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判決言渡平成20年2月29日
平成19年(行ケ)第10208号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年2月27日
判決
原告三星電子株式会社
訴訟代理人弁理士服部雅紀
同村山裕朗
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人吉野公夫
同向後晋一
同山本章裕
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−22439号事件について平成19年1月31日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「液晶表示装置の製造方法」とする後記特許の出願人
である原告が,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,
特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案であ
る。
争点は,本願が,発明の名称を「薄膜トランジスタマトリクス装置及びその
製造方法」とする公開特許公報(特開平6−202153号,出願人富士通
株式会社,公開日平成6年7月22日。以下これに記載された発明を「引用
発明」という)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項)である。。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
,(。原告は平成8年11月20日にした原出願特願平8−309472号
優先権主張平成7年11月21日韓国及び平成8年4月30日韓国)からの
分割出願として,平成16年1月5日,発明の名称を「液晶表示装置の製造
方法」とする発明について特許出願(特願2004−157554号,請求
項の数32,以下「本願」という。甲1)をしたが,平成17年8月18日
に拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2005−22439号事件として審理し,その
中で原告は平成18年12月19日付けで特許請求の範囲等の変更を内容と
(「」。。),する手続補正以下本件補正という請求項の数13甲2をしたが
特許庁は,平成19年1月31日「本件審判の請求は,成り立たない」,。
との審決(出訴期間として90日が附加)をし,その謄本は平成19年2月
13日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の請求項の数は前記のとおり13であるが,そのうち請求項1
(。「」。)。は次のとおりである下線は補正部分以下この発明を本願発明という
「請求項1】【
TFT部及びパッド部の基板上に第1金属膜及び第2金属膜を順次に積
層し,1次写真工程により前記第1金属膜及び前記第2金属膜をパターニ
ングすることによって,前記第1金属膜の側面が前記基板に対してなす角
度が,前記第2金属膜の側面が前記基板に対してなす角度より小さくなる
ようにゲート電極及びゲートパッドをTFT部及びパッド部にそれぞれ形
成する段階と,
ゲート電極及びゲートパッドが形成された前記基板の全面上に絶縁膜を
形成する段階と,
2次写真工程を用いてTFT部の前記絶縁膜上に半導体膜を形成する段
階と,
3次写真工程を用いてTFT部に第3金属膜からなるソース電極及びド
レイン電極を形成する段階と,
4次写真工程を用いてTFT部の前記ソース電極及び前記ドレイン電極
上とパッド部の前記絶縁膜上とに,前記ドレイン電極の一部とパッド部に
おける前記ゲートパッドの前記第2金属膜の上面とを露出させる保護膜パ
ターンを形成する段階と,
TFT部の前記ドレイン電極に連結される第1画素電極パターンと,パ
ッド部における前記ゲートパッドの前記第2金属膜の上面に連結される第
2画素電極パターンとを,5次写真工程を用いて前記基板及び前記保護膜
パターン上に形成する段階とを含み,
前記第1金属膜は,前記第2金属膜と同じ厚さを有する又は前記第2金
属膜より厚いことを特徴とするTFT基板の製造方法」。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,その出願前に頒布された下記引用刊行
物1,2に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができ
たから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたも
のである。

引用刊行物1:特開平6−202153号公報(甲3。以下「引用刊行物
1」といい,そこに記載された発明が前記「引用発明」で
ある)。
引用刊行物2:特開平4−213427号公報(甲4。以下「引用刊行物
2」という)。
イなお,審決は,上記判断に当たり,引用発明の内容を以下のとおり認定
し,引用発明と本願発明との一致点及び相違点を,次のとおりとした。
〈引用発明の内容〉
「透明絶縁基板上に金属層を積層し,金属層をパターニングすることに
よって,ゲート電極及びゲート端子下部電極を前記透明絶縁基板上のT
FT部及びゲート端子部となる箇所にそれぞれ形成する段階と,
ゲート電極及びゲート端子下部電極が形成された前記透明絶縁基板の
全面上に絶縁膜を形成する段階と,
TFT部の前記絶縁膜上に半導体膜,金属層からなるソース電極及び
ドレイン電極を形成する段階と,
TFT部の前記ソース電極及び前記ドレイン電極上とゲート端子部の
前記絶縁膜上とに,前記ソース電極の一部とゲート端子部における前記
ゲート端子下部電極の前記金属層の上面とを露出させる保護膜を形成す
る段階と,
TFT部の前記ソース電極に連結される画素電極と,ゲート端子部に
おける前記ゲート端子下部電極の前記金属層の上面に連結されるゲート
,,端子上部電極とを前記基板及び前記保護膜上に形成する段階とを含む
TFT基板の製造方法」。
〈一致点〉
「TFT部及びパッド部の基板上に金属膜を積層し,1次写真工程によ
り金属膜をパターニングすることによって,ゲート電極及びゲートパッ
ドをTFT部及びパッド部にそれぞれ形成する段階と,
ゲート電極及びゲートパッドが形成された前記基板の全面上に絶縁膜
を形成する段階と,
写真工程を用いてTFT部の前記絶縁膜上に半導体膜,第3金属膜か
らなるソース電極及びドレイン電極を形成する段階と,
