弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件各控訴に基づき,原判決主文第1,2項を次のとおり変更する。
控訴人aは,横浜市に対し,9億5790万円及びこれに対する平成(1)
11年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人bは,横浜市に対し,20億6000万円及びこれに対する平(2)
成13年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
被控訴人らのその余の請求を棄却する。(3)
2本件附帯控訴を棄却する。
3控訴費用は控訴人a及び控訴人bの,附帯控訴費用は被控訴人らの各負担
とし,補助参加に係る費用は横浜市の負担とする。
事実及び理由
第1当事者双方の申立て
1控訴の趣旨
控訴人a(1)
ア原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
イ被控訴人らの控訴人aに対する請求を棄却する。
ウ訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。
控訴人b(2)
ア原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
イ被控訴人らの控訴人bに対する請求を棄却する。
ウ訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人らの負担とする。
2附帯控訴の趣旨
原判決を次のとおり変更する。(1)
控訴人aは,横浜市に対し,19億1580万円及びこれに対する平成(2)
6年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
控訴人bは,横浜市に対し,41億2000万円及びこれに対する平成(3)
7年9月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は,第1,2審を通じ,控訴人らの負担とする。(4)
第2事案の概要
1本件は,横浜市の住民である被控訴人らが,横浜市が発注した2件のごみ焼
却施設建設工事に係る請負契約に関し,その指名競争入札において,控訴人a
及び控訴人bらが談合を行ったため,横浜市が不当に高い価格で控訴人らと契
約することになり,上記契約代金額と談合がなければ形成されたであろう適正
な落札価格との差額相当額の損害を被ったとして,地方自治法(平成14年法
。。),律第4号による改正前のもの以下同じ242条の2第1項4号に基づき
(2)(3)横浜市に代位して控訴人a及び控訴人bに対し前記附帯控訴の趣旨,,,
記載のとおり,同市への各損害賠償の支払を求めるとともに,第1審被告横浜
市長(以下「横浜市長」という)に対し,同項3号に基づき,上記各損害賠。
,。償請求権の行使を違法に怠っているとしてその違法確認を求めた事案である
2原判決は,被控訴人らの控訴人aに係る請求のうち9億5790万円,控訴
人bに係る請求のうち20億6000万円の限度で認容し,横浜市長に係る違
法確認請求のうち,上記各金額の限度で認容し,その余を棄却したため,これ
,,,を不服としてそれぞれの敗訴部分について控訴人a及び控訴人bが控訴し
被控訴人らが附帯控訴した。
なお,横浜市長は,敗訴部分につき,控訴も附帯控訴もしなかった。また,
第1審原告cは当審において訴えを取り下げた。
(。),,3基礎となる事実及び争点当事者の主張を含むは次項に補充するほか
原判決の「事実及び理由」中の第3から第5に記載のとおりであるから,これ
を引用する。
,,,。(1)ただし原判決10頁20行目末尾に改行の上次のとおりを加える
「エまた,平成16年8月3日,審判手続が再開され,審判官らから平
(「」。)成18年3月28日付けで審決案以下本件第2次審決案という
が提出され,本件5社に送達された。本件第2次審決案では,本件5
社に対し,遅くとも平成6年4月以降行っていた地方公共団体が指名
競争入札,一般競争入札又は指名見積り合わせの方法により発注する
全連式及び准連式ストーカ炉の新設,更新及び増設工事について,受
注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた行為を,
平成10年9月17日以降行っていないことを確認しなければならな
いことなどを命じ,本件5社はこれに対して異議を申し立てたが,公
正取引委員会は,平成18年6月27日,本件5社が,共同して地方
公共団体発注の全連式及び准連式ストーカ炉の新設,更新及び増設工
事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにす
ることにより,公共の利益に反し,上記工事の取引分野における競争
を実質的に制限したものであり,独占禁止法2条6項所定の不当な取
引制限に該当し,同法3条に違反するとして,本件第2次審決案記載
の主文と同様の主文をもって審決した(甲29)。
なお,本件5社は,昭和53年1月27日から同年12月11日ま(4)
での間,地方公共団体の発注する全連式ごみ焼却施設の建設工事の受注
に関し,各社の担当者の間で,受注予定者を決定するためのルールの作
成及び受注物件の配分率を検討していたことについて,昭和54年12
月13日,公正取引委員会から,共同して受注予定者を決定する行為は
独占禁止法3条に違反する行為であるとして警告の措置を受け,本件5
社は,これに応じて,今後さらに上記検討作業を行わず,ごみ焼却施設
の引合いに際して共同して受注予定者を決定する行為を行わないことを
共に確認する同月26日付け文書を作成し,自社のごみ焼却施設を担当
する部門に対して,社長等から,上記警告を受けたことを通知すると共
に共同して受注予定者を決定する行為を厳に慎むよう指示を行い,以上
の措置を採ったことを公正取引委員会に報告していた。なお,控訴人ら
は,別紙1の該当欄記載のとおり,内容欄記載の違反行為を行い,措置
区分欄記載の措置を受けている(甲29,弁論の全趣旨」。)
「」「(「」。)」(2)原判決11頁19行目合意の次に以下本件基本合意という
を加える。
原判決90頁19行目「したがって」から21行目「い」までを削(3)(,。)
除する。
4控訴人aの当審における補充的主張
横浜市長の違法に怠る事実の不存在について(1)
地方自治法242条の2第1項4号に基づく代位請求訴訟は,地方自治体
の財産の管理に関し,財産の管理を怠る事実が違法であることを要件とする
ところ,本件においては,後記のとおり,個別談合について具体的主張立証
がない。
また,自治体の長は,不法行為に基づく損害賠償請求権を有すると判断す
る場合であっても,訴訟費用等を考慮する必要があるほか,手持ちの資料に
加え,将来収集可能と見込まれる資料の有無,内容,法的措置をとるべき緊
急性,公益上の必要性,法的措置が奏功する見込み(訴訟であれば勝訴の見
込み)の有無,程度,回収の可能性,法的措置に要する経費の多寡等を慎重
に検討の上,最も適切な回収の方法を選択すべきであり,公正取引委員会に
おいて審判手続が進行中の場合には,審決の確定を待って私的独占の禁止及
び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という)25条に基づく。
損害賠償請求権を行使することを選択することも長の裁量の範囲内にあると
いうべきであり,損害賠償請求権が途中で消滅時効にかかるおそれがある場
合には,その時点で提訴等により時効中断を考慮すれば足りるほか,独禁法
26条2項は,同法25条による損害賠償請求権の消滅時効期間を審決が確
定した日から3年と規定しており,審決の確定を待ってからかかる請求権を
行使することも可能なのである。本件では,本件5社は違反行為の存在を真
っ向から否認しており,本件訴訟が提起された平成12年当時,談合を証す
