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平成20年6月30日宣告
平成19年(わ)第1056号強盗殺人被告事件
判決
主文
被告人は無罪。
理由
第1はじめに
1本件公訴事実は「被告人は,質店経営者を殺害して金品を強取しようと企,
て,平成17年10月18日午後6時ころから同日午後8時30分ころまでの
abcdeABC間,神戸市区丁目番号1階の質舗店内において,同店経営者
(当時66年)に対し,殺意をもって,その頭部を鈍器で多数回殴打し,よっ
て,そのころ,同所において,同人を頭蓋粉砕骨折を伴う脳挫滅により死亡さ
,。」せて殺害した上同人所有に係る現金約1万650円を強取したものである
というのである。
2弁護人は,被害者が何者かによって殺害された事実自体は争わないが,被告
人が本件強盗殺人の犯人ではない旨主張し,被告人も,これに沿う旨供述し,
本件は,被告人の本件犯行への関与の有無が争点となったものである。
3本件では,犯行を目撃した者はおらず,直接証拠も存在しないことから,検
察官は,被告人の犯人性については,①被害者の遺体が残された居室内及び店
舗内に,何者かによって物色行為がなされた痕跡があり,現場にあったファイ
ルや引き戸等から9点の被告人の指紋等の付着が認められ,かつ,同室内に足
,,こん跡があり被告人が所有している靴の底模様と一致するものがあったこと
②被告人が同日午後8時30分ころ,店舗近くの扉から立ち去るところを通行
人によって目撃されていること,③被告人が述べる,犯行現場を訪れたのは外
が明るい時間帯であった,被害者から防犯カメラの設置が可能かと聞かれ,配
線を調べるため,居室内に土足で入った等の,犯行への関与を否定する弁解は
虚偽であること,④被告人には経済的事情から強盗殺人を行う犯行動機がある
との事実を基にして,被告人が本件強盗殺人の犯人であるとの証明は十分であ
ると主張している。
当裁判所は,①③に関しては,被告人が犯行現場に入ったことを示す指紋や
足こん跡があり,犯行現場が物色行為がなされたことをうかがわせる状況であ
ったことは認められるものの,同じく犯行現場に残された被告人と被害者のそ
れぞれ吸ったたばこの多数の吸い殻が灰皿に残っていたこと,前述の指紋等や
足こん跡が残された事情の点も含めて,被告人の当時の行動について詳細に述
べるところを子細に検討してみると,一概にその弁解を排斥できるものではな
く,現場に残された本件の情況証拠からの推認では,被告人の犯人性について
の疑問を払拭することができず,②の目撃の事実についても,被告人を犯行後
の犯人らしき人物と特定した目撃者の証言の内容の信用性に疑問が残り,④の
動機についても,これだけで決め手となるような事情とは言えないことからす
ると,全証拠によっても,被告人を本件強盗殺人の犯人とみるには合理的な疑
,,,。いが残るのであり結局犯罪の証明がなく被告人を無罪としたものである
そこで,以下,その理由を説明する。
第2前提となる事実(括弧内の数字は,証拠等関係カードの検察官請求証拠の番
号を示す)。
関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
1当事者
(1)被告人は,平成2年に,電気通信設備の設計,施工,保守等いわゆる弱
電設備を取り扱う電気機器業務の会社であるを設立し,現在に至っていD
。,,【,る被告人は本件当時総額2150万円以上の負債を抱えていた乙1
甲36。】
Cabcd(2)本件で殺害された(以下「被害者」という)は,神戸市区丁目。
番号1階北側において,質店を営んでおり,入口通路を挟んだ1階eAA
南側ではたばこ屋も経営していた(以下,を「本件マンション,質店をA」
「本件質店,たばこ屋を「本件たばこ屋」という。被害者は,右目を失」。)
明し,左腕も肘から先を切断しており,脳梗塞の影響で足も不自由な状態に
あった【甲1。なお,被告人と被害者は,本件前に面識はない。】
2被害者の行動,死亡の事実及び犯行時間帯について(年月日については,特
に断らない限り平成17年10月18日とする)。
(1)被害者は,午前11時前ころに,友人のE(以下「E」という)を本。
件質店に呼び出し,預金の引き出しを頼んだり,昼ころから午後1時30分
ころまでの間に,本件質店で350ミリリットル入り缶ビール5本を飲み干
し,その後,二人して出かけた飲食店でもビールを注文して飲むなどして共
に過ごし,午後3時40分ころ,Eは被害者と別れ,本件質店から,自分の
会社へ戻った。この間,被害者は,Eから,引き出した預金を受け取るなど
してポケットの中に1万円余りを所持していた。また,Eは,被害者から頼
