弁護士法人ITJ法律事務所

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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2前項に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
次のとおり訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の
概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。
1原判決2頁3行目の「砂川市」を「北海道砂川市」と改め,同2頁5行目の
「神社の建物」を「神社建物・鳥居・地神宮」と,同2頁7行目の「撤去」を
「収去と土地の明渡し」とそれぞれ改め,同2頁9行目の「被告に対し」の次
に「,地方自治法242条の2第1項3号の規定に基づき」を加え,同2頁1
5行目の「本件土地の所有及び本件施設の存在等」を「砂川市による土地の所
有及び神社建物等の存在等」と改める。
2同5頁2行目の「撤去」を「収去と土地の明渡し」と改める。
3同5頁9行目の「目的効果基準よって」を「目的効果基準によって」と改め
る。
4同7頁2行目の「同市の」を削除し,4行目の「同市の税条例」を「砂川市
税条例」と改める。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,被控訴人らの本訴請求は,原判決主文第1項の限度で理由があ
るものと判断する。その理由は,次の2のとおり訂正し,3のとおり当審にお
ける控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄
の「第3争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2原判決の訂正
(1)原判決7頁15行目の「甲9の4ないし10」を「甲9の4ないし1
1」と改める。
(2)同9頁5行目から6行目にかけての「公立空知郡S尋常小学校」を「公
立空知郡S尋常高等小学校」と改め,同9頁20行目の「上記両土地を」の
次に「祠等の施設のために」を,同9頁22行目の「砂川市は」の次に「,
同日」をそれぞれ加え,同9頁24行目から25行目にかけての「所有権移
転登記をした」を「所有権移転登記を受けた」と改める。
(3)同10頁20行目の「所有権移転登記」を「共有者全員持分全部移転登
記」と改める。
(4)同11頁17行目の「乙18」を削除する。
(5)同13頁18行目の「本件土地上に存するが」の次に「,」を加える。
(6)同17頁12行目の「証拠はない」の次に「(なお,S連合町内会は,
S地区の6つの町内会によって組織される地域団体であること,S連合町内
会では,その内部機関として各町内会員によって組織される運営委員会が存
在し,同委員会が本件施設全体の維持管理を行っていること,本件施設の宗
教的行為を行う氏子のすべてがS連合町内会の構成員というわけではないこ
と,S連合町内会の本来の目的としては,特定の宗教の信仰,礼拝又は普及
等の宗教的活動を行おうとするものではないことに照らすと,特定の宗教の
信仰,礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ない
し団体には該当しないというべきであって,憲法20条1項後段にいう「宗
教団体」,憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」には該当しない
ものと解するのが相当である。)」を加える。
(7)同18頁25行目の「宗教的心情」を「宗教的信条」と,「札幌神宮」
を「札幌神社」と,同19頁2行目の「寺と神社の判断基準」を「寺と神社
の区別の判断基準」とそれぞれ改める。
(8)同20頁19行目から25行目までを次のとおり改める。
「(イ)しかし,上記認定のとおり,Aは,昭和23年ころから,本件a番
土地及び本件b番c土地を祠等の神社施設の敷地として提供していたが,
昭和28年ころ,砂川町に対し,祠等の施設のために本件a番土地及び
本件b番c土地の寄付願出をし,砂川町も,町議会において,上記両土地
の採納の議決及び上記両土地を祠等の施設のために無償で使用させると
の議決をしたものである。このような砂川町が本件a番土地及び本件b番
c土地の所有権を取得した経緯に照らすと,砂川町が上記両土地を取得
等した目的は,祠等の宗教施設の維持存続にあることは否定し難く,宗
教的意義を有するものといわざるを得ない。」
(9)同21頁8行目から11行目までを次のとおり改める。
「また,前記認定のとおり,北海土地改良区は,平成4年,砂川市に対し,
本件d番土地及び本件e番f土地ほかの土地について正式に買受けの要請を
し,砂川市は,平成6年,同要請に基づき,北海土地改良区から,本件d
番土地及び本件e番f土地を買ったが,上記各両土地上には,本件a番土地
及び本件b番c土地と同様に,宗教施設である本件建物が存在し,しかも,
