薬であったこと、起爆装置
は「腹腹時計」に図示されているガス点火用ヒーターを使ったことなどを伝え、q
1物産事件の総括として爆弾そのものは予定どおり爆発したことなどを話した。
  二 証拠の信用性の検討
   1 鑑定書の信用性
 q1物産事件で用いられた爆弾の構造、爆薬の成分等について四通の鑑定書(甲
A六四ないし六七)がある。各鑑定書の記載内容はいずれも説得力に富む上、その
信用性について一部を除く鑑定書の作成者であるW4(第四二回)、W5(第四三
回)及びW6(第四三回)の各証言が存在するので検討すると、各人とも、公判段
階において、鑑定の手法を選択した経緯や鑑定経過等に関し具体的に証言してい
る。そして、爆弾について火薬残渣の成分を鑑定した証人W4は、犯行現場から押
収された付着物に関し、硝酸銀溶液を加えて塩素の存在を確認した上、亜硝酸ナト
リウム溶液を加えて塩素酸を検出した理由や、X線回折等の方法によって、塩素酸
カリウム、塩素酸ナトリウム等を検出した鑑定の実施状況等について、一部記憶が
欠落している部分はあ
るものの、おおむね具体的、論理的に説明し、その内容も専門的知見に基づいた説
得力のあるものであって、納得することができる。また、爆弾の構造及び爆薬の成
分を鑑定した証人W6は、鑑定の経過等について自然で、合理的な証言をしてお
り、作成した鑑定書に爆薬の猛度が低い旨記載したことと爆発により広い範囲で被
害が生じた関係について、「半径が四〇メートルからかなり遠いところまでガラス
が割れているという点では、かなり広い範囲内に爆発したときの圧力が及んだだろ
う」、「火薬の爆発するその反応速度というのは、塩素酸塩の本来持つ激しさより
は劣るけれども、こういうふうに広い範囲でガラスが割れたりなんかしているとい
うのは、爆薬の量的にはかなり多かったのではないか」と納得のできる説明をして
いる。
 以上からすれば、右四通の鑑定書の信用性はいずれも高い。
   2 被告人の供述の信用性
    (一) 被告人の捜査段階における供述
 被告人のq1物産事件への関与の具体的内容に関する証拠として、被告人の捜査
段階における供述(乙一四、一八)が存在するので、その信用性を検討する。
     (1) 供述の一貫性
 被告人は、捜査段階において、おおむね本章第二の一1、3、5、7、8
(一)、10、11(一)の各事実に沿う供述をしているところ、被告人の捜査段階におけ
る供述は、A1と相談し合って爆弾闘争の攻撃対象をq1物産と定め、q1物産館
を下見するなどして調査を進めた上、A1と協力して爆弾を製造し、これを仕掛け
て爆発させた状況等、その核心部分において一貫している。
     (2) 供述内容の具体性等
 供述内容を見ると、爆薬を詰める容器を湯たんぽと決めた理由について、「爆弾
の缶体は何分初体験だったのでA1君と知恵を出し合ってなるべく口の小さい方が
密封度がよく当初はオイル缶も考えたのですが缶の肉が薄すぎるとみて最終的には
湯たんぽを使うことに決定したのです」(乙一四)と供述し、爆弾を犯行現場まで
運搬する準備をした際の状況について、「現場に指紋を残してはいけないとの配慮
から右の親指、人差指、中指と左の親指、人差指には肌色のテープを貼りつけて行
きました」(乙一八)と、捜査官が知り得ない事情を含めて供述している上、A1
と連係してA1の自宅から犯行現場まで爆弾を運搬し、その後、予告電話をするた
めA1に連絡を取るなどした一連の経緯について、自ら図面(乙一八添付)を作成
して説明しており、
自然、かつ、具体的で、迫真性に富むものである。
     (3) 他の供述との符合
 加えて、被告人の供述の一部がA2の捜査段階における供述及び期日外証人尋問
における証言と符合しており、相互に信用性を補強し合っている。
     (4) 小括
 以上からすれば、被告人の捜査段階における供述の信用性は高い。
    (二) 被告人の公判段階における供述
 一方、被告人の捜査段階における供述と一部相反する被告人の公判段階における
供述(第九九回、第一〇〇回)が存在するので、その信用性について検討する。
     (1) 被告人の公判段階における供述の要旨
 被告人は、公判段階において、A1とq1物産館内で爆弾を爆発させる計画を立
て、q1物産館を下見するなどし、犯行当日、q1物産館まで爆弾を運搬し、犯行
現場に仕掛けたことは認めるものの、他方で、①大地の牙にはA1と被告人以外に
もメンバーがおり、実際には、他のメンバーも一緒にq1物産事件を敢行したので
あり、爆弾はA1が他のメンバーとともに製造したものと思っているし、犯行前日
の打合せに同席した男もいたが、②捜査段階においては、それらのメンバーの逮捕
を避けたいと思い、また、取調官から被告人の友人をみんな逮捕すると言われ、自
分とA1の二人で全て実行したことにしないと、事件と無関係の知人にまで迷惑が
かかると思ったので、A1と自分だけでq1物産事件を実行したことにするために
自分の関与を過大に
供述したのであり、自分は爆弾の製造には何ら関与していなかったなどと供述する
(第一〇〇回)。
     (2) 被告人の公判段階における供述の信用性
 しかし、被告人は、大地の牙の他のメンバーの人数、性別、氏名、立場等につい
ては具体的に知らないなどと供述しているし、犯行の前日の打合せに同席したとい
う男についても、犯行当日、被告人が爆弾を仕掛け終わった後、q1物産館付近で
すれ違ったというだけで、この男がq1物産事件でどのような役割を果たしたのか
何ら具体的な供述をしていない。また、q1物産事件の前からA5を通じてA1と
の間で東アジア反日武装戦線への参加について話し合うとともにその後は連絡のた
めに被告人と度々会合していたA2が、期日外証人尋問において、大地の牙グルー
プの構成員はA1及び被告人であった旨証言しているところ、被告人及びA1が狼
グループに対し大地の牙のメンバーの数について過少に話すべき動機があったとは
窺われない。
 仮に、被告人が爆弾の製造に関与しておらず、A1が他のメンバーとともに製造
したと思っていたのであれば、被告人が他のメンバーの逮捕を避けたいと考えた場
合でも、わざわざ自分の関与を過大に述べなくとも、A1が製造したと思う旨供述
すれば足りたのであるから、被告人が一部において虚偽の自白をした理由として述
べるところは合理性に乏しい。
 以上の諸点を総合すると、被告人の公判段階における供述のうち、A1の周囲に
打合せに同席するなどして大地の牙グループの活動に協力する者がいたという供述
が全くの虚偽と断定することはできないものの、それ以上に、爆弾の製造への自己
の関与を否定し、A1と被告人以外に爆弾の製造等の重要な準備行為を分担した者
がいたかのように供述する点は信用することができない。また、周囲の協力者がい
た可能性に関しても、その存在は、自らのq1物産事件への具体的な関与に関する
被告人の捜査段階における供述と矛盾するものではないから、協力者が存在した可
能性は、q1物産事件への関与の程度や認識に関する被告人の捜査段階における供
述の信用性に疑いを差し挟むべき事情ということはできない。
 弁護人は、被告人が昭和五二年五月に当時の弁護人に宛てた手紙(弁四九)に、
q1物産事件に関する取調べの状況等について、被告人が一生懸命A1と被告人の
二人で十分なことを力説した旨記載されていることから、被告人及びA1以外にq
1物産事件の実行に関与した者がいたはずであるなどと主張し、被告人も、公判段
階において、これに沿う供述をしている(第一〇八回)が、この手紙にはq1物産
事件に他の者が関与した旨の具体的な記載がない上、そもそも、この手紙は、捜査
段階において供述してから約二年後に公判廷への出廷を強固に拒否するなどして刑
事裁判を受けること自体に敵対的な態度を示していた被告人が、公判対策の資料と
して弁護人に送付したものにすぎないのであって、信用性の高い書面ではないか
ら、右手紙の存在は、
被告人のq1物産事件への関与の程度や認識に関する捜査段階における供述の信用
性に疑いを差し挟むべき事情ということはできない。
  三 殺意及び人の身体を害する目的の有無
   1 当裁判所の判断
    (一) 爆弾の威力
 本章第二の一9のとおり、爆発により、爆心地であった第三広間付近で
は、第三広間に面した窓ガラスのほとんどが破壊され、自動販売機の表側鉄板がは
ずれて壊れ、第三広間西側にある湯沸室はほぼ全壊した上、三階廊下及び外に面し
た窓ガラスは、金網入りのものを含め多数破壊され、それらの破片が各事務室内や
q1物産館外周の歩道等に散乱し、事務室内に散乱したガラスの破片の中には、長
径約三〇センチメートル、短径約一五センチメートルの大きさのものまであったば
かりでなく、爆心地から約七〇メートル以上離れた窓ガラスまで破壊されたのであ
り、また、爆心地付近に居合わせた被害者らは、爆風を受けたり、飛散した窓ガラ
スの破片等が当たるなどして重軽傷を負い、中でも、V1については、爆風によっ
て吹き飛ばされたと思われる異物が、左側頭骨内にまで突き刺さったのである。こ
れらの事実に鑑みる
と、爆弾の威力が相当強力であったことは明らかである。
 そうすると、少なくとも、爆心地であった第三広間並びに付近の廊下及び事務室
内にいた別表(一)記載の被害者らは、爆発時の爆風、飛散した弾体、破壊された壁
や窓ガラス等の破片、書棚等の重量物の転倒等によって死亡する可能性のある範囲
内にいたものと認められ、さらに、q1物産館三階のその他の場所及びq1物産館
外周の歩道上に居合わせた人々は、爆発により破壊された窓ガラスの破片等によっ
て傷害を負う可能性のある範囲内にいたものと認められる。
    (二) 爆弾の威力に関する被告人及びA1の認識
 本章第二の一4、5、11(二)のとおり、被告人及びA1は、「腹腹時計」を参照
し、これに従って、爆弾の威力を高めるために、①塩素酸ナトリウム及び塩素酸カ
リウムを主成分とする塩素酸塩系爆薬を用い、②容器として硬度のある金属製湯た
んぽを用い、③偽装を兼ねて容器を補強するために、爆薬を詰めた湯たんぽを金属
製の缶に入れ、生じた隙間にコンクリート様のものを詰めて上蓋をしたのであり、
かつ、q1物産事件の後、被告人がA2に対し爆弾そのものは予定どおりに爆発し
た旨話したことに鑑みると、爆弾の威力については、被告人及びA1の事前の認識
と実際の爆発との間で特段の齟齬はなかったことが認められる。
    (三) 殺意の有無
 以上によれば、q1物産事件で用いられた爆弾の威力は相当強力であった上、被
告人及びA1は、その威力を認識しつつ、綿密な調査を重ねて、平日の昼間、人通
りの多いオフィス街にあった大企業の本社ビル内に爆弾を仕掛けたのであるから、
その爆弾の爆発により、付近にいた者らを死亡させる可能性があることを当然に認
識していたものと認められる。
 しかも、被告人及びA1は、本章第二の一1(四)、8のとおり、z6重工事件で
多数の死傷者を出した狼グループから予告電話のかけ方について助言を受け、q1
物産内の三か所に電話をかけ、爆弾を仕掛けた旨を告げて避難を求めたものである
ところ、予告電話で警告して避難を求めるという行為自体、被告人及びA1が爆弾
の爆発によって付近に居合わせた多数の者を殺傷する結果の生じることを予測して
いた証左であるということができる。
 結局、被告人及びA1の主目的が企業施設の破壊にあったとはいえ、少なくと
も、爆心地であったq1物産館三階第三広間、その付近の廊下及び近接する事務室
内に居合わせた者が爆発時の爆風、飛散した弾体、破壊された壁や窓ガラス等の破
片、書棚等の重量物の転倒等によって死亡する可能性があることを認識しつつ、こ
れを認容して、あえて犯行を実行したと認めることができ、被告人に未必の殺意が
あったことは明らかである。
    (四) 人の身体を害する目的の有無
 以上の諸事情からすると、被告人及びA1が爆弾を使用するに際して、被告人に
少なくとも未必的に人の身体を害する目的があったことも明白である。
   2 検察官の主張
    (一) 検察官の主張の要旨
 検察官は、q1物産事件における被告人及びA1の殺意について、「腹腹時計」
の記載や犯行後に出された声明文の記載等によると、被告人及びA1が日雇労働者
以外の労働者、特にq1物産に勤務する従業員も日帝侵略企業に寄生する植民者で
あると評価しており、被告人及びA1のこのような考え方と爆弾の使用状況等を併
せ考えると、被告人及びA1は、反日武装闘争の一環として最初に敢行する企業爆
破攻撃を成功させ、その成果を誇示するために、q1物産の従業員らの一部を巻き
添えにすることを積極的に容認していたと認められることなどの理由から、客体に
ついては概括的であるものの、確定的な殺意を有していたと主張する。
    (二) 検討
 確かに、「腹腹時計」には、「日帝本国の労働者、市民は植民地人民と日常不断
に敵対する帝国主義者、侵略者である。」「日帝の手足となって無自覚に侵略に荷
担する日帝労働者が、自らの帝国主義的、反革命的、小市民的利害と生活を破壊、
解体することなしに、「日本プロレタリアートの階級的独裁」とか「暴力革命」と
かを例えどれ程唱えても、それはまったくのペテンである。」という記載があり、
q1物産を攻撃の対象として選定した経緯や犯行声明の記載内容からも、被告人及
びA1がq1物産の従業員を帝国主義者又は侵略者であると認識していたことが認
められ、この限りにおいて検察官の主張は正しいけれども、他方で、本章第二の一
1(二)、(三)、8のとおり、被告人及びA1は、爆弾闘争によって企業の中枢を破
壊して経済的侵略行
為を阻止しようなどと考え、旧q1財閥系企業グループがアジア諸国を中心に海外
進出しており、中でもq1物産はグループの中枢的機能を担っているという認識か
ら、海外事業に必要な機能が集中しているq1物産館三階電気通信室内の機械等を
破壊しようとして犯行に及んだものである上、A1は、爆発の二〇分ほど前に、q
1物産館内の三か所に電話をかけ、爆弾を仕掛けたことを告げて、避難を求めたの
であり、これらの事実に鑑みると、被告人及びA1が爆弾の爆発によってq1物産
の従業員らが死亡することを確定的に認識し、あるいは積極的に意欲していたとは
いい難いのであるから、検察官の右主張は採用することができない。
   3 弁護人及び被告人の主張
    (一) 弁護人及び被告人の主張の要旨
 弁護人は、被告人及びA1が事前に予告電話をかけてq1物産の従業員らが避難
するように伝えたことなどを主な理由として、被告人には殺意及び人の身体を害す
る目的がなかった旨主張し、被告人も、公判段階において、これに沿う供述をす
る。
    (二) 検討
 確かに、本章第二の一8のとおり、A1は、爆発の二〇分ほど前にq1物産に予
告電話をかけて爆弾の設置を伝え、同社従業員らの避難を求めたのであり、この行
為は、被告人及びA1が爆発による人的被害を回避するために執った措置と評価す
ることができ、弁護人の主張はこの限りにおいて正しいけれども、予告電話の中
で、爆発予定時刻、設置場所、爆弾の形状等について全く触れておらず、しかも、
被告人及びA1は、爆弾の外装を茶色の包装紙で包んで、一見書類の包みのように
見せかけるなどの工夫を凝らした上、被告人は、爆弾を仕掛けた後、A1が実際に
予告電話をかけたのかどうかを確認しないままq1物産館を立ち去り、また、事前
にも、予告電話がうまくかからなかった場合や、かかっても、いたずら電話と思わ
れて避難しない者がい
た場合、爆弾の捜索をする者がいたりした場合の対処方法については何ら協議して
いなかったのであり、これらの事実に鑑みると、被告人及びA1が、予告電話によ
ってできるだけ多くの人が避難することを期待していたことは窺われるものの、そ
れにより死亡を含む人的被害を完全に防ぎ得るとは考えていなかったというべきで
あって、予告電話が効を奏さず、爆発によって死傷者が出る可能性があることを認
識しつつ、これを認容して、あえて犯行を実行したと認められるのであり、弁護人
の右主張は、採用することができない。
 第三 まとめ
 以上のとおりであって、被告人には判示第一の各罪が成立する。
第四章 判示第二の事実について
第一 弁護人の主張
 弁護人は、判示第二のq2建設ビル前路上において手製爆弾を爆発させるなどし
た事件(以下「q2建設事件」という。)に関し、①実行行為者には殺意がなく、
爆発物取締罰則にいう「人ノ身体ヲ害セントスルノ目的」もなかったから、犯人ら
の行為は、傷害罪又は過失傷害罪並びに人の財産を害する目的による爆発物取締罰
則違反の罪又は建造物及び器物損壊罪の構成要件に該当するにとどまり、②被告人
は、実行行為に関与していなかったから、幇助犯の罪責を負うにとどまるなどと主
張し、被告人も、公判段階において、これに沿う供述をするので、以下検討する。
 第二 検討
  一 認定事実
 関係証拠から認められる事実は、以下のとおりである。
   1 被告人及びA1のq2建設事件に関する謀議状況等
 昭和四九年一一月初旬ころ、A1は、被告人に対し、r1財閥が第二次世界大戦
以前に「死の商人」として君臨し、アイヌ民族から土地を取り上げて農場とした
り、a14電力の水力発電所工事の際に朝鮮人労働者を大量虐殺したり、中国又は朝
鮮から歴史的文化財等を奪い取ってr1集古館に展示するなど、あくどいことをし
てきており、第二次大戦後にr1財閥の土木事業を遂行していた会社から改名した
q2建設も会社の体質が改まらず、いち早く米軍に取り入って会社を成長させ、下
層労働者の犠牲のもとに海外侵略を推進するなど無自覚な態度を執ってきたなどと
話して、q2建設を次の爆弾闘争の攻撃対象にすることを提案し、A1の話を聞い
た被告人も、関係する書籍を読むなどした上、q2建設に反省と自覚を促さなけれ
ばならないなどと考え
てこれを了承した。
被告人及びA1は、当初、ホテルr2敷地内のr1集古館がq2建設と同じくr
1財閥の系譜を継ぐことから、r1集古館への攻撃がq2建設を攻撃する上で象徴
的な意味を有すると考えて、r1集古館を攻撃対象に選定したが、下見等の結果、
実行困難と判断してr1集古館に対する攻撃を断念し、両名で相談した結果、q2
建設本社を攻撃対象に決定した。
2 q2建設本社付近の状況
 q2建設本社の付近は、ビル街で建物が密集していた上、繁華街である銀座中央
通りに近接し、人通りが多く、自動車等の通行も激しかった。
 q2建設本社は、間口約一六・一六メートル、奥行き約三七・三二メートル、地
上八階、地下二階の鉄筋コンクリートビルであり、q2建設の従業員ら多数の者が
勤務していた。
   3 被告人及びA1の下見状況
 被告人及びA1は、q2建設本社及びその周囲の状況につき、事前に下見等をし
て調査を重ねた。被告人及びA1は、下見の結果に基づき、爆弾の設置場所につい
て検討したが、q2建設本社内には適当な場所が見つからず、結局、周囲をq2建
設関係会社のビルで囲まれたq2建設本社一階駐車場からピロティにかけての出入
口に敷かれた鉄製踏板と道路との隙間に爆弾を仕掛けることとし、また、爆発時刻
について、q2建設は午前九時半ころが始業で、同社の役員らはもう少し出社が遅
くなるであろうから、皆がそろった時間帯がよいなどと考え、午前一〇時又は午前
一〇時半に爆発させることとした。
   4 他のグループとの謀議状況等
 被告人は、昭和四九年一〇月二五日から、大地の牙グループの連絡員となり、狼
グループの連絡員であったA2としばしば会談を持ち、それまでの爆弾闘争の評価
及び反省点や今後の闘争計画等について話合いを重ねていたが、同年一一月一八日
ころの会談の際、A2に対し、次の攻撃対象としてr1集古館を調査中であること
やその理由等を伝えた。また、被告人は、以前、A2に対し、q1物産事件でガス
ヒーターを用いて点火装置を製作したが、筒の中に点火薬を入れるとフィラメント
がはずれそうになったなどと話した際、同人から、z6重工事件では手製雷管を使
用しており、ガスヒーターよりも手製雷管を使用した方が威力の大きい爆発が起こ
ることや、大地の牙グループが必要ならば手製雷管を提供してもよいことなどを聞
いていたため、雷管
の製作と提供を依頼した。
 さらに、被告人は、同月二七日ころ、A2に対し、r1集古館の調査の結果、計
画を変更し、q2建設本社に爆弾を仕掛けて爆発させることに決定したことや、爆
弾の容器として何を用いるかということ、予告電話をかけることなどを伝えた。
 このころ、A2は、都内の喫茶店において、狼グループ内部で大地の牙グループ
がq2建設本社を攻撃することや大地の牙グループに雷管を提供することなどにつ
いて話し合い、A3、A4及びA5はこれを了承し、A3とA4が協力して雷管を
製作した。
 その後、同年一二月四日ころ、被告人は、A2と会ってq2建設本社における爆
弾の設置場所や爆発予定時刻等を伝えた。その際、A2は、被告人に雷管を渡した
上、東アジア反日武装戦線に「さそり」という新たなグループが参加することとな
った旨を伝えた。
 A2は、同日、A3、A4及びA5に被告人から聞いた計画内容を伝え、同人ら
はこれを了承した。
   5 爆弾の構造
 q2建設事件で用いられた爆弾は、石油ストーブ用カートリッジタンクと推定さ
れる容器の中に塩素酸ナトリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする塩素酸塩系爆
薬を装填し、電源としてナショナルハイトップS006PD9V積層乾電池、手製
雷管、時限スイッチとしてリズム時計工業株式会社製小型目覚まし時計を改造して
あげばね式時限スイッチとしたもの等を取り付けて製造した電気的発火方式による
時限爆弾であった。
 また、爆弾の缶体はコンクリートによって補強されていた。
   6 爆弾の製造状況等
 被告人及びA1は、q2建設本社付近を下見した際、一階駐車場からピロティに
かけての出入口に道路との段差解消用に敷かれた鉄製踏板の下の隙間について、そ
の大きさを目測等で見当をつけた後、相談した結果、爆弾の缶体として石油ストー
ブのカートリッジタンクを使うこととし、昭和四九年一一月下旬、秋葉原の電気街
に赴き、電器店から窃取してこれを入手した。
 被告人は、A1から受け取った小型目覚まし時計、ナショナルハイトップ乾電池
等を用い、自室において時限装置を製作し、この時限装置とA2から受け取った手
製雷管をA1に渡し、A1が爆薬を調合してカートリッジタンクに詰め、これを時
限装置及び雷管を用いた起爆装置と接続するなどして爆弾を完成させた。その際、
被告人は、A1から、缶体をコンクリート等で補強する旨の話を聞いていた。被告
人及びA1は、爆弾を製造する際、「腹腹時計」の記載を参照した。
   7 爆弾の運搬設置状況等
 被告人及びA1は、爆弾の運搬、設置等について相談し、当初、被告人がq2建
設本社一階駐車場出入口付近で具合が悪くなったふりをして倒れ、そこにA1が後
ろから駆け寄って助け起こそうとする際にA1がそっと爆弾を被告人に渡し、被告
人が倒れたままの状態で鉄製踏板の下に爆弾を押し込むという計画でいたが、A1
以外の人間が駆け寄ってくる可能性もあって、危険性が高いことから断念し、結
局、警察官に目撃されることをも想定して、新宿からq2建設本社までの運搬者の
人相、紙袋の図柄等のイメージを連続させないために、A1が自宅から新宿駅まで
図柄の異なる紙袋を三重に重ねたものに爆弾を入れて運び、地下鉄新宿駅の自動券
売機の前で被告人が一番外側の紙袋を残して中身を抜き取り、丸ノ内線で銀座駅ま
で行き、銀座駅階段踊
り場で再度A1が爆弾の入った一番内側の紙袋を抜き取って、もともと一番外側で
