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主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役2年6月に処する。
原審における未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
理由
検察官の控訴の趣意は検察官見越正秋作成の控訴趣意書提出書添付の検察官勝山
浩嗣作成の控訴趣意書(ただし3ページ中の(ウ)についてはそして同法18章,「,
の2は,その文言上も,不正作出支払用カードの使用可能性を要求しておらず,犯
行時において現実に使用することが可能であることが必要であるとは規定されてい
ない」と訂正した)に,これに対する答弁は弁護人石村太郎作成の答弁書に,被告。
人の控訴の趣意は同弁護人作成の控訴趣意書及び控訴趣意書訂正書にそれぞれ記載
されているとおりであるから,これらを引用する。
1各控訴趣意中,検察官の事実誤認の主張について
論旨は平成18年2月10日付け訴因変更請求書(ただし原審第2回公判に,,
おいて訂正後のもの)記載の公訴事実のうち被告人は平成17年10月13日「,
午前10時40分ころ,福岡市a区b番c号甲CD・ATMコーナーにおいて,
人の財産上の事務処理を誤らせる目的で,株式会社Aが発行したクレジットカー
ドの外観を備えたプラスチック板の磁気部分に,Bほか3名名義のクレジットカ
ードの磁気部分と同一内容の会員情報が不正に印磁された電磁的記録をその構成
部分とするカード4枚を所持し」たとの不正電磁的記録カード所持の事実につい
て,原判決が,上記公訴事実記載のカード4枚のうち,B名義の偽造カードのみ
が刑法163条の3が規定する「不正電磁的記録カード」に該当し,それ以外の
3枚のカードすなわちCD及びE名義の偽造カード(以下この3枚を合わせて,,
本件偽造カードという)は同条にいう不正電磁的記録カードには該当せ「」,「」
,,,,ずまた該当する可能性があり得るとしてもその立証がなされていないので
本件偽造カード所持については無罪であると判断したことについて,本件偽造カ
ードは,いずれも同条の「不正電磁的記録カード」に該当するから,原判決は,
同条の解釈を誤って事実を誤認しており,これが判決に影響を及ぼすことは明ら
かであるというのである。
,。所論にかんがみ記録を調査し当審における事実取調の結果をも併せ検討する
(1)関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
①被告人は,上記公訴事実記載の日時場所において,本件偽造カードを,B
名義の偽造カードとともに,ショッピングセンターである株式会社Fの店員
,,,等に対し商品の購入方を申し込んで交付することにより同店員等をして
本件偽造カードが真正なものであって,真正なカードについてのカードシス
テム所定の方法により代金の支払いを受けられるものと誤信させ,商品をだ
まし取るのに用いる目的で所持した。
②本件偽造カードの磁気部分には,dカード会員であるC,D及びE名義の
正規のデータと同一のデータが書き込まれていた。ただし,C及びDの各カ
ードについては,dカードの発行会社である株式会社Aのホストコンピュー
タに対し不正な照会が数件あったことから,それらカードの不正使用を防ぐ
ため,平成17年10月1日,両名に対してカード番号を変更したカードが
発行され,変更前のカード番号のデータについては使用停止措置が採られて
いた。また,Eのカードについては,平成16年11月25日,同カードが
国際カード(JCB)に切り替えられたことから,元のカード番号のデータに
ついての使用停止措置が採られていた。
これら使用停止措置が採られていたカード番号のデータは,同社のホスト
コンピュータに保存されており,データ自体は有効であって,使用停止措置
が解除されれば,それらカード番号のカードも使用することができた。
(2)刑法163条の3は同法163条の2第1項の人の財産上の事務処理を,「
誤らせる目的」で,同条3項の「不正に作られた人の財産上の事務処理の用に
供する電磁的記録をその構成部分とするカード」を所持した者を処罰する旨規
定している。そして,被告人が,C,D及びE名義の正規のデータと同一のデ
ータが書き込まれていた本件偽造カードを,人の財産上の事務処理を誤らせる
目的で所持していたことは明らかであるまた本件偽造カードが不正に作。,,「
られた人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録をその構成部分とするカ
ード」に該当することも明白である。
,,「」ところで原判決は同法163条の3が規定する不正電磁的記録カード
は,カードの照合をする機器で正規のカードとして直ちに使用できるなど,特
別の手間を要することなく使用可能なものでなければならないと解した上,本
件偽造カードについては,カード発行会社において,既に使用停止措置が採ら
れていたため,同条にいう「不正電磁的記録カード」には該当しないというの
である。
