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平成14年6月18日判決言渡平成11年(ワ)第18104号損害賠償請求事件
主文
  1 被告らは連帯して,原告株式会社三一書房に対し,金1171万0579
円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
  2 原告株式会社三一書房のその余の請求及びその余の原告らの各請求を,い
ずれも棄却する。
  3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告らの,その余を被告らの,そ
れぞれ負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは連帯して,原告株式会社三一書房に対し,金2億4885万8529
円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
2 被告らは連帯して,原告A1,同A2,同A3,同A4,同A5,同A6及び
同A7に対し,各金200万円及びこれに対する平成11年1月14日から支払済
みまで年5分の割合による各金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,平成10年12月31日に開催された原告株式会社三一書房の臨時株
主総会の続会とこれに基づく取締役会を平成11年1月14日に開催したとする被
告らが,その続会及び取締役会で被告B1を原告会社の代表取締役に選任したとし
てその旨の登記をし,これを取引先や新聞各社に連絡したうえ,本社社屋のロック
アウトを解除するとともに朝霞倉庫を支配下においたことから,これを違法とする
原告らが,被告らに対して,本社社屋や朝霞倉庫の占拠によって原告会社が被った
とする損害賠償を求めるとともに,原告ら個人に対する名誉毀損による損害賠償を
求めている事案である。
2 以下の事実は,それぞれの末尾に証拠を掲記するもの以外,当事者間に争いが
ない(なお,以下において,原告株式会社三一書房を「原告会社」と,原告A1,
同A2,同A3,同A4,同A5,同A6,同A7を,それぞれ「原告A1」,
「原告A2」,「原告A3」,「原告A4」,「原告A5」,「原告A6」,「原
告A7」と,この原告らの一部または全部を指す場合に「原告ら」と,被告B1を
「被告B1」と,平成10年12月31日に開催された原告会社の臨時株主総会を
「12月31日臨時総会」と,平成11年1月14日に被告らが開催した続会を
「1月14日続会」と,それぞれ略称する。)。
(1) 当事者等
ア 原告会社は,昭和24年8月9日設立された図書雑誌の出版を主たる業とする
株式会社である。
  原告会社は,平成10年8月ころから経営の悪化が表面化したことから,再建
調査委員会を設置するなどして対応策の検討を開始したところ,原告A1ら経営陣
と,これに対立する労働組合側につく被告らとの間で対立が生じ,本件当時は,原
告らが被告らの主張する株主権を否認する等の紛争に発展していた。
イ 原告A1は,平成10年8月,原告会社の代表取締役代理に,同年9月18
日,同社の代表取締役に就任した。原告A2は,平成6年4月より原告会社の取締
役兼編集責任者であった(甲61号証)。原告A3は,昭和45年1月に原告会社
に入社して営業を担当し,平成3年3月取締役に選任された(甲63号証)。そし
て,平成11年1月14日当時,原告A1は原告会社の代表取締役として,原告A
2及び原告A3は取締役として,それぞれ登記されていた。
ウ 原告A4,原告A5,原告A6は,いずれも12月31日臨時総会において取
締役に選任され,原告A5は編集部長に,原告A6は総務部長に,それぞれ就任し
たと主張し,原告A7は同じく監査役に選任されたと主張する者である。
  ちなみに,原告A5は,平成4年1月に原告会社に入社して編集者として勤務
していたが,平成9年12月末日同社を退職して原告会社と同じく出版社である株
式会社ベストセラーズに勤務していた(甲60号証)。また,原告A6は,平成1
0年11月ころ,原告会社代表取締役秘書として原告会社に関わるようになり,上
記のように総務部長に就任したが,平成12年2月29日に取締役を辞任したと主
張している(甲62号証,原告A1尋問)。
エ 被告B1は,昭和28年,原告会社に入社し,昭和47年から昭和60年まで
取締役に就任し,昭和56年から昭和60年までは代表取締役に就任していた(甲
6号証)。被告B1は,原告会社の株主であり,12月31日臨時総会の続会とし
て被告らが平成11年1月14日に開催した続会において原告会社の取締役に選任
され,同日開催した取締役会において代表取締役に選任されたと主張している。
オ 被告B2は,原告会社の株主であり,1月14日続会において,同社の取締役
に選任されたと主張している。
(2) 12月31日臨時総会
  原告会社は,平成10年12月31日,原告会社の顧問弁護士をしていたC弁
護士(以下「C弁護士」という。)が所属していたさくら共同法律事務所内の会議
室において,下記の議題で,臨時総会を開催した。
ア 第1号議案  取締役(原告)A1,同(原告)A2,同(原告)A3解任の

イ 第2号議案  取締役4名選任の件
(ア) 被告B1及び同B2提案による取締役候補者
a 被告B1
b D
c 被告B2
d E
(イ) 取締役会提案による取締役候補者
e F(以下「F」という。)
f 原告A4(筆名A4’)
g 原告A5
h 原告A6
ウ 第3号議案  監査役1名選任の件
(ア) 被告B1及び同B2提案による監査役候補者
a G
(イ) 取締役会提案による監査役候補者
b 原告A7 
(3) 1月14日続会
 ア 被告らは,12月31日臨時総会において続行決議(以下「本件続行決議」
という。)をして1月14日続会を開催し,取締役の原告A1,原告A2及び原告
A3と,監査役のHを,それぞれ解任するとの議案のほか,被告B1,被告B2,
D及びEを取締役に選任するとの議案と,Gを監査役に選任するとの議案を可決
し,続いて開催された取締役会において被告B1を代表取締役に選任した。そし
て,これらに基づき,東京法務局に対して下記の登記手続を申請し,その旨の登記
(以下「本件登記」という。)がなされた(甲3ないし甲6号証)。
(ア) 平成11年1月14日,取締役(原告)A1,同(原告)A3,同(原告)
A2及び監査役Hにつき解任登記
(イ) 同日,代表取締役(原告)A1につき退任登記
(ウ) 同日,(被告)B1,(被告)B2,D,Eにつき取締役就任登記
(エ) 同日,(被告)B1につき代表取締役就任登記
(オ) 同日,Gにつき監査役就任登記
イ 被告らは,同日,被告B1が代表取締役に選任された旨を新聞社などに告知す
るとともに,原告会社の取引先や取引銀行,原告会社本店所在地を管轄する本郷郵
便局に対して同様の通知をした。その結果,原告A1らの取締役退任や被告B1の
代表取締役就任などが新聞紙上で報道された。
ウ 被告B1は,同日,原告会社の代表取締役として,原告A1が平成10年11
月14日にした本社社屋のロックアウト解除を宣言した。そして,被告らは,本社
社屋をその管理下においただけではなく,同月18日以降,埼玉県朝霞市所在の原
告会社倉庫(鉄筋コンクリート7階建て建物の1階部分及び2階部分で,延べ床面
積は約630坪。以下「朝霞倉庫」という。)をも管理下におき,今日に至ってい
る。
第3 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 12月31日臨時総会では,原告A1,原告A2及び原告A3の取締役解任が
議案とされていたところ,被告らは,同議案が可決される見込みがないことを事前
に熟知していたため,同総会において一切の議決権を行使することなく棄権し,平
成11年1月14日に,12月31日臨時総会の続会であると称した私的集会を開
催して,原告会社の取締役に就任したと僭称した。その後,被告B1は,同社の代
表取締役に就任したと僭称し,同社の労働組合員をして,原告会社の本社社屋と朝
霞倉庫を不法占拠するに至った。
(2) 被告らは,1月14日続会は,12月31日臨時総会の続会であると主張して
いるが,12月31日臨時総会において適法な続行決議はなされていない。すなわ
ち,被告らが主張する続行決議は,議事終了後に議長である原告A1が閉会を宣言
し,議長,出席取締役及び複数の株主が退場した後に,被告らが一方的にしたもの
である。
  また,被告らは,Iを12月31日臨時総会の議長に選出したと主張するが,
原告A1が閉会を宣言するまでの間にそのような決議はなされていない。そもそ
も,原告会社の定款第12条では「株主総会の議長は取締役社長がこれにあたり,
社長に事故があるときは専務取締役または常務取締役がその順に従い,これにあた
る」と明記されており,Iに議長資格はない。また,原告A1議長の不信任決議等
もなされていないから,議長の交代はありえない。
(3) また,1月14日続会は,以下のとおり,12月31日臨時総会の続会とはい
いえない。
ア 12月31日臨時総会には,被告B1の申請により東京地方裁判所が選任した
総会検査役J弁護士が出席しているが,同弁護士は1月14日続会には出席してい