る具体的証拠はほとんどなかったから,横浜市長が訴訟提起を控えたことも
合理的というべきである。
さらに,横浜市長に「違法に怠る事実」が認められるか否かの判断基準時
は,住民監査請求に対する判断がされたときと解すべきである。その時点に
おいて違法に怠る事実がなければ,その後に生じた事由によっては,違法性
が補完されるわけではないからである。
本件基本合意の不存在について(2)
ア入札参加者となる事業者間での基本ルールに関する合意(基本合意)に
ついては,一定の取引分野における競争の実質的制限効果をもたらす原因
となる具体的危険性を有することが証明されるべきであるが,そのような
基本合意の存在を証する証拠は,平成6年4月以前はもちろん,同月以降
もまったくない。また,各社が受注する工事に係る一定のルールも存在し
なかったものであり,まして,トン数を受注均衡の目安にするといったル
ールなどなかったものである。
イ本件会合に出席していた者は,大型ごみ焼却炉の入札受注調整等につい
て決裁権限を有しておらず,受注調整に係る合意などできなかった。
ウ個々の受注調整の会合に関するものとされる証拠(甲サ58,60,6
2,63,67,73等)は,客観的に見れば,受注調整ないし受注予定
者決定がなされたことを示すものとは到底いいがたい。
エ具体的工事についての談合の存在もしくは受注予定者の決定をうかがわ
せる証拠は,一企業の担当者の予想を記載した社内用資料にすぎないもの
(甲サ89)や,受注予定者決定に関する証拠となり得ないもの(甲サ8
2,84,85等)である。
オ本件5社間で入札価格等の連絡が行われたことをうかがわせるとされる
証拠(甲サ124,125等)は,入札価格等の連絡や出席者との関係を
示す記載もなく,あるいは入札後に作成されたものであって,入札価格等
の連絡を示すものとはいえない。
カ本件5社のうち,dを除く4社について,将来発注される予定のストー
カ炉の建設工事についてまとめたリストであるとされる証拠(甲サ54か
ら56,58から63,64,65,153,155)は,形式,内容が
一致しておらず,談合又は受注調整のものとはいえない。
キ受注割合に関する本件5社の指数に関する証拠は,単に営業担当者が統
計的データを記載した書面にすぎないもの(甲サ106)や,受注予定者
を表すものとは到底いえないもの(甲サ107)である。
クeの供述調書(甲サ28,46)は,公正取引委員会が立入検査を行っ
た当日に,eを半ば強制的に同行させて長時間にわたって取り調べた際に
作成されたものであり,任意性の認められないものである。また,eの供
述自体も,その内容の真実性には疑問がある。
()(),ケfのメモ甲サ35の記載又は供述調書甲サ44における供述は
f自身が体験した受注調整に関する事実を供述したものではなく,東京出
張の際に聞いたことを供述した再伝聞証拠であり,その内容も他の証拠と
食い違いが多く,信用性は乏しい。
コg,h及びiの供述調書等(甲サ42,43,45,47,49,10
3,107)は,いずれも伝聞又は再伝聞証拠であり,その内容も他の証
拠と食い違いが多く,信用性は乏しい。
本件入札における個別談合の存在について(3)
本件において個別談合の存在を認めるべき証拠は皆無である。もっとも作
成日付の古い平成7年9月28日付けのリスト(甲サ89)によって,平成
6年4月以降の談合の存在を推認するのは無理がある。
個々の談合行為に係る請求原因事実の特定について(4)
被控訴人らの損害賠償請求は,民法709条の不法行為に基づくものであ
るから,個々の工事について,入札参加者の事前の談合による受注予定者の
決定,決定された受注予定者による当該工事の落札,入札参加者が法人の場
合は談合の参加者,談合の時期,場所,内容について,相手方の防御が可能
な程度に具体的に特定して主張立証すべきであるが,被控訴人らは,平成6
年4月以降平成10年9月17日までの間に,5社が本件基本合意のもとに
ストーカ炉の建設工事についての談合を繰り返し,平成6年8月19日にα
工場について入札がされたことを主張するのみで,本件工事の個別談合に関
する主張は皆無に等しいから,主張自体失当である。
横浜市の被った損害の有無及びその額について(5)
ア横浜市には,以下のとおり,損害が発生していない。
ア本件において,審判手続における審理の対象は,受注機会の均等を()
図ることを目的とする受注調整の有無であって,カルテルのような受注
価格の低落防止を目的としたものではないから,本件において仮に談合
行為が存在したとしても,当該談合行為の存在から損害の発生を推認す
ることができない。なお,平成6年4月当時はごみ焼却場の建設工事の
計画が全国で多数あり,控訴人aらを含むプラントメーカーにおいて無
理にディスカウントして入札する背景はなかった。
イ本件α工場工事は,建屋を残してその内部の焼却炉を建て替えると()
いう改修工事であり,旧設備の解体作業を担当する業者の協力も得て,
,,,,控訴人aは地元メーカーとして輸送コスト人員の交通費等の費用
。,馴染みの下請け業者採用等のコスト面において有利であったそのため
低額化が可能となり,さらに,既設メーカーは旧施設の建屋をそのまま
利用する場合,建屋に合った機械レイアウトを厳密に計算でき,余分な
コストが節約され,価格競争について有利な立場に立つことができたと
いう特殊性がある。したがって,他の業者がより低い額で入札できる蓋
然性は少ない。
ウ本件α工場工事の入札は,平成6年8月19日に行われた2回の入()
,,札不調を経て同年9月14日に随意契約により締結されたものであり
横浜市は,自由意思により価格を決定して,控訴人aと契約を締結した
のであるから,契約価格が談合ないし受注調整によるものでなく,損害
との間に因果関係がない。
エなお,落札価格の予定価格に占める割合である落札率と談合の存在()
とは直接結びつくものではないから,落札率は何ら損害の発生を基礎付
ける事実にはなり得ない。
イ被控訴人らは,損害の発生について具体的な立証をしていない。
ア違法な価格協定により購入者が被る損害は当該協定のために余儀な()
くされた余計な支出であり,それは購入者が購入に際し支払った代金額
(現実購入価格)とその当時における当該商品のあるべき価格(想定購
入価格)の差額である。この想定購入価格は,価格協定が実施されなか
ったとすれば形成されていたであろう小売価格であるから,現実には存
在しなかった価格である。これを直接に推計するのは困難であるから,
現実に存在した市場価格を手掛かりとし,価格協定の実施当時から消費
者が商品を購入する時点までの間に当該商品の小売価格形成の前提とな
る経済条件,市場構造その他の経済的要因等に変動がない限り,当該価
格協定の実施直前の小売価格(以下「直前価格」という)をもって想。
定購入価格と推認するのが相当である。もっとも,上記商品購入時点ま
でに上記小売価格の形成に影響を及ぼす顕著な経済的要因等の変動があ
るときは,上記事実上の推定を働かせる前提を欠くから,直前価格のみ
から想定購入価格を推認することは許されず,右直前価格のほか,当該
商品の価格形成上の特性及び経済的変動の内容,程度その他の価格形成
要因を総合検討してこれを推計しなければならず,以上の諸事実が主張
立証されることを要する。
イごみ焼却施設建設は,①工事案件ごとに規模(1日当たりの処理能()
力)が異なり,2ないし30トンから1200トンの間で大幅な相違が
,,あること②建設現場における立地の特殊性や仕様書で求められる性能
建設時期の物価等により,プラント機械設備の仕様やコストが変わるこ
と,③既設改修工事か新設工事か,工場と施設建設場所との距離の相違
によってもコスト競争力が変わること等極めて個性が強い取引となって
いる。したがって,規模・プラント設備仕様・立地条件等の基本条件が
酷似した案件があるという事情がないかぎり,本件工事と他の工事の単
純な比較を行うこと自体が合理性を欠くもので,直前(ないし直後)の