あった紙袋に入れ、別々の道を通ってq2建設本社に向かうという計画を立て、紙
袋を抜き取る練習等を重ね、うまく抜き取れるように紙袋の口の折り返し部分をセ
ロファンテープで留めるなどの準備を整えた。
 A1は、爆弾が午前一〇時又は午前一〇時半ころに爆発するように時限装置をセ
ットし、昭和四九年一二月一〇日午前六時ころ、被告人と新宿駅で落ち合った。被
告人及びA1は、事前に打ち合わせたとおりの方法でq2建設本社まで爆弾を運搬
し、A1が、同日午前六時半ころ、q2建設本社一階駐車場からピロティにかけて
南東側道路との段差部分に敷かれた鉄製踏板のうち南西側(ビル南側角側)端の鉄
製踏板の下に仕掛けた。その際、被告人は、A1から少し離れた場所で人通りがな
いか警戒に当たった。
   8 予告電話
    (一) A1は、爆弾を仕掛けた後、あらかじめ被告人と決めていたとお
り、昭和四九年一二月一〇日午前九時四五分ころ、
     (1) q2建設本社総務部庶務課(電話番号五六一―××××)に電話を
かけ、応答した同社従業員C5に対し、「爆弾を仕掛けた。」と言って電話を切
り、
     (2) 職業別電話帳にc3ビル別館内の同社技術開発本部技術管理部の電
話番号として登載されていた番号(五六三―××××)に電話をかけ、応答した同
社技術開発本部長C6に対し、「q2建設に爆弾を仕掛けた。」と言って電話を切
り、
     (3) 本章第二の一9(一)(5)のr1本館ビル内に所在するr1商事株式
会社本社建設部(電話番号五六七―××××)に電話をかけ、応答した同社従業員
C7に対し、「そちらに爆弾を仕掛けた。ただちに避難せよ。」と言って電話を切
った。
 なお、A1は、爆弾を仕掛けた具体的な場所や爆発予定時刻については、何も言
わなかった。
    (二) q2建設では、同日午前九時五〇分ころ、爆弾を仕掛けた旨の電話
があ
ったので周囲の不審物を調べるようにという内容の社内放送を流すとともに、右電
話があった旨を警察に連絡し、臨場した警察官らが不審物を探索したが、判示第二
の爆発時刻までに爆弾を発見することができなかった。
   9 爆弾の威力
    (一) q2建設本社及びその付近の物的被害の状況
 q2建設事件で用いられた爆弾の爆発により、q2建設本社一階駐車場付近等に
おいて、次のとおりの物的被害が生じた。
     (1) q2建設本社一階は、南西側がピロティとなり、西側の一角にエレ
ベーターホール及び階段があり、北側の一角に運転手控室及び階段があるほかは、
大部分が駐車場となっており、その南東方向の通称文化通りに面した側は、ほぼ一
面が道路との出入口として開かれていて、駐車場及びピロティと道路端との段差部
分には、自動車等の出入りの便宜のため重さ約七〇キログラムの鉄製踏板を連ねて
敷いてあったが、爆発後は、そのうち一枚が大きく湾曲した状態でピロティ内に吹
き飛んだほか、六枚が通称文化通りの路上に飛散し(うち一枚は大きく湾曲し
た。)、さらに、一枚が後記(6)のとおり他の建物まで吹き飛ばされた。
 爆心地と認められるのは、q2建設本社の南東側道路沿いに敷かれた一連の鉄製
踏板のうち、q2建設本社の南側角の柱付近にあった鉄製踏板の下であるが、同所
にはコンクリート製L字型側溝が設けられており、爆発後、同所では、長さ約一・
二メートル、最大幅約八六センチメートルにわたって地面が陥没し、コンクリート
製L字型側溝が路面にめり込んだ。
 また、ピロティ前の路上に駐車してあった小型貨物自動車が横倒しになり、運転
席左側ドア等に長さ約一・三八メートル、幅約一・五ないし約五センチメートルの
線状の凹傷が生じ、荷台左脇下に付いていたバッテリーはカバーがもぎ取られたよ
うになって垂れ下がった。
     (2) q2建設本社一階駐車場では、天井の金属板や壁面の石綿スレート
板が一部落下するなどし、北側隅にある運転手控室の網入りガラス戸が割れ、室内
に破片が散乱した。
     (3) q2建設本社の南西側の出入口及びピロティ付近では、仕切りガラ
ス、天窓等がほとんど破壊され、破片や金属片が床上等に散乱し、天井のアルミ板
が飛散して落下した上、アルミ板に金属片が突き刺さった。
 また、q2建設本社二階ないし七階の南西側及び南東側の窓ガラス百数十枚が割
れたり、亀裂が入るなどし、ガラスの破片が室内及び路上に飛散した。
     (4) q2建設本社の北西側に隣接して建つc4ビルでは、八階南西側中
央部の窓ガラス一枚が高さ約八九センチメートル、幅約七六センチメートルにわた
って割れ、破片が室内本棚上等に散乱した。
     (5) 幅員約八メートルの通称文化通りを挟んでq2建設本社の南東側向
かいにあるr1本館ビルでは、q2建設本社に面した側の二階及び三階トイレの網
入り窓ガラスにひびが入った。
     (6) 通称文化通りを挟んでq2建設本社の東側斜め向かいにあった株式
会社a2の二階建て木造建物では、トタン葺きの屋根及び天井に大きな穴が空き、
二階の従業員用食堂内にあった食卓付近にq2建設本社の南東側道路沿いに敷いて
あった鉄製踏板のうちの一枚がV字形に大きく折れ曲がった状態で落下し、付近に
は屋根のつかや板片等が散乱した。
 鉄製踏板が落下した付近にあった椅子の背もたれ部分やテーブルの一部分が打ち
砕かれ、出窓の縁が長さ約一四センチメートル、幅約四センチメートルの三角状に
はぎ取られた上、下部の引き戸も破壊された。
 なお、爆心地から右木造建物までの距離は約三一メートル、道路面から鉄製踏板
が貫通した屋根までの高さは約六・七メートルであった。
     (7) 幅員約一四・五メートルの道路を挟んでq2建設本社の南西向かい
にあったr1別館では、q2建設本社に面した側を中心に一階ないし七階の窓ガラ
ス合計八四枚に穴が空いたり、ひびが入るなどし、室内にガラス片が散乱した。
 r1別館の南東側の通称文化通り路上には、爆心地の数十メートル先まで、ガラ
スの破片、卵大のものを含む多数の金属片等が散乱し、特にq2建設本社に近い箇
所ほど多くの破片等が散乱した。
     (8) r1別館の北西側に道路を挟んで建ちq2建設本社の西方に位置す
るc5ビルでも、爆心地に向いた一階ないし七階の窓ガラスの合計九枚が割れ、付
近路上に破片が散乱した。
     (9) 結局、q2建設事件における物的被害の総額は、六二一万〇八四五
円に達した。
    (二) 人的被害の状況等
 爆発の際、爆心地付近に居合わせて重軽傷を負った各被害者の被害状況等は、以
下のとおりである。
     (1) q2建設本社に物品を配達するため一階駐車場横のピロティ内で作
業をしていたV13(別表(二)番号1)は、右手の中指、人さし指及び薬指の各第一
関節部分がなくなり、右足に多数のコンクリートの破片等が突き刺さり、頭部にも
挫創を生じるなどして、合計約四か月半の入院加療等を要する傷害を負った上、右
手中指については根本から切断しなければならなくなり、人差し指と薬指について
も機能回復の見込みがないと診断された。
     (2) V13とともに物品を配達するためq2建設本社一階の南東側路上に
停車中の貨物自動車の荷台で作業をしていたV14(同番号2)は、爆発の際、体を
飛ばされて右肘関節打撲及び左右骨盤部打撲の傷害を負い、五日間の入院と約半年
間の通院加療を要した。
     (3) q2建設本社一階駐車場付近路上を通行していたV15(同番号3)
は、大音量の爆発音とともに爆風を感じ、加療約八〇日間を要する右鼓膜損傷の傷
害を負った。
     (4) q2建設本社向かいのr1本館一階駐車場に居合わせたV16(同番
号4)は、ドカーンという低くこもったような爆音と同時に爆風を感じ、両耳に雑
音を感じて聞こえなくなり、両側感音系難聴等の傷害を負った。
     (5) q2建設本社一階駐車場付近路上を通行していたV17(同番号5)
は、大音量の爆発音を聞き、右耳に雑音を感じるようになり、右内耳性(感音性)
難聴の傷害を負った。
     (6) q2建設従業員V18(同番号6)は、社内放送から相当時間が経過
したことから、予告電話はいたずらであったと判断して、訪問客を案内するため本
社一階出入口付近に立っていたところ、ドーンという低い音を聞き、左耳に雑音を
感じて聞こえなくなり、加療約一〇日間を要する急性感音系難聴等の傷害を負っ
た。
     (7) q2建設本社一階駐車場付近路上を通行していたV19(同番号7)
は、ドカンという音を聞き、飛ばされてきた異物が顎に当たって、全治約一週間を
要する下顎部挫創の傷害を負った。
     (8) q2建設本社の向かいのr1本館一階駐車場前歩道上を通行してい
たV20(同番号8)は、大音量の音とともに爆風を感じ、体を飛ばされて倒れ、右
胸に金属製破片様のものが突き刺さるなどして、全治約一〇日間を要する右側胸部
挫創の傷害を負った。
   10 犯行声明
 被告人及びA1は、事前にq2建設事件に関する犯行声明文を用意することと
し、A1が「東アジア反日武装戦線の一翼を担い、わが〝大地の牙〟は、本日、q
2建設(←r1土木)を筆頭とする旧r1財閥系企業の本拠地を爆破攻撃した。」
「わが部隊は、このr1=q2ら日帝の全構築を破壊し、植民地主義企業、帝国主
義者を地上から掃滅する戦いの一環として今回の作戦を決行した。」「東アジア反
日武装戦線〝大地の牙〟情報部」と記載した原稿を用意し、被告人が漢字辞典から
文字を切り抜くなどして犯行声明文を完成させた。その後、被告人は、犯行声明文
をコピーしてA1に渡し、A1が日本放送協会、朝日新聞東京本社、読売新聞社等
に送付した。
   11 q2建設事件の総括
 犯行後、負傷者が出たことについて被告人とA1が話し合った際、A1は、「予
告電話が早かったことについては焦りがなかったとは言い切れないし、また、あん
なに早く警察が解除するとは思わなかった。」と話し、被告人及びA1は、結局、
A1が最終的な決定権を持ち、被告人がA1の判断に委ねがちであるという大地の
牙グループの体質に問題があったため作戦に失敗したなどと総括した。また、被告
人及びA1は、負傷者の中に高齢の下請労働者がいたことを知り、被害者に何らか
の形で謝罪することができないか思案したが、被害者の住所等が分からず、謝罪す
ることによって足がつき、逮捕されることを恐れたためこれを諦めた。
  二 証拠の信用性の検討
   1 鑑定書の信用性
 q2建設事件で用いられた爆弾の構造、爆薬の成分等について四通の鑑定書(甲
B三〇、三二、三三、三五)がある。各鑑定書の記載内容はいずれも説得力に富む
上、その信用性について各鑑定書の作成者であるW4(第五二回)、W5(第五四
回)、W7(第五五回)及びW6(第五五回)の各証言が存在するので検討する
と、各人とも、公判段階において、鑑定の経過等に関し、専門的知見に基づき、細
部にわたるまで証言をしている上、爆弾について火薬残渣の成分を鑑定した証人W
4は、火薬検査の実験過程に関し、専門的知見に基づいた説得力のある証言をして
おり、爆弾の缶体について鑑定した証人W5は、鑑定の過程に関し、実施していな
いことや記憶にないことを区別して真摯な態度で具体的に証言しており、爆弾の構
造及び爆薬を総合する
鑑定をした証人W6は、犯行後に被害現場を観察し、W4らの実施した鑑定結果を
もとに、q1物産事件等と状況を対比しながら鑑定を進めた過程等について、説得
的に証言しているのであり、いずれも信用することができる。
 以上からすれば、右四通の鑑定書の信用性は高い。
   2 被告人の供述の信用性
    (一) 被告人の捜査段階における供述
 被告人のq2建設事件への関与の事実を支える証拠として、被告人の捜査段階に
おける供述(乙九、一〇)が存在するので、その信用性を検討する。
     (1) 供述の一貫性
 被告人は、捜査段階において、おおむね本章第二の一1、3、4、6、7、
8、10、11の各事実に沿う供述をしているところ、その供述は、A1からq2建設
を攻撃対象とすることを告げられてこれを了承し、A2にその旨連絡しつつ、同人
から雷管の提供を受け、A1と協力しながら爆弾を製造して運搬した上、A1がそ
の爆弾を仕掛け、その際被告人が見張りをした状況等、その核心部分において一貫
している。
     (2) 供述内容の具体性等
 供述内容を見ると、爆弾を運搬した状況について、「新宿駅まではA1君が家か
ら爆弾の本体をこの三重の袋に入れて運んで来たのです」、「A1君が私の姿を見
つけておりて自動券売器の前に立った私の足元にそっと爆弾の袋を置いたのです 
そうすると私が何気なくその袋からBCの袋を抜きとったのです そしてAの袋は
空の侭A1君が銀座まで持って行ったのです」(乙一〇)と供述し、A1と協力し
て爆弾を複雑な方法で運搬した理由について、「このようにA1君から私へ、又私
からA1君へと爆弾の運搬者そして袋まで変えた理由は或はお巡りさんから目撃さ
れているという可能性も頭に入れて新宿から銀座までの運搬者の人相、風体、運搬
した袋のイメージを連続させてはならないという考えから一つのアイデアをあみだ
した訳でそうするこ
とによって私達に対する捜査の巾がせばめられることを防いだのです」(乙一〇)
と、捜査官が知り得ず、体験した者でなければ語り難い内容の供述をしている上、
地下鉄銀座駅からq2建設本社に至るまでの被告人やA1が通った道順や、爆弾を
入れていた紙袋の状態について、自ら図面を作成して説明しているのであって、具
体的で、臨場感に富むものである。
 また、爆弾を仕掛けた際の心境について、「死を覚悟しての行動でしたからq2
建設に爆弾を仕掛けに赴いた際も、片腕に毒薬入りの注射針をバンソウコウで貼り
つけ襟元の裏側にはメスの刃を縫いつけていざという場合には頚動脈をきり或は、
毒薬入りの針を腕に刺しこんで死ぬつもりでした 勿論A1君も私と同じようなこ
とをしていた筈です」(乙一〇)と、自らの生命を賭してA1とともにq2建設事
件を決行した被告人の内心が録取されており、迫真性に富むものでもある。
     (3) 他の供述との符合
 加えて、被告人の供述の一部がA2の捜査段階における供述及び期日外証人尋問
における証言と符合しており、相互に信用性を補強し合っている。
     (4) 小括
 以上によれば、被告人の捜査段階における供述の信用性は高い。
    (二) 被告人の公判段階における供述
 一方、被告人の捜査段階における供述と一部相反する被告人の公判段階における
供述(第一〇〇回、第一〇一回、第一〇六回)が存在するので、その信用性につい
て検討する。
     (1) 被告人の公判段階における供述の要旨
 被告人は、公判段階において、A1からq2建設本社に爆弾を仕掛けた上爆発さ
せる計画を聞いて、これを了承し、連絡員としてA2と数回の会談をして犯行計画
を伝えたこと、その過程で、同人に爆弾の製造に用いる雷管の提供を依頼し、これ
を受け取ってA1に渡したこと、A1とともに爆弾の容器とする石油ストーブのカ
ートリッジタンクを入手したこと、切り貼りをするなどして声明文を作成したこと
などは認めるものの、他方で、①爆弾の製造過程には全く関与しておらず、A1ら
が製造したと思っていること、②事件当日は通常どおり勤務先の北里大学に出勤し
ており、爆弾の運搬及び設置には一切関与しておらず、A1及び大地の牙の他のメ
ンバーが担当したこと、③事前に認識していた爆発時刻及び設置場所が実際とは違
っており、設置場所
については、A1からq2建設本社幹部の駐車場に仕掛けるなどと聞き、q2建設
本社付近を見に行くと、同社付近に三方を建物に囲まれた空き地のような駐車場が
あり、横に六、七台の車両が二、三列駐車できる広さで、一台一台駐車スペースが
仕切ってあって、その駐車場内の通路と駐車スペースとの間の段差部分に爆弾を仕
掛けると思っていたなどと供述する(第一〇〇回、第一〇一回、第一〇六回)。
     (2) 被告人の公判段階における供述の信用性
 まず、①及び②について検討すると、被告人は、捜査段階においてはq2建設事
件で様々な役割を担った旨供述した理由につき、大地の牙の他のメンバーの存在を
隠すために、自分とA1の二人でやったことにしようと考え、役割を割り振って取
調官に話したなどと供述している。しかし、本章第二の一5のとおりの爆弾の構造
からすると、その製造に二人以上の者が共同して作業することが必要不可欠とはい
えないし、運搬や設置に関しても、同様に二人以上の者の共同が不可欠とはいえな
い上、被告人は、昭和五〇年六月六日に判示第四の二の事件について供述した際に
は、A1が一人で爆弾を運搬して仕掛けた旨の供述をしているのであり(乙七)、
その後にq2建設事件について供述する際、仮に被告人が爆弾の製造や運搬に全く
関与していなかった
のであれば、自己の関与していなかった部分まであえて認め、作り話であるがゆえ
の矛盾や不自然さから捜査官に他の実行者の存在を疑われるような危険を冒さなく
ても、A1が実行したと思う旨供述すれば足りたのであるから、被告人が虚偽の自
白をした理由として述べるところは合理性に乏しい。また、被告人は、大地の牙グ
ループの他のメンバーが爆弾の運搬及び設置を担当した旨供述するのみで、その仲
間の氏名はもとより、性別、立場等について何ら供述しておらず、その者がq2建
設事件で果たした具体的な役割についても供述していないのであり、この点に関す
る被告人の公判段階における供述は、到底信用することができない。
 加えて、関係証拠によれば、被告人は、大地の牙グループが警察の摘発を受ける
場合に備えて、昭和五〇年一月にA2に依頼して青酸カリ入りのカプセルを二個入
手していたことが認められ、この事実も、大地の牙グループが被告人とA1の二人
である旨の被告人の捜査段階における供述を裏付けるものである。
 なお、q2建設事件の前後に被告人と会談して犯行計画等について話合いを重ね
雷管を提供したA2は、期日外証人尋問において、事件の翌日、被告人から事件当
日は犯行現場に行かなかった旨聞いたなどと証言しているが、A2が捜査段階にお
いてはこの点につき供述していないことや、右証言は、被告人が公判段階において
q2建設事件の実行への関与を否認している状況下でしたものであることなどに鑑
みると、信用することができない。
 ③について検討すると、被告人は、爆発予定時刻の認識につき、捜査段階におい
ても、実際の爆発時刻とは違っていた旨供述しており、この点に関する被告人の供
述は一貫していて信用することができるものの、爆弾の設置場所については、確か
にq2建設本社の北東側に外来者用の屋外駐車場が存在するが、関係証拠から認め
られる右駐車場の状況は、間口が約五・一五メートルにすぎず、一台一台の駐車ス
ペースが区切られていなかった点など、被告人の供述と大きく食い違っている上、
被告人は、公判段階において、当時の認識として、q2建設本社駐車場の中で、幹
部の自動車を止めるエリアに爆弾を設置するという認識であったことを認めている
(第一〇〇回)ところ、右屋外駐車場のすぐ隣にはq2建設本社幹部の自動車が駐
車してある同社一階
駐車場があり、爆弾は同駐車場の付近に仕掛けられたのであり、これらの事実に鑑
みると、爆弾の設置場所に関する被告人の公判段階における供述は、不自然であ
る。
 以上からすれば、被告人の公判段階における供述のうち捜査段階における供述と
相反する部分は、重要な点が不自然、不合理であって、信用することができない。
  三 殺意及び人の身体を害する目的の有無
   1 当裁判所の判断
    (一) 爆弾の威力
 本章第二の一9のとおり、爆発により、爆心地のコンクリート製L字型側溝が路
面にめり込み、q2建設本社ピロティから隣接する駐車場にかけての出入口に敷い
てあった重さ約七〇キログラムの鉄製踏板のうち一枚が、約三一メートルの距離に
ある高さ約六・七メートルの二階建ての建物上まで飛ばされ、屋根及び天井を突き
破って室内に落下したほか、数枚がピロティ内やq2建設本社ビル前の路上に飛散
し、付近路上に駐車中の小型トラックが横倒しになった上、q2建設本社では窓ガ
ラス百数十枚が割れるなどして、大量のガラス破片等が室内や路上に散乱し、近隣
のビルでも窓ガラスが割れるなどしたのであり、また、爆心地付近に居合わせた被
害者らは、爆風、爆音や飛散した異物を身体に受けるなどして重軽傷を負い、中で
もV13については、
右手中指、人さし指及び薬指の各指先から第一関節までの部分がなくなり、右足に
コンクリート片等が突き刺さるなどしたのである。これらの事実に鑑みると、爆弾
の威力が相当強力であったことは明らかである。
 そうすると、少なくとも、爆心地付近に居合わせた別表(二)記載の被害者らは、
いずれも爆発時の爆風、飛散した鉄製踏板やコンクリート破片等によって死亡する
可能性のある範囲内にいたものと認められ、さらに、被害者らがいた地点はもとよ
りのこと、q2建設本社の内部やその周辺に居合わせた人々も、爆発により破壊さ
れた窓ガラスの破片等によって傷害を負う可能性のある範囲内にいたものと認めら
れる。
    (二) 爆弾の威力に関する被告人及びA1の認識
 本章第二の一のとおり、A1は、「腹腹時計」の記載やq1物産事件における経
験に基づいて爆弾を製造し、その際、①爆弾の威力を高めるために塩素酸ナトリウ
ム及び塩素酸カリウムを主成分とする塩素酸塩系爆薬を用い、②容器として硬度の
ある石油ストーブのカートリッジタンクを用い、③q1物産事件では、点火具とし
てガス点火用ヒーターを用いたが、これに替え、A2から爆発力が大きくなる旨説
明された手製雷管の提供を受けて起爆装置に使用し、④容器を補強するため爆弾の
缶体をコンクリート等で補強したのであり、被告人も、時限装置を製作し、缶体や
雷管の入手を担当して爆弾の製造に協力したほか、コンクリート等により補強する
ことなどもA1から聞いていたのであって、これらの事実に鑑みると、被告人及び
A1は、q2建設で
用いた爆弾がq1物産事件で用いた爆弾に劣らない威力を有していることを認識し
ていたと認めることができる。
    (三) 殺意の有無
 以上によれば、q2建設事件で用いられた爆弾の威力は相当強力であった上、被
告人及びA1は、その威力を認識しつつ、平日の午前中、企業等の社会活動が活発
な時間帯に爆発するようにセットし、人通りや交通量の多い繁華街にあった大企業
の本社ビル前の鉄製踏板の下に爆弾を仕掛けたのであるから、その爆弾の爆発によ
り、爆心地付近にいた者らを死亡させる可能性があることを当然に認識していたも
のと認められる。
 結局、被告人及びA1の爆弾闘争の主目的が企業施設の破壊にあったとはいえ、
少なくとも、爆心地付近に居合わせた者が爆発時の爆風、飛散した鉄製踏板やコン
クリート破片等によって死亡する可能性のあることを認識しつつ、これを認容し
て、あえて犯行を実行したと認めることができるのであり、被告人らに未必の殺意
があったことは明らかである。
    (四) 人の身体を害する目的の有無
以上の諸事情からすれば、被告人及びA1が爆弾を使用するに際して、被告人に
少なくとも未必的に人の身体を害する目的があったことも明白である。
   2 検察官の主張
    (一) 検察官の主張の要旨
 検察官は、論告において、q2建設事件における被告人及びA1の殺意につき、
爆発により現実に発生した物的、人的被害の結果や、被告人及びA1が反日武装闘
争の一環として海外進出企業の爆破を目的とし、白昼、大企業の本社の公道に面し
た駐車場出入口に爆弾を仕掛けて爆発させたことなどの諸事実に照らし、被告人
は、爆弾が極めて威力の強大なものであり、その爆発によって爆発地点及びその付
