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平成19年6月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(行ケ)第10338号審決取消請求事件
平成19年6月5日口頭弁論終結
判決
原告ビーケーアイホールディングコーポレーション
訴訟代理人弁理士矢野寿一郎
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人寺本光生,溝渕良一,高木彰,田中敬規
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−7320号事件について平成18年3月7日にした
審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「長尺物のパッケージ」とする発明につき,平成10
年6月17日を国際出願として,特許を出願(パリ条約による優先権主張19
97年6月19日,米国。以下「本願」という。)し,平成15年3月20日
付け手続補正書により補正を行ったが,同年12月25日付けの拒絶査定を受
けたため,平成16年4月12日,審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2004−7320号事件として審理し,そ
の結果,平成18年3月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,同月22日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成15年3月20日付け手続補正書による補正後の本願の請求項1(請求
項は全部で49項である。)は,次のとおりである。
「長尺物(11)を前後に折り畳み,その各畳み部分が,次の畳み部分に対し
て,長尺物を横切る方向の折り目(25・26)を介して折り畳まれた状態に
し,該畳み部分の側縁(27・28)を整列させて山(20・21・22・2
3)をなし,このようにして長尺物によってできた山(20・21・22・2
3)を複数個,側縁(27・28)が平行となるように横並びに配置して,共
通する一つのパッケージ構造体(10)をなしており,該共通のパッケージ構
造体における各山の上端及び下端に,その長尺物の接続端部(44・45,9
6)を,接続可能な状態にて配置し,各山を通じて長尺物を一繋がりにしたも
のであって,
該共通のパッケージ構造体(10)において,該複数のうちの各山(20・
21・22・23)は,その隣りの山と,側縁(27・28)同士の間に硬質
の隔壁を介さず直接的に横並びに配置されており,
該共通のパッケージ構造体の最端位置の各山の一端を除いて,各山の該上下
両端にて,該長尺物(11)が,その長手方向にて,該共通のパッケージ構造
体における他の山の長尺物に接続されるものであり,これにより,該共通のパ
ッケージ構造体として該複数の山を横並びとした状態のまま,該共通のパッケ
ージ構造体を通して長手方向に一繋がりの長尺物を提供するものであることを
特徴とする長尺物のパッケージ。」
(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
3審決の理由の要点
本願発明は,特開平3−32826号公報(甲第1号証。以下,審決と同様
に「引用文献」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に
基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法2
9条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本願発明と引用発
明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明の内容
連続した素材ウエブをジグザグ形に折り畳み,その折り畳み部分は素材ウ
エブの長尺方向を横切る方向の折り目で折り畳まれており,折り畳んだ部分
の側縁は整列されており,山すなわちスタックは複数個配置されてグループ
とされており,最端位置のスタックの一端を除いてこれら複数のスタックの
ウエブは互いに繋がっており,山すなわちスタックは複数個配置されてグル
ープとされているもの
(2)一致点
「長尺物を前後に折り畳み,その各畳み部分が,次の畳み部分に対して,長
尺物を横切る方向の折り目を介して折り畳まれた状態にし,該畳み部分の側
縁を整列させて山をなし,このようにして長尺物によってできた山を複数個,
横並びに配置して,共通する一つのパッケージ構造体をなしており,該共通
のパッケージ構造体における各山の上端及び下端に,その長尺物の接続端部
を,接続可能な状態にて配置し,各山を通じて長尺物を一繋がりにしたもの
であって,