他の工事における落札価格から本件α工場工事の「想定落札価格」を認
定することは不可能である。
ウしたがって,被控訴人らは「当該商品の価格形成上の特性及び経済(),
的変動の内容,程度その他の価格形成要因」を具体的に主張立証すべき
であるところ,その主張立証はない。
エなお,ごみ焼却施設建設工事における地方自治体の予定価格は,仕()
様書,設計書等をもとに積算した価格に,直近の実績価格・履行の難易
度等,積算価格算定過程で加味しきれない事情を詳細に検討・分析し,
総合判断し反映した上で,さらに歩切りと称して数%カットして厳しく
設定されるのが通例であるから,本件工事の発注者が考える適正価格と
は,この予定価格ということができる。したがって,予定価格の設定方
法が合理的ではないという特別な状況があれば格別,そのような状況は
通常考えられないだろうから,予定価格の範囲内で落札することは,何
ら不合理ではなく,損害自体が発生していないということになる。
ウ談合事案における損害について,民事訴訟法248条が適用されるため
には,その前提として,損害の発生及び談合行為と損害の因果関係の証明
がなされることが必要であるところ,本件においては損害の発生及び因果
関係が証明されていない。同条は,民事訴訟における主張立証責任の原則
や弁論主義の原則を変更する趣旨ではないから,被控訴人らは,損害の発
生のみならず,損害額についても主張立証しなければならず,また,裁判
所は自由な裁量によって何の実質的な根拠もない損害額の認定を行っては
ならない。
エなお,本件α工場工事についての請負代金の最終入金日は平成11年5
月31日である。
5控訴人bの当審における補充的主張
横浜市長の違法に怠る事実の不存在について(1)
本件は債権の存在自体に争いがあり,その存在すら明確になっておらず,
訴訟に要する費用をも考慮すれば,地方公共団体の長としては,手持ちの資
料に加え,将来収集可能と見込まれる資料の有無,内容,法的措置をとるべ
き緊急性,公益上の必要性,法的措置が奏功する見込み(訴訟であれば勝訴
の見込み)の有無,程度,回収の可能性,法的措置に要する経費の多寡等を
慎重に検討の上,最も適切な回収の方法を選択すべきであり,加えて,①別
件審判手続において審査官により提出された証拠はいずれも実質的な証拠と
しての価値がないこと,②横浜市発注の本件各工事について個別談合行為に
係る主張立証もないこと,③仮に不法行為に基づく損害賠償請求権が審決確
定前に消滅時効にかかったとしても,独禁法26条2項が同法25条による
損害賠償請求権の消滅時効期間を審決が確定した日から3年と規定している
,,ことから審決の確定を待って上記請求権を行使することが可能であること
④同法25条による請求は,無過失損害賠償責任と規定され,主張立証責任
の負担も軽く,同法84条の規定に基づいて公正取引委員会から損害額に関
する意見が出され,損害額の主張立証上も有利であること,⑤不法行為に基
づく損害賠償請求訴訟を提起して敗訴することに伴う既判力その他の不利益
もあることからすれば,横浜市長が審決が確定するまで損害賠償請求訴訟の
提起を差し控えていることには十分な合理性があり,横浜市長が上記損害賠
償請求権を先に行使しないことが違法な「怠る事実」であるとはいえない。
地方自治法の下では,住民訴訟によって住民が代位請求するためには,違
法な当該行為又は「怠る事実」が必要であり,同法242条の2の解釈とし
て地方自治体の財産の管理行為の一環としてかかる請求権の行使の是非が先
ず判断されることを要し,財産の管理と無関係に損害賠償請求権の不行使を
住民訴訟で争うことはできない。
「怠る事実」の違法性の判断基準時は,遅くとも住民監査請求に対する判
断がなされた時であり,その時点において違法な「怠る事実」が存在するこ
とを要する。本件では,横浜市監査委員が監査を行った平成12年7月5日
を基準日とすべきであり,同日以降に生じた事実を判断の基礎とすることは
許されず,上記基準日においては,別件審判手続が開始されて間もなく,横
浜市長は別件審判手続の帰趨を予測できない状況にあったから,横浜市長が
公正取引委員会の審判の経過を見守るという対応を採ったとしても,何ら違
法な「怠る事実」ということはできない。
本件各工事に関する個別談合の事実の不存在について(2)
ア被控訴人らが不法行為として主張する入札談合は,受注予定者及び受注
,,予定価格の決定を意味するものであって一般的には談合参加者において
①基本合意,②個別談合,③実行というつの段階を経ることになる。そ3
して,被控訴人らが主張するごみ焼却施設建設工事の入札手続は,仮に本
,,件基本合意なるものが存在していたとしても個別談合が行われない限り
当該案件に関する談合行為の実行はあり得ず,必ずしも全ての入札で談合
が行われるとも限らないから,個別の直接証拠がない場合には個別談合は
認定できない。加えて,本件においては,本件基本合意で詳細な調整手続
が定められ,個別物件については当該受注調整手続についてのルールを機
械的に適用すれば良いという事案ではなく,本件基本合意の拘束力が強か
。,,,ったような事情はないその上本件においては別件審判手続において
審査官の主張する対象期間中の工事87件のうち,個別の証拠があるとし
て個別談合を推認した案件はわずか30件にとどまり,その余の工事につ
いては個別談合の証拠は一切存在しないし,上記30件の工事のうち23
件は本件5社以外の業者(アウトサイダー)が入札に参加しており,談合
により受注を確実なものにすることができないから,本件基本合意に基づ
き原則として個別談合が行われていたということはできない。
イごみ焼却炉メーカーの営業担当者はごみ焼却炉メーカー等で構成する社
団法人等の会合において打合せ等を行う公的機会があり,本件5社の社内
メモ等の書証(甲サ58,60,62,63,67,73,76,79,
96,102等)はいずれも本件基本合意との関連性を示すようなもので
はない。また,本件会合の出席者はいずれもストーカ炉の建設工事の入札
に係る物件の選定や入札金額決定の権限を有していなかった。上記の会合
は本件基本合意と関連するものではない。
ウ本件会合の開催に係る証拠とされる書証(甲サ67,76等)は,本件
会合の出席者ではない者の所持していた書類であったり,一会社の担当者
の社内資料であるにすぎず,本件会合の存在を示すものではない。
エ具体的工事についての談合の存在をうかがわせるものとされる証拠(甲
サ82,84,85)は,いずれも拘束力を有する受注予定者決定の合意
の存在を立証する証拠とならないものである。
オ本件5社間における入札価格等の連絡をうかがわせるものとされる証拠
(甲サ124,125)は作成時期,目的も不明であり,他社との連絡用
メモともいえず,本件基本合意の存在を立証する証拠とはなり得ない。
(),カ業者間で事前に受注予定者を決定したものとされる証拠甲サ89は
一企業の一営業担当者が業界動向を調査予想した一社内資料の域を出ない
ものであり,受注予定者の決定に係る証拠たり得ないものである。
(,キ受注割合を指数化して把握する者がいたものとされる証拠甲サ106
107)は,その数値自体が本件5社共通のものでないばかりか,営業担
当者が個人的に作成したメモに過ぎず,本件基本合意を認定する根拠とな
り得ないものである。
クeの供述調書(甲サ28,46)は,審査官の不当な取調べにより作成
されたもので,任意性がなく,証拠能力を欠くものである。また,その供
述内容は,具体的でない上,他の関係者の供述内容とも一致せず,客観的
事実とも矛盾しており,信用性がない。又,他の関係者の供述調書(甲サ
35,42から45,47,49,102,108)は,審査官から不当
に長時間取り調べを受け,あるいは,ストーカ炉の営業活動に関与してい
ない者の伝聞又は再伝聞であるなど,いずれも関連性が低く,証拠価値に
乏しいものであり,本件基本合意を認定する根拠となりえない。