,,まれて本件たばこ屋の施錠をした後その鍵を被害者に返すのを忘れたため
本件たばこ屋は施錠されたままの状態になっていた。
(2)被害者の孫であるは,午後6時5分ころ,本件質店内において,被害F
者が,本件質店内の被害者の居室スペースのベッドの上で,右肘を付いて背
中を向けた格好で横になっているのを目撃した【甲27。】
株式会社支店従業員は,被害者に対する貸金の督促のため,被害者方Gf
の電話番号()に架電した。その際の折衝記録によれば,午後7時49分g
ころに架電したところ,被害者ではない男性が電話に出て,従業員が被害者
のことを尋ねると,その男性は,被害者は不在であり,20分位で戻る旨返
,,答し従業員はその後の午後8時25分ころにも再度被害者方に架電したが
誰も電話に出なかったことになる【甲19。】
(3)死体発見状況
被害者の息子であるは,翌19日午前8時30分ころ,本件質店を見H
たところ,普段の様子と異なり,暖簾がしまわれておらず,シャッターも下
りていたことから不思議に思い,本件質店内の被害者の居室スペースに入る
と,被害者が同所に置かれていたベッドの上にうつぶせになって血を流して
倒れて死んでいるのを発見した【甲1。】
(4)被害者の死因等
司法解剖の結果によれば,被害者は,右後頭部複合挫創,左前額部から前
,(),額中央部にかけての7か所の挫創又は裂挫創右前額下部挫裂創3か所
右前頭・前額部挫創5か所,右後頭葉から頭頂葉の脳挫滅,左前頭葉下面脳
挫傷,右後頭部頭蓋粉砕骨折,左前頭蓋底骨折等の傷害を負っており,死因
は,右後頭部打撲による頭蓋粉砕骨折を伴う脳挫滅である。頭部等には十数
か所の創傷が見られ,硬い鈍体で右後頭部・右前額部等を多数回にわたり打
撃されたものと考えられる。右手背面挫裂創等右手に見られる傷は一種の防
御創と考えられる。死亡推定時刻は,平成17年10月18日午後1時20
分ころから同月19日午前1時20分ころである【甲3ないし5。】
3被害現場の状況等
(1)本件質店内の状況(別紙現場見取図1参照)
ア概況
本件質店は本件マンション北寄りに位置し,本件質店西側出入口から店
内に入ると,正面に質取引用のカウンターが設置されており(以下このカ
ウンター前のスペースを「カウンター前フロアー」という,カウンタ。)
ーの奥(東側)には事務室がある。カウンター上方には,縦1.07メー
トルの金属製格子が14.5センチメートル間隔で取り付けられ,さらに
上方で,天井までの間には型板ガラスが取り付けられている。カウンター
前フロアーの南側には,本件マンション通路への出入口があり,引き戸が
東側に引き開けられている。カウンター下は木製板で,カウンター前フロ
アーと事務室とを区切っており,カウンター下の中央付近には縦90セン
チメートル,横70センチメートルの施錠されていない潜り戸がある。事
務室へ出入りするためには,この潜り戸を使用する以外方法はない。事務
室の北側には倉庫があるが,この倉庫内にはベッド等が置かれ,被害者の
(,「」居住スペースとして利用されていた以下この倉庫のことを本件居室
という。被害者は,本件居室内へは靴を脱いで入っており,被害者の。)
友人らも,本件居室内に入るときは必ず部屋の前で靴を脱いでいた【甲2
6,29。事務室の北面は本件居室とを仕切る壁面になっており,その】
中央付近に出入口がある。当該出入口は,金属製両開きドアが建て付けら
れている。本件居室内に入ると,同ドアの北側にはさらに金属網が張られ
た金属枠製の2枚引き戸が建て付けられている。事務室の床面はカウンタ
ー西側フロアーから続く板張りで,本件居室床面も全面事務室と同様の板
張りである。
イ事務室内の状況
事務室の南側には,造り付け机が置かれている。この造り付け机中央付
近には金属製取っ手のついた引き出しがあり,引き出し内には当座小切手
帳,キャッシュカード等が乱雑に入っている。造り付け机下の床上には,
表面に「銀行,裏面に「2万50007/28(木」と記載されIJ」)
た封筒が落ちていた。
ウ本件居室内の状況
本件居室の北側にはベッドがあり,ベッドよりも北側の北壁際には木製
。,,の棚が取り付けられている本件居室の西側壁面際には北側に事務机が
南側に金庫があり,金庫の重量は約460キログラムである【甲17。】
金庫前右下には「建築確認通知書」と題する水色の紙ファイル(以,C
下「本件ファイル」という)が,水色の封筒及び見積書の上に置かれて。
いた【甲40,41。】
金庫は扉が36センチメートル東方に開いており,金庫内は上下5段の
棚で区切られ,その下に引き出しがある。上から2段目の棚内には,北寄
りに5段引き出し式小物入れがあり,同小物入れの上から1段目の引き出
し内には,質札が付けられた腕時計1個と真珠様の玉1個,同2段目の引