近にいた不特定多数の人を殺害するに至ることを十分認識し、認容していたと認め
られる旨主張し、この点に加えて、第一三回公判期日における検察官の公訴事実に
関する釈明内容をも併せ考えると、q1物産事件と同様、被告人及びA1は、客体
については概括的であるものの、確定的な殺意を有していたと主張するもののよう
である。
    (二) 検討
 確かに、本章第二の三1(二)のとおり、被告人及びA1は、爆弾が相当な威力を
有していることを認識していたと認められるが、他方で、A1は、爆発の一時間以
上前に、q2建設本社総務部庶務課等に電話をかけ、爆弾を仕掛けたことを告げ
て、避難を求めるなどしたのであり、この事実に鑑みると、被告人及びA1が爆発
によって爆心地付近にいた者らが死亡することを確定的に認識し、あるいは積極的
に意欲していたとはいい難いのであるから、検察官の右主張を採用することはでき
ない。
   3 弁護人及び被告人の主張
    (一) 弁護人及び被告人の主張の要旨
 弁護人は、①被告人が、A1から、午前九時四五分ころに予告電話をかけるので
爆発までは二〇分以上の時間があるから、爆発地点付近にいた者は避難が可能であ
るという説明を受けていたこと、②q2建設事件で負傷者が発生したのは、予告電
話を受けていったん避難措置を執ったにもかかわらず、爆発前にこれを解除したこ
とが主な原因であることなどを理由として、被告人には殺意及び人の身体を害する
目的がなかった旨主張し、被告人も、公判段階において、これに沿う供述をする。
    (二) 検討
 まず、①については、確かに、本章第二の一8のとおり、A1は、爆発時刻の一
時間余り前の午前九時四五分ころ、q2建設等に予告電話をかけ、爆弾の設置を伝
えて、従業員らの避難を求めたのであり、この行為は、被告人及びA1が爆発によ
る人的被害を回避するために執った措置と評価することができ、また、関係証拠に
よれば、予告電話によって臨場した警察官らによりq2建設本社周辺の通行が規制
され、この規制が解除された後に爆弾が爆発した事実が認められるが、被告人及び
A1は、事前に、予告電話がうまくかからなかった場合や、かかっても、いたずら
電話と思われて避難しない者がいたり、逆に爆弾の捜索をする者がいたりした場合
の対処方法について何ら協議しておらず、また、予告電話の内容も、爆発予定時
刻、爆弾の設置場所、
爆弾の形状等について全く触れていなかったのであり、これらの事実に鑑みると、
被告人及びA1が、予告電話によって、死亡を含む人的被害を確実に回避できると
は考えていなかったというべきである。被告人自身も、逮捕された後、検察官に対
し「爆弾の仕掛場所については予告しておりませんから爆弾の在かをさがすための
お巡りさんとq2建設の若干の係員は避難しきれず怪我するかも知れないことは予
期されました」(乙一〇)と供述し、公判段階においても、警察官が爆弾を発見し
て、爆弾処理班が爆弾を包囲した状態で爆発が起こることはあり得ると考えていた
旨供述している(第一〇一回)ところ、その供述の信用性を疑うべき事情はない。
 ②については、被告人及びA1は、爆弾をq2建設本社一階と道路との段差部分
に敷かれていた鉄製踏板と路面との間に設置したのであり、予告電話をかけたビル
にいた者に限らず、道路上を歩いていた者らにも危害が及び、死亡の結果が生じる
可能性もあったのであるから、被告人及びA1が真にその結果を確実に回避しよう
と考えたのであれば、少なくとも、警察に予告電話をかけて爆発予定時刻を告げ、
正確な爆弾の設置場所は告げないまでも、一定範囲の道路の通行規制を求める程度
のことはできたのに、実際にはそのような措置を全く執らなかったのであり、規制
の早期解除が負傷者の生じた主要な原因であるという主張は、到底採用することが
できない。
 結局、被告人及びA1は、予告電話が功を奏さず、爆発によって死傷者の出る可
能性があることを認識しつつ、これを認容して、あえて犯行を実行したと認められ
るのであり、弁護人の右主張は、採用することができない。
四 被告人が共同正犯の罪責を負うことについて
   1 当裁判所の判断
 本章第二の一のとおり、被告人は、A1とともにq1物産事件を敢行した後も、
大地の牙グループの一員として、企業に対する爆弾闘争の継続についてA1と話し
合い、A1からq2建設を攻撃対象とすることを提案されてこれを了承し、q2建
設本社周辺の下見等をするとともに、昭和四九年一〇月下旬以降、大地の牙グルー
プの連絡員として狼グループのA2と会談を重ねて、犯行計画を説明し、爆弾に用
いる雷管の提供を求めてこれを受け取ったほか、缶体を入手し、時限装置を製作す
るなどして、爆弾の製造に協力した上、犯行当日には、A1とともに爆弾を運搬
し、A1が爆弾を仕掛ける際に見張りをするなどしたのであり、これらの事実から
すると、被告人が、q2建設事件において、犯罪の主体の一人であるという認識を
もって、共同して犯罪
を実行したことが明らかであり、被告人は共同正犯の罪責を負う。
   2 弁護人の主張に関する検討
 弁護人は、被告人が公判段階において、①q2建設で用いた爆弾の製造過程に何
ら関与していなかったこと、②事件当日には通常どおり勤務先の北里大学に出勤し
ており、爆弾の運搬及び設置には一切関与していなかったこと、③認識していた爆
発時刻及び設置場所が実際とは違っていたこと、④q2建設事件の大地の牙として
の総括内容を聞かされていなかったことなどを供述している点を捉えて、q2建設
事件における被告人の行為は、傷害罪又は過失傷害罪並びに人の財産を害する目的
による爆発物取締罰則違反の罪又は建造物及び器物損壊罪の幇助に該当するにとど
まるなどと主張するが、既に検討したとおり(本章第二の二2(二))、q2建設事
件に関する被告人の公判段階における供述のうち、捜査段階における供述と相反す
る部分は信用するこ
とができないのであり、そのような供述を前提とする弁護人の右主張は採用するこ
とができない。
 第三 まとめ
 以上のとおりであって、被告人には判示第二の各罪が成立する。
第五章 判示第三の各事実について
 第一 弁護人の主張
 弁護人は、判示第三の一のq3組機械部大宮工場(以下「大宮工場」という。)
における爆発物使用事件(以下「大宮工場事件」という。)に関し、被告人には爆
発物取締罰則にいう「人ノ身体ヲ害セントスルノ目的」がなかったこと、判示第三
の二及び三のq3組本社九階及び六階における爆発物使用事件(以下前者を「q3
組本社九階事件」、後者を「q3組本社六階事件」といい、両事件を合わせて「q
3組本社事件」、両事件に大宮工場事件も合わせて「q3組事件」ということがあ
る。)に関し、被告人は共謀していなかったことなどを主張し、被告人も、公判段
階において、これに沿う供述をするので、以下検討する。
 第二 共謀の有無及び人の身体を害する目的の有無
  一 認定事実
 関係証拠から認められる事実は、以下のとおりである。
   1 被告人と共犯者らのq3組事件に関する謀議状況等
    (一) q3組事件の目的
 A6は、さそりグループが昭和四九年一二月二三日にz8建設事件を成功させた
後も、引き続き別の建設会社を爆弾で攻撃しようと考えて、その対象を模索してい
たが、q3組が第二次世界大戦前及び戦中に、中国や朝鮮等に進出して現地労働者
を酷使し、中国人及び朝鮮人を我が国に連行して各地の工事現場で衰弱死するまで
酷使し、また、木曽谷ダム工事現場で労働者の武装蜂起を鎮圧するために多数の者
を虐殺したにもかかわらず、その責任が明確にされていなかった上、戦後も、マレ
ーシアのテメンゴールダム工事をはじめとして東南アジア諸国に進出し、現地の政
権と結託して現地労働者から搾取するなどしているという認識を持っており、加え
て、同月一〇日、新聞報道でマレーシアに駐在していたq3組社員の夫人がテメン
ゴールダム建設反対
を唱えるゲリラに殺された事件を知り、ゲリラに呼応した戦いをしようなどと考え
て、q3組を次の攻撃対象にすることとした。
    (二) 当初の謀議状況
 A6は、昭和五〇年一月一〇日ころ、A7及びA8に対し、q3組を次の攻撃対
象とすることやその理由等を話し、両名はこれを了承した。その上で同人らは、具
体的な計画を練り、①q3組本社で爆弾を爆発させること、②q3組が施行してい
る工事現場で爆弾を爆発させること、③q3組幹部に対して攻撃すること(テロ)
などが提案されたが、本社については警戒が厳しいであろうなどと考え、とりあえ
ずq3組本社になるべく近い東京都港区〈以下省略〉付近の工事現場を攻撃対象に
することとし、調査を開始した。
 A6は、同月二〇日ころ、A2に対し、次の攻撃対象としてq3組を選定したこ
とやその理由等を伝えていたが、そのころ、狼グループ、大地の牙グループ及びさ
そりグループの各代表者が三者の連係を強めるために会合(以下この会合を「三者
会談」という。)を持つこととなり、同月二八日ころ、A2、A1及びA6が東京
都内の喫茶店に集まり、今後の闘争の進め方について、いずれかのグループが爆弾
闘争を計画した場合には、三者会談で他のグループに提案し、各グループがその作
戦の意味を検討し、三つのグループの意見が一致したときに初めて実行していくこ
となどを取り決めた。この三者会談の際、A6は、さそりグループは次の攻撃対象
としてq3組を考えていること、具体的計画として右①ないし③の三案を考えてい
るが、とりあえずq
3組本社に近い東京都港区〈以下省略〉付近の工事現場を攻撃対象と考えているこ
とやその理由等を話し、A2及びA1は、個人的にはq3組を攻撃対象とすること
について異論はない旨答えた。
 このころ、狼グループでは、A2がA3、A5及びA4に対し、さそりグループ
のq3組攻撃計画を伝え、q3組に対する攻撃を三つのグループが共同して行うこ
とを提案し、同人らは、昭和五〇年二月上旬から中旬にかけて、q3組に関する資
料を集めて同社の概要等を把握し、A2及びA5がq3組本社を下見するなどし
た。
 同月上旬の三者会談の際、そのころマレーシアの現地ゲリラ組織がq3組に警告
文を送付した事実が報道されたことを受けて協議したところ、q3組に対する攻撃
は、さそりグループ単独ではなく、東アジア反日武装戦線に参加する三つのグルー
プが総体となって取り組む価値のある作戦であるということで意見が一致し、さら
に、同月一三日ころの三者会談の際、A2が、q3組本社の下見をした結果、警戒
がそれほど厳重ではなく、六階に海外工事局があり、九階にコンピューター室があ
るなどと話して、さそりグループがq3組本社を攻撃するように求め、その際、さ
そりグループがq3組本社を攻撃するのであれば、狼グループと大地の牙グループ
はテメンゴールダム建設工事担当のq3組幹部やq3組社長を攻撃するという案も
話し合われ、各グル
ープがq3組本社を含めて更に調査を続けることになった。
 このころ、狼グループでは、A2がA3、A5及びA4に対し、さそりグループ
では、A6がA7及びA8に対し、それぞれ三者会談において三つのグループが共
同してq3組に対する爆弾闘争を実行することに決定した旨伝えた。
    (三) その後のq3組の調査、謀議の状況等
A6は、A2の発言を受けて、q3組本社へ下見に行き、六階の海外工事局、九
階のパンチテレックス室等を覗くなどして警戒がそれほど厳しくないことを知り、
A7及びA8と話し合って、工事現場を先に攻撃するとq3組本社の警戒が厳しく
なり、その後の計画が進めにくくなるなどと考え、まずq3組本社を攻撃すること
に決定した。
 このころ、A2及びA5は、相次いでq3組本社へ下見に行き、九階のパンチテ
レックス室や計算機室等を調査し、q3組海外工事局長の自宅を調査した。
 その後、昭和五〇年二月一七日の三者会談の際、A6がA2及びA1に対し、さ
そりグループはq3組本社を攻撃するつもりであることなどを伝え、三名が協議し
た結果、さそりグループがマレーシアの現地ゲリラに呼応する闘争の提唱者であっ
たことから、q3組本社六階の海外工事局を攻撃することに決定した。その際、A
6は、A2及びA1に対し、犯行後に出す予定の声明文の原稿を見せ、同人らはそ
の内容に意見を述べた。
 同月一八日ころ、A2がA3、A5及びA4とともに、q3組に対する攻撃につ
いて狼グループとしての態度を検討したところ、個人攻撃は不適当であるという意
見が強く、結局、計算機室のあるq3組本社九階に爆弾を仕掛けて爆発させる方針
を決めた。
 A2は、翌一九日、q3組本社九階を中心に更に下見をするなどした上、同日夜
にA1と会い、狼グループの攻撃対象をq3組幹部個人から本社九階に変更したこ
とを伝え、両名の間で、大地の牙グループが大宮工場を攻撃対象とすることを話し
合い、さらに、同月二一日の三者会談において、狼グループがq3組本社九階に、
大地の牙グループが大宮工場にそれぞれ爆弾を仕掛けて爆発させることを決定し
た。
 このころ、狼グループでは、A2がA3、A5及びA4に対し、さそりグループ
では、A6がA7及びA8に対し、それぞれ三者会談における話合いの内容を伝え
るとともに、q3組本社九階又は六階で爆弾を爆発させる具体的な計画を練った。
    (四) 手製雷管の製作等
 A6及びA1は、昭和五〇年二月中旬までの三者会談の席上、A2に対し、爆弾
に用いる雷管の製作と提供を依頼し、同人は、これを承諾し、A4に指示して製作
させた雷管各一個を同月二一日の三者会談の際にA6及びA1に手渡した。
    (五) 最終的な謀議の状況等
 昭和五〇年二月二五日、A2、A1及びA6は、都内の喫茶店において、q3組
攻撃について最終的な打合せを行い、①爆弾を仕掛ける時刻を同月二八日午後六時
ころとすること、②爆発時刻を同日午後八時とすること、③各グループが別々に爆
弾を仕掛けること、④爆発二〇分前の午後七時四〇分までに、q3組本社について
はさそりグループが本社地下にある喫茶店等に、大宮工場については大地の牙グル
ープが大宮工場の近くにあるa7通運にそれぞれ予告電話をかけ、その際、爆発予
定時刻は伝えず、こちらの名前も名乗らないことなどを確認した。
    (六) 大地の牙グループ内における謀議状況
 被告人は、昭和五〇年一月下旬ころから、東京都江東区〈以下省略〉にあった
「b3マンション」と称する集合住宅でA1と同棲しており、A1から三者会談に
おける話合いの結果について適宜報告を受け、犯行当日までに、①さそりグループ
の提唱を受けて三グループが共同してq3組に対し爆弾を用いた同時攻撃を行うこ
と、②当初は、q3組本社、工事現場に加えて、q3組幹部個人を同時攻撃の対象
とする計画があったこと、③その後、個人攻撃は実行が困難であるという主張があ
り、結局、さそりグループがq3組本社内の海外工事局を、狼グループもq3組本
社のいずれかの場所を攻撃し、大地の牙グループは大宮工場を攻撃することになっ
たこと、④三グループの爆弾は午後八時に同時に爆発させることになったことなど
を認識していた。
   2 q3組本社及び大宮工場付近の状況
    (一) 大宮工場及びその付近の状況
 大宮工場は、当時の埼玉県与野市の西部を南北に通る新大宮バイパスの東側で、
大宮市との境界に近い工場地帯の一角にあった。
 大宮工場の北側は、幅員九メートルの市道一〇三号線に面し、この道路を挟んだ
向かいには、a3工場があった。a3工場の西側には、a4スチロール、a5化学
等が並び、一帯は工場群を形成していた。大宮工場の西側は、幅員八・九メートル
の市道に面し、道路を挟んだ向かいには、北側にa6運輸株式会社与野営業所があ
り、南側には民家が点在していた。大宮工場の南側は、a7通運大宮支店与野倉
庫、乳児保育所、民家等に隣接し、その先は住宅街になっていた。大宮工場の東側
は、幅員四・七メートルの市道に面し、この道路を挟んだ向かいには、q3組食堂
部、a8化工株式会社工場等があり、その先は住宅街になっていた。
 付近は、工場地帯であって、昼夜ともに歩行者は少ないが、新大宮バイパスが近
いため、自動車等の交通量は多かった。また、爆心地から約一二・七メートルの距
離に西武バス「d1」停留所、さらに少し離れた大宮工場北門脇に西武バス「a3
前」停留所及び国際興業バス「d2」停留所があり、平日は午後九時台までバスが
運行されており、爆発時刻前後の午後七時台と午後八時台にもそれぞれ数本のバス
が運行されていた。
    (二) q3組本社及びその付近の状況
 q3組本社は、東京都港区〈以下省略〉にあり、主要幹線道路である国道二四六
号線(通称「青山通り」)に面していた。周囲はオフィス街であり、昼夜を問わず
人通りが多く、自動車等の通行も激しかった。
 q3組本社ビルは、間口約三八・四メートル、奥行き約三一・五メートル、地上
一八階、地下四階の鉄骨造りのビルであり、q3組の従業員ら多数の者が勤務して
いた。
    (三) q3組本社九階の状況
 q3組本社九階には、パンチテレックス室、計算機室、技術本部建築設計部事務
室、電算部開発室等があって、多数の従業員が勤務しており、午後八時ころも相当
数の者が執務していた。
    (四) q3組本社六階の状況
 q3組本社六階には、海外工事局、営業本部及び労務部の各事務室があって、多
数の従業員が勤務していた。
   3 被告人及びA1の下見状況
 被告人及びA1は、当初、q3組本社や同社役員の自宅等を下見するなどしてい
たが、その後、大宮工場を重点的に調査することとし、まず、被告人が大宮工場を
数回下見して調査し、その後、A1も数回下見するなどして、警備体制や爆発予定
時刻である午後八時ころの人通り等について調査した。その結果、被告人及びA1
は、大宮工場付近には住宅街が存在していたことや、午後八時前後にも、バスを含
む車両の通行があることを知ったが、大宮工場の警備態勢が厳しいことなどの理由
から、工場内部に爆弾を仕掛けることは困難であると判断し、結局、大宮工場構内
の北西隅にあって、外塀にも近い第一工場の北側の変電所付近に爆弾を仕掛けるこ
ととした。
   4 爆弾の構造
    (一) 大宮工場事件
 大宮工場事件で用いられた爆弾は、内容積約三・八リットルの直方体のブリキ製
の缶体の中に塩素酸カリウム等をその成分とする塩素酸塩系爆薬を充填し、電源と
してナショナルハイトップS006PD9V積層乾電池、手製雷管及び時限スイッ
チを取り付け、缶体の周りをコンクリートで補強して製造した電気的発火方式によ
る時限爆弾であった。
    (二) q3組本社九階事件
 q3組本社九階事件で用いられた爆弾は、内容積約二・五リットルの粉ミルク缶
の中に塩素酸カリウム及び塩素酸ナトリウムを主成分とする塩素酸塩系爆薬を充填
し、電源としてナショナルハイトップS―006P積層乾電池一個、あげばね式時
限スイッチとして改造した小型目覚まし時計一個及び手製雷管を取り付けて製造し
た電気的発火方式による時限爆弾であった。
    (三) q3組本社六階事件
 q3組本社六階事件で用いられた爆弾は、金属薄片からなる缶体の中に塩素酸ナ
トリウム及び塩素酸カリウムを主成分とする塩素酸塩系爆薬約四キログラムを充填
し、電源としてナショナルハイトップS―006P積層乾電池一個、あげばね式時
限スイッチとして改造した小型目覚まし時計一個及び手製雷管を取り付け、これら
をアタッシュケースに収納した電気的発火方式による時限爆弾であった。
   5 爆弾の製造状況等
    (一) 大宮工場事件
 被告人は、A1と同棲していたb3マンションの居室において、A1から渡され
た小型目覚まし時計、ナショナルハイトップ乾電池、配線類等を加工して時限装置
を製作した上、A1の指示に従って、爆薬の調合に用いる薬品等を計量したり、す
り合わせたりし、A1と協力して爆薬を缶体に詰めるなどした。爆薬については、
塩素酸カリウム等をその成分とする塩素酸塩系爆薬を製造して用いた。
 被告人及びA1は、起爆装置に雷管を用いることとし、本章第二の一1(四)のと
おりA1がA2から入手した手製雷管を用いた。
 缶体には、外回りがコンクリート様のもので補強された長方形の缶を用い、A1
が、屋外に仕掛けても自然に見えるようにコンクリートブロックに似せて外装を施
した。
 なお、被告人及びA1は、爆弾を製造する際、q1物産事件及びq2建設事件に
おける経験等を考慮するとともに、「腹腹時計」の記載を参照した。
    (二) q3組本社九階事件
 狼グループでは、A2及びA3が缶体に用いる粉ミルク缶を購入し、A4が雷管
を製作した上、昭和五〇年二月二三日ころ、A2の自宅において、同人、A3及び
A5の三名で、塩素酸ナトリウム二、黄血塩一、砂糖一の割合で調合した爆薬約
二・八キログラム及び塩素酸カリウム二、黄血塩一、砂糖一の割合で調合した爆薬
約〇・二キログラム、合わせて合計約三キログラムの爆薬を缶体に詰め、雷管を取
り付け、缶体の外回りをパテで補強するなどし、パンチテレックス室付近に爆弾を
仕掛けた際に周囲から目立たないように、太さ約二ミリメートル位の針金で枠組み
を作った厚紙の箱に収めるなどした。A2は、その後、実行前日までに、小型目覚
まし時計を加工するなどして時限装置を製作し、爆弾本体に接続した。
    (三) q3組本社六階事件
 さそりグループでは、A6が小型目覚まし時計等を用いて時限装置を製作し、A
7が缶体とする菓子缶を用意し、さらに、A6、A7及びA8が協力し、A7のア
パートにおいて、事前にA2から威力があると聞いていたクロレートソーダ二、黄
血塩一、砂糖一の割合で調合するなどした混合爆薬を缶体に詰め、A2から入手し
た雷管を取り付けた上、缶体に蓋をして針金を巻き付け、缶体の外回りをパテで補
強するなどした。
 なお、A6らは、爆弾を製造する際、「腹腹時計」を参照した。
   6 爆弾の運搬設置状況等
    (一) 大宮工場事件
 被告人は、A1との事前の相談に基づき、昭和五〇年二月二八日午後四時四〇分
ころに勤務先を退社した後、新宿駅構内のロッカーから、事前に用意していた変装
用衣類等を取り出し、山手線で田端駅に向かい、田端駅において、A1から紙袋に
入った爆弾を受け取った。その際、被告人は、二重になっていた紙袋のうち外側の
紙袋を残して内側の紙袋を抜き取った。
 その後、被告人及びA1は、電車をずらして京浜東北線で北浦和駅に移動し、被
告人が北浦和駅のトイレで衣類や眼鏡を変えて変装し、持参したショッピングカー
トに爆弾を入れるなどした上、両名とも北浦和駅西口三番バス乗り場から午後六時
四〇分ころ出発する大宮行きのバスに乗車し、被告人は大宮工場から少し離れたd
3の停留所で、A1はその一つ手前の停留所で、それぞれ降車した。
 同日午後七時ころ、被告人及びA1は、大宮工場の北門脇にある「d2」停留所
付近で再び合流し、A1がショッピングカートの中から爆弾を取り出して、大宮工
場構内の北西隅にあった第一工場の北側の変電所付近に爆弾を仕掛けた。
    (二) q3組本社九階事件
 狼グループでは、昭和五〇年二月二八日夕方、当日会社を休んだA3が時限装置
をセットした上、爆弾を地下鉄青山一丁目駅付近のビルにあった喫茶店まで運び、
A2に渡した。同人は、直後に合流したA5とともにq3組本社に向かい、途中で
爆弾をA5に渡して、ともにq3組本社ビル内に入り、エレベーターで九階に上が
ってパンチテレックス室付近まで行き、同日午後六時ころ、A5が同室内に入って
金属製用紙棚内に爆弾を仕掛け、その間、A2は、周囲の見張りをした。
    (三) q3組本社六階事件
 さそりグループでは、A6、A7及びA8が、昭和五〇年二月二五日ころ、q3
