弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 原告らの被告A1に対する請求のうち,別紙1秘書管理費内食糧費支出一覧表記
載の秘1ないし7の支出負担行為及び支出命令にかかる当該職員に対する損害
賠償請求の訴え,並びに同一覧表記載の秘1,2,4の支出にかかる相手方に対
する不当利得返還請求の訴えを却下する。
2 原告らの被告A2に対する請求のうち,別紙1秘書管理費内食糧費支出一覧表記
載の秘1,2,4の支出にかかる相手方に対する不当利得返還請求の訴え,及び
別紙2議会費内食糧費支出一覧表記載の議1ないし11,13,14の支出にかかる相
手方に対する不当利得返還請求の訴えを却下する。
3原告らの被告A3に対する請求のうち,別紙1秘書管理費内食糧費支出一覧表記
載の秘1ないし7,9ないし12,14ないし20の支出負担行為及び支出命令にかかる
当該職員に対する損害賠償請求の訴え,並びに同一覧表記載の秘1,2,4の支
出にかかる相手方に対する不当利得返還請求の訴えを却下する。
4 被告A1は,B市に対し,金47万9068円(ただし,金4万7985円の限度で被告
A2と,金21万4773円の限度で被告A3と連帯して)及びこれに対する平成14年
2月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 被告A2は,B市に対し,金5万7225円(ただし,金4万7985円の限度で被告A
1と,金9793円の限度で被告A3と連帯して)及びこれに対する平成14年2月12
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告A3は,B市に対し,金21万8439円(ただし,金21万4773円につき被告A
1と,金9793円の限度で被告A2と連帯して)及びこれに対する平成14年2月12
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,原告らに生じた費用の15分の2と被告A1に生じた費用の5分の2
を被告A1の負担とし,原告らに生じた費用の90分の1と被告A2に生じた費用の3
0分の1を被告A2の負担とし,原告らに生じた費用の15分の1と被告A3に生じた
費用の5分の1を被告A3の負担とし,その余の費用を原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告A1,被告A2及び被告A3は,B市に対し,連帯して114万1869円及び
これに対する平成14年2月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
(2) 被告A2は,B市に対し,59万0932円及びこれに対する平成14年2月12日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 本案前の答弁
(1) 原告らの訴えのうち,別紙1秘書管理費内食糧費支出一覧表記載の秘1,2,
4及び別紙2議会費内食糧費支出一覧表記載の議1ないし11,13,14の食糧費
支出に関する部分を却下する。
(2) 上記訴えに係る訴訟費用は原告らの負担とする。
3 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は,B市の住民である原告らが,「B市の秘書管理費内食糧費が,市長で
あった被告A1及び秘書室長であった被告A3によって違法に支出され,被告らは
そのうち一部の会食に参加して代金相当額を不当に利得した。また,B市の議会
費内食糧費が違法に支出され,被告A2はそのうち一部の会食に参加して代金相
当額を不当に利得した。」と主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改
正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,B市に代位して,被告A1
及び被告A3に対しては損害賠償若しくは不当利得の返還並びにこれに対する訴
状送達の日からの民法所定の遅延損害金の支払を,被告A2に対しては不当利得
の返還及びこれに対する訴状送達日の後である平成14年2月12日からの民法
所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1)ア 原告らは,三重県B市の住民である。
イ 被告A1は,平成2年4月25日から平成14年4月24日までB市長であった。
ウ 被告A2は,平成12年以降B市助役である。
エ 被告A3は,平成10年7月1日から平成13年3月31日までB市秘書室長で
あった。
(2) B市では,秘書管理費内食糧費が平成12年6月から平成13年11月にかけ
て,別紙1の「支出日」欄に記載の日に「支出額」欄の記載の金額が支出され,
議会費内食糧費が平成12年4月から平成13年10月にかけて,別紙2の「支出
日」欄に記載の日に「支出額」欄の記載の金額が支出された(以下「本件食糧費
支出」といい,各支出は別紙1,2の左端の符号で表記する。なお,議15,16につ
いては,甲3の2の②の請求書の税1650円を按分したものである。また,支出
を「支出(狭義)」といい,支出負担行為,支出命令及び支出を併せ「支出(広
義)」という。)。
(3) 秘書管理費内食糧費にかかる支出負担行為及び支出命令については,職務
権限規程(昭和51年4月10日規程第4号)に基づき,50万円以上は市長に,3
0万円以上50万円未満は助役に,10万円以上30万円未満は秘書室長に,1
0万円未満は秘書室次長に,それぞれ決裁権限(助役,秘書室長,秘書室次長
については専決権限)がある(乙イ1の1)。
議会費内食糧費にかかる支出負担行為及び支出命令については,B市長の
権限に属する事務の一部委任に関する規則(昭和39年5月1日規則第14号)
に基づき,10万円以上30万円未満は市議会事務局長に,10万円未満は市議
会事務局次長に権限が委任されている(乙イ1の2)。
本件食糧費支出(狭義)にかかる各支出負担行為及び支出命令については,
別紙1,2の「決裁」欄に記載の者が「支出負担行為日」欄に記載の日に決裁し
た。
本件食糧費支出(狭義)は,B市出納長又は収入役が別紙1,2の「支出日」
欄記載の日に行った。
(4) B市では,「B市予算執行基準等(内規)」(以下「本件内規」という。)が設けら
れ,平成9年4月1日以降,食糧費の予算の執行に関して,次のとおりの基準が
定められていた(甲1の3の⑥)。
「 食糧費の執行にあたっては,目的及び内容について妥当性を欠くことのない
よう留意し,懇談会等にあっては事務事業の円滑な執行に必要な情報収集や
意見交換の必要がある場合に限り実施することとし,職員の出席については
直接に担当する職員のみとする。
また,各種行事等の実施に伴う昼食についても簡素化に努め,執行にあた
っては次の事項に留意すること。
① 組織のチェック機能として,事前に実施内容を部長等に報告(実施計画書
への付記等)し,承認を得ること。
② 食糧費の対象経費は,原則として次のとおりとする。
・ 懇談会等における食糧費の対象経費は,原則として料理代,飲み物
代,税(消費税及び特別地方消費税),奉仕料(サービス料)とする。
・ 二次会は自己負担とし,真に実施することがやむを得ない場合(レセプ
ション後の主賓のための別席等)に限り対応する。
③ 単価等については,次のとおりとする。
一人当たりの料理単価の上限は,原則として
・ 特別職(三役・教育長・水道事業管理者)が出席する懇談会においては
 10,000円
・ 一般職が出席する懇談会においては 5000円
・ 各種行事や諸会合の昼食にあっては 1000円
また,大都市等で開催する場合,物価等を考慮のうえ,加算することが
できる。
④ 人数が多い場合は,立食形式を導入すること。」
(5) 秘書管理費内食糧費の情報公開請求の経過
ア(ア) 原告Cは,平成13年2月16日,B市長に対して,平成9年度から平成12
年度までの秘書管理費内食糧費等について予算差引簿の情報公開を請
求した(甲4の1の①)。
(イ) B市長は,平成13年3月2日,部分公開を決定し,同月13日,文書を開
示した(甲4の1の①)。
イ(ア) 原告Cは,平成13年3月27日,B市長に対して,平成9年度から平成12
年度までの秘書管理費内食糧費等補助簿の情報公開を請求した(甲4の1
の②)。
(イ) B市長は,平成13年4月10日,公開を決定し,同月20日,文書を開示し
た(甲3の1の①秘1ないし16,甲4の1の②)。
ウ(ア) 原告Cは,平成13年4月27日,B市長に対して,平成11,12年度の秘