たしかに,同条が規定する不正電磁的記録カード所持罪は,いわゆる偽造カ
ードが,一般的な偽造文書とは異なり,そのシステムにおいて許される範囲内
,,,において同じ者が同じカードを何度でも反復使用することが可能であって
その所持による法益侵害の危険性が特に高いことから,その所持を処罰するこ
ととしたと解される。
しかし,不正電磁的記録カードの所持を処罰する趣旨が上記のとおりである
,。からといって同条を原判決のように解釈すべきであるとは必ずしもいえない
同条は,処罰の対象とする不正電磁的記録カードについて,何らの制約も規定
していないこと,同条は,不正電磁的記録カードの所持一般を処罰するもので
あって,不正電磁的記録カードを直ちに使用する目的で携帯している場合や運
搬している場合のみを処罰の対象とする規定ではなく,他日使用する目的で保
管している場合も処罰の対象とするものであること,支払用カードの正規のデ
ータと同一のデータが書き込まれたカードが不正に作られ,不正使用の目的で
所持されている場合は,そのこと自体によって,支払用カードを用いた支払シ
ステムに対する社会的信頼が脅かされるというに十分であることなどにかんが
みると,その処罰の対象たるカードが,不正に作られた人の財産上の事務処理
の用に供する電磁的記録をその構成部分とするカードであることに加えて,原
判決が説示するように,カードの照合をする機器で正規のカードとして直ちに
使用できるなど,特別の手間を要することなく使用可能なものでなければなら
ないと限定して解釈すべき必然性はない。
そして,本件においては,C,D及びE名義の各カードについては,たまた
ま使用停止措置がとられていたことから,上記各カードと同一のデータが書き
込まれた本件偽造カードを使用することができなかったものの,その措置が解
除されれば使用可能であったことなどにもかんがみると,本件偽造カードが不
正使用目的で所持されたことにより,上記法益に対する実質的危険が生じてい
たということができる。
そうすると,被告人が本件偽造カードを所持した行為について,不正電磁的
記録カード所持罪が成立するというべきであり,その事実を認定しなかった原
判決には,所論が指摘するとおりの事実誤認があり,これが判決に影響を及ぼ
すことは明らかである。論旨は理由がある。
2そこで,刑事訴訟法397条1項,382条により,原判決を破棄し,検察官
及び弁護人の各量刑不当の主張に対する判断を省略して,同法400条ただし書
に従い当裁判所において更に判決する。
原判決が認定した事実(ただし原判示1の事実中B名義のとあるのをB,「」「
ほか3名名義のカード1枚とあるのをカード4枚とそれぞれ訂正する)」,「」「」
,,に法令を適用するに判示1の所為はカードごとにいずれも刑法163条の3に
判示2及び3の各所為のうち,電磁的記録供用の点はいずれも同法163条の2
第2項に,詐欺の点は同法246条1項にそれぞれ該当するところ,判示1の所
為は1個の行為が4個の罪名に触れる場合であり,判示1のB名義の不正電磁的
記録カード所持と判示2,3のその供用と詐欺との間には,それぞれ順次手段結
果の関係があるので,同法54条1項前段,後段,10条により,結局以上を1
罪として刑及び犯情の最も重い判示2の詐欺罪の刑で処断することとし,その所
定刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,同法21条を適用して原審にお
ける未決勾留日数中110日をその刑に算入し,原審における訴訟費用は,刑事
訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
なお,量刑について考慮した事情は以下のとおりである。
本件は,被告人が,人の財産上の事務処理を誤らせる目的で,カード会社が発
行したクレジットカードの外観を備え,他人名義のカード会員情報が不正に印磁
,,された電磁的記録をその構成部分とするカード4枚を福岡市内において所持し
山口市内のショッピングセンターの食品売場及び化粧品売場で,店員に対し上記
カードのうちの1枚を交付し,店員をして同カードをカード情報読取端末機に挿
入させてその電磁的記録を読み取らせ,もって不正に作出された支払用カード電
磁的記録を供用するとともに,同カードが真正なものであると誤信した店員から
缶ビール7箱及び化粧水2本をだまし取ったという事案である。
本件に至る経緯や犯行態様は以下のとおりである。すなわち,被告人は,団地
等の集合郵便受等から特定のショッピングセンター系列のカード会社より郵送さ
れた郵便物を集め,そこに記載された他人のクレジットカード会員番号等の情報
を,別途入手した航空会社のマイレージカードに印磁して所持していたところ,
上記カード会社発行のクレジットカードが,上記ショッピングセンター発行の現
金払専用のポイントカード(以下「ポイントカード」という)と外観がほぼ同じで
あることに気付いたことから,カードリーダーライターを所持する知人に依頼し
て,上記マイレージカードに印磁されたクレジットカード会員であるBら4名の
会員情報を,自ら入手したポイントカード4枚に印磁してもらった。そして,ま