4次写真工程を用いてTFT部の前記ソース電極及び前記ドレイン電
極上とパッド部の前記絶縁膜上とに,前記ドレイン電極の一部とパッド
部における前記ゲートパッドの前記金属膜の上面とを露出させる保護膜
パターンを形成する段階と,
TFT部の前記ドレイン電極に連結される第1画素電極パターンと,
パッド部における前記ゲートパッドの前記金属膜の上面に連結される第
2画素電極パターンとを,5次写真工程を用いて前記基板及び前記保護
膜パターン上に形成する段階とを含む,
TFT基板の製造方法」である点。。
〈相違点1〉
本願発明では,TFT部及びパット部の基板上に第1金属膜及び第2
金属膜を,第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が,第2金属膜の
側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにし,第1金属膜が第
2金属膜と同じ厚さ又は第2金属膜より厚く,順次に積層しているのに
対して,引用発明では,TFT部及びパット部の基板上に1つの金属膜
を形成している点。
〈相違点2〉
本願発明では,2次写真工程を用いてTFT部の前記絶縁膜上に半導
体膜を形成する段階と,3次写真工程を用いてTFT部に第3金属膜か
らなるソース電極及びドレイン電極を形成する段階と,を含んでいるの
に対して,引用発明では,1回の写真工程によって半導体膜,ソース電
極,及びドレイン電極を形成している点。
(4)審決の取消事由(相違点1についての判断の誤り)
審決は,以下のとおり本願発明と引用発明との相違点1についての判断を
誤ったものであるから,本願発明は引用刊行物1,2記載の発明に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものではなく,審決は違法として取
消しを免れない。
(),,アア審決は本願発明の第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が
第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにするこ
とに関して「具体的にどのような製法により,上記のような角度の関,
係となるのか明らかでない」とした(13頁12行∼13行。)
確かに審決のいうように,積層された第1金属膜62及び第2金属膜
64を図23に示される形状にパターニングする具体的な製法について
の説明は,本願当初明細書(甲1)の【発明を実施するための最良の形
態(3頁以下)には記載されていない。しかし,金属層の側面に傾斜】
を付してパターニングする技術自体は特開平4−20930号公報甲,(
11,3頁右下欄10行∼16行及び第1図)に記載があるように,公
知技術である。したがって,第1金属膜62及び第2金属膜64を図2
3に示される形状にパターニングする具体的な製法についての説明が記
載されていないからといって「第1金属膜の側面が基板に対してなす,
角度が,第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなるよう
にゲート電極及びゲートパッドを形成する」ことが開示されていないこ
とにはならない。
(イ)その上で審決は「…引用刊行物2には,ゲート電極を2層の金属,
膜120a,120bで形成し,予め下層の金属膜120aをエッチン
,,,グし上層の金属膜120bの両側でオーバハングを生じさせその後
上層の金属膜120bのオーバハング部だけエッチングすることが記載
されており,この点は,本願発明の第4実施例において記載されている
製造手順と同様である(13頁14行∼18行)とし「本願発明が,」,
同じ製造手順により,第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が,第
2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなっているのである
から,上記引用刊行物2に記載された方法で作製されたものも,同じよ
うに下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が,上層の金属膜の側
面が基板に対してなす角度よりも小さくなる蓋然性が高いと言うべきで
ある」と判断した(13頁18行∼23行。)
しかしこの判断は本願当初明細書甲1の図20ないし図,,()【】【
23,特に【図23】の記載内容と,引用刊行物2の【図1(1)な】】
(),【】()。いし6特に図16の記載内容との差を無視したものである
すなわち,引用刊行物2の【図1(6)に示される下層の電極膜1】
2aと上層の電極膜12bとの2層構造は,上記明細書(甲1)の【図
19】に示された第3実施例による第1金属膜52と第2金属膜54と
の積層構造に類似するものではあるが,上記明細書の【図19】に示さ
れる積層構造とは異なる【図23】に示される,第4実施例による第1
金属膜62と第2金属膜64との積層構造とは全く異なるものである。
本願当初明細書の【図23】は,公知技術である具体的なパターニン
グ方法が説明されていなくとも,本願発明の「…1次写真工程により前
記第1金属膜及び前記第2金属膜をパターニングすることによって,前
記第1金属膜の側面が前記基板に対してなす角度が,前記第2金属膜の
側面が前記基板に対してなす角度より小さくなるようにゲート電極及び
ゲートパッドを…形成する(特許請求の範囲【請求項1】の記載)と」
いう特徴を明らかにしたものである。
これに対し,審決が引用刊行物2の2層の金属膜120a,120b
のパターニング方法を「本願発明の第4実施例において記載されている
製造手順と同様である(13頁17行∼18行)と誤認し「本願発明」,
,,,が同じ製造手順により第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が
第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなっているのであ
るから,上記引用刊行物2に記載された方法で作製されたものも,同じ
ように下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が,上層の金属膜の
側面が基板に対してなす角度よりも小さくなる蓋然性が高い(13頁」
18行∼23行)と判断したのは,引用刊行物2の【図1(1)ない】
し(6,特に【図1(6)の記載内容を誤認したものであり,引用刊)】
行物2記載の発明の認定を誤ったものである。