書管理費内食糧費支出合計34件に関する「支出伺い」,「支出命令」及び
「領収書」の情報公開を請求した(甲4の1の⑥)。
(イ) B市長は,平成13年5月25日,公開を決定し,同年6月5日,文書を開
示した(甲3の2の①秘1ないし16,4の1の⑥)。
エ(ア) 原告Cは,平成13年4月27日,B市長に対して,平成11,12年度の秘
書管理費内食糧費支出合計31件につき会合の具体的内容,参加した市
議名を記載した報告文書,メモ等の情報公開を請求した(甲4の1の③・
④)。
(イ) B市長は,平成13年5月13日,記録・メモ等はとっていないことを理由と
して,不存在であると通知した。
(ウ) そのため原告Cは,平成13年5月14日,公文書不存在決定に対する異
議申立てをした(甲4の2の①)。
(エ) B市情報公開審査会は,平成13年8月7日,異議申立てに対して,「少な
くとも食糧費等補助簿の記載については,その記載の手引きに従って運用
し,参加者の氏名,会議の目的等を具体的に記載すべき」とし,「実施機関
が,記録等をとらないにしても,会議の出席者,目的,議題等を異議申立人
に口頭でも伝えようとしないことは如何にも不自然である」としつつも,「当
審査会には,実施機関からの聴き取り調査以外に公文書の存否を確認す
る手段はないため,実施機関が公文書の存在を認めない以上,異議申立
人の請求を認めることはできない。」として,非公開(不存在)決定は妥当で
あると答申した(甲4の2の④)。
(オ) B市長は,平成13年8月20日,上記答申を受けて,原告Cの異議申立
てを棄却した(甲4の3の①)。
オ(ア) 原告Cは,平成13年5月23日,B市長に対して,同年1月分から同年5
月分までの秘書室の予算差引簿(秘書管理費・需用費・食糧費)の情報公
開を請求した(甲5の1の①)。
(イ) B市長は,平成13年6月6日,公開を決定し,同月14日,文書を開示し
た(甲5の1の①)。
カ(ア) 原告Cは,平成13年7月30日,B市長に対して,同年4月1日から同年7
月31日までの秘書管理費内食糧費支出に関する予算差引簿及び食糧費
補助簿の情報公開を請求した(甲5の1の②・③)。
(イ) B市長は,平成13年8月10日,公開を決定し,同月16日,文書を開示し
た(甲3の1の①秘17,甲3の2の①秘17,甲5の1の②・③)。
キ(ア) 原告Cは,平成13年10月4日,B市長に対して,平成13年8月1日から
同年9月30日までの秘書管理費内食糧費支出に関する予算差引簿及び
食糧費補助簿の情報公開を請求した(甲5の1の④・⑤)。
(イ) B市長は,平成13年10月17日,公開を決定し,同月22日,文書を開示
した(甲3の1の①秘18,甲3の2の①秘18,甲5の1の④・⑤)。
(6) 議会費内食糧費の情報公開請求の経過
ア(ア) 原告Cは,平成13年3月29日,B市議会議長に対して,平成11,12年
度の食糧費の予算差引簿及び食糧費等補助簿の情報公開を請求した(甲
4の1の⑤)。
(イ) B市議会議長は,平成13年4月12日,公開を決定し,同月25日,文書
を開示した(甲3の1の②議1ないし20,甲4の1の⑤)。
イ(ア) 原告Cは,平成13年5月7日,B市議会議長に対して,同年3月17日か
ら同年4月30日までの食糧費の支出命令書,請求書又は領収書,及び平
成11,12年度の食糧費(37件)の支出命令書,請求書又は領収書の情
報公開を請求した(甲5の2の①)。
(イ) B市議会議長は,平成13年5月16日,公開を決定し,同月25日,文書
を開示した(甲3の2の②議1ないし20,甲5の2の①)。
ウ(ア) 原告Cは,平成13年5月23日,B市議会議長に対して,平成11,12年
度の食糧費の支出のうち「議会運営打合せ」とされたものにつき,会議の目
的,意義,打ち合わせたテーマ等の具体的内容を記載した報告,記録,招
集時のメモ等の情報公開を請求した(甲4の1の⑦)。
(イ) B市議会議長は,平成13年5月24日,記録,メモ等はとっていないこと
を理由として,不存在であると通知した(甲4の1の⑦)。
(ウ) 原告Cは,平成13年5月29日,公文書不存在決定に対する異議申立て
をした(甲4の2の①)。
(エ)B市情報公開審査会は,平成13年8月7日,異議申立てに対して,上
記(5)エ(エ)のとおり述べて,非公開(不存在)決定は妥当であると答申した
(甲4の2の⑤)。
(オ) B市議会議長は,平成13年8月20日,上記答申を受けて,原告Cの異
議申立てを棄却した(甲4の3の②)。
エ(ア) 原告Cは,平成13年7月30日,B市議会議長に対して,同年4月1日か
ら同年7月31日までの食糧費等補助簿及び食糧費予算差引簿の情報公
開を請求した(甲5の2の③)。
(イ) B市議会議長は,平成13年8月10日,公開を決定し,同月16日,文書
を開示した(甲3の1の②議21ないし23,5の2の③)。
オ(ア) 原告Cは,平成13年10月4日,B市議会議長に対して,平成13年8月1
日から同年9月30日までの議会費内の食糧費支出に関する予算差引補
助簿及び食糧費等補助簿の情報公開を請求した(甲5の2の④・⑤)。
(イ) B市議会議長は,平成13年10月17日,公開を決定し,同月22日,文
書を開示した(甲3の1の②議24・26,甲5の2の④・⑤)。
カ(ア) 原告Cは,平成13年10月22日,B市議会議長に対して,同年4月1日か
ら同年9月30日までの議会費内食糧費支出に関する決議書,請求書又は
領収書の情報公開を請求した(甲5の2の⑥)。
(イ) B市議会議長は,平成13年10月26日,公開を決定し,同年11月2日,
文書を開示した(甲3の2の②議21ないし24・26,甲5の2の⑥)。
(7) 住民監査請求の経過
ア 原告ら及びD1,D2は,平成13年11月8日,B市監査委員に対して,平成
11年4月1日から平成13年9月30日までの秘書管理費内食糧費支出及び
議会費内食糧費支出が必要性に欠ける違法なものであると主張して,出席し
た者や支出負担命令を行った者,市長である被告A1に対して名張市に返還
することを求める監査請求をした(甲1の1・2・3の①ないし⑪・4の①)。
イ B市監査委員Eは,平成13年12月28日,原告らの請求のうち,平成11年
4月1日から平成12年11月7日までの支出分は1年の監査請求期間を徒過
しているとの理由で,同月8日以降の支出分は「B市予算執行基準等(内規)」
に定められている範囲内のものであるとの理由で,監査請求を棄却した(甲2
の1)。
(8) 原告らは,平成14年1月25日,当裁判所に本件訴訟を提起した(当裁判所に
顕著な事実である。)。
(9) 本件訴訟の被告であった秘書室職員1名,市議会事務局職員3名及び市議会
議員16名は,平成15年6月9日以降,平成11年4月1日から平成13年9月3
0日までの秘書管理費内食糧費支出(狭義)及び議会費内食糧費支出(狭義)
のうち,決裁や出席により関与した部分をB市に返還した。その返還額は,別紙
1,2の「和解による返済額」欄に記載のとおりである(乙2ないし16,17の1・
2,18の1・2,19の1・2,20,21)。なお,B市に返済すべき金額の一部を訴
訟費用及び弁護士費用として原告らに支払っているが,地方自治法242条の2
第7項の規定からすれば,同金額もB市に返済されたものとみなすことができ
る。
2 争点
(1) 住民監査請求の期間徒過につき地方自治法242条2項ただし書の正当な理
由があるか。
(2) 秘書管理費内食糧費にかかる支出(広義)及び議会費内食糧費にかかる支出
(狭義)の違法性の有無
(3) 被告らの責任の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(住民監査請求の期間徒過につき地方自治法242条2項ただし書の
正当な理由があるか)について
(被告らの主張)
ア 原告らにより監査請求がなされたのは平成13年11月8日であるから,秘書
管理費内食糧費及び議会費内食糧費のうち支出負担行為,支出命令及び支
出日が平成12年11月7日以前のもの(秘1,2,4,議1ないし11,13,14)
は,1年の監査請求期間を徒過している。
イ 原告らは,この監査請求期間を徒過した理由について,公文書の情報公開
請求による情報の取得に時間を要したためであると主張している。
しかし,原告らは,平成13年4月20日までに開示を受けた文書により,同
年11月8日に監査請求を行っているから,理由とはなり得ない。
また,原告らは,この間に行った公文書の公開請求に対する非公開決定及
び異議の手続に問題があったとも主張する。
しかし,これは,請求された公文書が存在しなかったことによるものであり,
監査請求を行うことは可能であった。原告らがこれらの手続を行っていたこと
