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平成14年(ワ)第15438号損害賠償等請求事件
口頭弁論終結日 平成15年5月23日
判    決
       原     告   特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制
委員会
       原     告   株式会社日本家庭教師センター学院
       被     告   有限会社旭学園
       同訴訟代理人弁護士 松 岡   宏
       同         森 本 耕太郎
主    文
   1 原告らの請求をいずれも棄却する。
   2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
 〔原告特定非営利活動法人家庭教師派遣業自主規制委員会(以下「原告委員
会」という。)〕
 1 被告は,原告委員会に対し,金335万8511円及びこれに対する平成1
3年11月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,「家庭教師110番・トラブル相談」と表示してはならない。
   被告は,「家庭教師110番・トラブル相談」を閉鎖し,謝罪広告を掲載せ
よ。
3 被告は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」名称中の「優良業者」を削
除し,同ネットワークを解散せよ。
 4 被告は,「愛知県家庭教師協会」及び「岐阜県家庭教師協会」名称中の
「県」の削除,又は同名称の変更をせよ。
   被告は,上記各協会を解散せよ。
  〔原告株式会社日本家庭教師センター学院(以下「原告会社」という。)〕
 5 被告は,原告会社に対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
  〔原告委員会及び原告会社〕
 6 被告は,原告らに対し,金50万円及びこれに対する平成13年11月9日
から支払済みまで年5分の割合により金員を支払え。
 7 被告は,別紙標章目録記載の標章(以下「本件標章」という。)を使用して
はならない。
   被告は,本件標章を付した印刷物を提出し,謝罪広告を掲載せよ。
 8 被告は,「家庭教師派遣業自主審査実行委員会」との名称を使用してはなら
ない。
   被告は,家庭教師派遣業自主審査実行委員会の規約及び役員名簿を提出し,
謝罪広告を掲載せよ。
 9 被告は,平成15年7月31日までの間,テレビ,新聞(PTA新聞を含
む。),電話帳,雑誌,チラシ等の広告掲載を自粛せよ。
第2 事案の概要等
 1 前提となる事実(証拠を示した事実以外は,当事者間に争いがない。)
  (1) 原告委員会は,平成5年,原告ら代表者Aが中心となって家庭教師派遣業
者により設立された団体であり,平成12年12月28日,特定非営利活動法人と
なった(甲1,弁論の全趣旨)。
    被告は,家庭教師派遣業を営む有限会社であり,原告委員会の会員であ
る。なお,被告代表者B(以下「B」という。)は,家庭教師優良業者全国ネット
ワークの副会長である(乙15,16の1及び2)。
  (2) 原告会社は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,
その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である(甲3の1ないし3)。
  (3) 原告委員会は,平成11年10月ころ,家庭教師派遣業者のサービス評価
をして格付けを行い,優良業者を「AAA」と認定する制度(以下「AAA認定制
度」という。なお,本件において「AAA審査」とは,AAA認定制度における審
査を意味する。)の運営の準備を始め,同原告に「AAA審査委員会」を設け,同
原告副理事長のBをAAA審査委員会の委員長とした(甲28,29,乙8の1及
び2,9の1ないし4,15,弁論の全趣旨)。
 2 原告らの主張
  (1) 請求の趣旨1項について
   ア 名誉毀損料100万円
    (ア)AAA審査委員長である被告は,AAA審査に当たり,その立場を利
用して,被告が副会長を務める家庭教師優良業者全国ネットワークの会員に有利な
審査を押し進め,その結果,AAA審査についての誤解を招き,家庭教師派遣業界
に大混乱を招いた。
    (イ)被告の上記行為は,原告委員会のNPO活動を妨害し,同原告の信用
を失墜させるものであり,これにより,同原告は100万円の損害を被った。
イ 慰謝料50万円
    (ア)被告は,Cが原告委員会を誹謗中傷する目的で,第三次最終認定審査
会審査委員らに対し,同原告の顧問でない者が顧問であるという,事実と異なる内
容の文書を送付するために,住所,電話番号,ファックス番号等の情報を提供し,
協力した。
    (イ)被告による上記行為は,原告委員会の名誉を毀損し,信用を失墜させ