引用刊行物2に記載された方法で形成された下層の電極膜12a及び
上層の電極膜12bからなるゲート電極12の側面は【図1】から明,
,,,らかなように基板1に対して略垂直に描かれておりこの発明者には
「下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が上層の金属膜の側面が
基板に対してなす角度より小さい」との認識が全くない。
したがって,引用刊行物2に記載された発明に基づいて本願発明の進
歩性を判断する場合において,引用刊行物2の図面に明示されている内
容をその発明者の意図・認識を超えて拡大解釈し,その解釈に基づいて
本願発明の進歩性を否定する根拠とすることは妥当ではない。
(ウ)また上記認定を前提として,審決が「引用発明に上記引用刊行,
物2に記載された方法を適用し,ゲート電極を第1金属膜,第2金属膜
で積層形成する際に,第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が,第
2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにすること
は,当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎない(13頁25行」
∼29行)と判断したことは妥当でない。
すなわち,引用発明に引用刊行物2に記載された方法を適用すること
により,第1金属膜及び第2金属膜を順次に積層し,写真工程により第
1金属膜及び第2金属膜をパターニングすることによって,ゲート電極
を形成すること,そしてそのパターニングの際に,ゲート電極にアンダ
ーカットが発生しないようにする特定の方法(引用刊行物2に記載され
た方法)を採用することについては,当業者が容易に想到し得るとして
も,ゲート電極にアンダーカットが発生しないようにする方法として,
ゲート電極を積層形成する第1金属膜の側面が基板に対してなす角度
が,第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにす
ることまで,当業者が容易に想到し得るものではない。
イ(ア)さらに審決は「…本願発明において,第1金属膜と第2金属膜,
の角度の関係を上記のようにすることについての技術的意義は明らかに
されて」いない(13頁32行∼33行)と判断した。
しかし,本願当初明細書(甲1)に「…本発明の第1実施例におけ,
るゲート電極を構成する前記第1金属膜22及び第2金属膜24は一つ
のマスクを用いて蝕刻される。従って,図12に示すようにゲート電極
にアンダーカットが発生し得る。よって,後続される絶縁膜(図11の
参照符号26)の蒸着工程で絶縁膜26のステップカバレージが不良に
なるため,絶縁特性が低下する恐れがある。以下,本発明の第2乃至第
4実施例ではゲート電極にアンダーカットが発生しないようにする方法
を提示する(段落【0027「図20乃至図23は本発明の第4。」】),
実施例による液晶表示装置の製造方法を説明するための断面図であり,
ゲート電極を形成する段階まで示されている。…(段落【0035)」】
とそれぞれ記載されているように,本願当初明細書の【図23】に示さ
れる第4実施例による第1金属膜62及び第2金属膜64の積層構造
は,ゲート電極にアンダーカットが発生しないようにする方法の一つで
あるという技術的意義を有していることは明らかである。
さらに,本願当初明細書(甲1)の【図23】に示される第4実施例
による第1金属膜62及び第2金属膜64の積層構造を同明細書の図,【
19に示される第3実施例による積層構造又は引用刊行物2の図】,,【
1(6)に示される下層の電極膜12aと上層の電極膜12bとの2】
層構造と比較すると,上記明細書【図23】に示される第1金属膜62
と第2金属膜64の角度の関係により,後続の蒸着工程で絶縁膜のステ
ップカバレージが良好になるために絶縁特性が向上するという点で,本
願当初明細書(甲1)の第4実施例による第1金属膜62及び第2金属
膜64の積層構造は,同明細書の第3の実施例による第1金属膜52及
び第2金属膜54の積層構造,又は,引用刊行物2における下層の電極
膜12aと上層の電極膜12bとの2層構造よりも優れた技術的意義を
有していることは,当業者であれば当然に推測できるものである。
そして,このような本願発明において第1金属膜と第2金属膜の角度
の関係を上記のようにすることについての技術的意義を考慮すると,審
決が「本願発明によってもたらされる効果は,引用刊行物1,2に記載
,」されたものが当然に奏する程度のものであり格別のものとはいえない
(14頁12行∼13行)とした点も妥当ではない。
(イ)さらに審決は「従来の問題点として提示されている図12にお,
いても同じ角度の関係になっていることから,上記角度の関係は本願発
明の製造方法としての特別な構成というよりは,単に第1金属膜へのア
ンダーカットの発生を図面上表現するための単なる図示にすぎないとも
解され,そのような点からも,上記角度の関係とすることに困難性があ
るとはいえない(13頁下6行∼下2行)とした。」
しかし,上記のように,本願明細書の【図12】は,審決のいうよう
な「従来の問題点として提示されている」ものではなく,本願発明の第
1実施例における問題点として提示されているものであり(同明細書段
落【0027,この問題点を解決するものの一つとして第4実施例を】)
開示し,本願発明の完成を意図しているのである。
ウ以上のとおり,審決が,相違点1につき引用発明に上記引用刊行物2に
記載された方法を適用し,ゲート電極を第1金属膜,第2金属膜で積層形
成する際に第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が第2金属膜の側面
が基板に対してなす角度より小さくなるようにすることは,当業者が容易
に想到し得る程度のことにすぎないとした判断は誤りである。
エ被告の主張に対し
もっとも被告は,特開平6−301064号公報(乙1,特開平5−)
173177号公報(乙2,特開平6−230428号公報(乙3)を)
引用して「アルミニウム層の上に所定パターンのフォトレジストとタン,
タル層あるいはフォトレジストからなるマスクを設け,該アルミニウム層
をウェットエッチング(湿式エッチング)することにより,その側面が基
板に対して傾斜したものとなることは,…この分野ではよく知られた事項
である」と主張する。
しかし,原告の主張は,等方的エッチングに分類される湿式エッチング
を用いても,アルミニウム膜の側面が基板に対して傾斜するようにエッチ