横浜市の被った損害額の認定について(3)
ア民事訴訟法248条は,民事訴訟における主張立証責任や弁論主義の原
則を変更するものではなく,損害の発生及び談合行為と損害の因果関係の
証明を前提として適用されるが,被控訴人らは損害の発生及び因果関係の
,。証明を行っておらず安易に同条を適用して損害額を認定すべきではない
イまた,本件工事の落札価格は合理的な価格であった。すなわち,ストー
カ炉建設工事は,日用品・汎用品や仕様が一定の工事等ではなく,定価や
,,,,標準価格はなく物件ごとに発注者も物件も異なりその仕様設備内容
処理能力,附帯施設及び立地条件等,工事価格の算定基礎となる条件も異
なる「特注品」というべきものである。そして,発注者が定める予定価格
は,できる限り客観的に妥当適正な価格であることが求められるため,各
地方公共団体は,多数の業者に見積を出させ,類似工事等における価格の
動向を調査し,コンサルティング会社の意見を聴取するなどして予定価格
を決定するのが通例であり,予定価格自体が当該建設工事の工事費として
一定の合理性を有している。本件各工事の落札価格は,横浜市において適
正に設定した予定価格以下であるから,それ自体,本件各工事の工事費と
,。して合理的な価格の範囲内にあり不当な損害を与えるものではなかった
ウ本件は,損害の有無及びその額に関し,談合の対象となった時期の直前
(又は直後)の価格と比較することによって損害の発生及び額を推認する
ことはできない事案である。一般に,ごみ焼却炉建設工事はそれ自体が機
,,,,械電気建築化学等多方面の技術分野を融合した総合プラントであり
見積書や設計図書だけからプラント全体を想定することは難しく,発注者
たる地方公共団体は入札に際して詳細な仕様等に代え,法規制,立地,ご
み質,インフラストラクチャー,概略設計,情報基盤等のプラントの機能
を定義し得る性能だけを示し,基本設計,実施設計,施工等の詳細は受注
者に委ねる「性能発注方式」をとり,発注者はメーカーから技術ヒアリン
グ等を行い,プラントに関する技術的分析を行うとともに,燃焼方式ごと
の技術的特長を比較検討し,燃焼方式及び仕様を決めた上で,入札参加メ
ーカーを決定し,発注仕様書を作成し,入札を実施するのであり,本件の
対象商品はストーカ炉であって,前記のとおり「特注品」ともいうべき,
ものであるから,個々に異なる物件の価格を比較することには全く意味が
ない。結局,本件においてはその前(後)の価格の比較によって損害の発
生を推認することはできない。したがって,本件において,被控訴人ら又
は補助参加人において,談合が存在しなかったならばさらに安価な入札が
行われたことを本件各工場の建設工事金額に即して具体的に主張立証する
必要があるが,そのような主張立証は一切されていない。
エまた,本件において,控訴人bは,社内で算出した見積原価を元に一般
管理費や粗利等を積算して入札価格を決定した上,横浜市がいわば地元で
あり,β工場の建設工事が控訴人bとして過去最大規模の工事(1炉40
0トンが3炉で合計1200トン)であって,超大型工事の施工実績が技
,,術経験の蓄積となる上その後の営業展開にも有利に作用すること等から
利益を圧縮してでもこれを受注したかったという事情があった。また,横
浜市の予算の積算上も,超大型工事によるスケール・メリットが考慮され
ると考えられたこと等から,下げられる限界の価格400億円で入札した
のであり,さらに減額する余地はなかったから,控訴人bの落札金額は単
価的にもかなり抑えられた金額であり,他の業者がこれを下回る金額で入
札した蓋然性はなかった。
オ仮に談合が存在した場合であっても,必ずしも発注者に損害が発生する
わけではないし,別件審判手続においてすら,その審理の対象とされてい
る受注調整行為の目的は受注価格の低落防止等とはされていないから,本
件において仮に談合行為が存在したとしても,当該談合行為の存在から損
害の発生を推認することができない。
カ落札率と談合の存否は無関係であって,落札率が高いという事実から損
害の発生を推認することはできない。予定価格は,発注者が事前に積算し
た適正かつ合理的な価格であり,その価格や具体的な積算方法が外部に漏
れないよう厳重に管理されている一方,積算ソフトを用いることにより,
地方公共団体等の発注者が決定する予定価格とメーカー算出の価格が近似
し,結果的に予定価格と同額又はそれに近い価格で落札されることは起こ
り得る。また,予定価格が予算から数%程度の範囲内で減額された額とな
る(いわゆる「歩切り」が行われる)と推測できることから,おおよそ。
の予算を知ることにより,予定価格についてある程度の目安を知り得る場
合もある。したがって,適正な競争が行われた場合にも,予定価格に近い
価格で落札されることは十分にあり得るから,落札率が高いことが談合の
存在を示すものではない。
被控訴人ら主張の請求原因事実が不特定であること(4)
民事訴訟における請求原因事実は,訴訟物を構成し,裁判所の審理の対象
であり,当事者双方の攻撃防御の対象となるものであるから,具体的に特定
して主張されることが必要であるところ,被控訴人らの主張は,おそくとも
平成6年4月以降平成10年9月17日までの間に,月回程度,いずれか1
の会社の会議室において,本件5社が本件基本合意のもとにストーカ炉の建
設工事についての談合を繰り返し,平成7年8月18日にβ工場について入
札がされたなどと極めて抽象的なことを主張するのみで,具体的事実を主張
していない。そのような主張を安易に肯認した原判決は誤りである。
6被控訴人らの当審における補充的主張
落札価格が最低制限価格を基準とすべきことについて(1)
入札において,競争は入札予定価格を上限とし,最低制限価格を下限とし
て展開され,この範囲内で価格が形成される限り,契約の内容に適合した履
行は確保されるものであって,控訴人らの主張のように,入札予定価格すな
わち上限価格だけが「適正」性を主張しうるものではない。入札談合が行わ
れず競争が成立した場合に,価格が当然に最低制限価格ラインに収れんする
と断定すべき根拠はないが,品質や安全性などの諸点に照らして,契約の目
的を損なわない範囲内において,適切に競争が活発化すれば最低制限価格ラ
,()インに限りなく近づき競争が排除されれば上限価格入札予定価格ライン
に近づくことは一般に見易い道理である。なお,最低制限価格とは「当該,
契約の内容に適合した履行を確保するため特に必要があると認めるとき」に
()。発注機関が設定する価格である地方自治法施行令167条の10第2項
落札率で損害を把握すべきことについて(2)
予定価格について積算ソフトを用いることにより,地方公共団体等の発注
者が決定する予定価格とメーカーが算出する価格が近似するということは,
予定価格の算出方法に普遍性があることを示しており,工事の量・質の差を
反映する共通の尺度として予定価格をとらえ,談合の影響を落札率を媒介と
して把握することには客観的合理性がある。
個々の工事について,入札予定価格及び入札額は,当該工事の量的・質的
個別性を反映するが,落札率はそのような個別性を捨象するものの,入札に
おける競争性の強弱をはかる共通のバロメーターであり,それ自体入札予定
価格を入札参加者が把握する上での難易の差等が個々の落札率に反映するこ
とも避けがたいとしても,談合が継続していた期間と談合が行われなくなっ
た期間のそれぞれについて同種工事に関する大量観察の結果として得られる
平均落札率は,談合による影響の有無・程度を近似的に把握する上での適切
な資料である。談合が存在しなかったとすれば,本来行われるべきであった
価格競争が行われる結果,落札率が下がるのは当然のことであり,実際,公
正取引委員会立入調査後に競争入札の方法によって発注された大型ストーカ
炉の平均落札率は,別表記載のとおり,算術平均で87.51%(加重平均
では89.59%)となっている。
民事訴訟法248条の適用について(3)