組本社六階事件の実行について最終的な打合せをし、その際、爆弾の設置場所とし
て、標的としたq3組本社海外工事局事務室は人通りや交通量の多い青山通りに面
していたため、破壊されたガラス片等が落下して多数の通行人らに被害を与えるお
それが高かったため、六階の営業本部に変更することとした。
 同月二八日午後、A8のアパートにおいて、A6が爆弾の缶体をアタッシュケー
スに入れ、時限装置を接続してセットし、準備を整えた上、A8が事前に打ち合せ
た公衆便所まで爆弾を運び、A7が同所で爆弾を受け取った上、q3組本社六階営
業本部事務室に赴き、同事務室内西側の非常口寄りに設置されていた金属製キャビ
ネット内に爆弾を仕掛けた。
   7 予告電話
    (一) 大宮工場事件
 A1は、爆弾を仕掛けた後、あらかじめ被告人と決めていたとおり、昭和五〇年
二月二八日午後七時四五分ころ、大宮工場の南隣にあったa7通運大宮支店与野倉
庫の事務所に電話をかけ、応答した同事務所二階に居住するC8に対し、「日通で
すか。近くに爆弾を仕掛けましたから、すぐ交通を遮断して下さい。」と言って電
話を切った。
 C8は、直ちにその旨を夫に伝え、夫が一一〇番通報をして、緊急車両で臨場し
た警察官が同事務所近辺を探索したが、予告電話の約二〇分後に爆弾が爆発した。
    (二) q3組本社事件
 A6は、A7が爆弾を仕掛けた後、三者会談で決めていたとおり、昭和五〇年二
月二八日午後七時四〇分ころ、q3組本社地下にあった喫茶店風の店に電話をか
け、応答した従業員に対し、「今からq3ビルディングを爆破する。直ちに避難し
なさい。」と二度繰り返して言ったが、電話の相手は無言のまま電話を切った。
   8 爆弾の威力
    (一) 大宮工場及びその付近の物的被害の状況
 大宮工場事件で用いられた爆弾の爆発により、大宮工場等において、次のとおり
の物的被害が生じた。
     (1) 爆心地であった大宮工場構内の北西隅付近では、北側の高さ約二メ
ートルのコンクリート塀が約五・四メートルにわたって倒壊し、破片等が北側の路
上等に散乱した。また、爆心地に接近して建っていた大宮工場の第一工場では、北
側、西側等の窓ガラス三七〇枚が破壊されて飛散し、同工場建物の北側外壁のスレ
ートが破損し、それらの破片等が工場内外に散乱した。
     (2) 大宮工場と市道一〇三号線を挟んで向かいに建つa3工場では、爆
心地から道路を隔てて約一〇メートル離れた位置にあった厚さ約三センチメートル
のコンクリート塀の一部が大宮工場のコンクリート塀の破片等(最大の物は幅約二
一センチメートル、高さ約一九センチメートルの鉄筋入りコンクリート片)に七か
所で突き破られるなどして損壊し、塀の内外にコンクリート破片等が散乱した。ま
た、敷地の南西部分に建てられていた二棟の工作工場の窓ガラス計三四枚が破損
し、最も遠いところで爆心地から約四二メートルの場所にあった窓ガラスが破損
し、そのうち一つの工場内には、数個のコンクリート片も落下した。
     (3) 結局、爆発により塀や窓ガラスが破壊されるなどして生じた大宮工
場及びa3工場の被害額合計は、約九五万円であった。
    (二) q3組本社九階、六階及びその付近の物的被害の状況
 q3組本社九階事件及びq3組本社六階事件で用いられた各爆弾の爆発により、
q3組本社ビル九階、六階及びその付近において、次のとおりの物的被害が生じ
た。
     (1) q3組本社九階は、ほぼ全体が焼燬し、特に北側にあるパンチテレ
ックス室、作業室、計算課事務室及び計算機室は、一部を残して完全に焼燬し、側
壁等がその原形をとどめておらず、各室の区別が付かないほど壊滅的な状態になっ
た上、天井板も計算機室の北東部分を除き全て破壊されて落下し、窓ガラスも計算
機室の四枚を除き全て破壊され、焼燬した天井板の破片等が一帯に散乱した。
     (2) q3組本社六階事件の爆心地であった営業本部事務室の西側非常口
付近では、金属製キャビネット、ロッカー等が大破して飛散した上、全ての天井板
が破壊されて落下し、焼燬した天井板の破片等が一帯に散乱して堆積し、爆心地に
接した外壁は鉄骨を残して飛散し、その鉄骨も一部曲折するなど、壊滅的な状態に
なった。
 同非常口付近にあった応接室では、東側及び北側壁が金枠を残して全て飛散し、
原形をとどめていなかった上、天井板のほとんどが破壊されて落下し、その破片等
が一帯に散乱した。
 営業本部事務室の他の部分や同事務室の東側の常務室等でも、多数の天井板が破
壊されて落下し、その破片やガラス片等が机上や床上に散乱し、同事務室外の通路
等でも、一部天井板が落下した。
     (3) q3組本社ビル各階の状況を見ると、一階、三階ないし五階、七
階、八階、一〇階ないし一二階では、多数の天井板が落下し、特に八階では、北側
の各室を中心として多数の天井板(岩綿吸音板)が落下した。一一階、一二階及び
一五階では、エレベーターの扉が焼け焦げた上、一一階及び一二階の各電気室の扉
及び同室内全体が燻焼した。
     (4) q3組本社ビル外周等の状況を見ると、周囲の通路上、植え込み
内、南側、北西側各駐車場等の一帯に多量のガラス片等が散乱し、ガラス片は大き
いもので直径約一〇センチメートルであった上、西側通路上には、q3組本社ビル
外壁であった長さ五・二メートル、幅一・一メートルのトタン様の鉄片が大きく折
れ曲がって落下した。
 q3組本社ビルの北西角に付随して設置されていた給気筒の屋上にも、厚さ約一
センチメートルのガラス片が散乱し、金属製の格子の一部が下方に折れた。
 q3組本社ビルの西側にあったa9株式会社敷地内に駐車してあった普通乗用自
動車二台のうち、一台はフロントガラス及びリアガラスが破損し、他の一台はフロ
ントガラスが破損した上、付近の路上には幅一・三メートル、長さ二・一メートル
のアルミ片が落下し、q3組本社ビルとa9株式会社との間の路上には、q3組本
社ビル外壁であった長さ五・二メートル、幅一・一四メートルのトタン様の鉄片等
が落下した。
 q3組本社ビルの北西側駐車場の北側に隣接していた民家にも、厚さ約一センチ
メートルのガラス片が散乱した上、居間の窓ガラス七枚が破損し、屋根瓦約五〇〇
枚が壊れ、q3組本社敷地の北側に隣接した私設駐車場の西側部分一帯にもガラス
片が飛散した。
     (5) 結局、爆発により建物や設備等が破壊されるなどして生じたq3組
本社における被害額合計は、約一五億円に達した。
    (三) q3組本社九階にいた者が爆発に遭遇した状況等
 q3組本社九階事件の際、爆心地であった九階のパンチテレックス室内で残業し
ていた同社従業員C9は、ドンとものすごい力で右前方に飛ばされて気絶し、気が
付いた時には周囲が炎上していたため、ふらふらしながら立ち上り、とっさの判断
で北側の窓際に逃れて、割れ残っていた窓ガラスを右手で叩き割りながら下を見た
ところ、消防車が目に入ったので、大声で助けを求め、ゴンドラ付きのはしご車で
救出された。同人は、約三か月の入院加療を要する左上腕骨骨折、左橈骨神経麻
痺、外傷性頚椎症等の傷害を負い、後頭部にも針金やガラスの破片がめり込むなど
して多数の傷を負って、五〇針以上縫い、脳波にも異常をきたした。
   9 犯行声明
 A6は、あらかじめ、本章第二の一1の三者会談における検討結果を踏まえた
上、週刊誌から文字を切り抜くなどして、「わが部隊はキソダニ=テメンゴール作
戦の一たんをにない、q3組本部(6階)に対し爆破攻撃を行なった。」「東アジ
ア反日武装戦線〝さそり〟」と記載した犯行声明文を作成し、A7及びA8に複写
させて準備した上、q3組本社事件の翌日、朝日新聞東京本社に送付した。
   10 q3組事件の総括
    (一) 大地の牙グループ
 被告人及びA1は、大宮工場事件の後、爆弾の威力が小さすぎて目標とした変圧
器を破壊することができなかったが、人的な被害が回避できたという点においては
評価できるなどと事件を総括した。
    (二) 狼グループ
 昭和五〇年三月初旬ころ、狼グループにおいて、q3組事件に関する総括が行わ
れ、自分たちが担当したq3組本社九階事件で怪我人が出たことはやむを得ないこ
とであり、多大な物的損害を与えたことは大きな成果であったなどと評価し、q3
組本社六階事件については、大きな損害は与えられなかったが、さそりグループの
実績としては評価できるとし、大地の牙グループ担当の大宮工場事件については、
結果がパッとせずがっかりしているなどと話し合った。
    (三) さそりグループ
 さそりグループにおいても、q3組事件に関する総括が行われ、予告電話をした
にもかかわらず怪我人が出たことはまずかったが、q3組に対し相当の打撃を与え
たので良かった旨評価した上、q3組の幹部が記者会見で海外における建設工事等
を継続する旨話したことから、さそりグループとしては、その阻止まで爆弾闘争を
継続していくことなどを話し合った。
    (四) 三グループによる総括
 A2、A6及びA1は、昭和五〇年三月五日ころ、q3組事件について総括を行
い、その際、q3組本社九階で怪我人が出た関係で、A2がA6に対し予告電話に
ついて尋ねたところ、A6は、電話はしたが、その趣旨が伝わらなかった旨説明し
た。
  二 証拠の信用性の検討
   1 鑑定書等の信用性
 q3組事件で用いられた爆弾の構造、爆薬の成分等について一〇通の鑑定書(甲
C九三ないし九七、一四〇ないし一四四)及び四通の検査書(甲C一四八ないし一
五〇、一五二)がある。各鑑定書等の記載内容はいずれも説得力に富む上、その信
用性について一部を除く鑑定書等の作成者であるW5(第六〇回)、W4(第六一
回)、W8(第六二回)、W9(第六二回)、W6(第六三回)、W10(第六四
回)、W11(第六八回)、W12(第六八回)及びW13(第六九回)の各証言が存在
するところ、各人とも、公判段階において、鑑定の過程等に関し、専門的知見に基
づき具体的な内容の証言をしており、反対尋問によっても特段その信用性に疑いを
抱かせる事情も窺われないから、いずれも信用することができる。
   2 A6の捜査段階における供述の信用性
 q3組事件について、狼グループ、大地の牙グループ及びさそりグループの謀議
状況等その主要部分を支える証拠として、A6の捜査段階における供述(甲N三、
八、九、一二)が存在するので、その信用性を検討する。
    (一) 供述の一貫性、具体性等
 A6は、逮捕当初は黙秘を貫いていたことが窺われるが、昭和五〇年五月二五
日、犯行への関与を認める旨記載した東京地方検察庁P2検察官宛の「申述書」
(甲N一)を提出して以降、検察官の取調べに対し一貫して自白を維持している
上、昭和五七年に共犯者の公判において証言した際にも、捜査段階における供述と
おおむね一致する証言(弁一七、一八)をしている。
 供述内容を見ると、A6は、q3組を次の攻撃対象として選定した理由、狼グル
ープ及び大地の牙グループとの三者会談を重ねた上、q3組に対する攻撃を三つの
グループが共同して行うことに合意し、各グループの調査をもとに具体的な分担等
を決定した経緯、A2から雷管及びパテを入手し、A7及びA8とともに爆弾を製
造した状況、A7が爆弾を仕掛けることになった経緯、犯行当日にA8のアパート
に集まり、爆弾を完成させるなどして準備を整えた上、犯行現場付近に赴き、爆弾
を仕掛け終えたA7と合流した様子等について、詳細で、具体的な供述をしてお
り、自身の犯行への関与についても隠し立てすることなく供述している。
    (二) 他の供述との符合
 q3組本社六階事件の経緯、内容等については、さそりグループの構成員であっ
たA7の公判段階における証言(第九四回)も存在し、A7は、q3組について事
前に調査した状況、攻撃対象に選定した海外工事局ではなく同じ階の営業本部内に
爆弾を仕掛けることとした理由、爆弾の製造に関する具体的な分担等について、細
部にわたりA6の捜査段階における供述と符合する証言をしており、相互にその信
用性を補強し合っている。
    (三) 小括
 以上によれば、A6の捜査段階における供述の信用性は高い。
   3 A2の供述の信用性
 q3組事件について、狼グループ、大地の牙グループ及びさそりグループの謀議
状況等その主要部分を支える証拠として、A2の捜査段階における供述(甲L四、
一〇、一一、一四)及び期日外証人尋問における証言が存在するので、その信用性
を検討する。
    (一) 供述の一貫性等
 A2は、捜査段階の当初から一貫して自白を維持しており、期日外証人尋問の際
も、一部記憶が薄れている部分や狼グループの他の共犯者の関与について証言を避
けている部分を除き、捜査段階における供述とほぼ同じ証言を維持している。
 各供述内容を見ると、三者会談でq3組攻撃について謀議した状況、その内容を
狼グループのメンバーに伝えて計画を立て、q3組本社及びその周辺を入念に下見
するなどした状況、爆薬を製造した際の様子、爆弾の缶体として粉ミルク缶を用い
たことや爆薬の混合比、爆弾を運搬して仕掛けた際の役割分担等について、具体
的、詳細で、臨場感に富んでおり、特段不自然な点も見受けられない。期日外証人
尋問は、事件から二〇年以上の長期間を経過した後に実施されたものではあるが、
A2は、三者会談における謀議の経過等については、事件当時に本人がつけていた
手帳の記載に基づき、記憶を喚起しながら証言しており、正確性が認められる。
 また、A2は、q3組事件における自分自身の役割について、責任を回避するこ
となく積極的に供述しており、その態度は真摯であると認められる。
    (二) 他の供述との符合
 A2の供述は、本章第二の二2のとおり信用性の高いA6の捜査段階における供
述と重要な点でよく符合しており、相互にその信用性を補強し合っている。
    (三) 小括
 以上によれば、A2の捜査段階における供述及び期日外証人尋問における証言
は、いずれも信用することができる。
 なお、謀議経過の一部について、A6の供述とA2の供述との間で食い違う点も
あるが、その点に関しては、手帳の記載によって裏付けられているA2の供述の信
用性が高いものと判断した。
   4 被告人の供述の信用性
    (一) 被告人の捜査段階における供述の概要
 被告人は、逮捕直後には検察官等の取調べに対し黙秘していたが、捜査段階の途
中からおおむね本章第二の一1(六)、3、5(一)、6(一)、7(一)、10(一)の各事
実に沿う供述をし始め、その後も、核心部分において一貫した供述をしている(乙
一三、一八、二一)。
    (二) 被告人の公判段階における供述の要旨
 一方、被告人は、公判段階においては、事前の共謀につき、三グループが共同し
てq3組に対する爆弾闘争を行うことを計画し、各グループが仕掛ける爆弾を同時
に爆発させることや、さそりグループがq3組本社を攻撃することなどをA1から
聞いて認識していた点は認めるものの、狼グループの具体的な攻撃対象は知らなか
った旨供述し、また、大宮工場事件への関与については、A1とともに大宮工場を
下見した上、爆弾を運搬し、A1が仕掛けた際に見張り役を務めたことなどは認め
るものの、爆弾の製造過程には何ら関与していなかった旨供述するなど、捜査段階
における供述と一部相反する供述をしている(第一〇二回、第一〇六回、第一〇七
回)。
    (三) 被告人の捜査段階における供述の信用性
     (1) 供述内容の具体性等
 被告人の捜査段階における供述を見ると、三者会談における話合いの結果につい
てA1から適宜説明を受け、本章第二の一1(六)のとおりの認識を有していたこ
と、三者会談の結果を踏まえて、大地の牙グループでも、被告人及びA1がq3組
本社や大宮工場を下見するなどして調査を進めた状況、被告人がA1と協力して爆
薬を調合するなどし、爆弾を製造した際の様子や、爆弾を大宮工場まで運搬して仕
掛けた際の役割分担等について、具体的、詳細に供述しており、特段不合理な点も
見当たらない。
 さらに、被告人は、q3組を攻撃対象にした動機など、自分の知らないことは知
らない旨供述し、また、推測にすぎないことについては、「したのではないかと思
う」などと、推測であることを明示して供述しており、A1から知らされていなか
ったことを殊更に知っているように供述したり、実行していないことまであえて自
己の行動として供述したりしている様子は窺われない。
     (2) q3組本社事件の共謀に関する供述について
 弁護人は、q3組事件における狼グループの攻撃対象につき、被告人の捜査段階
における供述が変遷していることを捉えて、その供述は信用できず、被告人は、地
下組織における「一ゲリラ一任務の原則」により、自己の任務に関連することのみ
をA1から知らされていたにすぎないなどと主張する。
 そこで、弁護人が指摘する箇所を検討すると、被告人は、昭和五〇年六月一三日
の取調べに対しては、狼グループがq3組本社を攻撃することを認識していた旨供
述していた(乙一三)が、同年七月七日の取調べに対しては、「最終的にさそりグ
ループがq3組本社の海外工事局を攻撃するという話は聞きましたが狼グループの
攻撃場所とか爆弾の具体的な仕掛場所や方法については知りません」(乙二一)と
供述するに至ったことが認められ、一見すると弁護人指摘の読み方をする余地があ
るようにも思われる。
 しかし、関係証拠によれば、被告人は、A1らが三者会談でq3組事件の謀議を
重ねていた当時、A1と同棲していて、三者会談における討議の内容を聞いてお
り、被告人が公判段階において自認する範囲でも、①三者会談で、さそりグループ
が下層労働者との連帯の観点からq3組の工事現場を攻撃対象にしたいと強く主張
していたのに対し、A1及びA2が、企業の中枢であるq3組本社を攻撃するよう
に説得していたこと、②三グループが共同してq3組に対する爆弾闘争を実行する
ことに決まったこと、③最終的に、さそりグループがq3組本社に爆弾を仕掛けて
爆発させることや、狼グループも同時刻に爆弾を爆発させることを知っていたので
あり、これらの事実に鑑みると、A1は、被告人の任務に関係することのみを被告
人に知らせていたもの
ではなく、むしろ、三者会談の席上における討議内容や決定事項についてかなり詳
細に報告していたことが認められ、A1が、右のような情報まで被告人に伝えなが
ら、殊更に狼グループがq3組本社を攻撃することを被告人に伝えなかったという
のは、不自然である。また、被告人としても、A1から右のような情報を得つつ、
他の二グループとの共同闘争の一環として大地の牙グループ担当の事件を実行する
準備に参画していたのであるから、同時攻撃を実行するグループのうち、さそりグ
ループの攻撃対象を聞いていながら、狼グループの攻撃対象については関心を持た
なかったというのは、やはり不自然なことである。
 そうすると、昭和五〇年七月七日付け供述調書(乙二一)の右記載は、狼グルー
プがq3組本社を攻撃することを知らなかったという趣旨ではなく、そのことは知
っていたが、さそりグループの場合とは違って、具体的にどの部局を攻撃するのか
までは知らなかったという趣旨に理解するのが合理的であり、したがって、被告人
の捜査段階における供述に、その信用性を疑わせるべき変遷があるということはで
きない。
     (3) 爆弾の製造に関する供述について
 被告人は、公判段階において、大宮工場事件で用いた爆弾の製造につき、犯行当
時、A1と同棲していたb3マンションの居室でA1が製造したと思うが、A1が
爆弾を製造しているところは見たことがないし、製造中の爆弾又は製造した爆弾を
保管している状況も見たことがないなどと供述しているが、関係証拠によれば、被
告人方は、四畳半の台所と六畳の一部屋に風呂場等が付属している程度の狭い間取
りであった上、六畳間の南側のアコーディオンカーテンで仕切られた一畳ほどの部
分には、机やスチール製本棚、手製本棚等があり、机の上には多数の薬品瓶等が、
手製本棚にはトラベルウオッチ、銅板片、積層乾電池、ガスヒーター、黒リード
線、電気ドリル等が、スチール製本棚には爆薬や火薬に関する多数の書籍がそれぞ
れ置かれていたほか、
右部分と隣接する押入内には、黄色粉末入り容器多数や活性炭、クロレートソーダ
(塩素酸ナトリウム)及びデゾレート入りの袋多数が保管されていたことなどが認
められ、これらに照らすと、右アコーディオンカーテンで仕切られた部分を含む六
畳の居室が爆弾の製造場所であったと認めることができる。そうすると、そのよう
な狭い自室内で爆弾が製造されていたにもかかわらず、A1が爆弾を製造している
ところや爆弾を保管している状況を見たことがないなどという被告人の右供述は、
いかにも不自然、不合理であって、到底信用することができない。
     (4) 小括
 以上によれば、被告人の捜査段階における供述の信用性は高く、他方、公判段階
における供述のうち、捜査段階における供述と相反する部分は、重要な点において
不自然、不合理であるから、信用することができない。
  三 大宮工場事件における人の身体を害する目的の有無
   1 当裁判所の判断
    (一) 爆弾の威力
 本章第二の一4(一)、5(一)、8(一)のとおり、大宮工場事件で用いられた爆弾
は、容積約三・八リットルの缶体に多量の塩素酸塩系爆薬を充填した爆弾であり、
q2事件と同じく、起爆装置として雷管を使用し、缶体の周りをコンクリート等で
補強するなどその強度を高める工夫が施され、実際にも、この爆弾の爆発により、
爆心地付近では、高さ約二メートルのコンクリート塀が幅約五・四メートルにわた
って倒壊し、幅約二一センチメートル、高さ約一九センチメートルのものを含むコ
ンクリート塀の破片が、道路を隔てて約一〇メートル離れたコンクリート塀を突き
破るなどした上、爆心地に近接して建っていた工場の窓ガラス三七〇枚及び外壁の
スレートが破壊され、それらの破片等が工場内外に散乱し、最も遠いところで爆心
地から約四二メートル
離れた窓ガラスが破損するなどしたのであり、これらの事実に鑑みると、大宮工場
事件で用いられた爆弾の威力は相当強力であったことが明らかであり、少なくと
も、爆心地であった第一工場の北側の変電所付近や、爆心地と塀を隔てた北側道路
上に人が居合わせた場合には、爆発時の爆風、破壊されたコンクリートや窓ガラス
の破片等によって傷害を負う可能性があったものと認められる。
    (二) 爆弾の威力に関する被告人及びA1の認識
 本章第二の一5(一)のとおり、被告人及びA1は、「腹腹時計」の記載やq1物
産事件及びq2建設事件における経験等に基づき、目的を達成するのに十分な破壊
力を持たせるように検討した上、相当強力な破壊力を有する爆弾を製造したのであ
り、これらの事実に鑑みると、被告人及びA1は、大宮工場事件で用いた爆弾が相
当強力な威力を有していることを当然に認識していたと認めることができる。
    (三) 人の身体を害する目的の有無
 以上によれば、大宮工場事件で用いられた爆弾の威力は相当強力であった上、被
告人及びA1は、その威力を認識しつつ、午後八時ころに爆発するようにセットし
て、大企業の工場構内に爆弾を設置したこと、しかも、その設置箇所はコンクリー
ト塀を隔てて一定の交通量がある道路に面しており、被告人及びA1は、犯行現場
の下見の結果、右時間帯は人通りが少ないとはいえ、一時間に数本の路線バスが運
行しており、近くに路線バスの停留所もあったことや、大宮工場付近には住宅街も
存在していたことなどを認識していたこと、加えて、被告人及びA1がq1物産事
件やq2建設事件の経験等から、右のように相当強力な威力を有する爆弾をコンク
