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裁判例


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平成14年(行ケ)第156号 審決取消請求事件(平成15年6月25日口頭弁
論終結)
      判    決
  原  告    ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーラ
ンド 
            スタンフォード ジュニア ユニバーシテイ
訴訟代理人弁護士  熊 倉 禎 男
同吉 田 和 彦
同         渡 辺   光
 同         相 良 由里子
 同    弁理士  村 社 厚 夫
被   告     特許庁長官 太田信一郎
指定代理人     渡 部 利 行
同         大 野 克 人
同         宮 川 久 成
同         伊 藤 三 男
      主    文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
      この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を3
0日と定める。
          事実及び理由
第1 請求
   特許庁が平成11年審判第12734号事件について平成13年11月
27日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
原告は,1989年(平成元年)5月26日にアメリカ合衆国において
した特許出願に基づく優先権を主張して,平成2年5月21日,名称を「高感度螢
光単一粒子及び単一分子の検出装置及び方法」(後記補正により「流体中の単一蛍
光粒子及び/又は分子の検出装置」と訂正)とする発明につき特許出願(特願平2
-508232号)をしたが,平成11年4月21日に拒絶査定を受けたので,同
年8月9日,これに対する不服の審判の請求をした。
 特許庁は,同請求を平成11年審判第12734号事件として審理した
上,平成13年11月27日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は,同年12月10日,原告に送達された。
 2 平成11年9月8日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本
件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本願発明」
という。)の要旨
  流体中の単一蛍光粒子及び/又は分子の検出装置であって,流体の所定
体積を照明する手段と,粒子を前記照明された体積を通過させる手段であって,そ
れにより粒子又は分子が前記体積を通過する際に,照明に対応した体積から放射さ
れる光子エネルギーがバックグランドエネルギーと粒子又は分子からの破裂エネル
ギーとを含み,前記エネルギーを受けて合焦するレンズと,合焦されたエネルギー
を検出するための検出器と,光子エネルギーを受けた前記照明された体積内の小さ
い体積を限定するために前記レンズと前記検出器との問に配置された空間フィルタ
ーと,前記検出器からの出力信号を受け,前記分子からのエネルギーの破裂をバッ
クグランドエネルギーまたは電子的ノイズから区別し,前記小さい体積を通過した
単一粒子又は分子の検出の表示を行う手段とを有することを特徴とする流体中の単
一蛍光粒子及び/又は分子の検出装置。
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,実願昭61-1
61031号(実開昭63-67850号)のマイクロフィルム(甲4,以下「引
用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定によ
り特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),
相違点2についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り
消されるべきである。