該共通のパッケージ構造体において,該共通のパッケージ構造体の最端位
置の各山の一端を除いて,各山の該上下両端にて,該長尺物が,その長手方
向にて,該共通のパッケージ構造体における他の山の長尺物に接続されるも
のであり,これにより,該共通のパッケージ構造体として該複数の山を横並
びとした状態のまま,該共通のパッケージ構造体を通して長手方向に一繋が
りの長尺物を提供するものであることを特徴とする長尺物のパッケージ。」
である点
(3)相違点
ア本願発明では,山は側縁が平行となるように横並びに配置されているのに
対し,引用発明では,山は横並びで配置されていることは明らかであるが,
側縁が平行であるか否かは必ずしも明らかではない点(以下,審決と同様に
「相違点1」という。)
イ本願発明では,各山は,その隣りの山と,側縁同士の間に硬質の隔壁を介
さず直接的に横並びに配置されているのに対し,引用発明では,文言上は明
らかではない点(以下,審決と同様に「相違点2」という。)
第3審決取消事由の要点
審決は,本願発明と引用発明との下記の相違点(以下「相違点3」とい
う。)を看過し,本願発明の顕著な作用効果を考慮せず,進歩性についての判
断を誤ったものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすこ
とは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
なお,相違点1及び2についての審決の認定判断は,いずれも争わない。
1取消事由1(相違点3の看過)
本願発明では,「側縁が平行となるように横並びに配置して,共通する一つ
のパッケージ構造体をなしており,該共通のパッケージ構造体における各山の
上端及び下端に,その長尺物の接続端部を,接続可能な状態に配置し,各山を
通じて長尺物を一繋がりした」ものであるのに対し,引用発明では,「パレッ
ト24」上に載置された位置で,側縁が平行となるように横並びに配置した状
態においては,「グループ22」の長尺物の接続端部を接続可能な状態には配
置しておらず,各山を通じて一繋がりにしていない点
2取消事由2(相違点3に係る顕著な作用効果の看過)
本願発明では,①連続的に長尺物を始端部から最後端まで連続して山を越え
て引き出すことができる,②引用発明における「パレット24」と「走行ロー
ラー34/35」に相当するものが必要でない,③山毎の接続端部の接続は最
初に一度に行うことができるのでその都度始端部と後端部を接続するという作
業は必要ない,という顕著な効果が生ずる。
第4被告の反論の骨子
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(相違点3の看過)について
原告が相違点3として主張するに際し,本願発明と比較したのは,引用文献
の「パレット24」上に載置された位置で,側縁が平行となるように横並びに
配置した状態の長尺物であり,この状態では,「グループ22」の長尺物の接
続端部を接続可能な状態には配置しておらず,各山を通じて一繋がりにしてい
ない。
しかし,審決が引用文献から把握した発明は,パレット24上の長尺物では
なく,例えば,引用文献Fig.1における複数のスタック15の状態である。し
たがって,原告の主張は,審決における引用発明とは異なる発明と本願発明と
を比較して議論しているのであり,審決に誤りがあるという理由にはならない。
2取消事由2(相違点3に係る顕著な作用効果の看過)について
連続的に長尺物を始端部から最後端まで連続して山を越えて引き出すことが
できる点については,引用発明においても素材ウエブが連続的に取り出されて
いくことを目的として端部同士が繋がれているのであるから,本願発明と同様
の効果が得られているものである。
本願発明においては,引用文献の「パレット24」と「走行ローラー34/
35」が必要でないとする点については,前述のとおり審決が引用していない
部分に基づいて主張するものであり,「パレット」や「走行ローラー」の有無
が審決の判断を左右するものではない。
長尺物の端部同士を接続する作業はいずれかの時点で行う必要があることは,
本願発明も引用発明も同様であって,本願発明が格別の効果を有しているもの
とは到底いえない。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点3の看過)について
原告が相違点3として主張するときの引用発明の構成は,長尺物がパレット
24上に載置されたときに,①長尺物の「側縁が平行となるように横並びに配
置した状態」にあること,②「『グループ22』の長尺物の接続端部を接続可
能な状態には配置しておらず,各山を通じて一繋がりにしていない」状態にあ
ること,の2点が要素となっている。
他方,原告は,審決が引用発明の内容を「連続した素材ウエブをジグザグ形
に折り畳み,その折り畳み部分は素材ウエブの長尺方向を横切る方向の折り目
で折り畳まれており,折り畳んだ部分の側縁は整列されており,山すなわちス