ない。
イ 上記2の(2)と同様に,議長資格のないIが議長を務めている。
ウ 1月14日続会では招集権限のある取締役会による招集がなく,招集のための
取締役会自体も開催されていない。しかも,続行決議に参加した株主以外の株主に
対する招集通知がなされていない。
エ 1月14日続会には原告会社の取締役である原告らが出席していない。
オ 原告会社の発行済株式総数は112万株であるにもかかわらず,発行済株式総
数を28万株として株主総会を開催した。
(4) 被告らは,12月31日臨時総会について「決議の方法が著しく不公正」であ
ると主張するが,これは決議取消原因であるところ,商法248条1項の提訴期間
内に決議取消の訴えを提起していない。
(5) 原告会社は,被告らによる朝霞倉庫の不法占拠によって,以下の損害を被っ
た。
ア 原告会社は,朝霞倉庫内に保管されている在庫本を販売していたが,被告らが
同倉庫を占拠したため,平成11年1月18日以降,原告会社は,同倉庫内に保管
されている在庫本を販売することができなくなった。
  原告会社の総売上のうち70パーセントを占める株式会社トーハン及び日本出
版販売株式会社の2社に対する原告会社の売上は,平成10年12月11日から同
月25日までの半月間(営業実日数10日間)で1889万5570円であったか
ら,返品率(高めに見積もって約40パーセント)を考慮した1か月(営業実日数
20日間)あたりの売上は2256万円(1880万円×0.6×2)を下回るこ
とはない。
  被告らは,平成11年1月下旬以降約27か月間以上にわたって,朝霞倉庫を
占拠しているので,原告会社の逸失利益は5億9400万円(2200万円×27
か月)を下回ることはない。
イ 原告会社は,朝霞倉庫内の在庫本を販売できなくなったことから,別紙1(省
略)の重版費用一覧に記載のとおり,重版を行わざるをえなくなった。
  原告会社は,重版の直接製作原価(人件費等の間接費用を含まないものであ
る。)として,2756万5029円を支出した。
ウ 原告会社は,被告らが朝霞倉庫を占拠したため,新刊本及び返品本を保管する
倉庫を賃借し,平成11年5月分から平成12年8月分の賃料として2623万6
954円を支払った。同期間の1か月あたりの倉庫費用を平均すると163万98
09円であり,これに基づき平成13年5月までの倉庫費用を計算すると,400
0万円(160万円×25か月)を下ることはない。
エ 原告会社は,平成10年11月14日に本社社屋をロックアウトした後,朝霞
倉庫内に本社機能を移転させて出版活動を行っていたが,被告らの朝霞倉庫占拠に
より,本社機能を持つ事務所を別途賃借せざるを得なくなったため,平成11年9
月1日から平成12年8月31日まで,千代田区三番町7番地5所在のコーポ麹町
606号室を賃料月額16万5000円で賃借し,礼金として31万5000円,
敷金として45万円,保険料として1万5000円,仲介手数料として15万75
00円,公正証書作成分担金として1万1000円,賃料13か月分として214
万5000円,合計309万3500円を支払った。
オ 原告会社は,被告らに対し,上記損害のうち,アの3割相当額1億7820万
円及びイないしエの損害合計額2億4885万8529円について,損害賠償を請
求する。
カ ちなみに,朝霞倉庫内の在庫書籍の現在の市場価値は,平成11年1月14日
と比して,80パーセント低減した。同日当時の正味金額は24億9608万72
91円であり,その市場価値は低く見積もったとしてもその30パーセントに相当
する7億4882万6187円を下らない。その約80パーセントが時間の経過に
基づく評価額の低減であり,原告会社の損害額は少なくとも5億円を下らない。
  そこで,仮に,逸失利益が1億7820万円の請求金額以上に認定されない場
合には,原告会社は,予備的に朝霞倉庫内の在庫書籍の評価額の低減による損害
を,同額に達するまで請求する。
(6) 原告A1,原告A2,原告A3,原告A4,原告A5,原告A6及び原告A7
は,原告会社の役員であるのに,被告らにより,これを否定する商業登記がなさ
れ,その旨のチラシ等が配布されたことによって,著しく名誉が毀損され損害を被
ったが,これを慰藉するには,上記原告ら各人に対して少なくとも各200万円ず
つが支払われるべきである。
2 被告の主張
(1) 1月14日続会は,12月31日臨時総会における本件続行決議(商法243
条)に基づき開催された原告会社の株主総会であり,適法なものである。
ア 12月31日臨時総会において,原告A1らのした決議は,次の理由によって
適法な決議とはいえず,決議として存在しない。仮に,決議があったとしても,著
しく不公正なものとして取り消されるべきである。
(ア) 原告らの提案に反対する株主(被告B1,K,L,M,N,O,P)の持株
合計18万8800株について,以下のとおり,否定もしくは減じて取り扱った。
a 被告B1の持株は22万4640株であるところ,9万6640株につき否認
し,12万8000株として取り扱った。
b Kの持株は4万8000株であるところ,株主ではないとして取り扱った。
c Lの持株は3360株であるところ,2520株につき否認し,840株とし
て取り扱った。
d Mの持株についても,上記cと同様に取り扱った。
e Nの持株は1600株であるところ,1200株につき否認し,400株とし
て取り扱った。
f Oの持株についても,上記eと同様に取り扱った。
g Pの持株は4万8960株であるところ,3万6720株につき否認し,か
つ,棄権として取り扱った。
(イ) 被告ら側の出席株主及び同株主に委任した株主の持株数は,発行済株式総数
112万株のうち75万0880株であり,原告らによって強行された採決の投票
数に算入されていないから,原告らの持株数は最大でも36万9120票となるは
ずであるにもかかわらず,原告らの賛成票は56万9000余票とされており,賛
成票の水増しがなされている。
(ウ) 12月31日臨時総会では,株主資格の不明な者8名が議長及び取締役周辺
の席を固めていたため,被告らは,その者らの株主資格を確認するため,議長であ
る原告A1に対して株主名簿の提出を求めたが,原告A1は,これを一切無視して
議事を進行した。しかも,原告らを支持する株主の持株数と被告らを支持する株主
の持株数につき,原告A1らと被告らとの間に争いがあったにもかかわらず,議長
である原告A1は,本件12月31日臨時総会の当日である平成10年12月31
日に発行した新株について,失権株発生の有無や引受人やその数などを明らかにし
なかった。
(エ) 被告らの異議や動議に対して,原告会社の顧問弁護士であったC弁護士は
「文句があるなら裁判で」などと発言し,議長の原告A1をして議事を強行させ,
被告らによる異議や動議を全て無視させたうえ,議事説明,討論及び検討の機会を
与えずに2分間で投票用紙への記入を強要し,原告らだけで決議を成立させた。被
告らは,議長不信任の動議を提出したが,議長を務めていた原告A1は終始これを
無視して議事を進行させた。
イ 12月31日臨時総会においては,議長を務める原告A1が,第3号議案の
「採決」後に閉会を宣言したが,同宣言は,上記記載のとおり,各議案について実
質的な審議もなく,手続的な違法が是正されないまま,「決議」がなされたことを
前提としてなされた無効なものである。
ウ 被告らは,その後,会場に残っていた出席株主により,議長にIを選任したう
え,12月31日臨時総会は審議未了であるから,総会を続行し,続会は平成11
年1月14日午前11時に千代田区神田駿河台1丁目所在の山の上ホテルで開催す
ることを有効に決議した。
エ 1月14日続会は,発行済株式総数112万株の過半数に相当する75万08
80株を有する18名の株主が出席し(出席株主は被告B1,被告B2,I,D,
E,G。委任状による出席株主は,Q,R,H,K,T,L,M,U,N,O,
V,P。),取締役原告A1,同原告A2,同原告A3及び監査役Hを解任すると
の議案,被告B1,被告B2,D及びEを取締役に選任するとの議案並びにGを監
査役に選任する議案について可決した。そして,続いて開催された取締役会におい
て,新たに選任された取締役全員の賛成によって被告B1が原告会社の代表取締役
に選任された。
(2) 原告会社の代表取締役に選任された被告B1は,直ちに原告会社の本社社屋に
赴き,労働組合に対し,本社社屋のロックアウトの解除と,平成10年夏以降の労
使紛争でなされた懲戒解雇等の一切の処分の撤回を通知し,社員に対して職場復帰
を指示した。
(3) 仮に,1月14日続会が何らかの理由で無効であったとしても,被告らが1月
14日続会を開催するに至った経緯からすれば,被告らの行為はやむをえないもの
であり,何ら違法なものではない。
ア 原告A1らは,原告会社の本社社屋を平成10年11月14日にロックアウト
した後,原告会社の不動産の売却のみならず,経営者保険の解約により数千万円の
解約返戻金等を手にするなど,会社資産の売却と取崩しを行ったが,これらによっ
て得た資金の使途は不明である。
イ このような状況下で,原告A1らは,C弁護士の指導のもと,12月31日臨
時総会において,被告の主張の(1)のアの(ア)に記載のとおり,被告B1らほか原告