き出し内には,チャック付ビニール袋に入れられた腕時計1個,同3段目
の引き出し内には,質札で束ねられた指輪2個,同4段目の引き出し内に
は,質札が付けられた指輪1個と質札2枚,最下段5段目の引き出し内に
,。,は質札が付けられた指輪1個等が入っている上から3段目の棚内には
,,質札が挟み込まれた紙箱等に入れられたネックレス指輪等の貴金属類や
封筒等に入れられた腕時計等がある。上から4段目の棚内には,質札が付
けられた箱又は封筒に入れられたネックレス,指輪等の貴金属類がある。
事務机の上に置かれた手提げ金庫は,中央の回転つまみを回すとふたが
開き,本体内の内皿上には,百円札1枚,旧札(壱円札,契約書等の書)
類が置かれ,そのうちの一部が本体とふたとの隙間からはみ出していた。
また,手提げ金庫のふたを開けると,左右2区画に区切られており,右寄
りには現金171円,左寄りには宝くじ,鍵4本,ネックレス,カウス,
印鑑登録証等が入っている。さらに,手提げ金庫の本体底には,千円記念
硬貨等硬貨合計2万55円のほか,古銭,外国コイン等が入っている。な
お,この手提げ金庫は施錠されておらず,いつも鍵は開いている状態であ
った【甲26。】
本件居室北面中央中段上寄り木製棚西端には4段の引き出しを有する小
物入れがあり,印鑑8本,ゴム印,鍵が入った上から1段目は閉まってお
り,ボールペン等が入った2段目は7センチメートル「家賃領収之通」,
と表示のある綴り,名刺等が入った3段目は14.5センチメートル,メ
モ紙,封筒等が入った4段目は20センチメートル,それぞれ引き出され
た状態になっていた。
本件居室北面中央中段下寄りの棚にはセカンドバッグ等があり,同セカ
ンドバッグのチャックは閉じられていたが,その中には,キャッシュカー
ド等5枚等が入れられていた。
ベッド西側のガラステーブル上に置かれていた灰皿の中には,吸い殻1
4本が残っており,そのうち4本はキャビン,残りの10本はハイライト
であった。また,同ガラステーブル上にはするめも置かれていた。
(2)本件質店内外の血痕様のものの付着状況【甲6】
ア本件居室内
被害者が倒れていたベッドの敷布団上には相当量の血溜まりがあり,頭
部東側にあるタオル2本にはいずれもほぼ全面に血痕様のものが付着して
いる。被害者の足背部や足底部等には,いずれも針尖大から栗粒大の大き
さの飛沫状の血痕様のものが付着しており,付近の床面にも同様に付着し
ている。なお,被害者のはいていたスラックスには血痕の付着は認められ
なかった。本件居室東面の壁面,北東角に置かれた黒色収納庫,本件居室
,。壁面の木製棚付近にも血痕様のものが多数飛沫状となって付着している
イ事務室内
造り付けの机下の引き出し中央付近にある金属製取っ手の上から西面に
かけて血痕様のものが付着している。また,造り付け机下の床上に落ちて
いた表面に「銀行」と記載された封筒の下方には,直径約2ミリメートI
ル大の血痕様のものが付着している。さらに,本件居室出入口の東側ドア
の西端(取っ手付近)に,縦約16センチメートル,横約4.5センチメ
ートルの血痕様のものが付着している。そして,本件居室出入口からカウ
ンターに向かう間の床面からは,合計6か所に血痕様のものがみられ,そ
のうち,5か所は,いずれも滴下状である。
ウカウンター前フロアー内
本件質店西側出入口のガラス戸内面の南下寄りで,縦最大20センチメ
ートル,横最大約22センチメートルの範囲に,血痕様のものが薄く付着
している。また,カウンター上に置かれていた電話機の受話器に,約5ミ
リメートル四方大の血痕様のものが付着している。また,本件質店南出入
口引き戸西側縦枠北面東端で,下端から上へ30.5センチメートルから
62.5センチメートルまでの間に血液反応が認められ,同所からは2ミ
リメートル大の血痕様のものの付着も認められた。
エ本件質店外部
本件マンション通路内の本件質店南出入口の西縦受け柱の東面から,血
液反応が認められた。また,本件マンション出入口ドア外側(西側)たた
き上の緑色足マット上面に,血痕様のものの付着が認められた。
(3)足こん跡の発見状況(別紙現場見取図2参照)
平成17年10月19日,本件居室から合計9個の足跡が発見された(そ
のうち2個は素足こん様のものである。素足こん様のものでない足跡7個)
の発見箇所は別紙現場見取図2のとおりであるが,それらの足跡のうち,木
製椅子前から発見されたもの(現場見取図2番号③)は北方向,金庫前から
発見されたもの(同⑤)は南東方向,ベッド前から発見されたもの(同⑦)
は北方向に,それぞれ向いている【甲25。】
本件居室内から発見された7個の足こん跡のうち前記③⑤⑦の3つについ
ては,被告人所有のカジュアルシューズ(AIRWALK,濃紺色,26.
