弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1Xらの控訴に基づき,原判決第2項を次のとおり変更する。
()Y会社は,X1に対し,220万円及びこれに対する平成14年1
10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()Y会社は,X2に対し,110万円及びこれに対する平成14年2
10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()X1のその余の金員請求及びX2のその余の請求をいずれも棄却3
する。
2Y会社の控訴を棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じて,
()X1とY会社との間に生じた費用は,これを4分し,その1を同1
Xの負担とし,その余をY会社の負担とする。
()X2とY会社との間に生じた費用は,これを5分し,その2をY2
会社の負担とし,その余を同Xの負担とする。
4この判決は,主文1項(),()に限り,仮に執行することができる。12
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1Xら
()原判決中,Xら敗訴部分を取り消す。1
()Y会社は,X1に対し,800万円及びこれに対する平成14年10月2
13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()Y会社は,X2に対し,400万円及びこれに対する平成14年10月3
13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2Y会社
()原判決中,Y会社敗訴部分を取り消す。1
()X1の請求を棄却する。2
第2事案の概要
本件は,Y会社の発行する「Y新聞」の新聞販売店を経営するX1が,Y会
社がした新聞販売店契約の更新拒絶には正当な理由がないと主張して,Y会社
に対し,新聞販売店契約上の地位を有することの確認を求めるとともに,Y会
社が継続的取引関係における供給者側の優越的地位を濫用し,同Xの営業権を
違法に侵害したとして,不法行為に基づく損害賠償請求をし,同じく新聞販売
店を経営するX2が,Y会社に対し,Y会社が新聞販売店契約を不当に解除し
ようとしたことによって精神的苦痛を受けたなどとして不法行為に基づく損害
賠償請求をしている事案である。なお,X2においても,X1と同様に,地位
確認の訴えも提起していたが,Y会社は,その確認の利益を争った末,平成1
7年12月9日に,上記地位確認請求を認諾した。
原審は,X1の地位確認請求を認容したが,Xらの損害賠償請求をいずれも
棄却した。これに対し,Y会社及びXらがともに控訴した。
1前提事実
()当事者等1
以下の諸点を加えるほかは,原判決2頁24行目から3頁11行目のとお
りである。
ア原判決3頁5行目の末尾に続けて,「Y新聞はわが国有数の発行部数を
誇る新聞である。」を加える。
イ同頁7行目の「第2部」の次に「(O地区とP地区以外のF県,J県,
L県を管轄している。)」を加える。
ウ同頁11行目の次に,改行して
「ウSは,Y新聞販売店で構成するYa会の中で,Yb会副会長,販売第
2部連合Ya会の会長,Yc会(販売第2部管内のT地区の販売店主全
員で構成)の常勤顧問であって,T地区に新聞販売店6店(j町,o1
町,o町,i町,w1町,r町)を経営し,それらと後記の2店を管理
下におくS1会社,新聞の折込広告事業をするS2会社,新聞販売店に
労働者派遣をするS3会社の代表者をしている。
Ssは,Sの弟であり,新聞販売店2店(W1地区,W2地区)を経
営し,上記3社の取締役のほか,Yc会の会長をしている。
Nは,もとSsの従業員であったが,その後独立して,Yu店,Yk
店を経営している。」
を加える。
()新聞販売店契約の締結等2
原判決3頁23行目の次に改行して,
「ウ上記新聞販売店契約を締結したことにより,Xらは,Y会社から新聞
を購入し,それを購読者に販売して得る購読料と,新聞紙に折り込む折
込広告料(これはY会社に直接利益をもたらさない。)を得ることにな
る。これに対し,Y会社は,販売店に販売する新聞代金と新聞に掲載す
る広告料を主な収入としている。」
を加え,同24行目冒頭の「ウ」を「エ」と改めるほかは,同頁12行目か
ら5頁6行目までのとおりであるから,これを引用する。
()新聞販売店の業務態勢等3
原判決20頁4行目から21頁17行目までのとおりであるから,これを
引用する(ただし,同20頁13行目の「毎日」の次に「1回ないし」を加
え,同21頁12行目の「報告するよう求めている。」を「店舗に常備し,
Y会社が閲覧を求めたときに速やかに提示するよう求めている。」と改め
る。)。
()Y会社とX1との間の紛争の発生とその後の経緯(概要)4
アY会社(担当者I)は,平成13年春ころ(ただし,X1は,同年5月
17日と主張するのに対し,Y会社は,同年4月末から5月中旬ころと主
張している。),X1に対し,同Xの販売区域であるH地区世帯数約51