   1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
(1) 審決は,本願発明と引用発明とは,「前記検出器からの出力信号を受
け,粒子の存在を示すエネルギーをバックグランドエネルギーまたは電子的ノイズ
から区別し,照明された体積を通過した粒子の検出の表示を行う手段」(審決謄本
3頁下から2行目~4頁1行目)を有する点で一致すると認定したが,本願発明に
おける,検出される粒子が通過する体積(以下「プローブ体積」ともいう。)は,
「照明された体積内の小さい体積」であるのに対し,引用発明のプローブ体積は,
「照明された体積」であるから,「照明された体積を通過した粒子の検出の表示を
行う手段」を一致点と認定したことは,誤りである。
(2) すなわち,本願発明が検出対象とするのは,本件明細書の「前記検出
器からの出力信号を受け,前記分子からのエネルギーの破裂をバックグランドエネ
ルギーまたは電子的ノイズから区別し,前記小さい体積を通過した単一粒子又は分
子の検出の表示を行う手段と」及び「光子エネルギーを受けた前記照明された体積
内の小さい体積を限定するために前記レンズと前記検出器との間に配置された空間
フィルター」(甲3の特許請求の範囲の請求項1)の記載から明らかなとおり,
「照明された体積内の小さい体積」を通過した粒子又は分子であり,「照明された
体積」内は通過しても「小さい体積」外を通過する粒子又は分子は検出しない。上
記「小さい体積」は,空間フィルターを配置することにより「照明された体積」内
に限定される。本願発明は,プローブ体積を「小さい体積」とすることによって,
単一粒子又は分子以外の微粒子が通過する蓋然性を極力低くし,かつ,プローブ体
積外からの放射を排除して,「粒子から破裂する蛍光光子をバックグラウンド光子
放射と区別して粒子の表示を与える装置の提供」(甲2の3頁左上欄「発明の目的
及び概要」)という顕著な効果を奏するものである。したがって,本願発明のプロ
ーブ体積は,「照明された体積」ではなく,「照明された体積」内に含まれ,空間
フィルターにより限定される「小さい体積」である。
(3) これに対し,引用例(甲4)には,〔考案の目的〕として,「微粒子
濃度の急増に対して微粒子濃度測定結果が適切に応答することのできる微粒子測定
装置を提供することを目的とする」(8頁第1段落)との記載があり,プローブ体
積に関しては,「第2図は従来の液体用微粒子測定装置の構成図で,・・・投光機
構3は,フローセル1中の測定液体2を・・・照射するように構成されてい
る。・・・液体2中の微粒子から出射される散乱光を集光する集光レンズ9
と・・・からなる受光機構で,・・・測定液体2中の微粒子の濃度に応じた信号1
3aを出力するようにした信号処理部で,この信号処理部は第3図に示すように構
成されている」(2頁第3段落~4頁第1段落),「第1図は本考案の一実施例の
構成図である。図の第2図と異なる所は,信号処理部13にかえて,パルス出力信
号10aが入力されて第1信号21aを出力する第1演算手段21と,信号21a
が入力されて第2信号22aを出力する第2演算手段22とが設けられている」
(9頁第2段落)との記載がある。これらの記載によれば,引用発明は,投光機構
や受光機構には従来技術を採用しつつ,信号処理部を変更することにより,「微粒
子濃度の急増に対して微粒子濃度測定結果が適切に応答する」ことを目的とし,従
来技術と同様,「照明された体積」を通過した粒子を検出するものである。引用例
には,プローブ体積を空間フィルターにより「照明された体積」から更に「小さい
体積」に限定することについて,何らの記載も示唆もない。したがって,引用発明
のプローブ体積は,「照明された体積」全体であって,「照明された体積」内に含
まれる「小さい体積」ではない。
 本願発明が「照明された体積を通過した微粒子の検出」をするとして
も,「照明された体積」を通過した微粒子のすべてが検出されるわけではなく,上
記のとおり,「小さい体積」外を通過する微粒子は検出されないのであるから,あ
えて言えば,「照明された体積を通過した微粒子の検出」という限度ではなく,
「照明された微粒子の検出」という限度において一致するにすぎない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