5センチメートル,以下「被告人靴」という)によって印象された可能性。
があるとの鑑定結果が出ている【甲5,23,24。】
(4)灰皿内に遺留された吸い殻に付着した唾液のDNAと被告人のDNAの
一致【甲9∼13】
ガラステーブルの上に置かれていた灰皿の中に遺留されていたたばこの吸
い殻のうち,ハイライト2本からは被害者のDNAと一致する唾液が検出さ
,。,れ残りの吸い殻については12本ともB型の唾液が検出されたそのうち
キャビン1本とハイライト3本からは,被告人のDNAと一致する唾液が検
出された。なお,血液型については,被害者はA型,被告人はB型であり,
被害者が当時吸っていた好みのたばこは,ハイライトである【甲26。】
(5)被告人の指紋の発見(別紙現場見取図3参照)
本件質店から発見された被告人の指紋は,カウンター下開き戸上面から2
個(別紙現場見取図3番号①,②,同開き戸東面上端から1個(同③,))
本件居室入口ドア西戸北面から1個(同④,本件居室入口ドア開き戸北面)
取っ手付近から1個(同⑤,本件ファイル表紙表面から3個(同⑥ないし)
⑧,同ファイル裏表紙表面から1個(同⑨)である【甲7,8。)】
第3検討
1犯罪事実全般について
前記認定にかかる2()の生前の被害者の目撃状況,の社員の被害者方2FG
への架電状況,()被害者の死因等及び3被害現場の状況からすると,公訴事4
実記載の日時,すなわち,平成17年10月18日午後6時ころから同日午後
8時30分ころまでの間に,同一人によって殺人及び室内を物色するような行
為がなされた可能性が高いものと推定される。そして,被害者が生前Eと別れ
た際にポケットに所持していた1万円余りの現金が遺体のズボンのポケット,
本件居室内及び本件質店内のいずれもから発見されていないこと【甲5,6】
からすると,犯人に奪われた可能性が高く,本件殺害行為は金品強奪目的でな
された可能性が高いといえる。
もっとも,殺害が真に強盗目的であったか否かについては,①被害者がEと
別れてから本件事件に遭遇するまでの間に所持金を使う可能性があり,被害者
が犯人によりポケット内の現金を奪われたことは証拠上必ずしも認定できない
こと(被害金品が不明であること,②容易に持ち去ることが可能であった金)
庫内の腕時計等の質草数点,物色が疑われる手提げ金庫内の現金約2万円や,
小物入れ内の印鑑,通帳,セカンドバッグ内のクレジットカード等の金品は残
存しており,前記小物入れも,最上段は開けられた形跡がないこと(財物が残
存しており,物色も不徹底であること)及び③殺害態様が単なる強盗犯人によ
るものとしては執拗かつ残虐に過ぎること(何らかの怨恨に基づく殺害である
疑いがあること)等の疑問点もある。
2被告人と犯人の同一性について
そこで,その犯行を行った人物(犯人)と被告人との結びつきについて,検
察官の前記主張及びその根拠として援用する証拠に沿って順次検討する。
(1)ア本件質店内から検出された被告人の指紋について
(ア)本件居室内の金庫前に置かれていた水色ファイル(建築確認通知「
書」と題するもの)や事務室の潜り戸及び本件居室の出入口扉からC
被告人の指紋が検出されたことからすると,少なくとも,被告人がそこ
に立ち入り,その物に触れた事実が認められるところ,被告人と被害者
とは面識がなく,かつ事務室や本件居室は質屋の店側専用のスペースで
あり,客等が自由に出入りできるカウンター前フロアーとは隔絶され,
誰でも自由に出入りできる場所ではないことに照らすと,被害者が招き
入れるといった,被告人が事務室や本件居室に入る正当な理由でもない
限り,同所への立ち入りは不法な侵入とみるのが合理的である。また,
本件ファイルについても,金庫内にしまわれていた可能性が高く,本件
居室内には他にも物色した形跡があり,被害者と面識のない被告人の指
紋が本件ファイルに付着していることは,被告人がそれに触れる特段の
事情がない限り,被告人による物色の過程でこれに付着したものである
とみるのが合理的である。
したがって,特段の事情がない限り,前記指紋付着の事実は,被告人
が物色行為に関与したことを強く推認する事実と認められる。
(イ)なお,これに対し,被告人は,要旨,以下のように弁解している。
すなわち,被告人は,平成17年10月18日ころのまだ明るい時間
帯に,本件たばこ屋前の自動販売機でたばこを買おうとしたところ,被
害者が声を掛けてきて,たばこを売ってくれた。被害者は,被告人が電
気屋であるとわかると,防犯カメラ等防犯設備の設置の可否について尋
ねてきたため,それに応答する中で,被害者から「じゃあこっちも見て
くれるか」などと促され,本件質店内に招き入れられた。被告人は,。
適切な設置箇所を検討するために,事務室内及び本件居室内に土足のま
まで入った。被告人は,防犯カメラの捕捉範囲を明らかにするため,被
害者に対し,部屋の図面を出しておくように頼んだかもしれず,被害者
が出してきた本件ファイルをめくって必要な書類があるかどうかの確認
をした可能性がある,というものである。
この内容からして,前記指紋が付着した原因について,一応の合理的
な説明がなされており,その弁解の信用性については後に詳述する。
イ本件居室内から検出された足こん跡について
(ア)本件居室内から発見された7個の足こん跡のうち3つは,被告人が
本件犯行当時使用していた被告人所有のカジュアルシューズ(AIRW
ALK,濃紺色,26.5センチメートル)によって印象された可能性
があり,被告人が土足で本件居室内に足を踏み入れた可能性が高いとい
えるところ,本件居室内は,被害者の居住スペースであり,被害者自身
が土足で立ち入ることはなかったし,被害者の親しい知人も,靴を脱い
で上がっていたことからすると,特段の事情がない限り,被告人が被害