らの方針に反対する株主の株主権を否認し,一方的に議事を進行し議決を強行し
た。原告A1らは,その後も,株主総会において原告らの賛同者が過半数を有して
いる体裁を作るため,被告B1の持株の一部を否認したり,被告B1を支持するP
の株主権をも否認するなど無謀な主張を展開した。
ウ 原告A1らのこれらの過半数工作は,被告らが提起した株主権確認訴訟におい
ていずれもその効力を否定されている違法なものであるが,法的手続による救済を
得るためには時間がかかり過ぎて実効性が望めないため,被告らは,当面の原告ら
の違法行為を是正して会社財産の散逸を防止するため,1月14日続会を開催し,
出席株主の総意に基づいて被告B1が原告会社の代表取締役に就任して,前記のと
おり,本社社屋と朝霞倉庫の管理を実施しているものである。
エ なお,原告らは,被告らによって,原告らが原告会社の役員であることを否定
する商業登記がなされたり,その旨のチラシ等が配布されたことによって,著しく
名誉が毀損され損害を被ったと主張しているが,そのような行為は,原告らによっ
てなされた違法な12月31日臨時総会の決議を是正し会社財産の散逸を防止する
ために必要な行為であった(ちなみに,原告らは平成11年1月21日付けで役員
復帰の登記をしている。)。
(4) また,本件で原告会社が主張している損害は,以下のとおり,何ら根拠のない
ものである。
ア 原告会社は,平成10年12月7日以降はほぼ平常時の売上実績を確保するに
至っていたとの前提で本件の損害額を算定しているが,そのような事実はない。
イ また,原告の本件損害に関する主張は,①注文があったことの具体的な立証が
ないうえ,②仮に注文があったとしても,それがどれだけ売れたかについて立証が
ないし,③存在している在庫の価値自体を考慮にいれておらず,理解できない。
ウ 原告会社の売上が減少したのは,原告A1らによる本社社屋及び朝霞倉庫のロ
ックアウトと,その後の原告A1らの逃亡による業務放棄及び株主総会の強引な進
行等によるものであり,被告らの行為によるものではなく,原告らの主張する損害
と被告の行為との間には因果関係がない。
エ 原告A1らが本件紛争期間中に行ったことは,専ら会社資産(不動産)の売却
と,株主間の持株比率の転換を目的とした増資であって,原告会社の通常業務(出
版)についてはすべて放棄していたのであり,原告A1らのそのような行為こそが
出版業界内における原告会社の信用を著しく失墜させたのである。
オ 原告A1らは,被告らが中心となって開催した1月14日続会について取消を
求めることなく,同年1月21日に帝国ホテルのロビーで原告会社の臨時株主総会
を開催し,被告B1らの解任とともに原告らの役員復帰を決議したとして,その旨
の登記もした。この1月21日の臨時株主総会は被告らに対する通知がないままな
されたもので,無効であるが,被告らは,登記合戦になることを避けるため,あえ
て対抗措置をとらなかった。したがって,原告A1らは,登記簿上原告会社の役員
に復帰したので,同人らが望む原告会社の業務を再開することが可能であったの
に,実際には同年3月に朝霞倉庫から実力で在庫の一部を運び去っただけで,それ
以外には在庫搬出のための法的手続を一切とらなかった。これは,当時,原告会社
の書籍は書店からの返
品がかなりあったので,新たに朝霞倉庫から出庫する必要がなかったからである。
(5) したがって,仮に被告らの行為に何らかの違法があったとしても,原告主張の
損害を被告らに負わせることはできないというべきである。
第4 本件の争点
   以上のところから明らかなように,本件の争点は,次のとおりである。
1 本件続行決議の有効性
2 被告らの本社社屋及び朝霞倉庫の占有・管理の違法性の有無
3 被告らの違法行為と原告らの損害及び因果関係
4 原告ら個人に対する名誉毀損の成否
第5 証拠
   本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
第6 当裁判所の判断
1 本件は,原告会社の経営をめぐる原告らと被告らとの間の一連の紛争を背景と
して争われている事件であるから,前記各争点に対する個別判断に先立ち,事件の
経過を認定しておくこととするが,前記第2の事案の概要2記載の事実のほか,甲
1ないし甲36号証,甲39ないし甲80号証,甲83ないし甲93号証,甲95
号証,甲98号証,乙1ないし8号証,乙10ないし15号証,乙18号証,乙2
0号証,被告B1本人尋問の結果,原告A1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められる(この認定に反する証拠は採用しない。)。
(1) 12月31日臨時総会に至る経緯
ア 平成10年8月ころ,原告会社では,経営の悪化が表面化し,会社再建策を講
ずべく対応策の検討が始められた。平成10年8月当時,原告会社の負債総額は約
12億円で,うち銀行からの借入は8億5000万円以上であり,月々1億100
0万円ないし1億2000万円の資金を必要としていたが,毎月の売上高は約60
00万円程度であった。
イ 平成10年8月20日,原告会社の取締役会において原告A2を委員長とする
再建調査委員会を設置することが決定され,翌21日,臨時総会において同委員会
の活動方針として,①会社の現状,②経営危機を招いた原因の究明,③再建のため
の具体的方策について,弁護士や税理士,公認会計士などの外部の専門家に意見書
の作成を依頼することとし,会社再建に向けて検討を開始した。
ウ 平成10年8月25日,原告A1は代表取締役代理に就任し,さらに同年9月
18日,同人は代表取締役に就任した。
エ 上記意見書の作成を依頼されたW弁護士,X公認会計士及び原告A7税理士
は,原告会社に対し,同年9月20日付け意見書を提出して,以下のような内容の
再建策を打ち出した。
(ア) 内部的な対策として,①厳選出版体制への切替,②当面1年間の給与カット
(役員4割,社員2割),③経費削減など
(イ) 外部的な対策として,銀行との間でなすべき月々3500万円の支払を元利
合計500万円に抑えるよう交渉することなど
(ウ) 緊急対策として,①4200万円の自己資本調達のための増資,②1億50
00万円の運転資金調達のための千葉市稲毛区宮野木町所在の遊休不動産の活用,
③2億円の新規借入金確保のための政府系金融機関の活用
オ 平成10年10月中旬ないし同年11月中旬ころ,原告会社は,借入額が多い
ため銀行預金を事実上引き出せない状況であったが,取引銀行と交渉して1億30
00万円の預金を引き出し,平成10年12月には,同社所有の埼玉県新座市所在
の遊休不動産を代金1億7000万円で売却したほか,平成11年4月には,既に
平成10年11月12日に譲渡担保を設定していた前記の千葉市稲毛区宮野木所在
の不動産を売却した。
カ 原告会社は,平成10年11月16日に開催された取締役会において,新株8
4万株を発行して発行済株式総数を112万株に増資することと,この新株を,同
年12月15日午後5時現在の株主名簿に記載されている株主に対して,その所有
株式1株につき新株式3株の割合で割り当てることを決定し,12月31日臨時総
会の当日である平成10年12月31日,この84万株の新株を発行した(以下
「平成10年増資」という。)。
キ 原告会社の当時の社員14名は,全員が株式会社三一書房労働組合(以下「労
働組合」という。)に加入していた。そこで,原告会社と労働組合との間で,賃金
カット,退職金の支払方法,労働協約の改定などの問題とともに経営悪化に対する
経営責任問題が取り上げられ,労使間で団体交渉が行われたが,合意に至らず,労
働組合は連日ストライキを実施するなどしていた。
ク これに対し,原告会社の社長である原告A1は,平成10年10月16日に短
時間会社に出社したものの,それ以降は同年11月14日にロックアウトが行われ
るまで,労働組合によって暴力団交が行われたことなどを理由として出社せず,原
告A2及び原告A3も同様であった。そして,原告会社は,平成10年11月14
日,本社社屋の出入口に,「株式会社三一書房は,『三一書房労働組合』を名乗る
集団の暴力行為は,『言論・出版の自由』の為に闘ってきた当社の伝統に反するも
のと考え,反省を求める趣旨において,当社事業所の閉鎖を宣言します。」などと
記載した「ロックアウト宣言」と題する文書を掲示して,本社社屋をロックアウト
するとともに,朝霞倉庫についてもロックアウトを実施した。
ケ また,原告会社は,同日付けで,違法ストの指導などを理由として,労働組合
の執行委員長であったY,副執行委員長であったZ及び書記長であったaに対して懲
戒解雇処分を行ったほか,同月19日付でb及びcに対して2か月の停職処分を行
い,同月20日付でd及びeに対して1か月の停職処分を行った。さらに,原告会社
は,労働組合に対し,平成10年11月15日に到達した書面をもって,団体交渉
勧誘行為に名をかりた暴行罪及び強要罪に該当する組織的暴力行為及び原告A1ら
の出社を阻止する業務妨害行為を行ったことなどを理由として,労働協約を解除す
ると通知した。
  ちなみに,原告会社が団体交渉に応じなかったことや上記の懲戒解雇などの処
分をしたことや労働協約を解除したことについては,平成13年8月7日,東京地