ず,上記マイレージカードをATM機に挿入することにより,上記ポイントカー
ド4枚に印磁したクレジットカード情報が,有効か否かを確認し,そのうちB名
義のカード等3枚が有効に使用できそうであると判断した。本件不正電磁的記録
カード所持は,その際の犯行である。その後,被告人は,上記ショッピングセン
ター系列の店舗で上記3枚のカードを使用して,そのうちB名義のカードのみが
有効に使えることが分かったため,同カードを用いて缶ビールや化粧水をだまし
取るという原判示2,3の犯行に及んだものである。上記缶ビールは,上記知人
に売却するためにだまし取ったものであり,上記化粧水は,質店で高く買い取っ
てもらえると聞いていた種類のものをだまし取ったというのであるから,本件の
動機に酌むべき点はない。その犯行態様は,巧妙で計画性が認められる。だまし
取った缶ビールは1箱24本入りのもの7箱と大量であり,被告人は,それらを
駐車場に停めた自動車に積んだ後,再び同じ店舗に戻って化粧水をだまし取った
上,さらに缶ビール8箱を詐取しようとしてカートに缶ビールの箱を積んでレジ
に並んでいたところを,不審を感じた店員に呼び止められて,本件犯行が発覚し
たものであって,本件は,強固な犯意に基づいた大胆な犯行である。被害額は,
,。,合計4万6867円に及んでおりこの種事犯としては少ない額ではない現在
我が国ではクレジットカードが広く普及し,社会生活において重要な機能を果た
していることにかんがみると,本件は,クレジットカードを用いた支払システム
に対する社会的信頼を害する犯行であり,量刑にあたっては,この点も十分考慮
すべきである。
しかも,被告人は,本件と同様,偽造カードを用いて,福岡県下各地の上記シ
ョッピングセンター系列の店舗等から,自ら消費するための食料品等のほか,上
記知人から指定された銘柄のたばこやビールをだまし取っては同人に販売価格の
半額で売却するなどして換金することを繰り返していたというのである。また,
上記知人が所持するカードリーダーライターは,もともと被告人が所持していた
ものを売り渡したものであり,同人は,被告人の依頼を受けて,上記マイレージ
カードに印磁されたデータをポイントカードに印磁してカードを偽造しており,
被告人からたばこやビールを買い取るようになった後には,商品をだまし取るこ
とに成功した偽造カード1枚につき1万円の印磁手数料を被告人から受け取って
いたというのであって,被告人は,上記知人と密接な関係を持って本件犯行に及
んだものである。しかも,本件は,上記知人のほかにも関係者が存する組織的な
犯行であることも疑われるところ,被告人は,上記知人を特定することができる
ような事柄を一切明らかにしていない。さらに,被告人が,上記カードリーダー
ライターを所持していた当時は,自ら偽造カードを作成し,その名義人の住民票
を取得して暗証番号を推測した上,偽造したカードをATM機に挿入するなどし
て,多額の現金を窃取していたというのであって,被告人の母親方から,被告人
が偽造した約972枚のカードが発見されたことなども考慮すると,被告人は,
偽造カードを利用しての犯罪と相当深く関わっているといわざるを得ない。加え
て,被告人は,昭和63年2月,集合郵便受から窃取するなどして入手したクレ
ジットカード等を用いて,多数回にわたり,合計1000万円以上の現金等を窃
取または詐取するなどした窃盗,有印私文書偽造,同行使,詐欺の罪で懲役5年
に処せられ,その仮出獄中に,市販の白地カード等に他人のクレジットカード等
のデータを印磁する方法で他人名義のクレジットカード等の電磁的記録を不正に
作出した上,前後9回にわたり,そのカードを用いて現金自動貸出機等から現金
合計256万余円を盗んだ私電磁的記録不正作出,同供用,窃盗の罪により,平
成4年11月,懲役4年に処せられて服役したなどの前科がある。しかるに,反
省することなく,本件犯行に及んだことにかんがみると,被告人のこの種犯罪に
ついての常習性は顕著であり,規範意識も相当に鈍麻しているといわざるを得な
い。
したがって,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は重い。
そうすると,本件詐欺の被害品はすべて被害店舗に還付され,被害が回復され
ていること,韓国人である妻が,ビザの更新手続をし,認知症である被告人の母
親の面倒を見ながら,被告人の社会復帰を待っており,被告人が社会復帰した後
は,被告人を支えていく旨述べていること,被告人も,それなりに反省の態度を
示して,二度と同じようなことはしない旨述べていることなどの事情を考慮して
も,本件は,刑の執行を猶予すべきほどの情状があるとはいえず,被告人につい
ては主文の刑に処するのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
平成18年10月31日
広島高等裁判所第1部
裁判長裁判官楢崎康英
裁判官森脇淳一
裁判官友重雅裕

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