者の意思に反して不法に侵入したことを推認できる。
(イ)この点についても,被告人は,被害者方に土足で入ったことは認め
た上で,その理由について,前記()ア(イ)で述べたとおり弁解してい1
る。これも,一応の合理的な説明がなされており,その弁解の信用性に
ついては後に詳述する。
(2)本件質店近くで被告人が目撃されたかについて
アは,平成17年10月18日午後8時30分ころ,本件マンション出K
入口前に,棒状の物を布で巻いた物を両手で持って立っていた男(以下
「甲」という)を目撃しているところ,甲を目撃した時刻と前記1認定。
の犯行時刻とが近接していること,甲の所持物の様子が,遺体の損傷状況
から推認される殺害道具(鈍器)とも整合していること,出入口前のたた
き台の緑色足マットから血痕様のものが検出されていることなどを総合す
ると,甲は,本件殺害を終え,犯行現場を立ち去ろうとしていた本件の犯
人である可能性が高いといえるが,は,平成19年8月に行った写真面K
,(「」。)割りにおいて甲は被告人であると特定した旨以下同定判断という
を証言していることからすると,証言が信用できれば,被告人の本件犯K
行への関与を強く推認できるものと考えられる。そこで,その証言のK
信用性について検討する。
イ証言の要旨K
は,平成17年10月18日午後8時半ころ,本件たばこ屋前の自動K
販売機から本件質店の方向に向かって歩いていると,本件マンション出入
口前に甲が立っているのを見た。甲は,にらみつけるような,威圧するよ
うな目で尋常な目ではなく,肩幅くらいの長さ(約60センチメートル)
の棒状の物を布でぐるぐる巻きにしたものを両肘を曲げて横にして持って
いる状態であり,年齢は40歳代くらいの中年であった。甲の身長は16
。,5センチメートルから168センチメートルくらいだと思う甲の髪型は
にいた選手のような,ちょっと上が立ったような,スポーツ刈りみLM
たいな感じであった。
は,事件の翌日以降,報道で本件事件を知り,目撃した甲が犯人でなK
いかと思い,新聞記者に連絡して新聞記事にもなっていたところ,同月2
7日ころに,目撃者として警察から事情聴取を受け,その際,被告人の写
真が載っていない写真面割台帳によって面割りを行ったものの,甲に該当
する人物はいないと答え,その後の平成19年8月23日に,被告人の写
K真も載った写真面割台帳【職権2】により再度面割りを行ったところ,
は,10番目に載っていた被告人の写真を指し,甲は被告人であると迷わ
ず特定した。
なお,前記が特定した写真面割台帳は,被告人を含め20名の人物K
の正面とやや横向きの顔が写されている20枚の写真が載ったものである
が,被告人の写真はちょうどその真ん中に位置する10番目にあり,横向
きの顔の向き加減が他のものと比べて大きいといった特徴が認められる。
のみならず,被写体の被告人の顔の下欄には「630535−H1908
10−0077」の記号が付されているところ,その記号の真ん中の「H
190810」については,被告人が交通違反で逮捕された日にちが平成
19年8月10日であることからして,被告人を写した時期である平成1
9年8月10日を示すものと考えられるが,被告人以外の他の19名の写
真に付された記号の真ん中の部分については,いずれも「H15」ないし
「H17」から始まるもの,すなわち,その写した時期が平成15年から
平成17年までのものを示す記号になっているばかりでなく,被告人のも
のに付された記号の冒頭の「630535」についても,他のものについ
ては,いずれも「631124」と異なる番号になっており,最近写され
た被告人の写真を他のものから識別し易いような体裁になっている。ちな
みに,被告人の前後の9番目と11番目の写真の下欄に付された記号は,
それぞれ「631124−H150922−0346」と「631124
−H160213−0064」である。
ウ同定判断の信用性
は,夜間,一瞬程度の時間であったものの,甲を約1.5メートルのK
K至近距離で付近にも街灯等の明かりがあった状況で目撃しておりかつ,,
は甲から強い印象を受け,目撃してから二,三日後の事件報道をきっかけ
に甲の印象を喚起していったんは記憶に定着させているであろうこと,主
要部分についての供述はおおむね一貫していることに照らすと,甲の容貌
についての前記証言は,目つきの印象と,髪型に関する部分の限度におい
ては,相当程度の信用性を有するといえる。
しかしながら,の同定判断は,目撃してから約1年10か月も経過しK
た時点でのものであり,その間,が甲についての記憶を定着させるためK
に特段の措置を講じたわけではないこと,は甲及び被告人と既知の間柄K
KKにないこと,甲の体格についてのの供述には変遷も見られること,
,,,の同定判断の根拠は目が似ているということに尽きるものでその目は
K「にらみつけるような,威圧するような目で尋常な目ではない」という
の甲に対する印象による部分が大きいと考えられるところ,これは具体的
・客観的な特徴に基づく比較による同定判断というよりはむしろ,印象に
基づく感覚的・主観的判断という側面が強いし,他の顔つきや犯人の雰囲
気がわかるような特徴を一切述べることはできず(なお,被告人自身はそ
れなりに特徴のある顔つきである,もう1つの重要な要素となった髪。)
型についても被告人に関してその裏付けとなるもの(例えば,被告人行き
つけの床屋とか関係者からの当時の被告人の髪型についての供述や写真な
ど)もないことからすると,目つきの印象のみで果たして写真から正しく
同定できるのか,その判断根拠とした事情はかなり脆弱なものと言わざる
を得ないこと,同定判断の約8か月前に作成された甲の似顔絵【職権1】