は,監査請求期間内に監査請求できなかったことの正当な理由とはなり得な
い。
(原告らの主張)
原告らは,平成13年2月16日に初めて,秘書管理費内食糧費に関する予算
差引簿の情報公開を請求し,同年3月12日にその開示を受けたが,これでは参
加者等が全く分からず,同月27日,改めて食糧費等補助簿の情報公開請求を
して,同年4月20日にその開示を受けた。しかし,これは,会議の目的が不明
で,参加者の記載も不備であったため,更に詳細を調べるべく,同月27日に3
度目の情報公開を請求したが,同年5月13日に不存在を理由に非公開とされ
た。そこで,原告らは,同月14日に異議申立てに及んだ。かかる事情は,議会
費内食糧費についても同様であり,原告らが情報の入手を始めた時点から最も
早く支出の違法を知り得たときは平成13年3月31日である。
したがって,原告らが監査請求期間内に監査請求できなかったことにつき正
当な理由がある。
なお,被告らは,「原告らは,平成13年4月20日までに開示を受けた文書に
より,同年11月8日に監査請求を行った」と主張しているが,実際には,同年4
月27日に情報公開を請求し,同年6月5日に開示を受けた支出の決議書等も
監査請求の根拠となっている。
(2) 争点(2)(秘書管理費内食糧費にかかる支出(広義)及び議会費内食糧費にか
かる支出(狭義)の違法性)について
(原告らの主張)
ア 公金支出の正当性とその範囲
普通地方公共団体は,その事務を処理するために必要な経費を支弁する
ものであるから(地方自治法232条1項),具体的な支出を普通地方公共団
体の事務処理のための経費と解することができない場合,当該支出は違法と
いうべきである。また,普通地方公共団体の事務を処理するに当たっては,最
小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならず(地方自治法2条14
項),経費はその目的を達成するために必要かつ最小の限度を超えて支出し
てはならないとされている(地方財政法4条1項)から,普通地方公共団体の
事務処理経費に該当する場合であっても,その具体的な支出が当該事務の
目的・効果と関連することが証明されず,また,社会通念に照らして,目的・効
果との均衡を著しく欠くような場合は違法というべきである。
したがって,飲食を伴うような会合への公費支出が違法とされないために
は,会合に関する記録を基にして,次の点が明確に証明されなければならな
い。
(ア) それぞれの会合が,どの事務事業との関連で必要性があるか。その公
費支出に見合う効果が得られるか。同種の会合を重ねる場合は,公費支
出の増加に見合う効果を期待できるか。
(イ) それぞれの会合が,時間,場所,規模,範囲(接待相手方,B市側参加
者)等において妥当であるか。
(ウ) 儀礼的な意味で接遇を行う場合にも,その内容(料理単価,酒量)が儀礼
的範囲を逸脱していないか。また,その支出が目的との均衡を得ている
か。
イ B市の秘書管理費内食糧費にかかる支出(広義)及び議会費内食糧費にか
かる支出(狭義)の違法性
原告らが,B市の食糧費支出について情報公開を求めたところ,小学校や
保育園,公民館等に関する情報は,氏名や人数,菓子の単価等に至るまで
明確に記載されていた。
しかし,本件食糧費支出に関する情報は,食糧費補助簿の会議の名称・目
的の内容が不明確で,どのような目的で酒食を伴う会合を行ったのかが分か
らない仕組みとなっている。
特に,秘書室の食糧費等補助簿には,参加者欄にも記載の不備がみら
れ,「相手方,市議何名」との記述では誰が参加したのかも不明である。
食糧費等補助簿の記載方法は,情報公開制度発足を前にして,平成9年4
月に助役より「B市予算執行基準等(内規)」(甲1の3の⑥1枚目)及び「食糧
費等補助簿の記載の手引き」(甲1の3の⑥2枚目)が伝達されている。しか
し,助役に最も近い秘書室と議会だけがこれを無視して,正確な情報を残さな
かったことは,担当者の落ち度というよりも,最高責任者である市長被告A1
の意向と考えざるを得ない。
ウ 本件食糧費支出(狭義)のほとんどが,市長や助役と古参議員たちによる,
よく似たメンバーでの内輪の会合であり,「市行政事務事業推進打合せ」や
「議会運営打合せ」という食糧費等補助簿の会議の名称・目的欄の記載から
すれば,目的が不明確な会合を酒食を伴う形で行うことの必要性を問わざる
を得ない。
その上,会合場所のほとんどが,料理旅館,焼肉レストラン,小料理屋,居
酒屋,スナック,バーといった飲食そのものを楽しむ場所であり,大部分は飲
食の明細書も出さないところであるが,明細のある範囲で調べると,酒・ビー
ル合わせて1人平均4本を下らないことからすると,まじめな会合があったと
は考えられない。
また,議会費内食糧費については,四,五名の議員による小規模な打合せ
に,なぜ庁舎を使わず,秘書課職員の親族の経営するレストランや市議会議
員の経営する居酒屋を利用する必要があるのか,その理由は不明である。
したがって,接待すべき賓客のいない内輪の会合は1人当たり2000円以
上の場合に違法であり,賓客の接待とみられる会合は1人当たり4000円を
超える場合に違法であると解すべきである。
(被告らの主張)
ア 秘書管理費内食糧費支出(広義)について
(ア) 上記(1)(被告らの主張)に記載の支出を除いた食糧費支出の内容は,次
のとおりである。
a 秘3
出席者 被告A1,市議会議員3名,F1秘書室職員,F2議会事務局

G市で開催されたH地区農業共済組合(H地区の市町村がすべて加
入)議会の帰りにB市選出議員との農業情勢の意見交換会に際して昼
食したもの
b 秘5
出席者 市議会議員7名
被告A1らから市町村合併問題についての市議会側の意向を集約さ
れるよう依頼したことで,議員らの協議に際しての夕食代
c 秘6
出席者 被告A2,被告A3,市議会議員3名
市町村合併問題について,任意の合併協議会への参画等についての
打合せに際しての夕食代
d 秘7
出席者 市議会議員6名
被告A1らから市町村合併問題で,合併協議会への参画期限が同年
10月末日となっているため,市議会側の打合せを依頼したことで,その
協議に際しての夕食代
e 秘8
出席者 被告A1,被告A2,被告A3,I1秘書室次長,I2秘書室職員,
市議会議員6名
平成12年12月議会に上程する補正予算,一般会計,特別会計の決
算,議員報酬改正,市町村合併等の重要施策について打合せに際して
の夕食代
f 秘9
出席者 被告A3,J議会事務局長,市議会議員4名
市町村合併問題等の打合会に際しての夕食代
g 秘10
出席者 市議会議員6名
被告A1から市町村合併問題等の打合会を要望し,その会合に際して
の夕食代
h 秘11
出席者 被告A2,県議会議員1名,市議会議員6名
X事業に関し,三重県に対する保安林解除事務の促進依頼のための
打合せに際しての夕食代
i 秘12
出席者 被告A1,市議会議員3名,K1企画調整部長,K2議会事務
局次長,I1秘書室次長
特別地方交付税の交付要求活動のため上京して,自治省の事務次
官,三重県選出の国会議員(L1,L2,L3,L4,L5)の各事務所を訪問
した際の昼食代
酒を飲んではいない。
j 秘13
出席者 上記iに同じ
上記iの活動成果の検討会に際しての夕食代
k 秘14
出席者 被告A1,市議会議員3名,I2秘書室職員,F2議会事務局職

G市で開催されたH地区農業共済組合議会の減反政策についての意
見交換会に際しての昼食会
昼食とともに,少量の酒を飲んだ。
l 秘15
出席者 被告A1,被告A2,被告A3,I1,F1秘書室職員
平成13年3月議会に上程する重要施策(補正予算,教育委員等の任
命,市町村合併問題等)の打合せに際しての夕食代
m 秘16
出席者 被告A2,市議会議員7名
市町村合併問題等の打合せに際しての夕食代
n 秘17
出席者 被告A1,被告A2,I1,M1,M2議長,M3副議長,M4議
員,M5議員,M6議員
市町村合併問題等の打合せに際しての夕食代
o 秘18
出席者 被告A1,被告A2,I1,M2議長,M3副議長,M4議員,M5
議員,M6議員
市町村合併問題等の打合せに際しての夕食代
p 秘19
出席者 被告A1,N1秘書室職員,N2秘書室職員,N3保健福祉部
次長,N4介護保険課職員,N5介護保険課職員,N6介護保
険課職員,N7教授,N8福祉自治体ユニット,N9厚労省年金
課長
B市介護保険シンポジウム開催打合せに際しての夕食代
賓客接待のために,酒を飲んだ。
q 秘20
出席者 被告A1,T2,O1委員長,O2副委員長,O3副委員長,O4
委員長,O5書記長,O6
地方分権推進会議の打合せに際しての夕食代