00世帯の内,約1500世帯に相当する区域を同Xの新聞販売店から切
り離してY会社に返還し,同区域内の購読者名簿及び配達順路表を引き渡
すよう申し入れた。
イX1は,一旦はこれに同意したが,同月29日に,Y会社(販売局長)
に対し,上記申入れを拒否する旨回答した。
ウY会社は,同年6月28日,代理人弁護士・Z1名をもって,X1に対
して,H地区の世帯増に対する消化率が低く,努力不足が認められること,
部数実態報告に虚偽があることなどを理由に,Yh店の担当区域から,H
町大字h1,h2,h3,h4の4区域を返還し,これら地域の読者台帳
を同月末日までに引き渡すべきことを申し入れるとともに,同Xがこれに
応じない場合には,新聞販売店契約は同年7月末日をもって期間満了とし,
更新しない旨を通知した(甲12)。
エX1は,Y会社を債務者として,同年6月25日,福岡地方裁判所小倉
支部に対し,新聞販売店の地位を仮に定めることを求める地位保全仮処分
の申立てをし(同庁平成13年(ヨ)第182号事件),同裁判所は,同年
10月29日,X1がY会社に対し,同年8月1日から本案の第1審判決
言渡しの日までの間,H地区において,本件新聞販売店契約上の地位にあ
ることを仮に定める旨の決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした
(甲4)。
()Y会社とX2及びAとの間の紛争の発生とその後の経緯5
原判決5頁23行目から6頁3行目までを引用するほか,これに続けて
「ウY会社(M部長)は,同年4月1日に,Z2代理人に,X2らの変心
が理解できないとしながらも,X2らが誠実に販売業務に取り込み,営
業努力をすれば,販売店として共存共栄を図ることもあると返信した
(甲6)。
Y会社は,同年9月2日の夕刊から,Aに対するY新聞の供給を停止
した(甲36,乙84)。」
を加える。
2争点
()争点及びこれを巡る原審での当事者の主張は,原判決第2の3項(同61
頁8行目から19頁24行目まで)のとおりである(ただし,同7頁20行
目の「6月」の次に「時点のYh店」を,同9頁15行目末尾の次に「さら
に,平成13年2月の時点では,同地区の世帯数は5100まで増加したの
に定数は1618と伸び悩み,普及率は31.7パーセントまで下落し
た。」を,それぞれ加える。)から,これを引用する。
()当審でのY会社の主張2
アX1の虚偽報告について
X1の総収入から雑収入と折込広告料を控除した残額を,購入する新聞
の原価で除して販売部数を逆算する(その計算方法が正しいことは同Xも
自認している。)と,その実配数は,平成10年ころからY会社に報告し
ている実配数を約300部も下回ることになり,同Xは,上記の架空読者
数どころではない,極めて悪質な虚偽報告をしていたことになる。同Xの
実配数は平成13年6月から急落しているところ,そのような急落は,上
記の実態を是正しておこうとしたとしか考えられないものであり,そのこ
とからも上記虚偽報告の実態が裏付けられる。
イX1に対する販売区域分割の申入れについて
(ア)X1の経営するYh店では業績不振が認められたこと,すなわち,
同店の販売区域では世帯数が増加しているにもかかわらず,それに見合
う増紙がなく,普及率が次第に下落していったことは,原判決第2の3
項の()(Y会社の主張)イのとおりである。1
(イ)ところで,このようにYh店の区域内における世帯数の増加は,主
としてYh店から離れた,国道○号線以西のK市やQ市と隣接する地域
で宅地開発が進んだことが原因と考えられ,同店の普及率は特にその地
域で低かった。
そこで,Y会社(M部長,I)は,このまま上記地域をX1に委せる
より,Yh店からみて周縁地区にある部分を他の営業力のある販売店に
引き継がせ,X1には,Yh店周辺の地域で営業活動に専念させる方が
よいと判断し,平成13年4月末から同年5月中旬ころにかけて,X1
に対して,①同Xの長男をFの販売店で研修させることと,②区域
の一部分割を申し入れた。
なお,①は,従来,X1が長男を従業員として雇用していたところ,
将来,同人が独立して新聞販売店を開業したいと申し出た場合に備えて,
きちんとした販売店で適正な業務運営を学ぶことが必要不可欠であると
考えたからであり,かつ,そのようにして同人が外部に研修に出ること
により,その分の人件費が削減できるため,Yh店の区域が一部分割さ
れても同店の経営が成り立つものと考えたからである。また,②につい
ては,Iが分割を受ける目安としていたのは1500世帯であり,部数
にすれば375部ないし多くみてもせいぜい480部程度であるから,
なお1000部以上の部数がYh店に残ることになるので,その後も十
分に経営が成り立つものと判断したものである。
(ウ)以上のとおり,Y会社の上記申入れは,Yh店の経営の実情に即し
た合理的なものであって,X1に対して不可能を強いるようなものでは
なかった。
なお,上記分割にかかる区域を譲り受ける者としては,Nが予定され
ていたが,これは同人のYu店での営業手腕を評価したからであって,
X1がいうようなSらの便宜を図ったものではない。
()当審でのX2の主張3
X2が,Yc会から除名等の違法行為を受けたことについては,Y会社