入札談合が行われれば,落札価格は競争が実現した場合と比べて顕著に引
き上げられるものであり,その価格差が損害にほかならないが,ごみ焼却プ
ラントのごとき特注品の場合は,定型的,等質的な汎用品の製造や販売と異
なり,同一仕様の商品が反復的継続的に供給されるケースではないから,談
合によって受注した特定のA工事と談合によらないで受注した別のB工事と
の価格を直接個別に比較することは意味を持たない。
入札談合の場合は落札率(予定価格に対する落札額の比率)を媒介として
損害を把握せざるを得ず,競争が実現したと想定される他の工事の落札率と
の差を端的に損害とみなすのが困難であるから,民事訴訟法248条を発動
せざるを得ないのであって,このことはいずれも広く裁判実務において確立
した採証法則であると言える。
損害額を10%と推認すべきことについて(4)
上記のとおり,予定価格の算出方法に普遍性があり,損害を契約金額の一
定比率として把握することも合理性がある。また,公正取引委員会は,独占
禁止法改正の趣旨を説明する平成17年6月20日付記者発表資料の中で,
過去のカルテル・入札談合事件における不当利得が推計上,約9割の事件で
8%以上であり,平均16.5%であることを指摘し(甲50,国土交通)
省はすべての直轄工事について,談合の存在が確認された場合には,契約金
額の10%を違約金として支払うことを義務づける特約条項を平成15年6
月から導入しており,各都道府県,政令市の中には同旨の制度を導入してい
るところもある。これらを考慮すると,本件においても損害額を10%と推
認すべきである。
7横浜市(補助参加人)の当審における補充主張
本件α・β工場の工事請負契約は公共契約であり,地方公共団体におい(1)
ては納税者の利益が最大限重視され,横浜市は予定価格を上限として,もっ
とも経済的な調達を図ることが求められるから,予定価格以下の落札であっ
ても,談合により落札価格が吊り上げられていれば,横浜市に損害が発生す
るというべきである。
受注調整行為がある場合には,事前に入札参加者間で受注予定者が決定(2)
され,競争が排除されるから,受注予定者はより大きな利益の確保を企図し
て,予定価格に近い金額での落札が可能となり,その結果,落札率も高くな
る。これに対して,受注調整が行われていない場合には,事前に入札参加者
の応札額は分からないから,受注するためにはより低い金額での応札を強い
られ,その結果,受注調整行為が行われている場合と比べ,落札価格は予定
価格から下方に乖離した金額となり,落札率も低くなる。本件ごみ焼却場の
工事入札に関しても,公正取引委員会が独占禁止法違反の立入調査後に行わ
れた入札の落札率が低くなっていることは被控訴人らの主張のとおりであ
る。
控訴人bは,予定価格を基準として損害の有無を検討すべきであると主(3)
張するが,入札においては予定価格を上限とし,最低制限価格を下限として
落札額が決定され,受注調整行為がなされない場合には,それが行われてい
る場合と比べ,落札価格が予定価格から下方に乖離する傾向にあることは前
記のとおりである。
控訴人aは,本件α工場に係る入札は随意契約によるものであり,横浜(4)
市は完全に自由な意思に基づき価格決定をした旨指摘するが,受注調整行為
が行われた場合,入札参加者において事前に受注予定者が決定され,1回目
の各社の応札額や1回目不調となった場合の2回目の各社の応札額について
も取り決めがされるのが通常であり,予定価格自体の予測がつきにくい場合
などは敢えて高めの応札を行い,入札を不調にして予定価格の動向を探るこ
ともあり,不調等複数入札案件は談合が行われている場合に多く見られる現
象である。したがって,受注調整行為が存在しない完全な自由競争の下にお
ける場合と比べ,随意契約の場合は,契約価格は予定価格に極めて近いもの
となるのであり,この意味で,横浜市が完全な自由な意思に基づき価格を決
定したとは到底いえない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人らの本件各請求は,遅延損害金の請求に係る部分を除
,,。き原判決の認容する限度で理由がありその余は理由がないものと判断する
その理由は,次項以下に控訴理由及び附帯控訴理由についての判断を付加する
ほか,原判決の「事実及び理由」中の「第6当裁判所の判断」に記載のとお
りであるから,これを引用する。
ただし,原判決を次のとおり改める。
原判決42頁15行目33の次に44を加え19行目の平(1)「,」「,」,「
成6年4月以降」の次に「平成10年9月まで」を加え,43頁2行目及び
末行の「○○」をいずれも「○○」と改める。
原判決47頁10行目末尾に,改行の上,以下のとおり加える。(2)
「エ)なお,控訴人bのj環境第一営業部第一営業室長は,平成6年こ(
ろから第一営業室のチーム主査,次いで同10年から同室長に就任し
た者であるが,同人が所持した「仕組み営業の強化」と題する文書に
は,地方自治体の処理施設・建設手続フローに細かく対応した形で,
仕組み欄に施主である自治体職員との密着友好確立対策,キーマン・
フィクサーの調査接近,コンサル推進,コンサル協力(設計協力・発
注仕様書作成,方式の選定工作,メンバーセットと高予算対策,メ)
ンバーセットと発注形態工作,施主,キーマンとの方針確認,地方議
会対策,予算及び予定価格入手,最低制限価格(下限)対策などの記
載がある。同文書は,日付のない,施主等の情報収集や働きかけの要
諦を集成し,手順等をフローチャートにした「取扱注意」と書かれた
2枚組の文書である(甲サ12,33,119,140,弁論の全。
趣旨」)
原判決56頁20行目の「記載」の次に「メモ」を加え,59頁4行(3)()
目「同メモ」を「前記メモ(甲サ106」と改める。)
原判決76頁7行目末尾に,改行の上「以上の事実によれば,本件5社(4),
は,遅くとも平成6年4月までに,地方公共団体が指名競争入札等の方法に
より発注するストーカ炉の建設工事について,受注機会の均等を図るため,
本件基本合意をしていたものというべきである」を加える。。
原判決81頁4行目の「基本談合」を「本件基本合意」と改め,83頁(5)
「」「,,9行目から10行目の甲12ないし15を甲1213の各1から3
甲14,15」と改め,85頁5行目「なることは当然である」を「なり得
ることは否定しがたい」と改める。
原判決87頁4行目「丁8の2」の次に「,同工場の工事代金が平成(6)()
11年5月18日に横浜市から最終的に支払われたこと(戊1」を加え,)
5行目「平成11年3月31日」を「平成11年5月18日」と改め,10
行目「であること」の次に「,同工場の工事代金が平成13年5月18日に
横浜市から最終的に支払われたこと(戊1」を加え,同行から11行目の)
「平成13年3月31日」を「平成13年5月18日」に改め,13行目の
「平成11年3月31日」を「平成11年5月18日」と改め,14行目の
「平成13年3月31日」を「平成13年5月18日」と改める。
2横浜市長の違法に怠る事実の不存在に係る控訴人らの主張について
控訴人らは,それぞれ控訴理由において,原審における主張を繰り返し,被
控訴人らの主張する損害賠償請求権についてはその存在が争われており,公正
取引委員会の審決も確定していない状況下において,横浜市長が上記請求権の
行使を見合わせても何ら違法な怠る事実と評されるべきではないから,横浜市
長には「違法に怠る事実」が存しなかった旨主張する。
しかし,地方公共団体の債権については,その長が政令の定めるところによ
り,その督促,強制執行その他その保全及び取立てについて必要な措置をとら
なければならず(地方自治法240条2項,債権を行使するか否かについて)
の裁量の余地は乏しいものと解され(地方自治法施行令171条以下。なお,
法96条1項10号参照,長が,法施行令171条の5に定める場合でない)
のに,相当期間債権を行使しない場合には,それを正当とする特段の事情のな