賓客接待のために,酒を飲んだ。
(イ) これらの支出目的は,いずれも公共団体の事務執行上相当なものであ
り,費用額については内規として原則金額が決められている範囲内にある
ものがほとんどである。
すなわち,秘5ないし11,15ないし17,19は,いずれも特別職が出席する
懇談会や打合会であって,その単価は1万円以下のものである。
また,秘3,12,14は,いずれも昼食代で1000円を超えているが,市長
や議員の特別職が参加して,G市や東京都内に出張していたことで,300
0円前後の単価を要している。これは内規上の例外的事項として許容され
る範囲であり,違法ということはできない。
秘13は,単価が1万円を超えているが,大都市の一流ホテルでの飲食と
なると,やむを得ないものであり,特別職にある者が大半出席していること
から,内規上も許される範囲内である。
秘18,20については,単価が1万円を超えているが,その超過はいずれ
も僅少であり,市長と議員との会合,あるいは第三者の賓客が加わってい
て,内規上も許される範囲内である。
したがって,上記(ア)の秘書管理費内食糧費支出(広義)には,何ら違法
性がない。
イ 議会費内食糧費支出(狭義)について
(ア) 上記(1)(被告らの主張)に記載の支出を除いた食糧費支出の内容は,次
のとおりである。
a 議12
出席者 Q1議長,P副議長,M5議会運営委員長,Q2議員,被告A2
議会運営打合会に際しての夕食代(B市議員がH市を考える議員の
会長とH広域事務組合議長に対する抗議文を送付するための協議をし
た。)
b 議15
出席者 Q1議長,P副議長,M5委員長,M4議員
議会運営打合会に際しての飲食代(H市を考える議員の会会長が謝
罪するため来庁することについて,善後策を協議した。)
c 議16
出席者 Q1議長,M3副議長,Q3議会運営委員長,M4議員,M5議
員,R議員,被告A2
議会運営打合会に際しての飲食代(H市合併協議会への参加要請に
ついて協議した。)
d 議17
出席者 M2議長,M3副議長,M4議員,M5議員
議会運営打合会に際しての飲食代(平成12年12月定例市議会の一
般質問の取扱いについての事前協議をした。)
e 議18
出席者 M2議長,M3副議長,Q3委員長,M4議員,M5議員,S1
議員,S2議員,S3議員,S4議員,S5議員,S6議員,R議員
議会運営打合会に際しての夕食代(平成13年度市議会の行事につ
いて協議した。)
夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
f 議19
出席者 M2議長,M3副議長,Q3委員長,M4議員,M5議員
議会運営打合会に際しての飲食代(B市総合計画審議事項に係わる
取扱いについて協議した。)
g 議20
出席者 M2議長,M3副議長,M5議員,K2次長
議会運営打合会に際しての夕食代(平成13年3月定例議会の審議日
程について協議した。)
夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
h 議21
出席者 M2議長,Q3委員長,M4議員,M5議員
T議連役員改選に係る打合せに際しての夕食代
夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
i 議22
出席者 M2議長,M3副議長,Q3委員長,M5議員
平成13年6月定例議会における一般質問,補正予算に係る議会運
営協議に際しての夕食代
夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
j 議23
出席者 M2議長,M3副議長,Q3委員長,M4議員,M5議員,P議
員,S2議員,S3議員,U1議員,S4議員,S5議員
平成13年6月定例議会における常任委員会の運営についての協議
に際しての夕食代
夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
k 議24
出席者 M2議長,Q3委員長,M5議員,U2議員
平成13年9月定例議会の日程調整等議会運営協議に際しての夕食

夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
l 議25
出席者 M2議長,M3副議長,Q3委員長,M4議員,M5議員
M2議長がV市議会へごみ処理について依頼に赴いた報告会の際の
夕食代
夕食とともに,少量の酒を飲んだ。
(イ) これらの支出は,市議会議長が招集者で,議長がすべての会合等に出
席していて,支出命令権者に報告があり,その承認を得て,決裁され収入
役から支出された。
これらの会合等の支出命令権者(W1,W2,W3)は,支出目的は議長
からの報告に基づいた判断であり,支出内容や支出額について,内規に基
づいて特別職である議員が加わっていて1人当たりの単価が5000円を超
えたものがないことから適法として決裁した。
したがって,上記(ア)の議会費内食糧費支出(狭義)には,何ら違法性が
ない。
(3) 争点(3)(被告らの責任)について
(原告らの主張)
ア 被告A1は,被告A3又はI1に指示して,秘1ないし20の飲食を伴う会合を設
定し,招集し,あるいはそれによって生じた各支出負担行為及び支出命令を
被告A3らに専決させた者であり,B市に対して被告A3と連帯して秘1ないし
20の支出負担行為又は支出命令に相当する金額の損害賠償債務を負う。
イ 被告A3は,被告A1の意向に従って,あるいはその意を代行して,秘1,4,
8,13の飲食を伴う会合を設定し,招集し,あるいはそれによって生じた各支
出負担行為及び支出命令を専決した者であり,B市に対して被告A1と連帯し
て秘1ないし20の支出負担行為又は支出命令に相当する金額の損害賠償債
務を負う。
ウ 被告らは,秘書管理費内食糧費支出が本来の事務処理経費の範囲を逸脱
した違法又は著しく不当な公金の支出であることを知りながら,別紙1に「出
席」と記載された複数回の会合に同席した同支出の相手方であり,名張市に
対して連帯して秘1ないし20の支出に相当する金額の不当利得返還債務を負
う。
被告A2は,議会費内食糧費支出が本来の事務処理経費の範囲を逸脱し
た違法又は著しく不当な公金の支出であることを知りながら,別紙2に「出席」
と記載された複数回の会合に同席した同支出の相手方であり,名張市に対し
て議1ないし25の支出に相当する金額の不当利得返還債務を負う。
(被告らの主張)
すべて争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(住民監査請求の期間徒過につき地方自治法242条2項ただし書の正当
な理由があるか)について
(1) 上記第2の1(2),(7)によれば,秘書管理費内食糧費の支出負担行為及び支
出命令日は別紙1の「支出負担行為日」欄の記載の日で,支出日は別紙1の
「支出日」欄に記載の日であり,議会費内食糧費の支出日は別紙2の「支出日」
欄に記載の日であるところ,本件の監査請求がなされたのが平成13年11月8
日であるから,秘1ないし7の支出負担行為及び支出命令と秘1,2,4,議1な
いし11,13,14の支出(狭義)については,地方自治法242条2項所定の1年の
監査請求期間を徒過している。
しかるに,上記第2の1(5),(6)の認定にかかる秘書管理費内食糧費及び議会
費内食糧費の情報公開請求の経緯からすると,原告らは,秘1ないし7の支出
負担行為及び支出命令と秘1,2,4の支出(狭義)について,平成13年5月13
日に会合の具体的内容,参加した市議名を記載した報告文書,メモ等が存在し
ない旨の通知を受け,同年6月5日までに予算差引簿,補助簿及び領収書等の
開示を受けており,また,議1ないし11,13,14の支出(狭義)について,同年4月
25日までに予算差引簿及び補助簿の開示を受け,同年5月24日には会議の
目的,意義,打ち合わせたテーマ等の具体的内容を記載した報告,記録,招集
時のメモ等が存在しない旨の通知を受けていたのであるから,遅くともそれらの
時点では,会合の目的や打ち合わせたテーマ,出席者といった秘書管理費内食
糧費及び議会費内食糧費の支出内容が不明朗であり,原告らの主張する違法
があるのではないかと考えることが十分に可能であったということができる。
そうとすれば,本件の住民監査請求は,秘書管理費内食糧費については平
成13年6月5日から,議会費内食糧費については同年5月24日から,いずれも
5か月以上も経過してなされているのであって,地方自治法242条2項ただし書
所定の「正当な理由」があるとは認められない。
(2) したがって,秘1ないし7の支出負担行為及び支出命令と秘1,2,4,議1ない