ングすることが可能であると共に,アルミニウム膜の側面が基板に対して
略垂直に近くなるようにエッチングすることも可能であることから,被告
主張の,発明者に下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が上層の金
属膜の側面が基板に対してなす角度より小さいとの認識が全くなかったか
どうかにかかわりなく「引用刊行物2に記載された方法で作製されたも,
のも,同じように下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が,上層の
金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなる蓋然性が高いと言う
べきである(審決13頁21行∼23行)と断定することは妥当ではな」
いというものである。したがって,審決が「引用発明に上記引用刊行物2
に記載された方法を適用し,ゲート電極を第1金属膜,第2金属膜で積層
形成する際に,第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が,第2金属膜
の側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにすることは,当業者
が容易に想到し得る程度のことにすぎない(13頁25行∼29行)と」
した判断も妥当ではないということである。
2請求原因に対する認否
()()(),。請求の原因1・2・3の各事実はいずれも認めるが同()は争う4
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の誤りはない。
(1)原告の主張ア(ア)に対し
原告が公知技術として例示する特開平4−20930号公報(発明の名称
「」,,,配線構造出願人日本電信電話株式会社公開日平成4年1月24日
甲11。3頁右下欄10行∼16行及び第1図)には「ガラス基板10上,
にAlを0.1μm,Cr1%含有Moを0.05μm連続堆積し,レジス
トパタン形成後,通常のAlエッチング液,すなわち硝酸を含有する燐酸液
により積層膜を連続エッチングし,ゲート電極およびゲートバス1を形成
し「パタンの側壁の傾斜」を「約50°」とする配線構造の製造方法が記」,
載されている。一方,本願当初明細書(甲1)には,原告も認めるとおり,
積層された第1金属膜62及び第2金属膜64を【図23】に示される形状
にパターニングするための具体的な製法に関する説明は記載されていない。
すなわち,同明細書には,本願発明において具体的にどのような製法(例え
ば,第1金属膜及び第2金属膜の膜厚,エッチャントの種類,温度,時間等
をどのように設定するのか)を採用すれば同明細書の【図23】に示され。
たような角度の側面を有する第1金属膜と第2金属膜を得ることができるの
かに関して具体的な開示はされていないから,上記公知の文献が存在するか
らといって,本願発明において「第1金属膜の側面が基板に対してなす角,
度が,第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにゲー
ト電極及びゲートパッドを形成する」ための具体的な製法は明らかである,
ということはできない。
したがって,審決が「具体的にどのような製法により,上記のような角,
度の関係となるのか明らかでない」とした点に誤りはない。
(2)原告の主張ア(イ)に対し
ア本願明細書(甲1)には,以下の記載がある。
「図13乃至図16は本発明の第2実施例による液晶表示装置の製造方
法を説明するための断面図であり,ゲート電極を形成する段階までを示
している。…詳しくは,まず透明な基板40上にアルミニウム又はアル
ミニウム合金を2,000Å−4,000Å程度の厚さで蒸着して第1
金属膜42を形成する。次に,前記第1金属膜42上にクロム(Cr)
等の耐火性金属を500Å−2,000Åの厚さで蒸着してキャッピン
グ膜として用いられる第2金属膜44を形成する。…また,前記第2金
属膜44はクロム(Cr)の他に…チタン(Ti)を用いて形成するこ
とができる【0028】。」
「図20乃至図23は本発明の第4実施例による液晶表示装置に製造方
法を説明するための断面図であり,ゲート電極を形成する段階まで示さ
れている。図20はゲート電極用の導電膜である第1金属膜62と第2
金属膜64及びフォトレジストパターン66を形成する段階を示したも
のであり,第2及び第3実施例と同一に行われる【0035】。」
「図21は第2金属膜64を蝕刻する段階を示したものであり,前記フ
ォトレジストパターン66をマスクとして前記第2金属膜64を湿式蝕
。,刻する…図22は第1金属膜62を蝕刻する段階を示したものであり
前記パタニングされた第2金属膜64をマスクとして第1金属膜62を
湿式蝕刻すると,図22に示すようにゲート電極にアンダーカットが形
成される【0036】。」
「図23は第2金属膜64を更に蝕刻する段階を示したものであり,パ
タニングされた第2金属膜64を更に湿式蝕刻すると第1金属膜62の
下部の幅が前記第2金属膜64の幅より広くなり,結果的にゲート電極
のアンダーカットが取り除かれる。…【0037】」
イ上記によれば,本願当初明細書の第4実施例には,まず透明な基板上に
ゲート電極用導電膜となる第1金属膜62(アルミニウム)と第2金属膜
64(チタン,及びフォトレジストパターン66とを形成し,次に該フ)
ォトレジストパターン66をマスクとして上記第2金属膜64を蝕刻(エ
ッチング)し,次いでパタニングされた第2金属膜64をマスクとして上
記第1金属膜62を湿式蝕刻(湿式エッチング)し,その後パタニングさ
れた第2金属膜64を更に蝕刻して第1金属膜62の下部の幅を第2金属
膜64の幅より広くしてゲート電極のアンダーカットを取り除くものが記
載されており,それ以上の記載はない。したがって,上記明細書の【図2
0】ないし【図23】も参照すれば,上記各工程のうち「パタニングさ,
れた第2金属膜64をマスクとして第1金属膜62を湿式蝕刻(湿式エッ
チング」を行うことにより,上記第1金属膜の側面が基板に対してなす)
角度が上記第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さいゲート電
極が形成されるものと解される。
一方,引用刊行物2には,ガラス基板上に,いずれも上記明細書の第4
実施例と同じ材料であるAl(アルミニウム)膜からなる下層の金属膜1
20aとTi(チタン)膜からなる上層の金属膜120bとレジストパタ