方労働委員会により不当労働行為と認定されている。
コ 原告会社は,同年12月7日,朝霞倉庫に保管してある在庫書籍の納品を開始
し,その主要取引先である日本出版販売株式会社及び株式会社トーハンに対し,同
月11日から同月25日までの間に,別紙2(省略)に記載のとおり,合計140
9万3630円分の書籍を納品した。
(2) 12月31日臨時総会の状況
ア 被告B1は,原告会社に対し,平成10年12月,取締役3名全員(原告A
1,原告A2及び原告A3)の解任と,新たな取締役(候補者被告B1,D,被告
B2及びE)及び監査役(G)の各選任とを議案とする臨時株主総会の招集請求書
を送付した。
イ 原告会社の取締役会は,同月28日,上記請求に基づき,同年12月31日午
前11時に東京都千代田区麹町5-7秀和紀尾井町TBRビル812号室さくら共
同法律事務所内の会議室において臨時株主総会を開催することを決定した。このさ
くら共同法律事務所は,当時,原告会社の顧問弁護士であったC弁護士の所属する
事務所であった。
ウ 原告A1は,原告会社の株主に対し,同日付で下記内容の臨時株主総会招集通
知書を送付した。
(ア) 第1号議案  取締役原告A1,同原告A2,同原告A3解任の件
(イ) 第2号議案  取締役4名選任の件
a 被告らの提案による取締役候補者
①被告B1,②D,③被告B2,④E
b 取締役会の提案による取締役候補者
⑤F,⑥原告A4(筆名A4’),⑦原告A5,⑧原告A6
(ウ) 第3号議案  監査役1名選任の件
a 被告らの提案による監査役候補者
①G
b 取締役会の提案による監査役候補者
② 原告A7 
エ 原告A1は,上記招集通知書の送付に際し,各株主に対して,「臨時株主総会
の招集にあたって」と題する書面を添付したが,この「臨時株主総会の招集にあた
って」と題する書面には,「今般,株主のB1さん,B2さん,御両名から,株主
総会招集請求書をいただきました。正直に申し上げて,『うしろから撃たれた心
境』も否定できないものがあります。とりわけ当社社長のご経験のあるB1さんに
は 『三一書房労働組合』の内実もよくお分かりのはずなのに,との気持ちが禁じ
得ません。」との記載がなされていたほか,原告会社の役員候補者であるF,原告
A4,原告A5,原告A6,原告A7の略歴等が記載されていた。
オ 東京地方裁判所は,同年12月28日,被告B1の申請により,12月31日
臨時総会の招集手続及び決議方法を調査させるため,J弁護士(以下「J弁護士」
という。)を検査役に選任した。
カ 平成10年12月31日,さくら共同法律事務所内の会議室において,原告会
社の臨時株主総会が開催されたが,その出席株主やその持株数については,原告ら
と被告らとの間で争いがあった。
(ア) 出席株主の持株総数は,原告会社及び原告らの主張によると109万056
0株であるのに対し,被告B1らの主張によると110万2800株であった。
(イ) 原告会社及び原告らの主張によると,原告ら経営陣側からは,原告A1,原
告A2,原告A3,F,原告A4,原告A5,原告A6,原告A7,(以下委任状
による出席)f,g,h,iが出席した。原告ら経営陣側の出席株主の持株数は,原告
会社及び原告らの主張によると55万9120株であるが,被告らの主張によると
35万1920株である。
(ウ) 被告らの主張によると,被告B1ら側からは,被告B1,被告B2,Q,
I,E,R,G,(以下委任状による出席)H,D,K,P,T,V,L,M,
N,U及びO(以下「被告B1側株主」という。)が出席した。出席した被告B1
側株主の持株数は,原告会社及び原告らの主張によると53万1440株である
が,被告らの主張によると75万0880株である。
  なお,原告会社及び被告B1側株主の主張する出席株主及び持株数の詳細は別
紙3(省略)に記載のとおりである。
キ 12月31日臨時総会の議長は,定款の規定に基づき原告会社の代表取締役で
ある原告A1が務めたが,被告B1側株主は,定款の規定は株主の招集にかかる総
会には適用がないから改めて議長を選出すべきであると主張した。
ク この臨時総会の会場内では,議長の原告A1の隣の席にはC弁護士が着席した
うえ,議長の近くの席には原告ら経営陣側の株主が着席し,被告B1側株主の席は
議長席から離れたところが指定された。なお,F,原告A4,原告A5,原告A6
及び原告A7については,その席の前に各人の名札が置かれていた。
ケ この臨時総会は,同日午前11時に開会された。まず,被告B1側株主から,
出席株主の株主資格の確認と株主名簿の開示が求められ,議長不信任,休憩及び議
事進行に関する動議などが提出されたが,議長である原告A1は,株主資格につい
ては既に原告会社が確認していると発言して詳しい説明はせず,被告B1側株主か
らなされた要求や動議を全く取り上げなかった。そして,原告A1は,第1号議案
から順次審議に入っていったが,その審議の方法は,全ての議案に関し,概ね以下
のとおりである。
(ア) 原告A1は,審議の対象となる議案を告げ,この議案に関する質問のみをな
すよう出席株主に告げた。
(イ) これに対して,被告B1側株主は,議案に関する質問はせず,前記のような
出席株主の資格の確認を求める動議,議事進行に関する動議・意見などを述べた
が,原告A1は,これらを採り上げなかった。
(ウ) 原告A1は,被告B1側株主からの動議などを無視して,審議開始後一定時
間が経過するとそのまま審議打ち切りを宣言し,それから2分以内に議案について
投票するように出席株主に告げた。投票の方法は,原告会社が各株主に配布した投
票用紙に丸印を記入して投票する方法により行われた。
(エ) また,同席していたC弁護士は,このような原告A1の議事進行に異議を唱
える被告B1側株主に対し,不服があるならば裁判で争うよう繰り返し発言したほ
か,議長の交代はあり得ないとか,被告B1側株主が2分以内に投票しないときは
棄権したことになるなどと発言した。
(オ) 被告B1側株主は,投票時間とされた2分の間も依然として上記②のように
動議,意見を述べていたが,原告A1は,2分間が経過すると,係員に対して直ち
に投票用紙を回収させた。
(カ) 被告B1側株主である,被告B1,被告B2,Q,I,E,R及びGは,上
記回収のときにはまだ投票用紙への記入を行っていなかったが,原告A1は,2分
以内に投票用紙を提出しなければ棄権したものとみなすとして,同人らを棄権とし
て取り扱い,投票を集計した。
コ 以上の結果,原告会社は,同総会において以下のとおりの決議がなされたとし
た。
(ア) 第1号議案について
賛成票        0株
反対票  55万9120株
(イ) 第2号議案について
   被告らの提案による取締役候補者への投票数        0株
   取締役会の提案による取締役候補者への投票数 55万9120株
(ウ) 第3号議案について
   被告らの提案による監査役候補者への投票数        0株
   取締役会の提案による監査役候補者への投票数 55万9120株
サ 同日午前11時31分,原告A1は,議長として臨時株主総会の閉会を宣言
し,原告ら経営側の株主はそれぞれ会場となった会議室から退場したが,被告B1
側株主は,投票数の根拠が不明であるとして会場に残り,原告A1に対して株主名
簿の開示を求めるなどしていたが,原告A1はこれに応じなかった。そして,C弁
護士は,被告B1側株主に対して,会場から直ちに退去するよう求めた。
シ そのような状況の中で,被告B2は,「いまから臨時株主総会を開催する。」
と発言し,「延会,続会。」などと発言した。また,Iが,「本日の株主総会は,
こういう結果になりましたので,1月14日午前11時から山の上ホテルで続会を
することを決議します。」と発言したところ,会場に残っていた被告B1側株主か
ら,「異議なし」という発言や拍手が起こった。これを受けて,Iは,「本日の臨
時株主総会は,続会いたしました。」と発言したうえ,本日の第1号議案から第3
号議案の決議は無効になった旨発言し,Eは,被告B2を検査役に選任すると発言
した。その間,C弁護士や原告A6は,被告B1側株主に対して,速やかに会場と
なっていたさくら共同法律事務所の会議室から退出することを求め,退出しない場
合には不退去罪にな
るなどと発言し続けた。
ス 総会検査役のJ弁護士は,このような状況が生じているときにも会場に残って
いて,後日東京地方裁判所に提出した報告書において,「総会終結宣言後の状況」
との見出しの下に,「本件総会について,午前11時31分に閉会宣言がなされた
後も,申請人,B2,E,G,Q,R及びIは会場に残り,本件総会の「続会」と
して,平成11年1月14日,午前11時に山の上ホテルにおいて,臨時株主総会
を開催するとの決議的行為を行った。また,B2を検査役に選任するとの決議的行
為を行った。」と報告した。
セ ちなみに,12月31日臨時総会以前に開催された原告会社の株主総会では,
株主全員が顔見知りということもあつて,議事が混乱するようなことは一度もなか
った。
(3) 1月14日続会の状況
 ア 被告らは,平成11年1月14日午前11時から,12月31日臨時総会の
続会であるとして,山の上ホテルにおいて,原告会社の株主総会を開催した。株主