にも責任がある。すなわち,Yc会の運営については,Y会社が深く関わ
っており,新会則上も「Y会社本社」との協議(会長の選任や会員の除
名)や協同(会務の運営)が定められているし,その除名の規定を設ける
際には,Iが相談を受け,X2の除名決議にも立ち会って,異議を述べて
いないのである。
第3当裁判所の判断
1争点判断の基礎となるべき事実
()X1がYh店の経営を引き継いだ経緯1
原判決21頁19行目から22頁13行目までを引用する(ただし,21
頁24行目の冒頭に「イ」を加える。)。
()Yh店の営業の推移2
原判決29頁5行目から30頁7行目まで(アないしエ)を引用するほか,
それに続けて
「オYh店の平成10年から平成13年までの折込広告料収入は,いずれ
も年間2100万円を超えている。」
を加える。
()X1がY会社に虚偽報告をするに至る経緯及びその実態3
ア上記()のとおり,Yh店の営業成績は,前任者のRから引き継ぎを受2
けた後数年間は悪化の一途を辿り,実配数の減少傾向が止まらず,その結
果,実配数が定数を相当下回る状況が続いたため,平成5年10月にはつ
いに定数を従来の1500部から1320部に切り下げるまでになったが,
その後増勢に転じ,平成8年1月には定数も元の1500部を回復したば
かりか,徐々に増加し,平成10年1月には1625部にまで達した。ま
た,実配数も同年1月には約1600部にのぼるなど,定数との差も少な
くなっていった。
イしかし,遅くとも平成11年半ばころからは実配数の伸びが止まり,平
成12年5月からは1600部を割り込むようになったが,X1はこれを
Y会社に対する業務報告には反映させず,同報告書の定数及び実配数を減
らさなかったため,実態と報告が乖離するようになった。そして,平成1
1年5月ころからは,H地区の28区域のうち26区を架空読者を計上す
るために利用し始めた。(甲131,原審でのX1本人)
ウ平成12年5月18日,X1は,Y会社販売局長に宛てて,予備紙の部
数を虚偽報告していた(7部と報告していたが,実際には約40部であっ
た。)ことを認めて反省するなどとする内容の誓約書(甲38)を提出し
た。
エX1は,平成13年6月当時,Y会社に対しては,定数1660部,実
配数1651部と報告していたが,実際には26区に132世帯の架空読
者を計上していたので,実際の配達部数は1519部を超えないことにな
る。
なお,Y会社は,X1の平成10年から平成12年度の確定申告におけ
る売上額等に基づいて,Yh店には,常時200ないし300部の架空読
者があった旨主張し,さらに当審においても上記第2の2()アのとおり2
主張する。しかしながら,そもそも上記のような計算から割り出される数
字がどこまで実態を反映しているかは多分に疑問としなければならない。
例えば,Y会社の上記主張は,全ての新聞購読者が代金を支払うことが前
提とされているところ,これを支払わない者や,当初から無償で提供され
ている者も少なからず存在するであろうことは十分考えられるのであって,
そのようなところからしても,同主張を直ちに採用することはできない。
オIは,平成13年6月25日,X1から帳簿類(手板,読者台帳,発証
集計表等)の呈示を受けて調査した結果,26区に架空読者が集められて
いるのではないかと疑ったが,これを突き止めるまでには至らなかった
(乙66,原審での証人I,同M)。なお,X1は,この時点で上記26
区の架空計上の事実をIに告げた旨供述するが,到底信用することができ
ない。
()Y会社のX1に対する経営指導(区域分割の提案を含む。)とこれに対4
する同Xの対応
アM部長は,平成12年6月に販売局第2部長に就任したが,上記()ウ2
及びエの事情を踏まえて,同月16日にYh店を訪問し,直近4か月の平
均止押数が平均6.5部であって,約1600部という部数と比較して非
常に低く,新規購読契約及び購読継続契約(止押)数が悪い,所長自身の
努力不足であり,その他の従業員の営業成績も悪いなどと指摘して,同X
の努力を促した(甲87,原審での証人M)。
イX1は,同年8月8日,期間を同年9月1日から10年間として店舗用
の建物を新たに賃借した上,500万円ほどかけて同建物を増改築するな
どした(甲18,X1本人)。
ウ同年12月16日,T地区増紙対策会議が開催された。X1も同会議に
出席し,増紙目標を提出した。これに対し,M部長は,目標値が低すぎる
として,同Xに上方修正するよう求めた。同Xはこれを拒否したが,他方
で,平成13年3月,それまでの定数1625部を1645部とし,さら
に同年4月には1660部とした。(甲87,130,131,原審での
証人M,X1本人)
エM部長或いはIは,平成13年4月末ころから同年5月中旬ころまで,
数回,Yh店を訪問し,業務報告書について区域別定数実態表(毎月の区
域別の実配数,入り,止め等を記載するもの)を記載することなどの改善
を求めるとともに,X1の長男について,将来,Y会社の新聞販売店とし
て独立するために,他店で研修をすることを提案し,また,H地区におい
て世帯増に対して部数が伸びていないことなどを指摘して,区域分割を申