ーン5とを形成し,次に該レジストパターン5をマスクとして上層の金属
膜120bをエッチングしてTi膜パターン120’bを形成し,次いで
下層のAl金属膜120aを燐酸系混合水溶液(燐酸+硝酸+酢酸+水)
によりエッチング(湿式エッチング)して下層のAl電極膜12aを形成
し,その後上記Ti膜パターン120’bの両側に生じているオーバハン
グだけをエッチング除去するものが記載されている(0015】∼【0【
018。】)
すなわち,上記引用刊行物2には,ゲート電極を,本願発明と同じ金属
膜材料を用いて本願発明と同様の製造手順,すなわち,ゲート電極をアル
ミニウムからなる下層の金属膜とチタンからなる上層の金属膜とで形成
し,上層のチタン金属層をエッチングした後,下層のアルミニウム金属膜
を湿式エッチングして上層のチタン金属膜の両側でオーバハングを生じさ
せ,その後上層のアルミニウム金属膜のオーバハング部だけエッチングし
て製造するものが記載されているといえるから,引用刊行物2に記載され
た方法で作成されたゲート電極も,本願発明のものと同様に,下層の金属
膜の側面が基板に対してなす角度が上層の金属膜の側面が基板に対してな
す角度よりも小さくなる蓋然性が高い。
ちなみに,この点は,原告が公知の技術であるとして例示する前記特開
平4−20930号公報(甲11)において,同様の湿式エッチングを行
うことにより,その側壁が傾斜した積層膜ゲート電極が形成されることか
らも裏付けられる。
したがって,審決が「…引用刊行物2に記載された方法で作製された,
ものも,同じように下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が,上層
の金属膜の側面が基板に対してなす角度よりも小さくなる蓋然性が高いと
言うべきである(13頁21行∼23行)とした点に誤りはない。そし」
て「引用発明に上記引用刊行物2に記載された方法を適用し,ゲート電,
極を第1金属膜,第2金属膜で積層形成する際に,第1金属膜の側面が基
板に対してなす角度が,第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小
さくなるようにすることは,当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎ
ない(13頁25行∼29行)とした審決の判断にも誤りはない。」
()原告の主張イに対し3
本願発明は「前記第1金属膜の側面が前記基板に対してなす角度が,前,
記第2金属膜の側面が前記基板に対してなす角度より小さくなるように」ゲ
。,ート電極及びゲートパッドを形成することを規定するものであるしかるに
このような角度の関係は,本願当初明細書(甲1)の【図12】に示された
。,【】第1実施例のものにおいても満たされるものであるそしてこの図12
に示されたものにおいては,同明細書の段落【0027】に記載されている
ように「ゲート電極にアンダーカットが発生し得る」のであるから,上記,
角度の関係が「ゲート電極にアンダーカットが発生しないようにする方法,
の一つであるという技術的意義を有している」とする原告の主張は当を得た
ものではない。
また,同明細書の【図23】に示される第4実施例の積層構造のゲート電
極によれば,第1金属膜と第2金属膜の角度の関係を「第1金属膜の側面,
が基板に対してなす角度が,第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より
小さくなるように」することにより,ゲート電極にアンダーカットが発生せ
ず,後続される絶縁膜の蒸着工程で絶縁膜のステップカバレージが不良にな
るのを防ぐことができることを,当業者は理解することができる。しかし,
同明細書の【図16】に示される第2実施例による積層構造あるいは同【図
19】に示される第3実施例による積層構造ではなく,本願発明として敢え
て同【図23】に示された第4実施例の積層構造の製造方法を選択した技術
的意義については同明細書中に全く記載されておらず,同明細書及び図面を
見る限り,その技術的意義は十分に明らかにされているということはできな
い。
したがって,審決が「本願発明において,第1金属膜と第2金属膜の角,
度の関係を上記のようにすることについての技術的意義は明らかにされてお
らず(13頁33行∼33行)とした点に誤りはない。」
そして,審決が「本願発明によってもたらされる効果は,引用刊行物1,
2に記載されたものが当然に奏する程度のものであり,格別のものとはいえ
ない(14頁12行∼13行)とした点も,上記のとおり本願発明の技術」
的意義が明らかでない以上,妥当である。
(4)そもそも,アルミニウム層の上に所定パターンのフォトレジストとタ
ンタル層あるいはフォトレジストからなるマスクを設け,該アルミニウム層
をウェットエッチング(湿式エッチング)することにより,その側面が基板
に対して傾斜したものとなることは,例えば,特開平6−301064号公
報(発明の名称「MIM型非線形素子及びその製造方法,出願人セイコー」
,。,【】エプソン株式会社公開日平成6年10月28日乙1段落0024
∼【0026【図2(a,(b),特開平5−173177号公報(発】,】))
明の名称「薄膜トランジスタ基板およびその製造方法ならびに液晶表示パネ
ルおよび液晶表示装置,出願人株式会社日立製作所,公開日平成5年7」
月13日。乙2,7頁右欄21行∼34行【図1】(a),(b),特開平6,)
−230428号公報(発明の名称「液晶表示装置およびその製造方法,」
出願人株式会社日立製作所,公開日平成6年8月19日。乙3,段落【0
053】∼【0054【図12)等にも記載されているように,この分】,】
野ではよく知られた事項である。
したがって,その発明者に,下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度
が上層の金属膜の側面が基板に対してなす角度よりも小さいとの認識が全く
なかったかどうかにはかかわりなく「引用刊行物2に記載された方法で作,
,,製されたものも同じように下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が
上層の金属膜の側面が基板に対してなす角度よりも小さくなる蓋然性が高い
と言うべきである(審決13頁21行∼23行)とした審決の判断には誤」
りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因1特許庁における手続の経緯2発明の内容3審()(),()(),()(