リート塀や建物の付近に設置して爆発させれば、爆発時の爆風や破壊されたコンク
リートの破片等によ
って、爆心地付近に居合わせた者らに傷害を負わせる可能性があることを十分に認
識していたと認められ、これらの事実に鑑みると、被告人及びA1の主目的が企業
としてのq3組に対し爆弾闘争による攻撃を加え、物理的な損害を与えることにあ
った点を考慮しても、少なくとも、大宮工場構内のうち爆心地であった変電所付近
に居合わせた者や、爆心地と塀を隔てた道路上に居合わせた者が爆発時の爆風、破
壊されたコンクリート塀や窓ガラスの破片等によって傷害を負う可能性のあること
を認識し、これを認容して、あえて爆弾を爆発させたと認めることができるのであ
り、被告人に少なくとも未必的に人の身体を害する目的があったことは明白であ
る。
   2 弁護人及び被告人の主張に関する検討
    (一) 弁護人及び被告人の主張の要旨
 弁護人は、①被告人は、大宮工場事件で用いた爆弾の製造に関与していなかった
ため、爆弾の火薬の組成や構造、したがってその威力に関する認識を欠いていたこ
と、②被告人及びA1は、大宮工場及びその周辺を数回下見し、爆心地付近は、午
後八時ころには人が来ない場所であると認識していたこと、③A1が爆発の二〇分
ほど前に、大宮工場の南隣にあったa7通運大宮支店与野倉庫の事務所に予告電話
をかけて、近くに爆弾を仕掛けたことを伝え、付近の交通を遮断するように求めた
ことなどを理由として、被告人には人の身体を害する目的がなかった旨主張し、被
告人も、公判段階において、これに沿う供述をする。
    (二) 検討
 まず、①については、既に検討したとおり(本章第二の一5(一)、二4)、被告
人は、大宮工場事件で用いた爆弾の製造に関与していたと認められる。
 確かに、被告人の捜査段階における供述を見ても、爆薬の具体的な組成には触れ
ておらず、これに照らすと、爆弾の製造への被告人の関与はA1に比して従属的で
あり、爆薬の組成等について十分な認識を有していなかったことが窺われるが、被
告人及びA1は、q1物産事件やq2建設事件で多大な被害を生じさせながら、爆
弾の爆発力を小さくするために何らかの工夫をしたとか、被告人がA1にその旨進
言したなどということは窺われないし、もともと、被告人及びA1は、爆弾の爆発
力によって大宮工場内の変電所等を物理的に損壊することを目的として爆弾を製造
したのであるから、被告人が爆弾の火薬の組成等について正確な認識を有していな
かったとしても、爆弾の威力に関する被告人の認識について認定したところ(本章
第二の三1(二))に
影響を与えるものではない。
 ②については、爆心地とコンクリート塀を隔てた道路におけるバスの運行を含む
交通の状況は本章第二の一2(一)のとおりであり、被告人及びA1が本章第二の一
7(一)のとおり予告電話をかけて交通を遮断するように求めたことも、被告人及び
A1が爆発時刻ころに爆心地付近に人通りがあり得ると認識していたことの証左で
あるから、爆心地付近は午後八時ころには全く人通りがないと考えた旨の被告人の
供述は信用することができない。
 ③については、確かに、A1は、弁護人の主張する予告電話をかけたのであり、
このことは、被告人及びA1が爆発による人的被害が回避されることを期待して執
った措置であると評価することができ、現実にも人的被害は生じなかったが、他方
で、被告人及びA1は、q1物産事件やq2建設事件等の経験から、爆発の二〇分
ほど前に抽象的な内容の予告電話をするだけでは、交通を確実に遮断することが困
難であり、現場付近に居合わせた者や、臨場した警察官を負傷させる危険性がある
ことを当然に認識していたのに、予告電話がうまくかからなかった場合や、かかっ
ても、いたずら電話と思われて何の措置も執られなかったり、あるいは、交通規制
が遅れたり、警察官等が爆弾を仕掛けた場所付近で爆弾を捜索するなどした場合の
対処方法等について
何ら相談しておらず、また、予告電話をかけた先は、爆弾を仕掛けた場所から百数
十メートルも離れた別の会社の事務所であるのに、電話では、爆発予定時刻、設置
場所、爆弾の形状等について全く触れなかったのであり、これらの事実からする
と、予告電話をかけたからといって、そのことが被告人に人の身体を害する目的が
あったとする本章第二の三1の認定に疑いを差し挟むべき事情になるということは
できない。
  四 q3組本社事件に関する共謀の有無及び人の身体を害する目的の有無
   1 q3組本社事件における爆発物使用の共謀の有無
    (一) 当裁判所の判断
 本章第二の一で認定した諸事実からすると、被告人は、A1はもとより、A1を
介して三者会談に出席していたA2及びA6との間で、また、A2を介して狼グル
ープのA3、A4及びA5との間で、さらに、A6を介してさそりグループのA7
及びA8との間で、被告人及びA1が大宮工場に設置する爆弾とほぼ同時刻に爆発
するようにセットした時限爆弾をq3組本社内の六階ほか一か所に設置した上爆発
させて爆発物を使用することにつき、順次共謀を遂げ、右共謀に基づいて、狼グル
ープがq3組本社九階事件を実行し、さそりグループがq3組本社六階事件を実行
したものと認められる。
    (二) 弁護人及び被告人の主張
 弁護人は、①検察官が、論告において、q3組本社事件につき被告人の共謀を認
める前提事実として、狼グループ、大地の牙グループ及びさそりグループが合流を
予定していたことを主張しているが、そのような予定はなかったこと、②被告人
は、さそりグループがq3組本社を攻撃することについては事前に知っていたもの
の、狼グループの攻撃対象は知らなかったことなど様々な点を理由として、被告人
は、q3組本社事件に関する共謀をしていなかったと主張し、被告人も、公判段階
において、これに沿う供述をする。
    (三) 弁護人及び被告人の主張に関する検討
 まず、①については、確かに、関係証拠からすると、q3組事件当時、三グルー
プの関心には多少の相違があり、三グループが合流を予定する状況になかったこと
が認められるけれども、本章第二の一1のとおり、q3組事件については、各グル
ープの代表者であるA2、A6及びA1が、その後の闘争における三グループの連
係を強めるために三者会談を重ねる中で、q3組に対する攻撃の意義を認め、三グ
ループ共同の闘争として、各グループが分担しq3組の施設に爆弾を仕掛けて同時
に爆発させることに決定し、各グループが爆弾を仕掛ける対象、爆発予定時刻や犯
行声明等についても謀議を重ねたほか、爆弾の製造に用いる雷管についても狼グル
ープから他の二グループに渡し、各グループの構成員も代表者から聞いて三グルー
プが共同しながらq
3組を攻撃する意義等を理解した上、この謀議に基づいて各犯行を実行したもので
あるから、弁護人の①の主張を前提としても、本章第二の四1(一)のとおりの共謀
の認定が左右されるものではない。
 ②については、既に検討したとおり(本章第二の一1(六)、二4)、被告人は、
狼グループがq3組本社を攻撃することを認識していたと認められる。
 なお、被告人が狼グループが本社内のどこで爆弾を爆発させるかを知らなかった
ことは、その爆発物使用についていわゆる共謀共同正犯の罪責を負うことの妨げに
はならない。
 その他、弁護人が縷々主張する点は、いずれも信用性の低い被告人の公判段階に
おける供述に基づくものであって、何ら合理的な根拠を有するものではなく、採用
することはできない。
   2 q3組本社事件における人の身体を害する目的の有無
    (一) 爆弾の威力
 本章第二の一4(二)、(三)、5(二)、(三)、8(二)、(三)のとおり、q3組本社
九階事件及びq3組本社六階事件で用いられた爆弾は、いずれも多量の塩素酸塩系
爆薬を金属製の缶体に充填し、起爆装置として雷管を使用し、缶体の周囲をパテで
補強するなどその強度を高める工夫が施されたものであって、実際にも、各爆弾の
爆発による物理的破壊力や延焼によって、爆心地付近を中心に多大な物理的損壊が
生じ、さらに、九階では、パンチテレックス室内に居合わせた者が爆風で飛ばさ
れ、後頭部に針金やガラス片がめり込むなどして、左上腕骨骨折等の重傷を負った
のであり、これらの事実に鑑みると、各爆弾の威力が相当強力であったことは明ら
かであり、q3組本社九階事件については、少なくとも、九階のうち爆心地であっ
たパンチテレックス室内や
、隣接する計算課事務室及び計算機室内に人が居合わせた場合には、爆発時の爆
風、破壊された天井板やガラス類の破片等によって傷害を負う可能性があったほ
か、q3組本社外周の窓ガラス等の破片や外壁の鉄片が落下した範囲内にあった通
路や駐車場等に人が居合わせた場合にも、それら落下物との衝突によって傷害を負
う可能性があり、また、q3組本社六階事件については、少なくとも、爆心地であ
った営業本部事務室の西側や応接室内に人が居合わせた場合には、爆発時の爆風、
破壊された金属製キャビネット、ロッカー類、天井板や窓ガラスの破片等によって
傷害を負う可能性があったものと認められる。
    (二) 爆弾の威力に関する共犯者らの認識と人の身体を害する目的の有無
 本章第二の一のとおりの謀議状況、共犯者各人の爆弾使用の経験、各爆弾の構
造、製造状況、犯行後の総括の内容からすれば、A2ら狼グループの者は、q3組
本社九階事件で使用した爆弾が相当強力な威力を有していることを認識し、A6ら
さそりグループの者は、q3組本社六階事件で用いた爆弾が相当強力な威力を有し
ていることを認識していたと認められる。
 そして、両事件とも、実行を担当したグループの者らは、各爆弾の威力を認識し
つつ、下見等による調査を重ねた上、人通りや交通量の多いオフィス街にあった大
企業の本社ビル内に、残業等でビル内に人がいる可能性が高く、かつ、ビルの周囲
にも人が居合わせる可能性の高い時間帯であった平日の午後八時ころに爆発するよ
うにセットした上、各爆弾を仕掛けたのであり、加えて、同人らは、q3組本社事
件当時までに爆弾を使用した経験があり、他のグループが実行した事件について謀
議の過程で聞き、あるいは報道等で知った被害状況から、相当強力な威力を有する
爆弾を大企業の本社が入るビル内に仕掛けて爆発させれば、室内の重量物の転倒、
破壊された鉄片やガラス片等によって爆心地付近に居合わせた者やビル外周に居合
わせた者らに傷害を
負わせる可能性があることを十分に認識していたと認められ、これらの事実に鑑み
ると、q3組本社事件の主目的がマレーシアの現地労働者に呼応して、企業として
のq3組に対し爆弾闘争による攻撃を加え、その中枢を物理的に破壊することにあ
ったことを考慮しても、少なくとも、爆心地付近に居合わせた者らが爆発時の爆
風、破壊された各種構造物や備品の破片等によって傷害を負う可能性があり、ビル
の外周に居合わせた者もガラス片等の落下物によって傷害を負う可能性のあること
を認識し、これを認容して、あえて各爆弾を爆発させたと認めることができるので
あり、少なくとも未必的に人の身体を害する目的があったことは明らかである。
    (三) 被告人の人の身体を害する目的の有無
 本章第二の四1のとおり、被告人は、q3組本社における爆発物使用について実
行犯らと共謀していたと認められることに加え、狼グループとさそりグループがそ
れぞれq3組本社内に爆発物を仕掛けて、平日である昭和五〇年二月二八日の午後
八時ころに爆発させると認識していたこと、被告人がq3組事件の準備段階でq3
組本社の下見をし、当然、ビルの形状や周囲の人通りが多い状況も認識していたこ
と、さらに、被告人がq1物産事件やq2建設事件の経験等から、たとえ主目的が
建物や備品等に物理的な損害を与えることであっても、これらを破壊するに足りる
威力を有する爆弾を企業の本社ビル内に設置して爆発させれば、爆発時の爆風や破
壊された各種構造物の破片等によって爆心地付近に居合わせた者やビルの外周に居
合わせた者らが傷害
を負う可能性があり、その場合に仮に予告電話をかけても人身に対する被害を確実
に回避することができないと当然に認識していたことからすると、q3組本社九階
事件及びq3組本社六階事件について、被告人に治安を妨げ、人の財産を害する目
的のみならず、少なくとも未必的に人の身体を害する目的があったことは明らかで
ある。
 第三 まとめ
 以上のとおりであって、被告人には判示第三の各罪が成立する。
第六章 判示第四の各事実について
 第一 弁護人の主張
 弁護人は、判示第四の一のq4研究所における爆発物使用事件(以下「q4研究
所事件」という。)及び判示第四の二のq5における爆発物使用事件(以下「q5
事件」という。)に関し、被告人には爆発物取締罰則にいう「人ノ身体ヲ害セント
スルノ目的」がなかったなどと主張し、被告人も、公判段階において、これに沿う
供述をするので、以下検討する。
 第二 人の身体を害する目的の有無
  一 認定事実
 関係証拠から認められる事実は、以下のとおりである。
   1 q4研究所事件及びq5事件に関する謀議状況等
    (一) q4研究所事件及びq5事件の目的
 A1は、大地の牙グループが狼グループ及びさそりグループとともにq3組事件
を成功させた後も、引き続き企業を爆弾で攻撃しようと考えて、その対象を模索し
ていたが、そのころ、新聞記事を読むなどして、韓国の工業団地に日本企業が進出
するために視察団(以下「韓国視察団」という。)が派遣される予定であり、その
団長が兵庫県尼崎市にあるq5製造の会長であること、韓国視察団を斡旋している
のがq4研究所であること、q4研究所は、日本企業が韓国、台湾、マレーシア等
に進出する際に仲介役を務めている機関であることなどを知り、韓国視察団は、日
本企業による韓国の経済侵略につながるものであるから、その派遣を阻止しようと
考えて、q4研究所及びq5製造を次の攻撃対象に選定した。
    (二) 共犯者間の謀議状況等
 A2、A6及びA1は、q3組事件後も、頻繁に都内の喫茶店等で三者会談を開
いて、東アジア反日武装戦線を構成する三グループの今後の活動方針等について話
合いを重ねていたが、A1は、昭和五〇年三月一一日ころの三者会談の際、韓国視
察団のことやその団長がq5製造の会長であることなどを説明して、視察を阻止し
たいと考えている旨を話し、同月二五日の三者会談の際、韓国視察団の派遣を阻止
するためにq5製造で爆弾を爆発させる計画であること、具体的な日時は決めてい
ないが、韓国視察団が出発する予定の四月下旬より前に実行したいと考えているこ
となどを話し、A2に対しその爆弾に用いる雷管の製作と提供を依頼した。A2及
びA6は、韓国視察団の派遣が日本企業による韓国の経済侵略につながるものであ
るという考えから、
A1が説明した計画を了承し、さらに、A2は雷管の提供を承諾した。
 このころ、A2は、A3、A5及びA4に対し、大地の牙グループの計画内容と
そのための雷管の提供を依頼されたことを話し、同人らはこれを了承した。
 さらに、A1は、昭和五〇年四月一日に実施した三者会談の際、韓国視察団を斡
旋しているq4研究所は、日本企業が台湾、マレーシア等に進出する際に仲介役を
務めるなどしていることから、q4研究所にも爆弾を仕掛けて爆発させる計画であ
ることを話した上、犯行声明文の案を見せるなどし、A2に対しその爆弾に用いる
雷管の提供を追加して依頼し、A2及びA6は右計画を了承し、A2は雷管の提供
を承諾した。
 右三者会談の直後、A2は、A3、A5及びA4に対し、大地の牙グループの右
計画やそのための雷管提供を依頼されたことなどを話し、同人らはこれを了承し
た。右四名は、同月上旬に、協力して雷管二個を製作し、同月八日ころ、大道寺将
司がそれらをA1に交付した。
 他方、A1は、被告人に対し、q4研究所及びq5製造を爆弾闘争の攻撃対象に
することやその動機等を話し、被告人は、韓国視察団の派遣について再考を促した
いなどと考えてこれを了承した。被告人及びA1は、韓国視察団が同月二五日ころ
に視察に出発する予定であったため、同月一八日夜から一九日にかけて爆弾を爆発
させる計画で準備を進めたが、当初は、A1がq4研究所への爆弾の設置を担当
し、被告人がq5製造への爆弾の設置を担当する予定でいたところ、爆弾を仕掛け
る同月一八日に被告人が休暇を取ることが難しい状況になったことや、被告人が関
西方面の事情に疎かったことなどから、その後、被告人とA1は、その役割を交代
した。
   2 q4研究所の事務所及びq5製造等の状況
    (一) q4研究所の事務所及びその付近の状況
 q4研究所の事務所は、東京都中央区〈以下省略〉所在のc1ビル五階にあり、
この付近は日本有数の繁華街で、クラブ、バー等が密集した地域であったが、他方
で、会社事務所等も多く存在し、昼間は人通りが多く、自動車等の通行も激しい
が、夜間の人通りは比較的少なかった。
 c1ビルは、地下一階、地上八階建ての鉄筋コンクリート造りのビルで、五階に
は、q4研究所の事務所のほかに株式会社a10の事務所があり、両事務所は階段、
エレベーターホール及び便所を共用していた。
 c1ビル地上一階及び地下一階には数軒の飲食店が入っており、地上二階以上の
各階は事務所になっていた。
    (二) q5製造等及びその付近の状況
 q5製造は、兵庫県尼崎市所在のc2ビル七階に総務部室、六階に事務室、常務
室、会議室等があり、七階には、親会社であるq5の事務室、社長室等もあった。
 c2ビルは、阪神電鉄尼崎駅の北方約一四〇メートルの商業地域の一角にある地
上七階建て鉄筋コンクリート造りのビルであり、各階五〇〇平方メートル余の床面
積を有し、三一社の事務所が入居していた。
 c2ビルの南側は、幅員一二・八メートルの市道一四九号線に面し、この道路を
挟んだ向かいにはバスターミナルがあった上、付近にはタクシー乗り場があった。
東側は、ブロック塀を隔てて木造モルタル三階建てで一三世帯が居住するb4荘ア
パートと接し、b4荘アパートの隣には木造店舗等があった。北側は、幅員約六・
七メートルの舗装道路を隔てて、木造家屋やホテル等が建っていた。c2ビルから
北東に約一・三メートルの間隔を置いて、鉄筋コンクリート六階建てのc6ビルが
あった。c2ビルの西側は、ブロック塀を隔ててa11株式会社と接し、その先には
木造建物等が密集していた上、c2ビルから約一五〇メートル西に進むと、県道が
南北に通り、その付近はクラブ、キャバレー等が建ち並ぶ歓楽街となっていた。
   3 被告人及びA1の下見状況
 被告人は、昭和五〇年四月上旬ころの夕方、仕事を終えた後にA1と落ち合い、
c1ビル付近を下見するなどした。
 また、被告人及びA1は、同月八日夜、東京駅から東海道線大垣行きの夜行列車
に乗り、電車を乗り継ぐなどして、翌九日昼前ころ、兵庫県尼崎市に到着し、c2
ビルに立ち入って、六階のq5製造の事務所並びに七階のq5製造及びq5の事務
所を中心に下見し、同日夕方、再度c2ビルを下見して退社時刻等を調査し、午後
七時ころにはc2ビルのほとんどの明かりが消えることなどを確認した。
   4 爆弾の構造
    (一) q4研究所事件
 q4研究所事件で用いられた爆弾は、金属製容器である缶体の中に塩素酸ナトリ
ウム、塩素酸カリウム等を成分とする塩素酸塩系爆薬を充填し、これを茶色厚紙製
の容器に入れ、電源としてナショナルハイトップ006P型乾電池一個、あげばね
式の時限スイッチとして改造した小型目覚まし時計及び手製雷管を取り付けて製造
した電気的発火方式による時限爆弾であった。
    (二) q5事件
 q5事件で用いられた爆弾は、体積約三・六リットルのかつおぶし削り容器であ
る金属製缶体の外回りに針金を巻いてポリエステルパテで塗り固め、その中に塩素
酸ナトリウムを主成分とする硝酸カリウム、硫黄及び炭素末との混合爆薬を充填
し、電源としてナショナルハイトップ006P・D9V積層乾電池、改造した小型
目覚まし時計(リズム時計工業株式会社製コンパクトアラーム)一個及び手製雷管
を取り付けて製造した電気的発火方式による時限爆弾であった。
   5 爆弾の製造状況等
 被告人及びA1は、同棲していたb3マンションの居室において、協力し合って
q4研究所事件及びq5事件で用いた各爆弾を製造した。
 被告人及びA1は、それまでに実行した各事件における経験等を考慮しつつ、小
型目覚まし時計やナショナルハイトップ乾電池等を用いて時限装置を製作し、爆薬
を調合した上、缶体として用いた長方形の缶に爆薬を詰め、段ボール様の厚紙で薄
い蓋をつけた菓子箱様の箱に缶体を収めるなどし、また、二つの爆弾とも、起爆装
置にはA1がA2から入手した雷管を用いた。
 q4研究所事件で用いた爆弾の缶体は、爆弾の威力を一方向に集中させるため、
一面を残して外回りをコンクリート様のもので補強するなどした。
   6 爆弾の運搬設置状況等
    (一) q4研究所事件
 被告人は、昭和五〇年四月一八日、仕事を終えた後、職場のロッカーに入れてお
いた爆弾を携えて退社し、同僚と茶を飲むなどして時間を潰した後、新宿駅から中
央線で四谷駅に行き、四谷駅のトイレに入って服を着替え、靴を履きかえた上、爆
弾を入れていた袋を替えるなどした。
 その後、被告人は、地下鉄丸ノ内線で銀座まで行き、西銀座フードセンター入口
付近のトイレに入って、爆弾の時限装置の時計のねじを巻くなどし、さらに、地下
鉄銀座駅地下道にあるトイレに場所を変えて、時限装置と爆弾本体との配線をつな
ぐなどした上、同日午後八時ころ、c1ビル五階にあったq4研究所の事務所前に
赴き、事務所入口鉄製扉のはめ込みガラス部分に爆弾の入った箱を両面テープで貼
り付け、その上からさらにガムテープを貼り付けるなどして、爆弾を設置した。そ
の際、被告人は、爆弾の缶体のうち補強されていない部分をq4研究所の事務所内
部に向けて、爆弾の威力が事務所内部の方向に向かうように工夫した。
    (二) q5事件
 A1は、昭和五〇年四月一八日朝、爆弾を携えて列車で尼崎に向かい、c2ビル
七階フロア中央部の南側エレベーター乗降口や階段等がある区域(以下「エレベー
ターホール」という。)内に設けられたq5ゼロックス室前に爆弾を設置した。右
設置地点は、q5製造総務部室に通じるドア(閉め切りとなっていて使用されてい
なかった。)から約一メートルの距離であった。
   7 爆弾の威力
    (一) c1ビル及びその付近の物的被害の状況
 q4研究所事件で用いられた爆弾の爆発により、c1ビル五階のq4研究所の事
務所内等において、次のとおりの物的被害が生じた。
     (1) 爆心地であったq4研究所の事務所出入口付近では、事務所の鉄製
ドアが「く」の字形に大きく曲折して、所々亀裂が入り、はめ込まれていた窓ガラ
スが破壊されて飛散した上、ドア付近の隣接事務所との隔壁の一部がえぐられ、ま
た、事務所内部の窓ガラスはそのほとんどが破壊されて飛散し、窓枠の一部が
「く」の字形に湾曲し、ついたてや本棚に用いられていたガラスや天井の蛍光灯等
も破壊され、それらの破片等が床上に落下した。
     (2) c1ビル五階のその他の部分では、隣接するa10の事務所出入口鉄
製ドアの施錠の受座金が破損し、デッドボルトが出た状態のままドアが開き、ドア
本体も歪んで閉鎖できない状態になり、はめ込み窓のガラスが破壊されて飛散した
ほか、同事務所内でも、窓ガラス数枚にひびが入りガラス片が散乱した。
 エレベーター乗り場出入口の上部壁面には亀裂が入り、二枚のドアがともに
「く」の字型に湾曲してはずれ、北西側外壁二枚引戸式窓のうち一枚が地上に落下
し、もう一枚はガラスにひびが入って窓枠下部がはずれた。