し入れた。
なお,Y会社(I)は,X1に対して返還を求めた一部区域を同区域と
販売区域が隣接するYu店を経営していたNに引き継がせた上,同人から
Yk店の返還を受ける予定であった。
(甲99,乙86の1,原審での証人I,同M,X1本人)
オX1は,Iに対し,同年5月17日,一旦は上記区域分割の申入れを了
承し,IはM部長に,M部長はY会社販売局長U(以下「U販売局長」と
いう。)に,その旨を報告した。
ところが,X1は,同月29日,Y会社本社を訪ね,U販売局長に対し,
区域分割には応じられない旨伝えた。U販売局長は,その場では態度を保
留したが,その後,M部長に対しては,既に社で決まったことで再考の余
地はない,Y会社は分割することで準備を進めているとして方針どおり話
を進めるように指示した。Iは,X1に対し,その旨を伝えた。
(甲10,123,乙66,原審での証人I,同M,X1本人)
カM部長とIは,同年6月12日,Yh店を訪問し,通常業務の後,X1
の増紙計画が進んでいないこと,熱心な取り組みがないことを指摘し,業
務報告書について以前の指導後も区域ごとの明細がないので,次回から配
達区ごとの入り,止めを記入し,手板と照合すること等を求めた。その上
で,M部長は,X1に対し,同Xの現在の努力状況では,現担当地域を前
提にしては増紙は期待できない,長男の別地域での所長独立を援助するの
で,一部区域返還のことはもう一度考え直すように,どうしても返還に応
じないならば,販売契約更新もできなくなるが,それはY会社も望まない,
などと述べて再考を促した。(甲10,乙66,原審での証人I,同M,
X1本人)
キIは,同月19日,Yh店を訪問し,X1に対し,帳票類の提示を求め
たが,同Xはこれを拒否した。そこで,同月22日,Xら代理人Z2弁護
士事務所で,同弁護士及びX1夫妻とIとの話合いがもたれた結果,通常
業務範囲内での帳票類提示に応じることが確認され,上記()オのIの調3
査がなされた。(乙66,原審での証人I,同M,X1本人)
()Y会社のX1に対する新聞販売店契約の更新拒絶(前提事実()ウ)と同54
Xの仮処分申立て(同エ)
()その後の経過6
アX1は,平成13年7月から10月にかけて,毎月マイナス2桁の入り
止め差が生じ,4か月で合計85部の実配数が減少した旨の業務報告書を
提出した。また,同年10月には,定数を1660部とし,実配数につい
ては記載していないが,前月の実配数及び当月の入り止め差から実配数1
566部と算出できる業務報告書を提出していたところ,本件仮処分決定
後の同年11月には,定数を1450部,実配数を1428部とする業務
報告書を提出した。同Xとしては,この際に実配数につき26区の架空読
者分ほか134部を削減し,定数もこれに合わせたものである。(乙11
6の1ないし6,117,原審でのX1本人)
イIは,同年12月7日,Yh店を訪問し,Y会社販売局宛の第1期増紙
計画表(甲125)及びY会社宛の誓約書(甲126)を持参して,X1
に対し,これらへの署名を求めた。第1期増紙計画表は,同年12月から
平成14年7月まで8か月間で合計110部(月平均約14部)の増紙を
目標とする増紙計画を記載したものである。また,誓約書の内容は,①
業務報告書の記載事項の明記,帳票類の完備・提示等,販売部数の透明性
を厳守すること,②上記第1期増紙計画表のとおり8か月計画を達成し,
回収率目標150%以上を継続的に達成することなどを通して減紙を早期
に復元・挽回すること,③その他現在の読者へのサービス等の業務を履
行すること,④今後,虚偽の報告及びセールスの目的外使用(食い止め
作業等)を一切しないことを誓約し,これらにつき不履行があった場合,
取引を中止されても異議を申し立てないというものである。
X1は,これらに対する署名を拒否した。これを受けて,Iは,同Xに
対し,今後,新聞供給は継続すること,注文部数その他につき自由に増減
できること,増紙業務は依頼しないこと,Ya会活動には不参画とするこ
と,業務報告は不要であるし,Iら担当員も訪店を遠慮すること,平成1
4年1月からは増紙支援をしないこと,所長年金積立は中止し,従業員退
職金の補助等をしないこと,セールス団関係は,X1が直接処理すべきこ
と,特別景品等は可能な限り辞退されたいこと,などを申し渡した。
(甲127,原審での証人I)
()X2及びAのYc会からの排除7
原判決35頁17行目から36頁10行目までのとおりであるから,これ
を引用する。
2争点()について1
()上記1の()ないし()の事実のほか,本争点の判断に関係する事情とし116
て以下の事実が認められる。
アYh店の業績の推移について
(ア)X1がRからYh店を引き継いでから当分の間は,Yh店は,実配
数の減少に歯止めがかからないなど業績が悪化したが,その後,次第に
回復していったことは上記1()及び()アのとおりである。このような23
業績の改善(販売拡大)には,T地区の他の販売店の協力があったもの
である。その結果,X1は,Y会社から,平成8年度,平成9年度に年
間目標達成賞などの表彰を受けた。(甲15の1ないし3,甲22の1,
甲131,原審でのX1本人,証人S)