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由の有無
(1)原告の主張アについて
ア原告は,審決が,本願発明の第1金属膜の側面が基板に対してなす角度
が第2金属膜の側面が基板に対してなす角度より小さくなるようにするこ
とに関して「具体的にどのような製法により,上記のような角度の関係,
となるのか明らかでない」とし「上記引用刊行物2に記載された方法で作
製されたものも,同じように下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度
が,上層の金属膜の側面が基板に対してなす角度よりも小さくなる蓋然性
が高いと言うべきである」とした認定は誤りである旨主張する。
イ引用刊行物2(特開平4−213427号公報,発明の名称「多層金属
膜電極配線の製造方法,出願人富士通株式会社,公開日平成4年8月」
4日,甲4)には,以下の記載がある。
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は多層金属膜電極配線の製造方法に関する。詳しく
は,アクティブマトリクス型液晶表示パネルに用いる薄膜トランジスタの多層金
属膜ゲート電極配線の端面形状を揃えてなだらかにし,その上にゲート絶縁膜を
形成したときに前記ゲート電極配線の端面部から欠陥が発生するのを防止するよ
うにした多層金属膜電極配線の製造方法に関する。
【0007】図5は従来の薄膜トランジスタの多層金属膜ゲート電極配線の例を
,(),()示す図で同図イは図4に示したX−Xラインに沿う断面図であり同図ロ
は上面図である。
【0008】たとえば,ガラスなどの透明基板11の上にゲート電極12(たと’
えば,導電性のよいアルミニウムAlを下層の金属膜12’aとし,その上に表
’)面保護用の高融点金属であるTiを上層の金属膜12bとした構成にしてある
が形成され,次いで,ゲート絶縁膜13,たとえば,SiO膜,動作半導体層2
15などが,たとえば,プラズマCVD法で形成され,さらに,コンタクト層1
4を挟んで図示したごとくドレイン電極16,ソース電極17が形成されて薄膜
トランジスタが構成されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかし,上記の薄膜トランジスタのゲート電極
12’を形成する際に,従来は下層の金属膜であるAlを,たとえば,燐酸+硝
酸+酢酸の混合水溶液でエッチングしたあと,上層の金属膜であるTiを,たと
,,えばCF4+O2の混合ガス中でリアクティブイオンエッチングしているので
Alが後段の等方性エッチングでサイドエッチングされて,その端面は図示した
ごとくTiのオーバハング構造を形成し,その結果図5に示したごとく,端面部
に多数の気泡が残り後工程で生成するゲート絶縁膜13や動作半導体層15に欠
,,陥4を生じ薄膜トランジスタのリーク電流が増大するなどの重大な問題があり
その解決が求められている。
【0015】工程(1:たとえば,ガラスなどからなる透明な基板11の上に下)
層の金属膜120aとして,たとえば,厚さ100nmのAl膜(導電性のよい
膜)を蒸着し,その上に上層の金属膜120bとして,たとえば,厚さ40nm
のTi膜(耐熱性のよい保護膜)をスパッタする。
【0016】工程(2:上記処理基板にゲート電極を形成したい領域にレジスト)
トパターン5を形成する。
工程(3:上記処理基板の上層の金属膜120b,すなわち,Ti膜をレジス)
トトパターン5をマスクとし,たとえば,SF4ガスによるRIE(リアクティ
ブイオンエッチング)により,Ti膜パターン120’bを形成する。
【0017】工程(4:上記処理基板を燐酸系混合水溶液(燐酸+硝酸+酢酸+)
水)により,下層の金属膜120a,すなわち,Al膜をエッチングして下層の
電極膜12aを形成する。この時,Alは等方的にエッチングされるためサイド
エッチが進行して図示したごとく,Ti膜パターン120’bの両側でオーバハ
ングが生じる。
【0018】工程(5:上記処理基板を再度,たとえば,SF4ガスによる適度)
のRIEを行って,Ti膜パターン120’bの両側に生じているオーバハング
だけをエッチング除去して上層の電極膜12bを形成する。この時,この条件の
RIEではAlは殆どサイドエッチされることはない。
ウ上記イの記載から,引用刊行物2に記載された薄膜トランジスタのゲート
,(),電極の製造方法の発明は①下層の導電性のよいアルミニウムAl膜と
上層の高融点金属であるチタン(Ti)膜とから構成されるゲート電極を形
成する際,従来の方法を用いたのでは,アルミニウムがサイドエッチングさ
れてチタン膜の端面がオーバーハングした状態となり,薄膜トランジスタの
特性に悪影響を及ぼすという技術課題の認識のもと,②下層のアルミニウム
膜と上層のチタン膜を形成し(工程(1,③その後,まず,上層のチタン))
膜をSF4ガスによるリアクティブイオンエッチング(RIE)でチタン膜
パターンを形成し(工程(2,④次に,下層のアルミニウム膜を燐酸系混))
合水溶液(燐酸+硝酸+酢酸+水)により等方的なエッチングを行う(工程
(4)ところ,その際アルミニウム膜のエッチングが等方的に進行するた)
め,アルミニウム膜がサイドエッチされてチタン膜パターンの両側でオーバ
ーハングが生じる,⑤その後,再度,SF4ガスによるリアクティブイオン
エッチング(RIE)を行い,チタン膜パターンの両側に生じているオーバ
ーハングだけをエッチング除去するが,この条件のリアクティブイオンエッ
チングでは,下層のアルミニウムは殆どサイドエッチされない,⑥このよう
,。にして上層の電極膜を形成するようにしたものであるということが分かる
要するに,引用刊行物2記載の発明は,燐酸系混合水溶液(燐酸+硝酸+
酢酸+水)による下層のアルミニウム膜の等方的エッチングで生じる上層の
チタン膜パターンの両側でのオーバーハングを,引き続く,SF4ガスを用
いたリアクティブイオンエッチングにより除去するものであり,燐酸系混合
水溶液による湿式エッチングと,SF4ガスを用いたリアクティブイオンエ
ッチングとで,アルミニウムに対するエッチングの特性が異なることを利用
したものといえる。
エところで,アルミニウム膜を,その上に設けられたパターンをマスクとし
て等方的にエッチングした場合,マスクのない部分とマスクの端面とからア
ルミニウム膜を徐々に等方的にエッチングしていくことになることから,エ
ッチングされた側面は,多かれ少なかれ,基板に対して傾斜を持った傾斜面
となるものと考えられる。