るものであり,同原告が,これにより被った精神的な損害に対する慰謝料としては
50万円が相当である。
   ウ 信用回復対策費用173万2686円
     被告による上記ア及びイの行為は,原告委員会の信用を失墜させるもの
であり,同原告は,信用を回復するために,AAA評価認定審査案内書,サービス
評価のための評価ガイドライン,サービス評価認定審査委員会規約,サービス評価
アンケート調査票,サービス評価調査内容表,AAA評価認定証の各文書を作成
し,173万2686円を支出し,同額の損害を被った。
   エ 理事負担金12万5825円
  原告委員会は,平成13年11月8日の第4回理事会及び同年12月2
0日の第3回臨時総会において,同原告の理事が12万5825円を負担すべき旨
の決議を行った。上記決議は被告が原告委員会の理事に在任中行われたものであ
る。
   オ 原告委員会は,被告に対し,以上のアないしエの合計335万8511
円及びこれに対する平成13年11月9日から支払済みまで年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める。
  (2) 請求の趣旨2項について
 ア 被告が副会長を務める家庭教師優良業者全国ネットワークの会員の中に
は,「家庭教師トラブル110番相談」を開設し,原告委員会がマスコミに報道さ
れた新聞記事及び雑誌記事等を使用し,消費者を信用させた上で,生徒の獲得とい
う自己の利益追求を目的として,営利的に消費者トラブル相談を行っている。
   イ 原告委員会は,被告に対し,「家庭教師110番・トラブル相談」との
表示の禁止を求めるとともに,「家庭教師110番・トラブル相談」の閉鎖及び謝
罪広告の掲載を求める。
  (3) 請求の趣旨3項について
 ア 被告代表者が副会長を務める「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の
名称は,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)43条に違反
し,47条に該当する疑いがあり,家庭教師派遣業自主規制規約に違反している。
   イ 原告委員会は,被告に対し,上記名称中の「優良業者」部分の削除,同
ネットワークの解散を求める。
  (4) 請求の趣旨4項について
   ア 被告は,PTA新聞に掲載した広告の中で,「愛知県家庭教師協会」,
「岐阜県家庭教師協会」と表記しているが,同名称は,消費者に,県が運営する家
庭教師派遣機関である旨誤認混同させるおそれがあり,特定商取引法,商標法,不
正競争防止法に違反する疑いがある。
   イ 原告委員会は,被告に対し,上記名称中の「県」部分の削除又は同名称
の変更を求めるとともに,上記各協会の解散を求める。
  (5) 請求の趣旨5項及び同7項について
   ア 原告会社は,本件商標権を有しているところ,被告は,本件商標と同一
の本件標章を「今の自主規制委員会を支えて下さるのは優良業者全国ネットワーク
の皆様方です」と題する書面(甲30の2),被告代表者の名刺(乙16の1及び
2)において使用している。
   イ 被告の本件標章の使用は,本件商標権を侵害するものであり,原告会社
は,被告の上記行為により50万円の損害を被った。
   ウ 原告会社は,被告に対し,50万円及びこれに対する平成13年11月
9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,原
告らは,被告に対し,本件標章の使用禁止,同標章を付した印刷物の提出及び謝罪
広告の掲載をそれぞれ求める。
  (6) 請求の趣旨6項について
   ア 被告は,平成13年11月29日から平成14年1月24日までの間,
家庭教師優良業者全国ネットワーク副会長のC,同ネットワーク会長のD及び同ネ
ットワーク会員とともに,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で,不特定多数
を対象として,77回にわたり原告委員会を誹謗中傷した。
   イ 被告による上記行為及び前記(1)イ(ア)記載の行為は,原告らの名誉を毀
損し,営業を妨害し,信用を失墜させるものであり,原告らが上記各行為により被
った精神的な苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。
   ウ 原告らは,被告に対し,50万円及びこれに対する平成13年11月9
日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
  (7) 請求の趣旨8項について
   ア 被告が使用する「家庭教師派遣業自主審査実行委員会」の名称は,「家
庭教師派遣業自主規制委員会」と誤認混同させるおそれがあり,特定商取引法,不
正競争防止法4条,7条,不当景品類及び不当表示防止法4条に違反する疑いがあ
る。
   イ 原告らは,被告に対し,上記名称の使用禁止,同委員会の規約及び役員