(イ)ところが,X1は,平成8年ころ,Y会社の当時の担当であるVか
ら,Sが計画していたのとは別の新しいセールス団を立ち上げることに
ついて協力を求められることになった。このことを知ったSが,同年5
月14日に,Ss,Nらを連れてYh店に押し掛け,X1の頭部を殴打
するという事件が発生し,同Xは,その後平成11年ころまで,セール
ス団の派遣を受けられなくなった。競業する各新聞の販売拡大競争は熾
烈であるため,自店の営業活動だけでは限界があり,したがって,専門
のセールス団の派遣を受けられないことは営業上相当の悪影響をもたら
すものというべく,これがYh店の業績を低迷させる一因をなしている
ものと見られる。(甲22の1,原審でのX1本人)
イ新聞業界を巡る情勢
(ア)テレビ,ラジオはもとより,パソコンや携帯電話等のニュースメデ
ィアの普及,若者の活字離れ,不景気などを原因として,新聞の読者離
れが進んでいる。このため,T地区でも,Y新聞の48店舗の平均普及
率は平成2年11月に31.1パーセントであったものが,平成12年,
13年の各6月には30.2パーセントに,平成14年6月に30.0
パーセント,平成15年6月に29.5パーセントと漸減傾向にある。
(乙66,原審証人I)
(イ)一般に,新聞社は,新聞販売店に販売する新聞代金と新聞に掲載す
る広告料を主な収入としているため,その販売部数が収入の増減に直結
することから,販売部数にこだわらざるを得ない。そのようなところか
ら,拡販競争の異常さが取り沙汰され,読者の有無とは無関係に新聞販
売店に押し付けられる「押し紙」なるものの存在が公然と取り上げられ
る有り様である(甲85,152,158,164)。
販売部数にこだわるのはY会社も例外ではなく,Y会社は極端に減紙
を嫌う。Y会社は,発行部数の増加を図るために,新聞販売店に対して,
増紙が実現するよう営業活動に励むことを強く求め,その一環として毎
年増紙目標を定め,その達成を新聞販売店に求めている。このため,
「目標達成は全Y店の責務である。」「増やした者にのみ栄冠があり,
減紙をした者は理由の如何を問わず敗残兵である,増紙こそ正義であ
る。」などと記した文書(甲64)を配布し,定期的に販売会議を開い
て,増紙のための努力を求めている。M部長らY会社関係者は,Y会社
の新聞販売店で構成するYa会において,「Y新聞販売店には増紙とい
う言葉はあっても,減紙という言葉はない。」とも述べている。(甲1
10,原審証人M)
(ウ)これに対して,新聞販売店も,Y会社から新聞を購入することで代
金の支払が発生するので,予備紙を購入することは当然負担にはなるが,
その新聞に折り込む広告料が別途収入となり,それは定数を基準に計算
されるので,予備紙が全て販売店の負担となる訳ではない。ただ,その
差は新聞販売店側に不利な計算となる。
なお,この点について,Y会社は,1部当たりの折込広告料収入と新
聞紙の仕入れ価格を比較すると,平成10年から平成12年までの3年
間で,いずれもわずかに折込広告料が上回る(乙93,原審証人M)と
いうが,注文部数に応じて付加されるYa会費,店主厚生会費,休刊チ
ラシ代金などの諸経費を加えると大幅な赤字になる(甲82の1ないし
3)というのが実態であるものというべく,これは,予備紙を持つこと
を嫌う新聞販売店が多いという一般的指摘(甲85,152,158,
164)とも合致することからして,Y会社の上記主張は採用できない。
ウS,Ss及びNとY会社及びXらとの関係
(ア)Sは,昭和48年Yo店の経営にかかわって以来,その事業を拡大
し,現在前提事実()ウのとおりの役職にある,Yc会の実力者である。1
Ssはその弟で,NはSsの元従業員であって,S兄弟と密接な協力関
係にある。
(イ)Sは,自分らが中心となってセールス団体Yd会(これが後日S3
会社になる。)を設立しようとしている最中に,Yv店所長のBらが別
のセールス団体を立ち上げようとしていることなどを聞きつけ,上記ア
(イ)のとおり,X1に暴力を振るったほか,当時のY会社の担当社員で
あったVがBらの背後にいると考え,その場にVを呼びつけ,自分がや
めるかVがやめるかどちらかだ,などと強く迫った。
その後,Y会社の当時のD販売局長は,この事件についてSを叱責し
ただけで,Vは,同年7月に,他に異動した。
(甲148,乙124,原審証人S,X1本人)
(ウ)また,Sが経営するS2会社は,Yh店を含むE市郡を対象として
折込広告事業等を行う折込センターであるが,T地区ではY会社の関連
会社以外で折込センターをしているのはS2会社だけである。同センタ
ーは,広告主に対して,各販売店の部数について,G協会の公表部数
(これは,実配数ではなく,定数の合計である。)に10パーセント程
度上乗せした数値を公表していたが(なお,これは各地区で,各新聞の
折込センターが集まって,協議して決めている。),そのことをY会社
は知っていた。
(エ)Sは,昭和54年,IがT地区の担当として着任した際に同人と知
り合い,その後他の地区にいたIに金を貸したりもし,IがT地区の担
当になるように,当時のY会社の販売局長に働きかけた。Iは,平成1