し11,13,14の支出(狭義)は,適法な住民監査請求を経ていないから,秘1ない
し7にかかる支出負担行為及び支出命令の当該職員に対する損害賠償請求,
及び秘1,2,4,議1ないし11,13,14にかかる支出(狭義)の相手方に対する不
当利得返還請求の訴えは不適法である。
2 争点(2)(秘書管理費内食糧費にかかる支出(広義)及び議会費内食糧費にかか
る支出(狭義)の違法性)について
(1) そもそも普通地方公共団体の長又はその他の執行機関が,当該普通地方公
共団体の事務を遂行し対外的折衝等を行う過程において,社会通念上儀礼の
範囲にとどまる程度の接遇を行うことは,当該普通地方公共団体も社会的実体
を有するものとして活動している以上,その事務に付随するものとして,許容さ
れるものというべきであるが,それが公的存在である普通地方公共団体により
行われるものであることからすると,対外的折衝等をする際に行われた接遇で
あっても,それが社会通念上儀礼の範囲を逸脱したものである場合には,その
接遇は当該普通地方公共団体の事務に当然伴うものとはいえず,これに要した
費用を公金により支出することは許されないものというべきである(最高裁第3小
法廷平成元年9月6日判決,判時1337号43頁参照)。
そして,食糧費は,交際費と異なり,行政事務及び事務の執行上直接的に費
消されるものであるから,通常は接遇という場で支出することを目的としたもので
はない。しかし,行政事務及び事業の執行上,外部者の参加を求めて会合を持
つ必要があり,これと同時又は引き続いて,会合自体では不十分なところを補っ
たり,あるいは外部者に対し,会合への出席及び情報・助言の提供に対する儀
礼の趣旨の接遇を兼ねて食糧費というにふさわしい節度のある会食をすること
は,なお食糧費の対象の範囲内であるということができるが,社会通念上儀礼
の範囲を逸脱したものである場合は,それに要した費用を食糧費から支出する
ことは許されない。
そして,社会通念上儀礼の範囲を逸脱しているか否かについては,行政事務
及び事業と会合等の関連性,接遇の必要性,接遇の相手方の身分及び地位,
接遇の内容(金額の多寡,酒を伴ったものか)等から判断すべきである。
(2)ア 秘3について
秘3は,被告A1,市議会議員3名,F1秘書室職員,F2議会事務局長の合
計6名が「産業振興事務事業推進打合せ」の名目で,豆腐料理店で昼食,清
酒3本及びビール3本を飲食したものである(甲3の1の①,3の2の①,8の
14)。
しかして,これにかかる食糧費支出(狭義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,午後の仕事
があるにもかかわらず昼食の席で飲酒しており食糧費支出(狭義)としては極
めて不適切であるうえ,昼食にしては1人当たり3755円と高額である。
以上によれば,この食糧費支出(狭義)は違法であるといわざるを得ない。
なお,被告らは,「G市で開催されたH地区農業共済組合(H地区の市町村
がすべて加入)会議の帰りにB市選出議員との農業情勢の意見交換会に際し
て昼食した」と主張するが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3の1の
①)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2の①)には見られないう
え,意見交換会の協議項目をまとめた文書や意見交換の結果をまとめた文
書も存在しないことからすると,そのような意見交換会があったとは認め難く,
同主張は採用できない。
イ 秘5について
秘5は,市議会議員7名が「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,焼肉
店で夕食を食べたものである(甲3の1の①,3の2の①,8の1)。
しかして,これにかかる食糧費支出(狭義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,打合せを市
庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(狭義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「被告A1らから市町村合併問題についての市議会側の意
向を集約されるよう依頼したことで,議員らの協議に際しての夕食代である」と
主張するが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担
行為決議書兼支出命令書(甲3の2の①)には見られないうえ,打合せの議題
をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書も存在しないことからする
と,そのような議員らの協議があったとは認め難く,同主張は採用できない。
ウ 秘6について
秘6は,被告A2,被告A3及び市議会議員3名の合計5名が,「市行政事
務事業推進打合せ」の名目で,焼肉店で夕食を食べたものである(甲3の1の
①,3の2の①,8の1)。
しかして,これにかかる食糧費支出(狭義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,打合せを市
庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(狭義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「市町村合併問題について,任意の合併協議会への参画
等についての打合せに際しての夕食代である」と主張するが,そのような記載
は,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担行為決議書兼支出命令書
(甲3の2の①)には見られないうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合
わせた結果をまとめた文書も存在しないことからすると,そのような打合せが
あったとは認め難く,同主張は採用できない。
エ 秘7について
秘7は,市議会議員6名が,「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,炉端
料理店で夕食を食べたものである(甲3の1の①,3の2の①,8の2)。
しかして,これにかかる食糧費支出(狭義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,打合せを市
庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しないし,
1人当たりの額も7666円と高額である。
以上によれば,この食糧費の支出(狭義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「被告A1らから市町村合併問題で,合併協議会への参画
期限が同年10月末日となっているため,市議会側の打合せを依頼したこと
で,その協議に際しての夕食代である」と主張するが,そのような記載は,食
糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2
の①)には見られないうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結
果をまとめた文書も存在しないことからすると,そのような協議があったとは認
め難く,同主張は採用できない。
オ 秘8について
秘8は,被告A1,被告A2,被告A3,I1秘書室次長,I2秘書室職員,市議
会議員6名の合計11名が,「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,温泉旅
館で,会席料理,日本酒35本,ビール8本及び焼酎1本を飲食したものであ
る(甲3の1の①,3の2の①,8の8)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,酒類を大量
に注文しておりまじめに中身のある打合せがなされたとは到底考えられない
し,打合せを市庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理
由が存しないうえ,1人当たりの額も9793円と高額である。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
被告らは,「平成12年12月議会に上程する補正予算,一般会計,特別会
計の決算,議員報酬改正,市町村合併等の重要施策について打合せに際し