Kと被告人とを比較しても両者が同一であるとは言い難いしそもそも,,,
が,同定判断の際,甲とは髪型が違うにもかかわらず,迷うことなく被告
人の写真を選べたというのも,写真面割台帳自体の中に,前記のごとく被
写体の人物の下欄に付された記号等被告人の写真を他のものから識別でき
,,,る印があった上2度目の面割りであり本件事件に当初から関心を示し
捜査に協力的な態度である証人の犯人を見つけ出したいという気持ちK
がその判断に影響している可能性も否定できないことも考慮すると,のK
同定判断を採用することはできない。
エよって,証言によっては,被告人と甲の同一性はもとより,その類似K
性も認定できないのであるから,同証言により被告人が本件犯行に関与し
たことを推認することはできない。
(3)被告人の弁解の信用性について
ア被告人供述の要旨
被告人の当公判廷における供述の要旨は以下のとおりである。
平成17年10月18日ころのまだ明るい時間帯に,たばこを買いたい
と思って車で走っていたら,本件たばこ屋の西側に自動販売機を見付けた
ので,たまたま立ち寄った。そのとき買おうとしていたたばこは,ケント
マイルドの9ミリという記憶である。探していたたばこがなかったのか,
自動販売機の前で何を買おうかと躊躇していると,自動販売機の左の方向
から被害者が出てきて「何探してんねん」というような感じで声をか,。
けられた。被告人が,当時吸っていたたばこの銘柄を言うと,被害者は,
「ちょっと待って,見てくるわ」と言って戻っていった。被害者が,本。
件たばこ屋,本件マンション,本件質店のいずれの出入口に戻っていった
。,「。」かは覚えていないしばらくすると被害者がこれでも吸うときいな
と言って,被告人が言った銘柄とは違うたばこを2箱持ってきたので,被
。,,,告人はそれを買ったその当時被害者は酒臭く異常に大声で朗らかで
びっこを引いていたことを覚えている。被害者からたばこを買った後,被
,,告人がケーブルや脚立等を乗せた車のハッチを開けていると被害者から
「兄ちゃん,電気屋さんかいな。どんなことやってんねん。この近所で現
場でもやってんのか」と聞かれたので「いや,僕ら弱電いいまして,。,
インターホンとか,放送設備とか,監視カメラとか,取付けとか設計とか
やってるんです」という説明をした。すると,被害者が,h幹線沿いの。
たばこ屋南面の軒下を指さし「こんなとこにカメラ付けれるやろか」,。
と聞いてきたので「ああ,ここ付きますよ」と答えた。また,被害者,。
は,たばこ屋の西面,マンションの入り口などを,ここ,ここというふう
に指さしていき,それに対し被告人が,これ付きます,簡単に付きますと
いうような会話をした。このように,被害者は,防犯カメラ設置の可否を
訊いてきたが,被告人は「付けるのはどこでも付くけれども,それより,
もシステム,録画がしたいとか,電源はどこから割り付けるのかとかいう
ことのほうが大事よ。モニターテレビどこに置くか」などと言うと,被。
害者から「じゃあこっちも見てくれるか」と言われて,本件マンショ,。
ンの出入口から本件質店内に招き入れられた。
,,。本件質店南側の扉からまず被害者が入ってその後に被告人が入った
被害者から,ここにカメラをつけれないかというような話があったため,
被告人はカメラやモニターの設置位置等をアドバイスした。そのようなア
ドバイスをする中で,今度は被告人が先にカウンター前フロアーから事務
室内に,続けて本件居室内に入って,本件居室内を反時計回りに回ってカ
メラ等の設置箇所を確認していった。被告人は,本件居室内の隅を,寸法
を測ったりしながら確認した。普段はほとんど素手で作業しており,この
ときも軍手はしておらず,素手であった。本件居室内に入ったとき,被告
人は靴を履いたままであった。カウンターのあるところの床の色は黒っぽ
く,本件居室の床の色とか材質は同じであるという記憶である。被害者か
ら,土足で入ったことについて注意はされなかったが「NとかOとかが,
工事に来ても,おれはきっちりやってることを見てるんや。家具とか壁に
傷つけたら弁償してもらうだけやから」という趣旨のことを言われた。。
配線については屋外も見に行った屋外へ出るときに被害者に建,。,,「
築図面があったら出しといて」というようなことを言った。屋外を見て。
回ったときは,懐中電灯は使わず,明るかった記憶がある。
外を見に行って,もう一度本件居室に戻ってきたときに,被害者は,ベ
ッドかいすに靴を脱いで座っていたので,そこで被告人も靴を脱いで,上
がった。このとき,被害者は座ってビールを飲んでおり,被告人に対し,
「こっち来て飲みいな」と言って,コップにビールをついでくれた。被。
告人はコップに2,3杯くらいビールを飲み,たばこも6本から8本くら
いは吸った。ビールを飲んでたばこを吸いながら,監視カメラの話もした
が,途中からは被害者の自慢話を聞かされていた。防犯カメラの設置につ
いては可能だと考えて,その旨被害者に言ったが,隣の電機屋さんに何か
今頼んでるんでというようなことを言われたので,カメラに関してはその
ままうやむやになった。そのように雑談していた時間は長くて三,四十分
である。被告人は,本件質店を出る際,被害者から「空き缶を,明日ご,
みの日やから,出たとこにごみステーションあるから,そこにほかしてく
れ」と言われたので,空き缶の入ったゴミ袋を持って店を出た。。
被告人の指紋が付いていたファイルは,被害者に出しておくよう言った
図面かもしれない。捜査段階で,そのファイルの現物,あるいは写しを示
されたことはなく,青いファイルは知ってるかという質問ばかりだった。
ファイルの中身の書類が何かということを知ったのは甲号証が出されたと
,,。きでそれまでは刑事から権利書だと言われていたのでそう思っていた