 (1) 審決は,相違点2として認定した「本願発明では,『光子エネルギー
を受けた前記照明された体積内の小さい体積を限定するために前記レンズと前記検
出器との間に配置された空間フィルター』と規定しているのに対し,引用例に記載
された発明(注,引用発明)では,『レンズ9と変換器10との間に介在させら
れ,変換器10に入射する光の入射角を制限するように円形貫通孔11aが設けら
れた開口部材11』と規定している点」(審決謄本4頁第4段落)について,「本
願発明の空間フィルターは,検出器へ合焦するためのレンズと検出器との間に配置
されるものであり,レンズ,検出器に対する配置関係が引用例に記載された発明
(注,引用発明)の円形貫通孔と同じであるから,『光子エネルギーを受けた前記
照明された体積内の小さい体積を限定するために前記レンズと前記検出器との間に
配置された空間フィルター』との表現には,検出器に入射する光の入射角を制限す
る以上の技術的意味を認めることはできず,このような技術的意味を満たすものと
して円形貫通孔以外の形状,構造のものを採用することに困難はない」(同5頁第
2段落)として,本願発明の「空間フィルター」が引用発明の「開口部材」と実質
的に同一のものであると判断したが,誤りである。
(2) すなわち,本件明細書(甲2,3)の「光子エネルギーを受けた前記
照明された体積内の小さい体積を限定するために前記レンズと前記検出器との間に
配置された」(甲3の特許請求の範囲の請求項1),「照明された体積(volume)
の映像が,対物レンズ24により空間フィルタ23に映写される。空間フィルタ2
3は,照明された領域及びプローブされる体積を参照番号26で示される体積にす
る。空間フィルタは,プローブ体積の高さと巾とを定めている。・・・空間フィル
タ及び分光フィルタを通過するエネルギーは,集束レンズ28により,・・・光変
換器29に焦点を合せられる」(甲2の3頁左下欄),「空間フィルタは,プロー
ブ体積を定め,毛管壁からの散乱及び蛍光を受入れなかった」(同4頁左下欄),
「空間フィルタは,観察する領域を定め」(同5頁左上欄)との記載によれば,本
願発明においては,「照明された体積」の映像が対物レンズにより「空間フィル
タ」に結像され,「空間フィルタ」に結像された「照明された体積」の映像が集束
レンズにより最終的に光変換器に結像される。「空間フィルター」は,結像された
「照明された体積」の映像の大きさを制限し,これにより,プローブ体積を「小さ
い体積」に限定するものであるから,本願発明の「空間フィルター」は,プローブ
体積を「照明された体積内の小さい体積」に限定するものにほかならない。
(3) これに対し,引用例(甲4)の「集光レンズ9と,該レンズ9によっ
て集光された光を光量に応じたパルス出力信号10aに変換して出力する光電変換
器10と,レンズ9と変換器10との間に介在させられ,変換器10に入射する光
の入射角を制限するように円形貫通孔11aが設けられた開口部材11」(3頁)
との記載によれば,引用発明における「開口部材」は,結像面である変換器に入射
する光の入射角を制限する働きを有する。しかしながら,結像面に入射する光の入
射角を制限しても,入射する光線束が制限されて像の明るさが制限されるだけであ
り,像の大きさは変わらないから,引用発明の「開口部材」は,結像面(変換器)
に結像される「照明された体積」の映像の明るさを制限するものであり,プローブ
体積を「照明された体積内の小さい体積」に限定するものではない。引用発明の
「変換器に入射する光の入射角」は,結像面の一点に向かう光が入射する角度を意
味するのに対し,「立体的視野領域」は,視野の範囲ないし結像位置における結像
の範囲を意味し,両者は概念を全く異にし,当業者もそのように理解するから,被
告が主張するように,引用例に接した当業者が,「変換器10に入射する光の入射
角を制限する」ことが「受光機構8の立体的視野領域を制限する」ことであると理
解することは考えられない。引用例には,「開口部材」が立体的視野領域を制限す
る機能を有するという趣旨の記載が一切ないことからしても,被告の上記主張は,
「光の入射角」と「立体的視野領域」とを混同するものである。