 便所内では、天井が上方に押し上げられた状態になって一部が剥離して落下し、
流し場の網入り窓ガラスは窓枠を残して破壊され、飛散するか多数のひびが入り、
大便所のドアが破壊され、大便所内の窓ガラスにひびが入った上、床上一面に落下
したしっくいやガラス片等が散乱した。
 六階に通じる階段踊り場の窓ガラス二枚も破壊されて飛散した。
     (3) c1ビルのその他の階の状況を見ると、四階では、爆心地のドアの
直下にあった事務所出入口ドアの施錠部分が曲折して錠の開閉が不能になり、事務
所内や便所内の窓ガラスや蛍光灯が落下して、破片等が床上に散乱し、六階でも、
便所内の窓ガラスがはずれ、二箇所の事務所出入口ドアの錠の開閉が不能になっ
た。また、六階から七階及び七階から八階に通じる階段の各踊り場の窓ガラスにひ
びが入った。
     (4) c1ビル前路上では、破壊されて菱形状に歪んだアルミサッシの窓
枠等が落下し、多量のガラス片や金属片等が散乱し、ガラス片は遠いところでc1
ビル出入口から約二三・五メートルの地点まで飛散した。
c1ビルの向かいにあるa12株式会社の倉庫でも、c1ビルに面した窓ガラス五
枚が破壊されて飛散した。
     (5) 結局、爆発により出入口ドアが破壊されるなどしてq4研究所及び
c1ビルの所有者等に生じた被害額合計は、約五九〇万円に達した。
     (6) なお、爆発時刻当時、一階の飲食店「バー f1」では、従業員一
名が閉店後の片付けを終えて帰宅の支度をしており、爆発音や、ガラスの破片等が
ビルの外に落下する音を聞いた。
    (二) c2ビル及びその付近の物的被害の状況
 q5事件で用いられた爆弾の爆発により、c2ビルにあったq5等において、次
のとおりの物的被害が生じた。
     (1) 爆心地であったc2ビル七階フロア中央部の南側エレベーターホー
ル内では、爆風により、エレベーターホール内を仕切って設けられていたゼロック
ス室の間仕切り板壁、支柱、天井等がほぼ完全に破壊され、その原形をとどめてお
らず、大量の破片等が散乱し、ほぼ壊滅的な状態になった。
 エレベーターホールの南西に位置するq5の事務所では、エレベーターホールへ
通じる金属製ドアが爆風で吹き飛び、ついたてにぶつかって、ついたての上部のガ
ラスが破壊され、その破片や金属片等が散乱し、エレベーターホールの南側の第一
応接室では、天井の一部が破壊され、空調口が落下し、スタンドが倒れた。
 エレベーターホールの東側に位置するq5製造総務部室内では、閉めきりにして
あったゼロックス室との間の高さ約一・九八メートル、幅約九五センチメートル、
厚さ約五センチメートルの金属製ドアが爆風で吹き飛び、このドアに接していたス
チール製書類ロッカーやキャビネット等が爆風により変形して、それぞれ数メート
ル吹き飛ばされ、一部の机も移動したほか、東側窓ガラスの一部が破壊され、室内
には、金属、コンクリート、ガラス等の破片が散乱した。
 エレベーターホールの北側にある二つの応接室内では、ついたてのガラスが破壊
されて破片等が散乱し、その北側の秘書室内では、一部のロッカーが倒れ、壁にひ
びが入り、その付近の通路でも、コンクリート壁面に爆発の衝撃を受けた際の痕跡
が残り、一部ガラスの破片が突き刺さり、通路上にガラス片等が散乱した。
 エレベーターホールの西側のq5社長室では、間仕切り壁が爆風により湾曲し、
その北にあったq5西社長室では、爆風でドアが歪み、仕切り板にガラス片が突き
刺さり、q5東社長室のドアも爆風で歪んだ。
 七階の北西隅の一角はa13株式会社の事務室等となっていたが、その一角でも、
一部のドアや仕切り壁が爆風により歪んだ。
     (2) c2ビルのその他の階の状況を見ると、二階ないし六階の各階で
は、爆心地であった七階エレベーターホールに通じる階段に設置されていた目隠し
用アクリ板が多数破壊されて落下するなどの被害が生じたが、特に六階では、爆心
地直下の南側エレベーターホールの天井がほぼ全面的に破壊されて原形をとどめて
おらず、破壊された天井材や壁面タイル等の破片が廊下を通ってフロアの北側にあ
るエレベーターホール床上まで飛散した上、フロア内各所の天井の一部が爆風によ
り押し上げられ、廊下両側の仕切り壁の一部が湾曲してはずれ、一部事務所内で
は、蛍光灯が落下したり、冷蔵庫が倒れたりした。また、五階では、一部の事務所
の出入口ドアや間仕切り壁が爆風により傾斜し、爆心地直下の南側エレベーターホ
ールでは、天井の吸音ア
ルミが多数破壊されて落下し、天井裏を通っていたパイプシャフト外周のコンクリ
ートブロックが破壊されて、縦約二〇センチメートル、横約一〇センチメートル、
厚さ約一〇センチメートルのコンクリート片が床上に落下した。
 c2ビルの屋上には、南北に塔屋が設けられていたところ、爆心地であった七階
中央部の南側エレベーターホールの真上に当たる南側塔屋では、一階北側出入口の
アルミサッシ枠金網入りガラス戸や固定窓ガラス数枚が破壊されてその破片等が散
乱し、同出入口にあったついたての鉄脚一本が折れ、便所やホール等の天井の一部
が破壊されて落下した。
     (3) c2ビルの敷地内の状況を見ると、南側では、中央部の南側歩道と
接する部分や、東端部に設置されていたa15バス尼崎案内所の屋根上には無数のガ
ラス片が散乱し、案内所の北側にある出入口上に設けられていた布張りのひさしに
は、縦約五〇センチメートル、横約六〇センチメートルの穴が空いた。東側では、
コンクリート通路上にガラス片が落下し、大きいもので縦約四五センチメートル、
横約二〇センチメートル、厚さ約六・五ミリメートルであった。西側では、若干の
ガラス片が落下した。
     (4) c2ビル周辺のガラス片等の飛散状況を見ると、c2ビルの南側で
は、市道一四九号線路面上に落下した多量のガラス片が散乱し、この道路の向かい
側の駐車場、歩道、バスターミナル舗装面等にも若干のガラス片が落下し、そのガ
ラス片は、大きいもので縦約二〇センチメートル、横約四センチメートルのものま
であった上、最も遠いところでc2ビルから約三一・九メートルの地点まで飛散し
た。東側では、b4荘アパートの南側庭に無数のガラス片が散乱し、西側でも、a
11株式会社敷地の南側広場に無数のガラス片が散乱し、最も遠いところでc2ビル
から約三〇メートルの地点まで飛散した上、同所に駐車していた普通乗用車の車体
屋根部分が約一センチメートル損傷した。
     (5) 結局、爆発により窓ガラス等が破壊されるなどしてq5、q5製造
及びc2ビルの所有者に生じた被害額合計は、約九一〇万円に達した。
   8 声明文
 被告人及びA1は、事前にq4研究所事件に関する犯行声明文を用意することと
し、漢字辞典から文字を切り抜くなどして、「q4研究所は、日帝企業の韓国、台
湾、マラヤ侵略に奉仕する活動を停止せよ。q5製造等による「韓国工業団地視察
団」の派遣を中止せよ。q5製造は、韓国から撤退し、在韓資産を放棄せよ。」
「東アジア反日武装戦線」と記載した犯行声明文を作成し、被告人がq4研究所に
爆弾を仕掛けた後、c1ビル一階にあったq4研究所の郵便受けに入れた。 
 A1は、c2ビル七階に爆弾を仕掛けた前後に、「q5 C10会長殿」と宛名を
付した黒色角封筒に入れた右と同文の犯行声明文をc2ビル一階にあったq5の郵
便受けに入れた。
   9 q4研究所事件及びq5事件の総括
 被告人及びA1は、事件後、韓国視察団の訪韓が延期されたことから、これらの
事件は成功であった旨総括した。
  二 証拠の信用性の検討
   1 鑑定書等の信用性
 q4研究所事件及びq5事件で用いられた各爆弾の構造、爆薬の成分等について
八通の鑑定書及び捜査照会事項回答書(甲D一四ないし一七、E三ないし七)があ
る。各鑑定書等の記載内容はいずれも説得力に富む上、その信用性について一部を
除く鑑定書等の作成者であるW5(第六六回)、W6(第六七回)、W7(第七八
回)、W14(第七〇回)、W15(第七〇回)及びW16(第七一回)の各証言が存在
するところ、各人とも、公判段階において、鑑定手法の選定や鑑定の過程等につい
て、専門的知見に基づき納得できる内容の証言をしており、弁護人の詳細な反対尋
問によっても、その信用性を疑うべき事情は窺われないから、いずれも信用するこ
とができる。
   2 被告人の供述の信用性
    (一) 被告人の捜査段階における供述
 被告人及びA1がq4研究所事件及びq5事件を実行した状況等を支える証拠と
して、被告人の捜査段階における供述(乙五ないし七、一一)が存在するので、そ
の信用性を検討する。
     (1) 供述の迫真性等
 被告人は、黙秘をやめて事件に関する供述を始めた当初は、q4研究所事件への
関与を否認していた(乙三)が、その後自白に転じ、以後一貫して自白を維持して
おり、攻撃対象としてq4研究所及びq5製造を選定した理由や、両事件で使用し
た爆弾をA1とともに製造した際の様子等について、自己の心境等を交えながら具
体的、詳細に供述している上、q4研究所に爆弾を仕掛けた際、現場に油紙を落と
してきたことに気が付いた経緯について、「アパートの部屋に戻ってハンドバック
をあけたら油紙が四枚あるところを確か一、二枚足らず「しまった落してきたな」
と思った」(乙六)と臨場感に富んだ供述をし、q4研究所事件における爆弾の設
置場所やq5事件の下見の際に爆弾を設置することに決めた場所等について、自ら
図面(乙六、一一)
を作成して説明している。
     (2) 供述の変遷について
 もっとも、被告人がq5事件に関し兵庫県尼崎市まで下見に赴いたかどうかにつ
いては供述が変遷しており、変遷の理由も明らかではない。すなわち、被告人は、
昭和五〇年六月六日の取調べに対しては、その下見をしたことはなく、A1が下見
をしたと思う旨供述していた(乙七)が、同月一二日の取調べに対しては、本章第
二の一3の事実に沿う供述をして(乙一一)、供述を変遷させている。
 しかし、被告人は、尼崎市内のc2ビルまでA1とともに赴いた際の経緯、下見
の際の行動や、被告人とA1との間で分担を変更し、A1がq5事件を担当するよ
うになったことなどについて、具体的で、迫真性に富む供述をしている上、本章第
二の一3の事実に沿う被告人の供述は、被告人及びA1が同年四月九日に勤務先を
休んでいた旨の捜査官による取調べの結果を踏まえてなされているものであるこ
と、被告人が、公判段階においても、事前に尼崎市に赴いてc2ビルを外から見た
こと自体は認めていること(第一〇二回)などに鑑みると、右のような変遷が見ら
れるとしても、q5事件の下見に関する被告人の捜査段階における供述の信用性が
左右されるものではない。
     (3) 小括
 以上によれば、被告人の捜査段階における供述は信用することができる。
    (二) 被告人の公判段階における供述
 一方、被告人の捜査段階における供述と一部相反する被告人の公判段階における
供述(第一〇二回、第一〇八回)が存在するので、その信用性について検討する。
     (1) 被告人の公判段階における供述の要旨
 被告人は、公判段階(第一〇二回)においては、q4研究所及びc2ビルを事前
に一度ずつ下見したこと、q4研究所事件では、爆弾の外装に関与し、その運搬を
し、郵便受けに犯行声明文を入れたことなどは認めるものの、他方で、①q4研究
所事件には被告人とA1以外の者が関与しており、被告人自身は、爆弾を設置して
おらず、②q5事件は、東アジア反日武装戦線への参加を希望する関西在住の者ら
が関与して実行したものであり、被告人自身は、爆弾の製造、運搬及び設置には何
ら関与しておらず、それらの役割を誰が担ったのかも分からなかったが、③捜査段
階においては、他のメンバーが逮捕されないように、A1と被告人だけで実行した
ことにするため、自己の関与を過大に話したなどと供述している。
     (2) 被告人の公判段階における供述の信用性
 被告人は、q4研究所事件及びq5事件に自分とA1以外にも関与した者がいた
ことを捜査段階において供述しなかった理由について、捕まっていない人のことを
供述するとその人に迷惑がかかると思ったからであるなどと一応合理的な説明を
し、かつ、被告人が昭和五二年五月に弁護人に宛てた手紙(弁四九)には、q4研
究所事件に関する供述調書について、「尾行メモをちらつかされていたがオドオド
と「2人でやった」ことを強調して話している」、「他の人のことは「言わない」
つもり」、「「私がやった」ことを強調」と、被告人及びA1以外に共犯者がいた
ことを窺わせる被告人のコメントが記載されている。
 確かに、二人だけでq4研究所事件とq5事件を準備し、同日に敢行するという
ことは容易なことではないから、対象企業の調査をするなどして被告人及びA1の
活動に協力する者がいた旨の被告人の供述自体は排斥し難い面がある。
 しかし、被告人は、他の共犯者らの人数、氏名、年齢、風貌等は分からない旨供
述し(第一〇二回)、その者らがq4研究所事件及びq5事件で果たした役割につ
いても、下見に行った際に対象のビルがどれかを教えてもらったほか、張付き調査
の結果を説明してもらった旨供述する(第一〇七回)のみであるし、q4研究所事
件の共犯者についても、爆弾を設置したのは自分以外の者であると供述するのみで
あって、その供述は具体性を欠いており、到底信用するに足りるものではない。ま
た、被告人が弁護人に宛てた手紙についても、その手紙にはq4研究所事件及びq
5事件に他の者が関与した旨の具体的な記載はない上、第三章第二の二2(二)(2)の
とおり、そもそも右手紙は、その作成経緯に照らして信用性が高くない。
 次に、被告人は、公判段階においては、q5事件で用いた爆弾の製造への関与を
否定し、爆弾を製造したのはA1であると思うが、実際のところは分からず、q4
研究所事件で用いた爆弾の製造についても外装以外の関与はしていなかったため、
爆弾の構造等は知らないなどと供述しているところ、仮に、それが事実であるとす
れば、被告人が捜査段階において、A1以外の共犯者の逮捕を避けたいと考えた場
合でも、わざわざ自分の関与を過大に述べなくとも、A1が製造したと思う旨供述
すれば足りたのであるから、被告人がその点に関して虚偽の自白をした理由として
述べるところは合理性に乏しい上、被告人とA1が同棲していた居室兼爆弾製造場
所の状況(第五章第二の二4(三)(3))に照らしても、被告人の爆弾製造状況の認識
に関する公判段階に
おける供述は不合理である。
 さらに、被告人は、q5事件へのA1の関与について、爆弾の製造のみならず、
運搬や設置についても、A1が具体的にどのように関与したのか知らないなどと供
述しているが、被告人が公判段階において自認する範囲でも、被告人は、事件当
時、A1と同棲しながら大地の牙グループの同志として活動していて、十分な意思
疎通のできる状態にあった上、自らが少なくとも爆弾の外装を手伝い爆弾の運搬も
したq4研究所事件とq5事件とは同じ目的に向けた一体の闘争であると認識して
おり、実際にも、q5事件の前に、その下見等のためにA1とともに関西に赴いた
のであり、これらの事実に照らすと、被告人が、q5事件について、A1が爆弾の
製造、運搬、設置にどのように関与したのか知らないというのは、甚だ不合理なこ
とである。
 以上の諸点を総合すると、被告人の公判段階における供述のうち、q4研究所事
件及びq5事件の当時、被告人及びA1の周囲に、事前調査を手伝うなどして被告
人及びA1の活動に協力する者らがいた旨の供述が全くの虚偽であると断定するこ
とはできないものの、それ以上に、被告人がq4研究所事件の爆弾を設置したこと
を否定し、爆弾の製造への関与を捜査段階における供述よりも小さく供述する点
は、信用することができない。また、協力者の存在の可能性に関しても、その存在
は、自らのq4研究所事件及びq5事件への具体的な関与に関する被告人の捜査段
階における供述と矛盾するものではないから、右供述の信用性に疑いを差し挟むべ
き事情ということはできない。
  三 人の身体を害する目的の有無
   1 q4研究所事件
    (一) 爆弾の威力
 本章第二の一4(一)、5のとおり、q4研究所事件で用いられた爆弾は、金属製
容器内に塩素酸塩系爆薬を充填し、q2事件と同じく、起爆装置として雷管を使用
し、一面を残して缶体の周りをコンクリート様のもので補強するなどの工夫が施さ
れており、実際にも、その爆発により、爆心地であったc1ビル五階のq4研究所
の事務所出入口付近では、同事務所出入口鉄製ドアが「く」の字形に湾曲し、隣接
事務所のドアやエレベーターのドア等にも重大な損壊をきたした上、q4研究所の
事務所内の窓ガラスのほとんどが破壊されて、金属製窓枠、ガラス片、金属片等が
c1ビル前路上に散乱し、c1ビルの向かいにあった倉庫の窓ガラスまで破損する
などしたのであり、これらの事実に鑑みると、右爆弾の威力は相当強力であったこ
とが明らかであり、
少なくとも、爆心地であったq4研究所の事務所出入口付近に人が居合わせた場合
には、爆発時の爆風、破壊された窓ガラスの破片等によって傷害を負う可能性があ
り、c1ビル前を通行中の者も窓枠やガラス片等の落下物によって傷害を負う可能
性があったものと認められる。
    (二) 爆弾の威力に関する被告人及びA1の認識
 本章第二の一5のとおり、被告人及びA1は、それまでに実行した各事件におけ
る経験等に基づき、協力して爆弾を製造し、その際、目的を達成するのに十分な破
壊力を持たせようと検討した上、相当強力な破壊力を有する爆弾を製造したのであ
るから、被告人及びA1は、この爆弾の威力を当然に認識していたと認めることが
できる。
    (三) 人の身体を害する目的の有無
 以上によれば、q4研究所事件で用いた爆弾の威力は相当強力であった上、被告
人及びA1は、その威力を認識しつつ、飲食店や会社事務所等が密集する繁華街の
中にあった雑居ビル内の事務所に爆弾を仕掛けたこと、しかも、q4研究所の事務
所は道路に面しており、被告人及びA1が爆発時刻に設定した午前一時ころは、飲
食店等で遊興した客や勤務する者らが道路を通行することが当然に予想される時間
帯であったこと、また、被告人は、爆発による威力がq4研究所の事務所内の方向
に集中するように工夫して爆弾を仕掛けたこと、加えて、被告人及びA1が、それ
までに実行した各事件の経験等から、右のように相当強力な威力を有する爆弾を道
路に面した窓のある事務室内に威力が及ぶような方法で設置して爆発させれば、爆
心地付近には人がい
ないとしても、窓ガラスの破片等の落下物によって、付近道路を通行中の者らに傷
害を負わせる可能性があることを十分に認識していたと認められ、これらの事実に
鑑みると、被告人及びA1の主目的が韓国視察団の派遣を阻止するために、組織と
してのq4研究所に物理的な損害を与えることにあり、かつ、爆発時刻が事務所内
に人のいないことが通常である時間帯であったことを考慮しても、少なくとも、c
1ビル前路上を通行していた者らがこの爆弾の爆発により破壊された窓ガラス等の
落下物によって傷害を負う可能性のあることを認識しつつ、これを認容して、あえ
て爆弾を爆発させたと認めることができるのであり、被告人に少なくとも未必的に
人の身体を害する目的があったことは明らかである。
    (四) 弁護人の主張に関する検討
 弁護人は、①被告人は、q4研究所事件で用いた爆弾本体の製造に関与していな
かったため、その構造、したがってその威力に関する認識を欠いていたこと、②被
告人は、他の者の調査結果を聞いて、爆発予定時刻には爆弾の設置場所付近に人が
いないと認識していたことを理由として、被告人には人の身体を害する目的がなか
った旨主張し、被告人も、公判段階において、右主張に沿う供述をする。
 まず、①については、既に検討したとおり(本章第二の一5、二2)、被告人
は、q4研究所事件で用いられた爆弾の製造に関与していたことが認められる。
 確かに、被告人の捜査段階における供述を見ても、爆薬の具体的な組成には触れ
られておらず、被告人自身は爆薬の組成等について必ずしも十分な知識を持たず、
A1の主導の下で作業したことが窺われるが、そのことは、大宮工場事件における
のと同様の理由(第五章第二の三2(二))で、爆弾の威力に関する被告人の認識に
ついて認定したところ(本章第二の三1(二))に影響を与えるものではない。
 ②については、確かに、被告人の爆弾の設置方法がq4研究所の事務所出入口ド
アのはめ込みガラスに貼り付けるという目立つ方法であったことからすると、爆発
時刻ころに爆心地付近に人が居合わせることがないと判断していたという被告人の
供述は一応信用することができるが、本章第二の一2(一)のとおりのc1ビルの立
地からすると、午前一時ころにビル前の路上に人通りが全くないと信じたというの
は不合理であり、実際にも、本章第二の一7(一)(6)のとおり、爆発時にc1ビル一
階の飲食店内に残っていた従業員がいたのであるから、人身に危害を生じることは
ないと考えた旨の被告人の供述は信用することができない。
   2 q5事件
    (一) 爆弾の威力
 本章第二の一4(二)、5のとおり、q5事件で用いられた爆弾は、体積約三・六
リットルの金属製容器内に塩素酸塩系爆薬を充填した爆弾であり、q2事件と同じ
く、起爆装置として雷管を使用し、缶体の外回りに針金を巻き付けてポリエステル
パテで塗り固めるなどその強度を強める工夫が施されており、実際にも、その爆発
により、爆心地であった七階の南側エレベーターホール内では、爆風により間仕切
り板壁、支柱、天井等がほぼ完全に破壊され、その原形をとどめておらず、壊滅的
な状態になり、周囲の事務室でも、エレベーターホールとの間の金属製ドアや金属
製ロッカー等が爆風で変形して吹き飛び、破壊された天井等の破片が大量に散乱
し、窓ガラスが破壊されるなどした上、c2ビルのその他の階でも、爆心地の上下
のエレベーターホール
や階段を中心として、天井が破壊され、階段の目隠し用アクリ板が多数破壊されて
落下するなどし、c2ビル周辺建物の敷地内や路上にも、七階で破壊されたガラス
の破片等が広範囲にわたり散乱するなどしたのであり、これらの事実に鑑みると、
爆弾の威力は相当強力であったことが明らかであり、少なくとも、爆心地であった
七階の南側エレベーターホール内、周囲の事務室内、同エレベーターホールに通じ
る階段や各階エレベーターホールに人が居合わせた場合には、爆発時の爆風、吹き
飛ばされたドアや破壊された天井の破片等によって傷害を負う可能性があり、c2
ビル周辺の建物の敷地内や路上に居合わせた者もガラスの破片等の落下物によって
傷害を負う可能性があったものと認められる。
    (二) 爆弾の威力に関する被告人及びA1の認識
 本章第二の一5のとおり、A1は、それまでに実行した各事件における経験等に
基づいて、目的を達成するのに十分な破壊力を持たせようと検討した上、相当強力
な破壊力を有する爆弾を製造したのであり、被告人自身も、従前の爆弾を用いた事
件の経験を持ち、q5事件で用いた爆弾についても、A1の爆弾の製造に協力し、
その構造を認識していたのであるから、被告人及びA1は、右爆弾が相当強力な威
力を有していることを当然に認識していたと認めることができる。
    (三) 人の身体を害する目的の有無
 以上によれば、q5事件で用いた爆弾の威力は相当強力であった上、被告人及び
A1は、その威力を認識しつつ、下見等による調査をして、幹線道路に近い商業地
域の一角にあったオフィスビルのc2ビル内に爆弾を仕掛けたこと、爆弾を仕掛け