ファイルは建築確認書のようであるが,建築確認書の中には,建築立面図
とか平面図が入っていることがあり,そこに,例えば,監視カメラのレン
ズの入角を図示してあったら,はっきりどういう角度でカメラが捕捉して
いるかが分かるので,ファイルをめくって必要な書類があったかどうかの
確認をした可能性はあるが,実際に被害者からそのファイルを見せてもら
ったという記憶はない。
イ検討
前記被告人供述の信用性について検討する。
(ア)本件居室の灰皿内に遺留された吸い殻との関係
本件居室内の灰皿内にあった14本のたばこのうち,2本(いずれも
ハイライト)からは被害者のDNAが検出され,4本(3本はハイライ
ト,1本はキャビン)からは被告人のDNAが検出され,また,12本
からは被告人の血液型と一致し,被害者の血液型とは一致しないB型の
唾液が検出されていることからすると,被告人のDNAが検出された4
本のたばこはもちろんのこと,被告人の血液型と一致する12本のたば
こについても被告人が吸った可能性が高いものであると考えられるとこ
ろ,被告人が犯人であると仮定した場合,本件のような重大な犯行を犯
したばかりの陰惨な現場で,これだけの量のたばこを吸って現場にとど
まり,しかも丁寧にも灰皿の中に吸い殻をためていくということは,わ
ざわざ証拠を現場に残すような行為で,容易には想定しがたい事態であ
り,検察官も,かかる吸い殻の存在理由について何ら言及していない。
他方,被告人は,酒を飲むとチェーンスモーカーになり,被害者と,本
件居室内でビールを飲み,会話をしながらたばこを吸った旨弁解し,前
記吸い殻についての合理的な説明をしているのであるから,かかる吸い
殻についての客観的事実は,被告人の弁解に整合するものであるといえ
る。
(イ)被告人の本件ファイル等に関する指紋等,足こん跡について
被告人の本件ファイル等についての遺留指紋に関する弁解についてみ
ると,被告人が,本件犯行当時,いわゆる弱電設備を取り扱う仕事をし
ていたことなどからすると,その内容自体は,前記指紋が付着した原因
について,合理的な説明がなされているといえる。
,,そして本件ファイルには建築確認関係の書類が綴られているところ
その内容からすれば,財物を取得する犯人の物色対象として適当なもの
であるとは言い難く,むしろ,防犯カメラの捕捉範囲を検討するために
。,これを見た可能性がある旨の被告人の弁解に整合するものであるまた
本件ファイルは,金庫を物色する過程で取り出されたものである可能性
,,も考えられるが金庫内の質草等は盗まれることなく残存していること
金庫には鍵がささったままになっていることもあった旨の知人らの供述
及び被害者の本件前の飲酒状況等も併せ考慮すれば,物色とは関係なく
金庫が開け放たれていることも考えられる。加えて,本件ファイルは,
物色の過程で乱雑に置かれているというような状態ではなく,比較的整
然と置かれているようにも見えること,他に金庫が物色されたことを強
く推認するに足りる証拠もないことからすると,本件ファイルの付着指
紋と物色行為との結びつきは必ずしも顕著であるとまではいえない。
この点,検察官は,被告人は捜査段階では本件ファイルにつき記憶が
ないと弁解していたのに,当公判廷において唐突に前記弁解をするに至
ったのであり,かかる変遷は,被告人の前記弁解の信用性を否定する事
情である旨主張する。しかし,被告人は,当公判廷において,捜査段階
では,本件ファイルの現物又はそれに代わる写真等を示されたことはな
く,本件ファイルの内容については権利証であると教えられており,建
築確認関係の書類であることを知らなかったと供述しているところ,こ
のことを否定するような証拠はなく,むしろ,被告人の捜査段階の供述
調書をみても,本件ファイルの具体的内容についての記載は存しないこ
となど,被告人が本当に本件ファイルの内容を知らなかったことをうか
がわせるものがあり,このような事情に照らせば,被告人が,捜査段階
において,本件ファイルに被告人の指紋が付着している理由について合
理的な説明をせず,公判段階で初めて弁解に及んだこともやむを得ない
といえるから,検察官の前記主張は当たらない。
次に,被告人が被害者方に土足で入った点に関する弁解をみると,土
足で入ることが許されている事務室内の床面は,カウンター前フロアー
,,から続く板張りであるところ本件居室内の床面も同様の板張りであり
事務室と本件居室の間には両開きドアと2枚引き戸の敷居があるのみで
あるから,一見して,事務室と本件居室とで土足の可否が区別されてい
るものと判断することは容易ではない。そうすると,初めて本件質店を
訪れた被告人が,事務室と本件居室とを区別することなく,本件居室に
,,土足で入ってしまう可能性はあり得ることであるからその内容自体は
前記足こん跡について,合理的な説明がなされているといえる。
この点,検察官は,被告人が本件居室内に土足で入っても被害者から
注意を受けなかったことは不合理であると主張する。しかし,被害者が
被告人の土足に気付いていたかどうかは証拠上必ずしも明らかではない
し,当時の被害者の飲酒状況からは,果たして細部まで注意が行き渡っ
ていたかどうか,被告人のことをあからさまに咎め立てすることができ
たかどうかについては疑問があり,被害者が被告人の土足を注意しない
ことが不自然であるとは必ずしもいえない。
(ウ)被告人の公判供述は,被害者と出会ってから,本件質店内に招き入
れられ,本件質店内において防犯カメラ等の設置箇所を検討し,ビール
を飲み,たばこを吸いながら会話をし,本件質店を去るまでの一連の経
緯及び状況について具体的であり,その中核部分において一貫し,前記
(ア)の本件居室の灰皿内に遺留された吸い殻の状況や前記第2の2(1)