(4) 光学系の絞りには,「視野絞り」と「開口絞り」とがあり,「視野絞
り」は,結像される物の大きさを制限する働きを有するのに対し,「開口絞り」
は,結像される物の明るさを制限する働きを有する(甲6,7)。本願発明の「空
間フィルター」は,結像面に貫通孔が位置するから,結像される物の大きさを制限
する働きを有し,「視野絞り」に相当するのに対し,引用発明の「開口部材」は,
「入射角を制限する」ものであって,結像面に円形貫通孔を置くと「入射角を制限
する」ことはできないから,円形貫通孔が「開口絞り」に相当する。すなわち,本
願発明は,「空間フィルター」を用いてプローブ体積を「小さい体積」に限定する
ことにより,破裂エネルギーをバックグランド放射と高精度に区別し,蛍光粒子か
ら単一分子のレベルまでを定量的に検出することができる効果を奏するものであっ
て,このような効果は「視野絞り」により初めて達成できるものであり,像の大き
さは制限せず明るさだけを制限する「開口絞り」では達成できない。このように,
両者は機能を全く異にする別個の概念であるから,当業者が引用例の「開口部材」
から本願発明の「視野絞り」を想到することは困難である。被告が提出する乙1~
4は,いずれも結像面上又はその近傍に開口を配置する構成であり,そのことによ
って当業者はその「開口(スリット,ピンホール)」が「視野絞り」であると理解
するのに対し,引用発明は,「開口部材」を結像面上又はその近傍に配置する構成
ではなく,円形貫通孔が「開口絞り」に相当するから,被告主張のように,乙1~
4が引用例と同じ光学的微粒子検出技術に関する頒布刊行物であるとはいえず,当
業者は,引用例の「開口部材」が乙1~4と同じような「視野絞り」と同じ働きを
すると理解することはない。また,上記のとおり,引用発明において,「変換器に
入射する光の入射角を制限する」ことにより「照明された体積内の小さい体積を限
定」することは不可能あり,引用例に「入射角を制限する円形貫通孔」と明記され
ている以上,これを「視野絞り」であると理解することはできず,被告主張のよう
に表現上の相違にすぎないということはできない。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がな
い。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
   本願発明の特許請求の範囲の請求項1は,「前記照明された体積内の小
さい体積を限定するために」と規定するから,「小さい体積」を通過して検出器に
よって検出される微粒子は,「照明された体積」を通過することは当然であり,他
方,引用発明において検出される微粒子も「照明された体積」を通過している。審
決は,「照明された体積を通過した微粒子の検出」という限度において,本願発明
と引用発明とは一致すると認定したものであって,その限度を超える点は相違点2
として認定しているのであるから,一致点の認定に原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 引用例と同じ光学的微粒子検出技術に関する頒布刊行物(乙1~4)
の記載によれば,本件特許出願前に,光学的微粒子検出技術において,「レンズの
後方で光検出器の前に配置される開口(スリット,ピンホール)は,照明された体
積内の小さい体積を限定するものであり,観察対象とする小さい体積以外からの迷
光(不要光)を除去するものである」ことは技術常識とされていたことが明らかで
ある。引用例(甲4)には,「8は,測定液体2がビーム光6で照射されることに
よって・・・集光レンズ9と,該レンズ9によって集光された光を・・・光電変換
器10と,レンズ9と変換器10との間に介在させられ,変換器10に入射する光
の入射角を制限するように円形貫通孔11aが設けられた開口部材11と,からな
る受光機構」(3頁),「ビーム光6のフローセル1における立体的照射領域と受
光機構8の立体的視野領域」(5頁),「受光機構8の視野領域内で発生した前述
の散乱光」(同頁)との記載がある。乙1~4に記載された「照明光学系,集光レ
ンズ,開口(スリット,ピンホール),検出器」と引用例に記載された「照明光学
系,集光レンズ,円形貫通孔,検出器」とは,いずれも照明された体積内に存在す