3年1月から,T地区の担当となり,通常なら2,3年で転勤するのに,
その後も同地区を担当している。(乙111,原審での証人I,同M,
同S)
(オ)Sは,平成7年にK市n町のYn店を,平成12年12月にK市w
町のYw1店を譲り受けたが,Iが担当となった平成13年1月以降,
Iから打診されて,同年10月に,Yk1店のC所長と同店の販売区域
の一部(t町,r町地区)とn町地区とを相互に所定の代償金を支払っ
て交換した。同年11月には,同じく,Aの経営するYk2店の北側の
z町地区の譲渡を打診された。また,Sは,平成14年1月には,K市
のYv店の販売区域内のp町に販売店を置くことにし,そのころ,Y会
社を通じて,店舗所在地を含む一部の地域(z町,r町地区に隣接する
地域)をYv店のB所長から譲り受けた。
Iは,これらについて,CやBに,本社の販売計画として区域調整を
すると説明し,Bには,Yk2店の販売区域であるq町地区あるいはそ
の周辺店の一部を引き継げるようにするなどと述べて,同人らの了解を
得た。
さらに,Iは,平成13年10月から12月ころ,Sに,X2が引退
・廃業するので,Ym店を譲り受けないかと打診したが,X2が引退し
ないことにしたので,その話は立ち消えとなった。なお,その際,Iは,
X2又はその妻をSの折込センターで雇用することを持ちかけ,了承を
受けていた。
(乙57の6ないし8,124,126,原審における証人I,同S,
X2本人)
()前提事実及び上記1及び2()の認定事実をもとに判断する。21
ア新聞販売店契約は,新聞の宅配という重要な役割を特定の個人に独占的
に委託することから,Y会社でもそれなりに信頼できる者を人選して締結
しているはずである。そして,X1は,平成2年11月に,約1200万
円の代償金を支払って,Y会社と新聞販売店契約を締結し,その後更新を
続けて,平成8年8月1日には,本件新聞販売店契約を締結したことから,
Y会社は,同Xを新聞販売店を経営する者として適任であるものと判断し
ていたといってよい。
他方,X1としても,その後も店舗確保のために新たに建物賃貸借契約
を締結し,当該建物の増改築に資金を投下したりしていること(上記1
()イ),また,Yh店の経営のために従業員を雇用し,セールス業者に4
報酬を支払い,販売拡大のために景品等を提供するなど,相当多額の投資
をしてきたことが認められ(甲17,原審でのX1本人),もとよりYh
店での営業を生活の基盤としていることは明らかである。そうであれば,
Y会社が継続的契約であるX1との本件新聞販売店契約の更新をしないと
いうためには,正当な事由,すなわち,X1が本件新聞販売店契約を締結
した趣旨に著しく反し,信頼関係を破壊したことにより,同契約を継続し
ていくことが困難と認められるような事情が存在することが必要であるも
のというべきである。
そこで,以下,このような観点からY会社の主張を順次検討する。
イ業績不振,営業努力不足について
X1は,上記()アのとおり,当初の不振を他の新聞販売店の協力も得1
ながら挽回し,一旦減少した定数も平成8年ころには回復し,実配数もほ
ぼ定数に近づけるなど,その営業努力はむしろ高く評価されるのであり,
それだからこそ平成8年,9年と連続して表彰されてもいるものと見るこ
とができる。その後は,平成11年ころから,実配数と定数とに乖離が見
られるようになったが,その一因にはSがセールス団を回さないようにし
たことの影響があるところ,そのような仕打ちを受けた原因は,Sが主導
するセールス団とは別のセールス団の立ち上げについてY会社の担当者
(V)からの働きかけを受けたことにあること,しかも,Y会社が,X1
に暴行まで働いたSを叱責したのみで,上記のような仕打ちを放任したこ
とを併せ考えると,直ちにX1の努力不足と評するのは相当ではない。
また,その後のYh店の業績は,後記ウのような架空読者の計上を割り
引いて評価しなければならないということはあるにしても,T地区の他の
販売店と比較しても著しく劣るとはいえないし,上記()イ(ア)のような1
読者の新聞離れの傾向も考慮すれば,単にX1の業績不振,営業努力不足
の一語で片付けてしまうことはできないというべきである。なお,更新拒
絶後の業績の悪化は,Y会社が,新聞紙を供給する以外の役務の提供をし
ないということによるものであるから(原審でのX1本人。なお,Y会社
は,Yh店について「Yy新聞」への読者の赤ちゃんの掲載すら拒んでい
る(甲77の1,2,甲157の1,2)。),このことをもって営業不
振などといって責めることはできない。
ウ虚偽報告について
(ア)X1がY会社に虚偽報告をしていたことは明白である。このような
虚偽報告は,Y会社にとって到底軽視することのできないものである。
そのような現象が蔓延するときは,正確な現状認識に基づく経営戦略が
立てられなくなり,また,収入の相当部分を占める掲載広告の広告主の
信頼を損ねるという重大な事態を引き起こしかねないからである。それ
故,本件新聞販売店契約においても,これを契約解除事由として定めて
いるところである。
そして,134部の架空読者の存在は,Yh店の定数が1625ない
し1660部であるところからしても,相当の数及び割合であるといわ