砂川市もこれを認識していたものである。そうすると,砂川市がこのよう
な宗教施設である本件建物が存在する本件a番土地及び本件b番c土地を取
得し,引き続き上記両土地を無償で使用させていることに照らすと,砂川
市が上記両土地を取得等した目的についても,本件a番土地及び本件b番c
土地と相まって,祠等の宗教施設の維持存続にあると評価されることもや
むを得ないところであり,宗教的意義を有することは否定し難いものであ
る。」
(10)同21頁25行目から22頁1行目までの「憲法20条3項にいう宗教
活動に当たり,また,宗教的施設を維持するために,地方公共団体の財産を
供するもので憲法89条に反するものというべきである」を「憲法20条3
項にいう宗教的活動に当たり,同条項の政教分離規定に違反し,また,宗教
的施設を維持するために地方公共団体の財産を供するものであり,憲法20
条1項後段,89条に規定される政教分離原則の精神に明らかに反するもの
というべきである」と改める。
(11)同22頁26行目の「憲法20条1項,3項,89条」から同23頁1
行目の「行為があり,」までを「憲法20条3項に規定される政教分離原則
に違反し,また,憲法20条1項後段,89条に規定する政教分離原則の精
神に明らかに反する行為があり,」と改める。
3当審における控訴人の主張に対する判断
(1)控訴人は,原判決は,本件施設の外形,外観のみにとらわれる余り,S
連合町内会やS神社の性格及び関係,砂川市の施策の目的等の事実を誤認し
ており,当該行為に対する一般人の宗教的評価,当該行為者が当該行為を行
うについての意図,目的及び宗教的意識の有無,程度,当該行為の一般人に
与える効果,影響等の諸般の事情に対する考慮を欠くという政教分離規定に
関する憲法解釈の誤りがあるなどと主張し,具体的には,①本件施設の内
容と設置目的は世俗的なものにすぎないこと,②本件施設の運営等も世俗
的であること,③砂川市が本件両土地を取得したのも世俗的な行政上の目
的であること,④神道を援助,助長したり,他の宗教に対する圧迫,干渉
の効果もないことを指摘するので,以下,前記認定の事実に照らし,順次検
討する。
アまず,上記①及び②の点については,確かに,S会館の内部にある本件
祠は,普段は人目につかない場所にある上,S会館は,地域コミュニティ
ーの融和を図るために新築,設置されたものであって,実際にも地域住民
の親睦活動等に利用されていること,また,S会館の運営はS連合町内会
により行われているところ,これらの構成員は一般の地域住民であってそ
の中には宗教的意識を有していない者もいることは,いずれも控訴人が指
摘するとおりである。
しかし,前記認定の事実によれば,本件施設の前身であるS神社は,五
穀豊穣を祈願するという宗教的信条により建立され,札幌神社から迎えら
れた宮司により鎮座祭が営まれるなどしたこと,本件施設には,本件鳥居,
本件地神宮及び本件建物が存在するところ,鳥居及び地神宮は神社の象徴
的な存在であり,本件鳥居及び本件建物の入口には「神社」と明記され,
本件建物の内部には天照大神を祀った本件祠が存在しており,かつ,本件
鳥居,本件建物の入口にある「神社」の記載及び本件祠は,一直線上に並
んでいて参道の存在をうかがわせること,本件施設においては,現在も,
砂川神社から派遣される宮司により神式の行事が営まれている上,これら
の行事では雅楽が演奏されることや巫女が舞うこともあることなどに照ら
すと,本件施設は宗教施設である神社としての評価を受けるものというほ
かはない。そして,控訴人が指摘する諸事情は,いずれも宗教施設である
本件施設が地域住民の集会場としての性格を併せ持つというにすぎず,こ
れをもって本件建物を含む本件施設の宗教施設としての性格が消滅するも
のではないというべきである。
イ次に,上記③の点については,既に説示したとおり,砂川市がAから本
件a番土地及び本件b番c土地の所有権を取得した目的は,祠等の宗教施設
の維持存続にあることは否定し難く,宗教的意義を有するものといわざる
を得ないし,また,砂川市が北海土地改良区から本件d番土地及び本件e番
f土地の所有権を取得した目的も,本件a番土地及び本件b番c土地と相まっ
て,祠等の宗教施設の維持存続にあると評価されることもやむを得ないと
ころであり,宗教的意義を有することは否定し難いといわなければならな
い。
なお,控訴人は,砂川市が上記各土地を取得したのは,A又は北海土地
改良区からの要請に応じたものであり,受動的なものにすぎないとも主張
する。しかし,砂川市が上記各土地を取得した契機がAらからの申出に基
づくというものでしかなく,最終的には砂川市が上記各土地を取得する旨
決めたことは明らかであるから,これにより砂川市が上記各土地を取得し
た目的について宗教的意義が払拭されることにはならないというべきであ
る。
ウさらに,上記④の点については,本件施設は,その歴史的沿革,外形及
び用途,そこで営まれている行事等に照らすと,神社というほかはなく,
宗教施設としての性格が明確であるといわなければならない。
そうすると,砂川市が本件両土地を取得し,以後,本件施設の維持のた
めに無償で使用させている行為は,一般人がこれを社会的習俗にすぎない