る微粒子を対象とし,かつ,同じ配置関係の照明光学系及び検出光学系であること
は明らかである。そうすると,当業者が,引用例の「開口部材」が上記技術常識に
おける「集光レンズの後方で光検出器の前に配置される開口(あるいはスリット,
ピンホール)」と同じ働きをしているものと理解し,引用例の「変換器10に入射
する光の入射角を制限する」とは「受光機構8の立体的視野領域を制限する」こと
であると理解することは,上記の技術常識に照らして明らかであり,円形貫通孔
が,ビーム光6のフローセル1における立体的照射領域内(照明された体積)の小
さい領域(小さい体積)を限定し,観察対象とする小さい領域(小さい体積)以外
からの迷光(不要光)を除去する技術的意味を有することもまた明らかである。
(2) 本願発明と引用発明とは同じ光学系配置であり,上記の技術常識によ
れば,本願発明の「前記照明された体積内の小さい体積を限定するために前記レン
ズと前記検出器との間に配置された空間フィルター」と引用発明の「レンズと変換
器との間に介在させられ,変換器に入射する光の入射角を制限する円形貫通孔」と
は,いずれも,「照明された体積内の小さい体積を限定」するものであるから,そ
の相違は表現上の相違にすぎない。
(3) 原告は,本願発明の「空間フィルター」は「視野絞り」であり,引用
例の円形貫通孔が「開口絞り」であると主張するが,引用例の「開口部材」は「開
口絞り」ではない。引用例には,「像の明るさを制限する」趣旨の記載はないばか
りでなく,引用発明は,本来,微弱な光を集束レンズを用いて強い光にすることに
よりようやく検出するものであるから,そのような微弱な光を「開口絞り」により
更に絞って限定する理由はない。引用例(甲4)の第1図によれば,引用発明の
「開口部材」は集光レンズ9の後ろというより,結像面近傍の変換器10の前に配
置されているから,当業者がこれを「後側開口絞り」と認識することもない。原告
主張のように,本願発明の「空間フィルター」を「視野絞り」というのであれば,
引用発明の「開口部材」も「視野絞り」というべきものである。
第5 当裁判所の判断
   1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
 (1) 原告は,本願発明のプローブ体積は,「照明された体積内の小さい体
積」であるのに対し,引用発明のプローブ体積は,「照明された体積」であるか
ら,「照明された体積を通過した粒子の検出の表示を行う手段」を一致点とした審
決の認定は誤りであると主張する。
   しかしながら,本願発明の「照明された体積」は,「照明された体積
内の小さい体積」を含む上位概念であり,審決は,「小さい体積」の上位概念であ
る「照明された体積」という限度において一致するとしたものである。このように
「照明された体積」という上位概念で一致するとした場合に,本願発明と引用発明
との間に「照明された体積内の小さい体積」と「照明された体積」との相違が生ず
ることは,原告主張のとおりであるが,本願発明の特許請求の範囲の請求項1に
「光子エネルギーを受けた前記照明された体積内の小さい体積を限定するために前
記レンズと前記検出器との間に配置された空間フィルター」との構成が規定されて
いるように,本願発明の要旨においては,「小さい体積」と「空間フィルター」と
は本来一体のものとしてとらえられるべき構成として規定されていることが認めら
れる。審決は,上記「光子エネルギーを受けた前記照明された体積内の小さい体積
を限定するために前記レンズと前記検出器との間に配置された空間フィルター」と
いう構成を,別途,相違点2として認定した上,同相違点に係る「空間フィルタ
ー」についてその作用も含めて認定判断しているのであるから,審決が「小さい体
積」についても相違点として認定していることは明らかであり,上記の見地から
「照明された体積を通過した粒子の検出の表示を行う手段」を本願発明と引用発明
との一致点とした審決の認定に誤りはない。
 (2) 原告は,本願発明は,プローブ体積を「小さい体積」とすることによ
って,単一粒子又は分子以外の微粒子が通過する蓋然性を極力低くし,かつ,プロ
ーブ体積外からの放射を排除して顕著な効果を奏するものであるとした上,「照明