い限り,違法となると解される。
この点に関し,控訴人らは,不法行為に基づく損害賠償請求権は,その発生
原因事実の主張立証が複雑困難な場合もあり,原告として敗訴の危険も相当程
度考慮せざるを得ない場合もあり得る上,独占禁止法25条所定の損害賠償請
求権は無過失損害賠償責任とされ,審決が確定する前に不法行為に基づく損害
賠償請求訴訟を提起するより主張立証が容易で,同様の効果を得ることができ
るから,発生原因事実の主張立証責任の負担においてより合理的である旨それ
ぞれ主張する。しかし,地方自治法その他の法令において,独占禁止法25条
所定の損害賠償請求権と民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権について,
長にもっぱら前者の損害賠償請求権を行使することを要するとし,あるいは審
決の確定まで訴えの提起をしないことができるとした規定は存しない上,本件
のように,独占禁止法違反(談合)を理由とする民法709条による不法行為
に基づく損害賠償請求権であってその存在について当事者が全面的に争う場合
には,審決取消訴訟の帰趨をも含めれば,その確定までに相当の長期間を要す
ることもあり得ることであって,その間,地方公共団体の長が損害賠償請求権
の行使を拱手しなければならないとすれば,地方公共団体の被った損害回復が
図られない状況が長期にわたり継続し,法242条の2第1項4号に基づく損
害賠償代位請求訴訟の存在意義を没却することとなるから,上記独占禁止法2
5条所定の損害賠償請求権を行使し得ることは民法上の損害賠償請求権の不行
使を正当とする特段の事情に当たるとはいえず,独占禁止法25条所定の損害
賠償請求権を行使することがもっとも効率的かつ適切な権利の行使として合理
的であるともいえないというべきである。
本件において,前記引用に係る前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば,
α工場工事の入札が平成6年8月19日,契約締結が同年9月14日であり,
β工場工事の入札が平成7年8月18日,契約締結が同年9月21日であり,
公正取引委員会が審判開始決定をした平成11年9月8日までに約4年又は5
年が経過し,被控訴人らによる監査請求がされたのが平成12年5月10日で
あり,本件訴訟が提起されたのが同年7月21日であり,審決(甲29)がさ
れたのが平成18年6月27日であることをも併せ考えると,本件各契約に関
しても,公正取引委員会が審判開始決定をした時点でさえ,契約締結後相当の
長期間が経過したものであって,その間,横浜市長において,前記損害賠償請
求権の行使をしようとした様子は全くうかがわれないことに照らしても,横浜
市長は,被控訴人らが本件訴訟において代位行使する損害賠償請求権を違法に
行使しなかったものといわざるを得ない。したがって,控訴人らの前記主張は
採用できない。
また,控訴人らは,それぞれ,控訴理由において,原審における主張を繰り
返し,横浜市長に「違法に怠る事実」が認められるか否かの判断基準時は,遅
くとも,住民監査請求に対する判断がされたときと解すべきである旨主張する
が,本件訴訟は監査委員の判断の適否を審理の対象とするものではなく,横浜
市長の財務会計上の行為又は「怠る事実」の有無を審理の対象とするものであ
って,その判断基準時は,事実審の口頭弁論終結時と解するのが相当である。
したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。
3本件工事の個別談合に係る事実主張の特定について
控訴人らは,控訴理由において,それぞれ原審における主張を繰り返し,被
控訴人の個別談合についての事実主張は,時期,場所,合意内容,参加者等を
具体的に主張しておらず,請求原因としての特定性を欠いているにもかかわら
ず,原判決がその特定が十分であるとしたのは誤りである旨を主張する。しか
し,談合が密室で行われるなど秘密裏に行われることが多く,当事者以外の第
三者にその時期,場所,合意内容等を具体的に把握することが困難であり,被
控訴人ら自ら談合について調査することは極めて困難であること,本件におい
て,被控訴人らは,遅くとも平成6年4月1日から本件各工事の入札期日まで
の間に,本件各工事について,本件5社の営業責任者が集まる本件会合におい
て,本件基本合意に基づいた内容の談合が行われたことを主張していること等
に照らすと,その時期,場所,合意内容等については,この程度の特定でも主
張としての特定性が欠けるとまではいうことはできない。したがって,控訴人
らの上記主張は採用できない。
4本件基本合意又はそれに基づく個別談合の事実の有無について
控訴人らは,それぞれ,控訴理由において,本件基本合意の存在を否定(1)
し,個別談合についてもこれを認めるべき証拠がないにもかかわらず,原判
決が,本件5社は平成6年4月よりも相当前から地方公共団体が指名競争入
札等の方法により発注するストーカ炉の建設工事について談合を繰り返して
いたものと認定した上,本件5社は,平成6年4月よりも相当前から本件会
合において,地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注するストーカ
炉の建設工事について,その処理能力の規模等により3つに区分された工事
ごとに,各社が受注を希望する工事を表明し,希望者が重複しなかった工事
はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望者間で話し合
い,受注予定者を決定していたものであって,受注予定者の決定は各社の受
注が均等になることを念頭に置き,また,受注予定者に決定した社は自社の
入札価格とともに他社の入札価格をも定めてそれぞれの社に連絡し,連絡を
受けた各社はその価格で入札して受注予定者が落札できるように協力してい
たとして,本件基本合意の存在を認定した上,本件各入札についても,本件
各工事が本件5社に認識されたころには談合が行われていたことが推認され
るとしたが,以上の原判決の認定判断は,証拠の採否・評価を誤り,事実認
定を誤ったものである旨主張する。
しかし,原判決の本件基本合意及び個別談合に係る上記認定判断は正当(2)
として是認することができる。前記引用に係る前提となる事実に加え,原判
決挙示の証拠及び当審において提出された証拠並びに弁論の全趣旨によれ
ば,ア本件5社は,本件入札当時,ストーカ炉のプラントメーカーの中に()
あって,ストーカ炉の建設工事の施工実績,施工経歴,施工技術等において
優れ,大手5社と称されていたこと,イストーカ炉工事は,プラント工事()
として,規模も大きく,高い施工技術が要求され,1件当たりの発注金額も
大きく,営業活動や資料の作成等に多額の費用と労力を要すること,ウ平()
成3年度から平成10年9月までにおけるストーカ炉建設工事については,
原判決(事実及び理由」の第6の1ウ,エ)に説示のとおり,本件5社「(1)
の指名実績は9割前後に及び,受注実績においても,本件5社のいずれかが
受注した発注トン数はいずれも全体の9割弱に及び,5社以外の業者のそれ
とは相当の開きがあったこと,エ本件5社は,地方公共団体のごみ焼却施()
設の建設や既存施設の建替え計画について高い情報収集力を有し,各地方公
共団体のごみ焼却施設の建設計画の有無や既存施設のおおむねの更新時期を
把握していたこと,オ本件5社は,平成6年4月以前から平成10年9月()
14日まで,毎月1回程度,ごみ焼却施設に係る担当部署の課長等が出席す
()る会合本件会合を持ち回りで各社会議室において開催していたことカ(),
上記会合の出席者は,ごみ焼却施設の工事受注等に関し,決裁権限まではな
いものの,実務担当者として工事方式の選定の過程や入札価格の決定過程等
に関与し得る地位にあり,従前の出席者から資料を引き継ぐなどして会合に
参加していたこと,なお,控訴人bの「仕組み営業の強化」と題する文書の