ての夕食代である」と主張するが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3
の1の①)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2の①)には見られな
いうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書も
存在しないことからすると,そのような打合せがあったとは認め難く,同主張は
採用できない。
カ 秘9について
秘9は,被告A3,J議会事務局長,市議会議員4名の合計6名が,ファミリ
ーレストランで夕食を食べたものである(甲3の1の①,3の2の①,8の5)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,打合せを市
庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「市町村合併問題等の打合会に際しての夕食代である」と
主張するが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担
行為決議書兼支出命令書(甲3の2の①)には見られないうえ,打合せの議題
をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書も存在しないことからする
と,そのような打ち合わせがあったとは認め難く,同主張は採用できない。
キ 秘10について
秘10は,市議会議員6名が,「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,炉
端料理店で夕食を食べたものである(甲3の1の①,3の2の①,8の2)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,打合せを市
庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「被告A1から市町村合併問題等の打合会を要望し,その
会合に際しての夕食代である」と主張するが,そのような記載は,食糧費等補
助簿(甲3の1の①)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2の①)に
は見られないうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結果をまと
めた文書も存在しないことからすると,そのような会合があったとは認め難く,
同主張は採用できない。
ク 秘11について
秘11は,被告A2,三重県議会議員1名,市議会議員6名の合計8名が,
「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,焼肉店で夕食を食べたものである
(甲3の1の①,3の2の①,8の1)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,県議会議員1名を含んだ食
事の席での支出であるが,出席した県議会議員及び市議会議員の名前は不
明で,いかなる行政事務及び事業との関係で会合がなされたかも不明である
うえ,仮に被告らの主張するとおりであるとしても,勤務時間内に県議会議員
を含む県職員に説明するだけでは足りず,県議会議員を相手として夕食を提
供しなければならなかったのかについての合理的な説明はない。また,実際
に話し合われた内容も不明であるから,行政事務及び事業の執行上必要が
あるとは認められない。そして,打合せを市庁舎や三重県庁舎の外におい
て,食事を伴ってしなければならない理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「X事業に関し,三重県に対する保安林解除事務の促進依
頼のための打合せに際しての夕食代である」と主張するが,そのような記載
は,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担行為決議書兼支出命令書
(甲3の2の①)には見られないうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合
わせた結果をまとめた文書も存在しないことからすると,そのような打合せが
あったとは認め難く,同主張は採用できない。
ケ 秘12について
秘12は,被告A1,市議会議員3名,K1企画調整部長,K2議会事務局次
長,I1秘書室次長の合計7名が,「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,
東京駅地下の日本料理店で昼食を食べたものである(甲3の1の①,3の2の
①,8の17)が,秘13の支出内容及び弁論の全趣旨により,特別地方交付税
の交付要求活動のため上京して,自治省の事務次官,三重県選出の複数の
国会議員の事務所を訪問した際の昼食代であると推認される。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,出席し
た市議会議員の名前も実際に話し合われた内容も不明であり,行政事務及
び事業の執行上必要があるとは認めることはできない。上記目的で東京に出
張したにしても,自費で食事をすれば足りることは通常B市内で勤務し昼食を
とる場合と同様であって,食糧費から支出しなければならない必要性はない。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
コ 秘13について
秘13は,被告A1,市議会議員3名,K1企画調整部長,K2議会事務局次
長,I1秘書室次長の合計7名が,「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,
東京のホテル内の日本料理店で,懐石料理(夕食),日本酒20本,ビール9
本を飲食したものである(甲3の1の①,3の2の①,8の16)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,出席し
た市議会議員の名前も実際に話し合われた内容も不明であるから,行政事
務及び事業の執行上必要があるとは認められない。さらに,酒類を大量に注
文し,1人当たりの額が1万7283円と極めて高額に上っている。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「特別地方交付税の交付要求活動のため上京して,自治
省の事務次官,三重県選出の国会議員(L1,L2,L3,L4,L5)の各事務所
を訪問した際の活動成果の検討会に際しての夕食代である」と主張し,秘
12の支出が存することからすると,かかる目的で東京に出張していたことが推
認されるが,検討会の実施については,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支
出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2の①)にはそのような記載は見ら
れないうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文
書も存在しないことからすると,これが実施されたものとは認めるに足りない。
そして,上記認定のとおり酒類を大量に注文していることからすると,仮に打
合せがあったにしても,まじめな中身のある打合せがなされたとは到底考えら
れないし,打合せを食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しないか
ら,同主張は採用できない。
サ 秘14について
秘14は,被告A1,市議会議員3名,I2秘書室職員,F2議会事務局職員の
合計6名が,「産業振興事務事業推進打合せ」の名目で,ホテル内のレストラ
ンで,昼食及び酒を飲食したものである(甲3の1の①,3の2の①,8の15)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,午後の仕事
があるにもかかわらず昼食の席で飲酒しており食糧費支出としては極めて不
適切であるし,打合せを食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しな
い。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
被告らは,「G市で開催されたH地区農業共済組合議会の減反政策につい
ての意見交換会に際しての昼食会である」と主張するが,そのような記載は,