タックは複数個配置されてグループとされており,最端位置のスタックの一端
を除いてこれら複数のスタックのウエブは互いに繋がっており,山すなわちス
タックは複数個配置されてグループとされているもの」と認定したことを認め
ている。
これらによれば,原告が相違点3として主張する引用文献記載の発明の構成
(上記①及び②)は,審決認定の引用発明の内容に含まれていないことが認め
られる。すなわち,原告主張の相違点3は,原告が,引用発明とは異なる構成
の発明を引用文献から独自に認定し,これと本願発明を対比した結果であるか
ら,相違点3は本願発明と審決認定の引用発明との相違点ではないから,審決
に相違点3の看過はなく,原告の主張する取消事由1には理由がない。
2取消事由2(相違点3に係る顕著な作用効果の看過)について
前記1のとおり,原告主張の相違点3は,本願発明と引用発明との相違点と
は認められないから,審決に相違点3に係る顕著な作用効果の看過もあり得な
い。
なお,念のため原告が主張する効果について検討しても,以下のとおり,原
告の主張する取消事由2には理由がない。
(1)原告は,本願発明について,「連続的に長尺物を始端部から最後端まで連
続して山を越えて引き出すことができる」との効果を主張する。
引用文献には,「複数のスタックからなるブランクの1つのストックが連
続した1ユニットとして処理され,中断されることが無い。」(3頁左下欄
15行∼17行),「ブランクストック14の複数のスタック15の取り出しを
機械化するために,次々に隣接して並べられた複数のスタック15が,即ちグ
ループ22が切れ目無く連続する素材ウエブ19によって形成される。・・・従
って,例えば7つのスタック15(第3図)からなるグループ全体22が,手作
業の介入すること無く,素材ウエブとして連続的に取出されて行く。」(4
頁左下欄3∼18行)との記載がある。
これらの記載によれば,原告が主張する本願発明の上記効果①は,引用発
明も奏するのであって,本願発明に固有のものではない。
(2)原告は,本願発明について,「『パレット24』と『走行ローラー34/
35』が必要ない」との効果を主張する。
「パレット」等の構成は,審決認定の引用発明でないことは前述したとお
りであるが,念のためこれらの構成の奏する効果についても検討することと
する。引用文献に開示されている「パレット24」は,「包装機械の区域に
於ける貯蔵能力を増やすために,スタック15の複数のグループ22用意さ
(ママ)
れ,連続してスタックコンベヤー16上に置かれる。これらのグループ22
が可動の運搬構造体,特に特殊設計のパレット24,の上に受け取られる。
この実施例(第3及び4図)に於いては,これが繋がったスタック15の4
つのグループを受け取ることが出来る。このパレット24がスタックコンベ
ヤー16の装入端部の前でこれに対して直角に移動し,互いに隣り合って置
かれたスタック15の1つのグループ22がスタックコンベヤー16と常に
1線上に並ぶようにすることが出来る」(4頁左下欄19行∼右下欄10
行)ようにするために備えられるものであり,「走行ローラー34,35」
は,「パレット24がその下側に走行ローラー34,35を装備している。
これによって,スタックコンベヤー16に対するパレット24の正確な相対
的位置が固定される。これは,少なくとも1対の走行ローラー34,35が
パレット24の走行面の凹み36に入るからである。」(5頁右上欄9∼1
4行)との作用効果,すなわち包装材料の貯蔵能力の増強に対処するための
構成が奏する効果である。
以上から明らかなように,引用発明において,原告主張の前記第3の2の
①及び②の効果を奏するためには,「パレット24」と「走行ローラー34,
35」の構成を必須とするものではないし,他方,本願発明においても,貯
蔵能力を増やすために「パレット24」を,またその際に正確な相対的位置
を固定するために「走行ローラー34,35」の構成を採用し得るものであ
るから,原告が主張する本願発明の効果②は,本願発明に固有のものではな
い。
(3)原告は,本願発明について,「山毎の接続端部の接続は最初に一度に行う
ことができるのでその都度始端部と後端部を接続するという作業は必要な
い」との効果を主張する。
しかし,長尺物の端部同士を接続する作業をいずれかの時点で行う必要が
あることは,本願発明においても引用発明においても同様であって,原告が
主張する効果③は,本願発明に固有のものではない。
3結論
以上に検討したところによれば,審決取消事由にはいずれも理由がなく,審
決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
田中信義
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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