総数27名,発行済株式総数28万株のうち,出席株主は18名,出席株主の持株
数は18万7720株であるとされ,株主であるIを議長に選出した(甲4号
証)。なお,原告A1,原告A2,原告A3,F,原告A4,原告A5,原告A
6,原告A7らと,12月31日臨時総会の検査役として選任されていたJ弁護士
は,この1月14日続会には出席していない。
 イ 被告らは,この1月14日続会において,12月31日臨時総会の議事が審
議未了であるとして,同総会における議案について審議をし,以下のとおり決議し
た。
(ア) 第1号議案(取締役原告A1,同原告A2,同原告A3解任の件)について
は,賛成株主18名,その持株数18万7720株,反対株主0名で可決された。
(イ) 第2号議案(取締役4名選任の件)については,上記と同数で,被告B1,
D,被告B2及びEの4名が選任された。
(ウ) 第3号議案(監査役1名選任の件)については,上記と同数で,Gが選任さ
れた。
(エ) また,12月31日臨時総会においては議案とされていなかったが,監査役
Hの解任につき審議し,上記と同数で可決した。
(4) 1月14日続会後の被告らの行為
ア この1月14日続会で新たに取締役に選任されたとする被告B1,被告B2,
D及びEは,同日午前11時30分から取締役会を開催し,被告B1を代表取締役
に選任したうえ,東京法務局に対し,1月14日続会の株主総会議事録及び上記取
締役会議事録を添付して登記申請を行い,同月22日までにその旨の本件登記を経
た(甲3号証,甲5,6号証)。
イ 被告B1は,同月14日,原告会社の代表取締役として,労働組合に対し,本
社建物及び朝霞倉庫についてなされていたロックアウトの解除を宣言するととも
に,前記のY,Z及びaに対してなされた懲戒解雇処分,b,c,d及びeに対してなさ
れた停職処分,労働協約の解除などをすべて撤回し,社員に対して職場に復帰する
よう指示した(甲22,23号証,甲83号証,甲87号証)。
ウ また,被告B1は,労働組合に対し,「会社財産の管理,保全のため,宿直体
制をつくるように要請します。なお,宿直時の管理,保全の権限を貴労働組合に委
ねます。」と記載した文書を手交し,本社社屋及び朝霞倉庫において労働組合によ
る宿直を要請した。同日以来,労働組合員は,本社社屋と朝霞倉庫に出勤してお
り,本社社屋と朝霞倉庫は被告B1らの管理下にある。
エ 被告らは,同日,原告らが取締役を解任されるとともに被告B1が原告会社の
代表取締役に選任された旨を日刊新聞各社に発表し,日刊新聞各社は新聞紙上で次
のようにこれらの事実を報道した(甲14,15号証,甲52ないし56号証)。
(ア) 朝日新聞は,同日,「三一書房,社長解任」「経営側,ロックアウト解除」
との見出しのもと,労使の対立で平成10年11月から本社ビルがロックアウトさ
れていた原告会社において,A1社長が解任され,新社長に被告B1が選ばれ,ロ
ックアウト解除と労働組合役員の解雇処分及び自宅待機命令を撤回したと報じると
ともに,「A1氏は,昨年12月31日に開かれた同社の臨時株主総会で社長解任
動議は否決されたとしており,この日の総会には出席しなかった。」などと報道し
た(甲14号証)。そして,翌15日付の朝刊では,「三一書房A1氏側『株主総
会存在せず』」との見出しのもと,1月14日続会には「経営側が全く関与してお
らず」「単に株主と称する人々の集まりにすぎない。株主総会は不存在」であると
いう原告らの見解が
報じられた。
(イ) 千葉日報新聞は,翌15日,「三一書房,活動再開へ」「総会で経営陣全員
解任」との見出しのもと,原告ら現経営陣全員が解任され,新たに取締役,監査役
が選任され,新社長の被告B1が本社の閉鎖解除と労働組合役員の解雇処分撤回を
決めたことや,停止されていた出版活動が2か月ぶりに再開される見通しとなった
ことのほか,関係者の話としてロックアウトに至る経緯を報道したうえ,「旧経営
陣によって引き起こされた経営危機や信頼失墜を回復させるため,全力を挙げる」
との被告B1の発言を紹介している。
(ウ) 山梨日日新聞は,「三一書房,出版活動再開へ」との見出しのもと,労使の
対立で平成10年11月から本社が閉鎖され業務停止状態が続いていた原告会社に
おいて,原告ら現経営陣全員が解任され,新たに取締役,監査役が選任されたこ
と,新社長の被告B1が本社の閉鎖解除と労働組合役員の解雇処分撤回を決めたこ
と,停止されていた出版活動が2か月ぶりに再開される見通しとなったことを報じ
た。
(エ) 信濃毎日新聞,南日本新聞及び福井新聞は,「三一書房が出版再開へ」「経
営陣全員解任」の見出しのもと,上記(イ)と同様の報道をした。
オ 被告らは,原告会社の取引先などに対し,同月14日付けで「声明」と題する
文書(甲17号証)を配布したほか,同月16日付け及び同月18日付けで,「三
一書房関係各位へのご挨拶」と題する文書(甲16号証)を配布した。これらの文
書には,原告らが解任されたことや,被告B1らが新役員に選任されたことのほ
か,本社社屋や朝霞倉庫のロックアウト解除,労働組合への処分の撤回,職場復帰
の業務命令などが記載されている。
カ 被告らは,同月18日以降,原告会社の取引先であり書籍取次業務を行う株式
会社トーハン,日本出版販売株式会社などを訪問し,被告B1が代表取締役に選任
された旨を通知して,今後,「同人が代表取締役を務める株式会社三一書房」との
間で注文及び返品受領業務を行ってほしい旨を申し入れた(甲28号証)ほか,本
郷郵便局及び小川町郵便局に対し,本件登記申請の申請書のコピーとともに原告会
社の転居届を提出した(甲18,19号証)。
キ また,被告B1は,同年1月18日,原告会社の取引銀行である株式会社わか
しお銀行に対し,本件登記申請の申請書のコピーを提示して,被告B1が原告会社
の代表取締役に就任したことを申し入れた。
(5) 1月14日続会後の原告会社または原告らの行為
ア 原告A1は,平成11年1月14日付で,労働組合員12名(Y,
Z,a,d,f,c,e,g,h,i,b,j)に対し,「被告B1が代表取締役社長の資
格がないのに,右肩書きを僭称して行った一切の行為は,すべて無効である」とし
て,「ロックアウト中,本社社屋に立ち入ることを禁」ずるとの通知書を送付し,
この通知書は同月16日に上記の労働組合員らに到達した(甲67号証)。
イ また,原告らは,役員一同名で,同月14日付けの「株式会社三一書房の声
明」を発表したが,この文書には,「三一書房労組を名乗る人々と,株主を称する
一部の人々(が)……突如として非合法闘争に突入した。」「閉鎖中の本社事業所の
シャッターを破壊し内部に立ち入った行為は『建造物破損罪』・『住居不法侵入事
件』以外の何ものでもない。」「暴力分子」「Y(労組委員長で情報と金を一手に握
る立場を悪用し,私利私欲に走った男)……」などと記載されている。さらに,原
告らは,同じく役員一同名で,「三一書房紛争とは?すべては経理担当者(労組委
員長)の不正経理“隠蔽工作”です。」と記載した文書を発表した。
ウ 原告A1は,同月20日,本郷郵便局に対し,原告会社宛の郵便物を原告A1
が届け出た転居先(練馬区a-b-cA2方)に転送するよう求める郵便物引渡請求書
を提出した(甲18号証)ほか,同月29日には,小川町郵便局に対し,「B1ら
による公正証書原本不実記載(即ち商法第231条および同法第232条に定める
招集手続を全て欠如した一部株主の違法な私的集会を株主総会だと強弁して被告B
1らニセ役員の虚偽登記を強行したもの)」「被告B1ら5名のニセ役員登記につ
きましては商業登記簿の上でも当然のことながら『解任』登記が完了いたしまし
た」との通知書を提出した。
エ 同年1月14日以降,原告らが原告会社の取引先を訪問したり,電話をかけた
りすると,取引先から,「御社は,いわば『二重政権』のような状態だから,どち
らに注文し,どちらに返品してよいか判断がつかない。」ことなどを理由として,
事態が落ち着くまで取引を停止したいと告げられることがあった(甲28号証な
ど)。原告会社と取引先とのすべての取引が再開されたのは,平成11年5月であ
る。ちなみに,平成10年11月から平成12年2月までの間の,原告会社の納
品,返品及び入金額は別紙4(省略)に記載のとおりである。
オ 平成11年1月当時,朝霞倉庫には,約132万冊の在庫書籍が保管されてい
たが,原告会社の経営陣(原告A3及び原告A6)は,同年3月8日,朝霞倉庫を
管理していた労働組合員を排除して,同倉庫から相当数の在庫書籍を搬出した。そ
して,原告会社は,同月16日,労働組合に対し,本社社屋の不法占有状態を解
き,本社社屋を直ちに原告らに明け渡すことを要求した。これに対し,労働組合
は,原告A1に対し,同月17日付けで,「会社の適法かつ正当な代表者は,B1
氏であり,貴殿の主張はまったくの虚偽」であり,「B1氏が代表する株式会社三
一書房の指示命令に従って,従業員として業務を遂行している」ことや,「会社財
産の管理保全のための宿直体制の委託を受けている」ことなどを文書で回答した。
カ 原告会社は,別紙1に記載のとおり,平成11年4月20日から平成12年3
月15日までの間に,46点の書籍の重版を行い,合計2756万5029円の費
用を支出した。
キ 原告会社は,平成11年3月4日,株式会社サンブックとの間で,倉庫保管及