仕組み欄には,自治体の手続フローに対応した形で,方式選定工作,メンバ
ーセットと高予算対策,メンバーセットと発注形態工作,予算及び予定価格
()入手,最低制限価格(下限)対策などの記載があること(甲サ119,キ)
上記会合の開催の事実及びその内容は,各社の社内においては出席者等の限
られた者以外には知らされず,極秘扱いとされていたこと,なお,上記会合
において,もっぱらダイオキシンの除去その他の技術向上等,公共の利益に
()反しない事項についてのみ協議されていた様子は見受けられないこと,ク
本件5社は,昭和54年以降,別紙1記載のとおり,数度にわたり,公正取
引委員会から,独占禁止法3条違反に係る受注予定者の決定等の行為に関し
て勧告又は警告を受けていたこと,ケ上記会合においては様々な事項につ()
いて協議が行われたが,ストーカ炉の建設工事に関する受注調整を行うこと
があり,処理能力の規模等によりごみ焼却施設の工事を規模別に400トン
以上の大型,200トン以上の中型及び200トン未満の小型の3つに区分
し,その工事ごとに,各社が受注を希望する工事を表明し,希望者が重複し
なかった工事はその希望者を受注予定者とし,希望者が重複した工事は希望
者間で話し合い,受注予定者を決定していたこと,コ本件5社は,受注予()
定者の決定に際し,各社の受注を調整して配分するため,受注工事の処理能
力や予想される工事代金額なども要素として考慮しながら,チャンピオンと
称する受注予定者を決定していたこと,サ受注予定者は,指名を受けた工()
事について積算し,本件5社を含む相指名業者にそれぞれの入札金額を電話
等で連絡して協力を求めていたこと,シ本件5社は,上記受注予定者を決()
定する会議を張り付け会議と称し,少なくとも,平成8年12月9日に中型
及び小型1件ずつと小型1件,平成9年9月29日に小型3件,同年10月
16日に大型1件,同月29日に中型2件,平成10年1月30日に中型1
件,同年3月26日に中型及び小型1件のストーカ炉建設工事の受注に関す
る張り付け会議を行ったこと(甲サ35,44。なお,甲サ55,58,6
7,68,73,75,85,145参照,スkの社員は,平成7年9月)()
28日ころ作成のリスト(lリスト。甲サ89)を所持していたが,同書面
は,地方公共団体からの発注が見込まれるストーカ炉建設工事のうち,既に
,,張り付け会議によって受注予定者が決定されたものについて発注見込年度
受注予定者ごとにまとめられ,発注者たる地方公共団体名,処理能力も記載
されていたこと,セ同書面のリストには,平成8年度からに実際に発注さ()
れたストーカ炉建設工事15件(原判決別紙2の番号45から59まで)の
うち12件(同別紙の番号45,46,49,50から56まで,58,5
9)が,平成9年度に実際に発注された21件(同別紙の番号60から80
まで)のうち9件(同別紙の番号60,61,62,71,74,76,7
7,79,80)が,平成10年度に発注された7件のうち1件(同別紙の
)(),,(,番号85が記載され合計22件そのうち4件同別紙の番号46
52,71及び80)を除いた18件の受注予定者と実際の受注業者とが一
致していること,ソ本件においては,α工場の処理能力は540トン(1()
80トンの炉が3炉)であり,β工場のそれが1200トン(400トンの
炉が3炉)であり,いずれも前記ケの合意における大型に区分される物件()
であったこと,タα工場の入札予定価格が193億2730万0070円()
(消費税を含む,最低制限価格が154億6183万9850円であり,。)
β工場の入札予定価格が413億4209万3650円(消費税を含む,。)
最低制限価格が330億7367万4920円であったこと,チα工場の()
入札に関しては,第1回入札が控訴人a192億円,控訴人b198億円,
d203億円,m207億円,k212億円であり,第2回入札が控訴人a
,,,,188億円控訴人b190億円d191億円m191億2000万円
k191億5000万円であり,いずれも予定価格を超えていたため,控訴
人aが随意契約の方法により代金額186億円(消費税を含む金額191億
()5800万円で契約したがその落札率は9912%であったことツ),.,
β工場の入札については,第1回入札が控訴人a412億円,控訴人b40
0億円,d421億円,m415億円,k433億円であり,控訴人bが代
金額400億円(消費税を含む金額412億円)で落札したが,その落札率
は99.66%であったこと,テ公正取引委員会が立入検査を実施した平()
成10年9月17日以降は,本件5社において,前記持ち回りの会合が開か
れていないが,これは立入検査等の外部的要因によるものであり,控訴人ら
の自発的な意思に基づくものではないこと,ト公正取引委員会の上記立入()
検査後,ストーカ炉建設工事においては,入札に係る落札率が数%程度下が
る傾向にあることが認められる。
以上の諸事実を総合考慮すると,本件5社間には,遅くとも平成6年4月
1日までには本件基本合意が成立し,同月以降,公正取引委員会の立入調査
が行われた平成10年9月17日までの間,本件5社の営業担当者が参集し
た本件会合において,地方公共団体発注のストーカ炉建設工事について,炉
の処理能力の区分に応じ,本件5社間で物件ごとに受注予定者を協議により
決定し,当該受注予定者が入札前に入札参加社の入札価格を調整し,これを
各社に連絡して入札させ,当該受注予定者による落札が可能となるように図
っていたことが認められ,上記認定の事実に加えて,原判決挙示の証拠(甲
ア24,甲サ85,89,106,125,155)及び弁論の全趣旨によ
れば,平成6年4月から平成10年9月17日までの間に,地方公共団体に
よって発注され,指名競争入札等の方法により入札が行われた原判決別紙2
記載のストーカ炉建設工事87件のうち,合計26件(同別紙番号26,4
5,49から51,53から56,58から62,74,76,77,79
から87)の工事について個別談合が行われたことをうかがわせるメモ,文
書等や,個別の工事に関する関係者の供述等が存在することをも併せて考慮
すると,本件5社間で,本件基本合意成立以降,平成10年9月17日まで
の間において,ストーカ炉建設工事に係る本件基本合意に基づき,継続的に
開催された本件会合において,ストーカ炉建設工事の具体的な個々の工事に
ついて,個別の談合が現実に行われ,それに基づいて,実施された指名競争
,。入札において受注予定者が実際に落札していた事実を認めることができる
また,上記認定の本件基本合意の成立に係る事実に加え,本件各工事が,
いずれも前記工事区分上「大型」であって,受注金額もα工場にあっては1
86億円(消費税を含む金額191億5800万円,β工場にあっては4)
00億円(消費税を含む金額412億円)と巨額であること,指名競争業者
も本件5社のみであり,5社以外の他社(アウトサイダー)が含まれていな
いこと,本件各入札における落札価格は,α工場については99.12%,
β工場については99.66%であって,いずれも予定価格の99%を超え
る高額なものであったこと,本件会合の参加者は前任者の資料を引き継いで
,(「」,いたことがうかがわれるなど原判決事実及び理由の第6の1イ(11)
ウ)が説示する諸事情が存することを併せて考慮すると,本件各工事につい
ても,本件基本合意に基づき個別の談合が行われ,本件5社において,事前
に受注予定者をα工場については控訴人aと,β工場については控訴人bと
することが決定され,控訴人らが落札できるように相互に連絡を取って入札
価格を調整し,各社がこれに沿って入札を行い,その結果,控訴人らがそれ
ぞれ本件各工事を落札したものと推認することができる。
以上によれば,控訴人らは,本件各入札において,上記受注調整に係る談
合行為により,違法に横浜市の利益を害したものというべきである(独禁法
2条6項,3条参照。)