名簿の提出並びに謝罪広告の掲載を求める。
  (8) 請求の趣旨9項について
    原告らは,被告に対し,平成15年7月31日までの間,テレビ,新聞
(PTA新聞を含む。),電話帳,雑誌,チラシ等の広告掲載の自粛を求める。
 3 被告の主張
  (1) 請求の趣旨1項について
   ア 名誉毀損料,慰謝料及び信用回復対策費用について
     被告は,原告委員会が主張する各行為を行ったことはない。
   イ 理事負担金について
     平成13年11月8日の第4回理事会において,原告委員会が主張する
決議はされていない。
     また,被告は,平成13年12月20日の第3回臨時総会において,理
事辞任届を提出した。
  (2) 請求の趣旨2項について
 被告は,原告委員会が主張する行為を行ったことはない。
  (3) 請求の趣旨3項について
 ア 特定商取引法43条,47条は,業者と消費者との間の円滑な取引のた
めの規制であるが,家庭教師優良業者全国ネットワークは何ら消費者と取引を行っ
ていないので,同法の規制は受けない。
 イ また,家庭教師優良業者全国ネットワークは,優良業者の集まりであ
り,虚偽・誇張の表示を行っていない。
  (4) 請求の趣旨4項について
    「愛知県家庭教師協会」及び「岐阜県家庭教師協会」との名称中の「県」
の部分が関係法令に触れることはない。
  (5) 請求の趣旨5項及び同7項について
 ア 被告は,「家庭教師派遣業自主規制委員会」と記載したことはあるが,
これは,実際に,被告代表者が原告委員会の副会長であったときに,名刺の肩書き
にその旨表示したのであり,商標法上の使用には当たらない。
 イ また,原告会社は,原告委員会に対し,本件商標の使用を許諾してお
り,同原告の会員であり,かつ,その役員である被告が同商標を使用することも許
諾していた。
(6) 請求の趣旨6項について
  被告は,原告らが主張する行為を行ったことはない。
(7) 請求の趣旨8項について
家庭教師派遣業自主審査実行委員会は,被告代表者であるBが主催してい
る委員会であり,被告が主催しているものではない。
第3 当裁判所の判断
 1 請求の趣旨1項について
  (1) 名誉毀損料について
    被告が,AAA審査委員長の立場を利用して,被告が副会長を務める家庭
教師優良業者全国ネットワークの会員に有利な審査を押し進めたとの事実を認める
に足りる証拠はない。
    したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
  (2) 慰謝料について
    被告が原告委員会を誹謗中傷するために作成された文書の送付に協力した
との事実を認めるに足りる証拠はない。なお,証拠(甲10)によれば,「家庭教
師派遣業自主規制委員会・入会案内」と題する書面に「顧問」と表示されていたE
弁護士が,原告委員会に対し,同人を顧問として表示することの削除を求めた書面
を送付したことはうかがわれるものの,上記書面の送付に被告が協力したことを認
めるに足りる証拠はない。
    したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
  (3) 信用回復対策費用について
    原告委員会の請求に理由がないことは(1)及び(2)のとおりである。
  (4) 理事負担金について
    原告委員会は,被告が同原告の理事であることを前提として,理事負担金
12万5825円の支払を求めている。
    原告委員会作成の「ご入会案内」(甲1)における役員名簿には「副理事
長B(愛知旭学園学園長)」と記載され,同原告の定款の附則2項には,同原告の
設立当初の役員として,「副理事長 B」と記載されており(甲24の12),被
告代表者個人の名前が理事とされていることが認められるものの,被告が理事であ
ることを認めるに足りる証拠はない。
   したがって,被告が原告委員会の理事であることを前提とする同原告の上
記請求は,理由がない。
 2 請求の趣旨2項について
  原告委員会は,被告に対し,「家庭教師110番・トラブル相談」との表示
の禁止等を求めている。
  しかしながら,原告委員会は,同原告が被告に対し上記請求をなし得る法律
上の根拠について何ら主張をしておらず,また,同原告に上記のような請求を認め
る法律上の根拠は認められない。
  したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
3 請求の趣旨3項及び同4項について
 (1) 原告委員会は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」,「愛知県家庭教
師協会」及び「岐阜県家庭教師協会」の名称が特定商取引法43条に違反し,47
条に当たる旨主張する。
   特定商取引法は,43条で役務提供業者等の誇大広告等を禁止する旨規定
し,47条で主務大臣の業務停止権限等を規定しているが,役務提供業者等に同法