認定の飲酒状況を含む被害者の本件前の生活行動など,これに沿う客観
的事実も存する。加えて,被告人は,捜査段階において,被害者は,隣
の電機屋に何から何まで面倒を見て貰っていると言っていた旨供述して
いるところ,かかる情報は被害者からしか引き出せない情報であり,こ
のことからは,被害者との間で穏当な会話がなされていたことがうかが
われ,これも被告人の弁解に沿う事情といえる。
(エ)検察官の指摘する被告人供述の疑問点について
検察官は,①被告人は,捜査当初は本件質店には1回も行ったことが
ない旨述べたが,警察官から「現場から,あなたの資料が出てきてい,
る」などと指摘を受けて,現場に行ったことを認めるに至った供述の。
変遷は,被告人が事実を隠匿したことによるものであること,②被告人
は,捜査段階では,本件質店を訪れた時間帯について午後2時から午後
,,3時ころまでの間と供述していたところこれはE証言と矛盾すること
③被告人の捜査,公判における供述のうち,被害者が本件たばこ屋の西
側出入口から出てきた点,自動販売機でケントマイルド9ミリグラムを
,,買おうとした点本件居室内の金庫を揺すると金庫は揺れたとする点は
いずれも客観的事実と矛盾すること,④本件質店には,すでに防犯セン
サーは設置されていたので新たにセンサーを設置する必要性はなく,現
に隣の電機屋にセンサー設置についての相談もしていないことなどを指
摘し,被告人の前記弁解は信用できないとする。
しかしながら,①については,被告人が逮捕されたのは本件から約1
年10か月も経ったころであるところ,通常人であれば,約1年10か
月も前の出来事について当初から明確に供述するのは困難で,当時の生
活状況を想起したり,他者からの指摘を得るなどして,徐々に記憶を喚
起していくのが通常であり,被告人の供述の変遷もかかる経緯を辿った
,,がゆえであると説明することが可能であるから被告人の供述の変遷が
必ずしも自己に不利益な事実の隠匿によるものであると決めつけるわけ
にもいかない。また,②については,被告人の供述の主旨は,本件質店
に行ったのは真昼ではないが,まだ明るい時間だったことにあり,その
例として午後2時とか午後3時の時間帯を出したにすぎず,1年10か
月前の出来事について具体的な根拠を挙げて時間帯を特定したわけでも
ないから,本件質店を訪れた時間帯に関する被告人の供述は,客観的事
実と矛盾するとはいえない。さらに,③については,被告人は,本件当
時のことについて,その当時の生活や仕事の状況等から推測して供述し
ている部分があることがうかがわれるところ,被告人が他の記憶,出来
事と混同して供述した結果,客観的事実と異なる供述になっているとも
考えられる上,被告人は,本件当時ケントマイルドの9ミリグラムのた
ばこは販売されていなかったという客観的事実を指摘されてもなお,ケ
ントマイルドの9ミリグラムを買おうとした記憶である旨の供述を貫い
ており,被告人が意図的に虚偽の供述をしているとも思えない。そもそ
も,これらの客観的事実との齟齬が被告人供述の信用性を根本的に否定
するほどのものであるとはいえない。④の防犯センサー設置の必要性に
ついても,本件質店に設置されていたセンサーは,人が来たら何か音が
鳴るというものに過ぎず,誰が来たかまではわからない稚拙なものであ
ったのであるから,誰が入ってきたか判別できる防犯センサーを設置す
る必要性がないとはいえず,仮に必要性があってもそれが緊急のもので
あったかどうかは明らかではなく,被害者の飲酒状況からすれば,さし
たる必要性はなくても,被告人に防犯設備の話題を持ちかけることも考
えられなくもないことからすると,この点についての検察官の指摘も当
たらない。
以上によれば,検察官が縷々指摘する被告人供述の疑問点は,被告人
供述の信用性を根本的に否定するまでには至らず,被告人の弁解を排斥
することはできない。
ウそうすると,被告人の弁解の根幹部分,すなわち,被告人が,平成17
年10月18日ころのまだ明るい時間帯に,たばこの購入をきっかけに被
,,害者に会い防犯設備設置の関係で被害者から本件質店内に招き入れられ
土足禁止であることに気付かずに土足のままで本件居室内に入り,防犯設
備設置の可否を確認するために同室内を点検し,その過程で,図面が入っ
ている可能性のある本件ファイル等に触れた可能性があることについて
は,これを排斥することができないというべきである。
したがって,被告人の弁解は,前記2()ア及びイで述べた被告人の指1
紋の付着及び足こん跡に関する事実から本件強盗殺人の犯人と被告人との
,,結びつきを推認することを妨げる事情となるからこれらの事実によって
被告人が本件犯行に関与したことを推認することはできない。
なお,検察官が主張する動機の点についても,補充的な情況証拠にすぎ
ず,これだけで決め手となるようなものではない。
第4結論
以上検討したところによれば,被告人の弁解を排斥できない以上,検察官が
主張し,証拠上認められる間接事実を総合しても,被告人が本件犯行に関与し
たことを推認することはできず,被告人が本件犯行に関与したことについては
合理的な疑いが残ると言うべきである。
よって,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,刑事訴
訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑無期懲役)
(検察官藤井理,大極俊紀各出席)
(弁護人(主任)戸谷嘉秀,高島浩各出席)
平成20年7月18日
神戸地方裁判所第4刑事部
岡田信裁判長裁判官
森岡孝介裁判官
荒金慎哉裁判官

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