た側であるc2ビルの南側は、付近にタクシー乗り場等があった道路に面し、東側
には一三世帯が居住するアパートが隣接するほか、さほど遠くない場所にホテルや
歓楽街もあったのであり、被告人及びA1が爆発時刻に設定した午前一時ころは、
遅い時間とはいえ、歓楽街で遊興した者や勤務する者、あるいは隣接するアパート
を含む周囲の住宅に居住する者らが付近道路や敷地内に居合わせることも十分にあ
り得る時間帯であったこと、爆弾を設置したエレベーターホールは建物の内部にあ
るものの、同所から
は、扉を隔てて、南西のq5の事務室、南側の応接室、東側のq5製造総務部室等
に通じており、右各室は、南側道路や東側のb4荘アパート等に面していたこと、
加えて、被告人及びA1が、それまでの各事件の経験等から、右のように相当強力
な威力を有する爆弾を爆発させれば、爆心地付近には人がいないとしても、破壊さ
れた窓ガラスの破片等の落下物によって、ビルの外周に居合わせた者らに傷害を負
わせる可能性があることを十分に認識していたと認められ、これらの事実に鑑みる
と、被告人及びA1の主目的が韓国視察団の派遣を阻止するために、企業としての
q5製造に物理的な損害を与えることにあり、かつ、爆発時刻がビル内に人のいな
いことが通常である時間帯であったことを考慮しても、少なくとも、c2ビルの南
側路上を通行してい
た者や東側に隣接するアパートの敷地内等に居合わせた者らが爆発により破壊され
た窓ガラスの破片等の落下物によって傷害を負う可能性のあることを認識しつつ、
これを認容して、あえて爆弾を爆発させたと認めることができるのであり、被告人
に少なくとも未必的に人の身体を害する目的があったことは明らかである。
    (四) 弁護人の主張に関する検討
 弁護人は、①被告人は、q5事件で用いた爆弾の製造に全く関与していなかった
ため、爆弾の構造、したがってその威力に関する認識を欠いていたこと、②被告人
は、他の者の調査結果を聞いて、爆発予定時刻には爆弾の設置場所付近に人がいな
いと認識していたことを理由として、被告人には人の身体を害する目的がなかった
旨主張し、被告人も右主張に沿う供述をする。
 まず、①については、既に検討したとおり(本章第二の一5、二2)、被告人は
q5事件で用いた爆弾の製造に関与していたことが認められ、その際に被告人自身
が爆薬の組成等について必ずしも十分な知識を有さず、A1が主体となって爆弾を
製造したものであるとしても、そのことは、大宮工場事件におけるのと同様の理由
(第五章第二の三2(二))で、爆弾の威力に関する被告人の認識について認定した
ところ(本章第二の三2(二))に影響を与えるものではない。
 ②については、確かに、爆発時刻は深夜であるが、本章第二の一2(二)のとおり
のc2ビルの立地からすると、本章第二の三2(一)、(三)のとおり人が居合わせて
爆発による傷害を負う可能性があったことは明らかであるから、人身に危害を生じ
ることはないと考えた旨の被告人の供述は、不合理であって、信用することができ
ない。
 第三 まとめ
 以上のとおりであって、被告人には判示第四の各罪が成立する。
第七章 判示第五の事実について
 第一 弁護人の主張
 弁護人は、判示第五の事実について、被告人は、その実行行為を行っておらず無
罪であると主張し、被告人も、公判段階において、これに沿う供述をするので、以
下検討する。
 第二 検討
  一 旅券の証拠能力
 弁護人は、旅券(平成七年押第一九八七号の3)は、第一章第三の一で主張する
とおり、違法な逮捕手続を利用して押収されたものであるから、証拠能力を欠く旨
主張する。
 しかし、右旅券は、第一章第三の二のとおりの経緯で被告人が逮捕された際に押
収されたものであるところ、第一章第三の四で検討したとおり、その逮捕手続に所
論のような違法はないから、弁護人の右主張は失当である。
 二 「マリア・ヤマムラ・ガルベス」と名乗る者が旅券を提示してルーマニア
国に入国したこと
1 認定事実
 関係証拠によれば、以下の事実が認められる(日時はいずれも現地時間であ
る。)。
    (一) 平成六年九月当時、ルーマニア国に外国人が入国する際の手続は、
おおむね次のようなものであった。
     (1) 入国を申請する者は、あらかじめ所要の事項を記載した同国の入出
国カードと旅券を国境事務所係官に提出する。
     (2) 国境事務所係官は、旅券の顔写真と入国申請者の容貌とを比較対照
して同一人物であるかどうかを確認した上、その者の身分と提出された書類が真正
なものであるかどうかを確認し、さらに、十分な資金を有しているかなどルーマニ
ア国の法律で規定された条件を満たしているかを審査する
     (3) 右審査を通ると、国境事務所係官は、旅券及び出国用カードの裏面
に入国スタンプを押し、それらを申請者に返還する。申請者は、ルーマニア国に滞
在中出国用カードを所持し、出国の際に国境事務所係官に提出しなければならな
い。
    (二) 平成六年九月二五日午後一一時〇六分ころから同日午後一一時五一
分ころまでの間、所持者氏名欄に「YAMAMURAGALVEZ」、「MARIA」と記載されたペ
ルー共和国旅券(旅券番号〇二四八九二四、発行日付平成五年八月一八日。以下
「本件旅券」という。)を所持する者が、列車でユーゴスラビア連邦共和国セルビ
ア地方からルーマニア国に入国するに際し、同国ティミシュ県スタモラモラビィツ
ァ国境検問所において、同国内務省国境警察所属の国境事務所係官に対し、本件旅
券及び「YAMAMURA」名義の入出国カードを提出した。
   2同一人物であることの確認
 右(一)、(二)の各事実から、「マリア・ヤマムラ・ガルベス」と名乗る者が、判
示第五記載の日時場所において、ルーマニア国への入国許可を申請するに際し、同
国内務省国境警察所属の国境事務所係官に対し、本件旅券等を提出して行使し、同
係官は、本件旅券に貼付された顔写真と申請者の容貌とを比較対照して同一人物で
あると確認したことが認められる。
  三 本件旅券が偽造有印私文書であること
1 認定事実
 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
    (一) ペルー共和国政府が平成二年一月一日から平成七年三月三〇日まで
の間にマリア・ヤマムラ・ガルベスという者に対し旅券を発給したことはない。番
号〇二四八九二四の同国旅券の被発給者は、マリア・ヤマムラ・ガルベスとも被告
人とも異なるF2という者であり、同人に発給された右番号の同国旅券について
は、平成五年八月二〇日に二人組の強盗によって強奪された旨の告発書が提出され
ていた。
    (二) F2が右番号の同国旅券の発給を受ける際に記載した旅券申請書の
記載内容は、氏名、生年月日、選挙人手帳番号等について本件旅券の記載内容と異
なっており、貼付された顔写真も本件旅券のものと全く違う容貌のものである。
   2 旅券の鑑定
 東京入国管理局成田空港支局文書鑑識センター入国審査官W17が実施した本件旅
券の分析結果(甲A九添付のもの)によると、本件旅券は、その素材自体は真正な
旅券と同様であるものの、①顔写真の縁に、元の写真の糊の跡か写真を剥離した時
の薬品の跡のような痕跡があること、②顔写真が貼付された頁の氏名、生年月日、
軍籍番号、署名に改ざん痕が見られること、③顔写真を覆うラミネートが切られて
いること、④縫い糸が真正な旅券とは異なることなどの理由から、身分事項を改ざ
んし、顔写真を張り替え、製本をやり直した偽造旅券であるという分析がなされて
いる(右②のうち、軍籍番号とあるのは選挙人手帳番号の誤記と認められる。)。
 W17は、公判段階において、右の分析結果に加えて、分析の方法、その過程、偽
造旅券という結論に至った根拠等を詳細に証言している(第二九回)ところ、W
17は、昭和六一年から一〇年以上にわたり入国審査官として勤務し、特に、平成六
年九月以降文書鑑識センターで旅券鑑識の仕事に従事してきた経験に基づいて論理
的に説明しており、その内容は、説得力に富み、納得できるものである。
一方、ルーマニア国内務省警察局司法警察部法科学研究所鑑定人作成の鑑定報告
書(甲A三一添付のもの)には、本件旅券に変造の痕跡は認められない旨の記載が
あるが、その鑑定方法は、蛍光を照射するなどして本件旅券の外観を見分するとい
うものであって、鑑定の手法としてそれほど精度の高いものではなく、右の分析結
果やW17の証言と対比すると、右報告書は、その作成者が偽造文書であるかどうか
を見抜けなかったことを示すにすぎない。
   3偽造有印私文書であること
 以上によれば、本件旅券は、作成名義人でない者が旅券名義人の氏名、生年月日
等その本質的部分を不法に変更した偽造有印私文書であると認められる。
 なお、本件旅券に押印されたルーマニア国入国スタンプはいずれも真正なもので
あることが確認されている。
  四 被告人と犯人との同一性
   1 認定事実
 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。
    (一) 被告人は、遅くとも平成六年九月ころから翌年三月ころにかけて、
「マリア・ヤマムラ・ガルベス」と名乗り、貿易会社の共同経営者として、ルーマ
ニア国ブカレスト市内に居住していた。
    (二) 被告人は、平成七年三月二〇日午前七時ころ(現地時間)、ルーマ
ニア国の治安機関に身柄を拘束され、その際所持していた本件旅券を押収された。
   2 顔写真による個人識別鑑定
    (一) 警視庁刑事部鑑識課写真研究員W18作成の鑑定書(甲A一二添付の
もの)には、鑑定資料である本件旅券に貼付された顔写真と平成七年三月二四日に
撮影された被告人の顔写真とを対比するに当たり、各資料の照明状態、被写体の化
粧の程度や顔の向きの角度等を考慮して、細部まで詳細に観察した上、スーパーイ
ンポーズ法を用いて、眼瞼、鼻等顔面各部に認められる特徴の類似性やほくろの位
置関係の合致度を検討した結果、両者が同一人物であると思われる旨の結論が記載
されている。
    (二) W18は、公判段階において、顔面各部の特徴が類似していると考え
た理由や、スーパーインポーズ法による鑑定の経過等について、右鑑定書の記載内
容に比べてより詳細な証言をしている(第三二回)ところ、W18は、警視庁刑事部
鑑識課技術吏員としての専門的知見に基づいて、具体的、論理的に説明しており、
その内容は説得力に富んでいて、疑問を差し挟む余地はない。
    (三) そうすると、本件旅券に貼付された顔写真は、被告人の顔を撮影し
たものと認定することができる。
   3 検討
 本章第二の二2、四1、2のとおり、本件旅券に貼付された顔写真は被告人を撮
影したものである上、ルーマニア国国境事務所係官は、本件旅券に貼付された顔写
真と入国申請者自身の容貌とを比較対照し、人物の同一性を確認した上、入国を許
可したのであり、加えて、被告人がルーマニア国で居住していた際、「マリア・ヤ
マムラ・ガルベス」と名乗っていたことや身柄を拘束された際に本件旅券を所持し
ていたことをも併せ考えると、判示第五の日時場所において本件旅券を行使した人
物は被告人であると認定することができる。
   4 被告人の公判段階における供述の信用性
 これに対し、被告人は、公判段階において、平成六年九月二五日にスタモラモラ
ヴィツァ国境検問所を通過したことはなく、当然、本件旅券も提出しなかったし、
そもそも本件旅券を手に入れたのは、同年暮れか平成七年の初めころであるなどと
供述する(第三五回)。
 しかし、被告人が、ルーマニア国に入国した経緯、本件旅券の入手経緯や本件旅
券に被告人の写真が貼付されている事情について何ら具体的な供述をしていないこ
とからすると、被告人の右供述は到底信用するに足りるものではないし、本件旅券
には、平成七年三月六日にブカレストの旅券局で発行された同年八月一八日まで有
効の同国の査証スタンプが押印されているところ、被告人の右供述を前提とする
と、被告人は、同年三月六日ころには本件旅券を所持していたことになるから、本
件旅券を行使して査証の更新申請を行ったことになるが、被告人は、公判段階にお
いて、ルーマニア国で査証の更新手続を行ったことはないなどと供述しており(第
三五回)、被告人の右供述は、それ自体矛盾をはらんでいるのであって、その点か
らも信用することがで
きない。
   5 弁護人の主張に関する検討
 弁護人は、「YAMAMURA」名義の入出国カード(甲A二四中に同カードをファクシ
ミリ受信した書面の写しがある。)の筆跡と被告人の筆跡との同一性を鑑定した結
果、同一性は判断できないという結論が出され、鑑定書(弁一)には、類似する特
徴より相違する特徴が多く指摘できる旨記載されており、入出国カードを被告人が
作成したという証明がなされていないから、被告人が公訴事実記載の日時に本件旅
券を行使したことについて証明がなく、被告人は無罪であるなどと主張する。
 しかし、右鑑定書には、入出国カードと被告人の筆跡との同一性が判断できない
理由として、アルファベットを母国語表記に用いない筆者が書いたアルファベット
は、母国語文字に比べて同一筆者の書いた筆跡でも変動が大きいので、筆者識別を
実施する際には、母国語文字以上に様々な観点から筆跡を検討する必要があるとこ
ろ、鑑定資料とした入出国カードは、ファクシミリで受信した文書を電子写真方式
で複写したものであるために、筆者識別の重要な指標である書字運動の状態を知る
ことができないものであった上、文字形態の不明瞭な箇所が多く、被告人の筆跡と
の異同を考察するための資料としては不十分なものであったからである旨記載され
ており、このことからすれば、相違する特徴が多く指摘できる旨の右鑑定書の記載
は、本件旅券を行使
した人物が被告人であるという認定に疑いを差し挟むものではない。
 第三 まとめ
 以上のとおりであって、被告人が判示第五の犯行に及んだことは、優にこれを認
定することができる。
【法令の適用】
 被告人の判示第一、第二の各所為のうち、各爆発物を使用した点はいずれも平成
七年法律第九一号(刑法の一部を改正する法律)附則二条一項本文により同法によ
る改正前の刑法(以下「改正前の刑法」という。)六〇条、爆発物取締罰則一条
に、各被害者に対する殺人未遂の点はいずれも改正前の刑法六〇条、二〇三条、一
九九条に、判示第三の一ないし三、判示第四の一及び二の各所為は、いずれも同法
六〇条、爆発物取締罰則一条に、判示第五の所為は、改正前の刑法一六一条一項、
一五九条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一の爆発物使用と各殺人未遂は一
個の行為が一三個の罪名に触れる場合であり、判示第二の爆発物使用と各殺人未遂
は一個の行為が九個の罪名に触れる場合であるから、いずれも爆発物取締罰則一二
条、改正前の刑法一〇
条により一罪として最も重い各爆発物取締罰則違反の罪の刑で処断することとし、
判示第一ないし第四の各罪について各所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し、以上
は改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑
及び犯情の最も重い判示第一の爆発物取締罰則違反の罪の刑に改正前の刑法一四条
の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役二〇年に処し、同法二一
条を適用して未決勾留日数中二〇〇〇日を右刑に算入し、訴訟費用は、刑事訴訟法
一八一条一項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
【量刑の理由】
一 本件は、東アジア反日武装戦線大地の牙グループの一員であった被告人が、昭
和四九年一〇月から昭和五〇年四月にかけて、A1と共謀の上、治安を妨げ、人の
身体・財産を害する目的で、かつ、未必的殺意をもって、q1物産館に爆弾を仕掛
けた上爆発させて、一二名に重軽傷を負わせたという殺人未遂、爆発物取締罰則違
反(判示第一の事実)、更に複数の東アジア反日武装戦線の構成員らと共謀の上、
治安を妨げ、人の身体・財産を害する目的で、かつ、未必的殺意をもって、q2建
設ビル前に爆弾を仕掛けた上爆発させて、八名に重軽傷を負わせたという殺人未
遂、爆発物取締罰則違反(判示第二の事実)、治安を妨げ、人の身体・財産を害す
る目的で、q3組本社六階及び九階並びにq3組機械部大宮工場にそれぞれ爆弾を
仕掛けてほぼ同時に爆
発させたという爆発物取締罰則違反(判示第三の各事実)、治安を妨げ、人の身
体・財産を害する目的で、q4研究所及びq5がそれぞれ入居するビルの中に爆弾
を仕掛けて爆発させたという爆発物取締罰則違反(判示第四の各事実)のほか、平
成六年にルーマニア国に入国する際、偽造に係るペルー国政府発行の旅券を行使し
たという偽造有印私文書行使(判示第五の事実)の事案である。
二 判示第一から第四までの一連の爆弾事件の動機について見ると、被告人及びA
1は、第二次世界大戦後、日本全体が戦争責任を忘れ、旧財閥系を中心とする大企
業がアジア諸国を経済的に侵略して搾取することにより繁栄を得ているなどと考
え、こうした企業や日本人に対し、戦争責任や戦後のアジア諸国への侵略に対する
責任等について自覚と反省を促すため、爆弾闘争によって海外進出企業等の中枢を
破壊することとし、目的を達成するためには爆心地付近や周辺に居合わせた者らを
巻き込んでもかまわないという意思で、次々と爆弾を仕掛けて爆発させたのであ
り、社会を変革しようという被告人なりの正義感から行ったものではあるにせよ、
自分たちの考え方を絶対視し、爆弾による攻撃という過激な手段を選んだことは国
民の多くが納得するもの
ではなく、独善的、短絡的な動機に基づく犯行という非難を免れず、動機において
酌むべき余地があるということはできない。
三 各爆弾事件とも、被告人らが事前に攻撃対象とその周辺を下見するなどして調
査を重ね、グループ間で連絡を取り合うなどして、塩素酸塩系爆薬を用いた威力の
ある爆弾を製造した上、q1物産事件及びq2建設事件では、日中、人通りや交通
量の多い繁華街にあるビルの内外に爆弾を仕掛けて爆発させ、q3組事件、q4研
究所事件及びq5事件では、夜間とはいえ、爆発地点や周辺に人が居合わせる可能
性のあるビルや工場に爆弾を仕掛けて爆発させ、特にq3組事件では、三つのグル
ープが共同し、三箇所で同時に爆発させることをもくろんで敢行したものであり、
いずれも計画的、組織的で、大胆な犯行である。
四 各爆発により生じた結果を見ると、q1物産事件では、爆心地であったq1物
産館三階第三広間が大きく破壊され、隣接していた湯沸室が壊滅的な状態になり、
破壊された壁やガラスの破片等が大量に事務室内やq1物産館の外周等に散乱する
などして多大な物的被害が生じた上、爆心地付近に居合わせた一二名が爆風や爆発
音、飛散した弾体や窓ガラスの破片等によって重軽傷を負い、とりわけ爆弾の探索
と点検をしていた警察官は、異物が左側頭骨内にまで突き刺さって六四日間の入院
加療等を要する重傷を負い、また、q2建設事件では、q2建設ビル一階道路沿い
に敷いてあった重さ約七〇キログラムの鉄製踏板が大きく歪み、その多くが道路に
飛散し、一枚が約三一メートル離れた二階建ての木造建物の屋根を突き破って食卓
付近に落下したほか
、大量のガラス片等がビルの中や路上に散乱するなどして多大な物的被害が生じた
上、爆心地付近に居合わせた八名が爆風や爆発音等によって重軽傷を負い、中でも
物品の配達のため作業をしていた者は、多数のコンクリート片等の異物が身体に突
き刺さり、右手の中指、人さし指及び薬指の指先から第一関節までの部分を失うな
どして合計約四か月半の入院加療等を要する重傷を負ったのである。q3組事件、
q4研究所事件及びq5事件でも、天井板、壁、窓ガラス等が破壊されて多大な物
的被害が生じ、特にq3組事件では、各爆弾事件の中で最も高額の合計約一五億円
に及ぶ損害が生じたのである。
五 このような多大な物的、人的被害が生じ、被害者らの被害感情が強かったにも
かかわらず、被告人らは、被害者らに対し弁償も慰謝の措置も講じていない。
 各爆弾事件において被告人は、攻撃対象を下見するなどして調査し、q2建設事
件では、大地の牙グループの連絡員として狼グループのA2と連絡を取り合い、q
3組本社事件を除く各爆弾事件では、爆弾の製造について、A1と二人で製造し、
あるいはA1が製造するのに協力し、爆弾の運搬と設置について、q1物産事件で
は、A1から爆弾を受け取った後にq1物産館まで運んでこれを設置し、q2建設
事件では、A1と一緒に爆弾を運搬するとともに、A1が爆弾を設置する際に見張
りをし、大宮工場事件では、A1と一緒に爆弾を運搬し、q4研究所事件では、一
人で爆弾を運搬して設置したのであり、各犯行において重要な役割を果たした。
六 以上の各爆弾事件は、「連続企業爆破事件」としてマスコミにより大々的に報
道され、社会に大きな衝撃を与えるとともに、人々を震撼させ、いつ何時爆発に巻
き込まれるかもしれないという不安を抱かせたのであり、社会一般に与えた影響も
軽視できない。
七 判示第五の偽造有印私文書行使について見ると、被告人が犯行の詳細に関して
語っていないため、犯行に至る経緯や動機等は不明であるものの、精巧に偽造され
たペルー共和国発給の旅券を行使してルーマニア国の入国管理行政の適正等を害し
たのであり、その犯情は悪い。
八 そのほか、被告人が公判段階において、各犯行につき一部不合理な弁解を交え
つつ供述していることも無視できない事情である。
 以上からすれば、被告人の刑事責任は重い。
九 他方、被告人に有利に斟酌し得る事情として、以下の点を指摘することができ
る。
 すなわち、一連の爆弾事件において、各犯行の発案や計画の立案をしたのは、A
1や他のグループの者であり、被告人は、A1から犯行計画を聞くなどして、その
一部について実行行為にも加担し、A1を補佐する従属的な立場にあったこと、q
1物産事件及びq2建設事件において、確定的殺意ではなく未必的殺意を有するに
とどまっていたこと、一部の爆弾事件において、予告電話をしたところ、これは人
的被害を確実に回避するには不十分であったものの、人的被害を小さくする方途で
あったことなどが挙げられる。
 さらに、被告人は、捜査段階において、一連の爆弾事件につきほぼ全面的に自白
していること、公判段階において、怪我を負わせた被害者らに対する謝罪の言葉を
述べ、時には涙を見せるなどして、怪我人を出したことにつき反省と後悔の態度を
示していること、各爆弾事件の後、長い歳月を経て、社会状況も変化する中で、被
告人が社会を変革する手段として人に危害を加え得る方法を採るのは誤りであった
と自覚するに至っていること、そのほか、被告人には前科、前歴がないことなどの
事情も認められる。
一〇 以上の諸事情を考慮すると、被告人の刑事責任は重大であるけれども、被告
人を求刑どおり無期懲役刑に処するのは重きにすぎるといわざるを得ず、主文のと
おり、有期懲役刑の最長期である懲役二〇年に処するのが相当であると判断した。
(求刑 無期懲役)
  平成一四年九月二〇日
    東京地方裁判所刑事第五部
           裁判長裁判官    山    室      惠
              裁判官辻   川   靖   夫
    裁判官大野洋は差し支えにつき署名押印することができない。
           裁判長裁判官山    室      惠
別表(一) 
│││年齢││