控訴人らは,当審においても,本件基本合意に係る各証拠に関して弾劾(3)
,,する主張をるる繰り返すが前記引用に係る原判決説示のとおりであるから
採用できない。
5損害の発生及びその額について
,,,(1)控訴人らはそれぞれ控訴理由において原審における主張を繰り返し
民事訴訟法248条の適用に関し,同条は損害の発生や談合行為と因果関係
,,についての証明がされることを前提としていると解されるところ原判決は
損害が生じていない上,損害の発生や因果関係について立証がないにもかか
わらず,損害が発生しているとして同条の適用を肯定したものであり,損害
,。発生に係る事実認定を誤った上同条の適用を誤ったものである旨主張する
しかしながら,前示のとおり,本件5社は,本件各入札において,本件基
本合意に沿って談合を行い,あらかじめ受注予定者をα工場については控訴
人aとし,β工場については控訴人bとすることとし,控訴人らがそれぞれ
落札できるように相互に入札価格を調整したものであり,その結果,控訴人
らは他の入札参加業者との競争関係を考慮せずに,その利益を最大にするた
め,予定価格に近い価格で入札することが可能となったものということがで
きる。また,本件各入札においては,α工場については最低制限価格154
億6183万9850円から入札予定価格193億2730万0070円の
間で,β工場については最低制限価格330億7367万4920円から入
札予定価格413億4209万3650円の間で,それぞれ自由な競争によ
り形成された価格で落札されることが予定されていたが,本件各入札におけ
る落札価格はいずれも予定価格の99%を超える高い落札率であった上,本
件における立入検査後のストーカ炉建設工事においては,入札に係る落札率
が数%下がる傾向にあったのである。
一般に,自由な競争下の指名競争入札において,落札価格が常に必ず予定
価格に近くなるという法則があるわけではないが,請負業者の技術力などか
ら複占あるいは寡占(化)の市場における巨大公共工事等の領域における入
札競争については,それ以外の工事領域に比べれば,適切な競争下でも,そ
の比率はしばらく措き,予定価格に落札価格が接近しがちな傾向が存するこ
とは理解し得るところである。しかし,本件5社は,前示のとおり,メンバ
ー内の利益を図るため見積設計図書提出の機会を捉えて行う発注予算対策
や,予算及び予定価格を入手する対策,最低制限価格に係る下限策定対策に
務め,周到に情報を共有化していたのであるから,純粋に落札価格の形成費
目を積算していた業者とはいえず,上記傾向が顕れて予定価格とほぼ同額の
落札価格となったとうかがうべき格別の事情も認められない本件は,損害発
生の有無について上記工事等領域における傾向に配慮しより慎重な検討を加
えるべき場合に当たるとはいいがたい。したがって,本件各入札で予定価格
,,とほぼ同額の落札価格となったことはまさに談合の影響によるものであり
談合が行われずに自由な競争により価格が形成された場合と比べ,より高い
落札価格で落札されたものと推認すべきであり,この事実に照らすと,横浜
市は,控訴人らの談合によって,本件各入札において談合が行われずに自由
(「」。)な競争により形成されたであろう落札価格以下想定落札価格という
を前提とした契約金額と,実際の落札価額との差額相当分の損害を被ったも
のというべきである。
もっとも,想定落札価格は,一般に入札に係る工事の規模・種類や特殊性
のほか,入札指名業者の数や各業者の事業規模,入札当時の社会経済情勢,
地域特性等種々の要因が複雑に影響して形成される上,ごみ焼却場建設工事
のような取引においては,定型的,等質的な汎用品の製造や販売に係る取引
と異なり,同一仕様の商品が反復的継続的に供給され,定価のような商品価
格が形成されるケースではないことから,談合によって生ずる商品価格の比
較や談合の前後における価格差を具体的に算定しがたい。これらの諸事情を
総合考慮すると,本件においては,横浜市において損害が生じたことは認め
られるものの,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとい
わざるを得ず,原判決が説示するとおり,民事訴訟法248条を適用して相
当な損害額を認定すべきである。
そして,上記損害額の算定においては,ある程度控えめで確実な金額をも
って認定することもやむを得ないところ,本件各工事の予定価格及び契約金
額,その他本件に現れた諸般の事情を総合して考慮すると,控訴人らの談合
により横浜市が被った損害額が本件各契約の契約金額の5%に相当する額と
した原判決の認定判断は正当として是認することができる。したがって,横
浜市に対し,控訴人aは9億5790万円(α工場工事)の,控訴人bは2
0億6000万円(β工場工事)の損害賠償義務を負うというべきである。
なお,控訴人らは,審判手続における審理の対象は,受注機会の均等を図
る目的とする受注調整の有無であるとし,カルテルのような受注価格の低落
防止を目的としたものではないから,仮に談合行為が存在したとしても,当
該談合行為の存在から損害の発生を推認することができない旨主張するが,
受注機会の均等を図ることを目的とする受注調整の有無を対象とする場合で
あっても,市場の競争秩序の回復・維持という目的達成の観点から,受注価
格の低落防止をも目的とする場合があり得るのみならず,本件において,談
合が行われずに自由な競争により価格が形成された場合と比べ,不当に高い
落札価格で落札されたものと推認することができることは前示のとおりであ
るから,控訴人らの主張は採用できない。
被控訴人らは,原判決は本件における横浜市の損害額を契約額の5%と(2)
認定したが,公正取引委員会の談合による不当利得に係る推計(甲50)等
に照らしても低きに過ぎ,10%と認定すべきである旨主張するが,上記推
計は,工事の種類,規模,内容,契約時期,契約金額等の具体的な内容が明
らかではなく,不当利得推計の根拠は必ずしも明らかでなく,横浜市が被っ
た損害額が10%であることを推認することはできない。
また,被控訴人らは,遅延損害金の起算日に関し,各契約締結日である旨
主張するが,原判決が説示するとおり,横浜市に損害が発生するのは各契約
締結日ではなく本件各契約に基づいて請負代金を支払った時点であり,遅延
損害金の起算日は代金支払時であると解すべきであるところ,証拠(戊1)
及び弁論の全趣旨によれば,横浜市がα工場の工事代金を平成11年5月1
8日に,β工場の工事代金を平成13年5月18日に最終的に支払ったこと
が認められ,この事実によれば,遅延損害金の起算日は,α工場の損害賠償
請求に係る起算日は平成11年5月18日,β工場の損害賠償請求に係る起
算日は平成13年5月18日であることが認められる。
以上によれば,被控訴人らの本件請求は,控訴人aに対する請求について
は,9億5790万円及びこれに対する平成11年5月18日から,控訴人
bに対する請求については,20億6000万円及びこれに対する平成13
年5月18日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支
払を求める限度で理由がある。
6そのほか,控訴人らは,種々主張して,原判決における事実認定・判断を非
難するが,いずれも原判決を正解しないか,又は独自の見解に基づくものであ
,,。りあるいは証拠を正当に評価しないものであって採用することができない
第4結論
以上によれば,被控訴人らの請求は,上記の限度で理由があり,その余は理
由がないから棄却すべきところ,原判決は,上記判断と異なる限度において相
当でないから,これを変更することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第4民事部
裁判長裁判官稲田龍樹
裁判官浅香紀久雄
裁判官足立謙三

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