された体積」を通過した微粒子のすべてが検出されるわけではないから,「照明さ
れた体積を通過した微粒子の検出」という限度ではなく,あえて言えば,「照明さ
れた微粒子の検出」という限度において一致するにすぎないと主張するが,審決の
した一致点の認定は上記のとおりであって,原告の主張は,審決を正解しないで論
難するものというほかはなく,採用することができない。
 (3) したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
  (1) 審決は,相違点2,すなわち,「本願発明では,『光子エネルギーを
受けた前記照明された体積内の小さい体積を限定するために前記レンズと前記検出
器との間に配置された空間フィルター』と規定しているのに対し,引用例に記載さ
れた発明(注,引用発明)では,『レンズ9と変換器10との間に介在させられ,
変換器10に入射する光の入射角を制限するように円形貫通孔11aが設けられた
開口部材11』と規定している点」(審決謄本4頁第4段落)について,本願発明
の空間フィルターは配置関係が引用発明の円形貫通孔と同じであるから,検出器に
入射する光の入射角を制限する技術的意味を満たすものとして円形貫通孔以外の形
状,構造のものを採用することに困難はなく,本願発明の「空間フィルター」が引
用発明の「開口部材」と実質的に同一のものであるとして,引用発明に基づく容易
想到性を肯定したところ,原告は,この判断を誤りであると主張するので,まず,
光学的微粒子検出技術についての本件特許出願前の技術常識について検討する。
ア 特願昭62-291465号(特開平1-132932号)公報
(乙1)には,「流れ粒子よりの信号光を集光する集光レンズと,この集光レンズ
より射出した信号光が入射する光検出器と,前記集光レンズと光検出器との間に配
され,不要光を除去する開口とを備えてなる流れ式粒子分析装置の信号光検出光学
系において」(特許請求の範囲(1)前段),「フローセル内を流れる被測定粒子は,
光源よりのレーザ光等の光が照射される。この時,被測定粒子より生じる散乱光,
あるいは・・・この粒子より生じる蛍光を,信号光検出光学系で集光し,電気信号
に変換する。・・・従来の流れ式粒子分析装置の信号光検出光学系11を,第2図
に示す。・・・流れ粒子p1よりの信号光(散乱光又は蛍光)は,集光レンズ13
により集光され,開口14の面に結像する。開口14を通過した信号光は,光検出
器・・・の感光面16aに入射する」(1頁右下欄~2頁左上欄),「流れ粒子が
p2で示されるように,中央位置から揺らいだ場合には,信号光は,・・・破線で
示すようにずれ,光電子増倍管16への入射位置16bが移動してしまう」(2頁
左上欄)との記載があり,これらの記載及び第2図によれば,集光レンズ13の後
方で光検出器16の前に配置される「開口」は不要光を除去するものであり,「照
明された体積」内の「小さい体積」を限定するものであることが認められる。
イ 特願昭61-171863号(特開昭63-29233号)公報(乙
2)には,「この流れに乗って集光点21aを通過する微粒子からの散乱光24
は,受光レンズ25でマスク26上に結像され,スリット26aによって制限され
た散乱光が光電検出器27に達して測定が行われる」(3頁左上欄),「A方向か
らみた半値全幅Eに光束の視野を限定するために,第1図,第2図に示すような光
学配置をとっている。・・・スリット26aによって設定される粒子検出領域35
は,図中の斜線部の範囲となり,視野幅Eは楕円光束21の中心に位置することに
なる」(3頁左上欄~右上欄)との記載があり,これらの記載及び第1~第3図に
よれば,受光レンズ25の後方で光電検出器27の前に配置される「スリット」
は,「照明された体積」内の「小さい体積」を限定するものであることが認められ
る。
ウ 特願昭61-280170号(特開昭63-133041号)公報
(乙3)には,「第5図に示すレンズによる集光系,すなわち,散乱光を集光レン
ズ系(6)により受光素子(3)に集光するものでは,散乱光を正確に結像できる
ので,1つまたは複数個のスリット(7)を用いて迷光を除くことができ,高いS
/N比で散乱光を集めることができる」(1頁右下欄~2頁左上欄),「第1図
は,・・・レーザを光源として使用した場合・・・を示し,微粒子を含んだ試料空