,,このことに関する公知技術を示す文献として前記乙1ないし乙3があり
その記載は以下のとおりである。
(ア)乙1(特開平6−301064号公報,発明の名称「MIM型非線
形素子及びその製造方法,出願人セイコーエプソン株式会社,公開日」
平成6年10月28日)
【0024】次に,タンタル層203をパターニングする際に塗布したフォト
レジスト204を残したまま,これらをマスクとしてアルミニウム層202
を図2(b)に示すようにパターニングする。
【0025】アルミニウム層202はウェットエッチング法でエッチングし,こ
こで用いたエッチング液は,燐酸/硝酸/酢酸を20:1:3の割合で混合
し,40℃まで加熱したものである。
【0026】図2(b)の状態では,アルミニウム層202がサイドエッチング
されておりタンタル層203がオーバーハング状態となっている。このまま
で陽極酸化を行い素子絶縁膜を形成すると,オーバーハングの状態はそのま
ま残されてしまい,この後の第2の金属電極層を形成したときに断線が発生
してしまい,欠陥の原因となる(4頁左欄15行∼29行)。
【図2】
(イ)乙2(特開平5−173177号公報,発明の名称「薄膜トランジ
スタ基板およびその製造方法ならびに液晶表示パネルおよび液晶表示装
置,出願人株式会社日立製作所,公開日平成5年7月13日)」
「つぎに,図1(a)に示すように,膜厚が2800Åのパラジウムを1原子
%含むアルミニウムからなる第2導電膜g2をスパッタリングにより設けた
のち,レジストRSTを設ける。つぎに,図1(b)に示すように,エッチン
グ液としてリン酸と硝酸と氷酢酸との混酸を使用した写真蝕刻技術で第2導
電膜g2を選択的にエッチングすることにより,走査信号線GL,ゲート電
極GTおよび保持容量素子Cの電極PL1を形成する。この場合,リンadd
酸,硝酸,氷酢酸の比率が3:1:5の混酸を使用することによりテーパエ
ッチングし,第2導電膜g2の端面の下部透明ガラス基板SUB1に対する
傾斜角を15∼50度とする。なお,第2導電膜g2の端面の傾斜角は混酸
の液組成とくに氷酢酸の濃度により制御することができる(7頁右欄21。」
行∼34行)
【図1】
(ウ)乙3(特開平6−230428号公報。発明の名称「液晶表示装置
およびその製造方法,出願人株式会社日立製作所,公開日平成6年8」
月19日)
【0053】図12∼図13は上記実施例の別の製造工程を示す断面図である。
【0054】ガラス基板1上にTaN膜100,Al膜11をスパッタリ1-xx
ングにより連続的に堆積しホトリソグラフィ技術を用いて所定の形状のレジ
ストパターン300を形成し,混酸を用いた通常のウエットエッチング法に
よりAl電極11をパターニングする(図12。次に,同じレジストパター)
ン300を用い,臭化水素(HBr)と3塩化硼素(BCl)の混合ガスプ3
ラズマを用いたリアクティブイオンエッチング法によりTaN電極をパ1-xx
ターニングする(図13)。以下,陽極酸化法によりTaNx膜100,A1-x
l膜11の表面及び側面に膜201,AlO膜21を形成する工TaOxNy223
程以降は前述の製造工程と同様に実施する。この製造方法に依れば,Al電
極11をウエットエッチング法で加工するためAl電極には数μmのサイド
エッチングが生じる。また,TaN電極は最初に形成したレジストをマ1-xx
スクとしたリアクティブイオンエッチングに依り異方性エッチングで加工す
るため,サイドエッチングは殆ど生じない。従って,エッチング後の積層電
極の加工形状は,TaNx電極の幅がAl電極よりも広くなり,これを陽1-x
極酸化することにより階段状の断面形状を実現できる(6頁右欄18行∼4。
0行)
【図12】
オ上記各記載によれば,乙1ないし乙3には,燐酸系混合水溶液による湿式
エッチングでアルミニウム膜をパターニングした場合に,エッチングされた
側面が傾斜面となっているものが示されている。
そうすると,引用刊行物2の薄膜トランジスタのゲート電極では,その下
層を構成するアルミニウム膜のパターンの側面は,基板に対して,多かれ少
なかれ,傾斜をもった傾斜面となっていると考えられる。
そして,上記イ,ウのとおり,引用刊行物2の薄膜トランジスタの製造方
法では,上層のチタン膜の両端に生じているオーバーハングをSF4ガスを
用いたリアクティブイオンエッチングで除去する間,下層のアルミニウム膜
はほとんどサイドエッチされないのであるから,アルミニウム膜の側面の傾
斜は,そのまま保持されると考えられる。
したがって,引用刊行物2の薄膜トランジスタでは,ゲート電極を構成す
る下層のアルミニウム膜の側面は,基板に対して,多かれ少なかれ傾斜を有
しているものと認められる。
カ一方,湿式エッチングを用いた場合の金属膜の側面の傾斜の大きさは,膜
の厚さ,エッチングの温度,時間等の条件により変化するものである。そし
て,引用刊行物2において,ゲート電極を構成する上層のチタン膜の側面の
傾斜については,下層のアルミニウム膜の側面の傾斜よりも大きくなければ
ならないという理由は見当たらず,また,下層と上層とでは,材質も,エッ
チングの方法もまったく異なる(上記イ,ウのとおり,下層はアルミニウム
膜であり燐酸系混合水溶液による湿式エッチングであり,上層はチタン膜で
ありSF4ガスを用いたリアクティブイオンエッチングである)から,引。
用刊行物2に記載された方法で作製された薄膜トランジスタでは,ゲート電
極を構成する下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度は,上層の金属膜
の側面が基板に対してなす角度よりも小さくなることが多いものと推定でき
る。
,「,上記によれば上記引用刊行物2に記載された方法で作製されたものも
同じように下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が,上層の金属膜の
側面が基板に対してなす角度よりも小さくなる蓋然性が高いと言うべきであ
る(13頁21行∼23行)との審決の判断に誤りはない。」
キ原告は,引用刊行物2では,金属膜の側面は垂直に画かれており,引用刊
行物2では角度を異ならせることは認識されていないと主張する。
しかし,引用刊行物2の図面は,金属膜の側面の形状について,既に検討
したエッチングの特性を考慮すれば,実際の形状を正確に反映したものとは
認められないし,また,引用刊行物2に記載された方法で作製された薄膜ト
ランジスタにおいても,下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度が,上
