弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
    被告人を懲役1年10月に処する。      
    未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
    押収してあるa通信サービス契約申込書2枚(平成15年押第69号の
1,2)及び郵便貯金総合サービス利用申込書1枚(同押号の3)の各偽造部分及
び自動車運転免許証1枚(同押号の4)を没収する。
             理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 他人になりすまして携帯電話利用契約を申し込むに際し必要となる他人名義
の郵便貯金通帳を入手するため,偽造に係る他人あての自動車運転免許証を利用す
るなどして他人名義の郵便貯金口座を開設しようと企て,平成14年11月11日
午後3時50分ころ,兵庫県a市bc丁目d番e号所在のA郵便局において,行使
の目的をもって,ほしいままに,同所備付けの郵便貯金総合サービス利用申込書用
紙の氏名欄に「B」,同住所欄に「宝塚市f町g-h-i-j」等とボールペンで
各冒書し,その名下に「B」と刻した印鑑を押捺し,もって,B作成名義の郵便貯
金総合サービス利用申込書1枚(平成15年押第69号の3)を偽造し,即時同所
において,同郵便局員Cに対し,上記偽造に係る郵便貯金総合サービス利用申込書
及び偽造の兵庫県公
安委員会の印章を使用して偽造された同委員会作成名義のBあて自動車運転免許証
1枚(同押号の4)をともに真正に成立したもののように装って一括提出して行使
した
第2 上記偽造に係る自動車運転免許証を使用し,携帯電話販売代理店関係者を欺
いて携帯電話機を交付させるとともに携帯電話機の通信回線を利用できる契約上の
地位を得ようと企て,同日午後8時ころ,同市bh丁目i番j号所在のD株式会社
E支社E支店の販売代理店であるEショップF店において,行使の目的をもって,
ほしいままに,同店備付けの電話利用契約申込書用紙であるa通信サービス契約申
込書用紙2枚の各申込者氏名欄に「B」,各同住所欄に「宝塚市f町g丁目h-i
-j号」等,各支払口座の通帳記号欄に「438」,各支払口座の通帳番号欄に
「59232151」,各支払口座の口座名義欄に「B」等とボールペンで各冒書
し,その各名下に「B」と刻した印鑑を押捺し,もって,B作成名義の上記a通信
サービス契約申込書2
枚(同押号の1,2)をそれぞれ偽造し,即時同所において,同店従業員Jに対
し,Bになりすました上,購入する携帯電話機の通話料金を支払う意思及び能力が
ないのに,これあるように装い,上記偽造に係るa通信サービス契約申込書2枚及
び上記偽造に係る自動車運転免許証をともに真正に成立したもののように装って一
括提出して電話利用契約を申し込み,上記Jをして,真実,これがBによる電話利
用契約の申込みであり,確実に通話料金の支払いを受けられるものと誤信させ,同
日午後8時30分ころ,同所において,上記Jから携帯電話機2台(卸売価格合計
7万8300円相当)の交付を受けるとともに,同電話機の各電話番号「090-
3998-4004」及び「090-2010-4005」を使用して上記D株式
会社が管理する携帯電
話機の通信回線を利用できる契約上の地位を得,もって,人を欺いて財物を交付さ
せるとともに,財産上不法の利益を得た
ものである。
(証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号
 省略 
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,判示第2の事実について,被告人には購入する携帯電話機の通話料
金を支払う意思及び能力があったから詐欺罪は成立しない旨主張し,被告人もこれ
に沿う供述をしている。
2 しかしながら,判示第2の事実は,被告人がBになりすまし,被害店の従業員
をして,Bによる携帯電話利用契約の申込みであると誤信させたことをも欺罔行為
としているところ,Jの検察官調書(甲2)やG作成の上申書(甲3)によれば,
被害店においては,携帯電話利用契約は継続的な契約関係であるため,利用者から
確実に通話料金の支払いを受けることができるように,契約締結に際して申込者の
氏名,住所等を身分証明書類で確認するなどして本人確認を行い,もし氏名を偽っ
ていれば契約を締結しないようにしていることが認められ,被告人がBでないこと
を知っていれば,被告人と携帯電話利用契約を締結することはなく,本件各携帯電
話機を交付するなどしなかったことが明らかであって,被告人の行為はその点で欺
罔行為に該当すると
いわざるをえないから,被告人に購入する携帯電話機の通話料金を支払う意思及び
能力があったかどうかに関わりなく,被告人には詐欺罪が成立するというべきであ
る。
3 そして,また,関係各証拠によれば,被告人に本件各携帯電話機の通話料金を
支払う意思及び能力がなかったことも,以下に述べるように,これを認めることが
できる。
  すなわち,被告人は,他人の氏名を名乗り,その他人名義で開設した郵便貯金
口座の口座番号等を申込書のお支払い口座欄に記載して本件各携帯電話利用契約を
締結しており,被告人本人が携帯電話会社から通話料金の請求を受けることがない
ようにしていること,被告人は,もともと本件各携帯電話機を他に転売して利益を
得るつもりでいたものであって,実際にも,本件各携帯電話機を入手して数日後に
他に転売するためこれを知人に渡しており,その通話料金も支払っていないこと,
被告人は,生活保護により支給される金銭だけでは生活できず,闇金融からの借金
もかさんで金に困ったことから,本件各携帯電話機を転売して金銭を得るために本
件犯行に及んだものであることからすれば,本件各携帯電話機2台の通話料金を支
払うことができるほ
どの余裕があったとも思われないことを併せ考えると,被告人が本件各携帯電話機
の通話料金を支払う意思及び能力があった旨いうところは全く信用できず,被告人
に本件各携帯電話機の通話料金を支払う意思及び能力がなかったことは間違いがな
いと認められる。
4 以上のとおりであって,被告人には判示第2の事実のとおり詐欺罪が成立する
ことが明らかであって,上記の弁護人の主張は採用することができない。
(累犯前科)