なければならない。X1としては,一層の販売拡大努力をすべきであっ
たことは当然であるし,それができないのであれば,一刻も早く架空読
者の計上という不正常な事態を解消した上で,その事実をありのままに
Y会社に報告すべきである。これに反し,長期間にわたってこれを維持
したことは強く非難されて然るべきであって,同Xの責任は決して軽く
ないものといわざるを得ない。
(イ)しかしながら,新聞販売店が虚偽報告をする背景には,ひたすら増
紙を求め,減紙を極端に嫌うY会社の方針があり,それはY会社の体質
にさえなっているといっても過言ではない程である。
X1が,予備紙の部数を偽っていたとして誓約書を提出した際に提出
した平成12年10月目標増紙計画表では,定数年間目標を1665部,
実配年間目標を1659部とし,同年5月時点での定数を1625部,
実配数を1586部,予備紙を39部と,同年10月時点での実配数を
1586部,予備紙を39部として上記定数を維持した記載をしている
ところ,Y会社は,このような報告を受けても,それに合うように定数
を減らさせることをせず,上記計画表記載のとおりの同Xからの注文を
受けていたものであり,同様に,予備紙の虚偽報告が発覚したYk2店
のAに対しても,ほぼ同様の対応に終始しているのである(甲131,
乙81,104,原審証人M)。
このように,一方で定数と実配数が異なることを知りながら,あえて
定数と実配数を一致させることをせず,定数だけをG協会に報告して広
告料計算の基礎としているという態度が見られるのであり,これは,自
らの利益のためには定数と実配数の齟齬をある程度容認するかのような
姿勢であると評されても仕方のないところである。そうであれば,X1
の虚偽報告を一方的に厳しく非難することは,上記のような自らの利益
優先の態度と比較して身勝手のそしりを免れないものというべきである。
(ウ)以上のとおり,X1の虚偽報告の程度は決して軽視することのでき
ないものであり,その責任も軽くはない。まして,同Xが上記(イ)のよ
うな誓約書を提出したこともあることを考えれば,なおさらである。し
かしながら,上記(イ)のようなY会社の新聞販売店に対する態度などに
照らせば,Y会社が,X1の虚偽報告をもって本件新聞販売店契約の更
新拒絶の理由とすることを容認することはできない。むしろ,上記1
()ないし()及び2()ウの諸事実に照らせば,Y会社の本件新聞販売461
店契約の更新拒絶は,ある意味ではX1がYh店の区域分割の申入れを
断ったことに対する意趣返しの面があり(同Xが分割に応じていれば,
契約更新をしていたと思われる。),また,同分割申入れの背景にSら
とIとが意思を通じた策動の如きものが窺われることを考慮すると,Y
会社の更新拒絶に正当な事由があるとはいい難い。
エ帳票類提示拒否について
X1が,平成13年6月25日に,Iから関係帳簿閲覧提示を求められ
たにもかかわらず,架空読者の計上を発見されないよう,この要求を拒ん
だことが認められる。この点も,本件新聞販売店契約に定める契約解除事
由に該当する。
しかしながら,同Xの拒否の動機が虚偽報告の発覚をおそれたことにあ
るとすれば,虚偽報告に至る背景やそれについてのY会社の姿勢等も合わ
せて考慮すべきであり,その虚偽報告には酌量すべき諸事情があること,
本件の場合,帳票類の提示拒否によってY会社が受ける不利益は虚偽報告
を発見できなかった点にあるところ,虚偽報告自体が更新拒絶の理由とは
なり得ない以上,帳票類の提示拒否だけを取り出して,更新拒絶の正当事
由とすることはできない道理である。
オX1の分割案拒否その他について
(ア)X1が一旦承諾した分割提案を拒否したことはそのとおりである。
しかしながら,Y会社の分割案がその主張のような検討の結果であれば,
その関係資料の提出があるはずなのに,本件訴訟では,Yh店の各字毎
の読者数の資料(乙88)は提出されたものの,分割される地区と残る
地区の地理的,人文的特色や読者数等についての資料の提出はない(Y
会社は,Yh店の販売区域のうち,国道○号線以西のK市やQ市と隣接
する地区で人口が増加する割には普及率が低いというが,訴訟でそれを
裏付ける資料の提出はない。)し,むしろ,分割を予定した地域の人口
とそれ以外の地域の人口の伸びは変わらず,分割を予定した地域は約2
500人とYh店の区域の約半分になるというのであり(乙113),
Y会社のX1に対する説明とも大幅に齟齬する結果となっているのであ
る。
また,X1にすれば,上記提案はYh店の在り方に関わる重大問題で
あるから,一旦はY会社の意向に押されて不本意ながら承諾したものの,
熟慮した結果,承諾できない旨態度を変更したことを責めるのは酷であ
るし,その時点では,Y会社はそれを前提とした新たな権利関係の設定
等もしていたわけではないのであるから,それを理由に本件新聞販売店
契約の更新を拒絶するというようなことはできないというべきである。
(イ)Y会社の主張する従業員の登録拒否,協調性の欠如等については,
これを裏付ける的確な証拠はない。
()以上のとおりであって,Y会社の主張は理由がない。3
3争点()について2