気流(12)は,・・・一方,・・・照射レーザ光(1)を含む平面上に,集光系
のレンズ光軸(11)を,測定領域(S)を通るように配置する。集光レンズ系(6)
による散乱光の結像位置近傍に置いたスリット(7)により,測定領域(S)の像
と迷光を分離する」(2頁左下欄~右下欄)との記載があり,これらの記載と第1
図及び第5図によれば,集光レンズ系6の後方で受光素子3の前に配置される「ス
リット」は迷光を除くものであることが認められる。
エ 以上によれば,本件特許出願前に,レーザ光を照射した流体中の微
粒子からの散乱光を光学的に検出する技術分野においては,試料,レンズ,開口
(又はスリット)及び検出器をこの順に配置した光学系が採用され,かつ,レンズ
の結像面に開口(又はスリット)を配置することが一般的に採用されていたことが
認められる。そして,乙1又は乙2によれば,このような光学系では,開口(乙
1)又はスリット(乙2)は,試料上のプローブ領域を限定する作用を有すること
が技術常識として認められるとともに,さらに,乙1及び乙3によれば,開口(又
はスリット)は迷光(不要光)を除く作用をも有することが同様に技術常識として
認められるところ,これらの作用は,開口(又はスリット)が変換器に入射する光
の入射角を制限することにより得られるものであることが明らかである。すなわ
ち,乙2の光学系(第2図)においては,「スリット26aによって設定される粒
子検出領域35は,図中の斜線部の範囲となり,視野幅Eは楕円光束21の中心に
位置することになる」(3頁右上欄)。同図によれば,集光点21a(視野幅E)
の上端から出た光はスリット26aの下端において結像した後検出器に達する。こ
のことは,集光点の上端から延びる実線光路及び破線光路がスリットの下端で交叉
することから明らかである。集光点の上端よりも更に図面上側から出た光はスリッ
トの下端よりも更に図面下側において結像することとなるが,このときはマスクに
遮られて検出器に達することはない。このように,スリット内に結像するかスリッ
ト外(マスク上)に結像するかによって,視野幅Eが設定されていることは明らか
である。このことを,検出器に入射する光の入射角の観点から見ると,入射角が所
定の角度内にあるときにスリット内に結像することになる。したがって,乙2の光
学系は,スリットが検出器に入射する光の入射角を制限することにより,視野幅E
を設定するものであり,乙1,3もまた同様であると認められる。
  (2) 以上の技術常識を前提として,相違点2に係る引用発明の上記構成の
技術的意義について見るに,昭和61年2月20日朝倉書店発行の「光工学ハンド
ブック」14頁によれば,入射角とは,光が入射する面に垂直に立てた直線(法
線)と入射光線とが成す角度であることが認められるから,これによれば,引用発
明の「変換器10に入射する光の入射角」とは,引用例(甲4)の第1図の軸(C
1-C2)と入射光線とが成す角度であると解するのが相当であり,他に,引用例
には,入射角の意義につきこれと別異に解すべきことをうかがわせる記載は見当た
らない。そして,「第2図は従来の液体用微粒子測定装置の構成図で,・・・投光
機構3は,フローセル1中の測定液体2を・・・照射するように構成されてい
る。・・・8は,測定液体2がビーム光6で照射されることによって交点O近傍に
おける液体2中の微粒子から出射される散乱光を集光する集光レンズ9と,該レン
ズ9によって集光された光を・・・変換して出力する光電変換器10と,レンズ9
と変換器10との間に介在させられ,変換器10に入射する光の入射角を制限する
ように円形貫通孔11aが設けられた開口部材11,とからなる受光機構」(2頁
13行目~3頁15行目)との記載によれば,引用発明の受光機構8は,測定液体
2,集光レンズ9,開口部材11及び変換器10をこの順に配置した光学系を採用
するものであることが認められ,第2図によれば,開口部材を検出器の近傍に配置
するものであることも明らかである。また,引用例(甲4)の「ここにRはビーム
光6のフローセル1における立体的照射領域と受光機構8の立体的視野領域とのフ
ローセル1に対する配置関係によって定まる定数である。なおここでは,受光機構