び荷役契約を締結し,別紙5(省略)に記載のとおり,平成11年6月7日から平
成12年9月5日までの間に,同社に対して,合計2623万6954円の倉庫保
管料を支払った(甲32,33号証)。
ク また,原告会社は,平成11年8月30日,東京都千代田区三番町7-5所在
のコーポ麹町606号室を,期間は2年間,賃料月額15万円の約定で賃借する旨
の契約を締結し,礼金として31万5000円,敷金として45万円,保険料とし
て1万5000円,仲介手数料として15万7500円,公正証書作成分担金とし
て1万1000円,平成11年9月1日から平成12年8月31日までの分の賃料
として214万5000円,の合計309万3500円を支払った(甲36,甲3
7)。
2 争点1(本件続行決議の有効性)に対する判断
(1) 以上に認定したところを前提として,まず,争点の1の本件続行決議の効力に
ついて判断する。
 ア まず,株主総会においては,総会の延期または続行の決議をすることができ
るとされており(商法243条前段),この決議による場合には,改めて召集手続
をとることは不要とされている(同条後段)。これは,延会または続行の決議は開
催中の株主総会において決議されるもので,出席している株主は,この決議に参加
するだけではなく,延期または続行される総会の日時や場所を当然に知ることがで
きるので,改めて召集手続をとる必要はないと考えられるためである。したがっ
て,株主総会において有効に続行決議がなされるためには,その株主総会の終了前
に,出席している株主が決議に参加できる形式で決議がなされることが必要であ
る。
 イ そこで,これを本件についてみてみると,前記認定のとおり,被告ら主張の
本件続行決議は,12月31日臨時総会において第1号議案ないし第3号議案が審
議され,採決された後,その議長を務めていた原告A1がこの臨時総会に出席して
いた株主らに対してその閉会を宣言し,原告A1らに賛同する株主らが会場から退
席した後,これを不服として会場に残っていた被告らのみによってなされたもので
あることが認められるところ,株主総会の議長は,株主総会の秩序を維持し,議事
を整理する権限を有するとされており(商法237条の4),株主総会の開会及び
閉会を宣言することも議長の権限に含まれると解されるから,本件12月31日臨
時総会は,原告A1が閉会を宣言した時点で終了したものというべきであり,しか
も,本件続行決議が
なされる前に,この臨時総会に出席していた株主の一部は会場から退去してしまっ
ていたのであるから,被告らがした本件続行決議は,その要件を欠き,その効力を
認めることはできないといわざるをえない。
 ウ したがって,本件続行決議が有効なものではない以上,これに基づいて開催
された1月14日続会を12月31日臨時総会の続会であると認めることはできな
い。
(2) これに対し,被告らは,12月31日臨時総会において原告A1による閉会宣
言前になされた決議は不存在あるいは取り消されるべきものであり,その後になさ
れた原告A1の閉会宣言は無効であり,存在しないものであるから,本件続行決議
は有効であると主張する。
 ア しかし,12月31日臨時総会は,前記認定のとおり,一応,株主総会とし
ての形式を持った議決がなされており,決議自体が不存在であるとは認められな
い。また,議長である原告A1の議事運営は,被告B1側株主の動議や質問などを
ほとんど全て無視してなされたものであり,争われれば,決議の方法が著しく不公
正なものであるとされる可能性がないわけではないと考えられるが,仮に,この1
2月31日臨時総会での決議が取り消されるべきものであったとしても,議長によ
る閉会宣言が当然に無効となるものではないし,さらに,この閉会宣言が何らかの
原因で無効であったとしても,その後の決議がすべて当然に適法になるものでもな
い。
 イ ちなみに,本件続行決議は,被告らの主張によっても,発行済株式総数の約
3分の1を保有する原告らの株主が会場から退去した後になされたもので,これら
の株主に対して参加の機会が与えられずになされた決議であることは明かであるか
ら,これを適法とすることはできない。
 ウ また,被告らは,1月14日続会は,発行済株式総数112万株の過半数に
相当する75万0880株を有する株主が出席したので,適法に成立したとも主張
しているが,前記認定のとおり,1月14日続会は,これに出席した被告B1側株
主以外の株主への招集通知がなされていない。そして,招集通知を欠いている場
合,いわゆる全員出席総会ならば格別,単に総会の定足数に達しているというだけ
ではその瑕疵を治癒することはできないと解されるから,この点からも1月14日
続会を原告会社の適法な株主総会と認めることはできない。
(3) 以上のとおり,本件続行決議は有効なものではないから,これに基づいて開催
された1月14日続会を原告会社の適法な株主総会と認めることはできない。そう
すると,この続会でなされた被告B1らの取締役への選任決議も無効であり,被告
B1らが取締役であることを前提とした取締役会も原告会社の適法な取締役会と認
めることはできないのであって,そのような取締役会によってなされた被告B1の
原告会社の代表取締役への選出も無効である。したがって,被告B1が原告会社の
代表取締役としてなした前記認定の一連の行為は,その効力を認めることができな
いといわざるをえない。
3 争点2(被告らの本社社屋及び朝霞倉庫の占有・管理の違法性の有無)につい
ての判断
(1) 次に,被告らは,原告ら経営陣が被告B1をはじめとする被告B1側株主の株
主権を否認したうえで,株主総会の議事を強行したのであるから,被告らが1月1
4日続会を開催し,本社社屋及び朝霞倉庫の占有・管理を行った行為には違法性が
ないと主張しているので,この点について判断する。
 ア 確かに,前記認定のとおり,12月31日臨時総会にあたって,原告らと被
告B1らとの間で株主資格やその持株数について争いが存していたのに,同総会に
おいてなされた決議の得票数は,原告らの主張にそって数えられたものである。
 イ そして,被告B1及びPは,原告会社に対し,否認された株主権の確認を求
める訴訟を提起したところ,Pの提起した訴訟(当庁平成11年(ワ)第7928号
事件)については平成12年3月8日に,被告B1の提起した訴訟(当庁平成12
年(ワ)第6919号事件,平成11年(ワ)第8461号事件)については平成13
年3月26日及び同年5月30日に,当庁において被告B1及びPの請求を認容す
る旨の判決がなされ,被告B1の事件のうち一つは控訴審でも維持され,Pの事件
は,上告審でも維持されていることが認められる(乙1ないし4号証,乙14,1
5号証)。
 ウ また,原告A1の議長としての議事運営に不公正な点が認められ,その決議
の公正さにも疑問の余地があることは前記認定判示のとおりであるが,しかし,商
法はそのようなときの救済方法として株主総会決議取消の訴え(247条)を定め
ていて,その判決には対世効も認められており,この訴え以外の方法で株主総会の
決議の取消事由を主張することを予定していないと解される。したがって,仮に,
12月31日臨時総会の決議に取り消される余地があったとしても,それ故に,こ
れに反対する株主が,そのような法の定める手続によらないで,自分たちだけの判
断に基づいて取締役や代表取締役を選任し,その代表取締役によって自分たちの希
望する経営方針に適合する方策を実施することを法が許容しているとは,到底考え
られないところであ
るから,被告らの上記主張を採用することはできない。
(2) また,被告らは,原告らが原告会社の財産を違法に取り崩しているので,原告
らの違法行為を是正して会社財産の散逸を防止するため,本社社屋及び朝霞倉庫の
管理を行っているなどと主張している。
 ア 確かに,前記認定のとおり,原告会社は,12月31日臨時総会以前の時点
で,取引銀行と交渉して1億3000万円を引き出したり,埼玉県新座市所在の不
動産を1億7000万円で売却したり,千葉市稲毛区宮野木所在の不動産に譲渡担
保を設定したりしていたことが認められる。
 イ しかし,会社の経営を担当する者が会社財産を売却したり,あるいは会社名
義の預金を引き出したりしたとしても,それが直ちに違法となるものではないこと
はいうまでもない。本件においても,原告会社の社長である原告A1が,上記アに
記載の行為をしたとしても,これが直ちに原告会社に対する不法行為を構成するわ
けではない。仮に,これらの行為が不法行為に当たるとしても,被告B1は原告会
社の株主に過ぎないのであるから,原告会社の財産散逸を防止するための自救行為
あるいは正当防衛行為として,被告B1に本社社屋や朝霞倉庫を占有し管理する権
限が生じるとも考えられない。
 ウ したがって,被告らの上記主張も採用できない。
4 争点3(被告らの違法行為と原告らの損害及び因果関係)についての判断
(1) 逸失利益について
ア 原告会社は,被告らが朝霞倉庫を占拠しなければ同倉庫内に保管されていた在
庫本を販売することにより利益を得られるはずであったと主張し,原告会社の主要
な取次業者である株式会社トーハン及び日本出版販売株式会社の2社に対する平成
10年12月11日から同月25日までの在庫本の売上額を逸失利益の算定根拠と
して損害額を主張している。