43条に違反する行為があったとしても,私人が同法の規定に基づき当該役務提供
業者等に対して業務の停止や違反行為の差止め等の措置を求める権利を有すること
を規定したものではない。
 (2) また,原告委員会は,「家庭教師優良業者全国ネットワーク」の名称が家
庭教師派遣業自主規制規約に違反する旨主張する。
   しかしながら,家庭教師派遣業自主規制規約は,家庭教師派遣業者におい
て,業務が適正に行われるようその行動準則を規定したものであって,私人が同規
約の違反行為の差止め等の措置を求め得る法律上の根拠となるものではない。
 (3) 原告委員会は,「愛知県家庭教師協会」及び「岐阜県家庭教師協会」の名
称が商標法及び不正競争防止法に違反する旨主張するが,上記各名称の使用によ
り,同原告のいかなる商標権又は営業上の利益が侵害されるかについて何ら主張し
ていない。また,本件全証拠を検討しても,原告委員会の商標権や営業上の利益が
侵害され,又は侵害されるおそれがあることをを窺わせる事情は認められない。
 (4) したがって,原告委員会の上記請求は理由がない。
 4 請求の趣旨5項及び同7項について
  (1) 証拠(甲3の1ないし3)によれば,原告会社は,本件商標権を有するこ
とが認められる。
  (2) 「今の自主規制委員会を支えて下さるのは優良業者全国ネットワークの皆
様方です」と題する書面(甲30の2)には,「家庭教師派遣業自主規制委員会」
と表示されているが,同書面と被告との関わりは全く不明であり,これにより被告
が本件標章を使用しているとの事実を認めることはできない。
   また,被告代表者の名刺(乙16の1及び2)には,「B」の名前の上に
「家庭教師派遣業自主規制委員会 副会長」と記載されていることが認められる。
しかし,上記記載は,同人の役職を示す記載であって,被告の商標として使用され
たものでないことは明らかである。
 (3) 以上のとおり,被告が本件標章を商標として使用しているとの事実を認め
るに足りる証拠はないから,商標権侵害を理由とする原告会社の50万円の損害賠
償請求及び原告らの本件標章の使用禁止等の請求は,理由がない。
 5 請求の趣旨6項について
 (1) 被告が,Cらとともに,インターネット[www.aozora.com/kzi]上で,77
回にわたり原告委員会に対する誹謗中傷行為を行ったとの事実を認めるに足りる証
拠はない。なお,ウエブページ(HTTP.//www.aozora.com/kzi)の写し(甲9の1ない
し3,9の4の1及び2,9の5ないし14)には,原告委員会に関する書込みが
あることが認められるが,これらの書込みが被告によって行われたことを認めるに
足りる証拠はない。
 (2) また,被告が原告委員会を誹謗中傷するために作成された文書の送付に協
力したとの事実を認めるに足りる証拠はないことは,前記のとおりである。
 (3) したがって,原告らの上記請求は理由がない。
 6 請求の趣旨8項について
   原告らは,被告が「家庭教師派遣業自主審査実行委員会」の名称を使用して
いるとして,被告に対し,同名称の使用禁止等を求めている。 
  しかしながら,被告が「家庭教師派遣業自主審査実行委員会」の名称を使用
しているとの事実を認めるに足りる証拠はない。なお,「岐阜県PTA」新聞及び
「愛知のPTA」新聞に被告が掲載した旭学園の広告の右下部分に,「疑問や不安
を感じたら悩まずに通報して下さい!消費者トラブル相談室・・・家庭教師派遣業
自主審査実行委員会」と記載されているが(甲15の1ないし3,15の6及び
7),その記載自体からして,消費者トラブル相談室を開設している家庭教師派遣
業自主審査実行委員会と被告とが別の団体であることは明らかであって,被告が同
委員会の名称を使用しているとはいえない。
  したがって,原告らの上記請求は理由がない。
 7 請求の趣旨9項について
   原告らは,被告に対し,広告掲載の自粛を求めているが,原告らが被告に対
し上記請求をなし得る法律上の根拠について何ら主張しておらず,また,原告らに
上記のような請求を認める法律上の根拠は認められない。
   したがって,原告らの上記請求は理由がない。  
 8 結論
   以上のとおりであるから,原告らの請求はいずれも理由がない。よって,主
文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官   高  部  眞 規 子
裁判官   上  田  洋  幸
   裁判官   浅  香  幹  子
(別紙)
標章目録
        家庭教師派遣業自主規制委員会
(別紙)
商標権目録
  登録番号     第3366762号
  登録年月日    平成9年12月19日
  指定役務     第41類技芸・スポーツ又は知識の教授
  登録商標     家庭教師派遣業自主規制委員会

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