 被告人は,(1)平成10年4月14日神戸地方裁判所尼崎支部で覚せい剤取締法違
反の罪により懲役1年4月に処せられ,平成11年9月21日その刑の執行を受け
終わり,(2)平成11年9月10日神戸地方裁判所尼崎支部で覚せい剤取締法違反の
罪により懲役2年に処せられ,平成13年10月19日その刑の執行を受け終わっ
たものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書(乙16)及
び(1),(2)の前科に係る判決書謄本(乙17,18)によって認める。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の所為のうち,偽造有印公文書行使の点は刑法158条1項,
155条1項に,有印私文書偽造の点は同法159条1項に,偽造有印私文書行使
の点は同法161条1項,159条1項に,判示第2の所為のうち,偽造有印公文
書行使の点は同法158条1項,155条1項に,有印私文書偽造の点は文書ごと
に同法159条1項に,偽造有印私文書行使の点は文書ごとに同法161条1項,
159条1項に,詐欺の点は包括して同法246条にそれぞれ該当するところ,判
示第1の偽造有印公文書と偽造有印私文書の一括行使は1個の行為が2個の罪名に
触れる場合であり,有印私文書偽造とその行使の間には手段結果の関係があるの
で,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪として最も重い偽造
有印公文書行使罪の刑
で処断し,判示第2の偽造有印私文書と偽造有印公文書の一括行使は1個の行為が
3個の罪名に触れる場合であり,偽造有印公文書行使と詐欺との間には手段結果の
関係があり,有印私文書の各偽造とその各行使と詐欺との間にはそれぞれ順次手段
結果の関係があるので,同法54条1項前段,後段,10条により結局以上を1罪
として最も重い偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし,前記の前科がある
ので同法56条1項,57条により判示第1及び第2の各罪の刑についてそれぞれ
再犯の加重をし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,1
0条により犯情の重い判示第2の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重をした
刑期の範囲内で,被告人を懲役1年10月に処し,同法21条を適用して未決勾留
日数中70日をその
刑に算入し,押収してある自動車運転免許証1枚(平成15年押第69号の4)は
判示第1の偽造有印公文書行使の,郵便貯金総合サービス利用申込書1枚(同押号
の3)の偽造部分は判示第1の偽造有印私文書行使の,a通信サービス契約申込書
2枚(同押号の1,2)の各偽造部分は判示第2の偽造有印私文書行使の各犯罪行
為を組成した物で,いずれも何人の所有をも許さないものであるから,それぞれ同
法19条1項1号,2項本文を適用してこれらを没収し,訴訟費用は,刑事訴訟法
181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,偽造に係る他人名義の運転免許証を使用し,携帯電話会社の
代理店から使用可能な携帯電話機を詐取しようと企て,その申込みに必要となる他
人名義の郵便貯金通帳を得るため,他人名義の郵便貯金総合サービス利用申込書を
偽造し,上記偽造運転免許証とともに行使したという偽造有印公文書行使,有印私
文書偽造・同行使の事案(判示第1)と,携帯電話利用契約申込書を偽造した上,
上記偽造運転免許証とともに行使し,他人になりすまして使用可能な携帯電話機を
詐取したという,偽造有印公文書行使,有印私文書偽造・同行使,詐欺の事案(判
示第2)である。
 被告人は,携帯電話機を詐取してこれを転売し利益を得ようと考え,本件各犯行
に及んだものであって,その利欲的かつ自分本位な犯行動機に酌量の余地がないこ
と,被告人は,他人あて偽造運転免許証を準備した上で,携帯電話利用契約申込書
に料金支払口座として記載するために,その偽造運転免許証を用いて他人名義の郵
便貯金口座を開設し,本件携帯電話機2台を詐取したものであって,その犯行態様
は計画的かつ悪質であること,被告人は,卸売価格合計7万8300円相当の携帯
電話機2台を詐取したのみならず,その通話料金等として13万円余りの損害を生
じさせている上,私文書のみならず,公文書,特に身分確認のために広く用いられ
ている自動車運転免許証への社会の信頼を損なっており,犯行の結果も軽微なもの
ではないこと,この
種犯行は,携帯電話会社等に直接被害を生じさせるとともに,それが電話料金に影
響をもたらすことにより携帯電話の一般の利用者にも不利益をもたらすだけでな
く,不正に入手された携帯電話機が他の犯罪行為に使用されるなどの社会問題をも
生じていること,被告人は通話料金を支払う意思があったなどと不合理な弁解を述
べており,反省の態度も十分とはいえないことなどを考え併せると,犯情は良くな
く,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 加えて,被告人は,判示累犯前科を含め多数の懲役前科を有していることや,前
刑の執行終了後1年あまりで本件各犯行に及んだものであることも,量刑上看過す
るわけにはいかない。
 してみると,被告人は本件各犯行により経済的な利益をほとんど得ていないこ
と,被告人の前妻が本件で詐取された携帯電話機の代金相当額を立替払いしている
こと,被告人は,通話料金支払いの意思及び能力の点を除いて,本件各事実を認め
ており,一応反省の弁を述べていること,その父親も被告人が出所後相談相手にな
るなどする旨述べていることなどの,被告人のために酌むべき事情を考慮しても,
主文の刑はやむを得ないところである。 
(検察官の科刑意見 懲役2年6月)
 よって,主文のとおり判決する。            
  平成15年7月4日
     神戸地方裁判所第2刑事部
            
         裁判長裁判官  森  岡  安  廣          
   
裁判官  川  上     宏
  裁判官  伏  見  尚  子          
    

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