層の金属膜の側面が基板に対してなす角度よりも小さくなることが多いと考
,,,えるのが自然であり合理的であることも既に検討したとおりであるから
原告の主張は採用することができない。
クそして,本件補正後の明細書(甲1,2)の記載を精査しても,エッチン
グの方法については,湿式蝕刻又は乾式蝕刻を行うことと,湿式蝕刻する場
合はアンダーカットが発生すること以外に,具体的な記載がなく,エッチン
グ方法に特別の工夫を要求していない。このことも,引用刊行物2に記載さ
れた薄膜トランジスタのゲート電極の製法によれば,本願発明と同様,ゲー
ト電極を構成する下層の金属膜の側面が基板に対してなす角度は,上層の金
属膜の側面が基板に対してなす角度よりも小さくなることが多いとの認定を
裏付けるものといえる。
ケなお原告は,審決が「第1金属膜と第2金属膜の角度の関係については,
図22,図23から読み取れることにすぎず,具体的にどのような製法によ
り,上記のような角度の関係となるのか明らかでない(13頁11行∼1」
3行)としたのは妥当でない旨主張する。
しかし,そもそも本件補正後の明細書(甲1,2)には,具体的にどのよ
うな製法をとれば第1金属膜と第2金属膜との角度が形成されるのかの記載
が全くないことは審決の認定したとおりであり,この点につき公知技術を適
用して金属層の側面に傾斜を付してパターニングする方法をとることについ
て上記明細書(甲1,2)には開示も示唆もなく,原告の上記主張は採用の
限りではない。
加えて,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す
る者)が,引用刊行物2に記載された薄膜トランジスタのゲート電極の製造
方法を,引用刊行物1に記載された薄膜トランジスタ基板の製造方法に適用
した場合は,既に検討したように,多くの場合「基板上に第1金属膜及び,
第2金属膜を,第1金属膜の側面が基板に対してなす角度が,第2金属膜の
」,側面が基板に対してなす角度より小さくなるように形成されることとなり
審決の認定した相違点1に係る構成がもたらされるものである。この審決の
相違点1に関する認定,判断については,本願の請求項1に規定された金属
膜の側面の角度関係をもたらすような製法が上記明細書(甲1,2)に具体
的に記載されていないこととそもそも関係がないということができ,原告の
上記主張は採用の限りではない。
()原告の主張イについて2
ア原告は,審決が「本願発明において,第1金属膜と第2金属膜の角度の関
係を上記のようにすることについての技術的意義は明らかにされて」いない
とした認定判断は誤りであると主張する。
(ア)しかし,この点につき,下層の第1金属膜と上層の第2金属膜の角度
の関係について,本願の特許請求の範囲の請求項1には「TFT部及び,
パッド部の基板上に第1金属膜及び第2金属膜を順次に積層し,1次写真
工程により前記第1金属膜及び前記第2金属膜をパターニングすることに
よって,前記第1金属膜の側面が前記基板に対してなす角度が,前記第2
金属膜の側面が前記基板に対してなす角度より小さくなるようにゲート電
極及びゲートパッドをTFT部及びパッド部にそれぞれ形成する段階と」
,,。とあるだけでオーバーハングの有無については何ら規定されていない
そうすると,本願当初明細書(甲1)の【図12】に示されるような,下
層の第1金属膜22がアンダーカットされて上層の第2金属24がオーバ
ハングの状態になっているものも【図23】に示されるような,上層の,
第2金属膜64の端部が取り除かれてオーバーハングがない状態になって
いるものも,等しく本願の特許請求の範囲の請求項1の記載に包摂される
こととなる。
(イ)また原告は,本願の特許請求の範囲の請求項1の発明に対応するもの
は,上記明細書の【図20】ないし【図23】に示される第4実施例であ
り,これによれば,第1金属膜62及び第2金属膜64の積層構造は,ゲ
ート電極にアンダーカットが発生しないようにする方法の一つであるとい
う技術的意義を有していることが明らかであると主張する。
しかし,この主張は,ゲート電極のオーバーハングが除去されることを
前提とするものと認められるところ,請求項1にはオーバーハングについ
て何ら規定されていないことは,前記のとおりである。したがって,オー
バーハングが除去された構造を前提とする原告の上記主張は,特許請求の
範囲の記載に基づかないものである。
(ウ)そして,オーバーハングの有無とは関係なしに,下層の第1金属膜と
上層の第2金属膜の角度の関係について本願発明のような構成とする技術
,(,),,的意義については本件補正後の明細書甲12に記載がなくまた
このことが技術常識に照らして明らかであるという証拠もない。
(エ)以上の検討によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ(ア)なお原告は,審決が「従来の問題点として提示されている図12にお
いても同じ角度の関係になっていることから,上記角度の関係は本願発明
の製造方法としての特別な構成というよりは,単に第1金属膜へのアンダ
ーカットの発生を図面上表現するための単なる図示にすぎないとも解さ
れ,そのような点からも,上記角度の関係とすることに困難性があるとは
いえない13頁下6行∼下2行とした点に関し本願当初明細書甲」(),(
1)の【図12】は,従来の問題点として提示されているものではなく,
本願発明の第1実施例における問題点として提示されているものであり,
この問題点を解決するものの一つとして第4実施例を開示し,本願発明の
完成を意図しているとも主張する。
(イ)この点につき,上記明細書の段落【0027】には,以下の記載があ
る。
「…従って,図12に示すようにゲート電極にアンダーカットが発生し得る。
よって,後続される絶縁膜(図11の参照符号26)の蒸着工程で絶縁膜2
,。6のステップカバレージが不良になるため絶縁特性が低下する恐れがある
以下,本発明の第2乃至第4実施例ではゲート電極にアンダーカットが発生
しないようにする方法を提示する」。
上記記載によれば,審決の記載は,上記明細書にある【図12】の説明
に依ったにすぎず,そもそも【図12】に示された態様のものも本願発明
の特許請求の範囲の記載に包摂されることについては既に検討したとおり
であるから,原告の上記主張は採用することができない。
3結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官田中孝一

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