上記のとおり,Y会社の本件新聞販売店契約の更新拒絶には正当事由がない
のであるから,この更新拒絶は認められない。したがって,あくまで更新拒絶
が有効であるとしてX1にそれを押しつけ,新聞紙の供給以外の役務を提供し
ないというY会社の対応は違法であり,Y会社はそれについて少なくとも過失
があるといわざるを得ない。
また,第2の1の前提事実及び上記1及び2()の各認定事実によれば,Y1
会社の上記更新拒絶の背景には,Yc会に強い影響力を有するSの意向が窺わ
れるが,その点を度外視しても,Y会社は,本件新聞販売店契約でH地区に専
売権を持つX1に区域の分割を求め,一旦承諾した同Xがそれを拒否するや,
業績不振,虚偽報告などを理由に,本件新聞販売店契約の更新を拒絶したもの
で,その態度は,多数の販売店を擁しわが国有数の規模を持つY会社が,1販
売店を経営するに過ぎないX1に対して文字どおり自らの供給者としての優越
的地位に基づいて,自社の意向を押し通そうとしたものであり,その地位を濫
用したと評されても仕方がないというべきである。ただ,X1も,その行った
虚偽報告や帳票類の提示拒否は,本来ならば同契約の解除事由にもなりかねな
いものなのであり,反省すべき点は少なくない。
そうすると,上記Y会社の行為により営業被害を受けたX1に対する賠償と
しては,200万円の限度でこれを認めるのが相当であり,その損害と因果関
係がある弁護士費用は20万円とするのが相当である。
4争点()について3
()証拠により認定できる事実1
原判決41頁10行目に「前記第1,1の各事実,上記1認定の各事実」
とあるのを「上記第2の1の前提事実」と改め,同11行目の「155,」
の次に「157,」を加えるほか,原判決第3の3(41頁10行目から4
3頁12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
()上記各事実によれば,結果的に,X2は拒否通知を出したことで,Y会2
社から廃業及び区域返還すなわち本件新聞販売店契約の解除の意思表示又は
中途解約の申入れは受けなかったものの,同Xにおいて,本件新聞販売店契
約が打ち切られるのではないかとのおそれを抱かざるを得ない状況に置かれ
たことは明らかである。しかも,その際にY会社が問題にしたのは業績不振
である。それと同じ理由で,X1やAは現に本件新聞販売店契約の更新拒絶
又は解除をされ,Aは,その後仮処分でその地位が仮に定められたのに,Y
会社は新聞紙の供給を停止しているのであるから,同じような理由を告げら
れて廃業勧告を受けたX2が,Ym店の将来に対する不安を覚えたのは当然
である。Y会社のXらやAに対する一連の態度は,継続的な新聞販売店契約
による地位があるのに,X1については少なくとも過失に基づいて違法に,
Aについては仮処分で仮にその地位が定められたのに故意にそれに違反して,
それぞれ不利益を与えたのであって,X1やAと同一歩調を取っていたX2
がそれらのY会社の行動を見て現実的な不安を感じることは当然認識できた
のに,それを解消するどころか現実の危険を感じさせたのであるから,Y会
社はX2に対しても不法行為責任があり,同Xに対してその精神的苦痛を慰
謝する必要があるというべきである。
また,上記()で引用した原判決第3の3()ケ,コの事実によれば,X211
が,Yc会及びYe会を自己の意思で退会したものとは認められないが,さ
ればといって,本件全証拠によっても,除名されたのか否かは判然としない。
しかしながら,元来,Yc会は,Y新聞専売所長の強制加入団体であり,単
なる親睦会ではなく,Y会社からのセールス等補助の窓口となるなどして加
入店の営業活動を補助する立場にある会であって,X2につき,除名を正当
化するだけの事情が存在するとは容易に考え難いところである。
そうすると,X2がYc会内のブロック会に参加できないとされているこ
とは新聞販売店としての地位を不当に侵害されているものである。Y会社は,
X2と本件新聞販売店契約を締結している以上,他の新聞販売店と同じよう
にYm店を差別せずに取り扱う義務があり,会則上も協同して会務の運営を
図る立場にあるのであるから,Yc会に対して,その関係の正常化を働きか
けるべきである。Iが上記ケ,コの決議に関与しながら,これに全く反対し
ていないこと,Y会社のセールス等補助がYa会及びYe会を通して行われ
ており,X2がこれら補助を受けられないでいることを放置する結果になっ
ていることは問題である。これについて,Y会社には,別個の不法行為責任
もあるというべきである。
上記Y会社の行為により精神的損害を受けたX2に対する慰謝料としては
100万円が相当であり,その損害と因果関係がある弁護士費用としては,
10万円が相当である。
第4結論
以上の次第であって,Xらの控訴に基づき原判決を主文のとおり変更し,Y
会社の控訴は理由がないから棄却することとする。
福岡高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官西理
裁判官有吉一郎
裁判官堂薗幹一郎

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