番号│ 氏 名││  受傷の部位│  受傷の程度

││(当時)││

│1│ V1│三八│両前腕多発性挫創、顔面多発性挫創│六四日間の入院
加療│
││││両下腿多発性挫創、左下腿異物、左手│その後約六か月
間の通院加療│
││││異物、右鼓膜全欠損、左浅側頭動静脈│

││││瘻及び左側頭骨内異物│

│2│V2│三七│右膝・左下腿・左第五指挫創、音響性│約二週間の入院
加療│
││││難聴及び鼓膜損傷│その後約二年間
の通院加療│
│3│ V3│四八│爆風による両側鼓膜損傷、中耳炎、耳│約七〇日間の入
院加療│
││││鳴り及び難聴│その後約六か月
間の通院加療│
│4│V4│五〇│全身爆傷、左大腿部異物、右頚部異│約五〇日間の入
院加療│
││││物、右鼓膜穿孔、右外耳道損傷及び爆│その後四か月間
の通院加療│
││││音性難聴│

│5│ V5│三五│下顎骨開放性骨折、後頭部亀裂骨折及│約二か月間の入
院加療│
││││び右内耳性難聴│その後約二か月
間の通院加療│
│││年齢││

番号│ 氏 名││  受傷の部位│  受傷の程度

││(当時)││

│6│ V6│四一│頭頂部・両下肢・下腹部擦過傷、右上│約三週間の入院
加療│
││││前膊切創、右撓尺骨関節脱臼、右上腹│その後約一週間
の通院加療│
││││部挫滅創及び両耳難聴兼右外傷性中耳│

││││炎│

│7│ V7│二八│左音響外傷性難聴│加療約一か月間

│8│V8│三三│右音響外傷性中耳・内耳障害│加療約三日間

│9│ V9│三四│右音響外傷性中耳・内耳障害│加療約三週間

│10│ V10│二三│右下腿部異物創│加療約一〇日間

│11│ V11│二一│左鎖骨部挫傷、左耳鳴り、突発性難│加療約一〇日間

││││聴、両耳急性中耳炎│

│12│ V12│二〇│全身爆創│加療約一週間

別表(二) 
│││年齢││

番号│氏 名││受傷の部位│受傷の程度

││(当時)││

│1│ V13│六三│右手挫滅創、頭部挫創、右下肢打撲挫│約六か月半の加
療│
││││創異物、右手第三指切断│(うち入院加療
約四か月半、│
│││││通院加療約二か
月間)│
│2│ V14│二七│右肘関節打撲及び左右骨盤部打撲│五日間入院加療

│││││その後約半年間
の通院加療│
│3│ V15│三八│右鼓膜損傷│加療約八〇日間

│4│ V16│三七│両側感音系難聴及び左耳鳴り│加療期間不詳

│5│ V17│二五│右内耳性(感音性)難聴│加療期間不詳

│6│ V18│二五│急性鼓膜炎及び急性感音系難聴│加療約一〇日間

│7│ V19│一九│下顎部挫創│全治約一週間

│8│ V20│一九│右側胸部挫創│全治約一〇日間

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