8の視野領域内で発生した前述の散乱光は全て方形波信号15aに変換されるもの
としている」(5頁6行目~12行目)の記載によれば,引用例には,受光機構8
の視野領域内の散乱光を検出することが示されるとともに,同視野領域は,ビーム
光6の照射領域とは異なる領域として認識されている。このことは,受光機構8側
において,上記視野領域を定める何らかのメカニズムが存在することを示唆してい
る。
 以上によれば,引用発明における光学系の配置は,上記技術常識にお
ける光学系の配置と同一であり,開口部材を検出器の近傍に配置していること,そ
の「開口部材」が「入射角を制限する」ものであることにおいても,上記技術常識
における光学系の開口(又はスリット)と共通する。そうすると,上記技術常識に
照らせば,引用発明の「開口部材」は「入射角を制限する」ことにより受光機構8
の視野領域を定めるものであり,その結果として,試料(測定液体2)のプローブ
領域を設定する作用を合わせ持つものと認めるのが相当である。
(3) 原告は,引用発明における「開口部材」は,結像面である変換器に入
射する光の入射角を制限する働きを有するが,結像面に入射する光の入射角を制限
しても,像の明るさが制限されるだけであり,像の大きさは変わらないから,本願
発明のように,プローブ体積を「照明された体積内の小さい体積」に限定するもの
ではない旨主張する。しかしながら,引用例には,集光レンズ9により集光するこ
と,変換器10に入射することの記載はあるが,変換器上に集光することとか,変
換器をレンズの結像面に配置することなどの記載はなく,開口部材をレンズの結像
面に配置することを排除する記載もないばかりでなく,上記技術常識における光学
系の配置と同一であることに照らせば,開口部材上に結像すると解するのが相当で
ある。さらに,引用発明について,変換器を結像面に配置する構成であることにつ
いて引用例に明確な記載があるわけではないし,仮に,変換器を結像面に配置する
としても,結像面(変換器)から見た「開口部材」と「集光レンズの口径」との関
係によって,プローブ体積が制限されることが認められるから,原告の上記主張
は,採用することができない。
 原告は,また,本願発明の「空間フィルター」は「視野絞り」に相当
するのに対し,引用発明の「開口部材」は入射角を制限するものであって,円形貫
通孔が「開口絞り」に相当し,両者は機能を全く異にする別個の概念であるから,
当業者が引用例の「開口部材」から本願発明の「視野絞り」を想到することは困難
である旨主張するが,引用発明の「開口部材」が光学理論上の「開口絞り」に相当
するか否かはさておくとしても,引用発明の「開口部材」がプローブ領域を限定す
る作用を有することは上記のとおりであるから,この主張も失当である。
 原告は,さらに,乙1~4は,いずれも結像面上又はその近傍に開口
を配置する構成であり,そのことによって当業者はその「開口(スリット,ピンホ
ール)」が「視野絞り」であると理解するのに対し,引用発明は,「開口部材」を
結像面上又はその近傍に配置する構成ではなく,円形貫通孔が「開口絞り」に相当
するから,当業者は引用例の「開口部材」が乙1~4と同じような「視野絞り」と
同じ働きをすると理解することはないと主張するが,引用例には,変換器を結像面
に配置するとも,「開口部材」を結像面に配置するとも記載されていない一方,
「開口部材」を結像面に配置することを排除する記載もないことは,上記のとおり
であるから,原告の上記主張も採用の限りではない。
(4) したがって,審決の相違点2についての上記判断に誤りはないという
べきであり,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審
決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
   よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり
判決する。
 東京高等裁判所第13民事部
    裁判長裁判官 篠  原  勝  美
    裁判官 岡  本     岳
    裁判官 早  田  尚  貴

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