  しかし,原告の逸失利益として検討すべきは,被告らの違法行為がなければ得
られたであろう売上高から,その売り上げに必要とされる経費を控除した額がいく
らかということである。そして,本件における被告らの違法行為は,本社社屋及び
朝霞倉庫をその管理下においたことであるから,これらの違法行為がなければ得ら
れたであろう本件の逸失利益は,朝霞倉庫に保管されていた在庫本についての売上
高からこれら必要な経費を控除した額である。
イ そこで,まず,被告らの違法行為がなければ得られたであろうと予測される売
上高について検討する。
 (ア) 原告会社が平成10年12月7日に書籍取次業者等に対する納品を再開
し,同月11日から同月25日までの間に株式会社トーハン及び日本出版株式会社
に対して納品した在庫書籍の総額が1409万3630円であることは,前記認定
のとおりである。なお,原告会社は同期間の在庫書籍の納品額は1887万557
0円であると主張するが,在庫の中には新刊本についてなされる買切り分は含まれ
ないから,これを控除すると上記金額となる。(甲70,71号証)
 (イ) そして,原告会社は,平成10年11月14日からロックアウトを実施
し,12月7日には納品を再開しているが,この間(3週間,営業実日数15日
間)は注文・納品がなされていないので,本来ならばこの期間内になされるはずの
注文・納品は,12月11日から25日までの間になされたものと推認される。し
たがって,上記(ア)の金額は,ロックアウト期間をも含めた納品額と考えるのが相
当である。そうすると,1日あたりの在庫書籍の納品額は56万3745円,1か
月あたりの在庫書籍の納品額は1127万4904円となる。これから原告主張の
返品率40パーセントに相当する部分を減じると,ロックアウトがなされた以降の
1か月あたりの在庫書籍の売上額(予測額)は,676万4942円となる。
(ウ) また,原告会社の平成11年1月以降の納品額は別紙4に記載のとおりであ
り,同年1月から同年4月までの納品額(同年1月が366万0808円,同年2
月が20万3830円,同年3月が4万2497円,同年4月が219万9706
円)は,ロックアウト後の1か月当たりの在庫書籍の納品額である1127万49
04円と比べて大きく減少しているが,取引が全面的に再開された同年5月以降の
納品額(同年5月が1676万9555円,同年6月が1119万2183円,同
年7月が2380万5138円,同年8月が4211万9489円,同年9月が3
671万4105円,同年10月が3245万0144円,同年11月が2853
万8029円,同年12月が2432万6447円,平成12年1月が1137万
9406円,同年2
月が2156万7732円)は,ロックアウト後の1か月あたりの在庫書籍の納品
額である1127万4904円と比べて,それほど大きな違いは生じていない。な
お,別紙4に記載されている納品額は新刊本販売分をも含めた金額であり,本件で
は新刊本販売分の納品額は差し引かれるべきであるが,原告会社はこの点につき何
ら主張立証をしていない。よって,平成12年1月以降の在庫品販売高という視点
からは,上記納品額はこれよりも少額になることが明らかである。
(エ) また,前記認定のとおり,原告A6らは,原告A1の命により,平成11年
3月8日に朝霞倉庫から在庫書籍を相当数搬出しているから,原告会社は,このと
き搬出した書籍を在庫として管理し販売しているのではないかと推認される。しか
も,前記の原告会社に対する平成11年1月以降の返品額から考えると,原告会社
では毎月相当数の返品がなされており,原告会社は,平成11年1月以降に返品さ
れた書籍を在庫として管理し販売していることも推認される。なお,原告会社は,
重版せざるをえなくなったとして重版費用を請求しているが,重版した書籍につい
ては,これを販売することにより相応の利益を得ているものと推認される。
(オ) 以上からすると,原告会社は,平成11年5月には書籍取次業者との取引を
全面的に再開して,朝霞倉庫に保管してある在庫書籍の販売によらずに既刊本の販
売を行っており,その販売水準も被告らが朝霞倉庫の管理を始める前の水準に回復
しているものと認められる。したがって,被告らが朝霞倉庫を占有・管理したこと
によって原告会社が在庫書籍を販売することができずに損害を被ったのは,平成1
1年1月14日から同年4月末日までの期間であると考えるのが相当である。
ウ したがって,下記のとおり,平成11年1月から同年4月までの期間の納品額
から返品率40パーセントを控除した売上額と,前記認定のロックアウト後の在庫
書籍の毎月の売上額(予測額)676万4942円との差額の合計額2339万5
665円が,被告らが朝霞倉庫を管理することによって減少した原告会社の売上げ
であると判断される。
(ア) 同年1月 売上額219万6484円,差額456万8458円
(イ) 同年2月 売上額 12万2298円,差額664万2644円
(ウ) 同年3月 売上額  2万5498円,差額673万9444円
(エ) 同年4月 売上額131万9823円,差額544万5119円
               差額合計額 2339万5665円
エ また,甲64号証によれば,既刊本の原価率は,平成10年3月12日当時,
おおむね55.4パーセントであったと認められる。そして,この時期以降,原告
会社の経営状況がより厳しいものになっていることは明らかであるから,本件当時
も,これと同程度の原価率であったと認めるのが相当である。そうすると,原告の
得られたであろう利益は,前記の売上高に,上記の原価率を控除した利益率を乗じ
た額となる。したがって,本件で原告に生じた逸失利益は,1043万4466円
となる。
   計算式 23,395,665×0.446=10,434,466.59(1円未満切り捨て)
オ なお,被告らは,原告A1らによるロックアウトや業務放棄などによって原告
会社の信用を著しく失墜させたのであり,原告会社に生じた損害と被告らの行為と
の間には因果関係が存在しないと主張しているので,この点について検討する。
  確かに,これまでに認定したような平成11年1月14日までの経過からする
と,その当時,原告会社においては,労使対立が激化して,労働組合側は連日スト
ライキを実施する一方,使用者側は本社社屋のロックアウトを実施するなど,正常
な業務を遂行しうる基盤が欠落していたことが認められるのであって,平成10年
11月から売上げは落ち込み,ロックアウト実施後に業務を再開した同年12月7
日以降の1か月当たりの売上げも,前記認定のとおりであった。
  しかし,原告らによる本社社屋のロックアウト実施後においても,原告会社に
おいては前記4の(1)のイに認定のとおりの売上げがあったのであるから,これと比
較して低下した売上分については,被告らの不法行為に起因するものといわざるを
えないから,被告らの上記主張を採用することはできない。
(2) 重版費用について
 ア 原告会社が別紙1に記載のとおり重版を行い,用紙代,印刷代及び製本代等
として合計2756万5029円の費用を支出したことは,前記認定のとおりであ
る。そして,被告らが朝霞倉庫を占有・管理しなければ,原告会社は当面重版を行
う必要はなかったものと認められるから,これらの重版に要した費用は,被告らの
違法行為によって原告会社に生じた損害であると認められる。ただし,乙20号証
によれば,原告会社においては,平成10年12月末日現在でその在庫数が500
部以下の書籍については,もともと重版を行う予定であったことが認められるか
ら,もともと重版が予定されていた書籍についての重版費用は,被告らの違法行為
との間の因果関係を認めることはできないというべきである。
 イ そして,原告会社が重版を行った書籍のうち,平成11年1月8日現在で在
庫数が500部以下であった書籍(「合成洗剤の話」,「買ってはいけない化粧
品」,「アイヌ民族と日本の歴史」,「国立国会図書館入門」,「おもしろ哲学
史」,「新版 哲学・論理用語辞典」,「山口組VS.一和会」,「不可触民」,
「血と抗争」)については,平成10年12月末日においても在庫数はほぼ同数で
あったと推認されるから,これらの書籍の重版費用568万3550円(原告会社
が直接製作原価として支出した額)については,上記金額から控除されるべきであ
る。
 ウ そうすると,重版費用合計額2756万5029円から平成10年12月末
日において在庫数が500部を下回っていたと推認される書籍の重版費用額568
万3550円を控除した残額である2188万1479円が,被告らの不法行為と
因果関係の認められる損害である。
(3) 倉庫費用について
 ア 前記認定のとおり,被告らが朝霞倉庫を排他的に占有・管理していなけれ
ば,原告会社は,朝霞倉庫をその書籍保管倉庫として使用することができ,株式会
社サンブック社に対して平成11年3月4日に書籍の保管業務を委託する必要はな
かったものと認められる。そして,前記第6の1の(5)のキで認定したとおり,原告
会社が株式会社サンブック社に対して,別紙5に記載のように平成11年5月分か
ら平成12年8月分までの書籍保管料として2623万6954円を支払ったこと
が認められるから,原告会社は同額の損害を被ったものということができる。