食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3
の2の①)には見られず,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結果
をまとめた文書も存在しないから,意見交換会に際しての昼食会があったと
は認め難いうえ,仮に,被告らの主張するとおり昼食前にG市内で会議が行
われていたとしても,自費で食事をすれば足りることは,通常B市内で勤務し,
昼食をとる場合と同様であって,食糧費から支出しなければならない必要性
は存しないから,同主張は採用できない。
シ 秘15について
秘15は,被告A1,被告A2,被告A3,I1,F1秘書室職員,市議会議員6名
の合計11名が,「市行政事務事業推進打合せ」の名目で,ホテル内のレスト
ランで,会席料理,日本酒45本,ビール5本,焼酎1本を飲食したものである
(甲3の1の①,3の2の①,8の9)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,酒類を大量
に注文しておりまじめに中身のある打合せがなされたとは到底考えられない
し,打合せを市庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理
由も存しない。1人当たりの額も9025円と極めて高額に上っている。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
被告らは,「平成13年3月議会に上程する重要施策(補正予算,教育委員
等の任命,市町村合併問題等)の打合せに際しての夕食代である」と主張す
るが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担行為決
議書兼支出命令書(甲3の2の①)には見られないうえ,打合せの議題をまと
めた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書も存在しないことからすると,そ
のような打合せがあったとは認め難く,同主張は採用できない。
ス 秘16について
秘16は,被告A2,市議会議員7名の合計8名が,「市行政事務事業推進打
合せ」の名目で,焼肉店で夕食を食べたというものである(甲3の1の①,3の
2の①,8の1)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容はおろか出席した市議会議員の名前すら不明であるから,
行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,打合せを市
庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
被告らは,「市町村合併問題等の打合せに際しての夕食代である」と主張
するが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3の1の①)や支出負担行為
決議書兼支出命令書(甲3の2の①)には見られないうえ,打合せの議題をま
とめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書も存在しないことからすると,
そのような打合せがあったとは認め難く,同主張は採用できない。
セ 秘17について
秘17は,被告A1,被告A2,I1,M1,M2議長,M3副議長,M4議員,M5
議員,M6議員の合計9名が,「市行政事務事業推進打合せ(市町村合併等
打合せ)」の名目で,温泉旅館で,会席料理,日本酒35本,ビール6本を飲食
したものである(甲3の1の①,3の2の①,8の8)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,打合せ
の議題をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書は存在しないか
ら,行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,酒類を
大量に注文しておりまじめに中身のある打合せがなされたとは到底考えられ
ないうえ,打合せを市庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理
的理由も存しない。1人当たりの額も9630円と高額に上っている。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
ソ 秘18について
秘18は,被告A1,被告A2,I1,M2議長,M3副議長,M4議員,M5議
員,M6議員の合計8名が,「市行政事務事業推進打合せ(市町村合併等打
合せ)」の名目で,温泉旅館で,会席料理,日本酒38本,ビール6本を飲食し
たものである(甲3の1の①,3の2の①,8の8)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,打合せ
の議題をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書は存在しないか
ら,行政事務及び事業の執行上必要があるとは認められない。また,酒類を
大量に注文しておりまじめに中身のある打合せがなされたとは到底考えられ
ないし,打合せを市庁舎外において,食事を伴ってしなければならない合理的
理由も存しない。1人当たりの額も1万1220円と極めて高額に上っている。
以上によれば,この食糧費の支出(広義)は違法であるといわざるを得な
い。
タ 秘19について
秘19は,被告A1,N1秘書室職員,N2秘書室職員,N3保健福祉部次長,
N4介護保険課職員,N5介護保険課職員,N6介護保険課職員,N7教授,N
8福祉自治体ユニット事務局長,N9厚労省年金課長の合計10名が,「B市
介護保険シンポジウム開催打合せ」の名目で,焼肉店で,夕食及び酒を飲食
したものである(甲3の1の①,3の2の①,8の1)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,介護保険シンポジウムを開
催を前にして,これに出席する外部の者と酒食の席を持ったというものであ
り,これを行う目的は相当であるし,出席者も,相手方が大学教授や厚労省
年金課長といったB市外の専門家で,他方,B市側が市長,介護保険担当部
署職員4名,秘書室職員2名であって,介護保険シンポジウム開催打合せと
いう目的に沿ったものである。これに要した費用は9万2600円であり,訴訟
提起前に返還のあった5万円を控除すると1人当たり4260円である。
以上によれば,この食糧費支出(広義)は,介護保険の専門家に対する接
遇として,儀礼の範囲を逸脱した違法なものとはいえない。
チ 秘20について
秘20は,被告A1,A2秘書室職員,O1委員長,O2副委員長,O3副委員
長,O4委員長,O5書記長,O6の合計8名が,「地方分権推進会議打合せ」
の名目で,寿司割烹料理店で,夕食及び酒を飲食したものである(甲3の1の
①,3の2の①,8の6)。
しかして,これにかかる食糧費支出(広義)は,地方分権推進に関して,行
政を担う公務員の意見や助言を聞くという目的で,自治労や市職労の委員長
ら公務員の意見や要望を十分に理解している者と会食を持ったというもので
あるから,社会通念上儀礼の範囲内,本件では1人当たり5000円までは接
遇することも許されると解されるが,これを超えた部分の食糧費支出は裁量
権を超えたものとして違法というべきである。
ツ 議12について
議12は,Q1議長,P副議長,M5議会運営委員長,Q2議員,被告A2の合
計5名が,「議会運営打合せ」の名目で,焼肉店で,夕食をとったものである
(甲3の1の②,3の2の②,8の1)。
しかして,これにかかる食糧費支出(狭義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容は不明であるから,行政事務及び事業の執行上必要があ
るとは認められない。また,打合せを市庁舎外において,食事を伴ってしなけ
ればならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(狭義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「議会運営打合会に際しての夕食代である(B市議員がH
市を考える議員の会長とH広域事務組合議長に対する抗議文を送付するた
めの協議をした。)」と主張するが,そのような記載は,食糧費等補助簿(甲3