ものと評価しているとは考え難く,本件施設の管理者においてもこれが宗
教的意義を有するものであるという意識をもたざるを得ず,これにより砂
川市が特定の宗教上の組織との間にのみ意識的に特別の関わり合いをもっ
たとの外形的事実が形成されていることは,これを否定することができな
いのであり,一般人をして砂川市が特定の宗教に特別の便宜を与えている
との印象をもたらすものといわざるをえない。
これらの諸事情を総合考慮すれば,砂川市が本件両土地を取得し,以後,
本件施設の維持のために無償で使用させている行為は,その目的が宗教的
意義をもつことを免れないほか,その効果が特定の宗教に対する援助,助
長,促進になることは明らかというべきであり,これによってもたらされ
る砂川市と宗教とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照ら
し相当とされる限度を超えるものであって,憲法20条3項の禁止する宗
教的活動に当たると解するのが相当である。
エしたがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)また,控訴人は,砂川市による小学校の増設と体育館の新設に伴い,A
が無償で自己所有地に本件祠を移設することを申し出たが,その後,Aに固
定資産税等の負担をもたらすことが明らかになったことから,このような事
態を解消するため,Aから本件a番土地及び本件b番c土地の寄付を受けたも
のである,したがって,仮に上記経緯が無視されるとすると,円滑,迅速な
行政活動が阻害され,地域住民の利益が害されるなどと主張する。
なるほど,前記認定の事実のとおり,砂川市がAから本件a番土地及び本
件b番c土地の所有権を取得するまでの経緯をみると,前記認定の事実によれ
ば,Bほかの神社創設発願者らは,明治30年,北海道庁に土地の御貸下願
を提出し,同所にS神社の祠等の施設を建立したこと,Aは,昭和23年こ
ろ,砂川町による小学校の増設等に協力するため,本件a番土地及び本件b番
c土地をS神社の施設の敷地として提供したこと,Aは,昭和28年,砂川
町に対し,祠等の施設のために本件a番土地及び本件b番c土地の寄付願出を
し,砂川町は,町議会において,上記両土地の採納の議決及び上記両土地を
無償で使用させるとの議決をしたことが認められる。そうすると,S神社の
祠等の施設はもともと公有地上にあったところ,砂川町がAから上記両土地
の寄付を受けたことは,S神社の祠等の施設の建立時の状態に戻ったという
にすぎないとみる余地もないではない。
しかし,前記認定の事実によれば,S神社の祠等の施設は,昭和23年か
ら昭和28年までの5年間はAの私有地上にあったこと,上記施設は,それ
自体,宗教施設そのものであること,Aの寄付願出も砂川町による採納の議
決等も,上記両土地がS神社の祠等の施設の敷地になっていたことが大きな
要因になっていることは否定し難いことが認められ,これらの事実に照らす
と,砂川町がAから上記両土地の寄付を受け,以後,S神社の敷地として無
償で使用させてきたことは,固定資産税等の負担を免除し,もって神社施設
の維持存続を容易にし,神道を助長することを直接の目的とするものという
ほかはない。そして,砂川町が上記両土地を取得するに至った時点で,砂川
町による上記両土地の取得行為は政教分離原則に違反していたとみる余地が
あるというべきであり,その後,上記両土地上にある施設が宗教施設として
の性格が希薄になったなどの特段の事情のない限り,現在の利用関係につい
ても政教分離原則に違反しているといわざるを得ないところ,前記認定のと
おり,上記両土地においては,遅くとも昭和39年以降,毎年8月26日に
砂川神社の祭典行事が行われ,同行事では神主が出席し,祝詞の奏上,玉串
奉奠等が行われていること,昭和45年に本件建物が建設された際には,本
件建物の入口に「神社」と明記された上,本件鳥居が新たに設置されるなど,
宗教施設としての性格が強まっているというべきであり,上記特段の事情を
認めるに足りないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張も採用することができない。
4結論
以上によれば,砂川市長である控訴人には,S連合町内会に対し,本件建物
の外壁の表示及び本件祠,本件鳥居並びに本件地神宮の収去を請求しない点に
おいて,憲法20条3項に規定される政教分離原則に違反するとともに,憲法
20条1項後段,89条に規定する政教分離原則の精神に反し,違法にその財
産管理を怠る事実があるというべきである。
よって,上記の限度で被控訴人の請求を認容した原判決は相当であり,本件
控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
札幌高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官伊藤紘基
裁判官北澤晶
裁判官中川博文

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