 イ なお,原告会社は,上記平成11年5月分から平成12年8月分までの1か
月当たりの平均倉庫費用163万9809円を基礎として,平成13年5月まで2
5か月分の倉庫費用を請求しているが,平成12年9月以降については,前記サン
ブック社あるいは他社との間で書籍の保管料を支払ったとの立証はなされていな
い。
(4) 事務所費用について
 ア 原告会社は,被告らが朝霞倉庫を占有・管理したことにより,本社機能を持
つ事務所を別途賃借せざるを得なくなり,平成11年8月30日に千代田区三番町
7番地5所在のコーポ麹町606号室を賃借したと主張している。
 イ しかし,前記認定のところによれば,平成10年11月14日に原告会社が
本社社屋のロックアウトに踏み切った後,原告A1らが朝霞倉庫において会社の業
務を遂行していたような事実は認められない。
 ウ また,被告らが朝霞倉庫の占有・管理を開始したのは平成11年1月14日
であるが,原告会社が上記のコーポ麹町606号室について賃貸借契約を締結した
のは同年8月30日のことで,被告らの朝霞倉庫の占有・管理から既に7か月以上
も経過していたことに照らし考えると,原告会社が同室を賃借したことと,被告ら
による朝霞倉庫の占有・管理との間に,相当因果関係を認めることはできない。
(5) 在庫書籍の価値の低下について
 ア 原告会社は,出版後6か月を経過した書籍については税務上100パーセン
トの損金処理をなしうることなどを前提に,朝霞倉庫内の在庫書籍の現在の市場価
値は,平成11年1月14日と比較すれば80パーセント低減しているとして,同
日現在の在庫書籍の市場価値である7億4882万6187円の約80パーセント
に相当する5億円の財産的価値が失われたと主張し,仮に,本判決によって原告会
社の逸失利益が1億7820万円の請求金額以上に認定されない場合には,予備的
に,この朝霞倉庫内の在庫書籍の評価額の低減による損害を,上記逸失利益額に達
するまで請求すると主張している。
 イ しかし,書籍の販売価格は,再販価格維持制度が採用されているので,在庫
書籍であっても定価で販売できることは明らかである。したがって,税務上出版後
6か月を経過した書籍については損金処理をなしうるからといって,現実に在庫書
籍の価値が当然に低下するわけではないから,原告らの上記主張も理由がない。
(6) 以上から,被告らの不法行為によって原告会社に生じた損害は,合計5855
万2899円であると認められる。
5 過失相殺について
 ところで,被告らは明示的には過失相殺の主張をしていないが,これまでに認
定・説示した事実関係や,以下に認定する諸事実を総合勘案するならば,本件につ
いては相応の過失相殺をするのが相当である。
(1) 原告会社は,前記認定のとおり,平成10年夏以降の労使紛争において,本社
社屋のロックアウトや,組合員の懲戒解雇や停職処分や,労働協約の解除などを行
い,労働組合排除の姿勢を強めていたが,本件で問題とされている被告B1らの行
為は,そのような原告会社による行為に対抗して行われたものという側面を有する
から,被告B1らの行為によって原告らに生じた損害賠償を考える際には,これを
誘発することとなった原告会社やその代表者である原告A1の被告B1らに対する
行為を,過失相殺の一つの事情として考慮するのが相当である。
(2) ちなみに,原告会社は,12月31日臨時総会の当日になされた株主割当てに
よる新株発行において,被告B1側株主に対する割当分については適法な引受のな
い失権株として取り扱い,原告A1,原告A2及び原告A3がその割当分を取得し
たと主張し,また,被告B1が昭和56年に取得した株式についても,被告B1が
取得した事実はないとして被告B1の株主権を否定し,上記増資における新株引受
権も認められないとするなどしていた。このような原告会社の取扱いに対して,被
告B1及びPが株主権確認請求訴訟を提起し,いずれも裁判所において認容されて
いることは,前記認定のとおりである。したがって,このような一連の経緯から判
断して,原告会社がした被告B1側株主についてその株主権を否定したのは,原告
A1らが12月31
日臨時総会において多数派となることを目的としてなされたものと認めざるをえな
い。
(3) また,12月31日臨時総会の議長であった原告A1の議事運営方法が被告B
1らに対して公正なものではなく,問題を含むものであることは,これまでにも指
摘したところであって,被告B1側株主は,そのような原告A1らの不公正な取扱
いに反発して本件続行決議に及んだものであり,その後の被告B1らの本社社屋の
ロックアウト解除や朝霞倉庫の管理支配などの行為も,その延長線上にあるものと
認められるから,同様に,原告会社や原告A1らの被告B1側株主に対する不公正
な取扱いなども,過失相殺において考慮するのが相当である。
(4) さらに,甲48ないし51号証,甲79号証,乙6号証,乙9ないし12号
証,原告A1本人尋問の結果,被告B1本人尋問の結果によれば,原告会社は,1
月14日続会以後も被告B1らに対する不公正な取扱いを続け,平成11年1月2
1日には被告B1側株主を排除して株主総会を開催して原告A1らが原告会社の役
員に復する旨の決議をしたうえ,その旨の登記をしたほか,同年2月21日の株主
総会の際には,原告らを取締役として認める旨の確認書に署名捺印しない限り総会
場に入場させないこととしたり,同年3月7日には,さらに被告B1及びPの持株
を減じて取り扱ったうえで原告A1らを取締役に選任するとの決議をしたことのほ
か,被告B1及びPの株主権確認請求が裁判所によって認容されたことから,平成
13年9月に被告B1
が原告会社に対する仮処分を得て同被告が主張する株数の株主権の行使を前提とし
て株主総会の開催を求めたところ,原告会社は,以前からの株主で12月31日臨
時総会にも出席していたQについて,招集通知書を持参しないとの理由で入場させ
ず,また,被告B1らを支持する株主の多くから議決権の行使を委任されていた被
告B2がこれを問い質したところ,同人を退場させるなどしたことが認められる。
  そして,原告会社や原告A1らのこれらの行為によって被告B1らが原告会社
に対する反発を強め,本社社屋や朝霞倉庫の占有・管理を今日まで継続している事
情の一つになっていると考えられるから,これらの原告会社や原告A1らの行為な
どは,原告に生じた損害の拡大に寄与しているものということができ,本件の過失
相殺において考慮すべきである。
(5) 以上のとおり,被告らが本社社屋と朝霞倉庫を占有・管理することによって原
告会社に生じた損害は,原告会社及び原告A1らの行為が引き金になっていること
は明らかであるから,本件では原告会社にも過失があるといわなければならない。
  これらの過失は,これまでに認定・説示した全ての事情を総合的に勘案して,
前記の相当因果関係が認められる原告会社の損害について,8割の過失相殺をする
のが相当である。よって,被告らが原告会社に対して賠償すべき金額は,前記の5
855万2899円の2割に相当する1171万0579円(1円未満切り捨て)
とすべきである。 
6 争点4(原告ら個人に対する名誉毀損の成否)について
 (1) 原告A1,原告A2,原告A3,原告A4,原告A5,原告A6及び原告A
7は,同人らが原告会社の役員であるのに,被告らがこれを否定する本件登記を申
請したり,同様の内容のチラシなどを配布したことを理由として,その名誉が侵害
されたと主張する。
 (2) しかし,そもそも会社の役員であることを否定されたからといって,それで
直ちに個人的な社会的評価が低下するというものではない。しかも,被告らが,原
告らは取締役を解任されたものであるとの事実を摘示したとしても,取締役の解任
事由はもともと限定されたものではなく,何時でも自由になし得るものであって,
実際にも,会社内での路線の対立によって取締役を解任されることも少なくないの
で,取締役を解任されたという事実だけで,原告ら個人の名誉感情や社会的評価が
当然に客観的に低下するというものでもない。
 (3) したがって,原告ら主張の事実をもってしては,原告らの社会的名誉が客観
的に毀損されたということはできないから,原告らの上記主張を採用することはで
きない。
  7 結論
以上によれば,原告らの本件各請求のうち,原告会社が被告らに対して連帯して1
171万0579円及びこれに対する平成11年1月18日から支払済みまで年5
分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容する
こととし,その余の請求はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき
民事訴訟法61条,64条,65条1項を適用し,仮執行の宣言については事案の
性質に鑑み相当ではないから付さないこととして,主文のとおり,判決する。
東京地方裁判所民事第48部
                     裁判長裁判官須藤 典明
                        裁判官鳥居 俊一
                        裁判官高橋 純子

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