の1の②)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2の②)には見られな
いうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結果をまとめた文書も
存在しないことからすると,そのような打合せ会であったとは認め難く,同主張
は採用できない。
テ 議16について
議16は,Q1議長,M3副議長,Q3議会運営委員長,M4議員,M5議員,
R議員,被告A2の合計7名が,「議会運営打合会」の名目で,スナックで飲食
したものである(甲3の1の②,3の2の②,8の3・10)。
しかして,これにかかる食糧費支出(狭義)は,そもそもB市内部の者のみ
の出席で,外部の者に対する接遇のためになされたものではないし,実際に
話し合われた内容は不明であるから,行政事務及び事業の執行上必要があ
るとは認められない。また,場所がスナックであり,出席者は当然に飲酒し,ま
た,他の一般の客も出入りしていたと窺われ,まじめに中身のある打合せが
なされたとは到底考えられないし,打合せを市庁舎外において,食事を伴って
しなければならない合理的理由も存しない。
以上によれば,この食糧費の支出(狭義)は違法であるといわざるを得な
い。
なお,被告らは,「議会運営打合会に際しての飲食代である(H市合併協議
会への参加要請について協議した。)」と主張するが,そのような記載は,食
糧費等補助簿(甲3の1の②)や支出負担行為決議書兼支出命令書(甲3の2
の②)には見られないうえ,打合せの議題をまとめた文書や打ち合わせた結
果をまとめた文書も存在しないこと,およそ議会運営をまじめに協議するよう
な場ではないことからすると,そのような協議があったとは認め難く,同主張は
採用できない。
ト 議15,17ないし25について
議15,17ないし25は,被告A2はいずれも出席していない。また,出席した
市議会議員らによってその全額がB市に返還されており,この食糧費支出(狭
義)が違法であるにしても,損害は既に填補されている。
3 争点(3)(被告らの責任)について
(1) 被告A1の責任
ア 被告A1は,B市長として秘書管理費内食料費の支出負担行為及び支出命
令につき本来的に権限を有するものであるから,補助職員である被告A3及
びI1が専決した秘書管理費内食料費の支出負担行為及び支出命令に関して
も,地方自治法242条の2第1項4号にいう当該職員に該当するというべきで
あるが,本件のように専決を任された補助職員である被告A3及びI1が財務
会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意
又は過失により補助職員である被告A3及びI1が財務会計上の違法行為を
することを阻止しなかったときに限り,当該普通公共団体であるB市に対し,
補助職員である被告A3及びI1がした財務会計上の違法行為により当該普通
公共団体であるB市が被った損害につき損害賠償責任を負うものと解するの
が相当である(最高裁第2小法廷平成3年12月20日判決,民集45巻9号1
455頁参照)。
これを本件においてみるに,補助職員である被告A3及びI1が秘書管理費
内食料費の支出負担行為及び支出命令をした当時は,社会的に官官接待等
の行政庁の支出(広義)の是正を求める住民の関心が相当程度高まっていた
時期であり,交際費はもちろん食糧費についても適正な執行が求められるよ
うになっていた(当裁判所に顕著な事実)。そして,B市においても,平成9年
には食糧費の予算の執行に関して本件内規が定められていた(甲1の3の
⑥)。
このような社会情勢の中,市長であった被告A1は,秘書管理費内食糧費
から支出(広義)された飲食の会に数多く出席しており,B市内部の者のみ
の,行政事務及び事業の執行上,特段必要のない飲食の会が,時には酒を
伴った形で開催されていたことを十分に知っていたものであるから,地方公共
団体を統轄する者としてこのような状況を改善する義務を負っていたというべ
きである。
そうであるのに,被告A1は,秘書管理費内食糧費につき,専決権限者であ
る被告A3及びI1並びに会計担当者に対して何らの措置も講ぜず,むしろ,自
ら会合の開催を企図し,あるいは出席するなどしていたのであるから,被告A
3及びI1が上記2の認定にかかる財務会計上の違法行為(ただし,秘書管理
費内食糧費についての支出負担行為及び支出命令にかかる分に限る。)をす
ることを阻止しなかったことに重大な過失があったというべきであり,被告A3
又はI1が決裁した秘8ないし20の支出負担行為及び支出命令につき名張市
に対して損害賠償の責任を負う。
イ また,被告A1は,秘3,8,12ないし15,17ないし20の会合に出席し,違法な
秘書管理費内食糧費の支出(狭義)の相手方として,秘3,8,12ないし15,17
ないし20の支出額を出席者の人数で除した金額に相当する不法な利益を受
けたというべきであるから,悪意の受益者と同視されるべき者としてB市に対
して不当利得返還義務を負うといわなければならない。しかし,被告A1は,秘
5ないし7,9ないし11,16の会合については出席していないから,この支出
(狭義)の相手方としては不当利得返還義務を負うとする根拠はない。
(2) 被告A2の責任
被告A2は,秘6,8,11,15ないし18,議12,16の会合に出席し,違法な秘書
管理費内食糧費及び議会費内食糧費の支出(狭義)の相手方として,秘6,
8,11,15ないし18,議12,16の支出額を出席者の人数で除した金額に相当する
不法な利益を受けたというべきであるから,悪意の受益者と同視されるべき者と
してB市に対して不当利得返還義務を負うといわなければならない。しかし,被
告A2は,秘5,7,9,10,12ないし14,19,20,議15,17ないし25の会合につい
ては出席していないから,この支出(狭義)の相手方として不当利得返還義務を
負うとする根拠はない。
(3) 被告A3の責任
ア 被告A3は,平成10年7月1日から平成13年3月31日まで,秘書室長とし
て10万円以上30万円未満の食糧費支出(秘8,13)につき専決した者で,地
方自治法242条の2第1項4号にいう当該職員に該当するというべきである
が(最高裁第2小法廷平成3年12月20日判決,民集45巻9号1503頁参
照),被告A1ほどの回数ではないものの飲食の会に出席しており,B市内部
の者のみの,行政事務及び事業の執行上,特段必要のない飲食の会が,時
には酒を伴った形で開催されていたことは十分に知っていたと認められるか
ら,被告A3には,秘8,13の支出負担行為及び支出命令につき過失があり,
B市に対して損害賠償の責任を負う。
なお,秘書管理費内食糧費の支出負担行為及び支出命令につき被告A3
に専決権限がない部分については,被告A3が地方自治法242条の2第1項
にいう当該職員であるとはいえない。したがって,原告らの被告A3に対する
秘3,5ないし7,9ないし12,14ないし20の支出負担行為及び支出命令にか
かる損害賠償請求の訴えは不適法である。
イ また,被告A3は,秘6,8,9,15の会合に出席し,違法な秘書管理費内食糧
費の支出(狭義)の相手方として,秘6,8,9,15の支出額を出席者の人数で
除した金額に相当する不法な利益を受けたというべきであるから,悪意の受
益者と同視されるべき者としてB市に対して不当利得返還義務を負うといわな
ければならない。しかし,被告A3は,秘5,7,10ないし14,16ないし20の会合
については出席していないから,この支出(狭義)の相手方としては不当利得
返還義務を負うとする根拠はない。
(4) そうとすると,被告らがB市に返還すべき金額は,別紙1,2の各認容額欄に記
載のとおりとなる。
なお,被告A1の出席したことによる不当利得返還債務は,認容額の大きい指
揮監督の注意義務違反の過失による損害賠償債務に包括される。また,被告A
3の出席したことによる不当利得返還債務は,認容額の大きい決裁の注意義務
違反の過失による損害賠償債務に包括される。さらに,被告A1の損害賠償債
務と同A3の損害賠償債務,同A1及び同A3の損害賠償債務と他の被告の不当
利得返還債務とは,いずれも,B市の被った損害又は損失が共通であるから,
それぞれが重なる限度で不真正連帯債務の関係に立つ。
4 結論
よって,主文のとおり判決する。なお,仮執行の宣言は相当でないから,これを
付さない。
津地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官  内田計一
裁判官  後藤 隆
裁判官  後藤 誠

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