弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主         文
    1 本件控訴を棄却する。
    2 控訴費用は控訴人の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1) 原判決を取り消す。
  (2) 被控訴人は,控訴人に対し,1103万9000円及びこれに対する平成
13年1月23日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
  (3) 訴訟費用は,第1,2審を通じ被控訴人の負担とする。
 2 控訴の趣旨に対する答弁
   主文と同旨
第2 事案の概要
   本件は,控訴人が,保険契約に基づき,控訴人の夫である被保険者Aの死亡
保険金及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成13年1月23日から支払済
みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を,被控訴人に求めた事
案である。
 1 前提事実(摘示した証拠により容易に認定できる事実)
  (1) A(昭和2年2月18日生。以下「A」という。)は,平成12年7月2
7日,被控訴人との間で次のとおり損害保険契約(以下「本件保険契約」とい
う。)を締結し,初回保険料1650円を支払った(甲1,4)。
   ① 保険期間 平成12年7月27日午後4時から1年間
   ② 死亡保険金 1103万9000円
     被控訴人は,被保険者が急激かつ偶然な外来の事故(以下「事故」とい
う。)によってその身体に傷害を被り,その直接の結果として,事故の日からその
日を含めて180日以内に死亡したときは,死亡保険金を死亡保険金受取人に支払
う(傷害保険普通保険約款1条,5条)。
   ③ 被保険者 A
   ④ 死亡保険金受取人 控訴人
  (2) Aには生前脳疾患が認められたものの,心臓疾患の診断を受けていたこと
は認められない。また,Aは,普段は少ししか飲酒しなかったが(薄めの焼酎の湯
割り2杯程度),会合や付合いの際には多めに飲酒することもあった。(甲3,9
の1ないし28,10の1ないし28,11,原審控訴人本人)
  (3) Aは,平成12年9月27日,元職場の同僚らと旅行に出かけ,同日午後
4時頃から宿泊先の大分県別府市所在の平野屋旅館の部屋でビールを飲み,午後6
時からの宴会の席でも焼酎を3,4杯は飲んだ。宴会は午後8時30分頃散会とな
ったが,その際幹事から飲酒後の入浴を避けるようにとの注意があった。
    Aの同日の飲酒量は普段に比べて多量であった。(甲5,6,8の2,1
1)
  (4) Aは,午後9時40分頃一人で浴室に赴いた。腹筋運動等を行っているの
を従業員に目撃されている。午後10時頃,浴槽内にうつぶせに浮いているところ
を発見され,救急車で国家公務員共済組合連合会新別府病院に搬送されたが,既に
心肺停止状態であった。
    同病院のB医師は,肺に水が入っていたことや外傷がないことから,Aは
午後9時50分溺死したものと診断し,Aが飲酒後に運動をして入浴したため,末
梢血管が拡張して急性心不全を来たし,飲酒による酩酊も加わって意識が朦朧とな
って浴槽内で溺れた可能性が高いと考えた。(甲2,5,6,8の2,17の1・
2,18)
 2 争点についての当事者の主張
   本件の争点は,Aの死亡が事故によるものか否かである。
  (1) 控訴人の主張
   ① Aは,高齢で飲酒及び運動のうえ入浴し,急性心不全により湯を誤飲し
て溺死したものであるが,急性心不全の発症から溺死までの経過は直線的で時間的
間隔がないから,「急激」の要件が認められる。
   ② Aは,自らの意思に基づき急性心不全の症状を起こし,溺死したわけで
はなく,同人が急性心不全の発症や死亡の結果を予知していたわけでもないから,
「偶然」の要件が認められる。
   ③ Aの溺死は,水という外部的原因によるものであり,急性心不全は死亡
の直接原因ではない。また,この急性心不全は過剰な飲酒,運動,入浴という身体
に対する過大な負担に起因するものであり,同人には心臓疾患の持病がなかったの
であるから,その原因は同人の身体の外部からの作用によるものといえる。したが
って,「外来」の要件が認められる。
  (2) 被控訴人の主張
    控訴人の主張は争う。
    Aの死亡原因は急性心不全であり,外来の事故による死亡ではない。
第3 証拠
   原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから,これを引用
する。
第4 争点に対する判断
 1 本件保険契約の約款上,死亡保険金支払事由は,急激かつ偶然な外来の事故
によって被保険者が身体に傷害を被り,その直接の結果として死亡した場合と規定
されているところ,事故の急激性とは事故から傷害(死亡を含む。以下同じ。)発
生までの時間的間隔がないことをいい,事故の偶然性とは被保険者にとって予知で
きない原因から傷害の結果が生じることをいい,事故の外来性とは傷害の原因が被
保険者の身体の外からの作用であることをいう。いずれかの要件を欠けば,保険金
支払事由たる事故とはいえない。
 2 そこで,Aの死亡が偶然の事故によるものかについて判断する。
  (1) 前提事実によれば,Aは,普段よりも多量に飲酒したうえ,飲酒後短時間
のうちに浴室に赴き,浴室内で腹筋運動等を行った後に入浴したため,末梢血管が
拡張して急性心不全を発症し,意識レベルが低下して湯を誤飲し,溺死したものと
認められる。
    そして,飲酒後の運動や入浴が心臓等に過重な負荷となり,重大な結果を
引き起こすおそれがあることは通常人であれば容易に認識し得るものであるとこ
ろ,特に,Aは当時73歳という身体機能の低下した年齢であり,普段より多量に
飲酒していたばかりか,宴会の際には幹事から飲酒後の入浴は避けるように注意さ
れていたのであるから,Aにおいてもこうした危険性を十分予知し得たものと認め
られる。同人がこれまで心臓疾患の診断を受けたことがないとしても,この認定を
左右しない。
    したがって,Aは,上記危険性を予知し得たにもかかわらず,普段より多
量に飲酒した後,運動をしたうえで,その自由意思に基づき入浴し,その結果急性
心不全を発症したものと認められる。なお,Aの直接の死因は溺水であるが,その
原因は急性心不全であり,溺水は急性心不全発症時の周囲の状況に基づく因果関係
の進行に過ぎないというべきである。
  (2) 控訴人は,Aは急性心不全の発症や死亡の結果を予知していなかったから
偶然性が認められると主張する。しかし,被保険者が,その行動が傷害の原因とな
ることを予知し得るのに,その行動をとったため傷害の結果が生じた場合であって
も,傷害の結果や発症する疾病を具体的に予知していなければ偶然性の要件を満足
すると考えるのは相当ではない。なぜなら,このような傷害は,被保険者がその結
果等について深く考えずに行動したときに生じるのが一般であるから,このような
場合にまで結果等の予知がないとして偶然の事故による傷害であると認めるなら,
偶然性を要件とした意味が失われかねないからである。
  (3) 以上によれば,Aが,偶然の事故により死亡したとは認められない。
 3 よって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がな
く,これを棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,控訴
費用の負担につき民訴法67条1項,61条を適用して主文のとおり判決する。
   広島高等裁判所第3部
       裁判長裁判官  下   司   正   明
          裁判官  檜   皮   高   弘
          裁判官  齋   藤   憲   次

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